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明細書 :インフルエンザ感染阻害ペプチド、インフルエンザウイルス感染阻害剤、リポソーム、インフルエンザ予防・治療剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5093100号 (P5093100)
登録日 平成24年9月28日(2012.9.28)
発行日 平成24年12月5日(2012.12.5)
発明の名称または考案の名称 インフルエンザ感染阻害ペプチド、インフルエンザウイルス感染阻害剤、リポソーム、インフルエンザ予防・治療剤
国際特許分類 C07K  14/705       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  31/16        (2006.01)
A61K   9/127       (2006.01)
FI C07K 14/705 ZNA
C12N 15/00 A
A61K 37/02
A61P 31/16
A61K 9/127
請求項の数または発明の数 20
全頁数 29
出願番号 特願2008-505081 (P2008-505081)
出願日 平成19年3月7日(2007.3.7)
国際出願番号 PCT/JP2007/054452
国際公開番号 WO2007/105565
国際公開日 平成19年9月20日(2007.9.20)
優先権出願番号 2006068020
優先日 平成18年3月13日(2006.3.13)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年12月21日(2009.12.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
発明者または考案者 【氏名】佐藤 智典
【氏名】松原 輝彦
個別代理人の代理人 【識別番号】110000176、【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
審査官 【審査官】神谷 昌男
参考文献・文献 国際公開第00/059932(WO,A1)
特開2002-284798(JP,A)
国際公開第2006/114478(WO,A1)
大西愛他,"インフルエンザウイルスの感染を阻害するヘマグルチニン結合性ペプチドの分子進化",日本化学会講演予稿集,2005年,Vol.85th, No.2,1223,4F1-29
Peptide Science 2001,2002年,329-330
調査した分野 C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
REGISTRY/CAplus(STN)
UniProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
アミノ酸配列

含む、4残基以上14残基以下のペプチドを有効成分として含有するヘマグルチニン結合剤であって、
が、アラニンであり、
が、アルギニンであり、
が、アラニン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、
が、プロリンであるヘマグルチニン結合剤
【請求項2】
配列番号3の一部において、アミノ酸配列

を含む、4残基以上14残基以下のペプチドを有効成分として含有するヘマグルチニン結合剤であって、
が、アラニンであり、
が、アルギニンであり、
が、アラニン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、
が、プロリンである請求項1に記載のヘマグルチニン結合剤
【請求項3】
配列番号52のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含有するヘマグルチニン結合剤
【請求項4】
アミノ酸配列

含む、5残基以上14残基以下のペプチドを有効成分として含有するヘマグルチニン結合剤であって、
が、アラニンであり、
が、アルギニンであり、
が、アラニン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、
が、プロリンであり、
が、アルギニンである請求項1に記載のヘマグルチニン結合剤
【請求項5】
配列番号3の一部において、アミノ酸配列

を含む、5残基以上14残基以下のペプチドを有効成分として含有するヘマグルチニン結合剤であって、
が、アラニンであり、
が、アルギニンであり、
が、アラニン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、
が、プロリンであり、
が、アルギニンである請求項に記載のヘマグルチニン結合剤
【請求項6】
アミノ酸配列
HX1011121314
の一部において、アミノ酸配列

を含む、5残基以上14残基以下のペプチドを有効成分として含有するヘマグルチニン結合剤であって、
が、アラニンであり、
が、アルギニンであり、
が、アラニン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、
が、プロリンであり、
が、アルギニンであり、
6が、セリン又はスレオニンであり、
7が、システイン又はメチオニンであり、
が、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、
が、プロリン、アラニン、又はグリシンであり、
10が、アルギニン又はリジンであり、
11が、プロリン、アラニン、又はグリシンであり、
12が、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、
13が、グルタミン又はアスバラギンであり、
14が、プロリン、アラニン、又はグリシンである請求項1に記載のヘマグルチニン結合剤
【請求項7】
前記X、前記X11、及び前記X14が、プロリンであることを特徴とする請求項に記載のヘマグルチニン結合剤
【請求項8】
前記ペプチドが配列番号38、42~44のいずれかのアミノ酸配列からなる請求項10に記載のヘマグルチニン結合剤
【請求項9】
前記ペプチドが両親媒性を有するように修飾されていることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載のヘマグルチニン結合剤
【請求項10】
前記修飾がアルキル化であることを特徴とする請求項に記載のヘマグルチニン結合剤
【請求項11】
ヘマグルチニンH1及び/又はヘマグルチニンH3に結合することを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載のヘマグルチニン結合剤
【請求項12】
請求項1~10のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有するインフルエンザウイルス感染阻害剤。
【請求項13】
請求項1~10のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有するインフルエンザ予防・治療剤。
【請求項14】
請求項1~10のいずれかに記載のペプチドを含有するリポソーム。
【請求項15】
請求項1~10のいずれかに記載のペプチドを含有するインフルエンザウイルス感染阻害剤であって、
前記ペプチドがペプチド凝集体を形成していること、
を特徴とするインフルエンザウイルス感染阻害剤。
【請求項16】
請求項15に記載のペプチド凝集体。
【請求項17】
ペプチドのヘマグルチニンに対する結合活性測定方法であって、
前記ペプチドは、配列番号38、42~44、52において、1から数アミノ酸残基の置換・欠失・付加を有するアミノ酸配列からなるペプチドであって、
前記ペプチドの、ヘマグルチニンに対する結合活性を測定する工程を含む、結合活性測定方法
【請求項18】
ペプチドによるインフルエンザウイルスの宿主細胞への感染阻害活性測定方法であって、
前記ペプチドが、配列番号38、42~44、52において、1から数アミノ酸残基の置換・欠失・付加を有するアミノ酸配列からなるペプチドであって、
前記ペプチドが、インフルエンザウイルスの宿主細胞への感染に対する阻害活性を測定する工程を含む、感染阻害測定方法。
【請求項19】
ヘマグルチニン結合活性を有するペプチドのスクリーニング方法であって、
配列番号38、42~44、52において、1から数アミノ酸残基の置換・欠失・付加を有するアミノ酸配列からなる変異ペプチドの、ヘマグルチニンに対する結合活性を測定する工程を含む、スクリーニング方法。
【請求項20】
インフルエンザウイルス感染阻害活性を有するペプチドのスクリーニング方法であって、
配列番号38、42~44、52において、1から数アミノ酸残基の置換・欠失・付加を有するアミノ酸配列からなる変異ペプチドについて、ヘマグルチニンに対する結合活性を測定する工程を含む、スクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザウイルスの感染を阻害するインフルエンザ感染阻害ペプチド、インフルエンザウイルスの感染を阻害するインフルエンザウイルス感染阻害剤、インフルエンザ感染阻害ペプチドを含有するリポソーム、インフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを含有するインフルエンザの予防・治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルス膜にはヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA、シアリダーゼ)といった2種類のスパイク糖蛋白質が存在し、それぞれウイルスの感染成立及びウイルスの宿主細胞からの出芽に重要な役割を果たしている。前者のヘマグルチニンは、ヒトやその他の動物(ほ乳類、鳥類、は虫類、魚類、両生類等)といった宿主の細胞膜上に普遍的に存在するシアル酸含有糖鎖を受容体として認識してそれに特異的に結合し、インフルエンザウイルスの細胞内へのエンドサイトーシスを導く。一方、後者のノイラミニダーゼは、受容体破壊酵素であり、宿主細胞からウイルス粒子が出芽又は遊離する際に、自らの又は宿主細胞膜上のシアル酸残基を切断する役割を担っている。
【0003】
インフルエンザウイルス感染の第1ステップに関与するヘマグルチニンには、極めて変異しやすい抗原決定領域(A~E)のアミノ酸配列の多様性に基づいて、種々の亜型が存在する。ヘマグルチニンの亜型間のアミノ酸配列の相同性は25~75%であるため、抗原性を基にしたインフルエンザワクチンの開発は非常に困難である。一方、宿主細胞の受容体と結合するいわゆる受容体結合ポケット領域は、比較的変異が少なく、その三次元構造はよく保存されている(Y.Suzuki, Prog.Lipid.Res., 33, 429 (1994))。従って、インフルエンザウイルスの感染を防止するために、感染成立に寄与するヘマグルチニンに特異的に結合することによってその働きを阻害すれば、広くインフルエンザウイルスの感染防止に効果があることが期待され、そのような薬剤の開発が求められている。
【0004】
例えば、ヘマグルチニンが宿主受容体のシアル酸含有糖鎖を認識して結合することに基づいて、ヘマグルチニンのその結合部位に特異的に結合する糖アナログをスクリーニングするという手法により、現在までに種々のヘマグルチニン結合性糖アナログが取得されている(R.Roy, et al., J.Chem.Soc., Chem.Commun., 1869 (1993); M.Mammen, et al., J.Med.Chem., 38,4179 (1995); T.Sato, et al., Chem.Lett., 145 (1999); T.Sato, et al., Chem.Lett., 145 (1999); M.ltzstein, et al., Nature, 363, 418 (1993))。
【0005】
そのほか、ヘマグルチニンの受容体糖鎖に対するモノクローナル抗体の抗原結合部位のもつ抗原性(イディオタイプ)に対する抗体(抗イディオタイプ抗体)を作成する手法もある。すなわち、これはヘマグルチニンの受容体となるシアル酸及びシアロ糖鎖の三次元構造に代えて、それと立体構造が類似する抗イディオタイプ抗体の超可変部のアミノ酸配列を作成し、宿主細胞のヘマグルチニン受容体に模擬させるというものである(鈴木康夫「ウイルス感染と糖鎖」、別冊日経サイエンス「糖鎖と細胞」,89-101頁, 1994年10月)。
【0006】
しかし、受容体結合ポケット領域は、比較的変異が少なく、その三次元構造はよく保存されているとは言え、これらのいずれもヘマグルチニンの亜型に特異的であり、また結合定数も高くない。従って、ヘマグルチニンの亜型に関わらずインフルエンザウイルス全般に働く薬剤の開発が待たれている。
【0007】
そこで、ファージディスプレイ法を用いて、ヘマグルチニンに結合し、インフルエンザウイルスの感染を防止する15残基のオリゴペプチドがスクリーニングされ、11種類(国際公開WO00/59932)及び3種類(特開2002-284798明細書; T. Sato, et al., Peptide Science 2001, 329 (2002))のオリゴペプチドが同定された(国際公開WO00/59932)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、国際公開WO00/59932及び特開2002-284798明細書においてなされたスクリーニングに用いられたファージライブラリーのタイターは2.5×10であり、アミノ酸15残基の総配列数である2015(=3.3×1019)には程遠く、それらのオリゴペプチドより、ヘマグルチニンに対する親和性の高いペプチドが存在することと考えられた。
【0009】
そこで、本願発明は、より多くのペプチドをスクリーニングすることによって、さらにヘマグルチニンに対する親和性の高いペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害活性の高いペプチドを提供し、さらに、このようなヘマグルチニンに対する親和性の高いペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害活性の高いペプチドを用いた医薬組成物を提供することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかるペプチドは、アミノ酸配列

を有する、4残基以上14残基以下のペプチドであって、Xが、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xが、アルギニン又はリジンであり、Xが、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xが、プロリン、アラニン、又はグリシンである。なお、前記Xは、プロリンであることが好ましい。
【0011】
また、本発明にかかるペプチドは、配列番号3の一部において、アミノ酸配列

を含む、4残基以上14残基以下のペプチドであって、Xが、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xが、アルギニン又はリジンであり、Xが、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xが、プロリン、アラニン、又はグリシンある。なお、前記Xは、プロリンであることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明にかかるペプチドは、アミノ酸配列

を有する、5残基以上14残基以下のペプチドであって、Xが、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xが、アルギニン又はリジンであり、Xが、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xが、プロリン、アラニン、又はグリシンであり、Xが、アルギニン又はリジンである。なお、前記Xは、プロリンであることが好ましい。
【0013】
また、本発明にかかるペプチドは、配列番号3の一部において、アミノ酸配列

を含む、5残基以上14残基以下のペプチドであって、Xが、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xが、アルギニン又はリジンであり、Xが、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xが、プロリン、アラニン、又はグリシンであり、Xが、アルギニン又はリジンである。なお、前記Xは、プロリンであることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明にかかるペプチドは、アミノ酸配列
HX1011121314
の一部において、アミノ酸配列

を含む、5残基以上14残基以下のペプチドであって、Xが、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xが、アルギニン又はリジンであり、Xが、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xが、プロリン、アラニン、又はグリシンであり、Xが、アルギニン又はリジンであり、X6が、セリン又はスレオニンであり、X7が、システイン又はメチオニンであり、Xが、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xが、プロリン、アラニン、又はグリシンであり、X10が、アルギニン又はリジンであり、X11が、プロリン、アラニン、又はグリシンであり、X12が、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、X13が、グルタミン又はアスバラギンであり、X14が、プロリン、アラニン、又はグリシンである。なお、前記X、前記X、前記X11、及び前記X14は、プロリンであることが好ましい。
【0015】
また、本発明にかかるペプチドは、配列番号38、42~44、52のいずれかのアミノ酸配列を有する。
【0016】
さらに、本発明にかかるペプチドは、配列番号38、42~44、52において、1から数アミノ酸残基の置換・欠失・付加を有するアミノ酸配列を有し、インフルエンザウイルス感染阻害活性を有する。
【0017】
なお、前記ペプチドは、アルキル化されていることが好ましい。
【0018】
さらに、本発明にかかるペプチドは、アミノ酸配列

を有する、4残基以上14残基以下のペプチドであって、Xが、プロリン、アラニン、又はグリシンであり、Xが、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xが、アルギニン又はリジンであり、Xが、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンである。なお、前記Xは、プロリンであることが好ましい。
【0019】
また、本発明にかかるペプチドは、アミノ酸配列

を有する、5残基以上14残基以下のペプチドであって、Xが、アルギニン又はリジンであり、Xが、プロリン、アラニン、又はグリシンであり、Xが、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xが、アルギニン又はリジンであり、Xが、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンである。なお、前記Xは、プロリンであることが好ましい。
【0020】
また、本発明にかかるペプチドは、配列番号56、57のいずれかのアミノ酸配列を有する。
【0021】
さらに、本発明にかかるペプチドは、配列番号56、57において、1から数アミノ酸残基の置換・欠失・付加を有するアミノ酸配列を有し、インフルエンザウイルス感染阻害活性を有する。
【0022】
なお、前記ペプチドは、アルキル化されていることが好ましい。
【0023】
本発明にかかるインフルエンザウイルス感染阻害剤は、前記いずれかのペプチドを有効成分として含有する。なお、前記インフルエンザウイルス感染阻害剤は、ヘマグルチニンH1を有するインフルエンザウイルス及びヘマグルチニンH3を有するインフルエンザウイルスの両方の感染を阻害する。
【0024】
また、本発明にかかるインフルエンザ予防・治療剤は、前記いずれかのペプチドを有効成分として含有する。なお、前記インフルエンザ予防・治療剤は、ヘマグルチニンH1を有するインフルエンザウイルス及びヘマグルチニンH3を有するインフルエンザウイルスの両方に効果を有する。
【0025】
本発明にかかるDNAは、前記いずれかのペプチドをコードする。
【0026】
また、本発明にかかる発現ベクターは、前記DNAを有する。
【0027】
さらに、本発明にかかる細胞は、前記発現ベクターが導入され、前記いずれかのペプチドを分泌する。
【0028】
また、本発明のリポソームは、前記いずれかのペプチドを含有する。なお、前記リポソームにおいて、前記ペプチドがアルキル化されていることが好ましい。
【0029】
本発明にかかるインフルエンザウイルス感染阻害剤は、前記いずれかのペプチドを含有するインフルエンザウイルス感染阻害剤であって、前記ペプチドが両親媒性を有するように修飾されて、ペプチド凝集体を形成していることを特徴とする。なお、前記インフルエンザウイルス感染阻害剤において、前記修飾は、アルキル化であることが好ましい。
【0030】
また、本発明にかかるペプチド凝集体は、前記ペプチド凝集体をいう。
【0031】
本発明にかかるペプチドは、アミノ酸配列

(配列番号49:s2(2-8)(general formula))を有し、Xがアルギニン又はリジンであり、Xがアラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xがプロリン、アラニン、又はグリシンであり、Xがアルギニン又はリジンであり、Xがセリン又はスレオニンであり、Xがメチオニン又はシステインであり、Xがアラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンである。なお、前記Xは、プロリンであることが好ましい。
【0032】
また、本発明にかかるペプチドは、アミノ酸配列

(配列番号49)において、1から数アミノ酸残基の置換・欠失・付加を有するアミノ酸配列を有し、インフルエンザウイルス感染阻害活性を有する。なお、前記Xは、プロリンであることが好ましい。
【0033】
なお、前記ペプチドは、アルキル化されていることが好ましい。
【0034】
本発明にかかるインフルエンザウイルス感染阻害剤は、前記いずれかのペプチドを有効成分として含有する。なお、前記インフルエンザウイルス感染阻害剤は、ヘマグルチニンH1を有するインフルエンザウイルスの感染を阻害する。
【0035】
<関連文献とのクロスリファレンス>
なお、本願は、2006年3月13日付けで出願した日本国特願2006-68020号に基づく優先権を主張する。この文献を参照することにより、本明細書に援用する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施例において、ELISAを用いて、A-1とH3G-1とのヘマグルチニンに対する結合活性を比較したグラフである。
【図2】本発明の実施例において、ELISAを用いて、配列番号2~18のアミノ酸配列を有するペプチドのヘマグルチニンに対する結合活性を、A-1(配列番号1)の結合活性と比較したグラフである。
【図3】(A)は、本発明の実施例において、s-2ペプチドに関し、各濃度における時間(x軸)とレゾナンス(y軸)との関係を示した図であり、(B)は、本発明の実施例において、各ヘマグルチニン結合性ペプチドに関し、所定の時間における濃度(x軸)に対するレゾナンス(y軸)の変化を示した図である。
【図4】(A)は、本発明の実施例において、各ヘマグルチニン結合性ペプチドのペプチド濃度100μMにおける、レゾナンス(y軸)の時間(x軸)経過に対する変化を示した図であり、(B)は、本発明の実施例において、各ヘマグルチニン結合性ペプチドのペプチド濃度200μMにおける、A-1ペプチドの結合量を 1 としたときのヘマグルチニン結合性ペプチドのレゾナンスの相対値を示した図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0038】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0039】
==ヘマグルチニン結合性ペプチド==
本明細書で用いられるヘマグルチニン結合性ペプチドのアミノ酸配列を表1に示す。
【表1】
JP0005093100B2_000002t.gif

【0040】
この中で、配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドA-1は、これまで同定されたヘマグルチニン結合性ペプチドのうち最も高い結合活性を有するが(国際公開WO00/59932、特開2002-284798明細書及び実施例参照)、配列番号2~7,9~10,12~18のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、実施例に示すように、A-1より、さらにヘマグルチニンに対する結合活性が高い。また、実施例に示すように、これら配列番号2~7,9~10,12~18のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、ヘマグルチニンH1及びH3の両方に結合する。
【0041】
また、本発明にかかるヘマグルチニン結合性ペプチドは、配列番号2~7,9~10,12~18において、1~数アミノ酸残基の置換・欠失・付加を有するアミノ酸配列を有し、A-1より、ヘマグルチニンに対し高い結合活性を有するペプチドであってもよい。
【0042】
ここで、ヘマグルチニンに対するヘマグルチニン結合性ペプチドの結合活性は、例えば、ELISAによって測定することができるが、これに限らず、RIA、EIA、ウエスタン・ブロッティング、など、タンパク質間の相互作用を定量的に測定できる手法であればどんなものを用いて測定してもよい。
【0043】
==インフルエンザウイルス感染阻害ペプチド==
また、本明細書で用いられるインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドのアミノ酸配列を表2に示す。
【表2】
JP0005093100B2_000003t.gif

【0044】
以下の実施例に記載する通り、配列番号38、42~44、52、56、及び57のアミノ酸配列を有するインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドは、インフルエンザウイルスの宿主細胞への感染を強く阻害することができる。
【0045】
また、本発明にかかるインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドは、配列番号38、42~44、52、56、及び57において、1から数アミノ酸残基の置換・欠失・付加を有するアミノ酸配列を有し、インフルエンザウイルス感染阻害活性を有するペプチドペプチドであってもよい。
【0046】
ここで、インフルエンザウイルス感染阻害ペプチドによるインフルエンザウイルスの宿主細胞への感染阻害は、例えば、プラークアッセイ法によって測定することができる。
【0047】
一般に、当業者において、同じ性質を有する側鎖(例えば、脂肪族の側鎖等)を有するアミノ酸は、ペプチド内で置換してもペプチドの機能は変わらないことが知られている。
【0048】
従って、ARLP(配列番号52)配列を有するペプチドにおいて、例えば、Aを脂肪族の側鎖を有するアミノ酸(例えば、G、V、L又はI)へ、Rを塩基性の側鎖を有するアミノ酸(例えば、K)へ、Lを脂肪族の側鎖を有するアミノ酸(例えば、G、V、A又はI)へ置換しても、置換後のペプチドは、ARLP(配列番号52)配列を有するペプチドと同様の活性を有すると考えられる。また、一般的な点変異の実験ではプロリンをアラニンやグリシンに変えても同程度の活性を有することも知られている(松原輝彦,学位論文,東京工業大学(2000年))。従って、PをAやGへ置換しても、置換後のペプチドは、ARLP(配列番号52)配列を有するペプチドと同様の活性を有すると考えられる。すなわち、このような配列は、一般式として、
(配列番号58:s2(1-4)(general formula))
で表わすことができる。ここで、Xは、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xは、アルギニン又はリジンであり、Xは、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xは、プロリン、アラニン、又はグリシンである。なお、Xは、プロリンであることが好ましい。
【0049】
本発明のペプチドは、このアミノ酸配列(配列番号58)を有する4残基以上14残基以下のペプチドである。
【0050】
同様に、ARLPR(配列番号44)配列を有するペプチドにおいて、例えば、Aを脂肪族の側鎖を有するアミノ酸(例えば、G、V、L又はI)へ、Rを塩基性の側鎖を有するアミノ酸(例えば、K)へ、Lを脂肪族の側鎖を有するアミノ酸(例えば、G、V、A又はI)へ置換しても、置換後のペプチドは、ARLPR(配列番号44)配列を有するペプチドと同様の活性を有すると考えられる。また、PをAやGへ置換しても、置換後のペプチドは、ARLPR(配列番号44)配列を有するペプチドと同様の活性を有すると考えられる。すなわち、このような配列は、一般式として、
(配列番号48:s2(1-5)(general formula))
で表わすことができる。ここで、Xは、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xは、アルギニン又はリジンであり、Xは、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xは、プロリン、アラニン、又はグリシンであり、Xは、アルギニン又はリジンである。なお、Xは、プロリンであることが好ましい。
【0051】
本発明のペプチドは、このアミノ酸配列(配列番号48)を有する5残基以上14残基以下のペプチドである。
【0052】
一方、配列番号3のアミノ酸配列は、一般式として、
HX1011121314(配列番号50:s2(general formula))
で表わすことができる。ここで、Xは、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xは、アルギニン又はリジンであり、Xは、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xは、プロリン、アラニン、又はグリシンであり、Xは、アルギニン又はリジンであり、Xは、セリン又はスレオニンであり、Xは、システイン又はメチオニンであり、Xは、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xは、プロリン、アラニン、又はグリシンであり、X10は、アルギニン又はリジンであり、X11は、プロリン、アラニン、又はグリシンであり、X12は、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、X13は、グルタミン又はアスバラギンであり、X14は、プロリン、アラニン、又はグリシンである。なお、X、X、X11、及びX14は、プロリンであることが好ましい。
【0053】
従って、本発明のペプチドは、上記アミノ酸配列(配列番号50)の一部において、アミノ酸配列(配列番号58)を含む、4残基以上14残基以下のペプチドであってもよく、特に、配列番号3の一部において、このアミノ酸配列(配列番号58)を含む、4残基以上14残基以下のペプチドであることが好ましい。また、本発明のペプチドは、アミノ酸配列(配列番号48)を含む、5残基以上14残基以下のペプチドであってもよく、特に、このアミノ酸配列(配列番号48)を含む、5残基以上14残基以下のペプチドであることが好ましい。
【0054】
さらに、本発明のペプチドは、ARLPR(配列番号44)配列又はARLP(配列番号52)配列を反転させた配列を有するペプチドであってもよい。このようにARLPR(配列番号44)配列を反転させた配列RPLRA(配列番号56)配列又はARLP(配列番号52)配列を反転させた配列PLRA(配列番号57)配列を有するペプチドにおいて、例えば、Aを脂肪族の側鎖を有するアミノ酸(例えば、G、V、L又はI)へ、Rを塩基性の側鎖を有するアミノ酸(例えば、K)へ、Lを脂肪族の側鎖を有するアミノ酸(例えば、G、V、A又はI)へ置換しても、置換後のペプチドは、RPLRA(配列番号56)配列又はPLRA(配列番号57)配列を有するペプチドと同様の活性を有すると考えられる。また、PをAやGへ置換しても、置換後のペプチドは、RPLRA(配列番号56)配列又はPLRA(配列番号57)配列を有するペプチドと同様の活性を有すると考えられる。すなわち、このような配列は、一般式として、
(配列番号59:s2(r1-5)(general formula))又はX(配列番号60:s2(r1-4)(general formula))で表わすことができる。ここで、Xは、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xは、アルギニン又はリジンであり、Xは、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、又はロイシンであり、Xは、プロリン、アラニン、又はグリシンであり、Xは、アルギニン又はリジンである。なお、Xは、プロリンであることが好ましい。
【0055】
==ヘマグルチニン結合性ペプチド及びインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを含有する医薬組成物==
インフルエンザウイルスが細胞に感染する際、インフルエンザウイルスの有するヘマグルチニンが、宿主細胞の受容体に特異的に結合し、その受容体を足場として、ウイルスが細胞に感染する。本発明のヘマグルチニン結合性ペプチドは、そのヘマグルチニンに特異的に結合する。この結合により、ヘマグルチニンが宿主細胞受容体に結合することを妨げることができ、従って、インフルエンザウイルスが宿主細胞に感染するのを阻害することができる。
【0056】
このように、本発明のヘマグルチニン結合性ペプチドは、インフルエンザウイルスが宿主細胞に感染するのを阻害することができる。また、以下の実施例に示す通り、本発明のインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドは、インフルエンザウイルスが宿主に感染するのを阻害することができた。従って、本発明のヘマグルチニン結合性ペプチド及びインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドは、インフルエンザに罹患したヒト又はヒト以外の脊椎動物に投与することにより、体内でのインフルエンザウイルスの増殖を抑制することができる。また、インフルエンザ罹患前のヒト又はヒト以外の脊椎動物に予め投与しておくことにより、インフルエンザウイルスが体内に侵入しても感染を防止することができる。
【0057】
こうした医療用以外にも、本発明のヘマグルチニン結合性ペプチドは、ヘマグルチニンを介して生じるインフルエンザウイルスの感染、及びそれに伴う種々の細胞機能や生命現象を解明するためのツールとして用いることもできる。
【0058】
なお、本発明が対象とするインフルエンザウイルスは、ヘマグルチニンH1又はヘマグルチニンH3の少なくとも一方を有していれば、その型や由来を特に制限するものではなく、A型、B型もしくはC型、又はヒト分離型、ブタやウマ等の他の哺乳動物分離型もしくは鳥類分類型等のいずれであってもよい。
【0059】
以上のように、本発明のヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを有効成分として含有する医薬組成物として、インフルエンザウイルスが宿主細胞に感染するのを阻害するためのインフルエンザウイルス感染阻害剤、インフルエンザに罹患した患者を治療するためのインフルエンザ治療剤、インフルエンザに罹患する前に予防的に投与するためのインフルエンザ予防剤等が考えられる。これらの医薬組成物は、有効成分としてヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドと、必要に応じて薬学的に許容される担体とを含有する製剤として、インフルエンザウイルスに感染したヒト又はヒト以外の脊椎動物に投与したり、感染前のヒト又はヒト以外の脊椎動物に予防的に投与したりすることができる。
【0060】
ここで用いられる薬学的に許容される担体は、調製される医薬組成物の形態に応じて、慣用されている担体の中から適宜選択して用いることができる。例えば、医薬組成物が溶液形態として調製される場合、担体として、精製水(滅菌水)又は生理学的緩衝液、グリコール、グリセロール、オリーブ油のような注射投与可能な有機エステルなどを使用することができる。また、この医薬組成物には、慣用的に用いられる安定剤、賦形剤などを含むことができる。
【0061】
これらの医薬組成物の投与方法には特に制限はなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別、その他の条件、疾病の重篤度等に応じて適宜決定すればよいが、製剤形態としては、特に注射剤、点滴剤、噴霧剤(エアゾール)、点鼻剤、吸入剤などが好ましい。
【0062】
投与経路としては、経口投与又は非経口投与があり、具体的には、経口投与、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、腹腔内投与、気管内投与、吸入投与、舌下投与等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
例えば、ヒトインフルエンザウイルスは、口腔や鼻腔から侵入し、主に上気道の粘膜上皮細胞で増殖することが知られているので、本剤は、医薬組成物として、ヒトインフルエンザウイルスが感染するヒト又はヒト以外の脊椎動物に対し、経口、気管内、鼻、口腔咽頭、吸入等の投与経路で使用されることが好ましい。具体的には、本剤をスプレー、(噴霧式)エアゾール又は吸入剤として製剤化すれば、本剤を経口、気管内、鼻、口腔咽頭、吸入等の投与経路を通じて投与することができ、インフルエンザウイルスの気道上皮細胞への感染を直接阻害することができる。
【0064】
また、これらの医薬組成物の1日当たりの投与量は、投与する者の症状、年齢、体重、性別、治療期間、治療効果、投与方法などにより適宜変更しうるが、インフルエンザ感染を阻害でき、かつ、生じる副作用が許容し得る範囲内であれば特に限定されない。当該製剤は1日1回投与に限らず、数回に分けて投与してもよい。
【0065】
これらの医薬組成物は、単独で使用してもよいし、あるいは他の薬剤(例えば、他の抗ウイルス剤、抗炎症剤や、症状を緩和する薬剤など)と組み合わせて使用してもよい。
【0066】
また、本剤は、インフルエンザワクチンが使用できない場合、例えば、インフルエンザワクチンの効果が現れるまでに罹患の可能性があるハイリスク患者や、免疫不全者等ワクチンの効果が十分に現れない患者や、ワクチン接種が禁忌である患者に対しても使用可能である。
【0067】
なお、ヒト以外の脊椎動物に経口投与する場合、水や飼料に本剤を混合して摂取させてもよい。
【0068】
==ヘマグルチニン結合性ペプチド及びインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドの製造方法==
本発明のヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドは、常法に従って、化学合成することにより製造できる。例えば、通常の液相法及び固相法によってペプチド合成することができる。より具体的には、上記アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させ鎖を延長させていくステップワイズエロゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法などを利用できる。
【0069】
上記ペプチド合成に採用される縮合法も、公知の各種方法に従うことができる。その具体例としては、例えばアジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、N-ヒドロキシサクシンアミド、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド等)、ウッドワード法等を例示できる。これら各方法に利用できる溶媒もこの種のペプチド縮合反応に使用されることがよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等及びこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0070】
なお、上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸及至ペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第三級ブチルエステル等の低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、p-メトキシベンジルエステル、p-ニトロベンジルエステルアラルキルエステル等として保護することができる。また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばTyrの水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第三級ブチル基等で保護されてもよいが、必ずしもかかる保護を行う必要はない。更に例えばArgのグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、2-メトキシベンゼンスルホニル基、メチレン-2-スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基等の適当な保護基により保護することができる。上記保護基を有するアミノ酸、ペプチド及び最終的に得られる本発明のペプチドにおけるこれら保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法や、液体アンモニア/ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸等を用いる方法等に従って行うことができる。
【0071】
このように作製されたペプチドは、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、向流分配法等、ペプチド化学の分野で汎用されている常法に従って、適宜その精製を行うことができる。
【0072】
別法として、上記ヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドをコードするDNAを作製して発現ベクターに組み込み、培養細胞などの真核細胞又は大腸菌などの原核細胞に導入し、そこで発現させたペプチドを精製してもよい。発現ベクターは、導入する宿主細胞に従って、適宜選択する。ペプチドをコードするDNAの組み込みなどを含むベクターの構築、宿主細胞への導入、宿主細胞での発現、宿主細胞の抽出物の調製は、分子生物学的手法を用いて、常法に従って行うことができる。目的のペプチドは、その抽出物から、上記したペプチド化学の分野で汎用されている常法によって、精製することができる。
【0073】
また、上記ヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドにタグ(例えば、Hisタグ、Flagタグ、GSTタグなど)を付加したペプチドをコードするDNAを作製し、上記と同様に宿主細胞で発現させ、このタグを利用して、アフィニティカラム等で精製することもでき、その後タグのみを切断しペプチド部分のみを精製できるように発現ベクターを設計することもできる。さらに、最終的に、上記したペプチド化学の分野で汎用されている常法によって、ヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを精製してもよい。
【0074】
==ヘマグルチニン結合性ペプチド及びインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドの化学修飾==
上記本発明のヘマグルチニン結合性ペプチド及びインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドは、適宜に化学修飾することができる。例えば、アルキル化や脂質化(リン脂質化)等による化学修飾によって、ヘマグルチニン結合性ペプチド及びインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドの細胞親和性や組織親和性を増大させたり、血中半減期を延長させ薬理効果を増強をさせたりすることができる。
【0075】
ヘマグルチニン結合性ペプチド及びインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドのアルキル化は、常法に従って行うことができる。例えば、上記ペプチド合成と同様に、脂肪酸とヘマグルチニン結合性ペプチドのN末端アミノ基とのアミド結合形成反応により容易に行うことができる。脂肪酸としては、直鎖脂肪酸でも分枝鎖脂肪酸でもよく、また飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でもよく、どんな脂肪酸でも広く使用できるが、特に、生体内に存在する脂肪酸を用いるのが好ましく、具体的にはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸等の飽和脂肪酸;オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸など、炭素数が12~20程度の脂肪酸が挙げられる。
【0076】
またアルキル化は、前記ペプチド合成と同様にして、アルキルアミンとヘマグルチニン結合性ペプチドのC末端カルボキシル基とのアミド結合形成反応によっても行うことができる。アルキルアミンとしては、上記脂肪酸と同様に各種のアルキルアミンを用いることができるが、特に生体内に存在する脂肪鎖(炭素数が12~20程度)を用いるのが好ましい。
【0077】
ヘマグルチニン結合性ペプチド及びインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドの脂質化も常法に従って実施できる(例えば、New Current, 11(3), 15-20 (2000); Biochemica et Biophysica Acta., 1128, 44-49 (1992); FEBSLetters, 413, 177-180 (1997); J.Biol.Chem., 257, 286-288 (1982)等を参照)。例えば、各種リン脂質の2位水酸基或いは3位のリン酸基に対し、任意のスペーサーを介して、縮合法によってヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドに結合させることができる。必要によっては、ヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドのN端或いはC端に任意の長さ(通常数個)のシステインを含むアミノ酸配列を付加して、縮合に利用される反応性SH基をあらかじめ導入することもできる。ここで用いられるリン脂質には、特に制限はなく、例えば、上記脂肪酸からなる、ホスファチジン酸、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール等が使用できる。
【0078】
なお、これらのアルキル化や脂質化された本発明のヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチド(リポペプチド)は、リポソーム調製の際の脂質成分として利用することができる。その際、ヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドがリポソーム上に提示されることにより、ヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドは後述するリポソーム製剤として有効に利用できる。
【0079】
==ヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを含有するリポソーム==
本発明のヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドはリポソーム製剤として調製することができる。このリポソーム製剤においては、酸性リン脂質を膜構成成分とするか或いは中性リン脂質と酸性リン脂質とを膜構成成分とするリポソームに、本発明のヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドが保持されている。
【0080】
膜構成成分としての酸性リン脂質としては、例えば、ジラウロイルホスファチジルグリセロール(DLPG)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、卵黄ホスファチジルグリセロール(卵黄PG)、水添卵黄ホスファチジルグリセロール等の天然又は合成ホスファチジルグリセロール類(PG)及びジラウロイルホスファチジルイノシトール(DLPI);ジミリストイルホスファチジルイノシトール(DMPI)、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)、ジオレオイルホスファチジルイノシトール(DOPI)、大豆ホスファチジルイノシトール(大豆PI)、水添大豆ホスファチジルイノシトール等の天然又は合成ホスファチジルイノシトール類(PI)などを用いることができる。これらの酸性リン脂質は一種単独で又は二種以上混合して使用することができる。
【0081】
また、中性リン脂質としては、例えば、大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン、水添大豆ホスファチジルコリン、水添卵黄ホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ミリストイルパルミトイルホスファチジルコリン(MPPC)、パルミトイルステアリイルホスファチジルコリン(PSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)等の天然又は合成ホスファチジルコリン類(PC)、大豆ホスファチジルエタノールアミン、卵黄ホスファチジルエタノールアミン、水添大豆ホスファチジルエタノールアミン、水添卵黄ホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン(DLPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ミリストイルパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(MPPE)、パルミトイルステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PSPE)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)等の天然又は合成ホスファチジルエタノールアミン類(PE)等を用いることができる。これらの中性リン脂質は、一種単独で又は二種以上混合して使用することができる。
【0082】
上記リポソーム膜は、上記酸性リン脂質を単独で構成成分として用いるか又は上記中性リン脂質と酸性リン脂質とを併用して、常法に従い形成される。ここで酸性リン脂質の併用割合は、リポソーム膜構成成分中に約0.1~100モル%程度、好ましくは約1~90モル%、より好ましくは約10~50モル%程度とするのがよい。
【0083】
リポソームの調製に当たっては、さらに、例えばコレステロールなどを添加することができる。このコレステロールの添加によってリン脂質の流動性を調整し、リポソームの調製をより簡便にすることができる。このコレステロールは、通常リン脂質に対して等量まで添加できるが、特に0.5~1倍量で添加されるのが好ましい。
【0084】
リポソームを調製する際、脂質化ヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドと酸性リン脂質との分子数の割合は、ペプチド1に対して酸性リン脂質が0.5~100程度、好ましくは1~60程度、より好ましくは1.5~20程度とするのがよい。
【0085】
このような脂質を用いて、例えば多重層リポソーム(MLV)を次のようにして調製する。まず、脂質を有機溶媒(クロロホルム、エーテル等)に溶解した後、丸底フラスコに入れ、窒素気流下又は減圧下で有機溶媒を除去し、フラスコ底部に脂質の薄膜をつくる。この場合、さらに減圧下でデシケーター中に放置することによって有機溶媒を完全に除去することもできる。次いで、脂質化ヘマグルチニン結合性ペプチドの水溶液を脂質薄膜上に加えて脂質を水和させることによって乳濁色のリポソーム懸濁液が得られる。
【0086】
また、大きな一枚膜リポソーム(LUV)は、ホスファチジルセリンの小さな一枚膜リポソームにCa2+を添加し、融合させてシリンダー状のシートとした後、キレート剤であるEDTAを添加しCa2+を除去する方法(Biochim. Biophys. Acta394, 483-491, 1975)やエーテルに溶解した脂質を約60℃の水溶液中に注入し、エーテルを蒸発させる方法(Biochim. Biophys. Acta 443, 629-634, 1976)により作ることができる。
【0087】
また、作製されたリポソーム懸濁液にペプチドの水溶液を加えることでペプチド組み込みリポソームを作製できる。
【0088】
これらの調製法のほかに、フレンチプレス法により粒子径の小さなリポソームを調製することもできる(FEBS lett. 99, 210-214, 1979)。また大沢らによって報告されているリポソームへの保持効率の高い凍結乾燥法(Chem. Pharm. Bull. 32, 2442-2445, 1984)と凍結融解法(Chem. Pharm. Bull. 33, 2916-2923,1985)を利用することもできる。
【0089】
このように調製されたリポソームに含まれる脂質化ヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドの割合は、全脂質中、数モル%から数十モル%程度であればよく、5~20モル%程度であるのが好ましいが、通常は5モル%程度であってもよい。
【0090】
さらに、こうして調製されたリポソームは、透析法(J. Pharm. Sci. 71, 806-812,1982)やポリカーボネート膜を用いたろ過法(Biochim. Biophys. Acta 557, 9-23, 1979;Biochim. Biophys. Acta 601, 559-571, 1980)により、粒子径を一定にすることができる。また調製されたリポソーム溶液から、リポソーム内に保持されなかった脂質化ヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを除くためには、透析法、ゲルろ過法、遠心分離法を利用することができる(リポソーム."脂質の化学"[日本生化学会編、生化学実験講座3]、東京化学同人、1974)。更にまた透析膜を用いてリポソームを濃縮することも可能である。
【0091】
このようにして調製されるリポソーム分散液には、製剤設計上必要な添加剤として、防腐剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤、吸収促進剤等の各種の公知物質を適宜配合することができ、また必要に応じてこれらの添加物を含む液又は水で希釈することもできる。上記添加剤の具体例としては、防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロヘキシジン、パラベン類(メチルパラベン、エチルパラベン等)、チメロサール等の真菌及び細菌に有効な防腐剤を、等張化剤としてはD-マンニトール、D-ソルビトール、D-キシリトール、グリセリン、ブドウ糖、マルトース、庶糖、プロピレングリコール等の多価アルコール類や塩化ナトリウム等の電解質類を、また安定化剤としてはトコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、システイン等をそれぞれ用いることができる。
【0092】
また、本発明のヘマグルチニン結合性ペプチドからなる上記リポソームの内部には、例えば抗ウイルス剤等の他の薬剤を更に封入させて、リポソーム製剤とすることも可能である。
【0093】
リポソーム製剤の製造は、具体的には例えばウッドレら(Long Circulating Liposomes: old drugs, New therapeutics., M.C. Woodle, G.Storm,Eds: Springer-Verlag Berlin (1998))又はナンバら(Liposomal applications to cancer therapy, Y.Namba, N.Oku, J.Bioact.Compat.Polymers, 8, 158-177 (1993))の文献に記載される方法に従って調製することができる。
【0094】
上記リポソーム製剤中のヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドの量としては、特に限定されず、広範囲に適宜選択されるが、通常組成物中0.0002~0.2(w/v%)程度、好ましくは0.001~0.1(w/v%)程度とするのがよい。
【0095】
==ペプチド凝集体==
ヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドは、インフルエンザウイルス感染阻害剤としてそのまま用いてもよいが、ペプチド凝集体を形成させることによって、さらに効率よくインフルエンザウイルスの宿主細胞への感染を阻害することができる。ここで、本明細書におけるペプチド凝集体は、ミセル(疎水基を内側に向け、親水基を外側に並べて球の形状を示すもの)と自己ペプチド集合体(溶液中にて自然に凝集する直径数百nm~数μmのペプチド凝集体)をいう。
【0096】
この際、ヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを修飾し、親水性と疎水性の性質を兼ね備える両親媒性の化合物を作製することにより、ペプチド凝集体を形成しやすくすることができる。例えば、ヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドをアルキル化することにより、両親媒性の化合物を作製することができる。アルキル化は、前述の通りに行われることができる。
【0097】
ヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチド、もしくは両親媒性に修飾されたヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドは、液体中において臨界濃度に達すると凝集して、ペプチド凝集体を形成する。すなわち、所定の濃度以上のヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを溶液中で懸濁させることにより、ペプチド凝集体を形成させることができる。このようなヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドのペプチド凝集体の形成は、ヘマグルチニンと宿主細胞に存在するインフルエンザウイルス受容体との結合を立体的に障害するためにも効果的であると考えられる。なお、ペプチド凝集体の直径は、例えば、光強度分布(intensity PSD)を用いて測定することができる。
【0098】
==他の形態を有する医薬組成物==
前述のヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを投与する代わりに、これらのペプチドを細胞で発現できる発現ベクターを投与してもよい。ベクターは、プラスミドでもウイルスベクターでもよいが、用いた細胞で挿入遺伝子を発現できるプロモーターを有する必要がある。投与形態としては、DNAをそのまま投与しても、このDNAを含むウイルスを感染させても、このDNAを含む細胞を移植してもよい。ウイルスは、アデノウイルス、レトロウイルスなど、特に限定されないが、体内で細胞に感染し、ヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを発現し、分泌できるようにするのが好ましい。また、細胞を移植する場合も、ヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを発現し、分泌できるようにベクターが構築されているのが好ましい。発現したペプチドを分泌させるためには、例えば、ヘマグルチニン結合性ペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドのN端側にシグナルペプチドが融合した融合ペプチドを発現させるようにベクターを構築すればよいが、分泌させるための方法は必ずしもこれに限定されない。
【実施例】
【0099】
[実施例1]
まず、西、佐谷らの報告(Nishi T., Saya H., et al., FEBS Lett, 399, 237-240 (1996))で使用されたファージディスプレイシステムを用い、配列番号1~18の各アミノ酸配列を有するペプチドを外殻表面に提示する繊維状ファージfdを作製した。即ち、これらのアミノ酸配列をコードするDNA(上述の表1参照)を外殻タンパク質pIII遺伝子のN末端部分に相当する領域に遺伝子組み換えの手法を用いて挿入すると、この挿入DNAにコードされた15残基のアミノ酸配列からなるペプチドをファージ外殻表面に発現するように、ファージDNAを構築することができる。K91Kanの宿主菌を用い、常法により、これらの各ファージを増幅し、ファージ溶液を作製した。
【0100】
次に、配列番号2~18の各アミノ酸配列を表面に提示するこれらのファージのヘマグルチニン(HA)に対する結合性をELISAで調べた。なお、プレートに固定するヘマグルチニンとして、A型のH1亜型であるA/PR/8/34(H1N1)のエーテル抽出物、及びA型のH3亜型であるA/武漢/359/95(H3N2)のエーテル抽出物を用いた。以下、具体的な手順を述べる。
【0101】
まず、96穴カルボプレート(SUMILON社製)に結合したカルボキシル基を活性化させるため、プレートの各ウェルに、EDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide)及びN-ヒドロキシスクシイミドの等量混合液60μlを添加して、10分放置した。
【0102】
次に、活性化プレートにヘマグルチニンを固定するため、各ウェルを50mM TBS緩衝液(pH7.6)で6回洗浄し、H1N1溶液(70μl/ml)又はH3N2溶液(70μl/ml)を100μl添加した。2時間放置した後、50mM TBS緩衝液(pH7.6)で6回洗浄し、1mMエタノールアミン水溶液を100μl添加した。10分放置した後、再度50mM TBS緩衝液(pH7.6)で6回洗浄した。
【0103】
ヘマグルチニンを固定したプレートに各ファージクローン溶液を50μl(1x1010pfu含有)添加し、室温で2時間放置した。各ウェルをTBST(TBS/5% Tween20)で5回洗浄後、1%BSA含有TBSTで希釈した抗fdファージ抗体(シグマ社;1000倍希釈で使用)を100μl添加し、室温で1時間放置した。各ウェルをTBST(TBS/5% Tween20)で5回洗浄後、1%BSA含有TBSTで希釈したHRP結合抗ウサギIgG抗体(シグマ社;1000倍希釈)を100μl添加し、室温で1時間放置した。各ウェルをTBST(TBS/5% Tween20)で5回洗浄後、基質としてペルオキシダーゼ(POD)溶液を100μl添加し、10~15分放置した。3NHSOを加えて反応を停止させ、マイクロプレートリーダーで492nmの吸収を測定し、結合活性とした。
【0104】
なお、コントロールとして、上記記載の1次ファージディスプレイ・ライブラリー及び2次ファージディスプレイ・ライブラリー、及びA-1(配列番号1)の結合活性と比較した。A-1は、これまで同定されたヘマグルチニン結合性ペプチド(国際公開WO00/59932及び特開2002-284798明細書参照)に比べ、同等の結合活性を有する。(一例として、図1に、同様にして測定したH3G-1の結合活性との比較を示す。)そこで、配列番号2~18のアミノ酸配列を有するペプチドの結合活性を、ここでは、A-1のH1N1とH3N2各々に対する結合活性を1として全データを標準化し、グラフにした(図2)。この図2のグラフから、e-4とe-7以外のペプチドは、両者のヘマグルチニンに対し、A-1より強い結合活性を示すことがわかった。特にs-2はA-1に比べ約3倍もの強い結合活性を示した。なお、上記各ライブラリーは、A-1の数分の一の活性しか示さなかった。
【0105】
以上より、配列番号2~7,9~10,12~18を有するポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を有するヘマグルチニン結合性ペプチドより、ヘマグルチニンに対し高い結合活性を有するペプチドであって、本発明の一つの目的である医薬組成物として有用であると考えられる。
【0106】
なお、これらの配列は、共通配列(コンセンサス配列)として
xRL(S/P)xxMV(H/R)xxxxQx
(配列番号37)を有するので、この共通配列をもつペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を有するヘマグルチニン結合性ペプチドより、ヘマグルチニンに対し高い結合活性を有すると考えられる。
【0107】
[実施例2]
実施例1で行ったELISAにおいて、特にヘマグルチニン(HA)に対する結合性の高かったs-2(配列番号3)及びe-1(配列番号5)の配列を持つペプチドを化学合成し(東レ株式会社に依頼)、ペプチドだけの状態でヘマグルチニンに対する結合性を評価した。
【0108】
本実施例で用いたペプチド及びそのアミノ酸配列を表3に示す。
【表3】
JP0005093100B2_000004t.gif

【0109】
これらのヘマグルチニン結合性ペプチドを用いて、以下のように、ヘマグルチニン固定化膜に対する結合性を評価した。実施例1のプレートと同様にSensor Chip CM5(Biacore, BR-1000-14)にH3N2を固定化し、これに対するペプチドの結合性をBiacore装置(Biacore社)によって評価を行った。具体的には、各ペプチドに対し、時間を追ってレゾナンスがどのように変化するかを、複数のペプチド濃度で測定した。
【0110】
まず、s-2ペプチドに関し、各濃度における時間(x軸)とレゾナンス(y軸)との関係を図3Aに示す。そして、同様の実験を各ヘマグルチニン結合性ペプチドで行い、所定の時間における濃度(x軸)に対するレゾナンス(y軸)の変化を図3Bに示す。このように、いずれのヘマグルチニン結合性ペプチドも、その濃度に依存してヘマグルチニンへの結合量が増えていくことがわかった。
【0111】
次に、上記の結果から、所定のペプチド濃度における各ヘマグルチニン結合性ペプチドの結合性を比較した。図4Aに、各ヘマグルチニン結合性ペプチドのペプチド濃度100μMにおける、レゾナンス(y軸)の時間(x軸)経過に対する変化を示す。また、図4Bに、ペプチド濃度200μMにおいて、A-1ペプチドの結合量を 1 としたときのヘマグルチニン結合性ペプチドのレゾナンスの相対値を示す。このように、各ペプチドはs-2>e-1>A-1>pVIII(配列番号51)の強さの順で、ヘマグルチニンに結合することがわかった。この結合の強さの順序は、各ヘマグルチニン結合性ペプチドを発現するファージで測定した結合性の順序とも対応している。
【0112】
以上の結果より、e-1、s-2はA-1よりそれぞれ1.2倍、2.1倍強くヘマグルチニンに結合することが分かり、アミノ酸が置換されたことによって、ペプチドの機能が向上したことが示唆された。ヘマグルチニンに対する結合量が少ないために、解離定数 K を求めることはできないが、本実験で固体化したリガンド量から理論的最大結合量を求めると228RUであるため、例えばs-2の200μMのときの結合量がこれのちょうど半分程度であることから、これらのペプチドの解離定数は10-3~10-4M程度だと考えられる。
【0113】
GM3キャスト膜を用いてGM3-ヘマグルチニン(HA)間相互作用の阻害評価をELISAを用いて評価したところ(永田和宏・半田宏、「生体物質相互作用のリアルタイム解析実験法‐BIACOREを中心に」シュプリンガー・フェアラーク東京株式会社、1998年)、ペプチドA-1は、mMオーダーでGM3に対するヘマグルチニンの結合を阻害した(H3に対するA-1のIC50=1.9mM)。また、ヘマグルチニンと遊離のシアリルラクトースとの結合定数はmMオーダーであることがNMRによる評価から報告されている(α(2,3)-sialyllactose K=3.2mM)。従って、本実施例の結果は、Inoueによって報告されたペプチドの阻害定数とほぼ一致し、また、本実施例の結果は、A-1の阻害定数あるいはシアリルラクトースで得られている結合定数と同じオーダーもしくは一桁小さいことから、これらのヘマグルチニン結合性ペプチドは、ヘマグルチニンのリガンドである糖鎖の優れたアナログとなり得ることが示唆された。
【0114】
[実施例3]
実施例1により、配列番号2~7、9~10、12~18を有するポリペプチドは、ヘマグルチニンに対して高い結合活性を有することが明らかになったが、インフルエンザウイルスの感染を防止できる、より少ない残基のペプチドを同定すべく、以下の実験を行った。
【0115】
(1)アルキル化ペプチドの作製
ペプチド凝集体を形成させるため、アルキル化させたペプチドを本実験に用いた。
【0116】
まず、以下の表4に示す各々のペプチド(配列番号1、3、38~47、52~55)を、Fmoc法を用いて、自動ペプチドシンセサイザーPSSM-8(島津製作所)で合成した。ここで、固相樹脂としてFmoc-SAL-Resin(code A00102,渡辺化学)を用いてペプチドの合成反応を行った。次に、ジクロロメタンに溶解させたC18-COOH(ステアリン酸、シグマ)を上記ペプチド合成後の固相樹脂と反応させ、これらのペプチドのN末端側をアルキル化させた。その後、C18ペプチドを固相合成樹脂から切り出して、C18ペプチドアミド(C末端が-CONH)を得た。
【0117】
粗精製の後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製した。また、matrix assisted laser desorption/ ionization time of flight mass spectrometry(MALDI-TOF MS)で精製後のペプチドの分子量を測定した。なお、MS測定は、autoflexTM(Bruker Daltonics)を用い、マトリックスにはα-cyano-4-hydroxy-cinnamic acis(α-CHCA)を用いた。
【0118】
(2)プラークアッセイを用いたインフルエンザウイルス感染阻害活性の評価
上記(1)の方法によって作製した各種ペプチドが、インフルエンザウイルスの宿主細胞への感染をどの程度阻害するかを調べるために、以下の実験を行った。
【0119】
まず、6ウェルマイクロプレートに10%ウシ胎児血清、0.1%NaHCO、10μg/mlグルタミン、100ユニット/mlのペニシリンG及び100ユニット/mlのストレプトマイシンを添加したMEM(minimum essential medium eagle)(GIBCO BRL)を用い、MDCK(Mardin-Darby canine kidney)細胞を、37℃、5%COのインキュベーターでコンフルエントになるまで単層培養した。なお、MDCK細胞及び以下の実験で使用するインフルエンザA/プエルトリコ/8/34ウイルス株(H1N1)、インフルエンザA/愛知/2/68ウイルス株(H3N2)は、K.Nagata(筑波大学(日本))から入手した。MDCK細胞は、インフルエンザウイルスA型、B型、C型全てに対して高い感受性を示し、さらに、細胞増殖時に、ヘマグルチニンの変異株が出現しないことから、インフルエンザウイルスの感染実験において広く用いられている。
【0120】
次に、H1N1インフルエンザウイルス溶液(A型インフルエンザウイルス/PR/8/34を100個前後のプラークを形成する濃度に希釈した溶液)及びH3N2インフルエンザウイルス溶液(A型インフルエンザウイルス/Aichi/2/68を100個前後のプラークを形成する濃度に希釈した溶液)と、各種ペプチド溶液(ペプチド濃度0.2~200μM)をそれぞれ100μLずつ混合し、合計200μLの検体を作製した。
【0121】
次に、6ウェルマイクロプレート中の培地を除去し、PBS(-)を1~2mL/ウェル入れて細胞表面を洗浄した。PBS(-)を除去後、上記の方法によって作製した検体を、200μL/ウェルずつ入れ、37℃、5% COのインキュベーターで30分間インキュベートした。
【0122】
30分後、検体溶液を除去し、PBS(-)を1~2mL/ウェル入れて細胞を洗浄した。次に、予め50℃に加温しておいた2%の寒天0.625ml/ウェル(Oxoid, LTD.,製品番号:L28)と1.475ml/ウェルの重層培地(6ウェル分では、2×MEM+BAを6.25ml、精製水を2.25ml、1%DEAEデキストランを0.125ml、7.5% NaHCOを0.167ml、アセチルトリプシン(1mg/ml(PBS))を0.125ml)(2×MEM+BAは、9.4g MEMを474mL MiliQ水に加え、高圧滅菌し、濾過滅菌した10mLのL-グルタミン溶液(×100、30mg/mL)及び10mLの1M Hepes(2.4g/10mL)、6mL 35% bovine albumin (A-7409,Sigma)を加えて作製した。)を混合し、これを2mL/ウェルずつ分注入した。室温で30分間静置し、寒天が固まったら反転して、37℃、5% COのインキュベーターで2日間インキュベートした。
【0123】
インフルエンザウイルスを感染させてから2日後、重層培地をはずし、プレートを乾燥させた。次に、クリスタルバイオレット染色液(50mg Crystal Violet/50mL 20%エタノール)を500μL/ウェル入れて、5分程度染色を行った後、5回精製水で洗い、風乾させた。最後に、プラークの数をカウントし、コントロール(インフルエンザウイルスのみをインキュベートしたもの)と比較し、各ペプチドに対するインフルエンザウイルス感染阻害率を計算した。
【0124】
各種ペプチドを用いたH1N1インフルエンザウイルス又はH3N2インフルエンザウイルス感染率を示した結果を表4に示す。なお、C18-s2(r1-8)をネガティブコントロールとした。ここで、C18-s2(r1-8)(配列番号41)とは、s2(1-8)(配列番号38)と同じアミノ酸構成だが、配列番号38とは異なる配列を有するペプチドをいう。また、IC50とは、ペプチドを入れない場合の感染率を100%とし、その感染を50%まで阻害するのに必要なペプチド濃度をいう。
【表4】
JP0005093100B2_000005t.gif

【0125】
その結果、C18-S2ペプチド(配列番号3)と比べ、配列番号3のC末端を削ったARLPR配列を有するペプチド(C18-s2(1-8)ペプチド(配列番号38)、C18-s2(1-7)ペプチド(配列番号42)、C18-s2(1-6)ペプチド(配列番号43)、C18-s2(1-5)ペプチド(配列番号44))、C18-s2(1-4)ペプチド(配列番号52)は、H1N1インフルエンザウイルスに対する感染をより強く阻害できること、また、H3N2インフルエンザウイルスに対する感染を、同等か、それ以上により強く阻害できることが示された。
【0126】
また、C18-S2(2-8)ペプチドは、C18-S2ペプチド(配列番号3)と比べ、H1N1インフルエンザウイルスに対する感染を、同等以上に阻害できることが示された。
【0127】
一方、C18-s2(1-3)ペプチド(配列番号54)とC18-s2(1-2)ペプチド(配列番号55)は、H1N1インフルエンザウイルス及びH3N2インフルエンザウイルスに対する感染を阻害できないことが示された。
【0128】
以上の結果から、配列番号3のC末端を削ったARLPR配列を有するペプチドは、インフルエンザウイルスのMDCK細胞への感染を強く阻害することが明らかになった。また、さらにN末端を1残基削ったRLPR配列を有するペプチドは、H1N1インフルエンザウイルスのMDCK細胞への感染を、強く阻害することが明らかになった。さらに、配列番号3のC末端を削ったARLP配列を有するペプチドも、インフルエンザウイルスのMDCK細胞への感染を強く阻害することが明らかになった。
【0129】
さらに、上記と同様の方法を用いて、配列番号3のC末端を削ったARLPR配列(C18-s2(1-5)ペプチド:配列番号44)を反転させた配列を有するペプチド(C18-s2(r1-5)ペプチド:配列番号56)と配列番号3のC末端を削ったARLP配列(C18-s2(1-4)ペプチド:配列番号52)を反転させた配列を有するペプチド(C18-s2(r1-4)ペプチド:配列番号57)を作製し、上記の方法を用いて、これらのペプチドを用いたH1N1インフルエンザウイルス又はH3N2インフルエンザウイルス感染率を示した結果を表5に示す。
【表5】
JP0005093100B2_000006t.gif

【0130】
その結果、C18-s2(r1-8)(配列番号41)と比べ、C18-s2(r1-5)ペプチド(配列番号56)とC18-s2(r1-4)ペプチド(配列番号57)は、H1N1インフルエンザウイルス及びH3N2インフルエンザウイルスのMDCK細胞への感染を、より強く阻害できることが示された。
【0131】
本発明によって、インフルエンザウイルスの宿主への感染を阻害できる、4~8残基のペプチドを提供することが可能になった。このようにして得られた4~8残基のペプチドは、15残基のペプチドより安価に合成できる。
【産業上の利用の可能性】
【0132】
本発明によると、ヘマグルチニンに対する親和性の高いペプチド及びインフルエンザウイルス感染阻害活性の高いペプチドを提供し、さらに、このようなヘマグルチニンに対する親和性の高いペプチド又はインフルエンザウイルス感染阻害活性の高いペプチドを用いた医薬組成物を提供することができるようになる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3