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明細書 :飲食品や薬剤等の保管状態判定方法およびそのインジケータ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4392722号 (P4392722)
登録日 平成21年10月23日(2009.10.23)
発行日 平成22年1月6日(2010.1.6)
発明の名称または考案の名称 飲食品や薬剤等の保管状態判定方法およびそのインジケータ
国際特許分類 C12Q   1/02        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
FI C12Q 1/02
C12M 1/00 Z
請求項の数または発明の数 8
全頁数 11
出願番号 特願2004-504212 (P2004-504212)
出願日 平成15年5月2日(2003.5.2)
国際出願番号 PCT/JP2003/005606
国際公開番号 WO2003/096309
国際公開日 平成15年11月20日(2003.11.20)
優先権出願番号 2002134807
優先日 平成14年5月10日(2002.5.10)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成18年3月10日(2006.3.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
【識別番号】307026374
【氏名又は名称】二瀬 克規
発明者または考案者 【氏名】一色 賢司
【氏名】小川 順三
個別代理人の代理人 【識別番号】100077126、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 盛夫
【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
【識別番号】100080687、【弁理士】、【氏名又は名称】小川 順三
【識別番号】100077126、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 盛夫
審査官 【審査官】引地 進
参考文献・文献 実開平07-007500(JP,U)
特開昭63-218767(JP,A)
特開平02-257872(JP,A)
特開昭59-122921(JP,A)
特開平11-051555(JP,A)
特表平11-508138(JP,A)
特表平10-504464(JP,A)
国際公開第98/020337(WO,A1)
特開2001-272283(JP,A)
International Journal of Food Microbiology,1996年,Vol.33,pp.103-120
Trends in Food Science & Technology,1999年,Vol.10,pp.356-365
調査した分野 C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus(JDreamII)
PubMed
Science Direct
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
密閉された軟質フィルム製の透明な小袋内に、pH調整したpH変色型色素を含有する果実、野菜および/またはそれらの搾汁からなる色素成分と食品由来微生物である酸産生菌とを充填して密封し、前記小袋を、判定すべき飲食品または薬剤に付帯させて同じ環境下に置き、該小袋内における微生物の増殖による前記色素成分の作用による変色程度によって、飲食品または薬剤の保管状態の良否を判断するようにしたことを特徴とする、飲食品や薬剤の保管状態判定方法。
【請求項2】
密閉された軟質フィルム製の透明な小袋内に、pH調整したpH変色型色素を含有する果実、野菜および/またはそれらの搾汁からなる色素成分と食品由来微生物である酸産生菌とを、培養液および/または培地とともに充填して密封し、前記小袋を、判定すべき飲食品あるいは薬剤に付帯させて同じ環境下に置き、該小袋内における微生物の増殖による前記色素成分の作用による培養液および/または培地の変色程度によって、飲食品または薬剤の保管状態の良否を判定するようにしたことを特徴とする飲食品や薬剤の保管状態判定方法。
【請求項3】
前記pH変色型色素は、アントシアニン色素であることを特徴とする請求の範囲1または2に記載の飲食品や薬剤の保管状態判定方法。
【請求項4】
前記pH調整は、色素成分を、鹹水の如きアルカリ水、焼成カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムおよび炭酸水素カリウムのうちから選ばれるいずれか1種以上のpH調整液を用いてpH=7超~14に調整することを特徴とする請求の範囲1または2に記載の飲食品や薬剤の保管状態判定方法。
【請求項5】
密閉された軟質フィルム製の透明な小袋内に、pH調整したpH変色型色素を含有する果実、野菜および/またはそれらの搾汁からなる色素成分と食品由来微生物である酸産生菌とを充填し密封してなる飲食品や薬剤の保管状態判定用インジケータ。
【請求項6】
密閉された軟質フィルム製の透明な小袋内に、pH調整したpH変色型色素を含有する果実、野菜および/またはそれらの搾汁からなる色素成分と食品由来微生物である酸産生菌とを、培養液および/または培地とともに充填し密封してなる飲食品や薬剤の保管状態判定用インジケータ。
【請求項7】
前記pH変色型色素は、アントシアニン色素であることを特徴とする請求の範囲またはに記載の飲食品や薬剤の保管状態判定用インジケータ。
【請求項8】
前記pH調整は、色素成分を、鹹水の如きアルカリ水、焼成カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムもしくは、炭酸水素カリウムのうちから選ばれるいずれか1種以上のpH調整液を用いてpH=7超~14に調整することを特徴とする請求の範囲またはに記載の飲食品や薬剤の保管状態判定用インジケータ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、農産物や畜産物、魚介類などの生鮮食品、弁当や惣菜などの加工食品、ジュースや酒などの飲料、醤油やソース、みそなどの調味料からなる飲食品、あるいはワクチン、生化学用サンプル、化粧品などの薬剤についての保管状態、とくに保管環境における温度や経過時間などで示される流通履歴の影響によって起こる、これらの物品の変質や鮮度の低下を客観的に評価判定するための保管状態判定方法およびこの判定方法に用いて有効なインジケータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
生鮮食品や加工食品、ジュースなどの飲料、ワクチン血液等の薬剤(以下、便宜上、これらを総称して「飲食品等」と略記して述べる)は、これらの安全性を確保するため、流通過程に保持された時間、即ち保管時間のみならず、その流通環境の温度履歴などの管理が重要である。もし、流通時の環境温度や経過時間の管理を誤ると、例えば生鮮食品の場合は、変質(鮮度の低下)を招くだけでなく、腐敗することさえあり、さらには食中毒を発生する危険さえもあった。
【0003】
こうした飲食品等の変質や腐敗は、その多くが、生産者から流通業者を経て消費者に渡り、飲食や使用に供されるまでの間に微生物が増殖することによって生じる。ところが、飲食品等の品質は、従来、該飲食品自体の腐敗に伴う異臭や変色、異味等を人の感覚によって主観的に判断するのが普通である。しかしながら、こうした主観的な判断には個人差があり、正しい品質(変質や腐敗の進行程度)を知るのは難しいのが実情である。
【0004】
しかも、こうした飲食品等の品質低下は、たとえその飲食品等がチルド域(-5~5℃)またはクーリング域(5~10℃)に保存されていたとしても生じることがある。それは、実際の流通過程において、該飲食品等がどのような温度環境にあったか、どのように取り扱われたかという条件、例えば、該飲食品等を保冷庫に入れるまでの時間や、出し入れの回数などによって異なるからである。とくに、該飲食品等の腐敗は、保管環境の温度が高ければ高い程、また保管時間が長くなればなるほど進行しやすくなる。このような背景の下で、従来より、流通過程における温度上昇や保管時間の経過に伴う飲食品等の品質低下を判定するためのインジケータの開発が強く求められてきた。
【0005】
このような飲食品等の品質低下や異変等を判定するためのインジケータとしては、例えば、特開平11-194053号公報に開示された方法がある。この技術は、拡散性の染料が温度上昇と時間の経過により、染料拡散層に拡散浸透し、変色することによって温度履歴を確認する方法である。また、特開平11-296086号公報には、加熱温度と時間に依存して変色するインクを用いて、記号、図形または文字を飲食品の包装に直接印刷、または紙や樹脂シートに印刷したものを包装に貼付することによって飲食品等の温度履歴を表示する方法が開示されている。しかしながら、これらの方法は、加熱温度と保持時間による微生物増殖の関係から、飲食品等の増殖の程度を推測する方法であり、実際にどの程度、微生物が増殖しているのかを客観的に判断することはできない。従って、実際の流通過程での飲食品等の取り扱いは、未だ高い品質を充分に保持している場合でさえも、危険を避けるために廃棄処分するのが普通で、非経済的であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来技術が抱えている上述した問題に鑑み、飲食品等の品質が保管環境の温度変動および/または保管時間の経過によって変質する場合に、その変質の程度、すなわち鮮度の低下などを、微生物の増殖の程度として視覚的に捉えられるようにすることにより、簡便かつ客観的に判定することのできる、飲食品や薬剤等の保管状態判定方法およびそのインジケータを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記目的を実現するため、実際の流通食品中に含まれている食品由来の微生物に着目し、鋭意研究を重ねた。その結果、本発明の判定方法としては、pH変色型色素を含有する微生物を用いることが上記の目的を実現する上で有効であるとの知見を得た。すなわち、本発明は、密閉された軟質フィルム製の透明な小袋内に、pH調整したpH変色型色素を含有する果実、野菜および/またはそれらの搾汁からなる色素成分と食品由来微生物である酸産生菌とを充填して密封し、前記小袋を、判定すべき飲食品または薬剤に付帯させて同じ環境下に置き、該小袋内における微生物の増殖による前記色素成分の作用による変色程度によって、飲食品または薬剤の保管状態の良否を判断するようにしたことを特徴とする、飲食品や薬剤の保管状態判定方法である。
【0008】
また、本発明は、密閉された軟質フィルム製の透明な小袋内に、pH調整したpH変色型色素を含有する果実、野菜および/またはそれらの搾汁からなる色素成分と食品由来微生物である酸産生菌とを、培養液および/または培地とともに充填して密封し、前記小袋を、判定すべき飲食品あるいは薬剤に付帯させて同じ環境下に置き、該小袋内における微生物の増殖による前記色素成分の作用による培養液および/または培地の変色程度によって、飲食品または薬剤の保管状態の良否を判定するようにしたことを特徴とする飲食品や薬剤の保管状態判定方法である。
【0009】
また、本発明は、密閉された軟質フィルム製の透明な小袋内に、pH調整したpH変色型色素を含有する果実、野菜および/またはそれらの搾汁からなる色素成分と食品由来微生物である酸産生菌とを充填し密封してなる飲食品や薬剤の保管状態判定用インジケータである。
【0010】
また、本発明は、密閉された軟質フィルム製の透明な小袋内に、pH調整したpH変色型色素を含有する果実、野菜および/またはそれらの搾汁からなる色素成分と食品由来微生物である酸産生菌とを、培養液および/または培地とともに充填し密封してなる飲食品や薬剤の保管状態判定用インジケータである。
【0011】
なお、本発明において用いられる前記食品由来微生物である酸産生菌としては、前記pH変色型色素はアントシアニン色素を用いること、および前記pH調整の方法としては、色素成分を、鹹水の如きアルカリ水、焼成カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムおよび炭酸水素カリウムのうちから選ばれるいずれか1種以上のpH調整液を用いてpH=7超~14に調整することが好ましい。
【0012】
まず、食品由来の微生物について説明する。一般に、食品由来微生物は、飲食品等の中にあって、発酵と腐敗の働きを司るものである。発酵とは、有用微生物およびそれらが作り出す酵素が有機物を代謝し、有用物質を生産する現象を言い、醸造や発酵食品(醤油、味噌等)などの分野で広く利用されている。これに対し、腐敗は、有害微生物(腐敗微生物)が食品中の炭水化物やタンパク質、脂肪などを分解する酵素を菌体外に分泌し、その分解物を栄養源として繁殖することによって品質を低下させる現象をいう。なお、この分解生成物(有機酸、アルデヒド、アンモニア等)が、腐敗臭や味の変質、変色等の原因になっている。
【0013】
前記のとおりの食品由来微生物が、代謝やつくり出す酵素によって食品中の有機物を分解する際に、分解生産物と共に酢酸等の有機酸やCOなどの酸性ガスを発生する機能を酸産生機能と言い、こうした機能を有する微生物を酸産生菌あるいはガス産生菌と言う(以下、「酸産生菌」という)。前記酸産生菌による有機物の分解は、酸の産生開始温度を超えたあたりから始まり、増殖した菌の1つ1つから少量の酸を徐々に発生する。なお、この酸産生開始温度は、酸産生菌の種類や保存状態によって異なるが、ほとんどの酸産生菌において1~10℃の範囲内にある。
【0014】
発明者らは、このような酸産生機能をもつ酸産生菌に、ブドウやブルーベリー等の果汁に含まれ、pHの変化により色調や安定度が大きく変わるアントシアニンと呼ばれる色素を添加したものを利用すれば、該酸産生菌の増殖に伴う飲食品等の品質低下(腐敗の進行)をより正確に、かつ客観的に判定することができることをつきとめた。なお、このアントシアニン色素は、果実の他、植物の花や葉、根にも含まれ、酸性域では赤色を示し、中性域では紫色を示し、そしてアルカリ性域では青~緑色に変化するという特性を有するものである。
【0015】
上述したように、酸産生菌による有機物分解反応、つまり酸産生機能の特徴は、単に飲食品等の経過(保存)時間だけに依存して生じるものではなく、該飲食品等が置かれる保管環境の温度変化にも依存して起こり、これらの2つの因子の相加・相乗的な作用の下で徐々に進行し、分解生産物と共に酸性物質やCOなどの酸性ガスを発生する点にある。即ち、こうした酸産生菌の繁殖と酸産生反応の進行に伴い、飲食品等が次第に酸性化し、pHが低下することになる。
【0016】
そこで、発明者らは、乳酸菌の如き酸産生菌と予めpH調整したアントシアニンの如きpH変色型色素を有する色素成分(果物、野菜など)とを混合して試料液を調整し、その後、これら(酸産生菌と色素との混合物)を合成樹脂製軟質フィルムの小袋(合成樹脂製フィルムをヒートシールすることにより形成し)内に充填し密封してなるインジケータを作製し、このインジケータを飲食品等と共に同じ環境下に置いて一緒に保存するという実験を行なった。なお、酸産生菌の繁殖を促進させるため、前記試料液中には、培養液および/または培地を添加してもよい。この実験の結果、温度および時間の経過によって、前記インジケータ内で酸産生菌が繁殖するとともに、酸産生反応が起こり、酸性物質やCOなどの酸性ガスを発生すると同時に、アントシアニン色素の色調変化によって試料液が徐々にアルカリ性の青~緑色から酸性の赤色に変色することがわかった。例えば、前記小袋内に封入した試料液を、被判定対象品と同じ条件下に保管した場合、時間の経過と温度上昇の程度に応じて、該試料液中に酸産生菌の増殖が起り、品質や鮮度の低下を招くと同時に、次第に酸性物質や酸性ガス(CO、HCO、HCO)の発生が増える。しかも、試料液中のアントシアニン系色素が変色していくので、その色の変化を観察すれば、飲食品等の品質、鮮度の低下(腐敗の進行程度など)を、視覚によって速やかに見極めることができるようになるのである。
【0017】
なお、アントシアニンの如きpH変色型色素を含有する色素成分は、pH7超~14に調整することが好ましい。より好ましくは、pH8~9に調整する。この色素成分のpH調整の方法は、鹹水の如きアルカリ水、焼成カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムおよび炭酸水素カリウムのうちから選ばれるいずれか1種以上のpH調整液を用いて行なうことが好ましい。この理由は、これらのpH調整液はいずれも食品添加物として認可されているものであり、取扱いが容易で安全でからである。
【0018】
また、本発明に係る判定方法およびインジケータの実施に用いられる食品由来微生物(酸産生菌)としては、第1表に示す菌、酵母およびかびのうちから選ばれるいずれか1種以上を用いることが好ましい。
【0019】
【表1】
JP0004392722B2_000002t.gif【0020】
また、本発明に用いられる色素成分としては、上述したように、アセロラ、イチゴ、クランベリー、サクランボ、ザクロ、野イチゴ、ブドウまたはブルーベリーなどの果実、黒豆、シソまたはナスなどの野菜および/またはそれらの搾汁、あるいはカルテノイド系色素、キノン系色素、コチニール色素あるいはウコン色素などを用いることが好ましい
【0021】
発明に係る判定方法が、従来の判定方法よりも優れている点の1つは、本発明の場合、実際の飲食品等の腐敗や品質低下の要因となる微生物による分解反応(酸産生反応)と同じ反応を容器や小袋内で起させ、インジケータとして利用している点にある。即ち、本発明では、上記インジケータを、保管温度と保管時間が変動する実際の流通過程における飲食品等と同じ環境下に保持、保管しておくことにより、飲食品等の内部で起る微生物の働きと同じ条件を前記小袋内で再現させることができ、より正確な飲食品等の品質低下、とくに腐食の程度を直接的な方法に近い条件で検知することができるようになる。
【0022】
次に、本発明に係る前記インジケータの作製方法について説明する。
まず、乳酸菌の如き酸産生菌と共にpH調整したアントシアニンの如きpH変色型色素を有する色素成分(果実や野菜など)とを混合し、必要に応じて酸産生菌の繁殖の促進を目的として培養液および/または培地を添加して試料液を作製する。
【0023】
なお、前記試料液の作製においては、酸産生菌とその他の成分とは別々に保管し、軟質フィルムの縦・横をヒートシールして形成される小袋内に充填する直前に混合する。また、アントシアニン系色素は、アルカリ性で分解し易い特性があるため、試料液の作製は使用する直前に行なうことが望ましい。
【0024】
上記のようにして作製した酸産生菌を種菌した試料液を、軟質フィルムの縦・横をヒートシールして形成される透明な小袋内に充填して密封し、インジケータを作製する。この充填密封は、特許第2930515号、特開2001-335005号公報および特開2002-2601号公報などに開示されている充填装置を用いて行なうが、この際、充填雰囲気に注意することが肝要である。これは、本発明に係る方法が、インジケータ内での酸産生菌による酸産生反応の進行に伴い、pHが低下し、アントシアニン色素の如きpH変色型色素が変色する程度によって食品の品質低下を判断する技術であるから、インジケータ内が初めから酸性雰囲気下だと、飲食品等の保管状態、とくに品質低下の進行程度を正確に判定することができなくなるためである。
【0025】
この意味において、本発明に用いる酸産生菌としては、アルカリ性環境下でも生育できる食品由来微生物のうち、乳酸菌等の細菌、パン酵母等の酵母、および麹カビ等のカビのうちから選ばれるいずれか一種以上を用いることが必要である。これらの菌はいずれも、極端なアルカリ性環境下を除くすべての環境下で生育し、増殖することができるため、好適に用いることができる。
【0026】
なお、酸産生菌の生育促進を目的として添加される培養液としては、牛乳、肉エキス、果汁、野菜ジュースおよび発酵調味料などが好適である。また、培地としては、糖分の多い野菜や果実、例えば、ブドウ、リンゴ、ジャガイモなどが好適である。
【0027】
このようにして作製した酸産生菌を含む試料液を充填して封入したインジケータは、使用されるまで酸産生菌の酸産生開始温度以下、つまり0℃以下の温度で冷蔵保管する。
【0028】
また、本発明に適合する合成樹脂製軟質フィルムの小袋としては、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレンなどの透明なプラスチックフィルムを用いる。また、安全性を確保するため、前記フィルム袋のベースフィルムに二軸延伸ナイロン25μmなどの強度の高い材料を用いてもよい。透明な材料を用いる理由は、容器および袋内の前記混合物の色調変化を見るためである。
【実施例】
【0029】
以下の方法により、酸産生菌からの酸産生現象とアントシアニン系色素の色調との変化を確認した。
(乳酸菌の調整)
本実施例では、酸産生菌として乳酸菌を用いた。まず、市販の漬物液中に含まれる乳酸菌を分離した。これを乳酸菌液用培養液(肉エキス3g、ペプトン10gおよびぶどう糖5g)と混合した後、蒸留水1000mlに加温溶解した。これを、オートクレーブ滅菌した後、35℃で48時間培養して乳酸菌液を作製した。
【0030】
(実験1)
実験1では、アントシアニン色素を含有する色素成分として100%果汁のグレープジュース(赤紫色)を用いた。また、乳酸菌が生育しやすいように、グレープジュースと乳酸菌繁殖用培養液とを混合させた。すなわち、肉エキス1.5g、ペプトン5gおよびぶどう糖2.5gを蒸留水1000mlに加温溶解した後、オートクレーブ滅菌して培養液を作製し、この培養液(薄茶色)とグレープジュースとを2:1の割合で混合した後、鹹水(pH13)を加えてpHがそれぞれ4.2、5、6、7および9になるように調整して5種類の培養液-果汁混合液を得た。この培養液-果汁混合液15mlと、上記のとおり調整した乳酸菌液1mlとを混合し試料液を得た。そして、これらの試料液をNY15/XA-S50のラミネートフィルムを用いて作製した小袋中に充填した後、空気が混入しないようにヒールシートを施して実験用インジケータを作製した。
【0031】
上記のようにして作製した5種類のインジケータ(小袋)を、4℃の冷蔵庫内および30℃に設定した恒温槽内にそれぞれ24時間放置し、袋内のガス発生の有無と色調変化を確認した。4℃の冷蔵庫内に放置したインジケータについてはいずれも、ガス発生および色調変化ともに認められなかった。一方、30℃の恒温槽内に放置したインジケータについては、第1図に示すように、12時間経過後からガスの発生が始まり、24時間経過時には、袋が破裂しそうな程の多量のガスの発生が認められた。色調についても、若干ではあるが、色が次第に赤色が濃くなるように変化しているのがわかる。
【0032】
(実験2)
次に、市販の食品だけを用いて本発明に係るインジケータを作製し、食品中に含まれる乳酸菌からの酸産生とアントシアニン色素の色調の変化を確認した。すなわち、市販の漬物液(培地:野菜の糖分)と果汁20%グレープジュースとを5:1の割合で混合し、鹹水(pH13)を加えて、pHがそれぞれ4.8、6、7および8になるように調整して4種類の試料液を作製した。この試料液15mlをNY15/XA-S50のラミネートフィルムを用いて作製した小袋中に充填し、空気が混入しないようにヒールシートを施して実験用インジケータを作製した。
【0033】
前記のとおり作製した4種類のインジケータ(小袋)を、4℃の冷蔵庫内および30℃に設定した恒温槽内に、それぞれ48時間放置し、袋内のガス発生の有無と色調変化を確認した。
4℃の冷蔵庫内に放置したインジケータについては、ガスの発生および色調の変化は認められなかった。一方、30℃恒温槽内に放置したインジケータについては、第2図に示すように、すべてのインジケータで、12時間経過後からガスの発生が認められた。色調については、時間の経過に伴い、緑色から赤色に変化しているのが確認された。
【0034】
(実験3)
上述したように、アントシアニン系色素は、遊離状態では非常に不安定であり、褪色しやすく、とくに中性からアルカリ性の雰囲気下で不安定である。そこで、酸性、中性およびアルカリ性に調整したグレープジュースの褪色試験を行なった。まず、100%果汁のグレープジュースに鹹水(pH13)を加えて、pHがそれぞれ2.7、6および9になるように調整して3種類の試料液を作製した。この試料液10mlをNY15/XA-S50のラミネートフィルムを用いて作製した小袋中に充填し、空気が混入しないようにヒールシートを施して実験用インジケータを作製した。
【0035】
前記のとおり作製したインジケータ(小袋)を、日光照射下、蛍光灯下および暗所の3ヶ所に放置し、試料液の色調の変化を確認した。その結果を第3図に示す。日光照射下に放置した試料については、pHが6および9の試料において、時間経過毎に色調が褪せているのがわかる。しかしながら、蛍光灯下および暗所に放置した試料では、試料液の滅菌を行なわなかったために、pH6と9の試料液においてガスの産生が認められ、色調の変化も生じてしまい、褪色の有無を確認することができなかった。
【0036】
ところで、実験1では、30℃の高温下に放置したインジケータにおいて、経時毎にガス産生量の増加が確認できたものの、色調については、大きな変化は認められなかった。その理由としては、培養液の色が濃いために果汁の色調の変化がわかりずらくなってしまったことが原因であると考えられる。
【0037】
一方、実験2では、4℃の低温下に放置したインジケータにおいては、ガスの発生、色調の変化ともに認められなかったが、30℃の高温下に放置したインジケータにおいては、経時毎のガス産生量の増加と共に、色調の変化を確認することができた。すなわち、この実験2で用いたインジケータが、保管環境の温度および経過時間に依存して作用し、本発明に係るインジケータとして極めて有望であることが確認できた。なお、この実験では培養液として漬物液を利用したが、酸産生菌の種類と培養液あるいは培地等を検討することにより、温度、食品の種類に合わせて、様々なインジケータを提供することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上説明したように、本発明に係る飲食品等の本館状態判定方法およびこの方法の実施に用いるインジケータによれば、飲食品等の品質、とくに保管時の温度履歴、経過時間の両方に依存して変質する程度(腐食の進行程度等)を、その飲食品等の変質を小袋内に再現するような形で、より正確にかつ簡便に判定することができるようになる。本発明において、飲食品等とは、農産物、畜産物、魚介類などの生鮮食品、弁当や惣菜などの加工食料品、野菜や果物のジュースあるいは酒などの飲料、醤油やソース、みそなどの調味料、食料油、生化学用サンプル、化粧品、工業薬品、ワクチンなどの薬剤、血液、臓器、育畜用培地、種子その他の主として保存環境の温度や保存時間の影響を受けて変質したり、腐敗したりする物品を意味しており、このような物品の品質や鮮度を判定するのに有効に用いられる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、実験1における試料液の色調の経時変化を示す写真である。
第2図は、実験2における試料液の色調の経時変化を示す写真である。
第3図は、実験3における試料液の褪色の経時変化を示す写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2