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明細書 :咀嚼・口内滞留特性が向上した食品の製造法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4900952号 (P4900952)
公開番号 特開2008-278811 (P2008-278811A)
登録日 平成24年1月13日(2012.1.13)
発行日 平成24年3月21日(2012.3.21)
公開日 平成20年11月20日(2008.11.20)
発明の名称または考案の名称 咀嚼・口内滞留特性が向上した食品の製造法
国際特許分類 A23L   1/06        (2006.01)
A23L   1/00        (2006.01)
FI A23L 1/06
A23L 1/00 B
請求項の数または発明の数 2
全頁数 13
出願番号 特願2007-126559 (P2007-126559)
出願日 平成19年5月11日(2007.5.11)
審査請求日 平成22年4月5日(2010.4.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】徳安 健
個別代理人の代理人 【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】山本 匡子
参考文献・文献 特開平01-160468(JP,A)
特開2003-310179(JP,A)
特開昭55-039799(JP,A)
特開昭61-009258(JP,A)
特開平01-256368(JP,A)
特開2001-327254(JP,A)
特開2001-103913(JP,A)
特開平03-266946(JP,A)
特開平10-108648(JP,A)
特開平10-179045(JP,A)
国際公開第2007/043656(WO,A1)
調査した分野 A23L 1/05-09
A23L 1/00
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
食品関連文献情報(食ネット)
G-Search

特許請求の範囲 【請求項1】
予め帯状、柱状、板状、パイプ状、糸状または球状に加工成形されたアルギン酸カルシウムにより構成される食品ゲルを、;別に用意したゲランガム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、キシログルカン、寒天、及びキサンタンガムのうちの1以上の成分により構成されるゲル化剤を含む溶液または分散液中で、以下(a1)及び(a2)に示す条件で混合し、;その後に当該ゲル化剤をゲル化し、さらに以下(b)に示す乾燥処理を乾燥物が得られるまで行うことを特徴とする、以下(c)に示す特性が向上した乾燥食品の製造法。
(a1) 前記ゲル化剤を、前記食品ゲルに対して0.16~25の間となる重量比(乾燥重量あたり)で混合する条件。
(a2) 前記食品ゲルの成形された形状が保持される条件。
(b) 加熱乾燥、減圧乾燥、または凍結乾燥。
(c) 食感を咀嚼中に長時間残存させ、嚥下までの時間を長くする特性。
【請求項2】
前記ゲル化剤が、寒天により構成されるゲル化剤である、請求項1に記載の食品の製造法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、咀嚼・口内滞留特性が向上した食品の製造法に関し、詳しくは破砕された食品素材またはその加工残さ、あるいは成形された食品ゲルを含む、咀嚼・口内滞留特性が向上した食品を提供するための技術、特に、過剰なカロリー摂取や虫歯の進行を抑制しつつ、空腹時の食欲や口寂しさを低減するための食品、或いは口内での味覚刺激、物理的刺激等を高度化することや、食物繊維を供給することにより、新たな付加価値が付与された食品を提供するための技術に関する。
本食品は、食物繊維を効率的に供給すること、あるいは日々の食生活において咀嚼・口内滞留特性を向上することにより生じる、咀嚼・口内滞留時間の延長やその他の多様なメリットを表現することを可能とする、新食品としての役割を果たす。
【背景技術】
【0002】
過食や偏食等による食生活の乱れにより、肥満等の生活習慣病患者が増加しており、メタボリック・シンドローム抑制のためにも、食生活を正しく制御するための手法開発は急務となっている。
しかしながら、現代社会における生活パターンを変えずに極端な食生活制限や管理のみを行う場合には、過度のストレスを伴い、リバウンドによる状況悪化に繋がることも少なくない。
【0003】
このようななかで、無理の少ない形で食生活を制御・改善するための方法が求められている。特に、空腹感に駆られて過食に陥ったり、口寂しさからカロリー摂取量が多くなったり、短時間で食事をかき込んで食べたりする状況に対して、これらの問題を低減する技術開発が必要となる。
また、口内での食表現を高度化して食品に付加価値を付与する際には、口内での味覚刺激や物理的刺激に働きかけることが有効である。
これまでに、層状構造により途中で味の変わる飴や、食品ゲル粒子が包埋された菓子、重曹が弾ける菓子、小麦由来タンパク質によるガム状可食物など、多くの商品が開発されている。
また、口内における食品機能性に関しては、十分程度の咀嚼により歯の再石灰化を誘導する食品等が知られている。
【0004】
しかしながら、このようなメリットを、咀嚼・口内滞留時間が長いノンカロリー食品あるいは低カロリー食品により提供する方法については、ガム以外には開発されていない。ガムは、歯への粘着性により差し歯をもつ者等には使いにくいことや、残存する食べカスを出す必要があることが問題となることから、可食性を示しつつ口内滞留時間が確保できるようなカロリー制御食品の開発が期待されている。そのためには、咀嚼・口内滞留特性を向上させることが重要である。
【0005】
咀嚼・口内滞留特性の中で、咀嚼による食品の崩壊挙動は、口内滞留時間を決定する重要因子である。口内での崩壊を遅らせるためには、食品全体を固くして崩壊を遅らせることが重要であるが、弾力性に富む壊れにくい食品のみならず、微小粒子を含む食品または繊維質の残存感が高い食品は、違和感が持続する結果、嚥下までの時間が長くなることが期待される。
特に、口中で捕捉が困難な微粒子や適度に繊維感を残す不溶性食物繊維、固くゲル化した食物繊維などは、臼歯などですり潰されて質感が消えるまでに長時間を有すると考えられており、これを多く含む食事は、咀嚼・口内滞留特性が向上する結果、咀嚼・口内滞留時間の延長を通じて摂食活動を改善し、肥満者等に対する健康管理に適していると期待されている。
また、咀嚼により、脳機能の向上や唾液の分泌による口中衛生向上等の効果が期待されており、新たな機能性食品となることが期待される。
【0006】
しかしながら、食物繊維を強化して質感を増すための食品は提供されているものの、咀嚼・口内滞留特性を改善する食品、特にカロリーが低い食品の製造法は開発されていない。
口内滞留特性を制御するための食品開発については、適度な咀嚼感を有するシート状の可食性成形物の開発(例えば、特許文献1参照)、健康の維持や増進又は回復に役立つ機能性咀嚼食品の開発(例えば、特許文献2参照)などが知られている。
【0007】
しかしながら、これらの技術は、咀嚼時に繊維質や微小粒子を残して咀嚼継続を促すものではなく、ゲルや結合剤作用の崩壊に伴い、容易に咀嚼が完了してしまう。
特許文献1においては、チューインガムの様な咀嚼性を持たせる場合にも言及しているが、同発明の目的は、「口腔内において容易に溶解し、かつ適度の咀嚼感を有するシート状の可食性成成形物及びその製造法を提供する」ことであり、咀嚼時間の長期化は意図していない。また、同発明で賦形剤として用いた結晶セルロースは、賦形以外の役割を意図しておらず、繊維質としての口中残存性を期待するものとは考えられない。
特許文献2は、小麦グルテン、グリアジン分画物等を用いてグミ菓子よりも弾力性・集合性の高い咀嚼食品を提供する手法であり、繊維質の口中残存を期待するものではない。
【0008】
一方、微粒子と咀嚼時間の関係については、神山らによりアーモンドの形状と咀嚼時間に関する研究の中で、細片化したアーモンドで咀嚼時間が長くなることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
しかしながら、本研究は、高齢者・嚥下困難者等に対して噛みやすい食品を提供するための食品物性研究として行われたものである。肥満等の生活習慣病患者の増加を抑えるために微小粒子の食品素材を意図的に食品に添加し、健康的な食生活を助けるという考え方は存在しなかった。食品高分子ゲルの粒子を調製し、それを意図的に混入することにより、咀嚼時間を長くするという概念や方法、さらには、それをノンカロリー食品として製造するという考え方は、これまでに存在していない。
【0009】

【特許文献1】特開平10-179045号公報
【特許文献2】特開2006-109751号公報
【非特許文献1】食総研報、69, pp.13-17, 2005.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の課題を解決し、破砕された食品素材またはその加工残さ、あるいは成形された食品ゲルを含む、咀嚼・口内滞留特性が向上した食品を提供するための技術、特に、過剰なカロリー摂取や虫歯の進行を抑制しつつ、空腹時の食欲や口寂しさを低減するための食品、あるいは口内での味覚刺激、物理的刺激等を高度化することや、食物繊維を供給することにより、新たな付加価値が付与された食品を提供することを目的とする。
本発明は、食物繊維を効率的に供給すること、あるいは日々の食生活において咀嚼・口内滞留特性を向上することにより生じる、咀嚼・口内滞留時間の延長やその他の多様なメリットを表現することを可能とする、新食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意努力を重ねた結果、破砕された食品素材またはその加工残さ、あるいは成形された食品ゲルを含む食品およびその製造法などを開発し、本発明に至った。
本発明は、咀嚼時に繊維質や微小粒子を残して咀嚼継続を促すことにより、意図的に咀嚼時間を長くするという考え方に基づいている。また、通常の食生活における食事に対して微粒子を添加したものを用意することにより、殆どストレスのない状態で、食事摂食様式の管理・指導を行うことを新たに提案するという考え方に基づいている。
さらに、先述したとおり、食物繊維は、咀嚼時間を長くし、便のかさを増し便通を促進するなどの役割を担うことが知られている。食物繊維は、主に穀物、野菜や果物などの植物系食品から供給されている。
しかしながら、現代社会における食生活の乱れにより、植物系食品からの十分な食物繊維の摂取量が確保されていないことが懸念される。食物繊維を手軽に摂取できる食品の開発が求められている。
本発明は、このような要求に応えたものである。
【0012】
〔請求項1〕に係る発明は、予め帯状、柱状、板状、パイプ状、糸状または球状に加工成形されたアルギン酸カルシウムにより構成される食品ゲルを、;別に用意したゲランガム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、キシログルカン、寒天、及びキサンタンガムのうちの1以上の成分により構成されるゲル化剤を含む溶液または分散液中で、以下(a1)及び(a2)に示す条件で混合し、;その後に当該ゲル化剤をゲル化し、さらに以下(b)に示す乾燥処理を乾燥物が得られるまで行うことを特徴とする、以下(c)に示す特性が向上した乾燥食品の製造法を提供するものである。
(a1) 前記ゲル化剤を、前記食品ゲルに対して0.16~25の間となる重量比(乾燥重量あたり)で混合する条件。
(a2) 前記食品ゲルの成形された形状が保持される条件。
(b) 加熱乾燥、減圧乾燥、または凍結乾燥。
(c) 食感を咀嚼中に長時間残存させ、嚥下までの時間を長くする特性。
〔請求項2〕に係る発明は、前記ゲル化剤が、寒天により構成されるゲル化剤である、請求項1に記載の食品の製造法を提供するものである。

【発明の効果】
【0013】
本発明は、現代社会における生活パターンを極端に変えずに、無理の少ない形で食生活を制御・改善するための食品の開発につながる。特に、空腹感に駆られて過食に陥ったり、口寂しさからカロリー摂取量が多くなったりする状況に対して、これらの問題を低減するための技術開発が可能となる。
また、咀嚼・口内滞留特性を向上することにより、咀嚼回数を増して脳機能を活性化する食品、唾液の分泌を促して口中衛生に寄与する食品、消化管の活動を活性化する食品等としての応用が期待される。
また、本発明により、食物繊維を含む食品や、口内での食表現を高度化して食品に付加価値を付与するための、可食性で咀嚼・口内滞留特性が改良されたノンカロリー食品、低カロリー食品などを提供することができる。
本発明によれば、咀嚼・口内滞留特性が向上した食品、つまり食感を咀嚼中に長時間残存させ、嚥下までの時間を長くする特性を持った食品を提供することができる。
これらのことにより、生活習慣病や食物繊維不足等の問題を解消しつつ、手軽に楽しく摂取できるような高付加価値食品の開発が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において、本発明を説明する。
本発明は、破砕された食品素材またはその加工残さ、あるいは成形された食品ゲルを、まだ成形していないゲル化剤、つまりゲランガム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、キシログルカン、寒天、キサンタンガム、ゼラチン、アルギン酸のうち、少なくともいずれかの一つ以上の成分またはその塩より構成される物質とともに、その物質を含む溶液または分散液中で混合し、その後に後者の物質をゲル化し、さらに乾燥を行うという一連の工程を含む、食品の製造法、並びにこれにより製造された、咀嚼・口内滞留特性が向上した食品を提供するものである。
【0015】
加工食品を製造する際に、食塊全体を固くしてその崩壊を遅らせることにより、食品の咀嚼・口内滞留時間を増すという概念は既に存在している。
しかしながら、食品全体を固くするのではなく、破砕された食品素材またはその加工残さ、あるいは成形された食品ゲルを、別に用意したゲル化剤と混合して、ゲル化させた後に乾燥することにより、咀嚼・口内滞留特性を向上するための新食品を製造するという考え方は、これまでに存在しない。
【0016】
また、フスマ入りパンのように、食品に対して、繊維質の多い食品素材や食品を混合して調理・加工を行うことにより、咀嚼を促すような試みは活発に行われている。
しかしながら、本発明では、食物繊維等の食品素材の混合による味質や食感の低下を抑え、嗜好性を向上するために、ゲル化剤によって食物繊維分の相互作用を制御し、さらに乾燥工程を加えることによって、個性的で良質な食感をもつ新食品を製造することを特徴としている。
破砕された食品素材またはその加工残さ、あるいは成形された食品ゲルを、別に用意したゲル化剤と混合して、ゲル化させた後に乾燥した食品は、口中で存在が認識されやすい上、異物感が除かれにくく、その解消までの時間が長くなると期待される。
【0017】
本発明の、破砕された食品素材またはその加工残さとは、主に、不溶性食物繊維を含むものや、果物、野菜、豆類、藻類、キノコ類を含むものなどが考えられる。
特に破砕された食品素材としては、果物、野菜、豆類、藻類、キノコ類のうち、少なくとも一つを含むものが好ましい。また、加工残さとしては、おから(豆腐絞りかす);リンゴジュースなどの果汁絞りかす;砂糖絞りかす;食品色素絞りかす(芋、シソなどからの色素抽出残さ);芋澱粉などの澱粉絞りかす;焼酎の絞りかすなどの発酵残さのうち、少なくとも一つを含むものが好ましい。
不溶性の食物繊維を含む食品素材としては、例えば、ナタデココ、微結晶セルロース、キチンなどを含むものが挙げられる。シロップ漬けになった状態で市販されているナタデココについては、機械的に破砕してパルプ状にした後、脱シロップのための洗浄を行うことができる。
果物、野菜、豆類、藻類、キノコ類を含む食品素材については、不溶性の繊維質を含むものが望ましい。これらの素材を適宜、水洗、蒸煮、剥皮等の処理を行った後、可食部を破砕したものを食品素材として用いることが望ましい。このようなものとしては、例えば、ジューサーミキサー処理したピューレ状の果物や野菜、煮豆の粉砕物、海藻やキノコの粉砕物などが挙げられる。
これらの食品素材については、適宜、破砕後に洗浄や加工処理等を行い、本発明による食品の味質やカロリー等を制御することができる。特に、繊維質感の残存度合いにより、食品自体の噛み応えが異なることから、咀嚼・口内滞留特性を制御する際には重要である。
例えば、生鮮食品であるナシの果肉をジューサーミキサーで破砕したピューレ状の素材を、予め高温で溶解させた寒天と混合した後に凍結乾燥することによって、モチモチした食感を有し噛みごたえが大きい食品を作ることができる。

【0018】
また、本発明の、予め帯状、柱状、板状、パイプ状、糸状または球状に加工成形された食品ゲルとしては、ゲランガム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、キシログルカン、寒天、キサンタンガム、ゼラチン、アルギン酸のうち、少なくともいずれかの一つ以上の成分またはその塩を含む食品ゲルが挙げられる。
本発明においては、このように予め帯状、柱状、板状、パイプ状、糸状または球状に加工成形された食品ゲルを、別に用意した、まだ成形していないゲル化剤、つまりゲランガム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、キシログルカン、寒天、キサンタンガム、ゼラチン、アルギン酸のうち、少なくともいずれかの一つ以上の成分またはその塩より構成される物質と混合した後に、後者のゲル化剤をゲル化させて、乾燥するというプロセスを行う。このようにして、咀嚼・口内滞留特性が向上した新食品を製造することができる。

【0019】
本発明者は、成形した食品ゲルが、乾燥により固い繊維となり、繊維質感を伴う独特の食感を示すことを見出した。
また、ゲル化の際、またはゲル化された繊維を加工成形する際には、帯状、柱状、板状、パイプ状、糸状または球状に加工することにより、様々な個性的食感を表現することができる。食物繊維のゲル化に際しては、食感やその他の特性を変える様々な成分を添加したり、直径数ミリ程度のチューブ状構造物を積層した構造を形成したりするなど、食味や食感を個性化・高度化することが可能である。
咀嚼・口内滞留特性を改良する目的で加工成型された球状物を用いる際の粒子の大きさは、長軸で粒径5mm以下0.04mm以上、望ましくは4mm以下0.5mm以上の粒子を主構成成分としたものが高い有効性を発揮する。粒径が大きすぎると、崩壊しやすくなるとともに、一口サイズの食品中の粒子の個数が少なくなる。また、粒子サイズが0.04mm(40μm)より小さくなると、ヒトの口中で異物として感じにくくなり、口内滞留への効果が発現されなくなる。粒子サイズが小さい場合には、歯ぐきや歯間に付着・残存し、不快感や不潔感を示す場合があるので、粒子サイズの設計や付着性の制御には注意が必要である。
【0020】
このように、破砕された食品素材またはその加工残さ、あるいは成形された食品ゲルを乾燥させたものは、特徴的な質感を有し、咀嚼・口内滞留特性を向上する際に有効な素材である。
しかしながら、破砕された食品素材またはその加工残さ、あるいは成形された食品ゲルのみを、凝集または乾燥させた場合には、繊維が固くなりすぎて、セルロース、キチンや果物などから得られた食品素材の場合には、紙質感が強すぎる、または、食品ゲルの場合は崩壊が早すぎるなどの望ましくない現象が観察されることが問題となる。
その問題を解決するためには、繊維の崩壊速度を制御し、不快感を低減するための技術開発が必要となる。
【0021】
そこで、本発明では、より可食性や質感が良好な食品の開発のために鋭意検討を行った結果、破砕された食品素材またはその加工残さ、あるいは成形された食品ゲルの崩壊速度を制御するためには、食品高分子を用いて相互作用を制御し、凝集の程度を適度に制御する方法が有効であることを見出した。
例えば、多くの食物繊維の主成分であるセルロース繊維は、乾燥により凝集して紙質感の強いシートとなる。セルロース単独で紙質感の強いシートを作ると、咀嚼しても十分に崩壊せずに、ちり紙を噛んでいるような食感に対する違和感から嚥下が困難となる。その場合には、食物繊維同士の相互作用を適度に制御するための成分を加えることにより、その崩壊性を適度に向上させることが可能となる。
【0022】
本発明では、そのような場合に、ゲル化剤として知られる食品高分子を用いることが有効であることを見出した。
食物繊維同士の相互作用を適度に制御するための食品高分子としては、例えば、ゲランガム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、キシログルカン、寒天、キサンタンガム、ゼラチン、アルギン酸のうち、少なくともいずれかの一つ以上の成分またはその塩より構成されることが望ましい。
【0023】
この場合のゲル化剤の添加量としては、食物繊維を主成分とした不溶性の食品素材の増粘安定剤または澱粉量に対する比率(乾燥重量あたり)が、0.16から25の間、望ましくは、0.32から12.5の間とすべきである。
増粘安定剤または澱粉のもつ影響の正負や強弱は、効果を期待する食品のもつ特性等によって異なる。
例えば、ナタデココセルロース同士の相互作用による紙質化に対しては、ゲランガム、グルコマンナン、ガラクトマンナンや寒天は弱める方向に働く。ゲル化剤のうちの複数成分を利用して、複雑かつ個性的な特性を出す場合には、それぞれの成分について、上記の重量比(乾燥重量あたり)の範囲内にすべきである。高濃度のゲル化剤は、溶解あるいは分散させる際に、粘性が上がりハンドリングに支障が生じることとなるほか、ゲルが脆くなり食感が低下したりする。
【0024】
また、ゲル化剤を含むものを乾燥食品とした場合には、咀嚼初期の吸湿が激しく、口内上部などに付着して剥がれないことがある。この現象は、窒息事故や不快感のもととなることが予想されるので、ゲル化剤の選択や濃度範囲の設定には注意が必要であるとともに、成形の際に穴をあけるなどして通気性を確保することも有効である。
【0025】
一旦、ゲル化剤を加熱等によって水に溶解または高度に分散させ、食物繊維を主成分とする不溶性の食品素材と混合した後に、冷却などの既知の方法により全体をゲル化させることにより、均一性が高い状態で不溶性の食品素材を分散・保持することができる。
【0026】
ナタデココを例とした場合、製造時にナタデココはゲル化しており、十分に分散しにくいことから、適宜、乾燥前あるいは乾燥後に機械的に破砕させることが望ましい。リンゴやナシなどの果実や野菜の食物繊維質についても、機械的破砕により分散性を向上することができる。
機械的破砕については、ミキサー、ミンサー、回転刃式ホモジェナイザー、カッター、コーヒーミル、石臼式グラインダーなど、既知の湿式あるいは乾式の食品用破砕装置を用いることができる。例えば、ナタデココのゲルを回転刃式ホモジェナイザーに入れて数秒から数分間程度破砕することにより、ゾル状の白い物質が生成する。このゾル状物質は、遠心分離や濾過等の操作により水と繊維質に分離され、繊維質の脱水・水分調整や各種不純物の洗浄除去を容易に行うことができる。
このような一連の処理をしたナタデココセルロースは、加熱処理、乾燥処理等により、微生物汚染を防ぎつつ保存することが可能である。乾燥させたナタデココセルロースは、水に馴染ませて機械的に破砕することにより、もとのゾル状に戻る。しかしながら、高温加熱乾燥すると、ナタデココの凝集性が大きくなり、水で戻す際の効率が低下するので注意が必要となる。その他、微結晶セルロースやキチン粉末を用いることができる。この二種類の食品素材は粒子サイズが大きく、単独で乾燥させた場合には、乾燥後、口に運ぶ前に粉末に戻ってしまう。ゲル化剤は、乾燥状態における各繊維の結合性維持に役立つ。
【0027】
破砕された食品素材またはその加工残さ、あるいは成形された食品ゲルと、まだ成形していないゲル化剤、つまりゲランガム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、キシログルカン、寒天、キサンタンガム、ゼラチン、アルギン酸のうち、少なくともいずれかの一つ以上の成分またはその塩より構成される物質との混合方法については、各成分を水中または水溶液中で、分散または溶解させつつ、撹拌や振とうなどの方法で混合する方法などが考えられる。ゲル化剤については、水溶性あるいは水分散性を賦与させるために、適宜、加熱や分散等の前処理を行うことが望ましい。また、ゲル化剤については、適宜、既知の方法を用いてゲル化させることにより、食物繊維を主成分とする不溶性の食品素材の分散性が向上し、乾燥させた際の食品の均質感を保つことが可能となる。
【0028】
破砕された食品素材またはその加工残さ、あるいは成形された食品ゲルと、ゲル化剤を混合した後には、加熱乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥などの処理によって乾燥させてスポンジ状またはシート状などの固形食品として、適宜、切断、圧縮等の加工処理を行うことにより、保存性の高い食品とすることができる。
また、砂糖などの保水性が高い成分が混合した際には、適度な量の水が保持されて、乾燥の度合いを制御することにより弾力性を多様に表現することができる。
さらに、乾燥後に適度に加湿することにより、さらに異なった質感の賦与が可能となる。
これらの加工工程では、適宜、型成形、加圧成形、切断成形などを行うことにより、見栄え、包装性や摂取しやすさを向上することができる。
【0029】
例えば、1.6%のナタデココ分散液に対して、熱水中で膨潤させた1%グルコマンナン水溶液を等量加えて混合し、4%アルギン酸ナトリウム水溶液を1%乳酸カルシウム水溶液に滴下して得た直径3mm程度のアルギン酸カルシウム粒子を50個程度加えて、さらにエリスリトールを最終濃度1%にして薄い甘味をつけた後、直ちに内径1cm程度のカップに高さ1cm程度入れて、これを-80℃に冷凍した後、凍結乾燥を行い、ディスク状の凍結乾燥物を得た(実施例2参照)。
この食品を摂取した際には、口内で数回咀嚼して繊維質が柔らかくなり自然に崩壊した後に粒子の違和感が出現し、そのプチプチした食感は咀嚼後も崩壊しないことから、違和感の口内での残存は1分以上に及ぶ。
また、このディスクを0.35mlの水で再度湿らせた食品については、粒子を覆う繊維質を剥ぎ取りやすくなっており、摂取後に舌で横方向に繊維質を押し出す運動により、容易に粒子を剥き出しにすることができ、乾燥時と異なった感覚を味わうことができる。
【0030】
本発明では、これらの方法により、食感を咀嚼中に長時間残存し、嚥下までの時間を長くする特性を持つことを特徴とした、咀嚼・口内滞留特性が向上した食品として提供することが可能となる。
さらには、開発された食品を用いた、嚥下までの時間を長くするための無理の少ない管理・指導法を提供することができる。本食品は、摂食時間の延長や不必要な高カロリー間食の摂取抑制などを通じて、食生活の改善・管理または指導に役立つツールとなる。
【0031】
破砕された食品素材またはその加工残さ、あるいは成形された食品ゲルを含む本発明の食品の咀嚼・口内滞留特性は、摂食の際に合わせて食べる物や飲む物にも影響を受けることとなることから、可食性嗜好品により食間の空腹感を抑えるとともに、口寂しさを紛らわすためには、咀嚼・口内滞留特性が向上した食品を単独で摂取することが望ましいケースが多いと考えられる。

【0032】
このように、破砕された食品素材またはその加工残さ、あるいは成形された食品ゲルを含む本発明の食品を用いて咀嚼・口内滞留特性を向上することにより、口内での味覚的・物理的刺激を受ける時間が長くなり、時間が延びる分だけ様々な付加価値の表現が可能となる。
例えば、粒子にプチプチ感を出して口の中で潰して遊ぶような付加価値や、するめのように噛むほどに味がしみ出てくるような食物繊維を用いた付加価値などの表現が可能となる。その際には、味覚成分、香り成分、色素、栄養成分、食物繊維、虫歯予防・歯の再石灰化促進成分、冷涼感・爽快感を付与する成分、口臭予防成分、カフェイン、特定保健用食品の「関与する成分」(有効成分)、食感付与成分、重炭酸ソーダ、果実、果汁のうちの、少なくともいずれか一つ以上を含むことが考えられる。

【0033】
このような成分のうちのいくつかは、咀嚼・口内滞留時間の延長効果を安定化させることが期待される。
例えば、該食品中に爽快感をもつ成分を入れた場合、爽快感を得ることに集中することとなり、次の一口を摂るまでの時間を長くする効果を有すると考えられる。
【0034】
さらに、このような、咀嚼・口内滞留特性、或いはそれに加えて多様な付加価値をもつ食品に対して、ノンカロリーの食物繊維や増粘安定剤などを原材料として選択することによって、ノンカロリーの食品とすることが可能となる。
また、同様に、適切な原材料を選択して総カロリーを低く抑えることができる。
【実施例】
【0035】
本発明についてさらに具体例を挙げて説明するが、かかる説明によって本発明が何ら限定されるものではないことは勿論のことである。
【0036】
実施例1
シロップ浸けの市販ナタデココ入り食品を水洗いして、ジューサーミキサーを用いて破砕したものを、ブフナー漏斗およびセルロース濾紙を用いて濾過した後、濾紙上に残存するナタデココ繊維をさらに水洗いしてシロップ等の不純物を除いた。これを濾紙から剥がし、適切な容器に移した後、水を入れて再度、ホモジェナイザーを用いて2分間ほど懸濁した。その後、1.6%濃度(w/v)になるように水に懸濁してナタデココ懸濁液を得た。
このナタデココ懸濁液に対して、加熱により予め水に溶解させた、等量の水、1%キシログルカン水溶液、1%ゲランガム水溶液、1%グアーガム水溶液、1%グルコマンナン水溶液、1%キサンタンガム水溶液、1%寒天水溶液、或いは1%アルギン酸ナトリウム水溶液を加えた後、直ちに撹拌し、その一部を120℃に熱したホットプレート上で乾燥させて、直径2cm程度、薄さ0.5mm程度のシート状の乾燥物を得た。
そのシートを咀嚼して、特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
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【0038】
実施例2
実施例1記載の1.6%のナタデココ懸濁液に対して、熱水中で膨潤させた1%グルコマンナン水溶液を等量加えて混合し、4%アルギン酸ナトリウム水溶液を1%乳酸カルシウム水溶液に滴下して得た直径1~3mm程度のアルギン酸カルシウム粒子を50個程度加えて、さらにエリスリトールを最終濃度1%にして薄い甘味をつけた後、直ちに内径1cm程度のカップに高さ1cm程度入れて、これを-80℃に冷凍した後、18時間凍結乾燥を行い、ディスク状の凍結乾燥物を得た。
【0039】
この食品を摂取した際には、口内で数回咀嚼して繊維質が柔らかくなり自然に崩壊した後に粒子の違和感が出現し、そのプチプチした食感は咀嚼後も崩壊しないことから、違和感の口内での残存は1分以上に及んだ。
また、このディスクを0.35mlの水で再度湿らせた食品については、粒子を覆う繊維質を剥ぎ取りやすくなっており、摂取後に舌で横方向に繊維質を押し出す運動により、容易に粒子を剥き出しにすることができ、乾燥時と異なった感覚を得ることができた。
【0040】
実施例3
実施例1記載の1.6%のナタデココの懸濁液に、予め加熱して溶解させた、等量の各濃度のグアガム(主成分はガラクトマンナン)水溶液を添加して撹拌した後に、直ちに内径1cm程度のカップに高さ1cm程度入れて、これを-80℃に冷凍した後、18時間凍結乾燥を行った。乾燥品を取り出して、混合後のグアガム濃度と繊維質感や咀嚼性の関係について検討した。
その結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
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【0042】
実施例4
実施例1記載の1.6%のナタデココの懸濁液に、予め加熱して溶解させた、等量の各濃度のグルコマンナン水溶液を添加して撹拌した後に、直ちに内径1cm程度のカップに高さ1cm程度入れて、これを-80℃に冷凍した後、18時間凍結乾燥を行った。乾燥品を取り出して、混合後のグルコマンナン濃度と繊維質感や咀嚼性の関係について検討した。その結果を表3に示す。
【0043】
【表3】
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【0044】
実施例5
実施例1記載の1.6%のナタデココ懸濁液に、予め加熱して溶解させた、等量の各濃度のゲランガム水溶液を添加して撹拌した後に、直ちに内径1cm程度のカップに高さ1cm程度入れて、これを-80℃に冷凍した後、18時間凍結乾燥を行った。乾燥品を取り出して、混合後のゲランガム濃度と繊維質感や咀嚼性の関係について検討した。その結果を表4に示す。
【0045】
【表4】
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【0046】
実施例6
冷凍したナシの果肉を、ジューサーミキサーを用いて2分間破砕し、繊維質を分散させたナシピューレとした。これに対して、等量の水、または予め加熱して溶解させた、1%の寒天水溶液を添加して混合・撹拌した後に、それぞれを直ちに内径1cm程度のカップに高さ1cm程度入れて、これを-80℃に冷凍した後、18時間凍結乾燥を行った。
乾燥品を取り出して、咀嚼を行った結果、水を添加して加工したものは、咀嚼後直ちに吸湿してキャラメル状になりダマに収縮してしまったのに対して、寒天と混合して加工したものは、乾燥後もモチモチした、サツマイモの干し芋のような噛みごたえの高い食感を示した。ナシを加えていない0.5%寒天の凍結乾燥物は、咀嚼後数十秒で崩壊し、嚥下が可能な状態となった。
また、同様に調製したナシピューレからショ糖等の低分子糖質を除いた後に同様の操作を行い、脱糖凍結乾燥物およびその寒天添加物を得た。前者は繊維質が強く、嚥下しにくいものであったが、後者は繊維質感を残しつつも、徐々に崩壊して嚥下可能な状態となった。
【0047】
実施例7
風乾したオカラ600 mgに水を加えて20 mlにメスアップしたものをホモジェナイザーで2分間潰した懸濁液を用意し、これに対して1容の水または1%寒天(予め高温下で溶解させたもの)を混合した。
実施例2の方法にならい、この混合物をカップ中で成形した後凍結し、18時間凍結乾燥することにより、ディスク状の乾燥食品を得た。
水を加えたディスクについては、摂食後、直ちに崩壊して粉となったが、寒天を加えたディスクについては、咀嚼により部分的に崩壊した後に、団粒が残存し、咀嚼を繰り返すうちに徐々にその崩壊が進んだ。
【0048】
実施例8
微結晶セルロース粉末を100mg計りとり、これに対して、2.3mlの水、または予め加熱して溶解させた1%の寒天水溶液を添加して、分散・撹拌した後に、直ちに内径1cm程度のカップに高さ1cm程度入れて、これを-80℃に冷凍した後、18時間凍結乾燥を行った。
乾燥品を取り出して、咀嚼を行った結果、水を添加して加工したものは、一噛みでバラバラに分解したが、寒天と混合して加工したものは、ゆでたシイタケ様のやわらかい噛みごたえのある食感を有した。
【0049】
実施例9
イカ由来キチンフレークを100mg計りとり、これに対して、2.3mlの水、または予め加熱して溶解させた1%の寒天水溶液を添加して、分散・撹拌した後に、直ちに内径1cm程度のカップに高さ1cm程度入れて、これを-80℃に冷凍した後、18時間凍結乾燥を行った。
乾燥品を取り出して、咀嚼を行った結果、水を添加して加工したものは、一噛みでバラバラに分解したが、寒天と混合して加工したものは、多少の噛みごたえがあり、数回咀嚼した後に崩壊し、崩壊後も多少粘りのある粉としての食感を有した。
【0050】
実施例10
4%アルギン酸ナトリウム水溶液を1%乳酸カルシウム水溶液に対してシリンジを用いて滴下して得た、直径1mm程度、長さ1cm以上3cm以下のものを主成分とする糸状のアルギン酸カルシウムを、内径1cm程度のカップに高さ9mm程度入れた。これを直接、または、糸状素材の隙間の空間に対して、予め加熱して溶解させた0.5%寒天水溶液を1ml程度加えたものを-80℃に冷凍した後、18時間凍結乾燥を行った。
【0051】
この食品を摂取した際には、最初の数回の咀嚼では、双方とも、フライしたそうめんを食べたようなサクサク感が得られ、その後、アルギン酸カルシウムの糸状の構造が崩壊し、多数の1mm前後の粒子になった。その後、寒天を含まないものについては、粒子の吸湿性に限界があり、粒子のもつ粉っぽいザラザラした質感が100回程度咀嚼しても残った。一方、寒天を含むものについては、適度にぬめり感が発生し、粒子の粉っぽさが少ない状態で存在した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、破砕された食品素材またはその加工残さ、あるいは成形された食品ゲルを含む、咀嚼・口内滞留特性が向上した新食品が開発される。新食品の効果としては、新食感の付与、食物繊維供給、咀嚼力強化、便通改善、空腹感抑制、食生活改善、口寂しさの解消等が期待される。
また、本発明により、ガムとは異なった低カロリー・ノンカロリーの可食性嗜好品等を開発し、多岐にわたる場面で利用することも可能となる。