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明細書 :生理活性物質を含む樹脂組成物とその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5288370号 (P5288370)
公開番号 特開2008-179788 (P2008-179788A)
登録日 平成25年6月14日(2013.6.14)
発行日 平成25年9月11日(2013.9.11)
公開日 平成20年8月7日(2008.8.7)
発明の名称または考案の名称 生理活性物質を含む樹脂組成物とその製造方法
国際特許分類 C08L  67/04        (2006.01)
C08J   3/205       (2006.01)
C08J   5/00        (2006.01)
A61L  31/00        (2006.01)
C08K   5/00        (2006.01)
C08L 101/16        (2006.01)
FI C08L 67/04 ZBP
C08J 3/205
C08J 5/00 CFD
A61L 31/00 Z
C08K 5/00
C08L 101/16
請求項の数または発明の数 15
全頁数 22
出願番号 特願2007-327660 (P2007-327660)
出願日 平成19年12月19日(2007.12.19)
優先権出願番号 2006352051
優先日 平成18年12月27日(2006.12.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年12月10日(2010.12.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
【識別番号】300071579
【氏名又は名称】学校法人立教学院
発明者または考案者 【氏名】依田 智
【氏名】大山 秀子
個別代理人の代理人 【識別番号】100100549、【弁理士】、【氏名又は名称】川口 嘉之
【識別番号】100089244、【弁理士】、【氏名又は名称】遠山 勉
審査官 【審査官】岡▲崎▼ 忠
参考文献・文献 特開平11-332975(JP,A)
特表2002-537418(JP,A)
特開平08-208966(JP,A)
特表2005-516100(JP,A)
特表2006-512175(JP,A)
調査した分野 C08L 67/00-67/04
101/16
A61L 31/00
C08J 3/00-3/28
5/00-5/24
C08K 5/00-5/59
特許請求の範囲 【請求項1】
(1)ガラス転移温度40℃以上のポリ乳酸からなる数平均分子量が6万~70万の生分解性ポリマーを、全生分解性ポリマーに対して50.00~99.99重量%、(2)ガラス転移温度又は副転移温度が40℃未満のラクチド-カプロラクトン共重合体及び/又はラクチド-トリメチレンカーボネート共重合体からなる数平均分子量が6万~70万の生分解性ポリマーを、全生分解性ポリマーに対して0.01~50.00重量%、及び(3)生理活性物質を、全樹脂組成物に対して0.001~10.000重量%含むことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記(1)ガラス転移温度40℃以上の生分解性ポリマーの重量平均分子量が10.5万~13.5万であり、前記(2)ガラス転移温度又は副転移温度が40℃未満の生分解性ポリマー数平均分子量が18万~19万であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(3)生理活性物質は、抗がん剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、アンギオテンシンII受容体拮抗薬、NO供
与剤、カルシウム拮抗薬、抗高脂血症薬、抗炎症剤、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善
薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、血管平滑筋増殖抑制薬、生
体由来材料、血管造影剤、及びインターフェロンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(3)生理活性物質は、樹脂組成物内に分散されていることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の樹脂組成物の製造方法であって、
(1)ガラス転移温度40℃以上のポリ乳酸からなる数平均分子量が6万~70万の生分解性ポリマー、及び(2)ガラス転移温度又は副転移温度が40℃未満のラクチド-カ
プロラクトン共重合体及び/又はラクチド-トリメチレンカーボネート共重合体からなる数平均分子量が6万~70万の生分解性ポリマーを溶融混練し、次に(3)生理活性物質を液体又は超臨界状態の二酸化炭素に溶解し、前記溶融混練した生分解性ポリマーに含浸させることを特徴とする製造方法。
【請求項6】
請求項1~4の何れか一項に記載の樹脂組成物の製造方法であって、
(1)ガラス転移温度40℃以上のポリ乳酸からなる数平均分子量が6万~70万の生分解性ポリマー、及び(2)ガラス転移温度又は副転移温度が40℃未満のラクチド-カプロラクトン共重合体及び/又はラクチド-トリメチレンカーボネート共重合体からなる数平均分子量が6万~70万の生分解性ポリマーを溶融混練し、次に(3)生理活性物質を人体に無害な有機溶媒及び気体、液体又は超臨界状態の二酸化炭素の混合物に溶解し、前記溶融混練した生分解性ポリマーに含浸させることを特徴とする製造方法。
【請求項7】
前記人体に無害な有機溶媒及び気体、液体又は超臨界状態の二酸化炭素の混合物が、エタノールと二酸化炭素の均一相である、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記生理活性物質の含浸は、生理活性物質の分解温度以下で行うことを特徴とする請求項5~の何れか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4の何れか一項に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする成形体。
【請求項10】
前記成形体の形状は、フィルム状、シート状又は板状であることを特徴とする請求項に記載の成形体。
【請求項11】
前記成形体の形状は、網状、繊維状、不織布状、織布状又はフィラメント状であることを特徴とする請求項に記載の成形体。
【請求項12】
前記成形体の形状は、棒状、チューブ、パイプ、ボトル、又は円柱状であることを特徴とする請求項に記載の成形体。
【請求項13】
生体内に留置させる医療器具用であることを特徴とする請求項12の何れか一項に記載の成形体。
【請求項14】
前記医療器具が、体内埋込型の治療補助器具、組織縫合器具又は人工組織であることを特徴とする請求項13に記載の成形体。
【請求項15】
前記体内埋込型の治療補助器具が、生体内消滅型ステントであることを特徴とする請求項14に記載の成形体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性物質を含む生分解性の樹脂組成物とその製造方法、該樹脂組成物を用いた成形体に関するものである。本発明は、特にステント等の生体内留置用の医療器具の製造に用いるための樹脂組成物とその製造方法、該樹脂組成物を成形することにより得られる、生体内に留置させる医療器具用の成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体内に導入する医療器具を構成する医療用の材料は、生体内吸収性と生体内非吸収性の二種類に大別される。生体内非吸収性材料は機械特性に優れるため、種々の医療器具の製造に用いられてきた。しかしながら、非吸収性材料は生体内に導入した後、そのまま生体内に残存することから、発ガン、炎症など多くの2次的な疾患を不可避的に引き起こすという問題がある。また、金属製の医療器具を生体内に留置することについては磁気の影響も心配されている。このような理由から、非吸収性材料の生体内に留置する医療器具への応用は、例えば水頭症用シャント、眼内レンズ、シリコーンインプラント、人工血管、パッチ類、人工関節などに限定されていた。
【0003】
一方、生体内吸収性材料は生体内で分解、吸収されて消滅することから、長期間の生体適合性は必要とされないという利点があり、ある一定期間のみ生体内に留置することが必要な医療器具の製造に好適である。例えば、縫合糸等の医療器具の製造に生体内吸収性材料を用いれば、器具は役割を終えた後に生体内で分解、吸収され、消滅するため、再手術により器具の抜去を行う必要もなく、2次的な疾患が起こる可能性も極めて低いと考えられている。すなわち、生体内吸収性材料の生体内に留置する医療器具への用途の拡大が期待されている。
【0004】
ポリ乳酸、ポリグリコール酸及び乳酸-グリコール酸共重合体などに代表される脂肪族ポリエステルは、生体適合性を有し、生体内で非酵素的に加水分解され、代謝経路により最終的には炭酸ガスと水になり体外へ放出される生分解性ポリマーであり、生体内吸収性材料として積極的に研究が進められている。また、トリメチレンカーボネート、p-ジオキサノン、ε-カプロラクトンらのラクトン等の重合体又はそれらの共重合体も、生体内で分解され、最終的に炭酸ガスと水になり体外へ放出される特性が注目され、研究が進められている。
【0005】
例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、乳酸-グリコール酸共重合体等は、縫合糸、ガーゼらの無菌外科手術用品としてすでに市場に出ている。
しかしながら、このような生分解性ポリマーが臨床応用されている例は、縫合や止血に用いられる一部の医療器具(縫合糸、ガーゼ等)に限られているのが現状である。これは、ポリ乳酸などの生分解性ポリマーは、変形歪を固定することができない(形状セット性に劣る)、引張強さ、破断伸度、衝撃強さ等が十分でないなどの問題があるためである。
【0006】
このような背景において、ポリ乳酸などの生分解性ポリマーの物性を改良し、その用途を拡大することが望まれている。すなわち、生体内吸収性材料に形状セット性、引張強さ、破断伸度、衝撃強さ等の物理的に良好な特性を付与する技術が強く望まれている。
【0007】
なお、生体内非吸収性材料の優れた機械的特性と生体内吸収性材料が持つ生体適合性を生かした例として、生物学的生理活性物質を含有する生分解吸収性ポリマー層(例えばポリ乳酸)を金属器具表面に皮膜して体内で使用する技術が報告されている(特許文献1、2、3、4、5、6)。しかしながら、このような医療材料の場合、基材として用いる金
属は体内に残存し、2次的疾患の要因となるという問題は依然として解決されない。
【0008】
本発明者らは、ポリ乳酸に代表されるポリエステルを主成分とする生分解性ポリマーに良好な特性を付与するために研究を重ねてきた。本発明者らは、ポリ乳酸に生分解性脂肪族-芳香族共重合体を添加して、その両成分を溶融混練して生分解性樹脂組成物を生成し、ポリ乳酸に延伸性や形状セット性を付与し得ることを見出した(特許文献7)。
また、他の生分解性ポリマーを用いてポリ乳酸などの性質を改良することも試みられている。例えば、ラクチド及び/又はグリコリドを重合させた重合体にゴム相を組み合わせて、ガラス転移温度を10℃程度とする技術が開示されている(特許文献8)。しかしながら、この技術では良好な形状セット性を達成することはできなかった。
なお、カプロラクトンとラクチド及び/又はグリコリドとの共重合体からなる伸縮性の素材も開発されている(特許文献9)。
しかしながら、形状セット性、引張強さ、破断伸度、衝撃強さの全てにおいて良好な物性を有する生分解性材料は、未だ得られていないという現状がある。
【0009】
一方、医療材料の生体適合性を高めたり、医療材料に生理活性を付与するために、医療材料に生理活性物質(薬剤)を付着させることがなされている。医療材料の生体適合性を高めるためには、医療材料を生理活性物質で二次的に処理して、特性を付加したり、改良したりすることが研究されている。
例えば、ポリ乳酸等の高分子材料の表面にイオンビームを照射して、照射部位に細胞を優先的に接着させる技術が開発されている(特許文献10、11)。
また、医療材料に生理活性物質を付着させる技術としては、金属製の医療器具の表面に生理活性物質を含有させた生分解性ポリマーをコーティングする技術が開発されている。生理活性物質を樹脂組成物に含有させるには、一般的には有機溶媒などに生理活性物質を溶解して樹脂組成物を浸漬する方法が多く取られている。しかしながら、樹脂組成物内から使用した有機溶媒を完全に除去することは困難である。一方、有機溶媒には、人体に有害なものが多く、このような有機溶媒を用いて製造した樹脂組成物を医療材料として使用した場合には、残留溶媒の人体への悪影響が問題となる。
【0010】
このため、人体への害がなく、容易にポリマーから揮散する液体又は超臨界状態の二酸化炭素に薬剤等を溶解して、これをポリマーへ含浸させる技術が検討されている。高圧下で液体状態、又は臨界温度、臨界圧力以上で超臨界状態にある二酸化炭素は、疎水性有機溶媒に類似した物性と無毒性、不燃性、高い環境調和性を併せ持つため、近年有機溶媒に代わるプロセス溶媒として各種の用途が検討されている。
【0011】
液体又は超臨界状態の二酸化炭素(超臨界二酸化炭素)を用いて、医療用材料の樹脂部分に薬理成分を含浸した例としては以下のような特許が出願されている。特許文献12においては、薬理成分と樹脂との混合物を超臨界二酸化炭素を用いてステント等の医療材料にコーティングする方法が示されている。特許文献13においては超臨界二酸化炭素の噴霧等によるコーティングの手法及び装置が示されている。また特許文献14及び15においては体内プロテーゼ、管腔内プロテーゼの一部の樹脂構造に薬理成分(生理活性物質)を高圧二酸化炭素で含浸させた例が示されている。
【0012】
しかしながら、これらの例では、従来の金属製の医療器具の表面に樹脂をコーティングするに止まっており、医療器具全体での生分解性は考慮されていない。また、薬理成分は樹脂部分にしか担持させられないことから、薬理成分の担持量が不十分であり長期に渉る効果が期待できない、徐放性の制御が困難である等の問題がある。また、樹脂以外の材料により構成された部分から、高圧二酸化炭素により膨潤したり、可塑化したりした樹脂部分が剥離する可能性がある等の問題がある。
【0013】
また、生体内に留置させる医療器具の一つであるステントは、狭心症、心筋梗塞、動脈瘤などの治療で血管を押し広げて固定する器具である。ステントによる治療は従来のバイパス手術と比べて、より安全に体に低負荷で行うことができるので、過去10年間で急速に普及し、すでにステントだけで世界で8000億円の市場がある。ステントの材料は、大きな変形を与えることが可能であり、さらに変形された形状が保持される形状セット性を有することが必要である。そのため、従来、ステントの材料としてモリブデンを添加したステンレス等の金属が多く使用されてきたが、ステント留置後に血栓がつき、血管が詰まる再狭窄が30%以上の確率で起こるという問題があった。また、金属は生体内で永久に残るので、発ガン、炎症などの二次的な疾患を起こす原因となっていた。一方、ステントの留置が原因で起こる管内の再狭窄を防ぐために、近年ではステント表面に抗がん剤などの薬剤を塗布し、再狭窄を抑制する方法がとられている。
【0014】
このような背景において、金属が有しているような機械特性を有し、生体適合性に優れ、かつ、トラッグデリバリー機能などの生理活性を発揮し、役割を終えた後には、生体内で分解、吸収されるような究極の樹脂の開発が望まれていた。
【0015】

【特許文献1】特開2004-97810号公報
【特許文献2】特開2004-41704号公報
【特許文献3】特開2003-305124号公報
【特許文献4】特開2004-329426号公報
【特許文献5】特開2004-357986号公報
【特許文献6】特開2004-275748号公報
【特許文献7】特開2005-330458号公報
【特許文献8】特許3328285号公報
【特許文献9】特開2003-246851号公報
【特許文献10】特開平5-49689号公報
【特許文献11】特開2003-82119号公報
【特許文献12】特表2003-533286号広報
【特許文献13】特表2005-505318号広報
【特許文献14】特表2006-506208号広報
【特許文献15】特表2006-512175号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明者らは、形状セット性、引張強さ、破断伸度、衝撃強さ等の物理的に良好な特性を有する材料として、ポリ乳酸らに代表されるポリエステルに、外力からのエネルギーを吸収するために低ガラス転移温度を有する生分解性ポリマーを添加する方法が有効ではないかと考えた。本発明者らは共重合体を構成する成分のガラス転移温度間で自由にガラス転移温度を調整できる均一相を形成するランダム共重合体を用いて生分解吸収性樹脂組成物を創出し、その良好な形状セット性、引張強さ、破断伸度、衝撃強さを確認し、既に特許出願を行っている(特願2006-196280)。
本発明は、生分解性の樹脂組成物に付与された形状セット性、引張強さ、破断伸度、衝撃強さなどの好ましい物性を維持しながら、更にこの樹脂組成物に生理活性物質を含有させ、樹脂に種々の機能性を付与する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、前記課題について鋭意研究し、以下の知見を得た。
<I>ガラス転移温度40℃以上で、かつ乳酸及びグリコール酸から選ばれる少なくとも1種の構造を含む生分解性ポリマーと、ガラス転移温度又は副転移温度が40℃未満の生分解性ポリマーを特定の比率で溶融混練することにより、優れた形状セット性、引張強
さ、破断伸度、衝撃強さを有する生分解性ポリマー組成物を得ることができる。
<II>前記生分解性ポリマー組成物に生理活性物質を含有させることにより、上記優れた形状セット性、引張強さ、破断伸度、衝撃強さを維持しながら生体適合性、ドラッグデリバリー機能等の種々の機能を持つ樹脂組成物を得ることができる。
<III>前記生分解性ポリマー組成物に生理活性物質を含有させる方法として、液体又は超臨界状態の二酸化炭素に前記生理活性物質を溶解させ、前記生分解性ポリマー組成物に含浸させることにより、前記生分解性ポリマー組成物の良好な物性を維持しつつ、種々の機能を持ち、安全性が高い樹脂組成物を得ることができる。
<IV>前記生分解性ポリマー組成物に生理活性物質を含有させる方法として、人体に無害な有機溶媒及び気体、液体又は超臨界状態の二酸化炭素の混合物に前記生理活性物質を溶解させ、前記生分解性ポリマー組成物に含浸させることにより、前記生分解性ポリマー組成物に前記生理活性物質を効率よく含浸させることができる。
【0018】
前記知見から、本発明者らは以下の発明を完成させた。
〔1〕 (1)ガラス転移温度40℃以上で、かつ乳酸及びグリコール酸から選ばれる少なくとも1種の構造を含む生分解性ポリマーを、全生分解性ポリマーに対して50.00~99.99重量%、(2)ガラス転移温度又は副転移温度が40℃未満の生分解性ポリマーを、全生分解性ポリマーに対して0.01~50.00重量%、及び(3)生理活性物質を、全樹脂組成物に対して0.001~10.000重量%含むことを特徴とする樹脂組成物。
〔2〕 (2)ガラス転移温度又は副転移温度が40℃未満の生分解性ポリマーは、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、α-アミノ酸、ラクトン、生分解性カーボネート、ジオキサノン、コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コンドロイチン硫酸、及びヒアルロン酸から選ばれる少なくとも1種の構造を含むことを特徴とする〔1〕に記載の樹脂組成物。
〔3〕 (2)ガラス転移温度又は副転移温度が40℃未満の生分解性ポリマーは、乳酸及びグリコール酸から選ばれる少なくとも1種と、カプロラクトン及びトリメチレンカーボネートから選ばれる少なくとも1種からなる共重合体であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の樹脂組成物。
〔4〕 (1)ガラス転移温度40℃以上で、かつ乳酸及びグリコール酸から選ばれる少なくとも1種の構造を含む生分解性ポリマーと、(2)ガラス転移温度又は副転移温度が40℃未満の生分解性ポリマーは、ともに数平均分子量が1万~100万の範囲にあることを特徴とする〔1〕~〔3〕の何れか一に記載の樹脂組成物。
【0019】
〔5〕 (3)生理活性物質は、抗がん剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、アンギオテンシンII受容体拮抗薬、NO供与剤、カルシウム拮抗薬、抗高脂血症薬、抗炎症剤、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、血管平滑筋増殖抑制薬、生体由来材料、血管造影剤、及びインターフェロンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする〔1〕~〔4〕の何れか一に記載の樹脂組成物。
〔6〕 (3)生理活性物質は、樹脂組成物内に分散されていることを特徴とする〔1〕~〔5〕の何れか一に記載の樹脂組成物。
〔7〕 (3)生理活性物質は、液体又は超臨界状体の二酸化炭素に溶解されて、前記生分解性ポリマーに含浸されることを特徴とする〔1〕~〔6〕の何れか一に記載の樹脂組成物。
〔8〕 (3)生理活性物質は、人体に無害な有機溶媒及び気体、液体又は超臨界状態の二酸化炭素の混合物に溶解されて、前記生分解性ポリマーに含浸されることを特徴とする〔1〕~〔6〕の何れか一に記載の樹脂組成物。
【0020】
〔9〕 (1)ガラス転移温度40℃以上で、かつ乳酸及びグリコール酸から選ばれる少なくとも1種の構造を含む生分解性ポリマーを、全生分解性ポリマーに対して50.00~99.99重量%、(2)ガラス転移温度又は副転移温度が40℃未満の生分解性ポリマーを、全生分解性ポリマーに対して0.01~50.00重量%、及び(3)生理活性物質を、全樹脂組成物に対して0.001~10.000重量%含有させることを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
〔10〕 (1)ガラス転移温度40℃以上で、かつ乳酸及びグリコール酸から選ばれる少なくとも1種の構造を含む生分解性ポリマー、及び(2)ガラス転移温度又は副転移温度が40℃未満の生分解性ポリマーを溶融混練し、次に(3)生理活性物質を液体又は超臨界状態の二酸化炭素に溶解し、前記溶融混練した生分解性ポリマーに含浸させることを特徴とする〔9〕に記載の樹脂組成物の製造方法。
〔11〕 (1)ガラス転移温度40℃以上で、かつ乳酸及びグリコール酸から選ばれる少なくとも1種の構造を含む生分解性ポリマー、及び(2)ガラス転移温度又は副転移温度が40℃未満の生分解性ポリマーを溶融混練し、次に(3)生理活性物質を人体に無害な有機溶媒及び気体、液体又は超臨界状態の二酸化炭素の混合物に溶解し、前記溶融混練した生分解性ポリマーに含浸させることを特徴とする〔9〕に記載の樹脂組成物の製造方法。
〔12〕 前記生理活性物質の含浸は、生理活性物質の分解温度以下で行うことを特徴とする〔9〕~〔11〕のいずれか一に記載の樹脂組成物の製造方法。
【0021】
〔13〕 〔1〕~〔8〕のいずれか一に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする成形体。
〔14〕 前記成形体の形状は、フィルム状、シート状又は板状であることを特徴とする〔13〕に記載の成形体。
〔15〕 前記成形体の形状は、網状、繊維状、不織布状、織布状又はフィラメント状であることを特徴とする〔13〕に記載の成形体。
〔16〕 前記成形体の形状は、棒状、チューブ、パイプ、ボトル、円柱状又は異形品であることを特徴とする〔13〕に記載の成形体。
〔17〕 生体内に留置させる医療器具用であることを特徴とする〔13〕~〔16〕の何れか一に記載の成形体。
〔18〕 前記医療器具が、体内埋込型の治療補助器具、組織縫合器具又は人工組織であることを特徴とする〔17〕に記載の成形体。
〔19〕 前記体内埋込型の治療補助器具が、生体内消滅型ステントであることを特徴とする〔18〕に記載の成形体。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、形状セット性、引張強さ、破断伸度、衝撃強さ等の物理的に良好な特性を有する樹脂に、生理活性物質を含有させることができ、優れた医療材料を提供することができる。本発明の樹脂組成物を用いれば、種々の生体内に留置する医療器具を製造することができる。すなわち、本発明の樹脂組成物を用いて医療器具を製造すれば、生分解性ポリマーの分解過程を利用して薬剤の徐放を行わせることができるし、従来の医療器具が有していた2次的疾患や磁気の影響の問題も解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の樹脂組成物は、(1)ガラス転移温度40℃以上で、かつ乳酸及びグリコール酸から選ばれる少なくとも1種の構造を含む生分解性ポリマーを、全生分解性ポリマーに対して50.00~99.99重量%、(2)ガラス転移温度又は副転移温度が40℃未満の生分解性ポリマーを、全生分解性ポリマーに対して0.01~50.00重量%、及び(3)生理活性物質を、全樹脂組成物に対して0.001~10.000重量%含むことを特徴とする。
【0024】
「ガラス転移温度」とは、高分子化合物にガラス転移が起こる温度をいう。ガラス転移とは、温度変化により高分子の体積又はエンタルピーの温度依存性が急に変化し、その物性に大きな変化が起こることをいう。すなわち、過冷却した場合には、高温域では可能であったミクロブラウン運動が束縛されるようになり、膨張係数や比熱が階段状の変化を伴って小さくなる温度が存在する。ガラス転移温度は示差走査熱量計(DSC)により測定することができる。ガラス転移温度以下では、分子間の熱運動が自由体積の減少によって抑制されて、高分子はガラス状態になる。一方、ガラス転移温度以上では、分子間の熱運動が激しくなり、非晶性の高分子においてはゴム状弾性を示す。
【0025】
「副転移温度」とは、副分散温度とも呼ばれ、ガラス転移温度以下で観測される力学分散や誘電分散が起きる温度をいう。副分散は側基の回転(側基分散)、主鎖のねじれ運動(ローカルモード分散)、高分子鎖の欠陥部分、結晶性高分子の結晶領域の欠陥部分での運動、水などの不純物の運動(水分散)によって生じると言われている。主分散であるガラス転移温度よりも高温側で、末端間距離のゆらぎによるノーマルモード緩和や結晶ラメラ中の主鎖のねじれ運動による結晶分散などが観測される場合もあり、これらも広義での副分散と言える。副転移温度はガラス転移温度と同様、示査走査熱分析や動的粘弾性測定などにより決定することができる。
【0026】
本発明における「生分解性ポリマー」とは、少なくとも一種の哺乳類の正常な生体内で安全に使用することができるポリマー材料であって、生体内において、代謝経路に組み込まれることにより、低分子化合物に分解され、最終的には完全に無機化されて自然界の炭素循環に組み込まれる高分子を指す。
【0027】
ガラス転移温度40℃以上で、かつ乳酸及びグリコール酸から選ばれる少なくとも1種の構造を含む生分解性ポリマー(以下、「生分解性ポリマー〔I〕」ともいう。)としては、以下の重合体が挙げられる。「ガラス転移温度40℃以上」ということは、ポリマー成分の分子運動が、40℃未満では束縛されており、硬いガラス状態を維持していることを意味する。
(i)ポリ乳酸
(ii)ポリグリコール酸
(iii)乳酸-グリコール酸共重合体
(iv)乳酸及び/又はグリコール酸を含む(iii)以外の生分解性共重合体
【0028】
(i)のポリ乳酸には、ポリL乳酸、ポリD乳酸、ポリDL乳酸があり、本発明においてはこれらの何れを含んでいてもよい。一方、ポリDL乳酸において、L-乳酸及びD-乳酸の構造単位の比率は得られる重合体の結晶化度に影響を及ぼすため、樹脂組成物の用途に応じて乳酸中のL-乳酸、D-乳酸の比率を選択することができる。例えば、高い耐衝撃性や靭性が求められる用途には、高い光学純度の乳酸で構成される結晶性のポリ乳酸を用いることが好ましく、延性、形状セット性が求められる用途には、光学純度が低いDL-乳酸(ラセミ体)で構成される非晶性のポリ乳酸を用いることが好ましい。
【0029】
ポリ乳酸は、乳酸の直接縮合により製造することもできるし、乳酸の環状二量体ラクチドの開環重合により製造することもできる。ラクチドには、L-乳酸の環状二量体であるL-ラクチド、D-乳酸の環状二量体であるD-ラクチド、D-乳酸とL-乳酸が環状二量化したメソラクチド、およびL-ラクチドとD-ラクチドのラセミ混合物であるDL-ラクチドがあるが、上述したように樹脂組成物の用途に応じて重合に用いるラクチドを決定することができる。また、レイシア(三井化学)、ネーチャーワークス(ネーチャーワークス)などの工業用市販品を用いてもよいが、生体内で使用する際には安全性の高いレゾマーLシリーズ、Rシリーズ、LRシリーズ(ベーリンガーインゲルハイム)、または依頼
合成で得られた医療用ポリ乳酸を使用することが好ましい。
【0030】
(ii)のポリグリコール酸は、グリコリドを開環重合することにより得られる。また、依頼合成で得られた医療用ポリグリコール酸を使用することが好ましい。
ポリグリコール酸は、ポリ乳酸に比べて生体内での分解速度が速いため、生体内に留置されるべき期間が短い医療器具や生理活性物質の徐放速度を高めた医療器具などの材料として用いることが好ましい。
【0031】
(iii)の乳酸-グリコール酸共重合体は、ラクチド及びグリコリドを重合することにより得られる。乳酸-グリコール酸共重合体における乳酸及びグリコール酸の構造単位の比率は特に制限されず、用途に応じて選択することができる。例えば、グリコール酸に乳酸を共重合していくと、結晶相の融点は低下する。乳酸が20モル%も共重合されると、非晶性の共重合体となる。また、一般的には、乳酸の比率が高くなると生分解性速度が遅くなり、グリコール酸の比率が高くなると生分解性速度が速くなる。また、重合体の種類も制限されないが、ランダム共重合体であることが好ましい。ランダム重合により、モノマー単位の組成により、所望のガラス転移温度を有する共重合体を得ることが容易となる。
また、医療用であれば、依頼合成を行ったり、レゾマーRGシリーズ、LGシリーズ(ベーリンガーインゲルハイム)などの市販品を用いてもよい。
【0032】
(iv)の共重合体を構成する乳酸及びグリコール酸以外のモノマー(構造)は、共重合体のガラス転移温度を40℃以上とすることができれば、特に制限されない。このようなモノマーとしては、例えば、エチレングリコール、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、α—アミノ酸、ラクトン、及び生分解性カーボネート類、ジオキサノン等が挙げられる。各共重合体における乳酸及びグリコール酸以外の生分解性モノマーの含有率は、生分解性モノマーの種類や樹脂組成物の用途に応じて決定することができる。このような市販品として、例えば、エチレングリコールを含む共重合体である、RGPシリーズ(ベーリンガーインゲルハイム)等を用いてもよい。
また、(iv)の何れの共重合体における重合体の種類は、特に制限されないが、ランダム共重合体であることが好ましい。ランダム重合により、モノマー単位の組成により、所望のガラス転移温度を有する共重合体を得ることが容易となる。また、このような重合体の製造も常法に従って重合させることにより行うことができる。
【0033】
本発明の樹脂組成物において、生分解性ポリマー〔I〕としては、上記重合体(i)~(iv)の何れかを単独で用いても、複数を混合して用いてもよい。
生分解性ポリマー〔I〕の含有量は、全生分解性ポリマーに対して50.00~99.99重量%、好ましくは50~95重量%、さらに好ましくは60~95重量%である。
【0034】
生分解性ポリマー〔I〕の分子量及び結晶度は特に制限されず、樹脂組成物の用途に応じて決定することができる。数平均分子量は、通常1万~100万、好ましくは6万~70万、さらに好ましくは10万~60万の範囲とするのがよい。高分子量のものよりも低分子量のものの方が、また、結晶性のものよりも非晶性のものの方が、生体内での分解速度が速くなる。
【0035】
ガラス転移温度又は副転移温度が40℃未満の生分解性ポリマー(以下、「生分解性ポリマー〔II〕」ともいう。)は、生分解性モノマーから構成される重合体であり、構造は特に制限されない。
生分解性ポリマー〔II〕は、好ましくはガラス転移温度及び副転移温度の何れか一方が-150~30℃、好ましくは、-50~25℃、さらに好ましくは10℃~25℃に現れることが望ましい。
「ガラス転移温度又は副転移温度が40℃未満」ということは、ポリマー成分が40℃未満の低温領域に大きな減衰ピーク(α緩和、β緩和、γ緩和など)を有することを意味する。すなわち、ガラス転移温度又は副転移温度において分子運動が生じやすく、変形も容易であることを意味する。
【0036】
生分解性ポリマー〔II〕は、天然ポリマーであっても、合成ポリマーであってもよい。例えば、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、α—アミノ酸、ラクトン、及び生分解性カーボネート類、ジオキサノンから選ばれる少なくとも1種の構造を含む、合成生分解性ポリマーやコラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸から選ばれる少なくとも1種の構造を含む天然又は合成タンパク質が挙げられる。
単重合体は、ガラス転移温度を調節することが困難であるため、共重合体であることが好ましい。
中でも好ましいのは、乳酸及びグリコール酸の少なくとも1種を含む共重合体である。このような構成とすることにより、前記生分解性ポリマー〔I〕との相溶性が向上する。前記生分解性ポリマー〔I〕との高い相溶性を得るためには、生分解性ポリマー〔II〕における乳酸及びグリコール酸から選ばれる少なくとも1種の含有率は、10~98モル%が好ましく、30~98モル%がより好ましい。
【0037】
更に、本発明の樹脂組成物における生分解性ポリマー〔II〕は、乳酸及びグリコール酸から選ばれる少なくとも1種と、カプロラクトン及びトリメチレンカーボネートから選ばれる少なくとも1種を含む共重合体であることが好ましい。具体的には、乳酸-カプロラクトン、乳酸-トリメチレンカーボネート、乳酸-ジオキサノン、グリコール酸-カプロラクトン、グリコール酸-トリメチレンカーボネート、グリコール酸-ジオキサノン等の2元系の共重合体、及び乳酸-グリコール酸-カプロラクトン、乳酸-カプロラクトン-トリメチレンカーボネート等の多元系の共重合体が挙げられる。このような共重合体は、依頼合成することも可能であるが、医療用用途の市販品としてLTシリーズ、LCシリーズ(ベーリンガーインゲルハイム)を用いることもできる。
【0038】
共重合体の場合の種類も特に制限されず、ランダム共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体の何れでも良い。中でもランダム共重合体は、モノマーの種類及び含有率を調節することにより、広範囲に渡るガラス転移温度又は副転移温度を得ることができるため好ましい。例えば、乳酸-カプロラクトンランダム共重合体において、乳酸の含有率が高い場合はガラス転移温度が室温以上になり剛性となるが、カプロラクトンの含有率が高い場合はガラス転移温度が10℃以下となり柔軟になる。つまり、同じ種のモノマーで構成される共重合体でも、モノマー含有比によってポリマーの性状が広く変化し、該変化に応じて生分解性速度も変化するため、高分子材料の用途に応じて適したポリマーを得ることができる。
また、下記の実施例にも示すように、ランダム共重合体とすることにより、樹脂組成物の飛躍的な機械特性の向上が得られた。ランダム共重合体はブロック共重合体等と比較すると合成が手軽に安価にできるという大きな利点を有する。
【0039】
生分解性ポリマー〔II〕は、以下のようにして得ることができる。天然ポリマーについては、微生物、植物、動物の組織から常法により抽出すればよい。合成ポリマーについては、常法により前記生分解性モノマーを重合したり、天然のタンパク質を他の天然ポリマーや生分解性モノマーを用いて修飾したりすることにより得ることができる。
【0040】
本発明の樹脂組成物において、生分解性ポリマー〔II〕としては、上記重合体の1種を単独で用いても、複数種を混合して用いてもよい。
生分解性ポリマー〔II〕の含有量は、全生分解性ポリマーに対して0.01~50.
00重量%、好ましくは5~50重量%、さらに好ましくは5~40重量%である。
【0041】
本発明の樹脂組成物において、生分解性ポリマー〔II〕の含有量が、生分解性ポリマー〔I〕の含有量より多くなると、生分解性ポリマー〔II〕が連続層を、生分解性ポリマー〔I〕が分散相を形成し、軟らかい樹脂組成物となるため、形状セット性などの好ましい機械物性は発現しなくなる。
一方、生分解性ポリマー〔II〕の含有量が、全生分解性ポリマーに対して0.01重量%より少なくなると、外部からのエネルギーを吸収できる生分解性ポリマー〔II〕の作用が十分に発揮されず、形状セット性や耐衝撃性等の機械特性の向上が発現しなくなる。
【0042】
生分解性ポリマー〔II〕の分子量及び結晶度は特に制限されず、樹脂組成物の用途に応じて決定することができる。数平均分子量は、通常1万~100万、好ましくは6万~70万、さらに好ましくは10万~60万の範囲とするのがよい。高分子量のものよりも低分子量のものの方が、また、結晶性のものよりも非晶性のものの方が、生体内での分解速度が速くなる。
【0043】
生分解性ポリマー〔I〕への生分解性ポリマー〔II〕の添加は、樹脂組成物の室温や体温における大変形での衝撃強さを増加させる。生分解性ポリマー〔II〕の定温における分子主鎖の局部的な動的粘弾性運動が、使用温度(例えば室温や体温)における大変形での機械的特定を増加させるのは次のような理由からであると考えられる。つまり動的な粘弾性の測定は一般的に数Hzの周波数で行われている。したがって、低い周波数の低温で現れるこのような損失ピークは、衝撃のような速い負荷速度に対応した高い周波数で測定するならば、もっと高温での損失に対応するということが考えられるからである。
【0044】
生分解性ポリマー〔II〕のガラス転移温度を、40℃未満の広範囲に渡って調節できれば、より広い範囲での負荷速度に対応して機械特性を向上させることが可能となる。例えば、極低温領域にガラス転移温度を有するポリマーと、10℃以上40℃未満にガラス転移温度を有するポリマーを組み合わせて用いれば、様々な負荷速度を持つ広範囲な外力を吸収できるようになる。
【0045】
本発明の樹脂組成物において、生理活性物質は、疾病の予防、治療における有効性、及び安全性が確認されているものであれば特に制限なく用いることができる。
具体的には、パクリタキセル、ドセタキセル水和物、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンデシン、塩酸イリノテカン、メトトレキサート、シクロフォスファミド等の抗がん剤;
シロリムス、タクロリムス水和物、アザチオプリン、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル、塩酸グスペリスム、ミゾリビン、エベロリムス、エベロリムスプラス等の免疫抑制剤;
マイトマイシンC、塩酸ドキソルビシン、アクチノマイシンD、塩酸ダウノルビシン、塩酸イダルビシン、塩酸ピラルビシン、塩酸アクラルビシン、塩酸エピルビシン、塩酸ペプロマイシン、ジノスタチンスチマラマー等の抗生物質;
金チオリンゴ酸ナトリウム、ペニシラミン、ロベンザリットニナトリウム等の抗リウマチ剤;
へパリン、塩酸チクロピジン、ヒルジン等の抗血栓薬;
シンバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、フルバスタチン、ロスバスタチン等のHMG-CoA還元酵素阻害剤;
マレイン酸エナラプリル、アラセプリル、カプトプリル、塩酸イミダプリル、シラザプリル、塩酸デラプリル、リシノプリル、塩酸ベナゼプリル、トランドラプリル、塩酸キナプリル等のACE阻害剤;
ロサルタン、バルサルタン、カンデサルタンシレキセチル、テルミサルタン、オルメサルタン、メドキソミル等のアンギオテンシンII受容体拮抗薬;
リシドミン、モルシドミン、S-Nitroso-N-acetyl-DL-penicil lamine (SNAP)、アルギニン等のNO供与剤;
塩酸エホニジピン、塩酸ジルチアゼム、塩酸ニカルジピン、塩酸ベニジピン、塩酸ベラパミル、ニソルジピン、ニトレンジピン、ベシル酸アムロジピン等のカルシウム拮抗薬;コレスチラミン、ロパスタチン及びフルパスタチン等の抗高脂血症薬、
テキサメタゾン、プレゾニゾロン、コルチコステロン、ブデソニド、エストロゲン、スルフィサラジン、アセチルサリチル酸、メゼラミン等の抗炎症剤;
αvβ3インテグリンの阻害作用も有しており、血管平滑筋細胞遊走の阻害剤としても使用できると考えられているαIIbβ3インテグリン阻害剤などのインテグリン阻害薬;
トラニラスト等の抗アレルギー剤;
カテキン類、アントシアニン、プロアントシアニジン、リコピン、β-カロチン等の抗酸化剤;
MN-447抗血栓剤等のGPIIbIIIa拮抗薬;
レチノイド、フラボノイド、カロチノイド;
べザトール、ビスラットゴールド等の脂質改善薬;
ニューキノロン系やリファンピシン系等のDNA合成阻害剤;
ゲニステイン、チルフォスチン、アーブスタチン等のチロシンキナーゼ阻害剤;
アスピリン、ジピリダモール、チクロピジン、クロピドグレル、アブシキシマブ等の抗血小板薬;
ラパマイシン、アンギオペプシン等の血管平滑筋増殖抑制薬;
EGF(epidermal growthfactor)、VEGF(vascular endothelial growth factor)、HGF(hepatocyte growth factor)、PDGF(platelet derived
growth factor)、BFGF(basic fibrolast growth factor)等の生体由来材料;
バリウム造影剤(硫酸バリウム)、ヨード系造影剤(ガストログラフィン)、非イオン性造影剤(イオパミドール等)、イオン性造影剤(ウログラフィン等)等の血管造影剤;インターフェロン等から選ぶことができる。
【0046】
生理活性物質の含有量は、樹脂組成物に対して0.001~10.000重量%の間で、生理活性物質の種類、樹脂組成物の用途に応じて決定することができる。
【0047】
生理活性物質は、前記生分解性ポリマー〔I〕及び〔II〕を含む樹脂組成物に担持されていれば、その態様は特に制限されないが、樹脂組成物内に分散されていることが好ましい。これは、前記生分解性ポリマーが分解される全期間に渡って、生理活性物質を徐放させることが可能であるという利点が得られるためである。
【0048】
また、本発明の樹脂組成物は、上記必須成分以外にも任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤(フェノール系、芳香族アミン系、有機イオウ系、有機リン系など)、光安定剤、無機または有機系着色剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂などの離型改良剤などが挙げられる。
また、本発明の樹脂組成物は、非生分解性ポリマーは含有しないことが好ましい。
【0049】
本発明の樹脂組成物は、生分解性ポリマー〔I〕を、全生分解性ポリマーに対して50.00~99.99重量%、生分解性ポリマー〔II〕を、全生分解性ポリマーに対して0.01~50.00を溶融状態とし、混練(溶融混練)し、これに生理活性物質を添加することにより製造することができる。溶融混練に際しては、一般に使用されている一軸
または二軸の押出機、ミキサー、各種のニーダー等の混練装置を用いて行えばよい。中でも、二軸の押出機を用いることが好ましい。
ここで「溶融混練」とは原料となるポリマー(原料ポリマー)の融点(結晶性でない場合はガラス転移温度)以上に二軸押出成形機またはミキサー混練機により加熱して原料ポリマーを溶融し、均一に分散するように混ぜ合わせることである。
【0050】
溶融混練に際しては、各成分は予めタンブラーもしくはヘンシェルミキサーのような装置で各生分解性ポリマーを均一に混合した後、混練装置に供給してもよいし、各成分を混練装置にそれぞれ別個に定量供給してもよい。
【0051】
タンブラー又はヘンシェルミキサー内の温度は通常150℃以上の温度が採用される。
ポリ乳酸を主成分とする場合、溶融混練の温度は、180~250℃程度の範囲が採用される。この温度範囲以下であると樹脂が充分に融解せず、さらにこの温度範囲以上であると原料のポリエステル系樹脂が加水分解を引起しやすくなる。
ポリグリコール酸を主成分とする場合、溶融混練の温度は、220~250℃程度の範囲が採用される。
【0052】
生理活性物質を添加する方法は、添加する生理活性物質の性質に応じて適切な方法を採用することができる。150~250℃で変性しない生理活性物質であれば、前記溶融混練する際に添加してもよい。一方、熱で変性する生理活性物質については、液体又は超臨界状態の二酸化炭素を媒体として使用することが好適である。前記媒体は、生理活性物質を溶解し、かつ生分解性ポリマー〔I〕及び〔II〕を含む樹脂組成物に溶解して、これを膨潤させることができ、人体に無害である。
【0053】
二酸化炭素の臨界条件は31℃、7.4MPaであり、この条件以上の超臨界状態では高い拡散性、粘性および表面張力の低下、前記生分解性ポリマーを含む樹脂組成物の膨潤による、生理活性物質の効果的な含浸が期待できる。生理活性物質の溶解度は一般的に二酸化炭素の密度に依存し、液体および高圧の超臨界二酸化炭素条件で高くなる。一方、生理活性物質の多くは体温以上になるとその生理活性を失活することも多い。また極端な高圧条件では装置の設置および運転に伴うコストが増大する。このため、生理活性物質の含浸は、該生理活性物質の分解(変性も含む)温度以下で行うことが好ましく、一般的には室温-40℃、5-30MPaの液体又は超臨界状態の二酸化炭素条件下で、望ましくは31-40℃、7.5-30MPaの超臨界二酸化炭素条件下で行うことが好ましい。
【0054】
液体又は超臨界二酸化炭素への溶解度が低い生理活性物質については、有機溶媒を助溶媒として添加し、溶解度を増大させて含浸時間の短縮および均質性の向上を図ることも可能である。この場合の助溶媒は残留により人体に害を及ぼさないものであれば特に限定されない。中でもエタノールが好ましい。有機溶媒の添加量は二酸化炭素に均一に溶解して分相しない状態であることが望ましい。エタノールの場合、40℃の条件下ではおよそ8MPa以上で二酸化炭素と任意の組成で均一相を生成する。助溶媒の添加量は一般には0.1~50モル%、好ましくは0.5~20モル%が好適である。
【0055】
また、生理活性物質は、人体に無害な有機溶媒及び二酸化炭素の混合物を用いて、含浸することも可能である。本発明において、人体に無害な有機溶媒は、樹脂組成物への含浸後に、人体に無害な量にまで除去し得るものも含む。このような有機溶媒としてはエタノールが好ましく挙げられる。また、二酸化炭素は、気体、液体又は超臨界状態の何れでもよいが、好ましくは液体又は超臨界状態である。有機溶媒及び二酸化炭素の混合比率は、有機溶媒及び二酸化炭素が均一に溶解して分相しない、すなわち均一相を生成するような量であることが望ましい。エタノールの場合、40℃の条件下ではおよそ8MPa以上で二酸化炭素と任意の組成で均一相を生成する。二酸化炭素と有機溶媒の混合物が均一相を
生成する温度条件及び圧力条件は、有機溶媒の種類に応じて決定でき、例えばJ. Chem. Eng. Data, 35, 62(1991)などを参照して決定することができる。
有機溶媒の量は、樹脂組成物の種類及び生理活性物質の種類、さらに樹脂組成物の膨潤、発泡挙動に応じて、決定することができる。一般に、有機溶媒と二酸化炭素の混合物においては、有機溶媒の量が大きいほど、生理活性物質の溶解度は高くなる。一方、樹脂組成物の膨潤は有機溶媒の量が大きいほど減少し、生理活性物質は樹脂組成物内部に入りにくくなる。両者の競争により、樹脂組成物および生理活性物質の種類によって、含浸が最も効率的に進行する有機溶媒の量が存在する。また、含浸後、圧力を下げる操作において、樹脂組成物に溶解した二酸化炭素により樹脂組成物が発泡し、形状に影響を与える場合があるが、有機溶媒の量を大きくすることで形状を維持することができる。有機溶媒の量は、全溶媒(有機溶媒及び二酸化炭素の和)に対して、好ましくは2~80モル%、さらに好ましくは5~75モル%、さらに好ましくは5~25モル%である。
【0056】
生理活性物質の生分解性ポリマーを含む樹脂組成物への含浸は、生分解性ポリマー〔I〕と生分解性ポリマー〔II〕を含む樹脂組成物を溶融混練し、冷却し、所望の形状に成形した後、上記の二酸化炭素条件下、又は二酸化炭素及び上記有機溶媒の混合物の条件下で行うことが好ましい。二酸化炭素は高拡散性、低粘性であり、複雑な形状を持つ担体へその形状を維持したまま生理活性物質を迅速、均質に含浸することが可能である。後処理により生理活性物質を含浸することで、同一の組成、形状を有する生分解性ポリマーを含む樹脂組成物から種々の生理活性物質を含有する製品を得たり、複数の生理活性物質を連続的に含浸したりすることが可能となる。
【0057】
本発明の樹脂組成物に、任意成分を添加する場合を添加する方法も、成分の種類に応じて適切な方法をとることができる。熱安定性を有する物であれば樹脂混練の際に添加しても良いし、熱安定性がないものであれば混練後、別途塗布、含有、あるいは表面処理で加えることも可能である。
【0058】
本発明の樹脂組成物は、種々の公知の成形方法によって所望の形状に成形して、成形体とすることができる。成形方法として、具体的には、押出成形、射出成形、回転成形、吹き込み成形、ブロー成形、トランスファー成形、プレス成形、溶液キャスト法等の成形方法が挙げられる。これらの各成形方法により得られる成形体は、前記成形方法に対応して、順に、押出成形体、射出成形体、回転成形体、吹込成形体、ブロー成形体、トランスファー成形体、プレス成形体、溶液キャスト法成形体と呼ばれる。
【0059】
成形体の形状は、成形体の用途に応じて自由に設計することができる。
成形体の形状としては、フィルム状、シート状、板状、網状、繊維状、不繊布状、繊布状、フィラメント状、棒状、チューブ、パイプ、ボトル、円柱状又は異形品等が挙げられる。
【0060】
本発明の樹脂組成物は生体内に留置させる医療器具の材料として使用するのに適している。このような医療器具としては、体内埋込型(インプラント)の治療補助器具、組織縫合器具又は人工組織等が挙げられる。
以下、各成形体及びその用途について、説明する。
【0061】
フィルム状、シート状又は板状の成形体(フィルム類)を得るには、例えば、上記樹脂組成物を、ダイ(口金)を備えた押出機に供給する方法を使用できる。
フィルム類の製造に用いるダイとしては、Tダイ、円筒スリットのダイが好ましく用いられる。また、キャスト法や熱プレス法なども、フィルム類の製造に適用することができる。
また、成形体の厚みは特に限定するものではないが、1~1000μmの範囲が実用上
好ましく、1~500μmの範囲がさらに好ましい。
またフィルム類の表面に、前記生理活性物質やその他の任意成分を必要に応じて塗布、蒸着させることもできる。また、成形体の表面を、例えばα線、β線、γ線あるいは電子線等の照射、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、赤外線処理、スパッタリング処理、溶剤処理、研磨処理することもできる。これらの処理は、成形加工の過程で行なっても良いし、成形加工後に行なっても良いが、成形加工の過程、特に巻き取り機の手前で行うのが好ましい。
これらの成形体は、靭性、柔軟性、耐衝撃性(耐衝撃強さ)に優れ、脆性から延性(破断伸度が7%から200%以上)を有する。さらに、一定の歪が残る形状セット性(変形歪の80%以上が固定される)を有し、また、屈曲性、耐油性および接着性、ヒートシール性に優れるので、それらの特性を生かした医薬品の包装用フィルムやテープ、医療処置で用いるフィルム、ラミネート用フィルム、人工皮膚等の人工組織等に好適である。
【0062】
フィラメント状の成形体を得るには、前記樹脂組成物を、押出機によってストランドダイへ溶融押出した後、高速で巻き取る方法を使用できる。また、網状、繊維状、不繊布状及び繊布状の成形体も、フィラメント状の成形体を用いて、繊維を製織、編成、接合させることにより得ることができる。
【0063】
生理活性物質や任意成分で表面処理する場合には、フィルム類と同様に行うことができる。
これらの成形体は、靭性、柔軟性、耐衝撃性(耐衝撃強さ)に優れるので、それらの特性を生かして、縫合糸、ガーゼ等の組織縫合器具等に好適である。
【0064】
棒状、チューブ、パイプ、円柱状、異形品等の成形体を得るには、押出機を用いて成形する方法を使用できる。また、ボトル、中空異形品等の中空成形体を得るには、ブロー成形機を使用して、上記樹脂組成物に、空気、水などの流体圧力を吹き込んで、金型内へ密着させる方法(ブロー成形)を使用できる。
これらの成形体は、靭性、柔軟性、耐衝撃性(耐衝撃強さ)に優れ、形状セット性を有しているため、それらの特性を生かして、ステント、プラグ、ネジ、ピン、スキャフォールド、ドラッグデリバリーシステム、骨固定材、骨接合材、骨セメント、歯周病手術時の歯根膜の組織再生を促すための器具等の体内埋込型の治療補助器具、ステープル、クリップ等の組織縫合器具、人工中耳、整形用移植片、神経導通体、人工血管等の人工組織等に好適である。
【0065】
また、本発明の樹脂組成物は、体内外をつなぐカテーテルのような経皮デバイスの表面をコーティングするのに用いたり、医療器具の一部の構造の製造に用いたりすることも可能である。
【0066】
本発明の樹脂組成物は、生体内消滅型ステントの材料として用いることが特に好ましい。本発明の樹脂組成物は体内で吸収される生分解性である特性を有しつつ、かつ金属のような延性、形状セット性、柔軟性を有し、磁気の影響も受けないので、ステントの材料としては非常に好適である。さらに生体内への留置後、樹脂が分解する全期間に渡って、生理活性物質(薬剤)が徐放されるため、ステントの留置による2次的な疾患を予防することも容易になる。
【0067】
ステントの形状や大きさは、血管、胆管、気管、尿道、食道などの適用箇所、適用目的によって適宜決定すればよい。ステントは自己拡張型でもバルーン拡張型でもよい。金属のような延性、形状セット性を有する本発明の樹脂組成物は、従来のステントの主な材料であるステンレスの代替品として使用できるので、医療分野での大きな貢献が望まれる。よって、本発明による樹脂組成物のように良好な物性及び生理活性物質を有する材料を提
供することが可能となれば、その影響は甚大である。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。また、本発明の試験は以下の方法による。
【0069】
(1)引張試験
薄肉ダンベル型試料の試験は約0.5mm厚のフィルムから2号型試験片の1/2の大きさのダンベル型を打ち抜き、JIS K7113に準じて実施した。試験機はOrientec (UCT) Tensilonを用いた。測定は同じ試料について3~5回繰り返した。
以上の引張試験より引張弾性率、破断伸度を求めた。
【0070】
(2)残存歪率
薄肉ダンベル型試験片(厚さ約0.5mm、2号型試験片の1/2の大きさのダンベル型)を10mm/minの速度で、試験片の試験部有効長16mmが、32mmまで伸長されたときを、与えた歪量=100%、48mmまで伸長されたときを、与えた歪量=200%、として、伸長させた後、圧縮方向に同じ速度で戻し、そのときに荷重ゼロとなる点から残存歪率を求めた。試験機はOrientec (UCT) Tensilonを用いた。
【0071】
(3)引張衝撃試験
薄肉の試料(約0.5mm厚)を用いてJIS K7160 (ISO 8256)に準じてシャルピー引張衝撃試験を実施した。試験機は東洋精機製のデジタル衝撃試験機を用いた。
【0072】
以下の製造例及び参考製造例に用いた原料は以下の通りである。ガラス転移温度と融点は、示差走査熱量計を用いて測定した。また、各ポリマーの分子量はゲル浸透クロマトグラフ分析装置で測定した。また、共重合体の組成及び平均連続鎖長は核磁気共鳴分光法(1H-NMR)で測定した。
【0073】
生分解性ポリマー〔I〕:40℃以上のガラス転移温度を有する生分解吸収性ポリマーとしてポリ乳酸(PLA)を選択した。
(イ) 三井化学社製H-280 [190℃、2.16kg荷重におけるMFRは2.5g/10min、数平均分子量Mn=4.4万、重量平均分子量 Mw=13.5万、非晶性、ガラス転移温度=52.0℃](以下、PLA-1として略称することがある。)
(ロ) 三井化学社製 H-400 [190℃、2.16kg荷重におけるにおけるMFRは3g/10min、数平均分子量Mn=2.9万、重量平均分子量 Mw=10.5万、ガラス転移温度=60.2℃、融点=166℃](以下、PLA-2として略称することがある。)
【0074】
生分解性ポリマー〔II〕: 40℃未満のガラス転移温度または副転移温度を有する生分解吸収性ポリマーとして具体的にはラクチド-εカプロラクトン共重合体、またはラクチド-トリメチレンカーボネート共重合体)(以下、カプロラクトンをCL、トリメチレンカーボネートをTMCと略称することがある)を選択した。
(イ) 多木化学製 ラクチド-εカプロラクトン共重合体 [数平均分子量 Mn=約18万、ガラス転移温度=11.8℃、カプロラクトン含量=30.9重量%、カプロラクトン平均連続鎖長=1.91ユニットのランダム共重合体] (以下、P-1として略称することがある。)
(ロ) 多木化学製 ラクチド-εカプロラクトン共重合体 [数平均分子量 Mn=約19万、ガラス転移温度=-26.2℃、カプロラクトン含量=58.4重量%、カプロラクトン平均連続鎖長=3.2ユニットのランダム共重合体] (以下、P-2として略称することがある。)
(ハ) 多木化学製 ラクチド-トリメチレンカーボネート共重合体 [数平均分子量 Mn
=約19万、ガラス転移温度=6.2℃、トリメチレンカーボネート含量=52.1重量%、トリメチレンカーボネート平均連続鎖長=2.34ユニットのランダム共重合体] (以下、P-3として略称することがある。)
【0075】
生理活性物質:抗がん剤である、東京サプライ(株)から購入したパクリタキセルを使用した。(純度99%、中国産)
本発明で得られた樹脂組成物中の生理活性物質(薬剤)濃度はクロロフォルムを溶媒として蛍光分光検出器の付いたゲル浸透クロマトグラフにより、分析した。
【0076】
せん断混練装置について説明する。
ポリ乳酸含有組成物の試料調製には、本研究室で開発した小型二軸コニカルスクリュー押出成形機を用いた。(L/D=5、コニカルスクリュー根元径D=20mm、回転数範囲=0~360rpm、温度範囲=常温~400℃、バッチ式/フロー式の両モードの使用が可能)
【0077】
生分解性ポリマー〔I〕と生分解性ポリマー〔II〕の混合割合を薬剤含浸前ポリマーブレンドの組成として表1に示す。
【0078】
【表1】
JP0005288370B2_000002t.gif

【0079】
上記で得られた樹脂組成物の物性の測定結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
JP0005288370B2_000003t.gif

【0081】
ポリ乳酸単体(参考製造例)は、非常に脆弱な物性を示す。しかし、ラクチド-εカプロラクトンランダム共重合体又はラクチド‐トリメチレンカーボネート共重合体をポリ乳酸に添加し、溶融混練すると表2の製造例1~9でも明らかなように、高い引張衝撃値を示した。これにより、脆弱なポリ乳酸が靭性を有する材料に改質されたことが明らかになった。
【0082】
ポリ乳酸単体(参考製造例)の破断伸度は約10%で非常に脆性であるのに対し、本来脆弱なポリ乳酸にラクチド-εカプロラクトンランダム共重合体又はラクチド-トリメチレンカーボネート共重合体を添加するとその破断伸度は飛躍的に上昇した。特に、ポリ乳酸(PLA)とランダム共重合体(P-1)とをブレンドした系すべてにおいてその変化は著しかった。
【0083】
表2に示した製造例1~4で明らかなように、破断伸度を飛躍的に上昇させ、かつ残存歪率を持たせるには、生分解性ポリマー〔II〕のガラス転移温度は「10℃以上」が好ましいことが分かる。生分解性ポリマー〔II〕のガラス転移温度が10℃以上であれば、生成した樹脂組成物も10℃以上のガラス転移温度を有することが、確認されている。
【0084】
また、P-1とP-2をそれぞれ用いて調製したポリ乳酸組成物(製造例1と5、製造例3と6)の破断伸度の比較から、ラクチド含量が高い生分解性ポリマー〔II〕を用いると、ポリ乳酸連続相と生分解性ポリマーから成る分散相の親和性が増加し、界面接着性も上がり、機械特性が向上する効果を生むのではないかと考えられる。また、ラクチド含量が高くなるということは同時にランダム共重合体のガラス転移温度も上昇することを意味しており、そのためガラス転移温度が10℃以上の温度範囲で最も良い特性が得られたものと
推察される。
【0085】
引張試験機で一定速度にて一定伸度まで伸長した後、引張方向から逆方向に一定速度で戻していくと、荷重の負荷のかからない状態での残存歪量を測定することができる。外部から与えられた歪量に対しての残存歪量の割合を求めることにより、残存歪率を算出した。このとき降伏点を越えると外部からの歪量に拘わらず、製造例すべてにおいてその歪量のほとんど(約90%)が残存歪量として保持されることが示された。このことにより、脆弱で変形に耐えることのできなかったポリ乳酸単体に形状セット性の機能を付加できたことが明らかになった。
【0086】
上記で得た製造例1及び参考製造例の樹脂組成物に、生理活性物質を含浸させた。高圧二酸化炭素中での生理活性物質(薬剤)の含浸方法は次の手順で行われた。
予めエタノールにて洗浄し、製造例及び参考製造例の樹脂組成物からなる乾燥した薄肉試験片(厚さ約0.5mm、12mm×12mm)1枚とパクリタキセル4.7-8.1mgを、相互に接触しないよう耐圧硝子製流通型圧力容器(内容積50cm3)内に設置した。パクリタキセルの使用量は、含浸条件におけるパクリタキセルの溶解度と試験片に吸収される量の双方を考慮し、何れの場合もパクリタキセルが大過剰となるように設定した。内部を低圧の二酸化炭素ガスによりパージしたのち、高圧ポンプ(日本分光製SCF—201)を用いて二酸化炭素圧入し、最終的に40℃、20MPaの超臨界状態とした。この内部の温度、圧力を保持したまま18-24時間放置し、パクリタキセルの含浸を行った。含浸過程の終了後、試験片の発泡を抑制するため、まず圧力を保持したまま室温まで冷却し、次いで0.1MPa/分以下の減圧速度となるよう徐々に二酸化炭素を容器内より放出して減圧を行って試料を得た。
【0087】
溶媒として、二酸化炭素及びエタノールの混合物を使用する場合は、エタノールを、含浸時に圧力容器内に存在する全溶媒の5、25、50、75モル%の量となるように小型ガラス容器を用いて圧力容器内に設置した。パクリタキセルの高圧二酸化炭素への溶解度をオンライン抽出-定量法により、試験片の高圧二酸化炭素中における膨潤挙動を高圧可視化セル装置により予め検討し、含浸条件の最適化を行った。
【0088】
含浸後の試験片中に含まれるパクリタキセルの含有量については以下の通り測定した。試験片の一部をクロロホルムに溶解後、ゲル浸透クロマトグラフ分析装置によりパクリタキセルを分離し、ゲル浸透クロマトグラフ分析装置に接続された日本分光製FP920S型蛍光分光光度計を用いて、励起波長540nm、検出波長583nmにおける蛍光強度を測定した。この蛍光強度から予め測定した検量線を用いて、試験片のパクリタキセルの含有量を求めた。結果を表3に示す。
【0089】
【表3】
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【0090】
参考製造例で得た樹脂の試験片を、1.5×10-4mol/dm3 の濃度でパクリタキセルを溶解した40℃、20MPaの超臨界二酸化炭素中に24時間保持し、減圧後取り出して試料を調製した(参考例1)。この試料のパクリタキセル濃度は1.4×10-7モル/gであった。
【0091】
参考製造例で得た樹脂の試験片を、1.5×10-4mol/dm3 の濃度でパクリタキセルを溶解した40℃、20MPaの超臨界二酸化炭素およびエタノール混合物(両者のモル比95:5)中に18時間保持し、減圧後取り出して試料を調製した(参考例2)。この試料のパクリタキセル濃度は16.8×10-7モル/gであった。
【0092】
参考製造例で得た樹脂の試験片を1.5×10-4mol/dm3 の濃度でパクリタキセルを溶解した40℃、20MPaの超臨界二酸化炭素およびエタノール混合物(両者のモル比75:25)中に24時間保持し、減圧後取り出して試料を調製した(参考例3)。この試料のパクリタキセル濃度は13.0×10-7モル/gであった。
【0093】
参考製造例で得た樹脂の試験片を、1.5×10-4mol/dm3 の濃度でパクリタキセルを溶解した40℃、20MPaの超臨界二酸化炭素およびエタノール混合物(両者のモル比50:50)中に24時間保持し、減圧後取り出して試料を調製した(参考例4)。この試料のパクリタキセル濃度は6.5×10-7モル/gであった。
【0094】
参考製造例で得た樹脂の試験片を、1.5×10-4mol/dm3 の濃度でパクリタキセルを溶解した40℃、20MPaの超臨界二酸化炭素およびエタノール混合物(両者のモル比25:75)中に24時間保持し、減圧後取り出して試料を調製した(参考例5)。この試料のパクリタキセル濃度は4.7×10-7モル/gであった。
【0095】
参考製造例で得た樹脂の試験片を、1.2×10-3mol/dm3 の濃度でパクリタキセルを溶解した40℃のエタノール中(大気圧≒0.1MPa)に24時間浸漬し、取り出して風乾し試料を得た(比較参考例)。この試料のパクリタキセル濃度は、0.8×10-7モル/gであり、参考例1~5の8倍のパクリタキセル濃度で含浸を行っているにもかかわらず、はるかにこれらの含有量を下回った。
【0096】
製造例1で得た樹脂の試験片を、1.5×10-4mol/dm3 の濃度でパクリタキセルを溶解した40℃、20MPaの超臨界二酸化炭素中に24時間保持し、減圧後取り出して試料を調製した(実施例1)。この試料のパクリタキセル濃度は0.9×10-7モル/gで
あった。
【0097】
製造例1で得た樹脂の試験片を、1.5×10-4mol/dm3 の濃度でパクリタキセルを溶解した40℃、20MPaの超臨界二酸化炭素およびエタノール混合物(両者のモル比75:25)中に24時間保持し、減圧後取り出して試料を調製した(実施例2)。この試料のパクリタキセル濃度は9.0×10-7モル/gであった。
【0098】
製造例1で得た樹脂の試験片を、1.2×10-3mol/dm3 の濃度でパクリタキセルを溶解した40℃のエタノール中(大気圧≒0.1MPa)に24時間浸漬し、取り出して風乾し試料を得た(比較例)。この試料のパクリタキセル濃度は、0.4×10-7モル/gであり、実施例1、2の8倍のパクリタキセル濃度で含浸を行っているにもかかわらず、はるかにこれらの含有量を下回った。
【0099】
これらの結果より、超臨界二酸化炭素を溶媒に使用した含浸では、エタノール溶液による含浸よりも効果的に生理活性物質を保持できることがわかる。これは、超臨界二酸化炭素は、拡散性が高く樹脂に溶解してこれを膨潤する高い効果を有するため、樹脂の内部に生理活性物質が導入されやすく、減圧の際に生理活性物質の二酸化炭素への溶解度が急激に低下するとともに、前記樹脂の膨潤が減少するため、試料内部に保持される生理活性物質の量が多くなるためであると考えられる。また、参考例1~5の結果より、超臨界二酸化炭素とエタノールの混合物については、組成によって含浸の効率が変化し、ある特定の組成において極大値を取ることがわかる。これは、エタノールを用いることで生理活性物質の溶解度を増大させることができる一方で、エタノールは樹脂組成物への超臨界二酸化炭素の溶解には貧溶媒として働くため、添加量の増大と共に樹脂組成物の膨潤効果を損なうためであると考えられる。すなわち、上記減少の競合によって、ある特定の組成において含浸の効率に極大値が表れたもの考えられる。従って、超臨界二酸化炭素への生理活性物質の溶解度、樹脂組成物への超臨界二酸化炭素の溶解度に応じて、エタノールと二酸化炭素の最適な組成を決定することで、様々な生理活性物質-樹脂組成物の組み合わせにおいて効果的な含浸を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の樹脂組成物を用いて、種々医療器具を製造することにより、生理活性物質(薬剤)による局所的な治療が可能となるので、臨床面でも新しい道を切り拓くことが期待される。本発明の樹脂組成物は、これまで使用されてきた金属材料が有する形状セット性、延性などの特性を自身が有しているために、金属基材の代わりに利用することができ、磁気の影響などを心配する必要もない。これらの優れた点から近年積極的に行われている再生医療への利用も促進されるであろう。