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明細書 :間葉系幹細胞から軟骨細胞を調製する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4929447号 (P4929447)
公開番号 特開2006-314299 (P2006-314299A)
登録日 平成24年2月24日(2012.2.24)
発行日 平成24年5月9日(2012.5.9)
公開日 平成18年11月24日(2006.11.24)
発明の名称または考案の名称 間葉系幹細胞から軟骨細胞を調製する方法
国際特許分類 C12N   5/077       (2010.01)
A61L  27/00        (2006.01)
FI C12N 5/00 202G
A61L 27/00 G
請求項の数または発明の数 3
全頁数 8
出願番号 特願2005-143162 (P2005-143162)
出願日 平成17年5月16日(2005.5.16)
審査請求日 平成20年2月21日(2008.2.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】田中 賢
【氏名】森田 有香
【氏名】山本 貞明
【氏名】下村 政嗣
個別代理人の代理人 【識別番号】100105050、【弁理士】、【氏名又は名称】鷲田 公一
【識別番号】100131587、【弁理士】、【氏名又は名称】飯沼 和人
審査官 【審査官】鶴 剛史
参考文献・文献 特開2005-080599(JP,A)
Bone, 35[4](2004) p.850-858
Osteoarthritis and Cartilage, 11[1](2003) p.55-64
Tissue Eng., 9[4](2003) p.679-688
Osteoarthritis and Cartilage, 12[10](2004) p.834-842
Biochem. Biophys. Res. Commun., 320[3](2004) p.914-919
調査した分野 C12N 5/077
A61L 27/00
C12N 15/09
CA/BIOSIS/MEDLINE(STN)
WPI

特許請求の範囲 【請求項1】
固相基板に接着させた骨髄由来の間葉系幹細胞を、血清を含み、かつ前記血清に由来しないbFGF、TGFβおよびインスリンを含まないMEM培地で培養することを特徴とする、骨髄由来の間葉系幹細胞から軟骨細胞を調製する方法。
【請求項2】
培養を3日間以上行う、請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
前記固相基板は、ガラス、ポリスチレンまたは金属板から形成される、請求項1に記載の調製方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、未分化細胞である間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化を誘導し、間葉系細胞から軟骨細胞を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell、MSC)は、骨髄中に存在する未分化の細胞で、自己増殖能を有し、さらに骨髄細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、骨格筋、心筋、靭帯、腱などの中葉胚系の様々な細胞に分化することのできる多分化能を有する細胞である。この多分化に基づいた、臓器再生や細胞移植などのいわゆる再生医療へのMSCの利用が期待されている。
【0003】
多分化能を有するMSCが特定の細胞あるいは組織等へと分化するためには、そのような分化を誘導あるいは決定付ける特定のシグナルあるいは因子(分化誘導因子)の存在が必要であると考えられている。そのため、インビトロでMSCを特定の細胞あるいは組織へと分化させるために、そのような細胞あるいは組織への分化を特異的に決定付ける機能を有する各種の分化誘導因子が利用されている。
【0004】
分化誘導因子としては、bFGF、TGFβ、インスリンなどのポリペプチド性の分化誘導因子(以下、これらをペプチド性分化誘導因子と表す)、βグリセロホスフェート等のリン脂質、デキサメタゾン等のフッ素付加ステロイド、インドメタシン等のアリール酢酸系非ステロイド、亜セレン酸ナトリウムなどセレン化合物、などの低分子有機化合物系の分化誘導因子(以下、これらを非ペプチド性分化誘導因子と表す)などが知られており、これらのいずれかが単独でもしくは組み合わされて、間葉系幹細胞を培養する培地に添加されてきた(非特許文献1)。
【0005】
例えば、培地にデキサメタゾン、インスリン及びインドメタシンを加えることでMSCは脂肪細胞へと分化誘導され、また培地にデキサメタゾン及びクリセロホスフェートを加えることでMSCは骨芽細胞へと分化誘導されることが知られている(非特許文献2)。
【0006】
MSCの軟骨細胞への分化誘導は、変形性関節痛等の疾患の再生医療が可能となるなど、極めて重要な意義を有することから、MSCの軟骨細胞への分化を誘導するペプチド性分化誘導因子あるいは非ペプチド性分化誘導因子の探索が盛んに行われてきた。これまでのところは、ペプチド性分化誘導因子であるTGF-β1、IGF-1、FGF-2又は/及びBMP-6を培地に加えて培養することで、MSCの軟骨細胞への分化誘導に成功した例も報告されている(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。しかし、この様な因子を用いた方法は、軟骨細胞への分化率が必ずしも十分であるとは言えないなどの問題を有している。
【0007】
MSCの軟骨細胞への分化が難しい大きな要因として、軟骨細胞(組織)は3次元化が望まれる細胞・組織であるという点が挙げられる。成熟軟骨細胞は分裂が進み継代の回数が増すと、線維芽細胞様に形態を変え、やがて単層化することが知られている。そのため、MSCのような未分化で多分化能を有する細胞から軟骨細胞へと分化誘導を行う場合にも、軟骨細胞が3次元化するまえに線維芽様細胞に分化してしまうという結果が確認されている。
【0008】

【非特許文献1】中辻憲夫ら編著、幹細胞・クローン研究プロトコール、2001年、羊土社、東京
【非特許文献2】Pittengerら、Science、1999年、第284巻、第143-147頁
【非特許文献3】Fukumotoら、Osteroarthritis and Cartilage、2003年、第11巻、第55-64頁
【非特許文献4】Chumaら、Osteroarthritis and Cartilage、2004年、第12巻、第834-842頁
【非特許文献5】Indrawattanaら、Biochem. Biophys. Res. Commn.、2004年、第320巻、第914-919頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の様に、MSCを特定の細胞へと分化誘導する技術の中でも、軟骨細胞への分化誘導はもっとも困難な技術の一つとして考えられている。従って、MSCの軟骨細胞への分化を決定付ける分化誘導因子の特定を含め、間葉系細胞を軟骨細胞へと効率的に分化誘導する方法ないし条件を特定することは、MSCの再生医療への応用において、大変に重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、全く意外なことに、ペプチド性分化誘導因子として把握される物質、さらには非ペプチド性分化誘導因子として知られている化合物が存在しないという環境下に置かれたMSCが効率的に軟骨細胞へと分化すること、すなわちペプチド性分化誘導因子、さらには非ペプチド性分化誘導因子を含まない培地によるMSCのインビトロ培養が、MSCの軟骨細胞含への分化を決定付ける条件の一つであることを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
本発明は以下の態様からなる。
【0012】
1)ペプチド性分化誘導因子を含まない培地で培養することを特徴とする、間葉系幹細胞から軟骨細胞を調製する方法。
【0013】
2)培養を3日間以上行う、1)に記載の調製方法。
【0014】
3)さらに非ペプチド性分化誘導因子を含まない培地である、1)に記載の調製方法。
【0015】
4)非ペプチド性分化誘導因子が、リン脂質、ステロイド化合物、アリール酢酸系非ステロイド化合物、またはセレン化合物である、3)に記載の調製方法。
【0016】
5)培地が最小限培地である、1)~4)のいずれかに記載の調製方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、従来用いられているペプチド性分化誘導因子のような疫性外的因子、特定の細胞の分化誘導を促進する可能性が示唆されるようなサプリメントである非ペプチド成分か誘導因子などの利用を必要としない。そのため、分化誘導した軟骨細胞を生体移植技術等によって投与する際に、かかる因子の混入の可能性を排除することができる。これらの因子は、例えばTGF-βの場合、作用する細胞によって増殖促進因子として働く場合もあるが、慢性関節リウマチなどの関節炎では、TGF-βは他のサイトカインと関わることで細胞外マトリックスの破壊を引き起こして関節炎の原因となっているなど、増殖抑制因子として働くという逆の作用もある。この様な理由からペプチド性因子の多くは医薬としては承認されていないので、分化した細胞を生体移植する際にこれらの因子の混入は極力避けなければならない。従って、これらの因子を元から使用しない本発明の方法は、かかる因子の混入がないという点で極めて有利である。
【0018】
また、かかる因子、特にペプチド性分化誘導因子の殆どは高価であり、従ってこれらの利用を必要としない本発明は、MSCから軟骨細胞を調製するコストの低減ももたらすものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の方法は、ペプチド性分化誘導因子、さらには非ペプチド性分化誘導因子の非存在下でMSCをインビトロで培養することで、MSCから軟骨細胞を調製する方法である。
【0020】
この方法で利用可能な培地については、ペプチド性分化誘導因子あるいは非ペプチド性分化誘導因子を含まないという条件以外には格別の制限はないが、これらの因子の混入を排するという点において、基本培地(最小培地、Minimam Essential Medium、MEM)の利用が好ましい。具体的には、培地全重を100%とした場合、0~25重量%程度の血清、特に牛胎児血清、0.1~1重量%程度の無機塩、0.01~0.1重量%程度のアミノ酸、0.1~1重量%程度の糖原、微量成分としてのビタミンを含む培地の利用が好ましい。
【0021】
また、培地には、ペプチド性分化誘導因子ならびに非ペプチド性分化誘導因子以外の成分であれば、細胞培養に好適な成分、例えばラミニン、コラーゲン等の細胞接着因子を適宜加えてもよい。
【0022】
また、MSCは接着性細胞であるため、培地ならびに細胞を保持する固相基板を使用することが好ましい。固相基板としては、MSCが接着することのできる安定的な物理的形態のものであれば、基板の材質あるいは基板の表面形態や表面コーティングの有無等については特に限定はない。
【0023】
例えば、固相基板としては、ガラス、ポリスチレン、金属板などから形成されたシャーレ、プレートその他の固相基板を利用することができる。また、かかる固相基板の表面を、ラミニン、コラーゲン、フィブロネクチンなどの細胞接着因子を用いてコーティングして利用してもよい。
【0024】
また、培養温度、時間等の培養条件については、培養時間を好ましくは3日以上、より好ましくは10日以上、特に好ましくは20日以上とする他は、こちらも格別の制限はない。実施例で説明するように、本発明の方法は、MSCの培養開始日の翌日から軟骨細胞を提供することができる。また、培養は、未分化の間葉系幹細胞の培養開始から終了まで一つの固相基板上で行ってもよく、培養開始後に分化誘導された軟骨細胞を取り出し、別の培地に移し替えて選択的に培養を行ってもよい。
【0025】
培養時の温度は35℃~39℃程度とし、また2.5~7%炭酸ガス濃度の雰囲気下で培養すればよい。
【0026】
上記の条件下で培養したMSCが軟骨細胞に分化していることは、Pittengerらの方法(非特許文献2)に基づいて、培養中の細胞について軟骨細胞で特異的に発現することが知られているコラーゲンタイプ2などのマーカー遺伝子の発現、免疫染色、あるいはトルイジンブルー染色法などを利用して、モニターすることができる。
【0027】
本発明によって調製される軟骨細胞は、高齢者に多くみられる軟骨組織の減少が引き起こす変形性関節炎、またアスリートなどに多くみられる腱や靱帯の断裂・損傷の治療に有用である。軟骨細胞の再生能力は他の細胞や組織より劣っているので、今後様々な組織再生医療に大きく貢献できる可能性がある。
【0028】
以下、実施例により本発明の具体的態様をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
1)培養方法
cell line(大日本製薬)により購入したラットの大腿骨骨髄由来のMSCを、10%牛胎児血清(Thermo社)及び1%streptmycin penicillin(GIBCO invitrogen社)を含む最少培地(Minimam Essential Medium、MEM/GIBCO invitrogen)に加えて10cells/mlとし、37℃、5%COの雰囲気下で培養を行い、3~5日おきに培地を交換しながら培養を継続した。
【0030】
2)分化した軟骨細胞の確認
細胞培養中の軟骨細胞の存在は、次の方法によって確認した。
【0031】
2-1)RT-PCRによるマーカー遺伝子発現の確認
培養開始後、一定の時間毎に培養細胞をTRIzol(invitrogen)にて回収し、20%クロロホルムを混合し、15000rpm、15分 4℃で遠心分離後、上清を回収した。等量のイソプロパノールを混合し、15000rpm 10分 4℃で遠心分離を行い、RNAを沈降した。75%エタノールで洗浄し、75%エタノールを乾燥後、ジエチルピロカーボネイト水に溶解した。
【0032】
上述により回収したRNAからRT-PCR kit(takara high Fidelity RNA PCRkit)を用いてcDNAを作製し、これを鋳型にPCRを行った。軟骨細胞のマーカー遺伝子として知られている下記の4種類の遺伝子に対する特異的プライマーを用いて、該遺伝子の発現をPCR(qiagen hotstart master mix kit)によって確認した。
【0033】
コラーゲンタイプ2
フォワードプライマー(Fw):GAAGGATGGCTGCACGAAACAC
リバースプライマー (Rv):AGTGCAGATCCTAGAGTGACTGC
骨シアロプロテイン(BSP)
Fw:TCCAGCTACCCAAGAAGGCTG
Rv:TGGTGCCATAACTGGTCAGCTC
アグレカン
Fw:TCGAATCACTTGCACAGACCCCAACA
Rv:ATGCACGGTCAGCATGGCTG
コラーゲンタイプ10
Fw:GCCCTATTGGACCACCAGGTCC
Rv:GAGCACCTACCGCTGGGTAAGC
【0034】
PCR反応によって増幅された断片の存在と量とを、アガロースゲル電気泳動により確認することで、各マーカー遺伝子の発現の有無及び発現の定量を行った。
【0035】
2-2)トルイジンブルー染色
培養開始後、一定の時間毎にディッシュ上の培養細胞に10%ホルマリン溶液を加えて、細胞を固定した。9cm径のディッシュに回収し、10%ホルマリン溶液を加えて固定した。ディッシュ上の固定細胞に対して、0.05%トルイジンブルー溶液(pH7.0)6~9mlを加え、回転振とうを行って細胞を染色し、染色された細胞と染色されない細胞の比を、光学顕微鏡下で計測した。トルイジンブルーは、アグリカンをはじめとする糖タンパク質を特異的に染色する試薬であり、染色される細胞は内部に糖タンパク質をより多く含んでいる細胞、すなわち軟骨細胞に分化した細胞であると判断できる。
【0036】
3)MSCの軟骨細胞への分化誘導
1)に示した条件で間葉系幹細胞の培養を開始すると、ほぼ翌日から軟骨細胞の初期に発現するBSP遺伝子の発現が認められた。培養6日目前後に同遺伝子の発現量はピークを迎え、その後いったんは減少するが、培養24日目頃には再度上昇した。またコラーゲンタイプ2の発現は培養開始から6日目に確認され、培養日数とともに発現量が増加した。アグリカンの発現は培養開始から28日目に確認されたが、その後の発現量はほぼ一定であった。このことから、間葉系幹細胞の培養開始後直ちに軟骨細胞が現れていることが分かる。
【0037】
また、上記2-2)の方法による目視観察では、培養開始から約1週間後に、増殖細胞コロニーの縁部に軟骨細胞の単層が確認された。10日後には、ディッシュ表面に1層目の軟骨細胞が積層化するのに十分量な細胞が敷き詰められると、ディッシュ表面に若干の空きがあってもコンフルエントにはならずに、積層化が確認された。さらに、2週間後には軟骨細胞の細胞塊が確認できるようになり、培養時間と共に細胞塊は成長して、細胞塊中の軟骨細胞は約100-150μmの大きさに成長するとともに、3次元的な形態をとる軟骨細胞が確認された。培養開始から4週目以降も分化した軟骨細胞は緩やかな成長を続け、より3次元的に成長した。さらに軟骨細胞は、その培養時間とともに別の軟骨細胞と融合し、積層化した軟骨細胞は高さ方向だけではなく、平面的にも成長した。
【0038】
トルイジンブルー染色された軟骨細胞は、25~30日間の培養でディッシュ全体の70~80%前後(目視)を占めた。培養時間を40日以降まで延長すると、軟骨細胞の3次元化がさらに進み、また糖タンパク質の発現がより高まることでトルイジンブルーによる染色性も高まり、軟骨細胞は90%(目視)ほどになった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、実施例に従って24日間培養した後の培養細胞の位相差顕微鏡写真(左:拡大図、右:低倍率図)を示す。
【図2】図2は、RT-PCR反応の生成物をアガロースゲル電気泳動で分析した結果を示す。
【図3】図3は、実施例に従って6日間(左)ならびに30日間(右)培養した後の培養細胞のトルイジンブルー染色結果の写真を示す。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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