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明細書 :アラキドン酸誘導体等を用いた胎盤剥離方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5234450号 (P5234450)
公開番号 特開2009-073789 (P2009-073789A)
登録日 平成25年4月5日(2013.4.5)
発行日 平成25年7月10日(2013.7.10)
公開日 平成21年4月9日(2009.4.9)
発明の名称または考案の名称 アラキドン酸誘導体等を用いた胎盤剥離方法
国際特許分類 A61K  31/202       (2006.01)
A61K  31/5575      (2006.01)
A61K  38/35        (2006.01)
A61P  15/04        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI A61K 31/202
A61K 31/5575
A61K 37/40
A61P 15/04 171
A61P 43/00 111
請求項の数または発明の数 10
全頁数 12
出願番号 特願2007-246032 (P2007-246032)
出願日 平成19年9月21日(2007.9.21)
審査請求日 平成22年6月17日(2010.6.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】鎌田 八郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100111741、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 夏夫
審査官 【審査官】瀬下 浩一
参考文献・文献 特開平06-157304(JP,A)
鎌田八郎 他,アラキドン酸による胎盤由来繊維芽細胞の剥離作用に対する種々の阻害剤の影響,日本畜産学会大会講演要旨,2005年,Vol.104th,p.117
FRUTEAU,D.L. et al,Conditions for the formation of the oxo derivatives of arachidonic acid from platelet 12-lipoxygenase and soybean 15-lipoxygenase,Biochimica et biophysica acta,1988年,Vol.958, No.3,p.424-433
家畜繁殖誌,1977年,Vol.23, No.3,p.85-92
調査した分野 A61K 31/202
A61K 31/5575
A61K 38/35
A61P 15/04
A61P 43/00
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
12-オキソアラキドン酸又はその塩を含有する胎盤剥離用組成物。
【請求項2】
12-オキソアラキドン酸又はその塩を含有する胎盤剥離用組成物を含む、分娩誘起用キット。
【請求項3】
グルココルチコイド及び/又はプロスタグランジンを含有する胎子排出用組成物をさらに含む、請求項2記載の分娩誘起用キット。
【請求項4】
胎子排出後の非ヒト哺乳動物に12-オキソアラキドン酸又はその塩を投与する工程を含む、胎盤剥離方法。
【請求項5】
上記非ヒト哺乳動物がウシである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
妊娠期の非ヒト哺乳動物にグルココルチコイド及び/又はプロスタグランジンを投与し、胎子排出を誘起する工程と、
胎子排出後の前記非ヒト哺乳動物に12-オキソアラキドン酸又はその塩を投与し、胎盤排出を誘起する工程と、
を含む、分娩誘起方法。
【請求項7】
上記非ヒト哺乳動物がウシである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
12-オキソアラキドン酸又はその塩を含有するマトリックスメタロプロテアーゼ活性化用組成物。
【請求項9】
非ヒト哺乳動物に12-オキソアラキドン酸又はその塩を投与する工程を含む、マトリックスメタロプロテアーゼ活性化方法。
【請求項10】
上記非ヒト哺乳動物がウシである、請求項9記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば胎盤剥離方法及び分娩誘起方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウシ等の家畜に関する畜産は、繁殖がうまくいけば利益があげられると言われる。しかしながら、北海道の例では、繁殖成績の悪化による経済的損失は、1酪農家当たり平均300万円以上とも試算されている。当該繁殖成績悪化の原因の一つとして、分娩に関係する技術の不足や事故が挙げられる。この分娩に関する技術の不足や事故が、産子の損耗率の上昇や受胎成績の低下につながっている。また、夜間分娩の介護に伴う労働過重も、特に高齢化が進む畜産の生産現場では大きな問題となっている。
【0003】
このような状況下で畜産農家が求める分娩に関する技術としては、深夜の分娩介護を回避するために昼間安全に分娩させる技術、及び分娩予定日を過ぎ、胎子が大きくなりすぎることによる難産を回避するための、胎盤停滞を起こさない分娩誘起技術が挙げられる。これらの技術がもたらす効果は、多岐に渡り、例えば、分娩時の事故低減、管理者の精神的及び肉体的負担の軽減、適切な産子の管理(遅滞のない初乳給与)、並びに分娩後の母家畜の正常な回復等が挙げられる。
【0004】
従来行われている上述の分娩に関する技術としては、ウシの場合には、例えば、給餌時間の制限による昼分娩の誘導、及びホルモン(グルココルチコイド又はプロスタグランジン)を用いた分娩誘起が挙げられる。
【0005】
給餌時間の制限による昼分娩の誘導は、具体的には、夜間に給餌を実施し、朝残食を取り除いた後は昼間餌を与えないことによって行われる(非特許文献1及び2)。しかしながら、当該誘導では、昼分娩の確率は7割程度である。また、何日後に分娩するか否かは定かではない。さらに、分娩予定を大幅に過ぎても分娩しない長期在胎ウシには使えない。
【0006】
一方、分娩は、図1に示すように、胎子の排出と胎盤の排出の2段階で達成される。上述のグルココルチコイド又はプロスタグランジンを用いた分娩誘起では、分娩の第1段階である胎子の排出を誘起する。グルココルチコイドはプロスタグランジンの産生を促し、プロスタグランジンは黄体退行及び子宮収縮作用を有する。当該作用に起因して、グルココルチコイド又はプロスタグランジンの投与により、胎子排出が誘起されることとなる(非特許文献3~5)。当該分娩誘起では、グルココルチコイド又はプロスタグランジンの投与後約1.5~2日で分娩が生じるものの、高率で胎盤停滞が発生する。従って、当該分娩誘起には、胎子は排出されるが、胎盤が排出されない病態(後産停滞)といった問題が存在する。
このように、分娩を調整する安全で画期的な技術は、今まで知られていなかった。
【0007】

【非特許文献1】Wolfe, Modern veterinary practice, 1983年, 第64巻, p.21-23
【非特許文献2】Aokiら, Animal Science Journal,2006年, 第77巻, 第3号, p.290-299
【非特許文献3】中原ら, 家畜繁殖誌, 1976年, 第21巻, 第4号, p.135-140
【非特許文献4】上村ら, 家畜繁殖誌, 1977年, 第23巻, 第3号, p.85-91
【非特許文献5】相原ら, 家畜診療, 2005年, 第52巻, 第11号, p.673-681
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述するように、分娩を調整する画期的な技術は、今まで知られていなかった。
一方、従来においては、分娩における第1段階の胎子排出はプロスタグランジンによる黄体退行や子宮収縮で起こることが知られていた。しかしながら、第2段階である不要になった胎盤の排出については、研究が進んでおらず、胎盤排出を引き起こすメカニズムは知られていなかった。
【0009】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、分娩の第2段階において胎盤排出を引き起こすメカニズムを探索し、且つ当該メカニズムの活性化因子を同定すると共に、当該活性化因子を利用した胎盤剥離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため鋭意検討した結果、胎盤排出を引き起こすメカニズムとしてマトリックスメタロプロテアーゼ(以下、「MMP」という。)の関与を同定し、且つ当該MMPの活性化因子がアラキドン酸(又は「5,8,11,14-エイコサテトラエン酸」と呼ばれる)誘導体等であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、アラキドン酸誘導体、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、ステアリドン酸、ジホモγリノレン酸、ω-3アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸及びそれらの塩から成る群より選択される化合物を含有する胎盤剥離用組成物に関する。アラキドン酸誘導体としては、12-オキソアラキドン酸(又は「12-オキソエイコサテトラエン酸」と呼ばれる)及びその代謝物が挙げられる。また、上述した高度不飽和脂肪酸(エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等)の代謝物も、胎盤剥離用組成物の有効成分とすることができる。
【0012】
また、本発明は、上述の胎盤剥離用組成物を含む分娩誘起用キットに関する。当該分娩誘起用キットは、グルココルチコイド又はプロスタグランジンを含有する胎子排出用組成物を含むことができる。
【0013】
さらに、本発明は、胎子排出後の非ヒト哺乳動物にアラキドン酸誘導体、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、ステアリドン酸、ジホモγリノレン酸、ω-3アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸及びそれらの塩から成る群より選択される化合物を投与する工程を含む、胎盤剥離方法に関する。非ヒト哺乳動物としては、ウシが挙げられる。アラキドン酸誘導体としては、12-オキソアラキドン酸及びその代謝物が挙げられる。
【0014】
また、本発明は、妊娠期の非ヒト哺乳動物にグルココルチコイド又はプロスタグランジンを投与し、胎子排出を誘起する工程と、胎子排出後の当該非ヒト哺乳動物にアラキドン酸誘導体、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、ステアリドン酸、ジホモγリノレン酸、ω-3アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸及びそれらの塩から成る群より選択される化合物を投与し、胎盤排出を誘起する工程とを含む、分娩誘起方法に関する。非ヒト哺乳動物としては、ウシが挙げられる。アラキドン酸誘導体としては、12-オキソアラキドン酸及びその代謝物が挙げられる。
【0015】
さらに、本発明は、アラキドン酸誘導体、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、ステアリドン酸、ジホモγリノレン酸、ω-3アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸及びそれらの塩から成る群より選択される化合物を含有するMMP活性化用組成物に関する。アラキドン酸誘導体としては、12-オキソアラキドン酸及びその代謝物が挙げられる。
【0016】
また、本発明は、非ヒト哺乳動物にアラキドン酸誘導体、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、ステアリドン酸、ジホモγリノレン酸、ω-3アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸及びそれらの塩から成る群より選択される化合物を投与する工程を含む、MMP活性化方法に関する。非ヒト哺乳動物としては、ウシが挙げられる。アラキドン酸誘導体としては、12-オキソアラキドン酸及びその代謝物が挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、胎盤停滞を生じることなく、胎盤を排出させることができる。また、本発明によれば、安全に分娩をコントロールすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る胎盤剥離用組成物は、アラキドン酸誘導体、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、ステアリドン酸、ジホモγリノレン酸、ω-3アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸及びそれらの塩から成る群より選択される化合物(以下、「本発明に係る有効成分」という場合がある)を含有するものである。本発明に係る胎盤剥離用組成物によれば、当該組成物が投与された胎子排出後の哺乳動物において、胎盤が剥離され、体外に排出される。ここで、「胎盤剥離」とは、胎子排出後に母胎盤と胎子胎盤が分離し、不要になった胎子胎盤が子宮から排出されることをいう。本発明に係る胎盤剥離用組成物の投与対象としては、ヒト、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、サル、イヌ、ネコ等の哺乳動物が挙げられ、特にウシが好ましい。
【0019】
本発明において、アラキドン酸誘導体とは、アラキドン酸の12-リポキシゲナーゼ代謝物をいう。12-リポキシゲナーゼは、cis,cis-1,4-ペンタジエン構造を有する不飽和脂肪酸に分子状酸素を添加し、12位の炭素にヒドロペルオキシド基を導入する酸化還元酵素である。アラキドン酸誘導体としては、例えば12-オキソアラキドン酸及びその代謝物、並びに12(S)-ヒドロペルオキシアラキドン酸(又は「12(S)-ヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸」と呼ばれる)、12(R)-ヒドロペルオキシアラキドン酸(又は「12(R)-ヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸」と呼ばれる)、12(S)-ヒドロキシアラキドン酸(又は「12(S)-ヒドロキシエイコサテトラエン酸」と呼ばれる)及び12(R)-ヒドロキシアラキドン酸(又は「12(R)-ヒドロキシエイコサテトラエン酸」と呼ばれる)が挙げられる。特に12-オキソアラキドン酸及びその代謝物が好ましい。
【0020】
アラキドン酸誘導体は、例えば化学合成、あるいはアラキドン酸に12-リポキシゲナーゼを作用させることによって製造することができる(O’Flaharty, Biochim. Biophys. Acta, 1994, 1201:505-515)。あるいは、アラキドン酸誘導体は、市販品を用いることができる。
【0021】
さらに、本発明に係る胎盤剥離用組成物は、アラキドン酸誘導体に代えて、あるいはアラキドン酸誘導体と共に、有効成分として12-オキソアラキドン酸の更なる誘導体、アラキドン酸以外の高度不飽和脂肪酸(例えば、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、αリノレン酸、ステアリドン酸、ω-3アラキドン酸等)又はその代謝物、アラキドン酸前駆体(例えば、リノール酸、γリノレン酸、ジホモγリノレン酸)を含有することができる。これら化合物は、アラキドン酸誘導体と同様の胎盤剥離効果又はMMP活性化効果を有する。これら化合物は、例えば化学合成、植物体又は魚油からの抽出、あるいは微生物の発酵を利用することによって製造することができる(鈴木修ら, 機能性脂質の進展, 2006年)。あるいは、これら化合物は、市販品を用いることができる。
【0022】
アラキドン酸誘導体、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、ステアリドン酸、ジホモγリノレン酸、ω-3アラキドン酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸の塩としては、薬学的に許容される塩が挙げられる。そのような塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0023】
本発明に係る胎盤剥離用組成物は、本発明に係る有効成分の他に、通常の医薬品や獣医薬品等に用いられる各種任意成分(例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、矯味剤、着色剤、香料)を含有することができる。
【0024】
賦形剤としては、例えば、セルロース(結晶セルロース等)、デンプン(コメデンプン、バレイショデンプン、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、αデンプン等)、デキストリン、デキストラン、糖アルコール(マンニトール、エリスリトール、キシリトール、マルトース、マルチトール、ソルビトール等)、乳糖、ブドウ糖等が挙げられる。
【0025】
結合剤としては、例えば、デンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が挙げられる。
【0026】
崩壊剤としては、例えば、デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0027】
界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80等が挙げられる。
【0028】
滑沢剤としては、例えば、タルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0029】
流動性促進剤としては、例えば、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。
【0030】
希釈剤としては、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、オリーブ油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エチルアルコール等が挙げられる。
また、本発明に係る胎盤剥離用組成物は、更なる成分を含んでいてもよい。
【0031】
本発明に係る胎盤剥離用組成物の剤形としては、必要に応じて適宜選択されるが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、及び注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられる。また、本発明に係る胎盤剥離用組成物の投与経路は、剤形等に応じて、適宜決定することができるが、例えば、経口投与及び非経口投与(静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸内投与、鼻内投与、舌下投与等)が挙げられる。
【0032】
本発明に係る胎盤剥離用組成物の投与回数、投与量及び投与時期は、特に限定されるものではなく、例えば、哺乳動物の種類、年齢、体重又は症状の程度に応じて適宜決定することができる。投与回数は、例えば、静脈内注射による投与で、胎子排出後1回又は数回(例えば、2回、3回、4回、5回)、好ましくは1回である。本発明に係る胎盤剥離用組成物の投与量は、その中に含まれる本発明に係る有効成分に換算して、例えばウシでは1回当たり1~2mg/被験体、好ましくは1回当たり1.0~2.0μg/kg体重である。また、投与時期としては、例えば胎子排出後12時間以内、好ましくは1~4時間以内が挙げられる。
【0033】
本発明に係る胎盤剥離用組成物の薬理評価は、in vitro又はin vivoで行うことができる。
【0034】
in vitroにおける薬理評価としては、胎盤由来の培養繊維芽細胞(MMP産生細胞)を用いた方法が挙げられる。先ず、本発明に係る胎盤剥離用組成物を、当該培養繊維芽細胞の培養培地に添加する。添加後に一定時間培養し、陰性対照(例えば、本発明に係る胎盤剥離用組成物の添加なし)と比較して、当該細胞が固相(例えば、培養プレートの底)から有意に多く遊離した場合、本発明に係る胎盤剥離用組成物は、胎盤剥離効果を有すると判断することができる。
【0035】
In vivoにおける薬理評価としては、例えば、プロスタグランジン単独投与により胎子排出したウシを使用する方法が挙げられる。先ず、胎子排出後のウシに本発明に係る胎盤剥離用組成物を投与する。次いで、投与後、陰性対照(例えば、本発明に係る胎盤剥離用組成物の投与なし)と比較して、有意に早く胎盤が排出された場合、本発明に係る胎盤剥離用組成物は胎盤剥離効果を有すると判断することができる。
【0036】
本発明に係る胎盤剥離用組成物は、安全な分娩誘起用キット(以下、「本発明に係る分娩誘起用キット」という。)として提供することもできる。特に、本発明に係る分娩誘起用キットは、本発明に係る胎盤剥離用組成物とグルココルチコイド又はプロスタグランジンを含有する胎子排出用組成物とを組合わせることで達成される。このような本発明に係る分娩誘起用キットを用いれば、分娩における胎子の排出と胎盤の排出の2段階を双方とも誘起できる。本発明に係る分娩誘起用キットにおいて、本発明に係る胎盤剥離用組成物と胎子排出用組成物とは、別々の容器等に含有する形態で提供することができる。
【0037】
グルココルチコイド又はプロスタグランジンは、動物医薬品メーカー(例えば、(株)ファイザー)から市販されている。
【0038】
胎子排出用組成物の剤形、投与経路、投与回数及び投与量は、上述の本発明に係る胎盤剥離用組成物に関する記載に準じたものであってよい。
【0039】
胎子排出用組成物の投与時期としては、例えば、分娩予定の10日前~分娩予定を過ぎた場合、好ましくは分娩予定の1週間前といった妊娠期が挙げられるが、投与時期はこれらに限定するものではない。すなわち、胎子排出用組成物の投与は、本発明に係る胎盤剥離用組成物の投与に先立って行う。
【0040】
一方、本発明に係る胎盤剥離方法は、胎子排出後の非ヒト哺乳動物に本発明に係る有効成分を投与する工程を含む方法である。また、本発明に係る分娩誘起方法は、妊娠期の非ヒト哺乳動物にグルココルチコイド又はプロスタグランジンを投与する工程と、胎子排出後の当該非ヒト哺乳動物に本発明に係る有効成分を投与する工程とを含む方法である。以下では、本発明に係る胎盤剥離方法と本発明に係る分娩誘起方法とを併せて、「本発明に係る方法」という。
【0041】
本発明に係る方法における非ヒト哺乳動物としては、例えば、ヒト以外のウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、サル、イヌ、ネコ等の哺乳動物が挙げられ、特にウシが好ましい。なお、本発明に係る方法をヒトに適用することもできる。
【0042】
本発明に係る方法における本発明に係る有効成分、あるいはグルココルチコイド又はプロスタグランジンの投与経路、投与回数、投与量及び投与時期は、本発明に係る胎盤剥離用組成物及び分娩誘起用キットに関する上述の記載に準ずるものであってよい。
【0043】
以上に説明した本発明によれば、胎盤停滞を発生させずに、所望の時期(例えば、昼間)に分娩させることが可能となる。また、本発明によれば、分娩予定日を過ぎても分娩せず、胎子が過大になって難産が予想される場合においても、胎盤停滞を起こさずに迅速に分娩させることが可能となる。さらに、本発明によれば、早期の子宮回復が見込まれ、繁殖成績の向上につながると考えられる。また、本発明は、分娩日時の調整だけでなく、自然発生胎盤停滞の治療にも適用できる。
【0044】
一方、本発明に係るMMP活性化用組成物は、上述の本発明に係る有効成分を含有するものである。また、本発明に係るMMP活性化方法は、非ヒト哺乳動物に上述の本発明に係る有効成分を投与する工程を含む方法である。本発明に係るMMP活性化用組成物又は本発明に係るMMP活性化方法によれば、MMPの活性化を必要とする被験体(例えば、胎盤遺残等の疾患を患う患者)を治療することができる。
【0045】
ここで、MMPの活性化とは、MMPの前駆体酵素(プロエンザイムとも呼ばれ、活性がない状態)のペプチドの一部が切断され、活性(例えば、コラーゲン分解活性)が発現することをいう。活性化されるMMPは、例えばMMP-2、MMP-9等である。
【0046】
本発明に係るMMP活性化用組成物は、上述の本発明に係る胎盤剥離用組成物の記載に準じて、作製し、且つ使用することができる。また、本発明に係るMMP活性化方法は、上述の本発明に係る方法の記載に準じて行うことができる。なお、投与回数、投与時期及び投与期間については、例えば、哺乳動物の種類、年齢、体重又は症状の程度に応じて適宜決定することができる。
【0047】
本発明に係るMMP活性化用組成物の薬理評価としては、上述のin vitroにおける胎盤由来の培養繊維芽細胞(MMP産生細胞)を用いた方法又はゼラチンザイモグラフィーを用いた方法が挙げられる。
【0048】
ゼラチンザイモグラフィーを用いた方法では、先ず、本発明に係るMMP活性化用組成物をMMP産生細胞と接触させる。一定時間インキュベートした後、細胞を溶解してタンパク質溶液とし、ゼラチン(MMPの基質)含有SDSポリアクリルアミド電気泳動用ゲルを用いた電気泳動に供する。泳動後一定時間保温して酵素反応を進めた後、ゲル内に残った未分解のゼラチンを染色する。陰性対照(例えば、本発明に係るMMP活性化用組成物との接触なし)と比較して、ゼラチン分解が有意に多く見られた場合、本発明に係るMMP活性化用組成物はMMP活性化作用を有すると判断することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
〔実施例1〕12-オキソアラキドン酸投与による胎盤剥離
(1) MMP活性化因子の探索
分娩時に胎盤が排出されない主たる原因は、母胎盤と胎子胎盤とが正常に分離(剥離)しないことによる。胎盤停滞牛の胎盤において、ある種のMMPの活性が低いかあるいは検出されないという報告や、胎盤停滞牛に対して、コラーゲン分解酵素を臍帯を介して注入することにより胎盤が剥がれやすくなるという報告があることから(MMPもコラーゲン分解酵素である)、MMPが胎盤の剥離に関係すると想定された(Maj et al., Placenta, 1997, 18:683-687; Eiler et al., JAVMA, 1993, 203:436-443)。当該MMPは生体内に前駆酵素(プロエンザイム)として広く存在しており、当該酵素が機能を示すためには活性化しなければならない。
そこで、胎盤由来の培養繊維芽細胞(MMP産生細胞)を用いて、MMPの活性化因子の探索を行った。
【0051】
1-1. MMP活性化因子の候補化合物
MMP活性化因子の候補化合物は、全て市販品を用いた。
【0052】
1-2. MMP活性化因子の探索
生体内のMMP-2の生産母地は繊維芽細胞であることから、ウシ胎子胎盤から繊維芽細胞を調製した。一定量の細胞を培養皿に植え、単層形成後にコルチゾール処理し、さらにMMP活性化因子候補化合物の添加を行った。MMP活性化因子候補化合物にMMP活性化能がある場合は、細胞が培養皿から剥離して浮遊した。
【0053】
結果を図2及び3に示す。図2及び3において、縦軸は無処理(0%)に対する剥離細胞の割合(%)である。一方、横軸は添加された化合物の濃度(μM)である。
【0054】
図2における略語は、以下の意味を示す。
「12(S)-HPETE」:12(S)-ヒドロペルオキシアラキドン酸
「12(±)-HPETE」:12(±)-ヒドロペルオキシアラキドン酸(12(S)-ヒドロペルオキシアラキドン酸と12(R)-ヒドロペルオキシアラキドン酸との混合物)
「12(S)-HETE」:12(S)-ヒドロキシアラキドン酸
「12(R)-HETE」:12(R)-ヒドロキシアラキドン酸
「12oxoETE」:12-オキソアラキドン酸
「Ara」:アラキドン酸
【0055】
一方、図3における略語は、以下の意味を示す。
「C16:0」:パルミチン酸
「C18:0」:ステアリン酸
「C16:1」:パルミトレイン酸
「C18:1」:オレイン酸
「C18:2」:リノール酸
「C18:3」:αリノレン酸
「C18:3(γ)」:γリノレン酸
「C18:4」:ステアリドン酸
「C20:3」:ジホモγリノレン酸
「C20:4」:アラキドン酸
「C20:4(ω3)」:ω-3アラキドン酸
「C20:5」:エイコサペンタエン酸
「C22:6」:ドコサヘキサエン酸
【0056】
これまでに知られている分娩時のシグナル伝達では、アラキドン酸のシクロオキシゲナーゼ誘導体(プロスタノイド)が中心であることから、初めにアラキドン酸によるMMP活性化の可能性から検討した。図2及び3に示すように、アラキドン酸(Ara)に細胞剥離活性(MMP活性化能)があることが確認できた。一方、アラキドン酸のシクロオキシゲナーゼ誘導体であるプロスタグランジンには細胞剥離活性は無かった。
【0057】
アラキドン酸の他の代謝系として、3種のリポキシゲナーゼ経路が知られている。そこで、次に各リポキシゲナーゼの阻害剤を併用して反応を調べたところ、12-リポキシゲナーゼ阻害剤がアラキドン酸による細胞剥離を阻害した。このように、アラキドン酸が12-リポキシゲナーゼによって変換されて作用していることが示されたので、次にアラキドン酸の12-リポキシゲナーゼ誘導体(代謝物)を用いて、細胞剥離実験を行った。
【0058】
その結果、図2に示すように、アラキドン酸のヒドロキシ誘導体(12(S)-ヒドロキシアラキドン酸(12(S)-HETE)及び12(R)-ヒドロキシアラキドン酸(12(R)-HETE))には細胞剥離活性がなく、アラキドン酸のヒドロペルオキシ誘導体(12(S)-ヒドロペルオキシアラキドン酸(12(S)-HPETE)及び12(±)-ヒドロペルオキシアラキドン酸(12(±)-HPETE))に弱い細胞剥離活性が見られた。これに対し、アラキドン酸のケトン誘導体である12-オキソアラキドン酸(12oxoETE)は、アラキドン酸より低濃度で細胞剥離活性を示した(図2)。すなわち、12-オキソアラキドン酸は強いMMP活性化能を有することが分かった。
【0059】
一方、図3に示すように、アラキドン酸と同じ高度不飽和脂肪酸の中にも細胞剥離活性を示すものが見られたが(中活性:γリノレン酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸、弱活性:リノール酸、αリノレン酸、ステアリドン酸、ジホモγリノレン酸及びω-3アラキドン酸)、いずれも12-オキソアラキドン酸より活性が弱かった。ただし、これらの高度不飽和脂肪酸及び12-オキソアラキドン酸のさらなる代謝物に、より細胞剥離活性の強い物質が見つかる可能性がある。胎盤剥離の促進にはそれらの物質も使える。
【0060】
(2) 12-オキソアラキドン酸投与による胎盤剥離
胎子排出を誘起するために、分娩予定1週間前のホルスタイン妊娠牛(乳牛)(体重779kg)の臀部に天然型プロスタグランジン(50mg)を含む製剤(10ml)を筋肉内注射した。また、3産目以降のウシについては、当該1回目の注射の12時間後(1日目の夕方)に、プロスタグランジンを再度投与した。
【0061】
プロスタグランジンの投与から3日目の朝に、妊娠牛は胎子を排出した。母牛及び産子は、ともに健康だった。
【0062】
次いで、胎子排出から4時間後に、12-オキソアラキドン酸(1mg)を含む生理食塩水(15ml)を、胎子排出後の母牛に頸静脈から注射した。当該注射からおおよそ6時間後に、母牛から胎盤が全量排出された。これらの分娩の様子の写真を図4に示す。実験後、母牛は再度妊娠し、繁殖機能に影響は無かった。なお、12-オキソアラキドン酸無投与では、母牛から胎盤が排出されず、胎盤停滞を生じた。
【0063】
(3) 排出胎盤におけるMMP活性
排出胎盤のMMP活性を分析した。サンプルは、正常分娩(特段の処理なし)における母牛の排出胎盤(図5では、「正常分娩」と表記)、プロスタグランジンにより胎子排出を誘起したが、胎盤停滞を生じた母牛の胎盤(図5では、「PG誘導分娩」と表記)、プロスタグランジンによる胎子排出誘起に続き12-オキソアラキドン酸による胎盤排出誘起が行われた母牛の排出胎盤(図5では、「PG誘導+oxo」と表記)、及び胎盤停滞を自然発生した母牛の胎盤(図5では、「胎盤停滞牛」と表記)であった。
【0064】
MMP活性の測定は、ゼラチンザイモグラフィーを用いて行った。すなわち、通常のSDSポリアクリルアミド電気泳動のゲルに予めMMPの基質となるゼラチンを含ませた。胎盤試料を当該ゲルを用いた電気泳動に供した後、SDSを取り除き、ゲルを緩衝液で保温することにより、MMP活性のある部分のゼラチンが活性の強度に応じて分解された。反応後に、ゲルをタンパク質染色に供することにより、ゲル中のMMP活性のある部分が染色されずに白いバンドとして検出された。活性はプロ酵素のみ検出されるので、MMPの活性化がうまくいった場合は、ゲル上で観察されるプロ酵素の活性バンドは薄くなる。逆に活性化がうまくいかない場合は、プロ酵素が蓄積し、バンドが濃くなる。なお、プロ酵素はゲル内で自己活性化されるので活性として検出できる。結果を図5に示す。
【0065】
図5に示すように、自然発生胎盤停滞牛やプロスタグランジン誘導胎盤停滞牛の胎盤とは明らかに異なり、プロスタグランジンによる胎子排出誘起に続き12-オキソアラキドン酸による胎盤排出誘起が行われた母牛の排出胎盤は、正常分娩牛の排出胎盤と極めて近いMMPパターンを示した。この事実は、12-オキソアラキドン酸の投与がMMPを活性化し、胎盤の剥離を誘導した証拠と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】分娩の進行を示す模式図である。
【図2】アラキドン酸誘導体の細胞剥離活性を示す特性図である。
【図3】高度不飽和脂肪酸の細胞剥離活性を示す特性図である。
【図4】分娩の様子の写真である。
【図5】排出胎盤におけるMMP活性を示す写真である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
3
【図5】
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