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明細書 :抗CD38抗体を細胞表面に有する免疫担当細胞

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5328018号 (P5328018)
登録日 平成25年8月2日(2013.8.2)
発行日 平成25年10月30日(2013.10.30)
発明の名称または考案の名称 抗CD38抗体を細胞表面に有する免疫担当細胞
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C07K  16/46        (2006.01)
C07K  16/28        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 102
C07K 16/46
C07K 16/28
請求項の数または発明の数 8
全頁数 21
出願番号 特願2008-520593 (P2008-520593)
出願日 平成19年6月5日(2007.6.5)
国際出願番号 PCT/JP2007/061386
国際公開番号 WO2007/142241
国際公開日 平成19年12月13日(2007.12.13)
優先権出願番号 2006156595
優先日 平成18年6月5日(2006.6.5)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年6月2日(2010.6.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】三原 圭一朗
個別代理人の代理人 【識別番号】100076439、【弁理士】、【氏名又は名称】飯田 敏三
【識別番号】100141771、【弁理士】、【氏名又は名称】星野 宏和
審査官 【審査官】吉田 知美
参考文献・文献 特表2003-524587(JP,A)
国際公開第2005/103083(WO,A1)
特表平10-509876(JP,A)
Leukemia,2004年,Vol.18,p.676-684
blood,2004年,Vol.104, No.11, Pt.1,p.895a-896a,Abstract# 3277
Cancer Res.,2004年,Vol.64,p.1490-1495
調査した分野 C12N 15/09
C07K 16/28
C07K 16/46
C12N 5/10
C12N 7/00
A61K 39/00
A61P 35/00
WPI/BIOSIS(DIALOG)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
JSTPlus(JDreamII)
MEDLINE(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
抗CD38抗体の一部をコードするDNAを遺伝子導入し、細胞表面に、前記の、抗CD38抗体の一部を発現させた免疫担当細胞であって、前記の、抗CD38抗体の一部をコードするDNAが、CD8αのシグナルペプチドをコードする塩基配列、配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、リンカー塩基配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、CD8αのヒンジ及び膜貫通ドメインをコードする塩基配列、4-1BB細胞内ドメインをコードする塩基配列、並びにCD3ζ鎖をコードする塩基配列を順次連結してなり、前記の、抗CD38抗体の一部が、配列番号1で表されるアミノ酸配列を軽鎖の一部に、配列番号2で表されるアミノ酸配列を重鎖の一部に、それぞれ有する、免疫担当細胞。
【請求項2】
免疫担当細胞が、T細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ又は多形核白血球である、請求項に係る免疫担当細胞。
【請求項3】
下記(a)のアミノ酸配列を軽鎖可変部領域に有し、かつ、下記(c)のアミノ酸配列を重鎖可変部領域に有する、抗CD38抗体であって、CD8αのシグナルペプチドをコードする塩基配列、配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、リンカー塩基配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、CD8αのヒンジ及び膜貫通ドメインをコードする塩基配列、4-1BB細胞内ドメインをコードする塩基配列、並びにCD3ζ鎖をコードする塩基配列を順次連結してなるDNAを用いて発現させ、配列番号1で表されるアミノ酸配列を軽鎖の一部に、配列番号2で表されるアミノ酸配列を重鎖の一部にそれぞれ有する、抗CD38抗体。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列
【請求項4】
抗CD38抗体を産生するハイブリドーマから単離した抗CD38抗体をコードするmRNAを用いて、抗CD38抗体のcDNAを増幅し、その増幅したcDNAをレトロウイルスベクターに挿入し、該遺伝子挿入された該ベクターをパッケージング細胞にトランスフェクションすることにより、抗CD38抗体発現レトロウイルス粒子を産生するパッケージング細胞を作製し、該パッケージング細胞から放出された該レトロウイルス粒子を、ヒト免疫担当細胞に感染させる工程を含んでなる、抗CD38抗体を細胞表面に発現させた免疫担当細胞の作製方法であって、前記抗CD38抗体のcDNAが、CD8αのシグナルペプチドをコードする塩基配列、配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、リンカー塩基配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、CD8αのヒンジ及び膜貫通ドメインをコードする塩基配列、4-1BB細胞内ドメインをコードする塩基配列、並びにCD3ζ鎖をコードする塩基配列を順次連結してなり、前記抗CD38抗体が、配列番号1で表されるアミノ酸配列を軽鎖の一部に、配列番号2で表されるアミノ酸配列を重鎖の一部にそれぞれ有する、免疫担当細胞の作製方法。
【請求項5】
抗CD38抗体が、請求項に係る抗体である、請求項に係る免疫担当細胞の作製方法。
【請求項6】
パッケージング細胞が下記(a)又は(c)のアミノ酸配列をコードするDNAを有する組換えレトロウイルスの粒子を産生するパッケージング細胞である、請求項又はに係る免疫担当細胞の作製方法。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列
【請求項7】
免疫担当細胞が請求項1から2のいずれか1項に係る細胞である、請求項4~6のいずれか1項に係る免疫担当細胞の作製方法。
【請求項8】
レトロウイルス粒子が感染したヒト免疫担当細胞から前記の、抗CD38抗体の一部を発現させる際、抗CD38抗体を共存させることを特徴とする、請求項4~7のいずれか1項に係る免疫担当細胞の作製方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、抗CD38抗体を発現し、該抗体を細胞表面に有する遺伝子工学的免疫担当細胞に関し、特に抗CD38抗体を発現し、該抗体を細胞表面に有する細胞傷害性ヒトT細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
CD38(Cluster of Differentiation 38)抗原は分子量45kDaの膜貫通型糖タンパク質であり、形質細胞、PreB細胞等の表面マーカーである。
前記CD38抗原は細胞の分化、活性化、免疫応答の制御、アポトーシス等に関与していて、例えば、T細胞、B細胞等においては発生の初期に発現し、成熟とともに消失するが、活性化すると再び発現することが知られている。
上述のように正常な細胞でも発現しているCD38抗原は、骨髄腫(例えば、多発性骨髄腫)細胞、悪性リンパ腫細胞、白血病細胞の表面などで、正常な細胞に比べ高発現していることが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
上述したような多発性骨髄腫等における治療技術の開発という観点から、CD38抗原に対する抗体、いわゆる抗CD38抗体の遺伝子がクローニングされ、ヒト化した抗CD38抗体の報告があり、イン ビトロでその抗体を培養器中に入れた場合、単核球(モノサイト)の貪食能を調べた報告がある(非特許文献2)。
しかしながら、CD38抗原を免疫担当細胞の細胞表面上に、抗CD38抗体を発現させたという報告はない。そして、抗CD38発現免疫担当細胞が、同抗原(CD38)を高発現する、骨髄腫細胞、悪性リンパ腫細胞、白血病細胞に対する効果を検討した報告もされていない。
【0004】
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【0005】

【非特許文献1】サイトメトリー(Cytometry)、46:23-27,2001
【非特許文献2】ザ・ジャーナル・オブ・イミュノロジィ(The Journal of Immunology)、J.H.Ellis等,1995,155:925-937
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、抗CD38キメラ抗体遺伝子を有するDNA構築体の配列の概略を示す図である。
【図2】図2は、抗CD38抗体発現レトロウイルスベクター中にL鎖遺伝子及びH鎖遺伝子が存在することを確認した電気泳動図である。
【図3】図3は、FACSCalibur(商品名、ベクトン・ディッキンソン社製)を用いて計測したEGFPと抗マウスIgG抗体—perCPとの発現パターンを示す2次元プロットである。
【図4】図4は、抗CD38抗体を細胞表面に有するヒトT細胞株の機能評価試験の結果を示すグラフである。
【図5】図5は、抗CD38抗体によるアポトーシスの抑制を示す概略図である。
【図6】図6は、抗CD38抗体(THB7)による自己アポトーシス抑制試験の結果を示すグラフである。
【図7】図7は、抗CD38抗体発現細胞の抗腫瘍効果の評価試験の結果を示す写真である。
【発明の開示】
【0007】
本発明の課題は、骨髄腫細胞、悪性リンパ腫細胞、白血病細胞等に特異的に細胞傷害性を有する抗CD38抗体を細胞表面に発現させた遺伝子工学的免疫担当細胞を提供することにある。さらに、本発明の課題は、T細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、多形核白血球等の任意の免疫担当細胞に感染しうるレトロウイルス粒子を産生する細胞を提供することにある。
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、クローニングした抗CD38抗体遺伝子をレトロウイルスベクターに組み込み、得られたレトロウイルスベクターでレトロウイルス用パッケージング細胞にトランスフェクションし、抗CD38抗体発現レトロウイルス粒子産生細胞を作製し、これを用いることで産生された前記レトロウイルス粒子でT細胞等を感染させることができ、抗CD38抗体を細胞表面に発現させた免疫担当細胞を遺伝子工学的に製造できることを見出した。本発明はこの知見に基づきなされるに至ったものである。
【0009】
本発明によれば、以下の手段が提供される:
(1)抗CD38抗体の一部をコードするDNAを遺伝子導入し、細胞表面に抗CD38抗体を発現させた免疫担当細胞、
(2)抗CD38抗体が、その可変部領域に下記(a)又は(b)のアミノ酸配列を有する抗体である、前記(1)項に記載の免疫担当細胞:
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1で表される1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列、
(3)抗CD38抗体が、その重鎖可変部領域に、下記(c)又は(d)のアミノ酸配列を有する抗体である、前記(1)又は(2)項に記載の免疫担当細胞:
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列、
(d)配列番号2で表される1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列、
(4)抗CD38抗体の一部をコードするDNAに、下記(b)のアミノ酸配列をコードするDNA及び(d)のアミノ酸配列をコードするDNAが導入された、前記(1)項に記載の免疫担当細胞:
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列の1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列、
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列の1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列、
【0010】
(5)抗CD38抗体が、配列番号1で表されるアミノ酸配列を軽鎖の一部に、配列番号2で表されるアミノ酸配列を重鎖の一部に、それぞれ有する、前記(1)項に記載の免疫担当細胞、
(6)免疫担当細胞が、T細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ又は多形核白血球である、前記(1)乃至(5)のいずれか1項に記載の免疫担当細胞、
【0011】
(7)下記(a1)、(b1)、(c1)または(d1)のタンパク質:
(a1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質、
(b1)配列番号1で表される1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質、
(c1)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質、及び
(d1)配列番号2で表される1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質、
(8)下記(a)、(b)、(c)または(d)のアミノ酸配列をコードするDNA:
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1で表される1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列、及び
(d)配列番号2で表される1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列、
(9)下記(a)、(b)、(c)または(d)のアミノ酸配列をコードするDNAを有する組換えレトロウイルス:
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1で表される1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列、及び
(d)配列番号2で表される1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列、
(10)前記(9)項に記載の組換えレトロウイルスの粒子を産生するパッケージング細胞、
【0012】
(11)下記(a)又は(b)のアミノ酸配列を軽鎖可変部領域に有し、かつ、下記(c)又は(d)のアミノ酸配列を重鎖可変部領域に有する、抗CD38抗体:
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列の1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列、
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列の1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列、
【0013】
(12)抗CD38抗体を産生するハイブリドーマから単離した抗CD38抗体の一部をコードするmRNAを用いて、抗CD38抗体のcDNAを増幅し、その増幅したcDNAをレトロウイルスベクターに挿入し、該遺伝子挿入された該ベクターをパッケージング細胞にトランスフェクションすることにより、抗CD38抗体発現レトロウイルス粒子を産生するパッケージング細胞を作製し、該パッケージング細胞から放出された該レトロウイルス粒子を、ヒト免疫担当細胞に感染させる工程を含んでなる、抗CD38抗体を細胞表面に発現させた免疫担当細胞の作製方法、
(13)抗CD38抗体が、前記(11)項に記載の抗体である、前記(12)項に記載の免疫担当細胞の作製方法、
(14)cDNAが、前記(8)項に記載のDNAである、前記(12)または(13)項に記載の免疫担当細胞の作製方法、
(15)パッケージング細胞が前記(10)項記載の細胞である、前記(12)から(14)のいずれか1項に記載の免疫担当細胞の作製方法、
(16)免疫担当細胞が前記(1)から(6)のいずれか1項に記載の細胞である、前記(12)から(15)のいずれか1項に記載の免疫担当細胞の作製方法、および
(17)レトロウイルス粒子が感染したヒト免疫担当細胞から抗CD38抗体を発現させる際、抗CD38抗体を共存させることを特徴とする、前記(12)から(16)のいずれか1項に記載の免疫担当細胞の作製方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[本発明の概略]
従来のがん化学療法剤は、その問題点として、がん細胞のみならず、正常細胞や正常組織への抗がん剤による攻撃する作用があるため、強い抗がん作用は、強い副作用につながるという本質的に解決できない問題が存在する。本発明は、このような問題を解決しようとする一つの有用な手段を提供するものである。
本発明は、細菌、ウイルス等外来から侵入した異物又は体内から自発的に生じたがん細胞のような正常でない細胞に対して細胞傷害機能を有する免疫担当細胞の性質を利用したものであるため、免疫担当細胞の中でも細胞傷害機能を有する、T細胞、NK細胞、マクロファージ、多形核白血球等を、好んで、用いるものである。しかし、本発明の免疫担当細胞には、生体内で体液性抗体を通常産生しているBリンパ球は含まれない。前記のような細胞傷害機能をもつ免疫担当細胞を用いて、その細胞表面に、別のリンパ球の有するCD38抗原に対する抗体(抗CD38抗体)を、高い密度で発現させたものである。かかる細胞は、CD38抗原を細胞表面に多く有する、悪性リンパ腫、骨髄腫等のがん細胞に対して強い親和性を有するため、かかる抗体を発現させた細胞を患者体内に戻すことにより、当該がん細胞に容易に結合し、結合後は本来もつ細胞傷害性機能により、がん細胞を殺傷することによりがんを治療するものである。
【0015】
単に、抗体を全身投与又は局所に相当量を投与するという治療法が、従来行われており、現在もそのような治療法が抗体療法の主流である。しかし、このような治療法は、異なる個体で作られた抗体の全身投与又は局所投与からくる拒絶反応や、がん細胞の表面抗原の変化や親和性の低下による治療効果の低下ということを本質的な問題を有している。
本発明は、抗体の患者への全身投与というような使用方法ではなく、患者から採取した免疫担当細胞の細胞表面上に該抗体を発現し得るように遺伝子的に加工したものを同一患者に戻すという手法に関するものである。これにより、従来の抗体の全身投与でみられた副作用、がん抗原の変化に伴う、抗がん効果の低下という問題を解決する有力な手法を提供することができる。
【0016】
〔用途〕
本発明の、抗CD38抗体を細胞表面に有する免疫担当細胞は、CD38抗原を正常な細胞に比べて高発現している悪性リンパ腫瘍等の異常な細胞を標的とするものである。その標的としての異常な細胞の具体例として、骨髄腫細胞、悪性リンパ腫細胞、その他CD38抗原を多く発現する白血病細胞、自己免疫疾患における形質細胞をあげることができる。
以下に、本発明の免疫担当細胞について、詳細に説明する。本発明の免疫担当細胞は、遺伝子操作手法により、抗CD38抗体をその免疫担当細胞の細胞表面上に発現させたものである。
【0017】
〔免疫担当細胞〕
本発明の免疫担当細胞として用いることのできる細胞は、ヒトのがん治療の場合は、移植による拒絶反応を防ぐため、同種であるヒトの細胞を用いることが必要であり、また、同種であって、かつ、同一個体から得られた免疫担当細胞を用いなければならない。ただし、本発明の免疫担当細胞には、単にCD38抗原に対する体液性抗体を産生するBリンパ球は、除かれる。
動物へこの免疫担当細胞を応用する場合も、当該同種動物の(治療する個体と)同一個体からの免疫担当細胞を用いることが好ましい。したがって、本発明をヒト臨床において用いる場合の免疫担当細胞は、治療を試みようとする、悪性リンパ腫、骨髄腫等の患者と同一人から採取したものを使用することが好ましい。血液の採取方法は、どのような方法でもよいが、採取の便宜、簡便さの観点から、末梢血液を用いることが好ましい。血液の採取量は少量であればよく、50mlから400mlの採取量で十分である。
【0018】
本発明で用いられる免疫担当細胞は、その細胞自体ががん細胞等の正常でない細胞に対して、細胞傷害性(細胞傷害機能)を有することが好ましい。例えば、リンパ球、単核球、多形核白血球等が挙げられる。これらの免疫担当細胞の中で、好ましくは、リンパ球であり、リンパ球の中では、T細胞が好ましく、さらに、T細胞の中では、細胞傷害性を有するキラーT細胞、又はNK細胞(ナチュラルキラー細胞)がより好ましい。単核球の中では、いわゆるマクロファージまたは大貪食細胞等の、貪食機能を有する細胞が好ましい。また、多形核白血球(PMN)の中では、貪食機能を有するものであれば、本発明の免疫担当細胞として用いることができる。
【0019】
本発明で用いる免疫担当細胞は、治療対象の患者より採取した血液から、免疫担当細胞の細胞種(例えば、T細胞、マクロファージ等)を選択し、分離して用いることが好ましい。用いる免疫担当細胞の細胞種は、必ずしも、細かいサブセット単位で、高い精度の選別をする必要性はないので、リンパ球では、T細胞群が主として含まれていればよく、単核球では、マクロファージ等の貪食作用を有する細胞に富んでいればよく、また、多形核球を用いる場合は、貪食機能を有する多形核球(PMN)に富む細胞群をえることができれば、いずれも、本発明の免疫担当細胞として用いることができる。単に、治療効果を得るためには、それほど、厳密な細胞種ごとの識別と分離選択は必要ないと考えられるが、その研究目的又は治療目的に応じて、用いる免疫担当細胞を正確に選択する必要性があれば、それらの目的に応じて免疫担当細胞の細胞群を調製すればよい。
【0020】
〔免疫担当細胞の分離〕
悪性リンパ腫の患者又は対象として健常人から、採血等により得た血液から、例えば、比重分離法等の方法を用いる場合は、ファイコール等を用いて、その遠心により得られた中間層のリンパ球の細胞群に富む層を採取して用いることができる。また、リンパ球を用いる場合、得られたリンパ球に富む細胞群は、IL-2等の存在下で、所定の濃度と条件下で、常法により、細胞培養することにより、T細胞のみを含む細胞集団、又はT細胞に富む細胞群を得ることができる。また、マクロファージ等の単核球を得る場合には、培養容器への接着性を利用して、選択して得ることができる。多形核球を得る場合には、末梢血から得られた細胞群から、比重法による選択と接着性の程度の差等により、マクロファージとは区別して得ることができる。
【0021】
〔抗CD38抗体〕
本発明に係る抗CD38抗体は、次の(a)又は(b)のアミノ酸配列を有するタンパク質である。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
これらの、(a)又は(b)のアミノ酸配列は、CD38のIgG抗体の軽鎖可変部領域の一部を構成するものである。また、(b)においても、同様に抗CD38抗体の軽鎖可変部領域の一部としての生物学的機能を有することが好ましい。
【0022】
本発明の抗CD38抗体は、また、下記(c)又は(d)のアミノ酸配列を有するタンパク質である。
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
本発明の抗CD38抗体が、(d)のアミノ酸配列を有する場合には、当該抗体がCD38抗原に対して親和性を有するような抗体を提供できる、アミノ酸配列に限られ、当該抗体がCD38抗原に親和性をもたない抗体を提供する(d)のアミノ酸配列まで、含むものではない。
【0023】
上記、(c)及び(d)のアミノ酸配列は、抗CD38抗体の重鎖可変部領域の一部を構成する。そのため、(c)または(d)の配列を有するタンパク質は、重鎖可変部領域の生物学的、免疫学的機能を有するものが好ましい。
本発明の抗CD38抗体は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を軽鎖に、配列番号2で表されるアミノ酸配列を重鎖に、それぞれ有することが特に好ましい。また、上記アミノ酸配列(a)又は(b)を軽鎖に有し、かつ、(c)又は(d)で表されるアミノ酸配列を重鎖に有する抗体タンパク質であることが好ましい。したがって、一つの抗体タンパク質としては、(a)と(b)を有するタンパク質、(a)と(c)を有するタンパク質、(b)と(c)を有するタンパク質、及び(b)と(d)を有するタンパク質の組み合わせがあり得る。この中では、(a)と(c)を有するタンパク質が最も好ましく、次いで(a)と(d)を有するタンパク質が好ましい。
【0024】
本発明の、抗CD38抗体は、構造上からは、上記のような配列を有するものであるが、機能的には、リンパ球細胞表面抗原の1種であるCD38抗原に対する抗体を構成するものであるため、CD38抗原への強い親和性を有するものである。
また、本発明の抗CD38抗体は、免疫担当細胞の細胞表面上に、ウイルスベクターにより導入された遺伝子DNAが、その導入された細胞の機構を利用して抗体タンパク質が発現したものであることが好ましい態様である。
【0025】
本発明をヒトにおける悪性リンパ腫及び骨髄腫等の治療に用いる場合、用いるCD38抗原は、ヒトのリンパ球等のCD38抗原であることが好ましい。本発明は、免疫学的な機構を応用する治療に関するものであるが、抗体又は抗体を含む血清等を全身投与するものではなく、ヒトの抗体の一部分を利用するものであるという特別の使用の態様であることから、個人間の抗原・抗体の違いまで問題にする必要はないものと考えられる。
【0026】
本発明で抗CD38抗体というときは、軽鎖可変部領域に配列番号1のアミノ酸配列又はその配列の1乃至数個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列を有し、かつ、重鎖可変部領域に配列番号2のアミノ酸配列を有するか、又は配列番号2のアミノ酸配列の1個乃至数個が置換、欠失もしくは付加されたアミノ酸配列を少なくとも有する、抗体であるものとし、好ましくは、軽鎖可変部領域に配列番号1の配列を有し、重鎖可変部領域に配列番号2のアミノ酸配列を有することが好ましい。また、配列番号1又は2の配列の1個乃至数個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換する場合は、CD38抗原に親和性を有する場合の抗体であるときの、置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列に限定される。
【0027】
[抗CD38抗体をコードする遺伝子]
本発明における抗CD38抗体は、IgG抗体の可変部領域におけるタンパク質であるか、又はIgG可変部領域を有する抗体タンパク質である。IgG可変部領域は、軽鎖部分(Light chain)および重鎖(Heavy chain)からなる。したがって、本発明の抗CD38抗体についても、可変部軽鎖部分と可変部重鎖領域からなる。
【0028】
抗CD38抗体をコードする遺伝子の中で、その軽鎖可変部領域については、次の(a)又は(b)のアミノ酸配列をコードするDNA配列、またはそのDNA配列を一部に有するDNAである。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列。
本発明の抗CD38抗体が、(b)のアミノ酸配列を有する場合には、当該抗体がCD38抗原に対して親和性を有するような抗体を提供できる、アミノ酸配列に限られ、当該抗体がCD38抗原に親和性をもたない抗体を提供する(b)のアミノ酸配列まで、含むものではない。
【0029】
また、本発明のDNA配列は、(a)または(b)のアミノ酸配列をコードするDNAに対して、ストリンジェントな条件下で、ハイブリダイズするDNAであってもよい。
【0030】
次に、本発明の抗CD38抗体をコードする遺伝子の中で、その抗体の重鎖可変部領域については、次の(c)又は(d)のアミノ酸配列をコードするDNA塩基配列、またはそれらの塩基配列を一部に有する塩基配列である。
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列、
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列のアミノ酸の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列。
本発明の抗CD38抗体をコードする遺伝子が、(d)の配列からなるアミノ酸配列を有する場合、当該抗体がCD38抗原に対して親和性を有するような抗体を提供できる、(d)のアミノ酸配列に限られ、当該抗体がCD38抗原に親和性をもたない抗体を提供する(d)のアミノ酸配列まで、含むものではない。
【0031】
上記DNA塩基配列については、(c)または(d)のアミノ酸配列をコードするDNA塩基配列に対して、ストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列であってもよい。
【0032】
また、アミノ酸配列(a)及び(b)のいずれか1つ、および、アミノ酸配列(c)及び(d)のいずれか1つを、ともに同一タンパク質分子からなる抗体上に有する抗体タンパク質をコードするDNA塩基配列は、本発明の抗CD38抗体をコードする遺伝子に好ましいものである。
【0033】
本発明の抗CD38抗体は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を軽鎖に、配列番号2で表されるアミノ酸配列を重鎖に、それぞれ有することがより好ましいことから、配列番号1で表されるアミノ酸配列を軽鎖に、配列番号2で表されるアミノ酸配列を重鎖に、それぞれ有する抗CD38抗体をコードするDNAは、本発明の抗CD38抗体をコードする遺伝子(「DNA構築体1」という。)に含まれ、より好ましい態様のDNAである。
本発明において、配列番号1又は2又はそれらの配列の1乃至数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列をコードするDNA(配列)を免疫担当細胞に導入するという場合の、「DNAを免疫担当細胞に導入」とは、当該DNA(配列)が免疫担当細胞の染色体DNAに組み込まれ、当該タンパク質が発現することを意味する。
【0034】
配列番号1で表されるアミノ酸配列(a)、また、配列番号2で表されるアミノ酸配列(b)を有するタンパク質をコードする塩基配列は、後に述べる方法により抗CD38抗体の遺伝子をクローニングし、そのクローニングした遺伝子配列に基づき、決定されたものである。
【0035】
〔抗CD38抗体を細胞表面に発現させた免疫担当細胞〕
次に、抗CD38抗体を細胞表面に発現させた免疫担当細胞の作製方法について説明する。
本発明の、抗CD38抗体を細胞表面に有する免疫担当細胞は、(1)ハイブリドーマを作製する工程、(2)該ハイブリドーマからmRNAを単離して、cDNAを増幅し、抗CD38抗体のcDNAをクローニングする工程、(3)抗体cDNAの一部を増幅し、抗体cDNAを有する「DNA構築体1」などの遺伝子を製造する工程、(4)抗CD38抗体発現レトロウイルスベクターを構築する工程、(5)該ウイルスベクターをパッケージング細胞にトランスフェクション(移入)させ、パッケージング細胞を作製する工程、(6)パッケージング細胞から放出されたウイルス粒子(ビリオン)を別途、患者から採血した血液から調製した免疫担当細胞に該レトロウイルス粒子(ビリオン)を感染させる工程、(7)感染し発現した免疫担当細胞から、適度な発現量をもつ該免疫担当細胞を選別する工程、以上の工程からなる。
【0036】
上記の順に従って、本発明の抗CD38抗体を細胞表面に有する免疫担当細胞を作製し、選別する工程を順次行うことにより本発明を実施することができる。
(1)〔ハイブリドーマを作製する工程〕
先ず、CD38抗原に対する抗体を産生するハイブリドーマを作製することが必要である。抗CD38抗体を産生するハイハイブリドーマは、常法により、動物に抗原を投与し、ブースターで抗体の産生を増強させ、高い抗体価が得られた動物の脾臓細胞とミエローマ細胞を融合させて得られたハイブリドーマを抗CD38抗体産生を指標にスクリーニングすることにより、好ましいハイブリドーマを得ることができる。また、簡便に行うには、ATCCから市販されているハイブリドーマTHB7を用いることもできる。
そのようなハイブリドーマ細胞として、例えば、THB7細胞(ATCC(American Type Culture Collection)HB-136)、AT 13/5細胞、HIT2細胞等が挙げられ、前記THB7細胞は好ましく用いることができる。
【0037】
(2)〔cDNAをクローニングする工程〕
前記ハイブリドーマ細胞から全mRNAを、Trizol試薬(商品名、GIBCO-BRL社製)を用いた方法等の常法により抽出することができる。ハイブリドーマから単離したmRNAは、cDNAに転換した後、PCR等の手法により、DNAとして増幅する。PCR法の中でも、好ましくは、RT-PCR方法を用いることにより該RNAをDNAに増幅することができる。配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列をコードするDNAのクローニングに用いるプライマーについては、例えば、J.H.Ellisらの方法(The Journal of Immunology,1995,155:925-937)の記載方法に準じて行うことができる。具体的には、(i)前記抗体の重鎖可変部領域(配列番号2)については、J.H.Ellisらの上記文献(J.of Immunology,1995,155:925-937)に記載のプライマーA~Hをプライマーとして用いることができる。また、(ii)前記抗体の軽鎖可変部領域(配列番号1)については、同文献に記載のプライマーA~Hを用いることができる。
【0038】
それぞれ、PCR法等の常法により増幅し、H鎖可変部領域(配列番号2)及びL鎖可変部領域(配列番号1)をコードするcDNAを得ることができる。得られたcDNAは、塩基配列決定のため任意のベクター(例えば、pUC18)にクローニングし、塩基配列決定法は、特に制限なく、例えば、ジデオキシターミネーター法等任意の方法により決定することができる。
【0039】
(3)〔抗CD38抗体遺伝子(cDNA)を有するDNA構築体1の製作〕
抗CD38抗体遺伝子を有するDNA構築体1(図1)は、例えば、CD8αのシグ
ナルペプチドをコードする塩基配列(a)、L鎖可変部領域(配列番号1)をコードする塩基配列(b)、リンカー塩基配列(c)、H鎖可変部領域(配列番号2)をコードする配列(d)、CD8αのヒンジ及び膜貫通ドメインをコードする塩基配列(e)、4-1BB細胞内ドメインをコードする塩基配列(f)、CD3ζ鎖をコードする塩基配列(g)を順次連結してなる。
上記得られたH鎖可変部領域(配列番号2)及びL鎖可変部領域(配列番号1)をコードするcDNAから抗CD38キメラ抗体を発現させるためのDNA構築体を調製するには、例えば、Imaiらの方法(C.Imai、K.Miharaら、Leukemia,2004,18:676-684)に準じて行うことができる。
【0040】
具体的には、CD8αのシグナルペプチドをコードする配列(a)、リンカー配列(c)、CD8αのヒンジ及び膜貫通ドメインをコードする塩基配列(e)、を順次連結してなる発現カセットにL鎖可変部領域(配列番号1)をコードする配列(b)及びH鎖可変部領域(配列番号2)をコードする配列(d)を導入することにより、抗CD38キメラ抗体を発現させるためのDNA構築体1を調製することができる(図1)。
【0041】
DNA構築体1において、L鎖可変部領域(配列番号1)をコードする配列(b)は、CD8αのシグナルペプチドをコードする配列(e)及びリンカー配列(c)の間にSOC法を用い、H鎖可変部領域(配列番号2)をコードする配列(d)はリンカー配列(c)及びCD8αのヒンジ及び膜貫通ドメインをコードする配列(e)の間にSOC法を用い、導入され得る。
【0042】
(4)〔抗CD38抗体発現レトロウイルスベクターの構築〕
次に「抗CD38抗体発現レトロウイルスベクターの構築」について説明する。前述のようにして得られた、抗CD38抗体遺伝子を有するDNA構築体1をウイルスベクターに組み込み、抗CD38抗体を発現するウイルスベクターを構築することができる。
本発明に用いるウイルスベクターは、生じるウイルス粒子(ビリオン)がヒトT細胞等の免疫担当細胞に感染し、該細胞が抗CD38抗体を発現する限り、特に制限はないが、導入遺伝子(抗CD38抗体遺伝子を有する。)が高い効率で宿主細胞の染色体に組み込まれ、該遺伝子の高発現の維持が可能である観点から、レトロウイルスベクターであることが好ましい。より詳細には、配列番号1及び2で表されるアミノ酸配列をコードするDNAを有する組換えレトロウイルス発現ベクターであることがより好ましい。
【0043】
本発明において、レトロウイルスベクターとは、いわゆるオンコレトロウイルスベクターをいう(以下単にレトロウイルスベクターという。)。前記レトロウイルスベクターはレンチウイルスベクター等であってもよい。
レトロウイルスベクターは、一般に、プロテアーゼ、逆転写酵素、インテグラーゼ等のウイルスの構造タンパク質になる前駆タンパク質をコードするgag/pol遺伝子、エンベロープ糖タンパク質をコードするenv遺伝子を有し、その両端をエンハンサー、プロモーター、ポリアデニレーションシグナルなどのエレメントが含まれるLTR(Long terminal repeat)で挟まれた構造を有する。
【0044】
本発明に用いる前記レトロウイルスベクターとしては、例えば、MSCV(Murine Stem Cell Virus)、レンチウイルス等が挙げられ、特に、LTRがメチル化されること等による、遺伝子導入細胞におけるウイルス発現抑制(サイレンシング)を防止する観点および安全性の面から、MSCVがさらに好ましい。
【0045】
本発明において、前記レトロウイルスベクターに類似するものとして、MSCV Retroviral Expression System(商品名、BD・バイオサイエンスズ・クロンテック社製)を用いることもできる。前記レトロウイルスベクターとしてMSCVを用いる場合、前記抗CD38抗体遺伝子を有するDNA構築体は、例えば、MSCV中マルチクローニング・サイトの制限酵素EcoRI-制限酵素XhoI部位に常法により発現に適正な向きで導入されることが好ましい。
【0046】
本発明に用いる前記レトロウイルスベクターは、真核細胞mRNAの翻訳をキャップ構造非依存性翻訳とする観点からIRES(Internal ribosome entry site)配列を有することが好ましい。IRES配列とは、mRNA鎖の内部に存在し、リボソームが直接結合する構造をコードする配列をいい、そのリボソームの直接結合により翻訳を開始する機構、いわゆる内部開始機構に用いられる。
【0047】
本発明に用いる前記レトロウイルスベクターは、本発明の抗CD38抗体発現免疫担当細胞又は遺伝子導入細胞の選択、例えば、フローサイトメトリーによる解析、分取の容易化等の観点から、任意の選択(マーカー)遺伝子を有することが好ましい。そのような選択遺伝子として、EGFP(Enhanced green fluorescent protein)、GFP等が挙げられるが、EGFPが好ましい。
【0048】
抗CD38抗体発現レトロウイルスビリオンを形成するために後述するパッケージング細胞へトランスフェクションするまでの前記レトロウイルスベクターは、プラスミドベクター(いわゆるトランスファーベクター・プラスミド)であることが好ましい。特に、レトロウイルス用パッケージング細胞と組み合わせ、レトロウイルスビリオンを形成させる観点から、前記レトロウイルスベクターは、前記gag/pol遺伝子の一部ないしは全部、並びに前記env遺伝子の一部ないしは全部が含まれず(その代わりに抗CD38抗体遺伝子を有する)、前記gag/pol遺伝子及び前記env遺伝子が発現しないことにより、単独ではレトロウイルス粒子(ビリオン)を形成しないトランスファーベクター・プラスミドとすることがより好ましい。
【0049】
このようなトランスファーベクター・プラスミドは、ヘルパーベクタープラスミド(gag/polの一部を有する)とエンベロープベクタープラスミド(envを有する)をレトロウイルス用パッケージング細胞へ同時にトランスフェクション(コトランスフェクション)することにより初めて、抗CD38抗体遺伝子を有するRNAゲノムが取り込まれた、完全なレトロウイルスビリオンを形成することができる。あるいは、トランスファーベクター・プラスミドをgag/polおよびenvのみを有するパッケージング細胞にトランスフェクションすることによっても完全なレトロウイルスビリオンがえられる。
【0050】
本発明に好ましく用いられる前記レトロウイルスベクタープラスミドとして、IRES及びEGFPが含まれるMSCVプラスミドは、例えば、セント・ジュード・ベクター・デベロップメント・アンド・プロダクション・シェアード・リソース(アメリカ、テネシー州、メンフィス)から入手することができる。
【0051】
(5)〔パッケージング細胞を作製する工程〕
該ウイルスベクターをパッケージング細胞にトランスフェクション(移入)させ、パッケージング細胞を作製する工程について説明する。その遺伝子挿入された該ウイルスベクターをパッケージング用細胞にトランスフェクションすることにより、抗CD38抗体発現レトロウイルス粒子(ウイルスビリオン)を産生する細胞を作製することができる。
【0052】
パッケージング細胞から放出されたウイルスビリオンを、別途、患者より採取した血液から調製した免疫担当細胞に、該レトロウイルスビリオンを感染させる工程について説明する。
抗CD38抗体発現レトロウイルス粒子(ビリオン)をパッケージ細胞内で形成させるために、前記レトロウイルスベクターは、リポフェクション法等の常法のトランスフェクションによりパッケージング細胞へ取り込まれることが好ましい。
【0053】
前記パッケージング細胞としては、抗CD38抗体遺伝子(DNA構築体1)を有するRNAゲノムが取り込まれた、完全な該レトロウイルスビリオンをパッケージング細胞内で形成することが必要であり、また、レトロウイルスに適したパッケージング細胞(レトロウイルス用パッケージング細胞)を用いることが好ましい。
本発明において、「レトロウイルス用パッケージング細胞」とは、完全な前記gag/pol遺伝子及び前記env遺伝子を有するが、単独ではRNAゲノムが取り込まれたレトロウイルスビリオンを形成できないパッケージング細胞をいう。前記レトロウイルス用パッケージング細胞としては、例えば、293T細胞(理研 バイオリソースセンター 受託番号RCB2202)等をあげることができる。
【0054】
本発明の、抗CD38抗体発現レトロウイルス粒子を産生する細胞は、前記組み換えレトロウイルス発現ベクターをパッケージング細胞に導入することにより得られたものであり、前記組換えレトロウイルス発現ベクターが、配列番号1及び2で表されるアミノ酸配列をコードするDNAを有することが最も好ましいが、それらの配列に1又は数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列をコードするDNAを有する場合でも、本発明のベクターとして用いることができる。
【0055】
本発明者らが、実際に抗CD38抗体発現レトロウイルス粒子(ビリオン)の産生に用いるために作製したパッケージング細胞(CAR38 293T細胞)は、該ウイルス粒子を産生する状態で、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、受託番号:FERM AP-20800として平成18年2月15日に寄託されている。
抗CD38抗体発現レトロウイルス粒子を形成するための培養条件は、特に制限ないが、例えば、牛胎児血清(Fetal Calf Serum)を含むRPMI1640等の任意の培地中、37℃で24~96時間インキュベートすることが好ましい。
形成した抗CD38抗体発現レトロウイルス粒子は、培地ないし、培養液を回収することにより取得でき、さらには、該ウイルス粒子を産生する細胞の識別は、細胞をフローサイトメトリーによりGFPの発現を確認することにより、目的の抗CD38抗体発現細胞を選別又は確認することもできる。
【0056】
(6)〔本発明の、抗CD38抗体を細胞表面に有する免疫担当細胞の作製〕
次に、前の工程で作製したパッケージング細胞が放出するウイルス粒子を、ヒト免疫担当細胞に感染させる工程について説明する。該ウイルス粒子をヒトT細胞に感染させるには、(A)抗CD38抗体発現レトロウイルス粒子を産生する細胞の培養上清を用いて免疫担当細胞に感染させるか、又は(B)該レトロウイルス粒子を産生する細胞と免疫担当細胞の混合培養により、該ウイルス粒子を免疫担当細胞に感染させる、ことにより該ウイルス粒子を感染させることができる。これにより、該ウイルス粒子が感染した免疫担当細胞の一部は、一時的に該ウイルス粒子を細胞内に保有するが、一部の細胞では、レトロウイルスのRNAがDNAに転換された後、宿主染色体DNAに取り込まれ、固定化される。免疫担当細胞に前記レトロウイルス粒子を感染させるための培養条件は、特に制限ないが、例えば、通常の組織培養で用いる、牛胎児血清(Fetal Calf Serum)を含むRPMI1640等の任意の培地中、37℃で24~96時間インキュベートすることが好ましい。
【0057】
前述の該ウイルス粒子を産生するパッケージング細胞(CAR38-293T細胞)の培養液を用いて、又は該パッケージング細胞(CAR38-293T細胞)と共培養することにより、該ウイルスを感染させたヒトT細胞(CAR38-Hut78)は、本発明者らにより、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託番号:FERM AP-20801として平成18年2月15日に寄託されている。
【0058】
前記抗CD38抗体発現レトロウイルス粒子で感染させる免疫担当細胞としては、任意のT細胞(Tリンパ球)(例えば、細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞)、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、多形核白血球(PMN)等が挙げられ、細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞が好ましく、細胞傷害性T細胞がより好ましく、細胞傷害性ヒトT細胞であることがさらに好ましい。
【0059】
感染させるT細胞の具体例として、ヒトT細胞系細胞株(Hut78細胞; 東北大学加齢医学研究所 受託番号TKG0375)等を挙げることができる。そのほかの前記感染させる免疫担当細胞の具体例としては、Hut102細胞株(東北大学加齢医学研究所;受託番号:TKG 0382)等が挙げられる。
【0060】
また、CD38に起因する疾患(例えば、骨髄腫、悪性リンパ腫、白血病)の患者から任意の前記免疫担当細胞を単離して、抗CD38抗体発現レトロウイルスビリオンに感染させて、本発明の、抗CD38抗体を細胞表面に有する免疫担当細胞とした後、前記患者に再び戻すことで患者の治療に役立てることができる。このようにすることで、本発明の抗CD38抗体を細胞表面に有する免疫担当細胞が個体間差により「非自己」と認識され、拒絶反応を引き起こすことを防ぐことができる。
【0061】
(7)〔抗CD38抗体を細胞表面に有する免疫担当細胞の選別〕
本発明の、抗CD38抗体を細胞表面に有する免疫担当細胞の選別について説明する。
一般に、正常な細胞(例えば、T細胞、B細胞)においても、悪性リンパ腫細胞、白血病細胞等の前記標的細胞に比べて少ない量であるがCD38抗原が発現し、細胞表面に少量のCD38抗原を有している。ただし、骨髄腫細胞と形質細胞におけるCD38の発現量は変わらない。
【0062】
上述のように感染させて得られた、抗CD38抗体を細胞表面に有する免疫担当細胞は、前記感染の程度ないしは発現の程度により、細胞表面に抗CD38抗体を非常に多く有する細胞が生じてしまうことがある。このような細胞表面に抗CD38抗体を非常に多く有する細胞は、骨髄腫細胞、悪性リンパ腫細胞、白血病細胞等の前記標的細胞だけでなく、前述のような、細胞表面に少量のCD38抗原を有する正常な細胞にも細胞傷害性等の機能を発揮してしまい、前記標的悪性細胞特異的ではない。
【0063】
したがって、上述のように感染させて得られた、抗CD38抗体を細胞表面に有する免疫担当細胞(特に抗CD38抗体を細胞表面に有するヒトT細胞)は、正常な細胞(例えば、T細胞、B細胞)には細胞傷害性等の機能を発揮しないか、又は、極めて少ない傷害しかもたらさないが、一方、骨髄腫細胞、悪性リンパ腫細胞、白血病細胞等の前記標的細胞には細胞傷害性等の機能を十分に発揮するような細胞だけを選別して、単離することが好ましい。
【0064】
使用したベクターには、GFP(グリーン フルオレスセンス プロテイン)又はEGFP(エンハンスド フルオレスセンス プロテイン)が挿入されており、このGFP又はEGFPは抗CD38抗体の発現と正相関しており、任意に発現する抗CD38抗体を有する免疫担当細胞を、フローサイトメーターを用いることにより、容易に選択・選別して分取、単離することができる。
【0065】
また、本発明の免疫担当細胞の作製方法において、レトロウイルス粒子が感染したヒト免疫担当細胞から抗CD38抗体を発現させる際、あらかじめ抗CD38抗体を共存させることが好ましい。
図5で示しているように、ヒトT細胞等には、CD38抗原が発現しているので、本発明の免疫担当細胞の作製方法により、ヒトT細胞等に抗CD38抗体を発現させた免疫担当細胞を作製しても、免疫担当細胞が相互に干渉してアポトーシスを引き起こすと考えられる。
これに対して、レトロウイルス粒子が感染したヒト免疫担当細胞から抗CD38抗体を発現させる際、あらかじめ抗CD38抗体を共存させることにより、共存させた抗CD38抗体が、抗CD38抗体を発現させた免疫担当細胞の表面に発現しているCD38抗原を認識し、免疫担当細胞が相互に干渉し、アポトーシスに陥ることを防ぐことができる。
【0066】
共存させる抗CD38抗体としては、抗CD38抗体を発現させた免疫担当細胞の表面に発現しているCD38抗原を認識し、発現させた抗CD38抗体と競合さえできれば特に制限はないが、具体的には、THB7由来の抗CD38抗体が好ましい。
また、共存させる抗CD38抗体の濃度についても特に制限はないが、ヒトT細胞1×10~10に対して0.015mg/ml程度以上が好ましく、0.15mg/ml程度以上がさらに好ましい。
【0067】
[免疫担当細胞の機能]
次に「本発明の、抗CD38抗体を細胞表面に有する免疫担当細胞の機能」について説明する。前記抗CD38抗体発現レトロウイルスビリオンで感染させる免疫担当細胞が、細胞傷害性T細胞またはナチュラルキラー細胞である場合には、抗CD38抗体を発現し、該抗体を細胞表面に有する、細胞傷害性T細胞又はナチュラルキラー細胞が得られる。
得られた抗CD38抗体を細胞表面に有する、細胞傷害性T細胞又はナチュラルキラー細胞は、細胞外傷害作用により、骨髄腫細胞、悪性リンパ腫細胞、白血病細胞等の前記標的細胞を特異的に破壊ないしは殺傷することができる。
【0068】
前記感染させる免疫担当細胞が、マクロファージ、好中球等の細胞である場合には、抗CD38抗体を細胞表面に有するマクロファージ、好中球等の貪食機能をもつ細胞が得られる。得られた抗CD38抗体を細胞表面に有するマクロファージ、好中球等の細胞は、貪食作用ないしは細胞外傷害作用により、前記標的細胞を特異的に破壊ないしは殺傷することができる。
【0069】
次に、本発明の、抗CD38抗体を細胞表面に有する免疫担当細胞の精製・単離、並びに前記免疫担当細胞の機能の評価ないしは確認する方法について説明する。
本発明の、抗CD38抗体を細胞表面に有する免疫担当細胞が、前記標的細胞に対して、特異的に破壊ないしは殺傷する機能は、抗CD38抗体を用いた抗体染色法によるフローサイトメトリー等の常法により評価ないしは確認することができる。具体的には、本発明の抗CD38抗体を細胞表面に有する免疫担当細胞と前記標的細胞を共培養することによる前記標的細胞の経時的細胞数減少を、蛍光標識(例えば、フィコエリスリン)した本抗CD38抗体と交差反応しない抗CD38抗体を用いて前記標的細胞表面のCD38抗原と抗原抗体反応させ、フローサイトメーターで検定ないしは定量すること等である。
【0070】
本発明の、抗CD38抗体発現ヒトT細胞株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、受託番号:FERM AP-20800として平成18年2月15日に寄託されている。
【0071】
本発明の細胞表面に抗CD38抗体を発現させた免疫担当細胞は、CD38抗原を細胞表面に多く発現している細胞に細胞傷害性を有するため、癌等の有用な治療手段である。また、本発明の抗CD38抗体を細胞表面に発現させた免疫担当細胞の作成方法は、前記免疫担当細胞を効率よく作成することができる。
本発明の、抗CD38抗体発現レトロウイルス粒子を産生する細胞(いわゆるパッケージング細胞)は、T細胞、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、好中球等の任意の免疫担当細胞に感染させ得るレトロウイルス粒子を産生させ、該ウイルスビリオン(粒子)を細胞外へ放出する手段として有用である。
【0072】
本発明の抗体タンパク質は、本発明の免疫担当細胞の細胞表面上に発現させることにより、CD38抗原を多く発現する細胞に対して強い親和性をもって結合するという役割を有するため、本発明の免疫担当細胞を構成する一部のタンパク質として有用である。また、本発明のDNA及びレトロウイルスは抗CD38抗体を発現する鋳型DNAとして有用である。
本発明の組換えレトロウイルス発現ベクターは、前記パッケージング細胞を作製するため、組換え細胞を作製する材料として有用である。
【0073】
本発明の抗CD38抗体をコードするDNAは、前記本発明の組み換えレトロウイルスベクターの作製の材料として、有用である。
【実施例】
【0074】
次に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
〔抗CD38抗体遺伝子のクローニング〕
まず、ハイブリドーマ細胞としてTHB7細胞1x10細胞(ATCC HB-136)から全mRNAを、Trizol試薬(商品名、GIBCO-BRL社製)を用いて抽出した。次に(i)前記得られた全RNA1mg中から、前記抗体のH鎖可変部領域(配列番号2)については、Ellisらの報告(J.Immunology,1995年,155巻:925-937頁)に記載のプライマーA~Hを用いて、(ii)前記抗体のL鎖可変部領域(配列番号1)については、同文献に記載のプライマーA~Hを用いて、それぞれ、PCR法により増幅し、H鎖可変部領域(配列番号2)及びL鎖可変部領域(配列番号1)をコードするcDNA それぞれ、1mgを得た。
【0076】
上記得られたH鎖可変部領域(配列番号2)及びL鎖可変部領域(配列番号1)をコードするcDNAから、Leukemia,2004,18:676-684に記載の方法に準じて、完全な抗CD38キメラ抗体を発現させるための抗CD38抗体遺伝子(cDNA)を有するDNA構築体を調製した。図1は、上記得られた抗CD38抗体遺伝子(cDNA)を有するDNA構築体の配列の概略を示す図である。
【0077】
〔抗CD38抗体発現レトロウイルスベクターの構築〕
前記抗CD38抗体遺伝子を有するDNA構築体を、IRES及びEGFPが含まれるMSCVプラスミド(以下、「pMSCV-IRES-EGFP」という。)の制限酵素EcoRI-制限酵素XhoI部位にライゲートした。前記pMSCV-IRES-EGFPは、セント・ジュード・ベクター・デベロップメント・アンド・プロダクション・シェアード・リソース(アメリカ、テネシー州、メンフィス)から譲受した。
【0078】
次に、前記得られた抗CD38抗体発現レトロウイルスベクターにL鎖遺伝子及びH鎖遺伝子が存在することを、制限酵素処理し、電気泳動することにより確認した。
図2は、抗CD38抗体発現レトロウイルスベクター中にL鎖遺伝子及びH鎖遺伝子が存在することを確認した電気泳動図である。L鎖DNAの約400kbp(レーン2)及び、H鎖DNAの約400kbp(レーン3)の各々を示す(レーン1及び4は分子量マーカー)。前記レトロウイルスベクター中にL鎖遺伝子及びH鎖遺伝子の存在を示す。
【0079】
〔抗CD38抗体発現レトロウイルス粒子の形成〕
前記得られた抗CD38抗体発現レトロウイルスベクター(1mg)をパッケージング細胞(細胞数1×10、293T:理研 バイオリソースセンター 受託番号RCB2202)にリポフェクション試薬4mg(商品名、GIBCO-BRL社製)を用いて、6穴プレート中に牛胎児血清(Fetal Calf Serum)を含むRPMI1640培地において37℃で3時間インキュベートすることによりトランスフェクションを行い抗CD38抗体発現レトロウイルス粒子(ビリオン)を産生するパッケージング細胞を得た。発現率90%以上。受託番号:FERM AP-20801。得られたレトロウイルス粒子を産生するパッケージング細胞を37℃で24~96時間インキュベート後ウイルス上清を回収した(9mL)。
【0080】
〔本発明の、抗CD38抗体を細胞表面に有するT細胞の作製〕
上記得られたウイルス上清(3mL、MOI 10)およびポリブレン(最終濃度2ng/ml:シグマ社製)をヒトT細胞株10細胞(Hut78細胞:東北大学加齢医学研究所から譲受。)に14mlポリプロピレンチューブ(ファルコン社製)内で37℃で24時間インキュベートすることで感染させ、抗ヒトCD38抗体を細胞表面に有するヒトT細胞を調製した(発現率90%以上)。この細胞は、本出願前に寄託した(受託番号:FERM AP-20800)。
【0081】
遺伝子導入された細胞(EGFP陽性細胞)が、抗体発現していることの確認をするために、抗マウスIgG抗体(商品名FACSCalibur、ベクトン・ディッキンソン社製)を用いて、EGFPと抗マウスIgG抗体—perCPとの発現パターンを調べ、その結果を示す2次元プロットで示した(図3)。この結果は、遺伝子導入された細胞(EGFP陽性細胞)は細胞表面に抗体発現していることを示している。
【0082】
〔抗CD38抗体を細胞表面に有するヒトT細胞株の機能評価試験〕
上記得られた抗CD38抗体を細胞表面に有するヒトT細胞と患者由来骨髄腫細胞とを1:2の比率で96穴プレート(ファルコン社製)中でRPMI-1640培地に10%ウシ胎仔血清(GIBCO-BRL社製)を添加した完全培地を用いて37℃2~5日間共培養を行った。その後、交差反応しない抗CD38抗体-フィコエリスリン(BD・バイオサイエンスズ社製)20μlで前記骨髄腫細胞を染色した後、フローサイトメトリーで骨髄腫細胞の生死を評価した。対照として、抗CD38抗体を発現していないヒトT細胞(東北大学加齢医学研究所から譲受。)も同様に患者由来骨髄腫細胞と共培養、染色後、前記フローサイトメーターで生存細胞数を測定した。
【0083】
評価試験は、骨髄腫細胞と抗体発現細胞の共培養、又は骨髄腫細胞と抗体非発現細胞(対照)との培養5日間の共培養により、残存生存する骨髄腫細胞の細胞数を計測した。計測は、培養5日後の培養液をフローサイトメトリーにより、フローサイトメトリーの所定のチューブを60秒間で通過する各々の細胞数を表示した。同じ条件のものを5回繰り返し測定したものの平均値を数字で示した。共培養する骨髄腫細胞を1とした場合、抗CD38抗体を発現していないヒトT細胞の場合は、骨髄腫との比率が0.5倍、0.1倍、0.05倍、0.01倍いずれの場合においても、骨髄腫細胞の生存細胞数は2000細胞数をはるかに超えていた(図4)。一方、共培養する骨髄腫細胞を1とした場合、本発明の抗CD38抗体を細胞表面に有するヒトT細胞、0.5倍、0.1倍、0.05倍、0.01倍いずれの場合においても骨髄腫細胞をわずか5日でほぼすべての骨髄腫細胞を死滅させた。
【0084】
〔抗CD38抗体による自己アポトーシス抑制試験〕
次に、レトロウイルス粒子が感染したヒト免疫担当細胞から抗CD38抗体を発現させる際、あらかじめ抗CD38抗体を共存させることによる、自己アポトーシス抑制効果の評価を行った。
評価方法については、以下のように行った。
ヒト末梢血T細胞をIL-2およびPHA存在下で48時間培養し、レトロウイルスを用いて抗CD38抗体をT細胞表面に発現させた。なお、抗CD38抗体をT細胞表面に発現させる際、抗CD38抗体を様々な濃度で共存させた。その後、9日目にフローサイトメーターにて生存率を解析した。なお、共存させた抗CD38抗体として、THB7の上清の精製濃縮産物(抗体濃度1.5mg/ml)を希釈したものを用いた。
【0085】
その結果を図6に示す。
図6の結果から、共存させる抗CD38抗体の濃度がヒトT細胞1×10~10に対して0.015mg/ml以上の場合に抗CD38抗体を共存させる効果が見られることが分かった。
特に、共存させる抗CD38抗体の濃度がヒトT細胞1×10~10に対し0.15mg/ml以上の場合に自己アポトーシスを顕著に防止できることができることがわかった。
【0086】
(試験例)〔抗CD38抗体発現細胞の抗腫瘍効果の評価〕
次に、抗CD38抗体発現細胞の抗腫瘍効果の評価を行った。
評価方法については、以下のように行った。
まず、NOD/SCIDマウスにHT(悪性リンパ腫)-Luc細胞(1.6×10)を移植した。ここで、Lucとは、ルシフェーラゼを意味し、イメージアナライザーで非破壊的に腫瘍の大きさを測定することができる。
このマウスに対して、HT-Luc移植後3日おきに、計4回、ヒトT細胞0.8×10(コントロールベクターまたは抗CD38抗体遺伝子を含んだベクターをそれぞれ導入)を経静脈的に注射した。リツキシマブは0.2mgを経腹膜的に移植後1日目に投与した。3日目、30日目にルシフェリンをマウスに投与し、フォトンイメージアナライザーによりその発光強度を測定した。
その結果を下記表に示す。
【0087】
JP0005328018B2_000002t.gif
【0088】
また、フォトンイメージアナライザーを用いたマウスの写真を図7に示す。
これらの結果より、対照群のベクターのみを移植した場合、すべてのマウスに腫瘍が確認された。これ対して、本発明の抗CD38抗体をコードするDNAを有するベクターを投与した場合、ほとんどのマウスで腫瘍が確認されなかった。また、リツキシマブと比較しても、リシフェラーゼ活性及び腫瘍の大きさの観点から、同等またはそれ以上の効果が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の、抗CD38抗体を細胞表面に有する免疫担当細胞は、骨髄腫、悪性リンパ腫、その他CD38抗原を細胞表面に多く発現する白血病細胞等の癌細胞に細胞傷害性を有するため、これらの種類の癌に有用な治療手段となる。この治療手段は、現在行われている化学療法剤とは異なり、現在使用されている化学療法剤が有するような耐性の問題はなく、また、ほとんどの化学療法剤が有する、嘔吐、下痢、脱毛等の、重篤な副作用はないものと考えられる。
【0090】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
図面
【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図7】
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