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明細書 :多包条虫由来の新規蛋白質

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5055522号 (P5055522)
公開番号 特開2008-187900 (P2008-187900A)
登録日 平成24年8月10日(2012.8.10)
発行日 平成24年10月24日(2012.10.24)
公開日 平成20年8月21日(2008.8.21)
発明の名称または考案の名称 多包条虫由来の新規蛋白質
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C07K  14/435       (2006.01)
C07K  16/18        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61K  39/00        (2006.01)
A61P  33/12        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/569       (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 101
C12N 1/21
C12N 1/19
C12N 1/15
C12Q 1/68 A
C12Q 1/02
C07K 14/435
C07K 16/18
A61K 39/395 D
A61K 39/00 H
A61P 33/12
G01N 33/53 D
G01N 33/569 A
請求項の数または発明の数 13
全頁数 13
出願番号 特願2007-022365 (P2007-022365)
出願日 平成19年1月31日(2007.1.31)
審査請求日 平成21年12月11日(2009.12.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
【識別番号】591190955
【氏名又は名称】北海道
発明者または考案者 【氏名】奥 祐三郎
【氏名】松本 淳
【氏名】八木 欣平
【氏名】加藤 芳伸
【氏名】孝口 裕一
【氏名】鈴木 智宏
【氏名】後藤 明子
審査官 【審査官】長谷川 茜
参考文献・文献 MERCKELBACH A., et al.,Analysis of cDNAs coding for immunologically dominant antigens froman oncosphere-specific cDNA library of Echinococcus multilocularis,Parasitol Res.,2003年 6月26日,Vol.90, No.6,p.493-501
調査した分野 C12N 15/00
C07K 14/435
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/UniProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、または配列番号1に示されるアミノ酸配列において1個又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、多包条虫に対する特異抗体を哺乳動物に惹起させる作用を有するポリペプチド。
【請求項2】
哺乳動物に対する多包条虫の感染を抑制するワクチン作用を有するポリペプチドである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項4】
配列番号2に示される塩基配列、または配列番号2に示される塩基配列に相補する塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、哺乳動物への多包条虫感染を抑制するワクチン作用を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなる、請求項3に記載の核酸。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の核酸を含んでなる組み換えベクター。
【請求項6】
請求項5に記載のベクターによって形質転換された宿主細胞。
【請求項7】
請求項2に記載のポリペプチドを含む、多包条虫感染症に対するワクチン。
【請求項8】
請求項3又は4に記載の核酸を含む、多包条虫感染症に対するワクチン。
【請求項9】
請求項1に記載のポリペプチドに対する特異抗体。
【請求項10】
請求項9に記載の特異抗体を有効成分とする、多包条虫感染症治療薬。
【請求項11】
請求項1に記載のポリペプチド又はその部分断片の存在を確認する工程を含む、生体から分離された生物学的試料を用いた多包条虫の検出方法。
【請求項12】
請求項9に記載の抗体を用いて請求項1に記載のポリペプチド又はその部分断片の存在を確認する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1に記載のポリペプチドをコードする核酸の存在を確認する工程を含む、生体から分離された生物学的試料における多包条虫の検出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、多包条虫由来の新規蛋白質、それをコードする遺伝子、多包条虫感染症治療薬、多包条虫感染症に対するワクチン、ならびに多包条虫の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多包条虫(Echinococcus multilocularis)はヒトに致死的な経過をもたらす人獣共通感染症であり、北半球の広い範囲にその分布が確認されている。日本においては北海道に常在し、毎年15-20名程度の感染者の発生が確認されている。
【0003】
多包条虫は、中間宿主と終宿主が関与する複雑な生活環を有している。げっ歯類などの中間宿主に摂取された多包条虫の虫卵は、中間宿主の消化管内で孵化し、幼虫となる。その後、血行性に肝臓に定着、増殖した幼虫は、嚢包状の幼虫シストを形成する。幼虫シストの内部には、原頭節と呼ばれる構造が多数形成される。その中間宿主がイヌ科動物あるいはネコ科動物などの終宿主に捕食されることで、原頭節は終宿主の小腸に定着して未熟成虫に成育し、さらに1ヶ月ほど経過し成熟成虫となった後、虫卵を放出する。この虫卵は終宿主の糞便と共に外界に排出され、再び中間宿主あるいはヒト等の他の宿主に取り込まれる。
【0004】
多包条虫のヒトへの感染は、虫卵を偶発的に経口摂取することによって成立する。ヒトの消化管内で虫卵から孵化した幼虫は、血行性に肝臓などの主要臓器の組織内に定着した後、ヒト体内で無性増殖をくり返し、数年以内に転移、寄生臓器の機能障害などを引き起こす。感染早期に外科的切除等の治療が施せなかった場合には致死的経過をたどる。またヒトへの感染リスクは、愛玩動物として飼われている犬に多包条虫が感染することで飛躍的に高まることを受けて、平成16年から政令により飼い犬の多包条虫感染の届出が義務付けられている。
【0005】
これまでの多包条虫感染に関する研究は、多包条虫感染の確認、特に感染初期における早期発見を目的に行われてきた。多包条虫感染を確認する方法としては、検体の糞便内の片節もしくは虫卵を、多包条虫の抗原を用いて作製されたポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を用いて検出する方法(非特許文献1、特許文献1)あるいはPCR技術を用いて検出する方法(非特許文献2、非特許文献3)などが主に用いられている。
【0006】
しかし、片節および虫卵が糞便に排出されるのは多包条虫が感染して宿主腸管内で成熟した後であり、またその期間は1ヶ月目~数ヶ月というごく僅かな期間でしかないことから、糞便を対象とした検出法では、特に感染早期に多包条虫の確認を行うことができない。また、糞便を対象にした検査法における大きな問題は、検査を行う獣医師等への多包条虫感染の危険性が高いということである。そのため、ヒト及びヒトへの感染源の一つとなるキツネや犬、特に飼い犬に対する多包条虫感染の予防は、感染の早期発見とともに重要な課題となっている。

【非特許文献1】Deplazes P.ら、Parasitology Research、1992年、第78巻、第303-308頁
【非特許文献2】Deplazes P.ら、J.,Applied Parasitology、1996年、第37巻、第245-252頁
【非特許文献3】Mathis A.ら、Journal of Helminthology、1996年、第70巻、第219-222頁
【特許文献1】特開2001-292766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ヒト及び/又は終宿主となる犬を含む哺乳動物に対する多包条虫感染の予防、治療並びに哺乳動物に対する多包条虫感染の早期発見を可能にする、多包条虫由来の新規な蛋白質を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる多包条虫由来の蛋白質が、幼虫シスト、原頭節、及び成虫を通じて発現していること、当該蛋白質を検出することで多包条虫感染の早期発見が可能となること、及び該蛋白質を哺乳動物に投与することによって多包条虫の感染を抑制することができることを見出し、下記の各発明を完成させた。
【0009】
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、または配列番号1に示されるアミノ酸配列において1個又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、多包条虫に対する特異抗体を哺乳動物に惹起させる作用を有するポリペプチド。
【0010】
(2)哺乳動物に対する多包条虫の感染を抑制するワクチン作用を有するポリペプチドである、(1)に記載のポリペプチド
(3)(1)又は(2)に記載のポリペプチドをコードする核酸。
【0011】
(4)配列番号2に示される塩基配列、または配列番号2に示される塩基配列に相補する塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、哺乳動物への多包条虫感染を抑制するワクチン作用を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなる、(3)に記載の核酸。
【0012】
(5)(3)又は(4)に記載の核酸を含んでなる組み換えベクター。
【0013】
(6)(5)に記載のベクターによって形質転換された宿主細胞。
【0014】
(7)(2)に記載のポリペプチドを含む、多包条虫感染症に対するワクチン。
【0015】
(8)(3)又は(4)に記載の核酸を含む、多包条虫感染症に対するワクチン。
【0016】
(9)(1)に記載のポリペプチドに対する特異抗体。
【0017】
(10)(9)に記載の特異抗体を有効成分とする、多包条虫感染症治療薬。
【0018】
(11)(1)に記載のポリペプチド又はその部分断片の存在を確認する工程を含む、生体から分離された生物学的試料を用いた多包条虫の検出方法。
【0019】
(12)(9)に記載の抗体を用いて(1)に記載のポリペプチド又はその部分断片の存在を確認する、請求項11に記載の方法。
【0020】
(13)(1)に記載のポリペプチドをコードする核酸の存在を確認する工程を含む、生体から分離された生物学的試料における多包条虫の検出方法。
【発明の効果】
【0021】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、これを検出対象とすることで、簡便、安全、かつ長期間にわたって多包条虫の感染を調べる方法を提供することを可能にする。また、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド及び/又は当該ポリペプチドをコードする核酸は、これを終宿主であるイヌ科動物又はヒトに投与することで多包条虫の感染を抑制することができるワクチンとして利用可能である。さらに配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドに対する特異抗体は、多包条虫感染症治療薬として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に記載の多包条虫とは、エキノコックス (Echinococcus)属に属する条虫、特に学名をEchinococcus multilocularisとする寄生虫を意味する。ただし本発明の多包条虫は、分離時の宿主の種類、由来する土地ないし地域、継代あるいは維持されている株の種類などによっては制限されない。
【0023】
本発明の一つの態様は、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる、多包条虫由来のポリペプチド(以下、EMY162と表す)である。実施例において示すように、多包条虫の幼虫シスト、原頭節、及び成虫のいずれにおいても、EMY162の発現が確認される。従って、EMY162及び/又はその部分断片の有無を指標とした多包条虫又は多包条虫感染の検出法は、多包条虫の生活環や感染の時期に左右されず、常に安定した検出結果が得られるものと期待される。EMY162及び/又はその部分断片の検出方法としては、当業者に知られているポリペプチドを検出する方法であればいずれでも良く、例えば後述する本発明の抗体を用いたELISA等の免疫学的検出方法などが挙げられる。
【0024】
またEMY162は、多包条虫に対する特異抗体を哺乳動物に惹起させる作用を有している。特に、実施例において示すように、EMY162は、マウス等の哺乳動物に予め投与されることで、哺乳動物に対する多包条虫の感染を抑制するワクチン作用を示す。すなわちEMY162は、多包条虫の感染を抑制するワクチンとしても利用可能である。
【0025】
なお、多包条虫に対する特異抗体を哺乳動物に惹起させるという作用、特に哺乳動物に対する多包条虫の感染を抑制するワクチン作用を有する限り、配列番号1に示されるアミノ酸配列すなわちEMY162のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、および/若しくは付加したアミノ酸配列からなるポリペプチド、並びにEMY162の部分断片も、本発明の一態様である。
【0026】
一般に、蛋白質のアミノ酸残基の置換変異において、アミノ酸残基の電荷、大きさ、疎水性等の物理化学的性質の点で保存性の高いアミノ酸への置換が蛋白質の機能を損なわない変異として成立し得ることが、経験的に認められている。例えば、グリシン(Gly)とプロリン(Pro)、Glyとアラニン(Ala)またはバリン(Val)、ロイシン(Leu)とイソロイシン(Ile)、グルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)とアスパラギン(Asn)、システイン(Cys)とスレオニン(Thr)、Thrとセリン(Ser)またはAla、GluとAsp、GlnとAsn、リジン(Lys)とアルギニン(Arg)等のそれぞれの組み合わせ間の置換が、上記の保存性の高い置換の例として挙げることができる。また、上記に示したような保存性の高い置換以外のアミノ酸への置換の場合でも、なおその蛋白質の本質的な機能を失わない変異が成り立ち得ることも、当業者において経験されるところである。さらに、異なる生物種間で保存されている相同性の高い蛋白質群が、互いに複数のアミノ酸が集中あるいは分散して欠失あるいは挿入されているアミノ酸配列からなる蛋白質であるという関係にあっても、なおそれらの相同性の高い蛋白質群が本質的な機能を共通して保持しているという例も、多く認められている。さらに、蛋白質の特異抗体を哺乳動物に惹起させるという作用、特に哺乳動物に対するワクチン作用は、当該蛋白質の部分断片であっても保持され得る。
【0027】
従って、EMY162のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、および/若しくは付加したアミノ酸配列からなる蛋白質あるいはEMY162の部分断片であっても、多包条虫に対する特異抗体を哺乳動物に惹起させる作用、特に哺乳動物に対する多包条虫の感染を抑制するワクチン作用を有するポリペプチドであれば、これらは本発明の一態様として理解することができる。このようなアミノ酸の改変は、当業者に公知の方法、例えばNTGなどの変異誘発剤を用いた突然変異誘発法や種々の遺伝子組換え手法を用いた部位特異的変異法を利用して、人為的に行うことができる。
【0028】
EMY162のアミノ酸配列におけるアミノ酸の変異部位および個数は、多包条虫に対する特異抗体を哺乳動物に惹起させる作用、特に哺乳動物に対する多包条虫の感染を抑制するワクチン作用を有するポリペプチドが提供される限りにおいて特に制限はないが、変異個数は通常十数アミノ酸以内、好ましくは10アミノ酸以内である。アミノ酸配列の同一性の程度で改変の許容範囲を表せば、本発明の蛋白質のアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有していればよい。
【0029】
以下、EMY162、並びにEMY162のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失及び/若しくは付加したアミノ酸配列からなるポリペプチド又はEMY162の部分断片であって、かつ多包条虫に対する特異抗体を哺乳動物に惹起させる作用、特に哺乳動物に対する多包条虫の感染を抑制するワクチン作用を有するポリペプチドを纏めて、本発明のポリペプチドと称する。
【0030】
EMY162をコードする核酸、特に配列番号2に示される塩基配列からなる核酸は、本発明の一態様である。EMY162と同様に、配列番号2に示される塩基配列及び/又はその部分配列からなる核酸、特にDNAの有無を指標とした多包条虫の存在又は多包条虫感染の検出法もまた、多包条虫の生活環や感染の時期に左右されず、常に安定した検出結果をもたらすものと期待される。配列番号2に示される塩基配列からなる核酸の検出方法としては、当業者に知られている適当な方法であればいずれでも良く、例えばラベルされたプローブを用いる方法やPCR法による核酸の増幅などが挙げられる。
【0031】
また、本発明は、配列番号2に示される塩基配列又はこれに相補する塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなり、かつ多包条虫に対する特異抗体を哺乳動物に惹起させる作用、特に哺乳動物に対する多包条虫の感染を抑制するワクチン作用を有するポリペプチドをコードする核酸も含む。
【0032】
例えば、同一アミノ酸残基をコードする複数のコドン(縮重コドン)の使用や、種々の人為的処理例えば部位特異的変異導入、変異剤処理によるランダム変異、制限酵素切断による核酸断片の変異・欠失・連結等により、部分的に塩基配列が変化したものであっても、これが配列番号2に記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ多包条虫に対する特異抗体を哺乳動物に惹起させる作用、特に哺乳動物に対する多包条虫の感染を抑制するワクチン作用を有するポリペプチドをコードする核酸であれば、配列番号2に示した塩基配列との相違に関わらず、それらは本発明の一態様である。
【0033】
上記の変異の程度は、配列番号に記載の塩基配列と80%以上、好ましくは90%以上の相同性を有するものであれば許容範囲内である。また、ストリンジェントな条件下とは、0.1%[w/v]SDSを含む0.5×SSC溶液(1×SSCは0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム)を用いて50℃でハイブリダイズした核酸を含むメンブレンを洗浄する条件を意味する。
【0034】
また、配列番号2に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸又は配列番号2に示される塩基配列から転写誘導されるRNAの塩基配列は、配列番号2に示される塩基配列から一義的に決定される。本発明は、この様なRNA及び相補鎖DNA等の核酸も含む。以下、EMY162をコードする核酸、特に配列番号2に示される塩基配列からなる核酸、及び配列番号2に示される塩基配列又はその相補配列からなる核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなり、かつ多包条虫に対する特異抗体を哺乳動物に惹起させる作用、特に哺乳動物に対する多包条虫の感染を抑制するワクチン作用を有するポリペプチドをコードする核酸、配列番号2に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸、配列番号2に示される塩基配列から転写誘導されるRNAを纏めて、本発明の核酸と称する。
【0035】
本発明の核酸は1本鎖であっても、それに相補的な配列を有する核酸やRNAと結合して2重鎖、3重鎖を形成していても良い。また、当該核酸は、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRPO)等の酵素や放射性同位体、蛍光物質、化学発光物質等で標識されていてもよい。
【0036】
本発明の核酸は、配列番号2に開示された塩基配列を基に、ハイブリダイゼーションやPCR法などの遺伝子工学的手法を用いたクローニングや、ホスホアミダイト法などの化学合成的手法を利用して、当業者が容易に製造することができる
また本発明の核酸を含むベクターは、市販されあるいは当業者が一般に入手容易な様々なベクターに本発明の核酸を組み込むことで作製することができる。ベクターは、必要に応じて他の塩基配列を有していてもよい。他の塩基配列とは、エンハンサー配列、プロモーター配列、リボゾーム結合配列、コピー数の増幅を目的として使用される塩基配列、シグナルペプチドをコードする塩基配列、他のポリペプチドをコードする塩基配列、ポリA付加配列、スプライシング配列、複製開始点、選択マーカーとなる遺伝子の塩基配列等のことである。
【0037】
本発明の核酸又は同核酸を含むベクターによって形質転換された宿主細胞もまた、当業者に公知の技術によって作製することができる。例えばJ.Sambrookら(Molecular Cloning、a Laboratory Manual、2nd ed.、Cold Spring Harbor Laboratory、New York、1989年)その他の実験操作マニュアルに記載された方法に基づいて、適切な宿主-ベクターの組み合わせを選択して利用すればよい。
【0038】
本発明の核酸、該核酸を含む組み換えベクター、及び該ベクターによって形質転換された宿主細胞は、本発明のポリペプチド、特に本発明のポリペプチドを含む多包条虫感染症に対するワクチン、典型的にはEMY162の組換え的生産に利用することができる。
【0039】
本発明のポリペプチドを組み換え生産するには、本発明の核酸又は該核酸を含むベクターで形質転換された宿主細胞を適当な条件下で培養して培養混合物を回収し、本発明のポリペプチドを回収し、必要に応じて精製すればよい。培養混合物から本発明のポリペプチドを精製する方法としては、蛋白質の精製に通常使用されている方法の中から適切な方法を適宜選択して行うことができる。すなわち、塩析法、限外濾過法、等電点沈澱法、ゲル濾過法、電気泳動法、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィーや抗体クロマトグラフィー等の各種アフィニティークロマトグラフィー、クロマトフォーカシング法、吸着クロマトグラフィーおよび逆相クロマトグラフィー等、通常使用され得る方法の中から適切な方法を適宜選択し、必要によりHPLCシステム等を使用して適当な順序で精製を行えば良い。
【0040】
なお、本発明の蛋白質を他の蛋白質やタグ(例、グルタチオンSトランスフェラーゼ、プロテインA、ヒスチジンタグ、FLAGタグその他)との融合蛋白質として発現させることも可能である。この様な融合蛋白質もまた、本発明の一態様である。これらの融合蛋白質は、適当なプロテアーゼ(例、トロンビンその他)を用いて切り出すことが可能であり、蛋白質の調製をより有利に行うことが可能となる。
【0041】
この様に、本発明のポリペプチドは、それ単独の形態でも別種の蛋白質との融合蛋白質の形態でも調製することができるが、これらのみに制限されるものではなく、本願発明の蛋白質を更に種々の形態へと変換させることも可能である。例えば、蛋白質に対する種々の化学修飾、ポリエチレングリコール等の高分子との結合、不溶性担体への結合、リポソームへの封入など、当業者に知られている種々の手法による加工も可能である。
【0042】
本発明のポリペプチド及び/又は核酸は、単独であるいは適当な賦形剤及び/又は添加剤とともにワクチンとして利用することができる。また適当なリポソームに本発明のポリペプチド又は核酸を封入し、これをワクチンとして利用してもよい。該ワクチンの投与方法としては、当業者に知られている適当な方法であればいずれでも良く、たとえば本発明の核酸を発現可能に含む発現ベクターを投与したり、アジュバント、キャリヤー又は他の抗原と共に投与したり、一定間隔を置いて複数回投与したりするなど、対象生物や環境等によって様々な工夫を加えてもよい。また、投与経路も特に限定されず、経皮、経口、経静脈、腹腔投与など、適宜必要に応じて選択することができる。
【0043】
本発明は、本発明のポリペプチド又はその断片に対する特異抗体、特に該特異抗体を含む多包条虫感染症治療薬を提供する。本発明のポリペプチド又はその断片に対する特異抗体は、既に多包条虫の感染が成立した個体に対して受動ワクチンとして接種され、個体に寄生した多包条虫に干渉し、多包条虫の感染数や増殖を減ずることで、多包条虫感染症に対して治療効果を示す。
【0044】
本発明の特異抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体またはその活性断片のいずれでもよいが、モノクローナル抗体の利用が特に好ましい。かかる特異抗体は、本発明のポリペプチドを抗原として用い、当業者に周知の方法に従って製造することができる。
【0045】
上記のように、本発明のポリペプチド、特にEMY162又はその部分断片と、本発明の核酸、特に配列番号2に示される塩基配列からなる核酸又はその部分断片と、本発明の特異抗体とは、いずれも哺乳動物などの生体から分離された生物学的試料を用いた多包条虫の検出に利用可能である。例えば本発明のポリペプチド、特にEMY162又はその部分断片は、生物学的試料中における多包条虫由来のEMY162に対する抗体の検出に利用することができる。当該抗体の存在は、その生体が多包条虫に感染した、又はしていることを意味する。生体試料中における多包条虫由来のEMY162に対する抗体の検出は、作業者への多包条虫の感染の危険性を伴う糞便ではなく、より安全な血液に対して行うことができる点で有利である。また本発明の核酸、特に配列番号2に示される塩基配列からなる核酸又はその部分断片及び本発明の特異抗体は、生物学的試料中における多包条虫それ自体の検出に利用することができる。本発明は、かかる生物学的試料中における多包条虫由来のEMY162に対する抗体の検出又は多包条虫それ自体の検出を目的とした、本発明のポリペプチド、特にEMY162若しくはその部分断片、本発明の核酸、特に配列番号2に示される塩基配列からなる核酸若しくはその部分断片、又は本発明の特異抗体を、それぞれ別個に又は組み合わせて含むキットも提供する。
【0046】
以下、実施例を通じてさらに本発明を詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
<実験例1> cDNAライブラリーの構築とEMY162cDNAのクローニング
多包条虫の根室株(北海道立衛生研究所にて維持、継代)の成熟成虫及び未成熟成虫から ISOGEN (ニッポンジーン社)を用いて全RNAを抽出した。さらに、全RNAからOligotex dT30 (Super) mRNA purification kit (タカラバイオ社) を用いてmRNAを調製した。このmRNAを鋳型にして、SMART cDNA Library Construction Kit (BD Biosciences社)を用いてcDNAを合成した。cDNAは、Sfi I制限酵素(BD Biosciences社)で処理した後、pTrilEx2ベクターに挿入した。cDNA組み換えファージライブラリーは、cDNAを挿入したベクターをバクテリオファージλTriplEx2(Stratagene社)に組み換えて構築した。
【0048】
cDNAを組み換えたファージは、大腸菌XL1-Blue(BD Biosciences社)に形質転換し、得られたファージプラークをランダムクローニングにより500個選択し、さらに、SM溶液(pH8.0)(BD Biosciences社)に溶解させた。溶出したファージを大腸菌BM25.8(BD Biosciences社)に形質転換し、得られたコロニーからPlasmid Mini Kit (QIAGEN社) を用いてプラスミドDNAを調製した。挿入したcDNAの塩基配列は、BigDye-terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社)を用いて3130xlジーンアナライザー(Applied Biosystems社)にて決定し、解析は、GeneBank databases のBasic Local Alignment Search Tool (BLAST) を用いて行った。その結果、配列番号2に示される塩基配列から成るEMY162 cDNAを得た。
【0049】
<実施例2> 多包条虫ゲノム中におけるEMY162の存在確認
多包条虫(根室株)の原頭節からDNeasy genomic Kit(QIAGEN社)を用いてゲノムDNAを抽出し、そのゲノムDNA(1ng)を鋳型にして、Gene Amp PCR System 9700(Applied Biosystems社)、Taq DNAポリメラーゼ(Roche Diagnostics社)、下記の一組のプライマーセットを用い、94℃ 2分、(93℃ 30秒、55℃ 30秒、68℃ 4分)を30サイクル、68℃ 7分の条件でPCR反応を行った。
【0050】
P1:5’- ggaagatggtacttcgattctgt-3’(配列番号3)
P2:5’- tgagggcctgtaagttccaact -3’(配列番号4)
得られたPCR産物を、3130xl Gene AnalyzerとDye-terminator Cycle Sequencing Kit(共にApplied Biosystems社)及び上記プライマーセット及び下記の一組のプライマーセットを用い、94℃ 2分、(93℃ 30秒、55℃ 30秒、68℃ 4分)を30サイクル、68℃ 7分の条件でPCR反応を行って塩基配列を解析した。
【0051】
P3:5’-gagctaatagcaaagttg-3’(配列番号5)
P4:5’-cacgtgaatccatcggaagt-3’(配列番号6)
PCR産物の塩基配列を解析して、配列番号2に示される塩基配列からなるcDNAが多包条虫のゲノムに存在することを確認した。
【0052】
<実施例3> EMY162の発現確認
多包条虫(根室株)の原頭節、幼虫感染動物(スナネズミ)由来の幼虫シストをHemphill and Gottstein (1995)、Parasitology Research、第81巻、第605-614頁およびSpiliotisら(2004)Parasitology Research、第92巻、第430-432頁の方法にしたがって約30日間培養することにより得た培養幼虫シスト、イヌに原頭節を感染させて20日経過後に得られる未熟成虫、及び60日経過後に得られる成熟成虫を用意し、それぞれからRNeasy Mini Prep Kit(QIAGEN社)を用いて全RNAを抽出し、さらにSMART cDNA Library Construction Kit(BD Bioscience社)を用いてcDNAの合成を行った。得られたcDNAを鋳型にし、Gene Amp PCR System 9700(Applied Biosystems社)、Taq DNAポリメラーゼ(Roche Diagnostics社)、前記プライマーP1及びプライマーP4を用いて、94℃ 2分、(93℃ 30秒、55℃ 30秒、68℃ 4分)を35サイクル、68℃ 7分でPCR反応を行った。アガロースゲル電気泳動を行い、得られたPCR産物の長さを決定した。PCR反応の陽性コントロールとして、下記の一組のプライマーセットを用いてβ-アクチンDNAを増幅させた。
【0053】
P5:5’-gttgtgctatgtggcactcgact-3’(配列番号7)
P6:5’-caatccagacagagtatttgcgttc-3’(配列番号8)
その結果、原頭節、幼虫シスト、未熟成虫、成熟成虫のすべての成育ステージにおいてEMY162が発現されていることが確認された(図1)。
【0054】
<実施例4> 組み換えEMY162の作製
実施例1で得られたプラスミドを鋳型にし、BglII制限酵素サイトを付加したプライマーP7及びPstI制限酵素サイトを付加したプライマーP8を用いてEMY162をコードする核酸を94℃ 2分、(93℃ 30秒、58℃ 30秒、72℃ 30秒)を30サイクル、72℃ 7分の条件下でPCR増幅した。以下に使用したプライマーP7、P8の塩基配列を示す。
【0055】
P7:5’-agatctgtagacccagagctaatag-3’(配列番号9)
P8:5’-ctgcaggaatccgccagctctgtca-3’(配列番号10)
得られたPCR産物をpThioHisベクター(Invitrogen社)に挿入し、大腸菌Top10株(インビトロジェン社)を形質転換した。形質転換された大腸菌を37℃培養し、600nmにおける吸光度が0.5から0.7になった時点で、終濃度0.5mMになるようイソプロピル-β-D-チオガラクト-ピラノシドを加え、32℃で4-5時間、さらに培養した。培養後、遠心し、菌体を回収した後、Complete EDTA-freeプロテアーゼ阻害剤(Roche社)を1tablet/50mlの割合で添加したB-PER(Pierce社)中に懸濁した。さらにProBond TM Affinity Resin(Invitrogen社)を用いて、500mMイミダゾール、500mM塩化ナトリウムを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)にて溶出させ、組み換えEMY162を回収した。さらに、Hiload Superdex 75カラムを備えたAKTA explorer(Amercham Biosciences社)を用いて、ThioHis蛋白質が付加された組み換えEMY162を精製した。
【0056】
<実施例5> 生体試料中におけるEMY162に対する抗体の検出
実施例4で調製した組み換えEMY162(1μg)を12%のSDSポリアクリルアミドゲルに電気泳動し、PVDFメンブラン(Amersham Biosystems社)にトランスファーさせた。その後、多包条虫に感染後40日が経過したイヌの血清(400倍希釈)を用いてウェスタンブロッティングを行ったところ、反応が認められた(図2)。
【0057】
また、イヌに原頭節を投与した後のIgG1及びIgG2抗体価の推移をELISA法により確認したところ、両サブクラスとも抗体価の上昇が認められた(図3)。
【0058】
<実施例6> EMY162投与による多包条虫感染抑制
実施例4で調製した組み換えEMY162を、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)を用いて400μg/mlに調製し、さらにフロイントアジュバント(Difco社)と1:1の割合で混合した抗原液を作製した。この抗原液を7週齢のメスbalb/cマウス(5匹/群)に対して、各々100μlづつ、3週間おきに計3回、皮下注射にて投与した。免疫終了後、多包虫感染イヌの糞便から調製した新鮮な虫卵約200個をそれぞれの免疫マウスに経口投与し、5週間程度、通常飼育した。その結果、該組み換え抗原によって免疫された群は、アジュバントのみおよびThioHisタグのみを同様に免疫した対照群と比して、肝臓における病巣数に有意な低下が認められた(図4)。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】多包条虫の各成育ステージにおけるEMY162及びβ-アクチンの発現を検出した電気泳動写真を示す。レーン1、5は原頭節、レーン2、6は幼虫シスト、レーン3、7は未熟成虫、レーン4,8は成熟成虫、Mはマーカーである。矢印がEMY162のバンドを示す。
【図2】多包条虫が感染したイヌの血清を用いたEMY162に対するウェスタンブロッティングの結果を示す。レーン1はコントロール、レーン2は多包条虫根室株が感染したイヌの血清、レーン3は多包条虫ヨーロッパ株が感染したイヌの血清である。
【図3】多包条虫が感染したイヌにおけるEMY162に対する抗体価の上昇を示す。
【図4】EMY162を投与したマウスにおける多包条虫の感染阻止率を示す。レーン1はコントロール、レーン2はThioHis蛋白質、レーン3は組み換えEMY162を投与したマウスを示す。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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