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明細書 :動物モデルとその作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5288395号 (P5288395)
登録日 平成25年6月14日(2013.6.14)
発行日 平成25年9月11日(2013.9.11)
発明の名称または考案の名称 動物モデルとその作製方法
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
C12N   5/071       (2010.01)
FI A01K 67/027
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
C12N 5/00 202A
請求項の数または発明の数 25
全頁数 15
出願番号 特願2007-545171 (P2007-545171)
出願日 平成18年9月29日(2006.9.29)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 日本不妊学会雑誌 第50巻第4号第239頁(平成17年10月1日発行)に発表
国際出願番号 PCT/JP2006/319415
国際公開番号 WO2007/058021
国際公開日 平成19年5月24日(2007.5.24)
優先権出願番号 2005332113
優先日 平成17年11月16日(2005.11.16)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年9月28日(2009.9.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
【識別番号】390016470
【氏名又は名称】公益財団法人実験動物中央研究所
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
発明者または考案者 【氏名】丸山 哲夫
【氏名】升田 博隆
【氏名】吉村 泰典
【氏名】岡野 栄之
【氏名】岡野 ジェイムス 洋尚
【氏名】松崎 有未
個別代理人の代理人 【識別番号】110000176、【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
審査官 【審査官】濱田 光浩
参考文献・文献 KUDOH, M. et al,Inhibitory effects of a novel aromatase inhibitor, YM511, on growth of endometrial explants and insulin-like growth factor-I gene expression in rats with experimental endometriosis.,J. Steroid Biochem. Mol. Biol. ,1997年,Vol. 63, No. 1-3,p. 75-80
SAKURA, Y. et al.,Histological studies on the therapeutic effect of sustained-release microspheres of a potent LHRH agonist (leuprorelin acetate) in an experimental endometriosis model in rats.,Endocrinologia Japonica,1990年,Vol. 37, No. 5,p. 719-729
Metabolism of [3H]equilin in normal and malignant human endometrium and in endometrial adenocarcinoma transplanted into nude mice.,BHAVNANI, B. R. et al.,J. Steroid Biochem. Molec. Biol. ,1991年,Vol. 38, No. 4,p. 433-439
JENKINS, D. E. et al,Bioluminescent imaging (BLI) to improve and refine traditional murine models of tumor growth and metastasis.,Clinical & Experimental Metastasis,2003年,Vol. 20,p. 733-744
升田博隆 他,新しい子宮内膜症モデルマウスの作成,日本不妊学会雑誌,2005年10月 1日,第50巻、第4号,p. 239, P-066
調査した分野 A01K 67/027
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
WPI
特許請求の範囲 【請求項1】
移植されたヒト子宮内膜由来の分散細胞(ただし、悪性腫瘍細胞を除く)を腎被膜下に有する、ヒト以外の脊椎動物モデルであって、
観察マーカーを用いて、前記移植された細胞が、前記脊椎動物の非侵襲的観察によって、前記脊椎動物の細胞から区別され得ることを特徴とする動物モデル。
【請求項2】
前記移植された細胞の位置及び/または増殖が、前記脊椎動物の非侵襲的観察によって、リアルタイムに判断し得ることを特徴とする請求項1に記載の動物モデル。
【請求項3】
前記移植された細胞が、非侵襲的観察が可能な前記観察マーカーを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の動物モデル。
【請求項4】
前記観察マーカーが、蛍光マーカーまたは発光マーカーであることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の動物モデル。
【請求項5】
前記脊椎動物が、免疫不全マウスであることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の動物モデル。
【請求項6】
前記免疫不全マウスが、NOGマウスであることを特徴とする、請求項5に記載の動物モデル。
【請求項7】
前記移植された細胞が、ヒトの病気の病変部に由来することを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の動物モデル。
【請求項8】
前記病気が子宮内膜症であることを特徴とする、請求項7に記載の動物モデル。
【請求項9】
請求項7または8に記載の動物モデルに対して、前記病気の治療薬候補物質を投与する投与工程を含むことを特徴とする、前記病気の治療薬のスクリーニング方法。
【請求項10】
請求項8に記載の動物モデルに対して、子宮内膜症治療薬候補物質を投与する投与工程を含むことを特徴とする、子宮内膜症治療薬のスクリーニング方法。
【請求項11】
ヒト子宮内膜由来の分散細胞(ただし、悪性腫瘍細胞を除く)をヒト以外の脊椎動物の腎被膜下に移植する移植工程を含む、動物モデルの作製方法であって、
前記細胞が、腎被膜下に移植された後、前記脊椎動物の非侵襲的観察によって、前記脊椎動物の細胞から区別され得ることを特徴とする作製方法。
【請求項12】
前記移植された細胞の位置及び/または増殖が、腎被膜下に移植された後、前記脊椎動物の非侵襲的観察によって、リアルタイムに判断し得ることを特徴とする、請求項11に記載の作製方法。
【請求項13】
前記移植された細胞は、前記非侵襲的観察が可能な観察マーカーを有することを特徴とする、請求項11または12に記載の作製方法。
【請求項14】
前記観察マーカーが、蛍光マーカーまたは発光マーカーであることを特徴とする、請求項13に記載の作製方法。
【請求項15】
前記移植された細胞は、前記観察マーカーをコードする遺伝子を有する発現ベクターを有することを特徴とする、請求項13または14に記載の作製方法。
【請求項16】
前記発現ベクターが、ウイルスベクターであることを特徴とする、請求項15に記載の作製方法。
【請求項17】
前記移植前に、前記観察マーカーを指標として、前記観察マーカーが導入された細胞を選別する選別工程をさらに含むことを特徴とする、請求項13~16のいずれかに記載の作製方法。
【請求項18】
前記移植前に、前記細胞に選別マーカーを導入する第2の導入工程と、
前記選別マーカーを指標として、前記観察マーカーが導入された細胞を選別する選別工程をさらに含むことを特徴とする、請求項13~16のいずれかに記載の作製方法。
【請求項19】
前記細胞が、ヒトの病気の病変部に由来することを特徴とする、請求項11~18のいずれかに記載の作製方法。
【請求項20】
ヒト以外の脊椎動物モデルであって、
ヒトの子宮内膜から単離された分散細胞(ただし、悪性腫瘍細胞を除く)を腎被膜下に有する、動物モデル。
【請求項21】
前記脊椎動物が、免疫不全マウスであることを特徴とする、請求項20に記載の動物モデル。
【請求項22】
前記免疫不全マウスが、NOGマウスであることを特徴とする、請求項21に記載の動物モデル。
【請求項23】
前記分散細胞が、子宮内膜症の病変部に由来することを特徴とする、請求項20~22のいずれかに記載の動物モデル。
【請求項24】
請求項23に記載の動物モデルに対して、子宮内膜症治療薬候補物質を投与する投与工程を含むことを特徴とする、子宮内膜症治療薬のスクリーニング方法。
【請求項25】
請求項20~23のいずれかに記載の動物モデルに対して、外因性ステロイドホルモンを投与する投与工程を含むことを特徴とする、ヒト子宮内膜環境を再現する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、動物モデル、およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮内膜症は、子宮内膜細胞が子宮以外のさまざまな臓器、特に腹膜、卵巣内部、子宮筋層内で異所性に発生し、そこで通常の女性ホルモン分泌に反応して増殖・出血するエストロゲン依存性疾患であり、その主症状は、月経痛、下腹部痛、腰痛などはじめとする様々な疼痛と不妊症である。本症は、その患者数が生殖年齢女性の15%にものぼる頻度の高い疾患で、近年罹患率が増加している現代病の一つである。そして本症は女性のQOL(生活の質)を傷害する代表的な疾患であり、女性の社会進出時の障害や少産少子時代の一因にもなることから、社会的にも看過できない疾患の一つである。
【0003】
子宮内膜症の器質的病変として、ブルーベリースポット、卵巣チョコレート嚢胞、子宮腺筋症、ダグラス窩子宮内膜症などがあり、治療としては、状況に応じて薬物療法および外科的治療が選択される。薬物療法としては、GnRH(生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン)アゴニストが第一選択薬であるが、その副作用より長期投与は難しい。また本症の疼痛に対しては、鎮痛剤および低用量経口避妊薬(LOC)の有効性が認められているが、あくまで対症療法である。外科的治療としては腹腔鏡下手術による病巣除去手術が一般的であるが、微小病変の完全除去は困難である。このようにいずれの治療も根治療法が確立されていないため、本症は患者の閉経まで再発を繰り返す。そのため、早期診断法と治療法の確立が期待される。
【0004】
月経に伴い周期的な変化をする性ホルモンの影響のほかに、ストレス、環境ホルモンの影響による遺伝子構造変化と生体防御システムの破綻、あるいは環境ホルモンそのものの作用等によっても誘発されると考えられているがその原因は一様ではなく、発生機序も不明な点は多い。
【0005】
一方、子宮内膜症は異所性に発生して増殖と剥脱を繰り返すことから、子宮内膜症細胞の幹細胞的性質も示唆されている。臨床的な背景とともにそのユニークな生物学的特性から基礎的研究は盛んである。内膜症を自然発生する動物が一部の霊長類にかぎられることより、子宮内膜症の研究ツールとしてのin vivoモデルはヒト子宮内膜移植を主とした様々な動物モデルが作製されている。例えば、ヒトの子宮内膜の組織片を皮下に異種移植して、ヒト子宮内膜組織に類似した組織を再構築する実験が行われた(例えば、Rui Matsuura-Sawada, Takashi Murakami, Yuka Ozawa, et al. Human Reproduction, 2005, 20(6):1477-1484 を参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これまでの動物モデルでは、移植された組織・細胞の量が一定しないこと、in vivo現象の再現が不安定であること、長期間の非侵襲的かつリアルタイムな構築組織のモニタリングが難しいこと、などの問題点があった。このように有効なin vivoモデルがないことにより、in vivo環境での内膜症の動態変化の解明や治療薬のスクリーニングといった臨床に則した研究は困難な状況であった。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑み、ヒト内膜症の病変部をより忠実に反映し得る動物モデル、及びその作製方法、並びに、移植細胞の非侵襲的観察が可能である動物モデル、及びその作製方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく発明者らは、子宮内膜症の病因究明や治療薬開発のために有用であるような病態動物モデルの作製に鋭意取り組み、NOGマウスの腎膜下にルシフェラーゼ・マーカーの導入された、ヒト子宮内膜に由来する分散細胞を移植することにより、非侵襲的に観察できるヒト子宮内膜環境を生体内で忠実に再現する子宮内膜症モデルマウスの開発に成功した。このようにして、ヒト内膜症の病変部をより忠実に反映し得る動物モデル、及び移植細胞の非侵襲的観察が可能である動物モデルを開発し、以下のような本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち本発明に係る動物モデルは、移植された細胞を腎被膜下に有する、ヒト以外の脊椎動物モデルであって、移植された細胞が、観察マーカーを用いて、脊椎動物の非侵襲的観察によって脊椎動物の細胞から区別できることを特徴とするものである。そして移植された細胞の場所及び/または増殖は、脊椎動物を非侵襲的に観察することによって、リアルタイムに判断されてもよい。また移植された細胞は、分散された細胞であってもよい。非侵襲的観察が可能であるような観察マーカーは、移植された細胞が有していてもよい。そして観察マーカーは、蛍光マーカーまたは発光マーカーであってもよい。またこの脊椎動物は、免疫不全マウスであってもよく、例えばNOG(NOD/SCID/γCnull)マウスであってもよい。
【0010】
一方移植された細胞は、ヒトの子宮内膜に由来するものであってもよく、あるいはヒトの子宮内膜症の病変部に由来するものであってもよい。これらの場合本発明は、動物モデルに対して、子宮内膜症治療薬候補物質を投与する投与工程を含むことを特徴とする、子宮内膜症治療薬のスクリーニング方法も含む。あるいはまた、移植された細胞は、ヒトの子宮内膜症以外の病気の病変部に由来するものであってもよい。この場合本発明は、動物モデルに対してその病気の治療薬候補物質を投与する投与工程を含むことを特徴とする、治療薬のスクリーニング方法も含む。
【0011】
次に、本発明に係る動物モデルの作製方法は、細胞をヒト以外の脊椎動物の腎被膜下に移植する移植工程を含む作製方法であって、その細胞が、腎被膜下に移植された後に、脊椎動物を非侵襲的に観察することによって、脊椎動物の細胞から区別され得ることを特徴とする。この細胞の位置及び/または増殖は、腎被膜下に移植された後に、脊椎動物の非侵襲的観察によって、リアルタイムに判断されてもよい。またこの細胞は、移植される際に分散されていてもよい。またこの作製方法は、細胞に、非侵襲的観察が可能な観察マーカーを導入する導入工程を含んでもよい。そして観察マーカーは、蛍光マーカーまたは発光マーカーであってもよい。さらにこの観察マーカーは、その観察マーカーをコードする遺伝子を有する発現ベクターを導入することにより、細胞に導入されてもよく、その発現ベクターは、ウイルスベクターであってもよい。加えて本発明の作製方法は、移植の前に、観察マーカーを指標として、その観察マーカーが導入された細胞を選別する選別工程をさらに含んでもよく、あるいは、移植の前に細胞に選別マーカーを導入する第2の導入工程と、その選別マーカーを指標として、観察マーカーが導入された細胞を選別する選別工程をさらに含んでもよい。そして移植される細胞は、ヒトの子宮内膜に由来するものであってもよく、あるいは、ヒトの病気の病変部に由来するものであってもよい。
【0012】
一方、本発明に係る子宮内膜症の病態動物モデルは、ヒト以外の脊椎動物モデルであって、ヒトの子宮内膜から単離された細胞に由来する病変部を腎被膜下に有するものである。この脊椎動物は、免疫不全マウスに由来するものであってもよく、例えばNOGマウスに由来するものであってもよい。そして本発明は、このような子宮内膜症の病態動物モデルに対して子宮内膜症治療薬候補物質を投与する投与工程を含むことを特徴とする、子宮内膜症治療薬のスクリーニング方法も含む。
【0013】
さらに本発明は、ヒトの子宮内膜もしくは子宮内膜症の病変部に由来する細胞が移植された、前記いずれかの子宮内膜症の動物モデルに対して、ヒト子宮内膜環境を再現する方法を含み、この方法は、外因性性ステロイドホルモンを投与する投与工程を含むことを特徴とする。
【0014】
[関連文献とのクロスリファレンス]
本願は、2005年11月16日付けで出願した特願2005-332113号に基づく優先権を主張する。この文献を本明細書に援用する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例において、子宮内膜分散細胞が移植されたNOGマウスの肉眼所見及び組織学的観察の結果を示す図である。移植マウスから摘出された子宮(第1列)及び腎臓の写真(第2列、矢頭で移植部位を示す)、ならびに、移植部位の組織切片の、H-E染色(第3列)及び免疫染色(第4列)の光学顕微鏡写真が示されている。
【図2】本発明の実施例において、移植部位を免疫組織化学的に観察した結果を示す図である。表1に記載した各抗体を使用した免疫染色像(第1列および第2列)と核染色像(第3列)それらの重ね合わせ像(第4列)が示されている。
【図3】本発明の実施例において、子宮内膜細胞移植マウスに施した周期的ホルモン処理の方法及び結果を表す図である。(a)はホルモン処理の工程を表す模式図であり、細胞移植後のマウスに対する、Eの恒常的投与とPの周期的投与の組み合わせによる、月経周期を模倣したホルモン環境の作成を表している。(b)は、細胞移植後11週間目に屠殺したマウスの腎臓の肉眼所見(i)及びその移植部位の拡大図(ii)、並びに移植部位の組織切片の光学顕微鏡による観察像(iii)及び、その中の四角枠部分の拡大図(iv)を表している。
【図4】本発明の実施例において、移植される細胞に導入されたマーカー遺伝子発現ベクターの遺伝子マップを表す模式図である。
【図5】本発明の実施例において、マーカー遺伝子を導入して培養した子宮内膜細胞を観察した結果を表す図である。(a)は培養プレート上の間質細胞(上段)または腺上皮細胞(下段)の蛍光顕微鏡観察像を示す。(b)は培養プレート全体の観察像を示し、図の右側のスケールバーの濃度でルシフェラーゼによる発光の強度を示した。
【図6】本発明の実施例において、子宮内膜細胞移植マウスの外部から見た腹部の移植部位(a、円内が腎臓の位置)、同じ部位の開腹により露出した腎臓(b)、および摘出した左右の腎臓(c)が発する生物発光を、BLIにより観察した結果を表す図である。各図の右側のスケールバーの濃度で示される発光強度の画像が、写真の画像と重ねて表示されており、発光部位中心付近の色の濃い部分は、発光強度が特に強い(aでは約30000以上、bでは約3.5×105以上、cでは約12000以上)ことを示している。
【図7】本発明の実施例において、定常的ホルモン処理をした子宮内膜細胞移植マウスの腹部のBLI観察画像(a)、ならびに画像の解析により発光強度を定量した結果を表すグラフ(b)である。aの画像の発光部位中心付近で色の濃い部分は、発光強度が特に強いことを示している。
【図8】本発明の実施例において、ホルモン及び抗ホルモン処理をした子宮内膜細胞移植マウスの腹部のBLI観察画像(a)、ならびに発光強度の定量の結果を表すグラフ(b)である。aの画像の発光部位中心付近で色の濃い部分は、発光強度が特に強いことを示している。
【図9】本発明の実施例において、子宮内膜細胞移植マウスに施した周期的ホルモン処理の模式図(a)、ならびに移植マウス腹部のBLIによる観察結果の画像(b)及びその定量の結果を表すグラフ(c)である。bの画像の発光部位中心付近で色の濃い部分は、発光強度が特に強いことを示している。

【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
===移植される細胞===
本発明に係る脊椎動物モデルは、移植された細胞を腎被膜下に有する脊椎動物モデルであり、この移植された細胞は、観察マーカーを用いた脊椎動物の非侵襲的観察によって、容易に脊椎動物の細胞から区別され得る。このように、脊椎動物を非侵襲的に観察することによって、移植された細胞を脊椎動物の受容動物と区別できると、脊椎動物が生きた状態のまま、移植された細胞の状態を観察することができるようになる。
【0017】
移植される細胞は、その由来は何でもよいが、特にヒトの病変部由来の細胞を用いることにより、病態モデル動物を作製することができる。また、細胞の形態は細胞塊、組織片、個々に分散した細胞、単離後一旦培養された細胞、他の動物に移植されるという過程を経て再びその動物から単離された細胞など、どのようなものでもよいが、分散した細胞が好ましい。それは、移植時の細胞数を揃えることができるため、移植後の細胞の状態の再現性が良くなるからである。また、移植される細胞数は、10以下の少数でよいが、それ以上の数の細胞を移植しても構わない。
【0018】
===移植の部位と受容動物===
次に、本発明による細胞移植を行う部位は、腎臓の被膜下であることが、上述のように観察が容易であることのほか、(1)移植に必要な細胞が少量(10以下)でよい、(2)拒絶反応が起こりにくい、(3)成長因子等が豊富である、などの理由から好適である。腎臓のような動物個体が左右に1対有する臓器を使用することは、同一個体の左右の臓器上の移植部位に対してそれぞれ異なる移植片を移植して比較することにより、移植片の差異に起因した移植成績および治療薬に対する効果の差異を的確に評価できる、という点でも好ましい。
【0019】
そして、このような移植を受ける脊椎動物としては、拒絶反応が起こりにくい点で、免疫不全動物、例えばヌードマウスやNOD-SCIDマウスを用いることが望ましく、なかでも優れた可移植性を有するNOG(NOD/SCID/γCnull)マウスの使用がより好適であるが、その他のヒト以外の脊椎動物についても、上記のような移植を可能とする腎臓を有するものであれば受容動物として用いることができる。
【0020】
===細胞の区別のためのマーカー===
非侵襲的観察が可能な観察マーカーは、移植される細胞が有してもよく、あるいは移植される脊椎動物の細胞が観察マーカーを有していてもよい。後者の例として、身体の細胞にあらかじめ観察マーカーの遺伝子が組み込まれた遺伝子組み換え動物、例えば、発光遺伝子を導入された組み換えマウス、いわゆる「光るマウス」などを、受容動物として使用することが挙げられる。しかし、移植に際して適切な観察マーカーとそれに対応した観察方法を選択できるという点で、移植される細胞に対して非侵襲的観察マーカーを導入することがより好ましい。
【0021】
この観察マーカーとして、例えばGFPなどの蛍光マーカーを用いれば、その動物に励起光を照射することで、細胞が移植された部位を容易に非侵襲的に光学的に観察することができるし、あるいはルシフェラーゼなどの発光マーカーを用いれば、生物発光画像化(bioluminescence imaging、BLI)法等の観察法を用いることによって容易に非侵襲的に観察することができ、移植細胞の場所及び/または増殖が、移植した脊椎動物の非侵襲的観察によって、リアルタイムに判断し得るようになる。その他造影剤として用いられる放射性同位元素等のような、移植部位を観察可能な状態にすること(可視化)ができる物質を観察マーカーとして用い、適切な観察法、例えばX線コンピュータ断層撮影法(computerized tomography、CT)・磁気共鳴映像法(magnetic resonance imaging、MRI)・陽電子放出断層撮影法(positron emission tomograph、PET)などと組み合わせれば、同様に非侵襲的観察が可能となる。
【0022】
このような観察マーカーの細胞への導入方法としては、観察マーカーが遺伝子発現によって得られるもの、例えば蛋白質である場合は、その観察マーカーをコードする遺伝子を有する発現ベクターを細胞に感染させる方法が一例として挙げられる。発現ベクターとしては、例えばウイルスベクターは感染効率が高い点で好適であるが、プラスミドベクターやコスミドベクターなどの、その他の一般的に用いられる発現ベクターを用いることもできる。そして、観察マーカーがタンパク質である場合のみならずそれ以外の物質の場合でも、生きた細胞に外来物質を導入する一般的な導入法、例えばリポフェクション法やエレクトロポレーション法なども、観察マーカーの導入のために用いることができる。
【0023】
===移植細胞の選別===
さらに、移植される細胞は、供与生物や患者から採取された状態のまま、あるいは前述の観察マーカーの導入が行われた後の状態のままで用いてもよいが、移植に際し、観察マーカーを有する細胞を選別する操作を加えることもでき、この選別を行うことは、移植された細胞を受容動物の細胞から、より厳密に区別することができるようになるため望ましい。この場合、選別のためのマーカーは、前述の観察のためのマーカーと同一でもよいし、異なったマーカーを用いてもよい。そしてこのような選別マーカーとしては、前述した観察のためのマーカーの場合と同様の理由から、発光マーカーや蛍光マーカーのような可視化マーカーの使用が好適である。例えば蛍光マーカーを用いる場合、フロー・サイトメトリー(flow cytometry)が選別のために利用できる。しかしその他の選別マーカーとなり得る物質、例えば表面抗原や磁気ビーズなども、それらを手掛かりにして細胞を生きたまま選別できるような適切な選別方法、例えば細胞パンニング法や磁気分離法などとの組み合わせにおいて使用することができる。
【0024】
そしてこの選別マーカーを細胞に導入する方法も、前述の観察マーカーの導入方法と同様の方法を用いることができる。そして、選別マーカーの導入の工程は、観察マーカーの導入と同じ方法で同時に行ってもよいし、あるいは別々に、同じ又は異なった方法で行ってもよい。ここで、別々に行う場合の例として、マーカーが蛋白質であれば、例えばそれぞれのマーカーの遺伝子を別個に有する2種類の発現ベクターを別々に細胞に感染させることもできるが、両者を同時に共感染させると両方のマーカーが同一の細胞に共存する可能性が高まるので好ましい。一方、導入を同時に行う場合としては、例えば、両方のマーカー遺伝子を有する単一の発現ベクターを構築して、それを細胞に感染させることができる。この方法は導入の工程がより簡便となり、しかも選別マーカーを用いて選別された細胞は必ず観察マーカーを有するので一層好ましい。
【0025】
===病態モデル動物の作製と利用===
移植される細胞が、ヒトもしくはその他の生物における病気の病変部に由来するものであれば、本発明によりその病気の病態動物モデルを作製することができる。そして作製された動物モデルを継続飼育して移植部位を観察することによって、その病気に由来する病変の変化を非侵襲的に追跡することができる。例えば移植される細胞として、ヒトの子宮内膜に由来する細胞を用いることにより、子宮内膜症の動物モデルが作製できるし、その他の病気、例えば腫瘍に由来する細胞を用いれば、腫瘍動物モデルが作製でき、そのような病気に由来する病変を非侵襲的に容易に観察することが可能となる。
【0026】
従来の動物モデルの場合、切除生検や屠殺後の組織学的観察などを行って初めて、その時点における病変部の組織構造を確認することが可能となる。しかし本発明の動物モデルならば、観察マーカーを用いて、移植された細胞が、脊椎動物の非侵襲的観察によって、脊椎動物の細胞から区別し得るので、病変の進行の程度や病変部の広がり具合を、非侵襲的な方法で、継続的にかつ定量的に観察することができる。さらにその病変部あるいはその動物全体に対して処置を行い、その処置に対する移植部位の変化を追跡すれば、その処置の有効性の解析や、病気の原因究明のための基礎的研究などを行える。例えば、本発明の実施の一態様である子宮内膜症動物モデルに対して、投与量及び時期を調節することにより月経周期に応じたホルモン濃度の変化を模倣するような、周期的なホルモン剤の投与実験を行えば、月経周期様のホルモン環境を継続的に再現することができ、その結果、子宮内膜の月経周期変化に類似した病変部の変化を解析できる。さらに、そのような動物モデルに対して、子宮内膜症治療薬候補物質の投与実験を行い、病変の改善をもたらすような候補物質のスクリーニングを実施すれば、子宮内膜症治療薬の開発に役立てることができる。
【0027】
このように、本発明の動物モデルは、生きたままで非侵襲的に病変部をリアルタイムに観察可能である利点を有することから、長期間にわたって継続的な追跡を必要とする病気の病態モデル、例えば腫瘍患者に由来する腫瘍細胞を移植した場合は腫瘍の病態モデルとして、極めて有用である。なお、これまで述べてきた動物モデルそのものに加えて、そのような動物モデルの作製のための方法も本発明の範囲に含まれるものであり、この方法の実施により作製された動物モデルは、対応する病気の原因の解明や治療法並びに治療薬の開発などのために提供することができる。例えば上記のようにして作製した腫瘍の動物モデルに対して、腫瘍治療薬候補物質の投与実験を行い、病変の改善をもたらすような物質のスクリーニングを実施すれば、腫瘍治療薬の開発に役立てることができる。
【0028】
==子宮内膜症モデル動物==
ここで、ヒトの子宮内膜または子宮内膜症病変部から単離された細胞に由来する病変部を腎被膜下に有する、子宮内膜症の病態動物モデルは、マーカーが導入されていなくても、それ自身有効に利用できる。この病態モデルは、周期的な外因性性ステロイドホルモンを投与することにより、単離された子宮内膜細胞から再構築された組織が子宮内膜の月経周期変化に類似した変化を示す、すなわちヒト子宮内膜環境を再現するようになった初めてのモデル動物である。この動物モデルに対しては、外因性性ステロイドホルモンとして例えばエストロゲンやプロゲステロン等を、様々な方法、例えば皮下や腹腔内への注射、食餌投与、徐放剤の皮下移植などの方法で投与することができる。そして、ホルモン投与の調節により前述したような月経周期様のホルモン環境を再現させた、動物モデルの移植部位に対して、例えば組織学的観察のような解析を行えば、子宮内膜症の研究に役立てることができる。さらに、この子宮内膜症モデル動物に対し、例えば、子宮内膜症治療薬候補物質を投与し、病変の改善をもたらすような物質、病変部が退縮するような物質、あるいは、周期的ホルモン投与に抵抗性になり、ホルモンに対して反応を示さなくなるような物質を選択することにより、子宮内膜症治療薬の開発に役立てることができる。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の実施のための最良の形態を、実施例を用いてさらに詳述する。
【0030】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0031】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びアイデアは、本明細書の記載により当業者には明らかであり、本発明は、当業者であれば本明細書の記載に基づき容易に再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のためだけに示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0032】
===子宮内膜分散細胞(SDEC)の調製とNOGマウスの腎被膜下への移植===
ヒトから単離された子宮内膜組織片を、0.2%(w/v)のコラゲナーゼ(和光純薬、大阪)、0.05%(w/v)のDNaseI(GIBCO、米国カリフォルニア州)を含有するDMEM+培地(1%の抗生物質-抗真菌剤(GIBCO)、10%のウシ胎児血清(BioWest、米国フロリダ州)を含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Sigma-Aldrich、米国ミズーリ州))中に、組織片1gに対して10mlの割合で移し、37℃にて1.5時間振盪して酵素的細胞分散処理を行った。さらに40μm孔径セルストレーナ(BD Biosciences、米国マサチューセッツ州)に細胞を通す機械的分散処理によって単一細胞の状態まで分散させた。
【0033】
分散した細胞に対し、さらにそこから子宮内膜間質細胞を分離するために、Ficoll-Paque PLUS (Amersham Biosciences、米国ニュージャージー州)上に重層して780×gにて15分間の密度勾配遠心を実施し、界面層から単一細胞の分散液を回収した。一方、細胞ストレーナ上に残った細胞塊を再懸濁して、0.05%(w/v)トリプシン-EDTA・0.05%(w/v)DNaseI溶液で酵素処理後に再度セルストレーナに通すことにより、子宮内膜腺上皮細胞を単一細胞分散液として回収した。
【0034】
NOG(NOD/SCID/γCnull)マウス(実験動物中央研究所、川崎市)に10%ペントバルビタール(大日本薬品製)含有リン酸緩衝液(Sigma)を40μl腹腔内注射して麻酔し、内在性女性ホルモンの影響を除くため卵巣を摘出した。このマウスに、内径1mmの先細キャピラリーピペットを腎臓の一端から貫通させて他端の被膜直下に先端を静止させ、上述の方法で得られたSDECの約5×10個(5~10μlのDMEM+培地中分散液)を注入することによって移植した。
【0035】
===移植部位の形態的および組織化学的観察===
SDEC移植を受けたNOGマウスの一部に対して、さらに、エストロゲン(E)徐放ペレット(Innovative Research of America、米国フロリダ州)を0錠、1錠もしくは2錠皮下移植することにより、異なる量の女性ホルモンを恒常的に投与して、飼育を継続した。所定の期間経過後に腎臓を摘出し、以下の肉眼所見及び免疫組織学的観察に用いた。
【0036】
まず摘出した腎臓をTissue-Tek OCT compound(Sakura Finetech、米国カリフォルニア州)に包埋して凍結し、クライオスタット(Leica Microsystems、ドイツ・ウェツラー市)を用いて6μm厚にて連続薄切した。得られた凍結切片の一部はヘマトキシリン・エオジン(H-E)染色液(Sigma-Aldrich)による組織観察に供し、スライドガラス上に得られた残りの切片に対して、表1にまとめて示した一次抗体を組み合わせて用い、以下に示すうちのいずれか最適な方法に従い免疫染色して観察した。
【0037】
[表1]
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【0038】
すなわち切片の一部に対しては、氷上で100%アセトンにて4℃で10分間固定後、リン酸緩衝液で洗浄した。また残りに対しては、4%パラホルムアルデヒドにて室温で20分間固定後、リン酸緩衝液で洗浄した。これら固定した切片を10%ウシ血清アルブミン溶液中に30分間浸漬してブロッキング処理してから、各一次抗体の所定希釈濃度溶液中に室温にて1時間浸漬して抗体染色を行った。染色後の切片を洗浄し、Alexa Fluor 488 (緑色蛍光用) もしくはAlexa Fluor 568 (赤色蛍光用)標識二次抗体(Molecular Probes, Inc.、米国オレゴン州)で蛍光二次染色した。さらに切片は核染色剤Hoechst 33258 (Sigma) で5分間対比染色した。各染色後の切片を、VECTASHIELD (Vector Laboratories、米国カリフォルニア州)で封入し、DMIRE2 倒立蛍光顕微鏡(Leica Microsystems)で検鏡し、画像をVB-700 CCDカメラ(Keyence Corp.、大阪市)で取り込んだ。
【0039】
このようにして得られた移植マウスの腎臓には、被膜下の移植を実施した部位に肉眼で識別できる新しい病変が生じており(図1第2列の矢頭)、しかもその大きさは投与したEの量に応じて漸次大きくなっていた(図1上段から順にE相対投与量が0、1、2用量)。また病変部の組織切片の透過光観察像および免疫染色像の所見より、その内部も子宮内膜に類似した組織構造を有していることが分かった(図1の第3列および第4列)。
【0040】
続いて、組織切片に対するヒトの間質細胞、腺上皮細胞、平滑筋細胞および血球細胞にそれぞれ特異的な一次抗体を用いた免疫染色を実施することによって、新しく生じた病変部は、それを構成する細胞がヒトに由来し、かつその組織構造が子宮内膜によく類似していることが明らかになった(図2)。さらに、E徐放ペレットの皮下移植と、プロゲステロン(P)製剤であるルテウム注25(帝国臓器製薬、東京)1mg用量の皮下注射による周期的投与とを組み合わせた、周期的ホルモン処理を移植マウスに施すことにより、月経周期様のホルモン環境を再現した(その方法を図3aに投与スキームの模式図として示した)。その結果、内膜症の腹膜活動病変であるレッドスポットに類似した、移植部位の肉眼的変化が惹起され(図3b(i、ii))、さらにその切片の組織学的観察から、内部構造も子宮内膜症病変部に類似していることが分かった(図3b(iii、iv))。このように、本発明のモデル動物への子宮内膜細胞の移植により、子宮内膜の組織を構造的に再構築できた。
【0041】
===マーカー遺伝子発現ベクターの構築と、子宮内膜単離細胞への導入===
レンチウィルスに由来しVenus(YFP由来のGFP類縁体である蛍光マーカー蛋白質)の遺伝子を有する発現ベクターpCSII-EF-MCS-IRES2-Venus(非特許文献2: Miyoshi, H., Blomer, U., Takahashi, M., Gage, F.H. & Verma, I.M. Development of a self-inactivating lentivirus vector. J Virol. 72, 8150-8157 (1998)を参照)に対して、さらにその制限酵素BamHI切断部位へ、赤色発光性ルシフェラーゼCBR luc(コメツキムシ・ルシフェラーゼ由来の変異体である生物発光マーカー蛋白質)の遺伝子を導入して、マーカー遺伝子発現ベクターを構築した(図4)。
【0042】
前述の方法と同様の方法で調製した子宮内膜分散細胞(SDEC)を培養し、約60%の集密度まで増殖した培養プレート上のSDECに対して、感染多重度1:1の割合になるようマーカー遺伝子発現ベクター溶液を添加して、さらに培養を継続した。ここで、培養プレート上の間質細胞および腺上皮細胞をNikon ECLIPSE TS100 (ニコン、東京)倒立蛍光顕微鏡で検鏡したところ、その両方が、蛍光および生物発光を発することを観察した(図5)。細胞培養が集密に達したところでプレート上の細胞を回収し、ヨウ化プロピジウム(PI)2μg/ml含有HBSS+培地に移すことにより死細胞のみを染色した上で、MoFlo細胞分取装置(Cytomation、米国コロラド州)を用いて分取した。PI染色に関して陰性でかつVenusの蛍光に対して陽性であった分取細胞を、SDECにマーカー遺伝子が導入された生細胞として以下の各移植実験に用いた。
【0043】
===マーカー遺伝子導入細胞の移植と、移植部位のBLIによる観察===
分取した遺伝子導入細胞を、上述の方法と同様にして、卵巣摘出NOGマウスの腎被膜下に移植して、マウスを飼育した。
【0044】
移植マウスに対して、2%イソフルラン(メルク・ホエイ、大阪)投与による麻酔下で、生物発光基質D-ルシフェリン(住商バイオサイエンス、東京)を150mg/kg体重比の用量にて腹腔内投与し、その直後に生きたままの状態の移植マウスの腹部をBLI観察装置(Xenogen-IVIS 100 cooled CCD optical macroscopic imagingsystem )(住商バイオサイエンス)を用いて観察し、生物発光を画像化した。その結果、移植部位に相当すると思われる部位からの発光が検出された(図6a)。参考のため一部の移植マウスの腹部を切開して腎臓周辺を露出し(図6b)、さらに腎臓のみを摘出して(図6c)、それぞれ同様にBLI装置で観察したところ、腎被膜下への細胞移植に由来する病変部のみが発光していることが確認できた。
【0045】
===恒常的ホルモン処理を行った移植部位のBLI観察===
マーカー遺伝子が導入されたSDECの移植を施したマウスの一部に対して、さらにE徐放ペレットを0錠、1錠または2錠皮下移植することにより、前述と同様に恒常的ホルモン処理を行った。飼育を継続して、所定期間毎に上記と同様にして移植マウス腹部のBLI観察を実施した(図7a)。得られた生物発光画像のそれぞれに対して、特定領域を定めて発光強度を定量化した。その結果、時間の経過およびEの投与用量の両方に応じて、病変部からの発光シグナルの強度が漸次増大することが観察された(図7b)。
【0046】
===抗ホルモン処理を行った移植部位のBLI観察===
マーカー遺伝子導入SDECを移植したマウスの一部に対して、E徐放ペレット1錠の皮下移植により恒常的ホルモン処理を行った。さらにその一部に対して、エストロゲン受容体アンタゴニストであるICI 182,780(Tocris Cookson Inc.、米国ミズーリ州)を100 μg/mlの用量にて皮下注射を毎日実施することにより、抗ホルモン処理を行った。移植後1、2、3ヶ月目に病変部のBLI観察を行った結果、1ヶ月目から2ヶ月目の間にわたって発光シグナルの低下が見られた(図8)。このように、子宮内膜に由来する病変への抗ホルモン剤投与の効果が認められた。
【0047】
===周期的ホルモン処理を行った移植部位のBLI観察===
マーカー遺伝子導入SDECを移植したマウスの一部に対して、E徐放ペレット皮下移植により恒常的ホルモン処理を行った。さらにその一部に対して、前述と同様にしてP製剤1mg用量の皮下注射による周期的ホルモン処理を行った(図9aに投与スキームの模式図を示す)。BLI観察を行ったところ、P投与の周期的投与に応じて移植部位からの発光シグナルの増大と減少が観察された(図9bおよびc)。このように、子宮内膜由来の病変は、月経を模したホルモン濃度変化に対して子宮内膜と同様の応答を示したことから、移植マウスモデルを用いて子宮内膜の月経周期が機能的に再現できることが分かった。
【0048】
===結論===
以上のように、本発明の動物モデルが、移植された細胞の動態を長期にわたって継続的に観察するのに特に好適であり、例えば子宮内膜由来の細胞移植を行えば、子宮内膜症の病態を再現した動物モデルが作製できることが分かった。さらに、そのような動物モデルを本発明の方法で、生きたまま非侵襲的、継続的かつ定量的に観察することが可能であり、移植された細胞が由来する病気の病因解明や治療薬の開発等のために有効であること、例えば子宮内膜症動物モデルであれば、ホルモンや抗ホルモン剤の投与に応じた病態の変化を追跡できる動物モデルを提供できることが明らかとなった。

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により、ヒト内膜症の病変部をより忠実に反映し得る動物モデル、及びその作製方法、並びに、移植細胞の非侵襲的観察が可能である動物モデル、及びその作製方法を提供することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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