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明細書 :目的物質をミトコンドリア内に送達可能な脂質膜構造体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5067733号 (P5067733)
登録日 平成24年8月24日(2012.8.24)
発行日 平成24年11月7日(2012.11.7)
発明の名称または考案の名称 目的物質をミトコンドリア内に送達可能な脂質膜構造体
国際特許分類 A61K  47/24        (2006.01)
A61K  47/42        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61K   9/127       (2006.01)
FI A61K 47/24
A61K 47/42 ZNA
A61K 48/00
A61K 9/127
請求項の数または発明の数 6
全頁数 39
出願番号 特願2007-507194 (P2007-507194)
出願日 平成18年3月9日(2006.3.9)
国際出願番号 PCT/JP2006/304656
国際公開番号 WO2006/095837
国際公開日 平成18年9月14日(2006.9.14)
優先権出願番号 2005066385
優先日 平成17年3月9日(2005.3.9)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年3月9日(2009.3.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】山田 勇磨
【氏名】秋田 英万
【氏名】小暮 健太朗
【氏名】紙谷 浩之
【氏名】原島 秀吉
【氏名】菊池 寛
【氏名】小林 英夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100110766、【弁理士】、【氏名又は名称】佐川 慎悟
【識別番号】100133260、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 基子
【識別番号】100145126、【弁理士】、【氏名又は名称】金丸 清隆
【識別番号】100113332、【弁理士】、【氏名又は名称】一入 章夫
審査官 【審査官】高橋 樹理
参考文献・文献 特開2002-223768(JP,A)
特表2003-535832(JP,A)
国際公開第2005/032593(WO,A1)
SUZUKI, H. et al.,Journal of Cell Science,2002年,Vol.115,p.1895-1905
KOGURE, K. et al.,Journal of Controlled Release,2004年,Vol.98,p.317-323
GEROMEL, V. et al.,ANTISENSE & NUCLEIC ACID DRUG DEVELOPMENT,2001年,Vol.11,p.175-180
HENNING, W.D. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1988年,Vol.85,p.1432-1436
MAJUMDAR, R. et al.,Biochem. Cell Biol.,1990年,Vol.68,p.292-299
調査した分野 A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/48
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ジオレイルホスファチジルエタノールアミンとホスファチジン酸及び/又はスフィンゴミエリンとを脂質膜の構成脂質として含有し、かつ連続した4~20個のアルギニン残基からなるポリアルギニンペプチドを表面に有する脂質膜を備えることを特徴とする脂質膜構造体。
【請求項2】
ジオレイルホスファチジルエタノールアミンとホスファチジン酸及び/又はスフィンゴミエリンとの含有量が、前記脂質膜に含有される総脂質量の70% (モル比)以上であることを特徴とする請求項1記載の脂質膜構造体。
【請求項3】
前記脂質膜が下記(a)又は(b)に示すミトコンドリアターゲティングペプチドを表面に有することを特徴とする請求項1又は2記載の脂質膜構造体
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド。
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチド
【請求項4】
前記ミトコンドリアターゲティングペプチド直接又はリンカ一を介して前記脂質膜の構成成分に結合していることを特徴とする請求項3記載の脂質膜構造体。
【請求項5】
前記ミトコンドリアターゲティングペプチドのC末端前記脂質膜の構成成分に結合していることを特徴とする請求項記載の脂質膜構造体。
【請求項6】
前記ミトコンドリアターゲティングペプチドの量、前記脂質膜に含有される総脂質量の2~10% (モル比)であることを特徴とする請求項3からの何れかに記載の脂質膜構造体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質膜構造体、特に、目的物質をミトコンドリア内に送達可能な脂質膜構造体等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミトコンドリアへのタンパク質導入技術として、ミトコンドリアへの移行能を有するペプチド(例えば、Rat liver succinyl-CoA synthetase α等のミトコンドリアターゲティングシグナル(MTS))と目的のタンパク質との融合タンパク質を発現可能なベクターを細胞内に導入し、細胞内で融合タンパク質を発現させる方法が主に採用されてきた(非特許文献1,2,3)。しかしながら、ミトコンドリア膜の物質透過は非常に制限されており、オリゴヌクレオチド、プラスミドDNA等をミトコンドリア内へ送達する方法は皆無であった。
【0003】
一方、薬物、核酸、ペプチド、タンパク質、糖等を標的部位に確実に送達するためのベクターやキャリアーの開発が盛んに行われている。例えば、遺伝子治療においては、目的の遺伝子を標的細胞へ導入するためのベクターとして、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス等のウイルスベクターが開発されている。しかしながら、ウイルスベクターは、大量生産の困難性、抗原性、毒性等の問題があるため、このような問題点が少ないリポソームベクターやペプチドキャリアーが注目を集めている。リポソームベクターは、その表面に抗体、タンパク質、糖鎖等の機能性分子を導入することにより、標的部位に対する指向性を向上させることができるという利点も有している。
【0004】
最近、凝縮化DNA封入リポソームの表面をステアリル化オクタアルギニンで修飾することにより、凝縮化DNAの細胞導入効率が1000倍、凝縮化DNA封入リポソームの細胞への導入効率が100倍向上したことが報告されている(非特許文献4)。また、表面をステアリル化オクタアルギニンで修飾したリポソームは、原形を保った(インタクト(intact)な状態で)細胞内に導入できることが報告されている(特許文献1,非特許文献4,5)。

【特許文献1】国際公開WO2005/032593号パンフレット
【非特許文献1】B.W.Kong等,「Biochimica et Biophysica Acta」,2003年,1625巻,98-108頁
【非特許文献2】T.Tamura等,「Biochemical and Biophysical Research Communications」,1996年,222巻,659-63頁
【非特許文献3】K.Diekert等,「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」,1999年,96巻,11752-7頁
【非特許文献4】Kogure等,「Journal of Controlled Release」,2004年,98巻,317-323頁
【非特許文献5】カリル・イクラミ等,「YAKUGAKU ZASSHI」,2004年,124巻,Suppl.4,113-116頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ミトコンドリア内に目的物質を送達することができる脂質膜構造体、及び当該脂質膜構造体の調製に有用なリン脂質誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の脂質膜構造体は、膜融合性脂質を含有し、膜透過性ペプチドを有する脂質膜を備えることを特徴とする(請求項1参照)。膜融合性脂質を含有し、膜透過性ペプチドを有する脂質膜は、ミトコンドリア膜と効率よく融合することができる。したがって、ミトコンドリア内へ送達しようとする目的物質を保持している脂質膜構造体(請求項16参照)は、脂質膜とミトコンドリア膜との膜融合により目的物質をミトコンドリア内に放出させることができ、これにより、目的物質をミトコンドリア内に送達することができる。すなわち、本発明の脂質膜構造体は、目的物質のミトコンドリア内送達用ベクターとして使用することができる(請求項17参照)。
【0007】
本発明の脂質膜構造体において、前記膜融合性脂質の含有量が、前記脂質膜に含有される総脂質量の70%(モル比)以上であることが好ましい(請求項2参照)。膜融合性脂質の含有量を上記範囲とすることにより、脂質膜のミトコンドリア膜に対する融合能を向上させることができる。
【0008】
本発明の脂質膜構造体において、前記膜融合性脂質は、例えば、コーン型脂質であり(請求項3参照)、前記コーン型脂質は、例えば、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンである(請求項4参照)。
【0009】
本発明の脂質膜構造体において、前記膜透過性ペプチドは、例えば、膜透過性ドメインを有するペプチドであり(請求項5参照)、前記膜透過性ドメインは、好ましくはポリアルギニンであり(請求項6参照)、前記ポリアルギニンは、例えば、連続した4~20個のアルギニン残基からなる(請求項7参照)。膜透過性ドメインをポリアルギニンとすることにより、脂質膜のミトコンドリア膜に対する融合能を向上させることができる。また、膜透過性ドメインがポリアルギニンであると、本発明の脂質膜構造体は、原形を保ったまま(インタクト(intact)な状態で)細胞内に移行することができる。したがって、本発明の脂質膜構造体を細胞外に投与すると、本発明の脂質膜構造体は目的物質を保持したまま細胞内に移行し、脂質膜とミトコンドリア膜との膜融合により目的物質はミトコンドリア内に放出される。
【0010】
本発明の脂質膜構造体において、前記膜透過性ペプチドが前記脂質膜の表面に存在することが好ましい(請求項8参照)。膜透過性ペプチドを脂質膜の表面に存在させることにより、脂質膜のミトコンドリア膜に対する融合能を向上させることができる。
【0011】
本発明の脂質膜構造体において、前記脂質膜が、ミトコンドリアターゲティングシグナルを有することが好ましい(請求項9参照)。これにより、脂質膜のミトコンドリア膜に対する結合能を向上させることができる。
【0012】
本発明の脂質膜構造体において、前記ミトコンドリアターゲティングシグナルは、例えば、下記(a)又は(b)に示すペプチドである(請求項10参照)。
(a)配列番号1~31のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号1~31のいずれかに記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであって、ミトコンドリアへの移行能を有するペプチド
【0013】
本発明の脂質膜構造体において、前記ミトコンドリアターゲティングシグナルは、例えば、直接又はリンカーを介して前記脂質膜の構成成分に結合している(請求項11参照)。この場合、前記ミトコンドリアターゲティングシグナルのC末端が前記脂質膜の構成成分に結合していることが好ましい(請求項12参照)。これにより、ミトコンドリアターゲティングシグナルの機能(ミトコンドリアへの移行能)を効率よく発揮させることができる。
【0014】
本発明の脂質膜構造体において、前記ミトコンドリアターゲティングシグナルが前記脂質膜の表面に存在することが好ましい(請求項13参照)。これにより、脂質膜のミトコンドリア膜に対する結合能を向上させることができる。
【0015】
本発明の脂質膜構造体において、前記ミトコンドリアターゲティングシグナルの量が、前記脂質膜に含有される総脂質量の2~10%(モル比)であることが好ましい(請求項14参照)。これにより、脂質膜のミトコンドリア膜に対する結合能を向上させることができる。
【0016】
本発明の脂質膜構造体はリポソームであることが好ましい(請求項15参照)。本発明の脂質膜構造体がリポソームである場合、本発明の脂質膜構造体の内部に目的物質を封入することにより、目的物質をミトコンドリア内に効率よく送達することができる。
【0017】
上記課題を解決するために、本発明は、次式:A-X-B[式中、Aはミトコンドリアターゲティングシグナルの残基を表し、Xは直接結合又はリンカーを表し、Bはリン脂質の残基を表す。]で表されることを特徴とするリン脂質誘導体を提供する(請求項18参照。)本発明のリン脂質誘導体は、脂質膜構造体をミトコンドリアターゲティングシグナルで修飾する(例えば、リポソーム表面をミトコンドリアターゲティングシグナルで修飾する)際に有用である。
【0018】
本発明のリン脂質誘導体において、前記ミトコンドリアターゲティングシグナルのC末端が、直接又はリンカーを介してリン脂質に結合していることが好ましい(請求項19参照)。これにより、ミトコンドリアターゲティングシグナルの機能(ミトコンドリアへの移行能)を効率よく発揮させることができる。
【0019】
本発明のリン脂質誘導体において、前記ミトコンドリアターゲティングシグナルは、例えば、下記(a)又は(b)に示すペプチドである(請求項20参照)。
(a)配列番号1~31のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号1~31のいずれかに記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであって、ミトコンドリアへの移行能を有するペプチド
【0020】
本発明のリン脂質誘導体において、前記リンカーは、例えば、アミノ酸残基、リンカーペプチドの残基又はクロスリンカー試薬の残基である(請求項21参照)。
【0021】
本発明のリン脂質誘導体において、例えば、前記リン脂質がアミノ基を有し、前記リン脂質が前記アミノ基を介して前記ミトコンドリアターゲティングシグナル又は前記リンカーに結合している(請求項22参照)。
本発明のリン脂質誘導体において、例えば、前記リン脂質はホスファチジルエタノールアミン類である(請求項23参照)。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、ミトコンドリア内に目的物質を送達することができる脂質膜構造体、及び当該脂質膜構造体の調製に有用なリン脂質誘導体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の脂質膜構造体の実施形態を模式的に示す一部断面図である。
【図2】EPC系リポソームのミトコンドリア膜に対する結合活性(%)を示す図である。
【図3】DOPE系リポソームミトコンドリア膜に対する結合活性(%)を示す図である。
【図4】EPC系リポソームのミトコンドリア膜に対する融合活性(FRET解消率(%))を示す図である。
【図5】DOPE系リポソームミトコンドリア膜に対する融合活性(FRET解消率(%))を示す図である。
【図6】共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を示す図である。
【図7】ウエスタンブロットの結果を示す図である。
【図8】共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を示す図である。
【図9】共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を示す図である。
【図10】SMCC-DOPEの合成スキームを示す図である。
【図11】HPLCの結果を示す図である。
【図12】FAB-MSの結果を示す図である。
【図13】MTS-DOPEの合成スキームを示す図である。
【図14】HPLCの結果を示す図である。
【図15】MALDI-TOF-MSの結果を示す図である。
【図16】リポソームのミトコンドリアへの移行活性を示す図である。
【図17】共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を示す図である。
【図18】共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1a,1b,1c,1d・・・リポソーム
2a,21~22b,21~22c,21~23d・・・脂質膜
3・・・目的物質
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の脂質膜構造体について詳細に説明する。なお、「膜融合性脂質を含有し、膜透過性ペプチドを有する脂質膜」を以下「ミトコンドリア膜融合性脂質膜」という。
【0026】
本発明の脂質膜構造体は、ミトコンドリア膜融合性脂質膜を有する限り、リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル、不定形の層状構造物等のうち、いずれの構造体であってもよいが、リポソームであることが好ましい。本発明の脂質膜構造体がリポソームである場合、本発明の脂質膜構造体の内部に目的物質を封入することにより、目的物質をミトコンドリア内に効率よく送達することができる。
【0027】
本発明の脂質膜構造体がリポソームである場合、多重膜リポソーム(MLV:Multi lamellar vesicle)であってもよいし、SUV(small unilamellar vesicle)、LUV(large unilamellar vesicle)、GUV(giant unilamellar vesicle)等の1枚膜リポソームであってもよい。
【0028】
本発明の脂質膜構造体が有するミトコンドリア膜融合性脂質膜の数は特に限定されるものではなく、本発明の脂質膜構造体が複数の脂質膜を有する場合、全ての脂質膜がミトコンドリア膜融合性脂質膜であってもよいし、一部の脂質膜がミトコンドリア膜融合性脂質膜であってもよい。
【0029】
本発明の脂質膜構造体のサイズは特に限定されるものではないが、本発明の脂質膜構造体がリポソーム又はエマルションの場合、粒子径は通常50nm~5μmであり、球状ミセルの場合、粒子径は通常5~100nmであり、ひも状ミセル又は不定形の層状構造物の場合、1層あたりの厚みは通常5~10nmであり、このような複数の層が積層していることが好ましい。
【0030】
本発明の脂質膜構造体において、脂質膜(ミトコンドリア膜融合性脂質膜であるか否かを問わない)の構成成分としては、例えば、脂質、膜安定化剤、抗酸化剤、荷電物質、膜タンパク質等が挙げられる。
【0031】
脂質は脂質膜の必須の構成成分であり、脂質膜に含有される脂質量は、脂質膜を構成する総物質量の通常70%(モル比)以上、好ましくは75%(モル比)以上、さらに好ましくは80%(モル比)以上である。なお、脂質膜に含有される脂質量の上限値は、脂質膜を構成する総物質量の100%である。
【0032】
脂質としては、例えば、以下に例示するリン脂質、糖脂質、ステロール、飽和又は不飽和の脂肪酸等が挙げられる。
[リン脂質]
ホスファチジルコリン(例えば、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン等)、ホスファチジルグリセロール(例えば、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジグリセロール等)、ホスファチジルエタノールアミン(例えば、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジエタノールアミン等)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、セラミドホスホリルグリセロールホスファート、1,2-ジミリストイル-1,2-デオキシホスファチジルコリン、プラスマロゲン、卵黄レシチン、大豆レシチン、これらの水素添加物等。
【0033】
[糖脂質]
グリセロ糖脂質(例えば、スルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド)、スフィンゴ糖脂質(例えば、ガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド、ガングリオシド)等。
【0034】
[ステロール]
動物由来のステロール(例えば、コレステロール、コレステロールコハク酸、コレスタノール、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール)、植物由来のステロール(フィトステロール)(例えば、スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール)、微生物由来のステロール(例えば、チモステロール、エルゴステロール)等。
【0035】
[飽和又は不飽和の脂肪酸]
パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、ミリスチン酸等の炭素数12~20の飽和又は不飽和の脂肪酸等。
【0036】
膜安定化剤は、脂質膜を物理的又は化学的に安定させたり、脂質膜の流動性を調節したりするために含有させることができる、脂質膜の任意の構成成分であり、脂質膜に含有される膜安定化剤量は、脂質膜を構成する総物質量の通常30%(モル比)以下、好ましくは25%(モル比)以下、さらに好ましくは20%(モル比)以下である。なお、膜安定化剤の含有量の下限値は0である。
【0037】
膜安定化剤としては、例えば、ステロール、グリセリン又はその脂肪酸エステル等が挙げられる。ステロールとしては、上記と同様の具体例が挙げられ、グリセリンの脂肪酸エステルとしては、例えば、トリオレイン、トリオクタノイン等が挙げられる。
【0038】
抗酸化剤は、脂質膜の酸化を防止するために含有させることができる、脂質膜の任意の構成成分であり、脂質膜に含有される抗酸化剤量は、脂質膜を構成する総物質量の通常30%(モル比)以下、好ましくは25%(モル比)以下、さらに好ましくは20%(モル比)以下である。なお、抗酸化剤の含有量の下限値は0である。
【0039】
抗酸化剤としては、例えば、トコフェロール、没食子酸プロピル、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシトルエン等が挙げられる。
【0040】
荷電物質は、脂質膜に正荷電又は負荷電を付与するために含有させることができる、脂質膜の任意の構成成分であり、脂質膜に含有される荷電物質量は、脂質膜を構成する総物質量の通常30%(モル比)以下、好ましくは25%(モル比)以下、さらに好ましくは20%(モル比)以下である。なお、荷電物質の含有量の下限値は0である。
【0041】
正荷電を付与する荷電物質としては、例えば、ステアリルアミン、オレイルアミン等の飽和又は不飽和脂肪族アミン;ジオレオイルトリメチルアンモニウムプロパン等の飽和又は不飽和カチオン性合成脂質等が挙げられ、負電荷を付与する荷電物質としては、例えば、ジセチルホスフェート、コレステリルヘミスクシネート、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸等が挙げられる。
【0042】
膜タンパク質は、脂質膜の構造を維持したり、脂質膜に機能性を付与したりするために含有させることができる、脂質膜の任意の構成成分であり、脂質膜に含有される膜タンパク質量は、脂質膜を構成する総物質量の通常10%(モル比)以下、好ましくは5%(モル比)以下、さらに好ましくは2%(モル比)以下である。なお、膜タンパク質の含有量の下限値は0である。
【0043】
膜タンパク質としては、例えば、膜表在性タンパク質、膜内在性タンパク質等が挙げられる。
【0044】
本発明の脂質膜構造体において、脂質膜(ミトコンドリア膜融合性脂質膜であるか否かを問わない)を構成する脂質として、例えば、血中滞留性機能、温度変化感受性機能、pH感受性機能等を有する脂質誘導体を使用することができる。これにより、上記機能のうち1種又は2種以上の機能を脂質膜構造体に付与することができる。脂質膜構造体に血中滞留性機能を付与することにより、脂質膜構造体の血液中での滞留性を向上させ、肝臓、脾臓等の細網内皮系組織による捕捉率を低下させることができる。また、脂質膜構造体に温度変化感受性機能及び/又はpH感受性機能を付与することにより、脂質膜構造体に保持された目的物質の放出性を高めることができる。
【0045】
血中滞留性機能を付与することができる血中滞留性脂質誘導体としては、例えば、グリコフォリン、ガングリオシドGM1、ホスファチジルイノシトール、ガングリオシドGM3、グルクロン酸誘導体、グルタミン酸誘導体、ポリグリセリンリン脂質誘導体、N-{カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000}-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-{カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000}-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-{カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-750}-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-{カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000}-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-{カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000}-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン等のポリエチレングリコール誘導体等が挙げられる。
【0046】
温度変化感受性機能を付与することができる温度変化感受性脂質誘導体としては、例えば、ジパルミトイルホスファチジルコリン等が挙げられ、pH感受性機能を付与することができるpH感受性脂質誘導体としては、例えば、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン等が挙げられる。
【0047】
本発明の脂質膜構造体には、標的とするミトコンドリアを含有する細胞、当該細胞が分泌する酵素等を特異的に認識する抗体を保持させることができる。抗体としては、モノクローナル抗体を使用することが好ましく、モノクローナル抗体としては、単一のエピトープに対して特異性を有する1種のモノクローナル抗体を使用してもよいし、各種エピトープに対して特異性を有する2種以上のモノクローナル抗体を組み合わせて使用してもよい。また、抗体としては、1価抗体又は多価抗体のいずれを使用してもよいし、天然型(intact)分子又はそのフラグメント若しくは誘導体のいずれを使用してもよく、例えば、F(ab’)、Fab’、Fab、少なくとも二つの抗原又はエピトープ(epitope)結合部位を有するキメラ抗体若しくは雑種抗体、又はクワドローム(quadrome)、トリオーム(triome)等の二重特異性組換え抗体、種間雑種抗体、抗イディオタイプ抗体、さらには化学的に修飾、加工等が施された誘導体を使用することができる。また、公知の細胞融合、ハイブリドーマ技術、抗体工学等を適用し、合成又は半合成技術によって得られる抗体、抗体生成の観点から公知である従来技術を適用し、DNA組換え技術によって得られる抗体、あるいは標的エピトープに対して中和特性を有する抗体又は結合特性を有する抗体等を使用することができる。
【0048】
ミトコンドリア膜融合性脂質膜は、その構成成分として膜融合性脂質を含有する。ミトコンドリア膜融合性脂質膜に含有される膜融合性脂質量は特に限定されるものではないが、ミトコンドリア膜融合性脂質膜に含有される総脂質量の通常70%(モル比)以上、好ましくは75%(モル比)以上、さらに好ましくは80%(モル比)以上である。ミトコンドリア膜融合性脂質膜に含有される膜融合性脂質量を上記範囲とすることにより、ミトコンドリア膜融合性脂質膜のミトコンドリア膜に対する融合能を向上させることができる。なお、ミトコンドリア膜融合性脂質膜に含有される膜融合性脂質量の上限値は、ミトコンドリア膜融合性脂質膜に含有される総脂質量の100%である。
【0049】
ミトコンドリア膜融合性脂質膜に含有される膜融合性脂質は、脂質膜と融合可能である限り特に限定されるものではない。膜融合性脂質が融合可能である脂質膜は、脂質二重層構造を有する限り特に限定されるものではなく、例えば、細胞膜、ミトコンドリア膜等の生体膜、リポソーム膜等の人工膜が挙げられる。膜融合性脂質としては、例えば、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン等のコーン型脂質が挙げられる。なお、脂質は、極性基と非極性基の占める割合に従って、コーン(cone)型、シリンダー(cylindrical)型、逆コーン(inverted cone)型の3種類に大別され、そのうち、コーン型脂質は、疎水性基が親水性基に比べて大きな容積を占める脂質であり、非二重層脂質(nonbilayer lipid)とも称される(奥直人著,リポソームの作成と実験法,27-33頁,広川書店)。脂質二重層中でコーン型脂質が逆ヘキサゴナル構造をとることにより、脂質二重層中に逆ミセル構造が形成され、形成された逆ミセル構造は、膜融合、膜の透過性等に関与すると考えられている。
【0050】
ミトコンドリア膜融合性脂質膜は、膜透過性ペプチドを有する。膜透過性ペプチドは、ミトコンドリア膜と結合可能な状態でミトコンドリア膜融合性脂質膜に存在し、好ましくはミトコンドリア膜融合性脂質膜の表面に存在する。膜透過性ペプチドをミトコンドリア膜融合性脂質膜の表面に存在させることにより、ミトコンドリア膜融合性脂質膜のミトコンドリア膜に対する融合能が向上させることができる。
【0051】
膜透過性ペプチドがミトコンドリア膜融合性脂質膜の表面に存在する場合、少なくともミトコンドリア膜融合性脂質膜の外表面に膜透過性ペプチドが存在すればよく、内表面には膜透過性ペプチドが存在していてもよいし存在していなくてもよい。
【0052】
ミトコンドリア膜融合性脂質膜が有する膜透過性ペプチドは、脂質膜を透過可能である限り特に限定されるものではない。膜透過性ペプチドが透過可能である脂質膜は、脂質二重層構造を有する限り特に限定されるものではなく、例えば、細胞膜、ミトコンドリア膜等の生体膜、リポソーム膜等の人工膜が挙げられる。膜透過性ペプチドとしては、例えば、膜透過性ドメイン(Protein Transduction Domain(PTD))を有するペプチドが挙げられる。膜透過性ドメインとしては、例えば、ポリアルギニン、HIV-1由来のTat(48-60)(GRKKRRQRRRPPQ)、HIV-1由来のRev(34-50)(TRQARRNRRRRWRERQR)等が挙げられる。これらの膜透過性ドメインは、アルギニン残基に富んでおり、負電荷を有するミトコンドリア膜と静電的に相互作用することができる。
【0053】
膜透過性ドメインを有するペプチドを構成するアミノ酸残基の総数は特に限定されるものではないが、通常4~50個、好ましくは6~45個、さらに好ましくは7~40個である。膜透過性ドメインを構成するアミノ酸残基の総数は特に限定されるものではないが、通常4~40個、好ましくは6~30個、さらに好ましくは7~20個である。膜透過性ドメインとしてのポリアルギニンは、通常4~20個、好ましくは6~12個、さらに好ましくは7~10個の連続したアルギニン残基からなる。
【0054】
膜透過性ドメインを有するペプチドは、膜透過性ドメインのみからなっていてもよいし、膜透過性ドメインのC末端及び/又はN末端に任意のアミノ酸配列を有していてもよい。膜透過性ドメインのC末端及び/又はN末端に付加されるアミノ酸配列は、剛直性を有するアミノ酸配列(例えば、ポリプロリン)であることが好ましい。ポリプロリンは、柔らかくて不規則な形をとっているポリエチレングリコール(PEG)と異なり、直線的で、ある程度の堅さを保持している。また、膜透過性ドメインのC末端及び/又はN末端に付加されるアミノ酸配列に含まれるアミノ酸残基は酸性アミノ酸以外のアミノ酸残基であることが好ましい。負電荷を有する酸性アミノ酸残基が、正電荷を有するアルギニン残基と静電的に相互作用し、膜透過性ドメインに含まれるアルギニン残基の効果を減弱させる可能性があるためである。
【0055】
ミトコンドリア膜融合性脂質膜に存在する膜透過性ペプチド量は、ミトコンドリア膜融合性脂質膜に含有される総脂質量の通常4~20%(モル比)、好ましくは6~16%(モル比)、さらに好ましくは8~12%(モル比)である。ミトコンドリア膜融合性脂質膜に存在する膜透過性ペプチド量を上記範囲とすることにより、ミトコンドリア膜融合性脂質膜のミトコンドリア膜に対する結合能を向上させることができ、ミトコンドリア膜融合性脂質膜とミトコンドリア膜との結合を契機として、ミトコンドリア膜融合性脂質膜とミトコンドリア膜との膜融合を効率よく誘起することができる。
【0056】
ミトコンドリア膜融合性脂質膜における膜透過性ペプチドの存在態様としては、例えば、膜透過性ペプチドが脂質膜構成成分(例えば、疎水性基、疎水性化合物等)に結合しており、脂質膜構成成分がミトコンドリア膜融合性脂質膜内に保持され、膜透過性ペプチドの一部又は全部がミトコンドリア膜融合性脂質膜から露出している態様が挙げられる。
【0057】
膜透過性ペプチドが結合する脂質膜構成成分は特に限定されるものではなく、例えば、ステアリル基等の飽和又は不飽和の脂肪酸基;コレステロール基又はその誘導体;リン脂質、糖脂質又はステロール;長鎖脂肪族アルコール(例えば、ホスファチジルエタノールアミン、コレステロール等);ポリオキシプロピレンアルキル;グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられるが、これらのうち特に炭素数10~20の脂肪酸基(例えば、パルミトイル基、オレイル基、ステアリル基、アラキドイル基等)が好ましい。
【0058】
ミトコンドリア膜融合性脂質膜はミトコンドリアターゲディングシグナル(MTS)を有することが好ましい。これにより、ミトコンドリア膜融合性脂質膜のミトコンドリア膜に対する結合能を向上させることができ、ミトコンドリア膜融合性脂質膜とミトコンドリア膜との結合を契機として、ミトコンドリア膜融合性脂質膜とミトコンドリア膜との膜融合を効率よく誘起することができる。
【0059】
MTSは、ミトコンドリアへの移行能を発揮し得る状態でミトコンドリア膜融合性脂質膜に存在し、好ましくはミトコンドリア膜融合性脂質膜の表面に存在する(すなわち、ミトコンドリア膜融合性脂質膜の表面から露出した状態で存在する)。MTSをミトコンドリア膜融合性脂質膜の表面に存在させることにより、ミトコンドリア膜融合性脂質膜のミトコンドリア膜に対する結合能を向上させることができる。MTSがミトコンドリア膜融合性脂質膜の表面に存在する場合、少なくともミトコンドリア膜融合性脂質膜の外表面にMTSが存在すればよく、内表面にはMTSが存在していてもよいし存在していなくてもよい。
【0060】
ミトコンドリア膜融合性脂質膜は、1種類のみのMTSを有していてもよいし、2種類以上のMTSを有していてもよい。ミトコンドリア膜融合性脂質膜が有するMTS量は特に限定されるものではないが、ミトコンドリア膜融合性脂質膜に含有される総脂質量の通常2~10%(モル比)、好ましくは3~8%(モル比)、さらに好ましくは4~6%(モル比)である。ミトコンドリア膜融合性脂質膜に存在するMTS量を上記範囲とすることにより、ミトコンドリア膜融合性脂質膜のミトコンドリア膜に対する結合能を向上させることができ、ミトコンドリア膜融合性脂質膜とミトコンドリア膜との結合を契機として、ミトコンドリア膜融合性脂質膜とミトコンドリア膜との膜融合を効率よく誘起することができる。
【0061】
MTSはシグナルペプチドであり、多くのものが既に知られ、その種類は特に限定されるものではない。本発明においては、MTSの機能が保持されている限り、いかなるペプチドも使用することができ、公知のMTSをそのまま使用してもよいし、公知のMTSに変異(1又は複数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加)を加えたものを使用してもよい。MTSは通常20~70個のアミノ酸残基からなり、MTSには、ミトコンドリア外膜、ミトコンドリア内膜、ミトコンドリア膜間腔、ミトコンドリアマトリックス等のミトコンドリア内の様々な領域への移行能を有するものが含まれるが、本発明においてはいずれのMTSを使用してもよい。
【0062】
MTSとしては、例えば、下記(a)又は(b)に示すペプチドが挙げられる。
(a)配列番号1~31のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号1~31のいずれかに記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであって、ミトコンドリアへの移行能を有するペプチド
【0063】
配列番号1記載のアミノ酸配列からなるペプチドは、ラット肝臓由来のスクシニルCoAシンテターゼのMTSのC末端側の数残基が欠失したものである。
【0064】
MTS(例えば配列番号1~31記載のアミノ酸配列)のアミノ酸配列において欠失、置換、挿入又は付加されるアミノ酸の個数は、MTSの機能が保持される限り特に限定されるものではないが、通常1~3個、好ましくは1~2個である。
【0065】
MTS(例えば配列番号1~31記載のアミノ酸配列)のアミノ酸配列において欠失、置換、挿入又は付加されるアミノ酸の位置は、MTSの機能が保持される限り特に限定されるものではないが、C末端側であること(すなわち、N末端側のアミノ酸配列が保存されること)が好ましい。
【0066】
MTSを有するタンパク質がミトコンドリアに送達された後、MTSはタンパク質から切断されるが、厳密にどの領域がMTSとしての機能を果たすか明確になっていない場合もある。この場合、タンパク質の切断部位よりもN末端側に位置する領域を含むペプチドをMTSとして使用することができる。MTSとして使用するペプチドが、タンパク質の切断部位よりもC末端側に位置する領域を含む場合、欠失、置換、挿入又は付加されるアミノ酸の位置は、タンパク質の切断部位よりもC末端側である(すなわち、タンパク質の切断部位よりもN末端側のアミノ酸配列は保存される)ことが好ましい。
【0067】
ミトコンドリア膜融合性脂質膜に対するMTSの結合態様は特に限定されるものではなく、例えば、MTSは脂質膜構成成分に直接又はリンカーを介して結合する。MTSのいずれの部分が脂質膜構成成分と結合してもよいが、C末端が脂質膜構成成分と結合することが好ましい。これにより、MTSの機能(ミトコンドリアへの移行能)を効率よく発揮させることができる。
【0068】
MTSが直接又はリンカーを介して結合する脂質膜構成成分は特に限定されるものではないが、脂質であることが好ましく、リン脂質であることがさらに好ましい。MTSが直接又はリンカーを介して結合する脂質膜構成成分が脂質、特にリン脂質であると、MTSを安定かつ簡便に脂質膜表面に提示することができるとともに、脂質膜表面に提示されるMTSの密度をコントロールしやすい。
【0069】
MTSが直接又はリンカーを介して結合する脂質としては、例えば、炭素数10~20の飽和又は不飽和の脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等)の残基(アシル基)を1個又は2個以上有する脂質が挙げられ、具体的には、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファチジルコリン類、ホスファチジルセリン類、ホスファチジルイノシトール類、ホスファチジルグリセロール類、カルジオリピン類、スフィンゴミエリン類、セラミドホスホリルエタノールアミン類、セラミドホスホリルグリセロール類、セラミドホスホリルグリセロールホスファート類、デオキシホスファチジルコリン類、プラスマロゲン類やホスファチジン酸類、これらの誘導体等が挙げられる。これらのうち、後述するように、アミノ基を有する脂質が好適に使用され、アミノ基を有する脂質としては、例えば、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、オクタデセニルオクタデカノイルグリセロホスフォエタノールアミン、ジオレオイルグリセロホスフォエタノールアミン-(N-ドデカニルアミン)、ジオレオイルグリセロホスフォエタノールアミン-(N-ヘキサノイルアミン)、ジパルミトイルグリセロホスフォエタノールアミン-(N-ドデカニルアミン)、ジパルミトイルグリセロホスフォエタノールアミン-(N-ヘキサノイルアミン)、ジステアロイルグリセロホスフォエタノールアミン-[N-アミノ(ポリエチレングリコール)2000]、ステアロイル-アラキドノイル-グリセロ[ホスフォ-L-セリン]、オクタデシル-アセチル-グリセロホスフォエタノールアミン、アルカエチジルエタノールアミン、ヒドロキシアルカエチジルエタノールアミン、サイクリックアルカエチジルエタノールアミン、カルダルカエチジルエタノールアミン等が挙げられる。なお、脂質には、塩の形態のものも含まれる。塩の種類は特に限定されるものではないが、塩酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩;シュウ酸塩、酒石酸塩等の有機酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;アンモニウム塩等の有機塩基等が挙げられる。
【0070】
MTSと脂質膜構成成分とを直接結合させる場合、MTSが有する官能基(MTSに人為的に導入された官能基を含む。)と、脂質膜構成成分が有する官能基(脂質膜構成成分に人為的に導入された官能基を含む。)とを反応させる。これによりMTSと脂質膜構成成分とは共有結合を介して結合する。共有結合を形成できる官能基の組み合わせとしては、例えば、アミノ基/カルボキシル基、水酸基/カルボキシル基、マレイミド基/SH基等が挙げられ、これらの官能基同士の反応は公知の方法に従って行うことができる。
【0071】
例えば、MTSと、アミノ基を有する脂質膜構成成分とは、MTSがC末端に有するカルボキシル基と、脂質膜構成成分が有するアミノ基とを反応させてアミド結合を形成させることにより、直接結合させることができる。この反応は、酸ハライド法、活性エステル化法等を利用して行うことができる。
【0072】
酸ハライド法では、不活性溶媒中でMTSをハロゲン化剤で処理して酸ハライドとした後、得られた酸ハライドと脂質膜構成成分のアミノ基と反応させる。ハロゲン化剤としては、例えば、チオニルクロリド、チオニルブロミドのようなチオニルハライド類、スルフリルクロリド、スルフリルブロミド等のスルフリルハライド類;三塩化燐、三臭化燐、三沃化燐等の三ハロゲン化燐類;五塩化燐、五臭化燐、五沃化燐等の五ハロゲン化燐類;オキシ塩化燐、オキシ臭化燐、オキシ沃化燐等のオキシハロゲン化燐類等を使用することができる。反応溶媒は、適宜検討して決めればよいが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;アセトニトリル等のニトリル類;ギ酸エチルエステル、酢酸エチルエステル等のエステル類、これらの混合溶媒等を使用することができる。反応温度は、適宜検討すればよいが、通常0℃~溶媒の還流温度であり、好ましくは室温~溶媒の還流温度である。酸ハライドとリン脂質のアミノ基との反応では、必要に応じて、トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基を添加してもよい。
【0073】
活性エステル化法では、溶媒中でMTSのカルボキシル基を活性エステル化剤と反応させて活性エステルとした後、脂質膜構成成分のアミノ基と反応させる。活性エステル化剤としては、例えば、N-ヒドロキシスクシイミド、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド等のN-ヒドロキシ化合物類;1,1’-オキザリルジイミダゾール、N,N’-カルボニルジイミダゾール等のジイミダゾール類;2,2’-ジピリジルジサルファイド等のジサルファイド類;N,N’-ジスクシンイミジルカーボネート等のコハク酸化合物類;N,N’-ビス(2-オキソ-3-オキサゾリジニル)ホスフィニッククロライド等のホスフィニッククロライド化合物類;N,N’-ジスクシンイミジルオキザレート、N,N’-ジフタルイミドオキザレート、N,N’-ビス(ノルボルネニルスクシンイミジル)オキザレート、1,1’-ビス(ベンゾトリアゾリル)オキザレート、1,1’-ビス(6-クロロベンゾトリアゾリル)オキザレート、1,1’-ビス(6-トリフルオロメチルベンゾトリアゾリル)オキザレートのようなオキザレート化合物類等を使用することができる。反応溶媒は、適宜検討して決めればよいが、例えば、メチレンクロリド、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチルエステル等のエステル類、これらの混合溶媒等を使用することができる。得られた活性エステルと脂質膜構成成分のアミノ基との反応は、縮合剤、例えば、アソジカルボン酸ジエチル-トリフェニルホスフィン等のアゾジカルボン酸ジ低級アルキル-トリフェニルホスフィン類;N-エチル-5-フェニルイソオキサゾリウム-3’-スルホナート等のN-低級アルキル-5-アリールイソオキサゾリウム-3’-スルホナート類;ジエチルオキシジフォルメート等のオキシジフォルメート類;N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド等のN,N’-ジシクロアルキルカルボジイミド類;ジ-2-ピリジルジセレニド等のジヘテロアリールジセレニド類;トリフェニルホスフィン等のトリアリールホスフィン類;p-ニトロベンゼンスルホニルトリアゾリド等のアリールスルホニルトリアゾリド類;2-クロル-1-メチルピリジニウムヨーダイド等の2-ハロ-1-低級アルキルピリジニウムハライド類;ジフェニルホスホリルアジド等のジアリールホスホリルアジド類;N,N’-カルボジイミダゾール等のイミダゾール誘導体;1-ヒドロキシベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール誘導体;N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド等のジカルボキシイミド誘導体;1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド等のカルボジイミド誘導体;1-プロパンホスホン酸環状無水物等のホスホン酸環状無水物類等の存在下で行えばよい。反応温度は、適宜検討すればよいが、室温付近が好ましい。
【0074】
MTSと脂質膜構成成分とをリンカーを介して結合させる場合、脂質膜構成成分が有する官能基(脂質膜構成成分に人為的に導入された官能基を含む。)と、リンカーが有する官能基(リンカーに人為的に導入された官能基を含む。)とを反応させるとともに、MTSが有する官能基(MTSに人為的に導入された官能基を含む。)と、リンカーが有する官能基(リンカーに人為的に導入された官能基を含む。)とを反応させる。これにより、脂質膜構成成分とリンカーとが共有結合を介して結合するとともに、MTSとリンカーとが共有結合を介して結合する。共有結合を形成できる官能基の組み合わせとしては、例えば、アミノ基/カルボキシル基、水酸基/カルボキシル基、マレイミド基/SH基等が挙げられ、これらの官能基同士の反応は公知の方法に従って行うことができる。MTSと脂質膜構成成分とをリンカーを介して結合させる場合、脂質膜構成成分とリンカーとを反応させた後、MTSを反応させてもよいし、MTSとリンカーとを反応させた後、脂質膜構成成分を反応させてもよい。
【0075】
リンカーとしては、例えば、アミノ酸残基、リンカーペプチド、多価(例えば2価)のクロスリンカー試薬等が挙げられる。
【0076】
リンカーペプチドを構成するアミノ酸残基の個数は特に限定されるものではないが、通常2~10個、好ましくは2~8個である。リンカーペプチドのアミノ酸配列は任意のアミノ酸配列でよいが、リンカーペプチドのアミノ酸配列に含まれるアミノ酸残基は酸性アミノ酸以外のアミノ酸残基であることが好ましい。負電荷を有する酸性アミノ酸残基が、正電荷を有するアルギニン残基と静電的に相互作用し、膜透過性ドメインに含まれるアルギニン残基の効果を減弱させる可能性があるためである。
【0077】
多価のクロスリンカー試薬は特に限定されるものではないが、例えば、アミノ基及びSH基との反応指向性を有する2価のクロスリンカー試薬が挙げられ、アミノ基及びSH基との反応指向性を有する2価のクロスリンカー試薬としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【0078】
【化1】
JP0005067733B2_000002t.gif

【0079】
【化2】
JP0005067733B2_000003t.gif

【0080】
【化3】
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【0081】
【化4】
JP0005067733B2_000005t.gif

【0082】
【化5】
JP0005067733B2_000006t.gif

【0083】
【化6】
JP0005067733B2_000007t.gif

【0084】
【化7】
JP0005067733B2_000008t.gif

【0085】
【化8】
JP0005067733B2_000009t.gif

【0086】
【化9】
JP0005067733B2_000010t.gif

【0087】
【化10】
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【0088】
多価のクロスリンカー試薬は、例えば、MTSに含まれる官能基、及び脂質膜構成成分が有する官能基と反応することにより、MTSと脂質膜構成成分とを結合させることができる。こうして、次式(1):M-X-L[式中、MはMTSの残基を表し、Xはクロスリンカー試薬の残基を表し、Lは脂質膜構成成分の残基を表す。]で表される、MTSと脂質膜構成成分との結合体が形成される。
【0089】
また、多価のクロスリンカー試薬は、例えば、リンカーペプチドに含まれる官能基、及び脂質膜構成成分が有する官能基と反応することにより、リンカーペプチドと脂質膜構成成分とを結合させることができる。そして、脂質膜構成成分に結合したリンカーペプチドが有するカルボキシル基又はアミノ基と、MTSが有するアミノ基又はカルボキシル基とをアミド結合させることにより、MTSと脂質膜構成成分とを結合させることができる。こうして、次式(2):M-NH-CO-Y-X-L又は次式(3):M-CO-NH-Y-X-L[式中、MはMTSの残基を表し、Xはクロスリンカー試薬の残基を表し、Yはリンカーペプチドの残基を表し、Lは脂質膜構成成分の残基を表す。]で表される、MTSと脂質膜構成成分との結合体が形成される。なお、式(2)及び(3)は、結合体における結合様式を明確に示したものであり、式(2)における「-NH-CO-」は、MTSが有するアミノ基とリンカーペプチドが有するカルボキシル基とのアミド結合であり、式(3)における「-CO-NH-」は、MTSが有するカルボキシル基とリンカーペプチドが有するアミノ基とのアミド結合である。
【0090】
アミノ基及びSH基との反応指向性を有する2価のクロスリンカー試薬は、例えば、MTSに含まれるシステイン残基(好ましくはMTSのC末端に位置するシステイン残基)が有するSH基、及び脂質膜構成成分が有するアミノ基と反応することにより、MTSと脂質膜構成成分とを結合させることができる。こうして、次式(4):M-S-X-NH-L[式中、MはMTSの残基を表し、Xはクロスリンカー試薬の残基を表し、Lは脂質膜構成成分の残基を表す。]で表される、MTSと脂質膜構成成分との結合体が形成される。なお、式(4)は、結合体における結合様式を明確に示したものであり、「-S-X-」は、MTSが有するSH基とクロスリンカー試薬が有する官能基(例えばマレイミド基)との反応により形成され、「-X-NH-」は、クロスリンカー試薬が有する官能基(例えば-COOR[Rは脱離基を表す。])と脂質膜構成成分が有するアミノ基との反応により形成される。
【0091】
また、アミノ基及びSH基との反応指向性を有する2価のクロスリンカー試薬は、例えば、リンカーペプチドに含まれるシステイン残基が有するSH基、及び脂質膜構成成分が有するアミノ基と反応することにより、リンカーペプチドと脂質膜構成成分とを結合させることができる。そして、脂質膜構成成分に結合したリンカーペプチドが有するカルボキシル基又はアミノ基と、MTSが有するアミノ基又はカルボキシル基とをアミド結合させることにより、MTSと脂質膜構成成分とを結合させることができる。こうして、次式(5):M-NH-CO-Y-S-X-NH-L又は次式(6):M-CO-NH-Y-S-X-NH-L[式中、MはMTSの残基を表し、Xはクロスリンカー試薬の残基を表し、Yはリンカーペプチドの残基を表し、Lは脂質膜構成成分の残基を表す。]で表される、MTSと脂質膜構成成分との結合体が形成される。なお、式(5)及び(6)は、結合体における結合様式を明確に示したものであり、式(5)における「-NH-CO-」は、MTSが有するアミノ基とリンカーペプチドが有するカルボキシル基とのアミド結合であり、式(6)における「-CO-NH-」は、MTSが有するカルボキシル基とリンカーペプチドが有するアミノ基とのアミド結合であり、式(5)及び(6)における「-S-X-」は、MTSが有するSH基とクロスリンカー試薬が有する官能基(例えばマレイミド基)との反応により形成され、「-X-NH-」は、クロスリンカー試薬が有する官能基(例えば-COOR[Rは脱離基を表す。])と脂質膜構成成分が有するアミノ基との反応により形成される。
【0092】
なお、上記反応において、保護基を導入することにより目的とする反応を効率的に行えることがある。保護基の導入は、例えば、「プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス」(P.G.M.Wuts and T.Green,第3版 1999年 Wiley,John & Sons)等を参照すればよい。
【0093】
本発明の脂質膜構造体には、ミトコンドリア内に送達しようとする目的物質が保持されていることが好ましい。本発明の脂質膜構造体は、例えば、脂質膜構造体の内部(例えば、脂質膜構造体の内部に形成された空隙)、脂質膜の表面、脂質膜中、脂質膜層中、脂質膜層表面等に目的物質を保持することができる。脂質膜構造体が例えばリポソーム等の微粒子である場合、微粒子内部に目的物質を封入することができる。
【0094】
目的物質の種類は特に限定されるものではなく、例えば、薬物、核酸、ペプチド、タンパク質、糖又はこれらの複合体等が挙げられ、診断、治療、予防等の目的に応じて適宜選択することができる。目的物質が疾病の診断、治療、予防等を目的とした物質である場合、目的物質を保持した脂質膜構造体は、医薬組成物の構成成分として使用することができる。なお、「核酸」には、DNA又はRNAに加え、これらの類似体又は誘導体(例えば、ペプチド核酸(PNA)、ホスホロチオエートDNA等)が含まれる。また、核酸は一本鎖又は二本鎖のいずれであってもよいし、線状又は環状のいずれであってもよい。
【0095】
目的物質が遺伝子である場合、細胞内への遺伝子導入効率を向上させる点から、脂質膜構造体は、遺伝子導入機能を有する化合物を有することが好ましい。遺伝子導入機能を有する化合物としては、例えば、O,O’-N-ジドデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O’-N-ジテトラデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O’-N-ジヘキサデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O’-N-ジオクタデセノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O’O”-トリデカノイル-N-(ω-トリメチルアンモニオデカノイル)アミノメタンブロミド、ノル[α-トリメチルアンモニオアセチル]-ジドデシル-D-グルタメート、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアンモニウムトリフルオロアセテート、1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド、3-β-[n-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール等が挙げられる。これらの遺伝子導入機能を有する化合物は、脂質膜構造体の内部(例えば、脂質膜構造体の内部に形成された空隙)、脂質膜中、脂質膜表面、脂質膜層中、脂質膜層表面に存在(結合)させることができる。
【0096】
目的物質は、脂質膜構造体(特に脂質膜構造体の内部)に、目的物質の凝集体として保持されていることが好ましい。これにより、目的物質を効率よくミトコンドリア内に送達することができる。
【0097】
目的物質の凝集体は、目的物質のみから構成されていてもよいし、目的物質以外の物質(例えば、目的物質を保持する担体)を含んでいてもよい。
【0098】
目的物質が正に帯電している場合、例えば、目的物質とアニオン性物質とを静電的に結合させて複合体化することにより、目的物質の凝集体を調製することができる。目的物質が負に帯電している場合、例えば、目的物質とカチオン性物質とを静電的に結合させて複合体化することにより、目的物質の凝集体を調製することができる。目的物質が負及び正のいずれにも帯電していない場合、目的物質と所定の担体とを適当な様式(例えば、物理的吸着、疎水結合、化学結合等)で結合させて複合体化することにより、目的物質の凝集体を調製することができる。複合体化の際、目的物質とカチオン性物質又はアニオン性物質との混合比率を調整することにより、全体として正又は負に帯電する目的物質の凝集体を調製することができる。
【0099】
目的物質が核酸である場合、核酸とカチオン性物質と静電的に結合させて複合体化することにより、核酸の凝集体を調製することができる。複合体化の際、核酸とカチオン性物質との混合比率を調整することにより、全体として正又は負に帯電する核酸の凝集体を調製することができる。
【0100】
目的物質の凝集体を調製する際に使用できるカチオン性物質は、分子中にカチオン性基を有する物質である限り特に限定されるものではない。カチオン性物質としては、例えば、カチオン性脂質(例えば、Lipofectamine(Invitrogen社製));カチオン性基を有する高分子;ポリリジン、ポリアルギニン、リジンとアルギニンの共重合体等の塩基性アミノ酸の単独重合体若しくは共重合体又はこれらの誘導体(例えばステアリル化誘導体);ポリエチレンイミン、ポリ(アリルアミン)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)、グルコサミン等のポリカチオン性ポリマー;プロタミン又はその誘導体(例えば硫酸プロタミン);キトサン等が挙げられるが、これらのうち特にステアリル化ポリアルギニンが好ましい。ポリアルギニンを構成するアルギニン残基の数は通常4~20個であり、好ましくは6~12個、さらに好ましくは7~10個である。カチオン性物質が有するカチオン性基の数は特に限定されるものではないが、好ましくは2個以上である。カチオン性基は正に荷電し得る限り特に限定されるものではなく、例えば、アミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基等のモノアルキルアミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;イミノ基;グアニジノ基等が挙げられる。
【0101】
目的物質の凝集体を調製する際に使用できるアニオン性物質は、分子中にアニオン性基を有する物質である限り特に限定されるものではない。アニオン性物質としては、例えば、アニオン性脂質;アニオン性基を有する高分子;ポリアスパラギン酸等の酸性アミノ酸の単独重合体若しくは共重合体又はこれらの誘導体;キサンタンガム、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースポリスチレンスルホン酸塩、ポリサッカライド、カラギーナン等のポリアニオン性ポリマー等を使用することができる。アニオン性物質が有するアニオン性基の数は特に限定されるものではないが、好ましくは2個以上である。アニオン性基は負に荷電し得る限り特に限定されるものではなく、例えば、末端カルボキシル基を有する官能基(例えば、コハク酸残基、マロン酸残基等)、リン酸基、硫酸基等が挙げられる。
【0102】
本発明の脂質膜構造体の形態は特に限定されるものではなく、例えば、乾燥した混合物の形態、あるいは水系溶媒に分散した形態又はこれを乾燥若しくは凍結した形態等が挙げられ、各形態の脂質膜構造体は、例えば、水和法、超音波処理法、エタノール注入法、エーテル注入法、逆相蒸発法、界面活性剤法、凍結・融解法等の公知の方法を用いて製造することができる。
【0103】
以下、各形態の脂質膜構造体の製造方法を説明するが、本発明の脂質膜構造体の形態及びその製造方法はこれらに限定されるものではない。
乾燥した混合物の形態の脂質膜構造体は、例えば、脂質膜構造体の構成成分全てを一旦クロロホルム等の有機溶媒に溶解させた後、エバポレータによる減圧乾固又は噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことによって製造することができる。
【0104】
水系溶媒に分散した形態の脂質膜構造体は、乾燥した混合物の形態の脂質膜構造体を水系溶媒に添加した後、ホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等により乳化することによって製造することができる。また、水系溶媒に分散した形態の脂質膜構造体は、リポソームを製造する方法としてよく知られている方法、例えば逆相蒸発法等によって製造することができる。脂質膜構造体の大きさを制御したい場合には、孔径のそろったメンブランフィルター等を使用して、高圧下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。
【0105】
水系溶媒(分散媒)の組成は、特に限定されるべきものではなく、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝化生理食塩液等の緩衝液、生理食塩水、細胞培養用の培地等が挙げられる。これら水系溶媒(分散媒)は脂質膜構造体を安定に分散させることができるが、脂質膜構造体をさらに安定して分散させるために、単糖類(例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース等)、二糖類(例えば、乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトース等)、三糖類(例えば、ラフィノース、メレジノース等)、多糖類(例えば、シクロデキストリン等)、糖アルコール(例えば、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等)等の糖又はその水溶液;グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール又はその水溶液等を加えてもよい。水系溶媒(分散媒)に分散した形態の脂質膜構造体を安定に長期間保存するには、物理的安定性の面(例えば、凝集等を防止する面)から、水系溶媒(分散媒)中の電解質を極力なくすことが好ましい。また、脂質の化学的安定性の面から、水系溶媒(分散媒)のpHを弱酸性から中性付近(pH3.0~8.0)に設定すること、又は窒素バブリングにより溶存酸素を除去することが好ましい。
【0106】
水系溶媒に分散した脂質膜構造体を乾燥又は凍結させた形態の脂質膜構造体は、水系溶媒に分散した脂質膜構造体を凍結乾燥、噴霧乾燥等の公知の方法により乾燥又は凍結することによって製造することができる。水系溶媒に分散した脂質膜構造体を一旦製造した後、これを乾燥する場合、脂質膜構造体の長期保存が可能となる他、乾燥した脂質膜構造体に目的物質含有水溶液を添加すると、効率よく脂質混合物が水和されるため、目的物質を効率よく脂質膜構造体に保持させることが可能となる等の利点がある。
【0107】
凍結乾燥又は噴霧乾燥する場合、水系溶媒(分散媒)に、例えば、単糖類(例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース等)、二糖類(例えば、乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトース等)、三糖類(例えば、ラフィノース、メレジノース等)、多糖類(例えば、シクロデキストリン等)、糖アルコール(例えば、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等)等の糖又はその水溶液を加えておくことにより、脂質膜構造体を安定に長期間保存することができる。また、凍結する場合、水系溶媒(分散媒)に、例えば、上記糖又はその水溶液;グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール又はその水溶液を加えておくことにより、脂質膜構造体を安定に長期間保存することができる。水系溶媒(分散媒)には、糖と多価アルコールとを組み合わせて加えてもよい。脂質膜構造体が分散した水系溶媒(分散媒)における糖又は多価アルコールの濃度は特に限定されないが、糖の濃度は2~20%(W/V)であることが好ましく、5~10%(W/V)であることがさらに好ましい。また、多価アルコールの濃度は、1~5%(W/V)であることが好ましく、2~2.5%(W/V)であることがさらに好ましい。水系溶媒(分散媒)として緩衝液を用いる場合、緩衝剤の濃度は5~50mMであることが好ましく、10~20mMであることがさらに好ましい。水系溶媒(分散媒)における脂質膜構造体の濃度は特に限定されないが、脂質膜構造体に含有される脂質総量の濃度に換算して0.1mM~500mMであることが好ましく、1mM~100mMであることがさらに好ましい。
【0108】
抗体を保持させた脂質膜構造体は、脂質膜構造体を製造した後、抗体を添加し、抗体を脂質膜の表面に結合させることにより製造することができる。また、抗体を保持させた脂質膜構造体は、脂質膜構造体を製造した後、抗体及び抗体中のメルカプト基と反応し得る脂質誘導体を添加し、抗体を脂質膜の表面に結合させることにより製造することができる。
【0109】
目的物質を保持する脂質膜構造体を含有する医薬組成物の形態は特に限定されるものではなく、例えば、乾燥した混合物の形態、あるいは水系溶媒に分散した形態又はこれを乾燥若しくは凍結した形態が挙げられ、各形態の医薬組成物は、上記した各形態の脂質膜構造体と同様に製造することができる。
【0110】
乾燥した混合物の形態の医薬組成物は、例えば、脂質膜構造体の構成成分と目的物質とを一旦クロロホルム等の有機溶媒で溶解させて混合物を得た後、これをエバポレータによる減圧乾固又は噴霧乾燥機による噴霧乾燥に付することにより製造することができる。
【0111】
目的物質を保持する脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態の医薬組成物の製造方法としては、以下のように複数の方法が公知となっており、脂質膜構造体における目的物質の保持様式、混合物の性状等に応じて、製造方法を適宜選択することができる。
【0112】
〔製造方法1〕
製造方法1は、脂質膜構造体の構成成分と目的物質とを一旦クロロホルム等の有機溶媒で溶解させて混合物を得た後、これをエバポレータによる減圧乾固又は噴霧乾燥機による噴霧乾燥に付することにより、脂質膜構造体及び目的物質を含む乾燥混合物を製造し、次いで、これに水系溶媒を添加した後、ホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等による乳化を行うことにより、目的物質を保持する脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態の医薬組成物を製造する方法である。脂質膜構造体の大きさ(粒子径)を制御する場合には、孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。製造方法1は、脂質膜構造体及び目的物質を含む乾燥混合物を製造するために、脂質膜構造体の構成成分及び目的物質を有機溶媒に溶解する必要があるが、脂質膜構造体の構成成分と目的物質との相互作用を最大限に利用することができる利点がある。すなわち、脂質膜構造体が層状構造を有する場合にも、目的物質は多重層の内部にまで入り込むことが可能であり、目的物質の脂質膜構造体への保持率を向上させることができる利点がある。
【0113】
〔製造方法2〕
製造方法2は、脂質膜構造体の構成成分を有機溶媒で一旦溶解後、有機溶媒を留去した乾燥物に目的物質を含む水系溶媒を添加して乳化を行うことにより、目的物質を保持する脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態の医薬組成物を製造する方法である。脂質膜構造体の大きさ(粒子径)を制御する場合には、孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。製造方法2は、有機溶媒には溶解しにくいが、水系溶媒には溶解し得る目的物質に適用することができる。製造方法2は、脂質膜構造体がリポソームの場合に内水相部分にも目的物質を保持させることができる利点がある。
【0114】
〔製造方法3〕
製造方法3は、水系溶媒に分散したリポソーム、エマルション、ミセル、層状構造物等の脂質膜構造体に、さらに目的物質を含む水系溶媒を添加することにより、目的物質を保持する脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態の医薬組成物を製造する方法である。製造方法3は、水溶性の目的物質に適用することができる。製造方法3は、既に製造された脂質膜構造体に外部から目的物質を添加する方法であることから、目的物質が高分子の場合、目的物質が脂質膜構造体の内部に入り込めず、脂質膜構造体の表面に存在(結合)した存在様式をとる可能性がある。脂質膜構造体がリポソームである場合、製造方法3によって、目的物質がリポソーム粒子同士の間に挟まったサンドイッチ構造(一般的には「複合体」又は「コンプレックス」と呼ばれる)を形成されることが知られている。製造方法3は、脂質膜構造体単独の水系分散液をあらかじめ製造するため、乳化時における目的物質の分解等を考慮する必要がなく、大きさ(粒子径)の制御を行い易い。したがって、製造方法1及び製造方法2に比べて、目的物質を保持する脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態の医薬組成物を容易に製造することができる。
【0115】
〔製造方法4〕
製造方法4は、水系溶媒に分散した脂質膜構造体を乾燥することにより得られた乾燥物に、目的物質を含む水系溶媒を添加することにより、目的物質を保持する脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態の医薬組成物を製造する方法である。製造方法4は、製造方法3と同様に、水溶性の目的物質に適用することができる。製造方法4と製造方法3との相違点は、脂質膜構造体と目的物質との存在様式にあり、製造方法4では、水系溶媒に分散した脂質膜構造体を一旦製造した後、これを乾燥させた乾燥物を製造することから、この段階で脂質膜構造体は脂質膜の断片として固体状態で存在する。この脂質膜の断片を固体状態に存在させるためには、上述したように水系溶媒に糖又はその水溶液、好ましくはショ糖又はその水溶液、あるいは乳糖又はその水溶液を添加した溶媒を使用することが好ましい。目的物質を含む水系溶媒を添加すると、固体状態で存在していた脂質膜の断片は水の侵入とともに速やかに水和し始め、脂質膜構造体が再構築され、このとき、目的物質が脂質膜構造体内部に保持された形態の脂質膜構造体が製造される。
【0116】
製造方法4では、脂質膜構造体単独の水系分散液をあらかじめ製造するため、乳化時の目的物質の分解等を考慮する必要がなく、大きさ(粒子径)の制御も行い易い。したがって、製造方法1及び製造方法2に比べて、目的物質を保持する脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態の医薬組成物を容易に製造することができる。また、一旦凍結乾燥又は噴霧乾燥を行うため、製剤(医薬組成物)としての保存安定性を保証し易く、乾燥製剤を目的物質の水溶液で再水和しても大きさ(粒子径)を元に戻せることや、高分子の目的物質であっても、脂質膜構造体内部に目的物質を保持させ易いこと等の利点がある。したがって、目的物質が高分子の場合、製造方法3では、目的物質が脂質膜構造体内部には入り込めず、脂質膜構造体の表面に結合した存在様式をとる可能性があるが、製造方法4ではこの点で大きく異なる。
【0117】
目的物質を保持する脂質膜構造体が水系溶媒に分散した形態の医薬組成物を製造するための他の方法としては、リポソームを製造する方法としてよく知られた方法、例えば逆相蒸発法等を採用することができる。脂質膜構造体の大きさ(粒子径)を制御する場合には、孔径のそろったメンブランフィルターを用いて、高圧力下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。目的物質を保持する脂質膜構造体が水系溶媒に分散した分散液を乾燥させる方法としては、凍結乾燥や噴霧乾燥等が挙げられ、水系溶媒としては、上記糖又はその水溶液、好ましくはショ糖又はその水溶液、あるいは乳糖又はその水溶液を添加した溶媒を使用することが好ましい。目的物質を保持する脂質膜構造体が水系溶媒に分散した分散液を凍結させる方法としては、通常の凍結方法が挙げられ、水系溶媒としては、上記糖又はその水溶液、あるいは上記多価アルコール又はその水溶液を添加した溶媒を使用することが好ましい。
【0118】
目的物質の凝集体が全体として正に帯電している場合、脂質膜を構成する脂質としてアニオン性脂質(酸性脂質)を使用すれば、目的物質の凝集体が保持され脂質膜を効率よく製造することができ、目的物質の凝集体が全体として負に帯電している場合、脂質膜を構成する脂質としてカチオン性脂質(塩基性脂質)を使用すれば、目的物質の凝集体が保持された脂質膜構造体を効率よく製造することができる。アニオン性脂質(酸性脂質)としては、例えば、カルジオリピン、ジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジン酸、N-スクシニルホスファチジルエタノールアミン(N-スクシニルPE)、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエチレングリコール、コレステロールコハク酸等が挙げられ、カチオン性脂質(塩基性脂質)としては、例えば、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(dioctadecyldimethylammonium chloride:DODAC)、N-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウム(N-(2,3-dioleyloxy)propyl-N,N,N-trimethylammonium:DOTMA)、ジドデシルアンモニウムブロミド(didodecylammonium bromide:DDAB)、1,2-ジオレオイルオキシ-3-トリメチルアンモニオプロパン(1,2-dioleoyloxy-3-trimethylammonio propane:DOTAP)、3β-N-(N’,N’,-ジメチル-アミノエタン)-カルバモルコレステロール(3β-N-(N’,N’,-dimethyl-aminoethane)-carbamol cholesterol:DC-Chol)、1,2-ジミリストイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロオキシエチルアンモニウム(1,2-dimyristoyloxypropyl-3-dimethylhydroxyethyl ammonium:DMRIE)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミネカルボキシアミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミウムトリフルオロアセテート(2,3-dioleyloxy-N-[2(sperminecarboxamido)ethyl]-N,N-dimethyl-1-propanaminum trifluoroacetate:DOSPA)、O,O’-N-ジドデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O’-N-ジテトラデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O’-N-ジヘキサデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O’-N-ジオクタデセノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O’,O”-トリデカノイル-N-(ω-トリメチルアンモニオデカノイル)アミノメタンブロミド、ノル[α-トリメチルアンモニオアセチル]-ジドデシル-D-グルタメート、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
【0119】
本発明の脂質膜構造体において、ミトコンドリア膜融合性脂質膜が膜透過性ペプチドを介してミトコンドリア膜と結合すると、これを契機として、ミトコンドリア膜融合性脂質膜とミトコンドリア膜との膜融合が誘起され、ミトコンドリア膜融合性脂質膜に保持された目的物質は、ミトコンドリア内に放出される。この結果、目的物質はミトコンドリア内に送達される。したがって、本発明の脂質膜構造体は、目的物質のミトコンドリア内送達用ベクターとして使用することができる。
【0120】
本発明の脂質膜構造体が標的とするミトコンドリアは、細胞から分離されたミトコンドリアであってもよいし、細胞内に存在するミトコンドリアであってもよい。本発明の脂質膜構造体が標的とするミトコンドリアが由来する生物種は特に限定されるものではなく、例えば、動物、植物、微生物等が挙げられるが、動物が好ましく、哺乳動物がさらに好ましい。哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、モルモット等が挙げられる。本発明の脂質膜構造体が標的とするミトコンドリアを含有する細胞の種類は特に限定されるものではなく、例えば、体細胞、生殖細胞、幹細胞又はこれらの培養細胞等が挙げられる。
【0121】
本発明の脂質膜構造体が標的とするミトコンドリアが細胞内に存在するミトコンドリアである場合、本発明の脂質膜構造体は、ミトコンドリア膜融合性脂質膜が細胞内に移行した脂質膜構造体の最外層に位置するように構成されることが好ましい。これにより、ミトコンドリア膜融合性脂質膜は、細胞内に存在するミトコンドリアと効率よく膜融合することができる。
【0122】
ミトコンドリア膜融合性脂質膜が細胞内に移行した脂質膜構造体の最外層に位置するような構成を有する脂質膜構造体の一実施形態であるリポソームとしては、図1(a)に示すように、脂質膜2aと、脂質膜2aの内側に封入された目的物質3とを備えた1枚膜リポソーム1aであって、脂質膜2aがミトコンドリア膜融合性脂質膜であり、脂質膜2aの表面に存在する膜透過性ペプチドが膜透過性ドメインとしてポリアルギニンを有する(好ましくは膜透過性ペプチドがポリアルギニンからなる)1枚膜リポソーム1aが挙げられる。1枚膜リポソーム1aは、脂質膜2aの表面に存在する膜透過性ペプチドを介して、原形を保ったまま(インタクト(intact)な状態で)、細胞外から細胞内に移行することができる。細胞内に移行した後、脂質膜2aが、その表面に有する膜透過性ペプチドを介してミトコンドリア膜と結合すると、これを契機として、脂質膜2aとミトコンドリアの外膜との膜融合が誘起され、脂質膜2aの内側に封入された目的物質3は、ミトコンドリア内に放出される。
【0123】
1枚膜リポソーム1aにおいて、脂質膜2aがMTSを表面に有することが好ましい。これにより、脂質膜2aのミトコンドリア膜に対する結合能を向上させることができ、脂質膜2aとミトコンドリア膜との結合を契機として、脂質膜2aとミトコンドリア膜との膜融合を効率よく誘起することができる。また、脂質膜2aがMTSを表面に有することにより、細胞内に移行したリポソームをミトコンドリアへ選択的に移行させることができる。
【0124】
ミトコンドリア膜融合性脂質膜が細胞内に移行した脂質膜構造体の最外層に位置するような構成を有する脂質膜構造体の別の実施形態であるリポソームとしては、図1(b)に示すように、脂質膜21bと、脂質膜21bの外側に位置する脂質膜22bと、脂質膜21bの内側に封入された目的物質3とを備えた2枚膜リポソーム1bであって、脂質膜21b及び22bがミトコンドリア膜融合性脂質膜であり、脂質膜22bの表面に存在する膜透過性ペプチドが膜透過性ドメインとしてポリアルギニンを有する(好ましくは膜透過性ペプチドがポリアルギニンからなる)2枚膜リポソーム1bが挙げられる。2枚膜リポソーム1bは、脂質膜22bの表面に存在する膜透過性ペプチドを介して、原形を保ったまま(インタクト(intact)な状態で)、細胞外から細胞内に移行することができる。細胞内に移行した後、脂質膜22bが、その表面に有する膜透過性ペプチドを介してミトコンドリアの外膜と結合すると、これを契機として、脂質膜22bとミトコンドリアの外膜との膜融合が誘起され、リポソームはミトコンドリアの外膜を通過する。ミトコンドリアの外膜を通過したリポソームにおいて、脂質膜22bはミトコンドリアの外膜との膜融合により消失しているが、脂質膜21bは保持されている。ミトコンドリアの外膜を通過した後、脂質膜21bが、その表面に有する膜透過性ペプチドを介してミトコンドリアの内膜と結合すると、これを契機として、脂質膜21bとミトコンドリアの内膜との膜融合が誘起され、脂質膜21bの内側に封入された目的物質3は、ミトコンドリア内に放出される。
【0125】
2枚膜リポソーム1bにおいて、脂質膜21b及び22bがMTSを表面に有することが好ましい。これにより、脂質膜21b及び22bのミトコンドリア膜に対する結合能を向上させることができ、脂質膜21b及び22bとミトコンドリア膜との結合を契機として、脂質膜21b及び22bとミトコンドリア膜との膜融合を効率よく誘起することができる。また、脂質膜22bがMTSを表面に有することにより、細胞内に移行したリポソームをミトコンドリアへ選択的に移行させることができる。
【0126】
ミトコンドリア膜融合性脂質膜が細胞内に移行した脂質膜構造体の最外層に位置するような構成を有する脂質膜構造体の別の実施形態であるリポソームとしては、図1(c)に示すように、脂質膜21cと、脂質膜21cの外側に位置する脂質膜22cと、脂質膜21cの内側に封入された目的物質3とを備えた2枚膜リポソーム1cであって、脂質膜21cがミトコンドリア膜融合性脂質膜であり、脂質膜22cが膜融合性脂質を含有する2枚膜リポソーム1cが挙げられる。脂質膜22cに含有される膜融合性脂質としては、例えば、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン等の中性脂質;コレステロールコハク酸、カルジオリピン等のアニオン性脂質(酸性脂質)が挙げられ、脂質膜22cに含有される膜融合性脂質量は、脂質膜22cに含有される総脂質量の通常50%(モル比)以上、好ましくは60%(モル比)以上、さらに好ましくは70%(モル比)以上である。なお、膜融合性脂質の含有量の上限値は100%である。
【0127】
2枚膜リポソーム1cは、エンドサイトーシスを介して、細胞外から細胞内に移行することができる。エンドサイトーシスを介して細胞内に移行した2枚膜リポソーム1cは、エンドソーム内に取り込まれるが、エンドソーム膜と脂質膜22cとが膜融合することにより、エンドソームから脱出することができる。エンドソームから脱出したリポソームにおいて、脂質膜22cはエンドソーム膜との膜融合により消失しているが、脂質膜21cは保持されている。エンドソームから脱出した後、脂質膜21cの内側に封入された目的物質3は、1枚膜リポソーム1aの場合と同様にして、ミトコンドリア内に放出される。
【0128】
また、2枚膜リポソーム1cは、脂質膜22cと細胞膜との膜融合を介して、細胞外から細胞内に移行することができる。細胞内に移行したリポソームにおいて、脂質膜22cは細胞膜との膜融合により消失しているが、脂質膜21cは保持されている。細胞内に移行した後、脂質膜21cの内側に封入された目的物質3は、1枚膜リポソーム1aの場合と同様にして、ミトコンドリア内に放出される。
【0129】
2枚膜リポソーム1cにおいて、脂質膜22cに含有されるアニオン性脂質量が、脂質膜22cに含有される膜融合性脂質量の15%(モル比)以上、好ましくは20%(モル比)以上である場合、エンドソーム内が酸性(pH5.5~6.5)に変化することにより、又は酸性条件下(pH5.5~6.5)で2枚膜リポソーム1cと細胞とを接触させることにより、脂質膜22cとエンドソーム膜又は細胞膜とは効率よく膜融合することができる。
【0130】
2枚膜リポソーム1cにおいて、脂質膜21cがMTSを表面に有することが好ましい。これにより、脂質膜21cのミトコンドリア膜に対する結合能を向上させることができ、脂質膜21cとミトコンドリア膜との結合を契機として、脂質膜21cとミトコンドリア膜との膜融合を効率よく誘起することができる。また、脂質膜21cがMTSを表面に有することにより、細胞内に移行したリポソームをミトコンドリアへ選択的に移行させることができる。
【0131】
ミトコンドリア膜融合性脂質膜が細胞内に移行した脂質膜構造体の最外層に位置するような構成を有する脂質膜構造体の別の実施形態であるリポソームとしては、図1(d)に示すように、脂質膜21dと、脂質膜21dの外側に位置する脂質膜22dと、脂質膜22dの外側に位置する脂質膜23dと、脂質膜21dの内側に封入された目的物質3とを備えた3枚膜リポソーム1dであって、脂質膜21d及び22dがミトコンドリア膜融合性脂質膜であり、脂質膜23dが膜融合性脂質を含有する3枚膜リポソーム1dが挙げられる。脂質膜23dに含有される膜融合性脂質の種類及び量は、脂質膜22cと同様である。
【0132】
3枚膜リポソーム1dは、エンドサイトーシスを介して、細胞外から細胞内に移行することができる。エンドサイトーシスを介して細胞内に移行した3枚膜リポソーム1dは、エンドソーム内に取り込まれるが、エンドソーム膜と脂質膜23dとが膜融合することにより、エンドソームから脱出することができる。エンドソームから脱出したリポソームにおいて、脂質膜23dはエンドソーム膜との膜融合により消失しているが、脂質膜21d及び22dは保持されている。エンドソームから脱出した後、脂質膜21dの内側に封入された目的物質3は、2枚膜リポソーム1bの場合と同様にして、ミトコンドリア内に放出される。
【0133】
また、3枚膜リポソーム1dは、脂質膜23dと細胞膜との膜融合を介して、細胞外から細胞内に移行することができる。細胞内に移行したリポソームにおいて、脂質膜23dは細胞膜との膜融合により消失しているが、脂質膜21d及び22dは保持されている。細胞内に移行した後、脂質膜21dの内側に封入された目的物質3は、2枚膜リポソーム1bの場合と同様にして、ミトコンドリア内に放出される。
【0134】
3枚膜リポソーム1dにおいて、脂質膜21d及び22dがMTSを表面に有することが好ましい。これにより、脂質膜21d及び22dのミトコンドリア膜に対する結合能を向上させることができ、脂質膜21d及び22dとミトコンドリア膜との結合を契機として、脂質膜21d及び22dとミトコンドリア膜との膜融合を効率よく誘起することができる。また、脂質膜22dがMTSを表面に有することにより、細胞内に移行したリポソームをミトコンドリアへ選択的に移行させることができる。
【0135】
本発明の脂質膜構造体は、in vivo及びin vitroのいずれにおいても使用することもできる。本発明の脂質膜構造体をin vivoにおいて使用する場合、投与経路としては、例えば、静脈、腹腔内、皮下、経鼻等の非経口投与が挙げられ、投与量及び投与回数は、本発明の脂質膜構造体に保持された目的物質の種類や量等に応じて適宜調節することができる。
【実施例】
【0136】
〔実施例1〕ミトコンドリア膜に対する結合活性及び融合活性を有するリポソームのスクリーニング
(1)EPC系リポソームの調製
卵黄ホスファチジルコリン(egg yolk phosphatidyl choline:EPC)と表1(i)~(viii)から選択される1種の脂質とを9:2(モル比)の割合で有機溶媒(クロロホルム)に溶解した後、ガラス試験管に加え、有機溶媒を除去してガラス試験管底に薄膜を形成させた。そこに、ミトコンドリア単離液(mitochondria isolated buffer,以下「MIB」という。)(250mM ショ糖,2mM Tris-Cl,溶媒は水)を加え、脂質膜を水和させた後、超音波処理を行い、適当な大きさ(200~300nm)のEPC系リポソームを調製した(総脂質濃度0.5~0.55mM)。なお、調製したEPC系リポソームはいずれも1枚膜リポソームである。
【0137】
(2)DOPE系リポソームの調製
ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(dioleoyl phosphatidyl ethanolamine:DOPE)と表1(i)~(viii)から選択される1種の脂質とを9:2(モル比)又は1:1(モル比)の割合で有機溶媒(クロロホルム)に溶解した後、上記(1)と同様にして、適当な大きさ(200~300nm)のDOPE系リポソームを調製した(総脂質濃度0.5~0.55mM)。なお、調製したDOPE系リポソームはいずれも1枚膜リポソームである。
【0138】
【表1】
JP0005067733B2_000012t.gif

【0139】
なお、EPC系リポソーム又はDOPE系リポソームの調製の際、結合活性測定用リポソームのリポソーム膜には、1モル%NBD(4-nitrobenzo-2-oxa-1,3-diazole)標識化DOPE(励起波長(Ex)470nm,蛍光波長(Em)530nm,Molecular Probe社製)を含有させ、融合活性測定用リポソームのリポソーム膜には、1モル%NBD標識化DOPE及び0.5モル%ローダミン(Rho)標識化DOPE(励起波長(Ex)560nm,蛍光波長(Em)590nm)を含有させた。
【0140】
(3)リポソーム表面のステアリル化オクタアルギニン(STR-R8)による修飾
EPC系リポソーム又はDOPE系リポソーム懸濁液100μLに、ステアリル化オクタアルギニン溶液(ステアリル化オクタアルギニン濃度:2mg/mL,溶媒:水)4.64μL(EPC系リポソーム,DOPE系リポソーム[DOPE:X=9:2]の場合)又は4.23μL(DOPE系リポソーム[DOPE:X=1:1]の場合)を添加し、室温で一定時間インキュベートすることにより、リポソーム膜にステアリル化オクタアルギニンを分配させた(ステアリル化オクタアルギニンの分配量:総脂質量の10モル%)。こうして、オクタアルギニン(アルギニン8重合体)を表面に有するEPC系リポソーム又はDOPE系リポソームを調製した。
【0141】
以下、オクタアルギニンを表面に有しないEPC系リポソームを「STR-R8非修飾EPC系リポソーム」、オクタアルギニンを表面に有するEPC系リポソームを「STR-R8修飾EPC系リポソーム」、オクタアルギニンを表面に有しないDOPE系リポソームを「STR-R8非修飾DOPE系リポソーム」、オクタアルギニンを表面に有するDOPE系リポソームを「STR-R8修飾DOPE系リポソーム」という。
【0142】
(4)結合活性測定
リポソームのミトコンドリア膜に対する結合活性は、ラット肝臓から単離したミトコンドリアと、1モル%NBD標識化DOPEを含有する蛍光標識リポソームとを用いて、以下のように評価した。
ラット肝臓からミトコンドリアを単離し、MIB中に1mg/mLとなるように希釈してミトコンドリア溶液を調製した。ミトコンドリア溶液90μLにリポソーム懸濁液10μLを添加してサンプルを調製した。2つのサンプルを調製しておき、各サンプルを25℃で30分間インキュベーションした後、一方のサンプルはFallサンプルとして遮光冷蔵保存し、他方のサンプルは遠心分離(16000×g,10分,4℃)後、上清(ミトコンドリアと結合しなかったリポソームを含有する画分)を除去し、沈殿(ミトコンドリアと結合したリポソームを含有する画分)をMIBで洗浄し、遠心分離(20400×g,2分,4℃)で再分離(2回)し、Fサンプルとして遮光冷蔵保存した。各サンプルに等量の1%Tritonを加え、撹拌した後、蛍光強度を測定し、次式に基づいて結合活性(%)を算出した。
【0143】
【数1】
JP0005067733B2_000013t.gif

【0144】
[式中、FはFサンプルの蛍光強度(蛍光波長530nm)を表し、FallはFallサンプルの蛍光強度(蛍光波長530nm)を表す。]
【0145】
EPC系リポソームのミトコンドリア膜に対する結合活性(%)を図2に示し、DOPE系リポソームミトコンドリア膜に対する結合活性(%)を図3に示す。なお、図2及び図3中、□はSTR-R8非修飾リポソーム、■はSTR-R8修飾リポソームを示す。また、図3(a)は、DOPEと表1(i)~(viii)から選択される1種の脂質との混合比が9:2(モル比)であるDOPE系リポソームを示し、図3(b)は、DOPEと表1(i)~(viii)から選択される1種の脂質との混合比が1:1(モル比)であるDOPE系リポソームを示す。
【0146】
図2及び図3に示すように、STR-R8非修飾EPC系リポソーム及びSTR-R8非修飾DOPE系リポソームにおいては、ミトコンドリア膜に対する結合活性が認められなかったが、STR-R8修飾EPC系リポソーム及びSTR-R8修飾DOPE系リポソームにおいては、ミトコンドリア膜に対する結合活性が認められた。
【0147】
(5)融合活性測定
リポソームのミトコンドリア膜に対する融合活性をFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)を利用して評価した。
1モル%NBD標識化DOPE及び0.5モル%Rho標識化DOPEを含有する蛍光標識リポソームがミトコンドリアと結合してもミトコンドリア膜と融合しなければ、蛍光標識リポソームはそのままの状態で存在する。この場合、NBDとRhoとが非常に近接して存在するので、FRETが誘導され、NBDの蛍光が消失する。一方、蛍光標識リポソームがミトコンドリア膜と融合している場合には、ミトコンドリア膜上にNBD標識化DOPE及びRho標識化DOPEが拡散するので、FRETが解消され、NBDの蛍光が回復する。
【0148】
ミトコンドリア溶液90μLにリポソーム懸濁液10μLを添加し、25℃で30分間インキュベーションし、Fサンプルを調製した。MIB90μLにリポソーム懸濁液10μLを添加し、25℃で30分間インキュベーションし、Fサンプルを調製した。また、0.5%Triton90μLにリポソーム懸濁液10μLを添加し、25℃で30分間インキュベーションし、Fmaxサンプルを調製した。各サンプルに470nmの励起光を照射したときに発せられる蛍光スペクトル(蛍光波長530nm)を測定し、次式に基づいてFRET解消率(%)を算出し、Tritonによってリポソームを破壊したときのFRET解消率を100%として、リポソームのミトコンドリア膜に対する融合活性を評価した。
【0149】
【数2】
JP0005067733B2_000014t.gif

【0150】
[式中、FはFサンプルの蛍光強度(蛍光波長530nm)を表し、FはFサンプルの蛍光強度(蛍光波長530nm)を表し、FmaxはFmaxサンプルの蛍光強度(蛍光波長530nm)を表す。]
【0151】
サンプルでは、FRETが誘導されているためNBDの蛍光が消光する。Fmaxサンプルでは、Tritonによりリポソームが破壊され、NBDとRhoとの分子間距離が大きくなっているためFRETが解消され、NBDの蛍光が回復する。Fサンプルでは、リポソームがミトコンドリア膜と融合したときにFRETが解消され、NBDの蛍光が回復する。
【0152】
EPC系リポソームのミトコンドリア膜に対する融合活性(FRET解消率(%))を図4に示し、DOPE系リポソームミトコンドリア膜に対する融合活性(FRET解消率(%))を図5に示す。なお、図4及び図5中、□はSTR-R8非修飾リポソーム、■はSTR-R8修飾リポソームを示す。また、図5(a)は、DOPEと表1(i)~(viii)から選択される1種の脂質との混合比が9:2(モル比)であるDOPE系リポソームを示し、図5(b)は、DOPEと表1(i)~(viii)から選択される1種の脂質との混合比が1:1(モル比)であるDOPE系リポソームを示す。
【0153】
図4及び図5に示すように、STR-R8非修飾EPC系リポソーム、STR-R8修飾EPC系リポソーム及びSTR-R8非修飾DOPE系リポソームにおいて、ミトコンドリア膜に対する融合活性はほとんど認められなかったが、STR-R8修飾DOPE系リポソームにおいて、ミトコンドリア膜に対する顕著な融合活性が認められた。
【0154】
以上の結果から、リポソーム膜がミトコンドリア膜と融合するためには、リポソーム膜表面に存在するオクタアルギニンを介したリポソーム膜とミトコンドリア膜との結合、及びリポソーム膜に含有される膜融合性脂質DOPEを介したリポソーム膜とミトコンドリア膜との融合が必要であることが明らかとなった。また、リポソーム膜に含有されるDOPE量の比率を低下させた場合(図4(b)参照)、リポソーム膜のミトコンドリア膜に対する融合活性が低下したことから、リポソーム膜のミトコンドリア膜に対する融合活性は、リポソーム膜に含有されるDOPE量の比率によって変動することが明らかとなった。
【0155】
〔実施例2〕生細胞内におけるリポソームの動態解析
STR-R8修飾DOPE系リポソームが、生細胞内においても、ミトコンドリア膜に対する融合活性を発揮し、リポソーム内封物質をミトコンドリア内に導入できることを確認するために、HeLa細胞内にSTR-R8修飾DOPE系リポソームを導入して細胞内動態を観察した。なお、STR-R8修飾リポソームは、原形を保ったまま(インタクト(intact)な状態で)細胞内に導入できることが知られている(カリル・イクラミ等,「YAKUGAKU ZASSHI」,2004年,124巻 Suppl.4,113-116頁;Kogure等,「Journal of Controlled Release」,2004年,第98巻,317-323頁)。
【0156】
前日に4×10細胞/mLの濃度で6cmディッシュに播種したHeLa細胞の培地を無血清培地と交換した後に、10モル%STR-R8修飾DOPE系リポソーム(リポソームの内部にGFPタンパク質(Green Fluorescent Protein)を封入)を最終総脂質濃度が13.75μMとなるように加え、37℃,5%CO存在下で1時間インキュベーションした。その後、血清添加培地と交換し、さらに37℃で1時間インキュベーションした。共焦点レーザー顕微鏡による観察の前に、培地に1mM mitofluor(Molecular Probe社製)を最終濃度が100nMとなるように加え、37℃,5%CO存在下で20分間インキユベーションし、ミトコンドリアを染色した。リポソームの細胞内動態は共焦点レーザー顕微鏡(LMS 510,Carl Zeiss Co.,Ltd.)を用いて観察し、ミトコンドリア(赤)とリポソームの内封物GFP(緑)の局在を確認した(共局在する場合、黄色)。
【0157】
共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を図6に示す。なお、図6(a)は、STR-R8修飾EPC系リポソーム(EPC:Chol=9:2)を用いた場合の結果、図6(b)は、STR-R8修飾DOPE系リポソーム(DOPE:SM=9:2)を用いた場合の結果、図6(c)は、STR-R8修飾DOPE系リポソーム(DOPE:PA=9:2)を用いた場合の結果を示す。また、「透過光」は透過光による細胞像、「Mt」はミトコンドリア(赤)の局在、「GFP」はGFP(緑)の局在、「重ね合わせ」は透過光による細胞像に重ね合わせたミトコンドリア(赤)及びGFP(緑)の局在を示す。
【0158】
STR-R8修飾EPC系リポソームを用いた場合には、ミトコンドリアと内封物質GFPとの共局在(黄色)は確認されなかったが、STR-R8修飾DOPE系リポソームを用いた場合には、ミトコンドリアと内封物質GFPとの共局在(黄色)が確認された。このことから、STR-R8修飾DOPE系リポソームによれば、内封物質GFPをミトコンドリア内に導入できることが明らかとなった。
【0159】
〔実施例3〕ミトコンドリア内へのタンパク質送達
(1)リポソームのミトコンドリアへの導入
実施例1と同様にしてラット肝臓ミトコンドリア溶液(ミトコンドリアタンパク質10mg/mL)を調製し、1mLずつチューブに分注した。実施例1と同様にして、10モル%STR-R8修飾EPC系リポソーム(EPC:SM=9:2,EPC:PA=9:2)及び10モル%STR-R8修飾DOPE系リポソーム(DOPE:SM=9:2,DOPE:PA=9:2)(いずれのリポソームの内部にもGFP(Green Fluorescent Protein)が封入されている)を調製し、リポソーム溶液100μL(GFP 125ng/μL,総脂質 0.55mM)をラット肝臓ミトコンドリア溶液に添加した後、25℃で30分間インキュベーションした。この時、ネガティブコントロールには同量のGFPを添加した。その後、遠心分離し(16000×g,10分,4℃)、上清を除去した。沈殿をIM(+)[IM(-BSA)(70mM スクロース,220mM D-マンニトール,2.0mM HEPES(pH7.4))50mLに50mg/mL BSA溶液500μLを添加したもの]で洗浄し、遠心分離し(20400×g,2分,4℃)、上清を除去した。同様の操作を繰り返した後、沈殿をIM(+)100μLに再懸濁し、ミトコンドリア溶液(ミトコンドリアタンパク質100mg/mL)とした。
【0160】
(2)ミトコンドリア内分画
(1)で調製したミトコンドリア溶液100μLをバイアル瓶に分注し、1.25% ジギトニン溶液(ジギトニンをIM(+)で溶解したもの)をミトコンドリア溶液に等量加え、4℃で15分間穏やかに撹拌し、ミトコンドリア外膜の剥離を行った(J.W.Greenawalt.The isolation of outer and inner mitochondrial membranes.Methods Enzymol 31:310-23(1974))。その後、IM(+)600μLを反応溶液に加え、反応を停止させた。反応終了後、ミトコンドリア溶液を遠心分離し(10000×g,10分,4℃)、上清を別のチューブに移し、沈殿をIM(+)で洗浄した。同様の条件で遠心分離し、上清を別のチューブに移した。得られた上清を合わせ、遠心分離し(144000×g,10分,4℃)、得られた沈殿をIM(+)100μLに再懸濁し、外膜(OM:outer membrane)画分とした。また、上清を再び同条件で遠心分離し、得られた上清を膜間腔(IMS:intermembrane space)画分とした。得られたサンプルは、1%SDS存在下、BSAを標準物質としてBCA protein assay kit(PIERCE)を用いてタンパク量を測定した後、1mg/mLとなるようにIM(+)を用いて希釈し、-80℃で保存した。
【0161】
(3)ウェスタンブロット
得られたサンプルと等量のSDS-PAGE loading buffer(0.1M Tris,4% SDS,12% 2-mercaptoethanol,20% glycerol、BPB(適量))を混合し、変性させたサンプル5μLをSDS-ポリアクリルアミドゲル(15%)にアプライし、泳動した。泳動後のゲルをPVDF膜(日本ジェネティクス)に転写した(BE-330,BIO CRAFT)。転写後のPVDF膜をブロッキング後、抗体反応を行い、目的のGFPのバンドを検出した。1次抗体(Anti-GFP,N-Terminal(SIGMA))、2次抗体(HRP結合ロバ抗ウサギIgG抗体)を各々1000倍希釈して用い、ECL+plus Western Blotting Detection System(Amersham)によってバンドを検出した。
【0162】
(4)結果
結果を図7に示す。なお、図7中、「OM」はOM画分の結果、「IMS」はIMS画分の結果を示し、(a)はネガティブコントロールの結果、(b)はSTR-R8修飾EPC系リポソーム(EPC:SM=9:2)の結果、(c)はSTR-R8修飾EPC系リポソーム(EPC:PA=9:2)の結果、(d)はSTR-R8修飾DOPE系リポソーム(DOPE:SM=9:2)の結果、(e)はSTR-R8修飾DOPE系リポソーム(DOPE:PA=9:2)の結果を示す。
【0163】
図7に示すように、STR-R8修飾EPC系リポソーム(EPC:SM=9:2,EPC:PA=9:2)を用いた場合、OM画分ではGFPの33kDaのバンドが観察されたが、IMS画分では観察されなかった。一方、STR-R8修飾DOPE系リポソーム(DOPE:SM=9:2,DOPE:PA=9:2)を用いた場合、OM画分及びIMS画分の両方でGFPの33kDaのバンドが観察された。なお、STR-R8修飾DOPE系リポソームを用いた場合にOM画分及びIMS画分で観察された28kDaのバンドもGFPのバンドである可能性がある。この結果から、STR-R8修飾DOPE系リポソームによれば、内封物質GFPをミトコンドリアの膜間腔に導入できることが明らかとなった。
【0164】
〔実施例4〕生細胞ミトコンドリアに対するリポソームの膜融合能の評価
(1)リポソームの調製
実施例1と同様にして、10モル%STR-R8修飾EPC系リポソーム(EPC:SM=9:2)及び10モル%STR-R8修飾DOPE系リポソーム(DOPE:SM=9:2)を調製した。ただし、総脂質量の0.5モル%のNBD-DOPE(緑色)を脂質膜に含有させた。また、リポソーム内部の水相マーカーとして1mg/mL Dextran cascade blue(Molecular Probe社)(青色)を封入した。
【0165】
(2)共焦点レーザースキャン顕微鏡観察
2.5cmディッシュ(2mL培養液)に4×10細胞/mLで細胞を播き、24時間培養した。培養後、培養液を除去し、無血清培地(抗生物質を含まない)1mLを添加し、リポソーム(脂質量0.55mM)25μLを添加後、インキュベーションした(37℃,1時間,5%CO)。次に、1mL PBS(-)で3回洗浄し、血清添加培地と交換して1時間同条件でインキュベーションした。その後にmito fluor(Molecular Probe社製)によってミトコンドリアを染色し、共焦点レーザー顕微鏡(LMS 510,Carl Zeiss Co.,Ltd.)による観察を行った。
【0166】
(3)結果
結果を図8及び9に示す。なお、図8は、STR-R8修飾EPC系リポソーム(EPC:SM=9:2)の結果、図9は、STR-R8修飾DOPE系リポソーム(DOPE:SM=9:2)の結果を示す。また、「透過光」は透過光による細胞像、「ミトコンドリア(赤)」はミトコンドリア(赤)の局在、「NBD-DOPE(緑)」はNBD-DOPE(緑)の局在、「Dextran cascade blue(青)」はDextran cascade blue(青)の局在、「重ね合わせ」は透過光による細胞像に重ね合わせたミトコンドリア(赤)、NBD-DOPE(緑)及びDextran cascade blue(青)の局在を示す。
【0167】
STR-R8修飾EPC系リポソームを用いた場合、NBD-DOPE(緑)とDextran cascade blue(青)とが、ミトコンドリア(赤)の外側に共局在(水色)していた。このことから、STR-R8修飾EPC系リポソームは、ミトコンドリア膜に結合できるが、ミトコンドリア膜と融合できず、内封物質Dextran cascade blueをミトコンドリア内に導入できないことが明らかとなった。一方、STR-R8修飾DOPE系リポソームを用いた場合、Dextran cascade blue(青)が単独でミトコンドリア(赤)の内側に局在していた。また、ミトコンドリア(赤)とDextran cascade blue(青)とが共局在(ピンク色)していた。これらのことから、STR-R8修飾DOPE系リポソームは、ミトコンドリア膜に結合できるとともに、ミトコンドリア膜と融合でき、内封物質Dextran cascade blueをミトコンドリア内に導入できることが示された。
【0168】
〔実施例5〕ミトコンドリアターゲティング(MTS)-脂質誘導体の合成
リポソーム表面をラット肝臓由来のスクシニルCoAシンテターゼ由来MTS(配列番号1,R.Majumdar and W.A.Bridger.Mitochondrial translocation and processing of the precursor to the alpha-subunit of rat liver succinyl-CoA synthetase.Biochem Cell Biol 68:292-9(1990))で修飾するために、MTS-脂質誘導体としてMTS-DOPEを合成した。なお、結果は示さないが、ラット肝臓由来のスクシニルCoAシンテターゼ由来MTS(配列番号1)がヒト細胞ミトコンドリアへの移行能を示すことは確認済みである。
【0169】
MTS-DOPEは、MTSのC末端CysのSH基とDOPEのアミノ基とをクロスリンカー試薬SMCC(4-(maleimidomethyl)-1-cyclohexanecarboxylic acid N-hydroxysuccinimide ester)を介して連結させることにより合成した(図10及び13)。なお、図10及び13中、DOPEの構造は模式的に示される。
【0170】
(1)SMCC-DOPEの合成(図10)
エッペンドルフチューブにCHCl 200μL、DOPE 500nmol、SMCC 500nmol及びトリエチルアミン1μmolを加え、室温で12時間遮光振とうし、反応させた(反応液A)。反応終了後、凍結乾燥し、溶媒を除去し、メタノール50μLを用いて再度溶解した。HPLC分析より目的生成物が得られていることを確認した(図11)。なお、HPLC分析において、移動相としてA緩衝液[0.1% TFAの再蒸留水(DDW)溶液]及びB緩衝液[0.1% TFAのCHCN溶液]を使用し、30~70% B緩衝液で10分、次いで90~100% B緩衝液で10分、次いで100% B緩衝液で10分のグラジエントをかけた。さらに、SMCC-DOPEを分取し、FAB-MS(Fast Atom Bombardment Mass Spectrometry)による質量分析を行い、分子量も目的生成物と一致することを確認した(図12)。なお、FAB-MSによる質量分析において、測定機器としてはJEOL JMS-HX100を使用し、溶剤としてはメタノールを使用し、マトリックスとしてはNBA(m-ニトロベンジルアルコール)を使用した。
【0171】
(2)MTSとSMCC-DOPEとの結合(図13)
SMCC-DOPEの合成後、反応液Aのうち半量の100μL(250nmol)、及びMTSのDMSO溶液(脱気済み)100μL(125nmol)をエッペンドルフチューブに加え、室温で1時間遮光静置し、反応させた。反応終了後、凍結乾燥し、溶媒を除去し、メタノール/DMSO(1:3)100μLを用いて再度溶解した。その後、HPLC精製を行った(図14)。なお、HPLCは上記と同様にして行った。精製したMTS-DOPEの質量分析をMALDI-TOF-MS(Matrix-Assisted Laser Desorption Ionization Time-Of-Flight Mass Spectrometry)により行い、分子量が目的生成物と一致することを確認した(図15)。なお、MALDI-TOF-MSによる質量分析において、測定機器としてはVOYAGER DEPROを使用し、溶剤としては10% TFAのCHCN溶液を使用し、マトリックスとしてはCHCAを使用した。質量分析の結果より、得られた生成物をMTS-DOPEとした。
【0172】
〔実施例6〕MTS修飾リポソームのミトコンドリアへの移行能の評価
(1)リポソームの調製
試験管内に5モル% MTS-DOPEを含む脂質膜を形成後、脂質膜を水和させ、超音波処理を行うことにより(詳細な条件は実施例1と同様)、STR-R8非修飾MTS修飾EPC系リポソーム(EPC:Chol=9:2)を調製した。なお、「MTS修飾」とは、リポソーム表面がMTSで修飾されていることを意味する。また、実施例1と同様にして、5モル%STR-R8修飾MTS非修飾EPC系リポソーム(DOPE:Chol=9:2)、STR-R8及びMTS非修飾EPC系リポソーム(EPC;DDAB=9:2,EPC:Chol=9:2)を調製した。
【0173】
(2)ホモジネート溶液の調製
HeLa細胞をMIB(+)[250mM スクロース,2mM Tris-Cl,1mM EDTA,pH7.4]で洗浄後、1.0×10細胞/mLとなるようにMIB(+)に懸濁した(以下、氷上操作)。ダウンスホモジナイザーで、20回ホモジネートし、ホモジネート溶液を調製した。得られたサンプルは、1% SDS存在下、BSAを標準物質としてBCA protein assay kit(PIERCE)を用いてタンパク量を測定した後に、1mg/mLとなるようにMIB(+)を用いて希釈し、-80℃で保存した。
【0174】
(3)ミトコンドリアへの移行能の評価
540μLホモジネート溶液[1μg/μLタンパク質]に60μLリポソーム(1モル% NBD-DOPE含有)を添加した。コントロールとして60μL MIB(+)を添加したものを調製した。25℃で30分間インキュベーションした後、100μLを分注し[Fall]、残りは遠心分離操作に用いた。500μLのサンプルを遠心分離後(700×g,10分,4℃)、得られた上清400μLを遠心分離し(16000×g,10分,4℃)、得られた沈殿400μLをMIB(+)で懸濁した[Fmt]。
【0175】
100μLのサンプルに同量の1% Triton溶液(99μL MIB(-),1μL Triton)を加えて懸濁し、最終濃度0.5% Tritonとなるように調整した後、蛍光強度測定(ex:470nm,em:530nm)を行い、下記式から算出したミトコンドリアへの移行活性(%)に基づいて、リポソームのミトコンドリアへの移行能を評価した。
【0176】
移行活性(%)=ミトコンドリアに移行したリポソームの蛍光強度[Fmt]/添加した全てのリポソームの蛍光強度[Fal1]×100
【0177】
結果を図16に示す。図16に示すように、リポソーム表面をMTSで修飾することにより、リポソームにミトコンドリアへの選択的な移行能を付与できることが明らかとなった。
【0178】
〔実施例7〕生細胞内におけるリポソームの動態解析
(1)リポソームの調製
試験管内に脂質膜を形成後、GFP溶液(125ng/μL,以下同様)を加えて脂質膜を水和させ、超音波処理を行うことにより(詳細な条件は実施例1と同様)、STR-R8及びMTS非修飾EPC系リポソーム(EPC:Chol=9:2)を調製した。
【0179】
試験管内に5モル% MTS-DOPEを含む脂質膜を形成後、GFP溶液を加え脂質膜を水和させ、超音波処理を行うことにより(詳細な条件は実施例1と同様)、STR-R8非修飾MTS修飾EPC系リポソーム(EPC:Chol=9:2)を調製した。なお、「MTS修飾」とは、リポソーム表面がMTSで修飾されていることを意味する。
【0180】
試験管内に10モル%STR-R8を含む脂質膜を形成後、GFP溶液を加えて脂質膜を水和させ、超音波処理を行うことにより(詳細な条件は実施例1と同様)、STR-R8修飾MTS非修飾EPC系リポソーム(EPC:Chol=9:2)を調製した。
【0181】
試験管内に5モル%MTS-DOPEを含む脂質膜を形成後、GFP溶液を加えて脂質膜を水和させ、超音波処理を行うことにより(詳細な条件は実施例1と同様)、MTS修飾EPC系リポソーム(EPC:Chol=9:2)を形成させた。その後、リポソーム溶液にSTR-R8を総脂質量の10モル%となるように添加し、STR-R8及びMTS修飾EPC系リポソーム(EPC:Chol=9:2)を調製した。
【0182】
なお、いずれのリポソームの内部にもGFP(Green Fluorescent Protein)が封入されている。
【0183】
実施例2と同様にして、HeLa細胞内にリポソームを導入し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて細胞内動態を観察し、ミトコンドリア(赤)とリポソームの内封物GFP(緑)の局在を確認した(共局在する場合、黄色)。
【0184】
共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を図17及び18に示す。なお、図17(a)は、コントロール(GFP溶液を細胞に添加)の結果、図17(b)は、STR-R8及びMTS非修飾EPC系リポソームの結果、図17(c)は、STR-R8非修飾MTS修飾EPC系リポソームの結果、図18(a)は、STR-R8修飾MTS非修飾EPC系リポソームの結果、図18(b)は、STR-R8及びMTS修飾EPC系リポソームの結果を示す。また、「透過光」は透過光による細胞像、「ミトコンドリア」はミトコンドリア(赤)の局在、「GFP」はGFP(緑)の局在、「重ね合わせ」は透過光による細胞像に重ね合わせたミトコンドリア(赤)及びGFP(緑)の局在を示す。
【0185】
STR-R8及びMTS非修飾EPC系リポソーム、STR-R8非修飾MTS修飾EPC系リポソームを用いた場合、細胞内にGFP(緑)の局在は確認されなかった。このことから、リポソーム表面をMTSで修飾したただけでは、リポソームを細胞内に導入できないことが明らかとなった。
【0186】
STR-R8修飾MTS非修飾EPC系リポソームを用いた場合、細胞内にGFP(緑)の局在が確認されるとともに、ミトコンドリア(赤)周辺にGFP(緑)の局在が確認された。このことから、リポソーム表面をSTR-R8で修飾することにより、リポソームを細胞内に導入できること、及び細胞内に移行したリポソームがミトコンドリア膜に結合できることが明らかとなった。但し、ミトコンドリア(赤)とGFP(緑)との共局在(黄色)は観察されなかったことから、リポソーム表面をSTR-R8で修飾しただけでは、リポソームにミトコンドリア膜に対する融合能を付与できないことが明らかとなった。
【0187】
STR-R8及びMTS修飾EPC系リポソームを用いた場合、ミトコンドリア(赤)とGFP(緑)との共局在(黄色)が確認された。STR-R8及びMTS修飾EPC系は、リポソームSTR-R8修飾MTS非修飾EPC系リポソームと同様に、ミトコンドリア膜に対する融合能は有しないと考えられるので、ミトコンドリア(赤)とGFP(緑)との共局在(黄色)は、リポソームがミトコンドリア膜に極めて近接して存在することを意味する。すなわち、リポソーム表面をMTSで修飾することにより、リポソームをミトコンドリア膜に極めて近接した状態で結合させることができることが明らかとなった。リポソームがミトコンドリア膜に極めて近接した状態で結合できれば、リポソーム膜とミトコンドリア膜との膜融合を誘起しやすくなると考えられる。また、GFP(緑)がミトコンドリア(赤)以外の部分(細胞質、その他のオルガネラ)にはほとんど観察されなかったことから、リポソーム表面をMTSで修飾することにより、リポソームにミトコンドリアへの選択的な移行能を付与できることが明らかとなった。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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