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明細書 :血液細胞の力学的特性測定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5137129号 (P5137129)
公開番号 特開2010-025852 (P2010-025852A)
登録日 平成24年11月22日(2012.11.22)
発行日 平成25年2月6日(2013.2.6)
公開日 平成22年2月4日(2010.2.4)
発明の名称または考案の名称 血液細胞の力学的特性測定装置
国際特許分類 G01N  33/49        (2006.01)
G01N   3/00        (2006.01)
G01N   3/34        (2006.01)
G01N  21/17        (2006.01)
FI G01N 33/49 K
G01N 3/00 K
G01N 3/34 M
G01N 21/17 A
請求項の数または発明の数 5
全頁数 13
出願番号 特願2008-189719 (P2008-189719)
出願日 平成20年7月23日(2008.7.23)
審査請求日 平成23年6月7日(2011.6.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】安田 利貴
審査官 【審査官】三木 隆
参考文献・文献 特開平01-195365(JP,A)
特表2007-521478(JP,A)
実開昭60-061658(JP,U)
特開2004-138561(JP,A)
特開2008-170390(JP,A)
Nobuo Watanabe, et al.,Dynamic Deformation and Recovery Response of Red Blood Cells to a Cyclically Reversing Shear Flow: E,Biophysical Journal,2006年 9月,Vol 91, No. 5,1984-1998
調査した分野 G01N 33/49
G01N 3/00
G01N 3/34
G01N 21/17
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
血液細胞を含む試料に周期的なせん断応力負荷を加えるためのせん断応力負荷機構部と、前記せん断応力負荷機構部において周期的なせん断応力負荷を加えた状態の血液細胞を含む試料に光を照射するための照射光源部と、前記照射光源部により光を照射された血液細胞を含む試料からの透過光または反射光を受光する受光部と、前記受光部により受光された光信号データについて解析処理を行って血液細胞の力学的特性を求めるデータ解析処理部とを備えてなる血液細胞の力学的特性測定装置であって、
前記せん断応力負荷機構部は固定平板と、可動平板と、前記固定平板及び可動平板の間に介挿されて前記固定平板及び可動平板の間隔を維持するとともに前記固定平板及び可動平板の間において血液細胞を含む試料を載置するための空間を形成する間隙板と、前記可動平板を前記固定平板に対して平行方向に往復動させて前記固定平板及び可動平板の間において前記間隙板により形成された空間に載置された血液細胞を含む試料に周期的なせん断応力負荷を加えるためのアクチュエータと、前記可動平板が往復動する際に浮き上がるのを抑制するように前記可動平板に対し前記固定平板に向けて押圧するための押圧力付加手段を備えており、前記アクチュエータが弾性部材を介して前記可動平板を押圧しつつ往復動を伝えることにより試料に周期的なせん断応力負荷が加えられ、前記固定平板と可動平板との間隙が一定に保たれるとともに血液細胞を含む試料への周期的なせん断応力負荷による試料の平行な流れ場が維持され、前記固定平板及び可動平板の少なくとも一方が透明材料で形成されたものであることを特徴とする血液細胞の力学的特性測定装置。
【請求項2】
前記受光部が高速撮像装置であり、該高速撮像装置により撮像された血液細胞を含む試料についての画像を前記データ解析処理部において解析処理してせん断応力負荷に応じた血液細胞の変形状態を求めるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の血液細胞の力学的特性測定装置。
【請求項3】
前記受光部が血液細胞を含む試料からの透過光または反射光の強度を測光する測光手段を備えており、前記データ解析処理部においては前記測光手段により取得された血液細胞を含む試料の透過光または反射光の強度のデータに基づき予め設定された血液細胞についての粘弾性モデルによる慣性、粘性、弾性、抗力を含むパラメータを求めるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の血液細胞の力学的特性測定装置。
【請求項4】
前記可動平板に対する押圧力付加手段は前記固定平板の外側における磁石と前記可動平板の外側における鉄製薄片とが前記間隙板を介在する前記固定平板及び可動平板を挟むように配置されてなり、前記磁石及び鉄製薄片の吸引作用により前記可動平板を押圧するようにしたことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の血液細胞の力学的特性測定装置。
【請求項5】
血液細胞を含む試料と接触する前記可動平板、間隙板及び固定平板を含む部分を交換可能でディスポーザブルなユニットとして形成し、かつ試料中の血液細胞に随意な周期的なせん断応力が加えられるようにしたことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の血液細胞の力学的特性測定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、血細胞の力学的特性測定装置に関し、特に血細胞の変形能を測定する際のせん断応力負荷機構部に改良を施した血細胞の力学的特性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の循環器系疾患の数は増大しており、動脈硬化、塞栓症のような循環器系疾患は生活習慣、環境ストレスなどが起因すると考えられ、循環器系の機能には、血管特性の力学的特性のみならず、血液流動性が影響を与える。血液は血漿及び血球細胞(赤血球、白血球、血小板等)からなり、血液循環が循環器機能、ひいては生命維持に不可欠であるが、主成分である赤血球の役割、細胞もしくは組織のガス交換が特に大きい。
【0003】
赤血球は変形能を有し、その大きさより小さい径の毛細血管を通過することができる。赤血球の変形能は一般的に浸透圧、血液内に溶解している脂質の影響、加齢による影響等が考えられるが、血液が正常な機能を果たす上ではこの変形能が重要になり、循環器系の疾患は赤血球の変形能、血液の流動性が損なわれることにも起因する。そのようなことから、血球細胞、特に赤血球の変形能を測定し、定量的に評価することが循環器系疾患の検査に有効であると考えられ、このような血球細胞の変形能の測定、評価について研究、開発がなされている。また、遺伝による血液疾患における血液循環特性などについても定量的な評価が行われている。
【0004】
従来、赤血球の変形能評価技術として、細胞を含む試料がニッケルメッシュフィルタを通過するのに要する時間、流れ抵抗を測定することによるもの(特許文献1)、マイクロチャネルアレイに予め圧力を加えておき、試料のマイクロチャネルアレイの通過時間から流動性を測定することによるもの(特許文献2)、経皮的に血管内の血流に向けて超音波を入射させて散乱エコーを受信し、これから求められた血流速度分布に基づいて血液の粘性率分布を求めることによるもの(特許文献3)、試料流に含まれる赤血球を撮像して得られた画像に基づいて赤血球の形態を示す値を算出することによるもの(特許文献4)がある。
【0005】
特許文献1、2では、赤血球を含む試料がフィルタ、マイクロチャネル等を通過する速度が直接的には求められるが、赤血球の変形能について定量的に評価する上で有効な指標を与えるものにはならない。また、特許文献3では、生体内での血流についての速度分布から粘性率分布が求められるが、赤血球の変形能について定量的に評価するにはやはり適合しないものである。特許文献4においては、撮像により得られた画像に基づいて赤血球の形態を示す値として、赤血球の平均容積、凝集率、奇形の指数等が求められるが、それらの指標は赤血球の形状、形態的なものであって、赤血球の変形能について定量的に示すものではない。
【0006】
非特許文献1においては、二重円筒管の一方に回転運動を与え、間に充填されている血液細胞を含む試料にせん断応力を与え、外部からの観測により血液細胞の力学的特性を測定することについて記載されているが、二重円筒管の一方を相対的に精度よく回転させるためには、それに応じた駆動制御機構が高度の精度を要するものとなり、日常的に利用可能となるように簡易な構成で経費を少なくするには適合しないものである。
【0007】
本発明者は、非特許文献1のように二重円筒管の形態でなく、1対の平行に間隔をおいて配置し平板の間に試料を収容し、一方の平板を平行に移動させて試料に周期的なせん断応力を加えた状態で血液細胞の状態を光学的に検出し、血液細胞の力学的特性を計測する方法、システムについて特許出願をしており(特許文献5)、この血液細胞の力学的特性を計測するためのシステムは図10に概略的に示すような構造形態を有している。
【0008】
図10において、1は透明ガラスなどからなり稼動部7により駆動される第1平板、2は固定部6に第1平板に対し間隔をおいて固定された第2平板、3は第1の平板1と第2の平板2との間の空間内に収容された血液細胞を含む試料、4は光照射手段、5は受光手段である。第1平板1はアクチュエータにより稼動部7を介して固定された第2平板2に対して平行振動及び高さ制御がなされる。受光手段5が光照射手段4からの試料を透過した光を受光する場合、固定された平板2も透明ガラス等からなるものとする。
【0009】
第1平板1を平行振動させた状態で収容された血液細胞を含む試料に対し光照射手段4により光を照射し、試料の透過光または反射光を受光手段5により受光して得られた信号についてデータ解析を行う。稼動部7を介して第1平板を平行振動させることにより、第1平板と第2平板との間にある試料にはせん断応力が作用し、血液細胞に力学的負荷が加わってこの力学的負荷に応じて赤血球が変形した状態になる。この状態での試料の透過光または反射光を受光し解析することにより、赤血球の粘弾特性、疲労破壊に達する時間等を求めることができ、さらに光源の波長の変更、試料内への蛍光剤の導入により血球膜細胞特性変化の膜構造レベルからの評価がなされる。
【0010】
この血液細胞の力学的特性の計測、評価においては、平行な1対の平板の一方を可動にし平行に振動させ、間に収容された血液を含む試料にせん断応力を作用させた状態での試料からの透過光、反射光を受光して得られた信号の解析を行うことにより、血液細胞の力学特性を計測し、評価することができるのである。
【0011】
このような一方を可動にした平行平板により試料にせん断力を与える際に、平行平板の間隙を一定にし、流れ場内のせん断速度分布を均一に保つことが変形能の測定における再現性を高める上で重要であり、また、日常的に検査を行う上で血液試料を載置する平行平板を含む部分をディスポーザブル化するのが好ましいが、特許文献5においてはそれらの点について考慮されてはいないものであった。

【特許文献1】特開2001-242166号公報
【特許文献2】特開2006-145345号公報
【特許文献3】特開2006-166974号公報
【特許文献4】特開平10-260181号公報
【特許文献5】特願2007-6090号
【非特許文献1】M. Bessis and N. Mohandas, 「A diffractometric method for the measurement of cellulardeformability」, Blood Cells 1(1975),p.303
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
循環器系疾患の検査に関し、血球細胞、特に赤血球の変形能を測定し、定量的に評価することが有効であると考えられ、血球細胞の変形能の測定、評価について多くの研究、開発がなされている。その際に、再現性がよく、定量的な計測、評価がなされることが重要であるとともに、日常的ないし個人的にも可能であることが望まれる。そのようなことから、計測に供する血液として、例えば自己血糖測定器と同程度の数十μL程度とするのがよく、その上でせん断応力負荷機構部の間隙を精度よく保持し、狭い間隙において低粘度の試料でも観察領域において両平板間の流れが平行になるようにすることが重要であり、それとともに血液細胞を含む試料の載置部の構成をディスポーザブル化することが望まれる。さらに、計測のための装置、構成が複雑、大規模にならず、簡易なものとするのがよい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は前述した課題を解決すべくなしたものであり、本発明による血液細胞の力学的特性測定装置は、血液細胞を含む試料に周期的なせん断応力負荷を加えるためのせん断応力負荷機構部と、前記せん断応力負荷機構部において周期的なせん断応力負荷を加えた状態の血液細胞を含む試料に光を照射するための照射光源部と、前記照射光源部により光を照射された血液細胞を含む試料からの透過光または反射光を受光する受光部と、前記受光部により受光された光信号データについて解析処理を行って血液細胞の力学的特性を求めるデータ解析処理部とを備えてなる血液細胞の力学的特性測定装置であって、前記せん断応力負荷機構部は固定平板と、可動平板と、前記固定平板及び可動平板の間に介挿されて前記固定平板及び可動平板の間隔を維持するとともに前記固定平板及び可動平板の間において血液細胞を含む試料を載置するための空間を形成する間隙板と、前記可動平板を前記固定平板に対して平行方向に往復動させて前記固定平板及び可動平板の間において前記間隙板により形成された空間に載置された血液細胞を含む試料に周期的なせん断応力負荷を加えるためのアクチュエータと、前記可動平板が往復動する際に浮き上がるのを抑制するように前記可動平板に対し前記固定平板に向けて押圧するための押圧力付加手段を備えており、前記アクチュエータが弾性部材を介して前記可動平板を押圧しつつ往復動を伝えることにより試料に周期的なせん断応力負荷が加えられ、前記固定平板と可動平板との間隙が一定に保たれるとともに血液細胞を含む試料への周期的なせん断応力負荷による試料の平行な流れ場が維持され、前記固定平板及び可動平板の少なくとも一方が透明材料で形成されたものである。
【0014】
前記受光部が高速撮像装置であり、該高速撮像装置により撮像された血液細胞を含む試料についての画像を前記データ解析処理部において解析処理してせん断応力負荷に応じた血液細胞の変形状態を求めるようにしてもよい。
【0015】
前記受光部が血液細胞を含む試料からの透過光または反射光の強度を測光する測光手段を備えており、前記データ解析処理部においては前記測光手段により取得された血液細胞を含む試料の透過光または反射光の強度のデータに基き予め設定された血液細胞についての粘弾性モデルによる慣性、粘性、弾性、抗力を含むパラメータを求めるようにしてもよい。
【0016】
前記可動平板に対する押圧力付加手段は前記固定平板の外側における磁石と前記可動平板の外側における鉄製薄片とが前記間隙板を介在する前記固定平板及び可動平板を挟むように配置されてなり、前記磁石及び鉄製薄片の吸引作用により前記可動平板を押圧するようにしてもよい。
【0018】
血液細胞を含む試料と接触する前記可動平板、間隙板及び固定平板を含む部分を交換可能でディスポーザブルなユニットとして形成し、かつ試料中の血液細胞に随意な周期的なせん断応力が加えられるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明による血液細胞の力学的特性測定装置では、固定平板と可動平板の間に間隙板を介在させて間隙板の間の空間に血液細胞を含む試料を載置するようにし、可動平板に対し固定平板側への押圧作用を与える手段を備えるせん断応力負荷機構としたことにより、可動板の往復動の際にも固定平板と可動平板との間隙が精度よく保持され、試料における流れの平行度が高められる。それによって、血液細胞の変形能の測定の再現性が高められる。また、血液細胞を含む試料の載置部の構成をディスポーザブル化することができ、血液による感染症のリスクが軽減される。血液細胞の力学的特性測定装置の構成を簡易で精度のよいものとし、日常的な利用に供するものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
〔血液細胞の力学特性測定装置〕
図1(a),(b)は、本発明による血液細胞の力学特性測定装置の構成例を概略的に示すものであり、図1(a)はせん断応力負荷機構部を正面から見た状態を示し、図1(b)はせん断応力負荷機構部を側面方から見た状態を示している。図1(a),(b)において、10はせん断応力負荷機構部、20はリニアアクチュエータ、30は照射光源部、40は受光部、50はデータ解析処理部である。せん断応力負荷機構部10はベースB上に載置されている。
【0021】
せん断応力負荷機構部10において、ベースB上に固定平板11が配設され、その上側に間隙板12が配置され、その上側に可動平板13が載置されている。固定平板11と可動平板13とは同等の厚さであり、この例では上方から照射され血液細胞を含む試料を透過した光を下側で受光する形態であるため、ともに透明ガラスで形成されている。
【0022】
固定平板11と可動平板13との間に介在する間隙板12は金属製のシムテープを図1(a)における可動平板の長さより長くなるように切断して、図1(b)のように固定平板11上に2枚の間隙板12を平行に配置する。その上側に可動平板13が載置され、間隙板12上で図1(a)において左右方向に往復動可能になるようにする。固定平板11、可動平板13、2枚の間隙板12で囲まれた空間Sは血液を含む試料を載置する箇所となる。シムテープによる間隙板は厚さが数十μm程度のものであり、この厚さで可動平板13の平行移動を保持することになり、固定平板11上において、少なくとも可動平板13の移動範囲においては接着剤で固定はしない。固定平板11に固定する場合には、間隙板12をさらに延長し、固定平板11の側方に回り込ませ、さらには固定平板11の下側まで折り返して固定し、間隙板12の面はあくまで水平度が保たれるようにする。実際的には、シムテープの場合固定平板11の面が円滑であれば密着性がよいので、固定しなくても問題はない。
【0023】
ペースBの上側には2つの同形で矩形の凹部が形成され、この凹部にそれぞれ磁石Mが収容配置される。磁石Mの上面はベースBの上面より突出しないようにし、磁石MをベースBの凹部に収容配置された状態で、その上側に固定平板11が配設される。可動平板13の上側には2つの磁石Mにそれぞれ対応するように鉄製薄片14が載置される。この鉄製薄片14は下側の磁石Mに吸引され、鉄製薄片14の下側にある可動平板13を間隙板12が介在する状態で固定平板11の側に押圧する作用を与える。鉄製薄片14としては、鉄製のシムテープを用いることができる。磁石Mによる吸引力は鉄製薄片14の厚さに関係するので、鉄製薄片14の厚さは可動平板13に適切な押圧作用を与えるように選択するのが好ましい。また、鉄製薄片14の上側にプラスチック材料等で形成された被覆材15が配設される。
【0024】
図1(a)で左右方向に動作可能なリニアアクチュエータ20側の駆動部材に伝達部材16が連結部Cで着脱可能に取り付けられ、伝達部材16にはばね部材17を取り付けるための保持部16a,16bが設けられており、保持部16a,16bによりばね部材17が伝達部材16に取り付けられる。連結部Cは磁石-鉄片の吸引作用によるもの、あるいは差し込み式に着脱可能にした形態のもの等が用いられる。ばね部材17は一方で伝達部材16に取り付けられ、他方の側の端部において被覆材15に係止される。被覆材の上側にはばね部材の端部を係止するための凹部等を形成しておく。
【0025】
リニアアクチュエータ20による往復動の駆動力は、伝達部材16、ばね部材17を介して被覆材15に伝えられ、さらに鉄製薄片14を介して可動平板13を往復動させる。その際、ばね部材17は被覆材15に対し軽くばねによる押圧作用を与えつつ被覆材15に往復動の力を伝える。ばね部材17はリニアアクチュエータ側から操作部材16を介しての駆動作用を可動平板13側へ伝える際に押作用とクッション性を与えるためのものであり、図1(a)の例に示すような線ばねによるもののほか、適度な硬さのゴム部材等を操作部材16と被覆材15との間に介在させるような形態としてもよい。
【0026】
11a,11bは固定平板11の両側辺に沿って設けられたガイド部材であり、リニアアクチュエータ20からの駆動力により可動平板13が往復運動する際に横方向にぶれないように両側から規制するためのものである。図1(a)においては、ガイド部材11aを省いて示してある。
【0027】
照射光源部30はせん断応力負荷機構部における血液細胞を含む試料の位置に光を照射するものであり、試料を透過した光を受光部40で受光もしくは形態撮像を行い、試料についての計測を行う。せん断応力負荷機構部10における間隙板12、鉄製薄片14、被覆材15は可動平板13が往復動した際にも照射光源部30からの試料を透過する光を遮らないように形成、配置されている。また、ベースBの凹部における磁石Mは光を遮らないように配設されるとともに、ベースBにおける光の通路の部分には通孔Hが形成されている。照射光源部30からの光は試料を透過した後に、ベースBの下側に配置された受光部40で受光もしくは形態撮像を行う。
【0028】
受光部40は試料を透過した光の検出もしくは形態撮像を行い、血液細胞の状態について測定するものであり、本例としては、血液細胞の形状を測定することから、倍率100倍の顕微鏡レンズ系を備え、撮像視野を120×160μmとし、撮像コマ数500枚/secの高速撮像を行う撮像装置を用いる。
データ解析処理部50は受光部40としての撮像装置により撮像された血液細胞を含む試料についての画像を解析し、血液細胞の形状変化から、粘弾性特性等を求める。
【0029】
このように構成された血液細胞の力学特性測定装置において、伝達部材16はリニアアクチュエータ20側の駆動部材に着脱可能に取り付けられるようにされている。この着脱のためには、磁石と鉄片との組み合わせによる吸引力を用いたものでもよく、あるいは差し込み式により着脱可能にしたものでもよい。このように伝達部材16を着脱可能にすることにより、せん断応力負荷機構部10のうち可動平板13、間隙板12、固定平板11を含む部分を血液細胞の力学特性測定装置全体に対し交換可能なユニットとして形成し、この部分をディスポーザブル化することができる。
【0030】
図1(a),(b)の血液細胞の力学的特性測定装置は血液細胞を含む試料の透過光について受光部として撮像装置により撮像を行う透過光型の測定装置であり、そのために固定平板11及び可動平板13はともに透明ガラス等により形成される。反射型の測定装置として構成する場合には、照射光で照射された血液細胞を含む試料からの反射光について撮像装置で撮像を行うようにする。この場合、固定平板11は透明材料で形成する必要はない。
【0031】
受光部40として試料における血液細胞の状態を撮像装置により撮像して画像解析により力学的特性を測定するもののほか、照射光で照射された血液細胞を含む試料の透過光または散乱光の強度を受光部で測定し、得られた強度の時間変化についてのデータから血液細胞を粘弾性モデル化したパラメータを求め、血液細胞の力学的特性を測定するものとすることもできる。
【0032】
可動平板13を固定平板11の側に押圧する手段として磁石と鉄製薄片との吸引作用によるものを例示しているが、可動平板への押圧作用を与えるものとしては、可動平板に空気圧を加えるというような他の形態のものとしてもよい。
〔血液細胞の力学的特性の測定〕
前述の本発明による血液細胞の力学的特性測定装置を用いた血液細胞を含む試料についての力学的特性の測定について説明する。試料は採取し洗浄された赤血球を濃度16%Wt、粘度16.93cPのデキストラン中に浮遊させた溶液(ヘマトクリット濃度Ht:0.5%)とし、せん断応力負荷機構部10における固定平板11と可動平板13との間で2枚の間隙板12の間の空間に注入し載置する。
【0033】
試料の量は測定部分の空間を満たす程度とする。間隙板12の縦方向には試料を規制する部材は特にないが、間隙板12の厚さ(30±5μm)が十分に小さいため、試料の粘度により可動平板が往復動の動作をしても、試料が広がることはなく、試料に対して固定平板11と可動平板13との間でせん断応力負荷を加えることができる。リニアアクチュエータ20による可動平板13の往復動は周波数4Hz、振幅1mmとする。ただし、可動平板13が平行に動くように、別途可動平板13の動き方向を補助する平行部材を取り付けることも可能とする。
【0034】
このような動作条件でせん断応力負荷機構部10に載置された血液細胞を含む試料に対し、リニアアクチュエータ20により可動平板13を往復動させることにより、図2(a)に示すように、試料にせん断応力が加わる。せん断応力は平板の方向の流れ速度をu(厚さ方向zに変化する)、μを粘性係数としてとして、μdu/dzで表される。このせん断応力により試料中の赤血球が変形作用を受ける。赤血球はせん断応力の作用を受けない状態では凹状の円盤形状に近いが、せん断応力が作用する流れの場の中で、図2(b)のように扁平化していく。
【0035】
赤血球の変形能としては、流れの場で加わるせん断応力に対してどの程度変形するかということが指標となる。この変形能を示す形態的な指標として、図2(b)の変形した赤血球の楕円断面形状において、長軸長さ(L)、短軸長さ(W)の比L/Wとしての変形指数(DI)を赤血球の変形能を示す指標として考える。
(a)撮像された画像の解析による血液細胞の力学的特性の測定
リニアアクチュエータの動作によるせん断応力負荷機構部における試料に対してせん断応力負荷を加えた状態で、照明光源部で光を照射し透過光について高速撮像装置で試料を撮像する。液細胞の形状を測定することから、倍率40倍の顕微鏡レンズ系を備え、撮像倍率を120×160μmとし、撮像コマ数500枚/secの高速撮像装置で撮像し、それにより得られた画像の解析によりDIを求める。また、画像の解析により赤血球の移動による流れの速度vが求められる。このように試料についての高速撮像装置での撮像により得られた画像の解析で求められたれた変形指数(DI)としてのL/W、速度vの時間変化及びDIの周波数解析結果は図3(a),(b)に示されるようになる。
(b)透過・反射光強度測による血液細胞の力学的特性の測定
血液細胞を含む試料についての透過光または反射光の強度を測定することによる血液細胞の力学的特性の測定の場合には、図1(a),(b)の血液細胞の力学的特性の測定装置において、受光部40側が光強度測定装置になり、照射光源部30としてパルス光を発光するもの、チョッパによりパルス光化するもの等を用いる。
【0036】
図4は血液細胞を含む試料にパルス光を照射した際に赤血球の変形状態に応じて透過・反射パルス光強度が変化することを模式的に示しており、左側が変形して扁平化した赤血球、右側が変形していない赤血球である。赤血球が流れの場においてせん断応力を受け変形することにより、光伝播経路が変化する。周期的に変化するせん断応力負荷を加える場合にも、赤血球の歪みにより透過・反射光強度が影響を受ける。特に、歪みを精度よく検出するには、全ての透過光、反射光を計測するのではなく、特定の散乱角における散乱光の強度比などを計測する必要がある。
【0037】
従来、赤血球が楕円変形した状態で、変形能を測定するには、低いせん断速度で、高いせん断応力を発生させるために、赤血球を希釈する溶媒の粘度を血液細胞内部より明らかに高い状態で設定された。
【0038】
そのため、赤血球細胞内部の粘性を考慮した粘断特性の計測を行うために、周期的に変動するせん断応力負荷と歪み相当信号としての透過・散乱強度との関係を表す上で、図5に示すような機械的インピーダンスモデルを考える。このモデルは質量Mの赤血球が弾性K、粘性B,抗力Dを有する粒子として力学的に特徴づけられ、周囲溶媒の粘性係数μとせん断速度(du/dz)の積から,粒子にせん断応力が生じ,せん断応力と赤血球の力学的釣り合いの関係は,
【0039】
【数1】
JP0005137129B2_000002t.gif
として算出される。ただし,vは平行板の移動速度,hは間隙の厚みとする。
【0040】
式(1)における定数M(慣性),B(粘性),K(弾性率),D(抗力)は、各時期に計測される歪相当量ξ(t)から算出される歪加速度と歪速度及びせん断応力σ(t)を式(1)に代入して、4つの連立方程式を構築し、最小2乗法を用いて算出される。
【0041】
一般的に流体内に設置された物体に加わる抗力Dは、抗力係数Cd、投影断面積A、周辺溶媒密度ρ、周辺流体速度uとして、
【0042】
【数2】
JP0005137129B2_000003t.gif
で示される。
【0043】
周期的なせん断応力が赤血球に加わることは,赤血球はせん断速度(du/dz)の大きさに応じて,投影断面積が変化する。また、式(2)から、抗力Dは,投影面積Aにより変化していることがわかる。しかしながら、抵抗係数Cなどを厳密決定することができない。そこで簡単なモデルとして、ある時刻のせん断応力の大きさに対して、抗力が決定されるように定数として簡便に示した。
〔せん断応力負荷機構部についての評価〕
本発明による血液細胞の力学的特性測定装置においては、せん断応力負荷機構部における固定平板と可動平板との間に間隙板を介在させ、磁石と鉄製薄片との吸引作用により可動平板を固定平板側に押圧した状態でリニアアクチュエータの作用により可動平板を往復動させて血液細胞を含む試料にせん断応力負荷を加えるようにしている。このように可動平板に押圧力を作用させることにより、可動平板が往復動に際して浮き上がりを生ずる不安定さが格段に減少し、その結果、押圧力を作用させない場合に比して、固定平板と可動平板との間隙がより一定に保たれ、平板間の平行な流れ場が維持され、血液細胞の力学的特性の測定が精度よくなされることになる。以下、これらの点について実測的に検証した結果について示す。
(a)可動平板振幅の計測
可動平板を往復動させる際の可動平板と固定平板との内面の間隔(間隙板の厚さに相当する)を振幅とする。これは図6におけるA-B-Cとなる。A,B,Cをレーザ変位計(精度0.05μm)で計測する。固定平板間で両間隙板の間に注入する間隙流体は水(粘度1.0cP)とし、間隙板としてのシムテープ(金属テープ)の厚さは70±5μm、可動平板の分解作業を行って3回計測を行う。A,B,Cの計測箇所は光軸の位置とその両側にそれぞれ2mm離れた位置との系3箇所であり、リニアアクチュエータの駆動条件は周波数4Hz、振幅1mmとする。
【0044】
このような条件で、磁石と鉄製薄片とにより可動平板に押圧力の作用を与えた場合、押圧力の作用を与えない場合とについてA,B,Cを計測し、それによる振幅の値を求めた結果は図7のようになった。(2)が中心の位置(光軸上の位置)、(1),(3)は両側の位置についてのものである。この結果からすれば、磁石と鉄製薄片とにより可動平板に押圧力の作用を与えた場合には、押圧力の作用を与えない場合に比して、可動平板が浮き上がらず、間隙板(シムテープ)の誤差範囲内で間隙が保持それていると言える。
(b)流れ場内の赤血球の平行度の評価
間隙板としてのシムテープ(金属テープ)の厚さは30±5μm、試料は洗浄された赤血球を濃度16%Wt、粘度16.93cPのデキストラン中に浮遊させた溶液(ヘマトクリット濃度Ht:0.5%)とする。リニアアクチュエータの駆動条件は周波数4Hz、振幅1mmとして、可動平板を往復動させ、試料の透過光を高速撮像装置で撮像し、得られた画像について画像処理を行って、図8のように基準水平線に対する赤血球の重心位置の移動方向の角度を求める。磁石と鉄製薄片により可動平板に押圧力を与えた時と、押圧力を与えない時について、それぞれ赤血球の移動方向の角度の値の分布範囲を求めて比較した結果は図9のようになる。このように、可動平板に押圧力を与えた場合には、押圧力を与えない場合に比して赤血球の移動方向の分布範囲が小さく、それだけ赤血球の上下の動きが抑えられて流れの平行度が高くなることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明による血液細胞の力学的特性測定装置の構成例を示す図であり、(a)はせん断応力負荷機構部を正面から見た図、(b)はせん断応力負荷機構部を正面から見た図である。
【図2】(a)せん断応力負荷機構部において固定平板と可動平板との間の試料に作用するせん断応力の分布を示す図であり、(b)せん断応力負荷の作用のもとで扁平化した赤血球を示す図である。
【図3】(a),(b)試料を撮像して得られた画像をもとに求められた変形指数及び速度の時間変化を示すグラフである。
【図4】赤血球の変形状態に応じて透過・反射パルス光が変化することを模式的に示す図である。
【図5】赤血球の粘弾性について評価するための機械的インピーダンスモデルを示す図である。
【図6】可動平板の振幅を評価する際の計測対象距離を示す図である。
【図7】図6の計測対象距離の実測値から可動平板の振幅を求めた結果を示す図である。
【図8】赤血球の移動方向について説明する図である。
【図9】実測による赤血球の移動方向の角度の分布範囲を示す図である。
【図10】先行技術におけるせん断応力負荷機構部の構成を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0046】
10 せん断応力負荷機構部
11 固定平板
12 間隙板
13 可動平板
14 鉄製薄片
15 被覆材
16 伝達部材
17 ばね部材
20 リニアアクチュエータ
30 照射光源部
40 受光部
50 データ解析処理部
M 磁石
B ベース
S 間隙板で形成される空間
H 通孔
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9