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明細書 :植物由来高重合度フルクタン合成スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ遺伝子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5257880号 (P5257880)
公開番号 特開2009-207364 (P2009-207364A)
登録日 平成25年5月2日(2013.5.2)
発行日 平成25年8月7日(2013.8.7)
公開日 平成21年9月17日(2009.9.17)
発明の名称または考案の名称 植物由来高重合度フルクタン合成スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ遺伝子
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   9/10        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12P  19/04        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 9/10
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/00 101
C12P 19/04 Z
A01H 1/00 A
A01H 5/00 A
請求項の数または発明の数 11
全頁数 20
出願番号 特願2008-050760 (P2008-050760)
出願日 平成20年2月29日(2008.2.29)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 http://grass.ac.affrc.go.jp/jsgs2008/E25AM.pdf(2008年度日本草地学会発表会プログラム、平成20年2月21日)に電気通信回線を通じて発表
特許法第30条第1項適用 日本農芸化学会2008年度(平成20年度)大会プログラム集(平成20年2月25日)社団法人日本農芸化学会発行第80ページに発表
審査請求日 平成22年11月2日(2010.11.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】田村 健一
【氏名】吉田 みどり
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
審査官 【審査官】小金井 悟
参考文献・文献 Poa secunda sucrose:fructan 6-fructosyltransferase (6-SFT) mRNA, complete cds,<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AF192394>,2000年12月 2日
New Phytologist,1999年 4月,Vol.142, No.1,pp.79-91
調査した分野 C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)~(e)のいずれかのDNAからなる、スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ遺伝子。
(a) 配列番号1に示される塩基配列上の少なくとも68位~1939位を含む塩基配列からなるDNA
(b) 配列番号1に示される塩基配列上の少なくとも245位~1939位を含む塩基配列からなるDNA
(c) 配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするDNA
(d) 配列番号2に示されるアミノ酸配列上の少なくとも60位~623位を含むアミノ酸配列をコードするDNA
(e) 配列番号2に示されるアミノ酸配列上の少なくとも60位~623位を含むアミノ酸配列において1~5個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項2】
1-ケストースに対するよりも6-ケストースに対してより高い基質特異性を有するスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼをコードする、請求項1に記載の遺伝子。
【請求項3】
以下の(a)~(c)のいずれか1つであるスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼタンパク質。
(a) 配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2に示されるアミノ酸配列上の少なくとも60位~623位を含むアミノ酸配列からなるタンパク質
(c) 配列番号2に示されるアミノ酸配列上の少なくとも60位~623位を含むアミノ酸配列において1~5個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
【請求項4】
1-ケストースに対するよりも6-ケストースに対してより高い基質特異性を有する、請求項3に記載のタンパク質。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の遺伝子を含む組換えベクター。
【請求項6】
請求項1若しくは2に記載の遺伝子又は請求項5記載の組換えベクターが導入された形質転換体。
【請求項7】
形質転換植物である、請求項6に記載の形質転換体。
【請求項8】
請求項6に記載の形質転換体において前記遺伝子を発現させて、産生されたタンパク質を採取することを含む、スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼタンパク質の製造方法。
【請求項9】
請求項3又は4に記載のタンパク質に基質としてスクロースを加えて反応させることを含む、フルクタンを製造する方法。
【請求項10】
基質としてさらにフルクタンを加える、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1若しくは2に記載の遺伝子又は請求項5記載の組換えベクターを導入して植物を形質転換することを含む、植物におけるフルクタン含量を増加させる方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高重合度レバン型フルクタンを合成できるフルクトシルトランスフェラーゼ及びそれをコードする遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
フルクタンは、スクロースに1個以上のフルクトース残基が重合した可溶性多糖であり、イネ科のムギ類や牧草類、キク科のチコリやキクイモ、ユリ科のタマネギやアスパラガスのような植物の重要な貯蔵炭水化物である。フルクタンは近年、バイオマス利用のための炭水化物の新しい貯蔵形態として注目されている。
【0003】
フルクタンは、貯蔵炭水化物としてのみならず、乾燥や低温に対する耐性を付与する物質として重要な機能を果たすと考えられている。さらに牧草においてはフルクタン含量とその飼料品質(嗜好性やサイレージ適性等)に相関が見られることも指摘されている。
【0004】
植物が蓄積するフルクタンは、フルクトースの結合様式から主にイヌリン型、レバン型に分類される。イヌリン型フルクタンは、主にフルクトースのβ-2,1結合による重合体を骨格とするものである。スクロース:スクロース-1-フルクトシルトランスフェラーゼ(1-SST)とフルクタン:フルクタン-1-フルクトシルトランスフェラーゼ(1-FFT)の二種類の酵素の作用により直鎖型イヌリンがスクロースから生合成される。さらに、このイヌリン生合成にフルクタン:フルクタン-6G-β-D-フルクトシルトランスフェラーゼ(6G-FFT)が作用することによりイヌリンネオシリーズフルクタン(イヌリンを構成するグルコース残基の6位の炭素の水酸基にフルクトースまたはβ-2,1結合フルクトース鎖をもつもの)が生合成される。一方、レバン型フルクタンは、主にフルクトースのβ-2,6結合による重合体を骨格とするものである。レバン型フルクタンは、スクロースにβ-2,6結合したフルクトース鎖からなる直鎖型と、スクロースにβ-2,6結合したフルクトース鎖とβ-2,1結合したフルクトース又はフルクトース鎖からなる分岐型がある。植物のレバン型フルクタンはスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ(6-SFT)や1-SSTなどが作用して生合成される。さらにムギ類などに見られるβ-2,6結合とβ-2,1結合を併せ持つ複雑な分岐型フルクタンはグラミナンとよばれ、6-SFTと1-SST、1-FFTが作用して生合成される。またレバン型フルクタン生合成に6G-FFTが作用することにより、レバンネオシリーズフルクタン(スクロースを構成するグルコース残基の6位の炭素の水酸基にβ-2,6結合フルクトース鎖をもつもの)が生合成される。
【0005】
スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ(6-SFT)は、レバン型フルクタン合成酵素とも呼ばれている。植物由来のレバン型フルクタン合成酵素遺伝子としては、コムギ由来6-SFT遺伝子(特許文献1)、オオムギ由来6-SFT遺伝子(非特許文献1)等が単離されている。一方、微生物由来のレバン型フルクタン合成酵素遺伝子は、レバンスクラーゼとも呼ばれ、バチルス属をはじめ数多くの種属から単離同定されている(特許文献2及び3、非特許文献2等)。さらにレバンネオシリーズやレバン型以外のイヌリン型、イヌリンネオシリーズのフルクタンの合成に関わるフルクトシルトランスフェラーゼ遺伝子も、各種生物から単離されている(非特許文献3、特許文献4及び5等)。
【0006】
これらフルクトシルトランスフェラーゼ遺伝子を植物に導入した形質転換体の作製が行われており、これらの形質転換体では耐冷性・耐凍性の向上や可溶性炭水化物含量の増加が確認されている(特許文献6、非特許文献4等)。また微生物由来のレバンスクラーゼ遺伝子の導入によるフルクタン蓄積性の形質転換植物の作製も行われている(特許文献7及び8等)。
【0007】
しかし、微生物由来レバンスクラーゼ遺伝子を導入した形質転換植物では、多くの場合奇形が見られる。その原因として、植物が通常蓄積しているフルクタンの重合度が数十~数百程度であるのに対し、微生物由来レバンスクラーゼによって合成されるフルクタンは重合度が数万にも及ぶため植物細胞が適合できないことが考えられている。また微生物由来レバンスクラーゼは、植物のフルクタン蓄積器官である液胞へ輸送するためのシグナルペプチドが付加された状態で生産されないため、フルクタンが液胞以外の場で非局在的に合成されてしまうことも原因となりうる(非特許文献5)。
【0008】
一方、コムギやオオムギ等の植物由来の既知スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ(6-SFT)遺伝子を導入した形質転換植物では、奇形頻度は低いものの、十数程度の低い重合度のレバン型フルクタンしか合成できない(非特許文献5)。キク科植物においては、数十以上の重合度のイヌリン型フルクタンを合成する1-FFT遺伝子が単離されている(非特許文献6等)。しかしながら1-FFTはフルクタン間でフルクトシル基を転移する酵素であり、単独ではスクロースからフルクタンを合成できず、スクロースから3糖フルクタンを合成できる1-SSTの作用をさらに必要とするため、1-FFT遺伝子は植物に導入してフルクタンを合成させる上では不便な面がある。浸透圧を高めずに多量の炭水化物を形質転換植物内で蓄積させるには、ある程度高い重合度のフルクタンを合成させる必要があるが、高重合度のフルクタンをスクロースのみを基質として当該酵素単独で合成できるフルクトシルトランスフェラーゼをコードする植物由来遺伝子は、これまでのところ報告されていない。
【0009】

【特許文献1】特開2000-350583号公報
【特許文献2】特表平08-500015号公報
【特許文献3】特開平08-047394号公報
【特許文献4】特開2003-274969号公報
【特許文献5】特開2004-222573号公報
【特許文献6】特開2007-00050号公報
【特許文献7】国際公開第89/12386号パンフレット
【特許文献8】特表平09-505467号公報
【非特許文献1】Sprenger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (1995) Vol.92, p.11652-11656
【非特許文献2】Steinmetz et al., Mol. Gen. Genet., (1985) Vol.200, p.220-228
【非特許文献3】Lasseur et al., J. Exp. Bot., (2006) Vol. 57, p.2719-2734
【非特許文献4】Hisano et al., Plant Sci., (2004) Vol.167, p.861-868
【非特許文献5】Cairns, J. Exp. Bot., (2003) Vol.54, p.549-567
【非特許文献6】Van den Ende et al., J. Exp. Bot., (2006) Vol. 57, p.775-789
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高重合度フルクタンをスクロースから合成できるレバン型フルクトシルトランスフェラーゼ及びそれをコードする遺伝子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、既存の植物由来フルクトシルトランスフェラーゼと比べて高重合度のレバン型直鎖フルクタンをスクロースから合成することができるフルクトシルトランスフェラーゼ遺伝子を単離することに成功し、それに基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 以下の(a)~(f)のいずれかのDNAからなる、スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ遺伝子:
(a) 配列番号1に示される塩基配列上の少なくとも68位~1939位を含む塩基配列からなるDNA
(b) 配列番号1に示される塩基配列上の少なくとも245位~1939位を含む塩基配列からなるDNA
(c) 配列番号1に示される塩基配列上の少なくとも245位~1939位を含む塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(d) 配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするDNA
(e) 配列番号2に示されるアミノ酸配列上の少なくとも60位~623位を含むアミノ酸配列をコードするDNA
(f) 配列番号2に示されるアミノ酸配列上の少なくとも60位~623位を含むアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0013】
この遺伝子は、好ましくは、1-ケストースに対するよりも6-ケストースに対してより高い基質特異性を有するスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼをコードする。
【0014】
[2] 以下の(a)~(c)のいずれか1つであるスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼタンパク質:
(a) 配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2に示されるアミノ酸配列上の少なくとも60位~623位を含むアミノ酸配列からなるタンパク質
(c) 配列番号2に示されるアミノ酸配列上の少なくとも60位~623位を含むアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
このタンパク質は、1-ケストースに対するよりも6-ケストースに対してより高い基質特異性を有することが好ましい。
【0015】
[3] 上記[1]の遺伝子を含む組換えベクター。
[4] 上記[1]の遺伝子又は上記[3]の組換えベクターが導入された形質転換体。一実施形態では、この形質転換体は形質転換植物であってよい。
[5] 上記[4]の形質転換体において前記遺伝子を発現させて、産生されたタンパク質を採取することを含む、スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼタンパク質の製造方法。
[6] 上記[2]のタンパク質に基質としてスクロースを加えて反応させることを含む、フルクタンを製造する方法。この方法では、基質としてさらにフルクタンを加えてもよい。
[7] 上記[1]の遺伝子又は上記[3]の組換えベクターを導入して植物を形質転換することを含む、植物におけるフルクタン含量を増加させる方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフルクトシルトランスフェラーゼは単独で、高重合度のレバン型フルクタンをスクロースから合成することができる。本発明のフルクトシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を用いて形質転換体を作製すれば、そのようなフルクトシルトランスフェラーゼを効率よく産生することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.本発明のスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ
一般にスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ(6-SFT)は、スクロースを基質として反応させると、スクロースを分解してグルコースとフルクトースを生成する活性を有するとともに、生成したフルクトースをスクロースにβ-2,1結合又はβ-2,6結合で転移させて1-ケストース又は6-ケストース(3糖フルクタン)を合成し、さらにフルクトースを1-ケストースや6-ケストース等のフルクタンにβ-2,6結合で転移させてより長鎖のレバン型フルクタンを合成する活性を有する。レバン型フルクタンとは、スクロースのフルクトース残基にβ-2,6結合で重合した1個又は2個以上のフルクトース残基を含むフルクタンをいう。本発明においてスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性とは、基質として加えたスクロースから3糖以上のレバン型フルクタンを合成できる活性をいう。
【0018】
従来知られている植物由来6-SFTは、単独でスクロースからフルクタンを合成することはできるものの、3糖フルクタンとして6-ケストースよりも1-ケストースに対し高い親和性を示すため、1-ケストースの外部供給(例えば1-SSTによる)が無い場合には低い重合度のフルクタンしか合成することができない。後述の図2で示すように、コムギ由来6-SFT単独では、スクロースのみを供給した場合、最大で重合度10程度のフルクタンしか合成できない。
【0019】
これに対し本発明に係るスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ(6-SFT)は、典型的にはチモシー(オオアワガエリ)等のアワガエリ(Phleum)属植物から取得可能な、既存の植物由来6-SFTよりも高重合度のフルクタンを合成できるタンパク質である。具体的には、本発明の6-SFTは、スクロースのみを基質とした場合に、最大で重合度30~150程度、典型例では最大で重合度30~100のフルクタンを合成することができることが好ましい。但し、6-SFTが合成するフルクタンの最大重合度は反応時間、基質濃度、酵素濃度によっても変動しうるので、上記重合度は一般的な反応条件範囲での値である。また本発明の6-SFTは、好ましくは、高重合度のフルクタンをより高い割合で合成することができる。好適な態様では、本発明の6-SFTは、スクロースのみを基質として供給した場合に、重合度10以上のフルクタンを、生成されたレバン型フルクタンの好ましくは5%~95%、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、なお好ましくは60%以上、典型的には50~80%の割合で合成することができる。
【0020】
本発明の6-SFTは、スクロースを基質として反応させると、スクロースを分解してグルコースとフルクトースを生成するとともに、フルクトースをスクロースにβ-2,6結合で転移させて、6-ケストースを合成することができる。さらに本発明の6-SFTは、スクロース、及び6-ケストース等のフルクタンを基質として、フルクトースをフルクタンに転移し、より長鎖のフルクタンを合成することができる。
【0021】
本発明の6-SFTは、3糖フルクタンに対しては、1-ケストース(スクロースにフルクトース残基がβ-2,1結合されたもの)に対するよりも6-ケストース(スクロースにフルクトース残基がβ-2,6結合されたもの)に対する基質特異性が非常に高いので、スクロースのみを供給した場合に直鎖型フルクタンを効率よく合成することができる。こうして合成された直鎖型フルクタンは、レバン型直鎖フルクタンである。
【0022】
本発明の6-SFTタンパク質は、典型的には、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質でありうる。このタンパク質は液胞への輸送に働くシグナルペプチドをN末端に含む。本発明の6-SFTタンパク質は、さらに、成熟型タンパク質部分(シグナルペプチドを除いた部分)を少なくとも含むものであってもよい。本発明のスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼは、転写翻訳されて産生されたタンパク質中の切断部位(典型的には配列番号2の60位付近)でシグナルペプチドが切断されることにより、成熟型タンパク質として産生されると考えられる。本発明の6-SFTの成熟型タンパク質部分を含む断片が活性を有することは後述の実施例において確認されている。そのような本発明の成熟型タンパク質部分を含むタンパク質としては、配列番号2に示されるアミノ酸配列上の少なくとも60位~623位を含むアミノ酸配列(これは配列番号2のアミノ酸配列の全体又は一部である)からなるタンパク質が挙げられる。その典型例は、配列番号2に示されるアミノ酸配列上の60位~623位のアミノ酸配列からなるタンパク質である。さらに本発明のタンパク質は、スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性を有する限り、配列番号2に示されるアミノ酸配列上の少なくとも60位~623位を含むアミノ酸配列において1若しくは複数個(好ましくは1~40個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは数個(1~5個))のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。例えば、本発明のタンパク質は、分泌シグナルペプチドや精製用のヒスチジンタグ等を含んでいてもよい。なお本明細書全体において、本発明のタンパク質が、シグナルペプチドや標識ペプチド等を除去したときにスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性を発揮する場合も、本発明のタンパク質が「スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性を有する」範囲に含まれるものとするが、これは当業者には当然認識されることである。シグナルペプチドはシグナルペプチダーゼにより切断することができる。
【0023】
本発明の6-SFTタンパク質は、限定するものではないが、後述の通り、6-SFT遺伝子を用いた組換え発現法により製造することができる。
【0024】
本発明の6-SFTタンパク質が有するスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性は、限定するものではないが、例えば後述の実施例2のような酵素活性測定を行って確認することができる。簡単に説明すると、まず、精製6-SFTタンパク質又はそれを含む粗酵素液を調製し、それを2Mスクロースを含む20mMクエン酸リン酸緩衝液(pH 5.0)と等量ずつ混合し、25℃で96時間インキュベートして反応させる。次いで反応産物を、陰イオン交換クロマトグラフィーとパルスドアンペロメトリ検出法を利用するHPAEC-PAD分析にかける。好適なHPAEC-PAD分析条件の例は以下の通りである。
- 使用機器:イオンクロマトグラフDX500(ダイオネックス社)
- 分離カラム:PA1
- 分離溶液:150mM 水酸化ナトリウム(A液)と150mM 水酸化ナトリウム, 0.5M 酢酸ナトリウム(B液)によるグラジエント溶出
- 流速:毎分1ml
- 分離温度:室温
【0025】
このHPAEC-PAD分析により、反応産物として、3糖以上の連続した重合度のレバン型フルクタンが検出されれば、試験したタンパク質がスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性を有することが確認できる。
【0026】
2.スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子とその取得
本発明の遺伝子は、上述のスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ(6-SFT)タンパク質をコードする遺伝子である。
【0027】
従って本発明の6-SFT遺伝子は、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAでありうる。本発明の6-SFT遺伝子はまた、スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼの成熟型タンパク質部分を少なくとも含むアミノ酸配列をコードする遺伝子であってもよい。そのような本発明の6-SFT遺伝子は、配列番号2に示されるアミノ酸配列上の少なくとも60位~623位を含む成熟タンパク質部分のアミノ酸配列(例えば配列番号2に示されるアミノ酸配列上の60位~623位からなるアミノ酸配列)をコードするDNAであってよい。本発明の6-SFT遺伝子は、配列番号2に示されるアミノ酸配列又はそのアミノ酸配列上の少なくとも60位~623位を含むアミノ酸配列において1若しくは複数個(好ましくは1~40個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは数個(1~5個))のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。その例としては、限定するものではないが、配列番号2に示されるアミノ酸配列上の60位~623位からなるアミノ酸配列のN末端にメチオニンが付加された配列をコードするDNAが挙げられる。
【0028】
本発明の6-SFT遺伝子はまた、後述の実施例でチモシー(Phleum pratense L.)から単離されたスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼをコードする完全長cDNA(配列番号1)のオープンリーディングフレームに相当する配列番号1の68位~1939位の塩基配列からなるDNAであってもよいし、その完全長cDNA(配列番号1)の全体又は一部であって該オープンリーディングフレーム(68位~1939位)を少なくとも含む領域の塩基配列からなるDNAであってもよい。このDNAは植物の液胞への輸送のためのシグナル配列を含む。本発明の6-SFT遺伝子はまた、その完全長cDNA(配列番号1)の全体又は一部であって、スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼの成熟型タンパク質コード領域(配列番号1の245位~1939位)を少なくとも含む塩基配列からなるDNAであってもよい。
【0029】
あるいは本発明の6-SFT遺伝子は、配列番号1に示される塩基配列上の少なくとも245位~1939位を含む塩基配列(これは完全長cDNAの全体又は一部である)に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。ここでストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的な核酸ハイブリッドが形成される条件を指し、これは対象とする核酸の長さ等により多少変動するが、その具体的な例としては、ナトリウム塩濃度が好ましくは50~750mM、より好ましくは300~750mM、反応温度が好ましくは50℃~70℃、より好ましくは55~65℃、ホルムアミド濃度が好ましくは20~50%、より好ましくは35~45%でハイブリダイゼーション反応を行う条件を言う。さらにハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、ナトリウム塩濃度が好ましくは50~600mM、より好ましくは300~600mM、温度が好ましくは55~70℃、より好ましくは60~65℃での条件である場合も、本発明における「ストリンジェントな条件」に含めることができる。このようなDNAの例としては、限定するものではないが、シグナル配列を除去した成熟型タンパク質コード配列のみの塩基配列の5'末端に開始コドン(例えばATG)を付加した配列からなるDNAが挙げられる。
【0030】
あるいは、本発明の6-SFT遺伝子は、配列番号1に示される塩基配列と好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の同一性を示す塩基配列からなり、かつスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。本発明の6-SFT遺伝子はまた、配列番号2に示されるアミノ酸配列と好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。
【0031】
本発明においてDNAには少なくともゲノムDNA、cDNA、修飾塩基を一部に含むDNA等が含まれる。本発明において「遺伝子」は、開始コドン及び終止コドンを含まない塩基配列を有する核酸断片であってもよい。本発明の「遺伝子」は、非翻訳領域(UTR)の配列などを含んでもよい。
【0032】
本発明の遺伝子(スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ遺伝子)は、実施例のようにチモシー(Phleum pratense L.)から単離することができるが、それ以外のアワガエリ属植物から単離してもよい。そのようなアワガエリ属植物としては、Phleum pratense L.の他、例えばPhleum paniculatum Huds.、Phleum alpinum L.、Phleum bertolonii DC.、Phleum subulatum (Savi) Asch. & Graebn.等が挙げられる。さらに本発明の6-SFT遺伝子は、天然のものであってもよいし、天然由来の遺伝子を人工的に改変したものであってもよい。
【0033】
本発明の6-SFT遺伝子は、本発明の6-SFT又は6-SFT遺伝子の配列(例えば、配列番号1の塩基配列又は配列番号2のアミノ酸配列)に基づいて、常法により単離することができる。例えば、チモシー(Phleum pratense L.)又は他のアワガエリ属植物から、常法により調製された全mRNA、全RNAからRT-PCRにより得られたcDNA、cDNAライブラリー等の核酸を鋳型とし、本発明の6-SFT又は6-SFT遺伝子の配列に基づいて設計されるプライマーセットを用いたPCR法によって、本発明の6-SFT遺伝子をDNA増幅断片として取得することができる。得られたDNA増幅断片は、常法により抽出・精製することが好ましい。あるいは、本発明の6-SFT遺伝子(例えば配列番号1の塩基配列からなるDNA)又はその一部を用いてプローブを作製し、それをチモシー(Phleum pratense L.)又は他のアワガエリ属植物から、常法により調製された全mRNA、全RNAからRT-PCRにより得られたcDNA、cDNAライブラリー等の核酸に対してハイブリダイズさせることにより、本発明の6-SFT遺伝子をクローンとして取得することもできる。本発明の6-SFT遺伝子はまた、化学合成法を利用して合成してもよい。
【0034】
また本発明の6-SFT遺伝子は、天然源から得られた遺伝子又は合成した遺伝子を、部位特異的突然変異誘発法等の変異導入法を用いて改変することにより作製してもよい。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。これらの変異導入は、例えば市販の部位特異的突然変異誘発キット(例えばMutan(R)-K、Mutan(R)-Super Express Km、PrimeSTAR(R) Mutagenesis Basal Kit(いずれもTAKARA BIO INC.社製))などを用いて当業者であれば容易に行うことができる。
【0035】
なお、得られた6-SFT遺伝子のDNAについては、塩基配列決定によりその配列を確認することが好ましい。塩基配列決定はマキサム-ギルバートの化学修飾法、ジデオキシヌクレオチド鎖終結法等の公知手法により行うことができるが、通常は自動塩基配列決定装置(例えばABI社製DNAシークエンサー)を用いて行えばよい。
【0036】
3.組換えベクターの作製
上記のようにして単離される本発明の6-SFT遺伝子は、ベクター中にクローニングして組換えベクターを作製することが好ましい。
【0037】
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明の6-SFT遺伝子を連結することにより得ることができる。本発明の6-SFT遺伝子を挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられる。例えばプラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YCp50、pPICZαA等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP、λZAPII等)などが挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターをベクターとして用いることもできる。ベクター中に本発明の6-SFT遺伝子を組み込むには、例えば、6-SFT遺伝子を含むDNA断片を適当な制限酵素で切断し、ベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトにイン・フレームで挿入し連結すればよい。
【0038】
本発明の6-SFT遺伝子を含む組換えベクターは、本発明の遺伝子を宿主細胞内で発現させるためには、組換え発現ベクターとして作製することも好ましい。この組換え発現ベクターを作製するためには、ベクターの中でも発現ベクターを選択して用いればよい。発現ベクターには、プロモーター、ターミネーター、リボソーム結合部位などの宿主生物における発現に必要な各種エレメントが含まれることが好ましい。また発現ベクターにはプロモーターを制御する遺伝子がさらに含まれてもよい。プロモーターは、その発現ベクターを導入すべき宿主細胞中でその制御下の遺伝子の発現を誘導できる任意のものであってよい。例えば酵母細胞中で遺伝子発現させるためのプロモーターとしては、AOX1プロモーター、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等が挙げられる。本発明で使用する発現ベクターには、ベクターが細胞内に保持されていることを示す選択マーカーやベクター内に簡単に正しい向きで遺伝子を挿入するためのポリリンカー、エンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、分泌シグナル配列等の有用な配列が必要に応じて含まれていてもよい。選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0039】
本発明の6-SFT遺伝子を植物に導入して発現させる目的では、本発明の6-SFT遺伝子を、植物用過剰発現プロモーターの下流に連結した状態で組換え発現ベクターに組み込んでもよい。その場合、例えば、6-SFT遺伝子を含むDNA断片を適当な制限酵素で切断してから、それをベクター中の過剰発現プロモーター下流の適当な制限酵素部位にイン・フレームとなるように挿入して連結すればよい。植物に遺伝子導入するためにアグロバクテリウム法を用いる場合には、アグロバクテリウム由来のプラスミドベクター(例えばpBI101やpBI121)若しくはそれをベースとする発現ベクター(例えばpMLH7133)、又はバイナリーベクター(pPZP2H-lac)などのアグロバクテリウム法に適したベクターに本発明の6-SFT遺伝子を組み込むことが好ましい。例えば、アグロバクテリウム法で遺伝子導入を行うのに好適なベクターを作製するために、pMLH7133(Mitsuhara et al., 1996)中のCaMV 35Sプロモーターの制御下にあるGUS遺伝子を本発明の6-SFT遺伝子で置換することにより本発明の6-SFT遺伝子を過剰発現(高発現)プロモーターであるCaMV 35Sプロモーターの制御下に置いてもよい。
【0040】
本発明の6-SFT遺伝子を大腸菌、酵母細胞などの植物細胞以外の細胞中で発現させて組換えタンパク質を製造する場合は、6-SFT遺伝子の成熟型タンパク質部分コード配列を含むDNAを調製し、それを発現ベクター中に挿入してもよい。
【0041】
本発明の6-SFT遺伝子はまた、相同組換え法により宿主生物のゲノムに直接導入するためのターゲティングベクターの形態として作製してもよい。このために使用可能なベクターとしては、例えばCre-loxP等の公知のジーンターゲティング用ベクターが挙げられる。本明細書においては、本発明の遺伝子を組み込んだこれらのターゲティングベクターも、本発明の組換えベクターに包含されるものとする。
【0042】
4.形質転換体の作製
本発明では、本発明の6-SFT遺伝子を宿主に導入することにより形質転換体(形質転換細胞、形質転換植物など)を作製することができる。具体的には、例えば、本発明の6-SFT遺伝子を宿主細胞に導入することにより形質転換細胞を作製することができる。宿主細胞には、大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、植物細胞等、いずれを使用してもよい。本発明においては、例えば本発明の6-SFTを生産する目的では、特に酵母細胞(メタノール資化性酵母(Pichia pastoris)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)等)を宿主細胞として使用することがより好ましい。一方、形質転換植物を作製するためには、本発明の6-SFT遺伝子を植物細胞に導入する必要がある。
【0043】
本発明の6-SFT遺伝子を宿主細胞に導入するには、一般的に行われている形質転換法、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクルガン法、ポリエチレングリコール(PEG)法、アグロバクテリウム法、プロトプラスト融合法等を用いることができる。こうして作製した形質転換体の選択は、常法に従って行うことができるが、通常は使用した組換えベクターに組み込まれた選択マーカー又はリポータータンパク質を利用して行うことができる。
【0044】
本発明では、得られた形質転換体において、導入された本発明の6-SFT遺伝子を発現させることにより、スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼタンパク質を製造することができる。限定するものではないが、導入した6-SFT遺伝子を発現させる際は、通常は、形質転換体である細胞(形質転換細胞)を培養することが好ましい。形質転換細胞の培養は、宿主生物の培養に用いられる通常の方法に従って行えばよい。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物を宿主細胞として得られた形質転換細胞を、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有する培地中に接種して培養すればよい。培地は、形質転換細胞の培養を効率的に行える培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。培地には、必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を添加してもよい。
【0045】
誘導性プロモーターを含む発現ベクターで形質転換した宿主細胞を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加する。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した宿主細胞を培養するときにはイソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した宿主細胞を培養するときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加することができる。AOXプロモーターの制御下に本発明の6-SFT遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した酵母細胞においてはメタノール存在下で遺伝子発現を誘導することができる。培養条件は特に限定されないが、好ましくは形質転換に用いる宿主細胞に適した条件下で行われる。
【0046】
培養後、発現されたスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼタンパク質が細胞内に蓄積される場合にはその細胞を破砕して該タンパク質を採取することが好ましい。一方、そのタンパク質が細胞外に分泌される場合には、培養物から該タンパク質を直接採取してもよいし、培養物から遠心分離等により細胞を除去することにより培養上清として該タンパク質を採取してもよい。本発明は、このような形質転換細胞等の形質転換体を用いたスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼタンパク質の製造方法にも関する。
【0047】
本発明では、形質転換を行う代わりに、無細胞翻訳系を使用して本発明の6-SFTを製造することもできる。「無細胞翻訳系」とは、大腸菌や酵母細胞等の宿主生物の細胞構造を機械的に破壊して得た懸濁液に、翻訳に必要なアミノ酸などの試薬を加え、試験管中などのin vitro転写翻訳系又はin vitro翻訳系を構成したものである。無細胞翻訳系としては、有利に使用可能なキットが各種市販されている。
【0048】
産生されたスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼタンパク質は、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより単離精製することができる。しかしながら、場合により、遠心分離や限外濾過型フィルター等を用いて採取又は濃縮した培養上清や溶菌液上清、あるいはそれらの上清をさらに硫安分画後に透析にかけるなどして得た溶液を、粗酵素液としてそのまま使用してもよい。
【0049】
本発明では、本発明の6-SFT遺伝子を植物に導入することにより形質転換植物を作製することもできる。
【0050】
本発明の6-SFT遺伝子を導入する植物としては、特に限定されないが、例えば、イネ科[イネ(Oryza sativa)、コムギ(Triticum aestivum L.)、オオムギ(Hordeum vulgare L.)、ペレニアルライグラス(Lolium perenne L.)、イタリアンライグラス(Lolium multiflorum Lam.)、メドウフェスク(Festuca pratensis Huds.)、トールフェスク(Festuca arundinacea Schreb.)、オーチャードグラス(Dactylis glomerata L.)、チモシー(Phleum pratense L.)等]、ナス科[ナス(Solanum melongena L.)、トマト(Lycopersicon esculentum Mill)、ピーマン(Capsicum annuum L. var. angulosum Mill.)、トウガラシ(Capsicum annuum L.)、タバコ(Nicotiana tabacum L.)等]、アブラナ科[シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、アブラナ(Brassica campestris L.)、ハクサイ(Brassica pekinensis Rupr.)、キャベツ(Brassica oleracea L. var. capitata L.)、ダイコン(Raphanus sativus L.)、ナタネ(Brassica campestris L., B. napus L.)等]、マメ科[ダイズ(Glycine max)、アズキ(Vigna angularis Willd.)、インゲン(Phaseolus vulgaris L.)、ソラマメ(Vicia faba L.)等]、ウリ科[キュウリ(Cucumis sativus L.)、メロン(Cucumis melo L.)、スイカ(Citrullus vulgaris Schrad.)、カボチャ(C. moschata Duch., C. maxima Duch.)等]、ヒルガオ科[サツマイモ(Ipomoea batatas)等]、ユリ科[ネギ(Allium fistulosum L.)、タマネギ(Allium cepa L.)、ニラ(Allium tuberosum Rottl.)、ニンニク(Allium sativum L.)、アスパラガス(Asparagus officinalis L.)等]、シソ科[シソ(Perilla frutescens Britt. var. crispa)等]、キク科[キク(Chrysanthemum morifolium)、シュンギク(Chrysanthemum coronarium L.)、レタス(Lactuca sativa L. var. capitata L.)等]、バラ科[バラ(Rose hybrida Hort.)、イチゴ(Fragaria x ananassa Duch.)等]、ミカン科[ミカン(Citras unshiu)、サンショウ(Zanthoxylum piperitum DC.)等]、フトモモ科[ユーカリ(Eucalyptus globulus Labill)等]、ヤナギ科[ポプラ(Populas nigra L. var. italica Koehne)等]、アカザ科[ホウレンソウ(Spinacia oleracea L.)、テンサイ(Beta vulgaris L.)等]、リンドウ科[リンドウ(Gentiana scabra Bunge var. buergeri Maxim.)等]、ナデシコ科[カーネーション(Dianthus caryophyllus L.)等]の植物が挙げられる。
【0051】
本発明の6-SFT遺伝子を植物に導入する方法としては、植物の形質転換に一般的に用いられる方法、例えばアグロバクテリウム法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール(PEG)法、マイクロインジェクション法、プロトプラスト融合法などを用いることができる。これらの植物形質転換法の詳細は、『島本功、岡田清孝 監修 「新版 モデル植物の実験プロトコール 遺伝学的手法からゲノム解析まで」(2001) 秀潤社』などの一般的な教科書の記載や、Hiei Y. et al., "Efficient transformation of rice (Oryza sativa L.) mediated by Agrobacterium and sequence analysis of the boundaries of the T-DNA." Plant J. (1994) 6, 271-282; Hayashimoto, A. et al., "A polyethylene glycol-mediated protoplast transformation system for production of fertile transgenic rice plants." Plant Physiol. (1990) 93, 857-863等の文献を参照すればよい。
【0052】
アグロバクテリウム法を用いる場合は、アグロバクテリウム法に適したベクターに本発明の6-SFT遺伝子を組み込んだ組換え発現ベクターを、適当なアグロバクテリウム、例えばアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)に導入し、この菌株を植物細胞又はカルスに接種して感染させることにより、形質転換細胞を含むカルスを得ることができる。
【0053】
パーティクルガン法やエレクトロポレーション法では、導入する6-SFT遺伝子をプロモーター制御下に含む直鎖状のDNA断片をそのまま用いてもよいし、6-SFT遺伝子を組み込んだ発現ベクターを用いてもよい。遺伝子導入対象の試料としては、植物の切片を使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい(Christou P, et al., Biotechnology 9: 957 (1991))。例えばパーティクルガン法では、遺伝子導入装置(例えばPDS-1000(BIO-RAD社)等)を製造業者の説明書に従って使用して、6-SFT遺伝子をまぶした金属粒子をこのような試料に打ち込むことにより、その遺伝子を植物細胞内に導入し、形質転換植物細胞を得ることができる。操作条件は、通常は450~2000psi程度の圧力、4~12cm程度の距離で行う。
【0054】
次いで、本発明の6-SFT遺伝子を導入した形質転換植物細胞を、例えば従来知られている植物組織培養法に従って選択培地で培養し、生存したカルスを再分化培地(適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライド等)を含む)で培養することにより、本発明の6-SFT遺伝子により形質転換された植物体を再生することができる。
【0055】
本発明の6-SFT遺伝子が植物中に確実に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、ウェスタンブロット法等を利用して行うことができる。例えば、形質転換植物の葉から全RNAを調製し、そのRNA又はそこから合成したcDNAについて、本発明の6-SFT遺伝子に特異的なプライマーを用いてPCR増幅を行えばよい。その増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、本発明の6-SFT遺伝子の導入を確認することができる。マイクロプレート等の固相にPCR増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等により増幅産物を確認することもできる。予め蛍光色素等により標識した本発明の6-SFT遺伝子に特異的なプローブを用いて、形質転換植物由来の全RNA又はそれから合成したcDNAに対してノーザンブロッティングにより検出を行ってもよい。作製した形質転換植物について、導入した6-SFT遺伝子が発現されていることを確認することも好ましい。例えば、播種後10日間程生育させた形質転換植物から組織を切り取り、その組織から常法によって抽出した可溶性糖類について、HPLC法により分析することによって植物体内でフルクタンが蓄積されていることを確認することもできる。
【0056】
以上のようにして得られる本発明の6-SFT遺伝子を導入した形質転換植物は、6-SFTを発現することができ、その結果、植物細胞内でフルクタンを合成し、さらに好ましくはそれを植物体内に蓄積することができる。本発明の6-SFT遺伝子を導入した形質転換植物は、特に、高重合度なレバン型フルクタンを合成することができる。このような形質転換植物からは、合成され蓄積されたフルクタンを抽出して用いることもできる。本発明の形質転換植物は、高可溶性炭水化物であるフルクタンを多く含むため高品質の飼料としても利用可能である。また本発明の形質転換植物は、フルクタンの蓄積により付与される耐冷性等の各種の環境ストレス耐性を発揮することができる。従って本発明は、本発明の6-SFT遺伝子を植物に導入し形質転換させることによりその植物におけるフルクタン含量を増加させる方法、及びそれにより植物に環境ストレス耐性を付与する方法も提供する。
【0057】
5.本発明の6-SFTタンパク質を用いたフルクタンの製造
本発明の6-SFTタンパク質のスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性を利用して、高重合度フルクタンを製造することができる。
【0058】
具体的には、本発明の6-SFTタンパク質を含む溶液にスクロースを基質として添加して、酵素反応させればよい。好ましくは、本発明の6-SFTタンパク質溶液とスクロースを含む緩衝液の混合液を、20℃~40℃(好ましくは25~30℃)でインキュベートすればよい。反応時間は、少なくとも30分以上、好ましくは3時間~144時間、より好ましくは12時間~100時間が好ましい。本発明の6-SFTはフルクタンにフルクトース残基を転移することから、本発明の6-SFTタンパク質を含む溶液にスクロースだけでなくさらにフルクタンを添加して、酵素反応させることにより、添加したフルクタンからより長鎖のフルクタンを合成することもできる。添加するフルクタンとしては、6-ケストース等のβ-2,6結合フルクトース残基を有するフルクタンが好ましい。
【0059】
反応後の溶液には、残存スクロース、スクロースの分解物であるグルコース及びフルクトースの他、反応産物として各重合度のフルクタンが含まれる。基質としてスクロースのみを添加した場合に本発明の6-SFTによって合成されるレバン型フルクタンの最大重合度は、およそ30~150、典型例では30~100である。またその場合、生成レバン型フルクタンのうちかなりの割合が比較的高重合度となる。一般的には、合成されるレバン型フルクタンの好ましくは5%~95%、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、なお好ましくは60%以上、典型的には50~80%が重合度10以上となることが好適である。なお本発明において「最大重合度」とは、生成フルクタン中で検出可能なフルクタンの最も高い重合度を意味する。また本発明において「フルクタン」とはスクロースにフルクトース残基(フルクトシル基)が1個又はそれ以上重合したものをいい、フルクタンの重合度とは、当該フルクタンを構成する単糖の合計数をいう。例えば、6,6-ケストースの重合度は4である。
【0060】
生成されたフルクタンの反応液からの分離は、フルクタンに適用可能な慣用の抽出・精製法を用いて行えばよく、例えばカチオンイオン交換樹脂を用いた分画法やガスクロマトグラフィー精製法を用いて行うことができる。フルクタン分離法の詳細については、例えば特開2000-232878号公報を参照するとができる。生成フルクタンの抽出や分離は、他の公知の方法によって行うこともできる。
【0061】
本発明において用いるmRNAの調製、cDNAの作製(RT-PCR)、PCR、ライブラリーの作製、ベクター中へのライゲーション、細胞の形質転換、DNA塩基配列決定、プライマーの合成、突然変異誘発、タンパク質の抽出などの分子生物学的・生化学的実験操作は、基本的には通常の実験書の記載に従って行うことができる。そのような実験書としては、例えば、SambrookらのMolecular Cloning, A laboratory manual, 2001, Eds., Sambrook, J. & Russell, DW. Cold Spring Harbor Laboratory Pressを挙げることができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ遺伝子の単離
1)低温条件下のチモシーに由来するcDNAライブラリーの作製
札幌市の自然条件下で圃場において栽培したイネ科牧草のチモシー(Phleum pratense L.)の品種「ホクシュウ」のクラウン部分をハードニングがかかっていると考えられる11月15日にサンプリングし、常法に従って全RNAを抽出した(例えば、Sambrookら, 1989,「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, USAを参照されたい)。この全RNAより、mRNAをOligotexTM-dT30 <Super>(TAKARA社製)を用いて単離した。得られたmRNA 5μgを鋳型として用いて、cDNA合成キット(STRATAGENE社製)を利用してRT-PCRを行い、cDNAを合成した。具体的方法は、cDNA合成キット添付のマニュアルに従った。
【0063】
上記のようにして得られたcDNAの両末端に、アダプターを接続後、λZAP Expression vector(STRATAGENE 社製)に組み込み、約7×106 pfuのcDNAライブラリーを作製した。
【0064】
2)スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼをコードするcDNAの単離
まず既知のフルクトシルトランスフェラーゼの保存配列に基づいてプライマーを設計し、上記のcDNAライブラリーをテンプレートとしてPCRを行った。その結果、プライマー(5'- GAGATGCTGCAGTGGCAGCG -3'(配列番号4)、5'- CCNARYGMGTAGTAGTCGTG -3'(配列番号5))を用いてPCRを行ったところ、フルクトシルトランスフェラーゼと推測されるcDNA部分断片(配列番号3)を得ることができた。このcDNA部分断片は725bpからなり、BLAST検索の結果、ドクムギ(Lolium temulentum)の推定6-フルクトシルトランスフェラーゼmRNAの配列(Gallagher et al. J. Exp. Bot. 55: 557-569 (2004))に対して最も高い塩基配列相同性(83%の同一性)を示した。
【0065】
このcDNA部分断片を、DIG DNA Labeling Kit(ロッシュ・ダイアグノティックス社製)を用いてDIGで標識してプローブとして調製した。次いで、上記でcDNAライブラリーのうちおよそ11.2万プラークを、ナイロンフィルター上に常法によりブロットしたものを用意した。これに対して、調製したプローブを用いてプラークハイブリダイゼーションを行い、フルクトシルトランスフェラーゼ遺伝子のcDNAクローンをスクリーニングした。
【0066】
ハイブリダイゼーション反応は、DIG Easy Hyb(ロッシュ・ダイアグノティックス社製)を用い、42℃で一晩かけて行った。洗浄およびブロッキングはDIG Wash and Block Buffer Set(ロッシュ・ダイアグノティックス社製)を用い付属マニュアルの条件に従って行った。検出はDIG Luminescent Detection Kit(ロッシュ・ダイアグノティックス社製)を用い、反応液に抗DIG-アルカリフォスファターゼ及び化学発光基質CSPDを加えた後、X線フィルムに曝露し、オートラジオグラフを取得した。そのオートラジオグラフからはDIG標識プローブとの結合によって蛍光シグナルを放つ陽性クローンの存在が認められた。得られた陽性クローンについて二次スクリーニングにより単一クローン化したのちin vivo excision法によりプラスミドとして大腸菌に保持させた。得られた約60個の陽性クローンについて、CEQ DTCS quick start kit(ベックマン・コールタール社製)を用いて、ベックマン・コールタール社製DNAシーケンサーによりプラスミド中のcDNA挿入断片の塩基配列を決定した。その結果、配列番号1に示される塩基配列(2186塩基)を有するcDNA挿入断片を含むクローンが、陽性クローン中に存在することが見出された。
【0067】
配列解析により、配列番号1に示される塩基配列を有するcDNAは、その塩基配列の68番目(68位)~1939番目(1939位)の配列(1,872塩基対;なお1937位~1939位は終止コドン)に、623アミノ酸からなるタンパク質(配列番号2)をコードすると考えられた(図1)。このタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)は、BLAST検索の結果、コムギ由来のスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ遺伝子の推定アミノ酸配列との間で68%のアミノ酸配列相同性を有していた。したがって、配列番号1の塩基配列を有するcDNAは、チモシー由来の1つのフルクトシルトランスフェラーゼ遺伝子の全長を含むものと考えられた。
【0068】
〔実施例2〕酵母による組換えタンパク発現系を利用した、スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性の確認
実施例1で取得したチモシー由来遺伝子について、以下のようにして活性確認を行って、その遺伝子がスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子であることを確認した。
1)酵母形質転換体の作製
実施例1で示したcDNAクローンの成熟型タンパク質コード領域と予想される領域(配列番号1の245位~1939位の塩基配列;配列番号2のアミノ酸配列の60位~623位の配列をコードする)を、上記クローンを鋳型としてPCRにより増幅し、酵母用発現ベクターpPICZαA(Invitrogen社製、Easy Select Pichia Expression Kit)のマルチクローニングサイト内に組み込み、組換え発現ベクターを作製した。このようにして作製した組換え発現ベクターを、エレクトロポレーション法によりメタノール資化性酵母(Pichia pastoris)中に導入した。
【0069】
この発現ベクターpPICZαAは、AOX1プロモーター配列、及びαファクターと呼ばれる分泌因子配列を含んでいる。AOX1プロモーター配列は、酵母用液体培地中のメタノールに特異的に反応して当該ベクターにクローニングされた遺伝子の発現を誘導する働きをする配列であり、分泌因子配列は、クローニングされた遺伝子と融合して発現されることによって、酵母内で産生されたそのような組換えタンパク質が酵母外つまり培地中に分泌されるようにする働きをする配列である。メタノール資化性酵母(Pichia pastoris)は、メタノールを炭素源として利用できる酵母であるため、上記組換え発現ベクターの導入により形質転換されたメタノール資化性酵母をメタノールを炭素源として含む培地で液体培養すれば、該酵母内で組換え発現ベクター中の遺伝子が発現され、さらに発現された組換えタンパク質が該酵母から培地中に分泌されることになる。
【0070】
2)酵母形質転換体におけるチモシー由来導入遺伝子の発現及び得られた組換えタンパク質のフルクタン合成活性の確認
上記のようにして組換え発現ベクターにより形質転換したメタノール資化性酵母を、前培養として3ml BMGY培地(1% 酵母エキス、2% ペプトン、1.34% YNB(yeast nitrogen base;酵母窒素源基礎培地)、100mM リン酸カリウム(pH6.0)、0.00004% ビオチン、1% グリセロール)中で150rpmで振とうしながら30℃で2日間培養した。次に本培養として、前培養液から遠心分離により得られた菌体を20ml BMMY培地(1% 酵母エキス、2% ペプトン、1.34% YNB(yeast nitrogen base;酵母窒素源基礎培地)、100mM リン酸カリウム(pH6.0)、0.00004% ビオチン、0.5% メタノール)中に移し、250rpmにて振とうしながら30℃で7日間培養した。培養中は毎日400μl メタノールを追加した。
【0071】
得られた培養物の培地中には導入遺伝子から発現された組換えタンパク質が分泌されていると考えられる。そこで次に、培養物中のフルクタン合成酵素活性を確認した。まず培養物を4℃にて9000rpm、10分間遠心分離することにより培養上清を分離し、これを限外濾過型フィルターに通して約60倍に濃縮し、この濃縮液を粗酵素液とした。
【0072】
フルクタン合成活性の確認と生成フルクタン組成の分析を行うため、この粗酵素液と、2Mスクロースを含む20mMクエン酸リン酸緩衝液(pH 5.0)とを等量ずつ混合し、25℃で96時間インキュベートして反応させた。比較のため、既知のコムギ由来スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ(コムギ6-SFT;特許文献1及び6を参照)を同様にして調製し、酵素反応させた。
【0073】
次いで反応産物を、陰イオン交換クロマトグラフィーとパルスドアンペロメトリ検出法を利用するHPAEC-PAD分析にかけた。
<HPAEC-PAD分析条件>
- 使用機器:イオンクロマトグラフDX500(ダイオネックス社)
- 分離カラム:PA1
- 分離溶液:150mM 水酸化ナトリウム(A液)と150mM 水酸化ナトリウム, 0.5M 酢酸ナトリウム(B液)によるグラジエント溶出
- 流速:毎分1ml
- 分離温度:室温
【0074】
以上のHPAEC-PAD分析の結果を図2に示す。チモシー由来の粗酵素液とコムギ由来の粗酵素液のいずれについても、スクロースを加えて0時間(反応開始時)の反応液中にはフルクタンの存在は認められなかった。しかしチモシー由来の粗酵素液をスクロースと96時間反応させた反応液中には、反応産物として、連続した重合度のレバン型フルクタンが含まれていた。従ってこの粗酵素液に分泌されたチモシー由来の組換えタンパク質は、スクロースを基質としてフルクトシル基をレバン型フルクタンへ転移するスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ活性を有するものであることが示された。
【0075】
一方、コムギ由来のスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼの粗酵素液をスクロースと96時間反応させた反応液中にも、反応産物として、連続した重合度のレバン型フルクタンが同様に含まれていた。
【0076】
しかし、図2に示される通り、コムギ由来の6-SFTは最大で10以下の重合度のフルクタンしか合成せず、しかもそのほとんどが重合度6以下であったのに対し、チモシー由来の組換えタンパク質は30を上回る重合度(最大重合度40程度)までのフルクタンを合成できただけでなく、HPAEC-PAD分析におけるピーク面積比で重合度10以上のものが生成レバン型フルクタンの約60%を占めていた。
【0077】
これにより、上記実施例で単離したチモシー由来遺伝子が、スクロースを基質として、高重合度のレバン型直鎖フルクタンを合成できるスクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼをコードすることが示された。
【0078】
3)チモシー由来 6-SFT組換えタンパク質の基質特異性の評価
チモシー由来6-SFTの基質特異性を調べるため、25mM スクロースと100mM 1-ケストース、又は25mM スクロースと100mM 6-ケストースを混合して含む20mM クエン酸リン酸緩衝液(pH 5.0)に、上記で得たチモシー由来粗酵素液を総液量の1/10量混合して、25℃で3時間インキュベートして反応させた。比較のため、既知のコムギ由来スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼを同様に調製し、酵素反応させた。これらの反応産物を、上記と同様の条件で、陰イオン交換クロマトグラフィーとパルスドアンペロメトリ検出法を利用するHPAEC-PAD分析にかけた。
【0079】
その結果を図3に示す。図3に示される通り、チモシー由来の組換えタンパク質(チモシー由来6-SFT)は、基質として25mM スクロースと100mM 1-ケストースを加えた場合には、フルクトシルトランスフェラーゼ活性をほとんど示さなかったが、基質として25mM スクロースと100mM 6-ケストースを加えた場合は、フルクトシルトランスフェラーゼ活性を示し、反応産物として6,6-ケストース(スクロースにフルクトシル基2個がβ-2,6結合したもの)を生成した。
【0080】
これに対し、コムギ由来6-SFTは、チモシー由来6-SFTとは逆に、基質として25mM スクロースと100mM 1-ケストースを加えた場合にフルクトシルトランスフェラーゼ活性を示し、反応産物としてビフルコース(1-ケストースにフルクトシル基1個がβ-2,6結合したもの)を生成したが、基質として25mM スクロースと100mM 6-ケストースを加えた場合には、フルクトシルトランスフェラーゼ活性をほぼ示さなかった。
【0081】
このことから、チモシー由来6-SFTは、フルクトシル基の主たるアクセプターとして1-ケストースではなく6-ケストースを用いる点で、コムギ由来6-SFTとは異なる基質特異性を示す酵素であることが明らかとなった。
【0082】
既存のコムギ由来6-SFTは、6-ケストースよりも1-ケストースに対して非常に高い基質特異性を示すため、β-2,1結合とβ-2,6結合のフルクトシル基を有する分岐型フルクタンを合成する。しかし本発明のチモシー由来6-SFTは、1-ケストースよりも6-ケストースに対して非常に高い基質特異性を有するため、チモシー由来6-SFT単独でもスクロースから直鎖型のレバン型フルクタンを合成できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のフルクトシルトランスフェラーゼ及びその遺伝子は、既存の植物由来フルクトシルトランスフェラーゼで合成されるものと比べてより高重合度のレバン型フルクタンを合成するために用いることができる。また本発明のフルクトシルトランスフェラーゼ遺伝子は、フルクタンの供給源として用いるためのフルクタン蓄積性形質転換植物の作製や、植物への耐冷性付与等にも用いることができる。本発明のフルクトシルトランスフェラーゼ遺伝子を導入した形質転換植物は、高可溶性炭水化物を蓄積したバイオマス植物、環境ストレス耐性植物、高飼料品質の飼料作物としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、チモシー由来スクロース:フルクタン-6-フルクトシルトランスフェラーゼ遺伝子とそれにコードされる該酵素のアミノ酸配列を示す図である。
【図2】図2は、組換え酵素を用いて、チモシー由来6-SFT及びコムギ由来6-SFTによる生成フルクタン組成を調べたHPAEC-PADクロマトグラフを示す図である。A、BはO時間(反応開始時)、C、Dは96時間、2Mスクロースを基質として25℃で反応させた反応液の結果を示す。A、Cはチモシー由来6-SFT、B、Dはコムギ由来6-SFTの結果を示す。
【図3】図3は、組換え酵素を用いて、チモシー由来6-SFT及びコムギ由来6-SFTの基質特異性を調べたHPAEC-PADクロマトグラフを示す図である。最上段のA、Bは基質のみを含む反応液(対照サンプル)、中段のC、Dはチモシー由来6-SFT、下段のE、Fはコムギ由来6-SFTの結果を示す。左側のA、C、Eは25mM スクロースと100mM 1-ケストースを基質として、右側のB、D、Fは25mM スクロースと100mM 6-ケストースを基質として25℃で3時間反応させた反応液の結果を示す。

【配列表フリ-テキスト】
【0085】
配列番号4及び5はプライマーである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2