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明細書 :多糖を含む素材からの低分子糖質等の製造法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5190858号 (P5190858)
公開番号 特開2008-035853 (P2008-035853A)
登録日 平成25年2月8日(2013.2.8)
発行日 平成25年4月24日(2013.4.24)
公開日 平成20年2月21日(2008.2.21)
発明の名称または考案の名称 多糖を含む素材からの低分子糖質等の製造法
国際特許分類 C12P  19/14        (2006.01)
C12P   7/08        (2006.01)
C07H   3/02        (2006.01)
C08B  37/08        (2006.01)
C08B  30/00        (2006.01)
FI C12P 19/14 A
C12P 7/08
C07H 3/02
C08B 37/08 A
C08B 30/00
請求項の数または発明の数 15
全頁数 33
出願番号 特願2006-281007 (P2006-281007)
出願日 平成18年10月16日(2006.10.16)
優先権出願番号 2006191805
優先日 平成18年7月12日(2006.7.12)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年9月8日(2009.9.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】徳安 健
個別代理人の代理人 【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】松田 芳子
参考文献・文献 特開昭57-048997(JP,A)
特開昭56-127601(JP,A)
特開昭63-167796(JP,A)
特開昭60-251897(JP,A)
特開昭63-167794(JP,A)
特開平05-056792(JP,A)
特開昭57-036994(JP,A)
特表2009-531424(JP,A)
特表2008-535523(JP,A)
特表2008-537886(JP,A)
特表2008-535664(JP,A)
Strarch,2001年,vol.53,p.330-5
Biological Wastes,1987年,vol.19,p.215-26
林産試験場報,1998年,vol.12,p.13-6
バイオマス変換計画研究報告,1987年,no.4,p.34-46
Holzforschung,1986年,vol.40,p.339-45
Biotechnol. Prog.,2006年,vol.22,p.449-53
紙パルプ研究発表会講演要旨集,1988年,vol.55th,p.48-51
調査した分野 C12P 19/00
WPI
BIOSIS(DIALOG)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
チオシアン酸カルシウム、チオシアン酸ナトリウム、それらの水和物またはそれらの水系溶液を、摂氏マイナス20度~摂氏40度で、多糖を含む素材に対して作用させることにより、該多糖を含む素材に含まれる、多糖の低分子化・可溶化を最低限に抑えつつその結晶構造を改変した後、酵素加水分解反応を行い、多糖の低分子化・可溶化を行うことを特徴とする、低分子糖質の製造法。
【請求項2】
チオシアン酸カルシウムあるいはその水和物、またはそれらの水系溶液を用い、チオシアン酸カルシウム換算でその濃度が20%(w/v)以上となるように多糖を含む素材に対して作用させることを特徴とする請求項記載の方法。
【請求項3】
多糖を含む素材中に含まれる多糖の少なくとも一部分がセルロースであり、酵素の少なくとも一部分がセルロース加水分解酵素またはセルロースの部分加水分解物を加水分解する活性をもつ酵素である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
多糖を含む素材中に含まれる多糖の少なくとも一部分が澱粉であり、酵素の少なくとも一部分が澱粉加水分解酵素または澱粉の部分加水分解物を加水分解する活性をもつ酵素である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
低分子化・可溶化された糖質の少なくとも一部がグルコースである、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
多糖を含む素材が、澱粉または砂糖を蓄積させた植物体の少なくとも一部の器官、あるいは同植物体における澱粉または砂糖の蓄積部位からの澱粉抽出かすまたは砂糖搾汁かすから得られるものである、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
多糖を含む素材が、パルプ製造時に副生されるセルロースを含む素材、パルプ、古紙、あるいはセルロースを含む繊維である、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
チオシアン酸カルシウム、チオシアン酸ナトリウム、それらの水和物またはそれらの水系溶液が、極性有機溶媒を含むことを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
多糖の結晶構造を改変した後に、多糖を含む素材の洗浄を行う、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
塩化カルシウムあるいはその水和物、またはそれらを溶解した溶液を、多糖を含む素材に加えて、摂氏50度より高い温度での高温処理を施した後に、摂氏37度以下での低温処理を施す工程に次いで、請求項1~9のいずれかに記載の低分子糖質の製造法を行うことを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
多糖の結晶構造を改変する工程において、強酸の塩あるいはその水和物、またはそれを溶解した溶液中で、多糖を含む素材を静菌・保存することを特徴とする、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
強酸の塩が塩化カルシウムであり、溶液中に塩化カルシウム・二水和物換算でその濃度が10%(w/v)以上となることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
アルカリおよび過酸化水素を含有する溶液中で多糖を含む素材を酸化処理する工程を行い、その後に多糖の結晶構造を改変する工程を行うことを特徴する、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
アルカリが水酸化カルシウムであることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載の方法により低分子糖質を製造し、該低分子糖質を発酵することを特徴とするエタノールの製造法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖、特に難分解性多糖を含む素材を有効利用するための技術に関し、具体的には生体由来の難分解性多糖を含む素材から低分子糖質等を製造するための技術に関し、さらには、エタノールや石油代替製品等をターゲットとした糖質バイオマスの高度利用技術に関する。
【背景技術】
【0002】
環境政策や脱化石資源への取組みが地球規模で進むなかで、バイオエタノールのガソリンへの混入が世界各国で政策目標となっており、澱粉やショ糖のエネルギー変換技術の開発が急速に進められている。ブラジルではサトウキビのショ糖から1100万キロリットルのエタノールを作り、そしてアメリカではトウモロコシ澱粉の糖化によって生産されたグルコースを用いて1000万キロリットル以上のエタノール製造が行われている。また、タイ、インドなどでは、サトウキビ、キャッサバ等を用いたエタノール製造規模を飛躍的に増大する計画を打ち出している。
しかしながら、サトウキビ、穀類、芋類などからショ糖絞りかすや澱粉抽出かすとして副生される植物繊維系バイオマスの大部分は、少量のショ糖や澱粉を残したまま、腐敗性の高い残渣として燃焼、鍬込み等によって処分されているのが現状である。
【0003】
一般に、植物繊維系バイオマスは、セルロースを構成するグルコースの他、ヘミセルロースを構成するキシロース、アラビノースやペクチンを構成するガラクツロン酸等、多くの有用糖質を含んでおり、特に、主としてセルロースから得られるグルコースは、発酵原料や石油代替品の原料としても極めて有用性が高い。
このようななかで、アメリカでは、米国エネルギー省主導で、セルロース系資源をエタノール変換するための総合的技術開発プロジェクトが行われているところである。また、ブラジルでは、セルロースからのエタノール発酵技術が開発されつつある。
しかしながら、セルロースの分解効率が低いことなどが原因となり、経済的に成り立つレベルでの有効な利用技術が開発されていないのが現状である。
【0004】
例えばアメリカでは、アルカリ・過酸化水素処理後に酵素糖化を行う方法が報告されている(非特許文献1参照)。
しかしながら、この方法は、アルカリ・過酸化水素の取扱いが極めて困難であり、中和にも大量の酸を用いる必要がある。また、アルカリ・過酸化水素処理は、脱リグニン/ヘミセルロースが主目的であり、中和工程後の糖化工程では反応液中に多様な塩が生成することになる。
【0005】
また、これまでのバイオマス糖化技術では、濃硫酸、希硫酸による加熱処理あるいは水蒸気爆砕処理等が用いられてきた。
しかしながら、これらの処理条件は過酷であり、設備が高度になることなどから、環境負荷が低い酵素法を中心とした独自技術の開発へのニーズが増していた。
【0006】
これまでに、世界中の研究者により、生物が生産する様々なセルロース分解酵素の量やその触媒特性を最適化させ、分解効率を向上させるための研究が数多く行われてきた。
しかしながら、セルロースは強固な水素結合や疎水結合により密にパッキングされており、目覚ましい分解効率の向上は極めて困難と考えられてきた。
【0007】
また、多糖を含む素材中に含まれる多糖の低分子化や膨潤のためには、酸による加水分解法や解繊法が用いられてきた。例えば、キチンを膨潤して分散性を高めたコロイダルキチン、キチンの部分加水分解物であるキチンオリゴ糖やN-アセチルグルコサミン等の製造においては、濃塩酸処理が行われている。
しかしながら、濃塩酸等の強酸を大量に使用する条件では、使用する酸の取り扱いに細心の注意を図る必要があり、副反応等にも注意する必要がある。酸の使用量を抑えた効果的な低分子化・膨潤技術の開発が求められている。
【0008】
我が国のバイオマスエネルギー利用形態の一つは、地域密着型になるものと考えられており、農林水産省では、バイオマス・ニッポン総合戦略に基づくバイオマスタウン構想等により、地域から生産される素材をマテリアルまたはエネルギーに変換するための総合研究が行われているところである。その素材は、農林水産物そのものの他、砂糖絞りかす、澱粉抽出かす、おから、果汁残渣、生産調整用に廃棄される農林水産物、未利用植物、資源作物、未利用藻類、籾殻、藁、作物の茎葉、コーンコブ、茶かす、コーヒーかす、剪定枝葉、おがくず、木片、流木、間伐材、建築廃材、製紙スラッジ、古紙、古布、発酵残渣、甲殻類外殻など、多岐にわたる。
これらの素材を糖化する、あるいは新たな素材として有効利用するためには、地域における取組を推進するための基盤技術開発が強く求められているところである。また、澱粉絞りかすの中には、相当量の澱粉粒が残存していることが知られている。物理的処理では回収が困難であるとともに、腐敗の原因となることから、その利用技術の開発が望まれている。
【0009】

【非特許文献1】Biotechnol. Prog., 22, pp. 449-453 (2006)
【非特許文献2】キチン、キトサン実験マニュアル, 技報堂出版,(ISBN 4-7655-0734-7C3043), pp.5-6およびpp.79-81 (1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、多糖、特に難分解性多糖を含む素材から低分子糖質等を製造するための技術を提供することにより、エタノールや石油代替製品等をターゲットとした糖質バイオマスの高度利用に繋げることを目的としている。
【0011】
本発明は、農林水産業・食品産業から直接・間接的に発生する、多岐にわたる糖質系素材の有効利用技術を開発することにより、国内各地域の個性を生かしたバイオマテリアル・バイオエタノール製造への取組みが発展するのみならず、アメリカ、ブラジル、中国、インド、タイなどの、海外のバイオエタノール生産戦略にも多大な影響を及ぼすことにより、全世界のバイオマス利用技術が飛躍的に発展するブレイクスルーとなる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題に鑑み、本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、多糖の結晶構造を改変する活性をもつ塩またはその水系溶液、あるいはそれらと実質的に同等の活性をもつ物質によって処理した後に、必要に応じて、多糖を含む素材を洗浄し、それを酵素糖化することにより、糖化工程の効率化が可能であることを見出した。
また、高濃度の強酸の塩またはその水系溶液、あるいはそれらと実質的に同等の活性をもつ物質によって多糖を含む素材を処理する際に酸を加えておくことにより、多糖の膨潤や低分子化が促進されることを見出した。
本発明者は、以上の手段により上記課題を解決しうることを見出し、係る知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本願により提供される発明は以下の通りである。
請求項1に係る本発明は、チオシアン酸カルシウム、チオシアン酸ナトリウム、それらの水和物またはそれらの水系溶液を、摂氏マイナス20度~摂氏40度で、多糖を含む素材に対して作用させることにより、該多糖を含む素材に含まれる、多糖の低分子化・可溶化を最低限に抑えつつその結晶構造を改変した後、酵素加水分解反応を行い、多糖の低分子化・可溶化を行うことを特徴とする、低分子糖質の製造法を提供するものである。
請求項2に係る本発明は、チオシアン酸カルシウムあるいはその水和物、またはそれらの水系溶液を用い、チオシアン酸カルシウム換算でその濃度が20%(w/v)以上となるように多糖を含む素材に対して作用させることを特徴とする請求項記載の方法を提供するものである。
請求項3に係る本発明は、多糖を含む素材中に含まれる多糖の少なくとも一部分がセルロースであり、酵素の少なくとも一部分がセルロース加水分解酵素またはセルロースの部分加水分解物を加水分解する活性をもつ酵素である、請求項1または2に記載の方法を提供するものである。
請求項に係る本発明は、多糖を含む素材中に含まれる多糖の少なくとも一部分が澱粉であり、酵素の少なくとも一部分が澱粉加水分解酵素または澱粉の部分加水分解物を加水分解する活性をもつ酵素である、請求項1または2に記載の方法を提供するものである。
請求項に係る本発明は、低分子化・可溶化された糖質の少なくとも一部がグルコースである、請求項1~のいずれかに記載の方法を提供するものである。
請求項に係る本発明は、多糖を含む素材が、澱粉または砂糖を蓄積させた植物体の少なくとも一部の器官、あるいは同植物体における澱粉または砂糖の蓄積部位からの澱粉抽出かすまたは砂糖搾汁かすから得られるものである、請求項1~のいずれかに記載の方法を提供するものである。
請求項に係る本発明は、多糖を含む素材が、パルプ製造時に副生されるセルロースを含む素材、パルプ、古紙、あるいはセルロースを含む繊維である、請求項1~のいずれかに記載の方法を提供するものである。
請求項に係る本発明は、チオシアン酸カルシウム、チオシアン酸ナトリウム、それらの水和物またはそれらの水系溶液が、極性有機溶媒を含むことを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の方法を提供するものである。
請求項に係る本発明は、多糖の結晶構造を改変した後に、多糖を含む素材の洗浄を行う、請求項1~のいずれかに記載の方法を提供するものである。
請求項10に係る本発明は、塩化カルシウムあるいはその水和物、またはそれらを溶解した溶液を、多糖を含む素材に加えて、摂氏50度より高い温度での高温処理を施した後に、摂氏37度以下での低温処理を施す工程に次いで、請求項1~9のいずれかに記載の低分子糖質の製造法を行うことを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の方法を提供するものである。
請求項11に係る本発明は、多糖の結晶構造を改変する工程において、強酸の塩あるいはその水和物、またはそれを溶解した溶液中で、多糖を含む素材を静菌・保存することを特徴とする、請求項1~10のいずれかに記載の方法を提供するものである。
請求項12に係る本発明は、強酸の塩が塩化カルシウムであり、溶液中に塩化カルシウム・二水和物換算でその濃度が10%(w/v)以上となることを特徴とする、請求項11に記載の方法を提供するものである。
請求項13に係る本発明は、アルカリおよび過酸化水素を含有する溶液中で多糖を含む素材を酸化処理する工程を行い、その後に多糖の結晶構造を改変する工程を行うことを特徴する、請求項1~12のいずれかに記載の方法を提供するものである。
請求項14に係る本発明は、アルカリが水酸化カルシウムであることを特徴とする、請求項13に記載の方法を提供するものである。
請求項15に係る本発明は、請求項1~14のいずれかに記載の方法により低分子糖質を製造し、該低分子糖質を発酵することを特徴とするエタノールの製造法を提供するものである。

【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、多糖、特に難分解性多糖を含む素材から低分子糖質の有用物質を製造することができる。
本発明によれば、多糖、特に難分解性多糖を含む素材から低分子糖質の製造技術を提供することにより、エタノールや石油代替製品等をターゲットとした糖質バイオマスの高度利用に繋げることができる。即ち、本発明によれば、セルロース、澱粉およびキチンをはじめとする不溶性糖質の酵素糖化性および酸による糖化性が飛躍的に向上し、よって糖化工程の管理コストや酵素再利用効率等の向上を通じて、低コストでのバイオマス変換技術を開発することが可能となる。
さらに、本発明によれば、不溶性の難分解性多糖を含む素材さらには前記低分子糖質回収残渣からも、可溶性・分散性が賦与された新素材を製造することができ、新用途に繋がる多糖資源として提供することもできる。
【0015】
本発明においては、塩化亜鉛、チオシアン酸カルシウム、チオシアン酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、尿素などの膨潤剤は常温・常圧で効果的に作用し、酵素糖化および酸による糖化のスピードを著しく向上させることができる。しかも、セルロース、澱粉およびキチンに対して効果が認められることから、多岐にわたるバイオマスの変換技術のブレイクスルーとなりうる。
【0016】
本発明により、多糖を含む素材の有効利用技術が開発される。このことにより、農林水産廃棄物、食品製造廃棄物や資源作物などのバイオマスの多岐にわたる有用素材への変換が大幅に加速する。従って、世界のエネルギー問題や環境問題の緩和に寄与するものと期待される。その利用範囲は、サトウキビ、トウモロコシ、芋類などを資源作物として大規模プランテーションする国内外の地域、古紙、パルプ廃液や製紙スラッジ、建築廃材、コンビニ弁当等の流通廃棄物などの事業系・生活系廃棄物が発生する都市地域、そして農林水産廃棄物や地域密着型食品製造廃棄物が発生する地域に及ぶ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明について説明する。
請求項1に係る本発明は、多糖の結晶構造を改変する活性をもつ塩またはその水系溶液、あるいはそれらと実質的に同等の活性をもつ物質を用い、多糖を含む素材に含まれる、多糖の低分子化・可溶化を最低限に抑えつつその結晶構造を改変した後、酵素加水分解反応を行い、多糖の低分子化・可溶化を行うことを特徴とする、低分子糖質の製造法である。
また、請求項2に係る本発明は、尿素の水系溶液、あるいはそれと実質的に同等の活性をもつ物質を用い、多糖を含む素材に含まれる、多糖の低分子化・可溶化を最低限に抑えつつその結晶構造を改変した後、酵素加水分解反応を行い、多糖の低分子化・可溶化を行うことを特徴とする、低分子糖質の製造法である。
【0018】
請求項1~13に係る本発明は、多糖の結晶構造を改変する活性をもつ塩(えん)またはその水系溶液、あるいはそれらと実質的に同等の活性をもつ物質を用い、多糖を含む素材に含まれる多糖の低分子化・可溶化を最低限に抑えつつ結晶構造を改変した後に、酵素加水分解反応を行うことにより、多糖を含む素材の酵素分解性が著しく向上し、低分子糖質やエタノールなどの有用物質の製造に利用しうるという、全く新しい発見に基づくものである。
【0019】
多糖の結晶構造を改変する活性をもつ物質については、セルロース繊維の構造改変を行うため、古くから研究が行われてきた。
これまでに、例えば、塩酸、硫酸等の酸、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ、塩化亜鉛、チオシアン酸カルシウム、チオシアン酸アンモニウム/アンモニア、ヒドラジン等の無機塩、カドキセン、銅アンモニア等の金属錯体、N,N-ジメチルアセトアミド/塩化リチウム等の有機塩/塩混合液やピリジン/クロラール等の有機溶媒などが広く知られている(「セルロースの辞典」セルロース学会編、株式会社朝倉書店 ISBN 4-254-47030-4 C 3561)。また、溶剤によりセルロースを溶解させた場合の熱分解挙動を調べた論文が存在する(Acta Polym., 35, 339-343 (1984))。
しかしながら、これらは全て繊維加工のための溶剤として研究されてきたものであり、酵素反応を行い、糖化物を得るためには殆ど研究されてはこなかった。
唯一、カドキセンを用いた前処理法が報告されているが、カドキセンは、濃アルカリ物質であるとともにカドミウムを含有するため、pHの調整や基質内部に残存するカドミウムの除去などが大きい問題となることが容易に想到される。そのため、環境への負荷が少なく、作業安全性の高い前処理技術が求められていた(Science 201, pp.743-745 (1978))。
【0020】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、難分解性多糖でも、適切な物質を用いて結晶構造を改変(膨潤)させることにより、酵素分解性が向上することを明らかにした。
本発明の重要なポイントとしては、膨潤処理において多糖分解物の遊離を最低限に抑え、多糖の結晶構造を改変する活性を有する物質(膨潤剤)と低分子糖質との混合物を極力生成させないこと、そして、そのことにより、膨潤剤を純度の高い状態で回収し、後段の酵素糖化をスムースに行うことが挙げられる。
従って、請求項1~13に係る本発明においての膨潤剤としては、硫酸、塩酸、リン酸などの強酸や、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどの強アルカリを主成分として使用しない。また、本発明において塩や尿素のもつ活性を最適化するための副成分として、強酸や強アルカリを膨潤剤に使用する場合には、加水分解による多糖の可溶化を極力抑制する条件下での使用が望ましい。
【0021】
また、澱粉などは、水溶液を加熱するだけで結晶構造が膨潤し、糊化した状態になる。加熱により澱粉懸濁液を糊化させた後、アミラーゼ、グルコアミラーゼ等により糖化する方法は、糖化産業において広く用いられてきた技術である。このような、水を主な膨潤剤として用いた糖化工程は、本発明には含まれていない。
【0022】
しかしながら、本発明者は、澱粉を含む素材に対して本発明の成果、つまり多糖の結晶構造を改変する活性をもつ塩またはその水系溶液、あるいはそれらと実質的に同等の活性をもつ物質を適用できるケースが存在することを発見した。理論的には、糊化によって酵素分解性は飛躍的に向上するが、植物細胞壁等のマトリクス中に存在する澱粉を加熱により糊化した場合には、マトリクス中に澱粉の糊層が形成されて、加水分解酵素の侵入が妨げられることにより、糖化効率が低下することが懸念される。また、加熱処理により試料の粘度が上昇するとともに熱水抽出物が溶出し、加熱糊化を経た糖化反応液の処理が煩雑になる可能性がある。澱粉を含む素材の酵素分解効率を向上するためには、常温付近における反応により澱粉質を適度に膨潤させることが望ましい。
本発明では、このような酵素反応上の問題を解決するため、多糖の結晶構造を改変する活性をもつ塩や尿素を用い、多糖を含む素材に含まれる多糖の低分子化・可溶化を最低限に抑えつつ結晶構造を改変することを特徴としている。塩を用いて澱粉を膨潤させて、酵素処理を行うという考え方は知られており、澱粉の構造解析研究において利用された例が存在する(Carbohydr.Res.,247,279-290 (1993))。しかしながら、常温付近で澱粉の構造を改変し、澱粉を含む素材の不溶性を維持したままで酵素糖化効率を向上させるという概念は新規のものである。また、セルロースと澱粉の両方を含む素材については、本発明における多糖の改質・糖化工程が有効であると期待される。
【0023】
請求項1に係る本発明において用いる多糖の結晶構造を改変する活性をもつ物質としては、塩や塩と錯体を形成している分子、結晶水をもつ分子あるいはその一部が水素イオンや水酸化物イオンから構成されている分子なども含まれている。
その他、塩でない多糖の結晶構造を改変する活性をもつ物質としては、請求項2に記載したように、尿素が挙げられる。
【0024】
また、多糖の結晶構造を改変する活性をもつ塩の水系溶液とは、多糖の結晶構造を改変する活性をもつ塩の水溶液、酸、アルカリ、または他の塩が溶解した液、あるいはそれらに極性有機溶媒が溶解した溶液等を示す。塩や尿素が溶解した水系溶液に多少の酸やアルカリなどを添加したものも、多糖の結晶構造を改変する活性をもつ物質の作用性を酵素糖化に利用する点において、多糖の結晶構造を改変する活性をもつ塩、尿素またはそれらの水系溶液と実質的に同質のものであり、本発明の多糖の結晶構造を改変する活性をもつ物質に含まれる。
【0025】
多糖の結晶構造を改変する活性をもつ塩またはその水系溶液、あるいはそれらと実質的に同等の活性をもつ物質としては、請求項3に記載したように、金属塩が好適である。
本発明では、種々の塩、特に金属塩が、セルロースや澱粉などの多糖を膨潤させることを利用した糖化技術を提案している。そのような塩としては、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カルシウム、銅アンモニア、塩化亜鉛、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム等、多くの塩が挙げられるが、対象となる塩は、これに限定されない。膨潤活性の高い塩あるいはその水系溶液を用いて、環境に優しい穏和な条件下での前処理および酵素糖化を行うことを特徴とするバイオマス変換技術自体が新規な着眼点に基づくものである。
例えば、種々のカオトロピックイオンが塩の構成成分になっている場合、水溶液中の水の構造が破壊され、水のエントロピーの減少が抑制されると期待される。前述した物質の多くは、繊維産業におけるセルロース膨潤剤・溶剤等として開発されてきたものであり、有効濃度や使用条件などが詳細に調べられている。
本発明では、これらの公知の情報をもとに、多糖を含む素材に存在する多糖分子あるいはその低分子化物を膨潤処理段階において水層に溶解させないという観点、そしてコスト計算上の観点から公知の条件検討法により最適条件を決定することが可能となる。
【0026】
例えば、それらの物質のなかの一つ、チオシアン酸カルシウムを例にとって説明する。「チオシアン酸カルシウムを作用させる」という表現は、チオシアン酸カルシウム、その水和物またはそれらを溶解したもの、あるいはそれらと機能的に同等の活性をもつ溶液を作用させることを意味している。
チオシアン酸カルシウム以外の塩またはその水系溶液等については、チオシアン酸カルシウムについて説明した内容に準ずるものであり、本発明の重要な着眼点の本質は変わらない。チオシアン酸カルシウムに関する説明の内容を参考にしつつ、個々の物質の特性に応じて製造法やシステムを最適化することが可能である。例えば、塩化亜鉛水溶液からの亜鉛イオンの回収については、イオン交換樹脂による回収法など、公知の亜鉛イオン回収技術を用いることができる。
【0027】
チオシアン酸カルシウムをはじめとする種々の溶剤は、セルロースを膨潤・溶解させるための代表的な試薬として古くから知られており、チオシアン酸カルシウムについては50%以上の濃度、約100℃以上で溶解し、より高温では分解作用を示すことが報告されている(「セルロースの辞典」セルロース学会編、株式会社朝倉書店 ISBN 4-254-47030-4 C 3561)。セルロースとチオシアン酸カルシウム水溶液との相互作用については精力的に研究されており、チオシアン酸カルシウムの水複合体とグルコース残基の05と06と相互作用していることが推定されている。
【0028】
チオシアン酸カルシウム水溶液を用いたセルロース繊維の修飾については、ポリアクリルニトリルとのブレンド成形体の製造法(特開平10-316767)、繊維製品の酵素処理・加工を目的とした膨潤処理(東京都立産業技術研究所研究報告第5号 pp.113-116 (2002)、同誌、6号 pp81-84 (2003))や、ゲル化処理技術に関する研究(高分子、48巻6月号 p425 (1999))などが数多く知られている。その中には、チオシアン酸カルシウムを用いて、繊維質を膨潤させることにより、酵素の分解性を増し、繊維に複雑な加工を施す技術が含まれている。
【0029】
一方、澱粉については、塩により低温でゲル化させて、内部のアミラーゼを浸出させる方法が報告されている(Starch/Staerke, 31, 195-200 (1979))。
【0030】
しかしながら、糖質バイオマスを低分子化し、利用性を向上するための前処理法としてチオシアン酸カルシウムを用いるという考え方は存在しなかった。チオシアン酸カルシウムは、酸、塩基性条件下で分解または不溶化し、酸化剤との反応によりシアン化物イオンに変換することから、酸またはアルカリによる加水分解技術に対する適応性が低いと考えられてきた。
【0031】
本発明者らは、多糖と種々の温度、特に低温から室温程度のチオシアン酸カルシウム水溶液と短時間接触させるだけで、その後の酵素糖化効率が大きく向上することを見いだした。また、大部分のチオシアン酸カルシウムを洗浄除去しても多糖の構造変化の影響は残っており、酵素糖化効率が高い状態に保たれていた。さらに、水洗によりチオシアン酸カルシウムがある程度除去された後のpHは4付近になっており、多くの糖質加水分解酵素を作用させる上でのpHが弱酸性側に存在することを考慮すると、pH調整の手間が省ける利点が大きい。また、高濃度のチオシアン酸カルシウムによる抗菌性を利用し、腐敗性の高い試料の保存性を増すことも可能となる。
【0032】
チオシアン酸カルシウムは、摂氏160度以上で分解するのみならず、酸や酸化剤の存在下で容易に分解し、アルカリ側ではカルシウムが不溶化しやすいという、取り扱い上の欠点を有している。
しかしながら、本発明者らは、穏和な生物学的方法を利用する場合には、それらの欠点が最小限に抑えられ、実用的新技術となりうることを示した。チオシアン酸カルシウムによる酵素活性の阻害効果、酵母等の発酵微生物の成育阻害効果については、その種類や条件によって異なることから、チオシアン酸カルシウムが酵素反応あるいは微生物発酵の反応性に及ぼす影響を、公知の方法を用いて検討する必要がある。例えば、セルロース分解酵素(Celluclast 1.5L FG, Novozymes社)で測定した結果、チオシアン酸カルシウム濃度5%程度でも活性が見られ、アルコール発酵性酵母(NFRI 3053株)では、1%チオシアン酸カルシウム存在下で24時間培養した結果、チオシアン酸カルシウム非存在下で培養した菌体量の7割の生育が認められている。
【0033】
薬液の回収は、プロセス開発上大変重要な工程である。チオシアン酸カルシウムの回収は、コスト低減上の問題のみならず、環境へのチオシアン酸塩の放出を制御する観点からも、極めて重要である。
本発明において、チオシアン酸カルシウムは多糖と非共有結合により作用すると考えられている。非共有結合により相互作用をする場合、チオシアン酸カルシウムは分解しないことから、高濃度のチオシアン酸カルシウム溶液に接触させた後に、回収し、必要に応じて適宜、濃縮、精製(不純物除去)、濃度調整を行った後に、これを全て再利用することが可能となる。グルコース1残基あたり、1残基のチオシアン酸カルシウムが結合した場合を想定すると、多糖に吸着される量は多糖の存在%とほぼ同じくらいのオーダーとなると考えられる。
【0034】
また、本発明では、チオシアン酸カルシウムと接触させた後、多糖を含む素材を水洗しても、続く酵素加水分解反応の効率化への効果は維持されることを明らかにした。この工程において、チオシアン酸カルシウムの回収率は一層向上する。
さらに、多糖と非共有結合したチオシアン酸カルシウムは、続く酵素加水分解反応によって遊離してくるものと考えられる。
これらの工程におけるチオシアン酸カルシウムは、電気透析法、イオン交換法などの公知の方法により回収することが可能となる。例えば、アシライザーS1(旭化成工業株式会社、カートリッジAC120-10)を用いて、グルコースとチオシアン酸カルシウムの混合物を電気透析して分離することができる。このような糖化液のチオシアン酸カルシウムの濃度を下げる工程は、チオシアン酸カルシウムによる発酵阻害を避ける意味でも望ましい。その他、回収が困難なチオシアン酸カルシウムの環境への放出を避けるためには、公知の生物変換技術等を活用することができる。
【0035】
バイオマスの中には、水可溶性画分を十分に洗浄除去した後のウエットな状態で存在するものが少なくない。その例としては、トウモロコシや芋類などからの澱粉の絞りかす、製紙スラッジ、バガスやビートからの砂糖の絞りかすなどが挙げられる。このような試料(多糖を含む素材)に、チオシアン酸カルシウムを反応させて固液分離した場合、液相に抽出される物質が少ないことから、回収されるチオシアン酸カルシウムの純度は比較的高く保たれることが期待される。
それに対して、水可溶性画分を多く含むバイオマスについては、チオシアン酸カルシウム処理に先立ち、水洗処理を含む前処理工程を行なうことにより、チオシアン酸カルシウムを回収した際の純度が高くなる。
本発明の方法のカスケード利用を考慮した場合、この前処理工程において、抗酸化成分等の有用物質の抽出や、ヘミセルロース等由来の成分を先に分解回収するためのヘミセルラーゼ等による酵素処理等を行うなど、トータルのコストを抑えるための工夫をすることが可能となる。このような前処理工程により、低分子糖質の回収率の上昇効果が期待されることから、トータルのプロセスとしてメリットを評価する必要がある。
【0036】
本発明において、多糖を含む素材とチオシアン酸カルシウムとの反応は、乾燥または湿潤状態の試料(多糖を含む素材)を、チオシアン酸カルシウムを含む溶液と接触させることにより行うことができる。その際のチオシアン酸カルシウムの濃度は、請求項5に記載したように、高濃度、具体的には20%(w/v)以上、望ましくは50%(w/v)以上に設定することにより、反応が効率的に進む。高濃度のチオシアン酸カルシウム溶液と同等の活性をもつ溶液とは、チオシアン酸カルシウムの水和物の溶液や、チオシアン酸塩とカルシウム塩を溶解したもの、チオシアン酸カルシウムおよび別の化合物が溶解した液、アセトンやメタノールなどの極性有機溶媒を含むものなどを示す。また、高濃度のチオシアン酸カルシウム溶液を低濃度にする場合、一部のチオシアン酸カルシウム・水和物の分子構造は高濃度の時のものが維持されており、試料への作用性が高い状態に留まることは容易に想到される。多糖を含む素材の含水率が非常に高い場合、60%(w/v)チオシアン酸カルシウムを加えた場合の平均濃度は、事実上40%(w/v)以下になることがある。しかしながら、その場合においても反応が進行し、後段の酵素加水分解に効率が向上する。その他、反応液全体の少なくとも一部分を凍結、融解する工程がある場合、局所的にチオシアン酸カルシウムの濃度が増加することにより、試料の酵素分解性が向上する現象を見いだしており、本件についても、本発明に含まれている。
【0037】
さらに、チオシアン酸カルシウム・四水和水などの固体を試料に直接作用させる方法や、高濃度の状態で形成される、チオシアン酸カルシウムの活性化された高次構造を低濃度でも安定化させるための試薬を加え、低濃度でも活性化されたチオシアン酸カルシウムを用いる方法や、複数の塩を混合する方法、例えば、チオシアン酸カルシウムとチオシアン酸ナトリウムを混合する方法等についても、本発明に含まれる。
【0038】
多糖を含む素材とチオシアン酸カルシウムとの反応を行う際の温度は、チオシアン酸カルシウムの分解が起こるとされる摂氏160度以下が考えられるが、コストを抑えるためには、摂氏100度以下が望ましい。反応は、摂氏マイナス20度、室温でも起こることから、前処理工程の温度やエネルギー効率を考慮して、最適な温度に設定することができる。
【0039】
また、多糖を含む素材とチオシアン酸カルシウムとの反応を行う際の反応時間について本発明者は、微結晶性セルロースの場合では、混合させた直後に除去しても効果が現れることを発見した。長時間の反応による効果は多糖を含む素材の高次構造や副成分の組成、サイズ等によって異なる。試料中の水溶性成分が徐々に溶出してくる可能性およびチオシアン酸カルシウムの回収効率を考慮して、試料の特性に応じて反応時間を最適化するべきである。
【0040】
多糖を含む素材試料とチオシアン酸カルシウムとの反応性を向上させるために、試料内部へチオシアン酸カルシウムを浸透させる必要がある。微粒子化された試料を用いたり、試料を予め解繊しておくなど、試料側の前処理を行うか、あるいはチオシアン酸カルシウムの添加後に試料を撹拌、剪断したりするなどして、相互作用を強めるような処理を適宜行うことが望ましい。
【0041】
以上のようにして、多糖の低分子化・可溶化を最低限に抑えつつ、多糖の結晶構造を改変する。


【0042】
なお、上記説明は、多糖の結晶構造を改変する活性をもつ物質として、チオシアン酸カルシウムを例にとって説明したものであるが、チオシアン酸ナトリウム、銅アンモニア、塩化亜鉛、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等の塩や尿素についても、同様に適用される。1例を挙げると、例えば塩化カルシウム・二水和物水溶液あるいはそれと同等の活性をもつ溶液を用いた場合、その濃度は、請求項6に記載したように、高濃度、具体的には20%(w/v)以上、望ましくは50%(w/v)以上に設定することにより、反応が効率的に進む。
さらに、請求項12に記載したように、アセトンやメタノールなどの極性有機溶媒を含むものとすることもできる。
【0043】
上記したように、チオシアン酸カルシウム以外の物質、例えば、塩化カルシウム、チオシアン酸ナトリウム、塩化亜鉛、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、尿素などの種々の試薬についても、低分子糖質等の製造における有効性が見出すことができる。
例えば、塩化カルシウムについては、セルロースまたはキチンの膨潤剤として、繊維加工分野において知られてきた。チオシアン酸カルシウムについて記した方法にならい、二水和物換算で20%(w/v)以上の濃度の塩化カルシウム溶液をセルロース系素材に作用させることにより、酵素加水分解工程が効率化する。また、澱粉系素材に対しても高い有効性を示す。
【0044】
また、塩化カルシウムを用いた際の処理時間については、100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物溶液を用いた場合、室温下で1時間から6時間処理を行うことにより高い効果が現れ、処理時間に応じて効果が向上する。また、処理温度は、摂氏4度では僅かに効果が見られるが、室温かそれ以上の高温で処理することにより顕著な処理効果が現れ、温度に応じて効果が向上する。
【0045】
塩化カルシウムは、チオシアン酸カルシウム、チオシアン酸カルシウムや塩化亜鉛と比較して、作業安全性が高い点、環境への影響が少ない点や原材料費が安い点などが利点となる。
また、塩化カルシウムは、我が国においては食品添加物として低濃度での利用が認められていることから、本発明を用いた、澱粉絞りかすなどを原料とした糖化・発酵工程において、その生成物を食品用途に拡大できる可能性が存在する。これらの試薬は、常温での使用においても効果を見出すことが可能であることから、澱粉、ペクチンや種々の熱水抽出物の遊離・可溶化を抑え、酵素加水分解工程後に試薬、酵素、そして残存する不溶性画分を回収・再利用する上で好都合である。一方で、多糖への試薬の浸透性を上げ、効率的に酵素加水分解反応を行う際には、不溶性多糖分子間あるいは分子内に存在する水素結合を切断するための加熱処理が有効なケースも存在する。熱安定性の高い塩化カルシウムは、このような処理において有効性を発揮する。
【0046】
チオシアン酸カルシウムと同様に、塩化カルシウム、チオシアン酸ナトリウム、塩化亜鉛、塩化マグネシウム、尿素等の物質を作用させた後でも水洗浄により中性に近いpHに戻るという性質は、試料の化学的加水分解を抑制し、酵素加水分解工程をスムースに行う上での大きい利点となる。
【0047】
多糖を含む素材とチオシアン酸カルシウム等の膨潤物質等との反応を行ったのちに、適宜、チオシアン酸カルシウム等の膨潤物質を回収し、酵素反応阻害を防ぐための洗浄工程を行うことが望ましい。その際には、先述したように、使用する酵素のチオシアン酸カルシウム等の膨潤物質への感受性を予め評価しておくことが望ましい。
即ち、請求項13に記載したように、多糖の結晶構造を改変した後に、多糖を含む素材の洗浄を行うことが望ましい。洗浄は水などを用いて常法により行えばよい。
【0048】
多糖を含む素材とチオシアン酸カルシウム等の膨潤物質との反応が終了した試料を、適宜洗浄し、酵素加水分解することにより低分子糖質を効率的に得ることが可能となる。
酵素加水分解反応は、市販酵素製剤や天然の微生物・植物や動物から得られた酵素を用いて、公知の方法により行うことが可能である。これまでの方法と比較して、酵素反応時間が大幅に短縮することから、微生物汚染の抑制が可能となるとともに、失活を免れる酵素量が増すことによりその回収率が向上しコスト減が可能となる。
【0049】
なお、本発明において用いられる多糖としては、例えばセルロース、澱粉、キシラン、ペクチン、キチン、キトサン、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、キシログルカン、フラクタン、アラビノガラクタン、糸状菌多糖、酵母多糖、海藻多糖、細菌多糖、ウイルス性多糖、動物性多糖等を挙げることができる。
【0050】
多糖の酵素加水分解反応により得られる低分子糖質としては、上記したセルロース、澱粉、キシラン、ペクチン、キチン、キトサン、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、キシログルカン、フラクタン、アラビノガラクタン、糸状菌多糖、酵母多糖、海藻多糖、細菌多糖、ウイルス性多糖、動物性多糖等から生成しうる、種々の単糖またはオリゴ糖が考えられる。
これらのなかで、請求項9に記載したように、特にグルコースは、エタノールやポリ乳酸をはじめとする種々の有用物質を発酵生産する際のキーコンパウンドとして、極めて重要性が高い。
【0051】
これらの多糖を含む素材として大量に生産されるものとしては、農林水産物そのものの他、砂糖絞りかす、澱粉抽出かす、おから、果汁残渣、生産調整用に廃棄される農林水産物、未利用植物、資源作物、未利用藻類、バガス、籾殻、藁、作物の茎葉、コーンコブ、茶かす、コーヒーかす、剪定枝葉、おがくず、木片、流木、間伐材、使用済み割り箸、建築廃材、製紙スラッジ、古紙、古布、発酵残渣、甲殻類外殻等が挙げられる。
これらの素材は、適宜、粉砕、脱リグニン、脱無機塩、除タンパク等の前処理を行うことにより、チオシアン酸カルシウム溶液等の膨潤物質の浸透性を向上させることが望ましい。
多糖を含む素材としては、請求項10に記載したように、澱粉または砂糖を蓄積させた植物体の少なくとも一部の器官、あるいは同植物体における澱粉または砂糖の蓄積部位からの澱粉抽出かすまたは砂糖搾汁かすから得られるものを用いることができる。
また、多糖を含む素材としては、請求項11に記載したように、パルプ製造時に副生されるセルロースを含む素材、パルプ、古紙、あるいはセルロースを含む繊維を用いることもできる。
【0052】
酵素加水分解反応を行うために必要な酵素は、セルロース加水分解酵素、澱粉加水分解酵素、ヘミセルロース加水分解酵素、ペクチン加水分解酵素、キチン加水分解酵素等の糖質関連酵素が主なものであるが、これに限定されない。例えば、低分子糖質の生成を促進するため、リグニン加水分解酵素を加えることなどは容易に想到される。また、遺伝子組み換え技術、部分加水分解等により機能が増した人工酵素などについても、本発明において使用することが可能である。
請求項7に示したように、多糖を含む素材中に含まれる多糖の少なくとも一部分がセルロースの場合、酵素の少なくとも一部分がセルロース加水分解酵素またはセルロースの部分加水分解物を加水分解する活性をもつ酵素を用いることができる。また、請求項8に記載したように、多糖を含む素材中に含まれる多糖の少なくとも一部分が澱粉の場合、酵素の少なくとも一部分が澱粉加水分解酵素または澱粉の部分加水分解物を加水分解する活性をもつ酵素を用いることができる。
【0053】
結晶構造が改変された多糖は、基質結合部位を取り除いた酵素による反応性が向上することは容易に想到される。あるいは、逆に、基質結合部位の役割が増すような領域も生成すると考えられる。さらに、直接、微生物または微生物を高機能化したものを用いて構造改変した多糖を資化させる工程についても、微生物の生産する酵素を用いて基質の分解を行う工程を含む点において、本発明の内容に含まれている。
【0054】
酵素反応終了後には、もとの素材の残渣・未反応物および低分子糖質の他、酵素、緩衝液成分、チオシアン酸カルシウム等の膨潤物質を含んでいる。残渣・未反応物の量を減らすためには、前処理の実施や酵素反応時間の延長などを行う必要があるが、反応効率、酵素回収効率や微生物汚染の影響などを考慮しつつ、最適化する必要がある。残渣・未反応物は濾過、遠心分離等の方法で除去可能である。
また、酵素、緩衝液成分やチオシアン酸カルシウム等の膨潤物質を除去し、低分子糖質のみを回収するためには、限外濾過膜や電気透析の利用、イオン交換樹脂による分離、酵素精製タグの利用等の公知の方法を用いることが可能である。
【0055】
このようにして、適宜、混入成分を除去した後に得られる低分子糖質は、そのまま、あるいは適宜濃縮して、エタノール発酵をはじめとする多様な発酵工程に供することができる。
【0056】
本発明者は、上述のように、酵素糖化により難分解性多糖を含む素材から効率よく低分子糖質を生成する方法を見出したが、さらに本発明者は、化学的安定性が高い塩類を酸化剤や強酸ととともに用いることにより、本発明における膨潤性を考慮しつつ、さらに多糖を含む素材の構造を改変することに注目した。
本発明者は、高濃度の強酸の塩が溶解した溶液中に多糖と酸を加えることで、酸の加水分解作用や膨潤作用が大幅に向上することを見出し、請求項14~27に係る本発明を完成するに至った。
【0057】
すなわち、請求項14に係る本発明は、強酸の塩あるいはその水和物、またはそれを溶解したもの、あるいはそれらと機能的に同等の活性をもつ溶液、多糖を含む素材および強酸を含む反応液中で、化学的に低分子化反応または可溶化・分散化反応を行う工程を含むことを特徴とする、低分子糖質または可溶性・分散性を賦与された素材の製造法である。
ここで、請求項14に係る本発明に用いる強酸の塩は、安定性の高い物質であることが望ましい。例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられるが、水溶性を示し、酸による安定性が高い強酸の塩ならば、本発明において用いることができる。
【0058】
また、請求項14に係る本発明に用いる強酸とは、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。すなわち、請求項15に係る本発明は、強酸が硫酸、塩酸または硝酸の少なくとも一種類から構成されることを特徴とする、請求項14記載の低分子糖質または可溶性・分散性を賦与された素材の製造法である。
【0059】
請求項14および15における高濃度の塩の存在下の該反応液中では、酸が分子状になりやすい点や、イオンの水和が十分に起こらない点が影響することによって、多糖の酸加水分解及び膨潤を促進していることが考えられる。
【0060】
次いで、請求項16に係る本発明は、強酸の塩が硫酸ナトリウムおよび/または硫酸アンモニウムであり、強酸が硫酸であることを特徴とする、請求項14または15に記載の低分子糖質または可溶性・分散性を賦与された素材の製造法である。
すなわち、請求項16に係る本発明は、硫酸ナトリウムおよび/または硫酸アンモニウムあるいはそれらの水和物、またはそれらを溶解したもの、あるいはそれらと機能的に同等の活性をもつ溶液、多糖を含む素材および硫酸を含む反応液中で、化学的に低分子化反応または可溶化・分散化反応を行う工程を含むことを特徴とする、低分子糖質または可溶性・分散性を賦与された素材の製造法である。
【0061】
なお、該硫酸ナトリウムおよび/または硫酸アンモニウムおよび硫酸を含む反応液中において、多糖の低分子化反応または可溶化・分散化反応が促進される機構については、前記したように、硫酸イオンの濃度が高いために硫酸が分子状態になりやすいことや、水素イオンや硫酸イオンの水和が不十分であることなどが重要と考えられる。
【0062】
次いで、請求項17に係る本発明は、強酸の塩が塩化カルシウムであり、強酸が塩酸であることを特徴とする、請求項14または15に記載の低分子糖質または可溶性・分散性を賦与された素材の製造法である。
すなわち、請求項17に係る本発明は、塩化カルシウムあるいはその水和物、またはそれを溶解したもの、あるいはそれらと機能的に同等の活性をもつ溶液、多糖を含む素材および塩酸を含む反応液中で、化学的に低分子化反応または可溶化・分散化反応を行う工程を含むことを特徴とする、低分子糖質または可溶性・分散性を賦与された素材の製造法である。
【0063】
なお、該塩化カルシウムおよび塩酸を含む反応液中における多糖の低分子化反応または可溶化・分散化反応が促進される機構についても、前記したように、塩化物イオンの濃度が高いために塩酸が分子状態になりやすいことや、水素イオンや塩化物イオンの水和が不十分であることなどが重要と考えられる。
【0064】
請求項14~17に係る本発明において、難分解性の多糖の低分子化や可溶性・分散性の賦与が効率的に進行する時の反応液中の酸の濃度は、0.3規定以上、好ましくは0.3~4規定、さらに好ましくは0.3~3規定であるが、特に0.3~1規定前後の薄い硫酸または塩酸存在下であっても、低分子化や可溶性・分散性の賦与を効率的に進行することができる。
【0065】
また、請求項14~17に係る本発明において、難分解性の多糖の低分子化や可溶性・分散性の賦与が効率的に進行する時の反応液中の強酸の塩の濃度は、具体的には20%(w/v)以上、好ましくは50%(w/v)以上、さらに好ましくは62%(w/v)以上、最も好ましくは該飽和液であるが、高濃度であるほど低分子化や可溶性・分散性の賦与を効率的に進行することができる。
【0066】
また、請求項14~17に係る本発明において用いることができる多糖としては、前記酵素糖化で用いる多糖と同様なものを挙げることができる。
例えばセルロース、澱粉、キシラン、ペクチン、キチン、キトサン、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、キシログルカン、フラクタン、アラビノガラクタン、糸状菌多糖、酵母多糖、海藻多糖、細菌多糖、ウイルス性多糖、動物性多糖等を挙げることができる。
これらのなかで、特にセルロース、澱粉、キチン等を用いた際に、効率的に難分解性の多糖の低分子化や可溶性・分散性の賦与が進行するが、特に澱粉については、グルコースへの変換が極めて効率的に進行する。
即ち、請求項18に係る本発明は、多糖を含む素材に含まれる多糖の少なくとも一部分が、澱粉、セルロースおよびキチンから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項14~17のいずれかに記載の低分子糖質または可溶性・分散性を賦与された素材の製造法である。
【0067】
なお、上記請求項14~18に係る本発明においては、当該強酸の塩および酸を用いた不溶性の難分解性多糖を膨潤させる技術により、難分解性多糖を含む素材から効率よく低分子糖質を生成できることに加えて、不溶性の難分解性多糖素材を、可溶性・分散性を賦与した新規多糖素材に変換することも可能とする。
【0068】
この不溶性の難分解性多糖の膨潤性を向上させる方法として、該反応液の温度を一旦上昇させることにより、膨潤物質の浸透性が向上することが期待される。
しかしながら、実際には、該溶液の温度上昇により膨潤物質の溶解度が増加する結果、水分子が活性化される。この結果、水分子と膨潤物質との相互作用が多様になり膨潤物質の力価が下がることにより、多糖への膨潤物質の浸入が妨げられ、多糖の構造変化が起こりにくくなると考えられる。
この問題を回避するためには、一旦温度を上昇させた後に次いで温度を低下させることによって、水分子の活性化が抑えられ、これにより膨潤効率が上昇することが期待される。
本発明者は、多糖を塩化カルシウム・二水和物水溶液で処理した場合、高温処理を施した後に次いで低温処理を施すことによって、多糖の膨潤性が極めて高くなること、及び多糖が溶液中に高度に分散することを見出している。なお、本発明には、このような、各処理における最適温度条件を複数組み合わせる技術も含まれる。
【0069】
即ち、請求項19に係る本発明は、塩化カルシウムあるいはその水和物、またはそれらを溶解したもの、あるいはそれらと機能的に同等の活性をもつ溶液を用い、多糖を含む素材に高温処理を施した後に、低温処理を施す工程を含むことを特徴とする、請求項14~18のいずれかに記載の低分子糖質または可溶性・分散性を賦与された素材の製造法である。
請求項19における「高温処理を施した後に、低温処理を施す工程」を経て生成された分散性・可溶性の賦与された多糖素材は、次いで、請求項14~18のいずれかに記載の低分子糖質または可溶性・分散性を賦与された素材の製造法に用いることで、より透明性が高く、高度に膨潤した多糖素材に変換することが可能となる。
【0070】
また、請求項20に係る本発明は、塩化カルシウムあるいはその水和物、またはそれらを溶解したもの、あるいはそれらと機能的に同等の活性をもつ溶液を用い、多糖を含む素材に高温処理を施した後に、低温処理を施す工程を含むことを特徴とする、請求項1~13のいずれかに記載の方法である。
請求項20における「高温処理を施した後に、低温処理を施す工程」を経て生成された分散性・可溶性の賦与された多糖素材は、次いで、請求項1~13のいずれかに記載の酵素糖化工程を含む低分子糖質の製造法に用いることで、多糖素材から効率的にグルコースまたは低分子糖を生成することが可能となる。
【0071】
請求項19および20に係る本発明における高温処理とは、多糖の結晶構造の運動性を増加させることにより、結晶内への膨潤物質の浸入を促進するための処理であり、多糖の種類や状態によってその処理温度は異なる。しかし、一般に、高分子が熱分解されない程度の高温であり、取り扱い上、使用する溶液の沸点以下であることが望ましい。
具体的には、摂氏50度より高い温度、好ましくは摂氏60~100度で行うことが好適である。また、高温処理を施す時間としては、5分より長い時間、好ましくは10分以上、さらに好ましくは15分~2時間が好適である。
【0072】
また、請求項19および20に係る本発明における低温処理とは、該溶液の温度を下げることによって膨潤物質の飽和度を上げ、膨潤物質の活性化を促すための処理である。その処理温度は、膨潤物質によって異なるが、一般に、飽和溶解度に達する温度、あるいは過飽和状態に達する温度であることが望ましい。
具体的には、摂氏37度以下、好ましくは摂氏20度より低い温度、さらに好ましくは摂氏4~16度で行うことが好適である。また、低温処理を施す時間として特に制限はないが、30分以上が好適である。
なお、該溶液中に大過剰量の膨潤物質を加えて飽和溶解度に達する温度を上昇させることで、該低温処理温度をより高い温度で行えることが想到される。
【0073】
ここで、請求項27に係る本発明は、請求項14~19のいずれかに記載の方法により得られる、可溶性・分散性を賦与された澱粉および/またはセルロースおよび/またはキチンである。例えば、多糖としてキチンを用いた場合、反応条件の設定により、キチンに可溶性・分散性を賦与することが可能になる。また、多糖として澱粉、セルロースおよびキチンを用いた場合、反応条件の設定により、澱粉、セルロースおよびキチンに可溶性・分散性を賦与することが可能になる。処理後の反応生成物については、イオン交換クロマトグラフィー、透析膜による分離等、公知の脱塩・分離技術を用いことにより精製することが可能となる。
【0074】
このようにして得られる、可溶性・分散性を賦与した多糖素材については、誘導体適性や再生性が向上することが期待されることから、多糖資源の新用途開発に繋がると期待される。酸処理により、一部低分子化が起こることが考えられるほか、多糖の超分子構造が改変されることにより利用性が向上することが期待される。
【0075】
さらに、本発明者は、前記のような化学的に可溶化・分散化反応を行った後に生成される多糖素材及び/又はその残渣を用いて、さらに酵素糖化を行うことができることを見出した。
即ち、請求項21に係る本発明は、請求項14~19に記載の当該難分解性多糖の低分子化または可溶化・分散化する反応を行った後の多糖素材及び/又は残渣を用いて、さらに各種多糖の加水分解酵素を用いて、酵素糖化を行う低分子糖質の製造法に関するものである。
【0076】
次いで、本発明者は、強酸の塩の水溶液が静菌性を有することおよび腐敗性の高い素材を該水溶液中で保存することにより、腐敗や多糖の分解を抑えつつ、多糖の膨潤も行うことが可能となることを見出し、請求項22に係る本発明に至った。
請求項22に係る本発明では、保存工程が膨潤処理(前処理)を兼ねた工程とすることができるため、特に、澱粉絞りかすのような腐敗性の高い素材を用いる際に有効である。
有効な塩として、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。なお、該保存・膨潤処理工程において、塩化カルシウムなどは吸湿性が高いことから、長期保存を行う場合には、湿度管理に注意する必要がある。
【0077】
請求項23に係る本発明は、請求項22に記載の多糖を含む素材を静菌・保存する工程において、強酸の塩が塩化カルシウムであり、且つ溶液中に塩化カルシウム・二水和物換算でその濃度が10%(w/v)以上となることを特徴とするものである。
【0078】
なお、請求項23に記載されているように、保存・膨潤処理に用いる溶液に含まれる塩化カルシウムの濃度は、塩化カルシウム・二水和物換算で10%(w/v)以上、好ましくは25%(w/v)以上の条件において、一般的微生物の生育は大幅に抑制することができる。
【0079】
次いで、本発明者は、多糖含有素材として植物由来の素材を用いる際に、セルロースに結合するリグニンやヘミセルロースが含まれる場合の除去を行う方法として、アルカリおよび過酸化水素を用いて多糖を含む素材の酸化処理をする方法を見出し、請求項24に係る本発明に至った。
なお、植物由来の多糖含有素材に含まれるリグニンやヘミセルロース等の除去方法としては、アルカリ及び酸化剤を併用した酸化処理が有効である。
【0080】
アルカリ及び酸化剤を併用した酸化処理工程で用いるアルカリ試薬としては、水酸化カルシウム、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムが好適に用いられる。
即ち、該酸化処理工程では、反応溶液のpHをアルカリ側にシフトさせることで、過酸化水素の脱リグニン反応等の酸化反応を活性化し、リグニン、ヘミセルロース等の除去を可能にする。
アルカリとして、水酸化カルシウムを用いた際には、その後にカルシウム塩や塩酸を使用する際に利点を有する。同様に、水酸化ナトリウムを用いた際には、その後にナトリウム塩や塩酸、硫酸などを使用する際に利点を有する。
【0081】
例えば、請求項25に記載の酸化処理工程において使用する水酸化カルシウムは、その後に施される塩酸処理により塩化カルシウムに変換される。
その際に、塩化カルシウム自体は、塩酸処理前に、多糖の膨潤剤として用いられるため、他の塩の混入がない点で、反応制御や再利用上好適である。
【0082】
請求項1~25に係る本発明から得られる低分子糖質は、前記に記載の如く、そのまま、あるいは適宜濃縮して、エタノール発酵をはじめとする多様な発酵工程に供することができる。
即ち、請求項26に記載したように、叙上の如くして生成した低分子糖質を発酵することにより、エタノールを製造することができる。
エタノール発酵は、常法に従い行えばよい。
【0083】
このようにして、本発明により、多糖の結晶構造を改変する活性をもつ塩またはその水系溶液、あるいはそれらと実質的に同等の活性をもつ物質、又は尿素の水系溶液、あるいはそれと実質的に同等の活性をもつ物質を用い、多糖を含む素材に含まれる、多糖の低分子化・可溶化を最低限に抑えつつその結晶構造を改変した後、必要に応じて多糖を含む素材を洗浄し、しかる後に酵素加水分解反応及び/又は塩酸による加水分解を行い、多糖の低分子化・可溶化を行うことにより、低分子糖質を製造し、さらにこれをエタノール発酵させるというプロセスを採用することによって、効率よくエタノールを製造することができる。
本発明においては、塩化亜鉛、チオシアン酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等の膨潤物質は常温・常圧で効果的に作用し、酵素糖化及び/又は酸による加水分解のスピードを著しく向上させることができる。しかも、セルロース、澱粉、キチンに対して効果が認められることから、多岐にわたるバイオマスの変換技術のブレイクスルーとなりうる。
【0084】
本発明に基づき、多糖を含む素材の糖化処理システムおよびエタノール製造システムの構築が可能となる。例えば、試料(多糖を含む素材)をチオシアン酸カルシウム水溶液等の膨潤物質で処理するための装置、続く試料の水洗・脱水装置、酵素反応を行うための撹拌・温度管理装置、酵素反応槽、不溶性画分を除去する装置、使用した酵素・チオシアン酸カルシウム等の改質試薬を回収する装置、糖液の精製装置、糖液の濃縮装置、エタノール発酵装置、固液分離装置、蒸留装置のうちの少なくとも数種類を含むことを特徴とする糖化処理システムやエタノール製造システムを新たに設計できることになる。
【0085】
例えば、図1は、そのような糖化処理システム(糖化処理装置)の1例を示す図面である。
図1中、符号1は外部容器(ガラス製)、符号2は内部容器(プラスチック製;前処理・糖化用)、符号3はオーバーフロー・攪拌用スリット、符号4は攪拌子、符号5は攪拌子カバー、符号6は攪拌子カバー用おもり(リング)である。
【0086】
糖化処理システムに求められる装置としては、多糖を含む素材(試料)を配置し、多糖の結晶構造を改変する試薬を加えることにより処理するための装置部分(符号2:内部容器)、試薬によって試料を処理した後に、水により洗浄する装置(符号2:内部容器内を攪拌しつつ加水し、符号3:オーバーフロー・攪拌用スリットを通してオーバーフローさせて、不溶性画分を符号2の容器から出さずに洗浄)、酵素加水分解を行う装置部分(符号1:外部容器内に酵素液を加え、符号2の内部容器と液面が通じる程度の高さの液量として、恒温条件下で攪拌子により攪拌しつつ酵素反応を実施.試料由来の不溶物を内部容器から出さずに反応)、酵素反応液を回収する装置部分(符号3:オーバーフロー・攪拌用スリットを通じて酵素液・糖化物は内部・外部容器で平衡化)、そして糖化反応生成物を回収する装置部分(下部攪拌子で攪拌しつつ、装置下部の排液口から排液.符号2:内部容器に残存した不溶物から残存する糖化物を絞り出し、内部容器中の不溶物は別途回収)である。符号5の攪拌子カバーは、内部容器を安定に設置しつつ、下部攪拌子の回転を可能とするものであり、符号6のおもりは、符号5の攪拌子カバーを安定的に設置するためのものである。
【実施例】
【0087】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0088】
実施例1
5mgのセルロース粉末(アビセル TYPE FD-101、旭化成ケミカルズ株式会社)をプラスチックチューブに量り取り、室温で60%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液、60%(w/v)チオシアン酸ナトリウム水溶液、70%(w/v)塩化亜鉛水溶液、100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物水溶液、8M尿素または水1mLをそれぞれ加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち、1時間静置した。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、直ちに遠心分離することにより洗浄し、この洗浄作業をもう1回繰り返した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持したセルロース分解酵素反応液(20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、16.5mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社)および1mg/mLのNovozyme 188 (SIGMA社))を1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分でそれぞれ酵素反応を行った。24時間後に20μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定した。
その結果、水で前処理した試料では8.75mMのグルコースが生成した。
それに対して、60%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液で前処理した試料では18.8mM、60%(w/v)チオシアン酸ナトリウム水溶液で前処理した試料では 17.0mM、70%(w/v)塩化亜鉛水溶液で前処理した試料では13.3mM、100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物水溶液で前処理した試料では17.1mM、そして8M尿素で前処理した試料では11.1mMのグルコースがそれぞれ生成しており、いずれも、試料の糖化効率を大幅に向上することができた。
【0089】
実施例2
5mgのセルロース粉末(アビセル TYPE FD-101、旭化成ケミカルズ株式会社)をプラスチックチューブに量り取り、室温で60%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液、100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物または水1mLをそれぞれ加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち、1時間静置した。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、直ちに遠心分離することにより洗浄し、この洗浄作業をもう1回繰り返した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持したセルロース分解酵素反応液(20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、16.5mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社)および1mg/mLのNovozyme 188 (SIGMA社))を1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分でそれぞれ酵素反応を行った。途中、20μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定した。
その結果、図2に示すように、チオシアン酸カルシウム処理を行ったものは分解が急速に進み、3時間で約15.6mMのグルコースが生成し、塩化カルシウム処理を行ったものでは8.24mMのグルコースが生成したが、水処理物では3.51mM程度に留まっていた。
なお、図2中、■は水処理物、▲は塩化カルシウム処理を行ったもの、▼はチオシアン酸カルシウム処理を行ったものをそれぞれ示している。
【0090】
実施例3
実施例2の方法にならい、5mgのセルロース粉末(アビセル TYPE FD-101、旭化成ケミカルズ株式会社)をプラスチックチューブに量り取り、室温で1mLの50%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液を加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち、図3に示す所定の時間静置した。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、直ちに遠心分離することにより洗浄し、この洗浄作業をもう1回繰り返した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持したセルロース分解酵素反応液(20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、16.5mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社))を1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分で酵素反応を行った。24時間後に20μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定し、グルコース遊離率を比較した。
その結果、図3に示すように、チオシアン酸カルシウム水溶液と混合した後、直ちに遠心分離を行い、洗浄を行ったサンプルについても処理効果が得られており、短時間の処理で高い効果が得られることが示唆された。
【0091】
実施例4
実施例2の方法にならい、5mgのセルロース粉末(アビセル TYPE FD-101、旭化成ケミカルズ株式会社)をプラスチックチューブに量り取り、図4に示す各温度で1mLの50%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液を加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち、1時間静置した。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、直ちに遠心分離することにより洗浄し、この洗浄作業をもう1回繰り返した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持したセルロース分解酵素反応液(20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、16.5mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社))を1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分で酵素反応を行った。24時間後に20μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定し、グルコース遊離率を比較した。
その結果、図4に示すように、室温で効果が得られたほか、試験した処理温度のうち、最低温度である摂氏0度での処理を行ったサンプルについても高い効果が得られていた。
【0092】
実施例5
実施例2の方法にならい、5mgのセルロース粉末(アビセル TYPE FD-101、旭化成ケミカルズ株式会社)をプラスチックチューブに量り取り、室温で図5に示す所定の濃度のチオシアン酸カルシウム水溶液(1mL)または水を加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち、1時間静置した。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、直ちに遠心分離することにより洗浄し、この洗浄作業をもう1回繰り返した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持したセルロース分解酵素反応液(20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、16.5mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社))を1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分で酵素反応を行った。24時間後に20μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定し、グルコース遊離率を比較した。
その結果、図5に示すように、20%(w/v)のチオシアン酸カルシウム処理によって僅かに反応率が向上し、50%以上で高い効果が観察された。
【0093】
実施例6
実施例2の方法にならい、5mgのセルロース粉末(アビセル TYPE FD-101、旭化成ケミカルズ株式会社)をプラスチックチューブに量り取り、室温で30%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液(1mL)、30%(w/v)チオシアン酸ナトリウム(1mL)、30%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液0.5mLと30%(w/v)チオシアン酸ナトリウム0.5mLを混合したもの、または水を加えた。それらを直ちにボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち、室温で1時間静置した。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、直ちに遠心分離することにより洗浄し、この洗浄作業をもう1回繰り返した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持したセルロース分解酵素反応液(20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、16.5mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社))を1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分で酵素反応を行った。24時間後に20μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定し、グルコース遊離率を比較した。
その結果、30%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液で前処理した試料では10.2mM、30%(w/v)チオシアン酸ナトリウムで前処理した試料では10.1mMであったのに対して、30%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液0.5mLと30%(w/v)チオシアン酸ナトリウム0.5mLを混合したもので前処理した試料では17.1mMのグルコースがそれぞれ遊離した。
【0094】
実施例7
実施例2の方法にならい、5mgのセルロース粉末(アビセル TYPE FD-101、旭化成ケミカルズ株式会社)をプラスチックチューブに量り取り、室温で図6に示す所定の濃度の塩化カルシウム・二水和物の水溶液(1mL)または水を加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち、1時間静置した。また、100%(w/v)の塩化カルシウム・二水和物水溶液1mLを加えたもの1本については、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させた後、摂氏100度で1時間静置した。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、直ちに遠心分離することにより洗浄し、この洗浄作業をもう1回繰り返した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持したセルロース分解酵素反応液(20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、16.5mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社))を1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分で酵素反応を行った。24時間後に20μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定し、グルコース遊離率を比較した。
その結果、図6に示すように、20%(w/v)の塩化カルシウム・二水和物水溶液処理によって僅かに反応率が向上し、80%以上で高い効果が観察された。また、摂氏100度で1時間静置した資料については、19.1mMのグルコースが遊離した。
【0095】
実施例8
実施例2の方法にならい、5mgのセルロース粉末(アビセル TYPE FD-101、旭化成ケミカルズ株式会社)をプラスチックチューブに量り取り、室温で1mLの50%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液を加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち、1時間静置した。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、直ちに遠心分離することにより洗浄し、この洗浄作業を所定回数繰り返した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持したセルロース分解酵素反応液(20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、16.5mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社))を1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分で酵素反応を行った。24時間後に20μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定し、グルコース遊離率を比較した。その結果、洗浄による効率の低下は観察されなかった。
【0096】
実施例9
実施例2の方法にならい、5mgのセルロース粉末(アビセル TYPE FD-101、旭化成ケミカルズ株式会社)をプラスチックチューブに量り取り、室温で1mLの60%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液を加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち静置した。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、所定時間静置した。これを遠心分離して上澄液を除き、水1mLを加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させた後、これを再度遠心分離して上澄液を除くことにより洗浄した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持したセルロース分解酵素反応液(20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、16.5mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社))を1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分で酵素反応を行った。1時間後に50μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定し、グルコース遊離率を比較した。その結果、0時間静置試料(直ちに二回目の洗浄を行った試料)の遊離率を100%とした場合、1時間静置で遊離率94.9%、2時間静置で94.7%、3時間静置で85.2%となった。
【0097】
実施例10
実施例2の方法にならい、5mgのセルロース粉末(アビセル TYPE FD-101、旭化成ケミカルズ株式会社)をプラスチックチューブに量り取り、室温で1mLの水または5%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液を加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち、摂氏マイナス20度で1晩静置した。それらを室温に戻して自然解凍させた後、ボルテックスミキサーにより撹拌してセルロース粉末を分散させた。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、直ちに遠心分離することにより洗浄し、この洗浄作業を2回繰り返した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持したセルロース分解酵素反応液(20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、16.5mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社))を1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分で酵素反応を行った。2時間後に20μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定し、グルコース遊離率を比較した。その結果、水処理試料のグルコース遊離率を100%とした場合、5%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液処理試料では226%に向上した。
【0098】
実施例11
種々の多糖を含む試料を用いて、チオシアン酸処理の効果を調べた。(1)バガス粉末(風乾重量5mg)、(2)籾殻粉砕物(風乾重量5mg)、(3)オカラ乾燥物(風乾重量5mg)、(4)割り箸破砕物(風乾重量5mg)、(5)キャッサバ澱粉絞りかす(湿重量20mg)、(6)サツマイモ澱粉絞りかす(湿重量25mg)、(7)馬鈴薯澱粉絞りかす(湿重量25mg)、(8)コーンコブ破砕物(湿重量22mg)あるいは(9)馬鈴薯澱粉(風乾重量5mg)を基質として、実施例2の方法にならい、1mLの60%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液または水を加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち、(1)~(4)は摂氏100度、他は室温で1時間静置した。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、直ちに遠心分離することにより洗浄し、この洗浄作業を2回繰り返した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持した、20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)を含むセルラーゼ系分解酵素(16.5mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社)および1mg/mLのNovozyme 188 (SIGMA社))またはアミラーゼ系分解酵素(2.84mg/mLのバチルス由来Type II-A α-アミラーゼ(SIGMA社)および1.39mg/mLリゾプス由来グルコアミラーゼ(オリエンタル酵母株式会社))のいずれか少なくとも一種類(表参照)を含む溶液1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分で酵素反応を行った。所定時間後に20μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定し、そのグルコース遊離率を比較した。その結果を表1に示す。
その結果、チオシアン酸カルシウム処理の効果が確認された。特に芋類からの澱粉絞りかすについては、高いグルコース生成が見られた。
【0099】
【表1】
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【0100】
実施例12
実施例2の方法にならい、バガス粉末(風乾、5mg)を基質として、(1)1mLの60%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液、(2)1mLの60%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液に50μLのメタノールまたは(3)水を加えた後、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち、室温で1時間静置した。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、直ちに遠心分離することにより洗浄し、この洗浄作業を2回繰り返した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持した、20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)を含むセルラーゼ系分解酵素(16.5mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社)および1mg/mLのNovozyme 188 (SIGMA社))を含む溶液1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分で酵素反応を行った。5時間後に20μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定し、そのグルコース遊離率を比較した。その結果、(1)で0.3mM、(2)で0.67mMそして(3)で0.195mMのグルコースが生成し、有機溶媒添加によるグルコース遊離促進効果が観察された。
【0101】
実施例13
25mgのキャッサバ澱粉絞りかすをプラスチックチューブに量り取り、室温で60%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液、100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物または水を1mLをそれぞれ加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち、1時間静置した。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、直ちに遠心分離することにより洗浄し、この洗浄作業をもう1回繰り返した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持したアミラーゼ系分解酵素(0.71mg/mLのバチルス由来Type II-A α-アミラーゼ(SIGMA社)および0.348mg/mLリゾプス由来グルコアミラーゼ(オリエンタル酵母株式会社))を1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分でそれぞれ酵素反応を行った。1時間後に20
μlをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定した。
その結果、チオシアン酸カルシウム処理を行ったものでは、1時間で約18.1mMのグルコースが生成し、塩化カルシウム処理を行ったものでは24.9mMのグルコースが生成したが、水処理物では4.3mM程度に留まっていた。
【0102】
実施例14
図1に示す構造の装置のプラスチック製内部容器2の底部に、キャッサバ澱粉絞りかす(湿重量32g)を置き、それに16mLの60%(w/v)チオシアン酸カルシウム水溶液を直接染みこませ、スパーテルの先で撹拌した後に、5分間室温で静置した。その後、攪拌子4により撹拌しつつ、700mLの水を静かに加えつつ、オーバーフロー・攪拌用スリット3からオーバーフローさせることによって洗浄を行った。予め摂氏37度で予熱した酵素液(10mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)を含むセルラーゼ系分解酵素(0.516mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社)、0.125mg/mLのNovozyme 188 (SIGMA社)、0.102mg/mLのバチルス由来Type II-A α-アミラーゼ(SIGMA社)および0.174mg/mLリゾプス由来グルコアミラーゼ(オリエンタル酵母株式会社))を加えて総液量800mLとして、摂氏37度で撹拌しつつ酵素分解反応を行った。経時的に10μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定した。
その結果、図7に示すように、反応直後からグルコースの遊離が急速に進み、反応後3時間程度で8g以上のグルコースが生成した。
【0103】
実施例15
実施例14において、6時間後に得られた反応液を遠心分離(5,830 × g, 10分)した後、上澄みを回収した。上澄液に、最終濃度がそれぞれ1%、0.5%になるようにBacto-Tryptone (Difco社)粉末およびYeast Extract (Difco社)の粉末を加えた後、0.22 μm径フィルターにより濾過し、5mLを15mL容滅菌プラスチックチューブに分注した。その後、Saccharomyces cerevisiae NFRI 3053(IAM 4125)のコロニーを接種し、閉栓後、横に倒して摂氏30度、64rpmで15時間振とう培養した。反応上澄の代わりに水を用い、Bacto-TryptoneおよびYeast Extractを含む培地も作製し、同様に植菌・培養を行った。その後、培地中に生成したエタノール量をF-キット エタノール(JKインターナショナル社)により定量した。
その結果、実施例14における酵素反応生成物を含む培地では、0.44%のエタノールが生成したのに対して、酵素反応物を加えずBacto-TryptoneおよびYeast Extractを含む培地における培養では、エタノールは生成しなかった。
【0104】
実施例16
実施例2の方法にならい、5mgのセルロース粉末(アビセル TYPE FD-101、旭化成ケミカルズ株式会社)をプラスチックチューブに量り取り、室温で100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物または水1mLをそれぞれ加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち、12時間静置した。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、直ちに遠心分離することにより洗浄し、この洗浄作業をもう2回繰り返した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持したセルロース分解酵素反応液(20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、16.5mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社)および1mg/mLのNovozyme 188 (SIGMA社))を1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分でそれぞれ酵素反応を行った。途中、20μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定した。
その結果、図8に示すように、塩化カルシウム処理を行ったものでは、5時間後に約14mMのグルコースが生成した。
なお、図8中、■は塩化カルシウム処理を行ったもの、▲は水処理を行ったものをそれぞれ示している。
【0105】
実施例17
実施例2の方法にならい、5mgのセルロース粉末(アビセル TYPE FD-101、旭化成ケミカルズ株式会社)をプラスチックチューブに量り取り、室温で100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物または水1mLをそれぞれ加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち、所定時間静置した。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、直ちに遠心分離することにより洗浄し、この洗浄作業をもう2回繰り返した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持したセルロース分解酵素反応液(20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、16.5mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社)および1mg/mLのNovozyme 188 (SIGMA社))を1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分でそれぞれ酵素反応を行った。24時間後に20μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定した。
その結果、図9に示すように、塩化カルシウム処理時間に応じて、酵素反応24時間後のグルコース生成率は向上し、処理5時間程度で生成率はほぼ飽和状態となった。
【0106】
実施例18
実施例2の方法にならい、5mgのセルロース粉末(アビセル TYPE FD-101、旭化成ケミカルズ株式会社)をプラスチックチューブに量り取り、100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物をそれぞれ加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち、所定の温度で静置した。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、直ちに遠心分離することにより洗浄し、この洗浄作業をもう2回繰り返した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持したセルロース分解酵素反応液(20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、16.5mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社)および1mg/mLのNovozyme 188 (SIGMA社))を1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分でそれぞれ酵素反応を行った。一定時間後に20μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定した。
その結果、図10に示すように、塩化カルシウム処理温度条件により、酵素反応速度変化が見られた。24時間の連続処理を行った試料では、摂氏25度、37度、50度、4度の処理区の順に酵素反応速度が高い値を示し、特に摂氏25度で24時間処理した試料酵素処理効率は、実施例18の処理区中最も高い値を示した。
それに対して、最初の2時間を摂氏100度で処理した後に各温度処理を22時間行った試料では、対応する24時間連続処理区の試料に比べて、顕著に低い酵素反応速度を示した。特に、摂氏100度で2時間処理した後に摂氏4度で22時間処理したものは、実施例18の処理区中最も低い酵素反応速度の値を示した。
しかしながら、この摂氏100度で2時間処理した後に摂氏4度で22時間処理した試料においては、低温処理後にセルロースが透明化し、遠心分離により沈殿として回収されたセルロースは半透明で高度に膨潤していた。
この結果から、セルロースを塩化カルシウム・二水和物水溶液で処理した場合、高温処理を施した後に低温処理を施すことで、セルロースの膨潤性が極めて高くなり、溶液中に高度に分散することが明らかになった。
図10において、■は摂氏100度で2時間処理した後に摂氏4度で22時間処理したもの、▲は摂氏100度で2時間処理した後に摂氏25度で22時間処理したもの、▼は摂氏100度で2時間処理した後に摂氏37度で22時間処理したもの、◆は摂氏100度で2時間処理した後に摂氏50度で22時間処理したもの、●は摂氏4度で24時間処理したもの、□は摂氏25度で24時間処理したもの、△は摂氏37度で24時間処理したもの、▽は摂氏50度で24時間処理したものを示す。
【0107】
実施例19
5mgのセルロース粉末(アビセル TYPE FD-101、旭化成ケミカルズ株式会社)をプラスチックチューブに量り取り、それぞれ1mLの100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させた後、所定温度(温度条件1)で所定時間(反応時間1)において静置した。その後、ボルテックスミキサーにより撹拌し、直ちに所定温度(温度条件2)で30分間静置し、その後の粉末の変化を目視にて確認し、セルロース粉末の分散性を下記の5段階で評価した。
この評価系において、「+++」及び「++」であれば、分散性の高いセルロースに変換されることが確認できたと言うことができる。結果を表2に示す。
なお、本実施例19において、温度条件1を「高温条件」、温度条件2を「低温条件」とみなすことができる。
【0108】
[セルロース分散性の評価]
・+++ :半透明粒子が分散しており透明度が高い。
・++ :半透明粒子が分散している。
・+ :半透明粒子が分散しているがやや白色である。
・± :やや半透明の白い細粒がほぼ沈殿している。
・- :白い粒子がほぼ沈殿している。
【0109】
その結果、表2に示すとおり、複数の処理条件下において不溶性のセルロース粉末が、分散性の高いセルロースに変換されることが確認できた。
具体的には、試料1~4が示すように、高温条件として摂氏100度で「5分より長い時間」静置し、低温条件として摂氏4度に30分間静置した試料においては、不溶性のセルロース粉末が、白濁のない半透明粒子として分散することが観察されたが、高温条件の処理時間を5分間しか行わなかった試料では、分散性の賦与が不十分であった。
また、試料4~9が示すように、高温条件として「摂氏50度より高い温度」で20分間静置し、低温条件として摂氏4度に30分間静置した試料では、不溶性のセルロース粉末が、白濁のない半透明粒子として分散することが観察されたが、高温条件を50度で行った試料では、分散性の賦与は不十分であった。
さらに、試料4および試料10~13が示すように、高温条件として、摂氏100度で20分間静置し、低温条件として「摂氏20度より低い温度」に30分間静置した試料では、不溶性のセルロース粉末が、白濁のない半透明粒子として分散することが観察されたが、低温条件を20度で行った試料では、白い沈殿が観察された。
【0110】
【表2】
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【0111】
実施例20
100mgのセルロース粉末(アビセル TYPE FD-101、旭化成ケミカルズ株式会社)をマグネティック・スターラーとともに50mL容三角フラスコに入れて、これに10mLの100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物または水を加えた後、摂氏60度下で撹拌しつつ500μl の濃塩酸を加えた。その後、経時的に20μlサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定した。
その結果、図11に示すように、100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物存在下で酸と反応させた試料においてのみ、グルコースの遊離が確認された。図11において、▲は100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物存在下で塩酸処理した試料、■は水で塩酸処理した試料を示す。
【0112】
実施例21
400mgのキャッサバ絞りかす(湿重、実施例11で使用したもの)をマグネティック・スターラーとともに50mL容三角フラスコに入れて、これに10mLの100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物または水を加えた後、摂氏60度下で撹拌しつつ500μl の濃塩酸を加えた。その後、経時的に20μlサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定した。
その結果、図12に示すように、100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物存在下で酸と反応させた試料においてのみ、グルコースの遊離が確認された。図12において、▲は100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物存在下で塩酸処理した試料、■は水で塩酸処理した試料を示す。
【0113】
実施例22
1.02gの製紙スラッジ(濃灰色物、湿重、含水率52.4%)をマグネティック・スターラーとともに50mL容三角フラスコに入れて、これに10mLの100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物または水を加えた後、室温で10分間撹拌し、その後、室温で一晩放置した。それを摂氏60度の湯浴へ入れて、3mLの濃塩酸を加えた。その後、経時的に20μlサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定した。
その結果、図13に示すように、100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物存在下で酸と反応させた試料において、高いグルコースの遊離が確認された。図13において、▲は100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物存在下で塩酸処理した試料、■は水で塩酸処理した試料を示す。
【0114】
実施例23
200mgのバガス繊維(実施例11において使用した物)をマグネティック・スターラーとともに50mL容三角フラスコに入れたものを3個用意(以下、試料(1)、(2)および(3)とする。)し、試料(1)および(2)にはそれぞれ7mLの水酸化カルシウム飽和水(室温で一晩静置して調整したもの。)を加えた後、過酸化水素水を1mL加え、試料(3)については8mLの水を加えて、摂氏37度で10時間撹拌した。試料(1)および(2)については、黄土色のバガス繊維が大幅に脱色されて、少し黄色がかった白色の繊維に変換された。その繊維質を、濾紙を用いて吸引濾過し、それを十分量の水で洗浄した。
その繊維質を50mL容プラスチックチューブに移し、試料(1)については5mLの100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物を加え、試料(2)および(3)については水を加えた後、摂氏60度下で1時間静置した。そこから再度、繊維質を濾別回収し十分量の水で洗浄した。それをマグネティック・スターラーとともに50mL容三角フラスコに入れて、予め調整して摂氏37度に維持したセルロース分解酵素反応液(20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、3.30mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社)および0.2mg/mLのNovozyme 188 (SIGMA社))を10mL加えて、摂氏37度で酵素反応させた。その後、経時的に20μlサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定した。
その結果、図14に示すように、100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物で前処理した試料(1)において、高いグルコースの遊離が確認された。また、試料(2)および(3)を比較して、水酸化カルシウム-過酸化水素水による前処理の効果が見られた。図14において、▲は水酸化カルシウム-過酸化水素水および100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物で前処理した試料(1)、■は水酸化カルシウム-過酸化水素水および水で前処理した試料(2)、そして▼は水のみで前処理した試料(3)を示す。
【0115】
実施例24
100mgのキチン粉末(キチンEX、フナコシ株式会社)をマグネティック・スターラーとともに50mL容三角フラスコに入れたものを2個用意し、それぞれ10mLの100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物または水を加えた後、前者についてはさらに塩化カルシウム・二水和物の粉末を1.5g加えて、摂氏60度で撹拌しつつ1mLの濃塩酸を加えた。その後、経時的に30μlサンプリングし、それぞれ20μLまたは40μLの1M 炭酸ナトリウム水溶液を加えた後、ソモギーネルソン法により還元糖量を測定した。標準物質としてはN-アセチル-D-グルコサミンを用いた。
その結果、図15に示すように、100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物存在下で酸と反応させた試料においてのみ、還元糖の遊離が確認された。図15において、■は100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物中存在下で塩酸処理した試料、◆は水で塩酸処理した試料を示す。
【0116】
実施例25
100mgのキチン粉末(キチンEX、フナコシ株式会社)をマグネティック・スターラーとともに50mL容三角フラスコに入れたものを2個用意し、それぞれ10mLの100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物または水を加えた後、室温で1時間撹拌し、その後、一晩静置した。その後、前者のみさらに塩化カルシウム・二水和物の粉末を1.5g加えた。これらに3mLの濃塩酸を加えて摂氏37度で4時間撹拌した。その結果、100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物中で酸処理した試料では、懸濁液が透明化した。水中で酸処理した試料では、もとの懸濁液のままであり、撹拌を停止すると沈殿となった。前者の試料を水で二倍に希釈し、さらにエタノールをその2倍量加えると、キチン由来の白色微粉末が生成した。
【0117】
実施例26
1gのキチン粉末(キチンEX、フナコシ株式会社)をマグネティック・スターラーとともに50mL容三角フラスコに入れて、これに10mLの100%(w/v)塩化カルシウム・二水和物を加えた後、室温で2分間撹拌し、その後、一晩静置した。その後、3mLの濃塩酸を加えて摂氏37度で1時間撹拌した。その結果、懸濁液が糊状に変化した。この試料を遠心分離(6,850 × g、摂氏4度、10分)して回収した白色糊状物を約60mLの水で2回洗浄した後、約20mLの水に懸濁することにより、分散性が高いコロイダルキチン様の懸濁液を得た。
【0118】
実施例27
実施例2の方法にならい、5mgのセルロース粉末(アビセル TYPE FD-101、旭化成ケミカルズ株式会社)をプラスチックチューブに量り取り、室温で62.5%(w/w)塩化マグネシウム・6水和物水溶液または水1mLをそれぞれ加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち、一晩静置した。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、直ちに遠心分離することにより洗浄し、この洗浄作業をもう2回繰り返した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持したセルロース分解酵素反応液(20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、16.5mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社)および1mg/mLのNovozyme 188 (SIGMA社))を1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分でそれぞれ酵素反応を行った。4時間後に20μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定した。
その結果、62.5%(w/w)塩化マグネシウム・6水和物処理を行ったものでは、4時間後に約6.4mMのグルコースが生成したが、水処理物では、3.5mMであった。
【0119】
実施例28
0%、10%または25%(それぞれw/v)の塩化カルシウム・二水和物を含むLB寒天培地(10g/L Bacto-tryptone, 5g/L Yeast Extract, 10g/L NaClを水に溶解し、pHを6~7の間に合わせた後に、20g/L寒天を加えて加熱し、プラスチックシャーレに分注して冷却・固化したもの)に、腐敗キャッサバ表面に生育する菌体を少量掻き取り、これを5mLの水に懸濁した後、10万倍に水で希釈して撒いた。1日後、プレート上に存在するコロニー数はそれぞれ、170個、0個、0個であった。また、15日後には、10%塩化カルシウム・二水和物を含む培地でも1~数個の薄いコロニーが生育していたが、その生育性は良くなかった。
【0120】
実施例29
実施例2の方法にならい、5mgのセルロース粉末(アビセル TYPE FD-101、旭化成ケミカルズ株式会社)をプラスチックチューブに量り取り、水500μL(以下、試料(1)とする。)、水500μLおよび濃硫酸50μL(以下、試料(2)とする。)、室温で飽和させた硫酸ナトリウム水溶液500μL(以下、試料(3)とする。)、室温で飽和させた硫酸ナトリウム水溶液500μLおよび濃硫酸50μL(以下、試料(4)とする。)、室温で飽和させた硫酸アンモニウム水溶液500μL(以下、試料(5)とする。)、室温で飽和させた硫酸アンモニウム水溶液500μLおよび濃硫酸50μL(以下、試料(6)とする。)をそれぞれ加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌して分散させたのち、42時間静置した。その後、遠心分離して上澄液を除き、沈殿部に1mLの水を加えてボルテックスミキサーにより撹拌して分散させ、直ちに遠心分離することにより洗浄し、この洗浄作業をもう2回繰り返した。
得られた沈殿部に、予め調整して摂氏37度に維持したセルロース分解酵素反応液(20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、16.5mg/mLのCelluclast 1.5L FG (Novozymes社)および1mg/mLのNovozyme 188 (SIGMA社))を1mL加えて、ボルテックスミキサーにより撹拌したのち、摂氏37度、12回転/分でそれぞれ酵素反応を行った。1,2および3時間後に20μLをサンプリングし、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)によりグルコース量を測定した。
その結果、図16に示すとおり、塩処理による膨潤効果および硫酸塩水溶液と硫酸が共存する条件下での膨潤効果が観察された。図16において、■は試料(1)、▲は試料(2)、▼は試料(3)、◆は試料(4)、○は試料(5)、□は試料(6)を示す。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明によれば、多糖、特に難分解性多糖を含む素材から低分子糖質の製造技術を提供することにより、エタノールや石油代替製品等をターゲットとした糖質バイオマスの高度利用に繋げることができる。
さらに、本発明によれば、農林水産廃棄物、食品製造廃棄物や資源作物などのバイオマスの多岐にわたる有用素材への変換が大幅に加速することが可能となり、延いては世界のエネルギー問題や環境問題の緩和に寄与するものと期待される。その利用範囲は、サトウキビ、トウモロコシ、芋類などを資源作物として大規模プランテーションする国内外の地域、古紙、パルプ廃液や製紙スラッジ、建築廃材、コンビニ弁当等の流通廃棄物などの事業系・生活系廃棄物が発生する都市地域、そして農林水産廃棄物や地域密着型食品製造廃棄物が発生する地域に及ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】多糖を含む素材の糖化処理装置の1例を示す説明図である。
【図2】実施例2におけるセルロースの酵素糖化速度を示すグラフである。
【図3】実施例3におけるチオシアン酸カルシウム溶液による前処理の時間とグルコース遊離濃度の関係を示すグラフである。
【図4】実施例4におけるチオシアン酸カルシウム溶液による前処理の温度とグルコース遊離濃度の関係を示すグラフである。
【図5】実施例5におけるチオシアン酸カルシウム溶液による前処理時のチオシアン酸カルシウム濃度とグルコース遊離濃度の関係を示すグラフである。
【図6】実施例7における塩化カルシウム・二水和物水溶液による前処理時の塩化カルシウム・二水和物水溶液濃度とグルコース遊離濃度の関係を示すグラフである。
【図7】実施例14におけるキャッサバ澱粉絞りかすの酵素糖化時におけるグルコース遊離濃度変化を示すグラフである。
【図8】実施例16におけるセルロースの酵素糖化速度におよぼす塩化カルシウム・二水和物水溶液処理の効果を示すグラフである。
【図9】実施例17における塩化カルシウム・二水和物水溶液による前処理の時間とグルコース遊離濃度の関係を示すグラフである。
【図10】実施例18における塩化カルシウム・二水和物水溶液による前処理の温度とグルコース遊離濃度の関係を示すグラフである。
【図11】実施例20におけるセルロースの酸糖化速度におよぼす塩化カルシウム・二水和物水溶液の効果を示すグラフである。
【図12】実施例21におけるキャッサバ絞りかすの酸糖化速度におよぼす塩化カルシウム・二水和物水溶液の効果を示すグラフである。
【図13】実施例22における製紙スラッジの酸糖化速度におよぼす塩化カルシウム・二水和物水溶液の効果を示すグラフである。
【図14】実施例23におけるバガス繊維の酵素糖化速度におよぼす水酸化カルシウム-過酸化水素水処理による前処理および塩化カルシウム・二水和物水溶液の効果を示すグラフである。
【図15】実施例24におけるキチンの酸糖化速度におよぼす塩化カルシウム・二水和物水溶液の効果を示すグラフである。
【図16】実施例29におけるセルロースの酸糖化速度におよぼす硫酸塩あるいは硫酸を含む硫酸塩の効果を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15