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明細書 :液晶素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5093779号 (P5093779)
公開番号 特開2010-008911 (P2010-008911A)
登録日 平成24年9月28日(2012.9.28)
発行日 平成24年12月12日(2012.12.12)
公開日 平成22年1月14日(2010.1.14)
発明の名称または考案の名称 液晶素子
国際特許分類 G02F   1/139       (2006.01)
FI G02F 1/139
請求項の数または発明の数 2
全頁数 12
出願番号 特願2008-170783 (P2008-170783)
出願日 平成20年6月30日(2008.6.30)
審査請求日 平成23年6月24日(2011.6.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】803000115
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
発明者または考案者 【氏名】高頭 孝毅
【氏名】穐本 光弘
【氏名】河島 康二
【氏名】金子 裕臣
個別代理人の代理人 【識別番号】100094547、【弁理士】、【氏名又は名称】岩根 正敏
審査官 【審査官】佐藤 洋允
参考文献・文献 特開2007-293278(JP,A)
特開2007-193362(JP,A)
特開昭57-10116(JP,A)
特開平2-82225(JP,A)
調査した分野 G02F1/137-1/141
G02F1/13
G02F1/133
特許請求の範囲 【請求項1】
略平行に配置され少なくとも一方が透明な1組の基板と、それぞれの基板の内側に配設された1組の配向膜と、上記1組の配向膜の間に充填された液晶材料を備え、上記配向膜の表面に上記液晶材料中の液晶分子が同一方向に向くように配向処理が施され、両配向膜に施された配向処理の方向のなす角が70度から110度である液晶素子であって、上記1組の配向膜の配向処理の方向の組み合わせでユニフォームツイスト構造を形成するときの液晶分子の捩じれ方向に対して反対方向の捩じれ方向を与える螺旋ピッチを有する光学活性物質を上記液晶材料が含有し、上記液晶分子がユニフォームツイスト構造を形成する液晶素子において、上記配向膜に対する上記液晶分子のプレチルト角が10度以上かつ電場無印加時にダブルツイスト構造を形成する角度θph以下であることと、上記螺線ピッチpと液晶層の厚みdの比が2<p/d<12であることを特徴とする液晶素子。
【請求項2】
上記液晶材料の屈折率異方性をΔn とするとき、上記液晶層の厚みdとの積Δn ×dの値が0.5μmより大きく3μm以下の値であることを特徴とする、請求項1に記載の液晶素子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶素子に関するもので、特にリバースTN液晶素子の低電圧化、安定化、視野角依存性に関する発明である。
なお、この明細書では、両配向膜の配向処理の方向の組み合わせでユニフォームツイスト構造を形成するときの液晶分子の捩じれ方向に対して反対方向の捩じれ方向を与える螺旋ピッチを有する光学活性物質を上記液晶材料が含有し、その液晶分子がユニフォームツイスト構造を形成するTN液晶を、リバースTN液晶と呼ぶ。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は、ディスプレイとして急速にその市場を拡大している。液晶ディスプレイは、解像度で他のディスプレイ方式に比べて優位であり、従来問題となっていたコントラストや色再現性の視野角依存性・コントラストの問題は解決され、現在は、応答速度(特に低温の応答速度)と、駆動電圧の低減化が特に改善すべき問題点として残っている。
【0003】
TN液晶に対しても、上記2つの問題点を改善することが強く望まれている。もちろん、これらの点を改善した際に、例えば、透過型TN液晶素子に特有の問題として、後述するように、正面からの透過率が暗くなるというような副次的悪影響が生じる場合には、それを避けるための方策も講じる必要がある。
【0004】
特許文献1には、配向膜間に配置されてキラルネマティック液晶材料を有し、2つの配向膜間に誘発された90度未満の捩じれと、液晶材料の捩じれ方向が反対方向を向いている液晶素子が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、両配向膜に施された配向処理の方向のなす角が約90度である液晶素子であって、配向膜の配向処理の方向の組み合わせでユニフォームツイスト構造を形成するときの液晶分子の捩じれ方向に対して反対方向の捩じれ方向を与える螺旋ピッチを有する光学活性物質を液晶材料が含有し、上記液晶分子がユニフォームツイスト構造を形成する液晶素子が開示されている。
【0006】
さらに、本願発明者等が先に学会発表を行った非特許文献1~3がある。
【0007】

【特許文献1】特開2000-199903号公報
【特許文献2】特開2007-293278号公報
【非特許文献1】K.Takatoh, T. Kaneko, T.Uesugi, S. Kobayashi, Proceeding of IDW2007, 421(2007)
【非特許文献2】高頭、金子、上杉、小林 日本液晶学会討論会 講演予稿集 3pA03
【非特許文献3】高頭 液晶ディスプレイの高速・高画質・広視野角化技術、10ページ、技術情報協会(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されている方法では、低電圧化の程度は極めて限られている。最も大きな効果を示す値でも、飽和電圧が3Vに対して2.5V程度である。
特許文献2の液晶素子は、不安定であり電圧無印加状態では数分でスプレイツイスト構造に戻るという問題点が発見された。1度使用をやめた後に、次に使用をはじめる場合には、電場を再度印加して全体をTN構造にする必要がある。すなわち、特許文献2の液晶素子は、大きな低電圧化駆動の可能性を示すが、安定性は低い。
そこで、本発明は、低電圧化の程度が大きく、かつ、安定性にすぐれた液晶素子を提案することを第1の課題とする。
【0009】
また、通常の液晶素子設計のガイドライン(例えば、非特許文献3に記載されている)に沿って設計するだけでは、正面からみた透過率が低くなるという透過型TN液晶素子に特有の問題点が生じる場合がある。
そこで、本発明は、そのような問題点を解決するための方策を提案することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記第1の課題は、請求項1の発明により解決された。
すなわち、略平行に配置され少なくとも一方が透明な1組の基板と、それぞれの基板の内側に配設された1組の配向膜と、上記1組の配向膜の間に充填された液晶材料を備え、上記配向膜の表面に上記液晶材料中の液晶分子が同一方向に向くように配向処理が施され、両配向膜に施された配向処理の方向のなす角が70度から110度である液晶素子であって、上記1組の配向膜の配向処理の方向の組み合わせでユニフォームツイスト構造を形成するときの液晶分子の捩じれ方向に対して反対方向の捩じれ方向を与える螺旋ピッチを有する光学活性物質を上記液晶材料が含有し、上記液晶分子がユニフォームツイスト構造を形成する液晶素子において、上記配向膜に対する上記液晶分子のプレチルト角が10度以上かつ電場無印加時にダブルツイスト構造を形成する角度θph以下であることと、上記螺線ピッチpと液晶層の厚みdの比が2<p/d<12であることを特徴とする液晶素子によって解決された。
【0011】
また、上記第2の課題は、請求項2の発明により解決された。
すなわち、上記請求項1の発明に係る液晶素子において、上記液晶材料の屈折率異方性をΔn とするとき、上記液晶層の厚みdとの積Δn ×dの値が0.5μmより大きく3μm以下の値であり、好ましくは0.75μm以上1.5μm以下、さらに望ましくは0.8μm以上1.2μm以下であることを特徴とする液晶素子によって解決された。
【0012】
配向膜に垂直な方向(この明細書では、この方向を軸方向と呼ぶ)に垂直な面に対する角度を、この明細書では極角( azimuth角)という。配向膜と平行なとき極角はゼロ、軸方向に平行なとき極角は90度または-90度である。
【0013】
図1は、リバースTN液晶の中での液晶分子1の配列を示す。両側の配向膜2,3の配向方向は90度をなし(下の配向膜2は4時の方向、上の配向膜3は1時の方向)、液晶分子は両方の配向膜に接する部分で、その配向膜の配向方向と軸方向4を含む面内で配向膜に対してあるプレチルト角で立ち上がる。中間の領域では、液晶分子の極角を余り変えないで(正確には、後述するように、中間の領域では液晶分子の極角はやや軸方向4に近づく)、配向方向を90度旋回させる。
【0014】
図2は、スプレイ構造の配列を示している。両配向膜2,3に接する領域でのプレチルト角の方向が等しく、中間の領域では、液晶分子1の極角がゼロになるように変化する。すなわち、一旦軸方向に対して直角の方向になる。この結果、液晶分子の配向方向が扇形に分布するスプレイ構造を形成している。
【0015】
図3は、スプレイツイスト構造の配列を示す。スプレイツイスト構造とは、スプレイ構造と、上下基板間で90度捩じれるツイスト構造が組み合わさった構造である。
【0016】
本願の発明者等は、安定なリバースTN液晶が得られるプレチルト角を求めて、低プレチルト角を実現する配向膜材料と、高プレチルト角を実現する配向膜材料との混合比を種々変えて混合することで、数々のプレチルト角を示す配向膜を作製し、リバースTN構造の液晶の安定性を調べた。
その結果、プレチルト角が10度の配向膜を用いた場合、少なくとも1分以上の間、リバースTN液晶が安定に持続させ得ることが確認された。
【0017】
他方、プレチルト角の上限について、本願の発明者等は、プレチルト角とリバースTN構造の安定性を調べた。
その結果、プレチルト角が一定の角度θph以上になると、リバースTN構造が実現されなくなることが分かった。これは予想外の結果であった。
【0018】
スプレイ構造あるいはスプレイツイスト構造において、プレチルト角が大きくなると、スプレイ構造はより圧縮された構造となる。すなわち、ギブスのフリーエネルギーが高くなり、これらの構造は不安定になる。一方、リバースTN液晶が不安定であるのは、リバースTN液晶がスプレイツイスト液晶に転移するためである。従って、プレチルト角を大きくすると、リバースTN液晶が相対的に安定になる、すなわち、安定なリバースTN液晶が得られると予想していたからである。
【0019】
しかし、実験結果が、上記のように予想に反するものとなった理由は、プレチルト角が高くなった場合、スプレイツイスト構造とは別の構造である、(図4に示す)右回りと左回りが共存する、ダブルツイスト構造が形成されるためと推定している。
【0020】
図4に示すダブルツイスト構造は、プレチルト角が10度程度の場合でも、飽和電圧に近い電場を印加すると形成されることが判っている(非特許文献1,2)。このような構造をとる場合、駆動電圧が大きく増加し、低電圧化を図るという本発明の目的を達成することができない。
【0021】
図5は、図4のダブルツイスト構造における、液晶分子の極角を配向膜からの距離の関数として示したものである。図から分かるように、極角は配向膜の近傍で一旦逆方向に曲がり、中間領域で反転し、さらに他方の配向膜の近傍で一旦行過ぎてから戻るという、複雑な極角分布を伴う。これは、ストレスエネルギーを、複雑な捩れでエネルギーで吸収するためであると説明できる。
【0022】
プレチルト角が10度程度の場合、電圧無印加時ではこのような構造は生じない。しかし、プレチルト角を大きくすることは、大きな印加電圧を印加することと同様の効果を持つため、電圧無印加時でも図4のようなダブルツイスト構造が形成されると考えられる。
【0023】
このような構造が生じることがあるため、安定なリバースTN液晶素子を作るためには、プレチルト角に上限があることが分かった。すなわち、プレチルト角は、所定の角θph以下であることが必要である。ここで、所定角θphは、電圧を印加してもリバースTN液晶構造を維持し、他の構造が形成されない最大角度である。これは、液晶材料、液晶素子の弾性率、および(後述する)p/dの値で変わる。
【0024】
リバースTN液晶において、液晶層の厚みをd、液晶材料の螺旋ピッチをpとするとき、p/dの値は重要な指標である。例えば、p=5μm、d=5μmであれば、p/d=1となり、360度の螺旋構造となる。p=15μm、d=5μmの場合はp/d=3となり、液晶層内で1/3ピッチが形成される。すなわち120度捩じれた構造となる。p=10μm、d=5μmの場合はp/d=2となり、180度捩じれた構造となる。p/d=10の場合、36度捩じれた構造になる。
【0025】
リバースTN液晶では、上下配向膜のプレチルト角の組み合わせで決まる捩じれ方向と、液晶材料の捩じれ方向が逆になっており、かつスプレイツイスト構造ではなく、ユニフォームツイスト構造となっている。すなわち、リバースTN構造では、液晶材料は液晶材料本来の螺旋構造とは逆の向きに捩じれている。その結果、液晶材料内でストレスが発生している。これ故、リバースTN液晶では、p/dの値が大きいほど、液晶材料内部のストレスが小さく安定である。しかし、低電圧化の程度は小さくなる。p/d=12より大きい場合、低電圧化の効果が現れないので、リバースTN構造を形成する価値はほとんどなくなる。
【0026】
一方、p/dが小さい場合、低電圧化の効果が顕著になるが、リバースTNの構造が不安定になる。プレチルト角が10度からθphの場合、p/dが2以下のとき、リバースTN液晶は1分以内にスプレイツイスト構造に戻る。このように非常に不安定な構造となる。このため、p/dは2以上であることが必要である。
【0027】
図6は、同じ条件でピッチpだけを変化させたときの飽和電圧(透過率が飽和する印加電圧)の変化をプロットした図である。図から分かるように、ピッチpが大きい領域では、pが小さくなるに従って直線的に飽和電圧が下がる。しかし、ピッチpがある限界値より小さくなると、グラフは折れ曲がり、飽和電圧が急激に低下する。本発明は、この限界値より小さいピッチpで、リバースTN液晶を作成することを推奨するものである。
なお、特許文書1の液晶は、このグラフでは、右の部分のピッチpが大きい領域の液晶に関するものである。
【0028】
一般にTN素子は、電圧無印加時の透過率を最大にとるために、液晶材料の屈折率異方性をΔn、液晶の厚みをdとするとき Δn×d=0.5μmとして設計する(例えば、非特許文献3)。工業製品として、この条件から逸脱することはない。しかしながら、本発明の液晶素子を、この条件で作製すると、正面の透過率が低下することが分かった。
【0029】
後述するように、本発明の液晶素子では、正面透過率は最大透過率の30%になり、正面から目視した場合暗くなっているのが観察される。これは本発明の場合、電圧無印加で、液晶分子が基板に対して立ち上がるため、正面からみたΔnが減少するためである。
【0030】
この問題を解決するための方法として、従来のΔn×d=0.5μmの条件ではなく、Δn×dを0.5μmより大きくすればいいことが分かった(実用上では3μm以下)。液晶材料やプレチルト角にもよるが、十分な低電圧化の効果を得る場合は、Δn×dは0.75μm以上1.5μm以下、好ましくは0.8μm以上1.2μm以下である。
【0031】
なお、Δn×dの値が0.75μmよりも小さい場合、正面の透過率が低いという問題を生じる。また、Δn×dの値が大きすぎる場合は、液晶材料は本発明の効果で電圧無印加状態で立ち上がっても、透過率の変化が現れるためには高い電圧を印加する必要が出てくるため、低電圧化の効果が十分得られなくなる。
【発明の効果】
【0032】
以上の記載から明らかなように、上記した請求項1の本発明によれば、低電圧で駆動可能なTN構造の液晶素子を実現することができる。
また、上記した請求項2の本発明によれば、低電圧で駆動可能なリバースTN構造の液晶素子の正面での透過率を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明に係る液晶素子の実施例と比較例を対比しながら、さらに本発明を詳しく説明する。
【0034】
<実施例1>
ガラス基板上に30Ω/cm2 の電気抵抗を持つ面積1×1cm2 のITO透明電極を形成した。このガラス基板上に、チッソ石油(株)製の液晶配向膜用ポリイミドPIA-X768-01Xを40重量%、同PIA-X359を60重量%混合したポリイミドの溶液を用いてスピンコーターにより3000RPMの条件でポリイミド膜を形成した。
このポリイミド膜に対して、2.5cmのローラー径で、押し込み量0.5mm、ローラー回転速度1000RPMでラビング処理を施した。このようにして作製した配向膜を、ラビング方向が図7に示す配置になるように組み合わせ、基板両端を接着剤で固定することにより液晶セルを作製した。
この液晶セルに、大日本インキ工業(株)製のRDP94808E062(ピッチ15μm:左回り)を注入した。注入直後は、スプレイツイスト構造を形成した。このセルに、60Hz矩形波10Vの電圧を10分間印加することにより、リバースTN構造を得た。得られたリバースTN液晶の透過率の印加電圧依存性を、図8に実施例1として示す。
【0035】
<比較例1>
注入する液晶材料が螺旋構造を持たない(液晶材料にカイラル剤を添加していない)液晶材料(RDP94808)であること以外は、上記実施例1記載の液晶素子と同じ構成の液晶素子を作製し、その液晶素子の透過率の印加電圧依存性を測定した。結果を図8に比較例1として示す。
【0036】
<比較例2>
上下配向膜のラビング方向を図9の方向にしたこと以外は、上記実施例1に記載の方法と同様にして作製した液晶素子の透過率の印加電圧依存性を測定した。結果を図8に比較例2として示す。
【0037】
図8から分かるように、実施例1の場合、螺旋構造を持たないRDP94808(比較例1)、右回りの同じ螺旋ピッチを持つRDP94808R062(比較例2)に比べて、閾値電圧はほぼ0Vになっており、飽和電圧(最小輝度を示す電圧)も1.2Vと、比較例1,2の液晶セルに比べて極めて低くなった。このリバースTN液晶は、電圧無印加状態で5分間安定に存在し、その後、スプレイツイスト構造に変化した。
【0038】
比較例1の場合、閾値電圧0.9V、飽和電圧2.7Vと、実施例1の結果に比べて高い値を示した。比較例2の場合、閾値電圧2.0V、飽和電圧5.0Vと、実施例1に対して高い値を示した。
【0039】
<比較例3>
使用する配向膜をポリイミドPIA-X768-01X、50%、PIA-X359-01X、50%とすること以外は、上記実施例1と同様にして液晶素子を作製し、透過率の印加電圧依存性を測定した。結果を図10に比較例3として示す。また、比較するために上記実施例1の結果を図10に示す。
【0040】
別に、比較例3の場合と同じポリイミドPIA-X768-01X、50%、PIA-X359-01X、50%の配向膜を用いて反平行(平行で向きは互いに逆)のセルを作製し、プレチルト角測定装置(米国Elsicon 社製 プレチルト角測定システム PAS-301型)によりプレチルト角を測定した。この配向膜のプレチルト角は、17度であった。
【0041】
図10によると、プレチルト角が17度である場合、その透過率の印加電圧依存性は実施例1記載のプレチルト角が13度の場合と全く異なり、閾値電圧2.0V、(図示は省略したが)飽和電圧9.0Vと、比較例1記載のカイラル剤を添加しない場合に比べても極めて高い値となった。この挙動は、通常のTN液晶・スプレイツイスト液晶では説明できない。この液晶構造は、実施例1で飽和電圧以上の透過率が増加したときに出現する状態と同じ、1つのセル内に右回り・左回りの捩じれ構造が共存している状態(図4のダブルツイスト構造)が出現したと考えられる。
【0042】
<比較例4>
使用する配向膜をポリイミドPIA-X768-0X、65%、PIA-X359-01X、35%とすること以外は、上記実施例1と同様にして液晶素子を作製し、透過率の印加電圧依存性を測定した。実施例1と同様にして作製した液晶セルに電場処理を行った。しかし、このセルはリバースTN液晶への転移は見られなかった。
【0043】
<実施例2>
用いる液晶材料をメルク社製のZLI-4792(UR019) 、螺旋ピッチ50μmとし、また用いる配向膜材料をチッソ石油化学(株)製のポリイミドPIA-X768-01X、45% PIA-X359-01X,55%(プレチルト角21度)を混合したポリイミドとすること以外は、上記実施例1と同様にして液晶素子を作製した。次に実施例1と同様の方法で電場処理を行いリバースTN液晶を作製した。プレチルト角21度のこの液晶は3時間安定に存在した。このリバースTN液晶の透過率の印加電圧依存性を図11に実施例2として示す。また、比較のために通常のTN液晶の透過率の印加電圧依存性を図11に示す。この実施例でも、低電圧化が実現されている。
【0044】
<実施例3>
実施例2では、配向膜のポリイミドの焼成温度を200度としたが、この焼成温度を220度とすること以外は、全て上記実施例2と同じ条件で液晶素子を作製し、電場処理によってリバースTN液晶素子を形成した。得られたリバースTN液晶素子は3か月間安定に存在した。このリバースTN素子の透過率の印加電圧依存性を図12に実施例3として示す。また、比較のために通常のTN液晶の透過率の印加電圧依存性を図12に示す。この実施例でも、低電圧化が実現されている。
【0045】
<比較例5>
液晶材料としてカイラル剤を添加せず螺旋構造を持たないこと以外は、上記実施例2と同様にして液晶素子を形成した。この場合p/dが小さ過ぎ、リバースTN液晶が形成されず、閾値電圧1.8V、飽和電圧4.0VとリバースTN液晶に比べていずれも高い値になった。
【0046】
<比較例6>
液晶材料として、メルク社製のZLI-4792(US093) 、螺旋ピッチ10μmを用いること以外は、上記実施例2と同様の方法で液晶素子を作製した。この場合電場を印加することによってもリバースTN液晶を形成することはできなかった。すなわち、p/dが小さ過ぎると、リバースTN液晶が形成されない。
【0047】
<比較例7>
液晶材料としてメルク社製のZLI-4792(UR012) 、螺旋ピッチ75μmを用いること以外は、上記実施例2と同様の方法で液晶素子を作製した。得られた液晶素子に実施例2と同様の方法で電圧を印加する電場処理を施した。螺旋ピッチ75μmの場合、閾値電圧の低下はほとんど見られなかった。
【0048】
<実施例4>
実施例3で作製した本発明にかかる液晶素子につき、大塚電子(株)製の液晶電気光学特性測定装置LCD5200を用いて透過率の視野角依存性を測定した。得られた結果を図13に実施例4として示す。また、比較のために高プレチルト角(20度)のTN液晶の透過率の視野角依存性を図13に示す。
【0049】
通常のTN液晶では、プレチルト角が5度以下で低いため、電圧無印加時には視野角(極角、polar angle )による透過率の変化はないが、図13では、プレチルト角が20度と大きいため、透過率の視野角依存性が見られる。しかし、正面での透過率の減少はさほど大きくない。
【0050】
それに対して、本発明の液晶素子(実施例4)では、正面透過率は最大透過率の30%になっている。図13は正面の電圧無印加時の透過率を100としているため、図からは分からないが、実際は、正面から見ると透過率が低く暗くなっている。実際上記のように正面から目視した場合暗くなっているのが観察される。これは本発明の場合、電圧無印加で、液晶分子が基板に対して立ち上がるため、正面からみたΔnが減少するためと考えられる。
【0051】
先に示した実施例1の図8は、液晶材料として屈折率異方性Δnが0.19の液晶材料RDP9408E062、液晶層の厚みを5μmとし、Δn×d=0.95μmとした場合の透過率の印加電圧依存性を、本発明の液晶素子(実施例1)、及びTN液晶素子(比較例1,2)について示したものである。
【0052】
この条件の場合、TN液晶素子では、正面での透過率は最大にはならず閾値付近でいったん透過率が上昇しコブのようになる現象が観察される。それに対して本発明の場合、このコブの部分が、ちょうど電圧無印加時の状態に相当する。すなわち、TN液晶に1.1V程度のバイアス電圧を印加した状態に相当する。このことは本発明の液晶素子が、TN液晶に約1Vのバイアス電圧を印加している(TN液晶の曲線にたいして、本発明の曲線が1V分左に移動している)ことに相当している。これ故、図13に図示する場合のように、正面からの透過率は低くならず、目視により正面から見て暗くなる現象も観察されない。
【0053】
図14は、Δn×d=0.5μmの場合の本発明の液晶素子とTN液晶素子の正面での透過率の印加電圧依存性を示すものである。なお、液晶材料はメルク社製のZLI-4792を用い、低プレチルト角(1度)のTN液晶、高プレチルト角(20度)のTN液晶、及び高プレチルト角(20度)の本発明のリバースTN液晶である。飽和電圧はTN液晶が4Vに対して、本発明の場合2V程度になっており、約半減していることが判る。
【0054】
以上、記載した実施例及び比較例に基づき、特許請求の範囲に記載した本発明に係る液晶素子を説明したが、本発明の技術的範囲は、何ら既述の実施例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】リバースTN液晶の液晶分子の配列を概念的に示した斜視図である。
【図2】スプレイ構造の液晶分子の配列を概念的に示した断面図である。
【図3】スプレイツイスト構造の液晶分子の配列を概念的に示した斜視図である。
【図4】右回りと左回りが共存するダブルツイスト構造の液晶分子の配列を概念的に示した斜視図である。
【図5】液晶分子の極角を印加電圧をパラメータとして配向膜からの距離の関数として示したグラフである。
【図6】ピッチだけを変化させたときの飽和電圧(透過率が飽和する印加電圧)の変化をプロットしたグラフである。
【図7】実施例1のラビング方向を示した図である。
【図8】実施例1、比較例1,2の液晶の透過率の印加電圧依存性を示したグラフである。
【図9】比較例2のラビング方向を示した図である。
【図10】実施例1、比較例3の液晶の透過率の印加電圧依存性を示したグラフである。
【図11】実施例2のリバースTN液晶、通常のTN液晶の透過率の印加電圧依存性を示したグラフである。
【図12】実施例3のリバースTN液晶、通常のTN液晶の透過率の印加電圧依存性を示したグラフである。
【図13】高プレチルト角のTN液晶、実施例4のリバースTN液晶の視野角に対する透過率を現したグラフである。
【図14】低プレチルト角のTN液晶、高プレチルト角のTN液晶、本発明のリバースTN液晶の透過率の印加電圧依存性を示したグラフである。
【符号の説明】
【0056】
1 液晶分子
2 下の配向膜
3 上の配向膜
4 軸方向
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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