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明細書 :OASIS遺伝子欠損マウス

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4940477号 (P4940477)
登録日 平成24年3月9日(2012.3.9)
発行日 平成24年5月30日(2012.5.30)
発明の名称または考案の名称 OASIS遺伝子欠損マウス
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
FI A01K 67/027 ZNA
C12N 15/00 A
G01N 33/15 Z
請求項の数または発明の数 3
全頁数 21
出願番号 特願2008-503737 (P2008-503737)
出願日 平成18年9月25日(2006.9.25)
国際出願番号 PCT/JP2006/319628
国際公開番号 WO2007/102240
国際公開日 平成19年9月13日(2007.9.13)
優先権出願番号 2006063197
優先日 平成18年3月8日(2006.3.8)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年9月24日(2009.9.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
発明者または考案者 【氏名】今泉 和則
【氏名】近藤 慎一
【氏名】和中 明生
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
審査官 【審査官】吉森 晃
参考文献・文献 特開2005-052016(JP,A)
Mol. Brain. Res.,1999年,Vol.69,p.93-103
Histochem. Cell Biol.,2001年,Vol.116,p.141-148
調査した分野 C12N 15/00-15/90
A01K 67/02-67/027
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
Science Direct
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
小胞体局在転写因子OASIS遺伝子が発現されないこと、四肢が変形していること、及び海綿骨の骨量が減少していることを特徴とする骨粗鬆症モデルマウスに候補薬剤を投与することを含む、骨粗鬆症の治療薬をスクリーニングする方法。
【請求項2】
小胞体局在転写因子OASIS遺伝子が発現されないこと、四肢が変形していること、及び海綿骨の骨量が減少していることを特徴とする骨粗鬆症モデルマウスに骨粗鬆症治療薬を投与することを含む、骨粗鬆症治療薬の薬効を評価する方法。
【請求項3】
小胞体局在転写因子OASIS遺伝子の機能が欠損したマウスの、骨粗鬆症モデルマウスとしての使用であって、該機能欠損マウスが、OASIS遺伝子が発現されないこと、四肢が変形していること、及び海綿骨の骨量が減少していることを特徴する、前記使用。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、OASIS遺伝子欠損マウス、より具体的には骨粗鬆症モデルマウスに関する。
本発明はまた、上記マウスを使用して骨粗鬆症の治療薬をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患や糖尿病などの多くの難治性疾患の発症に小胞体ストレスが深く関与することが明らかになってきた。本発明者らは先に、小胞体ストレスから回避するためのシグナル伝達に重要な役割を担う新規の小胞体局在転写因子であるOASIS(Old Astrocyte Specifically-Induced Substance)を見出した(特許文献1)。
OASIS蛋白質は、CREB(Cyclic AMP Response Element Binding protein)/ATF(Activating Transcription Factor)ファミリーに属する、膜一回貫通型の塩基性ロイシンジッパー(bZIP)転写因子であり、長期培養後のマウス星状神経膠細胞(アストロサイト)で特異的に発現している遺伝子として同定され、その配列及びコードする蛋白質が解析された(非特許文献1)。その後、ヒト由来のOASIS遺伝子も単離され、その塩基配列及びそれがコードするアミノ酸配列も同定された(非特許文献2)。
本発明者らは先に、OASIS蛋白質は正常状態ではグリア細胞の小胞体膜上に存在するが、グリア細胞に小胞体ストレスが負荷されると、OASIS蛋白質はRIP(Regulated Intramembrane Proteolysis)という現象(非特許文献3)によって膜内で切断され、切断された断片(CREB/ATF転写因子に共通する塩基性ロイシンジッパー(bZIP)を含む)が核内に輸送され、核内では、こうして切断された断片が、小胞体ストレス応答要素(ERSE:ER Stress Response Element)およびサイクリックAMP応答要素(CRE:Cyclic AMP Response Element)(非特許文献4)に結合して、小胞体ストレス抵抗性シャペロンであるGRP78等の発現を誘導すること、更に、OASIS蛋白質の活性化又は発現を促進することにより、小胞体ストレスから生じる神経細胞死を抑制し得ることや、神経変性疾患を治療する可能性があることなどを見出した(特許文献1)。

【特許文献1】特開2005-52016
【非特許文献1】Honma Y.ら,Molecular Brain Research 69:93-103,1999
【非特許文献2】Omori Y.ら,Biochem Biophysic Res Commun.26:293(1):407-7(2002)
【非特許文献3】Brown,M.S.ら,Cell,100,391-398,2000
【非特許文献4】Mori,K.Cell,101,451-454,2000
【発明の開示】
【0003】
本発明者らは、OASIS蛋白質の生体内での役割又は機能を理解するために、OASIS遺伝子を欠損(又はノックアウト)させたマウスを作製することを試みた。
本発明は、OASIS遺伝子欠損マウスを作製し、その特性を明らかにすることを目的とする。
本発明はまた、OASIS遺伝子欠損マウスを治療薬のスクリーニング又は薬効評価のために使用することを目的とする。
(発明の概要)
本発明者らは、意外にも、作製したマウスが骨粗鬆症と極めて類似する病変を示すことを今回見出した。
本発明は、第1の態様において、小胞体局在転写因子OASIS遺伝子の機能が欠損したマウスを提供する。
その実施形態において、本発明のマウスは、骨粗鬆症モデルマウスであることを特徴とする。
別の実施形態において、本発明のマウスは、野生型と比較して、減少した体重、変形した四肢、及び減少した骨量を特徴とする。
本発明は、第2の態様において、本発明のマウスに候補薬剤を投与することを含む、骨粗鬆症の治療薬をスクリーニングする方法を提供する。
本発明は、第3の態様において、本発明のマウスに骨粗鬆症治療薬を投与することを含む、骨粗鬆症治療薬の薬効を評価する方法を提供する。
(定義)
本明細書で使用する「機能が欠損した」なる用語は、野生型マウスゲノム上のOASIS遺伝子の一部または全部が改変(例えば、置換、欠失、付加及び/又は挿入)または破壊されることによって、該遺伝子の発現産物がOASIS蛋白質としての機能を示さないこと、あるいは該蛋白質が発現しないことをいう。本明細書中では、そのようなマウスをOASIS遺伝子欠損マウス又はOASIS遺伝子ノックアウトマウスという。
本明細書で使用する「骨粗鬆症」なる用語は、骨量が減って骨が弱く脆くなり、骨折しやすくなる疾患又は症状を指す。構造的には、皮質骨よりも海綿骨で骨量の減少が顕著であり、そのために骨梁が減少し、骨が弱くなる。骨の新陳代謝は、皮質骨よりも海綿骨でより活発に行われるため、骨代謝に異常が生じると、先ず海綿骨で変化が起きて海綿骨の量が減る。骨粗鬆症が発症すると、海綿骨の占める割合が比較的多い背骨などが最初に弱くなっていく傾向が認められている。さらにまた、本発明のマウスの症状の一つとして四肢の変形が含まれているが、このような症状も続発性骨粗鬆症(例えば関節リウマチ)に見られるものである。
本明細書で使用する「野生型」なる用語は、正常OASIS遺伝子をもつマウスを指す。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2006-063197号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、OASISノックアウトマウスの作製を示す。図1aは、ターゲティングベクターの構築を示す。E1、E2、E3及びE4はそれぞれ、OASIS遺伝子のエキソン1、エキソン2、エキソン3及びエキソン4を表す。Neoはネオマイシン耐性遺伝子を、また、HSV-tkはHSVチミジンキナーゼ遺伝子をそれぞれ表す。図1bは、ゲノムPCRによるOASIS遺伝子の欠損確認を示す。ここで、+/+は野生型マウス、+/-はヘテロマウス、-/-はノックアウトマウスである。図1cは、OASIS遺伝子をKpnI消化およびNheI消化したときのサザンブロッティングを示す。OASIS遺伝子ノックアウトゲノムでは、KpnI消化の際には5.7kbp、NheI消化の際には6.8kbpのバンドがそれぞれ検出された。
図2は、OASISノックアウトマウス(KO)の生後1週目からの体重推移を示す。図中、WTは野生型マウスを、またheteroはヘテロ接合体マウスをそれぞれ表わす。
図3は、12週齢の雄の野生型マウス2F-M2(OASIS+/+;体重29.88g、体長9.0cm)及びOASISノックアウトマウス2F-M3(OASIS-/-;体重24.33g、体長8.0cm)の肉眼写真を示す。
図4は、8週齢OASISノックアウトマウスの肉眼病変を示す。上図では、前肢の変形が観察される。下図では、後肢の踵の部分に関節炎、発赤腫脹が観察される。
図5は、野生型マウス(左図)とOASISノックアウトマウス(右図)の脊椎骨における骨量の比較を示すヘマトキシリン・エオリン(HE)組織染色図である。
図6は、野生型マウス(左図)とOASISノックアウトマウス(右図)の骨芽細胞の電子顕微鏡写真を示す。
発明の詳細な説明
1.OASIS遺伝子欠損マウス
本発明のOASIS遺伝子欠損マウスは、そのゲノム上のOASIS遺伝子が欠失されたか、或いは機能不全にされた、所謂ノックアウトマウスである。すなわち、OASIS遺伝子のゲノムDNAの一部に欠失、置換、付加又は挿入を生じさせることによって、該遺伝子の機能が全く又は実質的に不全となるか或いは欠損される。遺伝子欠損のためにOASIS遺伝子が発現されず、その結果、OASIS蛋白質が合成されないため、生体内でその機能を果たすことができない。このとき、生体内で重要な働きをする蛋白質であれば、マウスの発生及び発達の過程に影響し、病的な症状が現れると考えられる。
本発明のOASIS遺伝子欠損マウスは、次のような特性を有する。
すなわち、本発明のマウスは、生後2週間目ごろから体重の減少が認められること(図2)、肉眼観察において四肢の変形、並びに関節及びその周囲の発赤や腫脹などの変化(これは骨折に因る)が認められること(図2及び図3)、病理組織学的解析の結果、長管骨及び海綿骨の骨量が著しく減少し、骨粗鬆症の病変が認められること(図4)などの特徴を有する。
このように、本発明のマウスは骨粗鬆症と酷似した病変を形成することからモデルマウスとして有用である。従来、OASISは、小胞体ストレスに起因する例えば神経細胞死からの保護作用を有するため、神経変性疾患の治療のために有用であることは知られていた(特開2005-52016)が、骨粗鬆症や骨形成などとの関係については全く知られていなかった。このような特性は、OASIS遺伝子を欠損させたマウスを作製し得たことによって初めて明らかになった。
本発明のマウスは、一般に、公知の標的遺伝子組換え法(ジーンターゲティング法:例えばMethods in Enzymology 225:803-890,1993)を使用することによって作製することができる。
マウスOASIS蛋白質及びそれをコードするDNAの各配列は、GenBankにNM_011957で登録されており、後述の配列表中、それぞれ配列番号1、配列番号2として示されている。この塩基配列に基づいてプローブ(例えば約30~150塩基)を作製し、放射性又は蛍光ラベルで標識し、OASIS遺伝子のゲノムDNAを検出又は単離するために使用することができる。脳、尾などの組織由来の細胞から定法に従いゲノムDNAを取り出したのち、ゲノムDNAを制限酵素で切断後、サザンハイブリダイゼーション、in situハイブリダイゼーションなどのハイブリダイゼーション法によって上記プローブを用いて、目的のOASIS遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)を探索する。必要に応じて制限酵素地図を作成し、相同組換えを行うための任意のターゲット部位を決定する。OASIS遺伝子の塩基配列に基づいて作製したプライマー(例えば約15~25塩基)を用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、OASIS遺伝子含有ゲノムDNA断片を増幅し、部分的に配列決定する。相同組換えするための相同領域は、約3~7kb以上が好ましい。
OASIS遺伝子をノックアウトするために、ターゲティングベクター中の上記相同領域内に薬剤耐性遺伝子(例えばネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子など)などの外来DNAを挿入又は置換してもよいし、或いは、OASIS遺伝子の一部を欠失してもよい。欠失位置又は外来DNAの挿入若しくは置換位置は、例えばOASIS遺伝子のいずれかのエキソン、例えばエキソン2(図1のE2)である。ここで、外来DNAとしての薬剤耐性遺伝子は、ターゲティングベクターを有する胚性幹細胞のポジティブ選択のために有用となる。また、ベクターには、ネガティブ選択用遺伝子を導入してもよく、そのような遺伝子には、例えばHSVチミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子、ジフテリア毒素A遺伝子などが含まれる。ネガティブ選択は、抗ヘルペス薬、FIAU、ガンシクロビルなどの薬剤に感受性のランダムベクター組込み胚性幹細胞の選択のために有用である。
ターゲティングベクターは、任意のベクターでよく、例えばpGT-N28(New England Bio Labs)、pBluescript II SK(Stratagene)、pSP72、pPNTなどが含まれる。
相同組換え効率を高めるために、例えばCre-loxP系(R.Kuhnら,Science 1995,269:1427-1429)を利用することもできる(下記参照)。
本発明のマウスを作製するために、マウス受精卵に直接ベクターDNAを注入し仮親に移植する方法もあるが、マウス胚性幹(ES)細胞を用いる方法が好ましい。
ES細胞は、受精後の胚盤胞(blastocyst)又は8細胞期胚内に存在する未分化細胞である内部細胞塊の細胞を培養し、細胞塊の解離と継体を繰り返しながら樹立された未分化状態を保持したまま増殖を続ける細胞株である。マウスES細胞株の例は、D3細胞株、E14TG2a細胞株、TT2細胞株、AB-1細胞株、J1細胞株、R1細胞株などであるが、これらに限定されない。
上記のようにOASIS遺伝子を改変してその機能を欠損させたターゲティングベクターを、公知の方法でマウスES細胞に導入する。導入方法には、ミクロセル法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、リン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法などが含まれるがこれらに限定されない。
得られた組換えES細胞について、相同組換えが起こっているかどうかのスクリーニングを、例えば、プローブ又はプライマーを使用するサザンブロット法又はゲノムPCR法によって行うことができる。これによって、正しく相同組換えが起こった細胞を選択する。
OASIS遺伝子がノックアウトされたES細胞を、野生型マウスの胚盤胞又は8細胞期胚内に導入する。そして、このES細胞を含む胚を偽妊娠仮親マウスの子宮に移植し、出産させることによりキメラ動物を作製することができる。
ES細胞を胚盤胞等の胚に導入する方法としては、マイクロインジュクション法や凝集法が知られているが、いずれの方法を用いることも可能である。マウスの場合には、ホルモン剤により過排卵処理を施した雌マウスを、雄マウスと交配させて初期発生胚を得るが、組換えES細胞の導入胚として、胚盤胞を用いる場合には受精から3.5日目に、8細胞期胚を用いる場合には2.5日目に、それぞれ子宮から初期発生胚を回収する。このようにして回収した胚に対して、ターゲティングベクターを用いて相同組換えを行ったES細胞をin vitroにおいて注入し、キメラ胚を作製する。
一方、仮親とするための偽妊娠雌マウスは、正常性周期の雌マウスを、精管結紮などにより去勢した雄マウスと交配することにより得ることができる。作出した偽妊娠マウスに対して、上記の方法により作製したキメラ胚を子宮内移植し、妊娠・出産させることによりキメラマウスを作製することができる。キメラ胚の着床、妊娠がより確実に起こるようにするため、受精卵を採取する雌マウスと仮親となる偽妊娠マウスとを、同一の性周期にある雌マウス群から作出することが望ましい。
ES細胞移植胚に由来するマウス個体が、このようなキメラマウスの中から得られた場合、このキメラマウスを純系のマウスと交配し、そして次世代個体にES細胞由来の被毛色が現れることにより、ES細胞がキメラマウス生殖系列へ導入されたことを確認することができる。ES細胞が生殖系列へ導入されたことを確認するには、様々な形質を指標として用いることができるが、確認の容易さを考慮して、被毛色によることが望ましい。また、体の一部(例えば尾部)からDNAを抽出し、サザンブロット解析やPCRアッセイを行うことにより、選抜を行うこともまた可能である。
このように、胚内に移植された組換えES細胞が生殖系列に導入された動物を選択し、そのキメラ動物を繁殖させることにより、目的とする遺伝子を欠損した個体を得ることができる。得られたOASIS遺伝子欠損ヘテロ接合体マウス(+/-)同士を交配させることにより、あるいはキメラマウスと野生型マウスを交配させることにより、目的とする遺伝子欠損ホモ接合体マウス(-/-)を得ることができる。作製されたOASIS変異遺伝子を保有するヘテロ接合体、あるいはホモ接合体は生殖細胞および体細胞のすべてに安定的にOASIS遺伝子欠損を有しており、この遺伝子欠損は子孫動物に遺伝的に伝達される。本発明のマウスは、したがって、OASIS遺伝子の機能が欠損したキメラマウスおよび子孫マウスの両方を包含する。
本発明のノックアウトマウスを作製するときには、ノックアウトマウスの作製において使用されるCre/loxP系(R.Kuhnら,Science 1995,269:1427-1429)を用いることも可能である。Cre/loxP系においては、標的となる相同配列内にloxP配列で挟まれた外来DNA配列が挿入された遺伝子をもつOASIS遺伝子欠損マウスを、大腸菌のP1ファージ由来の組換え酵素であるCre酵素を発現している動物と交配させた時に、Cre酵素はloxP配列で挟まれた配列を認識して削除するために、その領域を欠損させた動物を作出することが可能となる。そのようなCre/loxP系を用いて、組織特異的にCre酵素を発現しているマウスと交配させることにより、組織特異的に遺伝子が欠損した特性を有するノックアウトマウスを作製することができる。
ジーンターゲティングに関する具体的な手法については、例えば相沢慎一,ジーンターゲティング-ES細胞を用いた変異マウスの作製,バイオマニュアルシリーズ8,羊土社(東京、日本国)(1995年)を参照することができる。
2.骨粗鬆症治療薬のスクリーニング及び薬効評価
本発明のOASIS遺伝子欠損マウスは、海綿骨の骨量が野生型に比べて著しく減少しており、その結果、骨折が四肢や脊椎で認められた(図2から図4)。また、骨芽細胞の電子顕微鏡観察によると、OASISノックアウトマウスでは、小胞体の著しい拡張に加え、その内腔に電子密度の高い物質が貯留していることが分かり、この所見から、KOマウスの骨病変が確かに小胞体機能異常に基づくものであった(図6)。このような知見から、OASIS遺伝子は、骨形成に密接に関わり、この遺伝子を欠損させるとヒトの骨粗鬆症とよく似た病変が形成されることが判明した。
したがって、本発明のマウスを骨粗鬆症モデルマウスとして使用することができる。具体的には、骨粗鬆症の治療薬のスクリーニングや薬効評価のために、或いは、骨粗鬆症の発症機序の解析ツールや小胞体ストレス応答の分子機序解明のツールとして、本発明のマウスを使用することができる。
本発明は、第2の態様により、本発明のマウスに候補薬剤を投与することを含む、骨粗鬆症の治療薬をスクリーニングする方法を提供する。
本発明は、第3の態様により、マウスに骨粗鬆症治療薬を投与することを含む、骨粗鬆症治療薬の薬効を評価する方法を提供する。
候補薬剤は、限定されないが、例えば小分子、(ポリ)ペプチド、(糖)蛋白質、(ポリ)ヌクレオチド、核酸、ヌクレオシド、糖質、脂質などを含む。候補薬剤の例には、OASIS蛋白質、その修飾誘導体(例えばペグ化、アシル化、アルキル化、リン酸化、硫酸化誘導体など)、OASISホモログとその修飾誘導体などが含まれる。
骨粗鬆症治療薬は、限定されないが、例えば女性ホルモン、カルシトニン、ビスフォスフェート、イブリフラボン、ビタミンK2、ビタミンD3などが含まれる。
候補薬剤又は治療薬の投与方法は、限定されないが、経口投与又は非経口投与(例えば静脈内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与など)などを含む。経口投与の場合には、候補薬剤を餌に混ぜて投与することができる。
投与量は、限定されないが、約1μg~100mgの範囲である。
製薬上許容可能な慣用の担体や希釈剤などの賦形剤、添加剤などと組み合わせて候補薬剤又は治療薬を投与することもできる。また、リポソーム(例えば正電荷リポソーム)やナノ粒子に候補薬剤または治療薬を封入または結合(付着)して投与してもよい。
評価は、骨粗鬆症の症状の軽減又は回復、海綿骨の骨量の増加、体重の増加、四肢変形の回復などを指標として、肉眼観察、体重測定、病理組織学的観察(例えば組織染色後の顕微鏡観察)などによって行うことができる(下記の実施例参照)。
以下に、実施例を挙げて、さらに本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって制限されないものとする。
【実施例】
【0005】
[実施例1] ターゲティングベクターの作製
マウスOASISゲノム配列(ENSMUSG00000027230)に基づいて作製したプライマーを用い、129マウス由来ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、OASIS遺伝子のエキソン2前後のDNA断片1.5kb(短腕)および6kb(長腕)を単離した。このときに用いたプライマーは、短腕側が5’-GCGGCCGCCCACAGACAACAGGCATACACAAGG-3’(配列番号3)および5’-CTCGAGTCACTCCGGGAAGTGCTGGGGAGGGA-3’(配列番号4)、長腕側が5’-GAATTCCAGGACAGCCAGGGCTAC-3’(配列番号5)および5’-GAATTCGCTGAGCTAATCCTGGAGACTCTC-3’(配列番号6)である。シーケンシングにより塩基置換が起こっていないことを確認した後、各DNA断片をターゲッティン用ベクターpPNT(Cell 1991 Jun 28,65(7):1153-1163;岡部勝博士(大阪大学、大阪、日本国)から恵与された)のNotI-XhoIサイト(短腕側)およびEcoRI-EcoRIサイト(長腕側)にそれぞれ組み込んでターゲティングベクターを作製した(図1a参照)。
[実施例2] OASISノックアウトマウスの作製
エレクトロポレーション法により、未分化の培養マウスES細胞(約0.8×10個)(D3細胞株(Doetschmanら,J Embryol Exp Morphol.1985,87:27-45)に実施例1のターゲティングベクターを25μg/mlの割合で導入して遺伝子導入ES細胞を得た。これらの細胞をプレート(培地ESM)に播き、24時間後にG418、48時間後にG418およびガンシクロビルを培地に添加して更に7~10日間培養し、G418およびガンシクロビルに耐性を示すコロニーを得た。これらのコロニーを個別に分離し、さらに培養したのち、DNAを抽出してサザンブロッティングにより相同組換えES細胞を選別した。
次いで、この相同組換えES細胞を、C57BL/6CR SLC系マウスの胚盤胞へ常法により注入し、仮親マウスへ移植して個体へと発生させた。その結果、2匹のキメラマウスを得た。得られたキメラマウスのうち、雄の個体と雌の野生型C57B/6系マウスとを交配させて初代(F)マウスを得た。これらのFマウスから、サザンブロット分析により2倍体染色体の一方に変異配列が確認された個体(雄、雌)を選別し、これらを交配させて第2世代(F)マウスを得た。
プライマーとして5’-CCCTCTCCAAGCCTCACTGAGG-3’(配列番号7)、5’-TACCCTGCTGTAAGGGGCTTGTGG-3’(配列番号8)、5’-TCCATCTTGTTCAATGGCCGATCC-3’(配列番号9)を用い、ゲノムPCRの結果、ノックアウトマウス(-/-)においてOASIS遺伝子が欠損していることを確認した(図1b参照)。また、図1cに示すように、OASIS遺伝子をKpnI消化およびNheI消化したときのサザンブロッティングを行った結果、ノックアウトゲノムでは、KpnI消化の際には5.7kbp、NheI消化の際には6.8kbpのバンドがそれぞれ検出された。この結果は、OASIS遺伝子の相同組換えが上手く行われていることを示しており、本発明のOASIS遺伝子ノックアウトマウスの作製に成功した。
[実施例3] OASISノックアウトマウスの特徴付け
(体重の推移)
雄及び雌マウスの野生型(WT)、ヘテロ接合体(hetero)及びホモ接合体(KO)について、生後1週から8週にかけて体重を測定し、その経時変化を観察した。
結果を図2に示した。図から、本発明のノックアウトマウス(KO)及びヘテロ接合体マウスは、3週齢ころから体重の増加が野生型に比べて有意に少ないこと、特にノックアウトマウスの雌は最も体重の増加が抑制されることが分かった。OASIS遺伝子をノックアウトしたことによって、骨形成異常を起こし、その結果、体重増加を抑制したことが分かる。
(肉眼所見)
ともに12週齢の野生型マウスと本発明のノックアウトマウスの身長及び体重を測定し比較した。
結果を図3に示した。図に示す野生型の体重及び身長はそれぞれ29.88g、9.0cmであるのに対して、ノックアウトマウスの体重及び身長はそれぞれ24.33g、8.0cmであった。すなわち、OASIS遺伝子ノックアウトマウスの身長及び体重はともに野生型マウスと比べて小さかった。これは、骨形成異常のために骨量が低下したためである。
さらに、8週齢のOASIS遺伝子ノックアウトマウスの病変を肉眼で観察した。その結果、前肢の変形が観察された(図4上)。また、後肢の踵の部分に関節炎、発赤腫脹が観察された(図4下)。この発赤腫脹は骨折によるものであった。
(脊椎骨の骨病変の病理組織学的観察)
椎骨の骨量を、野生型マウスとOASISノックアウトマウスで比較した。脊椎骨の組織サンプルを取り、蟻酸処理により脱灰し、定法に従ってパラフィン切片を作製したのち、ヘマトキシリン・エオジン染色を施した。顕微鏡観察により骨病変を観察した。
結果を図5に示した。図から、野生型マウス(左図)と比べて、OASISノックアウトマウス(右図)では、長管骨及び海綿骨の骨量が著しく減少していることが分かった。また、脊椎や四肢で骨折が認められた。OASISは骨芽細胞に発現することが知られている(Honma Y.ら,Molecular Brain Research 69:93-103,1999)。そこで骨芽細胞を電子顕微鏡を用いて超微細構造を観察した。
結果を図6に示した。図から、野生型マウスの骨芽細胞(左図)と比べ、OASISノックアウトマウス(右図)では、小胞体の著しい拡張に加え、その内腔に電子密度の高い物質が貯留していることが分かった。この電子顕微鏡による所見は、KOマウスの骨病変が確かに小胞体機能異常に基づくことを示している。
このようなことから、OASIS遺伝子は、骨形成に密接に関わり、この遺伝子を欠損させると、ヒトの骨粗鬆症によく似た病変が形成されることが判明した。
本発明により、骨粗鬆症モデルマウスが提供される。本発明のマウスを使用することによって、骨粗鬆症の治療薬の開発および効能評価や発症機序の解析、小胞体ストレス応答の分子機序の解明などが可能になるため、このマウスは産業上極めて有用である。
【産業上の利用可能性】
【0006】
本発明により、OASIS遺伝子が骨形成に密接に関わることが判明した。また、この遺伝子を欠損させると、骨粗鬆症とよく似た病変が現れることも判明した。このように、本発明のマウスは、骨粗鬆症モデルマウスとして利用可能であるという格別の作用効果を有する。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【配列表フリ-テキスト】
【0007】
配列番号3:プライマー
配列番号4:プライマー
配列番号5:プライマー
配列番号6:プライマー
配列番号7:プライマー
配列番号8:プライマー
配列番号9:プライマー
[配列表]
JP0004940477B2_000002t.gifJP0004940477B2_000003t.gifJP0004940477B2_000004t.gifJP0004940477B2_000005t.gifJP0004940477B2_000006t.gifJP0004940477B2_000007t.gif
図面
【図1a】
0
【図2】
1
【図1b】
2
【図1c】
3
【図3】
4
【図4】
5
【図5】
6
【図6】
7