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明細書 :酸化物分散強化型フェライト鋼の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3467740号 (P3467740)
公開番号 特開2000-282101 (P2000-282101A)
登録日 平成15年9月5日(2003.9.5)
発行日 平成15年11月17日(2003.11.17)
公開日 平成12年10月10日(2000.10.10)
発明の名称または考案の名称 酸化物分散強化型フェライト鋼の製造方法
国際特許分類 B22F  1/00      
C21D  8/00      
C22C 33/02      
G21C  3/07      
G21C  3/30      
G21C  5/00      
G21C  7/10      
FI B22F 1/00 E
C21D 8/00
C22C 33/02
G21C 5/00
G21C 3/06
G21C 3/30
G21C 7/10
請求項の数または発明の数 1
全頁数 4
出願番号 特願平11-095694 (P1999-095694)
出願日 平成11年4月2日(1999.4.2)
審判番号 不服 2000-020212(P2000-020212/J1)
審査請求日 平成11年4月2日(1999.4.2)
審判請求日 平成12年12月21日(2000.12.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391016923
【氏名又は名称】北海道大学長
【識別番号】000224754
【氏名又は名称】核燃料サイクル開発機構
発明者または考案者 【氏名】高橋 平七郎
【氏名】大貫 惣明
【氏名】奥田 隆成
【氏名】吉武 庸光
【氏名】赤坂 尚昭
【氏名】鵜飼 重治
【氏名】西田 俊夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100067046、【弁理士】、【氏名又は名称】尾股 行雄
参考文献・文献 特開 平5-195002(JP,A)
特開 平8-225891(JP,A)
特許請求の範囲 【請求項1】
機械的合金化処理工程と、固化処理工程と、再結晶熱処理工程とをこの順に備えた、酸化イットリウムをFe-Crを主体とする金属母相内に分散させた酸化物分散強化型フェライト鋼の製造方法において、
上記機械的合金化処理を、アルゴンより軽い不活性ガスのみを雰囲気ガスとして行うことを特徴とする酸化物分散強化型フェライト鋼の製造方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【01】

【発明の属する技術分野】本発明は、原子炉、特に高速増殖炉の炉心環境で長時間使用される炉心構成要素(例えば燃料被覆管やラッパ管からなる燃料集合体、制御棒、反射体等)や機器構造物(例えば、機器容器部材、冷却系配管部材)などの優れた耐中性子照射特性を必要とする部材用の酸化物分散強化型フェライト鋼の製造方法に関する。

【02】

【従来の技術】従来から高速増殖炉の炉心構成部材としては、SUS316、あるいはSUS316の耐照射特性を改善したオーステナイト系鋼の改良鋼(以下「PNC316」という)や、その高Ni化を図った鋼(例えば、PNC1520のような15Cr-20Ni鋼)が用いられている。例えば、高速増殖炉の原型炉『もんじゅ』にはPNC316、実験炉『常陽』にはPNC1520が用いられている。

【03】
しかし、オーステナイト系鋼は、高温強度は優れているが、耐スエリング性や照射クリープ特性など高速中性子に対する耐久性に限界があり、実用炉に必要な燃料の長寿命化を達成するには改良の必要があることが明らかになっている。このオーステナイト系鋼の耐中性子照射特性の改善のためには、添加元素の検討や冷間加工度の向上が必要とされている。添加元素については、耐照射特性に良いとされるNiやPの添加が検討されているが、強度や溶接性の低下が問題となっている。冷間加工度については、現在仕上げ段階で20%冷間加工を施しているが、これ以上上げることはクリープ強度低下を招くとされている。

【04】
一方、フェライト鋼は耐スエリング性に優れているが、高温強度が劣っており、高速増殖炉の炉心材料には適していない。そこで、フェライト鋼の高温強度を改善するために、フェライト鋼中に微細な酸化物粒子を分散させた酸化物分散強化型フェライト鋼が、優れた耐中性子性と高温強度を有する炉心材料として期待され、研究開発がなされている。現状では、MA957(14Cr-0.3Mo-1Ti-0.25Y2 3 )やPNC-ODS(13Cr-3W-0.5Ti-0.35Y2 3 )が開発されている。

【05】
この酸化物分散強化型フェライト鋼は、例えば、高速増殖炉における被覆管の場合、次のようにして製造される。まず、合金粉末と酸化物粉末を、アトライターと呼ばれる水冷式のタンクを有するボールミルに入れ、強制的に混合する。これを機械的合金化処理(メカニカル・アロイング)と呼んでいる。通常、この機械的合金化処理工程は、酸化を防ぐ目的で不活性ガス(一般的にはアルゴンガス)雰囲気中で実施される。この際、アルゴン(Ar)が30~50ppm混入することがわかっている。次いで、この合金化された粉末をカプセルに充填して、脱気・密封処理を行い、その後、熱間押出しにより棒材を製造する。この得られた棒材を機械加工により素管に加工し、圧延、抽延、熱処理を経て被覆管に加工する。

【06】

【発明が解決しようとする課題】今まで、酸化物分散強化型フェライト鋼は、BCC(体心立方格子)の結晶構造を有しているため、優れた耐スエリング特性を有していると信じられていた。事実、再結晶していない酸化物分散強化型フェライト鋼では、照射中にボイド(空隙)が発生した例はない。したがって、機械的合金化処理の際に、アルゴンが30~50ppm混入することがわかっていても問題視されることはなかった。

【07】
ところが、近年、再結晶させない酸化物分散強化型フェライト鋼では、組織が竹のように加工方向に伸びた組織となり、加工性の低下、内圧クリープ強度の著しい低下や周方向延性の低下が問題となった。そのため、本発明者等はこの加工性や機械的特性を改善するために、再結晶組織を有する酸化物分散強化型フェライト鋼を開発した(特開平8-225891)。

【08】
しかしながら、再結晶組織を有する酸化物分散強化型フェライト鋼では、照射により生成される空孔を吸収する転位がほとんど存在せず、さらに機械的合金化処理の際に混入するアルゴン原子が、照射によりボイドの基となるアルゴンバブル(照射により鋼中にできる1~2nmのアルゴンの泡)を形成する。

【09】
従来、再結晶化させない酸化物分散強化型フェライト鋼では、多量の転位が鋼中に存在するため、アルゴン原子や照射によって導入された空孔をこの転位が固着して、ボイドに成長することを抑えていた。これに対し、再結晶組織を有する酸化物分散強化型フェライト鋼では、上述のように転位が著しく少ないため、アルゴン原子や空孔を吸収する転位がなく、アルゴンバブルが起点となってボイドが発生する(スエリングする)ことが、本発明者等の研究の結果判明してきた。

【10】
本発明は、以上のような問題点を解決し、耐スエリング性と高温内圧クリープ強度に優れた酸化物分散強化型フェライト鋼の製造方法を提供することを目的とする。

【11】

【課題を解決するための手段】本発明者等が試作および評価を基に鋭意研究した結果、問題となっている再結晶組織を有する酸化物分散強化型フェライト鋼の耐スエリング特性は、機械的合金化処理中に混入するアルゴン原子によって悪化することをつきとめた。

【12】
これまで一般には、アルゴンよりも軽い不活性原子の方が鋼中における移動度がアルゴンよりも大きいため、これらの軽い不活性原子が混入した方が耐スエリング特性は悪いと考えられていたが、本発明者等は、アルゴンよりも原子量の小さい不活性原子の混入の方が、耐スエリング特性が良くなる可能性があることを見い出し、以下の発明をするに至った。

【13】
すなわち、本発明の酸化物分散強化型フェライト鋼の製造方法は、機械的合金化処理工程と、固化処理工程と、再結晶熱処理工程とをこの順に備えた、酸化イットリウムをFe-Crを主体とする金属母相内に分散させた酸化物分散強化型フェライト鋼の製造方法において、上記機械的合金化処理を、アルゴンより軽い不活性ガスのみを雰囲気ガスとして行うことを特徴とするものである。

【14】
なお、減圧(不活性)ガス圧中で機械的合金化処理を行う場合も、本発明に含まれる。

【15】


【16】

【発明の実施の形態】次に、本発明によって耐スエリング性が改善する根拠を説明する。本発明の酸化物分散強化型フェライト鋼の製造方法は、機械的合金化法を前提としている。機械的合金化法とは、水冷式のタンクの中に鋼球と混合する粉末(金属粉末と酸化物粉末)を入れ、かき混ぜることにより強制的に混合するものである。この時、粉末は鋼球により、酸化物粒子を巻き込みながら他の粉末とともにつぶされ、均一化されていく。この時の粉末の温度は数百℃にもなると言われている。さらに、この時粉末には多量の歪みが加えられる。

【17】
このような環境下での粉末の表面は非常に活性となっており、通常、酸化を防ぐために不活性雰囲気中で機械的合金化処理が行われる。ガスの種類としては安価なアルゴンが一般的である。高速増殖炉における被覆管用の酸化物分散強化型フェライト鋼の場合、機械的合金化処理により、このアルゴン原子が30~50ppm不純物として混入することがわかっている。

【18】
高速増殖炉の炉心材料には、優れた耐スエリング性と高温強度が要求される。スエリングとは、高速中性子が金属に照射されると金属内に空孔が生成され、これが集まって金属中にボイドを形成する現象である。現在高速増殖炉の実験炉や原型炉に使用しているオーステナイト系鋼(PNC316等)では、高速中性子により核変換してできたヘリウム(He)のバブルが成長して、ボイドができると考えられている。

【19】
他方、酸化物分散強化型フェライト鋼の耐スエリング性は、そのBBCの結晶構造のため今まで優れていると考えられてきた。これは、フェライト鋼の優れた耐スエリング性が、実験により実証されていることによるものである。

【20】
しかし、内圧クリープ強度向上のために再結晶組織を導入した酸化物分散強化型フェライト鋼は、照射により導入された空孔の吸収源となる転位がほとんどないこと、およびアルゴン原子を30~50ppm含んでいることから、スエリングする可能性がある。これは、バブル内の不活性原子が、バブルをつぶそうとする力に対抗してバブルを維持しようと作用するため、このアルゴン原子がアルゴンバブルを形成し、このバブルを起点として空孔が吸収されボイドに成長するからである。

【21】
これに対し、アルゴンより軽い不活性ガスとしてヘリウムを用いて、機械的合金化処理を実施して作製した酸化物分散強化型フェライト鋼では、ヘリウム原子の混入量は、2.8~3.3ppmである。これは、ヘリウムがアルゴンに比べて軽くかつ拡散係数が大きいため、機械的合金化処理後の熱間押出し工程中に、ヘリウムが鋼中から放出されるからである。

【22】
このように、酸化物分散強化型フェライト鋼中の不活性雰囲気ガス(この場合ヘリウム)の混入量が減少したために、スエリング発生の核となるバブル内に存在するガス原子が減少した結果として、バブルがつぶれて消滅し、スエリングの発生が抑制される。したがって、機械的合金化処理時の不活性雰囲気ガスとして、これまでのアルゴンよりも軽い不活性ガス原子を採用した方が耐スエリング性に関して、著しく有利である。

【23】


【24】


【25】
本発明に係る酸化物分散強化型フェライト鋼の製造に際しては、機械的合金化処理を、アルゴンより軽い不活性ガスのみを雰囲気ガスとして行う限りにおいて、特定の方法に限定されないが、例えば、それぞれの原料粉末を用意してから、いわゆる機械的合金化処理によって酸化物の形成、あるいは合金化を図っても良く、次いで、成形、焼結の固化処理工程を経た後、再結晶熱処理されて製造される。このような各製造工程は各種の従来技術に従えば良い。例えば、固化処理は、熱間静水圧加圧処理(HIP)や熱間押出等の熱間加工などにより行うことができる。

【26】
本発明においては、特に、次の酸化物分散強化型フェライト鋼に適用した場合に顕著な効果を奏する。すなわち、重量%で、Cr:7~18%<1/2W+Mo:0.1~3%、Ti:0.10~1.0%、残部がFeおよび不可避不純物からなるFe-Crを主体とするフェライト系金属母相内に酸化イットリウムを分散させてなり、酸化イットリウムと過剰酸素量(ExcessO)が、重量%で、
0.10%<Y2 3 ≦0.30%
0.03%≦ExcessO≦0.15%
ExcessO≦0.25-0.5×Y2 3 (%)
の範囲にあり、かつ、再結晶化組織を有する酸化物分散強化型フェライト鋼である。

【27】
ここで、過剰酸素量とは、全酸素量(TotalO)からの酸化イットリウム(Y2 3 )としてイットリウムと結合している酸素(O in Y2 3 )を計算上除いた酸素量([ExcessO]=[TotalO]-[O in Y2 3 ])をいう。なお、再結晶化組織は、1300℃以下の再結晶熱処理によって得るのが好ましい。

【28】

【実施例】次に、本発明を具体的に説明する。
(実施例1)合金粉末と酸化物粉末(Y2 3 )を、Ar雰囲気中およびHe雰囲気中で機械的合金化処理し、押出用カプセルに充填した後、400℃にて脱気・密封し、1150℃で熱間押出した。機械的合金化処理は、三井三池社製5DX型アトライターを使用し、250rpm、48h、鋼球/粉末重量比=15/1の条件で実施した。押出された板材は、60%の冷間加工を行った後、1100℃で熱処理して、再結晶させた。発明鋼(He材)および比較鋼(Ar材)の成分を、表1に示す。同表における単位は、重量%であり、Ex.Oは、ExcessOを意味する。

【29】

【表1】
JP0003467740B2_000002t.gif【0030】表2に、400℃、425℃、450℃の各温度において、12dpaの電子線照射試験したときのボイドスエリングの測定結果を示す。

【31】

【表2】
JP0003467740B2_000003t.gif表2より、雰囲気ガスとしてArガスを用いた場合は、スエリングしているのに対し、Heガスを用いた場合は、全くスエリングしていないことがわかる。

【32】


【33】


【34】

【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、優れた耐スエリング性と優れた高温内圧クリープ強度を共に有する酸化物分散強化型フェライト鋼を製造できることから、高速増殖炉用部材、特に燃料被覆管のような700℃程度の高温で、しかも高い応力下で使用される構造部材の長寿命化を達成できる。