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明細書 :部分放電電荷量測定方法および装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4797175号 (P4797175)
登録日 平成23年8月12日(2011.8.12)
発行日 平成23年10月19日(2011.10.19)
発明の名称または考案の名称 部分放電電荷量測定方法および装置
国際特許分類 G01R  31/12        (2006.01)
H01H  33/56        (2006.01)
H02B  13/065       (2006.01)
H02G   5/06        (2006.01)
FI G01R 31/12 A
H01H 33/56 H
H02B 13/06 C
H02G 5/06 391
請求項の数または発明の数 18
全頁数 12
出願番号 特願2007-547865 (P2007-547865)
出願日 平成18年10月13日(2006.10.13)
国際出願番号 PCT/JP2006/320435
国際公開番号 WO2007/063647
国際公開日 平成19年6月7日(2007.6.7)
優先権出願番号 2005343246
優先日 平成17年11月29日(2005.11.29)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年9月30日(2008.9.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
発明者または考案者 【氏名】大塚 信也
【氏名】匹田 政幸
【氏名】手嶋 隆志
【氏名】林 祐史
個別代理人の代理人 【識別番号】100108660、【弁理士】、【氏名又は名称】大川 譲
審査官 【審査官】関根 洋之
参考文献・文献 特開2000-2742(JP,A)
特開2000-111604(JP,A)
特開2007-114050(JP,A)
調査した分野 G01R 31/12-31/20
H01H 33/56
H02B 13/065
H02G 5/06
特許請求の範囲 【請求項1】
少なくともVHF帯から主としてUHF帯域の感度を有するアンテナにより測定対象となる機器の部分放電放射電磁波を測定し、
測定した時間波形から、TEMモード成分をフィルタにより抽出し、かつそのフィルタ処理後の時間波形の二階積分値を求め、
この求めた二階積分値から放電電荷量を求めることから成る部分放電電荷量測定方法。
【請求項2】
測定対象となる機器に対して模擬放電信号を入力して二階積分値と放電電荷量の関係を事前に求め、かつ、前記二階積分値から求める放電電荷量は、前記事前に求めた二階積分値と放電電荷量の関係を用いて求めることから成る請求項1に記載の部分放電電荷量測定方法。
【請求項3】
前記TEMモード成分の抽出は、最低次の電磁波伝搬モードの遮断周波数以下の周波数成分の抽出である請求項1に記載の部分放電電荷量測定方法。
【請求項4】
前記二階積分を行う時間範囲は、放射電磁波源となる放電現象の電流変化の時間波形と少なくとも同じか或いはそれより長くして、その二階積分値は、積分時間の最終値とするか或いはその積分時間の範囲内で二階積分値が最初に大きく変化した後にほぼ一定となる値を用いる請求項1に記載の部分放電電荷量測定方法。
【請求項5】
前記積分時間範囲は、事前に種々の典型的な放電に対応する典型的な時間領域を設定しておき、各設定時間の範囲内での二階積分値の変化を見ることで、放電源の特定を行う請求項4に記載の部分放電電荷量測定方法。
【請求項6】
運用前に電磁波放射模擬装置を用いて取得した二階積分値と放電電荷量の関係の校正曲線を、種々の状態について取得しておき、これら状態のいずれかが確認された場合にはこれを使用する請求項1に記載の部分放電電荷量測定方法。
【請求項7】
放電源および放電位置および放電状態を評価するアルゴリズムを組み込むことで、放電の発生源、位置標定、絶縁異常状態の診断も実施可能にした請求項1に記載の部分放電電荷量測定方法。
【請求項8】
前記測定した時間波形をウエーブレット変換により時間周波数解析し、反射波の影響が強いと判断された場合は、その反射成分をフィルタリング処理により除去して二階積分値を求めて、反射波の影響を除去して放電電荷量を求める請求項1に記載の部分放電電荷量測定方法。
【請求項9】
測定対象となる機器の部分放電放射電磁波を測定する少なくともVHF帯から主としてUHF帯域の感度を有するアンテナと、
測定した時間波形から、TEMモード成分を抽出するフィルタ、及びそのフィルタ処理後の時間波形の二階積分値を求めて、その値から放電電荷量を求める処理部を備える測定装置本体と、
から成る部分放電電荷量測定装置。
【請求項10】
測定対象となる機器に対して模擬放電信号を入力して二階積分値と放電電荷量の関係を事前に求めるための電磁波放射模擬装置を備え、前記処理部が求める放電電荷量は前記二階積分値から、前記事前に求めた二階積分値と放電電荷量の関係を用いて求めることから成る請求項9に記載の部分放電電荷量測定装置。
【請求項11】
前記TEMモード成分を抽出するフィルタは、最低次の電磁波伝搬モードの遮断周波数以下の周波数成分を抽出する請求項9に記載の部分放電電荷量測定装置。
【請求項12】
前記二階積分を行う時間範囲は、放射電磁波源となる放電現象の電流変化の時間波形と少なくとも同じか或いはそれより長くして、その二階積分値は、積分時間の最終値とするか或いはその積分時間の範囲内で二階積分値が最初に大きく変化した後にほぼ一定となる値を用いる請求項9に記載の部分放電電荷量測定装置。
【請求項13】
前記積分時間範囲は、事前に種々の典型的な放電に対応する典型的な時間領域を設定しておき、各設定時間の範囲内での二階積分値の変化を見ることで、放電源の特定を行う機能を有する請求項12に記載の部分放電電荷量測定装置。
【請求項14】
前記処理部は、運用前に電磁波放射模擬装置を用いて取得した二階積分値と放電電荷量の関係の校正曲線を、種々の状態について取得しておき、これら状態のいずれかが確認された場合にはこれを使用する請求項9に記載の部分放電電荷量測定装置。
【請求項15】
前記処理部に、放電源および放電位置および放電状態を評価するアルゴリズムを組み込むことで、放電の発生源、位置標定、絶縁異常状態の診断も実施可能にした請求項9に記載の部分放電電荷量測定装置。
【請求項16】
前記測定した時間波形をウエーブレット変換により時間周波数解析し、反射波の影響が強いと判断された場合は、その反射成分をフィルタリング処理により除去して二階積分値を求めて、反射波の影響を除去して放電電荷量を求める機能を有する請求項9に記載の部分放電電荷量測定装置。
【請求項17】
前記電磁波放射模擬装置は、電磁波放射アンテナと任意の電荷量を設定して模擬放電信号を発生させる装置で構成するか、或いは、実放電を発生させる小型密閉容器から成る放電セルとそれに電圧を印加する放電発生電源および放電セル内の放電電流を測定しその時間積分値から電荷量を求める装置を使用する請求項10に記載の部分放電電荷量測定装置。
【請求項18】
前記放電セルは、密閉容器内に所定のガスを封入して、ガス中での部分放電を模擬するための不平等電界を構成する電極を備え、ボイド中放電、沿面放電、あるいはフリー異物からの放電を模擬する場合には、電極間にそれぞれボイドを含む固体絶縁物、表面の一部に金属異物を取り付けたボイドが無い固体絶縁物、あるいはフリー異物を挿入することで部分放電を発生させる請求項17に記載の部分放電電荷量測定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、主にUHF帯の部分放電放射電磁波信号の時間波形からTEMモード成分を抽出し、その二階積分値に基づき、センサ位置によらず部分放電電荷量を測定する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス絶縁開閉機器(GIS)や変圧器の絶縁診断が部分放電放射電磁波測定により実施されている。この電磁波測定は、主としてUHF帯を対象としているため、一般にUHF法と呼ばれている。通常、ガス絶縁開閉装置やガス絶縁送電線(GIL)等のガス絶縁機器では、中心高電圧導体-金属接地タンク間が高電界下に曝されており、機器内部で部分放電が発生すると、最終的には中心導体-金属タンク間の絶縁が破れて絶縁破壊を引き起こすおそれがある。そこで、絶縁破壊の前駆現象である部分放電の段階でガス絶縁機器内部を伝搬してくる電磁波信号を検出して、部分放電信号か否かを判定することにより、絶縁異常を事前に見極める診断手法が採られている。この部分放電信号の検出手法としては様々な手法が提案されているが、その1つとして、UHF(Ultra High Frequency)法が絶縁診断の高信頼度化に対して最も有用視されている。UHF法とは主にUHF帯域(300MHz~3GHz)の高周波電磁波をこの帯域に感度を有するアンテナを用いて検出する手法である。UHF法は高感度で部分放電信号を測定できるために現在広く適用が検討されており、更に機器のアセットマネジメントのための測定法としても検討されている。
【0003】
他方、現在、ガス絶縁開閉機器(GIS)の出荷試験における部分放電計測として、kHz帯域での低周波成分に基づく電荷量校正手法が規格化されている(IEC60270、JEC0401-1990部分放電測定)。IEC60270は交流高電圧の位相に同期させて部分放電パルスを検知する従来からの標準的な部分放電測定方式である。この試験法に基づきガス絶縁開閉機器の工場試験が行われているが、現地変電所などで運転中機器に対する絶縁診断へのUHF法の適用が検討されており、UHF法に基づく電荷量校正法を規格化しようとする流れがある。これは、放電電荷量の校正は、絶縁診断の中でも最も重要な項目であり、CIGRE TF15/33.03.05においては、GIS監視システムの早期異常検知のためにはGIS全体にわたって放電電荷量5 pC相当の検知感度を実証する必要性があると推奨されている(CIGRE TF15/33.03.05: “PD detection system for GIS: sensitivity verification for the UHF method and the acoustic method”, Electra, No.18, pp.75-87, 1999)。このように、現地変電所での絶縁診断ならびに工場出荷のための部分放電試験の両面からUHF法による放電電荷量校正手法の確立が望まれている。
【0004】
しかし、これまではUHF法で測定された電磁波波形と放電電荷量の関係が不明であり、波形のエネルギーや振幅値等との相関関係が検討されていたが、線形性は認められず、理論的な裏付けも存在していない。

【特許文献1】特開2003-43094号公報
【特許文献2】特開2003-232828号公報
【特許文献3】特開2002-5985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
放電電荷量と放射電磁波の関係は、電荷量は放電電流を時間積分したものであるが、放射電磁波の振幅は放電電流の時間変化に比例することから、放電電荷量は放射電磁波波形の二階積分値に比例することになる。ただし、密閉空間を伝搬する電磁波はTEおよびTMモードが励起され、その特性が重畳されるために、放電電荷量に依存する電磁波信号はこれらモードを含まないTEMモード成分が対象となる。
【0006】
本発明は、測定電磁波信号から最低次の電磁波伝搬モードであるTE11モードの遮断周波数以下の成分をフィルタ処理により抽出したTEMモード成分を対象に、この二階積分値に基づき放電電荷量を求め、これによって、IEC60270に代わるUHF法による電荷量校正手法および絶縁診断技術としての部分放電電荷量測定方法および装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の部分放電電荷量測定方法は、少なくともUHF帯域の感度を有するアンテナにより測定対象となる機器の部分放電放射電磁波を測定し、測定した時間波形から、TEMモード成分をフィルタにより抽出し、かつそのフィルタ処理後の時間波形の二階積分値を求めて、その値から放電電荷量を求める。さらに、測定対象となる機器に対して模擬放電信号を入力して二階積分値と放電電荷量の関係を事前に求め、二階積分値から求める放電電荷量は、事前に求めた二階積分値と放電電荷量の関係を用いて求めることができる。
【0008】
また、本発明の部分放電電荷量測定装置は、測定対象となる機器の部分放電放射電磁波を測定する少なくともUHF帯域の感度を有するアンテナと、測定した時間波形から、TEMモード成分を抽出するフィルタ、及びそのフィルタ処理後の時間波形の二階積分値を求めて、その値から放電電荷量を求める処理部を備える測定装置本体とを備える。さらに、測定対象となる機器に対して模擬放電信号を入力して二階積分値と放電電荷量の関係を事前に求めるための電磁波放射模擬装置を備えて、処理部が求める放電電荷量は二階積分値から、事前に求めた二階積分値と放電電荷量の関係を用いて求めることができる。
【0009】
本発明により、これまで不明で試行錯誤が行われていたUHF法による測定電磁波波形と放電電荷量の関係が明らかとなる。なお、本手法は、物理現象に基づく手法であるために理論的にも間違いのない手法である。
【0010】
本発明の手法により、放電源とのセンサ距離およびタンク径方向(θ方向)の位置によらず放電電荷量をUHF法で校正することが可能となる。以下、その原理について図2を参照しつつ説明する。図2は、放射電磁波波形のフィルタ処理と二階積分値を求める過程を説明する図である。
【0011】
図2(a)は、部分放電による放射電磁波波形を例示している。この放射電磁波波形は、放電電流と相関のあるTEMモードとGIS内伝搬において誘起されるTEおよびTMモードから構成される。なお、周知のように、TEモードとは、波動の伝搬方向に電界ベクトルが垂直(電界ベクトルが横波: Transverse Electric)で伝搬方向に成分を持たず、言い換えれば、磁界ベクトルが伝搬方向に成分を持つ電磁波の伝搬モードであり、TMモードは、磁界ベクトルが垂直(磁界ベクトルの振動が横波:Transverse Magnetic)で伝搬方向に成分を持たず、電界ベクトルが伝搬方向に成分を持つ電磁波の伝搬モードである。また、TEMモード(Transverse Electromagnetic Mode)は、電磁波の伝搬する方向には電界成分も磁界成分も存在せず、伝搬方向と直角の面内だけに電界、磁界が存在する完全な横波伝送モードである。これらTE、TM各モードの伝搬速度は、周波数成分に対して分散特性を有するため、放電源とセンサの距離、およびセンサのタンク取付け径方向(θ方向)の位置により測定される放射電磁波波形は異なることになる。ここで、放射電磁波TEMモード成分の振幅値は、放電電流の時間変化に比例する。
【0012】
図2(b)は、フィルタ処理により抽出したTEMモード成分を、(c)はその一階積分値を、(d)は二階積分値をそれぞれ例示している。測定放射電磁波波形からTEおよびTMモード成分を除去し、抽出したTEMモード成分からなる時間波形の二階積分値は、放射源である放電電流の時間波形を積分したもの、即ち放電電荷量と比例関係が与えられる。そのため、GIS内で検出した電磁波波形からTEMモード成分を抽出し、その時間波形の二階積分値を求めることで原理的に放電電荷量を求めることができる。
【0013】
なお、検出するセンサ特性ならびにアンプの有無、およびそのアンプのゲイン特性など電磁波測定システム毎の相違が考えられるために、同一の放電であっても検出波形の振幅値は同一でない可能性がある。また、同一の電磁波測定システムを用い、同一の放電を測定しても、GISタンクのサイズ(即ち、電圧階級)が異なる場合には、検出電磁波波形の振幅値は異なることになる。そのため、本装置を運用する前には、運用するGISで模擬放電信号を入力して、その放電電荷量と測定される放射電磁波波形のTEMモード成分の二階積分値の関係を事前に求める(二階積分値を絶対値的に取り扱えるように校正曲線を作成しておく)。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、UHF法による放電電荷量が校正できるようになり、ガス絶縁開閉機器GISの部分放電試験に関する出荷試験に用いることができる。また、現地変電所に既設のGISにおける絶縁異常診断に適用すれば、UHF法による絶縁診断から放電電荷量を知ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用することのできるUHF法による電荷量測定装置の概略構成を例示する図である。
【図2】放射電磁波波形のフィルタ処理と二階積分値を求める過程を説明する図である。
【図3】TEモードの伝搬速度を示すグラフである。
【図4】(a)66kV級モデルGIS及び(b)UHV級モデルGISにおける部分放電放射電磁波波形のセンサ距離依存性の一例を示す図である。
【図5】センサ位置が異なる場合の、放射電磁波振幅値Vppと放電源からのセンサ距離の関係を示す図である。
【図6】センサ位置が異なる場合の電磁波振幅値Vppと放電電荷量の関係を示す図である。
【図7】異なるセンサ位置でのフィルタ処理なしの電磁波波形の二階積分値と放電電荷量の関係を示す図である。
【図8】TEMモード成分の二階積分値と放電電荷量の関係を示す図である。
【図9】放電源となる異物付着位置による放電電荷量とTEMモード成分の二階積分値との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0016】
1:アンテナ
2:増幅器
3:A/D変換ボード
4: TEMモード抽出フィルタ
5:フィルタ特性入力部
6:処理部
7:表示部
8:記録部
9:測定装置本体(測定機器)
10:模擬放電信号発生装置
11:電磁波放射アンテナ
12:放電セル
13:放電発生電源
14:対象装置
15:模擬放電電磁波信号
16:放電電磁波信号
17:放電電流・電荷量測定記録部
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、例示に基づき、本発明を説明する。図1は、本発明を適用することのできるUHF法による電荷量測定装置の概略構成を例示する図である。例示の電荷量測定装置は、測定した放電電磁波信号を電荷量に変換する電荷量校正を行い、そして、この校正した電荷量を出力(表示)する。図中の対象装置14は、放電電荷量を校正し、或いは絶縁異常診断の対象となるガス絶縁開閉機器(GIS)やガス絶縁送電線等である。例えば、ガス絶縁開閉機器(GIS)は、母線や遮断器や断路器、接地開閉器、避雷器などから構成されている。その単相母線部の基本的構造は同軸円筒形状であり、中心の高電圧導体とその周りを覆う接地タンクから成る。その中心導体と接地タンク間の絶縁は、タンクに封入された絶縁媒体ガスおよび中心導体を絶縁を保ち支持する絶縁スペーサで行われる。
【0018】
少なくともVHF帯から主としてUHF帯域の感度を有するアンテナ(センサ)1は、放電電磁波信号16(部分放電放射電磁波)を測定する。この放電電磁波信号16は、増幅器2により、その測定時間波形を増幅し、A/D変換ボード3によりA/D変換した後、TEMモード抽出フィルタ4によりTEMモード成分を抽出する。フィルタ特性入力部5は、対象機器により変化するTE、TMモードの遮断周波数を考慮してTEMモード抽出フィルタ4のフィルタ特性を入力する。TEMモード抽出フィルタ4は、最低次の電磁波伝搬モードの遮断周波数以下の成分を抽出する。例えばガス絶縁開閉機器ではそのタンク容器と内部の高電圧導体の寸法から決まるTE11モード以下の周波数成分を抽出する。これによって、放電源とセンサ(アンテナ)の距離、およびそのセンサの径方向の取付け位置に無関係に放電電荷量を校正することが可能になる。
【0019】
本測定装置は、増幅器2を介してデジタルオシロスコープで測定した電磁波波形を用いて、TEMモード抽出フィルタ4を通し処理部6にて放電電荷量を評価することもできる。また、TEモードの伝搬速度の分散特性に基づくTEMモードとの重畳がない距離において放射電磁波を測定する場合はフィルタ処理が不要になる。
【0020】
処理部6は、フィルタ処理後の時間波形の二階積分値を求めて、その値から放電電荷量を求める。表示部7及び記録部8はそれぞれ、求めた放電電荷量を表示し、記録する。本装置は、TEMモード抽出フィルタ4を通過させずに、TEやTMモードを含んだ電磁波生波形を表示、記録することもでき、また、処理部6においてアルゴリズムを準備すれば放電源の種類、位置、状態を評価することも可能である。
【0021】
二階積分を行う際の時間範囲は、放射電磁波源となる放電現象の電流変化の時間波形と少なくとも同じかそれより長い、例えば5倍以内の範囲とすることが望ましい。その二階積分値は、積分時間の最終値とするか、あるいはその積分時間の範囲内で二階積分値が最初に大きく変化した後にほぼ一定となる値を用いる。この積分範囲は、事前にガス中放電、ボイド中放電、沿面放電などに対応する典型的な時間領域を設定しておき、それぞれの場合の二階積分値を求めることができると共に、各設定時間の範囲内での二階積分値の変化を見ることで、放電源の特定を簡易的に行うことができる。時間波形をウエーブレット変換により時間周波数解析し、反射波の影響が強いと判断された場合は、その反射成分をフィルタリング処理により除去して二階積分値を求め、反射波の影響を除去して詳細に放電電荷量を求めることができる。
【0022】
例示の電荷量測定装置は、その使用対象となる機器において事前に本測定装置を用いて上記の二階積分値と放電電荷量の関係(校正曲線)を求めるための電磁波放射模擬装置を備えている。この電磁波放射模擬装置は、任意の電荷量を設定して模擬放電信号を発生する模擬放電信号発生装置10と、発生した模擬放電信号に基づき、模擬放電電磁波信号15を発生する電磁波放射アンテナ11を備えている。発生した模擬放電電磁波信号15は、上述のアンテナ1によって測定される。
【0023】
或いは、この電磁波放射模擬装置は、実放電を発生させる小型密閉容器から成る放電セル12と、それに電圧を印加する放電発生電源13および放電セル12内の放電電流を測定し、その時間積分値から電荷量を求めて電流波形と共に記録する放電電流・電荷量測定記録部17によって構成する。この構成によって求めた電荷量に基づき、本測定装置を用いて、二階積分値と放電電荷量の関係を求めることができる。この放電セル12は、密閉容器内に任意のガス、例えばSF6ガスやCO2ガスあるいは空気などが10気圧以下の圧力で封入され、それとガス中での部分放電を模擬するための不平等電界を構成する電極とから成る。ボイド中放電、沿面放電、あるいはフリー異物からの放電を模擬する場合には、電極間にそれぞれボイドを含む固体絶縁物や、表面の一部に金属異物を取り付けたボイドが無い固体絶縁物、あるいはフリー異物を挿入することで部分放電を発生させることができる。
【0024】
測定装置本体9の処理部6は、運用前に電磁波放射模擬装置を用いて取得した二階積分値と放電電荷量の関係(校正曲線)を使用するが、その関係をスペーサを通過させる場合や折れ曲がり部や分岐部を通過させる場合など、各状態での校正曲線を取得しておき、必要に応じて、即ち、詳細な評価が必要な場合や、別途放電源の位置標定によりスペーサ通過や、分岐部通過が確認された場合にはこれを使用する。測定装置本体9の処理部6に放電源および放電位置および放電状態を評価するアルゴリズムを組み込むことで、放電の発生源、位置標定、絶縁異常状態の診断も実施できる。
【0025】
測定電磁波波形は、放電に起因し、その放電電流に依存するTEMモード成分と、ガス絶縁開閉機器などの密閉容器内を伝搬する際は、TEモードやTMモードなどのモードの影響を受けることになる。各TEやTMモードは周波数に依存する速度分散性を有するため(図3および式(1)参照)、放電源とセンサの距離により、TEMモードに重畳されるモード成分は異なり、それによりセンサ距離によって波形の形状は異なることになる。また、TEやTMモードの各次数のタンク径方向への励起状態は異なるため、タンク径方向におけるセンサ取付け位置によっても波形の形状は異なることになる。
【0026】
v = c ( 1 - (fc/f)2 )0.5 v:伝搬速度、c:光速、fc:遮断周波数、f:周波数 式(1)
また、TEやTMモードの各遮断周波数は、密閉容器のサイズによっても異なるため、(電圧階級の異なる場合は特に)サイズの異なるGISの場合は、放電源とセンサ距離が同一であっても、その測定電磁波波形は異なることになる。更に、使用する測定センサや増幅器のゲインなど、測定装置構成を変更すると、測定電磁波波形は異なることになる。例えば、センサ感度や増幅器のゲインが大きな装置構成では、測定電磁波波形の振幅値は大きくなり、本発明方法であるTEMモード成分の二階積分値は同一放電現象に対しても大きくなる。
【0027】
以上のことを勘案すると、測定対象あるいは出荷試験を行うGISに本発明を適用する際には、事前に使用する測定装置を用いて、その対象機器において放電電荷量とTEMモード成分時間波形の二階積分値との校正曲線を取得しておく必要がある。なお、同型のGISに対して同一特性の電荷量測定装置を使用する際は、以前に取得した校正曲線を使用でき、改めて校正曲線を取得しなくてもよい。また、電荷量の絶対値は必要なく、相対的な値の変化だけを観測する場合には、事前の校正曲線の取得は必要なく、測定された二階積分値の変化を観測すればよいことになる。
【0028】
TEMモード成分を対象として電荷量校正を行うため、分岐部や折れ曲がり部が存在する場合でも本手法は適用できるが、GIS構造を考慮したより精度の高い校正が必要である場合は、スペーサ通過特性や分岐部、折れ曲がり部の影響を事前に校正することで、そのような場合にも精度の高い評価もできる。
【実施例】
【0029】
図4は、それぞれ(a)66kV級モデルGIS及び(b)UHV級モデルGISにおける部分放電放射電磁波波形のセンサ距離依存性の一例を示す図である。同一部分放電に対しても、センサ距離dが異なると、その波形の形状および正と負の最大振幅値Vppが異なることがわかる。また、図4(b)に示されるように、図4(a)と同一の放電で放電源から同じセンサ距離であっても、GISタンクサイズが異なると波形の大きさならびに振幅値Vppが異なることがわかる。また、センサ距離依存性が認められるように、タンクの径方向における取付け位置が、例えば、高圧導体から放電源を通る垂線を基準として径方向に反時計回りに角度θを定義すると、θ=0と90度では電磁波伝搬モード特性により波形の形状および大きさは異なることになる。例えば、θ=90度では、奇数次TEモードは現れない。
【0030】
更に、センサの種類ならびに増幅器のゲインなどを変えると、同一放電に対して同一位置で測定したとしても放射電磁波波形の振幅値は異なることになる。そのため、二階積分値の絶対値は、これらの影響を受けるために、事前に使用する装置ならびに適用する機器毎にその二階積分絶対値と放電電荷量の関係(校正曲線)を取得しておく必要がある。
【0031】
図5(a)と図5(b)は、センサ位置が異なる場合(センサ位置0度と90度)の、放射電磁波振幅値Vppと放電源からのセンサ距離の関係を示している。Tfは放電電流の時間波形の立ち下がり時間であり、立ち上がり時間Trは全て同一である。上記のように、センサ位置ならびにセンサ距離が異なると、同一の放電に対しても、Vppは異なることがわかる。また、放電電流の波形(この場合は立ち下がり時間Tf)が異なると、Vppも異なることがわかる。
【0032】
図6(a)と図6(b)は、センサ位置が異なる場合(センサ位置0度と90度)の電磁波振幅値Vppと放電電荷量の関係を示している。両図からわかるように、放電電荷量とVppに線形的な関係はない。また、同一電荷量の放電に対しても、センサ距離が異なればVppは異なることがわかる。
【0033】
以上のことからわかるように、UHF法による放射電磁波による電荷量校正には、放電電流波形、放電源からのセンサ距離と径方向の位置を考慮する必要があり、また、原理的に波形の振幅値Vppでは評価できないことがわかる。
【0034】
これは、電磁波波形は、放電電流に依存する成分の他に、密閉空間を伝搬することからTEおよびTMモードの影響を受けるためである。これらモード成分の伝搬速度は周波数依存性、即ち速度分散性を有するため、センサの位置と距離により、その影響が異なることになる。このため、TE、TMモードを除去し、放電電流に依存する電磁波成分(TEMモード成分)を抽出することが必要になる。
【0035】
放電電流と電磁波波形には、電磁波波形の振幅は放電電流の時間変化に比例するという関係がある。そのため、TEおよびTMモード成分を除去したTEMモード成分から成る電磁波波形の二階積分値は、電流波形を積分した電荷量に比例することになる。本発明は、この関係を用いて、UHF法による電荷量測定方法とその装置を提案する。
【0036】
図7(a)と図7(b)は、異なるセンサ位置(センサ位置0度と90度)でのフィルタ処理なしの電磁波波形の二階積分値と放電電荷量の関係を示している。両図からわかるように、図7(b)の方は90度の位置よりTE11モードなどの奇数次モードが出現しないので、その分だけモードの影響が少なく、図7(a)と比べて二階積分値と放電電荷量によりよい比例関係が認められるが、異なる放電電流波形に対するバラツキが若干認められる。このため、フィルタリングによりTEMモード成分を抽出し、その波形に対して二階積分をする必要があることがわかる。
【0037】
図8は、TEMモード成分の二階積分値と放電電荷量の関係を示す図である。このような校正曲線を、対象機器において測定しておくことで、UHF法による部分放電放射電磁波測定から放電電荷量を知ることができるようになる。
【0038】
図9は、放電源となる異物付着位置による放電電荷量とTEMモード成分の二階積分値との関係を示す図である。高圧導体に異物が付着している場合とタンク上に異物が起立している場合では、TEMモード成分の二階積分値は異なることがわかる。そのため、これら異物付着位置の影響を考慮することが必要であり、事前にこの両者の校正曲線を取得しなければならない。この異物付着位置は、先の出願(特願2005-305889)に従い、電磁波波形の時間変化に基づき知ることができるが、未知であっても、安全サイドで評価すればよい。即ち、部分放電試験に関する出荷試験や運転中機器の絶縁診断への適用に際して、同一の二階積分値に対して大きな電荷量で評価するタンク上起立異物に関する特性を使用することで、電荷量を過小評価することを避けることができる。なお、フリー異物に対しては、基本的にタンク上起立異物に関する特性を使用すればよい。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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