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明細書 :難培養性微生物の培養方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5374750号 (P5374750)
公開番号 特開2009-195124 (P2009-195124A)
登録日 平成25年10月4日(2013.10.4)
発行日 平成25年12月25日(2013.12.25)
公開日 平成21年9月3日(2009.9.3)
発明の名称または考案の名称 難培養性微生物の培養方法
国際特許分類 C12N   1/02        (2006.01)
FI C12N 1/02
請求項の数または発明の数 3
全頁数 10
出願番号 特願2008-038090 (P2008-038090)
出願日 平成20年2月19日(2008.2.19)
審査請求日 平成22年12月15日(2010.12.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
発明者または考案者 【氏名】田中靖浩
【氏名】森 一博
審査官 【審査官】太田 雄三
参考文献・文献 日本生物工学会大会講演要旨集,2007年 8月 2日,平成19年度,p. 177, 2H11-2
日本生物工学会大会講演要旨集,2005年 9月25日,平成17年度,p. 89, 2B15-4
日本生物工学会大会講演要旨集,2004年 8月25日,平成16年度,p。167, 2E10-5
調査した分野 C12N 1/02
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CiNii
WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
微生物を含有する環境サンプルを用意し、無菌ウキクサ科植物の根を前記環境サンプルの溶液に一定期間浸し、前記根に微生物を付着させ、共培養した後、前記根に付着した微生物を採取し、この微生物を微生物分離・培養用培地にて培養した後、前記微生物分離・培養用培地より分離することを特徴とする難培養性微生物の分離方法。
【請求項2】
前記環境サンプルを採取された環境が、淡水、海水、堆積物および土壌からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の難培養性微生物の分離方法。
【請求項3】
前記無菌ウキクサ科植物がウキクサ科のSpirodela polyrrhizaであることを特徴とする請求項1又は2に記載の難培養性微生物の分離方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、自然環境中生息しているが、培養困難な微生物(難培養性微生物)の培養方法、及び分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自然環境中には多くの微生物が生息しており、その種類は300,000~1,000,000種にのぼると言われている(Tiedge; ASM News 60, 524-525(1994))。
微生物を分離、培養化する方法としては平板培養法が最も多く用いられているが、これまでに、この方法をベースとした様々な培養方法によって単離した微生物の中から、産業上有用な微生物が数多く分離され、利用されてきた。
しかし、蛍光顕微鏡を用いた分離源中の全菌数計数法の確立により、自然環境中に存在する微生物のほとんどが従来の微生物分離、培養法では培養困難な、いわゆる難培養性微生物であることが明らかとなってきた。
例えば、様々な環境試料中の顕微鏡観察による全菌数に対する平板培養法での生菌数は海水で0.0001~0.1%、湖沼水で0.25%、活性汚泥で1~15%、土壌で0.3%に過ぎないという報告がある(Amann; Microbiol. Rev. 59, 143-169(1995))。
また、主に16S rRNA遺伝子に基づいた分子生物学的手法により、従来の培養法で培養されていない難培養生微生物の多くは未知の新規微生物であることが推察されている。(Hugenholtz; J. Bacteriol. 180, 4765-4774(1998))。
即ち、実際には数千程度の種の数しか培養されてはいないのが実体であり、大部分の天然の微生物は実験室での培養が難しいのが現状である。このような“非培養種”は天然のすべての微生物の99~99.99%にものぼるともいわれている。
このような未知の新規微生物には未だに知られていない新規な機能を有するものが存在すると想定され、それらの食品産業、医薬品産業、水質浄化等の環境保全、医療分野等への利用が強く望まれている。
難培養性微生物を分離、培養化する技術に関しては、例えばカタラーゼやシステイン化合物等を含む平板培地を用いる方法が知られている。(特許文献1)。
しかし、自然環境中に生息する多種多様な難培養性微生物の中にはこのような方法によっても分離、培養化できないものがまだ数多く存在することが想定される。
これらの難培養性微生物が培養困難な理由としては、例えば、自然環境中で共生関係を構築している他の生物(微生物、植物、動物、昆虫等)が分離培養時に欠落している、分離培養に用いる培地の栄養条件の最適化が不十分である等が挙げられる。
一方、われわれの研究により、ウキクサ科の植物は様々な水環境、例えば、水田、池、沼、湖、河川等に広く分布する浮遊性の水生植物であるが、例えば、ウキクサ(学名:Spirodela polyrrhiza)の場合、その根から、試料として用いた個体が生息していた自然環境から分離、培養される微生物と比べて、より多くの種類の微生物が分離、培養され、その30~35%が新種微生物であるという知見が得られた。
このことから、ウキクサはそれらが生息する水環境中に分布する難培養性微生物を培養可能な状態にする能力を持つ可能性が示唆されるが、その能力を利用した種々の環境試料からの難培養性微生物の分離、培養化に関する知見はこれまでに全く報告されていない。
【0003】

【特許文献1】特開2004-89016 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の微生物分離、培養法では培養困難な、いわゆる難培養性微生物を増殖させることのできる培養方法があれば、微生物の有効な利用を図ることが可能になる。本発明は、このような技術的背景の下になされたものであり、従来の培地では培養、分離することが困難であった難培養性微生物に対しても効率的に増殖させることのできる微生物の培養方法、及び分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の難培養性微生物の培養方法は、自然界に存在し、培養困難な微生物(以下、難培養性微生物)を、無菌ウキクサ科植物の根に付着させ、前記無菌ウキクサ科植物とともに液体培地にて培養することを特徴とする。また、前記液体培地による培養の後、前記ウキクサ科植物の根から微生物を採取し、微生物分離・培養用培地により培養することを特徴とする。
この方法によれば、従来の培養法では培養化できない微生物であっても、培養することができる。
ここで、前記無菌ウキクサ科植物がウキクサ科のSpirodela polyrrhizaであることは好ましい。また、前記微生物分離・培養用の培地が軟質寒天であることは好適であり、前記軟質寒天濃度は1.5%程度であることが好ましい。
本発明の難培養性微生物の分離方法は、試験すべき環境サンプルを用意し、無菌ウキクサ科植物の根を前記環境サンプルの溶液に一定期間浸した後、前記無菌ウキクサ科植物の根に付着した微生物を採取し、この微生物を微生物分離・培養用培地にて培養した後、前記微生物分離・培養用培地より分離することを特徴とする。
本発明によって分離した新規微生物は、これまでに知られていない代謝機能、遺伝子を有することも考えられるため、医薬品生産、食品生産等に利用できる新規な有用物質生産微生物あるいは遺伝子の取得が見込める。
前記サンプルを採取された環境が、淡水、海水、堆積物および土壌からなる群から選ばれるものであっても良い。また、前記無菌ウキクサ科植物がウキクサ科のSpirodela polyrrhizaであることは好ましい。前記微生物分離・培養用の培地が軟質寒天であることは好適であり、前記軟質寒天濃度は1.5%程度であることが好ましい。
本発明の微生物の分離・培養方法と従来の有用微生物の分離・培養法を組み合わせることにより、新規な有用微生物を効率的に取得できる。
本発明で用いる微生物分離用培地に環境汚染物質を単一炭素源などとして適当量添加することにより、その物質を分解でき、且つ分類的に新規な微生物が得られる。このようにして取得した微生物を利用することにより、新規な環境修復技術等の開発が可能となる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、従来の分離、培養方法では培養することが困難であった難培養性微生物を分離、培養することができる。また、本発明によれば、医薬品生産、食品生産、排水処理など様々な産業に利用可能な新規微生物の取得が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。微生物の分離は平板培養法による好ましい代表例を示して、これを中心に説明するが、本発明がこれに限定されることはない。
ここで、本発明でいう自然環境とは主に、湖沼水、河川水、海水、土壌、植物、動物等の環境を意味する。また、病院、食品工場における空気、汚水処理施設の活性汚泥、果汁等の食品加工産業原料、さらに金属表面等の人工的環境も自然環境も含めた広義のものである。
本発明で使用する培地の組成は特に限定されず、通常の微生物分離、培養法で使用されるものを使用する。具体的に培地を例示すれば、Tryptic Soy Broth(BD社)、Nutrient Broth(BD社)、Luria-Bertani Broth(BD社)、R2A培地(WAKO社)、Standard Methods medium(BD社)等の培地、あるいは、それらの培地組成に修正を加えたものが好適である。
特定の微生物群、例えば酵母、酢酸菌、乳酸菌等の分離を目指す場合にはGYMP培地(グルコース 1%、酵母エキス 0.5%、麦芽エキス 0.3%、ペプトン 0.5%、pH6.0)等を用いるのが好適である。
通常、自然環境中から微生物を分離するには、湖沼水等の特定の分離源から試料を採取し、採取した試料を段階的に希釈後、平板培地に塗抹し、一定時間培養して培地上に形成されるコロニーを採取する方法(平板培養法)、あるいは一旦液体培地で集積培養を行なった後、平板培養法で分離する方法(集積培養法)が用いられる。
本発明の、自然環境中に分布するものの、培養が困難な微生物とは、上記の方法では培養できない微生物群をいい、本明細書においては難培養性微生物と称する。
本発明で使用するウキクサ科植物は、根に微生物が生息せず、無菌状態となったものであり、以下、ウキクサ科植物と称する。なお、無菌ウキクサはウキクサの冬芽を次亜塩素酸ナトリウム処理することによって作出が可能である。
本発明では、自然環境試料中の微生物を分離する際、試料中の微生物をウキクサ科植物の根に付着させ、水生植物栽培用の液体培地、例えばToyamaらによって報告された培地(.J. Biosci. Bioeng. 101, 346-353(2006);以下、修正Hoagland nutrient培地と称する)にて一定時間共培養した後、ウキクサ科植物の根部あるいはウキクサ科植物全体を分離源として通常の微生物培養法にて微生物を分離する。微生物培養法としては上記の平板培養法、集積培養法などを用いることができる。
ウキクサ科植物への自然環境試料の接種は水生植物栽培用培地、例えば修正Hoagland nutrient培地等が入った培養ポットにウキクサ科植物15株程度と試料を適当量加え、人工気象機内にて25℃で1日間放置することによって行なえば良い。なお、用いる自然環境試料が液体の場合は、これに直接、無菌ウキクサ科植物15株程度を浮かべ、上記と同様に人工気象機内で1日間放置してもよい。
上記のウキクサ科植物との共培養法を用いることにより、試料から直接、平板培養法により微生物を分離する従来の方法と比較して、取得できる微生物の種類が6倍まで向上する。
本発明で取得された微生物分離株の16S rRNA遺伝子の塩基配列を解析し、データーベース上における既知微生物との相同性比較をBLAST search program(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/)等を用いて行なったところ、既知菌種との相同性が97%以下を示す新規微生物が多数取得されていることが確認できた。
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0008】
自然環境試料中の微生物をウキクサ科植物の一種であるウキクサの根を無菌とした無菌ウキクサに接種した後、共培養を行なう期間の最適条件について検討した。池より採取した自然環境水300 mlが入った培養ポットに無菌ウキクサ15株を投入し、25℃に設定した人工気象機内にて24時間インキュベートすることにより、自然環境水中の微生物を無菌ウキクサの根に付着させた。
その後、無菌ウキクサのみを採取し、300 mlの修正Hoagland nutrient培地が入った培養ポットに入れ、人工気象機内で25℃にて10日間の共培養を行なった。この培養期間中、0日目、1日目、3日目、7日目、10日目に3株ずつ無菌ウキクサを採取し、根部分を分離源とした微生物の分離を平板培養法により行なった。
無菌ウキクサはウキクサの休眠芽(冬芽)を有効塩素濃度0.5%の次亜塩素酸ナトリウム溶液で殺菌処理したものを水生植物栽培用培地、例えば修正Hoagland nutrient培地等で栽培し、植物体を形成させることによって作出することができる。
ウキクサの根部分からの微生物の分離については、次のように行なった。まず、採取したウキクサ3株を30 mlの修正Hoagland nutrient培地にて洗浄し、根部分のみを滅菌済みのカミソリで切断した後、10 mlの修正Hoagland nutrient培地とともにNissei社製のAce HOMOGENIZER AM-1にてホモジナイズ処理(15000 rpmで5分間)した。
その後、このホモジナイズ溶液を一般的な微生物分離培養用培地であるTryptic Soy Broth(BD社)を100倍希釈した培地(以下、1/100 TS培地と称する)にて段階希釈後、希釈液0.1 mlを1/100 TS培地に1.5%の寒天を加えた平板培地に塗抹し、25℃で30日間培養した。
上記の平板培養法により、自然環境水中の微生物を接種後0日目、1日目、3日目、7日目、10日目の無菌ウキクサ根からの微生物分離を行なったところ、図1に示すように7日目の無菌ウキクサ根において最も高いコロニー形成数が見られた。このことから、本実施例においては、環境試料中の微生物と無菌ウキクサとの共培養期間は7日間が最も良いと判断された。
【実施例2】
【0009】
実施例1で使用した自然環境水中から通常の平板培養法で何種類の微生物が取得できるかについて検討した。まず、実施例1で使用したものと同じ自然環境水を1/100 TS培地にて段階希釈後、希釈液0.1 mLを1/100 TS寒天平板培地に塗抹し、25℃で培養した。30日間の培養後、平板培地上に出現したコロニーの中からランダムに31株を選択し、微生物の16S rRNA遺伝子増幅用プライマー(Kane et al.; Appl. Environ. Microbiol. 59, 682-686(1993)、Weisburg et al.; J. Bacteriol. 173, 697-703(1991))を用いたコロニーPCR法によって各菌株の16S rRNA遺伝子を取得した。
得られた16S rRNA遺伝子断片を制限酵素HhaI、AfaI(TaKaRa社)によるRFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)解析に供し、取得した微生物株を遺伝子レベルでグループ分けした。その結果、自然環境水中から取得した微生物株は図2に示すように3グループに分けられることが示された。
【実施例3】
【0010】
ウキクサ科植物との共培養法を用いることにより、何種類の微生物が取得できるかについて検討した。自然環境水を無菌ウキクサに接種後、共培養7日後のウキクサ根から平板培養法によって分離された微生物(実施例1で得られた微生物)の中からランダムに27株を選択し、実施例2と同様に16S rRNA遺伝子をコロニーPCR法によって取得し、つづいて、制限酵素HhaI、AfaIを用いたRFLP解析を行なった。
その結果、図2に示すように、この方法によって得られた微生物は18種類であり、ウキクサとの共培養法を用いない場合、すなわち、環境水から直接、平板培養法によって微生物の分離を試みた場合(実施例2の結果)と比べて、取得できる微生物の種類が6倍に向上することが明らかとなった。
このことは本発明の方法が難培養性微生物の培養化に有効であることを示すものである。なお、通常の平板培養法においては分離培養された微生物2グループ(図2のRFLPグループAおよびB)に関しては、本発明のウキクサ科植物との共培養法では取得されなかったが、その理由としてはこれらのグループに属する微生物がウキクサの根に付着しなかった、ウキクサ根上で他種の微生物に駆逐された等が想定される。
【実施例4】
【0011】
実施例1で取得した微生物の新規性を評価するために、従来の平板培養法およびウキクサ科植物との共培養法によって取得した計20種類の微生物について16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定し、データーベースに登録されている既知菌種との比較を行なった結果を図3に示す。Stackbrandtらによれば、既知種との16S rRNA遺伝子の相同性が97%以下であれば新種であることが明確であるとされている(Int. J. Syst. Bacteriol. 44, 846-849(1994))。
そこで、これを基準として、取得した微生物の新規性を評価したところ、図4に示すように、通常の平板培養法と比べて、本発明では新規微生物種の取得率が著しく向上していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明によれば、従来の微生物分離、培養法では取得できなかった新規な、産業上有用な微生物を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】無菌ウキクサ科植物との共培養日数とコロニー形成数との関係を示した図である。
【図2】無菌ウキクサ科植物との共培養法にて取得した微生物のRFLP解析結果を示した図である。
【図3】無菌ウキクサ科植物との共培養法にて取得した微生物と近縁既知微生物との比較を示した図である。
【図4】本発明と従来の平板培養法とで培養したときの新規微生物種の取得率を示した図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3