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明細書 :種子の吸水促進処理方法及び処理装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4911458号 (P4911458)
公開番号 特開2008-154464 (P2008-154464A)
登録日 平成24年1月27日(2012.1.27)
発行日 平成24年4月4日(2012.4.4)
公開日 平成20年7月10日(2008.7.10)
発明の名称または考案の名称 種子の吸水促進処理方法及び処理装置
国際特許分類 A01C   1/00        (2006.01)
A01C   1/02        (2006.01)
FI A01C 1/00 A
A01C 1/00 Q
A01C 1/02 Z
請求項の数または発明の数 7
全頁数 10
出願番号 特願2006-343718 (P2006-343718)
出願日 平成18年12月21日(2006.12.21)
審査請求日 平成21年5月25日(2009.5.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】乙部 和紀
個別代理人の代理人 【識別番号】100107870、【弁理士】、【氏名又は名称】野村 健一
【識別番号】100098121、【弁理士】、【氏名又は名称】間山 世津子
審査官 【審査官】村田 泰利
参考文献・文献 特開2006-191895(JP,A)
特開2005-270092(JP,A)
特開2005-304409(JP,A)
特開平04-063568(JP,A)
「味噌の科学と技術」,日本,全国味噌技術会,1978年 4月10日,No.290,第13頁
調査した分野 A01C 1/00
A23L 1/20
CiNii
JSTPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
種皮に対して、深さが10~50マイクロメートル、直径が200マイクロメートル以下の微小孔を穿つことを特徴とする種子の吸水促進処理方法。
【請求項2】
種皮上の微小孔数が、1mm当たり5~30であることを特徴とする請求項1に記載の種子の吸水促進処理方法。
【請求項3】
種子が、マメ科植物の種子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の種子の吸水促進処理方法。
【請求項4】
微小な突起を多数有する面を持つ器具と種子を接触させることにより、種皮に対して、微小孔を穿つことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の種子の吸水促進処理方法。
【請求項5】
微小な突起を多数有する面を持つ器具の突起を有する面上で、この面に対して垂直方向に力を加えながら種子を転がすことにより、種皮に対して、微小孔を穿つことを特徴とする請求項4に記載の種子の吸水促進処理方法。
【請求項6】
微小な突起を多数有する面を持つ微小突起部材、微小突起部材の突起を有する面の上方に一定の間隔をおいて固定される柔軟部材、柔軟部材上に載置され、種子を貯留しておく貯留容器、柔軟部材と貯留容器を所望の位置で固定するための固定部材、内部に微小突起部材が載置され、処理種子を回収するための回収容器、及び回収容器が載置され、回収容器と微小突起部材を動かすための駆動部材を有し、柔軟部材と貯留容器の中央に種子が通過するための通過孔が設けられ、微小突起部材の突起を有する面が中央部から周辺部へ下降傾斜した構造をとり、貯留容器の底部が周辺部から通過孔に向かって下降傾斜した構造をとることを特徴とする種子の吸水促進処理装置。
【請求項7】
微小な突起の高さが、10~1000マイクロメートルであることを特徴とする請求項6に記載の種子の吸水促進処理装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、食用又は栽培用種子の吸水を促進させるための処理方法、及び当該処理を種子に効率的に施すための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
種子の吸水は、それが食用であるか栽培用であるかに関わらず、利用する上で重要な現象である。ダイズなどでは、冠水により吸水が急激に進展し、生理的・物理的障害が発生して発芽率が落ちることが知られており、種子の吸水制限方法に対するニーズが存在する(農林水産研究文献解題N0.27「大豆 自給率向上に向けた技術開発」;174-175;中山則和ほか、「ダイズ種子の吸水速度調節が冠水障害の発生に与える影響」、日本作物学会紀事74(3)、325-329(2005))。しかしその一方で、「石豆」と呼ばれる、吸水が極度に遅い(あるいは全くしない)種子の発生は、たとえばダイズやアズキを蒸煮加工した食品の製造においては製品の品質不良の原因となるため、品質管理上の重要な問題である(特許文献1)。また、栽培時においても「石豆」は吸水が極度に遅いために苗立ちの遅れや斉一性に影響するなど、食用であるか栽培用であるかにかかわらず、種子の「石豆」状態の解消が重要であることから、「石豆」を吸水可能な状態に戻す方法へのニーズが存在する。
【0003】
「石豆」が生じる原因については、CaleroとHinsonの報告がある。彼らは、電子顕微鏡観察に基づいた解析により、原種が難吸水性ダイズである品種においては種皮表面に存在する微小孔がワックス状の物質により閉塞している種子が難吸水性になると推定している(Calero and Hinson, Crop Science 21, 926-933(1981))。
【0004】
「石豆」を解消するための手段についても幾つか報告がある。例えば、種子の持つ気体や水へのバリヤ機能は種皮の最上層部であるクチクラ層が担っており、クチクラ層を剥離することによって「石豆」状態を解消しうるという報告がある(非特許文献1)。また、1980年代より欧米で行われているダイズの「石豆」研究における発芽性テストでは、「scarification(種皮に傷をつける)」操作によって吸水させて発芽させる方法が一般的手法として採られている(非特許文献2)。更に、丸大豆の表皮に傷をつける(たとえば、臼やスリットと大豆をこすり合わせるような脱皮機を用いて部分的に脱皮させたり、針状のもので部分的に皮に孔を開ける等)ことにより、石豆を含むすべての丸大豆の吸水性を向上させることができるという報告もある(特許文献1)。
【0005】

【特許文献1】特開2005-304409号公報
【非特許文献1】1F.Arechavaleta-Medina and HE. Snyder, Journal of American Oil Chemical Society 1981, 976-979(1981)
【非特許文献2】Nooden, et al., Control of seed coat thickness and permeability in soybean, Plant Physiology 79; 543-545(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、石豆を解消する方法は幾つか提案されているが、これらの方法は、クチクラ層や種皮に大きなダメージを与えるものであり、これは種子の急激な膨潤による種皮剥離や、過剰な吸水速度による種子組織の亀裂を生じ、溶出固形物の増加に基づく栄養成分のロスや外観品質の低下をまねくことになる。
本発明は、このような技術的背景の下になされたものであり、種子の品質を低下させることなく、「石豆」状態を解消する種子処理手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、種皮に対して、特定の深さと大きさの微小孔を穿つことにより、種子の品質を低下させることなく、吸水を促進できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下の(1)~(8)を提供するものである。
【0008】
(1)種皮に対して、深さが10~50マイクロメートル、直径が200マイクロメートル以下の微小孔を穿つことを特徴とする種子の吸水促進処理方法。
(2)種皮上の微小孔数が、1mm当たり5~30であることを特徴とする(1)に記載の種子の吸水促進処理方法。
(3)種子が、マメ科植物の種子であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の種子の吸水促進処理方法。
(4)微小な突起を多数有する面を持つ器具と種子を接触させることにより、種皮に対して、微小孔を穿つことを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の種子の吸水促進処理方法。
【0009】
(5)微小な突起を多数有する面を持つ器具の突起を有する面上で、この面に対して垂直方向に力を加えながら種子を転がすことにより、種皮に対して、微小孔を穿つことを特徴とする(4)に記載の種子の吸水促進処理方法。
(6)微小な突起を多数有する面を持つ微小突起部材、微小突起部材の突起を有する面と一定の間隔をおいて設置される柔軟部材、及び微小突起部材又は柔軟部材を動かすための駆動部材とを有することを特徴とする種子の吸水促進処理装置。
【0010】
(7)微小な突起を多数有する面を持つ微小突起部材、微小突起部材の突起を有する面の上方に一定の間隔をおいて固定される柔軟部材、柔軟部材上に載置され、種子を貯留しておく貯留容器、柔軟部材と貯留容器を所望の位置で固定するための固定部材、内部に微小突起部材が載置され、処理種子を回収するための回収容器、及び回収容器が載置され、回収容器と微小突起部材を動かすための駆動部材を有し、柔軟部材と貯留容器の中央に種子が通過するための通過孔が設けられ、微小突起部材の突起を有する面が中央部から周辺部へ下降傾斜した構造をとり、貯留容器の底部が周辺部から通過孔に向かって下降傾斜した構造をとることを特徴とする種子の吸水促進処理装置。
(8)微小な突起の高さが、10~1000マイクロメートルであることを特徴とする(6)又は(7)に記載の種子の吸水促進処理装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、種子の品質を低下させることなく、種子の吸水を促進させる方法を提供する。この方法により、「石豆」のような吸水の非常に遅い種子の性質を改善することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の種子の吸水促進処理方法は、種皮に対して、深さが10~50マイクロメートル、直径が200マイクロメートル以下の微小孔を穿つことを特徴とするものである。
微小孔の深さが10マイクロメートル未満では、吸水促進効果が十分でなく、また、深さが50マイクロメートルを超えると、急激な吸水が起こり、これにより種子が膨潤し、種皮が剥離したり、あるいは種子組織に亀裂が生じ、溶出固形物が増加し、栄養成分のロスや外観品質の低下を招く。微小孔の深さは、10~50マイクロメートルであればよいが、15~40マイクロメートルであることが好ましく、20~30マイクロメートルであることが更に好ましい。
【0013】
微小孔の直径が200マイクロメートルを超えると、深さが50マイクロメートルを超える場合と同様に急激な吸水による問題が生じる。微小孔の直径は、200マイクロメートル以下であればよいが、100マイクロメートル以下であることが好ましく、50マイクロメートル以下であることが更に好ましい。微小孔の直径の下限は、水分子が通過できる直径であればよいので実質的に制限はないが、5マイクロメートル以上であることが好ましい。なお、ここでいう「直径」とは、種皮表面から微小孔の中心に向かって陥没を始めている部分を含む微小孔全体を完全に覆うことができる円の直径を指す。
【0014】
種皮上の微小孔数は十分な吸水促進効果をもたらす範囲内であれば特に制限はないが、1mm当たりの微小孔数が5~30であることが好ましく、10~20であることが更に好ましい。
【0015】
本発明において使用する種子はどのようなものでもよいが、「石豆」のような吸水の遅い種子の問題とともに、急激な吸水による品質低下という問題も起きやすいマメ科植物の種子を使用するのが好ましい。マメ科植物の種子としては、ダイズ、ササゲ、エンドウ、ラッカセイ、インゲンマメ、アズキ、ソラマメ、レンズマメ等を例示でき、マメ科植物以外の種子としては、ニンジン、ホウレンソウ、キャベツ、レタス、ハクサイ、トマト、オクラ、ナス、キュウリ、カボチャ、トウモロコシ等を例示できる。また、種子は食用及び栽培用のいずれの種子も使用できるが、急激な吸水による問題は栽培用種子の方がより深刻であることが多いので、栽培用の種子を使用することがより好ましい。
【0016】
種皮に微小孔を穿つ方法は特に限定されず、例えば、微小な突起を多数有する面を持つ器具と種子を接触させることにより行うことができる。具体的な接触方法としては、微小な突起を多数有する面を持つ器具の突起を有する面上で、この面に対して垂直方向に力(力の強さはおよそ5~20g重程度)を加えながら種子を転がす方法、突起を有する面を振動させ、その上に種子を移動させる方法、突起を有する面の上に種子を何度も落下させる方法などを例示できる。これらの方法の中でも、力を加えながら種子を転がす方法が好ましい。この器具における突起の高さ、最大直径、数は、接触方法によって異なるが、例えば、前述した力を加えながら種子を転がす方法であれば、突起の高さは、通常、10~1000マイクロメートル、好ましくは、20~100マイクロメートル、更に好ましくは、20~50マイクロメートルであり、最大直径は、通常、500マイクロメートル以下であり、好ましくは、100マイクロメートル以下であり、更に好ましくは、50マイクロメートル以下であり、微小孔の数は、通常、1mm当たり5~30であり、好ましくは、10~20である。
【0017】
本発明の種子の吸水促進処理装置は、本発明の種子の吸水促進方法を効率的に行うためのものであり、その一態様として、微小な突起を多数有する面を持つ微小突起部材、微小突起部材の突起を有する面の上方に一定の間隔をおいて固定される柔軟部材、柔軟部材上に載置され、種子を貯留しておく貯留容器、柔軟部材と貯留容器を所望の位置で固定するための固定部材、内部に微小突起部材が載置され、処理種子を回収するための回収容器、及び回収容器が載置され、回収容器と微小突起部材を動かすための駆動部材を有し、柔軟部材と貯留容器の中央に種子が通過するための通過孔が設けられ、微小突起部材の突起を有する面が中央部から周辺部へ下降傾斜した構造をとり、貯留容器の底部が周辺部から通過孔に向かって下降傾斜した構造をとることを特徴とする装置を例示できる。
【0018】
微小突起部材における突起は、種子の吸水促進方法で述べたような高さ、最大直径、数のものを使用できる。微小突起部材としては、例えば、微小なダイアモンド粒子が固定されているダイアモンド砥石、真空中で分子蒸気を基板上に当てて多数の突起を気相成長させた基板、放電加工やイオンスパッタリング法などにより突起を平板上に多数形成させた基板などを挙げることができる。微小突起部材の突起を有する面は、中央部から周辺部へ下降傾斜した構造をとっている。傾斜角度は、種子が回収容器に向かって移動できる範囲内であれば特に限定されないが、0.2~5度の範囲内にあることが好ましい。
【0019】
柔軟部材は、種子が横滑りせず、微小突起部材の動きに合わせて転がるように、種子を上方から押さえる機能を持つ。従って、柔軟部材を構成する素材は、そのような機能を発揮できるものであればどのようなものでもよい。具体的には、シリコーンゴム、ウレタンゴム、天然ゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、ブタジェンゴム、クロロプレンゴムなどを素材として使用できる。
【0020】
貯留容器は、種子を貯留させておくことのできるものであれば特に限定されない。貯留容器の中央には通過孔が設けられており、貯留容器の底部はこの通過孔に向かって下降傾斜している。傾斜角度は、種子が通過孔に向かって移動できる範囲内であれば特に限定されないが、5~20度の範囲内にあることが好ましい。
【0021】
固定部材は、柔軟部材と貯留容器を所望の位置で固定するためのものであり、この目的を達成できるものであれば特に限定されない。柔軟部材と貯留容器を固定する位置は、微小突起部材の上方であり、柔軟部材の下部と微小突起部材の微小突起を有する面とが一定の間隔が保持されるようにする。この間隔の長さは、種子の直径よりもやや短いぐらいの長さ(通常、種子の直径の60~90%ぐらいの長さである。)である。
回収容器は、処理種子を回収するためのものであり、この目的を達成できるものであれば特に限定されない。
【0022】
駆動部材は、回収容器と微小突起部材を動かすためものであり、この目的を達成できるものであれば特に限定されない。駆動部材によって生じる運動は、この装置の場合、水平方向の運動であり、例えば、水平方向の並進運動、円運動、偏心円運動などである。
以上の吸水促進処理装置を図1を用いて説明する。
【0023】
この装置における貯留容器3の底部は、通過孔7に向かって下降傾斜しているので、貯留容器3に入れられた種子8は、通過孔7に向かって移動し、そこを通って、微小突起部材1の突起を有する面上に落ちる。この面は、周辺部に向かって下降傾斜しているので、落下した種子8は、周辺部分に向かって移動し、柔軟部材2と微小突起部材1との空隙部分に入り込む。柔軟部材2と微小突起部材1との間隔は、種子の直径よりやや短いので、柔軟部材2は、種子8によって変形し、種子8を上方から軽く押さえつける。種子8は、柔軟部材2によって上方から押さえられているので、微小突起部材1の水平方向の運動に対して横滑りをせず、微小突起部材1上を転がることになる。前述したように、微小突起部材1の突起を有する面は、周辺部に向かって下降傾斜しているので、種子8は、微小突起部材1上を何回転か転がった後、次第に外周部に移動していき、最終的には回収容器5内に落下する。この回収容器5内の種子8を回収することにより、多数の微小孔を有する種子を得ることができる。
【0024】
微小孔を有する種子は、微小な突起を多数有する面を持つ器具の突起を有する面上で、この面に対して垂直方向に力を加えながら種子を転がすことにより得られるので、微小孔を有する種子を得るために必ずしも上記装置を用いる必要はない。例えば、微小な突起を多数有する面を持つ微小突起部材、微小突起部材の突起を有する面と一定の間隔をおいて設置される柔軟部材、及び微小突起部材又は柔軟部材を動かすための駆動部材とを有する装置によっても、微小孔を有する種子は得られる。
【0025】
具体的には、上記装置は地面に対して水平に運動させる駆動部材を持つが、これを地面に対して垂直に運動させる部材に置き換え、微小突起部材との間に柔軟部材に自動的に種子を供給するような部材を付加することにより、同じ効果を得られる装置を実現できる。また、微小突起部材と貯留容器を円筒型として入れ子型にし、両者を外円筒または内円筒として、その間隙に柔軟部材を、微小突起と対向させるように設置し、回転モータによって一方の円筒を他方の円筒軸に対して一定方向に回転または偏心円運動させることによっても、同じ効果を有する装置を実現できる。このような円筒型の装置の場合には、装置の設定は地上に対して水平でも垂直でも実現可能であり、種子の投入と排出が円滑に行われるように種子の通過孔を適切な位置に配置すると共に、処理するための間隙に傾斜角を設けることにより、上記装置と同等の効果が得られる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
〔実施例1〕
平成17年度に埼玉県で収穫されたダイズ(品種:タチナガハ)を原料として納豆を製造した際に発見された「石豆」混入ダイズから500gの種子を採取し、吸水処理を10分間行っても形態変化を起こさなかった種子18粒を「石豆」として供試した。そのうちの8粒についてレーザ走査型三次元微細形状計測顕微鏡(キーエンス社製)を用いて、種皮表面の0.3mm2の範囲に含まれる10マイクロメートル以上の微小孔数を1粒あたり2箇所について計数し、正常な種子8粒との比較を行った。続いて、「石豆」と正常粒との吸水特性を定量的に比較するために、室温下の水に1時間浸せきした後の粒重変化率を比較した。これらの結果を表1に示す。なお、粒重変化は、1時間後の粒重を初期粒重で除した数値で表した。
【表1】
JP0004911458B2_000002t.gif
以上の測定により、抽出された「石豆」は明らかに吸水がほとんどおこらず、種皮表面に存在する微小孔が極端に少なく、かつ10マイクロメートルを超える微小孔がほとんどないことが示された。
【0027】
〔実施例2〕
抽出された「石豆」種子のうち10粒に対して、市販の荒研ぎ用ダイアモンド砥石(微小突起密度;0.3mm2あたり3個以上)を用いて「石豆」解消処理を施した。具体的には、種子を研ぎ面に置いて、指で軽く押しつけながら表面を3回転するように転がした。処理結果を三次元微細形状計測顕微鏡により確認したところ、全ての粒の種皮表面に0.3mm2あたり3個の微細な傷が存在し、傷の直径は最大で約72マイクロメートル、最大深さは23マイクロメートルであった。これらの処理済みの種子を室温下で1時間水に浸せきして粒重変化を調べたところ、粒重変化は平均で0.14であった。「石豆」状態では平均0.03であったことから、「石豆」解消処理により約5倍の吸水促進効果が得られた。
【0028】
なお、本発明を適用するに当たっては「石豆」解消処理を全ての種子に対して実施することが前提となるため、正常粒に対してこの処理を実施した場合の吸水速度への影響を調べた結果を図2に示す。各区10粒の正常粒について「石豆」解消処理を施したものとコントロール(無処理)との経時的な粒重変化を各粒について調査し、平均値で示しているが、両者にほとんど違いのないことが示された。また吸水後の外観品質についても、十分に膨潤した状態においても裂皮や種皮の剥離は見られなかった。したがって本発明の種子処理方法を用いても急激な吸水の惹起による品質劣化の恐れがないことが明らかとなった。
【0029】
〔実施例3〕
前述した本発明の吸水処理装置を用いて、種子の吸水処理を行った。この実験では、微小突起部材として、市販のダイアモンド砥石を使用し、柔軟部材として厚さ5mmのシリコーンゴムシートを使用し、貯留容器及び回収容器としてポリカーボネート製の箱型容器を使用し、駆動部材として、並進運動をする市販のシェーカーを用いた。柔軟部材と貯留容器の中央部には、種子の直径の2倍程度の円形の通過孔を設けた。貯留容器の底部には、常温硬化型樹脂により周辺部から通過孔へ、貯留容器の底部に対して傾斜角約5度の下降傾斜を設けた。また、微小突起部材には、中央部から周辺部へ、貯留容器の底部に対して傾斜角約2度の下降傾斜を設けた。貯留容器と柔軟部材の位置は、柔軟部材と微小突起部材との間隔が約5mmになるように調節した。
【0030】
実験には、小粒の黒ダイズを使用した。小粒の黒ダイズは石豆が発生しやすく、吸水が極めて遅い品種として知られており、このダイズに対して上記発明装置によって処理した結果を以下に示す。比較のために、深さ50マイクロメートルを大きく超える傷を種皮表面につける処理として、砥石による部分脱皮処理を行った種子、ならびに深さ10マイクロメートルを下回る傷を種皮表面に付ける処理として荒研ぎ用サンドペーパー(シリコンカーバイド粒子接着品)への本発明装置による押しつけ処理を行った種子も調製した。三次元微細形状計測顕微鏡測定により、サンドペーパー表面の平均表面粗さ(平均突出高)は13.9マイクロメートルに対して、ダイアモンド砥石の平均表面荒さは31.2マイクロメートルと、サンドペーパーの突出高の約2倍であることを確認した。本発明装置により、突出高の約三分の二の深さを有する微小孔の形成が可能であることが経験上確かめられていることから、形成される微小孔の深さはダイアモンド砥石で約21マイクロメートル、サンドペーパーでは約9マイクロメートルと見積もられた。本発明装置による微小孔処理、部分脱皮処理、サンドペーパー処理、無処理のそれぞれのダイズに関して溶出固形分量、乾物換算吸水率、裂皮粒率、石豆粒率の比較を行った。溶出固形分の測定は、各処理区50粒を100 mL容量のビーカーに入れて100 mLの蒸留水をそそぎ、4時間経過後の浸せき水の導電率を指標とした。さらに、膨潤した種子を秤量した後、135℃、2時間乾燥法にて乾燥した種子乾物重から乾物換算吸水率を見積もった。その結果、無処理ダイズと比較した場合、表2に示すように部分脱皮処理法を施したダイズの導電率変化量は本発明装置により処理したダイズよりも2倍以上であったことから、本発明装置を用いることによって、溶脱する溶出固形分量を半減できることが示された。加えて、本発明装置を用いることによって、石豆率の低減効果は脱皮処理と同等でありながら、外観品質上、重要な要素である裂皮粒率を、従来法と比較して大幅に低減できることが示された。一方、サンドペーパーを使用して10マイクロメートルを下回る深さの傷を種皮に付ける処理を施した種子では、吸水率の改善効果や石豆の解消効果が見られないことが明らかとなった。
【表2】
JP0004911458B2_000003t.gif

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明における種子の吸水促進方法は、農業分野や食品製造分野での利用が見込まれる。本発明によれば、「石豆」状態にあって吸水の遅い種子が乾燥条件にさらされることにより苗立ちが遅くなる、あるいは不揃いになるなどの事態を回避可能であり、その結果として大豆生産における重要課題である苗立ちの安定性確保とそれに伴う収量確保につながる。また、「石豆」の特性を有するダイズ品種は加工適性が劣る反面、貯蔵性が良好で病虫害に対して強いという特性があるため、適正な「石豆」解消処理と組み合わせることによって利用価値が出る。さらには、ダイズやアズキの加工食品製造においても、本発明は「石豆」の解消や吸水の促進により、製造工程の簡易化と効率化をもたらし、ひいては製品の品質向上に大きく寄与すると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の装置の一態様を表した図である。
【図2】脱石豆処理をしたダイズの吸水量の経時的変化を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 微小突起部材
2 柔軟部材
3 貯留容器
4 固定部材
5 回収容器
6 駆動部材
7 通過孔
8 種子
図面
【図1】
0
【図2】
1