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明細書 :イネの1次枝梗数に関連する遺伝子およびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5046001号 (P5046001)
公開番号 特開2008-206442 (P2008-206442A)
登録日 平成24年7月27日(2012.7.27)
発行日 平成24年10月10日(2012.10.10)
公開日 平成20年9月11日(2008.9.11)
発明の名称または考案の名称 イネの1次枝梗数に関連する遺伝子およびその利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C07K  14/415       (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C07K 14/415
A01H 5/00 A
請求項の数または発明の数 8
全頁数 36
出願番号 特願2007-046201 (P2007-046201)
出願日 平成19年2月26日(2007.2.26)
審査請求日 平成22年1月6日(2010.1.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】寺尾 富夫
【氏名】長田 健二
【氏名】清水 博之
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】太田 雄三
参考文献・文献 特開2005-278499(JP,A)
Database GenBnk[online],2004年 9月15日,Accession No. AP003628,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/52076498?sat=43&satkey=904291
調査した分野 C12N 15/09
A01H 5/00
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
下記(A)または(B)のいずれか1つのアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、イネにおける1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させ得るポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド:
(A)配列番号3に示されるアミノ酸配列;または
(B)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、付加もしくは欠失されたアミノ酸配列であって、配列番号3に示されるアミノ酸配列における第15番目、第39番目、第162番目、第195番目、第226番目、第289番目、第295番目、第366番目および第412番目のアミノ酸が保存されており、かつ、第309番目~第314番目の間に、もしくは隣接してアミノ酸が付加されていないアミノ酸配列
【請求項2】
下記(A)~(C)のいずれか1つの塩基配列からなることを特徴とする請求項1に記載のポリヌクレオチド:
(A)配列番号1に示される塩基配列;
(B)配列番号1に示される塩基配列において1個もしくは数個のヌクレオチドが置換、付加もしくは欠失された塩基配列;または
(C)配列番号1に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列。
【請求項3】
下記(A)~(C)のいずれか1つの塩基配列からなり、イネにおけるハーベストインデックスを向上させることを特徴とする請求項1に記載のポリヌクレオチド:
(A)配列番号2に示される塩基配列;
(B)配列番号2に示される塩基配列において1個もしくは数個のヌクレオチドが置換、付加もしくは欠失された塩基配列;または
(C)配列番号2に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列。
【請求項4】
請求項1または2に記載のポリヌクレオチドによりコードされることを特徴とするポリペプチド。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載のポリヌクレオチドを含んでいることを特徴とするベクター。
【請求項6】
請求項1~3の何れか1項に記載のポリヌクレオチドをイネに導入する工程を包含することを特徴とする1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加することなく1次枝梗数が増加したイネの作出方法。
【請求項7】
請求項に記載の方法により作出されたイネの子孫であることを特徴とする1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加することなく1次枝梗数が増加したイネ。
【請求項8】
請求項1~3の何れか1項に記載のポリヌクレオチドを備えていることを特徴とする1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加することなく1次枝梗数が増加したイネの作出キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、イネの育種に関するものであり、特に、1次枝梗数が増加されたイネの育種に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コメは人類にとって最も重要な食物の1つである。収量の多いイネは世界中で強く求められている。
【0003】
収量の多いイネを育種するために、異なるイネの系統同士を交配させるなどの手法がとられてきた。また近年では、収量の多いイネの育種に利用することが可能な、分子遺伝学的な知見が報告されている。
【0004】
例えば、特許文献1および非特許文献1は、イネの2次枝梗数を増加させる遺伝子をそれぞれ報告している。図1に示すように、イネの籾は、稈から枝分かれした1次枝梗、および1次枝梗から枝分かれした2次枝梗に着く。したがって、上記遺伝子が導入されたイネの籾数は、2次枝梗数の増加に伴い増加する。

【特許文献1】特開2004-89026号公報(平成16年3月15日公開)
【特許文献2】特開2005-278499号公報(平成17年10月13日公開)
【非特許文献1】Cytokinin Oxidase Regulates Rice Grain Production, Motoyuki Ashikari, Hitoshi Sakakibara, Shaoyang Lin, Toshio Yamamoto, Tomonori Takashi, Asuka Nishimura, Enrique R. Angeles, Qian Qian, Hidemi Kitano, Makoto Matsuoka. (2005), SCIENCE VOL 309:741-745
【非特許文献2】Quantitative Trait Loci for Sink Size and Ripening Traits in Rice(Oryza sativa L.), Kenji Nagata, Yoshimichi Fukuta, Hiroyuki Shimizu, Tadashi Yagi, Tomio Terao. (2002), Breeding Science VOL 52:259-273
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、2次枝梗に着く籾は1次枝梗に着く籾に比べて登熟が悪く、品質が劣ることが一般に知られている。特許文献1および非特許文献1に記載の遺伝子は、ともに1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させる。そのため、上記遺伝子が導入されたイネでは、収穫される籾全体における2次枝梗に着いた籾の割合が高まり、収穫物の品質が劣化してしまう。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高品質かつ高収量のイネを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、独自の発想に基づき、収穫物の品質を落とさずに収量を増加させるためには、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させる遺伝子が必要であると考え、鋭意検討を行っている。これまでに、ジャポニカ型のイネの品種であるササニシキ、およびインディカ型のイネの品種であるハバタキの戻し交雑系統に対するQTL解析から、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させるQTLを第6染色体上に見出したことを報告している(図2、非特許文献2)。
【0008】
上記QTLの原因遺伝子を単離することは非常に重要である。なぜなら、原因遺伝子を単離しなければ、育種を行う際に余計な形質を持ち込んでしまうからである。しかし、これまで、上記QTLを利用して高品質かつ高収量のイネを育種することはできなかった。本発明者らは、試行錯誤の結果、独自の手法を採用することにより上記原因遺伝子を単離し、本発明を完成するに至った、
本発明に係るポリヌクレオチドは、上記課題を解決するために、下記(A)~(C)のいずれか1つの塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、イネにおける1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させ得るポリペプチドをコードすることを特徴としている:(A)配列番号1に示される塩基配列;(B)配列番号1に示される塩基配列において1個もしくは数個のヌクレオチドが置換、付加もしくは欠失された塩基配列;または(C)配列番号1に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列。
【0009】
本発明に係るポリヌクレオチドは、下記(A)または(B)のいずれか1つのアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、イネにおける1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させ得るポリペプチドをコードするものであってもよい:(A)配列番号3に示されるアミノ酸配列;または(B)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、付加もしくは欠失されたアミノ酸配列。
【0010】
本発明に係るポリヌクレオチドは、下記(A)~(C)のいずれか1つの塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、イネにおける1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させ得るポリペプチドをコードするものであることが好ましい:(A)配列番号2に示される塩基配列;(B)配列番号2に示される塩基配列において1個もしくは数個のヌクレオチドが置換、付加もしくは欠失された、塩基配列;または(C)配列番号2に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る、塩基配列。
【0011】
本発明に係るポリペプチドは、本発明に係るポリヌクレオチドによりコードされることを特徴としている。
【0012】
本発明に係るベクターは、本発明に係るポリヌクレオチドを含んでいることを特徴としている。
【0013】
本発明に係る抗体は、本発明に係るポリペプチドと特異的に結合することを特徴としている。
【0014】
本発明に係る1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加することなく1次枝梗数が増加したイネの作出方法は、本発明に係るポリヌクレオチドをイネに導入する工程を包含することを特徴としている。
【0015】
本発明に係る1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加することなく1次枝梗数が増加したイネは、本発明に係る1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加することなく1次枝梗数が増加したイネの作出方法により作出されたイネの子孫であることを特徴としている。
【0016】
本発明に係る1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加することなく1次枝梗数が増加したイネの作出キットは、本発明に係るポリヌクレオチドを備えていることを特徴としている。
【0017】
本発明に係る1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加することなく1次枝梗数が増加したイネのスクリーニング方法は、イネ抽出物を、本発明に係るポリヌクレオチドとインキュベートする工程を包含することを特徴としている。
【0018】
本発明に係る1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加することなく1次枝梗数が増加したイネのスクリーニングキットは、本発明に係るポリヌクレオチドを備えていることを特徴としている。
【0019】
本発明に係る1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加することなく1次枝梗数が増加したイネのスクリーニング方法は、イネ抽出物を、本発明に係る抗体とインキュベートする工程を包含することを特徴としている。
【0020】
本発明に係る1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加することなく1次枝梗数が増加したイネのスクリーニングキットは、本発明に係る抗体を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明を用いれば、イネの1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させることができるので、高品質で多収量なイネを育種することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
〔1:ポリヌクレオチド〕
1つの局面において、本発明は、イネにおける1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0023】
本明細書中で使用される場合、用語「1次枝梗」は、イネの稈から直接枝分かれする枝が意図される。また、用語「2次枝梗」は、1次枝梗から枝分かれする枝が意図される。図1に、イネの枝分かれの説明図を示す。
【0024】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、ポリペプチドの「フラグメント」は、当該ポリペプチドの部分断片が意図される。本発明に係るポリペプチドはまた、天然供給源より単離されても、化学合成されてもよい。
【0025】
用語「単離された」ポリペプチドまたはタンパク質は、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質が意図される。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドおよびタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。
【0026】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。
【0027】
本発明に係るポリヌクレオチドは、イネにおける1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させるポリペプチドをコードするものであることが好ましい。特定のポリペプチドのアミノ酸配列が得られた場合、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を容易に設計することができる。
【0028】
また、本発明に係るポリヌクレオチドは、配列番号1または2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドあるいはその変異体であることがより好ましく、配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドであることがさらに好ましい。
【0029】
後述する実施例に示すように、配列番号1または2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを有するイネは、有しないイネに比べて、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加することなく1次枝梗数が増加している。また、配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを有するイネは、さらにハーベストインデックスが向上しているため好ましい。
【0030】
なお、本発明に係るポリペプチドのORFは、配列番号1に示される塩基配列の第2296番目から開始し、第3658番目で終了する。したがって、配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドは、本発明に係るポリペプチドのORF領域の上流約5kbpを包含しているが、本発明に係るポリヌクレオチドが有する上記上流領域は、これよりも短くてもよい。後述する実施例において示すように、上流領域を切り詰めたポリヌクレオチドが導入されたイネも1次枝梗数が増加している。
【0031】
また、本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであればよい。すなわち、本発明に係るポリヌクレオチドは、配列番号3に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド、または配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、付加もしくは欠失されたアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。後述するように、本発明に係るポリペプチドは、イネの1次枝梗数を増加する働きを有する。
【0032】
本明細書中においてポリヌクレオチドに関して用いられる場合、用語「変異体」は、特定のポリペプチドの活性と同じ活性を保持しているポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが意図される。すなわち、本明細書中で使用される場合、ポリヌクレオチドの観点における変異体は、イネにおける1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、
・配列番号1または2の何れかに示される塩基配列において、1個または数個の塩基が置換、欠失または付加されている塩基配列からなるポリヌクレオチド;あるいは
・配列番1または2の何れかに示される塩基配列の相補配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチド
であり得る。
【0033】
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、または、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
【0034】
本明細書中で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチドが数個ないし数十個結合したものが意図され、「ポリヌクレオチド」と交換可能に使用される。オリゴヌクレオチドは、短いものはジヌクレオチド(二量体)、トリヌクレオチド(三量体)といわれ、長いものは30マーまたは100マーというように重合しているヌクレオチドの数で表される。オリゴヌクレオチドは、より長いポリヌクレオチドのフラグメントとして生成されても、化学合成されてもよい。
【0035】
本発明に係るポリヌクレオチドはまた、その5’側または3’側で上述のタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)をコードするポリヌクレオチドに融合され得る。
【0036】
ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。適切なハイブリダイゼーション温度は、塩基配列やその塩基配列の長さによって異なり、例えば、アミノ酸6個をコードする18塩基からなるDNAフラグメントをプローブとして用いる場合、50℃以下の温度が好ましい。
【0037】
本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意図される。ポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチドによって、参照のポリヌクレオチドの少なくとも約15ヌクレオチド(nt)、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、さらにより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは約30ntより長いポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチド(DNAまたはRNAのいずれか)が意図される。このようなポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)は、本明細書中においてより詳細に考察されるような検出用プローブとしても有用である。
【0038】
以上のように、本発明に係るポリヌクレオチドは、イネにおける1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、以下のいずれかであることが好ましい:(1)配列番号1もしくは2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;(2)配列番号1もしくは2に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が置換、欠失もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド;(3)配列番号1もしくは2に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が置換、欠失もしくは付加された塩基配列の相補配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド;(4)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または(5)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0039】
本発明に係るポリヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列またはベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
【0040】
なお、本発明に係るベクターは、周知の遺伝子組換え技術により、本発明に係るポリヌクレオチドを所定のベクターに挿入することにより作製することができる。上記ベクターとしては、これに限定されるものではないが、後述する組換え発現ベクターの他に、クローニングベクターを用いることができる。
【0041】
本発明に係るポリヌクレオチドを取得するための供給源としては、特に限定されないが、生物材料であることが好ましい。本明細書中で使用される場合、用語「生物材料」は、生物学的サンプル(生物体から得られた組織サンプルまたは細胞サンプル)が意図され、下述する実施例においては、イネが用いられているが、これに限定されない。
【0042】
〔2:ポリペプチド〕
1つの局面において、本発明は、イネにおける1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させるポリペプチドを提供する。
【0043】
本発明に係るポリペプチドは、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドあるいはその変異体であることが好ましい。
【0044】
本明細書中においてタンパク質またはポリペプチドに関して用いられる場合、用語「変異体」は、目的のポリペプチドが有する特定の活性を保持したポリペプチドが意図され、「配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの変異体」は、イネにおける1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させる働きを有するポリペプチドが意図される。
【0045】
ポリペプチドを構成するアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0046】
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1個または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。
【0047】
なお、本発明に係るポリペプチドは、図10に示すように、配列番号3に示されるアミノ酸配列における第15番目、第39番目、第162番目、第195番目、第226番目、第289番目、第295番目、第366番目、および第412目において、他のイネとアミノ酸が異なっている。また、上記アミノ酸配列における第309番目から第314番目までの領域において3アミノ酸の欠失がある。これらの違いが、イネにおける1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させる働きを生み出していると考えられるので、これらのアミノ酸が保存されていることが好ましい。すなわち、本発明に係るポリペプチドの、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドからの変異は、配列番号3に示されるアミノ酸配列の第1番目~第14番目、第16番目~第38番目、第40番目~第161番目、第163番目~第194番目、第196番目~第225番目、第227番目~第288番目、第290番目~第294番目、第296番目~第308番目、第315番目~第365番目、第367番目~第411番目、または第413番目~第425番目において生じていることが好ましい。ただし、イネにおける1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させる働きを有するポリペプチドであれば、上記位置以外に変異が生じていてもよい。
【0048】
このように、本実施形態に係るポリペプチドは、イネにおける1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させる活性を有するポリペプチドであって、(1)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、または、(2)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、であることが好ましく、このようなポリペプチドは、本発明に係るポリヌクレオチドによりコードされ得ることを当業者は容易に理解する。
【0049】
本発明に係るポリペプチドは、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、本発明に係るポリペプチドは、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。さらに、本発明に係るポリペプチドはまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0050】
本発明に係るポリペプチドは、アミノ酸がペプチド結合しているポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含む複合ポリペプチドであってもよい。本明細書中で使用される場合、「ポリペプチド以外の構造」としては、糖鎖およびイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0051】
また、本発明に係るポリペプチドは、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。付加的なポリペプチドとしては、例えば、His、Myc、Flag等のエピトープ標識ポリペプチドが挙げられる。
【0052】
他の局面において、本発明は、イネにおける1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させるポリペプチドの生産方法を提供する。
【0053】
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いる。
【0054】
本実施形態の1つの局面において、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターが組換え発現系において用いられることが好ましい。組換え発現系を用いる場合、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを組換え発現ベクターに組み込んだ後、公知の方法により発現可能な宿主に導入し、宿主内で翻訳されて得られるポリペプチドを精製するという方法などを採用することができる。組換え発現ベクターは、プラスミドであってもなくてもよく、宿主に目的ポリヌクレオチドを導入することができればよい。好ましくは、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターを宿主に導入する工程を包含する。
【0055】
このように宿主に外来ポリヌクレオチドを導入する場合、発現ベクターは、外来ポリヌクレオチドを発現するように宿主内で機能するプロモーターを組み込んであることが好ましい。組換え的に産生されたポリペプチドを精製する方法は、用いた宿主、ポリペプチドの性質によって異なるが、タグの利用等によって比較的容易に目的のポリペプチドを精製することが可能である。
【0056】
本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、当該ポリペプチドを含む細胞または組織の抽出液から当該ポリペプチドを精製する工程をさらに包含することが好ましい。ポリペプチドを精製する工程は、周知の方法(例えば、細胞または組織を破壊した後に遠心分離して可溶性画分を回収する方法)で細胞や組織から細胞抽出液を調製した後、この細胞抽出液から周知の方法(例えば、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィー)によって精製する工程が好ましいが、これらに限定されない。最も好ましくは、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)が精製のために用いられる。
【0057】
本実施形態の他の局面において、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターが無細胞タンパク質合成系において用いられることが好ましい。無細胞タンパク質合成系を用いる場合、種々の市販のキットが用いられ得る。好ましくは、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターと無細胞タンパク質合成液とをインキュベートする工程を包含する。
【0058】
無細胞タンパク質合成系は細胞内mRNAやクローニングされたcDNAにコードされているさまざまなタンパク質の同定等に広く用いられる手法であり、無細胞タンパク質合成系(無細胞タンパク質合成法、無細胞タンパク質翻訳系とも呼ぶ)に用いられるのが無細胞タンパク質合成液である。
【0059】
無細胞タンパク質合成系としては、コムギ胚芽抽出液を用いる系、ウサギ網状赤血球抽出液を用いる系、大腸菌S30抽出液を用いる系、および植物の脱液胞化プロトプラストから得られる細胞成分抽出液が挙げられる。一般的には、真核生物由来遺伝子の翻訳には真核細胞の系、すなわち、コムギ胚芽抽出液を用いる系またはウサギ網状赤血球抽出液を用いる系のいずれかが選択されるが、翻訳される遺伝子の由来(原核生物/真核生物)や、合成後のタンパク質の使用目的を考慮して、上記合成系から選択されればよい。
【0060】
なお、種々のウイルス由来遺伝子産物は、その翻訳後に、小胞体、ゴルジ体等の細胞内膜が関与する複雑な生化学反応を経て活性を発現するものが多いので、各種生化学反応を試験管内で再現するためには細胞内膜成分(例えば、ミクロソーム膜)が添加される必要がある。植物の脱液胞化プロトプラストから得られる細胞成分抽出液は、細胞内膜成分を保持した無細胞タンパク質合成液として利用し得るのでミクロソーム膜の添加が必要とされないので、好ましい。
【0061】
本明細書中で使用される場合、「細胞内膜成分」は、細胞質内に存在する脂質膜よりなる細胞小器官(すなわち、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア、葉緑体、液胞などの細胞内顆粒全般)が意図される。特に、小胞体およびゴルジ体はタンパク質の翻訳後修飾に重要な役割を果たしており、膜タンパク質および分泌タンパク質の成熟に必須な細胞成分である。
【0062】
別の実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、当該ポリペプチドを天然に発現する細胞または組織から当該ポリペプチドを精製することが好ましい。本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、後述する抗体またはオリゴヌクレオチドを用いて本発明に係るポリペプチドを天然に発現する細胞または組織を同定する工程を包含することが好ましい。また、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、当該ポリペプチドを精製する工程をさらに包含することが好ましい。
【0063】
さらに他の実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、本発明に係るポリペプチドを化学合成する。当業者は、本明細書中に記載される本発明に係るポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて周知の化学合成技術を適用すれば、本発明に係るポリペプチドを化学合成できることを、容易に理解する。
【0064】
以上のように、本発明に係るポリペプチドを生産する方法によって取得されるポリペプチドは、天然に存在する変異ポリペプチドであっても、人為的に作製された変異ポリペプチドであってもよい。
【0065】
このように、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、少なくとも、当該ポリペプチドのアミノ酸配列、または当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて公知慣用技術を用いればよいといえる。つまり、上述した種々の工程以外の工程を包含する生産方法も本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0066】
〔3:抗体〕
本発明は、イネにおける1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させるポリペプチドと特異的に結合する抗体を提供する。本発明に係る抗体は、上記ポリペプチドと特異的に結合し得るものであれば限定されず、当該ポリペプチドに対するポリクローナル抗体等でもよいが、当該ポリペプチドに対するモノクローナル抗体であることが好ましい。モノクローナル抗体は、性質が均一で供給しやすい、ハイブリドーマとして半永久的に保存ができるなどの利点を有する。
【0067】
本明細書中で使用される場合、用語「抗体」は、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fcフラグメント)を意味し、例としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体および抗イディオタイプ抗体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0068】
なお、「抗体」は、種々の公知の方法に従えば作製され得る。例えば、モノクローナル抗体は、当該分野において公知の技術(例えば、ハイブリドーマ法(Kohler,G.およびMilstein,C.,Nature 256,495-497(1975))、トリオーマ法、ヒトB-細胞ハイブリドーマ法(Kozbor,Immunology Today 4,72(1983))およびEBV-ハイブリドーマ法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R Liss,Inc.,77-96(1985))などを参照のこと)を用いれば容易に作製され得る。
【0069】
また、ペプチド抗体は、当該分野に公知の方法(例えば、Chow,M.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:910-914;およびBittle,F.J.ら、J.Gen.Virol.66:2347-2354(1985)(本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。)に従えば容易に作製され得る。
【0070】
FabおよびF(ab’)2ならびに本発明に係る抗体の他のフラグメントが、本明細書中で開示される方法に従って使用され得ることは、当業者には明白である。このようなフラグメントは、代表的には、パパイン(Fabフラグメントを生じる)またはペプシン(F(ab’)2フラグメントを生じる)のような酵素を使用するタンパク質分解による切断によって産生され得る。あるいは、本発明に係るポリペプチドに結合するフラグメントは、組換えDNA技術の適用または化学合成によって産生され得る。
【0071】
このように、本実施形態に係る抗体は、本発明に係るポリペプチドと特異的に結合するフラグメント(例えば、FabフラグメントおよびF(ab’)2フラグメント)を備えていればよく、異なる抗体分子のFcフラグメントとからなる免疫グロブリンも本発明に含まれることに留意すべきである。
【0072】
つまり、本発明の目的は、本発明に係るポリペプチドと特異的に結合する抗体およびその利用を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々の免疫グロブリンの種類(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)、抗体作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得される抗体も本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0073】
〔4:1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させたイネの作出方法および作出キット〕
本発明は、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させたイネを作出するための方法を提供する。本発明に係るイネの作出方法は、本発明に係るポリヌクレオチドを植物体内に導入する工程を包含していればよい。一実施形態において、本発明に係るイネの作出方法は、本発明に係るポリヌクレオチドを発現していないイネ個体(遺伝子非発現体)を、本発明に係るポリヌクレオチドを発現しているイネ個体(遺伝子発現体)と交配させる工程を包含する方法であり、形質転換体ではないイネを作出するに好ましい方法である。このとき、遺伝子非発現体の形質を保存し、遺伝子発現体の影響を避けるために、戻し交雑を実施することが好ましい。また、戻し交雑を行い、バックグラウンドを完全に遺伝子非発現体の遺伝子とした遺伝子発現体が一度得られれば、該遺伝子発現体を遺伝子非発現体と交配させることにより、容易に1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させたイネを作出し得る。
【0074】
他の実施形態において、本発明に係る植物体の作製方法は、本発明に係るポリヌクレオチドを含む組換えベクターを、当該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが発現され得るように植物中に導入する工程を包含する方法である。
【0075】
組換え発現ベクターを用いる場合、植物体の形質転換に用いられるべきベクターは、当該植物内で本発明に係るポリヌクレオチドを発現させることが可能なベクターであれば特に限定されない。このようなベクターとしては、例えば、植物細胞内でポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクター、または外的な刺激によって誘導性に活性化されるプロモーターを有するベクターが挙げられる。
【0076】
本発明において形質転換の対象となる植物は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子など)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織など)または植物培養細胞、あるいは種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどのいずれをも意味する。形質転換に用いられる植物としては、特に限定されないが、イネであることが好ましく、ジャポニカ型、ジャバニカ型、または熱帯ジャバニカ型のイネであることがより好ましい。
【0077】
植物への遺伝子の導入には、当業者に公知の形質転換方法(例えば、アグロバクテリウム法、遺伝子銃、PEG法、エレクトロポレーション法など)が用いられ、アグロバクテリウムを介する方法と直接植物細胞に導入する方法とに大別される。アグロバクテリウム法を用いる場合は、構築した植物用発現ベクターを適当なアグロバクテリウム(例えば、リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobactor(旧名アグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)))に導入し、この株をリーフディスク法(内宮博文著、植物遺伝子操作マニュアル(1990)27~31頁、講談社サイエンティフィック、東京)などに従って無菌培養葉片に感染させ、形質転換植物を得ることができる。また、Nagelらの方法(Micribiol.Lett.、67、325(1990))が用いられ得る。この方法は、まず、例えば発現ベクターをアグロバクテリウムに導入し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをPlantMolecular Biology Manual(S.B.Gelvinら、Academic Press Publishers)に記載の方法で植物細胞または植物組織に導入する方法である。ここで、「植物組織」とは、植物細胞の培養によって得られるカルスを含む。アグロバクテリウム法を用いて形質転換を行う場合には、pBI系のバイナリーベクター(例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221、およびpPZP202など)が使用され得る。
【0078】
また、遺伝子を直接植物細胞または植物組織に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、遺伝子銃法が知られている。遺伝子銃を用いる場合は、遺伝子を導入する対象として、植物体、植物器官、植物組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。このように調製した試料を遺伝子導入装置(例えばPDS-1000(BIO-RAD社)など)を用いて処理することができる。処理条件は植物または試料によって異なるが、通常は450~2000psi程度の圧力、4~12cm程度の距離で行う。
【0079】
遺伝子が導入された細胞または植物組織は、まずハイグロマイシン耐性などの薬剤耐性で選択され、次いで定法によって植物体に再生される。形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。選択マーカーとしては、ハイグロマイシン耐性に限定されず、例えば、ブレオマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコールなどに対する薬剤耐性が挙げられる。
【0080】
植物培養細胞を宿主として用いる場合は、例えば、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、ポリエチレングリコール法、遺伝子銃(パーティクルガン)法、プロトプラスト融合法、リン酸カルシウム法などによって組換えベクターが培養細胞に導入されて形質転換される。形質転換の結果として得られるカルスやシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養または器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライドなど)の投与などによって植物体に再生させることができる。
【0081】
遺伝子が植物に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRは、前記プラスミドを調製するために使用した条件と同様の条件で行うことができる。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウム、SYBR Green液などによって染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素などによって標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレートなどの固相に増幅産物を結合させ、蛍光または酵素反応などによって増幅産物を確認する方法も採用することができる。
【0082】
本発明に係るポリヌクレオチドがゲノム内に組み込まれたイネが一旦取得されれば、当該イネの有性生殖または無性生殖によって子孫を得ることができる。また、当該イネまたはその子孫から、例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラストなどを得て、それらを基に当該イネを量産することができる。したがって、本発明には、本発明に係るポリヌクレオチドが発現可能に導入された植物体、または、当該植物体と同一の性質を有する当該植物体の子孫、またはこれら由来の組織も含まれる。
【0083】
本発明はさらに、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させたイネを作出するためのキットを提供する。なお、本明細書中で使用される場合、「キット」は各種成分の少なくとも1つが別物質中に含有されている形態であることが意図される。また、本明細書中において、イネを作出するために用いるキットを「作出キット」と称する。
【0084】
本発明に係る作出キットは、本発明に係るポリヌクレオチドを備えていればよい。本発明に係る作出キットにおいて、本発明に係るポリヌクレオチドは、単離された状態で備えられていてもよいし、該ポリヌクレオチドを有する植物体の形で備えられていてもよい。単離された状態の本発明に係るポリヌクレオチドを、イネに導入することにより、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させたイネを作出することができる。また、本発明に係るポリヌクレオチドを有するイネおよび他のイネを交配させることにより、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させたイネを作出することができる。したがって、本発明に係る作出キットは、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させたイネを作出するために好適に用い得ることを、当業者は容易に理解する。
【0085】
〔5:1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させたイネのスクリーニング方法およびスクリーニングキット〕
本発明は、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させたイネをスクリーニングするための方法を提供する。
【0086】
一実施形態において、本発明に係るスクリーニング方法は、本発明に係るポリヌクレオチドのフラグメントまたはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを、植物(例えば、イネ)からの抽出物とインキュベートする工程を包含する。好ましくは、本発明に係るスクリーニング方法は、目的の植物由来のゲノムDNA、mRNAまたはmRNAに対するcDNAと本発明に係るオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせる工程を包含する。
【0087】
本発明に係るスクリーニング方法を用いれば、ハイブリダイズする標的ポリヌクレオチドを検出することによって、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加されることなく1次枝梗数を増加されたイネを容易に検出(スクリーニング)することができる。
【0088】
本明細書中で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチドが数個ないし数十個または数百個結合したものが意図され、「ポリヌクレオチド」と交換可能に使用される。オリゴヌクレオチドは、短いものはジヌクレオチド(二量体)、トリヌクレオチド(三量体)といわれ、長いものは30マー(30塩基、30ヌクレオチドともいわれる。)または100マー(100塩基、100ヌクレオチドともいわれる。)というように重合しているヌクレオチドの数で表される。オリゴヌクレオチドは、より長いポリヌクレオチドのフラグメントとして生成されても、化学合成されてもよい。
【0089】
本発明に係るスクリーニング方法において用いられるオリゴヌクレオチドは、本発明に係るポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを得るためのPCRプライマーまたはハイブリダイゼーションプローブとして使用され得る。
【0090】
なお、当業者は、上述した用途がいずれも、本発明に係るスクリーニング方法において用いられるオリゴヌクレオチドと目的の遺伝子(ポリヌクレオチド)との間で生じるハイブリダイゼーションに起因しており、当該オリゴヌクレオチドが、目的の遺伝子(ポリヌクレオチド)とハイブリダイズさせるために用いられることを容易に理解する。
【0091】
本発明に係るポリヌクレオチドのフラグメントは、少なくとも7ヌクレオチド(nt)、10nt、12nt、好ましくは約15nt、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、なおより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは少なくとも約40ntの長さのフラグメントが意図されるが、当業者は、上述した用途に応じて好ましい長さを適宜設定し得る。「少なくとも20ntの長さのフラグメント」によって、例えば、配列番号2に示される塩基配列からの20以上の連続した塩基配列またはその相補配列を含むフラグメントが意図される。本明細書を参照すれば配列番号2に示される塩基配列が提供されるので、当業者は,配列番号2に基づくDNAフラグメントを容易に作製することができる。例えば、制限エンドヌクレアーゼ切断または超音波による剪断は、種々のサイズのフラグメントを作製するために容易に使用され得る。あるいは、このようなフラグメントは、合成的に作製され得る。適切なフラグメント(オリゴヌクレオチド)が、Applied Biosystems Incorporated(ABI,850 Lincoln Center Dr.,Foster City,CA 94404)392型シンセサイザーなどによって合成される。
【0092】
本発明に係るスクリーニング方法において用いられるオリゴヌクレオチドは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。上記オリゴヌクレオチドは、アンチセンスRNAメカニズムによる遺伝子発現操作のためのツールとして使用することができる。アンチセンスRNA技術によって、内因性遺伝子に由来する遺伝子産物が減少する。上記オリゴヌクレオチドを導入することによって、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させる活性を有するポリペプチドの含量を低下させ得、その結果、イネの1次枝梗数を制御することができる。
【0093】
このように、本発明に係るスクリーニング方法において用いられるオリゴヌクレオチドを、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを検出するハイブリダイゼーションプローブまたは当該ポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーとして利用することによって、当該活性を有するポリペプチドを発現する植物体または組織を容易に検出(スクリーニング)することができる。さらに、上記オリゴヌクレオチドをアンチセンスオリゴヌクレオチドとして使用して、植物体またはその組織または細胞における1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させるポリペプチドの発現を制御することができる。
【0094】
他の実施形態において、本発明に係る1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数が増加されたイネのスクリーニング方法は、植物(例えば、イネ)からの抽出物を本発明に係る抗体と反応させることにより、本発明に係るポリペプチドを検出する。上述したように上記抗体は、本発明に係るポリペプチドと特異的に結合して免疫複合体を形成するので、当該複合体の形成を検出することにより、植物体内において発現されている1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させるポリペプチドを容易に検出することができる。すなわち、本発明に係るスクリーニング方法によれば、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加されることなく1次枝梗数を増加されたイネをスクリーニングし得る。上記複合体の形成は、例えば、上記抗体を予め同位体などで標識する方法、あるいは、上記抗体に対する2次抗体を用いる方法などを用いて検出することができる。具体的には、上記スクリーニング方法は、周知のウェスタンブロット法を用いることができるがこれに限定されない。また、上記植物からの抽出物は、液体窒素を用いた凍結破砕法や、市販の抽出キットを用いて作製することができるが、これらに限定されない。また、本明細書中で使用される場合、「抽出物」は、粗精製物であってもいくつかの精製工程を経た精製標品であってもよい。
【0095】
本発明はさらに、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加されることなく1次枝梗数が増加されたイネをスクリーニングするためのキットを提供する。なお、本明細書中において、イネをスクリーニングするために用いるキットを「スクリーニングキット」と称する。
【0096】
一実施形態において、本発明に係るスクリーニングキットは、本発明に係るポリヌクレオチドのフラグメントまたはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを備えている。上述したように、上記オリゴヌクレオチドを植物(例えば、イネ)からの抽出物とインキュベートすることにより、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加されることなく1次枝梗数を増加されたイネをスクリーニングし得る。したがって、本発明に係るスクリーニングキットは、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加されることなく1次枝梗数を増加されたイネをスクリーニングするために好適に用い得ることを、当業者は容易に理解する。
【0097】
他の実施形態において、本発明に係るスクリーニングキットは、本発明に係る抗体を備えている。上述したように、植物(例えば、イネ)からの抽出物を本発明に係る抗体と反応させることにより、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加されることなく1次枝梗数が増加されたイネを検出し得る。したがって、本発明に係るスクリーニングキットは、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加されることなく1次枝梗数が増加されたイネをスクリーニングするために好適に用い得ることを、当業者は容易に理解する。
【0098】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0099】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0100】
〔実施例1:QTL解析〕
ササニシキを親として、ハバタキを交配し、さらにササニシキを連続戻し交配させた系統を、独立行政法人農業生物資源研究所から取得した。なお、ササニシキはジャポニカ型のイネの品種であり、ハバタキはインディカ型のイネの品種である。また、ハバタキの1次枝梗数、および1次枝梗数に対する2次枝梗数の比はササニシキに比べ大きいことが知られている。
【0101】
上記連続戻し交雑から得られた系列に対してQTL解析を行った。その結果、ハバタキ由来の遺伝子が1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させるQTLを、第6染色体上に見出した(図2)。
【0102】
〔実施例2:原因遺伝子の単離〕
実施例1において得られたQTLの原因遺伝子の単離するためには、一般に、該原因遺伝子の候補遺伝子を有するイネの表現型を観察することが行われる。その際、1次枝梗数または2次枝梗数のような量的形質は環境要因により変動することが知られているので、一般の農家が実際に栽培する環境と同一環境下において栽培したイネの表現型を観察することが好ましい。そのため、上記原因遺伝子の候補遺伝子を有するイネは、形質転換体でなく、交配によって得られたものが通常使用される。交配によって得られるイネが、上記候補遺伝子を含むか否かは偶然にゆだねられているので、上記QTLの原因遺伝子を単離することは非常に困難であると考えられていたところ、本発明者らは以下のような手順により該原因遺伝子の単離を行った。
【0103】
まず、実施例1におけるQTL解析の結果から、上記QTLの原因遺伝子が存在し得る領域を、公知のマーカーG329およびR2549EHによって挟まれる領域、およびその周辺領域であると推定した(図2)。
【0104】
次に、推定された領域において、ササニシキ由来の遺伝子とハバタキ由来の遺伝子とをヘテロに有するイネの系統を自殖させることにより、多数の系統を得た。通常、QTL解析の結果からの原因遺伝子の単離には2000~3000程度の系統を用いるが、本発明者らは独自の知見により1万程度の系統を作成した。それぞれの個体について、DNAマーカーを検出することにより、各個体において、どの位置で乗換えが起こっており、どの領域がハバタキ由来またはササニシキ由来の遺伝子であるかを検出した。DNAマーカーとしては、イネゲノムプロジェクト(http://rgp.dna.affrc.go.jp/)において公開されている公知のマーカーのほか、より狭い範囲の乗換えを検出するために、独自に設計したマーカーを用いた。独自のマーカーとしては、イネゲノムプロジェクトにおいて公開されている日本晴(ジャポニカ型のイネの品種)のシーケンスに基づいて制限酵素サイトまたは反復配列を含むように設計したマーカー、ならびにササニシキおよびハバタキのシーケンスに基づいて設計したマーカーを使用した。
【0105】
上記各個体の自家受粉した子孫である種籾を収穫し、次年度に播いた。この次年度の表現形を比べることにより個体の表現形を確かめた。すなわち、次年度の1次枝梗数が、ササニシキと比べて増加されている(以後、ハバタキ型と称する)か、増加されていない(以後、ササニシキ型と称する)か、またはハバタキ型とササニシキ型とが両方存在する(以後、分離型と称する)かを判断した。
【0106】
図3に結果を示す。M-で始まる記号は、本発明者らが独自に設計したマーカーを示す。また、A、B、およびHは、対応するマーカー部位がそれぞれササニシキ由来のホモ型、ハバタキ由来のホモ型、ならびにササニシキ由来およびハバタキ由来のヘテロ型であることを意味する。A、B、またはHを重ねて記した箇所は、複数回実施した結果を示している。図3に示すように、マーカーM-7およびM-56によって挟まれた領域(図中の四角で囲んだ領域)がハバタキ由来であれば、表現型もハバタキ型となった。上記領域がハバタキ由来であるイネ、ササニシキ由来であるイネ、ならびにササニシキ由来およびハバタキ由来のヘテロであるイネの各形質値の詳細な比較を図4、表1、および表2に示す。
【0107】
【表1】
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【0108】
【表2】
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図4は、上記領域がハバタキ由来であるイネ、およびササニシキ由来であるイネの1次枝梗数を比較したグラフである。示すように、上記領域がササニシキ由来であるイネに比べて該領域がハバタキ由来であるイネは、1次枝梗数が多い。
【0109】
表1および表2に、上記領域がハバタキ由来であるイネ、ササニシキ由来であるイネ、ならびにササニシキ由来およびハバタキ由来のヘテロであるイネの各形質値を示す。なお、表1および表2は、それぞれ2004年および2005年における圃場試験の結果を示す。「1次」は1次枝梗数、「2次」は2次枝梗数、「2次/1次」は、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比をそれぞれ示す。「HI」はハーベストインデックスを示す。なおハーベストインデックスとは、籾の全重量を、植物体全体の重量で割った値を示す。「沈下籾数」は水に沈んだ籾の数を示す。「粒重」は、千粒あたりの重さ(g)を示す。「沈下籾重」は、水に沈んだ籾の重量の合計を示す。「不稔割合」は中にコメが含まれていない籾の割合を示す。表1および表2に示すように、上記領域がササニシキ由来であるイネに比べて該領域がハバタキ由来であるイネでは、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加することなく1次枝梗数が増加し、ハーベストインデックスも向上していた。また、登熟の程度を示す指標の1つである不稔割合は、ほとんど変化していなかった。
【0110】
マーカーM-7およびM-56によって挟まれた領域には、明らかに遺伝子と推定される領域(以後、遺伝子名をOsPRB1と称する)と、別の遺伝子の可能性がある領域(以後、遺伝子名をOsHI1と称する)が含まれていた。そこで、両遺伝子間において乗換えが起こっているイネの系統についてさらに解析を行った。なお、上記のようなイネの系統は通常取得することができないが、前述したように、本発明者らは、独自の知見により1万程度の系統を作成していたので、該系統を取得することができた。
【0111】
図5に、OsPRB1を含む領域がハバタキ由来であり、OsHI1を含む領域がササニシキ由来である系統の遺伝子型を示す。図6にOsPRB1を含みOsHI1を含まない領域(マーカーM-41およびマーカーM-56によって挟まれた領域)が、ハバタキ由来であるイネ、ササニシキ由来であるイネ、ならびにササニシキ由来およびハバタキ由来のヘテロであるイネの各1次枝梗数の分布を示す。図6に示すように、OsPRB1がハバタキ由来のものあれば、OsHI1がササニシキ由来のものであっても1次枝梗数が増加していた。また、上記領域がハバタキ由来であるイネ、ササニシキ由来であるイネ、ならびにササニシキ由来およびハバタキ由来のヘテロであるイネの各形質値を、表3および表4に示す。なお、表3および表4は、2006年におけるそれぞれグロースチャンバーでのポット試験および圃場試験の結果を示す。
【0112】
【表3】
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【0113】
【表4】
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表3および表4に示すように、OsPRB1がハバタキ由来のものあれば、OsHI1がササニシキ由来のものであっても1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加することなく1次枝梗数が増加していた。また、不稔割合はほとんど変化していなかった。一方、ハーベストインデックスの向上は見られなかった。
【0114】
図7に、OsPRB1を含む領域がササニシキ由来であり、OsHI1を含む領域がハバタキ由来である系統の遺伝子型を示す。表5および表6に、OsHI1を含みOsPRB1を含まない領域(マーカーM-7およびマーカーM-55によって挟まれた領域)が、ハバタキ由来であるイネ、ササニシキ由来であるイネ、ならびにササニシキ由来およびハバタキ由来のヘテロであるイネの各形質値を示す。なお、表3および表4は、2006年におけるそれぞれグロースチャンバーでのポット試験および圃場試験の結果を示す。
【0115】
【表5】
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【0116】
【表6】
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表5および表6に示すように、OsPRB1がササニシキ由来のものである場合、OsHI1がハバタキ由来のものであっても1次枝梗は増加しなかった。一方ハーベストインデックスは向上したが、OsPRB1およびOsHI1ともにハバタキ由来のものである場合に比べて向上の度合いは小さかった。
【0117】
以上の結果をまとめたものを図8および図9に示す。第6染色体のPACクローンであるAP003628の塩基配列の約64000番目から約74000番目の間にOsPRB1およびOsHI1が存在していた(図8)。OsPRB1およびOsHI1を含む領域がハバタキ由来であるイネの系統(05SHA422-12-8-18.31-b)は、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加することなく1次枝梗数が増加していた。OsPRB1を含む領域のみがハバタキ由来であるイネの系統(05SHA4221-29-7.8-b)も同様に、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加することなく1次枝梗数が増加していた。一方、OsHI1を含む領域のみがハバタキ由来であるイネの系統(05SHA4221-17-6.10-b)では、1次枝梗数は増加しなかった(図9)。以上の結果より、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数をさせるQTLの原因遺伝子はOsPRB1であることが判った。
【0118】
〔実施例3:シーケンシング〕
ハバタキ、ササニシキ、05SHA422-12-8-18.31-b、および05SHA4221-29-7.8-bの塩基配列をシーケンシングした。これにより、OsPRB1のORFおよび乗換えの生じた位置を検出した。
【0119】
配列番号1に、05SHA4221-29-7.8-bの乗換えが起こった位置から、ハバタキのOsPRB1のORFの終端までの塩基配列を示す。また、配列番号2に、05SHA422-12-8-18.31-bの乗換えが起こった位置から、ハバタキのOsPRB1のORFの終端までの塩基配列を示す。OsPRB1のORFは、配列番号1に示される塩基配列の第2296番目より開始し、第3658番目で終了する。ハバタキ、ササニシキ、および日本晴について、OsPRB1の予測アミノ酸配列を比較したものを図10に示す。図10における右上の大きな四角は、F-BOXに相当する部分を示す。
【0120】
なお、OsPRB1に高い相同性を有する遺伝子として、APO1が報告されている(特許文献2)。特許文献2には、APO1の変異が、1次枝梗数、および1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を減少させることが記載されている。すなわち、特許文献2に記載のAPO1の変異は、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させるものではなく、1次枝梗数を増加させるものですらない。したがって、当業者は、高収量のイネを育種するために特許文献2に記載のAPO1の変異を利用することに容易に想到しない。さらに、ハバタキ由来のOsPRB1を有するイネが、ハバタキ由来のOsPRB1を有しないイネに比べて、1次枝梗数に対する2次枝梗数の比が増加することなく1次枝梗数が増加することは当業者にとって予測し得ないものである。
【0121】
また、OsHI1のORFは、配列番号2に示される塩基配列の第3923番目より開始し、第2686番目で終了する。
【0122】
〔実施例4:RNAiによる不活性化〕
ハバタキのOsPRB1のORFを元に、RNAiに用いるベクターを作成した。具体的には、配列番号1に示される塩基配列の第2351番目から第2724番目の塩基において、第2657番目の塩基をCからTに改変した塩基配列(配列番号4に示す塩基配列)からなるポリヌクレオチドを、RNAi用のプロモーター配列を有するベクターに組み込んだ。なお、上述した塩基の改変は、上記ポリヌクレオチドをベクターに組み込む際に制限酵素(SacII)を使用するために行った。1塩基程度の改変であれば、RNAiとして十分に機能し得ることを当業者は容易に理解する。また、上記ポリヌクレオチドの塩基配列は、ササニシキのOsPRB1の部分と1塩基しか異なっておらず、ササニシキのOsPRB1に対してもRNAiとして働き得ることを当業者は容易に理解する。ササニシキにおいても上記ベクターをササニシキの個体に導入し、自殖第1(T1)世代の1次枝梗数を観察した。なお、T1世代では、一部の個体で上記ベクターが分離脱落している。
【0123】
図11に結果を示す。示すように、上記ベクターを含有する個体では、含有しない個体に比べて、1次枝梗数が減少した。したがって、OsPRB1がコードするポリペプチドがイネの1次枝梗数を増加させる効果を有していると考えられる。
【0124】
〔実施例5:形質転換〕
ハバタキのOsPRB1を含んでいる発現ベクターを設計した。具体的には、ハバタキのOsPRB1の上流1730bpから、下流790bpまでの配列(配列番号5に示す塩基配列)からなるポリヌクレオチドを、発現ベクター(pTN1、独立行政法人農業生物資源研究所)に組み込んだ。
【0125】
上記ベクターを定法を用いてササニシキ個体に導入した。上記ベクターが1コピー導入された系統のT1世代に対して、上記ベクター含有する個体と、含有しない個体の1次枝梗数を比較した(図12)。図12に示すように、ベクターを含有する個体の方が1次枝梗数が増加していた。また同様に、上記ベクターが2コピー導入された系統のT1世代に対して、個体の含有するベクターのコピー数および1次枝梗数の関係を調査した(図13)。図13に示すように、上記ベクターを全く含有しない個体に比べて、該ベクターを含有する個体は1次枝梗数が増加していたが、コピー数による違いは特に見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明を用いれば、イネの1次枝梗数に対する2次枝梗数の比を増加させることなく1次枝梗数を増加させることが出来るので、品質を落とさずに収量を高めたイネを育種することができる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】イネの枝分かれを示す説明図である。
【図2】QTLの結果を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施形態に係る系統の遺伝子型と表現型の関係を示す図である。
【図4】本発明に係るポリヌクレオチドを有するイネの1次枝梗数と、該ポリヌクレオチドを有さないイネの1次枝梗数とを比較するグラフである
【図5】本発明の一実施形態に係るイネの遺伝子型を示す図である。
【図6】本発明に係るポリヌクレオチドをホモ型またはヘテロ型で有するイネ、および該ポリヌクレオチドを有しないイネの1次枝梗数を比較するグラフである
【図7】イネの遺伝子型を示す図である。
【図8】本発明に係る遺伝子の染色体上の位置を示す模式図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るイネの遺伝子型を示す模式図である。
【図10】本発明に係るポリペプチドおよびそのオルソログのアミノ酸配列を比較する図である。
【図11】RNAiを用いて、本発明に係るポリペプチドの発現を阻害したイネの1次枝梗数と、通常のイネの1次枝梗数とを比較するグラフである。
【図12】本発明に係るポリヌクレオチドにより形質転換したイネの1次枝梗数と、形質転換していないイネの1次枝梗数とを比較するグラフである。
【図13】本発明に係るポリヌクレオチドにより形質転換したイネの1次枝梗数と、形質転換していないイネの1次枝梗数とを比較するグラフである。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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