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明細書 :光散乱装置、光散乱測定法、光散乱解析装置および光散乱測定解析法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4517145号 (P4517145)
公開番号 特開2006-071497 (P2006-071497A)
登録日 平成22年5月28日(2010.5.28)
発行日 平成22年8月4日(2010.8.4)
公開日 平成18年3月16日(2006.3.16)
発明の名称または考案の名称 光散乱装置、光散乱測定法、光散乱解析装置および光散乱測定解析法
国際特許分類 G01N  15/02        (2006.01)
FI G01N 15/02 A
請求項の数または発明の数 14
全頁数 28
出願番号 特願2004-256056 (P2004-256056)
出願日 平成16年9月2日(2004.9.2)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 第59回年次大会(社団法人 日本物理学会、2004年3月27日~30日開催) 第53回高分子学会年次大会(社団法人 高分子学会、2004年5月25日~27日開催)
審査請求日 平成19年8月20日(2007.8.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】古川 英光
個別代理人の代理人 【識別番号】100105050、【弁理士】、【氏名又は名称】鷲田 公一
審査官 【審査官】渡▲辺▼ 純也
参考文献・文献 特開平08-178825(JP,A)
特開昭63-265138(JP,A)
特表2002-500767(JP,A)
特開2005-121600(JP,A)
古川英光 他,白濁したゲル内部のダイナミクス[3]-走査型顕微鏡拡散波分光による白濁した高分子系の測定,高分子学会予稿集,日本,社団法人高分子学会,2003年 9月10日,52巻[2003]、9号,p2113
江崎匠 他,拡散波分光を用いた環境応答性ゲルのダイナミクスの研究,第15回高分子ゲル研究検討会 講演要旨集,日本,社団法人高分子学会,2004年 1月14日,p47-p48
吉田力也 他,低コヒーレンス干渉計を用いた多重散乱光の光路長分会スペクトル測定,第63回応用物理学会学術講演会講演予稿集,日本,(社)応用物理学会,2002年 9月24日,第3分冊,p866
調査した分野 G01N 15/00 ~ 15/14
JSTPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
レーザー光を発射するレーザー光源と、
試料に入射したレーザー光が散乱光として出射するまでの光路長を、所定の値から零に近似するように多段階に変化させて制御する制御手段と、
複数の光路長それぞれに対応して出射する散乱光を検出して光子パルスを出力する検出手段と、
前記複数の光路長それぞれに対応する光子相関関数を計算し、計算した光子相関関数から得られるn次の相関関数(n≧1)を外挿することによって、光路長が零のn次の相関関数を計算する演算手段と、
を備えることを特徴とする光散乱装置。
【請求項2】
前記制御手段は、試料の位置を制御して、光路長を零に近似することを特徴とする請求項1記載の光散乱装置。
【請求項3】
入射したレーザー光に対して垂直に散乱する散乱光を通過させる通過手段を、更に備えることを特徴とする請求項1または請求項2記載の光散乱装置。
【請求項4】
前記検出手段が出力する光子パルスの時間間隔を測定するパルス間隔測定手段を更に備え
前記演算手段は、前記パルス間隔測定手段が測定した光子パルスの時間間隔を用いて前記光子相関関数を計算することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の光散乱装置。
【請求項5】
記パルス間隔測定手段は、前記複数の光路長それぞれに対応する光子パルスの時間間隔を測定することを特徴とする請求項4記載の光散乱装置。
【請求項6】
前記レーザー光源は、複数の波長のレーザー光を出射することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の光散乱装置。
【請求項7】
前記レーザー光源は、複数の波長のレーザー光それぞれを時分割で出射することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の光散乱装置。
【請求項8】
前記レーザー光源と、試料との間に配置される円筒面平凸レンズを、更に備えることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の光散乱装置。
【請求項9】
前記パルス間隔測定手段が測定する光子パルスの時間間隔を、複数の光路長それぞれの時系列データについて記憶するメモリを、更に備え、
前記演算手段は、前記メモリに記憶させた光子パルスの時間間隔を用いて光子相関関数を計算することを特徴とする請求項記載の光散乱装置。
【請求項10】
前記演算手段は、前記メモリに記憶させた光子パルスの時間間隔を、光子の時間間隔に反比例させて間引いて、光子相関関数を算出することを特徴とする請求項9記載の光散乱装置。
【請求項11】
複数の光路長それぞれについて、試料に入射したレーザー光が散乱した散乱光を測定した光子パルスの時間間隔を入力する入力手段と、
前記光子パルスの時間間隔を用いて、前記複数の光路長それぞれに対応する光子相関関数を計算し、計算した光子相関関数から得られるn次の相関関数(n≧1)を外挿することによって、光路長が零のn次の相関関数を計算する演算手段と、
を備えることを特徴とする光散乱測定解析装置。
【請求項12】
試料に入射するレーザー光が散乱光として出射するまでの光路長を、所定の値からに近似するように多段階に変化させて制御する制御工程と、
数の光路長それぞれに対応して出射する散乱光を検出して光子パルスを出力する検出工程と、
前記複数の光路長それぞれに対応する光子相関関数を計算し、計算した光子相関関数から得られるn次の相関関数(n≧1)を外挿することによって、光路長が零のn次の相関関数を計算する演算工程と、
を備えることを特徴とする光散乱測定法。
【請求項13】
前記検出工程は、前記試料へ入射するレーザー光から垂直に散乱する散乱光を検出することを特徴とする請求項12記載の光散乱測定法。
【請求項14】
複数の光路長それぞれについて、試料に入射したレーザー光が散乱した散乱光を測定した光子パルスの時間間隔を入力する入力工程と、
前記複数の光路長それぞれに対応する光子相関関数を計算し、計算した光子相関関数から得られるn次の相関関数(n≧1)を外挿することによって、光路長が零のn次の相関関数を計算する演算工程と、
を備えることを特徴とする光散乱測定解析法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光散乱装置及び光散乱測定法に関する。特に、測定する試料が不透明な場合にも測定可能な光散乱装置及び光散乱測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
動的光散乱法は、溶液内部で起こっている熱運動を光の散乱現象を通して測定することにより、溶液内部の微細な構造とその運動性を解析する方法である。通常、光を用いる測定は、光の波長以下の構造を調べることは原理的に困難である。しかし、動的光散乱法は、熱運動を通して内部構造を観測するので、光の波長以下(1マイクロメートル以下から0.1ナノメートルまで)の微細構造を測定することができる。従って、動的光散乱法は、人体に対して比較的安全な可視光のレーザー光源を用いて、溶液中に分散した粒子のサイズやゲルの網目構造を決定できる便利な観測法である。動的光散乱法は、透明な粒子分散系における粒子サイズを溶液状態でそのまま測定する方法として広く用いられている。
【0003】
例えば、実用的な用例として、動的光散乱法を液晶やゲル、コロイドなど、微細構造が複雑な透明試料の測定に応用しようという試みは早くからなされていたが、現状では実用例が知られていない。これは、液晶やゲルのからの散乱光には内部構造の不均一性に起因する過剰な成分が不可避に含まれているが、この成分を正しく評価する方法が無かったことが問題となっていたためである。
【0004】
近年、この問題を解決すべく、走査型顕微散乱法によって不均一性に起因する散乱光の過剰成分を厳密に考慮して、時間平均と空間平均を正しく行った統計平均(アンサンブル平均)の測定量を決定する方法が新しく開発された(非特許文献1、非特許文献2参照)。これにより、可視光の光源を用いて、複雑な微細構造をもつ透明試料を測定する方法が確立した。また非特許文献3には、具体的にアンサンブル平均相関関数を決定する為に必要な数学的公式を厳密に導出している。このようにして、可視光の光源を用いながら、複雑な内部構造をもつ透明試料の微細な内部構造をそのまま測定する実用的な方法が確立した。
【0005】
ところが、前記方法は、牛乳やプリンなどの食品、シャンプーやリンスなどの化粧品をはじめとする、濁ったゲル状物質、コロイド溶液などの内部状態を測定する有効な手段では無かった。動的光散乱法は、透明試料では可視光を使って微細な内部構造を容易に測定できるが、不透明な試料(濁度の高いサンプルも含む)中ではそれが難しい。そもそも濁るという現象は、散乱が強く起きているために、散乱光が再び散乱するという多重散乱が生じるので、不透明に見える現象である。従って、通常の光散乱法のように一回だけ散乱した光を検出するのには特別な配慮が必要である。
【0006】
従来、この問題を克服する方法として、二本のレーザー光を使って多重散乱の寄与を取り除く方法(非特許文献4)、もしくは表面のごく近傍を測定して多重散乱の寄与を無視する方法(非特許文献5)があったが、前者は複雑で高価なため普及しておらず、後者は製品化されているが問題解決の手段を単純化し過ぎているので、正しい測定値が得られないことが知られている。
【0007】
一方、白濁した試料の内部でどのような散乱が起きるかについてはすでに理論的な考察があり、多重散乱光を分析することで、試料内部における熱運動を調べることが原理的に可能であることが示されていた。

【非特許文献1】H.Furukawa, K.Horie, R.Nozaki, M.Okada,”Swelling-induced modulation of static and dynamic fluctuaions in polyacrylamide gels observed by scanning microscopic light scattering”, Phys.Rev.E,68, 2003, p.031406-1~031406-14
【非特許文献2】古川英光、堀江一之、「走査型顕微光散乱による高分子ゲルの微細網目構造のキャラクタリゼーション」高分子論文集59、2002、p.578-589・
【非特許文献3】H.Furukawa and S.Hirotsu, ”Dynamic Light Scattering from Static and Dynamic Fluctuations in Inhomogeneous Media”, J.Phys.Soc.J.,71, 2002, p.2873-2880
【非特許文献4】L.B.Aberie,P.Hulstede,S.Wiegand,W.Schroer,W.Staude, ”Effective suppression of multiply scattered light in static and dynamic light scattering”, Applied Optics,37, 1998, p.6511-6524
【非特許文献5】大塚電子株式会社、「濃厚系粒径アナライザー FPAR-1000」[online]、[平成16年8月1日検索]、インターネット<http://www.photal.co.jp/product/fpar_0.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、多重散乱光を分析することで、試料内部における熱運動を調べる理論を適用するにあたっては、試料内部で起きている多重散乱の散乱回数Nを知る必要がある。散乱回数Nを決定することは、理論的にも実験的にも困難なために、多重散乱が起きている状態で内部の熱運動を調べることは原理的に困難である。さらに、散乱回数Nはそもそも平均的な量であり、明確な回数を決定できるものではない。従って、仮に実験的に散乱回数Nを見積もる方法が確立したとしても、それを用いても既存の理論体系のままでは、ある誤差範囲をもってでしか内部構造を決定することはできないなどの問題がある。
【0009】
さらに、安価で実用的な解析を行うためには、動的光散乱で測定される膨大な光子パルスの時系列データを迅速に処理する必要がある。正確な測定をする際には時系列データの処理には特定の解析装置が広く用いられており評価も高いが、高価なものである。前記解析装置は、全ての計算部分が論理回路で作られている(いわゆるフルロジックの)光散乱専用計算機であり、これは複雑な回路であるために製造コストの削減には限界があるなどの問題がある。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、不透明な試料の光散乱を測定できる光散乱装置および光散乱測定法を提供することを目的とする。また、光散乱で測定される光子パルスの時系列データから光子相関関数を算出する安価で実用的な光散乱装置および光散乱測定解析法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光散乱装置は、レーザー光を発射するレーザー光源と、試料に入射したレーザー光が散乱光として出射するまでの光路長を、零に近似するように制御する制御手段と、出射する散乱光を検出して光子パルスを出力する検出手段と、を備える構成をとる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、不透明な試料の光散乱を測定できる光散乱装置および光散乱測定法を提供することができる。また、光散乱で測定される光子パルスの時系列データから光子相関関数を算出する安価で実用的な手法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る光散乱装置及び光散乱測定法の試料セルとレーザー光との関係を示す図である。図2は、試料セル100を三次元で示した図の一例である。また、以下の説明では、構成要素等の位置を、XYZ軸を用いて示すことがある。XYZ軸それぞれの方向は、図2に示す通りである。
【0015】
試料セル100は、測定する試料を挿入する透明な容器である。試料セル100は、一例として、五面透明の石英セルなどが用いられる。試料セル100は、図2に一例を示すように、内側のサイズがa×a×bのサイズを有する。また、以下の説明では、試料セル100の位置を、XYZ軸を用いて示すことがある。XYZ軸それぞれの方向は、図2に示す通りである。
【0016】
試料110は、測定の対象となる物質であり、透明、不透明の試料であってもよく、固体、液晶、ゲル、コロイド、高分子溶液、高分子溶融液、電解質溶液、微生物・細胞小器官・細胞内形質などの微粒子が溶解した溶液などが一例としてあげられる。また、「不透明であること」と「濁度を有すること」は、レーザー光が多重散乱するものでことに関しては同様であるため、特に区別しない。
【0017】
入射レーザー光は、試料セル100へ入射したレーザー光を指し、また、散乱光は、入射レーザー光が試料セル100の試料110を通過する際に、散乱するレーザー光を指す。
【0018】
入射レーザー光は、図1の左から入射する。入射レーザー光が入射する方向をZ軸方向、入射レーザー光に垂直な方向をY軸方向とする。ここで、dzは、Z軸方向の入射レーザー光の入射深さ、dyは、Y軸方向の入射レーザー光(散乱光)の入射深さを示す。dzは、零以上a以下のサイズを取りうる。また、dyは、零以上b以下のサイズを取りうるが、現状では、1mm近辺の値が最小となっている。光路長lは、二つの入射光の深さの和であり、l=(dz+dy/sinθ)となる。散乱光は、入射レーザー光から散乱角θの角度を形成してY軸方向へ散乱する。θは、零から180°より小さい値を取りうるが、この明細書内では、後述する理由により、θが90°の場合を用いる。θ=90°の時、sinθが1であることより、光路長lは、l=dz+dyとなる。
【0019】
本発明に係る光散乱装置および光散乱測定法の測定理論は、多重散乱が起きるような条件でも、光路長lを変化させて光散乱を測定し、光路長lが零に近似するように、試料セルの位置を制御(走査)することにより、多重散乱の散乱回数Nを減少させ、光路長lが零になる極限で単一散乱の測定を可能とする。この測定理論については、光散乱装置の説明をした後に述べる。
【0020】
次に、光散乱装置の一例について説明する。図3は、光散乱装置の構成の一例を示す図である。図1と同じ符号を付けたものは、図1と同様であるため、説明を省略する。
【0021】
セルフォルダー180は、試料セル100を格納する。
【0022】
制御部190は、試料セル100の位置を三次元に移動させる。制御部190は、図3中に座標軸を示した、XYZ軸の座標を用いて、試料セル100の位置を移動させる(実際には、セルフォルダー180を移動して試料セル100を移動させる)。
【0023】
レーザー光源210は、レーザー光を発射する。図3の例では、レーザー光源210は、三種類のレーザー光を発射する。第一の光源211、第二の光源212、第三の光源213は、それぞれ異なる波長のレーザー光を発射する。また、ハーフミラー221、222、全反射ミラー223を配置し、三種類のレーザー光それぞれが、時分割で発射するように構成されている。
【0024】
円筒面平凸レンズ230は、レーザー光を集光する。偏光板240は、垂直偏光ではない余分な成分を取り除くフィルタである。
【0025】
倒立型光学顕微鏡310は、光路を調整するために用いる。倒立型光学顕微鏡310は、対物レンズ311、光路切替部312、直角プリズム313、並びに、目視観察部314を備える。目視観察部314は、ユーザの目315によって、試料110の状態を観察する。
【0026】
対物レンズ311は、試料セル100から散乱した散乱光を集光する。
【0027】
光路切替部312は、光路を切り替え、目視観察と、測定とを可能とする。
【0028】
直角プリズム313は、光路を垂直に変える。
【0029】
目視観察部314は、光路切替部312により、光路を目視観察を可能にして、試料110の目視観察を行う。
【0030】
偏光板321は、垂直偏光ではない余分な成分を取り除くフィルタであり、ピンホール322、324は、小さな穴の開いた光学機器であり、入射レーザー光から垂直に散乱した散乱光を選択して透過する役割をし、凸レンズ323は、散乱光の効率を上げる。ピンホールは、散乱光を通過させる通過手段の一例である。通過手段は、ピンホールの他、スリット等を用いてもよい。
【0031】
検出器330は、ピンホール324を通過した散乱光に含まれる光子を光子パルス(光パルス信号)に変換する。なお、ピンホール324と検出器330とは、光ファイバーで接続されている。ここでは、光子パルスは、パルスの幅が50ナノ秒ぐらいの電気信号(短い電流のパルス)が想定できる。単位時間当たりのパルス数が多いと連続的な電流が出力される。
【0032】
プリアンプ-ディスクリミネータ340は、光子パルスを増幅し、光子パルス(光の粒)とそれ以外をとわけ、光子パルスのみを通過させる。
【0033】
パルス間隔測定器350は、プリアンプ-ディスクリミネータ340を介して、検出器330が検出した光子パルスを入力して、光子パルスの時間間隔を測定する。
【0034】
コンピュータ360は、試料セル100の位置をXYZ軸方向の三次元の位置情報によって制御するとともに、光子パルスの時間間隔から光子相関関数を算出する。試料セル100の位置の制御は、実際には、コンピュータ360の指示によって、制御部190を動作させ、制御部190は、セルフォルダー180の位置を変更することにより実施する。また、光子相関関数の算出については、光子パルスの時間間隔の測定と併せて後述する。
【0035】
次いで、上記構成を有する光散乱装置の動作について、図3を用いて説明する。コンピュータ360は、試料セル100の位置を決定して位置情報を作成し、位置情報を制御部190へ通知し、制御部190は、通知された位置情報に基づいてセルフォルダー180の位置を調整する。
【0036】
レーザー光は、レーザー光源210が有する第一の光源211、第二の光源212、第三の光源213のいずれかから発射される。発射されたレーザー光は、円筒面平凸レンズ230で集光され、偏光板240のフィルタ機能を通過して、試料セル100へ入射レーザー光として入射する。三種類のレーザー光の切り替えは、ユーザが切り替える。また、コンピュータにより、レーザー光の切り替えを制御することも可能である。
【0037】
入射レーザー光の一部は、散乱光として、対物レンズへ入射する。対物レンズへ入射した散乱光は、ハーフミラーからなる光路切替部312、直角プリズム313を経由し、偏光板321で垂直偏光ではない余分な成分を除去された後、ピンホール322で入射レーザー光に対して垂直に散乱した散乱光を選択し、凸レンズ323、ピンホール324を経由して、光ファイバーを通過し、検出器330へ到達する。検出器330へ入力された散乱光は、散乱光に含まれる光子が光子パルスへ変換され、出力される。
【0038】
光子パルスは、プリアンプ-ディスクリミネータ340を経由して、パルス間隔測定器350へ入力され、光子パルスの時間間隔が測定される。測定された時間間隔は、コンピュータ360へ出力され、光子相関関数が算出される。パルス間隔測定器350とコンピュータ360での処理については、後述する。以上が光散乱装置の動作の概略である。
【0039】
次に、図1、図2並びに図3を参照して、本発明の測定原理について説明する。まず、既存の理論を活用して多重散乱を克服して光散乱測定を行う方法を検討する。多重散乱の散乱回数Nは、光路長l、すなわち、入射レーザー光の入射深さdz並びにdyに依存する。多重散乱の理論を考察すると、散乱角度が90°の時には散乱ベクトルと波数ベクトルが一致するために、この時のみ光路長l→0の極限でN→1となって、多重散乱と通常の動的光散乱が厳密に一致すること見出し、入射深さを変えて、深いところから浅いところに向かって複数の場所で測定を行い、それらのデータを用いて光路長l→0に外挿することによって、通常の動的光散乱で得られる散乱光強度の光子相関関数を決定する。以上が概略である。
【0040】
この測定原理を詳しく説明する。光散乱法では、散乱電場の自己相関関数を測定する。散乱電場の自己相関関数は、次に示す(式1)で表される。
【0041】
【数1】
JP0004517145B2_000002t.gif

【0042】
τは相関時間である。相関時間τは、二つの光子パルスが検出器330で検出された時間をそれぞれt、tとすると、t、tの差分の絶対値(|t-t|)が二つの光子パルスの相関時間τとなる。粒径の揃った微粒子を高濃度で分散させてできる濁った溶液について光散乱を行うと、入射光が試料の中で何回も散乱を起こす多重散乱が起きる。このような多重散乱の時には、理論式が(式2)となることが知られている。例えば、次の文献に記載されている。D.A.Weitz and D.J.Pine,”Diffusing-Wave Spectroscopy” in”Dynamic Light Scattering”、ed.W.Brown,ch.16,Oxford Science Pub.、 1993、p.652-720
【0043】
【数2】
JP0004517145B2_000003t.gif

【0044】
光路長を短くすると散乱回数は減少するので、原理的に(式3)となる。
【0045】
【数3】
JP0004517145B2_000004t.gif

【0046】
一方、粒径の揃った微粒子を希薄に分散させてできる透明な溶液について光散乱を行うと、入射光は一回だけ散乱をおこす。このような単一散乱の時には、理論式は、(式4)となることが知られている。
【0047】
【数4】
JP0004517145B2_000005t.gif

【0048】
本発明では、散乱角θをθ=90°に固定すると、散乱ベクトルqと波数ベクトルkが一致すること、並びに、光路長l→0からN→1となることが導けることより、多重散乱の(式2)と単一散乱の(式4)とが同じ形式になることに着目した。すなわち、(式5)の関係式からθ=90°の時には(式6)となり、(式2)と(式4)とは、(式7)に示すように同じ形式になる。
【0049】
【数5】
JP0004517145B2_000006t.gif

【0050】
従って、散乱角θ=90°に固定して測定を行うことで、任意の光路長lの場合に(式7)を用いることができる。
【0051】
このような理論的背景から、光路長lを変えながら散乱電場の自己相関関数(式1)を測定することで、光路長l→0(零)の極限で単一散乱に一致する自己相関関数が得られる。これにより、多重散乱が起こるような濁った試料であっても、単一散乱の場合と同じ解析法が適用できる。
【0052】
上記で説明した測定原理を図4から図6を用いて説明する。図4は、測定する位置の一例を示す図である。図5は、相関時間の対数と散乱電場の自己相関関数との関係を時系列に示した図であり、図6は、相関時間の対数と散乱電場の自己相関関数との関係を、図5を光路長l=0の面へ投影して示した図である。
【0053】
図4に示すように、入射レーザー光はZ軸方向へ入射され、散乱光は、Y軸方向へ散乱する。光路長lは、dz+dyであり、dyは、現状の最小値である1mmとする。Z軸方向の入射レーザー光dzは、dz1<dz2<dz3<dz4の長さの関係となる四種類について、制御部190によって試料セル100の位置を走査して測定する。
【0054】
図5は、図4に示した四種類の測定結果と、四種類の測定結果に基づいて、光路長l=0(零)の場合を外挿して算出したデータをグラフ化したものである。図5では、光路長lの値を示して四種類のデータを示す。また、図6でも、同様に、四種類データの値を示して(lの表記は省略している)四種類のデータを示す。図5,図6に示すように、光路長lを徐々に短くしてゆくと、散乱回数Nが1に近づく。このため、光路長l=0(dz=0、dy=0)の場合、すなわち、単一散乱の場合の自己相関関数(式1)を外挿によって算出することが可能となる。
【0055】
このように、零から所定の範囲内の異なる複数の光路長lについて測定した結果を外挿することによって、単一散乱の場合の自己相関関数を算出する。所定の範囲は、セルの長さaより小さく、a/2以下であることが好ましい。また、複数の光路長lの数は、少なくとも3以上が好ましい。以上が測定原理の説明である。
【0056】
次に、光子相関関数(散乱光強度の自己相関関数)の算出について説明する。
【0057】
光子パルスの時系列データから、散乱電場の自己相関関数(式1)を算出する方法として、光子パルスの時間間隔のヒストグラムを得る方法がある。i番目とj番目の光子パルスの検出時刻をそれぞれt、tとすると、二つの光子パルスの時間間隔はS=|t-t|(t-tの絶対値)で表される。全ての時間間隔Sについてその頻度を計測し、分布関数(あるいはヒストグラム)P(S)を求める。P(S)は光子相関関数であり、(式8)に示す散乱光強度の自己相関関数と等価であり、S=τとしたときに比例する。すなわち、(式9)の関係となる。また、(式8)から(式1)を求めるにあたってはSiegert式を用いる(非特許文献1、非特許文献2参照)。そして、光子間隔のヒストグラムP(S;τi-1<S≦τ)=光子相関関数g(2)(τ)=(離散的な、測定データとしての)散乱光強度の自己相関関数g(2)(τ)という関係にある。
【0058】
【数6】
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【0059】
なお、以下の説明では、相関関数を次のように定める。(式1)に示すg(1)(τ)は、散乱電場の自己相関関数であり、(式8)に示すg(2)(τ)散乱光強度の自己相関関数すなわち光子相関関数である。また単に、「相関関数」とした場合はn次の相関関数g(n)(τ)(n≧1の整数)を意味し、g(1)(τ)ならびにg(2)(τ)双方を含む概念とする。
【0060】
従来、この計算法によって(式9)を求める場合、光子パルスの検出時刻をコンピュータに時系列データとして入力して、光子相関関数P(S)を算出していたが、この方法を改善し、高速に光子相関関数P(S)を算出する新しい方法を考案した。
【0061】
光子相関関数を高速に算出する方法について、図7、図8を用いて説明する。図7は、パルス間隔測定器350とコンピュータ360の構成の一例を示す図である。図7では、光子相関関数を算出する機能に関する構成要素を示しているが、その他の機能については省略している。なお、図3と同じ符号のものは、同様の機能を有し、ここでは、パルス間隔測定器350は、光子パルスの時間間隔を測定し、コンピュータ360は、測定された時間間隔から光子相関関数の値を算出する機能を使用する。図8は、時間間隔を説明する図である。
【0062】
パルス間隔測定器350は、カウンタ制御部351、間隔測定部352を含む。
【0063】
カウンタ制御部351は、光子パルス間隔を測定するタイミングを制御する。具体的には、カウンタ制御部351は、光子パルスが入力されると、間隔測定部352へ時間間隔測定を指示する。
【0064】
間隔測定部352は、隣接する二つの光子パルスの時間間隔(一つの光子パルスが入力されてから次の光子パルスが入力されるまでの時間間隔)を測定し、コンピュータ360へ通知する。出力回路として、カウンタ353とラッチ354とを備える。
【0065】
コンピュータ360は、メモリ361、演算部362、発振器363を含む。また、図7には明示していないが、コンピュータ360は、CPU(Central Processing Unit)と記憶領域を有する。CPUは、コンピュータ360の処理全体(演算部362の処理実行も含む)を制御し、記憶領域は、各種処理を実行する場合に、データを保持し、読み込み、書き込みが実施される。
【0066】
メモリ361は、FIFO(First In First Out:先入れ先出し)型のバッファメモリである。入力回路は市販の汎用デジタル入出力ボードを用いることができる。
【0067】
演算部362は、メモリ361に記憶されている光子パルスの時間間隔を用いて、光子相関関数を算出する。
【0068】
発振器363は、基準時を作り、システムクロック信号を発生させる。一例として、水晶発振器を用いる。
【0069】
次に、動作を説明する。
【0070】
カウンタ制御部351は、光子パルスをデジタル回路に入力し、間隔測定部352は、隣接する二つの光子パルスの時間間隔w=|t-ti+1|(i>0)を計測する。図8に、時間間隔wの具体例を示している。カウンタ353は、発振器363からシステムクロックが入力されるタイミングで、カウントアップすることによって、時間間隔wを計測する。ラッチ354は、カウンタ制御部351から間隔測定が指示された時に、カウンタ353の値を一時的に保持した後、メモリ361へ出力する。間隔測定部352が測定した時間間隔wは、メモリ361へ入力される。メモリ361は、光子パルスの時間間隔wの時系列データを格納する。
【0071】
演算部362は、時間間隔wの時系列データから二つの光子パルスの時間間隔Sを算出し、ヒストグラムP(S)を算出する。二つの光子パルスの時間間隔Sは、一の光子パルスの入力のタイミングと、他の光子パルスの入力のタイミングとの間の間隔であり、二つの光子パルスの入力が隣接していない場合も含まれる。従って、連続している時間間隔wの和ともいえる。図8には、SからSまでの四種類を例示しているが、SからSは、時間間隔Sであり、Sは、二つの光子パルスの時間間隔Sからは除外される。
【0072】
演算部362は、(式10)により光子パルスの時間間隔Sを算出しつつ、P(S)を積算する。
【0073】
【数7】
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【0074】
Sが大きくなるほどそれに比例してパルス間隔の数が増大するので、これを全て積算に用いると計算時間が膨大になる。一方、全てのデータを用いずに時間間隔Sが大きくなるほどデータを間引いて用いるようにしても計算の精度が落ちることはない。そこで、計算回数をSに反比例するようにして計算回数を減らしてゆく。実施例では、システムクロックが10Mhzであり、時間間隔の下限は0.1μ秒(μs:マイクロsec)であるが、実用上測定したい相関時間の上限は1秒(sec)程度であるので、光子パルスの計算数は組み合わせの数は下限と上限で比較したときに1秒/0.1μ秒=10倍にも及び、膨大な計算量になってしまう。今回、新しく考案したデータを間引く方法を用いると、下限と上限でも計算時間は間引くための計算時間を考慮してもせいぜい10倍程度にしかならない。したがって、ヒストグラムP(S)の計算時間が10倍も高速化される。
【0075】
【数8】
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【0076】
P(S)から(式11)を計算するためには(式9)を使うが、これは単純な計算で時間の計算時間の損失には全く関係ない。
【0077】
次に、計算について説明する。パルス間隔測定器350は、入力した光子パルスを、カウントし、カウントしたデータをコンピュータ360へ出力する。コンピュータ360は、カウントされた光子パルスのデータを用いて、光路長lの異なる光子パルスのデータそれぞれについて光子相関関数を算出し、その後、光路長lの異なる光子相関関数から得られるn次の相関関数g(n)(τ)の値を外挿して、光路長lが零の場合のn次の相関関数を算出する。以下に、具体的な算出法について説明する。
【0078】
まず、光子相関関数の算出について説明する。図9は、光子相関関数を算出する動作の一例を示すフロー図である。まず、解析プログラムは次のようなヒストグラムを計算する。
【0079】
P(S;τi-1<S≦τ)(i=1,2,・・・,n)
ここで、{τ}はヒストグラムのそれぞれの要素のレンジを決める数列で、例えば等比級数とすれば、(式12)のように定義される。レンジは、所定の時間の幅を示す。
【0080】
【数9】
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【0081】
このとき、i番目のレンジは区間(τi-1,τ)で定義される。ヒストグラムは各レンジに何個の光子パルス間隔Sが入ったかを表す分布関数であり、これはそのまま光子相関関数に対応する。このヒストグラムP(S;τi-1<S≦τ)は具体的にはn個の数値からなる配列なのでP(i)(i=1,2,・・・,n)と表すこともできる。
【0082】
具体的な動作を、図9を用いて説明する。図9において、起点パルスは、時間間隔のヒストグラムを計算する場合の起点となるパルスであり、相手パルスは、起点パルス以降に発生するパルスである。図8において、起点パルスをtとすると、t、t、tが相手パルスとなり、起点パルスをtとすると、t、tが相手パルスとなる。
【0083】
演算部362は、初期化処理を行う(S11)。具体的には、演算部362は、計算に先立ってヒストグラムの積算に用いるヒストグラム積算用配列H(i)とそれを規格化するための規格化用配列M(i)(S;τi-1<S≦τ)を用意する。配列H(i)は、配列H(S;τi-1<S≦τ)、配列M(i)は、M(S;τi-1<S≦τ)を意味する。この配列の要素は全て0に初期化する。また、配列要素のレンジを決める数列T(i)(={τ})を準備する。T(i)は、等比数列である。これらの配列は、コンピュータ360の所定の記憶領域を用いる。また、計算ループ用変数、X、Y、S、R、Zを準備する。Xは、光子パルスペアの起点パルス位置、Yは、光子パルスペアの相手パルス位置、Sは、光子パルス間隔の和、Rは、配列のレンジを表す変数、Zは、レンジ内のパルス数のカウンタを示す。光子パルスペアは、起点パルスと相手パルスのペアを指す。
【0084】
次に、演算部362は、メモリ361に記憶されている光子パルスの時系列データを配列W(i)に読み込んだ後(S12)、光子パルスの起点パルス位置を示す変数Xを1に初期化する。すなわち、先頭の光子パルスを選択することになる(S13)。計算ループ用変数を初期化する(S=0、R=1、Z=0)(S14)。また、起点パルスに対して光子パルスペアとなる相手パルス位置を初期化する(Y=X+1)(S15)。
【0085】
次に、光子パルスペアの相手パルス位置を次に移し(S16)、次のパルスが来るまでの時間間隔をS=S+W(Y)より求める(S17)。この際、光子パルスがパルス間隔測定器350に入力されない場合は、次のようにして対応する。一定時間光子パルスがパルス間隔測定器350に入力されないと、カウンタ353がフルカウント(FFFF)16になる。この場合、光子パルスがパルス間隔測定器350に入力されなかったものとして、パルス間隔測定器350は、コンピュータ360側に値が0のデータを送る。コンピュータ360の演算部362は、このことを考慮して、二つの光子パルスの時間間隔Sを算出する(例えば、データを無視する)ことにより解消できる。
【0086】
次に、相手パルスの位置が最後のデータであるか(メモリに記憶されているwが最後か)を、Yが光子パルスの総数より大きいか(Y>光子パルス総数)によって判断し(S18)、最後のデータである場合は(S18でYes)、前のレンジで処理が終了したものとして、S22へ進む。最後のデータでない場合(S18でNo)、パルス間隔がレンジ外かを、S>T(R)によって判断する(S19)。
【0087】
レンジが変わらない場合は(S19でNo)、レンジ内のパルス数をカウントアップ(Z=Z+1)し(S27)、S16へ戻る。レンジが変わった場合(S19でYes)は、ヒストグラム用配列にレンジ内でカウントしたパルス数を加える。具体的には、H(R)にZを加え、Z=0に初期化する(S20)。
【0088】
次に、次のレンジは間引きの対象か、あるいは、次のレンジがないかを判断する(S21)。この光子相関関数の計算では、時間間隔の増大に伴う計算量の指数関数的な増大を避けるために、離れた光子パルスの時間間隔が増加して、H(S;τi-1<S≦τ)の次のレンジに移るときに、計算するかどうかを確率的に選ぶことにしている。これを「間引く」と呼んでいる。間引くというのは、時間間隔の増大に比例して計算量が増えるので、これに反比例する確率によってH(S;τi-1<S≦τ)の次のレンジの計算を進めるかを判断するということである。間引くことによって、各レンジごとに統計上の標本数が変わるので、H(S;τi-1<S≦τ)の各レンジ毎に何個の光子パルスについて計算したかという、光子パルスの標本数をM(S;τi-1<S≦τ)に記録する。
【0089】
S21でNoの場合、次のレンジに移り(R=R+1)(S28)、S19からの処理を実施する。S21でYesの場合、前のレンジで計算を終えたことにして、規格化因子をカウントする(S22)。具体的には、M(R-1)へ1を加算し、R-1<1ならば何もしない。次に、光子パルスペアの起点パルス位置を次の光子パルスの位置へ移す(X=X+1)(S23)。最後のデータであるかを、Xが光子パルスの総数より大きいか(X>光子パルスの総数)によって判断し(S24)、最後のデータでない場合(S24でNo)、S14からの処理を繰り返す。最後のデータの場合(S24でYes)、ヒストグラム配列H(i)と規格化因子配列M(i)とを使って(式13)によって、規格化されたヒストグラムP(i)を算出する(S25)。光子相関関数P(i)をファイルに出力し、記憶領域に記憶させる。(S26)。
【0090】
【数10】
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【0091】
このように、隣接する二つの光子パルスt、ti+1の時間間隔wを正確に計測しコンピュータに取り込むための回路(出力回路と入力回路)と、新しい計算方式を組み合わせて使うことによって、光子相関関数(式8)の計算を高速化することができる。また、間隔測定部352の計測回路と、コンピュータ360のメモリ361への入力回路は、発振器363が発生するシステムクロック信号に従って動作する同期型の回路である。従って、時系列データの取りこぼしや過剰に取り込むことなどによって、誤差が含まれる可能性はない。
【0092】
さらに、コンピュータ360の演算部362側から見ると、時間間隔wの時系列データがメモリ361に取り込まれているので、時系列データが格納される待ち時間などを気にすることなく、計算に必要になった時点でメモリ361のデータをまとめて読み出しに行くことができるため、演算の効率が向上する。また、簡単な計測用デジタル回路と汎用デジタル入出力ボード、パーソナルコンピュータを組み合わせることにより、安価にこのシステムを構成できる。
【0093】
次に、複数の光路長lそれぞれの相関関数を外挿して、光路長lが零の相関関数を算出する処理について説明する。まず、外挿法について説明し、次に、具体的な処理について、フロー図を用いて説明する。なお、以降の説明において、明細書中、(式1)を「g(1)(τ)」とも記す。また、g(1)に関する式についても、同様に記すことがある。
【0094】
光路長lを変えて測定を行うと、得られる相関関数g(1)(τ)が光路長lの関数として、g(1)(τ、l)として与えられる。図5,6において説明したように、単一散乱の相関関数g(1)(τ)は、測定によって得られる。g(1)(τ、l)とは、g(1)(τ)=g(1)(τ、0)の関係にある。
(1)(τ、0)は外挿値であり、測定値ではない。ここでいう外挿とは測定値g(1)(τ、l)を用いて、(式14)を計算することである。
【0095】
【数11】
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【0096】
外挿値g(1)(τ、0)の算出にはテーラー(Taylor)展開を用いる。g(1)(τ、0)はl=0でテーラー展開すると、(式15)となる。
【0097】
【数12】
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【0098】
この展開式(式15)を用いて外挿値g(1)(τ、0)を解析した。解析には、最小二乗法を用いた。例えば、(式15)の右辺第(n+1)項までを考慮した最小二乗法の場合には、(式16)の差分の二乗和(式17)を最小化することになる。
【0099】
なお、l=0(原点)でのテーラー展開は、特にマクローリン(Maclaurin)展開ということもある。実際には、n=2~4の範囲で最小二乗法により外挿値g(1)(τ、0)を算出する。
【0100】
次に、外挿法の具体的の動作について、図10を用いて説明する。図10は、光路長が異なる相関関数を外挿する処理の動作の一例を示すフロー図である。測定で具体的に得られる相関関数は離散的な緩和時間τと離散的な光路長lに対する数値であるので、これをgi,j=g(1)(τ、l)と表すことにする。iは、1以上、離散的なg(1)(τ、0)の要素数以下の範囲を取る。jは、1以上、測定した光路長lの数(何通りの光路長lで測定したかという数)以下の範囲を取る。
【0101】
まず、複数の光路長lそれぞれに対する、光子相関関数g(2)(τ、l)を得る。これは、光路長lを変えて光パルスを測定し、それぞれの光子相関関数g(2)(τ、l)を算出した結果である。具体的には、算出したそれぞれの光子相関関数g(2)(τ、l)について、Siegert式を用いて相関関数g(i)(τ、l)を算出し(非特許文献1、非特許文献2参照)、これをもとに、コンピュータ360のメモリ361へ{gi,j}の数値列が記憶される(S41)。{}は、かっこ内の数値列全体(の集合)という意味である。iの初期値を1とする(S42)。
【0102】
【数13】
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【0103】
次に、最小二乗法の計算プログラムに測定値の数値列{gi,j}を入力する(S43)。テーラー展開について(式18)に示す係数列{a(n)}を得る(S44)。(式19)の関係があるので、数値列{a(0)}が求めたい外挿値g(1)(τ、0)である(S45)。iをカウントアップし(S46)、iがg(1)(τ)の要素数を越えるまで、S43からS46を繰り返す(S47)。
【0104】
S45で得られた、g(1)(τ)の要素数分の外挿値g(1)(τ、0)をまとめて単一散乱時の相関関数g(1)(τ)とする(S48)。すなわち、外挿値g(1)(τ、0)が、iの数、算出されるので、それらを全部使うと、求めたい単一散乱の相関関数g(1)(τ)が得られることになる。
【0105】
外挿して得られたg(1)(τ)をファイルに出力し、記憶領域に記憶させる(S49)。
【0106】
また、n=2の場合には、最小二乗法のプログラムが計算するのは、(式20)である。
【0107】
【数14】
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【0108】
以上の外挿法の説明は散乱電場の自己相関関数g(1)(τ)について記述したが、この計算法は散乱光強度の自己相関関数g(2)(τ)を含む、n次の相関関数g(n)(τ)についても同様の方法で適用し、単一散乱の相関関数を算出することができる。具体的には、(S42)において光子相関関数g(2)(τ、l)から、n次の相関関数g(n)(τ、l)を算出すればよい。
【0109】
また、上記図10の外挿法の処理では、一般的な方法に基づいており、適用範囲が広いが、特に試料がポリスチレンラテックス粒子分散液などの単純な系の場合には、より簡便な外挿法もある。以下では、一般的な外挿法と簡便な外挿法の二種類の外挿法を用いた具体的な解析の手順について説明する。まず、第一の一般的な外挿法について説明する。1番目の外挿法は、次の(1)~(6)の手順をとる。
【0110】
(1)図1に一例として示す光散乱装置を使って複数の光路長lに対して、光子パルスの時系列データを測定する。
【0111】
(2)図9に示す光子相関関数の高速計算法によって、光子相関関数すなわち散乱光強度の自己相関関数の測定データg(2)(τ)を算出する。
【0112】
(3)光子相関関数の測定データg(2)(τ)についてSiegert式を用い、散乱電場の自己相関関数の測定データg(1)(τ)を算出する。
【0113】
(4)上記の手順を、光路長lを変えて繰り返し、散乱電場の自己相関関数g(1)(τ)の光路長l依存性を決定する。データとしてはg(1)(τ,l)が得られる(図5,図6に概念を示している)。
【0114】
(5)図10のS42以下の説明にしたがって、一般的な外挿の計算を行い、単一散乱の自己相関関数g(1)(τ)=g(1)(τ,0)を得る。
【0115】
(6)得られた単一散乱の自己相関関数g(1)(τ)については、単一散乱の場合に用いられるいろいろな解析方法を用いることができる。
【0116】
特に試料がポリスチレンラテックス粒子分散液などの単純な系の場合には、得られた相関関数g(1)(τ)の相関関数の動的成分Δg(1)(τ)を(式21)を用いて求めた後、単一指数関数(式22)をつかって、フィッティングにより解析し、緩和時間τを決定できる。
【0117】
【数15】
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【0118】
次に、第二の簡便な外挿法について説明する。第二の外挿法は、次の(1)~(6)の手順をとる。第二の外挿法は、第一の外挿法の簡便な方法であり、試料の相関関数が単一指数型の関数(式21)で表されると予想される場合に用いることができる。
【0119】
(1)図1に一例として示す光散乱装置を使って、光路長lに対して、光子パルスの時系列データを測定する。
【0120】
(2)図9に示す光子相関関数の高速計算法によって、光子相関関数すなわち散乱光強度の自己相関関数の測定データg(2)(τ)を算出する。
【0121】
(3)散乱光強度の自己相関関数の測定データg(2)(τ)についてSiegert式をつかって、散乱電場の自己相関関数の測定データg(1)(τ)を算出する。
【0122】
(4)散乱電場の自己相関関数の測定データg(1)(τ)の動的成分Δg(1)(τ)を(式21)を用いて求めた後、単一指数関数(式22)をつかって、フィッティングにより解析し、緩和時間τを決定する。
【0123】
(5)上記の手順を、光路長lを変えて繰り返し、緩和時間τの光路長l依存性を決定する。(図15を用いて後述する)。
【0124】
(6)図15中における外挿によってl=0における単一散乱の緩和時間τを決定する。
【0125】
特に試料がポリスチレンラテックス粒子分散液などの単純な系の場合には、この緩和時間τは、第一の外挿法で求めた単一散乱の緩和時間τと一致する。
【0126】
図9、図10に示す動作は、具体的には、解析プログラムにより、演算部362が実行する。また、解析プログラムは、記録媒体に記録でき、コンピュータ360にロードされることによって、実行可能なプログラムである。
【0127】
次に、円筒面平凸レンズの適用の効果について説明する。図11、図12、図13は、円筒面平凸レンズ230を適用することによる利点を説明する図であり、図11は、Y軸方向上から下へ見た方向であり、図12は、X軸方向奥から手前に見た図であり、図13は、斜視図である。Y軸方向からみたレーザー光の領域は変化がなく、集光されていない(図11)。図11の試料セル100内に表示した丸の印は、対物レンズ311から見た散乱光の集光点である。X軸方向からみたレーザー光は、集光されており、共焦点になっている(図12)。これにより、図11に示すように、円筒面平凸レンズ230通過前のレーザー光は、断面が円の形状をしているが、円筒面平凸レンズ230を通過すると断面が楕円体になる。これにより、円筒面平凸レンズ230で集光されたレーザー光の焦点と対物レンズ311から見た散乱光の焦点が一致する、いわゆる共焦点の配置になっており、散乱体積Vsの体積を小さく絞ることができる。また、対物レンズ311がX方向にずれることがあっても、散乱光が対物レンズ311へ入射する可能性を向上できる。
【0128】
以上説明したように、本発明に係る光散乱装置および光散乱測定法によれば、簡便に濁度の高い試料の多重散乱の影響を除き、信頼性の高い光散乱測定を行うことができる。従来では、入射レーザー光の入射深さが小さいところの散乱は試料と容器の界面近傍の影響を受けやすく、測定が困難な場合が多いので、正確なデータが得られないという問題を解消できる。また、本発明に係る光散乱装置および光散乱測定法によれば、散乱角θを90°に固定した場合に注目して、深さを変えて測定を行って外挿を行うので、界面近傍の影響を避けることができる。
【0129】
また、入射レーザー光の入射深さ依存性を測定するために試料を三次元に空間走査できる制御部(走査機構)と、対物レンズを用いてレーザーを照射する部分を小さく絞って、空間分解能を向上させることができる。拡散波分光の理論に対して、深さ依存性を測定することで、多重散乱の寄与を考慮することができる。すなわち、散乱角θを90°に固定すると、散乱角を変えて測定を行うことができないので、動的光散乱測定における角度依存性の解析を行うことができない。この点を解消するために複数の波長のレーザー光を用いることによって、入射波長依存性から従来の角度依存性に相当するデータが得られる。これによって試料内部の構造や運動性について、従来法と同様な角度依存性の解析を行うことができ、信頼性の高い評価を行うことが可能になる。また、時分割で複数のレーザー光を発射することにより、同時に複数のレーザー光を発射する場合に比べ、より正確な測定が可能となる。
【0130】
また、動的光散乱で測定される膨大な時系列データを迅速に処理する必要があることから用いられていた従来の高価な回路によらず、安価な材料によって従来品を上回る性能の回路を設計することで低コスト化を測り、更に、計算処理回数の減少により計算を著しく高速化することが可能となったため、安価で実用的かつ正確な解析を行うことができる。
【0131】
具体的には、相関時間が短い領域では、短い時間間隔で入力されるパルスのペアの数が少ないので、全てのデータ列を使って計算する必要があるが、時間間隔が1ms(ミリ秒)以上になると、データ列に含まれる二つの光子パルスのペアの数が著しく増加する。従って、相関時間が長いほど平均を取るために十分過ぎる量のデータが来ていることになり、全ての二つの光子パルスのペアを用いずに時間間隔の長さに応じてデータを間引いても精度上の問題は無い。相関時間が倍になると二つの光子パルスのペアの数も倍程度になるので、二つの光子パルスのペアの中の半分のデータだけ使うようにする。こうすることで、相関時間を対数のスケールで増やしても、相関時間の対数に比例して計算量が増すだけなので、長い相関時間を測定しようとするほど、高速化ができることになる。また、この技術は、光散乱装置および光散乱測定法以外にも応用できる。
【0132】
特に、簡便かつ安価に不透明な試料の動的光散乱を測定し、多重散乱の寄与を考慮して内部構造に関する信頼性の高い測定結果が得られる技術、主に顕微走査機構と多色レーザー光を用いた測定方法、新しい電子回路と計算アルゴリズムを用いたデータ処理方法、新しいアルゴリズムに基づく、光子相関関数を計算する解析計算プログラムを提供することができる。
【0133】
なお、図3で示した光散乱装置は、一例であり、図3で示す構成要素をすべて備えていなくても、本発明に係る光散乱装置を実現することは可能である。例えば、レーザー光源210と、試料セル100、セルフォルダー180、制御部190並びに制御部190を制御する部分を備え、試料セル100から散乱した散乱光を通過させるピンホール324と検出器330、パルス間隔測定器350、光子相関関数を計算する部分とを備える場合であってもよい。
【0134】
また、図2で示した試料セル100のサイズは一例であり、底面が正方形でない試料セルであってもよい。
【0135】
さらに、光子相関関数を算出する構成要素は、図3に示すように、光散乱装置の一部として備えることも可能であるが、散乱光を測定する部分と切り離して、光子相関関数算出装置とすることも可能である。また、散乱光を測定する構成要素は、光子相関関数を算出する構成要素を切り離した光散乱装置とすることも可能である。
【0136】
光子相関関数を算出する構成要素(光子相関関数算出装置)としては、パルス間隔測定器350、光子相関関数を計算する部分とを必要とし、パルス間隔測定器350は、光子パルスが入力されることによって、動作が開始される。
【0137】
また、光子相関関数を算出する構成要素(光子相関関数算出装置)として、光子相関関数を計算する部分は、二つの光子パルスの時間間隔の時系列データを記録した記録媒体によってデータを入力することによって、機能を実現することができる。この場合、記録媒体のデータを読み込め、計算能力を有するコンピュータであればよい。
【0138】
散乱光を測定する構成要素としては、レーザー光源210と、試料セル100、制御部190、検出器330を必要とする。また、制御部190は、ユーザによって手動で制御することは困難であり、制御部190を制御するコンピュータに相当する部分が必要となることが現実的である。
【0139】
また、図3の構成では、光路長lを零に近似する制御手段として、試料セル100の位置(もしくは試料110の位置)を制御する場合を説明した。しかしながら、これにかぎられることはなく、制御手段は、レーザー光源210と試料セル100と対物レンズ311との相対位置を制御すれば、光路長lを零に近似することが可能となる。従って、制御手段は、レーザー光源210の位置、あるいは、対物レンズ311の位置を制御する場合であってもよい。その際、制御手段は、円筒面凸レンズ230並びに偏光板240も、レーザー光源210と同様に制御する。
【実施例】
【0140】
以下、具体的に測定した結果を示す。
【0141】
図3に一例として示した光散乱装置を用いて実験を実施した。図3に示した構成要素について、それぞれ用いた部品を説明する。
【0142】
試料セル100は、10mm×10mm×50mmのサイズの五面透明の石英セルを用いた。
【0143】
セルフォルダー180は、真鍮により作製した。
【0144】
制御部190は、中央精機株式会社製のMMステージ(製品番号MMU-60X)を三つ組み合わせたXYZステージを用いた。XYZステージは中央精機株式会社製の2軸コントローラ(製品番号MMC-2)により1μm単位での走査が可能なものにした。
【0145】
レーザー光源210として、第一の光源211は、He-Ne(ヘリウムーネオン)レーザー光(λ=632.8nm)、第二の光源212は、半導体レーザー光(λ=532nm)、第三の光源213は、He-Cd(ヘリウムーカドミウム)レーザー光(λ=632.8nm)を発射するものを用いた。
【0146】
検出器330として、浜松ホトニクス株式会社製の光電子増倍管(Photo-Multiplier Tube:PMT)を用いた。
【0147】
円筒面平凸レンズ230は、小さい散乱体積で測定する目的で、入射光の集光のため、シグマ光機株式会社製の円筒面平凸レンズ(f=150mm)を用いた。
【0148】
倒立型光学顕微鏡310は、オリンパス社製の倒立型金属顕微鏡を用いた。
【0149】
対物レンズ311は、散乱光の検出のため、オリンパス社製の超長焦点対物レンズ(f= 8 mm)を前記倒立型光学顕微鏡に取り付けた。
【0150】
ミラーには、シグマ光機株式会社製の平面ミラー、ハーフミラー(反射波長532nm)、ハーフミラー(反射波長420~540nm)を用いた。
【0151】
ピンホール322、324は、シグマ光機株式会社製の口径400nmを用いた。
【0152】
偏光板240、321は、シグマ光機株式会社製である。
【0153】
温度測定用としてネツシン社製の白金測温抵抗体、温度調節用として株式会社八光製のインチサイズカートリッジヒーターを取り付け、恒温セルフォルダーとした。温度は、株式会社シマデン製のディジタル調節計(製品番号SR253)と株式会社チノー製のサイリスタレギュレータ(製品番号JS-1020V)で設定、調節することができる。
【0154】
また、光散乱装置は、80cm×60cmの防振台の上に組み立てられ、図3のように配置した。光散乱装置において、XYZ座標軸は、図3と同様とする。
【0155】
入射レーザー光を試料セル100側面に垂直に入射させ、散乱光を角度90°で検出する。セルフォルダー180は、XYZステージに取り付けられておりコンピュータ360制御により三次元方向に走査できるので、散乱光の入射深さ依存性の測定が可能となる。また場所を走査して測定することで、時間‐空間平均(アンサンブル平均)の相関関数を厳密に測定することができる(非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0156】
入射光は円筒面平凸レンズ230により垂直方向に集光され、サンプルに入射する。散乱光は超長焦点対物レンズ311により集光される。2つのレンズにより散乱体積の微小化が可能となる。
【0157】
波長の違う三つのレーザーは光軸合わせを行い、サンプルの同じ場所に入射するように設置した。三つのレーザーを用いることで散乱光の波長依存性の測定が可能となる。
【0158】
試料の調製(ポリスチレンラテックス粒子分散溶液の調製)は、次のように実施した。ポリスチレンラテックス粒子(粒径175nm)を0.22μmのメンブレンフィルターで濾過した蒸留水に分散させた。一日攪拌した後、超音波による分散処理を30分行った。測定に用いた試料セル100は、細かい埃が入らないように光学測定用のレベルの洗浄を行ない、十分に乾燥させた。このラテックス粒子の分散液を1.2μmのメンブレンフィルターで濾過しながら石英セルに入れ、蒸発が起きないように密封した。濃度は0.001、0.1、0.3、0.7wt%(重量パーセント)の4種類を用意した。図14に試料セル100に入れた試料110の外観写真を示す。図14の左から、0.001、0.1、0.3、0.7wt%の濃度の順番に並べてある。
【0159】
次に、緩和時間の光路長依存性の測定結果について説明する。実施例では、第二の外挿法を用いた。
【0160】
作成したポリスチレンラテックス粒子分散溶液について、本発明で構成した光散乱装置で測定を行い、光路長lを変えて光子相関関数(式8)を決定した。光子相関関数(式8)から散乱電場の自己相関関数の動的成分(式21)を求めた。これについて単一指数関数(式22)を用いてフィッティングにより解析した。
【0161】
ここで、τは緩和時間である。(式22)式を用いた解析により、光路長lに対する緩和時間τの変化が測定された。図15にその測定結果を示す。多重散乱の理論から光路長lが増加すると散乱回数N(l)が増えるために緩和時間τは減少することが理論的に示されているが、それに従う結果が得られた。
【0162】
光路長lが0(零)になる極限へ外挿し、緩和時間の外挿値τR,0を決定できる。図15を見ると試料の濃度を変えてもτR,0が一致しており、試料の濃度が高くなって白濁して多重散乱が起きている場合にも分散している粒子の緩和時間を正しく測定できることが示された。また、濁度が高い0.7wt%の場合に注目すると、光路長lが増えるにしたがって緩和時間τが急激に減少することがわかる。従来の測定法で、光路長l=2mmの場合に測定した場合を考えるとτとτR,0とが三倍近く異なる値になっていることがわかる。濁度の高い微粒子分散液について、表面の近傍を測定して多重散乱の寄与を無視する方法(非特許文献5参照)があり、既に製品化されているが、この方法に基づくと濁度と光路長によって測定される緩和時間τが変わってしまい、真の緩和時間τR,0と大きく異なる値が測定されることがあるということが、この測定結果からも明らかである。
【0163】
現状では、dz=1mm、dy=1mmの場合、すなわち、光路長l最小値が2mmの場合、測定の精度が向上する。また、光路長lの最小値が3mmの場合であっても、測定の精度が向上することがわかっている。光路長lの最小値を2mmにすることは、表面の近傍を測定して多重散乱の寄与を無視する方法(非特許文献5参照)に比べると、非常に容易であり、装置自体のコストを削減できるとともに、測定時の操作を容易(簡便)にすることができる。
【0164】
次に、波長依存性の解析結果について説明する。
【0165】
波長の異なるレーザー光を用いて、同様の測定を行った。入射光の波長λの2乗に対して緩和時間の外挿値τR,0をプロットしたものを図16に示した。この結果から、入射光の波長λを変えることにより、緩和時間の波長依存性を測定できることが示された。測定する粒子が拡散運動をしているときにはこのグラフの傾きから拡散係数Dを見積もることができる。したがって、異なる入射光の波長に対する複数の測定値を用いて拡散係数が決定できるので精度の向上が期待できる。また、全くの未知試料について測定を行った場合であっても、波長の異なるレーザー光を用いることによって、散乱角θを90°に固定して測定しても、相関関数の波長依存性を測定できることから、未知試料の内部でどのような緩和現象が起こっているかということについて調べることができるということが、この測定結果からも明らかである。
【0166】
多重散乱の式に注目すると、(式23)によって散乱回数N(l)を測定できる。
【0167】
【数16】
JP0004517145B2_000017t.gif

【0168】
図17に実験結果を示した。散乱回数N(l)は光路長lによって増加するが、そのグラフの曲線の形は、濃度に強く依存することが示された。このような散乱回数N(l)の測定法はこれまで無かったので、この方法によって、新しい測定量が得られることが明らかになった。散乱回数N(l)は試料内部の粒子の粒径や形状、濃度に強く依存することが理論的にも考察されていたが(非特許文献1参照)、具体的な測定法が無かった。この方法で散乱回数N(l)を測定すれば、白濁した試料(飲料、塗料など)を希釈することなく、分散粒子の粒径や形状の変化を鋭敏に測定できることを示しており、工場のラインにおいて品質管理などに直ちに応用が可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明に係る光散乱装置および光散乱測定法は、試料が不透明な場合にも光散乱の測定を可能にする効果を有し、固体、液晶、ゲル、コロイド、高分子溶液、高分子溶融液、電解質溶液、微生物・細胞小器官・細胞内形質などの微粒子が溶解した溶液における内部構造とその運動性を測定する場合に有用である。特に、溶液が白濁している場合にも測定可能となり、特に、白濁したコロイド溶液中の物質の状態、高分子ゲル内部の網目構造、高分子ゲル網目内部の物質拡散などの評価に用いることができる新しいキャラクタリゼーション法として、様々な分野に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】本発明に係る光散乱装置及び光散乱測定法の試料セルとレーザー光との関係を示す図
【図2】試料セルを三次元で示した図
【図3】光散乱装置の構成の一例を示す図
【図4】測定する位置の一例を示す図
【図5】相関時間の対数と散乱電場の光子相関関数との関係を時系列に示した図
【図6】図5を光路長l=0の面へ投影して示した図
【図7】パルス間隔測定器とコンピュータの構成の一例を示す図
【図8】時間間隔を説明する図
【図9】光子相関関数を算出する動作の一例を表すフロー図
【図10】光路長が異なる光子相関関数を外挿する処理の動作の一例を示すフロー図
【図11】円筒面平凸レンズを適用することによる利点を説明する図(Y軸方向上から下へ見た方向)
【図12】円筒面平凸レンズを適用することによる利点を説明する図(X軸方向奥から手前に見た図)
【図13】円筒面平凸レンズを適用することによる利点を説明する図(斜視図)
【図14】試料セルに入れた試料の外観を示す写真
【図15】緩和時間の光路長依存性の測定結果を示す図
【図16】波長依存性の解析結果を示す図
【図17】光路長と散乱回数との関係を示す図
【符号の説明】
【0171】
100 試料セル
110 試料
180 セルフォルダー
190 制御部
210 レーザー光源
211 第一の光源
212 第二の光源
213 第三の光源
221,222 ハーフミラー
223 全反射ミラー
230 円筒面平凸レンズ
240、321 偏光板
310 倒立型光学顕微鏡
311 対物レンズ
312 光路切替部
313 直角プリズム
314 目視観察部
322、324 ピンホール
323 凸レンズ
330 検出器
340 プリアンプ-ディスクリミネータ
350 パルス間隔測定器
351 カウンタ制御部
352 間隔測定部
353 カウンタ
354 ラッチ
360 コンピュータ
361 メモリ
362 演算部
363 発振器
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図15】
13
【図16】
14
【図17】
15
【図14】
16