TOP > 国内特許検索 > 磁性多層膜ドットを用いた高周波デバイス > 明細書

明細書 :磁性多層膜ドットを用いた高周波デバイス

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4189502号 (P4189502)
登録日 平成20年9月26日(2008.9.26)
発行日 平成20年12月3日(2008.12.3)
発明の名称または考案の名称 磁性多層膜ドットを用いた高周波デバイス
国際特許分類 H01P   1/218       (2006.01)
H01P   7/00        (2006.01)
H01L  43/08        (2006.01)
G11C  11/15        (2006.01)
FI H01P 1/218
H01P 7/00 B
H01L 43/08 Z
G11C 11/15 100
請求項の数または発明の数 14
全頁数 25
出願番号 特願2007-535391 (P2007-535391)
出願日 平成18年7月25日(2006.7.25)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 第50回 マグネティズム アンド マグネティック マテリアル コンファレンス
国際出願番号 PCT/JP2006/314663
国際公開番号 WO2007/032149
国際公開日 平成19年3月22日(2007.3.22)
優先権出願番号 2005271096
優先日 平成17年9月16日(2005.9.16)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年2月22日(2008.2.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
発明者または考案者 【氏名】能崎 幸雄
【氏名】松山 公秀
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100091443、【弁理士】、【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
審査官 【審査官】岸田 伸太郎
参考文献・文献 特開2006-005887(JP,A)
特開2005-259206(JP,A)
特開平09-045074(JP,A)
特開2005-174969(JP,A)
特開2005-286867(JP,A)
特表2004-526270(JP,A)
特開2003-249408(JP,A)
松山公秀,「磁性ランダムアクセスメモリー(MRAM)の課題と可能性」,応用物理,2000年 9月10日,69巻9号,pp.1074-1079
調査した分野 H01P 1/218
G11C 11/15
H01L 43/08
H01P 7/00
H01P 1/218
G11C 11/15
H01L 43/08
H01P 7/00
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
伝送線路と、
複数の磁性層が非磁性層を間に介して積層されて構成され且つ前記伝送線路に対して配置される1以上の磁性多層膜ドットとを備え、
前記磁性多層膜ドットを構成する前記複数の磁性層は、すべて単磁区に磁化された状態において、前記複数の磁性層の磁化方向がすべて一致する平行状態と前記複数の磁性層の磁化方向が交互に異なる反平行状態とを安定して維持できる膜厚寸法、形状及び磁気特性をそれぞれ有しており、
前記複数の磁性層の積層方向が前記伝送線路を流れる電磁波の進行方向と直交する方向に向くように、前記1以上の磁性多層膜ドットが前記伝送線路に対して配置されており、前記磁性多層膜ドットの共鳴周波数と同じ周波数の電磁波が前記伝送線路を通過することが阻止されることを特徴とする磁性多層膜ドットを用いた高周波デバイス。
【請求項2】
前記伝送線路に沿って複数の前記磁性多層膜ドットが配置され、
前記複数の磁性多層膜ドットが同じ共鳴周波数を有することを特徴とする請求項1に記載の磁性多層膜ドットを用いた高周波デバイス。
【請求項3】
前記伝送線路に沿って複数の前記磁性多層膜ドットが配置され、
前記複数の磁性多層膜ドットが、異なる共鳴周波数を有する二種類以上の磁性多層膜ドットを含んでいることを特徴とする請求項1に記載の磁性多層膜ドットを用いた高周波デバイス。
【請求項4】
複数の前記磁性多層膜ドットを有し、
前記複数の磁性多層膜ドットの磁化状態を選択的に変えるために必要な磁場を前記複数の磁性多層膜ドットに選択的に印加する選択磁場発生手段を更に備えている請求項2に記載の磁性多層膜ドットを用いた高周波デバイス。
【請求項5】
高周波デバイスのフィルタ周波数設定方法であって、
前記高周波デバイスは、伝送線路と、複数の磁性層が非磁性層を間に介して積層されてなる1以上の磁性多層膜ドットとを備え、前記複数の磁性層の積層方向が前記伝送線路を流れる電磁波の進行方向と直交する方向に向くように前記1以上の磁性多層膜ドットが前記伝送線路に対して配置されて、フィルタ周波数と同じ周波数の電磁波の通過を阻止するように構成されるフィルタ機能を有しており、
前記磁性多層膜ドットを構成する前記複数の磁性層を、すべて単磁区に磁化された状態で、前記複数の磁性層の磁化方向がすべて一致する平行状態と前記複数の磁性層の磁化方向が交互に異なる反平行状態とを安定して維持できる膜厚寸法、形状及び磁気特性をそれぞれ有するように定め、
前記1以上の磁性多層膜ドットを構成する前記複数の磁性層の磁化方向を、前記1以上の磁性多層膜ドットに印加する磁場の状態を変えることにより、前記平行状態または前記反平行状態のいずれかに定めることにより、前記1以上の磁性多層膜ドットの共鳴周波数を前記フィルタ周波数として設定することを特徴とする磁性多層膜ドットを用いたフィルタ機能を有する高周波デバイスのフィルタ周波数設定方法。
【請求項6】
複数の磁性層が非磁性層を間に介して積層されてなる1以上の磁性多層膜ドットと、
直流信号が流れる信号線と、
前記信号線に電気的に入力部が接続された前記1以上の磁性多層膜ドットからなる周波数検出部と、
前記1以上の磁性多層膜ドットから出力される交流信号のみを出力する出力回路とを備え、
前記磁性多層膜ドットを構成する前記複数の磁性層は、すべて単磁区に磁化された状態で、前記複数の磁性層の磁化方向がすべて一致する平行状態と前記複数の磁性層の磁化方向が交互に異なる反平行状態とを安定して維持することができ、しかも前記反平行状態にあるときに共鳴周波数と同じ周波数の電磁波が入力されると磁気抵抗効果を発現して前記交流信号を前記出力部から出力し、前記平行状態にあるときにはすべての周波数の電磁波に対して磁気抵抗効果を発現することがないように、膜厚寸法、形状及び磁気特性が定められており、
前記反平行状態にある前記磁性多層膜ドットの前記共鳴周波数と同じ周波数の電磁波が入力されると、前記出力回路から前記共鳴周波数と同じ周波数を有する信号を出力することを特徴とする磁性多層膜ドットを用いた高周波デバイス。
【請求項7】
複数の前記磁性多層膜ドットを有し、
前記複数の磁性多層膜ドットの磁化状態を選択的に変えるために必要な磁場を前記複数の磁性多層膜ドットに選択的に印加する選択磁場発生手段を更に備えている請求項6に記載の磁性多層膜ドットを用いた高周波デバイス。
【請求項8】
前記複数の磁性多層膜ドットが前記反平行状態にあるときの前記共鳴周波数がすべて異なることを特徴とする請求項6に記載の磁性多層膜ドットを用いた高周波デバイス。
【請求項9】
前記電磁波が流れる伝送線路が、前記信号線に沿って配置されている請求項6に記載の磁性多層膜ドットを用いた高周波デバイス。
【請求項10】
一方向に延びる第1の導電パターンと、前記一方向と直交する方向に延びる第2の導電パターンとが組み合わされて構成されたインダクタコイルと、
前記第1の導電パターン及び前記第2の導電パターンの少なくとも一方の上に実装された、複数の磁性層が非磁性層を間に介して積層されてなる1以上の磁性多層膜ドットとを備え、
前記磁性多層膜ドットを構成する前記複数の磁性層は、すべて単磁区に磁化された状態で、前記複数の磁性層の磁化方向がすべて一致する平行状態と前記複数の磁性層の磁化方向が交互に異なる反平行状態とを安定して維持できる膜厚寸法、形状及び磁気特性をそれぞれ有しており、
前記複数の磁性層の積層方向が、前記第1の導電パターンを流れる電磁波の進行方向と直交する方向に向くように前記1以上の磁性多層膜ドットが配置された状態で、前記1以上の磁性多層膜ドットが前記第1の導電パターン及び前記第2の導電パターンの少なくとも一方の上に配置されていることを特徴とする高周波デバイス。
【請求項11】
所定の間隔をあけて並んで配置され且つ一方向に延びる複数の第1の導電パターンと、前記複数の第1の導電パターンと組み合わされ且つ前記一方向と直交する方向に延びる1以上の第2の導電パターンとから構成されたインダクタコイルと、
隣り合う2本の前記第1の導電パターンの間に誘電体膜を間に介して配置された、複数の磁性層が非磁性層を間に介して積層されてなる1以上の磁性多層膜ドットとを備え、
前記磁性多層膜ドットを構成する前記複数の磁性層は、すべて単磁区に磁化された状態で、前記複数の磁性層の磁化方向がすべて一致する平行状態と前記複数の磁性層の磁化方向が交互に異なる反平行状態とを安定して維持できる膜厚寸法、形状及び磁気特性をそれぞれ有しており、
前記複数の磁性層の積層方向が、前記第1の導電パターンを流れる電磁波の進行方向と直交する方向に向くように前記1以上の磁性多層膜ドットが配置された状態で、前記1以上の磁性多層膜ドットが2本の前記第1の導電パターンの間に配置されていることを特徴とする高周波デバイス。
【請求項12】
複数の周波数の電磁波が重なった周波数多重波から所定の周波数の電磁波を選択的に受信する電磁波受信機能を有する高周波デバイスであって、
直流信号が流れる信号線と、
前記信号線に電気的に入力部が接続された複数の磁性多層膜ドットからなる周波数検出部と、
前記複数の磁性多層膜ドットの出力部に電気信号が現れたことを検出する出力検出回路とを備え、
前記磁性多層膜ドットを構成する前記複数の磁性層は、すべて単磁区に磁化された状態で、前記複数の磁性層の磁化方向がすべて一致する平行状態と前記複数の磁性層の磁化方向が交互に異なる反平行状態とを安定して維持することができ、しかも前記反平行状態にあるときに共鳴周波数と同じ周波数の電磁波が入力されると磁気抵抗効果を発現して前記交流信号を前記出力部から出力し、前記平行状態にあるときにはすべての周波数の電磁波に対して磁気抵抗効果を発現することがないように、膜厚寸法、形状及び磁気特性が定められ、
前記反平行状態にある前記複数の磁性多層膜ドットの前記共鳴周波数は、すべて異なっており、
前記反平行状態にある前記複数の磁性多層膜ドットの前記共鳴周波数と同じ周波数の電磁波の入力に応答して信号を出力することを特徴とする電磁波受信機能を有する高周波デバイス。
【請求項13】
読み出し用の電磁波が流れる伝送線路と、
前記伝送線路に沿って配置された、直流信号が流れる信号線と、
前記信号線に電気的に入力部が接続された同一種類の複数の磁性多層膜ドットからなるメモリ部と、
前記複数の磁性多層膜ドットの出力部に電気信号が現れたことを検出する出力検出回路と、
前記複数の磁性多層膜ドットの磁化状態を選択的に変えるために必要な磁場を前記複数の磁性多層膜ドットに選択的に印加する選択磁場発生手段とを備え、
前記磁性多層膜ドットを構成する前記複数の磁性層は、すべて単磁区に磁化された状態で、前記複数の磁性層の磁化方向がすべて一致する平行状態と前記複数の磁性層の磁化方向が交互に異なる反平行状態とを安定して維持することができ、しかも前記反平行状態にあるときに共鳴周波数と同じ周波数の電磁波が入力されると磁気抵抗効果を発現して前記交流信号を前記出力部から出力し、前記平行状態にあるときにはすべての周波数の電磁波に対して磁気抵抗効果を発現することがないように、膜厚寸法、形状及び磁気特性が定められ、
前記反平行状態にある前記磁性多層膜ドットの前記共鳴周波数と同じ周波数の電磁波を前記読み出し用の電磁波として用いることを特徴とする磁気メモリ装置として機能する高周波デバイス。
【請求項14】
読み出し用の電磁波が流れる伝送線路と、
前記伝送線路に沿って配置された、直流信号が流れる信号線と、
前記信号線に電気的に入力部が接続された複数の磁性多層膜ドットからなるメモリ部と、
前記複数の磁性多層膜ドットの出力部に現れた電気信号を加算する加算回路と、
前記複数の磁性多層膜ドットの磁化状態を選択的に変えるために必要な磁場を前記複数の磁性多層膜ドットに選択的に印加する選択磁場発生手段とを備え、
前記磁性多層膜ドットを構成する前記複数の磁性層は、すべて単磁区に磁化された状態で、前記複数の磁性層の磁化方向がすべて一致する平行状態と前記複数の磁性層の磁化方向が交互に異なる反平行状態とを安定して維持することができ、しかも前記反平行状態にあるときに共鳴周波数と同じ周波数の電磁波が入力されると磁気抵抗効果を発現して前記交流信号を前記出力部から出力し、前記平行状態にあるときにはすべての周波数の電磁波に対して磁気抵抗効果を発現することがないように、膜厚寸法、形状及び磁気特性が定められ、
前記複数の磁性多層膜ドットは、前記反平行状態にあるときに前記共鳴周波数が全て異なっており、
前記複数の磁性多層膜ドットの複数の前記共鳴周波数を含む電磁波を前記読み出し用の電磁波として用いることを特徴とする磁気連想メモリとして機能する高周波デバイス。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の磁性層が非磁性層を間に介して積層されてなる磁性多層膜ドットを用いた高周波デバイスに関するものであり、特にフィルタ、高周波薄膜インダクタ、電磁波受信デバイス、磁気メモリ装置及び磁気連想メモリ等に適した高周波デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ユビキタス環境を指向した高度情報化社会において、GHz帯の周波数を利用する情報通信機器(携帯電話や高速道路料金自動収受システム(ETC)、RF-ICタグ等)が増加している。これを背景に、GHzオーダの共鳴周波数をもつ強磁性共鳴(FMR)を利用して、共振器、バンドストップフィルタ、バンドパスフィルタ、高周波薄膜インダクタ、電磁波受信デバイス、移相器、磁気メモリ、磁気連想メモリなどを実現しようとする研究が1980年代後半から報告されてきた。
【0003】
強磁性共鳴現象とは、MRAM記憶セルのように一軸磁気異方性Kuを持つ試料に対し、磁化困難軸方向に交流磁界Hacを印加した場合、磁化Mの振幅がある周波数(共鳴周波数: fres)で急激に増大する現象である。一般に、強磁性共鳴周波数fresは、以下の式で表される。
【数1】
JP0004189502B1_000002t.gif

【0004】
ここでHextは磁化容易軸方向に印加した外部磁界、Hk(=2Ku/Ms)は一軸磁気異方性の強さを表す異方性等価磁界、Msは強磁性体の飽和磁化、γはジャイロ磁気定数を表している。このような強磁性体を伝送線路に用いれば、共鳴周波数において強磁性共鳴現象によるエネルギー吸収が生じるので、図1(A)に模式的に示したような構造を有し、図1(B)に示したような特性を有するバンドストップフィルタとして機能する。上記式を見てもわかるように、ストップバンドは主に異方性等価磁界Hkの大きさで決まる。このため、GHz帯のフィルタリングを実現するために、一軸磁気異方性Kuの大きな単結晶材料を用いた報告例が多い。しかし、強磁性金属の単結晶成長は半導体の場合に比べて非常に難しく、量産化に向けた技術はいまだ確立されていない。また、上記式はストップバンドを外部磁界により変調できることを示している。しかしながら、GHz帯で変調する場合には、1kOeを超える大きな磁界が必要となるため、実デバイス化に向けてこれが大きな課題となっている。
【0005】
そのため従来、各種の高周波デバイスでは、磁性層の膜厚方向の電気伝導率を低減し、渦電流損失の増加を防ぐために強磁性体の多層構造を用いている。これは多層構造にすると、高周波領域で大きなインダクタンス値を確保できるからである。例えば、特開平06-349637号公報(特許文献1)等には、強磁性層と非磁性絶縁層を交互に積層した多層構造が開示されている。しかしながら電磁波の吸収体(フィルタ等)や、メモリや、論理演算素子などのデバイス応用を指向した技術では、強磁性体の多層構造はあまり利用されていない。しかし各種高周波デバイスに搭載するための薄膜インダクタには、強磁性体の多層構造を利用したものが知られている。例えば、特開2003-249408号公報(特許文献2)「スパイラルコイルを用いたインダクタ」、特開平06-349637号公報(特許文献3)「つづら折型のコイルを用いたインダクタ」、及び特開平11-135326号公報(特許文献4)「つづら折型のコイルを用いたインダクタ」がある。これらの公報に記載の技術では、強磁性体の多層構造を渦電流損失の増加を防ぐ目的で用いている。
【0006】
しかしながら特開2003-257739号公報(特許文献5)「高周波デバイス」には、多層構
造(強磁性金属膜と反強磁性酸化物薄膜から成る)を強磁性/反強磁性交換結合による一方向磁気異方性の発現と、渦電流損の低減とに利用し、これにより伝送線路や各種デバイスの高周波化・広帯域化を実現する技術が開示されている。

【特許文献1】特開平06-349637号公報
【特許文献2】特開2003-249408号公報
【特許文献3】特開平06-349637号公報
【特許文献4】特開平11-135326号公報
【特許文献5】特開2003-257739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら従来提案されている強磁性体の多層構造を用いる高周波デバイスでは、外部磁界により共鳴周波数をチューニングまたは設定変更する場合に、外部から磁界を印加し続ける必要がある。そのため消費電力が多くなるという問題がある。また従来の技術では、インダクタンスの変化を利用した高周波デバイスがほとんどであり、巨大磁気抵抗効果またはトンネル磁気抵抗効果による共鳴状態検出をデバイスに応用したものはない。
【0008】
本発明の目的は、磁性多層膜ドットを用いた従来に無い各種の高周波デバイスを提供することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、共鳴周波数を設定または変更する場合に、外部から磁場を印加し続ける必要のない各種の高周波デバイスを提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、磁気抵抗効果を利用して共鳴状態を検出する高周波デバイスを提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、共鳴周波数を設定または変更する場合に、外部から磁化を印加し続ける必要のない、磁性多層膜ドットを用いたフィルタとして機能する高周波デバイスを提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、複数種類の周波数の電磁波の通過を阻止することができる磁性多層膜ドットを用いたフィルタとして機能する高周波デバイスを提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、共鳴周波数を設定または変更する場合に、外部から磁場を印加し続ける必要のない、フィルタ周波数設定方法を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、応答すべき複数種類の周波数の設定変更が可能なフィルタとして機能する高周波デバイスを提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、検出可能な複数種類の周波数の電磁波の検出の要否を簡単に設定できる機能(オン・オフ機能)を備えた電磁波受信デバイスとして機能する高周波デバイスを提供することにある。
【0016】
本発明の更に別の目的は、送受信周波数を変更することが可能な高周波薄膜インダクタ(アンテナ)として機能する高周波デバイスを提供することにある。
【0017】
本発明の別の目的は、共鳴周波数と同一の読み出し信号を磁性多層膜ドット(磁気メモリセル)に印加することにより、簡単にメモリの読み出しを行うことができる磁気メモリ装置として機能する高周波デバイスを提供することにある。
【0018】
本発明の他の目的は、任意のデータ列に対するハミング距離演算が可能な連想メモリとして機能する高周波デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
これらの問題点を解決する観点から、発明者が研究を重ねた結果、発明者は、強磁性多層膜パターンの形状磁気異方性を異方性等価磁界Hkとし、磁性層の端部に表出した磁極からの漏洩磁界(フリンジ磁界)を磁化容易軸方向に印加する外部磁界Hextとして利用した磁性多層膜ドットが、リコンフィギャラブル(書換え可能)なバンドストップフィルタとなることを発見した。すなわち磁性多層膜ドットを構成する複数の磁性層の磁化方向を制御することにより、共鳴周波数を変えることができることを発明者は見出した。本発明の第1のタイプの高周波デバイスは、この発見を基礎とするものである。
【0020】
そこで上記の発見に基づく本発明の第1のタイプの高周波デバイスは、複数の磁性層が非磁性層を間に介して積層されてなる1以上の磁性多層膜ドットを用いたフィルタとしての機能を有する高周波デバイスである。磁性多層膜ドットは、強磁性材料からなる磁性層と誘電体膜等の非磁性材料からなる非磁性層とが交互に積層されて構成されたサブμmオーダの高周波素子またはセルである。
【0021】
ここで磁性多層膜ドットを構成する複数の磁性層は、すべて単磁区に磁化された状態で、複数の磁性層の磁化方向がすべて一致する平行状態と複数の磁性層の磁化方向が交互に異なる反平行状態とを安定して維持できる膜厚寸法、形状及び磁気特性をそれぞれ有している強磁性体の層である。複数の磁性層の磁化方向がすべて一致する平行状態にあるときの共鳴周波数と、複数の磁性層の磁化方向が交互に異なる反平行状態にあるときの共鳴周波数は異なる。したがってこの磁化状態を変えることにより、磁性多層膜ドットの共鳴周波数を変えれば、フィルタのフィルタ周波数(共鳴周波数)を変えることができる。そこでリコンフィギャラブル(書換え可能)なバンドストップフィルタを構成する場合には、複数の磁性層の積層方向が、伝送線路を流れる電磁波の進行方向と直交する方向に向くように1以上の磁性多層膜ドットを配置する。この状態において、磁性多層膜ドットの共鳴周波数と同じ周波数の電磁波(高周波)の通過を阻止することができる。言い換えると、磁性多層膜ドットの共鳴周波数と同じ周波数の電磁波が、磁性多層膜ドットに吸収される。そしてフィルタ周波数(共鳴周波数)を変更する場合には、使用する磁性多層膜ドットの磁性層の磁化方向を変更すればよい。
【0022】
伝送線路に沿って複数の磁性多層膜ドットを配置し、これら複数の磁性多層膜ドットとして、同じ共鳴周波数を有するものを用いると、より深く(多く)高周波(電磁波)エネルギを吸収することができるようになる。したがって吸収する高周波エネルギの大きさに応じて、使用する磁性多層膜ドットの数を定めればよい。なお磁性多層膜ドットは、伝送線路に接触させて配置する必要はなく、伝送線路から離れた状態で伝送線路に沿って配置してもよいのは勿論である。
【0023】
伝送線路に沿って複数の磁性多層膜ドットを配置する場合に、複数の磁性多層膜ドットが、異なる共鳴周波数を有する二種類以上の磁性多層膜ドットを含んでいてもよい。この場合には、二種類以上の共鳴周波数と同じ種類の周波数の電磁波(高周波)をストップすることができる、フィルタとして機能する高周波デバイスを得ることができる。
【0024】
本発明のフィルタ周波数設定方法では、複数の磁性層が非磁性層を間に介して積層されてなる1以上の磁性多層膜ドットが、複数の磁性層の積層方向が伝送線路を流れる電磁波の進行方向と直交する方向に向くように配置されて、フィルタ周波数と同じ周波数の電磁波の通過を阻止するように構成されるフィルタのフィルタ周波数を次のように設定する。
【0025】
すなわち1以上の磁性多層膜ドットを構成する複数の磁性層の磁化方向を、平行状態または反平行状態のいずれかに定める。これによって、1以上の磁性多層膜ドットの共鳴周波数をフィルタ周波数として設定する。
【0026】
また第1のタイプの高周波デバイスとしては、高周波インダクタとして機能する高周波デバイスがある。すなわち本発明によれば、一方向に延びる複数の第1の導電パターンと一方向と直交する方向に延びる複数の第2の導電パターンとが組み合わされて構成されたインダクタコイルを備えた高周波薄膜インダクタを構成することができる。この高周波薄膜インダクタでは、第1の導電パターン及び第2の導電パターンの少なくとも一方の上に、複数の磁性層が非磁性層を間に介して積層されてなる1以上の磁性多層膜ドットを実装する。そして磁性多層膜ドットを構成する複数の磁性層として、すべて単磁区に磁化された状態で、複数の磁性層の磁化方向がすべて一致する平行状態と複数の磁性層の磁化方向が交互に異なる反平行状態とを安定して維持できる膜厚寸法、形状及び磁気特性をそれぞれ有するものを用いる。そして複数の磁性層の積層方向が、インダクタコイルを流れる電磁波の進行方向と直交する方向に向くように磁性多層膜ドットを配置した状態で、1以上の磁性多層膜ドットを第1の導電パターン及び第2の導電パターンの少なくとも一方の上に配置する。このようにすると1以上の磁性多層膜ドットの磁化方向を変えて磁気共鳴周波数を変えることにより、インダクタコイルを流れる電磁波の周波数成分を変更することができる。すなわち高周波薄膜インダクタをアンテナとして使用する場合に、送信時と受信時におけるインダクタコイルを流れる電磁波の周波数を選択に変更することができる。
【0027】
インダクタの構成は任意である。例えば、インダクタコイルを、複数の第1の導電パターンが所定の間隔をあけて複数本並んで配置された構造とする。そして隣り合う2本の第1の導電パターンの間に誘電体膜を間に介して、複数の磁性層が非磁性層を間に介して積層されてなる1以上の磁性多層膜ドットを配置する。この場合においても、磁性多層膜ドットを構成する複数の磁性層は、すべて単磁区に磁化された状態で、複数の磁性層の磁化方向がすべて一致する平行状態と複数の磁性層の磁化方向が交互に異なる反平行状態とを安定して維持できる膜厚寸法、形状及び磁気特性をそれぞれ有している。そして複数の磁性層の積層方向が、インダクタコイルを流れる電磁波の進行方向と直交する方向に向くように磁性多層膜ドットが配置された状態で、1以上の磁性多層膜ドットを2本の第1の導電パターンの間に配置する。このような構造にすると、インダクタを立体的に構成することができ、構造のコンパクト化を図ることができる。
【0028】
本発明の第2のタイプの高周波デバイスは、磁性多層膜ドットの磁気抵抗効果(巨大磁気抵抗効果またはトンネル磁気抵抗効果)を利用する。ここで磁気抵抗効果とは、非磁性層を挟んだ対面する2つの磁性層の磁化の相対角度が変化することにより、磁性多層膜ドットの電気抵抗が変化する現象を言う。したがって、外部から加わる磁界などにより磁性層の磁化状態が変化した際に、電気抵抗が変化すれば、磁気抵抗効果が発現したことになり、電気抵抗が変化しなければ磁気抵抗効果は発現しなかったことになる。第2のタイプの高周波デバイスでは、この磁気抵抗効果を利用して、磁性多層膜ドットの電気抵抗の変化により電磁波の周波数を検出したり、メモリの状態を検出する。
【0029】
第2のタイプの高周波デバイスで用いる磁性多層膜ドットを構成する前記複数の磁性層は、すべて単磁区に磁化された状態で、複数の磁性層の磁化方向がすべて一致する平行状態と複数の磁性層の磁化方向が交互に異なる反平行状態とを安定して維持することができ、しかも反平行状態にあるときに共鳴周波数と同じ周波数の電磁波が入力されると磁気抵抗効果を発現し、平行状態にあるときにはすべての周波数の電磁波に対して磁気抵抗効果を発現することがないように、膜厚寸法、形状及び磁気特性が定められたものである。この磁性多層膜ドットは、磁気抵抗効果が発現しているときには、いわゆるオン状態(電気信号を通す状態)となって共鳴周波数と同じ交流信号を発生し、磁気抵抗効果を発現していないときには、オフ状態(あらゆる周波数の信号の通過を阻止する状態)になる。
【0030】
本発明のバンドパスフィルタとして機能する高周波デバイスは、直流信号が流れる信号線と、信号線に電気的に入力部が接続された1以上の磁性多層膜ドットからなる周波数検出部と、1以上の磁性多層膜ドットから出力される交流信号のみを出力する出力回路とを備えている。そしてこの高周波デバイスは、反平行状態にある磁性多層膜ドットの共鳴周波数と同じ周波数の電磁波の入力に応答して共鳴周波数と同じ周波数の交流信号を出力する。すなわちこのバンドパスフィルタとして機能する高周波デバイスは、共鳴周波数と同じ周波数の電磁波そのものをバンドパスさせるのではなく、共鳴周波数と同じ周波数の電磁波が入力されたときに、これに応答して磁性多層膜ドットが発生する交流信号を出力することによりフィルタリングを行う。
【0031】
このバンドパスフィルタとして機能する高周波デバイスにおいて、フィルタ周波数を書き換え可能にするためには、複数の磁性多層膜ドットを用いる場合に、複数の磁性多層膜ドットの磁化状態を選択的に変えるために必要な磁場を、複数の磁性多層膜ドットに選択的に印加する選択磁場発生手段を設ければよい。磁性多層膜ドットの磁化状態は、外部から印加する磁場の状態によって、平行状態と反平行状態のいずれかの状態になる。したがって共鳴周波数の異なる複数の磁性多層膜ドットを用意しておき、複数の磁性多層膜ドットを選択的に平行状態または反平行状態とすることにより、バンドパスフィルタの周波数特性を任意に定めることが可能になる。
【0032】
複数の磁性多層膜ドットとして、反平行状態にあるときの共鳴周波数がすべて異なるものを用いると、複数の磁性多層膜ドットの数に応じた、異なる周波数の信号を選択的に得ることができるので、周波数分析も可能である。
【0033】
この第2のタイプの高周波デバイスの他の例として、複数の周波数の電磁波が重なった周波数多重波から所定の周波数の電磁波が流れていることを検出する電磁波受信デバイスとして機能する高周波デバイスがある。このデバイスは、交流信号が流れる信号線と、伝送線路に沿って配置されて、信号線に電気的に入力部が接続された複数の磁性多層膜ドットからなる周波数検出部と、複数の磁性多層膜ドットの出力部に電気信号が現れたことを検出する出力検出回路とを備えている。そして反平行状態にある複数の磁性多層膜ドットの共鳴周波数は、すべて異なっている。この電磁波受信デバイスは、反平行状態にある複数の磁性多層膜ドットの共鳴周波数と同じ周波数の電磁波の入力に応答して信号を出力する。
【0034】
このデバイスも、磁性多層膜ドットの磁化状態を選択的に変えるために必要な磁場を複数の磁性多層膜ドットに選択的に印加する選択磁場発生手段を備えている。これによって
所望の周波数の信号の受信を確認することが可能になる。
【0035】
第2のタイプの高周波デバイスの例として、磁気メモリ装置がある。この磁気メモリ装置は、読み出し用の電磁波が流れる伝送線路と、伝送線路に沿って配置された、直流信号が流れる信号線と、信号線に電気的に入力部が接続された同一種類の複数の磁性多層膜ドットからなるメモリ部と、複数の磁性多層膜ドットの出力部に電気信号が現れたことを検出する出力検出回路と、複数の磁性多層膜ドットの磁化状態を選択的に変えるために必要な磁場を前記複数の磁性多層膜ドットに選択的に印加する選択磁場発生手段とを備えている。そして反平行状態にある磁性多層膜ドットの共鳴周波数と同じ周波数の電磁波を読み出し用の電磁波として用いる。この磁気メモリ装置によれば、読み出し用の複雑なマトリックスを必要とすることなく、簡単に磁気メモリセルからメモリ内容の読み出しを行うことができる。
【0036】
本発明の第2のタイプの高周波デバイスとしては、磁気連想メモリがある。この磁気連想メモリでは、前述の磁気メモリ装置と異なって、反平行状態にあるときに複数の磁性多層膜ドットの共鳴周波数が全て異なっている。そして複数の磁性多層膜ドットの出力部に現れた電気信号を加算する加算回路を備えている。また複数の磁性多層膜ドットの複数の共鳴周波数を含む電磁波を読み出し用の電磁波として用いる。このようにすると、伝送線路に電磁波が流されたときに、反平行状態にある磁性多層膜ドットは磁気抵抗効果を発現して、オン状態となり、出力検出回路の出力はHigh状態となる。出力検出回路の各出力を加算回路で加算した値は、任意のデータ列に対するハミング距離に比例する値となる。その結果、この磁気連想メモリによれば、任意のデータ列に対するハミング距離演算が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下図面を参照して、高周波デバイスに分類される本発明の各種の実施の形態を詳細に説明する。最初に、本発明における第1のタイプの高周波デバイスで用いる磁性多層膜ドットにおける共鳴周波数の制御について説明する。図2に示すように、磁性多層膜ドット1は、強磁性材料からなる磁性層3と誘電体膜等の非磁性材料からなる非磁性層5とが交互に積層されて構成された高周波素子またはセルである。磁性多層膜ドット1の寸法は、サブμmオーダである。ここで磁性多層膜ドット1を構成する複数の磁性層3は、すべて単磁区に磁化されている。そして複数の磁性層3のそれぞれは、複数の磁性層3の磁化方向がすべて一致する平行状態と、複数の磁性層3の磁化方向が交互に異なる反平行状態とを維持できる膜厚寸法、形状及び磁気特性を有している強磁性体の層により構成されている。磁性多層膜ドット1は、複数の磁性層3の磁化方向がすべて一致する平行状態にあるときの磁性多層膜ドット1の共鳴周波数と、複数の磁性層3の磁化方向が交互に異なる反平行状態にあるときの磁性多層膜ドット1の共鳴周波数とは異なる。
【0038】
このことは以下に説明するように、発明者の研究によって確認されている。微細な磁性多層膜ドット1に含まれる各磁性層3の磁化過程は、各磁性層3の端部に存在する磁極が作るフリンジ結合磁界Hfの影響を強く受ける。フリンジ結合磁界Hfによる静磁気的結合は、対面する2つの磁性層3の、それぞれの磁化M1及びM2の相対角度に依存して変化する。そのため、磁性多層膜ドット1の強磁性共鳴特性は、磁性層3の形状や磁化状態によって制御可能と考えられる。すなわちそれぞれの磁化M1及びM2は、フリンジ結合磁界Hfによる影響を受け、外部から加えられる困難軸方向の交流磁界Hacの値に応じて、角度Δθを変えることができる。
【0039】
そこで、発明者は、計算機シミュレーションにより、サブμmオーダの寸法を有する磁性多層膜ドット1における強磁性共鳴特性の数値解析を行い、フリンジ結合磁界Hfによる共鳴周波数の変調(変更)を調べた。
【0040】
この計算モデルでは、各磁性層3の磁化は単磁区であると仮定した。次に、図2に示すような磁性多層膜ドット1を一次元ダイポールアレイとして近似して、連立Landau-Lifshitz-Gibert (LLG)方程式を、4次のルンゲクッタ法を用いた数値計算により解いた。磁性層3及び非磁性層5の形状は、それぞれ横幅寸法w1と縦幅寸法w2とが等しい正方形とした。そしてw1及びw2は、0.1~0.8 μm値とした。磁性層3の膜厚をtmag=4 nmとした。また非磁性層5の膜厚をtn=4~10 nmとした。そして磁性層3の磁気特性は、飽和磁界をMsとしたときに、4πMs=10 kGになるものとし、また一軸磁気異方性Kuの値はKu=5×104~5×105erg/cm3の範囲の値とし、ダンピング定数αはα=0.008を標準値として用いることとした。このような設定に対し、2つの磁性層3間のフリンジ結合磁界Hfを表面磁荷モデルにより近似的に計算した。そして、困難軸方向の交流磁界Hac (=1 Oe)に対する共鳴現象のシミュレーションを行った。
【0041】
図3には共鳴現象のシミュレーション結果を示してある。このシミュレーションでは、磁性層3及び非磁性層5を、一辺の長さ(w1、w2=w)がw=0.1 μmとした。そして磁性層3の膜厚は、tmag=4nm とし、非磁性層5の膜厚をtn=4nmとした。また磁性層3の一軸磁気異方性KuはKu=5×105 erg/ cm3とした。そして複数の磁性層3からなる磁性多層膜ドットに対し、複数の磁性層3の磁化が平行磁化状態にある場合の共鳴周波数と、複数の磁性層3の磁化が反平行状態にある場合の共鳴周波数について計算した。平行磁化状態(parallel)および反平行磁化状態(antiparallel)における共鳴周波数は、それぞれ9.13 GHzおよび13.9 GHzとなった。フリンジ磁界の寄与を無視した場合の共鳴周波数の理論値は10.5 GHzであることから考えると、平行磁化状態における各磁性層3の磁化は、磁化に対して負の方向にフリンジ磁界を受けており、反平行磁化状態における各磁性層3の磁化は、磁化に対して正の方向にフリンジ磁界を受けていることがわかる。この結果から、各磁性層3の磁化状態により定まるフリンジ磁界の違いによって、共鳴周波数を制御できることが確かめられた。この磁性多層膜ドットの特徴は、(1)磁性層3に使用する強磁性体の磁化の不揮発性を利用して、共鳴周波数(ストップバンド)をラッチする(固定する)点、および(2)各磁性層の磁化状態を制御する(外部磁界の印加により各磁性層の磁化状態を変える)ことにより、1本の伝送線路において共鳴周波数(ストップバンド)を再定義できる点(変更できる点)にある。またこの磁性多層膜ドットは、共鳴周波数(ストップバンド)の変調(変更)に際して、外部磁界を常時印加し続けなくてもよい点が、従来の技術とは大きく異なる。
【0042】
なお磁性多層膜ドット1の磁性層3の磁化方向を変更する場合の一例を図4を用いて説明する。図4に示した例では、磁性層3及び非磁性層5を、一辺の長さ(w1、w2=w)がw=0.4μmとした。そして磁性層3の膜厚は、tmag=4nm とし、非磁性層5の膜厚をtn=10nmとした。また磁性層3の一軸磁気異方性KuはKu=5×104 erg/ cm3とした。図4(A)は全ての磁性層3の磁化方向を平行にする場合を示している。また図4(B)は、全ての磁性層3の磁化方向を反平行にする場合を示している。そして図4(C)は、使用した磁性層の磁化特性により、磁化方向を変えるのに必要とされる、一軸磁気異方性Kuの値の相違に対する、磁化方向を変えるのに必要とされる一軸磁気異方性Kuの方向と外部磁界Hの方向との間の角度θの関係を示している。図4(C)中の曲線の下側の領域の関係が成り立てば、すべての磁化層の磁化状態は平行磁化状態となり、上側の領域の関係が成り立てば、すべての磁化層の磁化状態は反平行磁化状態となる。
【0043】
図4(A)の例では、全ての磁性層3に対して、一軸磁気異方性Kuの方向と78度の角度をなす方向に飽和磁界Hsatより大きな外部磁界Hが加えられることにより、全ての磁性層3の磁化方向は平行になる。図4(A)において、最も左側の図が、外部磁界を印加した直後の磁化状態を示しており、最も右側の図が外部磁界を印加した後に外部磁界が0になったときの磁化状態を示しており、これら二つの図の間の図が、磁化状態の変化の過程を示している。そして図4(B)は、全ての磁性層3の磁化方向を反平行にする場合を示している。図4(B)の各図も、図4(A)の各図と同じ状況における磁化状態を示している。この例では、全ての磁性層3に対して、一軸磁気異方性Kuの方向と79度以上の角度をなす方向に飽和磁界Hsatより大きな外部磁界Hが加えることにより、複数の磁性層3の磁化方向は反平行状態になる。このように印加する外部磁界Hの角度を変えることにより、磁化状態の平行・反平行状態を簡単にコーディングすることが可能になる。
【0044】
なお多層磁性膜ドットを構成する複数の磁性層の磁化状態を、平行磁化状態と反平行磁化状態に制御できることに関しては、”Geometrically induced giant magnetoresistance behavior in quarter-micrometer strip pattern” K.Matsuyama,K.Matsuo,and Y.Nozaki, Journal of applied Physics, Vol, No.8,pp5475-5476(15 April 1999)に、その原理が記載されている。
【0045】
図5は、一軸磁気異方性Kuが異なる磁性層を用いたときに、計算した共鳴周波数が、磁性層の寸法(w1×w2=w)に依存性を持っていることを示すシミュレーション結果である。図5から、一軸磁気異方性Kuが異なったとしても、共鳴周波数は磁性層の寸法wの減少に伴って、1/wの比例関係に従って増大することが判る。これは、磁性層の寸法が小さくなるのに伴って、2つの磁性層間のフリンジ結合磁界が増大し、このフリンジ結合磁界の増大が影響した結果である。
【0046】
また、複数の磁性層が平行磁化状態(parallel)にある場合と、反平行磁化状態(antiparallel)にある場合の多層磁性膜ドットに、交流磁界を印加し始めてから共鳴状態に達するまでの時間trespのダンピング定数αの依存性についても調べた結果を、図6に示してある。ここでダンピング定数とは、磁化の運動方程式に含まれる摩擦項の大きさを表すパラメータであり、これが大きくなるほど磁化の歳差運動の収束が早くなる。なお、ここでは交流磁界の周波数を共鳴周波数と一致させた。図6を見ると、αが大きいほど短時間で共鳴状態に達しており、α>0.03の場合でtresp<1 nsを実現している。したがって、このようなαを持つ材料を選べば、非常に高速な動作速度を実現できると考えられる。ただし、共鳴状態での磁化振幅の大きさはαの増大にしたがって急激な減少を示す。このような磁化振幅の減少は、ストップバンドにおける信号吸収量の低下を引き起こす。したがって、バンドストップフィルタへの応用の観点からは、動作速度とフィルタリング効率がトレードオフの関係(相反する関係)にあり、これらのパラメータの最適化が必要である。図7(A)は、磁性多層膜ドットを用いたリコンフィギャラブルな(書き換え可能な)バンドストップフィルタとして機能する本発明の高周波デバイスの実施の形態の一例の構成を概念的に示す図である。図7(A)には、伝送線路7が設置される誘電体基板及び接地導体は図示していない。そこで図8(A)乃至(E)には、伝送線路7が設置される誘電体基板Sに対して設置する接地導体Gの配置例をそれぞれ示している。なお図8(A)乃至(E)の接地構造は、以下の他の実施の形態においても適宜に利用可能である。
【0048】
図7(A)の実施の形態では、ストリップ線路からなる伝送線路7の上に、誘電体層9を介して複数の磁性多層膜ドット1が実装されている。複数の磁性多層膜ドット1は、構成が同じものであって、しかも同じ磁化状態(平行磁化状態または反平行磁化状態)にあるときに、それぞれ同じ共鳴周波数を持つように、各磁性層3の膜厚寸法、形状及び磁化特性が定められている。なお図7(A)では、図示を簡略化するために、磁性多層膜ドット1は2つの磁性層3を有するものとして表現している。しかしながら磁性層3の数は、2枚に限定されるものではない。具体的には、磁性多層膜ドット1を構成する2つの磁性層3は、すべて単磁区に磁化されている。そして2つの磁性層3は、2つの磁性層3の磁化方向がすべて一致する平行状態を安定して維持し、または2つの磁性層3の磁化方向が交互に異なる反平行状態を安定して維持できる、膜厚寸法、形状及び磁気特性をそれぞれ有している。2つの磁性層3は、飽和磁化の大きなソフト磁性体薄膜からなる層である。またこの例では、非磁性層5として酸化マグネシウムや酸化アルミニウムなどからなる誘電体膜が用いられている。この磁性多層膜ドット1では、2つの磁性層3の磁化方向がすべて一致する平行状態にあるときの共鳴周波数と、2つの磁性層の磁化方向が交互に異なる反平行状態にあるときの共鳴周波数とは異なる。
【0049】
そしてこのフィルタでは、複数の磁性層3の積層方向が、伝送線路7を流れる電磁波の進行方向と直交する方向に向くように、1以上の磁性多層膜ドット1が、酸化マグネシウムや酸化アルミニウムなどからなる誘電体層9を介して伝送線路7の上に配置されている。この状態において、磁性多層膜ドット1の共鳴周波数と同じ周波数の電磁波(入力信号に含まれる高周波)の通過を阻止することができる。言い換えると、磁性多層膜ドット1の共鳴周波数と同じ周波数の電磁波が、磁性多層膜ドット1に吸収される。そしてフィルタ周波数(共鳴周波数)を変更する場合には、使用する磁性多層膜ドット1の磁性層3の磁化方向を変更する。図7(B)は、使用する磁性多層膜ドット1の磁性層3の磁化方向を変更する選択磁場発生手段の構成の一例を示している。なお図7(B)に符号31で示した導線はビット線であり、符号33で示した導線はディジット線である。ビット線31とディジット線33に電流を流して発生する磁場で、ビット線31とディジット線33の交点の下に配置される磁性多層膜ドットの磁化状態が変更される。ビット線31とディジット線33の双方に電流を流した場合、その交点の下に位置する磁性多層膜ドットの磁化状態は平行状態となる。そしてビット線31にのみに電流を流した場合、電流が流れているビット線31の下に位置する磁性多層膜ドットの磁化状態は反平行状態となる。このような選択磁場発生手段を用いれば、磁性多層膜ドットの磁化状態を、印加する磁場の状態によって、平行状態と反平行状態のいずれかの状態にすることができる。
【0050】
図9は、磁化方向が平行状態(parallel)にある場合と反平行状態(antiparallel)にあるときの、入力電圧Vinと出力電圧Voutとの比Vout/Vin(すなわち減衰比)の変化を周波数に対して示している。この図から明らかなように、いずれの磁化状態の場合でも、共鳴周波数において、減衰比が大きくなっている。したがって本実施の形態のフィルタによれば、複数の磁性多層膜ドット1の磁化状態を選択することにより、2種類のフィルタ周波数を選択することができる。この例において磁性多層膜ドット1の数は、吸収する高周波エネルギの大きさに応じて定められている。
【0051】
なお図7の構成において、伝送線路7に沿って配置する複数の磁性多層膜ドット1が、異なる共鳴周波数を有する二種類以上の磁性多層膜ドットを含んでいる場合には、その二種類以上の共鳴周波数と同じ周波数の電磁波(高周波)信号をストップすることができるフィルタを得ることができる。
【0052】
次に、図10(A)及び(B)を用いて、磁気連想メモリへの本発明の応用の観点から、共鳴周波数の異なる磁性多層膜ドット1の列(記憶セル列)を並べた伝送線路7に周波数多重波を入力した際の磁性多層膜ドット(記憶セル)1の選択応答特性を明らかにする。なお図10(A)においては、磁性多層膜ドット1を便宜的に一層構造で図示してある。そして図10(B)には、cell1~cell9の磁性多層膜ドット1の強磁性共鳴特性(磁化振幅の電磁波周波数依存性)を示す。また、図11には、共鳴周波数の異なる9個の磁性多層膜ドット1(cell1~cell9から記憶セル列を構成)に対し、3番目、6番目および8番目の共鳴周波数f+f+fを持った3つの波の合成波(電磁波)を入力した際の、磁化応答を計算した結果を示す。図11の升目内の各図における縦軸は磁化振幅を示している。また太線で囲った枠内の#1~#9は、磁性多層膜ドット1(cell1~cell9)の番号である。図11において、#3、#6及び#8の磁性多層膜ドット(選択されたセル)の振幅は、非選択の磁性多層膜ドット(選択されていないセル)のものに比べて十分に大きくなっている。このことから選択的な共鳴応答が実現できることが分かる。なおこれらの結果は、各磁性多層膜ドットの共鳴周波数の差と共鳴曲線のQ係数に大きく依存する。したがって、良好な信号分離性を確保するためには、これらを最適化することが好ましい。
【0053】
なお図12に示すように、共鳴周波数の異なる複数の磁性多層膜ドット(セル)を磁性層(膜)の積層方向に積層しても、前述と同様の選択的な共鳴応答が実現できる。このように本発明で用いる磁性多層膜ドットは、磁性層の積層方向に複数積層して信号分離を行うことができるので、図13に示すようにシステムインパッケージ(SiP)におけるチップ間通信にも応用することができる。システムインパッケージ(SiP)は、複数のLSIを単一のパッケージに封止するものであり、システムオンチップ(SoC)と同等の機能を低コストで供給することができる。そしてシステムインパッケージ(SiP)は、携帯電話、ウェアラブル機器、デジタルビデオ、パーソナルコンピュータ、ゲーム機器等に応用が可能である。図13(A)の断面図は、膜厚方向に機能の異なるLSI(符号A乃至Fで示したチップ)をスタックした(重ねた)3次元のシステムインパッケージが伝送線路7に実装されている状態のパッケージング構造を示している。そして図13(B)は、図13(A)の内部の接続関係を示している。各チップA乃至F内には、1以上の磁性多層膜ドットが含まれた集積回路が含まれている。
【0054】
従来の強磁性共鳴を利用したマイクロストリップは、膜厚方向の伝送線路には対応できない。また有線通信では伝送線路のインダクタンス成分や浮遊キャパシタにより高速化に限界がある。しかしながら図13のように構成すると、磁性多層膜ドットは膜厚方向の信号伝送が可能であるため、各チップ間に高速の無線配線手段を提供することが可能になる。
【0055】
本発明の第1のタイプの高周波デバイスの別の例として、高周波薄膜インダクタとして機能する高周波デバイスがある。図14は、複数の磁性多層膜ドットを用いた高周波薄膜インダクタ10の構成の一例を概略的に示すための図である。このインダクタ10は、一方向(x軸の方向)に延びる第1の導電パターン13Aと一方向(x軸の方向)と直交する方向(y軸の方向)に延びる第2の導電パターン13Bとが順次組み合わされて、渦巻状に構成されたインダクタコイル13を備えている。E1及びE2は、高周波(電磁波)の入力電極及び出力電極である。そしてこの高周波薄膜インダクタ10では、第1の導電パターン13Aの上に、誘電体層9を介して第1の種類の磁性多層膜ドット1Aが複数個列を成して配置されている。また第2の導電パターン13Bの上に、誘電体層9を介して第2の種類の磁性多層膜ドット1Bが複数個列を成して配置されている。この例でも、第1及び第2の磁性多層膜ドット1A及び1Bを構成する複数の磁性層3としては、飽和磁化の大きなソフト磁性体薄膜を用いている。そして複数の磁性層3は、すべて単磁区に磁化された状態で、複数の磁性層3の磁化方向がすべて一致する平行状態と複数の磁性層3の磁化方向が交互に異なる反平行状態とを安定して維持できる膜厚寸法、形状及び磁気特性をそれぞれ有するものを用いている。また磁性層3の積層方向が、インダクタコイル13を流れる電磁波の進行方向と直交する方向に向くように複数の磁性多層膜ドット1A及び1Bをそれぞれ配置している。複数の磁性多層膜ドット1A及び1Bは、形状の相違から、同じ磁化状態における共鳴周波数が異なっている。
【0056】
このように配置すると、x軸に平行な外部磁界を印加した後の残留磁化状態では、図14に示したように、第1の導電パターン13A上の磁性多層膜ドット1Aの各磁性層3の磁化状態は平行状態であり、第2の導電パターン13B上の磁性多層膜ドット1Bの各磁性層3の磁化状態は、反平行状態になっている。これに対し、y軸に平行な磁界に対する残留磁化状態では、y軸に平行な磁界に対しては逆の磁化状態が現れる。このように構成すると、前者(x軸に平行な磁界に対する残留磁化状態)では、磁性多層膜ドット1Aの磁化状態が平行状態となって(磁性多層膜ドット1Aの共鳴周波数がfp,Aとなり)、また磁性多層膜ドット1Bの磁化状態が反平行状態となり(磁性多層膜ドット1Bの共鳴周波数がfap,Bとなる。その結果、この場合には、インダクタ10は、fp,Aとfap,Bの周波数で送受信可能な薄膜インダクタ(アンテナ)として機能する。そして後者(y軸に平行な磁界に対する残留磁化状態)では、磁性多層膜ドット1Aの磁化状態が反平行状態となり(磁性多層膜ドット1Aの共鳴周波数がfap,Aとなり)及び磁性多層膜ドット1Bの磁化状態が平行状態となり(磁性多層膜ドット1Bの共鳴周波数がfp,B となる。その結果、この場合には、インダクタ10は、fap,Aおよびfp,Bの周波数で送受信可能な薄膜インダクタ(アンテナ)として機能する。
【0057】
このように本実施の形態の高周波薄膜インダクタ10によれば、磁性多層膜ドット1A及び1Bの磁化方向を変えて磁気共鳴周波数を変えることにより、インダクタコイル13を流れる電磁波(高周波)の周波数成分を変更することができる。すなわち高周波薄膜インダクタ10をアンテナとして使用する場合に、送信時と受信時におけるインダクタコイル13を流れる電磁波の周波数を選択に変更することができる。
【0058】
インダクタの構成は任意である。図15の高周波薄膜インダクタ14では、複数の第1の導電パターン15Bが所定の間隔をあけて複数本並んで配置されている。そして、これらの第1の導電パターン15Bの端部を交互に第2の導電パターン15Aによって接続している。その結果、蛇行状またはつづら折状のパターンのインダクタコイル15が形成されている。またE1及びE2は、高周波(電磁波)の入力電極及び出力電極である。そしてこの高周波薄膜インダクタ14では、第1の導電パターン15Bの上に、誘電体層9を介して1種類の磁性多層膜ドット1Aが複数個列を成して配置されている。この例で用いる磁性多層膜ドット1Aは、前述の各実施の形態の磁性多層膜ドットの構造と同じである。そしてこの例でも、磁性層3の積層方向が、第1の導電パターン15Bを流れる電磁波の進行方向と直交する方向に向くように磁性多層膜ドット1Aが配置されている。
【0059】
このインダクタ14では、x軸に平行な磁界(困難軸磁界)に対する残留磁化状態では、磁性多層膜ドット1Aの磁化状態は反平行状態となる。またy軸に平行な磁界(容易軸磁界)に対する残留磁化状態では、磁性多層膜ドット1Aの磁化状態は平行な磁化状態または磁化配置となる。その結果、このインダクタ14は、前者[x軸に平行な磁界(困難軸磁界)に対する残留磁化状態では]fapの周波数で送受信可能な薄膜インダクタ(アンテナ)として機能する。そしてこのインダクタ14は、後者[y軸に平行な磁界(容易軸磁界)に対する残留磁化状態]の場合には、fpの周波数で送受信可能な薄膜インダクタ(アンテナ)として機能する。
【0060】
図16は、さらに別の高周波薄膜インダクタ16の構成を立体的に示している。このインダクタ16では、隣り合う2本の第1の導電パターン17Aの間に誘電体膜9を間に介して、同じ磁化状態においては共鳴周波数が等しい複数の磁性多層膜ドット1が配置されている。2本の第1の導電パターン17Aの一端は、それぞれ上下方向に延びる第2の導電パターン17Bで接続されており、それらの他端には電極E1及びE2が設けられている。ここで用いる磁性多層膜ドット1も、先の実施の形態のインダクタで用いている磁性多層膜ドットと同じ構成を有している。この例でも、磁性層3の積層方向が、第1の導電パターン17Aを流れる電磁波の進行方向と直交する方向に向くように磁性多層膜ドット1が配置されている。このような構造にすると、インダクタ16を立体的に構成することができ、構造のコンパクト化を図ることができる。
【0061】
このインダクタ16では、容易軸磁界に対する残留磁化状態では、磁性多層膜ドット1の磁化状態は平行状態となり、困難軸磁界に対する残留磁化状態では、磁性多層膜ドット1の磁化状態は反平行な磁化状態となる。その結果、前者では[容易軸磁界に対する残留磁化状態では]、インダクタ16は周波数fで送受信可能な薄膜インダクタ(アンテナ)として機能し、後者では[困難軸磁界に対する残留磁化状態では]、インダクタ16は周波数fapで送受信可能な薄膜インダクタ(アンテナ)として機能する。
【0062】
次に本発明の第2のタイプの高周波デバイスの実施の形態について説明する。本発明の第2のタイプの高周波デバイスは、磁性多層膜ドット1の磁気抵抗効果(巨大磁気抵抗効果またはトンネル磁気抵抗効果)を利用する。ここで磁気抵抗効果とは、図17(A)に示すように、非磁性層5を挟んで対面する2つの磁性層3の磁化M1及びM2の相対角度θが変化することにより、磁性多層膜ドット1の電気抵抗Rが変化する現象を言う。すなわち電気抵抗Rは、R∝(1-cosθ)/2の関係になる。図17(B)に示すように、共鳴周波数と同じ電磁波の入力に対して、磁性多層膜ドットの磁化が反平行状態の場合は隣接する2つの磁性層の磁化が逆方向に回転するため、相対角度θが変化する。その結果、磁気抵抗効果により、共鳴周波数と同じ周波数の交流信号が発生する。これに対して、複数の磁性層の磁化状態がすべて平行状態にあるときには、いかなる周波数の電磁波入力に対しても、隣接する2つの磁性層の磁化が同じ方向に回転するため磁気抵抗効果を発現せず、磁性多層膜ドットの出力部には電圧が現れない状態になる。
【0063】
第2のタイプの高周波デバイスで用いる磁性多層膜ドット1を構成する複数の磁性層3の膜厚寸法、形状及び磁気特性は、次の要件を満足するように定められている。すなわち、すべて単磁区に磁化された状態で、複数の磁性層3の磁化方向がすべて一致する平行状態と複数の磁性層の磁化方向が交互に異なる反平行状態とを安定して維持することができる。そして磁化状態が反平行状態にあるときに、共鳴周波数と同じ周波数の電磁波が入力されると磁気抵抗効果を発現する。また磁化状態が平行状態にあるときには、すべての周波数の電磁波に対して磁気抵抗効果を発現することがない。この磁性多層膜ドットは、磁気抵抗効果が発現しているときには、いわゆるオン状態(電気抵抗が変化して、共鳴周波数と同じ周波数の交流信号を発生する状態)となる。また磁気抵抗効果を発現していないときには、オフ状態(電気抵抗が変化せず、あらゆる周波数の電磁波が入力されても信号を出力しない状態)になる。
【0064】
図18は、本発明の第2のタイプの高周波デバイスの一種であるバンドパスフィルタ機能を有する高周波デバイスの概略構成を示している。図18において、符号21a,21b・・は、それぞれ形状が異なっているために共鳴周波数が異なる磁性多層膜ドットである。そしてこのデバイスは、直流信号が流れる信号線23と、信号線23に電気的に入力部が接続された共鳴周波数が異なる複数の磁性多層膜ドット21a~21eからなる周波数検出部25と、1以上の磁性多層膜ドットから出力された交流信号のみを出力する出力回路26とを備えている。周波数検出部25は、入力部が信号線23に電気的接続された各磁性多層膜ドット21a~21eの出力部に接続されたコンデンサCを含んで構成される。
【0065】
符号29で示した線路は、様々な周波数の電磁波を含む周波数多重波が伝送されてくる伝送線路である。図18の例では、少なくとも周波数fが含まれている周波数多重波(電磁波)が伝送されているものとする。なおこの伝送線路29は、このデバイスに必須のものではなく、伝送線路29を介さずに到来する電磁波であっても受信することは可能である。
【0066】
そしてこのバンドパスフィルタ機能を有する高周波デバイスは、複数の磁性層が反平行状態にある磁性多層膜ドット21a~21eのそれぞれの共鳴周波数(f,f,f,f,f)と同じ周波数(f,f,f,f,f)の電磁波の入力に応答して、磁気抵抗効果を発現している磁性多層膜ドットの共鳴周波数と同じ周波数の交流信号を出力する。すなわちこのフィルタ機能を有するデバイスは、共鳴周波数(f,f,f,f,f)と同じ周波数の電磁波そのものをバンドパスさせるのではなく、共鳴周波数(f,f,f,f,f)と同じ周波数の電磁波が入力されたときに、これに対応する磁性多層膜ドットが磁気抵抗効果を発現し、共鳴周波数と同じ周波数の交流信号を出力する。コンデンサCは、信号線23から印加された直流電圧をカットして、磁性多層膜ドットが発生する交流信号のみを出力する。具体的には、この例では、全ての磁性多層膜ドット21a~21eの磁化状態が反平行状態になっているため、全ての磁性多層膜ドットは共鳴周波数と同じ電磁波が入力されたときには、磁気抵抗効果を発現して、オン状態になる。その結果、出力回路26からは各共鳴周波数と同じ周波数の交流信号の合成信号が出力される。この例では、伝送線路29を流れる周波数多重波が、周波数fの電磁波を含んでいるため、磁性多層膜ドット21bだけが磁気抵抗効果を発現し、出力回路26からは周波数電圧fの交流信号けが出力される。
【0067】
このバンドパスフィルタ機能を有する高周波デバイスにおいて、検出周波数またはフィルタ周波数を書き換え可能にするためには、複数の磁性多層膜ドット21a~21eの磁化状態を選択的に変えるために必要な磁場を、複数の磁性多層膜ドット21a~21eに選択的に印加する選択磁場発生手段を設ければよい。図19は、この選択磁場発生手段の構成の一例を示している。なお図19においては、図18に示した伝送線路29は図示していない。図19において、符号31で示した導線はビット線であり、符号33で示した導線はディジット線である。その他の構成は、図18に示したものと同じである。ビット線31とディジット線33に電流を流して発生する磁場で、対応する磁性多層膜ドットの磁化状態が変更される。ビット線31とディジット線33の双方に電流を流した場合、その交点の下に位置する磁性多層膜ドットの磁化状態は平行状態となり、磁気抵抗効果を発現しないオフ状態(OFF)となる。そしてビット線31にのみに電流を流した場合、電流が流れているビット線31の下に位置する磁性多層膜ドットの磁化状態は反平行状態となり、磁気抵抗効果を発現するオン状態(ON)となる。このような選択磁場発生手段を用いれば、磁性多層膜ドットの磁化状態を、印加する磁場の状態によって、平行状態と反平行状態のいずれかの状態にすることができる。したがって共鳴周波数の異なる複数の磁性多層膜ドットを用意しておき、複数の磁性多層膜ドットを選択的に平行状態または反平行状態とすることにより、バンドパスフィルタの周波数特性を任意に定めることが可能になる。
【0068】
図20は、本発明の第2のタイプの高周波デバイスの一種である伝送路デバイス(電磁波受信デバイス)の概略構成を示している。図20において、符号21a,21b・・は、それぞれ形状が異なっているために共鳴周波数が異なる磁性多層膜ドットである。そしてこのデバイスは、直流信号が流れる信号線23と、信号線23に電気的に入力部が接続された共鳴周波数が異なる複数の磁性多層膜ドット21a~21eからなる周波数検出部25と、1以上の磁性多層膜ドットの出力部に電気信号が現れたことを検出する出力検出回路27とを備えている。周波数検出部25は、入力部が信号線23に電気的接続された各磁性多層膜ドット21a~21eの出力部にアノードが接続されたダイオードDと、ダイオードのカソードに接続されたCMOSトランジスタTRとを含んで構成される。CMOSトランジスタTRから電圧が得られることによって、所定の周波数が検出されたか否かが分かる。
【0069】
符号29で示した線路は、様々な周波数の電磁波を含む周波数多重波が伝送されてくる伝送線路である。なおこのような伝送線路29を経ずに、到来する電磁波に対しても、図20の例では、少なくとも周波数f, f, fが含まれている周波数多重波(電磁波)が伝送されているものとする。なおこの伝送線路29は、このデバイスに必須のものではなく、伝送線路29を介さずに到来する電磁波であっても受信することは可能である。
【0070】
そしてこの高周波デバイスは、反平行状態にある磁性多層膜ドット21a~21eのそれぞれの共鳴周波数(f,f,f,f,f)と同じ周波数(f,f,f,f,f)の電磁波の入力に応答して信号を出力する。すなわちこのフィルタ機能を有するデバイスは、共鳴周波数(f,f,f,f,f)と同じ周波数の電磁波そのものを検出して出力するのではなく、共鳴周波数(f,f,f,f,f)と同じ周波数の電磁波が入力されたときに、これに対応する信号を出力する。具体的には、この例では、全ての磁性多層膜ドットの磁化状態が反平行状態になっているため、全ての磁性多層膜ドットは共鳴周波数と同じ電磁波が入力されたときには、磁気抵抗効果を発現して、オン状態になる。そして出力検出回路27においては、各磁性多層膜ドットからは共鳴周波数と同じ周波数の交流信号が出力されるものの、ダイオードDによって交流信号が直流信号に変換されて出力される。結果トランジスタTRの出力は、交流信号の振幅の大きさに応じて変わる。すなわち各磁性多層膜ドットから出力される出力電圧Vは、入力信号の振幅Hacに比例した値となる。その結果、図20(B)に示すように、図20(B)の棒グラフの高さは、各周波数の信号強度を示すことになる。
【0071】
また第2のタイプの高周波デバイスの例として、図21に示すような磁気メモリ装置がある。この磁気メモリ装置は、読み出し用の電磁波が流れる伝送線路35と、伝送線路35に沿って配置された、直流信号が流れる信号線23と、信号線23に電気的に入力部が接続された同一種類の複数の磁性多層膜ドット21からなるメモリ部22と、複数の磁性多層膜ドット21の出力部に電気信号が現れたことを検出する出力検出回路27とを備えている。なお図21には図示していないが、図19に示したデバイスと同様に、複数の磁性多層膜ドット21の磁化状態を選択的に変えるために必要な磁場を複数の磁性多層膜ドット21に選択的に印加する選択磁場発生手段を備えている。この磁気メモリ装置では、反平行状態にある磁性多層膜ドット21の共鳴周波数と同じ周波数の電磁波を読み出し用の電磁波として用いる。この磁気メモリ装置によれば、読み出し用の複雑なマトリックスを必要とすることなく、簡単に磁気メモリセルとして用いられる磁性多層膜ドットからメモリ内容の読み出しを行うことができる。実際には、出力検出回路27の各出力の電圧がHighかLowかにより読み出し結果を判定する。なお読み出し信号の信号強度は、磁化反転が生じる閾値以下とする必要がある。
【0072】
図22に示すように、本発明の第2のタイプの高周波デバイスには、更に磁気連想メモリがある。この磁気連想メモリでは、図21に示した磁気メモリ装置と異なって、反平行状態にあるときの磁気メモリセルとして用いられる磁性多層膜ドット21a~21eの共鳴周波数が全て異なっている。そして複数の磁性多層膜ドット21a~21eの出力部に現れた電気信号を加算する加算回路ADを備えている。また複数の磁性多層膜ドット21a~21eの複数の共鳴周波数を含む電磁波(周波数多重波)を読み出し用の電磁波として用いる。このようにすると、伝送線路35に読み出し用の電磁波が流されたときに、反平行状態にある磁性多層膜ドットは磁気抵抗効果を発現して、オン状態となり、出力検出回路27を構成するダイオードDの出力はHigh状態となる。出力検出回路27のダイオードDの各出力を加算回路ADで加算した値は、任意のデータ列に対するハミング距離に比例する値となる。その結果、この磁気連想メモリによれば、任意のデータ列に対するハミング距離演算が可能になる。なお加算回路ADは、オペアンプを用いたアナログ加算回路で構成すればよい。なおこの例でも、選択磁場発生手段の図示は省略してある。
【0073】
図23は、RF-ICタグや接地レベルの異なる機器間の高速無線通信に、本発明の高周波デバイスを用いる場合の概念図を示している。この考え方では、前述の高周波薄膜インダクタを用いて特定周波数の電磁波を受信し、前述の磁気抵抗効果を利用したフィルタ機能付きのデバイスにより所定の周波数の電磁波を検出する。大型の化学プラントなどでは、様々なプロセスがコンピュータ制御されている。しかし、制御コンピュータとプラント機器では接地レベルが異なるため、両者が電気的に絶縁された状態で情報のやり取りを行わなければならない。そこで磁性多層膜ドットの強磁性共鳴効果および磁気抵抗効果を利用すれば、数十GHzオーダの超高速な無線通信機能を提供することができるようになる。
【0074】
上記各実施の形態では、磁性多層膜ドットは2層の磁性層3を備えた構成として示してあるが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、更に多層の磁性層を備えていてもよいのは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、共鳴周波数を設定または変更する場合に、外部から磁場を印加し続ける必要のない各種の高周波デバイスを提供することができる。また本発明によれば、磁気抵抗効果を利用した高周波デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】(A)及び(B)は、バンドストップフィルタを構成する従来の高周波デバイスの構成と特性を示す図である。
【図2】磁性層と誘電体膜等の非磁性材料からなる非磁性層とが交互に積層されて構成されたサブμmオーダの高周波素子またはセルの構成を示す図である。
【図3】磁性層の磁化が平行状態または反平行状態にある場合の強磁性共鳴特性を示す図である。
【図4】(A)及び(B)は、磁性多層膜ドットの磁性層の磁化方向を変更する場合の例を説明するために用いる図であり、(C)は一軸磁気異方性Kuの値の相違に対する、磁化方向を変えるのに必要とされる一軸磁気異方性Kuの方向と外部磁界Hの方向との間の角度θの関係を示す図である。
【図5】一軸磁気異方性が異なる系に対して計算した共鳴周波数のパターンサイズ依存性を示す図である。
【図6】交流磁界を印加し始めてから共鳴状態に達するまでの時間trespのダンピング定数α依存性を示す図である。
【図7】(A)は磁性多層膜ドットを用いたリコンフィギャラブルなバンドストップフィルタの実施の形態の一例の構成を概念的に示す図であり、(B)は使用する磁性多層膜ドットの磁性層の磁化方向を変更する選択磁場発生手段の構成の一例を示す図である。
【図8】(A)乃至(E)は、接地導体の設け方の異なる例を示す図である。
【図9】磁化方向が平行状態にある場合と反平行状態にあるときの、入力電圧と出力電圧との比の変化を周波数に対して示す図である。
【図10】(A)は伝送線路に周波数多重波を入力した際の磁性多層膜ドットの選択応答特性を説明するために用いる図であり、(B)はcell 1~cell 9の磁性多層膜ドットの強磁性共鳴特性を示す図である。
【図11】周波数多重信号に対する選択応答シミュレーションの結果を示す図である。
【図12】複数の通過周波数を持つバンドパスフィルタの構造を概念的に示す図である。
【図13】(A)及び(B)は、システムインパッケージにおけるチップ間通信への応用を説明するために用いる図である。
【図14】リコンフィギュラブルな高周波薄膜インダクタの構成を説明するために用いる図である。
【図15】リコンフィギュラブルな高周波薄膜インダクタの他の例の構成を説明するために用いる図である。
【図16】(A)及び(B)は、リコンフィギュラブルな高周波薄膜インダクタの更に他の例の構成を説明するために用いる図である。
【図17】(A)及び(B)は、磁気抵抗効果による磁化状態と電気抵抗との関係を説明するために用いる図である。
【図18】(A)はバンドパスフィルタ機能を有する高周波デバイスの概略構成を示す図であり、(B)は出力特性の例を示す図である。
【図19】選択磁場発生手段の構成の一例を説明するために用いる図である。
【図20】(A)及び(B)は、電磁波受信デバイスとして機能する高周波デバイスの動作を説明するために用いる図概略構成を示す図である。
【図21】磁気メモリ装置の読み出し法を説明するために用いる図である。
【図22】本発明を適用した磁気連想メモリの構成を概略的に示す図である。
【図23】高速無線通信に本発明の高周波デバイスを適用した例を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図7】
4
【図9】
5
【図10】
6
【図11】
7
【図12】
8
【図13】
9
【図14】
10
【図15】
11
【図16】
12
【図17】
13
【図18】
14
【図19】
15
【図20】
16
【図21】
17
【図22】
18
【図23】
19
【図5】
20
【図6】
21
【図8】
22