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明細書 :近接場テラヘルツ光検出器

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5392888号 (P5392888)
公開番号 特開2010-019585 (P2010-019585A)
登録日 平成25年10月25日(2013.10.25)
発行日 平成26年1月22日(2014.1.22)
公開日 平成22年1月28日(2010.1.28)
発明の名称または考案の名称 近接場テラヘルツ光検出器
国際特許分類 G01J   1/02        (2006.01)
H01L  31/10        (2006.01)
G01N  21/3581      (2014.01)
FI G01J 1/02 R
G01J 1/02 B
H01L 31/10 E
G01N 21/35 105
請求項の数または発明の数 4
全頁数 12
出願番号 特願2008-178041 (P2008-178041)
出願日 平成20年7月8日(2008.7.8)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成20年1月10日 社団法人応用物理学会発行の「テラヘルツ分光・イメージングとテラヘルツデバイスの物理 講演資料」に発表
特許法第30条第1項適用 平成20年2月29日 社団法人日本物理学会発行の「日本物理学会講演概要集 第63巻 第1号 第4分冊」に発表
特許法第30条第1項適用 平成20年3月5日 独立行政法人科学技術振興機構発行の「JST-DFG Workshop on Nano-electronics Abstract Book」に発表
特許法第30条第1項適用 平成20年3月18日 インターネットアドレス「http://www.riken.jp/」「http://www.riken.jp/asi/jp/report_dri_h19.html」「http://www.riken.jp/asi/annual_report/annual_report_dri/h19/ishibashi.pdf」に発表
特許法第30条第1項適用 平成20年3月27日 社団法人応用物理学会発行の「2008年(平成20年)春季 第55回応用物理学関係連合講演会予稿集 第3分冊」に発表
特許法第30条第1項適用 平成20年5月15日 独立行政法人理化学研究所発行の「第7回理研・分子研合同シンポジウム エクストリームフォトニクス研究」に発表
特許法第30条第1項適用 平成20年5月27日 公立大学法人首都大学東京発行の「International Symposium on Terahertz between Japan and Sweden」に発表
審査請求日 平成23年6月14日(2011.6.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】河野 行雄
【氏名】石橋 幸治
個別代理人の代理人 【識別番号】100097515、【弁理士】、【氏名又は名称】堀田 実
審査官 【審査官】蔵田 真彦
参考文献・文献 特開2007-281419(JP,A)
特開2005-017644(JP,A)
特開2000-304678(JP,A)
特開2008-140967(JP,A)
河野行雄 他,カーボンナノチューブ量子ドットを用いた近接場テラヘルツイメージング,日本物理学会講演概要集,日本,社団法人日本物理学会,2007年 2月28日,第62巻第1-4号,第692頁
石橋幸治 他,カーボンナノチューブ人工原子とそのテラヘルツ波応答,表面科学,日本,2007年 5月 9日,第28巻第12号 ,第718-723頁
調査した分野 G01J 1/02
特許請求の範囲 【請求項1】
外部からのテラヘルツ光で内部に発生する近接場光により表面に沿う長さ方向の電気抵抗が変化する半導体チップと、
該半導体チップの表面を覆う絶縁被膜と、
該絶縁被膜の表面を覆いテラヘルツ光を遮光可能な導電性被膜とを備え、
前記導電性被膜は、最大寸法がテラヘルツ光の波長よりも1桁以上短いアパーチャを有し、
さらに、導電性被膜と半導体チップの間に平面状の1対の導電性プローブを備え、該導電性プローブは、前記絶縁被膜により導電性被膜から絶縁され、かつ内側の先端部が前記アパーチャの内側に位置しており、
前記導電性プローブが、前記半導体チップの表面に沿って密着して設けられ、かつ先端部がテラヘルツ光の波長よりも1桁以上短い間隔で対向して位置し、
前記導電性プローブによりアパーチャ近傍の電界分布が変化して、大きな電場引込み効果が生じ、近接場の電場分布が空間的に変調され、導電性プローブの先端部を超える遠方まで伸びる、ことを特徴とする近接場テラヘルツ光検出器。
【請求項2】
前記半導体チップは、表面から一定の位置に2次元電子ガスが形成された高電子移動度トランジスタ(HEMT)であり、
更に、前記1対の導電性プローブを挟んでその長さ方向外側に間隔を開けて位置し、半導体チップの表面に密着して設けられた導電性のソース電極及びドレイン電極と、
前記ソース電極とドレイン電極の間に一定の電流を流してその間の電圧変化を検出する電圧計測器を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の近接場テラヘルツ光検出器。
【請求項3】
前記半導体チップは、半導体基板と、該半導体基板の表面に位置し、テラヘルツ光の近接場光により表面に沿う長さ方向の電気抵抗が変化するカーボンナノチューブとからなり、
更に、前記カーボンナノチューブの長さ方向両端に接続し、半導体基板の表面に密着して設けられた導電性のソース電極及びドレイン電極と、
前記ソース電極とドレイン電極の間に一定の電圧を印加してその間の電流変化を検出する電流計測器を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の近接場テラヘルツ光検出器。
【請求項4】
前記半導体チップ、ソース電極及びドレイン電極、導電性プローブ、絶縁被膜、および導電性被膜は、この順に一体に成形され集積化される、ことを特徴とする請求項2又は3のいずれかに記載の近接場テラヘルツ光検出器。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ光における回折限界を超える空間分解能を有する近接場テラヘルツ光検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明において、「テラヘルツ光」とは周波数が1~10THz(1THz=1012Hz)の領域、すなわち波長が0.03mm~0.3mmのサブミリ波から遠赤外線領域の電磁波を意味する。
【0003】
テラヘルツ光は、電波天文学、材料科学、生体分子分光学などの基礎学術分野からセキュリティ、情報通信、環境、医療などの実用分野に至る幅広い分野での応用が期待されている。
特にテラヘルツ光を用いた画像形成技術(以下、「THzイメージング技術」という)は、テラヘルツ光が可視光では不透明な物質を適度に透過すること、光子エネルギーがmeVという様々な物質・材料の重要なエネルギー領域に属すること、等の特有の特性を有することから、人体検査や材料評価などの分野で強力な計測ツールとなることが期待されている。
【0004】
しかし、テラヘルツ光は、赤外線、可視光、紫外線などの光(周波数1013~1015Hz)と電波(周波数10~1012Hz)の間に挟まれた周波数帯域の電磁波であり、光学と電子工学という既存の技術がそのままでは適用できない問題点がある。
特に、THzイメージング技術では、テラヘルツ光の波長が可視光等と比較して長く、かつ空間分解能は回折限界により波長の1/2程度に制限されるため、空間分解能が可視光等と比較して低い問題点がある。
【0005】
そこで、この回折限界を突破し空間分解能の高いTHzイメージングを実現する手段として、近接場光の利用が考えられている。
「近接場光」とは、物体の表面に極めて薄くまとわりついている光であり、通常の光のように空間中を伝播しない特性を有する。例えばブリズム内の全反射点において、全反射される光が境界面から空気側に滲みだしていることが知られておい、この空気側に滲みだした光を近接場光又はエバネッセント光(Evanescent light)と呼ぶ。
【0006】
通常の光学顕微鏡は、レンズを用いて対象物からの光を拡大するが、光の波長(可視光の波長は、約0.38~0.77μm)で制限され、ほぼ0.5μmの大きさまでしか解像できない。これを光波の「回折限界」という。
しかし、近接場光は、通常の光のように空間中を伝播しないため、回折限界を生じない特性がある。そこで、近接場光を用いることで回折限界を超える分解能を有する顕微鏡が可能となる。
【0007】
なお、近接場光を利用したTHzイメージングの例として、非特許文献1~3が既に報告されている。
【0008】

【非特許文献1】S.Hunsche et al.,“THz near-field imaging”,Optics Communications 150(1998)22-26
【非特許文献2】Wang et al., “Antenna effects in terahertz apertureless near-field optical microscopy”,Appl. Phys. Lett.,Vol.85,No.14,4 October 2004
【非特許文献3】Chen,Kerstingm and Cho, “Terahertz imaging with nanometer resolution”,Appl. Phys. Lett.,Vol.83,No.15,13 October 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
可視光・近赤外光領域では、先鋭化された光ファイバーあるいはSTM/AFM探針などを用いた微小開口や微小散乱体を利用した確立された技術がある。しかしテラヘルツ光の領域では、可視光と比較して波長が2,3桁長いことや光ファイバーに相当する実用的な導波路が存在しないこと等の理由から、近接場光の利用が困難であった。
【0010】
上述した従来の近接場光を利用したTHzイメージングは、アパーチャ型(非特許文献1)とアパーチャレス型(非特許文献2、3)に大別される。
アパーチャ型では、導波路を用いてテラヘルツ光を微小開口に集光させ、微小開口で近接場光を形成し、この近接場光に近接した対象物を透過する近接場光を検出器で検出し、これから対象物の画像を形成している。
また、アパーチャレス型では、探針の先端にテラヘルツ光を照射し、その先端に近接場光を形成し、この近接場光に近接した対象物を透過又は反射する近接場光を検出器で検出し、これから対象物の画像を形成している。
【0011】
しかし、かかる従来の近接場光を利用したTHzイメージングは、微弱な近接場光と同時に強いfar field光(自由空間中を伝播する電磁波)を検出器で検出するため、far field光の影響でS/N比が低下し、高効率な検出ができない問題点があった。
また、近接場光を利用しているにも係わらず、その分解能は波長の1/4程度にすぎず、1桁以上高い分解能は安定して得られなかった。
【0012】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、far field光の影響を大幅に低減してS/N比を高め、これにより近接場光を高効率に検出でき、かつ近接場光による対象物の分解能を波長の1/10以下まで高めることができる近接場テラヘルツ光検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、外部からのテラヘルツ光で内部に発生する近接場光により表面に沿う長さ方向の電気抵抗が変化する半導体チップと、
該半導体チップの表面を覆う絶縁被膜と、
該絶縁被膜の表面を覆いテラヘルツ光を遮光可能な導電性被膜とを備え、
前記導電性被膜は、最大寸法がテラヘルツ光の波長よりも1桁以上短いアパーチャを有し、
さらに、導電性被膜と半導体チップの間に平面状の1対の導電性プローブを備え、該導電性プローブは、前記絶縁被膜により導電性被膜から絶縁され、かつ内側の先端部が前記アパーチャの内側に位置しており、
前記導電性プローブが、前記半導体チップの表面に沿って密着して設けられ、かつ先端部がテラヘルツ光の波長よりも1桁以上短い間隔で対向して位置し、
前記導電性プローブによりアパーチャ近傍の電界分布が変化して、大きな電場引込み効果が生じ、近接場の電場分布が空間的に変調され、導電性プローブの先端部を超える遠方まで伸びる、ことを特徴とする近接場テラヘルツ光検出器が提供される。

【0015】
本発明の好ましい第1実施形態によれば、前記半導体チップは、表面から一定の位置に2次元電子ガスが形成された高電子移動度トランジスタ(HEMT)であり、
更に、前記1対の導電性プローブを挟んでその長さ方向外側に間隔を開けて位置し、半導体チップの表面に密着して設けられた導電性のソース電極及びドレイン電極と、
前記ソース電極とドレイン電極の間に一定の電流を流してその間の電圧変化を検出する電圧計測器を備える。
【0016】
本発明の好ましい第2実施形態によれば、 前記半導体チップは、半導体基板と、該半導体基板の表面に位置し、テラヘルツ光の近接場光により表面に沿う長さ方向の電気抵抗が変化するカーボンナノチューブとからなり、
更に、前記カーボンナノチューブの長さ方向両端に接続し、半導体基板の表面に密着して設けられた導電性のソース電極及びドレイン電極と、
前記ソース電極とドレイン電極の間に一定の電圧を印加してその間の電流変化を検出する電流計測器を備える。
【0017】
また、前記半導体チップ、ソース電極及びドレイン電極、導電性プローブ、絶縁被膜、および導電性被膜は、この順に一体に成形され集積化される、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
上記本発明の構成によれば、テラヘルツ光の近接場光により表面に沿う長さ方向の電気抵抗が変化する半導体チップの表面がテラヘルツ光を遮光する導電性被膜で覆われており、導電性被膜のアパーチャの最大寸法が、テラヘルツ光の波長よりも1桁以上短くなっている。
そのため、導電性被膜のアパーチャに向けてテラヘルツ光を照射しても、回折限界により波長の長いテラヘルツ光はアパーチャを通過できず、近接場光がアパーチャ近傍に局在する状態となる。
【0019】
さらに、本発明では、導電性被膜と半導体チップの間に平面状の導電性プローブを備え、該導電性プローブは、前記絶縁被膜により導電性被膜から絶縁され、かつ先端部が前記アパーチャの内側に位置するので、導電性プローブの存在により、アパーチャ近傍の電界分布が変化して、大きな電場引込み効果が生じる。この電場引込み効果は、後述する解析及び実験により確認されている。
【0020】
その結果、最大寸法が波長よりも1桁以上小さいアパーチャ近傍に発生した近接場光(エバネッセント光の電場分布)をその内側下方に位置するプローブ先端まで引込み、その下に位置する2次元電子ガス(又はカーボンナノチューブ)の抵抗変化を検出することができる。
【0021】
従って、本発明の構成では、近接場光以外のfar field光は、アパーチャをほとんど透過できず、ごくわずかな透過光は2次元電子ガスの下を通過するだけであるため、2次元電子ガス(又はカーボンナノチューブ)の抵抗変化に影響しないので、far field光の影響を大幅に低減してS/N比を高め、これにより近接場光を高効率に検出できる。
また、アパーチャの最大寸法は、テラヘルツ光の波長よりも1桁以上短く設定でき、この寸法で近接場光による対象物の分解能が決まるので、分解能をテラヘルツ光の波長の1/10以下まで高めることができることが実験により確認された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0023】
図1は、本発明で使用する高電子移動度トランジスタ(HEMT)の説明図である。
HEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスタ)は、2次元電子ガス(「2DEG」と略称する)を利用したトランジスタであり、変調ドープにより、2次元電子ガスが形成され、電子移動速度が大きい特徴がある。従って、ソースからドレインに流れる電子電流を、高い電子移動速度を利用して高速に制御することができる。
なお「2次元電子ガス」とは、半導体と絶縁体あるいは異種半導体どうしの接合界面で界面に沿って運動する電子、すなわち、2次元平面にのみ運動量をもつ希薄な電子をいう。
【0024】
図2は、本発明による近接場テラヘルツ光検出器の第1実施形態図である。
この図に示すように、本発明の近接場テラヘルツ光検出器10は、半導体チップ12、1対の導電性プローブ14、ソース電極15及びドレイン電極16、絶縁被膜18、導電性被膜20を備える。
【0025】
半導体チップ12は、テラヘルツ光1の近接場光2により表面に沿う長さ方向の電気抵抗が変化する特性を有する。
この例で、半導体チップ12は、表面から一定の位置(距離)に2次元電子ガス13が形成された上述した高電子移動度トランジスタ(HEMT)である。なお、図1におけるゲート、ソース及びドレインがないHEMTをここでは半導体チップ12と呼ぶ。
2次元電子ガス13の表面からの距離は、後述の実施例では約60nmであるが、60nm未満でも60nm以上でもよい。
【0026】
また、半導体チップ12は、高電子移動度トランジスタ(HEMT)に限定されず、テラヘルツ光1の近接場光2により表面に沿う長さ方向の電気抵抗が変化する特性を有する限りで、その他の半導体チップであってもよい。
【0027】
1対の導電性プローブ14は、平面状であり、半導体チップ12の表面に密着して位置し、先端部14aがテラヘルツ光1の波長λよりも1桁以上短い間隔で対向して位置する。
後述の実施例において、導電性プローブ14は、100nm厚のAu薄膜である。なお、導電性プローブ14は1対に限定されず、絶縁被膜18により導電性被膜20から絶縁され、かつ先端部14aがアパーチャ21(後述する)の内側に位置するかぎりで、1つでも、3つ以上でもよい。
【0028】
ソース電極15及びドレイン電極16は、1対の導電性プローブ14を挟んでその長さ方向外側に間隔を開けて位置し、半導体チップ12の表面及び長さ方向両端面に密着して設けられる。
後述の実施例において、ソース電極15及びドレイン電極16は、120nm厚のAuGe/Ni/Auの合金膜である。
【0029】
絶縁被膜18は、導電性プローブ14、ソース電極15及びドレイン電極16の表面を覆う電気抵抗の高い被膜である。
後述の実施例において、絶縁被膜18は、50nm厚のSiO被膜である。
【0030】
導電性被膜20は、絶縁被膜18の表面を覆いテラヘルツ光1を遮光する。
後述の実施例において、導電性被膜20は、200nm厚のAu薄膜である。
【0031】
図2において、導電性被膜20は、テラヘルツ光1の近接場光を形成するアパーチャ21を導電性プローブ14の先端部14aを囲む位置に有する。すなわち、アパーチャ21の中心位置が、1対の先端部14aの中心と一致し、アパーチャ21の外縁が1対の先端部14aの外側に位置する。この場合、アパーチャ21と導電性プローブ14の間には、絶縁被膜18が存在する。
【0032】
また、アパーチャ21の最大寸法は、テラヘルツ光1の波長λよりも1桁以上短く、かつ導電性プローブ14の先端部14aの間隔よりも大きく設定されている。
後述の実施例において、アパーチャ21は、直径8μmの円形穴であり、導電性プローブ14の先端部14aの間隔は、2~3μmである。なお、アパーチャ21は円形穴に限定されず、矩形穴でもその他の形状であってもよい。
【0033】
上述した近接場テラヘルツ光検出器10は、周知の半導体製造プロセスにより、半導体チップ12、ソース電極15及びドレイン電極16、導電性プローブ14、絶縁被膜18、および導電性被膜20の順に一体に成形され集積化される。
【0034】
図2において、本発明の近接場テラヘルツ光検出器10は、さらに、ソース電極15とドレイン電極16の間に一定の電流を流してその間の電圧変化を検出する電圧計測器22を備える。
【実施例1】
【0035】
(製造方法)
図2に示した近接場テラヘルツ光検出器10を以下の方法で製造した。
(1)GaAs/AlGaAsヘテロ構造ウェハから、長さ3mm,幅2mmの半導体チップ12を切り出した。このウェハは、77K(300K)において、電子移動度18(0.5)m/Vs,シート電子密度4.4(11)×1015-2の特性を有する。
(2)2次元電子ガス13は、通常のフォトリソグラフィとウェットエッチングにより、長さ1mm,幅0.1mmの矩形形状に形成した。
(3)2つの電極(ソース電極15及びドレイン電極16)は、120nm厚のAuGe/Ni/Auの合金膜からなり、半導体チップ12の両端と1対の導電性プローブ14を挟んでその長さ方向外側に積層させた。2つの電極は、チップの長さ方向両端まで延ばし、アニールすることで2次元電子ガスに対するオーミックな電極になる。
(4)次いで、チップ表面を、1対の導電性プローブ14(100nm厚のAu薄膜)、絶縁被膜18(50nm厚のSiO被膜)、アパーチャ21のある導電性被膜20(200nm厚のAu薄膜、直径8μmの円形穴)で順に被覆した。
(5)2つの電極は、それぞれを電線で電圧計測器22に接続した。
【0036】
図3は、製造した検出器10のアパーチャ近傍の断面拡大図である。また、図4(A)は、製造した検出器10のアパーチャ近傍の平面図、図4(B)はその斜視図である。なお、図4(C)は、比較例として、導電性プローブ14のない図4(A)と同様の図を示している。
【0037】
図4(A)は、実際に製造した検出器10のアパーチャ近傍の顕微鏡写真に基づいている。
図4(A)(B)において、GaAs/AlGaAs単一ヘテロ構造基板の表面上にプローブ14が蒸着されており、その上はSiOの絶縁膜18を挟んでアパーチャ21のある導電性被膜20で覆われている。
【0038】
この素子では、GaAs/AlGaAsヘテロ界面中の2次元電子ガス13が検出部となる。波長よりも十分小さなサイズのアパーチャ21に発生した近接場光の電場をプローブ14で2次元電子ガス側へ引き込み、表面からすぐ下(60nm下)にある2次元電子ガス13の抵抗変化により読み取る仕組みになっている(図2参照)。
この素子では、近接場光2をすぐ間近にある検出器(2次元電子ガス13の抵抗変化)で直接的に検出する。そのため、従来の近接場プローブを用いて透過あるいは散乱されたTHz光を離れた位置で検出器により検出する場合に比べて、far field光の影響を受けず、高効率な検出が可能となる。
【0039】
なお、図4(A)から、アパーチャ21は、直径8μmの円形穴であり、1対の導電性プローブ14は、長さ約8μm、幅約7μm、先端半径1~1.5μmの三角形形状であった。また、先端部14aの間隔は、2~3μmであった。
【0040】
(数値解析)
図5は、図2のアパーチャ近傍の電界分布の解析結果である。この数値解析は、有限要素に基づく周知の電界解析用ソフトウェアを用いて行った。なおこの数値解析は、テラヘルツ光1の波長を波長200μmとして計算した。
図5(A)は、本発明のアパーチャ近傍の電界分布であり、図5(B)は、図4(C)の比較例の場合のアパーチャ近傍の電界分布である。なお、この図は実際の解析結果に基づき、電界強度の強い範囲(すなわち検出可能な電界強度の範囲)を破線で示している。
図5(A)と図5(B)の比較から、本発明の場合(図5(A))には、プローブ14の存在によって近接場2の電場分布が空間的に変調され、遠方(半導体チップ12の内部)まで伸びていることがわかる。
【0041】
(試験)
製造した本発明の検出器10と比較例の検出器(図4(C)参照)をHeで13Kに冷却保持したクライスタット(低温保持装置)内に取付け、Mylarシートからなる光学窓を通してサンプルにテラヘルツ光を照射した。
テラヘルツ光の光源として、COガスレーザで励起されたテラヘルツガスレーザを用いた。このテラヘルツガスレーザの出力は10mWであった。
テラヘルツ光はレンズで集光し、サンプルに照射した。また、光学窓は可視光を遮断するために、黒いポリエチレンフィルタで覆った。
テラヘルツ光の焦点寸法は約1mmであり、サンプルに照射されたテラヘルツ光の強度は約630μW/mmと見積られる。
本発明の検出器10と比較例の2DEG(2次元電子ガス)を通して、80μAの一定電流を流し、その間の電圧変化を検出した。
なお、サンプルとして、透過部50μm幅/不透過部80μm幅のLine&Space試料を用い、検出器の表面から一定の位置に保持して検出器をサンプルの表面に沿って移動し、テラヘルツ光の透過強度分布を測定した。
【0042】
図6は、この試験で得られた試験結果である。本発明と比較例の検出器を以下、「THz-NI device」と呼ぶ。
図6(A)はテラヘルツ光の波長λが118.8μmの場合、図6(B)はテラヘルツ光の波長λが214.6μmの場合である。各図において、横軸はTHz-NI deviceの位置、すなわちTHz-NI deviceの移動距離、縦軸はテラヘルツ光の透過強度である。なおテラヘルツ光の透過強度は、2次元電子ガスの電圧変化に相当する。
また、各図において、下側のほぼ水平な直線データは、アパーチャのみの比較例の検出器のデータであり、上側の周期的に変化しているデータは、本発明の検出器10のデータである。
この図から、アパーチャのみ(下側データ)の場合と比べて、アパーチャ+プローブ(上側データ)では、明確なプロファイルが観測でき、計算結果から予想される大きな電場引き込み効果を確認することができた。
【0043】
図7は、図6の試験結果の基づく分解能を示す図である。この図において、両矢印は、図6(A)(B)の本発明の検出器10のデータにおいて信号出力が10~90%の範囲を示している。
この図から、本発明の検出器10の空間分解能は、テラヘルツ光の波長λが118.8μm、214.6μmの両方の場合において約9μmであり、テラヘルツ光の波長には依存しないことがわかる。
また、この約9μmの値は、214.6μmの波長の約24分の1に相当し、アパーチャ径にほぼ一致する。これらの事実から、本発明の検出器10は、テラヘルツ光の波長に依存せず、回折限界を突破した近接場THzイメージングが実現されたことを示している。
【0044】
上述したように、本発明の検出器の特徴は、近接場光測定に必要なすべてのコンポーネント(半導体チップ、ソース電極及びドレイン電極、導電性プローブ、絶縁被膜、および導電性被膜)が1つの半導体チップに集積化されていることにある。
ここでは、波長よりも十分小さなサイズのアパーチャ部に発生した近接場2の電場分布(本来は一部分に局在している)をプローブ先端で遠方まで伸ばし、そこからすぐ下(60nm下)にある2次元電子ガス13の抵抗変化により読み取る仕組みになっている。この素子では、近接場光2をすぐ間近にある検出器(2次元電子ガス13の抵抗変化)で直接的に検出することができる。そのため、従来の近接場プローブを用いて透過あるいは散乱された電磁波を遠方の検出器で読み出す場合に比べて、far field光の影響を受けず、高効率な検出が期待できる。
【0045】
図8は、本発明による近接場テラヘルツ光検出器の第2実施形態図である。
この例において、半導体チップ12は、半導体基板24とカーボンナノチューブ25からなる。半導体基板24は、例えばSi基板である。またカーボンナノチューブ25は、半導体基板24の表面に位置し、テラヘルツ光の近接場光により表面に沿う長さ方向の電気抵抗が変化する特性を有する。
更に、この例において、導電性のソース電極26及びドレイン電極27と電流計測器28を備える。
ソース電極26及びドレイン電極27は、この例では、カーボンナノチューブ25の長さ方向両端に接続し、半導体基板24の表面に密着して設けられる。
また、電流計測器28は、ソース電極26とドレイン電極27の間に一定の電圧を印加し、その間の電流変化を検出する。
その他の構成は、第2実施形態と同様である。
【0046】
この構成により、カーボンナノチューブは、検出部として2次元電子ガスよりも高い高感度検出が可能であるため、上述したアパーチャの最大寸法をさらに小さくして、高空間分解能の向上と高感度検出を同時に達成することができる。
【0047】
なお、本発明は上述した実施例及び実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】高電子移動度トランジスタ(HEMT)の説明図である。
【図2】本発明による近接場テラヘルツ光検出器の第1実施形態図である。
【図3】製造した検出器10のアパーチャ近傍の断面拡大図である。
【図4】製造した検出器10のアパーチャ近傍の平面図(A)と斜視図(B)と検出器10と性能を比較するためのデバイス(C)である。
【図5】図2のアパーチャ近傍の電界分布の解析結果である。
【図6】図2の近接場テラヘルツ光検出器の試験結果である。
【図7】図6の試験結果に基づく分解能を示す図である。
【図8】本発明による近接場テラヘルツ光検出器の第2実施形態図である。
【符号の説明】
【0049】
1 テラヘルツ光、2 近接場光(エバネッセント光))、
10 近接場テラヘルツ光検出器(検出器)、
12 半導体チップ(HEMT、半導体基板)、
13 2次元電子ガス(2DEG)、
14 導電性プローブ、14a 先端部、
15 ソース電極、16 ドレイン電極、
18 絶縁被膜、20 導電性被膜、
21 アパーチャ、22 電圧計測器、
24 半導体基板(Si基板)、
25 カーボンナノチューブ、
26 ソース電極、27 ドレイン電極、
28 電流計測器
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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