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明細書 :2光子励起蛍光観察方法及び装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5137026号 (P5137026)
公開番号 特開2010-014677 (P2010-014677A)
登録日 平成24年11月22日(2012.11.22)
発行日 平成25年2月6日(2013.2.6)
公開日 平成22年1月21日(2010.1.21)
発明の名称または考案の名称 2光子励起蛍光観察方法及び装置
国際特許分類 G01N  21/64        (2006.01)
FI G01N 21/64 E
請求項の数または発明の数 16
全頁数 17
出願番号 特願2008-177267 (P2008-177267)
出願日 平成20年7月7日(2008.7.7)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 ▲1▼2008年(平成20年)春季 第55回応用物理学関係連合講演会にて発表 刊行物名:2008年(平成20年)春季 第55回応用物理学関係連合講演会講演予稿集No.0、及びNo.3 発行所 :応用物理学会 開催日 :平成20年3月27日(木)~30日(日) 発表日 :平成20年3月27日(木) 講演番号:27p-ZW-2 講演予稿集発行日:平成20年3月27日 ▲2▼第7回理研・分子研合同シンポジウム エクストリームフォトニクス研究にて発表 刊行物名:第7回理研・分子研合同シンポジウム エクス
審査請求日 平成23年6月13日(2011.6.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】磯部 圭佑
【氏名】須田 亮
【氏名】緑川 克美
【氏名】神成 文彦
【氏名】宮脇 敦史
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100105463、【弁理士】、【氏名又は名称】関谷 三男
【識別番号】100102576、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 敏章
審査官 【審査官】横井 亜矢子
参考文献・文献 特開2008-020247(JP,A)
特表2006-502407(JP,A)
調査した分野 G01N 21/62-21/74
G02B 21/00
G02B 21/06-21/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
広帯域パルスレーザー光源と、
前記パルスレーザー光源から発生されたレーザー光のスペクトル位相を変調する位相変調部と、
前記位相変調部から出射したレーザー光を試料に照射し、試料から発生された2光子励起蛍光強度を測定する蛍光測定部と、
前記位相変調部を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記パルスレーザー光源の全波長帯域において第二高調波の光強度が最も高くなる第1の位相関数と、前記パルスレーザー光源の全波長帯域において第二高調波の光強度が最も小さくなる第2の位相関数とを保持し、前記第1の位相関数と第2の位相関数を組み合わせて得られる合成位相関数によって前記位相変調部を制御することを特徴とする2光子励起蛍光観察装置。
【請求項2】
請求項1記載の2光子励起蛍光観察装置において、前記試料は少なくとも2種類の蛍光分子を含み、前記制御部は、第1の蛍光分子の2光子吸収断面積が大きな波長帯域に前記第1の位相関数を適用し、他の蛍光分子の2光子吸収断面積が大きな波長帯域に前記第2の位相関数を適用するようにして前記位相変調部を制御し、前記第1の蛍光分子を選択的に2光子励起することを特徴とする2光子励起蛍光観察装置。
【請求項3】
請求項1記載の2光子励起蛍光観察装置において、前記制御部は、所定の境界波長を境に波長を複数の波長帯域に分割し、その波長帯域の一つに前記第1の位相関数を適用し、残りの波長帯域に前記第2の位相関数を適用して生成された合成位相関数によって前記位相変調部を制御し、前記第1の位相関数が適用された波長帯域に大きな2光子吸収断面積を有する蛍光分子を選択的に励起することを特徴とする2光子励起蛍光観察装置。
【請求項4】
請求項1記載の2光子励起蛍光観察装置において、前記試料は少なくとも第1の蛍光分子と第2の蛍光分子を含み、前記制御部は、前記第1の蛍光分子の2光子吸収断面積が大きな第1の波長帯域に対して、前記第1の位相関数に前記第2の位相関数を第1の割合で加算した位相関数を適用し、前記第2の蛍光分子の2光子吸収断面積が大きな第2の波長帯域に対して、前記第1の位相関数に前記第2の位相関数を第2の割合で加算した位相関数を適用し、かつ前記第1の波長帯域に適用する位相関数と第2の波長帯域に適用する位相関数の一方に群遅延時間をもたらす位相を加えて得られた合成位相関数によって前記位相変調部を制御し、前記第1の蛍光分子と前記第2の蛍光分子を同時に2光子励起することを特徴とする2光子励起蛍光観察装置。
【請求項5】
請求項1記載の2光子励起蛍光観察装置において、前記制御部は、所定の境界波長を境に波長を少なくとも第1の波長帯域と第2の波長帯域に分割し、前記第1の波長帯域に対して、前記第1の位相関数に前記第2の位相関数を第1の割合で加算した位相関数を適用し、前記第2の波長帯域に対して、前記第1の位相関数に前記第2の位相関数を第2の割合で加算した位相関数を適用し、かつ前記第1の波長帯域に適用する位相関数と第2の波長帯域に適用する位相関数の一方に群遅延時間をもたらす位相を加えて得られた合成位相関数によって前記位相変調部を制御し、前記第1の波長帯域に大きな2光子吸収断面積を有する第1の蛍光分子と前記第2の波長帯域に大きな2光子吸収断面積を有する第2の蛍光分子を同時に2光子励起することを特徴とする2光子励起蛍光観察装置。
【請求項6】
請求項4又は5記載の2光子励起蛍光観察装置において、前記制御部は、前記第1の割合及び/又は第2の割合を調整することにより前記第1の蛍光分子と第2の蛍光分子から発生する2光子励起蛍光強度を独立に制御することを特徴とする2光子励起蛍光観察装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載の2光子励起蛍光観察装置において、前記位相変調部は、前記パルスレーザー光源から発生されたレーザー光を分光する第1の分光素子と、前記第1の分光素子によって分光されたスペクトル光を平行光にする第1の集光素子と、前記平行光にされたスペクトル光のスペクトル位相を変調する空間光変調器と、前記空間光変調器を通った平行光を集光する第2の集光素子と、前記第2の集光素子の集光点に配置され前記集光された光を光ビームに整形する第2の分光素子とを備えることを特徴とする2光子励起蛍光観察装置。
【請求項8】
請求項7記載の2光子励起蛍光観察装置において、前記空間光変調器は、スペクトル分散方向に並べて配置された複数の位相変調素子を備えることを特徴とする2光子励起蛍光観察装置。
【請求項9】
請求項1記載の2光子励起蛍光観察装置において、前記蛍光測定部に試料に代えて非線形光学結晶を配置し、当該結晶から発生する第二高調波の信号が最も大きくなるように前記制御部によって前記位相変調部を最適制御して前記第1の位相関数を取得し、前記第二高調波の信号が最も小さくなるように前記制御部によって前記位相変調部を最適制御して前記第2の位相関数を取得することを特徴とする2光子励起蛍光観察装置。
【請求項10】
請求項1記載の2光子励起蛍光観察装置において、前記蛍光測定部の試料位置における光パルスのスペクトル位相を測定し、それを打ち消すような位相を前記第1の位相関数として取得し、前記レーザー光のパルス幅を長くするような位相関数を前記第2の位相関数として取得することを特徴とする2光子励起蛍光観察装置。
【請求項11】
2光子励起スペクトルが異なる第1の蛍光分子と第2の蛍光分子を含む試料中の前記第1の蛍光分子を選択的に2光子励起して蛍光観察する2光子励起蛍光観察方法において、
広帯域パルスレーザー光源の全波長帯域において第二高調波の光強度が最も高くなる第1の位相関数と、前記第二高調波の光強度が最も小さくなる第2の位相関数とを取得する工程と、
前記広帯域パルスレーザー光源から発生されたレーザー光のスペクトル位相を、前記第1の蛍光分子の2光子吸収断面積が大きな波長帯域には前記第1の位相関数を適用し、前記第2の蛍光分子の2光子吸収断面積が大きな波長帯域には前記第2の位相関数を適用して得られた位相関数で変調する工程と、
前記スペクトル位相が変調されたレーザー光を試料に照射する工程と、
前記試料から発生される蛍光を検出する工程と、
を有することを特徴とする2光子励起蛍光観察方法。
【請求項12】
2光子励起スペクトルが異なる第1の蛍光分子と第2の蛍光分子を含む試料中の前記第1の蛍光分子と前記第2の蛍光分子を同時に2光子励起して蛍光観察する2光子励起蛍光観察方法において、
広帯域パルスレーザー光源の全波長帯域において第二高調波の光強度が最も高くなる第1の位相関数と、前記第二高調波の光強度が最も小さくなる第2の位相関数とを取得する工程と、
前記広帯域パルスレーザー光源から発生されたレーザー光のスペクトル位相を、前記第1の蛍光分子の2光子吸収断面積が大きな波長帯域には前記第1の位相関数に前記第2の位相関数を第1の割合で加算した位相関数を適用し、前記第2の蛍光分子の2光子吸収断面積が大きな波長帯域には前記第1の位相関数に前記第2の位相関数を第2の割合で加算した位相関数を適用し、かつ前記第1の波長帯域に適用する位相関数と第2の波長帯域に適用する位相関数の一方に群遅延時間をもたらす位相を加えて得られた位相関数で変調する工程と、
前記スペクトル位相が変調されたレーザー光を試料に照射する工程と、
前記試料から発生される蛍光を検出する工程と、
を有することを特徴とする2光子励起蛍光観察方法。
【請求項13】
請求項12記載の2光子励起蛍光観察方法において、前記第1の割合及び/又は第2の割合を調整することにより前記第1の蛍光分子と第2の蛍光分子から発生する2光子励起蛍光強度を独立に制御することを特徴とする2光子励起蛍光観察方法。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか1項記載の2光子励起蛍光観察方法において、蛍光測定部に試料に代えて非線形光学結晶を配置し、当該結晶から発生する第二高調波の信号が最も大きくなるように前記レーザー光のスペクトル位相を最適制御して前記第1の位相関数を取得し、前記第二高調波の信号が最も小さくなるように前記レーザー光のスペクトル位相を最適制御して前記第2の位相関数を取得することを特徴とする2光子励起蛍光観察方法。
【請求項15】
請求項11~13のいずれか1項記載の2光子励起蛍光観察方法において、試料位置における前記レーザー光のスペクトル位相を測定し、それを打ち消すような位相を前記第1の位相関数として取得し、前記レーザー光のパルス幅を長くするような位相関数を前記第2の位相関数として取得することを特徴とする2光子励起蛍光観察方法。
【請求項16】
請求項11~13のいずれか1項記載の2光子励起蛍光観察方法において、前記第1の位相関数及び第2の位相関数は、記憶媒体から読み出すことによって取得することを特徴とする2光子励起蛍光観察方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、2光子励起蛍光観察方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フェムト秒レーザーを励起光源とした2光子励起蛍光顕微鏡は生細胞内の生命現象可視化に欠かせない技術である。生命現象の解明において重要となっているタンパク質分子間相互作用の可視化においては、マルチカラーイメージング、蛍光相互相関分光法と蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)イメージングが必要不可欠である。マルチカラーイメージングは、スペクトル情報を介して回折限界領域内に同時に存在するタンパク質についての情報を与える。蛍光相互相関分光法では、タンパク質の相互作用を定量的に測定可能である。また、FRETイメージングは、タンパク質-タンパク質相互作用及びタンパク質のconformal change(構造変化)についての空間的及び時間的情報を与える。マルチカラーイメージングや蛍光相互相関分光法では複数種類の蛍光分子を同時に2光子励起する必要があり、FRETイメージングでは一種類の蛍光分子のみを選択的に2光子励起する必要がある。
【0003】
2光子励起蛍光顕微鏡において、特定の蛍光分子を選択的に2光子励起するための広帯域パルスの位相変調法がいくつか報告されている。非特許文献1-3には、正弦波関数の位相変調を用いた選択的励起法が報告されている。また、非特許文献4,5にはバイナリの位相変調を用いた選択的励起法が報告されている。
【0004】

【特許文献1】米国特許第7105811号明細書
【非特許文献1】D. Meshulach, Y. Silberberg, “Coherent quantum control of two-photon transitions by a femtosecond laser pulse,” Nature 396, 239-242 (1998)
【非特許文献2】K. A. Walowicz, I. Pastirk, V. V. Lozovoy, and M. Dantus, “Multiphoton intrapulse interference. 1. Control of multiphoton processes in condensed phases,” J. Phys. Chem. A 106, 9369-9373 (2002).
【非特許文献3】V. V. Lozovoy, I. Pastirk, K. A. Walowicz, and M. Dantus, “Multiphoton intrapulse interference. II. Control of two- and three-photon laser induced fluorescence with shaped pulses,” J. Chem. Phys. 118, 3187-3196 (2003).
【非特許文献4】M. Comstock, V. V. Lozovoy, I. Pastirk, and M. Dantus, “Multiphoton intrapulse interference 6; binary phase shaping,” Opt. Express 12, 1061-1066 (2004).
【非特許文献5】V. V. Lozovoy, B. Xu, J. C. Shane, and M. Dantus “Selective nonlinear optical excitation with pulses shaped by pseudorandom Galois fields,” Phys. Rev. A 74, 041805(R) (2006).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マルチカラーイメージングとFRETイメージングには、複数の蛍光分子を選択的あるいは同時に2光子励起する必要がある。選択的励起あるいは同時励起は、それぞれ狭帯域パルスの中心波長を、2種類の蛍光分子における2光子励起スペクトルの比が最大になる波長あるいは等しくなる波長に合わせることによって達成される。複数の蛍光分子によって標識されたサンプルのマルチカラーイメージングにおいては、すべての蛍光分子を同時に励起、あるいはレーザー波長をチューニングして各蛍光分子を順番に励起すればよい。しかし、細胞を複数の蛍光分子で標識する場合、しばしば濃度に大きな差が生じ、ある蛍光分子と他の蛍光分子の2光子励起蛍光強度に大きな差が生じることが問題になる。そのような場合、複数の蛍光分子の2光子励起蛍光強度を個別にかつ任意に制御できると好都合である。また、現状のモードロック・フェムト秒レーザーは波長合わせに数秒以上の時間がかかるため、迅速な制御法が必要になる。
【0006】
従来の正弦波関数を用いた位相変調の場合、特定の波長λcに励起エネルギーを集中することが可能であるが、λc以外の波長においても励起エネルギーが十分残っているため、選択的励起のコントラストが低い。バイナリ位相変調では、励起エネルギーを集中した波長以外の波長において励起エネルギーが十分低くなるように制御され、正弦波位相変調で問題となったコントラストの低下が抑制される。しかし、0とπの2つの位相のみを用いているため、複数種類の蛍光分子の蛍光強度を独立かつ任意に制御することは困難である。
【0007】
本発明は、広帯域パルスレーザーを用いた2光子励起蛍光観察において同時励起、選択的励起の切り替えが可能なレーザーパルスの位相変調法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、広帯域パルスの位相変調関数として、光源が有する全波長帯域において励起エネルギーが最も大きくなる第1の位相関数と小さくなる第2の位相関数とを組み合わせた関数を用いる。励起したい蛍光分子の2光子吸収断面積が大きな波長帯域1には第1の位相関数を、蛍光を抑制したい分子の2光子吸収断面積が大きな波長帯域2には第2の位相関数を用いることにより選択的励起を行う。この方法により、正弦波位相変調の場合のようなコントラストの低下は抑制される。また、波長帯域1か2の一方に群遅延時間をもたらす位相を与えることにより、波長帯域1と2で構成されるパルスを独立に扱うことを可能とする。さらに、第1の位相関数に0から1の割合で第2の位相関数を加算した位相関数を与え、その割合を波長帯域1と2で各々調整することにより、2種類の蛍光分子から発生する2光子励起蛍光強度を独立かつ任意に制御することが可能となる。また、分割する波長帯域の数を増やすことにより、3種類以上の複数種類の蛍光分子の2光子励起蛍光強度を独立かつ任意に制御することが可能となる。
【0009】
本発明による2光子励起蛍光観察装置は、広帯域パルスレーザー光源と、パルスレーザー光源から発生されたレーザー光のスペクトル位相を変調する位相変調部と、位相変調部から出射したレーザー光を試料に照射し、試料から発生された2光子励起蛍光強度を測定する蛍光測定部と、位相変調部を制御する制御部とを備え、制御部は、パルスレーザー光源の全波長帯域において第二高調波の光強度が最も高くなる第1の位相関数と、パルスレーザー光源の全波長帯域において第二高調波の光強度が最も小さくなる第2の位相関数とを保持し、第1の位相関数と第2の位相関数を組み合わせて得られる合成位相関数によって位相変調部を制御する。
【0010】
試料が少なくとも2種類の蛍光分子を含むとき、制御部は、第1の蛍光分子の2光子吸収断面積が大きな波長帯域に第1の位相関数を適用し、他の蛍光分子の2光子吸収断面積が大きな波長帯域に第2の位相関数を適用するようにして位相変調部を制御することで、第1の蛍光分子を選択的に2光子励起することができる。
【0011】
換言すると、制御部は、所定の境界波長を境に波長を複数の波長帯域に分割し、その波長帯域の一つに第1の位相関数を適用し、残りの波長帯域に第2の位相関数を適用して生成された合成位相関数によって位相変調部を制御することで、第1の位相関数が適用された波長帯域に大きな2光子吸収断面積を有する蛍光分子を選択的に励起することができる。
【0012】
また、試料が少なくとも第1の蛍光分子と第2の蛍光分子を含むとき、制御部は、第1の蛍光分子の2光子吸収断面積が大きな第1の波長帯域に対して、第1の位相関数に第2の位相関数を第1の割合で加算した位相関数を適用し、第2の蛍光分子の2光子吸収断面積が大きな第2の波長帯域に対して、第1の位相関数に第2の位相関数を第2の割合で加算した位相関数を適用し、かつ第1の波長帯域に適用する位相関数と第2の波長帯域に適用する位相関数の一方に群遅延時間をもたらす位相を加えて得られた合成位相関数によって位相変調部を制御することで、第1の蛍光分子と第2の蛍光分子を同時に2光子励起することができる。
【0013】
換言すると、制御部は、所定の境界波長を境に波長を少なくとも第1の波長帯域と第2の波長帯域に分割し、第1の波長帯域に対して、第1の位相関数に第2の位相関数を第1の割合で加算した位相関数を適用し、第2の波長帯域に対して、第1の位相関数に第2の位相関数を第2の割合で加算した位相関数を適用し、かつ第1の波長帯域に適用する位相関数と第2の波長帯域に適用する位相関数の一方に群遅延時間をもたらす位相を加えて得られた合成位相関数によって位相変調部を制御することで、第1の波長帯域に大きな2光子吸収断面積を有する第1の蛍光分子と第2の波長帯域に大きな2光子吸収断面積を有する第2の蛍光分子を同時に2光子励起することができる。
【0014】
このとき、第1の割合及び/又は第2の割合を調整することにより第1の蛍光分子と第2の蛍光分子から発生する2光子励起蛍光強度を独立に制御することができる。
【0015】
第1の蛍光分子と第2の蛍光分子を含む試料中の第1の蛍光分子を選択的に2光子励起して蛍光観察する本発明の2光子励起蛍光観察方法は、広帯域パルスレーザー光源の全波長帯域において第二高調波の光強度が最も高くなる第1の位相関数と、第二高調波の光強度が最も小さくなる第2の位相関数とを取得する工程と、広帯域パルスレーザー光源から発生されたレーザー光のスペクトル位相を、第1の蛍光分子の2光子吸収断面積が大きな波長帯域には第1の位相関数を適用し、第2の蛍光分子の2光子吸収断面積が大きな波長帯域には第2の位相関数を適用して得られた位相関数で変調する工程と、スペクトル位相が変調されたレーザー光を試料に照射する工程と、試料から発生される蛍光を検出する工程とを有する。
【0016】
また、第1の蛍光分子と第2の蛍光分子を同時に2光子励起して蛍光観察する本発明の2光子励起蛍光観察方法は、広帯域パルスレーザー光源の全波長帯域において第二高調波の光強度が最も高くなる第1の位相関数と、第二高調波の光強度が最も小さくなる第2の位相関数とを取得する工程と、広帯域パルスレーザー光源から発生されたレーザー光のスペクトル位相を、第1の蛍光分子の2光子吸収断面積が大きな波長帯域には第1の位相関数に第2の位相関数を第1の割合で加算した位相関数を適用し、第2の蛍光分子の2光子吸収断面積が大きな波長帯域には第1の位相関数に第2の位相関数を第2の割合で加算した位相関数を適用し、かつ第1の波長帯域に適用する位相関数と第2の波長帯域に適用する位相関数の一方に群遅延時間をもたらす位相を加えて得られた位相関数で変調する工程と、スペクトル位相が変調されたレーザー光を試料に照射する工程と、試料から発生される蛍光を検出する工程とを有する。
【0017】
このとき、第1の波長帯域に適用する位相関数と第2の波長帯域に適用する位相関数の一方に群遅延時間をもたらす位相を加える。また、第1の割合及び/又は第2の割合を調整することにより第1の蛍光分子と第2の蛍光分子から発生する2光子励起蛍光強度を独立に制御することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、選択的励起だけでなく、各々の2光子励起蛍光強度も独立に制御した同時励起が可能となる。これまでマルチカラーイメージングでは、試料作成時において生じる複数種類の蛍光分子濃度差による発光強度の差が問題となっていたが、この問題も本発明により解決できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
狭帯域パルスに比較して、広帯域パルスは、選択的励起と複数の蛍光分子の2光子励起蛍光強度を独立に制御した同時励起とを迅速かつ簡易に切り替えできる可能性を有する。中間共鳴準位がないと仮定すると、2光子励起蛍光強度IFは、蛍光分子の2光子励起スペクトル(または2光子吸収断面積)g(2)(ω)と励起光パルスの第二高調波スペクトル|E(2)(ω)|2の積で表される。
【0021】
【数1】
JP0005137026B2_000002t.gif

【0022】
ここで、ωは角周波数、E(ω)及びφ(ω)は、それぞれ励起パルスのスペクトル振幅及びスペクトル位相である。第二高調波のパワースペクトル|E(2)(ω)|2は、基本波スペクトル|E(ω)|2やスペクトル位相φ(ω)を変調することにより整形することが可能である。
【0023】
本発明による蛍光分子の選択的励起、蛍光強度を制御した同時励起のための位相変調関数の作成方法について説明する。本発明では、全ての周波数において第二高調波の光強度が最も高くなる位相関数φc(ω)と、全ての周波数で第二高調波の強度が最も低くなる位相関数φd(ω)を用い、2種類の位相関数φc(ω)とφd(ω)を組み合わせて、スペクトル位相を変調する位相関数を作成する。第二高調波の光強度が最も高くなる位相関数φc(ω)は、フーリエ変換限界パルスのスペクトル位相、すなわち全ての周波数においてφ(ω)=0である。このとき、パルス幅は最も短く、第二高調波の強度が最も高い。
【0024】
2種類の蛍光分子1,2のうち蛍光分子1を選択的に励起する場合、次式のように、励起したい蛍光分子1の2光子吸収断面積が大きな周波数帯域R1には位相関数φc(ω)を用い、蛍光を抑制したい蛍光分子2の2光子吸収断面積が大きな周波数帯域R2には位相関数φd(ω)を用いる。位相関数φc(ω)が適用された周波数帯域では2光子励起が促進されて強い2光子励起蛍光が発生し、逆に位相関数φd(ω)が適用された周波数帯域では2光子励起が抑制されて2光子励起蛍光が発生しにくくなる。本発明によれば、このようにスペクトル領域を分割する最適周波数を決定するだけで、高コントラストな選択的励起を行うことができる。
【0025】
【数2】
JP0005137026B2_000003t.gif

【0026】
このとき、周波数帯域R1かR2の一方に用いる位相関数に、群遅延時間をもたらす位相φ’(ω-ω0)を与えることにより、周波数帯域R1とR2で構成されるパルスを独立に扱うことを可能とする。すなわち、群遅延を与えることにより、励起パルスを構成している周波数帯域R1の周波数と周波数帯域R2の周波数は、蛍光分子と個別に相互作用する。さらに、位相関数φc(ω)に0から1の割合で位相関数φd(ω)を加算した位相関数を与え、その割合αとβ(0≦α,β≦1)を周波数帯域R1とR2で各々調整することにより、2種類の蛍光分子から発生する2光子励起蛍光強度を独立かつ任意に制御することができる。
【0027】
【数3】
JP0005137026B2_000004t.gif

【0028】
このように、群遅延及び2種類の位相関数の加算割合のパラメータにより、2種類の蛍光分子の2光子励起蛍光強度を独立に制御することができる。スペクトル領域の分割数を増し、群遅延を導入することにより、この方法は3種類以上の蛍光分子に対しても容易に拡張することができる。
【0029】
例えば、3種類の蛍光分子1,2,3が存在するとき、そのうちの蛍光分子1のみを選択的に励起する場合には、励起したい蛍光分子1の2光子吸収断面積が大きな周波数帯域R1には位相関数φc(ω)を用い、蛍光を抑制したい蛍光分子2と蛍光分子3の2光子吸収断面積が大きな周波数帯域R2,R3には位相関数φd(ω)を用いることにより、蛍光分子1だけを選択的に励起することができる。
【0030】
【数4】
JP0005137026B2_000005t.gif

【0031】
また、3種類の蛍光分子の蛍光強度を任意に調節して同時励起するには、次のようにすればよい。すなわち、次式のように、蛍光分子1,2,3の2光子吸収断面積が大きな周波数帯域R1,R2,R3に対して、それぞれ位相関数φc(ω)に0から1の割合で位相関数φd(ω)を加算した位相関数を与え、その割合α,β,γ(0≦α,β,γ≦1)を周波数帯域R1,R2,R3で各々調整すると共に、群遅延時間をもたらす位相φ1’(ω-ω0),φ2’(ω-ω0)を2つの周波数帯域の位相関数に付加し、遅延時間を異なる値に設定する。
【0032】
【数5】
JP0005137026B2_000006t.gif

【0033】
次に、最も第二高調波光強度が高くなる位相関数φc(ω)と最も低くなる位相関数φd(ω)の取得方法について説明する。位相関数φc(ω)及びφd(ω)は、以下の2つの方法のいずれかによって決定することができる。
【0034】
(1)試料の代わりに非線形光学結晶を用い、最も第二高調波光強度が高く、または低くなるようにスペクトル位相の最適制御(焼きなまし法、遺伝的アルゴリズム)を行い、それぞれ位相関数φc(ω)とφd(ω)を取得する。
(2)最も第二高調波光強度が高くなるのは、全ての周波数成分で位相がそろったフーリエ変換限界パルスである。パルス測定技術(FROG:Frequency Resolved Optical Gating, R.Trebino et al., J Opt. Soc. Am 10, 1101 (1993) SPIDER:Spectral Interferometry for Direct Electric Field Reconstruction, C. Iaconis et al., Opt. Lett. 23, 79 (1998)など)により、試料位置における光パルスのスペクトル位相φp(ω)を測定し、それを打ち消すような位相(-φp(ω))を与えてフーリエ変換限界パルスを発生させる(最も第二高調波光強度が高い)。このとき測定光路中に配置した位相変調器により与えた位相関数がφc(ω)=-φp(ω)である。また、第二高調波光強度を低くするには、パルス幅を長くするような位相関数を与えればよく、φd(ω)=D2(ω-ω0)2/2 がひとつの位相関数である。D2,ω0は群遅延分散、特定周波数(何でもよい)である。D2が大きいほどパルス幅が長く、第二高調波強度が小さくなる。位相変調が可能な最大のD2は光路中に挿入される位相変調素子のピクセル数で制限され、ピクセル数が多いほどD2は大きくできる。ピクセル数が少ない場合には、D2は大きくできないため、この設計した関数より、(1)の方法によって最適制御により位相関数φd(ω)を取得した法が良い場合がある。
【0035】
次に、実施例により、本発明を詳細に説明する。本実施例では、試料として、蛍光タンパク質Azuriteで核を、EGFPで細胞質を標識したHeLa細胞を用いた。図4は、AzuriteとEGFPの2光子励起スペクトルを示す図である。
【0036】
図1は、本発明による2光子励起蛍光観察装置の構成例を示す模式図である。広帯域パルスレーザー光源11には、繰り返し周波数80MHz、パルス幅8フェムト秒以下でパルス発光するチタンサファイアレーザーを用いた。図2は、チタンサファイアレーザーの発光スペクトルを示し、700nmから1040nmの範囲に広がっている。なお、光源は660nmから1100nmであるが、スペクル位相変調におけるスペクトル分解能を向上させるために、空間位相変調器でスペクトル帯域幅を制限している。空間位相変調器のピクセル数と分光素子と集光素子の焦点距離の関係からスペクル位相変調におけるスペクトル分解能が決まる。レーザー光源11から射出された光パルスはプリズム対12、チャープミラー対13を通ってパルス整形器14に入射され、パルス整形器14内の空間光変調器27によりスペクトルが位相変調される。位相変調された光パルスは、顕微鏡15へ導入される。プリズム対12とチャープミラー対13は、光学部品の分散を補償するためのものである。
【0037】
パルス整形器14は、プリズムや回折格子などの分光素子、集光レンズや凹面鏡などの集光素子、及び空間光変調器27を備える。図1の例では、分光素子としての一対の回折格子21,22、集光素子として対向配置された一対の凹面鏡25,26を備える。第1の回折格子21は第1の凹面鏡25の焦点に設置され、第2の回折格子22は第2の凹面鏡26の焦点に設置されている。パルス整形器14に入射したレーザー光は第1の回折格子21に入射して分光される。分光されたレーザー光は、ミラー23によって反射されて第1の凹面鏡25に入射し、そこで反射されて平行光となり、空間光変調器27に入射する。空間光変調器27を通って波長毎に位相変調された平行レーザー光は、第2の凹面鏡26及びミラー24で反射されて、第2の回折格子22上に集光される。第2の回折格子22で反射されたレーザー光は、パルス整形器14への入射時と逆の過程を経て1本の細いビームとなり、後段の顕微鏡15に入射する。
【0038】
図1の顕微鏡は、蛍光分子が2種類の場合の構成例を示している。顕微鏡15に入射したレーザー光は、対物レンズ31により試料容器32中の試料に集光され、2光子励起過程で試料中の蛍光分子から蛍光を発生させる。試料容器32を通ったレーザー光はショートパスフィルター33によって励起光が除去されたのち、ダイクロイックビームスプリッター34によって2つの光路に分割される。一方の光路のレーザー光は、第1のバンドパスフィルター35を通った後、光電子増倍管37で検出される。他方の光路のレーザー光は、第2のバンドパスフィルター36を通り、光電子増倍管38で検出される。試料容器32はステージ上に保持されており、ステージはステージ駆動部39により入射光に対して垂直方向に2次元移動することができる。第1のバンドパスフィルター35としては、Azuriteの2光子励起蛍光を透過するように中心波長447nm、半値全幅60nmのものを用いた。また第2のバンドパスフィルター38は、EGFPの2光子励起蛍光を透過するように、中心波長520nm、半値全幅35nmのものを用いた。
【0039】
図3は、空間光変調器27の模式図である。空間光変調器27は、スペクトル分散方向に並べて一次元アレイ状に配列された多数の位相変調素子28を備え、各位相変調素子28はそこを通過する光の位相を互いに独立して変調することができる。パルス整形器14に入射した光パルスは第1の回折格子21によって分光され、空間光変調器27の各素子位置はスペクトルを構成する各波長に対応する。すなわち、空間光変調器27の各位相変調素子28は、光パルスの対応する波長成分の位相を相互に独立して変調することができる。空間光変調器27の素子数は多ければ多いほど精密な制御を行うことができる。本実施例では、素子数を128とし、1つの位相変調素子28によって変調される波長範囲を約3nmとした。本実施例では位相変調素子として液晶を利用した素子を用いたが、液晶以外に、変形ミラーを用いて位相を変調する素子、音響光学効果を利用して位相変調を行う素子、電気光学効果を用いて位相を変調する素子など、種々のタイプのものを用いることができる。
【0040】
顕微鏡15の2つの光電子増倍管37,38の出力信号は制御部16の画像処理ユニット43に入力される。また、パルス整形器14の空間光変調器27は、制御部16の駆動制御ユニット41からの制御信号によって駆動される。さらに、ステージ駆動部39は、試料中の観察対象物が光ビームによって走査されるように、制御部16の駆動制御ユニット41からの制御信号によってステージを2次元駆動する。画像処理ユニット43によって生成された画像は表示部18に表示される。また、位相関数φc(ω)とφd(ω)は制御部16のメモリ42に記憶されており、駆動制御ユニット41は入力部17から入力された条件に従って2つの位相関数φc(ω),φd(ω)から合成した位相関数を生成し、その合成位相関数によって空間光変調器27を制御する。
【0041】
最初に、光源が有する全周波数帯域において励起エネルギーが最も大きくなる位相関数φc(ω)と最も小さくなる位相関数φd(ω)を取得した。ここでは、上記(1)の方法によって2つの位相関数を取得した。具体的には、試料の代わりに非線形光学結晶である厚さ10μmのBBO(β-barium borate)結晶を用い、結晶から発生する第二高調波(SH)の信号が最も大きくなるように、または最も小さくなるように空間変調器27の各位相変調素子28に対して適応制御を行い、位相関数φc(ω)とφd(ω)を取得した。ここで位相関数φc(ω)の取得に当たり、試料内部のレーザー集光点においてφ(ω)=0を達成するには、光学素子の分散を補償する必要がある。分散補償素子には、プリズム対、回折格子対、位相変調素子を用いたスペクトル位相変調器がある。広帯域パルスを用いた場合には、高次の分散が大きく影響するため、完全に分散を補償するためにはスペクトル位相変調器による調整が必要となる。すなわちスペクトル位相変調器により、φ(ω)=0となる変調関数を与える必要がある。
【0042】
図5に、取得した位相関数φc(ω)とφd(ω)を示す。また、このとき発生したSHスペクトルを、図6のグラフに示す。図6のスペクトル61はスペクトル位相を位相関数φc(ω)で変調したときのSHスペクトル、スペクトル62はスペクトル位相を位相関数φd(ω)で変調したときのSHスペクトルである。ただし、位相関数φc(ω)はフーリエ限界パルスとなることから、図5では、位相関数φc(ω)のグラフは位相を全て0とし、位相関数φd(ω)のグラフは得られた位相関数φc(ω)と位相関数φd(ω)の差として表している。図6のスペクトル61に示されるように、空間光変調器27に位相関数φc(ω)を設定すると、全波長帯域において強め合う干渉によりSH強度が最も高くなる。また、空間光変調器27に位相関数φd(ω)を設定すると、スペクトル62に示されるように、全波長帯域において弱め合う干渉によりSH強度が最も低くなっている。 取得した位相関数φc(ω)とφd(ω)は制御部16のメモリ42に格納する。
【0043】
次に、選択的励起について説明する。図5に示した位相関数φc(ω)と位相関数φd(ω)を組み合わせて、短波長側あるいは長波長側のみに励起エネルギーを集中するような位相変調を行った。2光子励起スペクトルでEGFPとAzuriteは、それぞれ基本波の波長920nmと760nmにピークを有する(図4参照)。これらの波長はレーザースペクトル中で長波長と短波長に対応するため、スペクトル領域を波長λdより長波長と波長λdより短
波長の2つの波長帯域に分割した。波長λdとして、EGFPとAzuriteの2光子励起スペクトルにおいて、両者のピークを与える波長の間にあり、強度が同程度となるような波長を選択した。図4を見るとその波長は約410nmであり、基本波の波長で考えるとその2倍の820nmとなる。分割波長を波長820nmとしたとき、EGFP/Azurite及びAzurite/EGFPに対して2光子励起蛍光強度のコントラスト比は、それぞれ21:1及び1:5.6となった。このとき、EGFP及びAzuriteの2光子励起蛍光強度は、フーリエ変換限界パルスに対する2光子励起蛍光強度の0.42倍及び0.29倍であり、バイオイメージングにとって十分な強度であった。このEGFP/Azurite及びAzurite/EGFPに対するコントラスト比の積は100を超えている。
【0044】
図6に示したグラフ63は、図7(a)に示すように、820nm以上の長波長帯域では位相関数φd(ω)を、820nm以下の短波長帯域では位相関数φc(ω)を用いた場合のSHスペクトルを示している。ここで、図7の横軸のピクセル番号は空間光変調器27のピクセル番号を表し、番号が小さいピクセルほど短波長に、番号が大きいピクセルほど長波長に対応する。また、図6に示したグラフ64は、図7(b)に示すように、820nm以上の長波長帯域では位相関数φc(ω)を、820nm以下の短波長帯域では位相関数φd(ω)を用いた場合のSHスペクトルを示している。それぞれ励起エネルギーが特定の波長帯域に集中し、他の波長帯域では励起エネルギーが十分小さいことがわかる。これらのSHスペクトルとなる位相変調は、AzuriteとEGFPの選択的励起に応用可能である。
【0045】
このように、2つの波長帯域で2種類の位相関数を切り替えて適用するに当たっては、入力部17から2つの波長帯域の境界の波長値及びどの波長帯域にどの位相関数を適用するかの情報を入力する。制御部16の駆動制御ユニット41は、その入力を受けてメモリ42から読み出した2つの位相関数φc(ω),φd(ω)を境界波長でつなぎ合わせた合成位相関数を発生し、その合成位相関数によってパルス整形器14の空間光変調器27を制御し、試料に入射する光パルスのスペクトルの各波長に所望の位相変調を与える。
【0046】
蛍光タンパク質Azuriteで核を、EGFPで細胞質を標識したHeLa細胞の2光子励起蛍光イメージングを行った。集光点近部のみで発生した2光子励起蛍光を光電子増倍管37,38により測定した。このとき、ショートパスフィルター33を用いて励起光を除去するとともに、中心波長447nm、半値全幅60nmのバンドパスフィルター35、及び中心波長520nm、半値全幅35nmのバンドパスフィルター36を用いて、AzuriteとEGFPを蛍光波長ごとに測定した。ステージに固定された試料をステージ移動して2次元走査することにより、2チャンネルで同時に2光子励起蛍光像を取得した。
【0047】
図8(a)にAzuriteを選択的に励起した場合、図8(b)にEGFPを選択的に励起した場合の2光子励起蛍光像を示す。Azuriteの選択的励起に当たっては、図7(a)に示した位相関数を用いた。また、EGFPの選択的励起に当たっては、図7(b)に示した位相関数を用いた。図8(a)にはAzuriteに起因する青色の蛍光像が強く見えているものの、EGFPに起因する緑色の蛍光像がほとんど見えず、また、図8(b)には、Azuriteに起因する青色の蛍光像がほとんどみられず、逆にEGFPに起因する緑色の蛍光像が強く見えており、それぞれ、一方の蛍光像のみが選択的に得られていることがわかる。
【0048】
次に、蛍光強度の制御について説明する。AzuriteとEGFPの蛍光強度を独立に制御するような位相変調を行った。820nm以下の波長帯域に群遅延時間100fsに相当する位相変調を行い、さらに位相関数φc(ω)に位相関数φd(ω)を、820nm以下の波長帯域と820nmを超える波長帯域で、それぞれ任意の割合で加算した位相関数を用いた。すなわち、上記式(4)において、R1を820nm以下の波長帯域、R2を820nmを超える波長帯域とし、加算割合αとβ(0≦α,β≦1)を変化させた位相関数を空間光変調器に設定し、蛍光観察した。空間光変調器に設定した位相関数を図9に示す。
【0049】
図10~12に、加算割合α,βを変化させることにより得られた2光子励起蛍光像を示す。図中の(x,y)は820nm以下の波長帯域に設定した位相関数のαの値と、820nm以上の波長帯域に設定した位相関数のβの値を表している。図10はAzuriteの蛍光強度のみを制御した場合の2光子励起蛍光像、図11はEGFPの蛍光強度のみを制御した場合の2光子励起蛍光像、図12はAzuriteとEGFPの蛍光強度をそれぞれ同時に制御した場合の2光子励起蛍光像である。各図の上段は図1の光電子増倍管37で検出したAzuriteに対応する2光子励起蛍光像、中段は光電子増倍管38で検出したEGFPに対応する2光子励起蛍光像、下段は両者を重ね合わせた像である。
【0050】
φc(ω)に対するφd(ω)の加算割合を2つの波長帯域において変化させることにより、AzuriteとEGFPの蛍光強度を独立に制御できていることがわかる。標識された分子の濃度差により、一方の蛍光強度が強すぎる場合においても本発明により、同程度の蛍光強度でイメージングを行うことが可能となる。このように、本発明の位相変調法を用いれば、単一の光源のみで複数種類の蛍光分子の2光子励起蛍光強度を独立かつ任意に制御可能となり、試料作成における複数種類の蛍光分子の濃度差を制御する必要が軽減される。また、空間光変調器27に設定する位相関数を入れ替えることにより、選択的励起と同時励起を瞬時に切り替えながら観察を続けることが可能になる。
【0051】
上記実施例では、2種類の蛍光分子としてAzuriteとEGFPを用いたため、2つの波長帯域の境界波長を820nmとした。他の蛍光分子の場合には、その蛍光分子の2光子励起スペクトルを参照して境界波長を決める必要があるのは勿論である。また、本実施例に示した顕微鏡やその他の光学系の構成や蛍光像の取得の仕方は単なる一例であり、本実施例に示したものに限られない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明による2光子励起蛍光観察装置の構成例を示す模式図。
【図2】チタンサファイアレーザーの発光スペクトルを示す図。
【図3】空間光変調器の模式図。
【図4】Azurite及びEGFPの2光子励起スペクトルを示す図。
【図5】位相関数φc(ω),φd(ω)を示す図。
【図6】位相関数を変えて得られるSHスペクトルの図。
【図7】空間光変調器に設定した位相関数の例を示す図。
【図8】選択的に励起された2光子励起蛍光像の例を示す図。
【図9】空間光変調器に設定した位相関数の例を示す図。
【図10】Azuriteの蛍光強度のみを制御した場合の2光子励起蛍光像を示す図。
【図11】EGFPの蛍光強度のみを制御した場合の2光子励起蛍光像を示す図。
【図12】AzuriteとEGFPの蛍光強度をそれぞれ同時に制御した場合の2光子励起蛍光像を示す図。
【符号の説明】
【0053】
11:広帯域パルスレーザー光源
12:プリズム対
13:チャープミラー対
14:パルス整形器
15:顕微鏡
16:制御部
17:入力部
18:表示部
21,22:回折格子
23,24:ミラー
25,26:凹面鏡
27:空間光変調器
28:位相変調素子
31:対物レンズ
32:試料容器
33:ショートパスフィルター
34:ビームスプリッター
35,36:バンドパスフィルター
37,38:光電子増倍管
39:ステージ駆動部
41:駆動制御ユニット
42:メモリ
43:画像処理ユニット
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11