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明細書 :3次元構造が形成された樹脂フィルムの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5078073号 (P5078073)
公開番号 特開2008-296481 (P2008-296481A)
登録日 平成24年9月7日(2012.9.7)
発行日 平成24年11月21日(2012.11.21)
公開日 平成20年12月11日(2008.12.11)
発明の名称または考案の名称 3次元構造が形成された樹脂フィルムの製造方法
国際特許分類 B29C  69/02        (2006.01)
C08J   9/28        (2006.01)
C12M   3/00        (2006.01)
B32B  37/00        (2006.01)
B29K 105/04        (2006.01)
B29L   7/00        (2006.01)
B29L  31/60        (2006.01)
FI B29C 69/02
C08J 9/28 CER
C08J 9/28 CEZ
C12M 3/00 A
B32B 31/24
B29K 105:04
B29L 7:00
B29L 31:60
請求項の数または発明の数 9
全頁数 14
出願番号 特願2007-145890 (P2007-145890)
出願日 平成19年5月31日(2007.5.31)
審査請求日 平成22年4月26日(2010.4.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】西埜 文晃
【氏名】高木 斗志彦
【氏名】桑原 昌宏
【氏名】下村 政嗣
【氏名】居城 邦治
【氏名】山本 貞明
【氏名】松尾 保孝
【氏名】藪 浩
個別代理人の代理人 【識別番号】100105050、【弁理士】、【氏名又は名称】鷲田 公一
審査官 【審査官】鏡 宣宏
参考文献・文献 国際公開第2004/048064(WO,A1)
特開平11-221854(JP,A)
特開平07-329083(JP,A)
特開2004-331793(JP,A)
特開2004-330330(JP,A)
特開2001-157574(JP,A)
国際公開第2006/090579(WO,A1)
調査した分野 B29C 61/00,67/00,69/00
B32B 1/00-43/00
C08J 9/28
C12M 3/00


特許請求の範囲 【請求項1】
周期的な凹凸からなる3次元構造が形成された樹脂フィルムの製造方法であって、
ハニカム状多孔質樹脂フィルムと、熱、光、赤外線またはマイクロ波によって収縮するフィルムとを有する複層フィルムを準備するステップ、および
前記複層フィルムに熱、光、赤外線またはマイクロ波を作用させて、前記複層フィルムを収縮させ、ハニカム状多孔質を3次元構造とするステップ、
を含み、
前記凹凸の周期が、0.01~10μmであり、前記凹凸の高さが0.01~10μmである、製造方法。
【請求項2】
前記3次元構造は、前記凹凸のそれぞれに孔を有する構造である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記収縮するフィルムが異方的に収縮する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記収縮するフィルムが等方的に収縮する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ハニカム状多孔質樹脂フィルムを準備するステップであって、
高分子材料を溶解した疎水性有機溶液を高湿度雰囲気下でキャストする工程、
前記キャスト液から、キャスト液に含まれる有機溶媒を蒸発させると同時に、キャスト液表面で高湿度雰囲気成分を結露させる工程、および
前記結露により生じた微小液滴を蒸発させてキャスト膜を形成する工程、
を有するステップをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ハニカム状多孔質樹脂フィルムを準備するステップであって、
高分子材料を溶解した疎水性有機溶液をキャストする工程、
前記キャスト液に高湿度ガスを吹き付けて、キャスト液に含まれる有機溶媒を蒸発させると同時に、キャスト液表面で高湿度雰囲気成分を結露させる工程、および
前記結露により生じた微小液滴を蒸発させてキャスト膜を形成する工程、
を有するステップをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記3次元構造が形成された樹脂フィルムは光学フィルムである、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記3次元構造が形成された樹脂フィルムは細胞培養基材である、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記3次元構造が形成された樹脂フィルムは撥水フィルムである、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元構造が形成された樹脂フィルムの製造方法に関する。具体的には、ハニカム状多孔質樹脂フィルムを収縮させることにより、3次元構造が形成された樹脂フィルムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な3次元構造体は、フォトニック結晶、輝度向上フィルム、回折格子、偏光素子などの光学部材、光導波路、光共振器などの光通信部材、細胞培養基材、微粒子捕捉フィルター、DNAチップなどのライフサイエンス用部材等の様々な分野で使用されている。
なかでも、次世代の医療技術として注目されている再生医療の分野では、高密度な細胞を三次元的に培養するために細胞の足場となる3次元微細構造基材が望まれている。現在までに様々な微細加工技術は開発されてきたが、製造コスト、製造にかかる時間、三次元構造の精度などを考慮すると、細胞培養基材として使用できる微細な三次元構造体はこれまで実現されていない。
【0003】
微細加工技術としてよく用いられる手法であるフォトリソグラフィー技術は、フォトレジスト材料の塗布;露光;現像;エッチングという工程を含み、微細加工をする技術として有用である。一方、フォトリソグラフィー技術は、高価な装置が必要であり、微細加工できる材料が限られ、感光性材料や半導体などの無機材料に限られる。またフォトリソグラフィー技術により、2次元微細加工は比較的容易に行うことができるが、3次元微細加工を施すことは非常に困難である。
【0004】
近年、フォトリソグラフィー技術に代わる微細加工技術として、プレス加工技術を応用したナノインプリント技術が注目されている。ナノインプリント技術とは、微細構造を有する金型を樹脂にプレスすることで、金型の微細構造を樹脂に転写する技術である。一度金型を作製すれば、大量に複製することができるという利点がある。しかしながら金型は、電子線リソグラフィー、X線リソグラフィーまたはフォトリソグラフィーなどの技術を利用して作製される。したがって、大幅なコスト削減は期待できない。さらに解像度が金型に依存する、樹脂の熱収縮や光硬化収縮により寸法精度が低下する、金型と樹脂の離型不良により欠陥が生じる等の問題点がある。またナノインプリント技術は、フォトリソグラフィー技術と同様に、2次元微細加工は容易に行うことができるが、3次元微細加工を施すことは非常に困難である。
【0005】
3次元微細加工技術として、レーザー光を集光し、集光点を走査して光硬化性樹脂を硬化させる工程を繰り返すことで、3次元微細構造体を製造するマイクロ光造形法が知られている。しかしながらマイクロ光造形法は、加工できる大きさはマイクロメートルスケール以上であり、サブマイクロメートルスケール以下の微細加工は極めて困難である。また、生産性が低く、使用できる材料が光硬化性樹脂に限られるなど制約が多い。
【0006】
その他の3次元微細加工技術として、目的の3次元構造体の断層形状に対応する微細加工を施した薄膜を順次積層することで、3次元構造体を製造する積層造形法が知られている。断層形状に対応する薄膜は、レーザーによる直接描画法やフォトリソグラフィー法、金型を用いたナノインプリント法を利用して加工するため、生産性が低く、製造装置が非常に高価で膨大な運用コストが必要になるという問題点がある。
【0007】
一方、自己組織化手法によるマイクロパターン形成法が注目されている(例えば、非特許文献1を参照)。自己組織化によるマイクロパターン形成法は、ポリマー溶液を高湿度下でガラス基板上に塗布した後、その表面に気体を吹き付けて、溶媒を蒸発させると共に、凝結した微小水滴を鋳型にしてハニカム構造を形成する方法である。かかる方法は、空気中から自然に凝結する微小水滴と、溶液中から自然に析出するポリマーとを利用しているので、複雑な製造装置を必要とせず、極めて容易かつ安価に製膜できるという利点がある。

【非特許文献1】「自己組織化によるナノマテリアル(田中賢等)」、特集3-ナノテク/バイオなど次世代注目技術と微細加工機器・システム、「M&E」、工業調査会、(2003年8月号、p.190-195)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、微細な3次元構造を形成された樹脂フィルムの製造方法であって、安価かつ簡便なプロセスを提供する。また微細な3次元構造体を形成された樹脂フィルムの製造方法であって、樹脂フィルムの原料となる樹脂を多様な樹脂から選択することができる製造方法を提供する。これらにより、広範囲の用途に適用することができる樹脂フィルムの製造方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ハニカム状多孔質樹脂フィルムを、熱、光、赤外線またはマイクロ波によって収縮するフィルム(「収縮性フィルム」ともいう)で収縮させることによって、3次元構造が形成された樹脂フィルムを製造することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、以下に示される、3次元構造が形成された樹脂フィルムの製造方法に関する。
[1]3次元構造が形成された樹脂フィルムの製造方法であって、
ハニカム状多孔質樹脂フィルムと、熱、光、赤外線またはマイクロ波によって収縮するフィルムとを有する複層フィルムを準備するステップ;および前記複層フィルムに熱、光、赤外線またはマイクロ波を作用させて、前記複層フィルムを収縮させ、ハニカム状多孔質を3次元構造とするステップ、を含む製造方法。
[2]前記3次元構造は、周期的な凹凸を有し、かつ前記凹凸のそれぞれに孔を有する構造である、[1]に記載の製造方法。
[3]前記収縮するフィルムが異方的に収縮する、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記収縮するフィルムが等方的に収縮する、[1]または[2]に記載の製造方法。
[5]前記ハニカム状多孔質樹脂フィルムを準備するステップであって、
高分子材料を溶解した疎水性有機溶液を高湿度雰囲気下でキャストする工程、前記キャスト液から、キャスト液に含まれる有機溶媒を蒸発させると同時に、キャスト液表面で高湿度雰囲気成分を結露させる工程、および前記結露により生じた微小液滴を蒸発させてキャスト膜を形成する工程、を有するステップをさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記ハニカム状多孔質樹脂フィルムを準備するステップであって、
高分子材料を溶解した疎水性有機溶液をキャストする工程、前記キャスト液に高湿度ガスを吹き付けて、キャスト液に含まれる有機溶媒を蒸発させると同時に、キャスト液表面で高湿度雰囲気成分を結露させる工程、および前記結露により生じた微小液滴を蒸発させてキャスト膜を形成する工程、を有するステップをさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記3次元構造が形成された樹脂フィルムは光学フィルムである、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]前記3次元構造が形成された樹脂フィルムは細胞培養基材である、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[9]前記3次元構造が形成された樹脂フィルムは撥水フィルムである、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ハニカム状多孔質樹脂フィルムと、熱、光、赤外線またはマイクロ波によって収縮するフィルムとを含む複層フィルムを収縮させることで、3次元構造が形成された樹脂フィルムを製造する方法である。本発明により、従来技術では高価な装置を用いなければ得られなかった構造を有する樹脂フィルムを、簡便で安価に提供できるようになる。製造される樹脂フィルムは、好ましくは、周期的な凹凸構造を有し、かつその凹凸のそれぞれに孔を有する。
【0012】
さらにハニカム状多孔質樹脂フィルムを、自己組織化法により製造することができるので、樹脂フィルムの樹脂材料を広範な樹脂から任意に選択することができる。よって、従来技術(フォトリソグラフィー技術など)のように樹脂材料が限定されることなく、多様な材料を用いることができ、種々の用途の樹脂フィルムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の3次元構造が形成された樹脂フィルムの製造方法は、
1)ハニカム状多孔質樹脂フィルム、および熱、光、赤外線またはマイクロ波によって収縮するフィルム(収縮性フィルム)を含む複層フィルムを準備するステップ、ならびに
2)熱、光、赤外線またはマイクロ波によって複層フィルムを収縮させるステップを有する。
【0014】
ハニカム状多孔質樹脂フィルムの作製について
ハニカム状多孔質樹脂フィルムは、自己組織化手法によって作製されることが好ましい。フィルム原料となる樹脂の選択肢が多く、かつ簡便かつ安価に製造することができるためである。自己組織化手法によるハニカム状多孔質樹脂フィルムの製造は、例えば、前述の非特許文献1や特開2001-157574の記載を参照して行われうる。自己組織化手法によるハニカム状多孔質樹脂フィルムの製造方法は、溶媒の蒸発過程で発生する散逸構造をフィルムに固定化することを特徴とする。
【0015】
自己組織化手法の好ましい手順の第一には、高分子材料を溶解した疎水性有機溶液を、高湿度雰囲気下でキャストする工程;前記キャスト液から、キャスト液に含まれる有機溶媒を蒸発させると同時に、キャスト液表面で高湿度雰囲気成分を結露させる工程;前記結露により生じた微小液滴を蒸発させてキャスト膜を形成して、ハニカム状多孔質樹脂フィルムを製造する工程が含まれる。
【0016】
自己組織化手法の好ましい手順の第二には、高分子材料を溶解した疎水性有機溶液をキャストする工程;前記キャスト液に高湿度ガスを吹き付けて、キャスト液に含まれる有機溶媒を蒸発させると同時に、キャスト液表面で高湿度雰囲気成分を結露させる工程;前記結露により生じた微小液滴を蒸発させてキャスト膜を形成して、ハニカム状多孔質樹脂フィルムを製造する工程が含まれる。
【0017】
自己組織化手法で用いられる疎水性有機溶液に溶解される高分子材料は、疎水性有機溶媒に可溶であれば特に制限されないが、水には不溶もしくは難溶であることが好ましい。高分子材料の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、シクロオレフィン共重合体樹脂等のビニル重合樹脂もしくはその共重合体、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリ乳酸、ポイヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミドなどが含まれる。
【0018】
前記疎水性有機溶液に溶解する高分子材料の濃度は0.01~10重量%であり、好ましくは0.05~5重量%である。溶液の高分子材料の濃度が0.01重量%より低いと、得られるハニカム状多孔質樹脂フィルムの力学的強度が不足することがある。また、溶液濃度が10重量%より高いと、得られるハニカム状多孔質樹脂フィルムの孔の分布や孔の大きさが均一でなくなることがある。
【0019】
前記疎水性有機溶液の溶媒は、常温で液体の疎水性の有機溶媒であれば特に限定されない。前記溶媒の例には、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン系有機溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;二硫化炭素;アミド系溶剤;エーテル系溶剤等が含まれる。これらの疎水性有機溶媒を単独で使用しても、複数の溶媒を組み合わせて混合溶媒として使用してもよい。
前記疎水性有機溶液をキャストして形成されたキャスト液の膜に、微小水滴を形成させることができるので、その微少水滴を蒸発させればハニカムパターンが得られる。
【0020】
前記疎水性有機溶液には、両親媒性物質が共存してもよい。共存する両親媒性物質は特に限定されず、低分子物質、高分子物質のいずれも利用することができる。例えば、ドデシルベンゼンスルホンナトリウムやジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリム等の低分子物質;ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリアクリルアミドを主骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基と親水性側鎖としてラクトース基あるいはカルボキシル基を併せ持つ両親媒性高分子;あるいはヘパリンやデキストラン硫酸、DNAやRNAの核酸などのアニオン性高分子と長鎖アルキルアンモニウム塩とのイオンコンプレックス;ゼラチン、コラーゲン、アルブミン等の水溶性タンパク質を親水基とした両親媒性高分子を例示することができる。
【0021】
前記疎水性有機溶液は、基材にキャストされる。基材の例には、ガラス、金属、シリコンウェハー等の無機材料;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン等の高分子からなる有機材料;MICA等の鉱物系材料などが含まれる。さらに、水、流動パラフィン、液状ポリエーテル等の液体を基材として使用してもよい。さらに、熱、光、赤外線またはマイクロ波によって収縮するフィルム(収縮性フィルム)を基材としてもよい。収縮性フィルムについては後述する。
前記疎水性有機溶液のキャストは、高湿度雰囲気下で行ってもよい。高湿度雰囲気下とは、例えば相対湿度が50~95%であることを意味する。
【0022】
キャスト液は、それに含まれる有機溶媒を蒸発させられることが好ましい。キャスト液に十分な水が含まれていない場合には、高湿度ガスを吹き付けることによって、有機溶媒を蒸発させる。高湿度ガスとは、例えば相対湿度が50~95%であることを意味する。
【0023】
いずれにしても、キャスト液から有機溶媒を徐々に蒸発させると同時に、キャスト液の表面に高湿度雰囲気成分を結露させて、微小液滴を形成する。通常は、高湿度雰囲気成分は水分であり、液滴は水滴である。
【0024】
その後、キャスト液の表面に形成された微小液滴を蒸発させると、微小液滴の形状に応じたハニカムパターンが形成された膜(ハニカム状多孔質樹脂フィルム)が得られる。
【0025】
ハニカム状多孔質樹脂フィルムの構造について
自己組織化手法により得られるハニカム状多孔質樹脂フィルムは、ハニカム状の多孔体である。例えば、微小な孔が規則的にヘキサゴナルに配列したハニカムパターンとなる。孔の直径は、好ましくは0.1~100μmであり、より好ましくは0.1~10μmである。孔の直径は、微小液滴の形成の条件を調整することによって制御することができる。
【0026】
ハニカム状多孔質樹脂フィルムは、孔が膜を貫通した貫通構造、または孔が膜を貫通しない非貫通構造のいずれでもよい。貫通または非貫通構造かは、形成されるフィルムの膜厚と、微小水滴の大きさによって制御することができる。
【0027】
収縮性フィルムについて
収縮性フィルムとは、熱、光、赤外線、マイクロ波などの作用を受けて収縮するフィルムである。収縮性フィルムの材質の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、シクロオレフィン共重合体等のビニル重合樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、熱可塑性エラストマー、シリコーン樹脂、ポリカプロラクトンやポリ乳酸等の生体適合性材料などが含まれる。これらの材質からなるフィルムを、一軸または二軸延伸したフィルムを収縮性フィルムとして用いればよい。
【0028】
収縮性フィルムは、等方的に収縮するフィルムであっても、異方的に収縮するフィルムであってもよい。収縮性フィルムの収縮率は、約1.05~30倍であることが好ましく、1.5~3倍であることがより好ましい。
【0029】
複層フィルムについて
本発明において、ハニカム状多孔質樹脂フィルムを収縮させるため、ハニカム状多孔質樹脂フィルムと収縮性フィルムとが互いに積層された複層フィルムを作製する。複層フィルムは、例えば、ハニカム状多孔質樹脂フィルムを収縮性フィルムに接着固定することにより作製される。また別法として、自己組織化手法でハニカム状多孔質樹脂フィルムを作製する際に、基材として収縮性フィルムを用いることで、複層フィルムを作製してもよい。
【0030】
複層フィルムを収縮することによって、複層フィルムに積層されたハニカム状多孔質樹脂フィルムを収縮させる。それによりハニカム状多孔質を3次元構造として、3次元構造が形成された樹脂フィルムを製造する。
【0031】
複層フィルムを収縮させるには、収縮性フィルムの材質である高分子の配向状態の変化を利用することが好ましい。例えば、融点付近まで加熱して引き延ばされて変形した架橋高分子は、冷却された状態では変形は保たれるが、融点近くまで再度加熱すると「高分子の配向状態」が変化して、元の状態に戻ろうとする。このように高分子の配向状態を、熱、光、赤外線またはマイクロ波などにより変化させて、収縮性フィルムを収縮させることが好ましい。
【0032】
ハニカム状多孔質樹脂フィルムは、1回だけでなく、2回以上収縮されてもよい。2回以上収縮するには、収縮された複層フィルムから、収縮されたハニカム状多孔質樹脂フィルムを剥離して;剥離されたフィルムを、再度、収縮性フィルムに貼り合わせて複層フィルムとして収縮すればよい。
【0033】
本発明の方法で製造される3次元構造を有する樹脂フィルムは、周期的な凹凸構造を有する。さらに前記樹脂フィルムは、前記周期的な凹凸のそれぞれに孔を有する、すなわち周期的な孔を有する。
3次元構造の凹凸構造の凹凸の形状は特に限定されないが、凹凸の周期は0.01~100μm、凹凸の高さは0.01~100μmであることが好ましい。また、孔の大きさが0.01~100μmであることが好ましい。さらに3次元構造の凹凸構造の凹凸の周期は0.01~10μm、凹凸の高さが0.01~10μm、孔の大きさが0.01~10μmであることが好ましい。孔の大きさとは孔の内径を意味するが、最も大きい内径を孔の大きさとする。
【0034】
本発明の方法で製造される3次元構造を有する樹脂フィルムは、自己組織化手法のみでは形成することが困難であった3次元構造を有する樹脂フィルムである。
【0035】
本発明により製造される3次元構造が形成された樹脂フィルムは、フィルム材料やパターンサイズを調整することにより、種々の光学フィルムに適用することができる。例えば、ハニカム状多孔質樹脂フィルムの高分子材料として、光の透過率の高いポリメチルメタクリレートやポリカーボネート、ポリブタジエン、ポリスチレン、シクロオレフィン共重合体などを用いて、かつ周期的な凹凸構造の周期を光が散乱するサイズである0.1~100μmに制御すれば、薄くて透過率が高く、光拡散性能の高い光拡散フィルムとして利用することができる。
【0036】
本発明により製造される3次元構造が形成された樹脂フィルムは、種々の細胞培養基材として用いることができる。
細胞を培養するためには、細胞の足場となる基材が必要であり、その基材の化学的性質と微細形状が細胞の成長に大きく影響を及ぼすことが知られている。ハニカム状多孔質樹脂フィルムは、ハニカムパターンが細胞接着面を提供し、多孔質構造が細胞の支持基盤へのアクセスと栄養の供給ルートになることから、細胞培養基材として好ましいことが知られている。
【0037】
さらに本発明により製造される3次元構造が形成された樹脂フィルムは、3次元の凹凸構造を有しているので、2次元のハニカム状多孔質樹脂フィルムよりも表面積が大きくなる。そのため、大量の細胞を培養することが可能であり、かつ3次元的に細胞を成長させることが容易になる。また、周期的に孔を有しているため、細胞の栄養の供給ルートも確保できるため、良好な細胞培養基材として用いることができる。
【0038】
本発明により製造される3次元構造が形成された樹脂フィルムは、撥水性フィルムとしても利用することができる。凹凸構造の中に孔を有している樹脂フィルムは、凹凸構造のみまたは孔のみを有するフィルムよりも、高い撥水性を示す。よって、良好な撥水性フィルムとして用いることができる。
【実施例】
【0039】
実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0040】
高分子材料としてポリブタジエン、および以下に示す両親媒性高分子、ならびに溶媒としてクロロホルムを用いて、ハニカム状多孔質樹脂フィルムを作製した。
【0041】
【化1】
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【0042】
(実施例1)
ポリブタジエンと両親媒性高分子(重量比で10:1)を、クロロホルムに溶解した溶液を得た。得られたクロロホルム溶液(5g/L)5mLを、直径9cmのぺトリシャーレにキャストした。その直後に、湿度約60%の空気を吹き付けて、非貫通型のハニカム状多孔質樹脂フィルムを得た。フィルムを形成したシャーレをエタノールに浸漬し、ハニカム状多孔質樹脂フィルムを剥離して、自己支持性ハニカム状多孔質樹脂フィルムを得た。
【0043】
得られたハニカム状多孔質樹脂フィルムを走査型電子顕微鏡(SEM)で垂直方向から観察した。孔径の長軸7.7μm、短軸6.2μmの楕円状のハニカム構造が形成されていることを確認した(図1)。
【0044】
作製したハニカム状多孔質樹脂フィルムの裏面(孔が形成されていない面)に、2.2倍に1軸延伸したアペル8008Tフィルムを貼り合わせて複層フィルムを得た。得られた複層フィルムを、75℃のホットステージ上で熱処理することにより収縮させた。
SEMで垂直方向から観察したところ、長軸6.6μm;短軸3.3μmの四角形状の三次元規則構造が形成されていることを確認した(図2)。
【0045】
次にアペル8008Tフィルムから、収縮されたハニカム状多孔質樹脂フィルムを剥離した。剥離されたハニカム状多孔質樹脂フィルムを、2.2倍に1軸延伸したアペル8008Tフィルムに、再度貼り合わせて複層フィルムを得た。得られた複層フィルムを熱処理することにより、再度収縮させた。
SEMで垂直方向から観察したところ、表面にはμmレベルの凹凸があり、長軸4.7μm、短軸1.0μmの四角形状の三次元規則構造が形成されていることを確認した(図3)。
【0046】
再度同様の操作を行い、SEMで垂直方向から観察したところ、孔径が130nmの規則的な周期構造を確認した(図4)。上方斜め20度の角度からSEMで観察したところ、表面には約1μmの周期の凹凸があり、周期的な凹凸構造のそれぞれに孔を有する3次元構造を確認した(図5)。
【0047】
作製したフィルムの水の接触角を測定した。未収縮のハニカム状多孔質樹脂フィルムの水の接触角は112.5°であった。これに対して、1回収縮したフィルムの水の接触角は115.6°であり;3回収縮した周期的な凹凸構造の中に周期的な孔を有する3次元構造体の水の接触角は117.2°であった。この結果から、本発明の製法で製造される3次元構造体は、未収縮のハニカム状多孔質樹脂フィルムよりも高い撥水性を示すことが確認された。
【0048】
(実施例2)
ポリブタジエンと両親媒性高分子(重量比で10:1)を、クロロホルムに溶解した溶液を得た。得られたクロロホルム溶液(5g/L)3mLをキャストする以外は、実施例1と同様の方法で孔径の長軸4.8μm、短軸3.5μmの楕円状のハニカム状多孔質樹脂フィルム(図6)を得た。得られたハニカム状多孔質樹脂フィルムの裏面(孔が形成されていない面)に、1.5倍に1軸延伸したアペル8008Tフィルムを貼り合わせて複層フィルムを得た。得られた複層フィルムを、75℃のホットステージ上で熱処理することにより収縮させた。
SEMで垂直方向から観察したところ、長軸4.8μm;短軸2.45μmの四角形状の三次元規則構造が形成されていることを確認した(図7)。
【0049】
次にアペル8008Tフィルムから、収縮されたハニカム状多孔質樹脂フィルムを剥離した。剥離されたハニカム状多孔質樹脂フィルムを、1.5倍に1軸延伸したアペル8008Tフィルムに貼り合わせて複層フィルムを得た。得られた複層フィルムを熱処理することにより収縮させた(図8)。さらに再度同様の操作を行い、SEMで垂直方向から観察したところ、孔径が400nmの規則的な周期構造を確認した(図9)。上方斜め20度の角度からSEMで観察したところ、表面には約3.5μmの周期の凹凸があり、周期的な凹凸構造のそれぞれに孔を有する3次元構造を確認した(図10)。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の製法により製造される樹脂フィルムは、周期的な凹凸構造を有し、かつ凹凸構造のそれぞれに孔を有しうる。自己組織化手法によって作製されるハニカム状多孔質樹脂フィルムを用いれば、従来技術では高価な装置を用いなければ成し得なかった3次元構造を有する樹脂フィルムを、簡便で安価に提供することができる。
本発明の製法により製造される樹脂フィルムは、光拡散フィルム、光取り出しフィルム、回折格子、細胞培養基材、撥水性フィルム、浮遊微粒子補足フィルターなどに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】自己組織化によって作製されるハニカム状多孔質樹脂フィルムを、垂直方向から観察したSEM像を示す。
【図2】ハニカム状多孔質樹脂フィルムを1回収縮した構造体を、垂直方向から観察したSEM像を示す。
【図3】ハニカム状多孔質樹脂フィルムを2回収縮した構造体を、垂直方向から観察したSEM像を示す。
【図4】ハニカム状多孔質樹脂フィルムを3回収縮した構造体を、垂直方向から観察したSEM像を示す。
【図5】ハニカム状多孔質樹脂フィルムを3回収縮した構造体を、斜め20度方向から観察したSEM像を示す。
【図6】自己組織化によって作製されるハニカム状多孔質樹脂フィルムを、垂直方向から観察したSEM像を示す。
【図7】ハニカム状多孔質樹脂フィルムを1回収縮した構造体を、垂直方向から観察したSEM像を示す。
【図8】ハニカム状多孔質樹脂フィルムを2回収縮した構造体を、垂直方向から観察したSEM像を示す。
【図9】ハニカム状多孔質樹脂フィルムを3回収縮した構造体を、垂直方向から観察したSEM像を示す。
【図10】ハニカム状多孔質樹脂フィルムを3回収縮した構造体を、斜め20度方向から観察したSEM像を示す。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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