TOP > 国内特許検索 > トリグリセリド生産性酵母 > 明細書

明細書 :トリグリセリド生産性酵母

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5366114号 (P5366114)
公開番号 特開2009-225770 (P2009-225770A)
登録日 平成25年9月20日(2013.9.20)
発行日 平成25年12月11日(2013.12.11)
公開日 平成21年10月8日(2009.10.8)
発明の名称または考案の名称 トリグリセリド生産性酵母
国際特許分類 C12N   1/16        (2006.01)
C12P   7/64        (2006.01)
A23L   1/28        (2006.01)
A23K   1/16        (2006.01)
C12R   1/645       (2006.01)
FI C12N 1/16 G
C12P 7/64
A23L 1/28 Z
A23K 1/16 304B
C12N 1/16 G
C12R 1:645
請求項の数または発明の数 6
微生物の受託番号 NPMD NITE P-525
全頁数 10
出願番号 特願2008-078471 (P2008-078471)
出願日 平成20年3月25日(2008.3.25)
審査請求日 平成22年11月5日(2010.11.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】▲高▼桑 直也
個別代理人の代理人 【識別番号】110001508、【氏名又は名称】特許業務法人 津国
【識別番号】100078662、【弁理士】、【氏名又は名称】津国 肇
【識別番号】100131808、【弁理士】、【氏名又は名称】柳橋 泰雄
【識別番号】100119079、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 佐保子
【識別番号】100135873、【弁理士】、【氏名又は名称】小澤 圭子
【識別番号】100116528、【弁理士】、【氏名又は名称】三宅 俊男
【識別番号】100141357、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 音哉
審査官 【審査官】小金井 悟
参考文献・文献 特開平05-168491(JP,A)
Biodegradation,2007年10月,Vol.18, No.5,pp.559-566
調査した分野 C12N 1/00- 7/08
C12P 1/00-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
トリグリセリドを乾燥重量当たり5mg/g以上含む、クリヴェロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)TYC-269株(受領番号:NITE AP-525)
【請求項2】
ビート廃糖蜜を含む培養液中で、請求項に記載のクリヴェロミセス・ラクチスを培養することを含む、トリグリセリドの生産方法。
【請求項3】
培養液が、糖換算で1~2%に相当するビート廃糖蜜を含む、請求項記載のトリグリ
セリドの生産方法。
【請求項4】
培養液が、さらに大豆由来タンパク分解物を含む、請求項に記載のトリグリセリドの生産方法。
【請求項5】
培養液が、さらに酢酸アンモニウムを含む、請求項に記載のトリグリセリドの生産方法。
【請求項6】
培養液の初期pHが7.0である、請求項に記載のトリグリセリドの生産方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、トリグリセリドを生産する酵母、この酵母を使用するトリグリセリドの製造方法、及びこの方法によって製造されたトリグリセリドに関する。
【背景技術】
【0002】
地球規模の異常気象によって大豆などの油糧作物が不足した場合、トリグリセリドの代替製造法として、微生物とくに酵母による生産を実用化する試みが古くから取り組まれている。酵母の中にはトリグリセリドを含む脂質成分を高濃度蓄積する菌種がある。これらは脂質生産性酵母と呼ばれおり、代表的な酵母種としては、ロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)などが挙げられる。第一次、第二次世界大戦時のドイツでは、食糧不足を補う手段として、脂質生産性酵母をトリグリセリドの資源として利用しようという試みがなされた(Prog. Ind. Microbiol., vol.1, p.181(1959))。しかし、時代背景上、装置、運転費および炭素源の価格などがコスト高であったため、実用化までは至らなかった。その後、アメリカ、ヨーロッパおよび日本などでも脂質生産性酵母を栄養価の高い食糧や家畜飼料として利用する目的で、種々の菌の分離や育成が行われ、主に亜硫酸パルプを培養原料に工業的規模で製造された。しかしながら、菌体中に亜硫酸パルプ由来の発ガン性物質3,4-ベンツピレンが含まれることがわかってからは生産が中止された(「応用微生物学」培風館、1996、p.140)。現在でも、脂質生産性酵母がトリグリセリドの原料としての可能性を保ちつつ種々検討されている状況であるが、いずれも経済的理由から実用化されないで今日に至っている。
【0003】
酵母ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)や糸状菌モルティエレラ・アルピーナ(Mortierella alpina)による多価不飽和脂肪酸含有型のトリグリセリドの生産に関する方法が知られており(特許文献1および2)、これらの菌の好ましい培養炭素源はグルコースである。また、パン酵母およびビール酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)からの油脂の抽出方法(特許文献3)が知られている。

【特許文献1】国際公開WO2004/101757号パンフレット
【特許文献2】特開2007-319161号公報
【特許文献3】特開平5-30981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酵母によるトリグリセリド生産を実用化するにあたっての最大の課題は、従来の大豆、菜種などの油糧作物を原料とした場合と比較してコスト高になることである。しかしながら、酵母の種類や菌株を選択し、その選定菌株に適合した培養条件を確立することができれば、諸問題を払拭できる可能性がある。酵母の培養を行う際、安価で大量供給可能で且つ安全な培養原料を選定する必要があることは言うまでもない。
【0005】
北海道の主要畑作物であるビート(甜菜)とそれから砂糖を生産するビート糖業は地域の基幹産業となっている。ビート糖製造に際して副生されるビート廃糖蜜は全量で年間15,600tもの膨大量が発生している。ビート廃糖蜜は主にパン酵母製造時の培養原料として使用されているが、用途が限定され付加価値が低いため、産業上の高度な利用が望まれている。
【0006】
ビート廃糖蜜には、スクロースなどの糖分が豊富に含まれているので、これを原料として脂質生産性酵母を培養し、培養後の菌体からトリグリセリドを抽出すれば安価に製造可能と考えられるが、酵母ロドスポリジウム・トルロイデスおよびその近縁種は、別名赤色酵母とも呼ばれ、カロチン等のカロチノイド色素を多量に生成する。そのため、菌体からの抽出物にはトリグリセリドとともにカロチノイド色素も多量に混入することから、それらを除去するコストがかかる。
【0007】
一方、酵母ヤロウイア・リポリティカおよび糸状菌モルティエレラ・アルピーナの最適な培養炭素源はグルコースであるために、ビート廃糖蜜に含まれるスクロースを利用することができない。また、培養した菌体を簡単な抽出・精製法で食用油脂などとして利用するには、安全な酵母でなければならないことは言うまでもない。そのような酵母として、第一に挙げることができるのは、製パンや醸造で広く利用されている酵母サッカロミセス・セレビシエであるが、トリグリセリドを微量しか蓄積しない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討したところ、乳製品から分離した酵母クリヴェロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)TYC-269株がビート廃糖蜜で培養可能であり、培養菌体にトリグリセリドが豊富に含まれていることを見出した。クリヴェロミセス・ラクチスは古くから食経験があり、安全な酵母として認められている。さらに、添加する窒素源として大豆由来タンパク質分解物、およびトリグリセリドの含量を飛躍的に高める因子として酢酸アンモニウムを含む培地で、初期pHを7.0で培養することにより、トリグリセリド含量が高い酵母菌体を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
1.トリグリセリドを乾燥重量当たり5mg/g以上含む、クリヴェロミセス(Kluyveromyces)属に属する酵母、
2.前記酵母が、クリヴェロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)である、上記1に記載の酵母、
3.前記酵母が、クリヴェロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)TYC-269株(受番号:NITE -525)である、上記2に記載の酵母、
4.ビート廃糖蜜を含む培養液中で、上記1から3のいずれか一に記載の酵母を培養することを含む、トリグリセリドの生産方法、
5.培養液が、糖換算で1~2%に相当するビート廃糖蜜を含む、上記4記載のトリグリセリドの生産方法、
6.培養液が、さらに大豆由来タンパク分解物を含む、上記4または5に記載のトリグリセリドの生産方法、
7.培養液が、さらに酢酸アンモニウムを含む、上記4~6のいずれかに記載のトリグリセリドの生産方法、
8.培養液の初期pHが7.0である、上記4~7のいずれかに記載のトリグリセリドの生産方法、
9.上記1から3のいずれか一に記載の酵母菌体から得られたトリグリセリド、
10.上記1から3のいずれか一に記載の酵母を用いることを含む、トリグリセリドの製造方法、
11.上記1から3のいずれか一に記載の酵母菌体を含有する食品又は飼料、
12.上記9に記載のトリグリセリドを含む食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大豆や菜種などの油糧作物からトリグリセリドを抽出するのではなく、大量かつ安定的に供給可能なビート廃糖蜜を用いる発酵生産法という手段を使用し、工業的に安価にトリグリセリドを得ることができる。他面では、砂糖製造時に多量に副生するビート廃糖蜜について、産業上有用かつ高度な新規用途を図り、付加価値を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明でいう酵母は、トリグリセリドを生成し、高濃度蓄積する、クリヴェロミセス(Kluyveromyces)属に属する酵母をいう。好ましくは、酵母は、クリヴェロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)である。特に好ましくは、酵母は、クリヴェロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)TYC-269株である。なおこの菌株は、2008年3月12日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに、受番号NITE -525として、寄託されている。また、トリグリセリドの種類も特に限定されず、種々のトリグリセリドを含有していてもよい。例えば、トリオレインなどが該当する。
【0012】
本発明のトリグリセリドの製造方法は、ビート廃糖蜜を含む培養液中で、本発明の酵母を培養することを含むことを特徴とする。本発明のトリグリセリドの製造方法においては、好ましくは、培養液が、糖換算で1~2%に相当するビート廃糖蜜を含む。培養液は、場合により、さらに大豆由来タンパク分解物を含むことができる。また、培養液は、さらに酢酸アンモニウムを含むこともできる。また、本発明のトリグリセリドの製造方法においては、培養液の初期pHが7.0であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の菌体からのトリグリセリドの製造方法としては、従来公知の任意の抽出方法を用いることがでる。たとえば、培養液からの菌体の回収、回収された菌体からのトリグリセリドの抽出、そして抽出されたトリグリセリドの精製を含むことができる。
【0014】
より具体的には、まず、酵母菌体の増殖を行う。微量の酵母菌体を液体培地に接種し、30℃で30時間、200rpmで振盪培養すると、菌体が増殖して白濁する。次に、液体培地上の白濁した菌体を遠心分離によって集め、培養直後の生菌体中の全脂質成分を有機溶媒で抽出する。そして、抽出溶液を濃縮、乾燥することにより、粗トリグリセリドを得ることができる。
【0015】
次に、得られた粗トリグリセリドを精製する。精製工程は、トリグリセリド(種々の脂肪酸鎖長からなるトリグリセリドを含む)として精製するものであってもよいし、トリグリセリドのうち単一の成分を精製するものであってもよい。分離ステップにて得られた粗トリグリセリドに水または酸を加えることで析出するガム質を除去したり、アルカリ添加による遊離脂肪酸の除去および活性白土を使用した脱色など、工業的なトリグリセリド精製法が適応できる。また、シリカゲルクロマトグラフィーを繰り返すことにより、さらに細かく成分を分離精製することとしてもよい。
【0016】
この酵母の培養には液体培地が用いられ、当該培地には炭素源としてビート廃糖蜜を含むことができる。培地のビート廃糖蜜の濃度については、糖換算で1~2%が好ましい。培地成分としては、炭素源の他に、上記酵母の生育に有用な窒素源を含むことが望ましい。
【0017】
目的とするトリグリセリドを高い生産性で得るためには、炭素源以外に、窒素源の所定量を培地成分として用いるべきである。種々の窒素源を添加した培養実験で、トリグリセリドの蓄積量について試験したところ、最も蓄積した窒素源は動植物由来の酵素による脱脂大豆由来タンパク分解物(商品名:ポリペプトン-S、日本製薬株式会社製)であった。培地に添加するポリペプトン-Sの量については、適宜決定すればよいが、通常は1%が好ましい。さらに、種々の酢酸塩の添加によりトリグリセリドの蓄積量の変化を調べたところ、酢酸アンモニウムの添加によってトリグリセリドの蓄積が急増することが判明した。培地に添加する酢酸アンモニウムの量については、適宜決定すればよいが、通常は1%が好ましい。
【0018】
培地の初期pHは、7.0に調整することが好ましい。pH調節剤としては水酸化ナトリウムまたは塩酸などを用いることができる。この液体培地に、トリグリセリド蓄積能を有するクリヴェロミセス・ラクチス TYC-269株を接種し、好ましくは30℃で振とう培養する。培養時間は、トリグリセリドが充分に蓄積される定常期までで、好ましくは接種後30時間である。
【0019】
また、本発明は、本発明の酵母から得られたトリグリセリド及びそれを含む食品、及び、本発明の酵母菌体を含有する食品又は飼料にも関する。
【0020】
たとえば、本発明の酵母を食品及び家畜飼料に含有させることができる。含有とは、食品及び家畜飼料の製造工程に、トリグリセリドを高濃度蓄積する酵母を用いて発酵を行う工程を有すること、又は、トリグリセリドを高濃度蓄積する酵母をそのまま食品及び家畜飼料に添加することをいう。どちらの場合においても、食品及び家畜飼料にトリグリセリドを高濃度含有させることができる。また、同時に酵母自体の有するビタミン、ミネラル、タンパク質、食物繊維なども食品及び家畜飼料に含有させることができる。トリグリセリドを高濃度蓄積する酵母を用いて発酵を行う食品としては、例えば、ヨーグルトやパンなどが挙げられる。また、トリグリセリドを高濃度蓄積する酵母を乾燥粉末とし、酵母自体を食品及び家畜飼料として摂取できるようにしてもよい。この場合には、酵母以外にビタミンなどの成分を添加してもよい。
【0021】
また、本発明のトリグリセリドの製造方法により得られたトリグリセリドを、種々の食品に利用することができる。トリグリセリドは、上述したように、食用油の主成分であることから、代替食用油として、その利用を期待することができる。また、酵母は短時間に増殖可能であるため、従来の植物からの抽出に比べ、トリグリセリドの製造が容易となる。
【実施例1】
【0022】
<試料の調製>
乳製品から分離した酵母クリヴェロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)TYC-269株を一白金耳かきとり、試験管(直径1.8cm,長さ18cm)中のYPD培地(酵母エキス1%、ポリペプトン2%、グルコース2%)1mlに接種して種培養を行った。菌体が増殖した種培養液400μlを200ml三角フラスコ中のYPD培地40mlに移植して、30℃、30時間、振盪(200rpm)培養を行った。菌体が増殖して白濁した培養液を遠心分離にかけ、集めた菌体に7mlのクロロホルム-メタノール-蒸留水(5:10:4,v/v)を加え、3分間超音波処理して菌体を懸濁させた。この菌体懸濁液に2mlのクロロホルムおよび2mlの蒸留水を加えた後、遠心分離により得た下層を、濃縮乾固して得た全脂質を試料1とした。また、同じく乳製品から分離された独立行政法人製品評価技術基盤機構が保有するクリヴェロミセス・ラクチスの標準株NBRC1090、NBRC0433、NBRC0648およびNBRC1267を、同様の方法にて処理し、全脂質を得、比較試料1から4とした。
【0023】
<TLCによる菌体中のトリグリセリド含量の分析>
上記試料及び比較試料1として市販のトリグリセリド標品(トリオレイン)を少量のクロロホルム-メタノール(2:1,v/v)に溶解し、へキサン-ジエチルエーテル-酢酸(80:20:1,v/v)を展開溶媒として、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)にかけた。そして、25%硫酸を噴霧、加熱後に出現する茶褐色のスポットの様子を観察した。画像解析装置によってスポットの画像を取り込み、スポットの強度から乾燥菌体当たりの含量を算出した。
【0024】
<トリグリセリドの含有量の算出>
これらの菌体のトリグリセリドの含量の算出結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
JP0005366114B2_000002t.gif

【0026】
トリグリセリドの含有量は、画像解析装置によってスポットの画像を取り込み、スポットの強度から菌体当たりの含有量を算出した。これらの結果から、本発明のクリヴェロミセス・ラクチス TYC-269は、トリグリセリドを乾燥菌体1g当たり5mg以上生産していることが分かった。
【実施例2】
【0027】
乳製品から分離した酵母クリヴェロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis) TYC-269株を一白金耳かきとり、試験管(直径1.8cm,長さ18cm)中のYPD培地(酵母エキス1%、ポリペプトン2%、グルコース2%)1mlに接種して種培養を行った。菌体が増殖した種培養液400μlを200ml三角フラスコ中の試験培地40mlに移植して、30℃、24時間、振盪(200rpm)培養を行った。以降の操作とトリグリセリドの定量は実施例1に準じて行った。
【0028】
<窒素源の種類による影響>
液体培地に加える種々の窒素源の濃度を有機窒素源は1%、無機窒素源は0.1%として培養を行った。炭素源はビート廃糖蜜を糖換算でそれぞれ2%添加した。接種後24時間後の培養菌体について、トリグリセリド含量を分析した。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】
JP0005366114B2_000003t.gif

【0030】
以上の結果より、動植物由来の酵素による脱脂大豆由来タンパク分解物(商品名:ポリペプトン-S、日本製薬株式会社製)の添加において、培地当たりのトリグリセリド収量が最も増加することが明らかとなった。
【0031】
<酢酸塩の添加による影響>
ビート廃糖蜜を糖換算で2%およびポリペプトン-Sを1%含む液体培地に、種々の酢酸塩の濃度を1%添加して培養を行った。接種後24時間後の培養菌体について、トリグリセリド含量を分析した。結果を表3に示す。
【0032】
【表3】
JP0005366114B2_000004t.gif

【0033】
以上の結果より、酢酸アンモニウムを添加することによって、菌体当たりのトリグリセリド蓄積量が増加し、培地当たりのトリグリセリド収量がさらに増加することが明らかとなった。
【0034】
<培養温度による影響>
ビート廃糖蜜を糖換算で2%、ポリペプトン-S1%および酢酸アンモニウム1%を含む液体培地によって、種々の温度で培養を行った。接種後24時間後の培養菌体について、トリグリセリド含量を分析した。結果を表4に示す。
【0035】
【表4】
JP0005366114B2_000005t.gif

【0036】
以上の結果より、培養温度は30℃が望ましいことが明らかとなった。
【0037】
<初期pHによる影響>
ビート廃糖蜜を糖換算で2%、ポリペプトン-S1%および酢酸アンモニウム1%を含む液体培地に水酸化ナトリウムまたは塩酸を添加して培地の初期pHを4.0~8.0となるように調整してから培養を行った。接種後24時間後の培養菌体について、トリグリセリド含量を分析した。結果を表5に示す。
【0038】
【表5】
JP0005366114B2_000006t.gif

【0039】
以上の結果より、初期pHは7.0が望ましいことが明らかとなった。
【0040】
<培養時間および炭素源濃度による影響>
液体培地に加えるビート廃糖蜜の濃度を糖換算で1から16%になるよう調整して培養を行った。液体培地にはポリペプトン-Sをそれぞれ1%、酢酸アンモニウムをそれぞれ1%添加し、初期pHを7.0に調整した。接種後15時間(対数増殖期)、30時間(定常期初期)および45時間後の培養菌体について、トリグリセリド含量を分析した。結果を表6に示す。
【0041】
【表6】
JP0005366114B2_000007t.gif

【0042】
以上の結果より、培養は30時間で、炭素源の濃度が1%のとき、糖当たりのトリグリセリド収量が最も高値になることが明らかとなった。
【0043】
<トリグリセリドの組成分析>
さらに、この菌体が生産したトリグリセリドの組成の算出結果を表7に示す。
【0044】
【表7】
JP0005366114B2_000008t.gif

【0045】
試料1をTLCにかけた後、トリグリセリドのスポット部分をかきとって、少量のへキサンによってシリカゲルからトリグリセリドを溶出させた。溶出したトリグリセリドをガスクロマトグラフィーで分析することによって、トリグリセリドの構成脂肪酸の分子種の分離とそれらのピーク面積から構成脂肪酸の組成を算出した。これらの結果から、本発明のクリヴェロミセス・ラクチス TYC-269が生産するトリグリセリドの主要な構成脂肪酸は、オレイン酸(36.6%)およびリノール酸(30.2%)などの不飽和脂肪酸であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、大豆や菜種などの油糧作物からトリグリセリドを抽出するのではなく、大量かつ安定的に供給可能なビート廃糖蜜を用いる発酵生産法という手段を使用し、工業的に安価にトリグリセリドを得ることができる。他面では、砂糖製造時に多量に副生するビート廃糖蜜について、産業上有用かつ高度な新規用途を図り、付加価値を高めることができる。