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明細書 :植物の内胚乳に特異的に発現する遺伝子および該遺伝子のプロモーター、並びにそれらの利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5158639号 (P5158639)
公開番号 特開2009-254239 (P2009-254239A)
登録日 平成24年12月21日(2012.12.21)
発行日 平成25年3月6日(2013.3.6)
公開日 平成21年11月5日(2009.11.5)
発明の名称または考案の名称 植物の内胚乳に特異的に発現する遺伝子および該遺伝子のプロモーター、並びにそれらの利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 103
A01H 5/00 A
C12Q 1/02
請求項の数または発明の数 15
全頁数 34
出願番号 特願2008-104132 (P2008-104132)
出願日 平成20年4月11日(2008.4.11)
審査請求日 平成23年4月8日(2011.4.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】高岩 文雄
【氏名】川勝 泰二
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100119507、【弁理士】、【氏名又は名称】刑部 俊
【識別番号】100128048、【弁理士】、【氏名又は名称】新見 浩一
【識別番号】100129506、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 智彦
【識別番号】100130845、【弁理士】、【氏名又は名称】渡邉 伸一
【識別番号】100142929、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 隆一
【識別番号】100114340、【弁理士】、【氏名又は名称】大関 雅人
審査官 【審査官】吉森 晃
参考文献・文献 国際公開第03/008540(WO,A1)
米国特許出願公開第2004/0123343(US,A1)
特開2004-337004(JP,A)
Wan,J.M. et al.,DEFINITION Oryza sativa (japonica cultivar-group) glutelin C precursor, mRNA, complete cds.,Database GenBank [online],2003年11月 1日,ACCESSION AY429650,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/37993735
Yoon,U.H. et al.,DEFINITION Oryza sativa (japonica cultivar-group) clone KCS337A09 glutelin mRNA, complete cds.,GenBank[online],2006年12月19日,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/119395179
調査した分野 C12N 15/00-15/90
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
Science Direct
特許請求の範囲 【請求項1】
植物の内胚乳特異的にプロモーター活性を有する、下記(a)~(b)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAと98%以上の配列の同一性を有するDNA
【請求項2】
植物が種子貯蔵タンパク質を蓄積する植物である、請求項に記載のDNA。
【請求項3】
請求項1~のいずれかに記載のDNAの下流に、外来遺伝子が機能的に結合した構造を有するDNA。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載のDNA、または請求項に記載のベクターを含む、形質転換植物細胞。
【請求項6】
請求項に記載の形質転換植物細胞を含む、形質転換植物体。
【請求項7】
請求項に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
【請求項8】
請求項またはに記載の形質転換植物体の繁殖材料。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載のDNA、あるいは請求項に記載のベクターを植物細胞へ導入する工程を含む、形質転換植物体の製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載のDNA、または請求項に記載のベクターを植物細胞に導入する工程を含む、外来遺伝子を植物の内胚乳特異的に発現させる方法。
【請求項11】
植物が種子貯蔵タンパク質を蓄積する植物である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1011のいずれかに記載の方法によって取得される植物体、またはその種子。
【請求項13】
以下の(a)または(b)を有効成分とする、植物の内胚乳特異的に外来遺伝子の発現を誘導する薬剤;
(a)請求項1~のいずれかに記載のDNA、
(b)請求項に記載のベクター。
【請求項14】
以下の(a)または(b)を有効成分とする、植物の内胚乳特異的に外来タンパク質の蓄積を誘導する薬剤;
(a)請求項1~のいずれかに記載のDNA、
(b)請求項に記載のベクター。
【請求項15】
下記の工程(a)~(c)を含む、請求項1~のいずれかに記載のDNAのプロモーター活性を調節する候補化合物のスクリーニング方法;
(a)請求項1~のいずれかに記載のDNAの制御下に、レポーター遺伝子が機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程、
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程、
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択する工程。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の内胚乳に特異的に発現する遺伝子および該遺伝子のプロモーター、並びにそれらの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
イネ種子の胚乳組織には、発芽後から葉をつくり光合成を行うようになるまでのエネルギー源として、タンパク質、デンプン、および脂質が大量に蓄積される。これらの蓄積物は極めて安定であり、常温で保存しても数年間は発芽する。遺伝子発現制御機構の知見の蓄積や遺伝子組換え技術の進歩により、近年、植物の種子に有用な物質を蓄積させる試みが多く行われてきている(非特許文献1~3参照)。
【0003】
遺伝子組換え技術を利用して、有用な物質を生産することは、微生物や動物を用いても可能だが、植物を用いることには、多くのメリットが存在する(非特許文献1および2参照)。例えば、植物は、太陽光や大気中の二酸化炭素を利用してエネルギーを作り出すため、化石燃料を消費せず、大気も汚染せず、地球上の資源や環境に優しい。またイネに代表される植物は、プリオンや動物特有のウイルス、微生物の毒素といった人間にとって有害な物質などをそもそも含まないため安全性が高い。コスト面でも、植物を用いる場合は微生物や動物を用いる場合と比較して10分の1~50分の1で済むとの試算もあり、非常に優れている。
【0004】
このようなメリットから、近年では遺伝子組換え技術を利用して、健康機能性を持つ有用物質を含む、第二世代の遺伝子組換え作物の開発が進められている。代表的な例として、スギ花粉抗原の認識部位の一部(エピトープ)をイネ胚乳中で発現させたスギ花粉症緩和米(非特許文献4および5参照)、トウモロコシ、バクテリア由来の酵素をイネ胚乳中で発現させることによりβ-カロテンを高蓄積させたゴールデンライス(非特許文献6および7参照)が知られている。
【0005】
以上のように、植物にはバイオリアクターとしてのポテンシャルが認められることから、抗体やワクチンなどの医療品の原材料を蓄積するような、第三世代遺伝子組換え作物の開発が期待されている。有用物質をより安価に、また大量に生産することが、第三世代遺伝子組換え作物の実用化を進める上で極めて重要である。
【0006】
外来遺伝子産物量を決定する因子は複数存在するが、最も重要な因子は、発現プロモーターである。なぜならば、発現プロモーターによって、外来遺伝子の発現時期、部位、および/または量が制御されるからである。イネを宿主とする場合、外来遺伝子産物は葉や茎などの同化組織よりも、胚乳中に多く蓄積することが知られている(非特許文献8参照)。また、葉や茎などで外来遺伝子が発現することにより、生育に悪影響を及ぼす場合もあることが分かっている。これらのことから、胚乳中で特異的に外来遺伝子を強発現させるプロモーターは有用であると考えられ、複数の胚乳特異的発現を誘導するプロモーターが単離・利用されてきた。
【0007】
例えば、これまでイネ種子特異的発現誘導プロモーターとしてGluA-2プロモーターや、GluB-1プロモーターが多く使われてきた(非特許文献4および6参照)。しかし、これらのプロモーターは主にアリューロン層、サブアリューロン層と呼ばれる、胚乳最外層における、狭い領域での発現を誘導するものであった(非特許文献9参照)。
【0008】
一方、その内側である内胚乳で発現を誘導するプロモーターとして、Glb-1プロモーター、20 kDaグロブリンや16 kDaアレルゲンプロモーターが知られているが、これらは種子内以外にも発現を誘導し、種子形成時期以外の栄養成長期などにも発現を誘導することから、成長阻害を引き起こすような外来遺伝子の誘導に用いることはできなかった。さらにはプロモーター活性が弱いといった問題もあり、その利用は限られていた(非特許文献10および11参照)。
【0009】
なお、本発明に関する先行技術文献を以下に示す。
【0010】

【特許文献1】特開2004-321079
【特許文献2】特開2002-209462
【特許文献3】特開2002-058492
【特許文献4】特表2006-521107
【特許文献5】特表2006-512067
【特許文献6】特表2004-528022
【特許文献7】特表2003-503033
【特許文献8】特表2002-539824
【特許文献9】特表2001-518305
【特許文献10】特表平10-513364
【特許文献11】再表2004/056993
【特許文献12】特許3149951
【特許文献13】特許3030339
【特許文献14】再表01/064865
【特許文献15】特表平11-510056
【特許文献16】再表96/030509
【特許文献17】特表平06-506584
【特許文献18】特開2002-291484
【特許文献19】特開2002-253262
【特許文献20】特表2004-500885
【特許文献21】特表2004-508803
【特許文献22】特表2003-523172
【特許文献23】再表00/058454
【特許文献24】特表2002-521072
【特許文献25】特表2002-504336
【特許文献26】特表2001-512318
【特許文献27】特開2005-168500
【特許文献28】特開2005-027654
【特許文献29】特開2004-105030
【特許文献30】特開2001-292777
【特許文献31】特開2001-169790
【特許文献32】特表2003-510040
【特許文献33】特開2000-041688
【特許文献34】特表2002-509696
【特許文献35】特表2001-517434
【特許文献36】特表2001-519659
【特許文献37】特開平10-248570
【特許文献38】特表2001-512322
【特許文献39】特表2000-507108
【特許文献40】特表平10-504969
【非特許文献1】Daniell, H.ら著,「Medical molecular farming: production of antibodies, biopharmaceuticals and edible vaccines in plants.」, Trends Plant Sci, (2001), Vol.6, p.219-226.
【非特許文献2】Fischer, R.ら著,「Plant-based production of biopharmaceuticals.」, Curr Opin Plant Biol, (2004), Vol.7, p.152-158.
【非特許文献3】Hartmann, R.および Meisel, H.著,「Food-derived peptides with biological activity: from research to food applications.」, Curr Opin Biotechnol, (2007), Vol.18, p.163-169.
【非特許文献4】Takagi, H.ら著,「A rice-based edible vaccine expressing multiple T cell epitopes induces oral tolerance for inhibition of Th2-mediated IgE responses.」, Proc Natl Acad Sci U S A, (2005a), Vol.102, p.17525-17530.
【非特許文献5】Takagi, H.ら著,「Oral immunotherapy against a pollen allergy using a seed-based peptide vaccine.」, Plant Biotechnol J, (2005b), Vol.3, p.521-533.
【非特許文献6】Paine, J.ら著,「Improving the nutritional value of Golden Rice through increased pro-vitamin A content.」, Nat Biotechnol, (2005), Vol.23, p.482-487.
【非特許文献7】Ye, X.ら著,「Engineering the provitamin A (beta-carotene) biosynthetic pathway into (carotenoid-free) rice endosperm.」, Science, (2000), Vol.287, p.303-305.
【非特許文献8】Takaiwa, F.ら著,「Endosperm tissue is good production platform for artificial recombinant proteins in transgenic rice.」, Plant Biotechnol J, (2007), Vol.5, p.84-92.
【非特許文献9】Qu, l.Q.およびTakaiwa, F.著,「Evaluation of tissue specificity and expression strength of rice seed component gene promoters in transgenic rice.」, Plant Biotechnol J, (2004), Vol.2, p.113-125.
【非特許文献10】Storozhenko, S.ら著,「Folate fortification of rice by metabolic engineering.」, Nat Biotechnol, (2007), Vol.25, p.1277-1279.
【非特許文献11】Wu, C.Y.ら著,「Promoters of rice seed storage protein genes direct endosperm-specific gene expression in transgenic rice.」,Plant and Cell Physiology, (1998), Vol.39, p.885-889.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、植物の内胚乳に特異的に発現する遺伝子および該遺伝子のプロモーター、並びにそれらの利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
遺伝子組み換え技術を用いて、コメの可食部である種子胚乳中に、機能性成分やワクチンといった有用物質を生産させ、胚乳成分の改変を行うためには、胚乳を含む組織に対して特異的に遺伝子発現を誘導するプロモーターが必須である。これまで胚乳特異的プロモーターとして、各種の種子貯蔵タンパク質遺伝子プロモーターが単離されてきた。しかしながら上述のように、そのプロモーターの多くは、アリューロン層、サブアリューロン層という狭い領域での発現を誘導するものであった。
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために、以下のように鋭意研究を行った。
本発明者らは、種子特異的に発現する新規のイネグルテリン遺伝子GluD-1を同定した。GluD-1遺伝子のプロモーター(以下、GluD-1プロモーターと記載する場合がある)とβ-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を連結させたコンストラクトを、イネに導入したところ、GluD-1プロモーターは、種子特異的遺伝子発現を誘導し、種子成熟過程初期には内胚乳特異的に下流の遺伝子の発現を誘導することを示した。GluD-1はイネ種子から抽出したタンパク質のSDS-PAGEのCBB染色において確認できるため、GluD-1プロモーターは充分な強度の発現を誘導すると考えられた。
【0014】
上述のように、本発明のGluD-1プロモーターは、内胚乳特異的に外来遺伝子発現を誘導するプロモーターであって、種子成熟初期には他のグルテリン遺伝子と相補的に、胚乳の大部分を占める内胚乳での外来遺伝子の強発現誘導を可能とするものである。即ち、GluD-1プロモーターを用いて外来遺伝子発現を誘導することで、従来用いられてきたプロモーターと異なり、内胚乳という広い領域を含む組織において有用物質を高度かつ特異的に発現させることが可能になる。
【0015】
従って、内胚乳特異的に外来遺伝子発現を誘導するプロモーターとして、本発明のGluD-1プロモーターは有用であると考えられる。
即ち、本発明は植物の種子の内胚乳特異的に発現する遺伝子および該遺伝子のプロモーター、並びにそれらの利用に関する。
〔1〕 下記(a)~(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするDNA
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1または複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載されたアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、配列番号:2に記載されたアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
〔2〕 〔1〕に記載のDNAの転写産物またはその一部に対するアンチセンスRNAをコードするDNA。
〔3〕 〔1〕に記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA。
〔4〕 〔1〕に記載のDNAの発現をRNAi効果により阻害する作用を有するRNAをコードするDNA。
〔5〕 植物細胞における発現時に、共抑制効果により、〔1〕に記載のDNAの発現を抑制させるRNAをコードするDNA。
〔6〕 植物細胞における内在性の〔1〕に記載のDNAがコードするタンパク質に対してドミナントネガティブの形質を有するタンパク質をコードするDNA。
〔7〕 〔1〕に記載のDNAによってコードされるタンパク質。
〔8〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
〔9〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のDNA、または〔8〕に記載のベクターを含む、形質転換植物細胞。
〔10〕 〔9〕に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物体。
〔11〕 〔10〕に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである形質転換植物体。
〔12〕 〔10〕または〔11〕に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
〔13〕 プロモーター活性を有する、下記(a)~(c)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号:3に記載の塩基配列において、1または複数個の塩基が置換、欠失、付加、および/または挿入された塩基配列からなり、配列番号:3に記載された塩基配列からなるDNAと機能的に同等なDNA
(c)配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
〔14〕 植物の内胚乳特異的にプロモーター活性を有することを特徴とする、〔13〕に記載のDNA。
〔15〕 植物が種子貯蔵タンパク質を蓄積する植物である、〔14〕に記載のDNA。
〔16〕 〔13〕~〔15〕のいずれかに記載のDNAの下流に、外来遺伝子が機能的に結合した構造を有するDNA。
〔17〕 〔13〕~〔16〕のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
〔18〕 〔13〕~〔16〕のいずれかに記載のDNA、または〔17〕に記載のベクターを含む、形質転換植物細胞。
〔19〕 〔18〕に記載の形質転換植物細胞を含む、形質転換植物体。
〔20〕 〔19〕に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
〔21〕 〔19〕または〔20〕に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
〔22〕 〔1〕~〔6〕、〔13〕~〔16〕のいずれかに記載のDNA、あるいは〔8〕または〔17〕に記載のベクターを植物細胞へ導入する工程を含む、形質転換植物体の製造方法。
〔23〕 〔13〕~〔16〕のいずれかに記載のDNA、または〔17〕に記載のベクターを植物細胞に導入する工程を含む、外来遺伝子を植物の内胚乳特異的に発現させる方法。
〔24〕 〔7〕に記載のタンパク質の発現を、〔2〕~〔6〕のいずれかに記載のDNA、または〔2〕~〔6〕のいずれかの記載のDNAを含むベクターの投与によって阻害することを特徴とする、形質転換植物の製造方法。
〔25〕 植物が種子貯蔵タンパク質を蓄積する植物である、〔23〕または〔24〕に記載の方法。
〔26〕 〔23〕~〔25〕のいずれかに記載の方法によって取得される植物体、またはその種子。
〔27〕 以下の(a)または(b)を有効成分とする、植物の内胚乳特異的に外来遺伝子の発現を誘導する薬剤;
(a)〔13〕~〔16〕のいずれかに記載のDNA、
(b)〔17〕に記載のベクター。
〔28〕 以下の(a)または(b)を有効成分とする、植物の内胚乳特異的に外来タンパク質の蓄積を誘導する薬剤;
(a)〔13〕~〔16〕のいずれかに記載のDNA、
(b)〔17〕に記載のベクター。
〔29〕 下記の工程(a)~(c)を含む、〔13〕~〔16〕のいずれかに記載のDNAのプロモーター活性を調節する候補化合物のスクリーニング方法;
(a)〔13〕~〔16〕のいずれかに記載のDNAの制御下に、レポーター遺伝子が機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程、
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程、
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択する工程。
【発明の効果】
【0016】
日本晴とNona Bokra間には28個のSNPが検出され、その内16個のSNPがアミノ酸置換を引き起こすものであった(図4)。これは平均すると約1.9%の割合でSNPが存在することになり、イネ品種間のゲノム全体におけるSNP率(0.7%)よりも高いものである(Nasu, S.ら著,「Search for and analysis of single nucleotide polymorphisms (SNPs) in rice (Oryza sativa, Oryza rufipogon) and establishment of SNP markers.」, DNA Research, (2002), Vol.9, p.163-171.)。イネのグルテリンと相同である11Sグロブリンには可変領域と呼ばれる、多くの変異や、様々な大きさの配列の導入が許容される領域が存在することが知られている(Argos, P.ら著,「Structural similarity between legumin and vicilin storage proteins from legume.」, EMBO Journal, (1985), Vol.4, p.1111-1117.)。イネのグルテリンでは酸性サブユニットに3つの可変領域が存在することが明らかになっている(Okita, T.ら著,「Structure and expression of the rice glutelin multigene family.」, J Biol Chem, (1989), Vol.264, p.12573-12581.)。GluD-1におけるアミノ酸置換を伴う変異の多くは塩基性サブユニットに存在した。これはGluD-1の塩基性サブユニットは可塑性をもつ配列であることを示しており、人為的なアミノ酸置換によってイネ種子中のアミノ酸組成を改変できる可能性を示している。具体的には、イネ種子は必須アミノ酸であるリジン含量が低いため、塩基性サブユニット内に人為的にリジンを導入することにより、イネ種子の栄養価を高めることができると考えられる。
【0017】
本発明によって提供されるGluD-1プロモーターは、種子特異的遺伝子発現を誘導し、特に種子登熟初期には内胚乳での発現を誘導した。本発明のGluD-1プロモーターを用いて外来遺伝子発現を誘導することで、内胚乳という広い領域において有用物質を発現させることが可能になる。つまり、本発明のGluD-1プロモーターは、遺伝子組み換え技術を利用した、イネ内胚乳における物質生産、もしくは内胚乳成分改変のためのツールとして利用することができる。例えば内胚乳にはエネルギー源となるだけでなく、食味にも関連するデンプンが多量に含まれているため、本発明によって提供されるGluD-1プロモーターを用いて代謝経路を制御することで、様々なニーズに対して至適化を行うことが可能になる。
【0018】
また本発明のGluD-1プロモーターによって、内胚乳特異的に外来遺伝子の発現を誘導し、有用物質を発現させることで、例えば白米の場合、洗米をしても有用物質が流れ落ちる可能性は低く、確実に有用物質を摂取することができるようになる。また精米しても胚乳に蓄積された外来有用遺伝子産物が失われる割合が少ない。
【0019】
〔発明を実施するための形態〕
本発明は、イネグルテリンGluD-1タンパク質をコードするDNAを提供する。即ち本発明の好ましい態様としては、例えば以下の(a)~(d)のいずれかに記載のDNAを提供する。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするDNA
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載されたアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下にてハイブリダイズし、配列番号:2に記載されたアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
【0020】
本発明のイネグルテリン遺伝子GluD-1の塩基配列を配列番号:1に、該塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を配列番号:2に示す。
【0021】
本発明のGluD-1タンパク質をコードするDNAには、ゲノムDNA、mRNAから合成されたcDNA、および化学合成DNA等の形態からなるDNAが含まれる。
【0022】
本発明においては、上記(a)~(d)のいずれかに記載される本発明のDNAによってコードされるタンパク質を、「本発明のタンパク質」と記載する場合がある。
【0023】
本発明のタンパク質もまた、本発明に含まれる。
本発明におけるタンパク質とは、複数のアミノ酸からなる重合体を意味し、そのアミノ酸の長さは特に制限されない。従って、本発明のタンパク質には、所謂「ポリペプチド」、および「オリゴペプチド」も含まれる。本発明のタンパク質は、天然に存在する状態から修飾されていないもの、および修飾されているものの双方を含む。修飾としては、アセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合の形成、脱メチル化、共有架橋の形成、シスチンの形成、ピログルタメートの形成、ホルミル化、γ-カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解処理、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫酸化、アルギニル化のようなタンパク質へのアミノ酸の転移RNA媒介付加、ユビキチン化等が含まれる。
【0024】
本発明のポリペプチドは、そのアミノ酸配列に従って、一般的な化学合成法により製造することが可能であり、該方法には、通常の液相法および固相法によるペプチド合成法が包含される。かかるペプチド合成法は、より詳しくはアミノ酸配列の情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次合成させて鎖を延長していくステップワイズエロンゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法を包含し、本発明のタンパク質の合成は、いずれの方法を用いてもよい。
【0025】
このようなペプチド合成法にて用いられる縮合法も、各種方法に従って行うことができる。その具体例としては、例えばアジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、ウッドワード法等を例示できる。
【0026】
これらの各種方法に利用できる溶媒もまた、一般的に使用されるものを適宜利用することができる。その例としては、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等及びこれらの混合溶媒等を挙げることができる。なお、上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸およびペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第三級ブチルエステル等の低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、P-メトキシベンジルエステル、P-ニトロベンジルエステルアラルキルエステル等として保護することができる。また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばTyrの水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第三級ブチル基等で保護されてもよいが、必ずしもかかる保護は必須ではない。また、例えば、Argのグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、2-メトキシベンゼンスルホニル基、メチシレン-2-スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基等の適当な保護基により保護することができる。
【0027】
上記のようにして得ることが可能な本発明のタンパク質は、通常の方法に従って、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、向流分配法等のペプチド化学の分野で汎用されている方法に従って、適宜、精製を行うことができる。
【0028】
本発明のタンパク質は、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、または配列番号:1に記載のDNAを合成し、次いで適当な発現ベクターへ導入した後、宿主細胞内において発現させる遺伝子工学的手法によっても取得することができる。
【0029】
本発明のタンパク質は、当業者に公知の方法により、組み換えポリペプチドとして、また天然のポリペプチドとして調製することが可能である。組み換えポリペプチドであれば、例えば、本発明のタンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA)を、適当な発現ベクターに組み込み、これを適当な宿主細胞に導入して得た形質転換体を回収し、抽出物を得た後、イオン交換、逆相、ゲル濾過などのクロマトグラフィー、あるいは本発明のタンパク質に対する抗体をカラムに固定したアフィニティークロマトグラフィーにかけることにより、または、さらにこれらのカラムを複数組み合わせることにより精製し、調製することが可能である。
【0030】
また、本発明のタンパク質をグルタチオンS-トランスフェラーゼタンパク質との融合ポリペプチドとして、あるいはヒスチジンを複数付加させた組み換えポリペプチドとして宿主細胞(例えば、植物細胞や微生物細胞等)内で発現させた場合には、発現させた組み換えポリペプチドはグルタチオンカラムあるいはニッケルカラムを用いて精製することができる。融合ポリペプチドの精製後、必要に応じて融合ポリペプチドのうち、目的のポリペプチド以外の領域を、トロンビンまたはファクターXaなどにより切断し、除去することも可能である。
【0031】
天然のタンパク質であれば、当業者に周知の方法、例えば本発明のタンパク質を発現している組織や細胞の抽出物に対し、本発明のタンパク質と親和性を有する抗体が結合したアフィニティーカラムを作用させて精製することにより単離することができる。抗体はポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。
【0032】
本発明のタンパク質は、例えば、本発明のタンパク質を認識する抗体の作製等に利用することが可能である。
【0033】
本発明のタンパク質をコードするDNAは、当業者に公知の方法により調製することができる。例えば、本発明のタンパク質を発現している細胞よりcDNAライブラリーを作製し、本発明のタンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:1に記載の塩基配列)の一部をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことにより調製できる。cDNAライブラリーは、例えば、文献(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))に記載の方法により調製してもよく、あるいは市販のDNAライブラリーを用いてもよい。また、本発明のタンパク質を発現している細胞よりRNAを調製し、逆転写酵素によりcDNAを合成後、本発明のタンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:1に記載の塩基配列)に基づいてオリゴDNAを合成し、これをプライマーとして用いてPCR反応を行い、本発明のタンパク質をコードするcDNAを増幅させることにより調製することも可能である。
【0034】
また、得られたcDNAの塩基配列を決定することにより、それがコードする翻訳領域を決定でき、本発明のタンパク質のアミノ酸配列を得ることができる。また、得られたcDNAをプローブとしてゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、ゲノムDNAを単離することができる。
【0035】
具体的には、次のようにすればよい。まず、本発明のタンパク質を発現する細胞、組織、器官からmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えばグアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294-5299)、AGPC法(Chomczynski, P. and Sacchi, N., Anal. Biochem. (1987) 162, 156-159)等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit (Pharmacia) 等を使用して全RNAからmRNAを精製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit (Pharmacia) を用いることによりmRNAを直接調製することもできる。
【0036】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit (生化学工業)等を用いて行うこともできる。また、本明細書に記載されたプライマー等を用いて、5'-Ampli FINDER RACE Kit (Clontech製)およびポリメラーゼ連鎖反応 (polymerase chain reaction ; PCR)を用いた5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 8998-9002 ; Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res. (1989) 17, 2919-2932) に従い、cDNAの合成および増幅を行うことができる。得られたPCR産物から目的とするDNA断片を調製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列は、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法により確認することができる。
【0037】
また、本発明のタンパク質をコードするDNAの作成においては、発現に使用する宿主のコドン使用頻度を考慮し、より発現効率の高い塩基配列を設計することができる(Grantham, R. et al., Nucelic Acids Research (1981) 9, p43-74)。また、本発明のタンパク質をコードするDNAは、市販のキットや公知の方法によって改変することができる。改変としては、例えば、制限酵素による消化、合成オリゴヌクレオチドや適当なDNAフラグメントの挿入、リンカーの付加、開始コドン(ATG)及び/又は終止コドン(TAA、TGA、又はTAG)の挿入等が挙げられる。
【0038】
また本発明のタンパク質をコードするDNAには、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1または複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載されたアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAが含まれる。
【0039】
ここで「配列番号:2に記載されたアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、本発明のタンパク質と同様の、あるいは同等の生物学的機能や活性あるいは生化学的機能や活性を有することを意味する。このような機能としては、例えば、植物の種子特異的に発現する機能、例えば植物の胚乳組織に特異的に発現する機能が挙げられる。好ましくは、植物の内胚乳特異的に発現する機能である。
【0040】
本発明において「胚乳組織に特異的に発現する」とは、胚乳組織以外の組織における発現量と比較して、少なくとも1000倍以上の量で胚乳組織において発現し、胚乳組織以外の組織における最大のプロモーター活性が0.05 pmoles/μg protein/min未満であることをいう。また本発明において「内胚乳特異的に発現する」とは、GluD-1プロモーター制御下でβ-グルクロニダーゼ遺伝子を発現させ、X-Glucを用いて染色を行った場合、内胚乳のみが呈色することをいう。
【0041】
従って、対象となるタンパク質が、本発明のタンパク質と同等の生物学的特性を有しているか否かの判定は、当業者においては周知の方法によって評価することができる。最も一般的な方法としては、本発明のタンパク質をコードするDNAが導入された植物を栽培し、種子特異的な発現(例えば植物の胚乳組織特異的な発現、好ましくは植物の内胚乳特異的な発現)があるかどうかを測定することにより行うことができる。
【0042】
また被検遺伝子が植物の種子特異的に発現するタンパク質をコードするか否かは、例えば、植物の各組織からmRNAを抽出し、被検遺伝子にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブを利用してノーザンブロット解析をすることにより評価することができる。
【0043】
また被検遺伝子が上述の機能を有するか否かは、植物における被検遺伝子の発現をアンチセンス技術などにより抑制し、その植物の表現型を解析することにより、評価することができる。
【0044】
あるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を調製するための、当業者によく知られた方法としては、例えばタンパク質中のアミノ酸配列に変異を導入する方法が挙げられる。具体的には当業者であれば部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer, W. et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Proc Natl Acad Sci USA. 82, 488-492、Kunkel (1988) Methods Enzymol. 85, 2763-2766)などを用いて、配列番号:2に記載のアミノ酸配列に適宜変異を導入することにより、該アミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を調製することができる。また、タンパク質中のアミノ酸の変異は自然に生じることもある。また、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは、自然界においても生じ得る。例えば、本発明のタンパク質をコードしうる限り、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するDNAも本発明のDNAに含まれる。
【0045】
このように、人工的か自然に生じたものかを問わず、本発明者らにより同定された配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸配列が変異したアミノ酸配列を有し、本発明のタンパク質と機能的に同等なタンパク質は、本発明のタンパク質(ポリペプチド)に含まれる。また本発明のタンパク質をコードするDNAには、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする変異体、誘導体、アレル、バリアントおよびホモログが含まれる。
【0046】
上記変異体における、変異するアミノ酸数は、本発明のタンパク質の有する機能が保持される限り制限はないが、通常15アミノ酸以内であり、好ましくは10アミノ酸以内であり、より好ましくは5アミノ酸以内であり、さらに好ましくは1~4アミノ酸である。
【0047】
変異するアミノ酸残基としては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字表記を表す)。
【0048】
あるアミノ酸配列に対する1または複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質がその生物学的機能(活性)を維持し得ることはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666 、Zoller, M. J. & Smith, M. Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500 、Wang, A. et al., Science 224, 1431-1433 、Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413)。
【0049】
具体的なアミノ酸配列(例えば、配列番号:2)が開示された場合においては、当業者であれば、このアミノ酸配列を基に、適宜アミノ酸が改変された配列からなるタンパク質を作製し、当該タンパク質について、上述の機能を有するか否かを評価し、本発明のタンパク質(ポリペプチド)を適宜選択することが可能である。
【0050】
本発明のタンパク質のアミノ酸配列に複数個のアミノ酸残基が付加されたタンパク質には、このタンパク質を含む融合タンパク質が含まれる。融合タンパク質は、このタンパク質と他のタンパク質(ペプチド又はポリペプチド)とが融合したものである。融合タンパク質を作製する方法は、本発明のタンパク質(例えば、配列番号:2)をコードするDNA(例えば、配列番号:1)と他のタンパク質(ペプチド又はポリペプチド)をコードするDNAをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよく、当業者に公知の手法を用いることができる。本発明のタンパク質との融合に付される他のタンパク質(ペプチド又はポリペプチド)は、特に制限されない。
【0051】
本発明のタンパク質との融合に付される他のタンパク質としては、例えば、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、イムノグロブリン定常領域、β-ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)等が挙げられる。市販されているこれらタンパク質(ペプチドまたはポリペプチド)をコードするDNAを、本発明のタンパク質をコードするDNAと融合させ、これにより調製された融合タンパク質を発現させることにより、融合タンパク質を調製することができる。
【0052】
またあるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を調製する当業者によく知られた他の方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. press, 1989)を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者であれば、本発明のタンパク質をコードするDNA(配列番号:1に記載の塩基配列)もしくはその一部をもとに、同種または異種植物由来のDNA試料から、これと相同性の高いDNAを単離して、該DNAから本発明のタンパク質と機能的に同等なタンパク質を単離することも通常行いうることである。
【0053】
本発明には、本発明のタンパク質をコードするDNAとハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、本発明のタンパク質と機能的に同等なタンパク質が含まれる。このようなタンパク質としては、例えばイネあるいは他の植物のホモログ(例えば、トウモロコシ、コムギ、オオムギ等の植物に由来するタンパク質)が挙げられる。
【0054】
本発明のタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーションの条件は、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、0.1×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、0.1×SSC、0.1%SDSの条件である。より好ましいハイブリダイゼーションの条件としては、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、5×SSC及び0.1%SDSの条件である。これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0055】
また、ハイブリダイゼーションにかえて、遺伝子増幅技術(PCR)(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley&Sons Section 6.1-6.4)を用いて、本発明のタンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:1)の一部を基にプライマーを設計し、本発明のタンパク質をコードするDNAと相同性の高いDNA断片を単離し、該DNAを基に、本発明のタンパク質と機能的に同等なタンパク質を取得することも可能である。
【0056】
本発明のタンパク質は「成熟」ポリペプチドの形であっても、融合ポリペプチドのような、より大きいポリペプチドの一部であってもよい。本発明のタンパク質には、リーダー配列、プロ配列、多重ヒスチジン残基のような精製に役立つ配列、または組換え生産の際の安定性を確保する付加的配列などが含まれていてもよい。
【0057】
これらハイブリダイゼーション技術や遺伝子増幅技術により単離されるDNAによってコードされる、本発明のタンパク質と機能的に同等なタンパク質は、通常、本発明のタンパク質(例えば、配列番号:2)とアミノ酸配列において高い相同性を有する。高い相同性とは、アミノ酸レベルにおいて、通常、少なくとも50%以上の同一性、好ましくは75%以上の同一性、さらに好ましくは85%以上の同一性、さらに好ましくは95%以上(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の同一性を指す。タンパク質の相同性を決定するには、文献(Wilbur, W. J. and Lipman, D. J. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1983) 80, 726-730)に記載のアルゴリズムに従えばよい。
【0058】
アミノ酸配列の同一性は、例えば、Karlin and Altschul によるアルゴリズムBLAST (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al. J. Mol. Biol.215: 403-410, 1990)。BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えば、score = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0059】
また本発明は、本発明のタンパク質をコードするDNAの発現を抑制するためのDNAを提供する。本発明において「DNAの発現を抑制する」とは、DNAの転写の抑制およびタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。またDNAの発現の完全な停止のみならず、発現の減少も含まれる。
【0060】
植物における特定の内在性遺伝子の発現を抑制する方法としては、アンチセンス技術を利用する方法が当業者によく利用されている。アンチセンスRNAをコードするDNAが標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造がつくられた部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、および核酸と蛋白質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制などである。これらは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制する(平島および井上「新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現」,日本生化学会編,東京化学同人,pp.319-347,1993)。
【0061】
本発明におけるアンチセンスRNAをコードするDNAは、上記のいずれの作用で標的遺伝子であるGluD-1遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。しかし、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用し得る。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むDNAも、本発明で利用されるアンチセンスRNAをコードするDNAに含まれる。使用されるアンチセンスRNAをコードするDNAは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。アンチセンスRNAをコードするDNAの配列は、標的遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。
【0062】
本発明のアンチセンスRNAをコードするDNAは、例えば、本発明のタンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:1)の配列情報を基にホスホロチオネート法(Stein, 1988 Physicochemical properties of phosphorothioate oligodeoxynucleotides. Nucleic Acids Res 16, 3209-21 (1988))などにより調製することが可能である。
【0063】
遺伝子の発現の阻害は、また、リボザイム活性を有するRNAをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を指す。リボザイムには種々の活性を有するものがあり、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムの研究により、RNAの部位特異的な切断を目的とするリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型や、RNasePに含まれるM1RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子, (1990) 蛋白質核酸酵素,35:2191)。
【0064】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15のC15の3'側を切断するが、活性にはU14が9位のAと塩基対を形成することが重要とされ、15位の塩基はCの他にAまたはUでも切断されることが示されている(M.Koizumiら,(1988) FEBS Lett.228:225)。リボザイムの基質結合部を標的部位近傍のRNA配列と相補的になるように設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することが可能である(M.Koizumiら,(1988) FEBS Lett. 239:285、小泉誠および大塚栄子,(1990) 蛋白質核酸酵素,35:2191、 M.Koizumiら, (1989) Nucleic Acids Res. 17:7059)。
【0065】
また、ヘアピン型リボザイムも、本発明の目的のために有用である。ヘアピン型リボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(J.M.Buzayan Nature 323:349,1986)。このリボザイムも、標的特異的なRNA切断を起こすように設計できることが示されている(Y.Kikuchi およびN.Sasaki (1992) Nucleic Acids Res. 19:6751、 菊池洋, (1992) 化学と生物 30:112)。
【0066】
本発明のタンパク質をコードするDNAの発現を抑制するDNAを形質転換に用いる場合には、例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターやリポソームなどの非ウイルスベクターなどを利用して、ex vivo法やin vivo法などにより、対象となる植物へ投与を行うことが考えられる。
【0067】
遺伝子の発現の阻害は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二本鎖RNAを用いたRNA干渉(RNA interferance;RNAi)によっても行うことができる。RNAiとは、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二重鎖RNAを細胞内に導入すると、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも阻害される現象のことを指す。RNAiとは、最初に導入した二本鎖RNAが小片に分解され、何らかの形で標的遺伝子の指標となることにより、標的遺伝子が分解されるものと考えられている。RNAiに用いるRNAは、本発明のタンパク質をコードするDNAもしくは該DNAの部分領域と必ずしも完全に同一である必要はないが、完全な相同性を有することが好ましい。また、二重鎖RNAを細胞内で合成し得るDNA分子を導入することもできる。
【0068】
本発明において、GluD-1遺伝子に対するアンチセンスRNAをコードするDNAあるいはRNAi効果により阻害する作用を有するRNAをコードするDNAの配列は、当業者においては、本明細書の配列表に掲載されたGluD-1遺伝子のDNA配列を元に、適宜設計することが可能である。
【0069】
内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有するDNAの形質転換によってもたらされる共抑制によっても達成されうる。「共抑制」とは、植物に標的内在性遺伝子と同一若しくは類似した配列を有する遺伝子を形質転換により導入すると、導入する外来遺伝子および標的内在性遺伝子の両方の発現が抑制される現象のことをいう。共抑制の機構の詳細は明らかではないが、植物においてはしばしば観察される(Curr.Biol.7:R793,1997,Curr.Biol.6:810,1996)。例えば、GluD-1遺伝子が共抑制された植物体を得るためには、GluD-1遺伝子若しくはこれと類似した配列を有するDNAを発現できるように作製したベクターDNAを目的の植物へ形質転換し、得られた植物体からGluD-1変異体の形質を有する植物を選択すればよい。共抑制に用いる遺伝子は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%以上)の配列の同一性を有する。配列の同一性は、上述の検索を利用して決定することができる。
【0070】
さらに、本発明における内在性遺伝子の発現の抑制は、標的遺伝子のドミナントネガティブの形質を有する遺伝子を植物へ形質転換することによっても達成することができる。本発明において「ドミナントネガティブの形質を有するタンパク質をコードするDNA」とは、該DNAを発現させることによって、植物体が本来持つ本発明の内在性遺伝子がコードするタンパク質の活性を消失もしくは低下させる機能を有するタンパク質をコードするDNAのことを指す。対象となるDNAが本発明の内在性遺伝子の活性を消失もしくは低下させる機能を有するか否かは、上述したように、対象となるDNAが、植物の種子特異的に発現するか否か、例えば胚乳組織特異的に発現するか否か、好ましくは内胚乳特異的に発現するか否かを測定することにより判定することができる。
【0071】
また本発明は、プロモーター活性を有するDNAを提供する。このようなDNAとしては、本発明のタンパク質をコードするDNAの上流域のゲノムDNA、例えば配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNAを挙げることができる。
【0072】
本発明においては、上記プロモーター活性を有するDNAを「プロモーターDNA」と記載する場合がある。
本発明のプロモーターDNAには、プロモーター活性を有する限り、配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAと高い相同性を有するDNAも含まれる。このようなDNAとしては、例えば、配列番号:3に記載の塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換、付加、および/または挿入された塩基配列からなり、配列番号:3に記載された塩基配列からなるDNAと機能的に同等なDNAを挙げることができる。
【0073】
ここで「配列番号:3に記載された塩基配列からなるDNAと機能的に同等」とは、対象となるDNAが、本発明のプロモーターDNAと同様のプロモーター活性を有することを意味する。このような配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAと高い相同性を有するDNAを調製するために、当業者によく知られた方法としては、例えば配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAに対して、部位特異的変異誘発法等を用いて、変異を導入する方法が挙げられる。
【0074】
また配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAと高い相同性を有するDNAは、一般的なハイブリダイゼーション技術やPCR技術によって取得することも可能である。例えば、配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAもしくはその一部をプローブとして、また配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAに特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、イネや他の植物から、配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAと高い相同性を有するDNAを単離することができる。このようなDNAを単離するためには、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行う。ハイブリダイゼーション条件は、上記胚乳組織特異的DNAと同様の条件を用いることができる。また高い相同性とは、配列番号:3に記載の塩基配列全体で好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは90%以上(例えば95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を指す。
【0075】
塩基配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al. J. Mol. Biol.215: 403-410, 1990)。BLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えば、score = 100、wordlength = 12とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0076】
また本発明のタンパク質をコードするDNAと高い相同性を有するDNAを取得し、取得したDNAの活性を確認し、さらにこのDNAの上流域のゲノムDNAを取得すれば、このゲノムDNAはプロモーター活性を有すると考えられる。本発明のプロモーター活性を有するDNAは、このように、本発明のタンパク質をコードするDNAを利用して取得することも可能である。
即ち、本発明のプロモーター活性を有するDNAの好ましい態様としては、下記の(a)~(d)のいずれかに記載のDNAである。
(a)配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号:3に記載の塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換、付加、および/または挿入された塩基配列からなり、配列番号:3に記載された塩基配列からなるDNAと機能的に同等なDNA
(c)配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
【0077】
なお本発明のプロモーター活性を有するDNAは、植物の胚乳組織、特に内胚乳において特異的なプロモーター活性を有することを特徴とするDNAである。また本発明において「内胚乳において特異的なプロモーター活性」とは、内胚乳以外の組織における最大のプロモーター活性が0.05 pmoles/μg protein/min未満であることをいう。また本発明において「内胚乳特異的に発現する」とは、GluD-1プロモーター制御下でβ-グルクロニダーゼ遺伝子を発現させ、X-Glucを用いて染色を行った場合、内胚乳のみが呈色することをいう。本発明のプロモーター活性を有するDNAが内胚乳特異的な発現を示す時期は、好ましくは種子成熟初期である。この種子成熟初期とは、例えばイネでは開花後7日~15日の時期を指すが、植物の種類によって時期に差があることは言うまでもない。
【0078】
本発明のプロモーターDNAは、プロモーター活性を有する限り、その由来は制限されない。
【0079】
上述のようにして調整されたDNAが、プロモーター活性を有するか否かは、レポーター遺伝子を用いた周知のレポーターアッセイ等により検出することが可能である。該レポーター遺伝子としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、ベータ-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、およびGFP遺伝子等を挙げることができる。
【0080】
レポーター遺伝子の発現レベルは、該レポーターの種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
【0081】
レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することによりレポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
レポーター遺伝子がルシフェラーぜ遺伝子である場合には、該遺伝子産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することによりレポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
【0082】
レポーター遺伝子がGUS遺伝子である場合には、該遺伝子産物の触媒作用によるGlucuron(ICN社)の発光や5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ベータ-グルクロニド(X-Gluc)の発色を検出することによりレポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
さらにレポーター遺伝子がGFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することによりレポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
【0083】
本発明のプロモーターDNAは、外来遺伝子を内胚乳特異的に発現させるために利用することができる。ここで「外来遺伝子」とは、本発明のプロモーターDNAによる転写を誘導することが可能な任意の外来性のDNAを意味する。従って、外来遺伝子には、例えばタンパク質をコードするDNAの他、RNAをコードするDNA(例えば上述のアンチセンスRNAをコードするDNA、リボザイム活性を有するDNA、DNAの発現をRNAi効果により阻害する作用を有するRNAをコードするDNA、共抑制効果によりDNAの発現を抑制するRNAをコードするDNA等)も含まれる。
【0084】
本発明のプロモーターDNAを利用して、外来遺伝子を内胚乳特異的に発現させるためには、例えば本発明のプロモーターDNAを含むベクターを作成し、該ベクターにおける本発明のプロモーターDNAの下流に外来遺伝子を機能的に結合させる。
即ち本発明のプロモーターDNAには、プロモーターDNAの下流に外来遺伝子が機能的に結合した構造を有するDNAが含まれる。
【0085】
ここで「機能的に結合」とは、外来遺伝子が本発明のプロモーターDNAの活性化に応答して発現することが可能な状態で、本発明のプロモーターDNAと結合していることを意味する。本発明のプロモーターDNAは、内胚乳特異的に高い活性を有するため、外来遺伝子としては、特に内胚乳において発現させることが好ましい遺伝子、例えば、機能的成分やワクチンといった有用物質の生産に用いられる遺伝子、7Crp遺伝子、ノボキニン遺伝子等を好適に用いることができる。
【0086】
他にも例えば、タンパク質を多く蓄積するアリューロン層、サブアリューロン層の層数は、細胞間相互作用によって決定される。内胚乳はサブアリューロン層に接しているため、内胚乳との相互作用が重要であると考えられる。そのような相互作用因子を同定し外来遺伝子として本発明のプロモーターDNAを用いて内胚乳特異的に発現させることで、アリューロン層およびサブアリューロン層の層数を制御することも可能であると考えられる。
なお本発明においては、上述の本発明のタンパク質をコードするDNA、本発明のタンパク質をコードするDNAの発現を抑制するためのDNA、およびプロモーターDNAをまとめて、「本発明のDNA」と記載する場合がある。
【0087】
また本発明は、上記本発明のDNAを含むベクターを提供する。
本発明のベクターとしては、組み換えタンパク質の生産に用いる上記ベクターの他、形質転換植物体作製のために植物細胞内で本発明のDNAを発現させるためのベクターも含まれる。このようなベクターは、好ましくは、植物細胞で転写可能なプロモーター配列と転写産物の安定化に必要なポリアデニレーション部位を含むターミネーター配列を含む。プロモーター配列としては、本発明のプロモーターDNAを利用することができるが、別のプロモーター配列を用いることも可能である。
【0088】
植物細胞の形質転換に用いられるベクターとしては、該細胞内で挿入された外来遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクターや外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることも可能である。上記「植物細胞」には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルス等が含まれる。
【0089】
本発明のベクターは、本発明のタンパク質を恒常的または誘導的に発現させるためのプロモーターを含有してもよい。恒常的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター、イネのアクチンプロモーター、トウモロコシのユビキチンプロモーター等が挙げられる。
【0090】
また、誘導的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば細菌・ウイルスの感染や侵入、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布などの外因によって発現することが知られているプロモーターなどが挙げられる。このようなプロモーターとしては、例えば、細菌・ウイルスの感染や侵入によって発現するイネキチナーゼ遺伝子のプロモーターやタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーター、低温によって誘導されるイネの「lip19」遺伝子のプロモーター、高温によって誘導されるイネの「hsp80」遺伝子と「hsp72」遺伝子のプロモーター、乾燥によって誘導されるシロイヌナズナの「rab16」遺伝子のプロモーター、紫外線の照射によって誘導されるパセリのカルコン合成酵素遺伝子のプロモーター、嫌気的条件で誘導されるトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。また、イネキチナーゼ遺伝子のプロモーターとタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーターはサリチル酸などの特定の化合物によって、「rab16」は植物ホルモンのアブシジン酸の散布によっても誘導される。
【0091】
当業者においては、所望のDNAを有するベクターを、一般的な遺伝子工学技術によって、適宜、作製することが可能である。通常、市販の種々のベクターを利用することができる。
【0092】
本発明のベクターは、宿主細胞内において本発明のDNAを保持したり、本発明のタンパク質を発現させるためにも有用である。
【0093】
本発明のDNAは、通常、適当なベクターへ担持(挿入)され、宿主細胞へ導入される。該ベクターとしては、挿入したDNAを安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましいが、市販の種々のベクターを利用することができる。本発明のタンパク質を生産する目的としてベクターを用いる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、植物個体内でポリペプチドを発現するベクターであれば特に制限されないが、例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、生物個体であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol. 8:466-472(1988))などを例示することができる。ベクターへの本発明の核酸の挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる。
【0094】
上記宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。本発明のタンパク質を発現させるための細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowes メラノーマ細胞)および植物細胞を例示することができる。宿主細胞へのベクター導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクション法(GIBCO-BRL社製)、マイクロインジェクション法などの公知の方法で行うことが可能である。
【0095】
宿主細胞において発現したタンパク質を小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、または細胞外の環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルを目的のタンパク質に組み込むことができる。これらのシグナルは目的のタンパク質に対して内因性であっても、異種シグナルであってもよい。
【0096】
上記タンパク質の回収は、本発明のタンパク質が培地に分泌される場合は、培地を回収する。本発明のタンパク質が細胞内に産生される場合は、その細胞をまず溶解し、その後にタンパク質を回収する。
【0097】
組換え細胞培養物から本発明のタンパク質を回収し精製するには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法を用いることができる。
【0098】
また、植物体内で本発明のDNAを発現させる方法としては、本発明のDNAを適当なベクターに組み込み、例えば、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法などにより生体内に導入する方法などが挙げられる。ベクターへの本発明のDNAの挿入などの一般的な遺伝子操作は、常法に従って行うことが可能である(Molecular Cloning, 5.61-5.63)。植物体内への投与は、ex vivo法であっても、in vivo法であってもよい。また、植物体内へ本発明のDNAを導入する方法としては、好ましくは、アグロバクテリウムを介して遺伝子を導入する方法が挙げられる。
【0099】
また、本発明のタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換植物体を作成し、該植物体から本発明のタンパク質を調製することも可能である。
【0100】
また、上述のようにして取得される組換えタンパク質を用いれば、これに結合する抗体を調製することもできる。例えば、ポリクローナル抗体は、精製した本発明のタンパク質もしくはその一部のペプチドをウサギなどの免疫動物に免疫し、一定期間の後に血液を採取し、血ぺいを除去することにより調製することが可能である。また、モノクローナル抗体は、上記タンパク質若しくはペプチドで免疫した動物の抗体産生細胞と骨腫瘍細胞とを融合させ、目的とする抗体を産生する単一クローンの細胞(ハイブリドーマ)を単離し、該細胞から抗体を得ることにより調製することができる。これにより得られた抗体は、本発明のタンパク質の精製や検出などに利用することが可能である。本発明には、本発明のタンパク質に結合する抗体が含まれる。これらの抗体を用いることにより、植物体における本発明のタンパク質の発現部位の判別、または、植物種が本発明のタンパク質を発現するか否かの判別を行うことが可能である。
【0101】
本発明のDNAを利用して形質転換植物体を作製する場合には、本発明のDNAを適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させる。この形質転換に要する期間は、従来のような交雑による遺伝子移入に比較して極めて短期間である。また、他の形質の変化を伴わない点で有利である。
【0102】
また、本発明は、本発明のベクターが導入された形質転換細胞を提供する。本発明のベクターが導入される細胞には、組み換えタンパク質の生産に用いる上記した細胞の他に、形質転換植物体作製のための植物細胞が含まれる。
植物細胞としては特に制限はなく、例えば、イネ科植物であるイネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ等、ナス科植物であるタバコ、ナス、ピーマン、トウガラシ等、カキノキ科植物であるカキ等、セリ科植物であるニンジン、セロリ、パセリ等、ユリ科植物であるユリ、タマネギ、ニラ等、アカザ科植物であるホウレンソウ等などの細胞が挙げられる。
【0103】
また本発明には、本発明の形質転換植物細胞を含む、形質転換植物体が含まれる。
【0104】
本発明の植物細胞には、培養細胞の他、植物体中の細胞も含まれる。また、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根も含まれる。植物細胞へのベクターの導入は、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など当業者に公知の種々の方法を用いることができる。形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。例えば、イネにおいては、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し植物体を再生させる方法、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し植物体を再生させる方法、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法、およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。
【0105】
本発明のDNAを含むベクターの導入により形質転換した植物細胞を効率的に選択するために、上記組み換えベクターは、適当な選抜マーカー遺伝子を含む、もしくは選抜マーカー遺伝子を含むプラスミドベクターと共に植物細胞へ導入することが好ましい。この目的に使用される選抜マーカー遺伝子は、例えば抗生物質ハイグロマイシンに耐性であるハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、カナマイシンまたはゲンタマイシンに耐性であるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、および除草剤ホスフィノスリシンに耐性であるアセチルトランスフェラーゼ遺伝子等が挙げられる。
【0106】
組み換えベクターを導入した植物細胞は、導入された選抜マーカー遺伝子の種類に従って適当な選抜用薬剤を含む公知の選抜用培地に置床し培養する。これにより形質転換された植物培養細胞を得ることができる。
【0107】
形質転換された植物細胞は、再分化させることにより植物体を再生させることが可能である。再分化の方法は植物細胞の種類により異なるが、例えば、イネであればFujimuraら(Plant Tissue Culture Lett. 2:74 (1995))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Bio/Technology 7:581 (1989))の方法やGorden-Kammら(Plant Cell 2:603(1990))が挙げられる。
【0108】
一旦、ゲノム内に本発明のDNAが導入された形質転換植物体を得ることができれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明のDNAが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、並びに該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。
上述のように、本発明のDNAもしくはベクターを植物細胞へ導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む、形質転換植物体の製造方法もまた本発明に含まれる。
【0109】
また本発明は、外来遺伝子を植物の内胚乳特異的に発現させる方法を提供する。当該方法には、本発明のプロモーターDNAまたはプロモーターDNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程が含まれる。
【0110】
また本発明の形質転換植物体の製造方法には、本発明のタンパク質の発現を阻害することを特徴とする方法も含まれる。即ち、本発明のタンパク質の発現を、上記本発明のタンパク質をコードするDNAの発現を抑制するためのDNA、または当該DNAを含むベクターの投与によって阻害する。本発明における「タンパク質の発現を阻害する」とは、タンパク質の発現を有意に抑制(減少)させることを意味する。本発明の上記「発現を抑制する」には、該タンパク質をコードする遺伝子の転写抑制、および/もしくは該遺伝子の転写産物からの翻訳抑制が含まれる。
【0111】
また本発明においては、本発明のタンパク質をコードするDNAまたは当該DNAを含むベクターを、植物体の細胞内で発現させる工程を含む、植物の内胚乳特異的に外来遺伝子の発現を誘導する方法、植物の内胚乳特異的に外来タンパク質の蓄積を誘導する方法もまた、本発明に含まれる。該方法によって、植物の内胚乳特異的に外来遺伝子の発現が誘導された植物体もしくはその種子、あるいは植物の内胚乳特異的に外来タンパク質の蓄積が誘導された植物体もしくはその種子を作製することが可能である。
【0112】
また本発明は、本発明の上記方法によって作出される植物体もしくはその種子を提供する。
例えば、
(1)人為的に作製された植物体もしくはその種子であって、本発明のタンパク質をコードするDNAまたはプロモーターDNAを有し、植物の内胚乳特異的に外来遺伝子の発現が誘導されていることを特徴とする植物体もしくはその種子、
(2)人為的に作製された植物体もしくはその種子であって、本発明のタンパク質をコードするDNAまたはプロモーターDNAを有し、植物の内胚乳特異的に外来タンパク質の蓄積が誘導されていることを特徴とする植物体もしくはその種子、
(3)人為的に作製された植物体もしくはその種子であって、本発明のタンパク質をコードするDNAの発現が抑制されていることを特徴とする植物体もしくはその種子、
は本発明に含まれる。
【0113】
また本発明は、本発明のプロモーターDNAもしくは当該プロモーターDNAを含むベクターを有効成分とする、植物の内胚乳特異的に外来遺伝子の発現を誘導する薬剤、あるいは植物の内胚乳特異的に外来タンパク質の蓄積を誘導する薬剤を提供する。
【0114】
本発明における「植物の内胚乳特異的に外来遺伝子の発現を誘導する薬剤」とは、植物の内胚乳特異的に外来遺伝子を発現させる作用を有する薬剤を言い、通常、植物の内胚乳特異的に外来遺伝子を発現させることを用途とする、本発明のプロモーターDNAもしくは当該プロモーターDNAを含むベクターを有効成分とする物質、または組成物(混合物)を指す。
【0115】
また本発明における「植物の内胚乳特異的に外来タンパク質の蓄積を誘導する薬剤」とは、植物の内胚乳特異的に外来タンパク質を蓄積させる作用を有する薬剤を言い、通常、植物の内胚乳特異的に外来タンパク質を蓄積させることを用途とする、本発明のプロモーターDNAもしくは当該プロモーターDNAを含むベクターを有効成分とする物質、または組成物(混合物)を指す。
【0116】
本発明の薬剤においては、有効成分である上記プロモーターDNAもしくは当該プロモーターDNAを含むベクター以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
【0117】
また本発明は、本発明のプロモーターDNAの活性を調節する候補化合物のスクリーニング方法を提供する。例えば、下記の工程(a)~(c)を含むスクリーニング方法である。
(a)本発明のプロモーターDNAの制御下に、レポーター遺伝子が機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択する工程
【0118】
本発明の上記スクリーニング方法においては、まず、本発明のプロモーターDNAの制御下に、レポーター遺伝子が機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる。
【0119】
本スクリーニング方法に用いるレポーター遺伝子としては、その発現が検出可能であれば特に制限はなく、例えば、CAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、およびGFP遺伝子等が挙げられる。「本発明のプロモーターDNAの制御下に、レポーター遺伝子が機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」として、例えば、このような構造が挿入されたベクターを導入した細胞が挙げられる。このようなベクターは、当業者に周知の方法により作製することができる。ベクターの細胞への導入は、一般的な方法、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法、リポフェタミン法、マイクロインジェクション法等によって実施することができる。また、染色体に該構造が挿入された細胞も含まれる。染色体への該構造の挿入は、当業者に一般的に用いられる方法、例えば、相同組み換えを利用した遺伝子導入法により行うことができる。
【0120】
また「機能的に結合した」とは、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、本発明のプロモーターDNAとレポーター遺伝子とが結合していることをいう。
【0121】
「本発明のプロモーターDNAの制御下に、レポーター遺伝子が機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液」とは、例えば、市販の試験管内転写翻訳キットに含まれる細胞抽出液に、本発明のプロモーターDNAとレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを添加したものを挙げることができる。
【0122】
本スクリーニング方法における「接触」は、「本発明のプロモーターDNAの制御下に、レポーター遺伝子が機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」の培養液に被検化合物を添加する、または該DNAを含む上記の市販された細胞抽出液に被検化合物を添加することにより行うことができる。被検化合物がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより行うことも可能である。
【0123】
本方法に用いられる被検化合物に、特に制限はない。例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、蛋白質、ペプチドなどの単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等が挙げられるが、これらに限定されない。また被検化合物は必要に応じて適宜標識して用いることができる。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識等を挙げることができる。
【0124】
本スクリーニング方法においては次いで、該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。レポーター遺伝子の発現レベルは、該レポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFP蛋白質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。
【0125】
本方法においては次いで、測定したレポーター遺伝子の発現レベルを、被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、変化させる化合物を選択する。この「変化」には低下および増強のどちらの意も含まれる。このようにして選択された化合物は、本発明のプロモーターDNAのプロモーター活性を調節するのための候補化合物となる。
【0126】
この候補化合物を用いることにより、より厳密に発現誘導制御が可能になり、植物工場における均一かつ安定した物質生産が行えるようになると考えられる。
なお、GluD-1遺伝子の発現は、転写因子RPBFの制御によって制御されているため、RPBFの発現を制御することで発現を変化させることが可能である。即ち、上記候補化合物は単独で用いるだけでなく、このRPBFと組み合わせて用いることも可能である。
【0127】
なお本発明における「胚乳組織」とは、内胚乳を少なくとも含む組織であり、さらにアリューロン層(糊粉層)またはサブアリューロン層(亜糊粉層)からなる組織のうち、一方または両方を含んでいてもよい。
【0128】
「内胚乳」とは、種子植物の種子の中で養分を貯え、胚の発生時に栄養源を与える胚乳組織の一種であり、胚嚢内に由来する組織である。特にイネ科植物では、内胚乳の周辺の細胞が形成層的作用を持ち、内側に薄い細胞壁をもつデンプン貯蔵細胞をつくり、種子が熟する頃にはこの外側の細胞層が厚壁化してアリューロン層(糊粉層)となる。本発明において「内胚乳」と記載する場合、胚乳組織においてアリューロン層およびサブアリューロン層を実質的に含まない領域を指す。
この「アリューロン層(糊粉層)」とは、糊粉粒を多量に含んだ細胞層であり、胚乳周辺部の細胞から分化したものである。また「サブアリューロン層(亜糊粉層)」とは、このアリューロン層と胚乳の間の層を指す。
【0129】
また本発明における植物は、有胚乳種子植物であればよく、好ましくは種子貯蔵タンパク質を蓄積する植物であればよい。種子貯蔵タンパク質には、特に制限は無い。
具体的な植物としては、イネ科植物では、例えばイネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ等、ナス科植物ではタバコ、ナス、ピーマン、トウガラシ等、カキノキ科植物ではカキ等、セリ科植物ではニンジン、セロリ、パセリ等、ユリ科植物ではユリ、タマネギ、ニラ等、アカザ科植物ではホウレンソウ等、が挙げられる。
【実施例】
【0130】
以下実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0131】
〔実施例1〕 新規グルテリンの同定
農業生物資源研究所ジーンバンクから取り寄せたイネ48アクセッション(表1)と、日本晴、コシヒカリ、Kasalath、Nona Bokra、コシヒカリ/Nona Bokra 染色体部分置換系統(CSSLs)(Takai, T.ら著,「Development of chromosome segment substitution lines derived from backcross between indica donor rice cultivar 'Nona bokra' and japonica recipient cultivar 'Koshihikari'.」, Breeding Science, (2007), Vol.57, p.257-261.)、日本晴/Kasalath戻し交雑自殖系統(BILs)(Lin, S.Y.ら著,「Mapping quantitative trait loci controlling seed dormancy and heading date in rice, Oryza sativa L., using backcross inbred lines.」, Theoretical and Applied Genetics, (1998), Vol.96, p.997-1003.)、グルテリン低減系統であるα-123(Iida, S.ら著,「Mutants lacking glutelin subunits in rice: Mapping and combination of mutated glutelin genes.」, Theoretical and Applied Genetics, (1997), Vol.94, p.177-183.)とLgc-1(Kusaba, M.ら著,「Low glutelin content1: A dominant mutation that suppresses the glutelin multigene family via RNA silencing in rice.」, Plant Cell, (2003), Vol.15, p.1455-1467.)を供試した。
【0132】
表1は、農業生物資源研究所ジーンバンクより入手し、供試したイネ48アクセッションのリストであり、番号(No)は図1記載の番号と対応している。
【0133】
【表1】
JP0005158639B2_000002t.gif

【0134】
上記イネ48品種の完熟種子からタンパク質を抽出し、SDS-PAGEで種子タンパク質組成を解析した。
【0135】
イネ種子タンパク質は、完熟種子1粒をマルチビーズショッカーで破砕後、600μlのタンパク質抽出バッファー[50 mM Tris-HCl (pH6.8), 4% SDS, 8 M urea, 5% 2-mercaptoethanol, 20% glycerol]中で2時間激しく攪拌し、遠心後上清を回収することにより抽出した。
【0136】
その結果、品種間で2つのバンドが明らかに多型を示した(図1)。1つは60 kDa付近のバンド(矢頭)で、ジャポニカ品種では欠失し、インディカ品種では強発現していることから、WAXYタンパク質であると考えられた(Sano, Y.ら著,「Genetic-studies of speciatioin in cultivated rice .5. Interspecific and intraspecific differentiation in the WAXY gene-expression of rice.」, Euphytica, (1986), Vol.35, p.1-9.)。2つ目はグルテリン酸性サブユニットの直下の28 kDa付近のバンド(矢印)で、ほとんどのジャポニカ品種のものがインディカ品種のものよりも泳動度が遅かった。しかしジャポニカ品種のうち、渡船2号(Wataribune 2)、渡船3号(Wataribune 3)、船木雄町(Funakiomachi)、滋賀渡船6号(Shigawatarifune 6)はインディカ品種とほぼ同じサイズのバンドを示した(図1)。
【0137】
GluA-1、GluA-2、GluB-4を欠失するα-123にはこのバンドが見られたが、全てのグルテリンが低減したLgc-1ではこのバンドが欠失していたため、この28 kDa付近のバンドがGluA-1、GluA-2、GluB-4以外の新規グルテリンである可能性が示唆された(図2A)。
【0138】
そこで全てのグルテリンを検出する抗グルテリン抗体、抗GluA抗体、抗GluB抗体、抗GluC抗体を用いてWestern blottingを行った。
【0139】
Western blottingは、SDS-PAGE後のゲルをPVDF膜に電気泳動的に転写した。各グルテリン特異的抗体との1次抗体反応は、PVDF膜はブロッキングバッファー(5%スキムミルクを含むTBS-T[25 mM Tris-HCL (pH7.5), 150 mM NaCl, および 0.05% Tween 20])中で1時間インキュベート後、1次抗体を添加し、さらに2時間インキュベートすることにより行った。2次抗体反応は、TBS-Tで洗浄後、2次抗体を含むブロッキングバッファーで1時間インキュベートすることにより行った。検出は、TBS-Tで洗浄後、ECL検出キット(GEヘルスケア)を用いてマニュアルに従い行った。
【0140】
結果、抗グルテリン抗体のみがこの28 kDa付近のバンドを検出した(図2B)。これらのことから、品種間で多型を示した28 kDa付近のバンドは新規のグルテリンであることが明らかになった。
【0141】
〔実施例2〕 新規グルテリン遺伝子のマッピング
コシヒカリ/Nona Bokra CSSLs、日本晴/Kasalath BILsの各系統の完熟種子からタンパク質を抽出し、SDS-PAGEで新規グルテリンの多型を解析し、既に報告されている遺伝子型と比較した。
その結果、新規グルテリン遺伝子が第2染色体上のマーカーRM145とR712に挟まれた約1.3 Mb内に座乗していることが明らかになった(図3A)。
【0142】
GluA-2、GluB-1、GluC-1の各グルテリン遺伝子の塩基配列をqueryにしてBLAST検索を行った。結果、イネゲノム中には15のグルテリン遺伝子が存在することが明らかになった(表2)。
【0143】
表2は、イネグルテリン遺伝子のリストである。座乗染色体、RAP locus、アクセッション番号(accession number)を示してある。
【0144】
【表2】
JP0005158639B2_000003t.gif

【0145】
BLAST検索を行って得られた15のイネグルテリン遺伝子のアミノ酸配列を、ClustalW (http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/top-j.html)を用いてマルチプルアラインメントを行った。
アミノ酸配列を用いて系統樹を作成した。系統樹はneighbor-joining法を用いて作成し、TreeViewソフトウェア(http://taxonomy.zoology.gla.ac.uk/rod/treeview.html)を用いて描画した。
【0146】
結果、15のグルテリンはGluA、GluB、GluC、GluDの4つのサブファミリーに分類することができた(図3B)。この1.3 Mb中にはGluB-1a、GluB-1b、GluB-2、GluB-6、GluD-1の5つのグルテリン遺伝子が座乗していた。
【0147】
抗GluB抗体で認識されないことから、新規のグルテリンはGluB-1a、GluB-1b、GluB-2ではないと考えられた。そのため、GluB-6、GluD-1の塩基配列を日本晴と渡船2号間で比較した。GluB-6のコーディング領域の塩基配列は完全に一致したが、GluD-1の酸性サブユニットコーディング領域に、アミノ酸置換(アスパラギン酸[日本晴]→バリン[渡船2号])を引き起こすSNP(A173T)が見つかった(図4のアスタリスク)。このSNPはKasalath、Nona BokraのGluD-1塩基配列にも保存されていた(図4のアスタリスク)。
【0148】
〔実施例3〕 GluD-1の同定
抗GluD-1抗体を作成し、日本晴、コシヒカリ、Kasalath、渡船2号の種子タンパクを供試してwestern blottingを行った。結果、日本晴、コシヒカリからは電気泳動度が遅い、Kasalath、渡船2号からは電気泳動度が早いバンドが検出され、CBB染色で検出された多型が検出された(図5)。
【0149】
また、日本晴型GluD-1と渡船2号型GluD-1の酸性サブユニットを大腸菌で発現させた。大腸菌におけるタンパク質発現のために、pET15b(Novagen)に日本晴および渡船2号のGluD-1の酸性サブユニットをコードする領域をクローニングし、大腸菌BL21(DE3)に形質転換した。OvernightExpress system (Novagen)を用い、37℃で12時間培養後、遠心し、ペレットを回収した。100μlのタンパク質抽出バッファーに懸濁後、10分間沸騰水中でインキュベートしてから、SDS-PAGE、western blottingに用いた。
【0150】
結果、CBB染色、western blottingで検出されたものとほぼ同じ大きさであった(図5)。種子タンパク質のものと比較してやや大きいのは、大腸菌内ではシグナルペプチドが切断されていないからであると考えられる。以上のことから、新規グルテリンはGluD-1によってコードされていることが証明された。
【0151】
〔実施例4〕 GluD-1の発現パターン
GluD-1の器官特異的発現をRT-PCRで調べた。
根、茎頂、葉身、花、カルスからのtotal RNAの抽出は、Trizol reagent(invitrogen)を用いて、マニュアル通りに行った。開花5,10,15,20,30日後の種子からのtotal RNAの抽出は、Takaiwaらの方法(Takaiwa, F.ら著,「A rice glutelin gene family - A major type of glutelin messenger-RNAs can be divided into two classes.」, Molecular & General Genetics, (1987), Vol.208, p.15-22.)に従って行った。
【0152】
Total RNAからの逆転写反応は、DNase I(Takara)処理後、オリゴdTプライマーとSuperScript III(invitrogen)を用いて行った。ACTINの増幅には、5'-TCCATCTTGGCATCTCTCAG-3'(配列番号:4)および5'-GTACCCGCATCAGGCATCTG-3'(配列番号:5)のプライマーセット、GluD-1の増幅には5'-GGATTGACTTTTCCTGGTTGCC-3'(配列番号:6)、5'-TTACTCTTGCAGCACCCATTCC-3'(配列番号:7)のプライマーセットを用いた。
【0153】
結果、GluD-1は種子のみで発現し、根、茎頂、葉、花、カルスでは発現していないことが明らかになった(図6A)。
【0154】
次に登熟中の種子における経時的発現パターンをNorthern blottingによって調べた。Northern blottinigは、2μgのtotal RNAを1.2%のアガロースゲル泳動後、Hybond N+(GEヘルスケア)にキャピラリブロットし、UVランプ下で固定することにより行った。検出はAlPhos Direct(GEヘルスケア)を用いて行った。
【0155】
結果、これまでに報告されている他のグルテリン遺伝子と異なり、開花後10~15日でピークを迎えることなく、登熟初期から登熟後期まで、発現が少しずつ上昇していた(図6B)。
【0156】
次に種子内における空間的発現パターンを調べるために、GluD-1コーディング領域上流(-1,679~-25 bp)、約1.7 kbをイネゲノムDNA(品種:キタアケ)からPCRで増幅し、pGPTV-HPTのGUS遺伝子の上流にクローニングした。作成したコンストラクトはアグロバクテリウム法を用いてイネ(品種:キタアケ)に形質転換した。
【0157】
形質転換体の開花7、10,15日後の種子をカミソリで縦断切断後、0.5 mM 5-ブロモ-4クロロ-3-インドリル-β-グルクロニド(X-Gluc)、20%メタノールを含む50 mM リン酸バッファーにインキュベートすることによりGUSの検出を行った。結果、GUSは胚では発現せず、胚乳のみで発現していた(図6C)。開花7日後の種子中では、GUSはアリューロン層、サブアリューロン層では発現せず、内胚乳でのみ発現していた(図6C)。開花10日後の種子中では、GUS発現領域は広がったが、やはり内胚乳のみで発現していた(図6C)。開花15日後になると、アリューロン層、サブアリューロン層を含む胚乳全体でGUS発現が観察されたが、胚での発現は見られなかった(図6C)。
【0158】
以上のことから、GluD-1プロモーターは種子内胚乳特異的発現を誘導するプロモーターであると考えられた。
【0159】
〔実施例5〕 GluD-1プロモーターの活性
形質転換体の開花17日後の種子を、10系統から4粒ずつ、液体窒素で急速凍結後、マルチビーズショッカー(安井機械)で破砕し、GUS抽出バッファー(10 mM 2-メルカプトエタノール、10 mM EDTA、0.1% SDS、0.1% Triton X-100を含む50 mMリン酸バッファー)に懸濁した。遠心後、上清10μlと1 mM 4-メチル-ウンベリフェリル-β-D-グルクロニド(4MUG)90μlを混合し、37℃で1時間インキュベートした。反応を900μlの0.2 M炭酸二ナトリウムで停止し、プレートリーダー(Beckman DTX880)でGUS活性を測定した。標準試料として4-メチルウンベリフェロン(4MU)の希釈系列を用いた。一方、牛血清アルブミン希釈系列を標準試料として、可溶タンパク質量をBradford法を用い、プレートリーダー(Beckman DTX880)で測定した。プロモーター活性は、可溶タンパク質量当たりのGUS活性として標準化して算出した。
【0160】
その結果、種子中でのGluD-1プロモーター活性は、4.1±3.3 pmoles/μg protein/minであった。一方、栄養成長期の葉では、GluD-1プロモーター活性は検出されなかった(0.001 pmoles/μg protein/min未満)。GluD-1プロモーター活性は内胚乳における発現を誘導するGlb-1プロモーター活性よりも低かったが(4.1 vs 43.5 pmoles/μg protein/min; Wuら Plant Cell Physiol (1998) 39: 885-889)、Glb-1プロモーターは栄養成長期の葉でも発現を誘導することが知られている。これまでに内胚乳特異的プロモーターとしてRAG-1(16 kDa アレルゲン)プロモーターが報告されているが、GluD-1プロモーターはこれと比べ、非常に強いものであった(4.1 vs 0.9 pmoles/μg protein/min; Wuら Plant Cell Physiol (1998) 39: 885-889)。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】イネ48アクセッションの種子タンパク質の組成を示す写真である。SDS-PAGE後、CBB染色により検出した。各レーンの上の番号は、表1の番号と対応している。左の数字は分子量を示す。グルテリン酸性サブユニット(glutelin acidic subunits)、グルテリン塩基性サブユニット(glutelin basic subunits)、グロブリン(globulin)、13 kDaプロラミン(13 kDa prolamin)を右に示す。多型を示した60 kDa (WAXY)、28 kDa (GluD-1)付近のバンドをそれぞれ矢頭、矢印で示す。
【図2】28 kDa付近のバンドが新規グルテリンであることを示す写真である。(A) グルテリン低減系統であるα-123、Lgc-1の種子タンパク質組成をSDS-PAGEによって調べた。(B) 日本晴、コシヒカリ、渡船2号、Kasalathの種子タンパク質をSDS-PAGE後、western blottingを行い、抗グルテリン抗体、抗GluA抗体、抗GluB抗体、抗GluC抗体を用いて検出した。
【図3】28 kDa付近の新規グルテリンをコードする遺伝子のマッピングとイネグルテリンの系統関係を示している。(A) 既に報告されている遺伝子型と、表現型を比較することで、座乗領域を1.3 Mb内に狭めた。(B) グルテリンのアミノ酸配列全長を用いて系統樹を作成した。
【図4】日本晴、渡船2号、Kasalath、Nona Bokra間におけるGluD-1アミノ酸配列を比較する図である。多型が見られたアミノ酸は、コンセンサスの列にて点で表示し、さらに四角の枠で囲って示す。日本晴と渡船2号間で検出された多型は、一番上の列において*(アスタリスク)で示す。
【図5】新規グルテリンがGluD-1であることを示す写真である。左の写真はSDS-PAGE後、CBB染色したもの、右の写真はwestern blottingを行い、抗GluD-1抗体で検出したものである。それぞれ左から日本晴の種子タンパク質、渡船2号の種子タンパク質、大腸菌で発現させた日本晴型GluD-1酸性サブユニット、大腸菌で発現させた渡船2号型GluD-1酸性サブユニットである。
【図6】GluD-1の発現パターンを示す写真である。(A) GluD-1が種子特異的に発現していることを示す写真である。イネの根、茎頂付近、葉身、花、開花15日後の種子、カルスから抽出したtotal RNAを逆転写して得られたcDNAを鋳型にPCRを行った。内部標準として、ACTIN遺伝子のPCRも行った。電気泳動後、エチジウムブロマイドで染色し、UVランプ下で検出した。(B) GluD-1の登熟過程における発現強度の変化を示す写真である。開花5,10,15,20,30日後の種子から抽出したtotal RNAを電気泳動し、内標であるリボソーマルRNAを検出後、ノーザンブロッティングによって検出した。(C) GluD-1プロモーターによって誘導されたGUS発現の種子内組織特異的発現部位を示す写真である。左から、開花5,7,15日後のトランスジェニック体の種子を手作業で縦断後、X-Gluc溶液中でインキュベートし、検出した。
図面
【図3】
0
【図4】
1
【図1】
2
【図2】
3
【図5】
4
【図6】
5