TOP > 国内特許検索 > 液晶構造を有するゲルの製造方法及びこの方法で製造された液晶構造を有するゲル > 明細書

明細書 :液晶構造を有するゲルの製造方法及びこの方法で製造された液晶構造を有するゲル

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5103630号 (P5103630)
登録日 平成24年10月12日(2012.10.12)
発行日 平成24年12月19日(2012.12.19)
発明の名称または考案の名称 液晶構造を有するゲルの製造方法及びこの方法で製造された液晶構造を有するゲル
国際特許分類 C08J   3/075       (2006.01)
C08L   5/00        (2006.01)
C08L  89/00        (2006.01)
FI C08J 3/075 CEP
C08J 3/075 CFJ
C08L 5/00
C08L 89/00
請求項の数または発明の数 14
全頁数 24
出願番号 特願2008-507461 (P2008-507461)
出願日 平成19年3月23日(2007.3.23)
国際出願番号 PCT/JP2007/055957
国際公開番号 WO2007/111232
国際公開日 平成19年10月4日(2007.10.4)
優先権出願番号 2006083289
優先日 平成18年3月24日(2006.3.24)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年11月7日(2008.11.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
発明者または考案者 【氏名】土橋 敏明
【氏名】山本 隆夫
【氏名】古澤 和也
個別代理人の代理人 【識別番号】100085372、【弁理士】、【氏名又は名称】須田 正義
審査官 【審査官】芦原 ゆりか
参考文献・文献 国際公開第2006/025244(WO,A1)
特開2002-018270(JP,A)
国際公開第2002/010262(WO,A1)
特開2006-096987(JP,A)
特開2007-084615(JP,A)
調査した分野 C08J 3/00-28
C08L
C08K
B01J 13/00
特許請求の範囲 【請求項1】
水又は塩を含む水溶液に水溶性高分子を溶解して水溶性高分子溶解液を調製する工程と、
前記高分子溶解液を化学架橋剤を含む水溶液中で透析し、これにより、水溶性高分子を主成分とする、液晶構造を有するゲルを得る工程と
を含むゲルの製造方法であって、
前記水溶性高分子が、水溶性生体高分子とこの水溶性生体高分子の誘導体と水溶性合成高分子とからなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子であり、前記水溶性生体高分子が核酸、多糖類、タンパク質、変性タンパク質及びポリアミノ酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子であり、前記水溶性合成高分子がポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸及びポリスチレンスルホン酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子であり、
前記化学架橋剤が、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、エチレングリコールジグリジシルエーテル及びエピクロロヒドリンからなる群より選ばれた1種又は2種以上であり、
前記液晶構造を有するゲルを得る工程が、
前記高分子溶解液を半透膜からなる透析チューブに充填して密封する工程と、
所定温度に保持された第1恒温槽中において前記高分子溶解液が充填されたチューブを前記化学架橋剤を含む水溶液中に浸漬して前記チューブ内の高分子溶解液を透析した後に、前記第1恒温槽より低い温度に保持された第2恒温槽中に前記チューブを前記水溶液とともに移して、前記第2恒温槽中において前記チューブ内の高分子溶解液を透析し、更に前記チューブを前記水溶液とともに再び前記第1恒温槽中に移して、前記第1恒温槽中において前記チューブ内の高分子溶解液を透析することを繰返すことにより、チューブ長手方向に垂直な断面で観察したときに同心円状の多層構造を有する円筒状のゲルを前記チューブ内に形成する工程と、
前記ゲルを前記チューブより取り出して水洗することにより、中実な円柱状又は円柱中心部をくりぬいた円筒状のゲルを得る工程と
を含むことを特徴とするゲルの製造方法。
【請求項2】
水又は塩を含む水溶液に水溶性高分子を溶解して水溶性高分子溶解液を調製する工程と、
前記高分子溶解液を化学架橋剤を含む水溶液中で透析し、これにより、水溶性高分子を主成分とする、液晶構造を有するゲルを得る工程と
を含むゲルの製造方法であって、
前記水溶性高分子が、水溶性生体高分子とこの水溶性生体高分子の誘導体と水溶性合成高分子とからなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子であり、前記水溶性生体高分子が核酸、多糖類、タンパク質、変性タンパク質及びポリアミノ酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子であり、前記水溶性合成高分子がポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸及びポリスチレンスルホン酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子であり、
前記化学架橋剤が、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、エチレングリコールジグリジシルエーテル及びエピクロロヒドリンからなる群より選ばれた1種又は2種以上であり、
前記液晶構造を有するゲルを得る工程が、
所定温度に保持された第1恒温槽中において前記化学架橋剤を含む水溶液中に前記高分子溶解液をシリンジ、ノズル又はマイクロピペットにより滴下して液滴全周囲に半透膜を形成することにより球状のゲルを形成する工程と、
前記第1恒温槽より低い温度に保持された第2恒温槽中に前記球状のゲルを前記水溶液とともに移して、前記第2恒温槽中において前記球状のゲル内の高分子溶解液を透析した後に、前記球状のゲルを前記水溶液とともに再び前記第1恒温槽中に移して、前記第1恒温槽中において前記球状のゲル内の高分子溶解液を透析することを繰返すことにより、直径断面で観察したときに同心円状の多層構造を有する球状のゲルを形成する工程と
を含むことを特徴とするゲルの製造方法。
【請求項3】
水又は塩を含む水溶液に水溶性高分子を溶解して水溶性高分子溶解液を調製する工程と、
前記高分子溶解液を化学架橋剤を含む水溶液中で透析し、これにより、水溶性高分子を主成分とする、液晶構造を有するゲルを得る工程と
を含むゲルの製造方法であって、
前記水溶性高分子が、水溶性生体高分子とこの水溶性生体高分子の誘導体と水溶性合成高分子とからなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子であり、前記水溶性生体高分子が核酸、多糖類、タンパク質、変性タンパク質及びポリアミノ酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子であり、前記水溶性合成高分子がポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸及びポリスチレンスルホン酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子であり、
前記化学架橋剤が、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、エチレングリコールジグリジシルエーテル及びエピクロロヒドリンからなる群より選ばれた1種又は2種以上であり、
前記液晶構造を有するゲルを得る工程が、
前記高分子溶解液を第1平板上に滴下した後、別の第2平板を被せて滴下した高分子溶解液を平坦化する工程と、
所定温度に保持された第1恒温槽中において前記第1平板及び第2平板の間に挟まれた高分子溶解液を前記化学架橋剤を含む水溶液中に浸漬して前記高分子溶解液の前記第1平板及び第2平板に被覆されない部分に半透膜を形成することにより板状又はフィルム状のゲルを形成した後に、前記第1恒温槽より低い温度に保持された第2恒温槽中に前記板状又はフィルム状のゲルを前記水溶液とともに移して、前記第2恒温槽中において前記板状又はフィルム状のゲル内の高分子溶解液を透析し、更に前記板状又はフィルム状のゲルを前記水溶液とともに再び前記第1恒温槽中に移して、前記第1恒温槽中において前記板状又はフィルム状のゲル内の高分子溶解液を透析することを繰返すことにより、板表面又はフィルム表面で観察したときに同心円状の多層構造を有し各層において中心から高分子が放射状に配向した板状又はフィルム状のゲルを前記第1平板及び第2平板の間に形成する工程と、
前記ゲルを前記第1及び第2平板より取り出して水洗することにより板状又はフィルム状のゲルを得る工程と
を含むことを特徴とするゲルの製造方法。
【請求項4】
水又は塩を含む水溶液に水溶性高分子を溶解して水溶性高分子溶解液を調製する工程と、
前記高分子溶解液を化学架橋剤を含む水溶液中で透析し、これにより、水溶性高分子を主成分とする、液晶構造を有するゲルを得る工程と
を含むゲルの製造方法であって、
前記水溶性高分子が、水溶性生体高分子とこの水溶性生体高分子の誘導体と水溶性合成高分子とからなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子であり、前記水溶性生体高分子が核酸、多糖類、タンパク質、変性タンパク質及びポリアミノ酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子であり、前記水溶性合成高分子がポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸及びポリスチレンスルホン酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子であり、
前記化学架橋剤が、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、エチレングリコールジグリジシルエーテル及びエピクロロヒドリンからなる群より選ばれた1種又は2種以上であり、
前記液晶構造を有するゲルを得る工程が、
所定温度に保持された第1恒温槽中において前記高分子溶解液をシリンジ又はノズルにより前記化学架橋剤を含む水溶液中に押出して前記水溶液中で棒状又は繊維状全周囲に半透膜を形成することにより棒状又は繊維状のゲルを形成する工程と、
前記第1恒温槽より低い温度に保持された第2恒温槽中に前記棒状又は繊維状のゲルを前記水溶液とともに移して、前記第2恒温槽中において前記棒状又は繊維状のゲル内の高分子溶解液を透析した後に、前記棒状又は繊維状のゲルを前記水溶液とともに再び前記第1恒温槽中に移して、前記第1恒温槽中において前記棒状又は繊維状のゲル内の高分子溶解液を透析することを繰返すことにより、長手方向に垂直な断面で観察したときに同心円状の多層構造を有する棒状又は繊維状のゲルを形成する工程と、
前記ゲルを前記水溶液より取り出して水洗することにより、中実又は中空の棒状又は繊維状のゲルを得る工程と
を含むことを特徴とするゲルの製造方法。
【請求項5】
化学架橋剤を含む水溶液中の化学架橋剤の濃度が0.1重量%以上かつ飽和濃度以下である請求項1ないし4いずれか1項に記載のゲルの製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか1項に記載の方法により製造され、水溶性高分子からなる円筒状、球状、板状、フィルム状、棒状又は繊維状の液晶構造を有するゲル。
【請求項7】
タンパク質を含むとき、前記タンパク質がミオシン、ゼラチン又はコラーゲンであり、多糖類がカードラン又はキトサンであり、核酸がDNA又はRNAである請求項記載の液晶構造を有するゲル。
【請求項8】
円筒状、棒状又は繊維状に形成され、長手方向に垂直な断面で観察したときに中心から高分子が放射状に配向した請求項記載の液晶構造を有するゲル。
【請求項9】
長手方向に垂直な断面で観察したときに同心円状の多層構造を有する請求項記載の液晶構造を有するゲル。
【請求項10】
球状に形成され、直径断面で観察したときに中心から高分子が放射状に配向した請求項記載の液晶構造を有するゲル。
【請求項11】
直径断面で観察したときに同心円状の多層構造を有する請求項10記載の液晶構造を有するゲル。
【請求項12】
板状又はフィルム状に形成され、板表面又はフィルム表面で観察したときに中心から高分子が放射状に配向した請求項記載の液晶構造を有するゲル。
【請求項13】
板表面又はフィルム表面で観察したときに同心円状の多層構造を有する請求項12記載の液晶構造を有するゲル。
【請求項14】
タンパク質を含むとき、前記タンパク質がミオシン、ゼラチン又はコラーゲンであり、多糖類がカードラン又はキトサンであり、核酸がDNA又はRNAである請求項1ないし4いずれか1項に記載のゲルの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の高分子溶液を化学架橋剤の水溶液中に透析又は浸漬することによって、液晶構造を有するゲル(以下、「液晶ゲル」という。)を製造する方法と、この方法で製造された液晶ゲルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
DNA(deoxyribonucleic acid; デオキシリボ核酸)が二重らせん構造を持つことは周知である。水溶液中のDNAは約1.5Åごとにマイナス電荷を持つ持続長約500Åの電解質高分子に分類される。またDNAの2重らせん構造における塩基対層及び大きな溝(major groove)には平面化学構造を持つ芳香族化合物の選択的吸着性があることが知られている。
【0003】
従来、支持体上の水溶性DNA(例えば、サケの精巣由来のDNA)の水溶液若しくはその液膜、又は支持体上の水溶性DNAの薄層、或いは支持体上の水溶性DNAの溶液の液膜の濃縮ないし乾固により得られた薄層に、波長が250~270nmの範囲の紫外線を照射することにより、支持体に水溶性DNAの水不溶性架橋重合体を固定する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この方法によれば、紫外線によりサケの精巣由来のDNAに架橋反応を起こさせて水に対して不溶化し、この不溶化技術により平面化学構造を持つ芳香族化合物よりなる発がん物質及び環境ホルモンを吸着することができる。
【0004】
一方、本出願人は、カードランやDNAなどの高分子水溶液を金属カチオン水溶液中に透析して液晶ゲルを製造する液晶ゲルの製造方法を特許出願した(特願2004-249638、国際特許出願PCT/JP2005/015395参照。)。これらの透析を用いて製造された液晶ゲルのうち、特にカードランからなる液晶ゲルは、その特徴的な液晶構造を利用した光学部品や、薬物担体への応用が期待されている。またDNAからなる液晶ゲルはDNAの持つ環境汚染物質吸着機能を利用した環境浄化材料への応用が期待されている。
[0005]
特許文献1:特開2001-81098(特許請求の範囲、[0019][0022])
発明の開示
発明が解決しようとする課題
[0006]
しかし、上記従来の特許文献1に記載された紫外線照射による水不溶性DNA架橋体の製造方法では、紫外線を用いてDNAを架橋反応させるために、DNAに長時間紫外線を照射する必要があり、大量生産に適しない問題点があった。またこの方法は、本発明のような光学特性のある高分子自体がゲル化機能と液晶形成機能を併せ持つように液晶ゲルを製造するものではない。
[0007]
また、本出願人の出願した上記液晶ゲルの製造方法では、金属イオンと高分子の間のクーロン力や水素結合などの物理結合に起因する物理ゲルであると考えられるため、水中に長期間保持すると、金属イオンの溶出によって、弾性率や複屈折などの物性が低下するおそれがある。
[0008]
本発明の第1の目的は、水溶性高分子自体がゲル化機能と液晶形成機能を併せ持ち、光学特性のある種々の水溶性高分子を主成分とする水に不溶な液晶ゲルの製造方法及びその液晶ゲルを提供することにある。
[0009]
本発明の第2の目的は、高分子溶解液を、化学架橋剤を含む水溶液中に透析又は浸漬することにより、外部環境に対して比較的安定な液晶物性及び力学物性を得ることができる液晶ゲルの製造方法及びその液晶ゲルを提供することにある。
[0010]
本発明の第3の目的は、従来の技術では成し得なかった高分子の化学架橋剤を用いた液晶ゲル化を可能とし、水溶性高分子を主成分とする液晶ゲルを安価にかつ量産可能に製造できる液晶ゲルの製造方法及びその液晶ゲルを提供することにある。
課題を解決するための手段
【0011】
請求項1に係る発明は、水又は塩を含む水溶液に水溶性高分子を溶解して水溶性高分子溶解液を調製する工程と、この高分子溶解液を化学架橋剤を含む水溶液中で透析し、これにより、水溶性高分子を主成分とする、液晶構造を有するゲルを得る工程とを含むゲルの製造方法であって、水溶性高分子が、水溶性生体高分子とこの水溶性生体高分子の誘導体と水溶性合成高分子とからなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子であり、水溶性生体高分子が核酸、多糖類、タンパク質、変性タンパク質及びポリアミノ酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子であり、水溶性合成高分子がポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸及びポリスチレンスルホン酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子であり、化学架橋剤が、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、エチレングリコールジグリジシルエーテル及びエピクロロヒドリンからなる群より選ばれた1種又は2種以上であり、液晶構造を有するゲルを得る工程が、高分子溶解液を半透膜からなる透析チューブに充填して密封する工程と、所定温度に保持された第1恒温槽中において高分子溶解液が充填されたチューブを化学架橋剤を含む水溶液中に浸漬してチューブ内の高分子溶解液を透析した後に、第1恒温槽より低い温度に保持された第2恒温槽中にチューブを上記水溶液とともに移して、第2恒温槽中においてチューブ内の高分子溶解液を透析し、更にチューブを上記水溶液とともに再び第1恒温槽中に移して、第1恒温槽中においてチューブ内の高分子溶解液を透析することを繰返すことにより、チューブ長手方向に垂直な断面で観察したときに同心円状の多層構造を有する円筒状のゲルをチューブ内に形成する工程と、上記ゲルをチューブより取り出して水洗することにより、中実な円柱状又は円柱中心部をくりぬいた円筒状のゲルを得る工程とを含むことを特徴とするゲルの製造方法である。
[0012]
本発明における「液晶ゲル」とは、水溶性高分子の凝集状態が液晶であるとともにゲルであるものをいう。
【0013】
請求項に係る発明は、請求項1ないしいずれか1項に記載の方法により製造され、水溶性高分子からなる円筒状、球状、板状、フィルム状、棒状又は繊維状の液晶構造を有するゲルである。
【発明の効果】
【0014】
本願請求項1に係る液晶ゲルの製造方法では、水又は塩の水溶液に水溶性高分子を溶解して水溶性高分子溶解液を調製し、この高分子溶解液を化学架橋剤を含む水溶液中で透析することにより、円筒状に液晶ゲルが形成される。この液晶ゲルは水に不溶性であって、高分子自体がゲル化機能と液晶形成機能を併せ持つ特徴を有する。
[0015]
製造時に塩の濃度、水溶性高分子の濃度、化学架橋剤の濃度を変えることにより、上記液晶ゲルにおいて力学物性及び光学特性を制御することができる。また高分子溶解液を化学架橋剤を含む水溶液中で透析するという簡単な操作で、水に不溶な液晶ゲルが得られる。この方法は量産に適する特長があるとともにより広範な高分子への液晶ゲル化技術の応用が可能である。
【0016】
本願請求項に係る水溶性高分子を主成分とする液晶ゲルは、円筒状、球状、板状、フィルム状、棒状又は繊維状に形成され、長手方向に垂直な断面、直径断面又は板表面若しくはフィルム表面で観察したときに中心から高分子が放射状に配向する。第一にこの液晶ゲルは化学反応によって調製される化学ゲルであることから、従来の液晶ゲルで懸念された機械物性や光学物性の低下を防ぐことが可能である。第二にこの液晶ゲルは溶媒を変更することによってその機械物性や光学物性を変化することが従来技術によって調製される液晶ゲルよりも効果的に制御することが可能である。第三に液晶ゲル化を誘起するのに適したポリマーもしくは化学架橋剤をデザインすることで様々な材料を液晶ゲル化することが可能である。
[0017]
また本出願人が既に出願した液晶ゲル、即ちカードランやDNAなどの高分子水溶液を金属カチオン水溶液中に透析して製造された液晶ゲルはイオン結合性のゲルであるのに対し、本発明の液晶ゲルは共有結合性のゲルであるため、本発明の液晶ゲルでは、液晶ゲルを作ることのできる高分子の範囲が拡がるとともに、丈夫で過酷な条件にも耐え得る液晶ゲルを作製できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明実施の形態の中実な円柱状液晶ゲルの分子構造を示す断面模式図である。
【図2】図1の液晶ゲルをクロスニコルの下で観察した図である。
【図3】実施例3、7及び11の液晶ゲルの光学物性の一つである複屈折率Dnの液膜中心からの距離による変化を示す図である。
【図4】実施例4、8及び12の液晶ゲルの光学物性の一つである複屈折率Dnの液膜中心からの距離による変化を示す図である。
【図5】液晶ゲルの複屈折率Δnを測定する複屈折測定装置の構成図である。
【図6】液晶ゲル化した直後の実施例15及び比較例21の液晶ゲルの薄膜の応力-ひずみ曲線である。
【図7】実施例15及び比較例21の液晶ゲルの薄膜を40℃で半日間それぞれ温めた後の実施例16及び比較例22の液晶ゲル薄膜の応力-ひずみ曲線である。
【図8】液晶ゲル化した直後の実施例15の液晶ゲルの薄膜と、温めた後の実施例16の液晶ゲルの薄膜の応力-ひずみ曲線である。
【図9】液晶ゲル化した直後の比較例21の液晶ゲルの薄膜と、温めた後の比較例22の液晶ゲルの薄膜の応力-ひずみ曲線である。
【図10】実施例17の液晶ゲルをクロスニコルの下で観察した図である。
【図11】実施例19~21及び比較例9の液晶ゲルを溶媒置換前及び溶媒置換後において自然光及びクロスニコルの下で観察した図である。
【図12】実施例19~21の液晶ゲルの複屈折率Δnを溶媒置換前及び溶媒置換後において比較した図である。
【図13】実施例19~21の液晶ゲルのヤング率を溶媒置換前及び溶媒置換後において比較した図である。
【図14】実施例22及び比較例10の液晶ゲルをクロスニコルの下で観察した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の最良の実施の形態について説明する。
【0020】
本発明の液晶ゲルの主成分は、水溶性生体高分子と、この水溶性生体高分子の誘導体と、水溶性高分子とからなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子である。液晶ゲルに含まれる水溶性高分子としては、核酸、多糖類、タンパク質、変性タンパク質及びポリアミノ酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子、又はこれらの誘導体、或いはこれらの組合せが挙げられる。核酸としては、DNA、RNA(ribonucleic acid; リボ核酸)、或いはDNA及びRNAの組合せが挙げられる。多糖類を例示すれば、甲殻類の外殻の主成分であるキチンやキトサン、微生物によって生産される発酵多糖類のカードラン、スエヒロタケによって生産されるシゾフィラン等が挙げられる。多糖類の誘導体を例示すれば、セルロースの誘導体であるメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。またタンパク質を例示すれば、コラーゲン、ミオシン等が挙げられ、変性タンパク質を例示すれば、ゼラチン等が挙げられ、ポリアミノ酸を例示すれば、ポリグルタミン酸、ポリリジン等が挙げられる。更に水溶性合成高分子を例示すれば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸及びポリスチレンスルホン酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の高分子が挙げられる。これらの高分子の分子量を制御することで調製される製品を、用途に適したものに最適化することが可能である。
【0021】
上記液晶ゲルの組合せの重量割合は、液晶ゲルの主成分となる棒状若しくは半屈折性の水溶性高分子を100重量%とするとき、副成分となる棒状高分子(rod-like polymer)1~400重量%、好ましくは1~100重量%、半屈曲性高分子(semi-flexible polymer)1~150重量%、好ましくは1~100重量%である。ここで、棒状高分子を1~400重量%の範囲に限定したのは、下限値未満では2種以上の水溶性高分子を組合せることによって得られる効果が低減されてしまい、上限値を超えると液晶ゲルの主成分となる水溶性高分子とこの水溶性高分子と組合せられる棒状高分子との間で凝集体が形成され沈殿してしまうからである。また半屈曲性高分子を1~400重量%の範囲に限定したのは、下限値未満では2種以上の水溶性高分子を組合せることによって得られる効果が低減されてしまい、上限値を超えると液晶ゲルの主成分となる水溶性高分子とこの水溶性高分子と組合せられる半屈曲性高分子との間で凝集体が形成され沈殿が生じたり、液晶ゲルの主成分となる水溶性高分子の配向を妨げるなどの不具合が生じるからである。
【0022】
また液晶ゲルの形状は、柱状、筒状、棒状、繊維状、球状、板状又はフィルム状であり、液晶ゲルの形態は三次元的構造を持つ。柱状、筒状、棒状又は繊維状に形成された場合、液晶ゲルは、長手方向に垂直な断面で観察したときに中心から放射状に配向した水溶性高分子を主成分とする。この液晶ゲルには長手方向に垂直な断面で観察したときに同心円状の多層構造を有するゲルも含む。また球状に形成された場合、液晶ゲルは、直径断面で観察したときに中心から放射状に配向した水溶性高分子を主成分とする。この液晶ゲルには直径断面で観察したときに同心円状の多層構造を有するゲルも含む。更に板状又はフィルム状に形成された場合、液晶ゲルは、板表面又はフィルム表面で観察したときに中心から放射状に配向した水溶性高分子を主成分とする。この液晶ゲルには板表面又はフィルム表面で観察したときに同心円状の多層構造を有するゲルも含む。基本的には、これらの水溶性高分子を主成分とする液晶ゲルは、水又は塩の水溶液に水溶性高分子を溶解して高分子溶解液を調製した後、この高分子溶解液を化学架橋剤を含む水溶液中で透析することにより得られる。
【0023】
(a) 第1の液晶ゲルの製造方法(円筒状又は円柱状の液晶ゲルの製造方法)
水溶性高分子として分子量30万のゼラチンを、これを溶解する溶媒として水を、それぞれ代表して説明する。
【0024】
先ずゼラチンを水に溶解してゼラチン溶解液を調製する。本発明の液晶ゲルを製造するために、ゼラチンを水に対して5~30重量%、好ましくは20~30重量%添加する。ゼラチンの添加量が下限値未満では液晶ゲルが形成されず、上限値を超えると粘度が増加し均質な溶液を得ることが困難になる。次いで得られたゼラチン溶解液を40℃に加熱しゾル化して半透膜からなる透析チューブに充填する。充填前にチューブの下端は封止される。半透膜としては、特に制限はないが化学架橋剤によって溶解しない素材を選ぶ必要がある。酢酸セルロース、ポリメチルメタクリレート等が例示されるが、セルロース系の透析チューブが好ましい。ここで透析チューブの膜厚及び直径により、ゲル化の速度及び得られるゲルの液晶性と層構造が変化する。最終的に得られる円筒状液晶ゲルの外径はチューブの直径に依存する。チューブの直径及び長さは液晶ゲルの用途に応じて決められる。例えば直径6mm~10cmの範囲から選択され、このチューブからは外径6mm~10cmで内径0mm~4cm(厚さ1.8mm~3cm)の円筒状又は円柱状の液晶ゲルが得られる。ゼラチン溶解液をチューブに充填した後、チューブの上端を封止することにより、ゼラチン溶解液がチューブに充填密封される。
【0025】
次にチューブに充填密封されたゼラチン溶解液を、冷所(4℃)に保存して適当な時間だけ物理ゲル化させる。その後、チューブに充填密封されたゼラチン溶解液を化学架橋剤(グルタルアルデヒドやエチレングリコールジグリジシルエーテルなど)を含む水溶液中に浸漬する。浸漬後、化学架橋剤がチューブ内に拡散してゼラチン溶解液を化学ゲル化させ、更にこの過程において液晶化が起こる。このときの化学架橋剤としては、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド又はエチレングリコールジグリジシルエーテルがゼラチンを化学架橋する点において適する。化学架橋剤を含む水溶液中の化学架橋剤の濃度は0.1重量%以上かつ飽和濃度以下であることが好ましく、20~40重量%の範囲内であることがより好ましい。化学架橋剤を含む水溶液中の化学架橋剤の濃度が下限値未満ではゲルが形成できず、上限値を超えるとゲルの著しい収縮による液晶の歪み等の不具合を生じる。またこの水溶液の温度は0℃以上かつゼラチンのゾル-ゲル転移温度以下であることが好ましく、0~20℃の範囲内であることがより好ましい。上記水溶液の温度が下限値未満では化学架橋剤の拡散速度が小さく、また凝固してしまう不具合があり、上限値を超えると液晶ゲル化が起こらなかったり、また配向度が小さくなるなどの機能低下が生じる。上記透析によりチューブ内に、このチューブの直径に応じた直径の円柱体が形成される。一般的に、透析時間を短くすると、円柱体の中心がゾルでその周囲が液晶ゲルになる。反対に透析時間を長くするか、ゼラチン濃度を高めるか、或いは化学架橋剤水溶液中の化学架橋剤の濃度を高めることにより、中実な円柱状液晶ゲルが形成される。即ち、円柱体の中心がゾルである場合、この円柱体をチューブから取り出して水洗すると、ゾルの部分が除去され、円筒状の液晶ゲルが得られる。また円柱体の全てがゲルの場合、この円柱体をチューブから取り出して水洗すると、中実な円柱状の液晶ゲルが形成される。例えば、透析チューブの直径が12mmであり、ゼラチン濃度が30重量%であり、グルタルアルデヒドが25重量%であるという条件下では、透析時間が0~240分であると円筒状の液晶ゲルが形成され、透析時間が240分以上であると円柱状の液晶ゲルが形成される。
【0026】
円筒状の液晶ゲルを長手方向に垂直に切断し切断面を自然光で観察すると、図1の模式図に示すように、パイナップル果実の横断面のように、同心円状であってかつ中心から高分子が放射状に配向している。一方、クロスニコル下で観察すると、図2に示すように、十字線が現れ、このゲルが液晶構造を有することが立証される。この十字線はゼラチン分子又はその凝集体が中心から規則正しく配向していることを示す。
【0027】
また円筒状又は円柱状の液晶ゲルを長手方向に垂直な断面で観察したときに同心円状の多層構造にするためには、次の方法により行う。先ずゼラチン溶解液をチューブ内に充填し円柱体を形成する。次いでこの円柱体を、10~50℃の範囲内の所定温度(例えば、40℃)に保った第1恒温槽において、化学架橋剤水溶液中に10~20分間浸漬して上記円柱体内のゼラチン溶解液を透析する。具体的には、容器に化学架橋剤を含む水溶液を貯留し、この化学架橋剤水溶液に円柱体を浸漬し、この状態で容器を第1恒温槽に入れて、円柱体内のゼラチン溶解液を透析する。次に第1恒温槽より5~40℃、好ましくは10~20℃低い温度(例えば、20℃)に保持された第2恒温槽中に、上記円柱体を化学架橋剤水溶液とともに容器ごと移して、この第2恒温槽中において円柱体内のゼラチン溶解液を10~20分間透析する。更にこの円柱体を化学架橋剤水溶液とともに容器ごと再び第1恒温槽中に移して、第1恒温槽中において円柱体内のゼラチン溶解液を10~20分間透析する。このように温度の異なる条件下において円柱体の透析を繰返すことにより、長手方向に垂直な断面で観察したときに同心円状の多層構造を有する円筒状又は円柱状の液晶ゲルをチューブ内に形成することができる。上記第1恒温槽及び第2恒温槽に貯留される熱媒体はどのような液体又は気体であってもよいが、水が好ましい。ここで、第1恒温槽内の熱媒体の温度を10~50℃の範囲内に限定したのは、10℃未満では第2恒温槽内の熱媒体の温度設定が難しくなり、50℃を超えるとタンパク質などの生体高分子が変性したり、化学架橋剤が過剰に揮発してしまうからである。また第2恒温槽内の熱媒体の温度を第1恒温槽内の熱媒体の温度より5~40℃低くしたのは、5℃未満では明確な多層構造が得られず、40℃を超えると溶液が凍結してしまうおそれがあるからである。なお、チューブを所定温度の化学架橋剤を含む水溶液に浸漬する工程と、この水溶液からチューブを取り出して大気中に5~30分間放置する工程と、このチューブを上記水溶液に再び浸漬する工程とを繰返すことにより、チューブ長手方向に垂直な断面で観察したときに同心円状の多層構造を有する円筒状のゲルをチューブ内に形成してもよい。
【0028】
(b) 第2の液晶ゲルの製造方法(球状の液晶ゲルの製造方法)
第1の製造方法と同様に水溶性高分子としてゼラチンを、これを溶解する溶媒として水を、それぞれ代表して説明する。
【0029】
先ずゼラチンを水に溶解してゼラチン溶解液を調製する。本発明の液晶ゲルを製造するために、ゼラチンを水に添加する。このゼラチン溶解液を調製するときのゼラチン溶解液中のゼラチンの濃度は、半透膜を自己形成させるために、半透膜を形成している間、界面張力により形を球状に保てる程度の粘性が必要であるという点で第1の製造方法と異なる。
【0030】
第2の製造方法では、半透膜からなる透析チューブの代わりにシリンジ(syringe)、ノズル、スプレー又はマイクロピペットを用いる。最終的に得られる球状液晶ゲルの外径はシリンジ等の吐出口の口径に依存する。このシリンジ等の吐出口の口径は液晶ゲルの用途に応じて決められる。例えば、1μm~1mmの範囲から選択され、このシリンジ等からは外径100μm~4mmの球状の液晶ゲルが得られる。ゼラチン溶解液をシリンジ等に充填した後、吐出口を下方に向けてシリンジ等を化学架橋剤を含む水溶液の液面より1~15cm上方の所定の位置に固定する。
【0031】
次いでシリンジ等の内部を加圧することにより、シリンジ等に充填されたゼラチン溶解液を化学架橋剤を含む水溶液中に滴下させる。この際、化学架橋剤を含む水溶液の温度を4~10℃の低温に保っておくことが好ましい。ゼラチン溶解液が液滴の形態で水溶液中に浮遊する間において液滴全周囲に半透膜が形成される。この状態を維持すると、液滴を構成していたゼラチン溶解液が透析され、球状の液晶ゲルが形成される。シリンジ等の吐出口の口径に応じた外径の球状液晶ゲルが形成される。
【0032】
この球状液晶ゲルを半球になるように直径方向に切断し切断面を観察すると、図示しないが、球状液晶ゲルは、外殻を有し、同心円状であって、かつゼラチンなどの高分子は中心から放射状に配向している。この液晶ゲル内部中心にはゲル化していないゾル部分が存在する場合もある。この構造が形成されるメカニズムは円筒状液晶ゲルと同じである。
【0033】
また球状液晶ゲルを直径断面で観察したときに同心円状の多層構造とするためには、次の方法により行う。先ず10~50℃の範囲内の所定温度(例えば、40℃)に保たれた第1恒温槽中において、化学架橋剤を含む水溶液中にゼラチン溶解液を滴下して1~5分間浸漬することにより、球状のゲルを調製する。具体的には、化学架橋剤を含む水溶液を貯留した容器を第1恒温槽に入れた状態で、容器内の化学架橋剤水溶液にゼラチン溶解液を滴下して浸漬することにより球状のゲルを調製する。次にこの球状のゲルを化学架橋剤水溶液とともに容器ごと、第1恒温槽より5~40℃、好ましくは10~20℃低い温度(例えば、20℃)に保たれた第2恒温槽に入れ、球状のゲル内のゼラチン溶解液を1~5分間透析する。更に上記球状のゲルを化学架橋剤水溶液とともに容器ごと再び第1恒温槽中に移して、第1恒温槽中において球状のゲル内のゼラチン溶解液を1~5分間透析する。このように温度の異なる条件下において球状のゲルの透析を繰返すことにより、直径断面で観察したときに同心円状の多層構造を有する球状の液晶ゲルを形成することができる。このゲル又はゲルの内側のゾル層に薬剤を含ませて、ゲルを体内に入れると、その薬剤を体内で徐々に放出することができる。即ち、ゲル又はゲルの内側のゾル層の外層に含まれていた薬剤が体内に放出されると、外層の次の内側の層に含まれていた薬剤が外層に移行し、その外層から体内に放出される。この内層から外層にかけて薬剤が移行することにより、体内に入った薬剤が徐々に放出される。なお、球状液晶ゲルを所定温度の化学架橋剤を含む水溶液に浸漬する工程と、この水溶液から球状液晶ゲルを取り出して大気中に5~30分間放置する工程と、この球状液晶ゲルを上記水溶液に再び浸漬する工程とを繰返すことにより、直径断面で観察したときに同心円状の多層構造を有する球状の液晶ゲルを形成してもよい。
【0034】
(c) 第3の液晶ゲルの製造方法(棒状又は繊維状の液晶ゲルの製造方法)
先ず水に分子量30万のゼラチンを溶解してゼラチン濃度20重量%のゼラチン溶解液を調製する。このゼラチン溶解液を40℃に温めてゾル化した後、毛細管などに吸い上げ、冷所にて十分ゲル化する。次にグルタルアルデヒド25重量%を含む水溶液中に毛細管からゼラチンのゲルを押出す。これにより、長手方向に垂直な断面で観察したときに同心円状であってかつ中心から高分子が放射状に配向した棒状又は繊維状の液晶構造を有するゲルが形成される。
また棒状又は繊維状液晶ゲルを長手方向に垂直な断面で観察したときに同心円状の多層構造にするためには、次の方法により行う。先ず0~30℃の範囲内の所定温度(例えば、10℃)に保たれた第1恒温槽中において、化学架橋剤を含む水溶液中にゼラチン溶解液をノズル、シリンジ針又はマイクロピペットを用いて押出して得られた棒状又は繊維状の液滴を0.1~5分間浸漬することにより棒状又は繊維状のゲルを調製する。具体的には、化学架橋剤を含む水溶液を貯留した容器を第1恒温槽に入れた状態で、容器内の化学架橋剤水溶液にゼラチンゲルをノズル等により押出すことにより棒状又は繊維状のゲルを調製する。次にこの棒状又は繊維状のゲルを化学架橋剤水溶液とともに容器ごと、第1恒温槽より5~40℃、好ましくは10~20℃低い温度(例えば、20℃)に保たれた第2恒温槽に入れ、棒状又は繊維状のゲル内のゼラチン溶解液を1~5分間透析する。更に上記棒状又は繊維状のゲルを化学架橋剤水溶液とともに容器ごと再び第1恒温槽中に移して、第1恒温槽中において棒状又は繊維状のゲル内のゼラチン溶解液を1~5分間透析する。このように温度の異なる条件下において棒状又は繊維状のゲルの透析を繰返すことにより、長手方向に垂直な断面で観察したときに同心円状の多層構造を有する棒状又は繊維状の液晶ゲルを形成することができる。なお、棒状又は繊維状ゲルを所定温度の化学架橋剤を含む水溶液に浸漬する工程と、この水溶液から棒状又は繊維状ゲルを取り出して大気中に5~30分間放置する工程と、この棒状又は繊維状ゲルを上記水溶液に再び浸漬する工程とを繰返すことにより、長手方向に垂直な断面で観察したときに同心円状の多層構造を有する棒状又は繊維状の液晶ゲルを形成してもよい。
【0035】
(d) 第4の液晶ゲルの製造方法(板状又はフィルム状の液晶ゲルの製造方法)
第1の液晶ゲルの製造方法と同様にゼラチン溶解液を化学架橋剤で液晶ゲル化し、板状又はフィルム上に加工する方法を代表して説明する。
【0036】
先ず上記第1の液晶ゲルの製造方法と同一のゼラチン溶解液及び化学架橋剤を含む水溶液を用意する。ゼラチン溶解液を40℃でゾル化しこのゼラチン溶解液を第1平板上に滴下した後、第1平板と同一又は第1平板と同程度の大きさの第2平板を被せて滴下したゼラチン溶解液を平坦化する。第1平板は表面が平滑であってかつ形成した板状又はフィルム状の液晶ゲルを剥離し易い材質のものであれば特に制限されない。第1平板としては、ガラス基板、プラスチック基板、セラミック基板等が例示される。また第2平板は平坦化するゼラチン溶解液(液膜)の厚さを均一にするために平滑であってかつ形成した板状又はフィルム状の液晶ゲルから剥離し易い材質のものであれば特に制限されない。第2平板としては、カバーガラス、アクリル板又はPET(polyethylene terephthalate)フィルムが好ましい。第2平板のサイズには、特に制限はないが、例示すれば、厚さ0.12~17mm、直径15~22mmの範囲から選ばれる。平坦化した水溶性高分子溶解液の厚さ、即ち液膜の厚さにも制限はないが、例示すれば、0.5~2mmが好ましい。次いでこの平坦化したゼラチン溶解液を第1平板と第2平板で挟んだ状態で冷所(4℃)に置いて適当な時間ゲル化し化学架橋剤を含む水溶液中に浸漬する。この水溶液中に浸漬しても第2平板はゼラチン溶解液の相互作用により液膜より剥離しない。この水溶液中において平坦化したゼラチン溶解液(液膜)の第1平板及び第2平板に被覆されない部分(液膜の側面周囲)に半透膜が形成される。この半透膜はグルタルアルデヒドとゼラチンの反応によって誘起されたゼラチンゲルからなる。この状態を維持すると、液膜を構成していたゼラチン溶解液が透析され、半透膜内部に板状又はフィルム状液晶ゲルが形成される。この板状又はフィルム状液晶ゲルの厚さは上記液膜の半径に比例し、0.5~2mmの範囲になり、大きさは第2平板の大きさに比例して直径15~22mmの円盤状になる。板表面又はフィルム表面で観察すると、図示しないが、板状又はフィルム状液晶ゲル中のゼラチン分子は、同心円状であってかつ中心から放射状に配向している。
【0037】
また板表面又はフィルム表面で観察したときに同心円状の多層構造にするためには、次の方法により行う。先ずゼラチン溶解液を第1平板と第2平板で挟んだ状態で冷所(4℃)に置きゲル化する。次いでこのゲル化した液膜を、10~50℃の範囲内の所定温度(例えば、40℃)に保った第1恒温槽中において、化学架橋剤を含む水溶液に10~20分間浸漬して液膜内のゼラチン溶解液を透析することにより板状又はフィルム状のゲルを調製する。具体的には、化学架橋剤を含む水溶液を貯留した容器を第1恒温槽に入れた状態で、容器内の化学架橋剤水溶液に上記第1平板及び第2平板により挟まれたゲル化した液膜を浸漬することにより板状又はフィルム状のゲルを調製する。次にこの板状又はフィルム状のゲルを化学架橋剤水溶液とともに容器ごと、第1恒温槽より5~40℃、好ましくは10~20℃低い温度(例えば、20℃)に保たれた第2恒温槽に入れ、板状又はフィルム状のゲル内のゼラチン溶解液を1~5分間透析する。更に上記板状又はフィルム状のゲルを化学架橋剤水溶液とともに容器ごと再び第1恒温槽中に移して、第1恒温槽中において板状又はフィルム状のゲル内のゼラチン溶解液を1~5分間透析する。このように温度の異なる条件下において板状又はフィルム状のゲルの透析を繰返すことにより、板表面又はフィルム表面で観察したときに同心円状の多層構造を有する板状又はフィルム状の液晶ゲルを形成することができる。なお、板状又はフィルム状ゲルを所定温度の化学架橋剤を含む水溶液に浸漬する工程と、この水溶液から板状又はフィルム状ゲルを取り出して大気中に5~30分間放置する工程と、この板状又はフィルム状ゲルを上記水溶液に再び浸漬する工程とを繰返すことにより、板表面又はフィルム表面で観察したときに同心円状の多層構造を有する板状又はフィルム状の液晶ゲルを形成してもよい。
【実施例】
【0038】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0039】
<実施例1>
超純水に対して水溶性タンパク質変性体の一つであるブタの表皮由来のゼラチン粉末10~30重量%を溶解することにより、ゼラチン溶解液(高分子溶解液)を調製した。このゼラチン溶解液を直径6mm、16mm、20mm及び25mmの4種類のセルロース製透析チューブにそれぞれ注入した後、各チューブを密封し冷所(4℃)に5分間静置した後、25重量%のグルタルアルデヒド溶液(化学架橋剤を含む水溶液)に浸して室温にて透析を24時間行った。
【0040】
<比較例1>
透析チューブにゼラチン溶解液を充填する工程までは、実施例1と同一条件で調製し、化学架橋剤水溶液の変わりに2価及び3価の金属カチオンを含む水溶液を用いて透析チューブ内のゼラチン溶解液を24時間透析した。
【0041】
<比較試験1及び評価>
実施例1及び比較例1のチューブを観察した。比較例1では、ゼラチンからなる液晶ゲルは形成されず、また高温に暖めると容易にゾル化した。これに対し、実施例1では、チューブの内側にゲル強度の大きい、4種類の異なる直径の円柱状ゲルが形成された。この際、元の透析チューブの直径と比較してどの円柱状ゲルも10%程度収縮した。実施例1のゲルをチューブから取り出し観察すると、ゲルの中心部は中実であった。これらのゲルを長手方向に垂直な方向に輪切りにし、偏光レンズを用いてクロスニコルの下、観察を行うと、分子が長手方向に配向した液晶構造が存在することが確認された。このようなゼラチン液晶ゲルからなるゲルチューブは透析チューブのサイズによらず作製できることが判った。
【0042】
<実施例2>
水に水溶性タンパク質の一つであるブタの表皮由来のゼラチン粉末10重量%を溶解することにより、ゼラチン溶解液を調製した。ガラス基板を用意し、このガラス基板の上面に上記ゼラチン溶解液を滴下し、厚さ0.12~0.17mm、直径12mmの円盤状のカバーガラスを液滴に被せた。これによりガラス基板とカバーガラスの間に厚さ約1mmの液膜が形成された。一方、化学架橋剤を含む凝固液として、濃度10%のエチレングリコールジグリジシルエーテルを含む水溶液を用意し、このエチレングリコールジグリジシルエーテルに、カバーガラスが液滴に被せられたガラス基板を浸漬して室温にて透析を24時間行った。
【0043】
<実施例3>
化学架橋剤を含む凝固液として濃度30重量%のエチレングリコールジグリジシルエーテルを含む水溶液を用いたこと以外は、実施例2と同様にして透析を行った。
【0044】
<実施例4>
化学架橋剤を含む凝固液として濃度40重量%のエチレングリコールジグリジシルエーテルを含む水溶液を用いたこと以外は、実施例2と同様にして透析を行った。
【0045】
<実施例5>
化学架橋剤を含む凝固液として濃度50重量%のエチレングリコールジグリジシルエーテルを含む水溶液を用いたこと以外は、実施例2と同様にして透析を行った。
【0046】
<実施例6>
ゼラチン濃度を20重量%としたこと以外は、実施例2と同様にして透析を行った。
【0047】
<実施例7>
ゼラチン濃度を20重量%とし、化学架橋剤を含む凝固液として濃度30重量%のエチレングリコールジグリジシルエーテルを含む水溶液を用いたこと以外は、実施例2と同様にして透析を行った。
【0048】
<実施例8>
ゼラチン濃度を20重量%とし、化学架橋剤を含む凝固液として濃度40重量%のエチレングリコールジグリジシルエーテルを含む水溶液を用いたこと以外は、実施例2と同様にして透析を行った。
【0049】
<実施例9>
ゼラチン濃度を20重量%とし、化学架橋剤を含む凝固液として濃度50重量%のエチレングリコールジグリジシルエーテルを含む水溶液を用いたこと以外は、実施例2と同様にして透析を行った。
【0050】
<実施例10>
ゼラチン濃度を30重量%としたこと以外は、実施例2と同様にして透析を行った。
【0051】
<実施例11>
ゼラチン濃度を30重量%とし、化学架橋剤を含む凝固液として濃度30重量%のエチレングリコールジグリジシルエーテルを含む水溶液を用いたこと以外は、実施例2と同様にして透析を行った。
【0052】
<実施例12>
ゼラチン濃度を30重量%とし、化学架橋剤を含む凝固液として濃度40重量%のエチレングリコールジグリジシルエーテルを含む水溶液を用いたこと以外は、実施例2と同様にして透析を行った。
【0053】
<実施例13>
ゼラチン濃度を30重量%とし、化学架橋剤を含む凝固液として濃度50重量%のエチレングリコールジグリジシルエーテルを含む水溶液を用いたこと以外は、実施例2と同様にして透析を行った。
【0054】
<比較例2~5>
ゼラチン濃度をそれぞれ0.1重量%としたこと以外は、実施例2~5と同様にして透析をそれぞれ行った。
【0055】
<比較試験2及び評価>
実施例2~13及び比較例2~5の透析を行った後に、ガラス基板とカバーガラスの間の液膜の状態を観察した。その結果を表1に示す。
【0056】
表1から明らかなように、比較例2~13では、ガラス基板とカバーガラスの間の液膜にゲル化は起こらず、ゾルのままであった。また比較例14~17では、化学架橋剤を含む凝固液中においてゼラチン溶解液は元の液膜の形状を保持することができず溶解してしまい液晶ゲルは形成されなかった。これらに対し、実施例2~13では、ガラス基板とカバーガラスの間の液膜の側面において、ゼラチンとエチレングリコールジグリジシルエーテルとの反応により、膜が形成された。この膜が半透膜の役割を果たし、引き続いてこの半透膜を通したエチレングリコールジグリジシルエーテルの拡散により、ガラス基板とカバーガラスの間に水に対して不溶なフィルムが形成された。カバーガラスを取り除くと、ガラス基板上に厚さ1mmかつ直径12mmの円盤状のフィルムが得られた。実施例2~13の全てのフィルムを偏光板を用いてクロスニコルの条件の下で観察したところ、全てのフィルムが液晶構造を持つことが確認された。
【0057】
【表1】
JP0005103630B2_000002t.gif【0058】
<実施例14>
10mM(ミリモル)のリン酸ナトリウムと0.6Mの塩化カリウム塩を含む水に水溶性タンパク質であるミオシンを30mg/mlとなるように溶解することにより、ミオシン溶解液を調製した。このミオシン溶解液を厚さ0.12~0.17mmかつ直径18mmの2枚のカバーガラスの間に挟み、ミオシン溶解液の液膜を形成し、これを25重量%のグルタルアルデヒド(化学架橋剤)を含む凝固液(水溶液)20mlに浸漬して室温にて透析を24時間行った。
【0059】
<比較例6>
塩化カリウム塩の濃度を0.12Mとしたこと以外は、実施例14と同様にして透析を行った。
【0060】
<比較試験3及び評価>
実施例14及び比較例6の透析を行った後に、2枚のカバーガラスの間の液膜の状態を観察した。その結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
JP0005103630B2_000003t.gif【0062】
表2から明らかなように、比較例6では、液晶ゲルが形成されなかったのに対し、実施例14では、液晶ゲルが形成された。
【0063】
<比較試験4及び評価>
実施例3、4、7、8、11及び12の液晶ゲルから得られた液晶の光学特性の一つである複屈折率Δnの液膜中心からの距離による変化を図5に示す複屈折測定装置10を用いて測定した。その結果を図3及び図4に示す。なお、上記複屈折測定装置10は、図5に示すように、He-Neレーザを発光するレーザ発光手段11と、このレーザを受けるフォトダイオード12と、フォトダイオード12の受けたレーザをカウントするフォトンカウンタ13とを備える。レーザ発光手段11とフォトダイオード12との間には、レーザ発光手段11側からフォトダイオード12に向って順に、第1レンズ21、第1ピンホール板31、液晶ゲルのサンプル14、第2ピンホール板32、ベレック・コンペンセータ16(Berek-compensator)、偏光板17及び第2レンズ22が直列に配設される。
【0064】
図3及び図4から、確かに上記実施例のゲルが配向した構造を持つことが判った。またゼラチン及び化学架橋剤の濃度を調整することにより、光学物性を目的の用途に対して最適化することが可能であることが判った。上述のことから、微細な加工技術を用いずに自己組織化現象という手軽な手法で、配向した構造を持ち、かつその配向度が制御されたゲルを作ることが可能となる。なお、この制御された配向度勾配を持つゲルを積極的に使用することにより、従来の無勾配の材料のみの表示機器とは異なった利点を有する表示機器、即ち制御された配向度勾配を持つ材料を用いた表示機器を開発できる可能性がある。
【0065】
<実施例15>
先ずサケの白子由来のDNAを20mMの四ほう酸ナトリウム水溶液に溶かして10重量%のDNA水溶液を調製し、ブタの表皮由来のゼラチンを20mMの四ほう酸ナトリウム水溶液に溶かして10重量%のゼラチン水溶液を調製した。上記DNA水溶液とゼラチン水溶液を等量ずつ40℃で混合し、5重量%のDNAと5重量%のゼラチンを含む混合水溶液を調製した。次にこの混合水溶液を40℃で完全にゾル化し、これを直径12mmの2枚の円形カバーガラスで挟んだ後、4℃の冷蔵庫の中に1時間放置して、十分に物理ゲル化させた。これらのカバーガラスの間にゲルの薄膜をそれぞれ形成した。このゲルの薄膜を、化学架橋剤である濃度25重量%のグルタルアルデヒド水溶液に浸漬して一晩放置することにより、ゲルの薄膜を化学架橋剤で液晶ゲル化させた。この液晶ゲル化は10℃の恒温槽中で行った。更に上記液晶ゲルの薄膜に超純水を5回ほど流して、液晶ゲルの薄膜から余分な架橋剤を取り除いた。この液晶ゲルの薄膜を実施例15とした。
【0066】
<実施例16>
実施例15の液晶ゲルの薄膜を40℃の超純水中において半日間温めた。この液晶ゲルの薄膜を実施例16とした。
【0067】
<比較例7>
上記実施例15と同様にして、2枚のカバーガラスの間にゲルの薄膜を形成し、このゲルの薄膜を、金属塩である200mMの塩化アルミニウム水溶液中に浸漬して一晩放置することにより、ゲルの薄膜を金属カチオンで液晶ゲル化させた。この液晶ゲル化は10℃の恒温槽中で行った。更に上記液晶ゲルの薄膜に超純水を5回ほど流して、液晶ゲルの薄膜から余分な金属塩を取り除いた。この液晶ゲルの薄膜を比較例7とした。
【0068】
<比較例8>
比較例7の液晶ゲルの薄膜を40℃の超純水中において半日間温めた。この液晶ゲルの薄膜を比較例8とした。
【0069】
<比較試験5及び評価>
上記実施例15及び16と比較例7及び8の液晶ゲルの薄膜をカバーガラスから外し、スライドガラスの上に載せて押込み式の弾性率測定器により、応力-ひずみ曲線をそれぞれ測定した。これらの結果を図6~図9に示す。
【0070】
図6から明らかなように、金属カチオンで液晶ゲル化させた比較例7の液晶ゲルの薄膜の方が、化学架橋剤で液晶ゲル化させた実施例15の液晶ゲルの薄膜より大きな弾性率を持っていることが分った。また比較例7の液晶ゲルの薄膜は、測定後プローブを取り除いたときにひずみが残留したけれども、実施例15の液晶ゲルの薄膜は、測定後プローブを取り除いたときに元の体積まで戻った。このことから金属カチオンで液晶ゲル化させた比較例7の液晶ゲルの薄膜は硬いけれどもひずみが残留し易いという性質を有し、化学架橋剤で液晶ゲル化させた実施例15の液晶ゲルの薄膜は柔らかいけれどもひずみが残留し難いという性質を有することが分った。
【0071】
一方、金属カチオンで液晶ゲル化させた液晶ゲルの薄膜を40℃で温めて得られた比較例8の液晶ゲルの薄膜では、その体積がおよそ50%収縮することが分った。また比較例8の液晶ゲルの薄膜は、温める前の比較例7の液晶ゲルの薄膜よりも硬くなり(図7及び図9)、僅かなひずみを与えるだけで、ひずみが残留することが分った。従って、比較例8の液晶ゲルの薄膜は、温められたことにより硬くなり、変形が残留し易くなったことが分った。一方、化学架橋剤で液晶ゲル化させた液晶ゲルの薄膜を40℃で温めて得られた実施例16の液晶ゲルの薄膜では、その体積が20%膨張することが分った。また実施例16の液晶ゲルの薄膜では、小さなひずみを与えた場合、応力とひずみの関係が温める前の実施例15の液晶ゲルの薄膜と殆ど変らなかったけれども、大きなひずみを与えると、応力とひずみの関係が温める前の実施例15の液晶ゲルの薄膜と異なり、非線形性が現れてひずみが小さくなることが分った(図7及び図8)。更にこの非線形性が現れるひずみを与えたときとほぼ同時に、ひずみを与えていた部分付近のゲルにヒビ割れが生じた。従って、温められた実施例16の液晶ゲルの薄膜では、薄膜の硬さは殆ど変化しないけれども、ひずみが残留し易くなったことが分った。
【0072】
上述のことから、大きな変形が加わるような条件下では、金属イオンで液晶ゲル化させた比較例7の液晶ゲルの薄膜を使用することはあまり望ましくなく、化学架橋剤で液晶ゲル化させた実施例15の液晶ゲルの薄膜を使用することが適していると考えられる。
【0073】
<実施例17>
先ずサケの白子由来のDNAをほう酸及び水酸化ナトリウムを含む水溶液(pH=11)に溶かして20重量%のDNA水溶液を調製し、液状のエチレングリコールジグリシジルエーテル(以下、EGDEという)をホウ酸及び水酸化ナトリウムを含む水溶液(pH=11)に溶かして50重量%のEGDE水溶液を調製した。次に直径約8mmの透析チューブにDNA水溶液を充填し、これを、45℃に保ったEGDE水溶液(化学架橋剤水溶液)中に透析して液晶ゲル化を誘起した。この液晶ゲルを実施例17とした。
【0074】
<実施例18>
実施例17の液晶ゲルを40℃の水溶液中に3時間浸漬した。この液晶ゲルを実施例18とした。
【0075】
<比較試験6及び評価>
実施例17の液晶ゲルをクロスニコル下で観察した。その結果を図10に示す。図10から明らかなように、実施例17の液晶ゲルは、あまりきれいではないけれども、液晶化したことが分った。また実施例17の液晶ゲルを40℃の水溶液中に浸漬して得られた実施例18の液晶ゲルは、溶けずにゲル化しており、クロスニコル下で観察すると、液晶構造を残していることが分った。これらのことから、DNAの液晶ゲルを化学架橋剤であるEGDEを用いて調製できることが分った。なお、上記実施例17の液晶ゲルは最適な条件で調製したものとはいえず、あまりきれいな液晶ゲルを調製するに至らなかった。しかし、DNA濃度、EGDE濃度、反応温度などのパラメータを最適化していくことにより、きれいな液晶ゲルを調製できるものと予測される。
【0076】
<実施例19>
水に水溶性タンパク質の一つであるブタの表皮由来のゼラチン粉末10重量%を溶解することにより、ゼラチンを含むゼラチン溶解液を調製した。上記ゼラチン溶解液を、厚さ0.12~0.17mm、直径12mmの2枚の円盤状のカバーガラスの間に挟み、厚さ1.5mmのゼラチン溶解液の薄膜を調製した。このゼラチン溶解液の薄膜を冷所中に10分間置くことで物理ゲル化させた。一方、化学架橋剤を含む凝固液として、濃度25%のグルタルアルデヒドを含む水溶液を用意し、このグルタルアルデヒド水溶液に、上記ゼラチン物理ゲルの薄膜を浸漬し、10℃に温度を保って24時間透析して液晶ゲル化を行った。上記の方法により、ゼラチン液晶ゲルを調製した。このゼラチン液晶ゲルを、40℃の超純水中に浸漬することで未反応のグルタルアルデヒドを液晶ゲル中より除去した。この洗浄後のゼラチン液晶ゲルを99.8%の純度のメタノール中に浸漬した。このゼラチン液晶ゲルを実施例19とした。
【0077】
<実施例20>
実施例19と同様にして調整し、更に未反応のグルタルアルデヒドを液晶ゲル中より除去したゼラチン液晶ゲルを99.5%の純度のエタノール中に浸漬した。このゼラチン液晶ゲルを実施例20とした。
【0078】
<実施例21>
実施例19と同様にして調整し、更に未反応のグルタルアルデヒドを液晶ゲル中より除去したゼラチン液晶ゲルを99.5%の純度の2-プロパノール中に浸漬した。このゼラチン液晶ゲルを実施例21とした。
【0079】
<比較例9>
実施例19の工程で調製されたゼラチン物理ゲルの薄膜をエタノール中に浸漬した。このゼラチン物理ゲルを比較例9とした。
【0080】
<比較試験7及び評価>
実施例19~実施例21及び比較例9の自然光とクロスニコルの下で観察した写真を図11に示す。図11から明らかなように、実施例19~実施例21のゼラチン液晶ゲルでは、アルコールで溶媒置換した場合においても、溶媒置換前よりも強い光学異方性を持っていることが明らかに見えるようになった。一方、比較例9の液晶ゲルは溶媒置換後、ゼラチンゲルが著しく白濁し、実施例19~実施例21のゼラチン液晶ゲルのような規則的な光学異方性を見ることができなかった。また実施例19~実施例21の溶媒置換後のゼラチン液晶ゲルの複屈折率を溶媒置換前の複屈折率と比較した。その結果を図12に示す。図12から明らかなように、溶媒置換後のゼラチン液晶ゲルの複屈折率Δnは、溶媒置換前よりも向上していることがわかった。
【0081】
<比較試験8及び評価>
実施例19~実施例21の溶媒置換前のゼラチン液晶ゲルのヤング率と溶媒置換後のゼラチン液晶ゲルのヤング率を比較した。その結果を図13に示す。図13から明らかなように、溶媒置換後のゼラチン液晶ゲルのヤング率の値は、溶媒置換前よりも大きいことがわかった。
【0082】
以上の比較試験及び評価の結果より、化学架橋剤で液晶ゲル化させたゼラチン液晶ゲルの複屈折率及びヤング率を、膨潤している溶媒を別の溶媒へ置換することによって制御可能であることがわかった。このような液晶ゲルの後処理による物性の制御は、金属イオンなどで液晶ゲル化させた液晶ゲルでは不可能であった技術である。
【0083】
<実施例22>
水に水溶性タンパク質の一つであるブタの表皮由来のゼラチン粉末20重量%を溶解することにより、ゼラチンを含むゼラチン溶解液を調製した。上記ゼラチン溶解液を、厚さ0.12~0.17mm、直径12mmの2枚の円盤状のカバーガラスの間に挟み、厚さ1.5mmのゼラチン溶解液の薄膜を調製した。このゼラチン溶解液の薄膜を冷所中に10分間置くことで物理ゲル化させた。このゼラチンゲルの薄膜を10℃に保たれた恒温槽中に置かれた濃度25%のグルタルアルデヒド水溶液中に、20分間浸漬して透析した。次に上記のサンプルを40℃の恒温槽へと移した。以下、10℃、40℃、10℃、40℃とグルタルアルデヒド水溶液へゼラチンゲルの薄膜を浸漬させて透析する際の温度を交互に変化させた。
【0084】
<比較例10>
実施例22においてグルタルアルデヒド水溶液中にゼラチンゲルの薄膜を浸漬させて透析するときの温度を10℃に保ったまま変化させないで液晶ゲル化させた。
【0085】
<比較試験9及び評価>
実施例22及び比較例10によって調製されたゼラチンゲルをクロスニコルの下で観察した写真を図14に示した。実施例22で調製されたゼラチン液晶ゲルは多層構造を持つのに対して、比較例10で調製されたゼラチン液晶ゲルは2層しか層構造を持たなかった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本出願人が出願した金属カチオン水溶液中での透析又は浸漬によって調製される液晶ゲルがイオンと高分子の間の物理的な結合で形成されていたのに対し、本発明によって提供される液晶ゲルは化学架橋剤と高分子の間の共有結合で形成されている点が新規な点である。従って、適当なポリマーと化学架橋剤の組合せを考案することで、様々な液晶ゲルを調製することが可能になった。例えば、主鎖型液晶製ポリマーを本発明の液晶ゲルの製造方法で形成することによって、複屈折勾配を持つ表示機器を容易に製造することが可能である。
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図9】
7
【図12】
8
【図13】
9
【図2】
10
【図10】
11
【図11】
12
【図14】
13