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明細書 :ワムシ単性生殖卵の消毒方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4682291号 (P4682291)
公開番号 特開2006-230328 (P2006-230328A)
登録日 平成23年2月18日(2011.2.18)
発行日 平成23年5月11日(2011.5.11)
公開日 平成18年9月7日(2006.9.7)
発明の名称または考案の名称 ワムシ単性生殖卵の消毒方法
国際特許分類 A01K  61/00        (2006.01)
A23K   1/16        (2006.01)
A23K   1/18        (2006.01)
C12N   1/00        (2006.01)
FI A01K 61/00 L
A23K 1/16 304A
A23K 1/18 102A
A23K 1/18 102B
C12N 1/00 Z
請求項の数または発明の数 6
全頁数 18
出願番号 特願2005-052347 (P2005-052347)
出願日 平成17年2月28日(2005.2.28)
審査請求日 平成19年10月31日(2007.10.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
【識別番号】501168814
【氏名又は名称】独立行政法人水産総合研究センター
発明者または考案者 【氏名】吉水 守
【氏名】渡辺 研一
【氏名】桑田 博
【氏名】小磯 雅彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100133905、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 良夫
【識別番号】100090941、【弁理士】、【氏名又は名称】藤野 清也
【識別番号】100076244、【弁理士】、【氏名又は名称】藤野 清規
【識別番号】100113837、【弁理士】、【氏名又は名称】吉見 京子
【識別番号】100127421、【弁理士】、【氏名又は名称】後藤 さなえ
審査官 【審査官】高橋 三成
参考文献・文献 特表2004-504858(JP,A)
特開2004-081018(JP,A)
特開昭62-126922(JP,A)
特開2003-189754(JP,A)
特開平07-079659(JP,A)
調査した分野 A01K 61/00
A23K 1/16-18
特許請求の範囲 【請求項1】
ワムシの単性生殖卵をグルタルアルデヒド1000~2000mg/Lを含む天然海水又は人工海水に20~40分間浸漬して消毒することを特徴とするワムシ単性生殖卵の消毒方法。
【請求項2】
請求項1に記載の消毒方法において、ワムシの単性生殖卵をグルタルアルデヒド1000mg/L含む60%濃度の人工海水に30~40分間浸漬する方法。
【請求項3】
請求項に記載の消毒方法において、ワムシの単性生殖卵をグルタルアルデヒド1250mg/Lを含む60%濃度の人工海水に20~40分間浸漬する方法。
【請求項4】
請求項に記載の消毒方法において、ワムシの単性生殖卵をグルタルアルデヒド1500~2000mg/Lを含む60%濃度の人工海水に20~30分間浸漬する方法。
【請求項5】
マダイ、トラフグ、ヒラメ、アユ、クルマエビの仔魚に給餌するワムシを得るための、請求項1から4のいずれかに記載のワムシ単性生殖卵の消毒方法。
【請求項6】
魚介類種苗生産の現場において仔魚に給餌するワムシの大量培養に使用する元種を得るための、請求項1からのいずれかに記載のワムシ単性生殖卵の消毒方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ワムシ単性生殖卵の消毒方法に関する。詳しくは、ワムシの単性生殖卵について、高いふ化率と消毒率が得られる消毒方法に関する。さらに詳しくは、ワムシ由来の病原体による魚介類の細菌性疾病を予防するために有効なワムシ単性生殖卵の消毒方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国では、2001年度に51種類の海産魚介類の種苗生産が行なわれ、多くの種でシオミズツボワムシ(Brachionus plicatilis) などの輪虫類(本発明ではこれら輪虫類のことを「ワムシ」と記す。)の給餌が必須となっている。一方、ワムシが感染源として疑われる細菌性疾病の発生が報告されており、ワムシ由来で種苗生産対象種に疾病が発生することを防除する技術の開発が緊急の課題となっている。そのためには、餌料として供給するワムシの病原体による汚染レベルを低くすることが必要である。
【0003】
ワムシの病原体による汚染レベルを低くするためには、ワムシ培養に使用する用水・水槽・器具・餌料及び最初に接種するワムシの元種などを消毒する必要がある。ワムシの培養水や水槽・用具などの培養環境の消毒技術はすでに確立されている。しかしながら、餌料や元種の消毒法については未検討であるため、これらの消毒技術を早急に確立する必要がある。
【0004】

【特許文献1】特開平07-79659号公報
【特許文献2】特開平11-98965号公報
【非特許文献1】水産庁/社団法人日本栽培漁業協会発行昭和63年度栽培漁業技術研修事業基礎理論コース餌料生物シリーズNo.8『シオミズツボワムシ培養に関する最近の知見』(平山和次著)
【非特許文献2】水産庁/社団法人日本栽培漁業協会発行昭和62年度栽培漁業技術研修事業基礎理論コース餌料生物シリーズNo.1『クロレラの大量培養と水産への利用』(ヤクルト本社・深田哲夫著)
【非特許文献3】Aquaculture Research (1997) vol.28, 559-565, Balompapueng et al.
【非特許文献4】Aquaculture (1999) vol.176, 195-207, G.Rombaut et al.
【0005】
特許文献1にはワムシ類の高密度大量培養法が開示されている。また、特許文献2には高密度培養ワムシの栄養強化法について開示されている。しかしながら、特許文献1にも特許文献2にも、ワムシの単性生殖卵を消毒する方法については何ら記載されていない。
【0006】
以下の非特許文献にはワムシの卵を消毒する方法が散見される。すなわち、非特許文献1には、ワムシの初産卵を採取して洗浄し、抗生物質含有液を滅菌海水に対して2対10の割合で加えたものに約3時間浸漬する操作を数回繰り返した後、さらに滅菌海水中に移して放置することを繰り返して無菌のワムシを得る方法が開示されている。また、非特許文献2には、ワムシの単性生殖卵を0.1%Tween80添加培地で3回洗浄した後、遠沈洗浄し、ペニシリン500μg/mL、ストレプトマイシン625μg/mLを含む培地に25℃で24時間浸漬した後、遠心分離して無菌ワムシを得る方法が開示されている。しかし、これらのワムシの卵の消毒方法はふ化率が明らかでない上、上記のとおり、複雑な操作を繰り返す必要があるため手間がかかるので、大量の元種を得る目的には適さない。また、この操作によって得られたワムシは、必ずしも無菌になるとは限らない。
【0007】
なお、ワムシ耐久卵の消毒法に関しては、非特許文献3と非特許文献4に報告されている。すなわち、非特許文献3には、1mg/L(0.0001%)の次亜塩素酸ナトリウムでワムシ耐久卵を60分間処理することにより、無処理のものよりもふ化率が向上し、SEMにより卵表面に細菌が観察されなくなったことが報告されている。しかしながら、単性生殖卵に対する次亜塩素酸ナトリウムの毒性が確認されているため、この方法は何ら参考になるものではない。
【0008】
また、非特許文献4には、0.05μL/L(0.05mg/L)のグルタルアルデヒドでワムシ耐久卵を6時間処理することにより、無処理のものとふ化率に差がなく、細菌が検出されなくなった旨が報じられている。すなわち、非特許文献5のTable 2 (200頁)
には、ワムシの耐久卵をメチルオレイト又はグルタルアルデヒドを用いて殺菌する場合、グルタルアルデヒド液を0.05~0.25μL/Lという極めて薄い濃度にして耐久卵を約6時間浸漬すると、50~32%程度のふ化率を示し、細菌は検出されなかった旨が開示されている。
【0009】
しかしながら、非特許文献4に記載の方法をワムシ単性生殖卵に適用すると、単性生殖卵を消毒剤中に6時間も浸漬することになるので、この間にほとんどの卵がふ化してしまう。すなわち、ワムシ単性生殖卵の消毒では、発育段階を揃えることが非常に困難であるため、消毒中にもふ化する卵があり、長時間の消毒には問題がある。本発明者らの知見では、単性生殖卵の薬剤浸漬は40分間程度が限界であると考えられる。しかも、単性生殖卵からふ化したワムシは、薬剤に極端に弱いため、この方法では多くのワムシが死亡してしまい、ふ化率が低下することになる。
【0010】
すなわち、ワムシの卵は、単性生殖卵(正確には複相単性生殖卵)と耐久卵に大別されるが、単性生殖卵は雌が単性生殖により産出して急激な増殖をもたらすのに対して、耐久卵は雄の出現による両性生殖により産出されて休眠をもたらす。消毒剤に対する耐性は耐久卵の方がはるかに大きい。なお、両性生殖の起こり易さはワムシの株によって異なる。
【0011】
このように、ワムシの単性生殖卵と耐久卵では消毒剤に対する感受性が大きく異なるため、種苗生産の現場において元種となるワムシを得るための卵の消毒に耐久卵の消毒法をそのまま用いることは非常に危険である。すなわち、ワムシ耐久卵は肥厚した第2次卵膜を備えているため、外部環境の変化に極めて強い耐久性を示し(そのため「耐久卵」と呼ばれている。)、例えば塩素による消毒も可能であるのに対し、ワムシ単性生殖卵は第1次卵膜しか有しないため、外部環境の変化に弱く、塩素消毒に耐え得ないことが知られている(水産学シリーズ44「シオミズツボワムシ-生産学と大量培養」22頁参照)。また、ワムシの耐久卵は長期の保存が可能であるのに対し、ワムシの単性生殖卵はほとんど保存ができない。例えば、耐久卵は、淡水で洗浄して3年間保存した乾燥卵でもふ化が認められる。さらに、耐久卵は、0~5℃の暗い海水中で8年間保存してもふ化が認められるが、単性生殖卵はふ化時間が15℃で1~2日、20℃で1~1.5日、25℃で0.5~1.0日、30℃で3~18時間というように直ちにふ化し、保存することができない(福所邦彦・平山和次共同編集「初期餌料生物-シオミズツボワムシ」参照)。このように、同じワムシの卵であっても、耐久卵と単性生殖卵では生態学的な相違が極めて大きく、消毒剤に対する感受性が異なるため、魚介類種苗生産の現場で、耐久卵の知見をそのまま単性生殖卵に適用できないことは、言わば技術常識とされている。
【0012】
一方、現在我が国の魚介類種苗生産機関で培養されているワムシは、増殖性の良さを基準として選抜が行なわれているため、単性生殖卵を生じる株を用いている機関が多く、耐久卵を生じる株を用いている機関は非常に少ないものと推察される。
【0013】
したがって、耐久卵の消毒技術とは無関係に、ワムシ単性生殖卵独自の消毒技術を確立する必要がある。特に、ワムシを大量に必要とする魚介類種苗生産の現場に適するワムシの卵の消毒方法を開発する必要がある。しかし、ワムシ単性生殖卵の消毒方法ないし殺菌方法はいまだ確立されていない。本発明者らは、ワムシ単性生殖卵の各種消毒剤に対する感受性と消毒効果について繰り返し試験・検討を行なった結果、ようやくにして本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記の状況に鑑み、本発明は、ワムシ単性生殖卵を消毒する簡単な方法であって大量のワムシを必要とする魚介類種苗生産の現場に容易に適用できる消毒方法を提供することを第1の課題とする。また、本発明は、ワムシ単性生殖卵について、ふ化率と消毒率の高い消毒方法を提供することを第2の課題とする。さらに、本発明は、その消毒方法によって消毒を済ませた卵からふ化したワムシを元種として増やして仔魚の餌料として給餌することによってワムシに由来する魚介類の細菌性疾病を低減できる消毒方法を提供することを第3の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記全ての課題を解決できる本発明のうち、特許請求の範囲・請求項1に記載する発明は、ワムシの単性生殖卵をグルタルアルデヒド溶液に浸漬して消毒することを特徴とするワムシ単性生殖卵の消毒方法である。
【0016】
同請求項2に記載する発明は、請求項1に記載の消毒方法において、ワムシの単性生殖卵をグルタルアルデヒド1000~2000mg/Lを含む天然海水又は人工海水に20~40分間浸漬する方法である。
【0017】
同請求項3に記載する発明は、請求項2に記載の消毒方法において、ワムシの単性生殖卵をグルタルアルデヒド1000mg/Lを含む60%濃度の人工海水に30~40分間浸漬する方法である。
【0018】
同請求項4に記載する発明は、請求項2に記載の消毒方法において、ワムシの単性生殖卵をグルタルアルデヒド1250mg/Lを含む60%濃度の人工海水に20~40分間浸漬する方法である。
【0019】
同請求項5に記載する発明は、請求項2に記載の消毒方法において、ワムシの単性生殖卵をグルタルアルデヒド1500~2000mg/Lを含む60%濃度の人工海水に20~30分間浸漬する方法である。
【0020】
また、同請求項6に記載する発明は、マダイ、トラフグ、ヒラメ、アユ、クルマエビの仔魚に給餌するワムシを得るための、請求項1から5のいずれかに記載のワムシ単性生殖卵の消毒方法である。
【0021】
また、同請求項7に記載する発明は、魚介類種苗生産の現場において仔魚に給餌するワムシの大量培養に使用する元種を得るための、請求項1から5のいずれかに記載のワムシ単性生殖卵の消毒方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、上記のとおり、きわめて簡単な方法によってワムシ単性生殖卵を消毒する方法であるから、毎日10億個体ないし100億個体単位という大量のワムシを必要とする魚介類種苗生産の現場で容易に用いることができる。また、本発明の方法によって消毒したワムシ単性生殖卵は高いふ化率と消毒率を有する。よって、本発明の方法を用いて消毒を済ませたワムシ単性生殖卵からふ化したワムシを元種として用い、細菌学的に安全なワムシを大量に培養することができる。また、本発明の方法を用いて消毒を済ませたワムシ単性生殖卵をふ化させた後不足栄養素の強化処理を行なった上で直ちに仔魚に給餌することによって魚介類の細菌性疾病を予防することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明者らは、ワムシ単性生殖卵の感受性を考慮し、当初は、魚介類の飼育などにおいて消毒剤として通常用いられている薬剤をいくつか選び、これら薬剤を通常用いられる濃度に希釈した消毒用水に単性生殖卵を浸漬して消毒やふ化の状況を観察する試験を行なったが、いずれの薬剤からも好ましい成果を得ることができなかった。次に、魚介類の種苗生産の現場で飼育器具類に対する消毒効果が知られている電解海水やオキシダント海水を用いて同様の試験を実施したが、いずれからも好ましい成果を得ることができなかった。
【0024】
そこで、消毒剤をグルタルアルデヒドに切り替えて試験したところ、ほぼ好ましい成果が得られ、さらに、グルタルアルデヒドの濃度や適用条件を種々に変えて試験を繰り返した結果、ようやくにして好ましい濃度範囲や条件を確認することができ、本発明を完成するに至った。本発明で用いるグルタルアルデヒドは、アルデヒド系の消毒剤であり、一般細菌、結核菌、カビなど広範囲の微生物に対して殺菌効果を有し、耐性菌ができにくいことで知られている。
【0025】
本発明は、ワムシの単性生殖卵をグルタルアルデヒド溶液に浸漬して消毒することを特徴とする。具体的には、本発明では、ワムシの単性生殖卵を、グルタルアルデヒド1000~2000mg/Lを含む天然海水又は人工海水に20~40分間浸漬して消毒する方法を採ることが好ましい。
【0026】
本発明では、グルタルアルデヒドを溶解させる用水は、天然海水でも人工海水でも差し支えないが、なかでも、塩分濃度50~70%の人工海水を用いることが好ましく、さらに好ましくは、塩分濃度60%に調整した人工海水の使用であり、最も好ましいのは、60%濃度のHerbstの人工海水を用いることである。すなわち、60%濃度のHerbstの人工海水を用いて、グルタルアルデヒド1000mg/Lを含む海水に30~40分間浸漬するか、又は、同1250mg/Lを含む海水に20~40分間浸漬するか、もしくは、同1500~2000mg/Lを含む海水に20~30分間浸漬して、消毒する方法を採ると、ワムシ単性生殖卵に最適の消毒効果が得ることができる。
【0027】
一般に、ワムシはL型ワムシ(シオミズツボワムシ:Brachionus plicatilis )とS型ワムシ(和名未定:Brachionus rotundiformis)に大別されるが、本発明は、単性生殖卵であれば、どちらにも適用できる。
【0028】
本発明の方法を用いて消毒したワムシ単性生殖卵からふ化したワムシは、海産魚介類であればどのような魚介類にも給餌できる。例えば、マダイ、トラフグ、ヒラメ、アユ、クルマエビなどの仔魚の餌料として好適に用いることができる。
【0029】
本発明の方法によって消毒を済ませた卵からふ化したワムシは、これら魚介類の仔魚の餌料として不足栄養素の強化処理を行なった上で直接給餌するか、又はワムシ大量培養の元種として、植物プランクトンや酵母類を餌料として単性生殖によって数を増やしてから不足栄養素の強化処理を行なった上で仔魚の餌料として給餌することができる。
【0030】
以下、試験例をもって本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の試験例を含め、本発明において示すワムシのふ化率と消毒率は、以下の数式を用いて算出したものである。《ふ化率の計算式》
ふ化率=〔(生存個体数)÷(生存個体数+死亡個体数+単性生殖卵数)〕×100
《消毒率の計算式》
消毒率=〔1-(浸漬後の生菌数÷浸漬前の生菌数)〕×100
【試験例1】
【0031】
<消毒用水の選定試験>
(1)培養水と供試ワムシ
本試験例では、消毒剤を溶解する用水として、独立行政法人水産総合研究センター・能登島栽培漁業センターにおいて、地先から揚水して砂ろ過した天然海水と同センターの井戸から取水した井戸水を用いておよそ20psu の塩分となるように希釈した培養水(以下「60%海水」という。)を用い、ワムシは、「60%海水」中で20~25℃で培養中のシオミズツボワムシ(L型ワムシ)小浜株を用いた。
(2)単性生殖卵の分離
家庭用ミキサーで「60%海水」と共にワムシを攪拌して虫体から卵を分離させ、この「60%海水」をメスシリンダーに移し入れ、卵が沈下するのを待って虫体を含む上清を廃棄した。この沈殿に「60%海水」を加えて別のメスシリンダーに移し入れ、再度卵の沈下を待って同様に上清を廃棄した。この操作を数回繰り返し、沈下した卵を回収した。(3)消毒用水
消毒剤を溶解する用水として、a)精製水、b)精製水と塩化ナトリウムで調整した0.9%NaCl溶液、c)60%濃度のHerbstの人工海水及びd)「60%海水」を用いて、以下の試験を行なった。
【試験例2】
【0032】
(4)試験方法
試験は、20℃の恒温器に1日以上放置した上記の消毒用水を用いて20℃の室内で行なった。すなわち、それぞれの消毒用水1Lを角形水槽(210×270×40mm)に入れ、約1gの単性生殖卵を30分間浸漬した。浸漬中は攪拌機上に水槽を設置し、100rpmで攪拌させた。浸漬終了後、ネットで卵を濾し取り、淡水クロレラ(クロレラ工業:生クロレラV12)を1000万細胞/mL含む30mLの「60%海水」が入った50mL試験管に卵を数百粒入れ、100rpmの攪拌機上にセットして2昼夜振とうした後、実体顕微鏡下で、クロレラで胃が緑色を呈する虫体を生存個体、呈さない虫体を死亡個体として、さらに未ふ化の卵を計数した。
(5)試験結果
各消毒用水に卵を浸漬したときのふ化率は表1に示すとおりである。
【試験例3】
【0033】
(6)所見
表1から、精製水及び0.9%NaCl溶液に卵を30分間浸漬した場合のふ化率は、それぞれ約11%及び約66%であった。これに対して、60%濃度のHerbst人工海水及び「60%海水」に卵を浸漬した場合のふ化率は、それぞれ約97%及び約95%であった。よって、これら4種類の消毒用水を用いたときのふ化率には有意差が認められた(p<0.05)。さらに、多重比較検定を行なったところ、60%濃度のHerbst人工海水と「60%海水」の間では有意差は認められなかったものの、他の消毒用水間では有意差が認められた。したがって、精製水及び0.9%NaCl溶液は、消毒剤の効果を検討する用水として適していないものと考えられた。一方、天然海水には有機物が含まれており、消毒剤の減衰をもたらす可能性があること、また、時期により含有成分が異なることが予想され、消毒効果に影響する可能性があると考え、有効な消毒剤を検討する用水として、60%濃度のHerbstの人工海水、すなわち「60%人工海水」を用いることとした。
【表1】
JP0004682291B2_000002t.gif
【試験例4】
【0034】
<消毒剤の選定試験1>
(1)試験方法
試験例1と同じ方法で分離・採取したワムシ単性生殖卵を、試験例1で選定した「60%人工海水」(60%濃度のHerbstの人工海水)に一般的に用いられている8種類の消毒剤(エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、次亜塩素酸ナトリウム、フェノール、クレゾール、塩化ベンザルコニウム、ホルマリン)をそれぞれの常用濃度で溶解させた消毒用水に浸漬して(浸漬時間は5~40分間)、浸漬後、それぞれの消毒率とふ化率を算出し、消毒剤としての適否を検討した。なお、次亜塩素酸ナトリウムとホルマリンについては、ワムシ卵のふ化が認められる濃度まで試験を行なった。
なお、対照区(消毒剤に浸漬しない卵)のふ化率は、1回目=73.6%、2回目=57.1%で、3回目=62.7%であった。
(2)判定方法
試験結果は表2~表9に示すとおりである。
各表中のふ化率は、対照区と同等程度と判断できるふ化結果が得られた消毒条件を○、対照区よりもやや劣る程度のふ化率が得られた条件を△、著しく悪いふ化率を示した条件を×と判定した。また、各表中の消毒率は、99.9%以上の消毒率を示し、十分な消毒効果が得られた条件を○、消毒効果が少し認められた条件を△、消毒効果が認められなかった条件を×と判定した。さらに、総合判定は、ふ化率・消毒率共に○と評価された条件を○、一方でも△又は×と評価された条件を×と判定した。なお、この判定方法は、本発明の他の試験例についても採用した。
【試験例5】
【0035】
(3)試験結果
イ)エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコ-ルなどのアルコ-ル類 (表2~表4)では、いずれも濃度30%~70%における5~15分間の浸漬でふ化 率に悪い影響を及ぼし、×評価となった。
ロ)次亜塩素酸ナトリウム(表9)では、ふ化については濃度0.001%で△評価が得 られたものの、この濃度での消毒率は×評価となった。一方、0.1%と0.2%に3 0分間、0.5%に15分間以上浸漬する場合には、消毒率で○評価となったが、ふ化 率は×評価となった。0.001%未満の濃度にすると、ふ化率は○評価が得られる可 能性が考えられるが、この濃度での消毒率はすでに×評価であり、「卵消毒」の目的か らはこれ以上の濃度での試験は無意味であると考えられるので、試験を中止した。
ハ)フェノール1%・3%・5%、クレゾール1%・2%・3%、塩化ベンザルコニウム 0.1%の濃度に、それぞれ5・10・15分間浸漬したところ、いずれも消毒率は○ 評価であったが、ふ化率は×評価となった(表5~表7)。
ニ)ホルマリン(表8)では、0.2%以下の濃度に20分間以内の浸漬でふ化率に△評 価が得られたものの、消毒率では×評価となった。0.1%以下の濃度にすると○評価 のふ化率が得られる可能性はあるが、この濃度における消毒率はすでに×評価であり、 「卵消毒」の目的から、これ以上の濃度での試験は無意味であると判断され、試験を中 止した。ホルマリンはホルムアルデヒドを35~38%程度含む水溶液であるから、ホ ルマリン0.1%はホルムアルデヒド350mg/Lに相当する。同じアルデヒド類で あるグルタルアルデヒドが、試験例5に示すように、20分間以内の浸漬では2000 mg/L以下の濃度で安全性が確認されている。グルタルアルデヒドの殺菌作用は分子 中のアルデヒド基が細菌表面や内部のタンパク質を凝固させると共に酵素を失活させる ことによるとされている。ホルムアルデヒドも同じアルデヒド基が殺菌作用をもたらす と考えられるが、ホルムアルデヒドとグルタルアルデヒドではワムシ単性生殖卵に対す る安全性は大きく相違することが確認された。
【試験例6】
【0036】
(4)所見
以上の結果から、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、次亜塩素酸ナトリウム、フェノール、クレゾール、塩化ベンザルコニウム、ホルマリンは、ワムシ単性生殖卵の消毒剤として、いずれも不適であることが確認された。
【産業上の利用分野】
【0037】
【表2】
JP0004682291B2_000003t.gif
【表3】
JP0004682291B2_000004t.gif
【表4】
JP0004682291B2_000005t.gif
【表5】
JP0004682291B2_000006t.gif
【表6】
JP0004682291B2_000007t.gif
【表7】
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【表8】
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【表9】
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【0038】
<消毒剤の選定試験2>
(1)試験方法
試験例1と同じ方法で分離・採取したワムシ単性生殖卵をネットに入れ、以下の2種の100%海水(水温10~20℃)を3L/分の流量で流水にした25L容のコンテナー中に50~60分間振とうしながら浸漬した。浸漬終了後、ネットで卵を濾し取り、滅菌2%ペプトン水(1.5%NaCl添加)を十分量加えて、塩素及びオキシダントの作用を止めた。
A.種苗生産の現場で用いる飼育器具類に対する消毒効果が報告されている電解海水(有 効塩素濃度0.5~4.8mg/L:東和電機製作所試作機・海水電解装置で作製)
B.オキシダント海水(オキシダント濃度0.5mg/L:荏原実業製・オゾン卵洗浄装 置(海水オゾン処理装置)で作製)
【0039】
滅菌したビニール袋に約0.1gの卵を入れて秤量後、滅菌したHerbstの人工海水を9倍量加えてホモジナイズした。10倍希釈液列を作製し、海水寒天培地平板表面に塗抹して20℃で5日間好気的に培養し、出現コロニー数から生菌数を算出した。なお、殺菌力を有する海水に浸漬する前の生菌数についても同様に測定した。消毒率は前記の式により算出し、消毒効果を評価した。
【0040】
(2)試験結果
電解処理又はオゾン処理した海水に浸漬したワムシ単性生殖卵の消毒率とふ化率は、表10に示すとおりである。
【表10】
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【0041】
(3)所見
表10から、0.5mg/Lのオキシダントを含むオキシダント海水(オゾン処理した海水)ではワムシ単性生殖卵を60分間浸漬しても消毒効果は認められなかった。これに対して、電解処理海水では、最大で1オーダー生菌数の減少が認められたが、十分な消毒効果があるとは考えられなかった。さらに、およそ3mg/L以上の塩素濃度となると、わずか5分間の浸漬でもふ化率が10%未満に低下することが判明した。よって、電解処理した海水もワムシ単性生殖卵の有効な消毒剤とは考え難い結果となった。
【0042】
<消毒剤の選定試験3>
(1)試験方法
試験例1で使用した「60%人工海水」に4種の消毒剤(イソジン液、Triton-X、過酸化水素、水産用グルタラール)を溶解し、試験例1と同じ方法で分離・採取したワムシ単性生殖卵を浸漬・測定し、それぞれ消毒率とふ化率を試験例2と同じ方法で算出した。
【0043】
(2)試験結果
試験結果を表11に示す。
表11から、イソジン液を用いて有効ヨウ素濃度50mg/Lで10分間以上処理した場合、99%以上の消毒率が得られたが、ふ化率は2%程度で卵のふ化に悪影響を及ぼすことが確認された。有効ヨウ素濃度50mg/Lで浸漬時間を5分以下とした場合、99%以上の消毒率が得られる条件は得られなかった。
Triton-Xでは、消毒効果は認められなかった。
pH及び過酸化水素について検討したところ、pH2で2オーダー、過酸化水素10000mg/Lで1オーダーの生菌数の減少が確認されたが、ふ化率が共に0.5%と低かった。pH4、pH12では、消毒率がそれぞれ81%及び80%と低かった。
(3)所見
以上の結果から、イソジン液、Triton-X、pH及び過酸化水素は、今回の試験条件下では、有効な消毒剤とは考えられなかった。
【0044】
一方、水産用グルタラール(グルタルアルデヒド溶液)では、グルタルアルデヒドとして1250mg/Lの濃度で15分間浸漬した場合の消毒率は99.9%以上、30分間浸漬した場合にも99.99%以上となり、生菌数の減少が認められた。ふ化率は、15分間浸漬した場合に59~74%、30分間浸漬した場合に66~96%であった。このように、グルタルアルデヒドでは高い消毒率が得られ、ふ化率も高いことから、ワムシ単性生殖卵の消毒にはグルタルアルデヒド溶液の使用が有用であると認められる。
【0045】
なお、試験例1と同じ方法で分離・採取したワムシ単性生殖卵を消毒せずにふ化試験に供したところ、ふ化率は60~90%であった。統計検定の結果、消毒剤に浸漬しない卵のふ化率、グルタルアルデヒド溶液に15分間浸漬した卵のふ化率、グルタルアルデヒド溶液に30分間浸漬した卵のふ化率の間に有意差は認められなかった(p<0.05)。
【0046】
【表11】
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【0047】
<グルタルアルデヒドの適正濃度範囲の確認>
試験例1で使用した「60%人工海水」にグルタルアルデヒドを種々の濃度に溶解させて、試験例1と同じ方法で分離・採取したワムシ単性生殖卵を浸漬して生菌数を測定し、それぞれ消毒率とふ化率を試験例2と同じ方法で算出した。
【表12】
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【0048】
(2)試験結果
試験結果を表12に示す。
表12から、ふ化率についてみると、1500mg/L以上のグルタルアルデヒドに40分間浸漬した場合に△評価となった他は、○評価であった。
消毒率は、500mg/L以下のグルタルアルデヒドに浸漬した場合には、いずれの時間も×評価であった。△評価は1000mg/Lに20分間浸漬した場合であった。1000mg/Lに30分間以上浸漬した場合と1250mg/L以上に浸漬した場合には、いずれも○評価であった。
(3)所見
ワムシ単性生殖卵は、耐久卵と異なり、ふ化時間が早くて保存ができないことから、浸漬時間は40分程度が適当であると考えられる。
表12から、グルタルアルデヒド溶液について、濃度1000mg/Lで30~40分間、濃度1250mg/Lでは20~40分間、濃度1500~2000mg/Lでは20~30分間浸漬することにより、ワムシの単性生殖卵を好適に消毒できることが確認された。
【0049】
以上の試験を総合すると、魚介類種苗生産現場で細菌学的に安全なワムシを得る目的でワムシ単性生殖卵を消毒するには、単性生殖卵をグルタルアルデヒド1000mg/Lを含む60%濃度の人工海水に30~40分間浸漬するか、又は、グルタルアルデヒド1250mg/Lを含む60%濃度の人工海水に20~40分間浸漬するか、もしくは、グルタルアルデヒド1500~2000mg/Lを含む60%濃度の人工海水に20~30分間浸漬する方法が、最も効果的であると考えられる。
【0050】
<ヒラメを用いた給餌試験>
(1)試験方法の概要
以下の2つの試験区のヒラメ仔魚について、それぞれ、単性生殖卵からふ化したワムシを給餌して飼育試験を行なった。
対照区=消毒していない単性生殖卵からふ化したワムシを給餌する区
消毒区=消毒を済ませた単性生殖卵からふ化したワムシを給餌する区
試験期間中、水槽の水温は16.2~19.8℃であり、pHは7.9~8.6であった。飼育水にクロレラを合計で341.5~378.5mL添加し、ヒラメ仔魚合計で1685万~1972万個体のワムシを給餌した。
(2)供与ヒラメ
本試験例では、富山県農林水産公社氷見栽培漁業センターから平成15年5月26日に譲り受けた受精卵からふ化したヒラメ仔魚を用いた。ふ化は5月28日から始まり、29日に1水槽あたり容量法で計数したふ化仔魚1000尾を収容した。試験は仔魚の開口が確認された5月30日から開始した。
【0051】
(3)ワムシ卵の消毒方法
試験例1と同じ方法で分離・採取したワムシ単性生殖卵(L型ワムシ小浜株)を「60%人工海水」に入れてミルクミキサーMX-40(花木製作所)で攪拌して卵と虫体を分離して卵のみを採集して用いた。
このワムシ卵を「60%人工海水」で200倍に希釈した水産用グルタラール(三鷹製薬)に浸漬し、振とう機を用いて100rpmで30分間振とうして消毒し、亜硫酸水素ナトリウム6500ppmを含む60%人工海水をかけて中和した。
(3)ヒラメの飼育
ヒラメを収容した100L水槽は2kLのFRP円形水槽をウオーターバスとして水温を管理した。環境維持の目的で飼育水槽は2回転/日の換水率となるようにろ過海水を注水した。14日間飼育水の水温とpHを測定し、ふ化直後のワムシのみを給餌して飼育した。飼育終了時に全数計数によりヒラメの生残率を調査した。飼育水のクロレラ密度を朝晩2回計数して50~200万細胞/mLとなるようにスーパー生クロレラV12を添加した。飼育水中のワムシ密度を朝晩2回計数して5~10個体/mLとなるように給餌した。ヒラメ仔魚の全長を、試験開始7日目、試験開始14日目にそれぞれ万能投影機で拡大し、ノギスを用いて測定した。
【0052】
(4)試験結果
試験結果は表13と表14に示すとおりである。
表14から、飼育14日目の消毒区の生残率は68.7~78.9%であり、対照区の方がやや高かったが、大きな差は認められなかった。
仔魚の成長の状況についても、消毒区と対照区では差がなかった。
(5)所見
上記のとおり、消毒済みのワムシ単性生殖卵からふ化したワムシを給餌しても、消毒していない卵からふ化したワムシを給餌した場合に比べて、成長・生残に大きな差が認められなかった。したがって、消毒済みのワムシ単性生殖卵からふ化したワムシは、これを給餌しても消毒による害はなく、仔魚の餌料として問題なく使用できることが確認された。
【0053】
【表13】
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【表14】
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【0054】
以上詳細に説明するとおり、本発明は、きわめて簡単な方法によって、ワムシ単性生殖卵を消毒する方法であり、魚介類種苗生産の現場で実施するのに適した消毒方法である。本発明の方法によって消毒を済ませた単性生殖卵からふ化したワムシを元種として増やして必要栄養素を強化した上で海産魚介類の仔魚に給餌することによって、魚介類の細菌性疾病を適切に予防できる。このように、本発明は海産魚介類の種苗生産の現場で活用できる画期的な方法である。