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明細書 :表面位置計測方法および表面位置計測装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4876216号 (P4876216)
登録日 平成23年12月9日(2011.12.9)
発行日 平成24年2月15日(2012.2.15)
発明の名称または考案の名称 表面位置計測方法および表面位置計測装置
国際特許分類 G01Q  20/02        (2010.01)
FI G01Q 20/02
請求項の数または発明の数 4
全頁数 13
出願番号 特願2006-550729 (P2006-550729)
出願日 平成17年12月22日(2005.12.22)
国際出願番号 PCT/JP2005/023633
国際公開番号 WO2006/073068
国際公開日 平成18年7月13日(2006.7.13)
優先権出願番号 2005001538
優先日 平成17年1月6日(2005.1.6)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年10月14日(2008.10.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】岡嶋 孝治
【氏名】田中 賢
【氏名】徳本 洋志
個別代理人の代理人 【識別番号】100105050、【弁理士】、【氏名又は名称】鷲田 公一
審査官 【審査官】渡▲辺▼ 純也
参考文献・文献 特開平10-282128(JP,A)
Farida Benmouna et al,Nanoscale Mapping of the Mechanical Properties of Polymer Surface by Means of AFM Noise Analysis: Spatially Resolved Fibrillation of Latex Films,Langmuir,米国,American Chemical Society,2003年11月25日,Vol. 19, No. 24,p10247 - p10253
Kouichirou Amemiya et al,Use of the maximum-entropy method for measuring the resonance of a mechanical oscillator,Physics Letters A,ELSEVIER,2003年 8月25日,Vol. 315, No. 3-4,p184 - p188
Takaharu OKAJIMA et al,Versatility of Self-Oscillation Technique with Mechanical-Acoustic Excitations for Frequency Modulation Atomic Force Microscope in Liquids,Japanese Journal of Applied Physics,The Japan Society of Applied Physics,2004年 7月29日,Vol. 43, No. 7B,p4634 - p4638
調査した分野 G01Q 10/00 ~ 90/00
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
探針を有するカンチレバーの熱振動スペクトルの面積を検出する検出ステップと、
検出したカンチレバーの熱振動スペクトルの面積の変化に基づいて計測される前記探針と試料表面との接触位置から、前記試料表面の位置を評価する評価ステップと、
を有する表面位置計測方法。
【請求項2】
前記評価ステップは、
検出したカンチレバーの熱振動スペクトルの面積が変化し始める位置を、前記探針と試料表面との接触位置として計測する、
請求項1記載の表面位置計測方法。
【請求項5】
前記検出ステップは、
探針を有するカンチレバーの変位信号を検出するステップと、
検出した変位信号をFFT処理して熱振動スペクトルを取得するステップと、
取得した熱振動スペクトルからカンチレバーの共振モード部分を抽出してカンチレバーの共振周波数周辺における熱振動スペクトルの面積を算出するステップと、を有し、
前記評価ステップは、
算出したカンチレバーの熱振動スペクトルの面積が変化し始める位置を、前記探針と試料表面との接触位置として計測する、
請求項2記載の表面位置計測方法。
【請求項6】
探針を有するカンチレバーの熱振動スペクトルの面積を検出する検出手段と、
前記検出手段によって検出されたカンチレバーの熱振動スペクトルの面積の変化に基づいて計測される前記探針と試料表面との接触位置から、前記試料表面の位置を評価する評価手段と、
を有する表面位置計測装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、表面位置計測方法および表面位置計測装置に関し、特に、原子間力顕微鏡を用いた表面位置計測方法および表面位置計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1986年に開発された原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)(非特許文献1)は、導体・半導体・絶縁体(高分子・生体材料を含む)の表面形状を高分解能で観察することができる顕微鏡である。原子間力顕微鏡は、カンチレバーと呼ばれる極めて柔らかいレバーの先端に針状の突起(探針)を設け、この探針を試料に近づけたときに試料表面と探針の間に発生する微弱な力をカンチレバーのひずみを介して測定できるようにしたものである。なお、本明細書において、「カンチレバー」という用語は、特に明記しない限り、探針を含む広義の意味で用いる。
【0003】
原子間力顕微鏡のカンチレバーの固さに比べて試料表面が十分柔らかい場合、探針が表面に接触しても、カンチレバーの変位(デフレクション)は小さいため、カンチレバーの静的変位量から表面位置を正確に計測することは難しい。例えば、細胞表面の脂質膜は、非常に柔らかく、数十nm以上の大きな振幅で揺らいでおり、その弾性は通常用いられる柔らかいカンチレバーと比較して十分小さいため、低侵襲で脂質膜のみの弾性応答や表面位置を精密に計測することはAFMでは容易ではない。
【0004】
柔らかい表面の位置(接触点)を導出する方法としては、探針を表面に強く押し付けたときのフォースカーブの形状から表面位置を算出する方法がある(非特許文献2)。ここで、フォースカーブとは、横軸を探針と試料表面の距離、縦軸をカンチレバーの変位(通常は静的変位)としてプロットして得られる曲線のことである。
【0005】
一方で、カンチレバーは熱振動をしており、その振幅は、カンチレバーの固さにもよるが、大体1nm以下の程度である。カンチレバーの熱振動の利用方法としては、熱振動スペクトルの計測からカンチレバーのバネ定数を見積もったり(非特許文献3)、熱振動スペクトルの計測から表面と探針の間の相互作用を非接触領域で計測したりすることが行われている(非特許文献4)。

【非特許文献1】G.Binnig,C.F.Quate,and Ch.Gerber,″Atomic Force Microscope″,Phys.Rev.Lett.Vol.56,p.930(1986)
【非特許文献2】C.Rotsch,K.Jacobson,and M.Radmacher,″Dimensional and mechanical dynamics of active and stable edges in motile fibroblasts investigated by using atomic force microscopy″,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.96,p.921(1999)
【非特許文献3】J.L.Hutter,J.Bechhoefer,″Calibration of atomic-force microscope tips″,Rev.Sci.Instrum.Vol.64,p.1868(1993)
【非特許文献4】A.Roters,M.Gelbert,M.Schimmel,J.Ruhe,and D.Johannsmann,″Static and dynamic profiles of tethered polymer layers probed by analyzing the noise of an atomic force microscope″,Phys.Rev.E Vol.56 p.3256(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、柔らかい表面の位置(接触点)の導出方法として、探針を表面に強く押し付けたときのフォースカーブの形状から表面位置を算出する方法においては、表面位置の計測の精度には一定の限界がある。なぜなら、細胞膜を例にとって説明すると、細胞膜の裏側には細胞骨格などの様々な物質が存在しており、探針を表面に強く押し付けると細胞膜以外のこれらの弾性特性も測定結果に含まれることが予想されるが、それらの影響を考慮した解析は容易ではないからである。また、接触点を評価するためには、探針を一度表面に強く押し付けた後、その曲線を解析するという手続きを行うため、フォースカーブ測定中は接触した位置を瞬時に(リアルタイムで)判断することができない。
【0007】
上記のように、例えば、細胞表面の脂質膜は、非常に柔らかく、脂質膜のみの弾性応答を測定することはAFMでは難しいと考えられている。しかし、接触位置を正確に計測することが可能になれば、生体膜そのものの粘弾性をローカルに計測することが可能となり、また、細胞膜上の糖タンパク質の精密な力学計測が可能になることが予想される。また、接触位置をリアルタイムで計測することが可能になれば、さらに、非常に柔らかい表面を短時間に精密に二次元マッピングすることや、表面に存在する分子と探針との間の相互作用を精密に時空間計測することも可能になると期待される。
【0008】
なお、後述するように、本発明は、従来の静的な力学計測ではなく、カンチレバーの動的挙動(熱振動)から接触位置を計測する手法である。カンチレバーの熱振動は、不可避な振動であり、かつ、最小振動振幅であるため、接触位置を最も高精度に計測できる可能性を有し、かつ、表面に与えるダメージを最小限に抑えることができる可能性を有する。しかし、従来、熱振動スペクトルを接触位置の計測に用いた例はなく、また、探針が非常に柔らかい表面(細胞膜のような表面)と接触した場合に、熱振動スペクトルが敏感に応答するかどうかも全く調べられていなかった。
【0009】
本発明の目的は、柔らかい表面の位置を正確に、低侵襲で、かつ高速(リアルタイム)に計測することができる表面位置計測方法および表面位置計測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、カンチレバーの熱振動に関する量を検出する検出ステップと、検出したカンチレバーの熱振動に関する量の変化に基づいて、試料表面の位置を評価する評価ステップと、を有するようにした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、柔らかい表面の位置を正確に、低侵襲で、かつ高速(リアルタイム)に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】細胞表面の位置を計測する様子を模式的に示す図
【図2】図2Aは、探針・細胞表面接触位置近傍の熱振動スペクトルの面積の距離依存性を示すグラフ図、図2Bは、図2Aと同時計測したフォースカーブを示すグラフ図
【図3】本発明の一実施の形態に係る表面位置計測装置の構成を示すブロック図
【図4】図3のデータ演算/制御装置の構成の一例を示すブロック図
【図5】本発明の一実施の形態に係る表面位置計測装置の表面位置計測動作を示すフローチャート

【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
本発明者は、柔らかい表面の位置を正確に計測するためには、従来の静的な力学計測ではなく、カンチレバーの動的挙動(熱振動)に着目する必要があることを見出した。すなわち、本発明者は、カンチレバーの熱振動が、不可避な振動であり、かつ、最小振動振幅であるため、接触位置を最も高精度に計測できる可能性を有することを見出し、実験により、探針が柔らかい表面と接触した場合に、熱振動スペクトルが敏感に応答することを確認した。
【0015】
本発明は、カンチレバーの熱振動に関する量を検出し、検出したカンチレバーの熱振動に関する量の変化に基づいて、試料表面の位置を評価するものである。
【0016】
ここで、本明細書で用いる用語について説明しておく。
【0017】
「フォースカーブ測定」とは、横軸を探針とサンプルの距離、縦軸をカンチレバーの変位(通常は静的変位)としてプロットする測定のことである。
【0018】
「パワースペクトル」とは、任意の時系列データの振幅の二乗をスペクトルとして表したものであり、特に、時系列データとしてカンチレバーの熱振動変位を用いる場合、この熱振動変位の振幅の二乗を「熱振動スペクトル」と呼ぶ。また、熱振動スペクトルの面積を「スペクトル面積」と呼ぶ。
【0019】
まず、本発明の原理を説明する。
【0020】
カンチレバーは、固有の共振周波数で熱振動している。熱振動しているカンチレバーが柔らかい表面に接触したとき、その表面が粘性的な性質を有すれば、カンチレバーの共振周波数は変化しなくても、他の振動特性(例えば、スペクトルの幅)は変化する。したがって、非接触と接触との違いによってエネルギー散逸が不連続に変化すれば、スペクトルの変化から接触位置を精密に見積もることが可能である。すなわち、非接触と接触とは、その現象自体が不連続なものであるため、非接触から接触の状態に変われば、それに対して物理量も不連続に変化するはずである。実際、後述するように、実験により、非接触と接触とで熱振動スペクトルが不連続に変化することを確認した。したがって、熱振動スペクトルは、接触点を判断する物理量として有用であると言える。なお、熱振動の基本モードのスペクトルの幅は粘性に依存しており、粘性が大きければスペクトルの幅も大きくなるという関係がある。
【0021】
一方、カンチレバーに外場(力学的、電気的、または磁気的外場)を与えてカンチレバーを強制的に振動させる方法は、従来一般的に使用されている。呼び名としては、ダイナミックモード、タッピングモード、AMモード、FMモード、非接触モードなど色々あるが、基本的には、すべてカンチレバーを強制的に振動させる計測である。これらの方法では、強制振動させている周波数における振幅変化や周波数変化を計測する。このとき、強制振動の振幅は熱振動の振幅よりも大きく、強制振動のエネルギーは熱振動のエネルギーよりも大きい。逆に言えば、熱振動の振幅は強制振動の振幅よりも小さく、熱振動のエネルギーは強制振動のエネルギーよりも小さい。したがって、カンチレバーの熱振動を利用することにより、従来の強制振動を利用する方法に比べて、高感度に(つまり、より正確に)、かつ、試料に対して低侵襲に計測を行うことができる。
【0022】
このように、本発明は、強制振動させずに、カンチレバーの熱振動から、接触と非接触との違いを判断するものである。
【0023】
本実施の形態では、熱振動しているカンチレバーのデフレクション信号の時系列データをFFT(Fast Fourier Transform)処理して、パワースペクトルを得る。そして、基本共振モード周辺のパワー(スペクトル面積)を取得する。熱振動による基本共振モードの振幅Aの二乗<A>は、理論的にkT/kとなる。ここで、k、T、kは、それぞれ、ボルツマン定数、温度、バネ定数である。
【0024】
例えば、細胞表面の位置を計測する場合は、図1に示すように、基板1に接着した単一細胞3の上からカンチレバー5を降ろして、フォースカーブ測定を行い、このときの、カンチレバー5のたわみ量と熱振動スペクトルの面積とを測定して、細胞表面の位置を評価する。カンチレバー5のたわみ量は、カンチレバー5の変位信号(デフレクション信号)として測定される。また、熱振動スペクトルの面積(スペクトル面積)は、デフレクション信号(カンチレバー5の変位信号)をFFT処理してパワースペクトル(熱振動スペクトル)を取得し、適当な所定範囲(共振周波数周辺)の面積をとることによって求められる。
【0025】
図2Aは、探針・細胞表面接触位置近傍の熱振動スペクトルの面積の距離依存性を示すグラフ図であり、図2Bは、図2Aと同時計測したフォースカーブを示すグラフ図である。
【0026】
図2Aおよび図2Bに示すように、熱振動スペクトルの面積(カンチレバー5の共振周波数周辺のスペクトル面積)とカンチレバー5の静的変位(静的な力)とを比較すると、カンチレバー5の静的変位が大きく増加し始める位置よりも約100nm手前から熱振動スペクトルの面積が急激に減少している。これは、細胞3の膜とカンチレバー5の探針7との機械的な接合によりカンチレバー5のエネルギー散逸が起こったために、振動スペクトルが敏感に応答したことを示している。なお、図2Aおよび図2Bでは、便宜上、カンチレバー5の探針7と細胞3の表面との間の距離に関して、熱振動スペクトルの面積が変化し始めた位置を基準位置(0nm)として設定している。
【0027】
本実施の形態では、上記のように、AFMで広く用いられるフォースカーブ測定を行っている。ただし、通常のフォースカーブ測定では、距離に対してデフレクションまたは加振振幅もしくは加振周波数をプロットするが、本実施の形態では、距離に対して熱振動スペクトル(に関する量)をプロットする、つまり、探針と試料表面間の距離を変化させながら各点におけるパワースペクトルを測定している。スペクトル面積は、図2Aおよび図2Bの実験例では、液中で3kHz程度の基本モードを有するカンチレバーを用いており、数100Hzから10kHzの間の適当な範囲の面積をとっている。ここで、共振周波数が低いカンチレバーを用いているのは、機能的な面で、カンチレバーとしてはできるだけ柔らかいものが良いと考えられるためである(しかし、測定速度の面では、共振周波数の高い方がよい)。
【0028】
上記のように、探針が試料表面と接触することは、何らかの物理量が変化するものと考えられる。本方法では、パワースペクトルの面積に変化が生じた点を、探針が試料表面に接触し始めた位置であると判断する。図2Aおよび図2Bの横軸は、探針と試料表面間の距離を示し、値が大きくなるほど相互に離れることを示している。図2Aでは、点線よりも右側の領域では熱振動スペクトルの面積はほぼ一定であるが、点線よりも左側の領域に入ると、急激に熱振動スペクトルの面積(共振周波数の周辺)が減少し始める。したがって、点線の位置が、熱振動により見積もられた接触位置である。一方、図2Bでは、カンチレバーの静的変位(デフレクション)について、図2Aにおいて熱振動スペクトルの面積が変化し始めた位置に相当する位置(点線で示す)では変化は起こらず、さらに約100nm押し付けた位置でカンチレバーの静的変位の急激な増加が見られる。これらの結果から、カンチレバーの熱振動を利用した表面位置計測方法(接触位置検出方法)は、カンチレバーの静的変位(デフレクション)を利用した表面位置計測方法よりも高感度であり、高精度であることがわかる。なお、図2Bにおいてデフレクションの急激な増加前にわずかにデフレクションの勾配があるのは、探針7と細胞3の間の遠隔的な相互作用による。
【0029】
なお、図2Aおよび図2Bでは、熱振動スペクトルの面積が変化し始めた位置、つまり、探針が試料表面と接触し始めた位置を、横軸の原点にしているが、もちろん、これに限定されない。横軸の原点は、探針と試料とが離れた任意の点であってもよい。
【0030】
また、本実施の形態では、カンチレバーのデフレクション信号をスペクトルに変換するようにしているが、その理由は次の通りである。
【0031】
カンチレバーのデフレクション信号には、カンチレバーの熱振動に関する情報のみならず装置などのノイズ(熱雑音)の情報も含まれるため、デフレクション信号をそのまま制御に用いるとSN比(signal-to-noise ratio)は良くない。そこで、本実施の形態では、デフレクション信号をスペクトルに変換して、カンチレバーの共振モードを抽出することにより、カンチレバーの熱振動の変化を効率的に精度良く計測するようにしている。デフレクション信号をスペクトルに変換すると、広い周波数範囲に対する振幅二乗値(スペクトル)が得られるが、このスペクトルの中から所定範囲の共振モードの周波数部分のみを抽出することにより、SN比が良い信号を得ることができる。
【0032】
以上のように、本発明は、探針と試料表面間の距離を変化させながら、熱振動スペクトルを高速に計測し、得られた熱振動スペクトルから基本モード成分(スペクトル面積)を抽出して、距離に対するスペクトル面積の変化を高速(リアルタイム)に計測することにより、接触位置を判断するものである。これにより、静的な力学計測と同じ条件である(つまり、強制振動させていない)にもかかわらず、敏感に接触位置を決定することができる。
【0033】
また、基本的には、AFMの通常の計測法(イメージング法)と同じ方法を用いることができるため、リアルタイムに計測を行うことができる。すなわち、本発明では、非接触のときにはスペクトル面積値(X)は一定に保たれるため、例えば、非接触時のスペクトル面積値をX、所定の変化量をΔXとし、X-ΔXの値をしきい値として設定しておき、スペクトル面積値がしきい値になった点を判断基準とすることで、接触位置をリアルタイムに判断することができる。
【0034】
図3は、本発明の一実施の形態に係る表面位置計測装置の構成を示すブロック図である。
【0035】
この表面位置計測装置100は、上記の計測原理に基づいて、細胞などの柔らかい試料の表面位置をも高精度に計測可能な装置であって、例えば、基板110、カンチレバー120、データ演算/制御装置130、モニタ140、スキャナ150、レーザ装置160、および光検出器170を有する。この表面位置計測装置100は、原子間力顕微鏡を想定している。
【0036】
基板110には、試料が載置される(図1参照)。試料は、細胞など非常に柔らかい試料であってもよい。基板110は、例えば、XY軸で規定される平面とする。
【0037】
カンチレバー120は、先端に、先端が尖った探針122を有する。探針122の先端が、試料表面と接触する接点となる。なお、図3に示す例では、カンチレバー120は固定されている。
【0038】
データ演算/制御装置130は、スキャナ150の駆動を制御する。具体的には、データ演算/制御装置130は、光検出器170が検出した情報を入力し、入力した情報からカンチレバー120のたわみ量(変位量)を読み取り、読み取ったたわみ量(変位量)に基づいてスキャナ150の駆動をフィードバック制御する。データ演算/制御装置130の構成は、後で詳述する。
【0039】
モニタ140は、データ演算/制御装置130から送られてくるデータをグラフの形式で画面に表示する。
【0040】
スキャナ150は、基板110を載置し、載置した基板110を精密に三次元走査する(具体的には、X軸、Y軸、Z軸の各方向に移動させる)。スキャナ150は、例えば、ピエゾ素子で構成されている。スキャナ150の駆動は、データ演算/制御装置130によって制御される。これにより、試料表面の走査(XY軸方向)と探針・試料表面間距離の制御(Z軸方向)とが行われる。
【0041】
レーザ装置160は、レーザ光をカンチレバー120の先端背面に照射する。カンチレバー120の先端背面に当たって反射したレーザ光は、光検出器170によって検出される。光検出器170は、検出した情報をデータ演算/制御装置130に出力する。すなわち、カンチレバー120のたわみ(変位)は、レバーの先端背面に当てられたレーザ光の反射角の変化を光検出器170で検出することによって得られる。図3において、レーザ光は、点線で示されている。
【0042】
図4は、データ演算/制御装置130の構成の一例を示すブロック図である。
【0043】
このデータ演算/制御装置130は、例えば、コンピュータで構成されており、所定のプログラムに従って、基板110上の試料の表面位置を自動的に計測する機能を有し、例えば、入力部180、FFT部182、スペクトル面積算出部184、位置評価部186、XY軸駆動部188、Z軸駆動部190、および制御部192を有する。
【0044】
入力部180は、制御された探針・試料表面間距離(つまり、Z軸方向の位置)ごとに、光検出器170が検出した情報をカンチレバー120の変位信号(デフレクション信号)として入力処理する。入力処理されたデフレクション信号は、FFT部182に出力される。
【0045】
FFT部182は、入力部180からのデフレクション信号をFFT処理してパワースペクトル(熱振動スペクトル)を取得する。得られた熱振動スペクトルのデータは、スペクトル面積算出部184に出力される。
【0046】
スペクトル面積算出部184は、FFT部182から熱振動スペクトルのデータを入力し、入力した熱振動スペクトルの中から所定範囲の共振モードの周波数部分のみを抽出する、つまり、所定範囲の共振周波数周辺の面積をとることにより、カンチレバー120の熱振動スペクトルの面積(スペクトル面積)を算出する。得られたスペクトル面積のデータは、位置評価部186に出力される。
【0047】
位置評価部186は、スペクトル面積算出部184からのスペクトル面積のデータおよび制御部192からの探針・試料表面間距離のデータならびにこれらの過去のデータの組を用いて、上記の計測原理に基づいて、試料の表面位置を評価する。具体的には、上記のように、熱振動スペクトルの面積が変化し始めた位置(Z軸方向)を、探針122が試料表面と接触し始めた位置、つまり、試料表面の位置であると評価する(図2A参照)。位置評価部186で評価に使用したデータは、グラフ表示可能な形式でモニタ140に出力される。
【0048】
XY軸駆動部188は、スキャナ150のX軸およびY軸を駆動する信号を出力する。この駆動信号を入力したスキャナ150は、試料表面をXY軸方向に走査する。なお、初期位置は、あらかじめ適当な位置に設定されている。
【0049】
Z軸駆動部190は、スキャナ150のZ軸を駆動する信号を出力する。この駆動信号を入力したスキャナ150は、試料表面をZ軸方向に走査する。すなわち、この駆動信号によって、カンチレバー120の探針122と基板110上の試料の表面との間の距離が制御される。なぜなら、本実施の形態では、上記のように、カンチレバー120が固定されているため、スキャナ150をZ軸方向に駆動することにより、探針122と試料表面との間の相対距離が変化することになるからである。なお、初期位置は、探針122と試料とが離れた適当な位置に設定されている。
【0050】
制御部192は、スキャナ150の三次元の現在位置(つまり、試料表面のXY軸方向の位置およびZ軸方向の位置)を把握しており、位置評価部186が評価した試料表面の位置情報に基づいて、スキャナ150の駆動をフィードバック制御する。
【0051】
次いで、上記構成を有する表面位置計測装置100の表面位置計測動作について、図5に示すフローチャートを用いて説明する。ここでは、データ演算/制御装置130の動作を中心に説明する。なお、図5に示すフローチャートは、データ演算/制御装置130の記憶装置(ROMなど:図示せず)に制御プログラムとして記憶されており、CPU(図示せず)によって実行される。
【0052】
まず、ステップS1000では、XY軸駆動部188で、スキャナ150をXY軸方向に駆動して、試料表面をXY軸方向に走査する。
【0053】
そして、ステップS1100では、Z軸駆動部190で、スキャナ150をZ軸方向に駆動して、探針122と試料表面との間の距離を制御する。
【0054】
そして、ステップS1200では、入力部180で、ステップS1100で制御した探針・試料表面間距離に対応して、光検出器170が検出した情報をカンチレバー120の変位信号(デフレクション信号)として入力処理する。
【0055】
そして、ステップS1300では、FFT部182で、ステップS1200で入力処理したデフレクション信号をFFT処理してパワースペクトル(熱振動スペクトル)を取得する。
【0056】
そして、ステップS1400では、スペクトル面積算出部184で、ステップS1300で取得した熱振動スペクトルを入力し、入力した熱振動スペクトルの中から所定範囲の共振モードの周波数部分のみを抽出することにより、カンチレバー120の熱振動スペクトルの面積(スペクトル面積)を算出する。
【0057】
そして、ステップS1500では、位置評価部186で、ステップS1400で算出したスペクトル面積およびステップS1100で制御した探針・試料表面間距離ならびにこれらの過去のデータの組を用いて、試料の表面位置を評価する。具体的には、熱振動スペクトルの面積が変化し始めた位置(Z軸方向)を、試料表面の位置であると評価する。
【0058】
そして、ステップS1600では、ステップS1500の評価結果がOKであるか否か、つまり、試料表面の位置を検出できたか否かを判断する。この判断の結果として、試料表面の位置を検出できた場合は(S1600:YES)、ステップS1700に進み、試料表面の位置を検出できなかった場合は(S1600:NO)、ステップS1100に戻って、探針122を試料に近づけて同様の測定を行う。
【0059】
ステップS1700では、試料に対する表面位置の計測が終了したか否かを判断する。具体的には、あらかじめXY軸方向の走査範囲を設定しておき、その走査範囲について走査を完了したか否かを判断する。この判断の結果として、表面位置の計測が終了した場合は(S1700:YES)、一連の処理を終了し、表面位置の計測が終了していない場合は(S1700:NO)、ステップS1000に戻って、試料表面をXY軸方向に走査して次の計測位置で同様の測定を行う。
【0060】
このように、本実施の形態によれば、カンチレバーの熱振動を利用して試料の表面位置を計測するため、柔らかい表面の位置を正確に、低侵襲で、かつ高速(リアルタイム)に計測することができる。
【0061】
したがって、熱振動測定スペクトルの形状が一定になるようにフィードバック信号として用いることにより、試料表面の正確な像を得ることができる(表面イメージング)。
【0062】
また、熱振動スペクトルの形状が一定になるようにフィードバックをかけることにより、探針と表面との間の相互作用を正確に計測することができる。
【0063】
また、細胞表面の位置を正確に計測することができるため、探針に取り付けた物を細胞などの中に挿入することができる。また、細胞に加える外場を精密に制御することもできる。さらに、細胞表面の揺らぎに関する物性を低侵襲で計測(スペクトル解析)することもできる。
【0064】
なお、本実施の形態では、熱振動スペクトルの面積を求める方法として、熱振動スペクトルを測定し、適当な所定範囲(共振周波数周辺)の面積をとることによって求めるようにしているが、これに限定されるわけではない。例えば、カンチレバーのデフレクション信号にバンドパスフィルタ(共振周波数付近)を施した信号を用いることも可能である。
【0065】
また、本実施の形態では、熱振動スペクトルの面積を求めるに当たり、基本モードの周波数周辺を抽出するようにしているが、これに限定されるわけではなく、高次の倍波成分を選択しまたは含めることも可能である。高次の倍波成分を選択しまたは含めることにより、さらに高感度な計測を行うことができる。なぜなら、熱振動スペクトルには基本モードや高次のモードが現れているが、高次のモードについても、探針が試料表面と接触することによる変化が現れると考えられるからである。
【0066】
また、本実施の形態では、熱振動の振幅を測定するようにしているが、これに限定されるわけではなく、熱振動を抑えるようなフィードバック(光圧力などによる方法)を行い、このフィードバック信号を計測する方法も考えられる。具体的には、一般にカンチレバーの変位の測定には光てこ法が用いられるが、光てこ法における光の強度を変化させることにより、カンチレバーに加える光の放射圧を変化させ、それにより、カンチレバーの熱振動の振幅を制御することができる。このとき、カンチレバーの熱振動を完全に静止させることも可能であり、この場合は、光の強度変化がカンチレバーの熱振動に相当することになる。
【0067】
また、本実施の形態では、スキャナ150のみをXYZ軸の方向に駆動することにより基板110上の試料を三次元的に移動させるようにしているが、これに限定されるわけではない。例えば、カンチレバーの位置を微調整するXYZ軸をスキャナと共に移動させる構成も可能である。また、スキャナをXY軸方向に移動させ、カンチレバーをZ軸方向に移動させることも可能である。
【0068】
また、本実施の形態では、プログラム(ソフトウエア)制御によって表面位置の計測処理を行う場合を例にとって説明したが、これに限定されるわけではなく、データ演算/制御装置の一部または全部を電子回路などで構成し、計測処理の一部または全部をハードウエア制御によって実現することも可能である。
【0069】
本明細書は、2005年1月6日出願の特願2005-001538に基づく。この内容はすべてここに含めておく。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係る表面位置計測方法および表面位置計測装置は、柔らかい表面の位置を正確に、低侵襲で、かつ高速(リアルタイム)に計測することができる表面位置計測方法および表面位置計測装置として有用である。
【0071】
特に、本発明は、細胞など非常に柔らかい試料、つまり、壊れやすく、大きく変形する試料に適している。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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