TOP > 国内特許検索 > D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子、及び、該遺伝子産物をターゲットとした癌細胞の増殖・分裂阻止及び細胞死の誘導方法、及び、該増殖・分裂阻止及び細胞死を誘導する物質のスクリーニング方法 > 明細書

明細書 :D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子、及び、該遺伝子産物をターゲットとした癌細胞の増殖・分裂阻止及び細胞死の誘導方法、及び、該増殖・分裂阻止及び細胞死を誘導する物質のスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4848512号 (P4848512)
公開番号 特開2007-112724 (P2007-112724A)
登録日 平成23年10月28日(2011.10.28)
発行日 平成23年12月28日(2011.12.28)
公開日 平成19年5月10日(2007.5.10)
発明の名称または考案の名称 D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子、及び、該遺伝子産物をターゲットとした癌細胞の増殖・分裂阻止及び細胞死の誘導方法、及び、該増殖・分裂阻止及び細胞死を誘導する物質のスクリーニング方法
国際特許分類 A61K  48/00        (2006.01)
A61K  31/713       (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
FI A61K 48/00 ZNA
A61K 31/713
A61P 43/00 105
A61P 35/00
請求項の数または発明の数 3
全頁数 12
出願番号 特願2005-303676 (P2005-303676)
出願日 平成17年10月18日(2005.10.18)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成17年7月1日 財団法人寿原記念財団発行の「第18回(平成15年度)寿原記念財団 助成金による研究成果報告書」に発表
審査請求日 平成20年9月30日(2008.9.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】瀧本 将人
【氏名】ユリ ウラタ
【氏名】葛巻 暹
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
【識別番号】100102255、【弁理士】、【氏名又は名称】小澤 誠次
審査官 【審査官】安居 拓哉
参考文献・文献 特開2002-085071(JP,A)
調査した分野 A61K 48/00
A61K 31/713
A61K 38/00-38/58
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質のmRNAに対する標的特異的RNA分子からなる癌細胞の選択的増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導剤。
【請求項2】
標的特異的RNA分子が、二本鎖RNA分子であることを特徴とする請求項1記載の癌細胞の選択的増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導剤。
【請求項3】
二本鎖RNA分子からなる、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質のmRNAに対する標的特異的RNA分子が、配列表の配列番号1及び該RNA鎖の相補配列からなる二本鎖RNA分子、配列表の配列番号2及び該RNA鎖の相補配列からなる二本鎖RNA分子、又は、配列表の配列番号3及び該RNA鎖の相補配列からなる二本鎖RNA分子であることを特徴とする請求項2記載の癌細胞の選択的増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、癌細胞中における癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制することにより、癌細胞の増殖・分裂を阻止及び/又は細胞死を誘導する方法、該方法に用いられる癌細胞の選択的増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導剤、及び、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をターゲットとした癌細胞の増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導物質、或いは癌の治療及び/又は予防剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精巣は数多くの精巣特異的遺伝子を発現するが(Reprod. Fertility & Develop. 7, 695-704, 1995;Int. J. Develop. Biol. 40, 379-83, 1996)、それらの殆どは全くあるいは極く稀にしか一般の腫瘍では活性化しないと報告されている(Biochem. Biophys. Res. Comm. 241, 653-657, 1997)。しかし最近の研究により、癌と正常精巣両者に発現する遺伝子群が同定され、それらの中には、宿主に免疫応答を引き起こすものがあり、癌・精巣抗原(cancer-testis antigen:CT抗原)と呼ばれている。また、癌・精巣抗原遺伝子に対して相同的な塩基配列をもつが、精巣のみならず両性の生殖器官において表現されている遺伝子も知られている(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 10757-62, 1998;Cancer Res. 59, 1445-8, 1999;J. Biol. Chem. 273, 17618-25, 1998)。
【0003】
癌・精巣抗原をコードする遺伝子を含めた上記の遺伝子は癌・精巣関連遺伝子と称される。癌患者に免疫反応を惹起する抗原をコ-ドする癌・精巣関連遺伝子としては、MAGE、BAGE、GAGE、LAGE、SSX等の遺伝子が知られている(Science 254, 1643-7, 1991;Immunity 2, 167-75, 1995;J. Exp. Med. 182, 689-98, 1995;Int. J. Cancer 76, 903-8, 1998;Int. J. Cancer 72, 965-71, 1997;Cancer Res. 56, 4766-72, 1996)。
【0004】
これまで知られている殆どの癌・精巣関連遺伝子は、ヒトX染色体に存在する。例えば、MAGEサブファミリーはX染色体の4つの領域、Xq28、Xq21.3、Xq26及びXq11.23(Immunogenet. 40, 360-9, 1994;Cancer Res. 58, 743-52, 1998;Genomics 59, 161-7, 1999)に存在する。また、SSX遺伝子はXq11.2(Nature Genet. 7, 502-8, 1994)に、LAGE1とNY-ESO-1はXq28(Cancer J From Scientific American 5: 16-17, 1999;Intl J Cancer 76, 903-908, 1998)に、またGAGE遺伝子はXp11.2-Xp11.4(Cancer Res. 59, 3157-3165, 1999)の間に存在する。しかし、最近、第1染色体に存在することが知られるシナプトネマル複合タンパク質(SCP1)は癌・精巣関連遺伝子群の一員であることが示され(EMBO J. 11, 5091-5100, 1992)、また同時にこれはHOM-TES-14遺伝子(Cytogen Cell Genet 78, 103-104, 1997;Proc Natl Acad Sci USA 95, 5211-5216, 1998)と同一であることも明らかにされている。
【0005】
本発明者は、最近、癌・精巣関連遺伝子についての研究の中から、癌・精巣抗原タンパク質D40を発現する遺伝子を見い出し、該遺伝子をクローニングした(特開2002-85071号公報)。該癌・精巣抗原タンパク質D40を発現する遺伝子は、正常組織の中では精巣のみに高発現するが、一方で、癌においては種々の組織・細胞由来の多くの培養癌細胞や肺癌などのヒト原発癌においても高頻度に発現していることが明らかとなった。該癌・精巣抗原タンパク質D40を発現する遺伝子は、非喫煙者に比べ喫煙者由来の肺癌に高頻度に発現している。また、高分化度の肺癌に比べ、低分化度の肺癌において該D40を発現する遺伝子の発現頻度は優位に高いことが示されている。
【0006】
しかし、これまで、該D40を発現する遺伝子が、多くのヒト組織・臓器由来の癌細胞株と原発癌に高頻度に発現し、正常組織では精巣のみに高発現していることが知られているだけで、該遺伝子及び該遺伝子の発現産物である癌・精巣抗原タンパク質D40の癌細胞における機能については、これまで殆んど知られていなかった。
【0007】

【特許文献1】特開2002-85071号公報。
【非特許文献1】Reprod. Fertility & Develop. 7, 695-704, 1995。
【非特許文献2】Int. J. Develop. Biol. 40, 379-83, 1996。
【非特許文献3】Biochem. Biophys. Res. Comm. 241, 653-657, 1997。
【非特許文献4】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 10757-62, 1998。
【非特許文献5】Cancer Res. 59, 1445-8, 1999。
【非特許文献6】J. Biol. Chem. 273, 17618-25, 1998。
【非特許文献7】Science 254, 1643-7, 1991。
【非特許文献8】Immunity 2, 167-75, 1995。
【非特許文献9】J. Exp. Med. 182, 689-98, 1995。
【非特許文献10】Int. J. Cancer 76, 903-8, 1998。
【非特許文献11】Int. J. Cancer 72, 965-71, 1997。
【非特許文献12】Cancer Res. 56, 4766-72, 1996。
【非特許文献13】Immunogenet. 40, 360-9, 1994
【非特許文献14】Cancer Res. 58, 743-52, 1998。
【非特許文献15】Genomics 59, 161-7, 1999。
【非特許文献16】Nature Genet. 7, 502-8, 1994。
【非特許文献17】Cancer J From Scientific American 5: 16-17, 1999。
【非特許文献18】Intl J Cancer 76, 903-908, 1998。
【非特許文献19】Cancer Res. 59, 3157-3165, 1999。
【非特許文献20】EMBO J. 11, 5091-5100, 1992。
【非特許文献21】Cytogen Cell Genet 78, 103-104, 1997。
【非特許文献22】Proc Natl Acad Sci USA 95, 5211-5216, 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、癌細胞中における癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子をターゲットとして、癌細胞の増殖・分裂を阻止及び/又は細胞死を誘導する方法、該方法に用いられる癌細胞の選択的増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導剤、及び、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をターゲットとした癌細胞の増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導物質或いは癌の治療及び/又は予防剤のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、本発明者が先にクローニングした癌・精巣抗原タンパク質D40を発現する遺伝子及び該遺伝子の発現産物である癌・精巣抗原タンパク質D40(特開2002-85071号公報)の機能について、鋭意検討する中で、該遺伝子の発現が、細胞の増殖・分裂と深く係わっており、癌細胞中における該遺伝子の発現を抑えることにより、癌細胞の分裂に異常が生じ、結果として癌細胞の死と、強い増殖阻止が起こることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、癌細胞中における癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制することにより癌細胞の増殖・分裂を阻止及び/又は細胞死を誘導し、癌細胞の増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死を誘導する方法からなる。本発明において、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質を発現する遺伝子は、多くのヒト原発癌に発現する一方で、精巣以外の正常組織の中では発現が認められないことから、該遺伝子の発現を抑制することにより、癌細胞に選択的に増殖・分裂を阻止することが可能となる。
【0011】
本発明において、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制するには、D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシング変異体タンパク質のmRNAに対するRNA干渉により行うことができる。該D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質のmRNAに対するRNA干渉は、二本鎖RNA分子のような、D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質のmRNAに対する標的特異的RNA分子を癌細胞内へ導入することにより行うことができる。該二本鎖RNA分子としては、配列表の配列番号1及び該RNA鎖の相補配列からなる二本鎖RNA分子、配列表の配列番号2及び該RNA鎖の相補配列からなる二本鎖RNA分子、又は、配列表の配列番号3及び該RNA鎖の相補配列からなる二本鎖RNA分子を挙げることができる。
【0012】
また、本発明は、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質を発現する細胞に、被検物質を導入して、癌細胞の増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導について評価することにより、癌細胞の増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導物質、或いは癌の治療及び/又は予防剤をスクリーニングする方法よりなる。該癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質を発現する細胞としては、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質を発現する癌動物細胞、或いは、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子を導入した動物細胞を用いることができ、該動物細胞としては樹立された癌細胞株を用いることができる。
【0013】
癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子としては、遺伝子データーベースGen Bankにアクセッションナンバー、BAC05691、NP733468又はAAF97513として登録されているアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子、或いは、遺伝子データーベースGen Bankにアクセッションナンバー、AB022190、NM170589、又はAF248041として登録されている塩基配列を有する遺伝子を挙げることができる。該癌細胞の増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導物質のスクリーニングにより、癌の治療及び/又は予防剤のスクリーニングを行うことができる。
【0015】
すなわち具体的には本発明は、(1)癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質のmRNAに対する標的特異的RNA分子からなる癌細胞の選択的増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導剤や、(2)標的特異的RNA分子が、二本鎖RNA分子であることを特徴とする前記(1)記載の癌細胞の選択的増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導剤や、(3)二本鎖RNA分子からなる、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質のmRNAに対する標的特異的RNA分子が、配列表の配列番号1及び該RNA鎖の相補配列からなる二本鎖RNA分子、配列表の配列番号2及び該RNA鎖の相補配列からなる二本鎖RNA分子、又は、配列表の配列番号3及び該RNA鎖の相補配列からなる二本鎖RNA分子であることを特徴とする前記(2)記載の癌細胞の選択的増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導剤からなる。

【発明の効果】
【0017】
従来より、抗癌剤の開発において、癌細胞の増殖・分裂を抑える薬剤は種々開発されているが、多くは、癌細胞のみならず、正常細胞に対しても作用し、結果として重篤な副作用の問題が生じていた。本発明において、ターゲットとしている癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子は、多くのヒト原発癌に発現している一方で、精巣以外の正常組織の中では発現が認められないことから、本発明の方法によって、該遺伝子の発現を特異的に抑制することにより、副作用の問題を回避して、癌細胞を選択的に、その増殖・分裂を阻止することが可能となる。
【0018】
また、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子は、多くのヒト原発癌に発現していることから、本発明の方法により、該遺伝子の発現を抑え、癌細胞の増殖・分裂を阻止することにより、多くのヒト原発癌の予防及び/又は治療を可能とする。特に、肺癌では、分化度の低い(より悪性の)癌、及び喫煙者由来の癌において癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質の発現頻度が高いことから、特にこれらの癌の予防及び/又は治療への本発明の方法の適用が期待される。
【0019】
更に、本発明においては、本発明において見い出した、癌細胞の増殖・分裂の阻止に関与する癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をターゲットとして、癌細胞の増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導物質をスクリーニングすることにより、多種の癌に対する治療及び/又は予防剤の開発が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、癌細胞中における癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制することにより癌細胞の増殖・分裂を阻止及び/又は細胞死を誘導し、癌細胞の増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導を行う方法よりなる。本発明において、ターゲットとなる癌・精巣抗原タンパク質D40をコードする遺伝子については、既に、本発明者がクローニングし、その塩基配列を明らかにしている(特開2002-85071号公報)。癌・精巣抗原タンパク質D40の遺伝子は、転写後、オルタネティブ スプライシング(alternative splicing)により、複数のmRNAとなり、それらは、複数のcDNAとしてクローニングされている。したがって、癌・精巣抗原タンパク質D40には、複数のスプライシングアイソフォームタンパク質がある。それらは、例えば、CASC5/AF15q14/KIAA1570として知られている。癌・精巣抗原タンパク質D40のアミノ酸配列については、本発明者が、既に、その構造を明らかにしている(特開2002-85071号公報)。
【0021】
また、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質の配列情報については、遺伝子データーベースGen Bankへ、アクセッションナンバー、BAC05691、NP733468又はAAF97513としてアクセスすることにより得ることができ、該アミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子の配列情報については、遺伝子データーベースGen Bankへ、アクセッションナンバー、AB022190、NM170589、又はAF248041としてアクセスすることにより得ることができる。
【0022】
本発明において、該癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制する方法としては、D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質のmRNAに対するRNA干渉により行うことができる。癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子の発現を、D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質のmRNAに対するRNA干渉法により抑制するには、D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質のmRNAに対する標的特異的RNA分子を、合成法等を用いて構築し、該標的特異的RNA分子を癌細胞内へ導入することにより行うことができる。
【0023】
該癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質のmRNAに対する標的特異的RNA分子としては、有利には、二本鎖RNA分子を用いることができ、本発明において特に有利に用いる二本鎖RNA分子としては、配列表の配列番号1(SenseRNA:gguaaaaguc ccauagaaat t)及び該RNA鎖の相補配列からなる二本鎖RNA分子、配列表の配列番号2(SenseRNA:ggacgaaagu guacagaaat t)及び該RNA鎖の相補配列からなる二本鎖RNA分子、又は、配列表の配列番号3(SenseRNA:ggaaaaaacu uggguguuut t)及び該RNA鎖の相補配列からなる二本鎖RNA分子を用いることができる。
【0024】
RNA干渉法により遺伝子を抑制する方法自体は、公知の方法に従って、実施することができる。本発明において利用する、RNA干渉(或いは、RNAi、RNA interference)とは、アンチセンスRNAや、アンチセンスRNAとセンスRNAとが互いに結合して形成された二本鎖RNA(RNA二重鎖:dsRNA)を細胞内へ導入することによって、該dsRNAと相同な配列を持つmRNAが分解され、遺伝子の発現を抑制するという現象が引き起こされるが、このdsRNA等の導入によって遺伝子の発現が抑制される現象をいい、本発明においては、該RNA干渉を利用する。すなわち、アンチセンスRNAは、DNAより転写されるmRNA(センスRNA)に対し、その遺伝情報が裏返しとなった転写物のことを意味し、このアンチセンスRNAは、標的遺伝子からつくられるmRNAと構造的に相補性を有しているので、両者は互いに結合して二本鎖RNA(dsRNA)を形成する。このように、言わば“フタ”をかぶされたmRNAは、特異的RNA分解酵素によって分解され、タンパク質合成の場への移行ができなくなり、本来の遺伝子の機能が抑制される。本発明は、かかる遺伝子機能の抑制を利用する。
【0025】
2本鎖RNA(dsRNA)等の細胞内への導入によって、dsRNAと相同な配列を持つ遺伝子の発現が抑制される現象であるRNA干渉は、1998年に線虫(Caenorhabditis elegans)で初めて発見されて以来、多くの報告がなされており(Nature 391, 806-811,1998; Nature 411, 494-498, 2001; Science, 296,550-553, 2002; Genes Dev 16, 948-958, 2002)、種々の方法が開示されている(WO99/32619号公報;WO00/44895号公報;特開2004-166577号公報;特開2005-34008号公報;特表2004-519458号公報)。本発明において、RNA干渉により遺伝子の発現を抑制するには、これら公知の方法を用いて、適宜、実施することができる。
【0026】
また、本発明は、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質を発現する細胞に、被検物質を導入して、癌細胞の増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導について評価することにより、癌細胞の増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導物質をスクリーニングする方法からなる。該スクリーニング方法においては、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質を発現する細胞、或いは、該細胞を構築することにより行うことができる。癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質を発現する細胞としては、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質を発現する癌動物細胞を挙げることができる。
【0027】
また、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質を発現する細胞としては、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子を導入した動物細胞を挙げることができる。該癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質を発現する細胞を構築するに際して、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質のアミノ酸配列については、遺伝子データーベースGen Bankから、アクセッションナンバー、BAC05691、NP733468又はAAF97513として、及び、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列については、遺伝子データーベースGen Bankから、アクセッションナンバー、AB022190、NM170589、又はAF248041として得ることができる。
【0028】
本発明において、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質を発現する細胞の構築に際して該遺伝子を宿主動物細胞に導入するには、上記遺伝子の配列情報に基づき、公知の方法を用いて行うことができる(特開2002-85071号公報)。本発明において、癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質を発現する細胞の構築に用いる宿主細胞の好ましい例としては、HeLa、293、PC-10(肺癌)のような動物細胞の樹立された癌細胞核を挙げることができる。
【0029】
癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞へ導入するには、適宜、公知の方法を用いることができる、例えば、Davisら(BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY, 1986)及びSambrookら(MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989)などの多くの標準的な実験室マニュアルに記載される方法、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、トランスベクション(transvection)、マイクロインジェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープローディング (scrape loading)、弾丸導入(ballistic introduction)、感染等により行うことができる。
【0030】
本発明の癌細胞の増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導物質のスクリーニング方法は、上記のようにして構築した癌・精巣抗原タンパク質D40或いはCASC5、又は、該癌・精巣抗原タンパク質のスプライシングアイソフォームタンパク質を発現する細胞に、被検物質を導入して、癌細胞の増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導について評価することにより行うことができる。該癌細胞の増殖・分裂の阻止及び/又は細胞死の誘導物質のスクリーニングにおける評価から、癌の治療及び/又は予防剤のスクリーニングを行うことができる。
【0031】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
(タンパク質D40をノックダウンすることによる細胞増殖抑制)
増殖中の細胞では、D40mRNAの発現量は高く、増殖を停止させると急激に低下する。タンパク質レベルにおいても、HeLa、293、PC10(肺癌)等のヒト培養株細胞で、増殖状態とタンパク質D40の発現レベルとの相関が認められる。そこで、タンパク質D40の発現を抑制することで、細胞の増殖・分裂に対する変化を検討した。
【0033】
(合成dsRNAを用いた細胞増殖抑制)
化学合成した二本鎖RNA(dsRNA)を用いて、トランジェント(transient)な系で、D40に対するRNAiを試みた。タンパク質D40をコードする遺伝子の塩基配列の中から、約20baseからなる3箇所の配列を選び、dsRNAを合成した(配列表の配列番号1~3及び該RNA鎖の相補配列)。これらをOligofectamineと混合後に、HeLa細胞に4時間接触させてトランスフェクションした(リポフェクション法)。48時間後に、タンパク質の発現を検討したところ、コントロールのdsRNAをトランスフェクションした場合に比べ、タンパク質D40の発現の約80%の低下を認め、また、細胞増殖能が低下していることが観察された。72時間後の生細胞数と死細胞数とを棒グラフで表した結果を、図1に示す。また、48時間後、及び、72時間後の細胞の増殖割合、細胞死の割合を、それぞれ図2及び図3に示す。
【0034】
更に、FACS(Fluorescent activated cell sorter)により、D40dsRNAをトランスフェクションされた細胞の細胞周期を解析したところ、トランスフェクション後、48時間では、G1の細胞に比べ、G2/M期の細胞が相対的に増加していることが観察された。72時間後の細胞をPropidium Iodine(PI)染色し、FACSで細胞周期の分布を解析した結果を、図4(Control dsRNA)及び図5(D40 dsRNA)に示す。図中、縦軸は、PIの蛍光の強さを示し、横軸は細胞数を示す。図に示されるように、コントロールのdsRNAを導入されたHeLa細胞に比べ、D40dsRNAを導入された細胞では、G1期(M2)の細胞が減少し、subG1期(M1)の細胞数が増えている。これは、タンパク質D40の発現低下のため、G2/M期(M4)の4倍体の細胞が分裂できず(M2の低下)に細胞死に陥った(M1の増加)ことを示している。上記、実験から、タンパク質D40が細胞分裂において重要な役割を担っていることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の合成dsRNAを用いた細胞増殖抑制の実施例において、72時間後の生細胞数と死細胞数とを棒グラフで表した結果を、示す図である。
【図2】本発明の合成dsRNAを用いた細胞増殖抑制の実施例において、48時間後、及び、72時間後の細胞の増殖割合について示す図である。
【図3】本発明の合成dsRNAを用いた細胞増殖抑制の実施例において、48時間後、及び、72時間後の細胞の細胞死の割合について示す図である。
【図4】本発明の合成dsRNAを用いた細胞増殖抑制の実施例において、72時間後の細胞をPropidium Iodine(PI)染色し、FACSで細胞周期の分布を解析した結果を、(Control dsRNA)について示す図である。
【図5】本発明の合成dsRNAを用いた細胞増殖抑制の実施例において、72時間後の細胞をPropidium Iodine(PI)染色し、FACSで細胞周期の分布を解析した結果を、(D40 dsRNA)について示す図である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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