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明細書 :棟方向傾斜建築物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5182862号 (P5182862)
公開番号 特開2008-200034 (P2008-200034A)
登録日 平成25年1月25日(2013.1.25)
発行日 平成25年4月17日(2013.4.17)
公開日 平成20年9月4日(2008.9.4)
発明の名称または考案の名称 棟方向傾斜建築物
国際特許分類 A01G   9/24        (2006.01)
FI A01G 9/24 G
請求項の数または発明の数 5
全頁数 8
出願番号 特願2008-012587 (P2008-012587)
出願日 平成20年1月23日(2008.1.23)
優先権出願番号 2007013473
優先日 平成19年1月24日(2007.1.24)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年12月9日(2010.12.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】由比 進
【氏名】岡田 益己
【氏名】岡本 潔
【氏名】片岡 園
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
【識別番号】100120086、【弁理士】、【氏名又は名称】▲高▼津 一也
審査官 【審査官】小島 寛史
参考文献・文献 特開昭54-135128(JP,A)
特公昭38-018704(JP,B1)
調査した分野 A01G 9/24
特許請求の範囲 【請求項1】
農業又は園芸用ビニールハウスであって、
屋根の一部又は全部が棟方向に傾斜して設けられ、傾斜上方側の妻面の少なくとも上部又は屋根に第1換気手段が設けられていることを特徴とする棟方向傾斜ハウス
【請求項2】
農業又は園芸用ビニールハウスであって、
天井の一部又は全部が棟方向に傾斜して設けられ、傾斜上方側の妻面の少なくとも上部又は天井に第1換気手段が設けられていることを特徴とする棟方向傾斜ハウス
【請求項3】
傾斜下方側の妻面、屋根又は天井に第2換気手段が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の棟方向傾斜ハウス
【請求項4】
換気手段が、換気量が調整可能な手段であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の棟方向傾斜ハウス
【請求項5】
屋根又は天井の棟方向の傾斜角度が、地面又は床面に対して、2°以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の棟方向傾斜ハウス
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、換気能力が向上した農業又は園芸用ビニールハウス等の建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
農業又は園芸用ビニールハウス・ガラス室等の建築物では、無風で日射の強い日等に換気不良による高温障害が問題になる。特に近年は、異常気象による高温に加え、夏秋期の雨よけ栽培や虫害防除のために、建築物全体を目の細かい網で覆う栽培が増加した要因もあり、高温障害の発生が全国的に大問題となっている。高温障害を避けるため、現在、農業又は園芸用ビニールハウス・ガラス室等における換気能力の向上が強く求められている。
【0003】
換気能力を向上させて建築物内の温度上昇を抑える方法としては、換気扇設置、棟部の天窓、フルオープンハウスなどが提案されている。また、換気の向上を図るための天井構造も提案されている(特許文献1~4参照。)。しかしながら、上記の従来の方法は、建築コストが非常に高くなる。
【0004】
また、簡易な建築物では、妻面や側面に換気口を設けただけのものもあるが、かかる換気口だけでは十分な換気量を確保することができないため、建築物内部の温度上昇が大きな問題になる。
【0005】

【特許文献1】特開2001-320983号公報
【特許文献2】特開2002-209452号公報
【特許文献3】特開2003-322372号公報
【特許文献4】特開2004-222510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、高い換気能力で温度上昇を抑えることができる、簡易かつ安価に建設可能な棟方向傾斜建築物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、屋根又は天井に棟方向の傾斜を設けると共に、傾斜上方側の妻面、屋根又は天井に換気手段を設けるといった極めて簡易な方法で、意外にも建築物内の換気能力を飛躍的に向上させることができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、(1)農業又は園芸用ビニールハウスであって、屋根の一部又は全部が棟方向に傾斜して設けられ、傾斜上方側の妻面の少なくとも上部又は屋根に第1換気手段が設けられていることを特徴とする棟方向傾斜ハウスや、(2)農業又は園芸用ビニールハウスであって、天井の一部又は全部が棟方向に傾斜して設けられ、傾斜上方側の妻面の少なくとも上部又は天井に第1換気手段が設けられていることを特徴とする棟方向傾斜ハウスや、(3)傾斜下方側の妻面、屋根又は天井に第2換気手段が設けられていることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の棟方向傾斜ハウスに関する。
【0009】
また、本発明は、(4)換気手段が、換気量が調整可能な手段であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれかに記載の棟方向傾斜ハウスや、(5)屋根又は天井の棟方向の傾斜角度が、地面又は床面に対して、2°以上であることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれかに記載の棟方向傾斜ハウスに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の棟方向傾斜建築物は、高い換気能力で温度上昇を抑えることができ、例えば、農業又は園芸用ビニールハウス・ガラス室等においては、高温障害の発生を抑制することができる。また、本発明の棟方向傾斜建築物は、簡易かつ安価に建設することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の棟方向傾斜建築物としては、屋根の一部又は全部が棟方向に傾斜して設けられ、傾斜上方側の妻面又は屋根に換気手段が設けられている建築物であれば特に制限されるものではなく、屋根の構造としては、本発明の効果をより有効に発揮することができることから、切妻屋根、アーチ状屋根であることが好ましい。また、本発明の棟方向傾斜建築物は、天井の一部又は全部が棟方向に傾斜して設けられ、傾斜上方側の妻面又は天井に第1換気手段が設けられてもよく、この場合、棟を地面又は床面と平行に設け、天井のみを傾斜させることができる。
【0012】
本発明における建築物としては、農業又は園芸用ビニールハウスを挙げることができる。
【0013】
本発明において、屋根又は天井が棟方向に傾斜しているとは、屋根又は天井が地面又は床面に対して棟方向に傾斜していることを意味する。また、妻面とは、棟の両端に位置する面をいう。屋根又は天井の全部を傾斜させる場合、通常は屋根又は天井全体を一方向に傾斜させるが、例えば、建築物の中央を低くして両側が高くなるように構成することもでき、このような構成とすることにより、建築物の全長が長い場合や高さに制限がある場合であっても、建築物の高さを抑制しつつ所望の傾斜を設けることができる。また、屋根又は天井の一部とは、本発明の効果を奏する範囲で適宜決定することができ、例えば、全体の1/3以上であり、好ましくは1/2以上であり、より好ましくは2/3以上である。
【0014】
本発明の棟方向傾斜建築物は、傾斜地に建てられるものであってもよいが、水平な土地に建てられる場合に、本発明の効果をより発揮することができる。また、本発明の棟方向傾斜建築物は、屋根又は天井が地面又は床面に対して傾斜して設けられているものであるので、傾斜地に設置された、傾斜地に平行な屋根又は天井を備えた建築物は含まれない。なお、本発明の棟方向傾斜建築物を傾斜地に設置する場合には、屋根又は天井の傾斜上方側が傾斜地の上方側となるように設置することが好ましい。
【0015】
本発明の棟方向傾斜建築物によれば、暖まった空気が上昇する性質(浮力)を利用して、暖まった空気を棟方向に沿って上方側に導き、傾斜上方側に設けられた換気手段より、暖まった空気を効果的に排気することができる。また、本発明の棟方向傾斜建築物は、屋根又は天井を棟方向に傾斜させる構造とするだけでよいので、簡易かつ安価に建設することができる。
【0016】
本発明の棟方向傾斜建築物における屋根又は天井の棟方向の傾斜角度としては、建築物の棟方向の長さにもよるので一概には決定できないが、例えば、地面又は床面に対して、2°以上であることが好ましく、5°以上であることがより好ましく、7°以上であることがさらに好ましく、その上限は特に制限されないが30°程度であることが好ましい。上記のような傾斜角度であることにより、暖まった空気を棟方向に沿って上方側により効果的に導くことができる。
【0017】
本発明の棟方向傾斜建築物における傾斜上方側の妻面、屋根又は天井に設けられた第1換気手段としては、開口、開閉可能な開口、開口割合を調整可能な開口、オンオフ式の換気扇、換気量が調整可能な換気扇等を挙げることができ、これらの中でも、開口割合を調整可能な開口、換気量が調整可能な換気扇等の換気量が調整可能な手段であることが、例えば季節や気候に応じて内部の温度を調整できることから好ましい。開口の形状としては、円形、半円形、四角形等を挙げることができる。また、換気扇を設置する場合には、従来のものほど強力なものでなくても十分に換気が可能となる。妻面に設けられる場合、換気手段は、少なくとも上部に設けられていることが好ましい。また、妻面全面を開放状態とする等、妻面全体に設けられてもよい。また、屋根又は天井に設けられる場合、換気手段は、妻面近傍の最上部に設けられることが好ましい。
【0018】
また、本発明の棟方向傾斜建築物においては、傾斜下方側の妻面、屋根又は天井に第2換気手段が設けられていてもよい。かかる第2換気手段は、妻面の上部、中段部、下部に1又は2以上設けられていてもよく、妻面全体に設けられてもよく、少なくとも上部に設けられていることが好ましく、屋根又は天井に設けられる場合は、妻面近傍の最下部に設けられることが好ましい。第2換気手段としては、上記傾斜上方側の妻面に設けられた第1換気手段と同様の換気手段を挙げることができ、換気量が調整可能な手段であることが好ましい。第2換気手段としての換気扇は、外部から空気を導入する外気導入手段として機能するように設置されることが好ましい。外気を導入することにより、暖まった空気を棟方向に沿って傾斜上方側の換気手段により効果的に導くことが可能となる。なお、建築物の側面には、適宜、換気手段を設けることができる。
【0019】
本発明の棟方向傾斜建築物は、内部の温度差が5℃以下であることが好ましく、3℃以下であることがより好ましい。建築物の内部の温度差は、棟の傾斜角度、換気手段の換気量等を適宜調整することにより、小さくすることができる。
【0020】
以下、本発明の棟方向傾斜建築物を図面を参照して説明する。図1に示すように、本発明の一実施形態に係る棟方向傾斜建築物10は、アーチ状屋根の農業又は園芸用のビニールハウスであり、図面上、左側が上方となるように頂部の棟11が傾斜している。また、傾斜上方側の妻面12の上部であって、棟11の延長部には、換気手段の一例である横長の長方形の開口13が設けられており、かかる開口13より建築物10内の暖まった空気を排気することを可能としている。
【0021】
図2に示すように、従来の農業又は園芸用のビニールハウスでは、内部の空気の流れが形成されにくく、空気が滞留して排気されにくい構成となっていたが、図1に示すように、本発明の一実施形態に係る棟方向傾斜建築物10では、暖まった空気が上昇する性質(浮力)を利用して、暖まった空気を、傾斜した棟11に沿って上方側に導き、傾斜上方側の妻面12の上部に設けられた開口13より効果的に排気することができ、建築物10内の換気を極めて効果的に行うことができる。
【0022】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
全長247cm、幅50cmのアーチ状屋根(カマボコ屋根)の実施例に係る棟方向傾斜小型モデルを作製した。地表からの屋根(棟)の高さは、下方側で35cm、上方側で75cmとした。屋根、妻面及び側面は透明樹脂で構成した。妻面及び側面の下部は10cm開放し、傾斜上方側及び傾斜下方側の妻面の上部(最上部から3cm)にはそれぞれ直径10cmの換気口を設けた。
【0024】
比較として、上記実施例に係る棟方向傾斜小型モデルと、屋根(棟)が傾斜していない(屋根が水平である)ことを除いて、同様の構成とした小型モデルを作製した。なお、地表からの棟の高さは、55cmとした。
【0025】
〔評価〕
実施例に係る小型モデル及び比較例に係る小型モデルを用いてモデル内の温度を調査した。温度測定は、モデル内全体に5cm厚の発泡スチロールを敷き、断熱し、棟方向に一定間隔(約50cm)をあけて4箇所、発泡スチロール板表面から高さ23cmの位置で行った。各位置における温度測定は、45分ごとに位置替えを行い、位置替え後10分経過してから、1分間隔で35分間の測定を行い、各位置においてそれぞれ4回行った(35×4=140回)。このような測定を1日2回ずつ5日間行い、その平均値を採用した。なお、温度の調査は、小型モデルを、畑地及びコンクリート上の2箇所に設置することにより行った。
【0026】
小型モデルを畑地に設置した場合の調査結果、及び小型モデルをコンクリート上に設置した場合の調査結果を表1に示す。測定位置は、開口を設けた妻面側から順に測定位置(1)~(4)とした(図3参照。)。表中、実施例及び比較例の差の欄に示される値が「-」となっているものは、実施例に係る小型モデル内の温度が比較例に係る小型モデル内の温度よりも低くなっていることを示し、「+」となっているものは、実施例に係る小型モデル内の温度が比較例に係る小型モデルの温度よりも高くなっていることを示す。
【0027】
【表1】
JP0005182862B2_000002t.gif

【0028】
表1に示すように、全体における実施例及び比較例の差は「-」であり、小型モデル全体でみた場合、実施例に係る小型モデル内の温度が比較例に係る小型モデル内の温度と比べて低くなり、実施例に係る小型モデル内の換気が効果的に行われたことが明らかになっている。なお、傾斜上方側に近い測定位置(1)や(2)においては、実施例に係る小型モデルの方が、比較例に係る小型モデルと比べて高温となっているが、開口をより大きくすること等によりこの問題は解消することができる。
【0029】
[実施例2]
小型モデルに続いて、スケールアップしたハウスを用いて実験を行った。全長10.8m、幅3mのアーチ状屋根(カマボコ屋根)の実施例に係る棟方向傾斜ハウス(1)~(3)を作製した。屋根、妻面及び側面は透明樹脂で構成し、傾斜上方側及び傾斜下方側の妻面の上部(最上部から換気口下端まで80cm)を半月状の開口部として、換気を行った。
【0030】
棟方向傾斜ハウス(1)は、傾斜角度2.8°の緩傾斜ハウスであり、地表からの屋根(棟)の高さは、下方側で1.9m、上方側で2.4mとした。棟方向傾斜ハウス(2)は、傾斜角度5.5°の中傾斜ハウスであり、地表からの屋根(棟)の高さは、下方側で1.9m、上方側で2.9mとした。棟方向傾斜ハウス(3)は、傾斜角度8.2°の急傾斜ハウスであり、地表からの屋根(棟)の高さは、下方側で1.9m、上方側で3.4mとした。
【0031】
比較として、上記実施例に係る棟方向傾斜ハウスと、屋根(棟)が傾斜していない(屋根が水平である)ことを除いて、同様の構成としたハウスを作製した。なお、地表からの棟の高さは、2.4mとした。
【0032】
図4に示すように、上記実施例及び比較例に係るハウスは、露地畑に、それぞれハウスの傾斜上方側を東側に傾斜下方側を西側にし、南北方向に5棟並設した。
【0033】
〔評価〕
平成19年9月20日,21日,23日,24日の4日間、実施例及び比較例に係るハウス内の温度を調査した。温度測定は、各ハウスにおいて3ヵ所(東端(上方側)から120cm、中央、西端(下方側)から120cm)、地上から高さ150cmの位置で行った。各位置において、午前10時から午後1時59分まで、1分ごとに240回測定を行い、測定値を平均した。表2に各調査日における各ハウス内の平均気温を示し、表3に各測定位置における各ハウス内の平均気温を示した。表中、実施例の欄に示される値が「-」となっているものは、実施例に係るハウス内の温度が比較例に係るハウス内の温度よりも低くなっていることを示し、「+」となっているものは、実施例に係るハウス内の温度が比較例に係るハウスの温度よりも高くなっていることを示す。なお、比較例に係るハウスは2棟の気温を平均した。
【0034】
【表2】
JP0005182862B2_000003t.gif

【0035】
【表3】
JP0005182862B2_000004t.gif

【0036】
表2及び表3に示すように、実施例に係るハウス内の温度が比較例に係るハウス内の温度と比べて低くなり、実施例に係るハウス内の換気が効果的に行われたことが明らかになっている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態に係る棟方向傾斜建築物(農業又は園芸用のビニールハウス)を示す斜視図である。
【図2】従来の農業又は園芸用のビニールハウスを示す斜視図である。
【図3】実施例に係る小型モデル(A)及び比較例に係る小型モデル(B)内の温度測定位置を示す図である。
【図4】実施例及び比較例に係るハウスの配置図である。
【符号の説明】
【0038】
10 棟方向傾斜建築物
11 棟
12 妻面
13 開口
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3