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明細書 :電子顕微方法およびそれを用いた電子顕微鏡

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4852758号 (P4852758)
登録日 平成23年11月4日(2011.11.4)
発行日 平成24年1月11日(2012.1.11)
発明の名称または考案の名称 電子顕微方法およびそれを用いた電子顕微鏡
国際特許分類 H01J  37/295       (2006.01)
H01J  37/26        (2006.01)
H01J  37/22        (2006.01)
FI H01J 37/295
H01J 37/26
H01J 37/22 501Z
請求項の数または発明の数 31
全頁数 20
出願番号 特願2006-513733 (P2006-513733)
出願日 平成17年5月20日(2005.5.20)
国際出願番号 PCT/JP2005/009228
国際公開番号 WO2005/114693
国際公開日 平成17年12月1日(2005.12.1)
優先権出願番号 2004150588
優先日 平成16年5月20日(2004.5.20)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年4月1日(2008.4.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】郷原 一寿
個別代理人の代理人 【識別番号】100105050、【弁理士】、【氏名又は名称】鷲田 公一
審査官 【審査官】堀部 修平
参考文献・文献 特開平10-268503(JP,A)
特開平07-282763(JP,A)
特開平01-204342(JP,A)
調査した分野 H01J 37/00 - 37/295
特許請求の範囲 【請求項1】
電子線を試料に照射し、試料からの回折波の強度を計測し、計測した回折波の強度をもとに位相回復法を用いて物体の像を再構成する電子顕微方法であって、
空間分解能が比較的低いコースイメージを取得する工程と、
検出系の物理的な対物レンズを用いることなく、回折波の強度を計測して位相回復法によって空間分解能がより高いファインイメージを取得する工程と、
を有する電子顕微方法。
【請求項2】
前記コースイメージは、前記対物レンズを用いることなく取得される、
請求項1記載の電子顕微方法。
【請求項3】
前記コースイメージは、前記対物レンズを用いて取得される、
請求項1記載の電子顕微方法。
【請求項4】
前記対物レンズは、電気的にオンオフ可能な対物レンズであり、
前記コースイメージ取得工程は、
前記対物レンズを電気的にオンしてコースイメージを取得し、
前記ファインイメージ取得工程は、
前記対物レンズを電気的にオフしてコースイメージと同一領域からの回折パターンを取得する工程を有する、
請求項3記載の電子顕微方法。
【請求項5】
前記ファインイメージ取得工程は、さらに、
前記コースイメージ取得工程で取得したコースイメージおよび前記回折パターン取得工程で取得した回折パターンを用いて位相回復法によってファインイメージを再構成する工程を有する、
請求項4記載の電子顕微方法。
【請求項6】
前記ファインイメージ再構成工程は、
前記コースイメージを、位相回復法における初期画像として用いる、
請求項5記載の電子顕微方法。
【請求項7】
位相回復法における拘束条件として振幅に関するデータのみならず位相に関するデータをも用いる、請求項1記載の電子顕微方法。
【請求項8】
前記位相に関するデータは、電子線の照射方向に対して試料の手前に配置されるサポート用スリットの位相分布である、請求項7記載の電子顕微方法。
【請求項9】
電子顕微鏡を構成する入射系、試料系、検出系、および計算機系のうち、前三者の少なくとも1つから得られるデータを、位相回復法における実空間拘束条件として用いる、請求項7記載の電子顕微方法。
【請求項10】
前記検出系は、
空間分解能が比較的低い前記コースイメージを得るためのコース系と、
前記対物レンズを用いることなく、回折波の強度を計測して位相回復法によってより高い空間分解能を得るためのファイン系と、を有し、
前記コース系から得られるデータを、位相回復法における実空間拘束条件として用い、前記ファイン系から得られるデータを、位相回復法における逆空間拘束条件として用いる、
請求項9記載の電子顕微方法。
【請求項11】
前記検出系は、
前記対物レンズを用いることなく、回折波の強度を計測して位相回復法によって空間分解能が比較的高い前記ファインイメージを得るためのファイン系を有し、
STEMモードを用いて、前記ファイン系の検出器によって空間分解能が比較的低い前記コースイメージを得る、
請求項9記載の電子顕微方法。
【請求項12】
前記検出系は、
SEM画像を得るための2次電子検出器を有し、
STEMモードの場合、前記SEM画像によって得られる表面形状を、位相回復法における実空間拘束条件として用いる、
請求項9記載の電子顕微方法。
【請求項13】
電子線を試料に照射し、試料からの回折波の強度を計測し、計測した回折波の強度をもとに位相回復法を用いて物体の像を再構成する電子顕微鏡であって、
空間分解能が比較的低いコースイメージを取得する手段と、
検出系の物理的な対物レンズを用いることなく、回折波の強度を計測して位相回復法によって空間分解能がより高いファインイメージを取得する手段と、
を有する電子顕微鏡。
【請求項14】
前記コースイメージは、前記対物レンズを用いることなく取得される、
請求項13記載の電子顕微鏡。
【請求項15】
前記コースイメージは、前記対物レンズを用いて取得される、
請求項13記載の電子顕微鏡。
【請求項16】
前記対物レンズは、電気的にオンオフ可能な対物レンズであり、
前記コースイメージ取得手段は、
前記対物レンズを電気的にオンしてコースイメージを取得し、
前記ファインイメージ取得手段は、
前記対物レンズを電気的にオフしてコースイメージと同一領域からの回折パターンを取得する手段を有する、
請求項15記載の電子顕微鏡。
【請求項17】
前記ファインイメージ取得手段は、さらに、
前記コースイメージ取得手段によって取得されたコースイメージおよび前記回折パターン取得手段によって取得された回折パターンを用いて位相回復法によってファインイメージを再構成する手段を有する、
請求項16記載の電子顕微鏡。
【請求項18】
前記ファインイメージ再構成手段は、
前記コースイメージを、位相回復法における初期画像として用いる、
請求項17記載の電子顕微鏡。
【請求項19】
平行な電子線を試料に照射する入射系と、
試料を固定するとともに試料の環境を制御する試料系と、
試料からの回折波の強度を計測する検出系と、
前記検出系によって計測された回折波の強度をもとに位相回復法を用いて物体の像を再構成する計算機系と、を有し、
位相回復法における拘束条件として振幅に関するデータのみならず位相に関するデータをも用いる、請求項13記載の電子顕微鏡。
【請求項20】
前記位相に関するデータは、電子線の照射方向に対して試料の手前に配置されるサポート用スリットの位相分布である、請求項19記載の電子顕微鏡。
【請求項21】
前記入射系、前記試料系、および前記検出系の少なくとも1つから得られるデータを、位相回復法における実空間拘束条件として用いる、請求項19記載の電子顕微鏡。
【請求項22】
前記検出系は、
空間分解能が比較的低い前記コースイメージを得るためのコース系と、
前記対物レンズを用いることなく、回折波の強度を計測して位相回復法によってより高い空間分解能を得るためのファイン系と、を有し、
前記コース系から得られるデータを、位相回復法における実空間拘束条件として用い、前記ファイン系から得られるデータを、位相回復法における逆空間拘束条件として用いる、
請求項19記載の電子顕微鏡。
【請求項23】
前記ファイン系を構成する検出器は、球面状の2次元検出器である、請求項20記載の電子顕微鏡。
【請求項24】
前記球面状の2次元検出器は、それぞれ独立に処理可能な複数の部分から構成されている、請求項21記載の電子顕微鏡。
【請求項25】
前記ファイン系を構成する検出器は、中心に孔が形成されている、請求項20記載の電子顕微鏡。
【請求項26】
前記コース系から得られるイメージデータに基づいて、観測条件および/または観測場所が最適な状態に調節されるように、前記入射系、前記試料系、および前記検出系の少なくとも1つをフィードバック制御する、請求項20記載の電子顕微鏡。
【請求項27】
前記ファイン系から得られるイメージデータに基づいて、観測条件および/または観測場所が最適な状態に調節されるように、前記入射系、前記試料系、および前記検出系の少なくとも1つをフィードバック制御する、請求項20記載の電子顕微鏡。
【請求項28】
前記物理的な対物レンズは、電気的にオンオフ可能な対物レンズであり、前記対物レンズをオンオフすることによって、前記コース系と前記ファイン系とが切り替えられる、請求項20記載の電子顕微鏡。
【請求項29】
前記コース系を動作させた後、前記ファイン系を動作させる、請求項26記載の電子顕微鏡。
【請求項30】
前記検出系は、
前記対物レンズを用いることなく、回折波の強度を計測して位相回復法によって空間分解能が比較的高い前記ファインイメージを得るためのファイン系を有し、
STEMモードを用いて、前記ファイン系の検出器によって空間分解能が比較的低い前記コースイメージを得る、
請求項19記載の電子顕微鏡。
【請求項31】
前記検出系は、
SEM画像を得るための2次電子検出器を有し、
STEMモードの場合、前記SEM画像によって得られる表面形状を、位相回復法における実空間拘束条件として用いる、
請求項19記載の電子顕微鏡。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微方法およびそれを用いた電子顕微鏡に関し、特に、電子顕微鏡における高分解能化を実現する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平面波を物体に入射し、物体からの回折像をもとに、実空間と逆空間でフーリエ変換を繰り返すことにより物体の実像を得る方法は、「フーリエ反復位相回復法」または単に「位相回復法」と呼ばれており(ここでは単に「位相回復法」という)、原理的には入射波の波長オーダーの空間分解能が得られることが知られている(非特許文献1)。
【0003】
図1は、回折現象を模式的に示す図である。まず、ソース(入射波の源)1、試料3、検出器5を、図1に示すように配置する。この状態において、ソース1から出た波は試料3に入射して散乱され、検出器5によって記録される。このとき、検出器5に記録される情報は一般に回折波の強度であり、この情報から振幅は求められるが、回折波の位相は求められない。もし位相が求められれば、回折波のフーリエ変換によって物体の情報(像)が求められる。位相は、位相回復法によって、ある拘束条件を付加することで求められ、上記のように、原理的には入射波の波長オーダーの空間分解能が得られることが知られている。
【0004】
したがって、位相回復法を電子顕微鏡に適用した場合、加速電圧によって決まる電子のド・ブロイ波長の空間分解能が期待される。
【0005】
非特許文献2には、電界放出型透過電子顕微鏡(日本電子製:JE0L2010F)を用いてナノチューブの観察に成功し、装置が保証している空間分解能2.2オングストローム以下の1オングストロームを達成したことが報告されている。

【非特許文献1】R. W. Gerchberg and W. O. Saxton, "A practical algorighm for the determination of phase from image and diffraction plane pictures ", Optik (Stuttgart), vol. 35, pp. 237-246, 1972
【非特許文献2】J. M. Zuo et al., "Atomic Resolution Image of a Carbon Nanotubefrom Diffraction Intensities", SCIENCE, vol. 300, pp. 1419-1421, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献2における位相回復法の電子顕微鏡への適用報告は、原理の検証実験であり、加速電圧から期待されるド・ブロイ波長からするとまだ40倍の開きがある。すなわち、加速電圧200kVのド・ブロイ波長は0.025オングストロームであるにもかかわらず、報告された分解能は1オングストロームである。
【0007】
これは、主に既存の装置をそのまま使用したことによる限界である。既存装置では対物レンズを使用して、実像と回折パターンを取得している。このため、実像のみならず、回折パターンもレンズ収差(レンズの不完全性)の影響を受けたものが位相回復に用いられており、電子顕微鏡において無収差の理想的な回折パターンが位相回復に用いられた例はこれまでにない。これは、対物レンズの後焦点面上で回折パターンを取得することを前提にして既存の電子顕微鏡装置が設計されているためである。電子顕微鏡における高分解能化を実現するためには、位相回復法の原理にのっとった専用装置を考案する必要がある。
【0008】
本発明の目的は、位相回復法の原理にのっとって高分解能化を実現することができる電子顕微方法およびそれを用いた電子顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、電子線を試料に照射し、試料からの回折波の強度を計測し、計測した回折波の強度をもとに位相回復法を用いて物体の像を再構成する電子顕微方法であって、空間分解能が比較的低いコースイメージを取得する工程と、物理的な対物レンズを用いることなく、不完全な対物レンズによる影響を受けない回折波の強度を用いて位相回復法によって空間分解能がより高いファインイメージを取得する工程と、を有するようにした。前記コースイメージは、前記対物レンズを用いることなく、または、前記対物レンズを用いて、取得される。
【0010】
好ましくは、物理的な対物レンズは、電気的にオンオフ可能な対物レンズである。この場合、コースイメージ取得工程では、対物レンズを電気的にオンしてコースイメージを取得し、ファインイメージ取得工程では、対物レンズを電気的にオフしてコースイメージと同一領域からの回折パターンを取得することができる。また、ファインイメージ取得工程では、さらに、それぞれ取得したコースイメージおよび回折パターンを用いて位相回復法によってファインイメージを再構成することができる。このとき、好ましくは、コースイメージを、位相回復法における初期画像として用いる。コースイメージを初期画像とすることは、フーリエ変換を行うことにより逆空間では初期の拘束条件として位相を用いることに対応している。
【0011】
また、本発明は、電子線を試料に照射し、試料からの回折波の強度を計測し、計測した回折波の強度をもとに位相回復法を用いて物体の像を再構成する電子顕微鏡であって、空間分解能が比較的低いコースイメージを取得する手段と、物理的な対物レンズを用いることなく、回折波の強度を用いて位相回復法によって空間分解能がより高いファインイメージを取得する手段と、を有する構成を採る。前記コースイメージは、前記対物レンズを用いることなく、または、前記対物レンズを用いて、取得される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、位相回復法の原理にのっとって高分解能化を実現することができる電子顕微方法およびそれを用いた電子顕微鏡を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
本発明者は、位相回復法の原理を見直し、原理から要求される電子顕微鏡の構成法、構成要素を具体的に見いだした。そして、これらを具備する、位相回復法に特化した電子顕微鏡の専用装置を考案した。
【0015】
図2は、本発明の一実施の形態に係る電子顕微鏡の構成を示すブロック図である。なお、一般に、実像の再構成には、大別して、ハードウエアとソフトウエアが必要であるが、図2は、電子顕微鏡のハードウエアのみを示している。
【0016】
図2に示す電子顕微鏡10のハードウエアは、大別して、入射系100、試料系200、検出系300、および計算機系400から構成されている。入射系100、試料系200、および検出系300は、真空の筐体500に収納されている。
【0017】
入射系100は、平行な電子線を試料に照射する機能を有し、電子線を発生する電子源110と、平行照射用のレンズ系120とを有する。平行照射用レンズ系120は電磁レンズで構成されている。電子源110で発生した電子線は、平行照射用レンズ系120によって平行な電子ビームとなり、試料系200に照射される。
【0018】
試料系200は、試料を固定するとともに試料の環境を制御する機能を有し、サポート用スリット210と、試料220とを有する。後で詳述するように、サポート用スリット210によって実空間の拘束条件として「位相」を付加することができる。すなわち、サポート用スリット210の強度分布および位相分布は、位相回復法における実空間拘束条件として付与される。試料220は、図示しない試料台に載置されている。
【0019】
なお、ここで、「サポート」とは、試料(観察領域)を含む領域のことである。また、「サポート用スリット」とは、試料を含む領域とそれ以外の領域の2つを構成するものであり、前者は目標とする像(位相回復法によって得られる像)であり、後者は実空間拘束条件として振幅をゼロとする領域である。
【0020】
検出系300は、試料からの回折波の強度を計測する機能を有し、対物レンズ310と、コース検出器320と、ファイン検出器330とを有する。すなわち、本実施の形態では、検出系300は、コース系とファイン系の2つを備えている。ここで、コース系は、物理的な対物レンズ(電気的にオンオフ可能な対物レンズ)310によって、空間分解能が比較的低い像を得るための検出系であり、ファイン系は、物理的な対物レンズを用いることなく、回折波の強度を用いて位相回復法によってより高い空間分解能を得るための検出系である。対物レンズ310とコース検出器320はコース系に含まれ、ファイン検出器330はファイン系に含まれている。後述するように、コース系とファイン系を両方備えることで、コース系で得られた低分解能の実空間像をファイン系の位相回復の拘束条件として用いることが可能になり、高分解画像を得ることができる。なお、対物レンズ310は電磁レンズで構成されており、図2では、中間レンズや投影レンズなどの拡大レンズ系は省略してある。また、構成によっては、コース検出器とファイン検出器とは1つにして兼用することも可能である。
【0021】
計算機系400は、検出系300によって計測された回折波の強度をもとに位相回復法を用いて物体の像を再構成する機能を有し、コンピュータ410で構成されている。検出系300のコース検出器320およびファイン検出器330は、コンピュータ410にそれぞれ接続されている。また、後で詳述するように、計算機系400の処理結果は、入射系100、試料系200、および検出系300にそれぞれフィードバックされる。
【0022】
図3は、位相回復法の原理を示す図である。図3において、f’は入射波と物体とが相互作用した物体波を表しており、初期条件として適当に仮定したf’をフーリエ変換すると、検出面での回折波Fが得られる。回折波Fの振幅は実験で求められるため、実験による計測値(逆空間拘束条件)に置き換えて、これをF’とする。F’を逆フーリエ変換すると、物体波fが求まる。これに適当な実空間拘束条件を付加したものを再びf’とする。この過程を繰り返すことにより真の物体に関する情報(像)が求まる。すなわち、位相回復法では、フーリエ変換と逆フーリエ変換を適当な拘束条件のもとで繰り返す、繰り返し計算を利用している。以上、J. R. Fienup, "Phase retrieval algorithms: a comparison", Appl. Opt., vol. 21, pp. 2758-2769, 1982、参照。
【0023】
本実施の形態では、位相回復法を独自の視点で整理し、これまで考慮されていなかった、新たな拘束条件を用いる。図4は、位相回復法で用いられる変数の関係を抽出し、拘束条件によって変更可能な変数を示している。極座標の表現形式において、(|f|,φ)は実空間での振幅と位相を表し、それに実空間拘束条件を付加したものを(|f'|,φ')とする。これをフーリエ変換したものが回折波であり、その振幅と位相を(|F|,Φ)とし、それに逆空間拘束条件を付加したものが(|F'|,Φ')である。これを逆フーリエ変換したものが実空間の(|f|,φ)となる。従来、拘束条件については、実空間、逆空間ともに直接的には振幅|f|、|F|のみが考慮されていた。そこで、本発明では、位相φ、Φも直接的に拘束条件として付加する。これによって、より良い最適解により速く近づくことが可能になり、空間分解能を向上することができる。
【0024】
例えば、実空間の位相については、試料系200にサポート用スリット210を配置することにより、新たな実空間拘束条件を付加することができる。
【0025】
位相回復法においては、試料周辺の振幅がゼロであることを実空間拘束条件の一つとして用いると、再構成画像の収束性を改善できることが知られている。本発明者は、目的とする試料の観察領域の外側に振幅ゼロ領域を常に形成できれば、試料の大きさや外形を考慮することなく、一定の拘束条件を付加できることを見いだした。そのため、本実施の形態では、試料系200にサポート用スリット210を配置する。
【0026】
また、後述するように、コース系で取得されるコースイメージを位相回復法における初期画像として用いることによっても、新たに実空間の拘束条件に付加することができる。
【0027】
図5は、試料系200の構成を示す図であり、図5Aは、電子線の照射方向から見た図、図5Bは、電子線の照射方向と垂直な方向から見た図である。図5に示すように、サポート用スリット210は、中心に孔212が形成されており、電子線の照射方向に対して試料220の手前に配置される。これにより、振幅に対する次の拘束条件を付加することができる。
【0028】
【数1】
JP0004852758B2_000002t.gif
さらには、位相に対する次の拘束条件を付加することができる。
【0029】
【数2】
JP0004852758B2_000003t.gif
ここで、φ(x)は、試料220がないスリット210のみの回折像をもとにした位相回復から求めた、孔212以外の領域に対する位相分布である。本実施の形態では、このφ(x)を、スリット210と同時に試料220を配置したときの位相分布として近似的に用いる。φ(x)は、試料220を配置する前にあらかじめ求めておく。
【0030】
なお、位相を拘束条件に付加する他の例として、試料の外側の位相が同一(定数)であることを挙げることができる。
【0031】
図6は、図2に示す電子顕微鏡10の基本要素およびその関係を示すブロック図である。上記のように、電子顕微鏡10における実像の再構成には、大別して、ハードウエアとソフトウエアが必要である。ハードウエアは、上記のように、入射系100、試料系200、検出系300、および計算機系400から構成され、ソフトウエアは、拘束条件と最適化手法に分離される。検出系300は、コース系300aとファイン系300bの2つを備えている。上記のように、コース系300aは対物レンズ310とコース検出器320を含み、ファイン系300bはファイン検出器330を含んでいる。
【0032】
ソフトウエアは、拘束条件付非線形最適化問題に対するアルゴリズムとみなすことができ、異なる最適化手法を適用することができる。適用可能な最適化手法には、例えば、勾配法、共役勾配法、ニュートン法、準ニュートン法、MEM法(マキシマムエントロピー法)、遺伝アルゴリズムなどがある。
【0033】
例えば、勾配法においては、逆空間での誤差Eを次のように定義する。
【0034】
【数3】
JP0004852758B2_000004t.gif
また、図4において、t回目と(t+1)回目に対する位相をそれぞれΦおよびΦt+1とする。そして、t回目の位相Φに対する誤差の微分(勾配)∇Eとして、位相Φに対する更新規則を次のように定義する。
【0035】
【数4】
JP0004852758B2_000005t.gif
このとき、ηを適切に決定する(例えば、一例として、十分小さく設定する)ことによって、誤差Eの極小値を与える位相Φを求めることができる。
【0036】
また、拘束条件は、実空間拘束条件と逆空間拘束条件に分けることができる。従来、実空間拘束条件は、試料の振幅がゼロより大きいこと、試料周辺が振幅ゼロであることを主な条件とし、逆空間拘束条件は、検出系で計測された回折波の強度から求めた振幅を条件としており、ハードウエアとソフトウエアとは、回折波の強度から求めた振幅によってのみ結合していた。しかし、本実施の形態では、図6に示すように、ハードウエアとソフトウエアの結合の度合をより一層強めて、ソフトウエアの拘束条件をハードウエアによって決定可能な構成にしている。
【0037】
本実施の形態では、上記のように、検出系300がコース系300aとファイン系300bの2つを備え、これにより、コース系300aで得られた低分解能の実空間像をファイン系300bの位相回復の拘束条件として用いることが可能になっている。また、図6に示すように、ファイン系300bのデータは、m個の逆空間拘束条件(F1、F2、‥、Fm)になり、n個の実空間拘束条件は、試料系200に加えて、入射系100とコース系300aからも付加することができる。これにより、より多くの拘束条件を付加することができ、再構成画像の収束速度および最終的に得られる空間分解能を向上することができる。
【0038】
また、本実施の形態では、図2に示すように、計算機系400の処理結果(最終出力結果つまり位相回復計算結果)を装置全体(入射系100、試料系200、検出系300)に電気的にフィードバックする構成を採っている。具体的には、フィードバックにおける操作対象は、次のとおりである。例えば、入射系100においては、電子源110の加速電圧・電流(ド・ブロイ波長)、平行照射用レンズ系120の平行度であり、試料系200においては、サポート用スリット210の位置、試料220の位置であり、検出系300においては、対物レンズ310の倍率と絞りである。フィードバック制御の具体的な内容については、図2の電子顕微鏡10の動作説明と一緒に、後で詳述する。
【0039】
次に、検出器320、330について説明する。
【0040】
ファイン検出器330による回折強度の計測は、逆空間での計測である。図7は、単一波長の平面波による回折現象を示したエバルト(Ewald)の作図である。入射波と散乱波の波数ベクトルをそれぞれk、kとすると、散乱ベクトルはK=k-kで表される。検出器は、通常、平面を前提としており、図7も右端に平面状の検出器20が描かれている。検出器20に付された各数字2、4、8は、それぞれ、波長を単位にしたときの分解能を示している。すなわち、数字2は波長2つ分の分解能を、数字4は波長4つ分の分解能を、数字8は波長8つ分の分解能をそれぞれ示している。これにより、分解能を上げようとすれば広角の回折強度を測定する必要があることが分かる。ところが、平面状の検出器20では広角になるにつれて、回折波が斜めに入射する。このことは、誤差の原因になる。広角領域は最終的に得られる空間分解能を決定するため、計測の誤差は空間分解能に大きな影響を与える。
【0041】
そこで、本実施の形態では、広角側の検出誤差を解消し、理想的な回折強度の測定を行うために、ファイン検出器330は、エバルト球(Ewald sphere)30に沿った球面状の2次元検出器(エバルト球検出器)40で構成されている。これにより、波長オーダーの空間分解能を得ることが可能になる。
【0042】
また、検出系の検出器の中心には強い入射ビームが当たるため、一般には飽和してしまい、強度測定ができない。そのため、従来は、ビームストッパを検出器の前に配置することが一般に行われている。しかし、実際の実験においては、ビームストッパによる散乱の影響などがあるため、ビームストッパの配置の仕方などが実験上の重要な問題となっている。
【0043】
そこで、本実施の形態では、ファイン検出器(エバルト球検出器)330の中心に孔332が形成されている(中心孔付き2次元検出器)。このようにファイン検出器330の中心に孔332があれば、入射ビームはそのまま通過し、ビームストッパを用いた場合における回折波の強度測定への悪影響を回避することができる。また、中心に孔332を設けることによって、コース系の測定とファイン系の測定を切り替える際に、ファイン検出器330を移動させる必要がないという利点も得られる。
【0044】
図8は、ファイン検出器330として中心に孔を有する球面状の2次元検出器の例を示し、図8Aは、一体型の検出器の例を示し、図8Bは、4つの部分からなる分割型の検出器の例を示している。図8Bに示すように検出器を分割型にすることにより、データの並列処理が可能になる。なお、分割型の検出器における分割数は4つに限定されないことは当然である。
【0045】
なお、広角側の検出誤差がある程度許容される場合、例えば、分解能を波長の10倍程度にとどめてもよい場合は、ファイン検出器は、平面状でも代用可能である。図9は、平面状の一体型ファイン検出器340の例を示している。この平面状のファイン検出器340も、中心に孔332が形成されている。
【0046】
また、上記のように中心孔付き2次元検出器には球面状と平面状の2つがあるが、いずれも、例えば、イメージングプレート(IP)やCCD、ファイバCCDなどによって構成することができる。
【0047】
また、コース検出器320は、広角側の検出誤差がある程度許容されるため、平面状の検出器20で構成されている。
【0048】
次いで、上記構成を有する電子顕微鏡10を用いて高分解能画像を得る具体的な手順(方法)について、図10に示すフローチャートを用いて説明する。
【0049】
図2の電子顕微鏡10においては、電子源110から発射された電子線は、平行照射用レンズ系120によって平行ビームに整形された後、サポート用スリット210を通過して試料220に入射する。このとき、電子顕微鏡10を用いて高分解能画像を得る手順は、大別して、(1)コース系によるコースイメージの取得(ステップS1000~ステップS1300)と、(2)ファイン系による位相回復アルゴリズムを用いたファインイメージの再構成(ステップS1400~ステップS1600)に分けられる。前者は、対物レンズ310を用いて、低分解能の粗い実像(以下「コースイメージ」という)を取得するプロセスであり(以下「コースイメージルーチン」という)、後者は、コースイメージルーチンで得られたコースイメージを実空間の拘束条件として、高分解能な実像(以下「ファインイメージ」という)を位相回復アルゴリズムによって再構成するプロセスである(以下「ファインイメージルーチン」という)。
【0050】
まず、上記(1)、(2)の各ルーチンの概略を説明する。
【0051】
コースイメージルーチンにおいては、入射した電子線は試料220によって散乱され、最初に励磁(オン)状態の対物レンズ310によって集光されコース検出器320で実像を形成し、コンピュータ410で実像のデジタルデータを取得する。ここで、対物レンズ310で集光される電子線は十分小さく、ファイン検出器330の中心孔332を通過するため、ファイン検出器330はコース系のイメージを取得するコース検出器320には影響を与えない。
【0052】
次に、ファインイメージルーチンにおいては、対物レンズ310の励磁を切り(オフ状態)、試料220からの回折像をファイン検出器330で取得する。コース検出器320で得られたコースイメージ、サポート用スリットによるサポート領域の振幅(ゼロ)・位相(事前に取得)を実空間拘束条件とし、かつ、ファイン検出器330で得られた回折像の強度を逆空間拘束条件として、位相回復法を適用して、高分解能な実像をコンピュータ410による計算によって求める。
【0053】
要するに、本実施の形態では、まず、コースイメージルーチンによって、対物レンズ310をオンしてコースイメージを取得する。これにより、低分解能の粗い実像(コースイメージ)が得られる。次に、ファインイージルーチンによって、対物レンズ310をオフして回折パターンを取得し、コースイメージおよび回折パターンを用いて、コンピュータ410によってファインイメージの再構成を行う。ファインイメージは、理想的な回折パターンに対応した、コースイメージよりも高い空間分解能を持つ、より精細な実像である。
【0054】
この点、従来は、対物レンズをオンしたまま、実像と回折パターンを取得していた。このため、実像のみならず、回折パターンもレンズ収差(レンズの不完全性)の影響を受けたものが位相回復に用いられており、無収差の理想的な回折パターンは位相回復には用いられてこなかった。これは、従来は、レンズの後焦点面上で回折パターンを取得することを前提にして電子顕微鏡装置が設計されているためである。
【0055】
レンズ収差の影響を受けない回折パターンを得るためには、試料の所望の観察領域を抽出するための実像が対物レンズのオンによって簡便に得られ、かつ、対物レンズのオフで回折パターンを取得することができる位相回復専用の装置が必要である。
【0056】
なお、対物レンズの収差のために、対物レンズを用いた試料の実像は分解能が低下した像となる。そこで、本明細書では、対物レンズによって得られた実像をコースイメージ(粗い像)と呼ぶことにする。そして、コースイメージと、対物レンズを使わずに同一領域からの回折パターンとを用いて、位相回復法によって得られる実像をファインイメージ(精細な像)と呼ぶことにする。
【0057】
本実施の形態では、上記一連の操作は、フィードバックループによって自動化されている。フィードバックは、対物レンズ310のオンオフ、コース検出器320およびファイン検出器330からのデータ取得、位相回復法の適用を基本として、電子源110(加速電圧・電流の調節)、平行照射用レンズ系220(平行度の調節)、サポート用スリット210の位置合わせ、試料220の位置の調節、対物レンズ310の倍率・しぼりの調節、ファイン検出器330の移動、中間レンズ系の調節などに適用可能である。このようなフィードバックによって、空間分解能を高めるための調節が行われる。
【0058】
なお、本実施の形態では、試料220を配置して上記(1)、(2)の各ルーチンを実行する前に、あらかじめ試料220を配置しない状態で上記(1)、(2)の各ルーチンを実行して、サポート用スリット210に対する位相と振幅のデータを実空間拘束条件として取得しておく。
【0059】
各ルーチンにおける具体的な手順は、次のとおりである。
【0060】
まず、コースイメージルーチンについて、ステップS1000では、対物レンズ310をオン(ON)する。すなわち、対物レンズ310の励磁をオンにする。
【0061】
そして、ステップS1100では、コースイメージの取得を行う。すなわち、コース検出器320によってコースイメージを取得する。図11は、取得したコースイメージの一例を示す写真である。
【0062】
そして、ステップS1200では、観察条件の調節を行う。すなわち、取り込んだ実像をもとに、観察条件として、加速電圧・電流などの電子源110の調節、平行度・しぼり・光軸・走査領域(STEM(走査型透過型電子顕微鏡:Scanning Transmission Electron Microscope)モードの場合)などの平行照射用レンズ系120の調節、倍率・しぼりなどの対物レンズ310の調節を行う。調節が不十分であれば、コースイメージ取得を再度行うため、ステップS1100に戻る。ここで、調節が不十分か否かは、ステップS1100で取得されるコースイメージが所定の空間分解能を有するか否かによって判断される。
【0063】
なお、「STEMモード」とは、入射ビームを細く絞って試料220上を走査し、走査に同期してコース検出器320の信号をもとに実像を構成するモードである。原理は、入射ビームが当たるとそこから散乱波が出て、その強度を検出器で計測するが、その際、入射ビームを試料上で走査し、計測データを入射ビームと同期させれば画像が得られるというものである。
【0064】
そして、ステップS1300では、観察場所の調節を行う。すなわち、サポート用スリット210の位置、試料220を移動することによって観察場所を調節する。調節が不十分であれば、コースイメージ取得を再度行ため、ステップS1100に戻る。ここで、調節が不十分か否かは、ステップS1100で取得されるコースイメージにおいて観察対象が所望の場所に存在するか否かによって判断される。
【0065】
ステップS1100で最終的に得られたコースイメージは、コンピュータ410に取り込まれデジタルデータとして保存される。
【0066】
なお、ステップS1100とステップS1200の処理(フィードバックによる観察条件調節後のコースイメージ取得)、および、ステップS1100とステップS1300の処理(フィードバックによる観察場所調節後のコースイメージ取得)は、それぞれ、リアルタイムで実行可能である。
【0067】
次に、ファインイメージルーチンについて、ステップS1400では、対物レンズ310をオフ(OFF)する。すなわち、対物レンズ310の励磁をオフにする。
【0068】
そして、ステップS1500では、回折パターンの取得を行う。すなわち、ファイン検出器330を通じてコンピュータ410に回折パターンを取り込む。図12は、取得した回折パターンの一例を示す写真である。
【0069】
そして、ステップS1600では、ファインイメージの再構成を行う。すなわち、ステップS1000~ステップS1300のコースイメージルーチンで得られたコースイメージ(図11参照)、および、事前に取得したサポート用スリット210の位相・振幅をそれぞれ実空間拘束条件として、また、ステップS1500の回折パターン取得によって得られた回折パターン(図12参照)から計算される回折波の振幅を逆空間拘束条件として用いて、図4に示す位相回復法により実像(ファインイメージ)を求める。そして、求めたファインイメージをもとに、ステップS1200の観察条件調節、ステップS1300の観察場所調節に対するフィードバックを行う。そして、このようなコースイメージルーチンおよびファインイメージルーチンを繰り返すことにより、所望の高分解能を有するファインイメージを再構成する。ここで、事前に取得したサポート用スリット210の位相・振幅とは、上記のように、サポート用スリット210のみ(試料なし)の状態で上記各ルーチンの手順によって得られるサポート用スリット210に対する位相と振幅のことである。図13は、再構成したファインイメージの一例を示す図である。
【0070】
ここで、実空間拘束条件と逆空間拘束条件の例を示す。実空間拘束条件は、次の式によって与えられる。
【0071】
【数5】
JP0004852758B2_000006t.gif
ここで、sはサポート内を表す。すなわち、ここでは、サポート外は振幅ゼロとし、サポート内は逆フーリエ変換された振幅をそのまま用いる。
【0072】
【数6】
JP0004852758B2_000007t.gif
ここで、φslはサポート用スリット210の外側の位相であり、試料なしの状態で事前に求めたものである。
【0073】
また、逆空間拘束条件は、次の式によって与えられる。
【0074】
【数7】
JP0004852758B2_000008t.gif
これは、ファイン検出器330で測定された強度から計算される振幅である。
【0075】
図14は、コースイメージおよび回折パターンを用いて、コンピュータ410によってファインイメージの再構成を行っている過程を示すグラフである。図14のグラフは、横軸に繰り返し回数(図3参照)を、縦軸に誤差(数3参照)をそれぞれとったものである。図14に示すように、繰り返し回数が増えるにつれて、誤差は確実に減少している。図15A、図15B、図15C、図15Dは、繰り返し回数がそれぞれ10回、100回、1000回、5000回における実像の一例を示している。図15A~図15Dによれば、回数が増えるにつれて、実像が確実に再構成されていることがよく分かる。
【0076】
なお、以上のフィードバックを高速に行うことによって、事前に設定した条件への自動化処理、動的な現象のトラッキング(自動追尾)などを行うことが可能になる。
【0077】
このように、本実施の形態によれば、位相回復法における拘束条件として振幅に関するデータ(例えば、コースイメージの振幅、サポート用スリット210の振幅、ファイン系による回折波の振幅)のみならず位相に関するデータ(例えば、コースイメージの位相、サポート用スリット210の位相)をも用いるため、種類が異なるより多くの拘束条件を付加することが可能になり、位相回復法を電子顕微鏡に有効に適用することができる。そのため、位相回復法の原理にのっとって高分解能化を実現することができる。
【0078】
また、検出系をコース系とファイン系に分け、入射ビーム系(照射ビーム系)を変えることなく、対物レンズを電気的にオンオフ可能にし、特にファイン系において、対物レンズ310を電気的にオフして、つまり、物理的な対物レンズを必要とせず、いわばレンズ機能をコンピュータ410によって実現して、コースイメージおよび回折パターンを用いて計算機によってファインイメージを取得(再構成)するため、レンズ収差の影響を全く受けず、物理的なレンズの性能が悪いまたは高性能な物理的レンズの製作が困難な場合であっても、高い空間分解能を有する電子顕微鏡を実現することができる。これにより、従来の電子顕微鏡の高分解能化とは全く異なる新たな高分解能化の具体的な装置構成法が与えられる。
【0079】
なお、本実施の形態では、コースイメージを取得するためにコース検出器320を設けているが、コースイメージの取得方法はこれに限定されない。例えば、STEMモードを積極的に利用すれば、コースイメージをファイン系の検出器で取得することができる。上記のように、入射ビームを試料上で走査し、計測データを入射ビームと同期させれば画像が得られるためである。すなわち、コースイメージを得るコース系をファイン系のハードウエアによって代用可能である。
【0080】
また、STEMモードでは、2次電子検出器を取り付けて、SEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)画像を得ることが通常行われている。この場合、SEM画像によって取得した表面形状を実空間の拘束条件として使用することができる。
【0081】
また、位相回復法の適用に当たっては、試料に入射する波がコヒーレントであることが必要である。そのため、電子顕微鏡においては、入射ビームの高コヒーレント化が強く要求される。入射ビームの高コヒーレント化を実現するためには、入射ビームの干渉性を検出することが必要である。干渉性は、波面の位相を計測することで、評価することができる。本発明者は、位相回復法を応用して、電子線の波面の位相を簡単に計測する手法を考案した。すなわち、試料をピンホールとして位相回復法を用いれば、ピンホールの中の入射ビームの位相分布が求められ、これによって平面波からの位相のずれが求められ、入射ビームの干渉性を評価することができる。
【0082】
本明細書は、2004年5月20日出願の特願2004-150588に基づく。この内容はすべてここに含めておく。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に係る電子顕微方法およびこれを用いた電子顕微鏡は、位相回復法の原理にのっとって高分解能化を実現することができる電子顕微方法およびそれを用いた電子顕微鏡として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】回折現象を模式的に示す図
【図2】本発明の一実施の形態に係る電子顕微鏡のハードウエア構成を示すブロック図
【図3】位相回復法の原理を示す図
【図4】位相回復法で用いられる変数とその関係を示す図
【図5】図5Aは、電子線の照射方向から見た試料系の構成を示す図、図5Bは、電子線の照射方向と垂直な方向から見た試料系の構成を示す図
【図6】図2の電子顕微鏡の基本要素およびその関係を示すブロック図
【図7】エバルトの作図を示す図
【図8】図8Aは、一体型の球面状ファイン検出器の一例を示す図、図8Bは、分割型の球面状ファイン検出器の一例を示す図
【図9】平面状のファイン検出器の一例を示す図
【図10】図2の電子顕微鏡を用いて高分解能画像を得る手順を示すフローチャート
【図11】図10のコースイメージルーチンで取得したコースイメージの一例を示す写真
【図12】図10のファインイメージルーチンで取得した回折パターンの一例を示す写真
【図13】図10のファインイメージルーチンで再構成したファインイメージの一例を示す図
【図14】図10のファインイメージルーチンでファインイメージの再構成を行っている過程を示すグラフ
【図15】図15Aは、繰り返し回数が10回における実像の一例を示す図、図15Bは、繰り返し回数が100回における実像の一例を示す図、図15Cは、繰り返し回数が1000回における実像の一例を示す図、図15Dは、繰り返し回数が5000回における実像の一例を示す図
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14