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明細書 :転写因子遺伝子の導入による植物の病害抵抗性の改良

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4997376号 (P4997376)
登録日 平成24年5月25日(2012.5.25)
発行日 平成24年8月8日(2012.8.8)
発明の名称または考案の名称 転写因子遺伝子の導入による植物の病害抵抗性の改良
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
C07K  14/415       (2006.01)
C07K  16/16        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 103
A01H 5/00 A
A01H 1/00 A
C07K 14/415
C07K 16/16
C12P 21/02 C
請求項の数または発明の数 15
全頁数 22
出願番号 特願2007-517912 (P2007-517912)
出願日 平成18年5月26日(2006.5.26)
国際出願番号 PCT/JP2006/310542
国際公開番号 WO2006/126671
国際公開日 平成18年11月30日(2006.11.30)
優先権出願番号 2005154731
優先日 平成17年5月26日(2005.5.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年3月18日(2009.3.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】高辻 博志
【氏名】菅野 正治
【氏名】霜野 真幸
【氏名】姜 昌杰
【氏名】加来 久敏
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100119507、【弁理士】、【氏名又は名称】刑部 俊
【識別番号】100128048、【弁理士】、【氏名又は名称】新見 浩一
【識別番号】100129506、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 智彦
【識別番号】100130845、【弁理士】、【氏名又は名称】渡邉 伸一
【識別番号】100142929、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 隆一
審査官 【審査官】幸田 俊希
参考文献・文献 QIU,Y. et al.,Cloning and analysis of expression profile of 13 WRKY genes in rice.,Chin. Sci. Bull.,2004年10月,Vol.49, No.20,pp.2159-68
CHEN,C. AND CHEN,Z.,Potentiation of developmentally regulated plant defense response by AtWRKY18, a pathogen-induced Arabidopsis transcription factor.,Plant Physiol.,2002年 6月,Vol.129, No.2,pp.706-16
SHIMONO,M. et al.,A WRKY Transcription Factor Plays a Role in BTH-inducible Disease Resistance in Rice.,Plant Cell Physiol.,2006年,Vol.47, Supplement,pp.s83
調査した分野 C12N 15/09
PubMed
CA/BIOSIS/MEDLINE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
SwissProt/PIR/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
植物の病害への抵抗性を向上させる機能を有する植物由来のタンパク質をコードする、下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と90%以上の配列の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
【請求項2】
植物が単子葉植物由来である、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
植物の病害が糸状菌性の病害である、請求項1に記載のベクター。
【請求項4】
植物の病害が細菌性の病害である、請求項1に記載のベクター。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のベクターが導入された宿主細胞。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載のベクターが導入された植物細胞。
【請求項7】
請求項6に記載の植物細胞を含む形質転換植物体。
【請求項8】
請求項7に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
【請求項9】
請求項7または8に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
【請求項10】
請求項1から4のいずれかに記載のベクターを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む、形質転換植物体の製造方法。
【請求項11】
下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAによりコードされるタンパク質。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と90%以上の配列の相同性を有するアミノ酸配列からなる、植物の病害への抵抗性を向上させる機能を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項12】
請求項5に記載の宿主細胞を培養し、該細胞またはその培養上清から組換えタンパク質を回収する工程を含む、請求項11に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項13】
請求項11に記載のタンパク質に結合する抗体。
【請求項14】
下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAを植物体の細胞内で発現させる工程を含む、植物の病害への抵抗性を向上させる方法。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と90%以上の配列の相同性を有するアミノ酸配列からなる、植物の病害への抵抗性を向上させる機能を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項15】
下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNA、もしくは請求項1から4のいずれかに記載のベクターを有効成分とする、植物の病害への抵抗性を向上させる薬剤。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と90%以上の配列の相同性を有するアミノ酸配列からなる、植物の病害への抵抗性を向上させる機能を有するタンパク質をコードするDNA。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の病害への抵抗性を向上させる機能を有する遺伝子、および、該遺伝子を含み植物の病害への抵抗性が向上した形質転換植物体に関する。さらに、該遺伝子を利用した、植物の病害への抵抗性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物生産においては一般に、高品質植物の安定生産および農薬依存度の軽減が要望されている。そのため、植物細胞融合技術や組換えDNA技術などの有用な植物バイオテクノロジー技術を利用し、病害虫および病原菌に対して抵抗性を示す植物の品種の改良、育種および開発が盛んに行われている。既に除草剤耐性を示す形質転換植物(特許文献1)、ウイルス抵抗性を示す形質転換植物(特許文献2)および害虫抵抗性を示す形質転換植物(特許文献3)が、組換えDNA技術を利用して作出されている。さらに、病原糸状菌の産生する毒素を不活化する酵素の遺伝子の導入により、病原糸状菌に対して抵抗性を示す形質転換植物(非特許文献1)や、昆虫由来の抗菌性タンパク質の遺伝子の導入により、少なくとも1つの病原菌に抵抗性を示す形質転換植物(特許文献4)、コマツナ由来の遺伝子の導入による複合病害抵抗性植物の作出(特許文献5)、チオニン遺伝子を用いた複数病害抵抗性植物の作出方法(特許文献6)、酸性型タウマチン様タンパク質遺伝子を用いた複合病害抵抗性植物の作出方法(特許文献7)のように、植物病原菌に対して抵抗性を示す形質転換植物も数種作出されている。しかしながら、単一の抵抗性遺伝子の導入によって得られる病害抵抗性は、効果が十分でないともいわれている。また、導入遺伝子が形質転換体の生育や稔性等に悪影響を及ぼす場合もあり、実用化を妨げる原因となっている。
【0003】
WRKY転写因子に関して、アラビドプシスなどの双子葉植物では病害抵抗性に関与していることなどが報告されている(非特許文献2~7)。報告されているアラビドプシスのWRKY転写因子の過剰発現体では、いずれの場合も、矮化、形態異常、葉の壊死などの望ましくない形質が表れている(WRKY6:矮化、頂芽優勢低下、葉の壊死、AtWRKY18:生長阻害、矮化、種子減少、WRKY70:形態異常、矮化)。また、WRKY転写因子はスーパー・ファミリーを形成しており(イネでは約100種)、構造上3グループに分類されている。病害抵抗性以外にも形態形成や二次代謝への関与が示唆されているものもあり、それぞれのWRKY型転写因子が個別の機能をもっていると考えられる(非特許文献8)。イネのOsWRKY遺伝子に関しては、aleurone層におけるABA応答性遺伝子発現への関与に関する報告があるが、この報告においては、病害抵抗性における機能については記述されていない(非特許文献9)。これまで、イネのOsWRKY遺伝子が、植物の病害抵抗性を向上させる報告は今まで行われていなかった。
【0004】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。

【特許文献1】特開平2-186925
【特許文献2】特開平4-330233
【特許文献3】特開平3-247220
【特許文献4】特開平7-250685
【特許文献5】特開2004-329215
【特許文献6】特開2003-88379
【特許文献7】特開2003-199448
【非特許文献1】Windhovel, U., Geiges, B., Sandmann, G. and Boger, P. (1994) Expression of Erwinia uredovora Phytoene Desaturase in Synechococcus PCC7942 Leading to Resistance against a Bleaching Herbicide. Plant Physiol. 104, 119-125.
【非特許文献2】Kalde, M., Barth, M., Somssich, I.E. and Lippok, B. (2003) Members of the Arabidopsis WRKY group III transcription factors are part of different plant defense signaling pathways. Mol. Plant Microbe Interact. 16, 295-305.
【非特許文献3】Li, J., Brader, G. and Palva, E.T. (2004) The WRKY70 transcription factor: a node of convergence for jasmonate-mediated and salicylate-mediated signals in plant defense. Plant Cell 16, 319-331.
【非特許文献4】Robatzek, S. and Somssich, I.E. (2002) Targets of AtWRKY6 regulation during plant senescence and pathogen defense. Genes Dev. 16, 1139-1149.
【非特許文献5】Yu, D., Chen, C. and Chen, Z. (2001) Evidence for an important role of WRKY DNA binding proteins in the regulation of NPR1 gene expression. Plant Cell 13, 1527-1540.
【非特許文献6】Chen, C. and Chen, Z. (2002) Potentiation of developmentally regulated plant defense response by AtWRKY18, a pathogen-induced Arabidopsis transcription factor. Plant Physiol. 129, 706-716.
【非特許文献7】Asai, T., Tena, G., Plotnikova, J., Willmann, M.R., Chiu, W.L., Gomez-Gomez, L., Boller, T., Ausubel, F.M., and Sheen, J. (2002). MAP kinase signalling cascade in Arabidopsis innate immunity. Nature 415, 977-983.
【非特許文献8】Eulgem, T., Rushton, P.J., Robatzek, S., and Somssich, I.E. (2000). The WRKY superfamily of plant transcription factors. Trends in Plant Sci. 5, 199-206.
【非特許文献9】Xie, Z., Zhang, Z.L., Zou, X., Huang, J., Ruas, P., Thompson, D. and Shen, Q.J. (2005) Annotations and Functional Analyses of the Rice WRKY Gene Superfamily Reveal Positive and Negative Regulators of Abscisic Acid Signaling in Aleurone Cells. Plant Physiol. 137, 176-189.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物の病害への抵抗性を向上させる機能を有する遺伝子、および、該遺伝子を含み植物の病害への抵抗性が向上した形質転換植物体を提供することにある。また、該遺伝子を植物体の細胞内で発現させる工程を含む、植物の病害への抵抗性を向上させる方法の提供を課題とする。さらに、該遺伝子を有効成分とする、植物の病害への抵抗性を向上させる薬剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、植物の病害への抵抗性に関与する遺伝子の解析を行った。その結果、植物が本来もつ全身獲得性抵抗性(SAR)を活性化することによって、すなわち病害抵抗性を植物に誘導すると考えられている薬剤 benzothiadiazole(以下、BTHと表記することもある)でイネを処理することにより、イネの葉身に誘導される転写因子遺伝子OsWRKY45を見出した。さらに、該遺伝子をイネに再導入して恒常的に発現させることによって、イネのいもち病および白葉枯病菌に対する抵抗性が顕著に向上することを明らかにした。また、OsWRKY45過剰発現がイネの生育に及ぼす影響は比較的小さく、適当な形質転換系統を選ぶことで、生育をほとんど犠牲にすることなくイネの病害抵抗性を高められることが明らかとなった。BTHは、病原体感染時に植物本来の抵抗性反応が有効に発揮されるように、植物自体の能力を高める役割を果たしている(potentiation)。OsWRKY45過剰発現によって高い病害抵抗性が付与されるにもかかわらず生長への影響がわずかであるという事実や、OsWRKY45過剰発現体におけるPR遺伝子の発現特性がBTH処理時と類似しているという事実から、OsWRKY45過剰発現はBTHの作用をかなり忠実に再現していると考えられる。したがって、OsWRKY45は他のWRKY遺伝子とは作用が異なると考えられる。
【0007】
これまでに、OsWRKY45遺伝子はABA誘導性遺伝子発現制御への関与が報告されているが、BTH応答性や病害抵抗性に関する知見はなく、転写因子の遺伝子を単子葉植物(イネ)に導入して病害抵抗性を高めた事例はこれまでに報告されてこなかった。
【0008】
また、抵抗性遺伝子の導入による病害抵抗性改良の試みは、従来、単一の抵抗性遺伝子(worker gene)を導入することによって行われていたが、抵抗性への効果が不十分であるとされてきた。本発明では、転写因子の遺伝子を導入することで、該転写因子遺伝子の下流で制御されている複数の抵抗性遺伝子(worker gene)が統括的に発現誘導され、その結果病原抵抗性が強く発現したものと考えられる。本発明のように、転写因子により複数の抵抗性関連遺伝子を同時に発現誘導させ、イネの病害への抵抗性の向上を試みた例はこれまでに報告されていない。
【0009】
即ち、本発明者らは植物の病害への抵抗性を向上させる転写因子遺伝子を単離することに成功した。さらに、該転写因子遺伝子を植物体で過剰に発現させることにより、植物の病害への抵抗性を向上させることに成功し、これにより本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、より具体的には以下の(1)~(17)を提供するものである。
(1)植物の病害への抵抗性を向上させる機能を有する植物由来のタンパク質をコードする、下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
(2)植物が単子葉植物由来である、(1)に記載のDNA。
(3)植物の病害が糸状菌性の病害である、(1)に記載のDNA。
(4)植物の病害が細菌性の病害である、(1)に記載のDNA。
(5)(1)から(4)のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
(6)(5)に記載のベクターが導入された宿主細胞。
(7)(5)に記載のベクターが導入された植物細胞。
(8)(7)に記載の植物細胞を含む形質転換植物体。
(9)(8)に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
(10)(8)または(9)に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
(11)(1)から(4)のいずれかに記載のDNAを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む、形質転換植物体の製造方法。
(12)(1)から(4)のいずれかに記載のDNAによりコードされるタンパク質。
(13)(6)に記載の宿主細胞を培養し、該細胞またはその培養上清から組換えタンパク質を回収する工程を含む、(12)に記載のタンパク質の製造方法。
(14)(12)に記載のタンパク質に結合する抗体。
(15)配列番号:1に記載の塩基配列またはその相補配列に相補的な少なくとも15の連続する塩基を含むポリヌクレオチド。
(16)(1)から(4)のいずれかに記載のDNAを植物体の細胞内で発現させる工程を含む、植物の病害への抵抗性を向上させる方法。
(17)(1)から(4)のいずれかに記載のDNA、もしくは()に記載のベクターを有効成分とする、植物の病害への抵抗性を向上させる薬剤。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】BTH処理によるOsWRKY45遺伝子の発現誘導を示す図である。3.5葉期のイネにBTH処理を行い、経時的に葉からRNAを調製してノーザン解析に供したものである。比較のために2種類のPR遺伝子(PR1b,PBZ1)についても発現誘導を検討した。
【図2】イネに導入したDNAコンストラクトの構造を示す図である。
【図3】グロースチャンバー生育OsWRKY45過剰発現体イネのいもち病抵抗性を示す写真および図である。A:4葉期のOsWRKY45過剰発現系統(OsWRKY45-ox)と非形質転換体にいもち病(race 007)を接種した後7日目の第4葉における病斑形成を示す写真である。B:4葉期のOsWRKY45過剰発現系統4系統にいもち病(race 007)を接種し、7日後の第4葉における病斑数を進展型病斑と停止型病斑に分類して計数した結果を示す図である。
【図4】温室生育OsWRKY45過剰発現体イネのいもち病抵抗性を示す図である。3月に播種したOsWRKY45過剰発現体イネを温室内で生育させ、実施例5と同様にいもち菌接種および病斑計数を行った。進展型病斑のみを計数した。( )内の標記は、導入遺伝子に関してヘテロ(+/-)であるか、またはホモ(+/+)であるかを示す。
【図5】OsWRKY45過剰発現体イネの生育状態を示す写真および図である。A:5系統のOsWRKY45過剰発現体イネのT2ホモ系統を温室にて生育させ、各系統6-8個体について、播種後7週間目における葉齢、草丈、分げつ数を調査した結果を示す図である。B:最も良い生育を示した系統(#23)と野生型イネの外観を示す写真である。
【図6】グロースチャンバーおよび温室で生育させたOsWRKY45過剰発現イネおよびBTH処理野生型イネにおけるPR遺伝子の発現を示す写真である。A:OsWRKY45過剰発現イネにおける発現を示す写真である。B:BTH処理野生型イネにおける発現を示す写真である。
【図7】OsWRKY45 RNAi用プラスミドの構造を示す図である。
【図8】OsWRKY45発現抑制体におけるBTHによるいもち病抵抗性誘導の結果を示す図である。BTH処理、無処理の非形質転換体イネおよびBTH処理したOsWRKY45 発現抑制体イネにいもち菌を接種し、7日後に各個体の葉身中央10 cm長における病斑を計数した。
【図9】OsWRKY45過剰発現体イネの白葉枯病抵抗性を示す写真および図である。A:非形質転換体およびOsWRKY45過剰発現体における白葉枯病斑を示す写真である。各5個体の第8葉の病徴を示す。B:非形質転換体およびOsWRKY45過剰発現体における白葉枯病斑長。非形質転換体12個体およびOsWRKY45過剰発現体11個体の第8葉の病斑長の平均±標準偏差を示す図である。
【図10】NPR1のイネ・ホモログNH1のRNAi抑制体におけるOsWRKY45の発現を示す写真である。NH1のRNAi抑制体2系統(#7および#14)をBTH処理およびmock処理し、PR1bおよびOsWRKY45の発現誘導をRT-PCRで調べた。

【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、植物の病害への抵抗性を向上させる機能を有する植物由来のタンパク質をコードするDNAを提供する。
本発明において、「植物の病害」とは、糸状菌(主にカビ)、細菌、ウイルスなどの病原体によって引き起こされる植物の生理障害に相当し、農業生産や生態環境を損なう危険性のあるものをいう。病原体は特に限定されず、上記3つの病原体の他に、放線菌類、藻類、ファイトプラズマ(植物病原微生物)等による病害も存在する。
本発明において、病害が発症する植物は特に限定されるものではないが、好ましくは単子葉植物であり、より好ましくはイネ科植物であり、最も好ましくはイネである。
【0013】
以下、植物の病害の代表的な3つの病原体(糸状菌、細菌、ウイルス)、およびこれらの病原体による病害の態様を説明する。本発明の「病害」は特に制限されないが、以下に説明する病害のいずれかであってもよい。
【0014】
糸状菌は、多細胞の「菌糸」から成る微生物で、胞子を作って増殖する。キチン質による強固な細胞壁を持ち、そのため薬剤に強いとされている。糸状菌は、形態・性質などにより、藻菌類(カビ)、不完全菌類(カビ)、子のう菌類(カビ・キノコ)、担子菌類(キノコ)に分類される。藻菌類はさらに、鞭毛菌類、接合菌類に分かれている。
糸状菌類の病害には様々な症状が存在し、茎葉に病斑を作るものや腐敗させるもの、地際や根を侵して立ち枯れを招くもの、コブなどのできものを作るもの、などがある。糸状菌性の病態の大きな傾向としては、発病部分に粉のようなカビや、黒い粒々(菌核=菌糸の塊)を生じることがよくある。イネにおける糸状菌性の代表的な病害としては、イネ褐色米病、イネ褐色菌核病、イネ褐色米病、イネ黄化萎縮病、イネ褐色葉枯病、イネ褐色小粒菌核病、イネ眼斑病、イネ黒しゅ病、イネごま葉枯病、イネシナモン色かび病、イネ小球菌核病、イネシナモン色かび病、イネ墨黒穂病、イネ赤色菌核病などを挙げることが出来る。実施例におけるモデル病態であるイネいもち病も、糸状菌性病害にあたるが、この病態に制限されるものではない。
【0015】
細菌は、一個の細胞から成る微生物で、種類によってさまざまな形状をしている。細菌は、水中を泳いで移動し、株にできた傷口や、葉裏の気孔などから植物体に侵入する。細菌性の病害には、茎葉を腐敗させるもの、急な立ち枯れを招くもの、がんしゅ状のできものを作るもの、などがある。病態の大きな傾向としては、病斑の輪郭がやや不鮮明で、病斑の周辺が黄色く変色する傾向が挙げられる。イネにおける細菌性の代表的な病害としては、イネ褐条病、イネ白葉枯病、イネ内穎褐変病、イネもみ枯細菌病、イネ苗立枯細菌病などを挙げることが出来る。実施例におけるモデル病態であるイネ白葉枯病は、細菌性病害にあたるが、この病態に制限されるものではない。
【0016】
ウイルスは、基本的に核酸とタンパク質から成り、種類により様々な形状を持つ。DNAまたはRNAのいずれか一方しか持たず、他の生物の細胞内に侵入し、その細胞の核酸合成・タンパク質合成機能を利用しなければ増殖できない。ウイルスに性質が似ており、同様の病害をもたらすものとして、ウイロイドというものが存在する。ウイロイドは、核酸部分はRNAのみでタンパク質を持たず、ウイルスよりさらに小型である。ウイルスやウイロイドによる病害は、多くの場合、葉や花に淡い斑模様が入るモザイク症状や、萎縮・変形などの奇形化、小さな褐色の壊疽斑点などを伴う。また、株全体が黄色くなって小型化し、著しく生育が阻害されることもある。イネにおけるウイルス性の代表的な病害としては、イネ黒条萎縮病、イネトランジトリーイエローイング病、イネわい化病などを挙げることが出来る。
【0017】
本発明において、「植物の病害への抵抗性を向上させる」とは、本発明の遺伝子を植物内で発現させることにより、上記に記載の病害の症状が生じないようにする、もしくは症状が生じにくくなる効果を植物に獲得させることをいう。また、病原体に対する抵抗力を向上させ、病原体の感染を低下させるという効果にも相当する。
病害への抵抗性の向上効果は、植物の生存期間内は継続的に続く効果であってもよいし、ある一定期間(例えば、生育初期段階のみ)に発現する効果であってもよい。
また、複数の病原体に対して抵抗性を持つものであってもよいし、ある特定の病原体にのみ抵抗性を持つものであってもよい。
【0018】
本発明の「植物の病害への抵抗性を向上させる機能を有する植物由来のタンパク質」としては、好ましくは転写因子、より好ましくは転写因子WRKYを挙げることが出来る。
本発明の転写因子遺伝子のcDNAの塩基配列を配列番号:1に、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。
本発明の転写因子は、植物の病害への抵抗性を向上させる作用を有していることから、該タンパク質をコードするDNAで植物を形質転換することにより、病原体に対する抵抗力を持った植物の育成が可能である。
【0019】
本発明のDNAには、ゲノムDNA、cDNA、および化学合成DNAが含まれる。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、本発明の転写因子を有するイネ品種からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作成し、これを展開して、本発明の転写因子タンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:1)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、本発明の転写因子タンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:1)に特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRをおこなうことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、本発明の転写因子を有するイネ品種から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0020】
本発明は、配列番号:2に記載の転写因子タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを包含する。ここで「転写因子タンパク質と同等の機能を有する」とは、対象となるタンパク質が植物の病害に対する抵抗性を向上させる機能を有することを指す。このようなDNAは、好ましくは単子葉植物由来であり、より好ましくはイネ科植物由来であり、最も好ましくはイネ由来である。
【0021】
このようなDNAには、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする変異体、誘導体、アレル、バリアントおよびホモログが含まれる。
【0022】
アミノ酸配列が改変されたタンパク質をコードするDNAを調製するための当業者によく知られた方法としては、例えば、site-directed mutagenesis法が挙げられる。また、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは、自然界においても生じ得る。このように天然型の転写因子タンパク質をコードするアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであっても、天然型の転写因子タンパク質(配列番号:2)と同等の機能を有するタンパク質をコードする限り、本発明のDNAに含まれる。また、たとえ、塩基配列が変異した場合でも、それがタンパク質中のアミノ酸の変異を伴わない場合(縮重変異)もあり、このような縮重変異体も本発明のDNAに含まれる。
【0023】
あるDNAが植物の病害への抵抗性を向上させる機能を有するタンパク質をコードするか否かは以下のようにして評価することができる。最も一般的な方法としては、該DNAが導入された植物に、病害を引き起こすことが分かっている既知の病原体を添加し、グロースチャンバーで栽培しながら、その後の病態を調べる手法である。病原体を添加したにも関わらず、病害の症状が表れない場合には、導入したDNAが植物の病害への抵抗性を向上させる機能を有するタンパク質をコードしていることが分かる。病害の症状を抑制・減少していた場合であっても、植物の病害への抵抗性を向上させる機能を有するタンパク質をコードするDNAが導入されたと解釈してもよい。
【0024】
配列番号:2に記載の転写因子タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを調製するために、当業者によく知られた他の方法としては、ハイブリダイゼーション技術やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者にとっては、転写因子遺伝子の塩基配列(配列番号:1)もしくはその一部をプローブとして、また転写因子遺伝子(配列番号:1)に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、イネや他の植物から転写因子遺伝子と高い相同性を有するDNAを単離することは通常行いうることである。このようにハイブリダイズ技術やPCR技術により単離しうる転写因子タンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNAもまた本発明のDNAに含まれる。
【0025】
このようなDNAを単離するためには、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行う。本発明においてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、6M尿素、 0.4%SDS、0.5xSSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指す。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4%SDS、0.1xSSCの条件を用いることにより、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。これにより単離されたDNAは、アミノ酸レベルにおいて、転写因子タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:2)と高い相同性を有すると考えられる。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%,96%,97%,98%,99%以上)の配列の同一性を指す。アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J. Mol. Biol. 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0026】
本発明のDNAは、例えば、組み換えタンパク質の調製や病害に対する抵抗性が向上した形質転換植物体の作出などに利用することが可能である。
【0027】
組み換えタンパク質を調製する場合には、通常、本発明のタンパク質をコードするDNAを適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを適当な細胞に導入し、形質転換細胞を培養して発現させたタンパク質を精製する。組み換えタンパク質は、精製を容易にするなどの目的で、他のタンパク質との融合タンパク質として発現させることも可能である。例えば、大腸菌を宿主としてマルトース結合タンパク質との融合タンパク質として調製する方法(米国New England BioLabs社発売のベクターpMALシリーズ)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として調製する方法(Amersham Pharmacia Biotech社発売のベクターpGEXシリーズ)、ヒスチジンタグを付加して調製する方法(Novagen社のpETシリーズ)などを利用することが可能である。宿主細胞としては、組み換えタンパク質の発現に適した細胞であれば特に制限はなく、上記の大腸菌の他、例えば、酵母、種々の動植物細胞、昆虫細胞などを用いることが可能である。宿主細胞へのベクターの導入には、当業者に公知の種々の方法を用いることが可能である。例えば、大腸菌への導入には、カルシウムイオンを利用した導入方法を用いることができる。宿主細胞内で発現させた組み換えタンパク質は、該宿主細胞またはその培養上清から、当業者に公知の方法により精製し、回収することが可能である。組み換えタンパク質を上記のマルトース結合タンパク質などとの融合タンパク質として発現させた場合には、容易にアフィニティー精製を行うことが可能である。また、後述する手法で、本発明のDNAが導入された形質転換植物体を作成し、該植物体から本発明のタンパク質を調製することも可能である。
【0028】
得られた組換えタンパク質を用いれば、これに結合する抗体を調製することができる。例えば、ポリクローナル抗体は、精製した本発明のタンパク質若しくはその一部のペプチドをウサギなどの免疫動物に免疫し、一定期間の後に血液を採取し、血ぺいを除去することにより調製することが可能である。また、モノクローナル抗体は、上記タンパク質若しくはペプチドで免疫した動物の抗体産生細胞と骨腫瘍細胞とを融合させ、目的とする抗体を産生する単一クローンの細胞(ハイブリドーマ)を単離し、該細胞から抗体を得ることにより調製することができる。これにより得られた抗体は、本発明のタンパク質の精製や検出などに利用することが可能である。本発明には、本発明のタンパク質に結合する抗体が含まれる。これらの抗体を用いることにより、植物体における本発明のタンパク質の発現部位の判別、もしくは植物種が植物の病害への抵抗性を向上させるタンパク質を発現するか否かの判別を行うことが出来る。
【0029】
本発明のDNAを利用して植物の病害への抵抗性が向上した形質転換植物体を作製する場合には、本発明のタンパク質をコードするDNAを適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させる。本発明者等により単離された転写因子遺伝子は、植物の病害への抵抗性を向上させる作用を有するが、この転写因子遺伝子を任意の品種に導入し過剰に発現させることによりそれらの系統の病害への抵抗性を向上させることが可能である。この形質転換に要する期間は、従来のような交配による遺伝子移入に比較して極めて短期間であり、また、他の形質の変化を伴わない点で有利である。
【0030】
また、本発明は、上記本発明のDNAが挿入されたベクターを提供する。本発明のベクターとしては、組み換えタンパク質の生産に用いる上記したベクターの他、形質転換植物体作製のために植物細胞内で本発明のDNAを発現させるためのベクターも含まれる。このようなベクターとしては、植物細胞で転写可能なプロモーター配列と転写産物の安定化に必要なポリアデニレーション部位を含むターミネーター配列を含んでいれば特に制限されず、例えば、プラスミド「pBI121」、「pBI221」、「pBI101」(いずれもClontech社製)などが挙げられる。植物細胞の形質転換に用いられるベクターとしては、該細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクターや外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることも可能である。ここでいう「植物細胞」には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。
【0031】
本発明のベクターは、本発明のタンパク質を恒常的または誘導的に発現させるためのプロモーターを含有しうる。恒常的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター、イネのアクチンプロモーター、トウモロコシのユビキチンプロモーターなどが挙げられる。
【0032】
また、誘導的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布などの外因によって発現することが知られているプロモーターなどが挙げられる。このようなプロモーターとしては、例えば、糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入によって発現するイネキチナーゼ遺伝子のプロモーターやタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーター、低温によって誘導されるイネの「lip19」遺伝子のプロモーター、高温によって誘導されるイネの「hsp80」遺伝子と「hsp72」遺伝子のプロモーター、乾燥によって誘導されるシロイヌナズナの「rab16」遺伝子のプロモーター、紫外線の照射によって誘導されるパセリのカルコン合成酵素遺伝子のプロモーター、嫌気的条件で誘導されるトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。また、イネキチナーゼ遺伝子のプロモーターとタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーターはサリチル酸などの特定の化合物によって、「rab16」は植物ホルモンのアブシジン酸の散布によっても誘導される。
【0033】
また、本発明は、本発明のベクターが導入された形質転換細胞を提供する。本発明のベクターが導入される細胞には、組み換えタンパク質の生産に用いる上記した細胞の他に、形質転換植物体作製のための植物細胞が含まれる。植物細胞としては特に制限はなく、例えば、イネ、シロイヌナズナ、トウモロコシ、ジャガイモ、タバコなどの細胞が挙げられる。本発明の植物細胞には、培養細胞の他、植物体中の細胞も含まれる。また、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根も含まれる。植物細胞へのベクターの導入は、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など当業者に公知の種々の方法を用いることができる。形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。例えば、イネにおいては、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(インド型イネ品種が適している)を再生させる方法、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(日本型イネ品種が適している)を再生させる方法、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法、およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。
【0034】
形質転換された植物細胞は、再分化させることにより植物体を再生させることが可能である。再分化の方法は植物細胞の種類により異なるが、例えば、イネであればFujimuraら(Plant Tissue Culture Lett. 2:74 (1995))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Bio/Technology 7:581 (1989))の方法やGorden-Kammら(Plant Cell 2:603(1990))が挙げられ、ジャガイモであればVisserら(Theor.Appl.Genet 78:594 (1989))の方法が挙げられ、タバコであればNagataとTakebe(Planta 99:12(1971))の方法が挙げられ、シロイヌナズナであればAkamaら(Plant Cell Reports 12:7-11 (1992))の方法が挙げられ、ユーカリであれば土肥ら(特開平8-89113号公報)の方法が挙げられる。
【0035】
一旦、ゲノム内に本発明のDNAが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明のDNAが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、並びに該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。
【0036】
このようにして作出された病害への抵抗性が向上した植物体は、野生型植物体と比較して、病原体への抵抗性が向上している。例えば、転写因子OsWRKY45をコードするDNAが導入された植物体は、いもち病菌に対して非常に高い抵抗性を示すことが明らかになった。本発明の手法を用いれば、有用農作物であるイネにおいては、無農薬栽培が可能となり、環境破壊の予防や生産性の向上に繋がるものと考えられる。
【0037】
また、本発明は、配列番号:1に記載の塩基配列またはその相補配列に相補的な少なくとも15の連続する塩基を含むポリヌクレオチドを提供する。ここで「相補配列」とは、A:T、G:Cの塩基対からなる2本鎖DNAの一方の鎖の配列に対する他方の鎖の配列を指す。また、「相補的」とは、少なくとも15個の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70% 、好ましくは少なくとも80% 、より好ましくは90% 、さらに好ましくは95% 以上の塩基配列の同一性を有すればよい。このようなDNAは、本発明のDNAの検出や単離を行なうためのプローブとして、また、増幅を行なうためのプライマーとして有用である。
【0038】
本発明は、該DNA、もしくは該ベクターを有効成分とする、植物の病害への抵抗性を向上させる薬剤に関する。
本発明の薬剤においては、有効成分であるDNAまたはベクター以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕BTHによって発現誘導される転写因子遺伝子の検出
BTHによって発現誘導される転写因子遺伝子を検出するために、播種後10日目のイネの幼苗(3.5葉期)に対して0.5 mM BTH (0.01% Tween20/0.5%アセトン0.5 mM BTHを処理し、BTH処理およびmock処理したイネの葉から経時的(12,24、72、120時間)に調整したRNAを用いてイネ22Kアレイ(Agilent)によるマイクロアレイ解析を行った。その結果、BTH処理によって発現誘導を受けるWRKY型転写因子遺伝子(OsWRKY45,AK066255,配列番号:1および2)を見出した。ノーザンブロッティング解析の結果、OsWRKY45はBTH処理後3時間以内に発現誘導を受けることを見出した(図1)。
【0040】
〔実施例2〕OsWRKY45遺伝子高発現ベクターの作製
OsWRKY45遺伝子を植物で構成的に発現させるためのベクターは以下のような手順で作製した。まず、pUCAP/35S-NT (Kapoor et al. 2002) をHindIII-BamHIで切断し、pAHC27 (Christensen and Quail 1996) 由来のトウモロコシUbi-1 プロモーターを含むHindIII-BamHI断片を挿入した。次に、このプラスミドをUbi-1 プロモーターと Nosターミネーターの間のBamHI-SacIで切断し、相補的オリゴ DNA (top 鎖:5'-GATCTGGCCAAATCGGCCGGTACCGGATCCGCGGCCGCGAGTC(配列番号:3)及びbottom 鎖:CGCGGCCGCGGATCCGGTACCGGCCGATTTGGCCA (配列番号:4)をアニールしたもの)を挿入してUbi-1 プロモーターと Nosターミネーターの間にSfiI、BamHI部位を有するpUCAP/Ubi-NT を作製した。pUCAP/Ubi-NT をSfiI-BamHIで切断し、OsWRKY45遺伝子の完全長 cDNA を含むSfiI-BamHI断片を挿入した。最後に、このプラスミドをHindIII-PacIで切断し、HindIII-PacIで切断した pZH1 に挿入し、OsWRKY45遺伝子高発現ベクター pZH-Ubi-W45-NT を作製した(図2)。
【0041】
〔実施例3〕OsWRKY45遺伝子高発現ベクターのAgrobacterium tumefaciens EHA101株への導入
プラスミドpZH-Ubi-W45-NTをAgrobacterium tumefaciens EHA101株に導入するために、Agrobacterium tumefaciens EHA101株を、5mlのYEB培地(0.1%酵母抽出物、0.5%肉抽出物、0.5%ペプトン、0.5%スクロース、0.05%MgSO4・7H2O)において、30℃で一晩振盪培養した。次いで、1リットルフラスコ中で200mlのYEB培地に5mlの上記培養物を加え、さらに30℃で5~6時間培養した。遠心分離(4000rpmで5分間)により菌体を集め、そして100mlの10mM Tris-HCl(pH 8.0)中に懸濁した。再度、遠心分離を行い、得られた菌体を2mlのYEB培地中に懸濁した。微量遠心チューブ中でこの懸濁液の200μlと0.5μgのpBE7133H-Thioninを含む100μlのDNA溶液とを混合し、ドライアイス/エタノール浴中で凍結させた(5分間)。次いで、37℃の温浴中で融解し、25分間放置した。その後、2mlのYEB培地を添加し、30℃で1時間、振盪培養した。100μlの培養液をカナマイシン(50μg/ml)およびハイグロマイシン(50μg/ml)を含有するYEB培地上に塗布し、そして30℃で約36時間の培養によりAgrobacterium tumefaciens EHA101株の耐性菌を得た。このAgrobacterium tumefaciens EHA101株中のチオニン発現カセットをアルカリ-SDS法により単離して、制限酵素分析によりその存在および構造を確認した。
【0042】
〔実施例4〕形質転換イネの作製
滅菌したイネの種子を、2mg/mlの2.4-ジクロロフェノキシ酢酸(以下2.4-D)を含むMS培地(T. Murashige et al., Physiol. Plant., 15, 473 (1962))で27℃で2週間培養し、カルスを形成させた。このカルスを共存培地(2mg/ml 2.4-Dおよび1g/l カザミノ酸を含むMS培地)に移植し、27℃で培養を行った。培養3日目に、カナマイシンおよびハイグロマイシンを含むYEB培地で上記チオニン発現カセットを含むAgrobacterium tumefaciens EHA101株を増殖させ、遠心分離した。ペレット化した菌体をLB培地に懸濁させた後、アセトシリンゴンを添加して感染用のAgrobacterium tumefaciens EHA101株菌液を作製した。この菌液を30℃で20分間保温した。培養4日目に感染用Agrobacterium tumefaciens EHA101株菌液に上記カルス塊を加え、30℃で15分間緩やかに撹拌して、このカルス塊を感染させた。15分後にカルスを回収し、共存培地に置床した。27℃、16時間日長で3日間培養し、次いで、カルベニシリンを含むLB培地にて30℃で1時間培養し、その後、カルスのみを回収して選抜(増殖)培地(500mg/l カルベニシリン、50mg/l ハイグロマイシンを含む共存培地)に置床した。これを、27℃、16時間日長で2週間培養した。新たに増殖してきた黄白色のカルスを選抜(再分化前処理)培地(1mg/l 2.4-D、0.5mg/l BAP、2g/l カザミノ酸、20g/l ショ糖、30g/l ソルビトール、500mg/l カルベニシリン、100mg/l ハイグロマイシンを含むN6培地)に移植し、約2週間培養した後、選抜(再分化)培地(0.01mg/l β-ナフタレン酢酸(NAA)、0.1mg/l BAP、1g/l カザミノ酸、500mg/lカルベニシリン、100mg/lハイグロマイシンを含むN6培地)に移植した。約2~3週間で再分化した形質転換イネが得られた。
【0043】
〔実施例5〕OsWRKY45過剰発現体によるいもち病抵抗性の変化の検定(グロースチャンバー内)
OsWRKY45過剰発現体によるいもち病抵抗性の変化を検定するために、播種後グロースチャンバー内における生育15日目のOsWRKY45過剰発現体と非形質転換体のイネ幼苗(4葉期)にいもち菌(race 007)を接種し、7日後に第4葉中心付近5cm長における病斑数を計数した。4系統のOsWRKY45過剰発現体(OsWRKY45-ox)のT1世代について検定した結果、いもち病感染による病斑数が非形質転換体に比べて顕著に減少しており(図3)、いもち病抵抗性が改善していることがわかった。これらの形質転換体は発芽後2,3葉期までの初期生育に若干の遅延を示し、栽培条件によって軽微な疑似病斑が出現したが、それ以外は、非形質転換体と同様に生育した。また、稔実率について顕著な影響は認められない。これらのことからOsWRKY45過剰発現による植物生長等への影響は少ないものと考えられる。
【0044】
〔実施例6〕OsWRKY45過剰発現体によるいもち病抵抗性の変化の検定(温室内)
実施例5では、グロースチャンバーにて生育させたOsWRKY45過剰発現イネにおいて、いもち病抵抗性が発現したことを示した。本実施例では、生育条件が抵抗性発現に及ぼす影響を調べるため、温室内で生育させたOsWRKY45過剰発現イネについても、実施例5と同様にいもち病検定を行った。その結果、温室で生育したOsWRKY45過剰発現イネも、グロースチャンバーで生育させた場合と同じく、顕著ないもち病抵抗性を示した(図4)。
【0045】
〔実施例7〕OsWRKY45過剰発現がイネの生育に及ぼす影響の検定
OsWRKY45過剰発現が形質転換体の生育に及ぼす影響を調べるため、いもち病抵抗性を示した形質転換体(5系統)のT2ホモ個体を温室で生育させ、播種後7週目における生育を調査した。その結果、葉齢、草丈、分げつ数の3項目において、4系統(#15, 19, 21, 24)には若干の生育遅延が認められたが、系統#23は非形質転換体とほとんど変わらない数値を示した(図5)。これらの結果は、OsWRKY45過剰発現がイネの生育に及ぼす影響は比較的小さく、適当な形質転換系統を選ぶことで、生育をほとんど犠牲にすることなくいもち病抵抗性を高められることを示している。これは実用レベルで本遺伝子の利用を考える際の重要なポイントである。
【0046】
〔実施例8〕病害抵抗性マーカーPR遺伝子の発現確認
PR遺伝子の発現はしばしば病害抵抗性応答のマーカーとして用いられる。そこで2種類のPR遺伝子(PR1b,PR2)の発現を、2つの異なる環境(グロースチャンバーおよび温室)で育てたOsWRKY45過剰発現体イネについて調べた(図6)。OsWRKY45 (AK066255,塩基番号1126-1426)、PR-1b (AK107926,塩基番号577-793)、PR2 (AK070677,塩基番号1095-1295) のcDNAをそれぞれプローブとし、異なる条件で生育させたイネから抽出したRNAを用いて、ノーザン・ブロッティングによって発現解析した。
その結果、グロースチャンバー生育OsWRKY45過剰発現イネでは両PR遺伝子が恒常的に発現していたのに対し、温室生育OsWRKY45過剰発現イネではいずれのPR遺伝子の発現も認められなかった。この結果は、生育条件に関わらず高いいもち病抵抗性が認められた結果(実施例5および実施例6)と対照的である。同様のPR遺伝子の発現の生育条件依存性は、非形質転換体イネをBTH処理した場合にも認められた。この結果は、BTHの作用(potentiation)がOsWRKY45過剰発現によって再現されていることを強く支持している。
【0047】
〔実施例9〕RNAiによるOsWRKY45-発現抑制体の作製といもち病検定
RNAiによりOsWRKY45の発現を抑制した形質転換イネを作製するため、下記の方法によりプラスミドを構築した。OsWRKY45 cDNAの3’非翻訳領域の一部(塩基番号1047-1535)をPCR増幅し、pANDA ベクター(Miki, D., and Shimamoto, K. (2004). Simple RNAi vectors for stable and transient suppression of gene function in rice. Plant Cell Physiol. 45, 490-495.、Miki, D., Itoh, R., and Shimamoto, K. (2005). RNA silencing of single and multiple members in a gene family of rice. Plant Physiol. 138, 1903-1913.)中のユビキチン・プロモーターの下流に、リンカー配列(GUS)をはさんでアンチセンス、センス配列の順に配置されるように挿入した(図7)。プラスミド構築の手順は、中間ベクターとしてpENTRの代わりにpDONR207を用いた以外は、Mikiらの手順に従って行った(Miki, D., and Shimamoto, K. (2004). Simple RNAi vectors for stable and transient suppression of gene function in rice. Plant Cell Physiol. 45, 490-495.、Miki, D., Itoh, R., and Shimamoto, K. (2005). RNA silencing of single and multiple members in a gene family of rice. Plant Physiol. 138, 1903-1913.)。
【0048】
BTH処理によってイネに誘導されるいもち病抵抗性に対し、OsWRKY45発現抑制が及ぼす影響を調べるために、RNAiによるOsWRKY45発現抑制を確認した形質転換系統および非形質転換体イネに対し、4葉期に0.5 mM BTHをスプレー処理し、2日後に親和性いもち病菌(race 007)を接種した。7日後に各個体の葉身中央10 cm長における病斑を計数したところ、BTH処理した非形質転換体イネには病斑がほとんど出ていないのに対し、BTH処理したOsWRKY45発現抑制イネには、無処理の非形質転換体イネと同程度の数の病斑が認められた。この結果は、イネにおけるBTHによるいもち病抵抗性誘導に、OsWRKY45が主要な役割を果たしていることを示している(図8)。
【0049】
〔実施例10〕OsWRKY45過剰発現体によるイネ白葉枯病抵抗性の変化の検定
OsWRKY45過剰発現体イネがイネ白葉枯病菌に対して抵抗性を示すか否かを、剪葉接種法(Kauffman, 1973)を用いて評価した。すなわち、イネ白葉枯病菌T7174株(レースI代表菌株)を脇本培地において25℃で2日間斜面培養後、滅菌蒸留水で希釈し、108 cfu/mlの濃度の細菌浮遊液とし、これを接種源とした。接種は供試イネ(播種後48日)完全展開葉の葉の先端から約5cmを接種源に漬けた外科用鋏で剪除して行った。接種イネは隔離温室で管理し、接種後2週間後に葉先からの病斑長を測定した。その結果、OsWRKY45過剰発現体イネ(T2ホモ個体)では、対照の非形質転換体(日本晴)に較べて、病斑の進展が顕著に抑制されていた(図9)。この結果から、OsWRKY45過剰発現体イネは、イネ白葉枯病に対しても強い抵抗性を示すことが明らかになった。
【0050】
〔実施例11〕NPR1のイネ・ホモログNH1のRNAi抑制体におけるOsWRKY45の発現
最近、アラビドプシスでは、WRKY型転写因子の一つであるWRKY70の導入により、糸状菌Erysiphe cichoracearumに対する抵抗性が高まることが報告された (Li, J., Brader, G., Kariola, T., and Palva, E.T. (2006). WRKY70 modulates the selection of signaling pathways in plant defense. Plant J. 46, 477-491.)。アラビドプシスのWRKY70は、病害抵抗性シグナル伝達経路のキー因子であるNPR1の変異体npr1では、サリチル酸による発現誘導が著しく低下している。このことから、WRKY70はNPR1の下流の転写因子と考えられる。そこでWRKY70とOsWRKY45の機能の比較のため、NPR1のイネ・ホモログであるNH1(Chern, M., Fitzgerald, H.A., Canlas, P.E., Navarre, D.A., and Ronald, P.C. (2005). Overexpression of a rice NPR1 homolog Leads to constitutive activation of defense response and hypersensitivity to light. Mol. Plant-Microbe Int. 18, 511-520.)のRNAi抑制体において、PR1bおよびOsWRKY45のBTHによる発現誘導を調べた。その結果、NH1 のRNAi抑制体では、PR1bのBTH発現誘導は完全に失われているが、OsWRKY45の発現誘導はまったく影響を受けないことが示された(図10)。このことは、OsWRKY45は、NH1の下流ではないことを示しており、OsWRKY45とWRKY70の機能は異なることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明において、イネの転写因子OsWRKY45の遺伝子が病害防御用薬剤BTHに発現応答することを見出し、この遺伝子をイネに導入し、ユビキチン・プロモーター制御下に高発現させることによって、いもち病抵抗性が顕著に高まることが示された。
OsWRKY45導入形質転換体は、初期生育時における若干の生育遅延と軽微な擬似病斑形成が見られたのみで、生育および稔実率に関して顕著な悪影響は認められない。病害への抵抗性効果、副作用の低さの両面でBTH等の病害予防薬剤に匹敵することから、現場で用いられる実用技術に発展する可能性があるものと考えられる。
【0052】
本発明の方法を発展させて実用化できれば、減農薬農業が可能になり、経済性および安全性における効果は大きいものと考えられる。
図面
【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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