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明細書 :微粒子およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5429707号 (P5429707)
登録日 平成25年12月13日(2013.12.13)
発行日 平成26年2月26日(2014.2.26)
発明の名称または考案の名称 微粒子およびその製造方法
国際特許分類 A61K  39/015       (2006.01)
A61K   9/107       (2006.01)
A61K  47/12        (2006.01)
A61K  47/34        (2006.01)
A61K  47/42        (2006.01)
A61P  33/06        (2006.01)
FI A61K 39/015 ZNA
A61K 9/107
A61K 47/12
A61K 47/34
A61K 47/42
A61P 33/06
請求項の数または発明の数 11
全頁数 23
出願番号 特願2009-59789 (P2009-59789)
出願日 平成21年3月12日(2009.3.12)
優先権出願番号 2008084310
優先日 平成20年3月27日(2008.3.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年3月6日(2012.3.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
発明者または考案者 【氏名】奥 浩之
【氏名】俵 義宣
【氏名】山田 圭一
【氏名】片貝 良一
【氏名】佐藤 久美子
【氏名】鈴木 守
【氏名】矢野 和彦
【氏名】狩野 繁之
個別代理人の代理人 【識別番号】100100549、【弁理士】、【氏名又は名称】川口 嘉之
【識別番号】100089244、【弁理士】、【氏名又は名称】遠山 勉
【識別番号】100126505、【弁理士】、【氏名又は名称】佐貫 伸一
特許請求の範囲 【請求項1】
マラリア原虫由来のペプチドと生分解性高分子を含む微粒子であって、マラリア原虫由来のペプチドの酢酸および/または蟻酸の溶液を用いたシングルエマルジョン法によって作製された微粒子。
【請求項2】
前記生分解性高分子がポリ乳酸-グリコール酸共重合体である、請求項1に記載の微粒子。
【請求項3】
前記生分解性高分子がポリ乳酸である、請求項1に記載の微粒子。
【請求項4】
前記生分解性高分子がポリデプシペプチドである、請求項1に記載の微粒子。
【請求項5】
前記熱帯熱マラリア原虫由来のペプチドが熱帯熱マラリア原虫由来のエノラーゼまたはその部分ペプチドである、請求項1~4のいずれか一項に記載の微粒子。
【請求項6】
前記部分ペプチドが配列番号1と配列番号2との構造的差違部分を含み、熱帯熱マラリア原虫に対する細胞性または体液性の免疫学的応答を誘発しうるペプチドである、請求項5に記載の微粒子。
【請求項7】
前記部分ペプチドが、配列番号3~6のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項6に記載の微粒子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の微粒子と、医薬的に許容可能な担体を含む医薬組成物。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の微粒子と、医薬的に許容可能な担体を含む、マラリア原虫感染症の予防のための医薬組成物。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の微粒子を有効成分として含有する、マラリア原虫の増殖を抑えるための免疫用抗原。
【請求項11】
マラリア原虫由来のペプチドの酢酸および/または蟻酸溶液を、生分解性高分子を含む揮発性有機溶媒と混合する工程、及び該混合液を負電荷を有するポリマーの水溶液と混合する工程を含む、マラリア原虫由来ペプチド含有微粒子の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な微粒子およびその製造方法に関する。本発明はまたヒトおよび他の動物での免疫反応を利用したマラリア原虫に対する免疫学的応答を誘発することができるペプチドおよびその類似体を含んだ微粒子、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)の増殖を抑える免疫用抗原やマラリア原虫感染症の予防のための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
[従来技術とその問題点]
(1)感染症としてのマラリアの現況:
マラリアは地球上に於いて最も重大な原虫感染症の一つである。熱帯地域と亜熱帯地域の
流行地域を中心に、毎年3億人の感染者と200万人以上の死亡者が報告されている。また近年は、地球規模での経済活動の拡大により人や物資の移動が盛んになってきている。これに伴い、日本人渡航者が流行地で感染する例や、流行地から日本への入国者が国内で発症する輸入マラリアの症例が、1980年代より急激に増えている(非特許文献1)。このためマラリア対策は、流行地のみならず日本に於いても緊急の課題となっている。
【0003】
ヒトにマラリアを引き起こすPlasmodium属の寄生原虫は、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)、四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)、卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)の4種類である。原虫を媒介する蚊の刺咬により体内に入ったマラリア原虫は血中から速やかに肝細胞に侵入し(一次肝臓内ステージ、図1a)、肝細胞内で分裂・増殖してから血中に放出され、赤血球内に侵入して分裂増殖を繰り返し(赤血球内サイクル、図1b)、増殖した原虫は他の蚊によってさらに伝搬されてゆく(図1c)。マラリアによる発熱の症状は赤血球内サイクルによって引き起こされる。特に熱帯熱マラリアは他の3種に比較して治療が遅れると重症化と死亡の危険をもたらす。
【0004】
またマラリアは健康問題のみならず、アフリカ諸国での経済活動の停滞と社会不安の一因ともなっている。流行地に於ける近年の感染者の増加は、熱帯雨林開発や温暖化との関連も指摘され、International Panel on Climate Change報告(1996 & 1998)によると地球温暖化の場合2℃の温度上昇で5000-8000万人の増加が予測されている。そのため、第二次大戦後にDDT散布と衛生対策によって根絶したはずの日本を含む温帯地域においても、マラリア再流行が懸念されている。
【0005】
(2)治療薬による薬剤耐性や副作用の問題:
薬剤耐性マラリアの分子メカニズム 1945年代から全世界に普及した特効薬クロロキンへの薬剤耐性が、早くも1957年にコロンビアとタイ-ミャンマー国境から同時に報告された。以後、クロロキン耐性原虫は全世界に拡散し、流行地域に於けるマラリア対策を極めて困難にしている。
【0006】
現在クロロキンはほとんど使われないが、その薬剤耐性メカニズムは長い間不明であった。流行地での調査と組み合わせて、熱帯熱マラリア原虫のクロロキン耐性には幾つかの蛋白の遺伝子変異(pfmdr(非特許文献2)、cg2(非特許文献3)、pfcrt(非特許文献4))の関与が示唆され、ようやく分子レベルで理解され始めてきた(非特許文献5)。クロロキンは少ない投与量でも、赤血球内の原虫にある酸性の食胞中へ濃縮される。この食胞はヘモグロビンを消化分解してアミノ酸を利用し、副生物であるヘムをヘモゾインとして無毒化する。クロロキンは栄養とならないヘム副生物であるヘモゾインの形成を阻害する。即ち原虫はヘムを無毒化できずに死滅する。しかし耐性原虫の食胞内ではクロロキ
ンの半減期はわずか数分であり、急速な薬物排出により耐性を発現する。
【0007】
現在のマラリア治療にはベトナム戦争で開発された化合物(メフロキン)が多く使用されている。最新の治療薬は2000年に米国で認可されたマラロンであるが、これも既存薬の転用である。現在は漢方薬の成分から発見された治療薬、アルテミシニンとその誘導体が注目されている(National Geographic誌 2007年7月号; Nature誌 2004年8月19日号(非特許文献6))
【0008】
しかしマラリア原虫殺作用のある薬剤は頭痛、吐き気など副作用の非常に強いものが多い。そのため予防内服は一般に薦められていない。実際、既存の化合物(キニーネ、クロロキン)は劇物である。これに対し、抗原ペプチドや生分解性高分子を原料にするワクチンはアミノ酸やヒドロキシカルボン酸を成分とするため、目的の予防免疫反応のみを起こし、既存治療物質に見られる強い毒性がない。
【0009】
このように従来技術では、マラリアの予防や治療に多くの問題を抱えている。そのため、予防法として安全で安価なワクチンによる予防接種が望まれている。しかし現在までに市販されたワクチンはない。
【0010】
(3)マラリアワクチン開発の現況と問題:
マラリアワクチンの開発が始まったのは比較的最近である(1978年以降)。現在、国内・海外を含めてワクチンを指向した研究が精力的に進められている。しかし臨床応用されている例は一つもない。報告されている論文によれば、世界中で十数グループが臨床試験へ進みつつある(非特許文献7)。その他に日本国内の研究ではおよそ3グループがワクチンを目指して臨床試験およびその準備を進めている(第73回日本寄生虫学会大会、シンポジウム「日本のマラリアワクチン研究」、2004年4月24日、前橋市)。
【0011】
これまでのマラリアワクチン開発の研究報告を精査すると、マラリアワクチン開発が困難な理由は、マラリア原虫が進化の過程で獲得された複雑な免疫回避システムを持つことに加えて、マラリアの臨床症状は感染者の免疫状態によって大きく異なるためワクチン効果の判定が難しいこと、が原因と考えられる。すなわち従来技術では、流行地における住民それぞれに異なる免疫状態や、非流行地からの渡航者で免疫の全くない状態など、免疫状態の差を考慮したワクチン開発がされていない点に限界がある。
【0012】
(4)エマルジョン法による高分子微粒子の現況:
近年、生分解性高分子(ポリ乳酸-グリコール酸共重合体など)を用いた、ダブルエマルジョン法またはシングルエマルジョン法によって作製される高分子微粒子が、生理活性物質の封入を目的として多く研究されている。ダブルエマルジョン法では水相-有機相-水相 (W/O/W)の3つの溶液を用いて、薬物を封入した微粒子を形成させる。シングルエマルジョン法では有機相-水相 (O/W)の2つの溶液を用いて、薬物を有機層に溶解、封入した微粒子を形成させる。
【0013】
従来のダブルエマルジョン法では、例えば、非特許文献8に記載のように、少量の生理活性物質(25 mg)の水溶液(250μL)を生分解性高分子(ポリ乳酸-グリコール酸共重合体、250 mg)の揮発性有機溶媒溶液(ジクロロメタン、5 mL)と撹拌乳化させる。ここでは生理活性物質を含む内水相が、はげしい攪拌によって微小滴に分散される。このようなW/Oエマルジョンに、大量のポリビニルアルコール水溶液(8~12%)を注入(25 mL)して撹拌をつづける。すると生分解性高分子を溶かしていた揮発性有機溶媒が蒸発して、溶解度が低下するために、生分解性高分子が内水相をとり囲むように析出して微粒子を形成する。
【0014】
従来のシングルエマルジョン法では、例えば少量の生理活性物質(25 mg)を生分解性高分子(ポリ乳酸-グリコール酸共重合体、250 mg)の揮発性有機溶媒溶液(ジクロロメタン、5 mL)と撹拌溶解させる。ここでは生理活性物質が均一なジクロロメタン溶液になる点がダブルエマルジョン法と異なる。このような有機相に、大量のポリビニルアルコール水溶液(1~20%)を注入(25 mL)して撹拌をつづける。するとここでは生理活性物質と生分解性高分子を含む有機相が、はげしい攪拌によって微小滴に分散される。このようなO/Wエマルジョンにおいて、生分解性高分子を溶かしていた揮発性有機溶媒が蒸発して溶解度が低下するために、生分解性高分子が生理活性物質を含んだまま析出して微粒子を形成する。
【0015】
ポリビニルアルコールは微粒子の表面を負に帯電させて、形成した微粒子が凝集することを防ぐ役割を持っている。濃度は1~10%程度が多く用いられる。しかしながら、ポリビニルアルコールは薬理学的に許容される物質であるが、生分解性にやや乏しいビニルポリマー型の高分子であるため、ワクチンを考える場合はなるべく低濃度であることが望ましい。
【0016】
(5)微粒子を用いたマラリアワクチン開発の現況:
世界で初めてマラリアワクチンのフィールドトライアルを行ったのはコロンビアのManuel E. Patarryoらである(非特許文献9、10)。これはSPf66抗原と呼ばれ、45残基のアミノ酸配列からなる化学合成ペプチドを抗原として用いている。
【0017】
SPf66に用いられているアミノ酸配列はメロゾイトやスポロゾイトと呼ばれる赤血球や肝臓へ寄生する段階の原虫が用いているタンパク質の部分アミノ酸配列に由来している。SPf66を含めて、一般にワクチン開発に用いられている標的抗原は、マラリア原虫が、(a)赤血球への侵入するためのタンパク質、(b)原虫や感染赤血球の表面に提示するタンパク質が多く用いられている。このように従来技術では、ワクチン開発は原虫表面や原虫の寄生時の構造形成に関与する構造タンパク質を用いる例が多い。
【0018】
SPf66抗原ははじめ、南アメリカ、タンザニアでのフィールドトライアルにおいて感染防御に成功した(非特許文献11)。しかしながら、その後のガンビアやタンザニアで行われた他のフィールドトライアルでは、防御効果が見られなかった(非特許文献12)。これは上記のように、マラリアの臨床症状が感染者の免疫状態によって大きく異なるため、ワクチン効果の判定が難しいことに原因している。
【0019】
一方Patarroyoらを含む関連研究グループでは、このワクチン効果の差違を、ワクチン接種時に用いるアラムと呼ばれる水酸化アルミニウムの水性懸濁液を、免疫反応を増強するアジュバントとして用いたことに原因があると考えている。
【0020】
そこでPatarroyoとPedrazらのグループはアラムに代わるアジュバントとして高分子微粒子に着目し、SPf66抗原を蒸留水に溶解させた水溶液を内水相とした、ダブルエマルジョン法によって、マイクロ微粒子の作製と免疫学的性質の研究を行っている(非特許文献13)。ここで報告されている微粒子の高分子基剤にはポリ乳酸-グリコール酸共重合体(共重合比50:50または75:25、重量平均分子量9~10万)を用い、直径およそ0.1~2.0μmと分布の広い微粒子(平均1.3~1.4μm)が得られている(非特許文献14)。また、外水相の8%ポリビニルアルコール水溶液を12%水溶液にすることで平均直径が0.5μmに縮小した微粒子が報告されている(非特許文献15)。
【0021】
しかしながら、PatarroyoとPedrazらの方法によるワクチン抗原の高分子微粒子を用いたワクチン開発は、(a)構造タンパク質を抗原としている、(b)被験者の免疫状態の差違を考慮していない、(c)蒸留水に抗原を溶解させる必要がある、(d)高濃度のポリビニルアル
コール水溶液を用いている、(e)微粒子の大きさがマイクロメートルサイズのみである、(f)大きさにばらつきが大きい、ことで限界がある。
【0022】
(6)エマルジョン法による高分子ナノ・マイクロ微粒子形成の現況:
エマルジョン法を用いたナノメートルサイズの高分子微粒子の作製法としては、アクリル酸ポリマーを用いた方法(非特許文献16)とポリ乳酸-グリコール酸共重合体を用いた方法(特許文献1)の2つが知られている。薬物を微粒子に内包させる際に、薬物と高分子の溶解する含水アセトンを用いる点に特徴がある。しかしこの方法では用いることの可能な薬物と高分子に限界がある。
【0023】
(7)エノラーゼを用いたマラリアワクチン開発の現況:
マラリアの疫学調査資料を精査してゆくと不思議なことにマラリアによる死亡者の多くは「流行地の乳幼児」と「日本人など非流行地からの渡航者」であることに気がつく。一方「流行地の大人」はマラリアに感染しても回復しやすい。これは、流行地の住民は「絶えずマラリアに感染することでマラリアへの免疫を獲得、維持している」ためと考えられる。従ってワクチン開発には、免疫状態の個人差を考慮しなくてはいけないことが明らかである。
【0024】
この疫学研究の過程で、本発明者の鈴木と狩野は、南米と東南アジアの流行地の野外調査から、急性期の熱帯熱マラリア患者が病態の回復に関与する共通の抗原分子として、原虫由来の解糖系酵素・エノラーゼを発見した (非特許文献17)。すなわち、ヒトに感染した熱帯熱マラリア原虫が産生する解糖系酵素、エノラーゼが熱帯熱マラリアへの防御免疫分子として働いていることを見出し、これを利用したワクチン開発を開始した。
【0025】
エノラーゼによるワクチン抗原は、原虫のエネルギー産生系を直接阻害して、原虫の増殖を抑制する点で、他に全く例がなく、大きく差別化されている。
【0026】
先ず、発明者らは熱帯熱マラリア原虫由来のアミノ酸配列を有する組み換え型エノラーゼおよび部分アミノ酸配列を用いた人工抗原ペプチドの分子設計と化学合成の研究を行った。これらのエノラーゼおよび人工抗原ペプチドを用いた免疫学的な研究により、抗エノラーゼ抗体や抗ペプチド抗体は熱帯熱マラリア原虫のin vitroでの増殖を抑制することが明らかとなった(特許文献2)。
【0027】
続いて熱帯熱マラリア原虫由来のエノラーゼおよび部分配列による人工抗原ペプチドを用いて、ヨザル13頭によるワクチン試験を行った(図2)。ヨザル末梢血における、赤血球へのマラリア原虫の寄生率の推移をプロットした。その結果、ワクチンを投与したヨザルは寄生率の急激な上昇が抑えられており、ワクチンとしての効果に優れていることが明らかとなった(日本経済新聞、産経新聞、河北新報、中国新聞、4紙への掲載記事2003/8/25付)。また、血清中には抗エノラーゼ抗体や抗ペプチド抗体の産生していることも明らかとなった。
【0028】
化学合成の観点から、ワクチン分子の合成法についても研究を進め、大量合成法に適したフラグメント縮合法の開発に成功した(特許文献3)。即ち、5つの短鎖ペプチドセグメントを縮合し1本の保護ペプチド鎖とすることにより、目的とするマラリア原虫エノラーゼの部分配列を持つペプチドまたはその類似体の合成を大規模に行う方法を見出した。
【0029】
合成法の開発によって、実験室レベルの小スケールで行っても、約50~500ミリグラム(ワクチンとして約1千~1万人分)を一度に得ることができるようになった。実験室規模の合成をわずか2~4回行うだけで、工業的に世界最大級の遺伝子組換体の生産設備で行うのと同じ規模のペプチドを得ることが可能である。さらに工業スケールで生産が実施
されれば、年間の世界的需要に匹敵する数百万人分のペプチド供給が十分期待されている。
【0030】
一般にタンパク質の部分アミノ酸配列を利用した化学合成ペプチドや遺伝子組み換え型ペプチドは人工抗原を始めとして医薬品や検査材料として様々な利用法が考えられる。これらの部分ペプチドを利用する際の問題点は、有機溶媒や水系溶媒に難溶な化合物の多いことにある。特に蒸留水や揮発性有機溶媒溶液(酢酸エチルやジエチルエーテルやジクロロメタンなど)へのペプチドやタンパク質の溶解性は非常に低い場合が多い。
【0031】
発明者らのエノラーゼ部分配列に於いても同様に、蒸留水や揮発性有機溶媒溶液(酢酸エチルやジエチルエーテルやジクロロメタンなど)への溶解性は低い。よって既知の方法では、化学合成や遺伝子組み換えによってエノラーゼ部分配列の人工抗原が得られても、ダブルエマルジョン法やシングルエマルジョン法によって高分子微粒子に内包させることは困難があった。
【先行技術文献】
【0032】

【特許文献1】特開平5-58882号公報
【特許文献2】特開2002-371098号公報
【特許文献3】WO2006/035815
【0033】

【非特許文献1】Kano, S. and Kimura, M., Acta Tropica, 2004, 89, 271-278.
【非特許文献2】Foote, S. J.; Thompson, J. K.; Cowman, A. F.; Kemp, D. J.; Cell, 1989, 57, 921-930.
【非特許文献3】Su, X.; Kirkman, L. A.; Fujioka, H.; Wellems, T. E., Cell, 1997, 91, 593-603.
【非特許文献4】Johnson, D. J.; Fidock, D. A.; Mungthin, M.; Lakshmanan, V.; Sidhu, A. B. S.; Bray, P. G.; Ward, S. A., Molecular Cell, 2004, 15, 867-877.
【非特許文献5】奥浩之, 化学, 2002, 57, 64-65.
【非特許文献6】J. L. Vennerstromら、Nature, vol. 430, pp. 900-904.
【非特許文献7】Moorthy, V. S.; Good, M.F.; Hill, A. V., Lancet, 2004, vol. 363, pp.150-156.
【非特許文献8】Rosasら、Vaccine 2001年、19巻、4445-4451ページ
【非特許文献9】Patarroyoら、Nature 1987年、328巻、629-632ページ
【非特許文献10】Valeroら、Lancet 1993年、341巻、705-710ページ
【非特許文献11】Noyaら、Journal of Infectious Disease 1994年、170巻、396-402ページ
【非特許文献12】D'Alessandroら、Lancet 1995年、346巻、462-467ページ
【非特許文献13】Rosasら、Vaccine 2002年、20巻、1707-1710ページ
【非特許文献14】Carcabosoら、International Journal of Pharmaceutics 2003年、260巻、273-282ページ
【非特許文献15】Carcabosoら、Vaccine 2004年、22巻、1423-1432ページ
【非特許文献16】J. Pharm. Sci. 1989年、78巻、68-72ページ
【非特許文献17】Jpn. J. Trop. Med. Hyg. 18, pp. 317-24, pp. 475-481 (1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
本発明の課題は、タンパク質やペプチドなどの生理活性物質を含む新規な微粒子およびその製造方法を提供することにある。
本発明はまた、ヒトおよび他の動物での免疫反応を利用したマラリア原虫に対する免疫学的応答を誘発することができるペプチドまたはその類似体を含んだ微粒子、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)の増殖を抑える免疫用抗原やマラリア原虫感染症の予防のための医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明者らは、難溶性の場合が多い人工抗原ペプチドを溶解することの可能な揮発性有機酸水溶液や揮発性有機酸溶液を用いることで、初めてダブルエマルジョン法またはシングルエマルジョン法による溶解性の低い抗原ペプチドを内包させたマイクロ微粒子の作製に成功した。ダブルエマルジョン法における微粒子の作製では内水相W1に用いる揮発性有機酸の選択、有機酸濃度と有機酸水溶液の容量、シングルエマルジョン法における微粒子の作製には有機酸溶液の容量等を検討した。また、生成中のエマルジョンの低温での温度管理、エマルジョン中の有機溶媒除去の方法等を検討した。このようにして難溶性の人工抗原ペプチドを含有する微粒子を得る方法を見出し、本発明を完成したものである。
【0036】
本発明は以下のとおりである。
(1)生理活性物質と生分解性高分子を含む微粒子であって、該生理活性物質を含む揮発性有機酸水溶液または生理活性物質の揮発性有機酸溶液を用いたダブルエマルジョン法またはシングルエマルジョン法によって作製された微粒子。
(2)前記揮発性有機酸が酢酸または酢酸を含む混合物である、(1)に記載の微粒子。(3)前記揮発性有機酸がギ酸またはギ酸を含む混合物である、(1)に記載の微粒子。(4)前記生分解性高分子がポリ乳酸-グリコール酸共重合体である、(1)~(3)のいずれか一項に記載の微粒子。
(5)前記生分解性高分子がポリ乳酸である、(1)~(3)のいずれか一項に記載の微粒子。
(6)前記生分解性高分子がポリデプシペプチドである、(1)~(3)のいずれか一項に記載の微粒子。
(7)前記生理活性物質がタンパク質またはペプチドである、(1)~(6)のいずれか一項に記載の微粒子。
(8)前記タンパク質またはペプチドが熱帯熱マラリア原虫由来のタンパク質またはペプチドである、(7)に記載の微粒子。
(9)前記熱帯熱マラリア原虫由来のタンパク質またはペプチドが熱帯熱マラリア原虫由来のエノラーゼまたはその部分ペプチドである、(8)に記載の微粒子。
(10)前記部分ペプチドが配列番号1と配列番号2との構造的差違部分を含み、熱帯熱マラリア原虫に対する細胞性または体液性の免疫学的応答を誘発しうるペプチドである、(9)に記載の微粒子。
(11)前記部分ペプチドが、配列番号3~6のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドである、(10)に記載の微粒子。
(12)(1)~(11)のいずれか1項に記載の微粒子と、医薬的に許容可能な担体を含む医薬組成物。
(13)(8)~(11)のいずれか1項に記載の微粒子と、医薬的に許容可能な担体を含む、マラリア原虫感染症の予防のための医薬組成物。
(14)(8)~(11)のいずれか1項に記載の微粒子を有効成分として含有する、マラリア原虫の増殖を抑えるための免疫用抗原。
(15)生理活性物質を含む有機酸水溶液または生理活性物質の有機酸溶液を、生分解性高分子を含む揮発性有機溶媒と混合してエマルジョンを作製する工程、及び得られたエマルジョンを負電荷を有するポリマーの水溶液と混合する工程を含む、生理活性物質含有微粒子の製造方法。
【0037】
本発明で述べている「揮発性有機酸」とは、カルボン酸基を有する有機化合物、または
そのアンモニウム塩もしくはエステル誘導体であって、減圧下に除去できる有機酸のことをいう。
揮発性有機酸としては常温で液体のカルボン酸基を有する有機化合物から選択することができる。酢酸やギ酸が例示され、その他にも、カルボン酸以外の官能基として水酸基を有する乳酸、カルボン酸基を複数有するフマル酸、マロン酸、リンゴ酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ここで、揮発性有機酸の利用方法として、抗原となるペプチドや蛋白質を溶解させる効果、作成した微粒子を凍結乾燥する際に容易に除去できることが考えられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
本発明で述べている「タンパク質やペプチドの誘導体」とは、それらを構成するアミノ酸が1~数個置換、欠失および/また挿入することにより生成されるタンパク質やペプチドであって、免疫学的応答に関して元のタンパク質やペプチドと同様の活性を有するペプチドのことをいう。
例えば、配列番号3~6のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドは、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個のアミノ酸が置換、欠失および/また挿入されたものであってもよい。
ここで、誘導体の利用方法として、微粒子作製に於ける溶解性・結晶性、免疫反応に使用する際の溶解性、免疫学的応答をより効果的にすることが考えられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
本発明において「免疫学的応答」とは細胞性免疫学的応答と体液性免疫学的応答の両方を含む概念である。このうち、細胞性免疫学的応答とは、例えばマクロファージ、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、好酸球、T細胞などにより引き起こされる免疫のことをいい、熱帯熱マラリア原虫に対する細胞性免疫学的応答としては、キラーT細胞が関与するものが知られている。また、体液性免疫学的応答としては、熱帯熱マラリア原虫由来のタンパク質、糖鎖などに対して特異的に結合することができる宿主由来の抗体により引き起こされるものが知られている。本発明により製造される抗原ペプチドを含む微粒子から体液性免疫学的応答として抗体を誘導させることが望ましい。また、細胞性免疫学的応答を誘導することも望ましい。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、難溶性の生理活性物質を用いたときも効率よく微粒子を作製することができる。
生理活性物質をマラリア原虫エノラーゼの部分配列および類似配列体とすることで、ヒトおよび他の動物での免疫反応を利用したマラリア原虫に対する免疫学的応答を誘発することのできる、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)の増殖を抑える免疫用抗原やマラリア原虫感染症の予防のための医薬組成物、さらにはマラリア感染への免疫状態の診断材料として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ヒト体内に於けるマラリア原虫の生活環を示す図。(a) 蚊の吸血による感染と寄生原虫の肝臓内への移行。肝細胞内で分裂・増殖してから血中に放出される。(b) 赤血球内に寄生原虫が侵入して分裂増殖を繰り返す赤血球内サイクル。(c) 増殖した原虫は他の蚊による吸血で伝搬されてゆく。
【図2】熱帯熱マラリア原虫由来エノラーゼの発見、部分アミノ酸配列(AD22, 配列番号6)を有する人工抗原ペプチドの分子設計、ヨザルを用いたワクチンの動物実験、について模式的に示した図。
【図3】実施例で用いた人工抗原ペプチドの分子構造を示す図。AD22は配列番号2に記載のアミノ酸配列である。
【図4】ダブルエマルジョン法による人工抗原微粒子の作製法を示す図。図中、MAPsは人工抗原ペプチドを、PLGAはポリ乳酸グリコール酸共重合体を、DCMはジクロロメタンを、PVAはポリビニルアルコールを示す。なお、シングルエマルジョン法では水相W1の代わりに有機酸溶液を用いるため、人工抗原ペプチドは生分解性高分子溶液Oと均一に溶解している。
【図5】酢酸溶液を用いた、シングルエマルジョン法による人工抗原ペプチドを含む微粒子のSEM写真 (倍率3000倍、平均粒径 = 0.7 mm)。
【図6】ギ酸溶液を用いた、シングルエマルジョン法による人工抗原ペプチドを含む微粒子のSEM写真 (倍率3000倍、平均粒径 = 0.8 mm)。
【図7】ギ酸水溶液を用いた、ダブルエマルジョン法による人工抗原ペプチドを含む微粒子のSEM写真 (倍率3000倍、平均粒径 = 5 mm)。エマルジョンの形成時に内水相の液滴が残るため二重構造の微粒子(W/O/Wダブルエマルジョン)となっている。平均粒径が大きいため、皮下に於いて長期間の残存が期待される。
【図8】37℃の0.2%SDS-リン酸緩衝生理食塩水40 mLの入った容器底に静置した微粒子1.0 mgからの蛍光標識人工抗原ペプチドの放出挙動(○)と、同様に静置した蛍光標識人工抗原ペプチド4.0μgが分散溶解する過程(×)を示す図。
【図9】熱帯熱マラリア原虫エノラーゼ(P. falciparum enolase、GenBank登録番号AB026051)とヒト由来αエノラーゼ(Human alpha enolase 、GenBank登録番号M14328)のアミノ酸配列の比較を示す図。明細書中に示した部分アミノ酸配列4種(GG14、AA13、GL16、AD22)は下線で標記。
【図10】マウス皮下に投与された微粒子中の人工抗原ペプチドからの蛍光画像。実施例1と同様な方法で作製された微粒子中に封入された人工抗原ペプチドの分布を生体イメージング観察している。
【図11】マウス皮下に投与された微粒子による免疫実験と抗体価の推移1。実験区1は抗原量1.6μg/匹(0.4mg微粒子/匹)、実験区2は抗原量16μg/匹(4.0mg微粒子/匹)、実験区3は抗原量16μg/匹(抗原のみで微粒子なし)、実験区4は抗原量0.0μg/匹(抗原なしで4.0mg微粒子のみ/匹)となっている。
【図12】マウス皮下に投与された微粒子による免疫実験と抗体価の推移2。ここでは図11に記載の実験区2のマウス4匹について、21週目に2匹(マウス3,5)は微粒子を再投与(抗原量16μg/匹、4.0mg微粒子/匹)、残り2匹(マウス1,4)は何も投与せずに抗体価を27週まで観察した。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明の微粒子は、生理活性物質と生分解性高分子を含む微粒子であって、揮発性有機酸水溶液または揮発性有機酸溶液を用いたダブルエマルジョン法またはシングルエマルジョン法によって作製された微粒子である。

【0043】
生理活性物質としては特に制限されないが、タンパク質またはペプチド、DNAやRNAなどの核酸、医薬化合物またはこれらの組合せが例示される。この中ではタンパク質またはペプチドが好ましい。タンパク質またはペプチドの種類は特に制限されないが、酵素、サイトカイン、抗体、異種タンパク質の免疫用フラグメントなどが例示される。

【0044】
本発明の微粒子をマラリア感染への免疫状態の診断材料、熱帯熱マラリア原虫の増殖を抑える免疫用抗原やマラリア原虫感染症の予防のための医薬として使用する場合、生理活性物質を熱帯熱マラリア原虫由来のタンパク質またはその部分ペプチドとすることができる。
熱帯熱マラリア原虫由来のタンパク質またはその部分ペプチドとしては、熱帯熱マラリア原虫由来のエノラーゼまたはその部分ペプチドが例示される。熱帯熱マラリア原虫由来のエノラーゼのアミノ酸配列を配列番号1に例示する。
本発明の微粒子を熱帯熱マラリア原虫感染に対するワクチンとして使用する場合は、配列番号1と配列番号2(ヒト エノラーゼのアミノ酸配列)との構造的差違部分(図9)を含み、熱帯熱マラリア原虫に対する細胞性または体液性の免疫学的応答を誘発しうるペプチドを生理活性物質として微粒子に含有させることが好ましい。
配列番号1と配列番号2との構造的差違部分のペプチドとしては特に制限されるものではないが、以下の4種類のペプチドが例示される。
GG14:Gly Ser Lys Asn Glu Trp Gly Trp Ser Lys Ser Lys Leu Gly(配列番号3)
AA13:Ala Ala Pro Asn Lys Val Ser Leu Tyr Lys Tyr Leu Ala(配列番号4)
GL16:Gly Phe Ala Pro Asn Ile Leu Asn Ala Asn Glu Ala Leu Asp Leu Leu(配列番号5)
AD22:Ala Ser Glu Phe Tyr Asn Ser Glu Asn Lys Thr Tyr Asp Leu Asp PheLys Thr Pro
Asn Asn Asp(配列番号6)

【0045】
一方、微粒子に生理活性物質として医薬化合物を含有させる場合、細胞壁合成阻害作用型抗生物質(ペニシリン系、セフェム・オキサセフェム系、ペネム・カルバペネム系、モノバクタム系、ペプチド系、ホスホマイシン系)、細胞膜阻害作用型抗生物質(ポリペプチド系、ポリエン系)、核酸合成阻害作用型抗生物質(キノロン系、リファンピシン系、インターフェロン系)、蛋白合成阻害作用型抗生物質(アミノグリコシド系、マクロライド・ケトリド系、テトラサイクリン系、クロラムフェニコール系、リンコマイシン系)、葉酸代謝経路阻害型抗生物質(トリメトプリム系)、βラクタマーゼ阻害薬、サルファ薬、抗感染症薬(抗細菌薬、抗結核薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、寄生虫用薬、原虫用薬)、アジュバント(水酸化アルミニウムやリン酸アルミニウム等のアルミニウム塩、鉱物塩、フロイント非完全アジュバント、ISCOM類、PRR/TLRリガンド、サポニン類)および防腐剤などの医薬化合物が例示される。

【0046】
次に、微粒子に含まれる生分解性高分子について説明する。
微粒子に含まれる生分解性高分子としては、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体、ポリ乳酸、ポリデプシペプチドなどが挙げられる。

【0047】
ここで、ポリデプシペプチドとしては、次の(I)~(V)が挙げられる。
(F1-F2n (I)
(F1-F2-F3n (II)
(F1-F2-F3-F4n (III)
(F1-F2-F3-F4-F5n (IV)
(F1-F2-F3-F4-F5-F6n (V)

【0048】
式(I)~(V)において、デプシペプチド構造部分を構成するF1、F2、F3、F4、F5およびF6はアミノ酸またはヒドロキシカルボン酸の残基を表し、式 (I)ではF1およびF2の少なくとも1つ、式 (II)ではF1、F2およびF3の少なくとも1つ、式 (II)ではF1、F2およびF3の少なくとも1つ、式 (III)ではF1、F2、F3およびF4の少なくとも1つ、式 (IV)ではF1、F2、F3、F4およびF5の少なくとも1つ、式 (V)ではF1、F2、F3、F4、F5およびF6の少なくとも1つがヒドロキシカルボン酸残基である。なお、デプシペプチド構造部分を構成するアミノ酸は微粒子の用途や生理活性物質の種類に応じて適宜選択されるが、L体のアミノ酸であることが好ましい。
上記ヒドロキシカルボン酸はバリン酸((S)-2-hydroxy-3-methylbutanoic acid)または乳酸またはグリコール酸が好ましい。

【0049】
式(I)~(V)において、デプシペプチドの繰り返しを表すnは2~100の整数が好ましく、5~50の整数がより好ましい。
そして、繰り返し単位であるF1-F2またはF1-F2-F3またはF1-F2-F3-F4またはF1
F2-F3-F4-F5またはF1-F2-F3-F4-F5-F6は2種類以上の配列であってもよい。また、残基数の異なる繰り返し配列が任意の順序で並んだものでもよい。例えば5残基の配列と6残基の配列が任意の順序で並んだ下記のようなものが考えられる。
(F1-F2-F3-F4-F5o-(F1-F2-F3-F4-F5-F6p -(F1-F2-F3-F4-F5q-(F1-F2-F3-F4-F5-F6r
oは1~19の整数、pは19~1、qは19~0、rは19~0の整数を表す。

【0050】
繰り返し単位であるデプシペプチドの配列は、以下のようなものが例示される。
式(IV)におけるF1-F2-F3-F4-F5としては、-Xaa1-Xaa2-Gly-Lac-Pro- または -Xaa1-Xaa2-Gly-Hmb-Pro- が挙げられ、式(V)におけるF1-F2-F3-F4-F5-F6としては-Xaa1-Xaa2-Gly-Hmb-Ala-Pro-が挙げられる(WO2006/43644)。
ここで、Xaa1、Xaa2は任意のアミノ酸残基を示し、Hmbは式(VI)で示されるバリン酸残基を表し、Lacは式(VII)で示される乳酸残基を表す。【化1】
JP0005429707B2_000002t.gif

【0051】
さらに好ましくは、式(IV)におけるF1-F2-F3-F4-F5が-Ala-Ile-Gly-Lac-Pro-、-Gly-Ile-Gly-Hmb-Pro- または -Gly-Val-Gly-Hmb-Pro-であり、式(V)におけるF1-F2-F3-F4-F5-F6が -Gly-Val-Gly-Hmb-Ala-Pro-である。

【0052】
デプシペプチドは、重合反応によるポリマーまたはオリゴマーの合成、またはセグメント縮合と呼ばれる一単位ずつの伸長反応による適当な鎖長を持つ化合物の合成、の二種類の方法を用いて得ることができる(WO2006/43644)。

【0053】
本発明の微粒子の粒径は特に制限されず、用途に応じて適宜調整されるが、100nm~50μmが好ましい。

【0054】
本発明の微粒子は、ダブルエマルジョン法またはシングルエマルジョン法によって得ることができる。
具体的には、生理活性物質を含む揮発性有機酸水溶液または生理活性物質の揮発性有機酸溶液を、生分解性高分子を含む揮発性有機溶媒と混合してエマルジョンを作製する工程、および得られたエマルジョンを負電荷を有するポリマーの水溶液と混合する工程によって得ることができる。

【0055】
揮発性有機溶媒としては、生分解性高分子を溶解することのできる、揮発性で水と混ざりにくい有機溶媒が用いられるが、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、ジエチルエーテルなどが好ましく用いられる。
負電荷を有するポリマーとしては、酸素原子を含むポリマーが挙げられ、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコールが好ましく用いられる


【0056】
ダブルエマルジョン法は、例えば、Rosasら、Vaccine 2001年、19巻、4445-4451ページに記載されたようにして行うことができる。具体的な製法の一例を以下に示す。
生理活性物質(25 mg)の酢酸水溶液(250μL)を生分解性高分子(ポリ乳酸-グリコール酸共重合体など、250 mg)の揮発性有機溶媒溶液(ジクロロメタンなど、5 mL)と撹拌乳化させる。ここでは生理活性物質を含む内水相が、はげしい攪拌によって微小滴に分散される。このようなW/Oエマルジョンに、大量の負電荷ポリマー(ポリビニルアルコールなど)の水溶液(8~12%)を注入(25 mL)して撹拌をつづける。それにより、生分解性高分子を溶かしていた揮発性有機溶媒が蒸発して、溶解度が低下するために、生分解性高分子が内水相をとり囲むように析出して微粒子が形成される。

【0057】
シングルエマルジョン法による具体的な製法の一例を以下に示す。
まず、少量の生理活性物質(25 mg)を酢酸に溶解し、この酢酸溶液を生分解性高分子(ポリ乳酸-グリコール酸共重合体など、250 mg)の揮発性有機溶媒溶液(ジクロロメタン、5 mL)と撹拌溶解させる。生理活性物質が均一な揮発性有機溶媒溶液になる点がダブルエマルジョン法と異なる。このようにして得られる有機相に、大量の負電荷ポリマー(ポリビニルアルコールなど)の水溶液(1~12%)を注入(25 mL)して撹拌をつづける。それにより、生理活性物質と生分解性高分子を含む有機相が、はげしい攪拌によって微小滴に分散される。このようなO/Wエマルジョンにおいて、生分解性高分子を溶かしていた揮発性有機溶媒が蒸発して溶解度が低下するために、生分解性高分子が生理活性物質を含んだまま析出して微粒子が形成される。

【0058】
なお、本発明の微粒子はアルミニウムイオンを含むものであってもよい。アルミニウムイオンを含む塩類は酢酸やギ酸などの揮発性有機酸に溶けやすいため、生理活性物質とともにアルミニウムイオンを含む塩類を揮発性有機酸水溶液または揮発性有機酸溶液にしてダブルエマルジョン法またはシングルエマルジョン法を行うことにより、生理活性物質とアルミニウムを含む微粒子を得ることができる。
アルミニウムイオンが含まれることにより、抗原ペプチドの抗原性がより促進される。これは例えば、Lindblad、Vaccine 2004年、22巻、3658-3668ページおよび引用文献を参考にして、最適なアルミニウム塩の選択や微粒子の設計をすることができる。

【0059】
なお、本発明の微粒子はアルミニウムイオン以外のアジュバントを含むものであってもよい。アジュバントは酢酸やギ酸などの揮発性有機酸もしくは揮発性有機酸水溶液もしくは有機溶媒に溶けやすいため、生理活性物質とともにそれらのアジュバントを含む揮発性有機酸溶液もしくは揮発性有機酸水溶液もしくは有機溶液にしてダブルエマルジョン法またはシングルエマルジョン法を行うことにより、生理活性物質とアジュバントを含む微粒子を得ることができる。
アジュバントが含まれることにより、抗原ペプチドの抗原性がより促進される。これは例えば、Guy、Nature Reviews Microbiology 2007年、5巻、505-517ページおよび引用文献を参考にして、最適なアジュバントの選択や微粒子の設計をすることができる。

【0060】
本発明の微粒子は、医薬的に許容可能な担体を配合することにより、医薬組成物とすることができる。本発明の微粒子を含むことで、生理活性物質の放出を制御できる徐放性の医薬組成物とすることができる。
ここで、医薬的に許容可能な担体としては、緩衝剤、凍結乾燥補助剤、安定化補助剤、可溶化補助剤、抗菌剤など製剤過程で許容される成分が挙げられる。
緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、スルホサリチル酸塩、および酢酸塩などが挙げられる。
凍結乾燥補助剤としては、マンニトール、ラクトース、ソルビトール、デキストラン、
フィコール(Ficoll)、およびポリビニルピロリジン(PVP)などが挙げられる。
安定化補助剤としては、アスコルビン酸、システイン、モノチオグリセロール、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、ゲンチシン酸、イノシトールなどが挙げられる。
可溶化補助剤としては、エタノール、グリセリン、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート、ソルビタンモノオレアート、ポリソルベート類、ポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)ポリ(オキシエチレン)ブロックコポリマー(Pluronics)およびレシチンなどが挙げられる。
抗菌剤としては、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、クロルブタノール、メチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンなどが挙げられる。
医薬組成物の剤型は特に制限されず、注射剤、経口剤、塗布剤などが挙げられるが、注射剤が好ましい。注射剤は、微粒子を希釈剤などに溶解し、必要に応じて安定剤、保存剤、緩衝剤等を添加することによって製造することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射、腹腔内注射などが挙げられる。
生理活性物質を熱帯熱マラリア原虫由来のタンパク質またはペプチドとすることで、マラリア原虫感染症の予防のための医薬組成物を得ることができる。
本発明の医薬組成物のヒトへの投与量は、対象者の年齢、性別、体重、免疫状態、投与方法、あるいは該医薬組成物に含有される生理活性物質の割合などにより異なるが、1回の投与において1μg~100 mgが好ましく、100μg~10 mgがより好ましい。
投与回数は特に制限されず、一定期間をおいての複数回の投与はブースト効果による抗体価の上昇と維持が期待できる。一定期間とは2週間から6ヶ月が好ましく、3週間から3ヶ月がより好ましい。複数回とは2回から20回が好ましく、2回から4回がより好ましい。

【0061】
また、生理活性物質として熱帯熱マラリア原虫由来のタンパク質またはペプチドを含有する本発明の微粒子は、マラリア原虫の増殖を抑える免疫用抗原(ワクチン)の有効成分として使用することもできる。上記のような医薬的に許容可能な担体やアジュバントと配合して使用することができる。

【0062】
なお、本発明の微粒子は、高分子担体、フィルム、ラテックス粒子、金属超微粒子又はプラスチックプレートなどの固相表面に結合させることもできる。
例えば、生理活性物質として熱帯熱マラリア原虫由来のタンパク質またはペプチドを含有する本発明の微粒子を上記の固相表面に結合させることで、マラリア感染への免疫状態の診断材料や研究試薬とすることもできる。
【実施例】
【0063】
以下本発明の実施態様である、ダブルエマルジョン法またはシングルエマルジョン法によって作製された微粒子について詳細を実施例1~3に、内水相にアルカリ性のグリシン緩衝液(150 mM, pH 8.5)を用いた詳細を比較例1に、内水相に蒸留水を用いた詳細を比較例2に示した。さらに、微粒子からの人工抗原ペプチドの放出挙動についての詳細を実施例4に示す。さらに微粒子のin vivoでの挙動を実施例5に示す。しかし以下の具体例は本発明を限定するものではなく、例えば高分子について他の既知の生分解性高分子への置換や溶液量や濃度の調整など、適宜変更できることは勿論である。
【0064】
(実施例1)酢酸溶液を用いて作製された微粒子
微粒子はシングルエマルジョン法(O/W)によって作製した。人工抗原ペプチド(図3)は蒸留水に難溶であるが、酢酸には少量で溶解させることができた。シングルエマルジョン法では、図4のダブルエマルジョン法に示す水相W1の代わりに有機酸溶液を用いるため、人工抗原ペプチドは生分解性高分子溶液Oと均一に溶解している。得られるO/Wエマル
ジョンを氷冷することでより均一な微粒子が形成された。これはエマルジョンの粘性が高くなったためと考えられる。また窒素ガスの吹きつけによって有機溶媒の除去を迅速に行った。その結果、平均粒径が0.6μmの比較的均一な人工抗原ペプチドを含有した微粒子作製に成功した。下記に実験操作の詳細と図5に走査電子顕微鏡写真を示す。
【0065】
200 mLナスフラスコに抗原ペプチド1mg、酢酸1mLを加えて溶解させた。氷冷下でPoly(lactic acid-co-glycolic acid) (和光純薬、PLGA7520、分子量20,000)240 mgを蒸留ジクロロメタン 6 mLに溶解させた有機相(O)を加えたのち、ウルトラソニックホモジナイザー(SNTカンパニー、UH-50型、4 mmプローブを使用)によって15分間混合撹拌し、有機相Oとした。
【0066】
氷冷した0.5%PVA水溶液180 mL(W)をウルトラソニックホモジナイザーで超音波撹拌している有機相Oに加えた。さらに氷冷下で超音波撹拌を15分間続けてO/Wエマルジョンを作製した。その後ジクロロメタンを揮発させるために、マグネテックスターラーによる撹拌と窒素ガスの吹きつけを5時間行った。
【0067】
O/Wエマルジョンを粗いガラスフィルター(G1)に通して大きな浮遊物を取り除いた後、50 mL遠心管4本に移し遠心分離 (130 G、30分、4℃)を行い大きな沈殿物をはじめに除去した。再び遠心分離(2000 G、100分、4℃)を行い微粒子を沈殿させた。40 mL蒸留水への再懸濁を3回繰り返すことで洗浄を行った。蒸留水を5 mLを加えて冷凍庫で凍結した後に凍結乾燥を行い、微粒子を得た。
【0068】
(実施例2)ギ酸溶液を用いて作製された微粒子
微粒子はシングルエマルジョン法(O/W)によって作製した。実施例1と同様な方法でギ酸を用いて溶液を作成できた。その結果、平均粒径が0.8μmの比較的均一な人工抗原ペプチドを含有した微粒子作製に成功した。下記に実験操作の詳細と図6に走査電子顕微鏡写真を示す。
【0069】
200 mLナスフラスコに抗原ペプチド12 mg、ギ酸0.6 mLを加えて溶解させた。氷冷下でPoly(lactic acid-co-glycolic acid) (和光純薬、PLGA7520、分子量20,000)240 mgを蒸留ジクロロメタン 6 mLに溶解させた有機相(O)を加えたのち、ウルトラソニックホモジナイザー(SNTカンパニー、UH-50型、4 mmプローブを使用)によって15分間混合撹拌し、有機相Oとした。
【0070】
氷冷した0.5%PVA水溶液180 mL(W)をウルトラソニックホモジナイザーで超音波撹拌している有機相Oに加えた。さらに氷冷下で超音波撹拌を15分間続けてO/Wエマルジョンを作製した。その後ジクロロメタンを揮発させるために、マグネテックスターラーによる撹拌と窒素ガスの吹きつけを5時間行った。
【0071】
O/Wエマルジョンを粗いガラスフィルター(G1)に通して大きな浮遊物を取り除いた後、50 mL遠心管4本に移し遠心分離 (130 G、30分、4℃)を行い大きな沈殿物をはじめに除去した。再び遠心分離(2000 G、100分、4℃)を行い微粒子を沈殿させた。40 mL蒸留水への再懸濁を3回繰り返すことで洗浄を行った。蒸留水を5 mLを加えて冷凍庫で凍結した後に凍結乾燥を行い、微粒子を得た。
【0072】
(実施例3)ギ酸水溶液を用いて作製された微粒子
微粒子はダブルエマルジョン法(W1/O/ W2)によって作製した。人工抗原ペプチド(図3)ギ酸と蒸留水を用いて水相W1を作成した。図4のダブルエマルジョン法に従って混合を行い、それぞれのエマルジョンを氷冷しながら作成することでより均一な微粒子が形成された。これはエマルジョンの粘性が高くなったためと考えられる。また窒素ガスの吹き
つけによって有機溶媒の除去を迅速に行った。その結果、平均粒径が約3~10μmの人工抗原ペプチドを含有した微粒子作製に成功した。下記に実験操作の詳細と図7に走査電子顕微鏡写真を示す。
【0073】
200 mLナスフラスコに抗原ペプチド3.2 mg、ギ酸0.32 mL、ゼラチン水溶液3.2 mg/0.32mL、水0.64 mLの順に加えて溶解させた(水相W1)。氷冷下でPoly(lactic acid-co-glycolic acid) (和光純薬、PLGA7520、分子量20,000)240 mgを蒸留ジクロロメタン 6 mLに溶解させた有機相(O)を加えたのち、ウルトラソニックホモジナイザー(SNTカンパニー、UH-50型、4 mmプローブを使用)によって15分間混合撹拌し、W1/Oエマルジョンとした。
【0074】
氷冷した0.5%PVA水溶液180 mL(W2)を氷冷したW1/Oエマルジョンに加えた。メカニカルホモジェナイザー(本体IKA-T25 Ultra Turrax、プローブS25N-18G)を用い、3200rpm10分間の撹拌を行った。メカニカルプローブを用いてエマルジョンを穏和に撹拌することで内水相の液滴が残るため二重構造の微粒子(W1/O/W2エマルジョン)が生成した。二重構造は共焦点レーザー顕微鏡や走査型電子顕微鏡で確認することができた。その後ジクロロメタンを揮発させるために、マグネテックスターラーによる撹拌と窒素ガスの吹きつけを5時間行った。
【0075】
作成したW1/O/W2エマルジョンを粗いガラスフィルター(G1)に通して大きな浮遊物を取り除いた後、50 mL遠心管4本に移し静置して沈殿する物質をはじめに除去した。再び遠心分離 (130 G、30分、4℃)を行い微粒子を沈殿させた。40 mL蒸留水への再懸濁を3回繰り返すことで洗浄を行った。蒸留水を5 mLを加えて冷凍庫で凍結した後に凍結乾燥を行い、微粒子を得た。
【0076】
(比較例1)内水相にアルカリ性のグリシン緩衝液(150 mM, pH 8.5)を用いて作製された微粒子
ギ酸水溶液や酢酸水溶液の代わりにグリシン緩衝液(150 mM, pH 8.5)を用いたが、まったく微粒子の形成がみられなかった。pHを9.2にしても同様であった。但し人工抗原の溶解性は酢酸水溶液やギ酸水溶液と同様に良好であった。以下に操作方法を示す。
【0077】
200mLナスフラスコに抗原ペプチド10 mg、ゼラチン4 mg(米国PolyScience社)、グリシン緩衝液100 mLを加えて、ウルトラソニックホモジナイザー(SNTカンパニー、UH-50型、4 mmプローブを使用)で超音波撹拌を30分間行った(W1)。Poly(lactic acid-co-glycolic acid) 375 mgをジクロロメタン2 mLに溶解させた有機相(O)をW1に加えた。ウルトラソニックホモジナイザーにより超音波撹拌を3分間行いW1/Oエマルジョンを作製した。
【0078】
W1/O/W2エマルジョンを粗いガラスフィルター(G1)に通して大きな浮遊物を取り除いた後、さらにデカンテーションにて大きな沈殿を取り除き、50 mL遠心管に移し遠心分離 (3000 rpm、10~20分)行い沈殿させた。すべてのW1/O/W2エマルジョンを沈殿させた後50 mL蒸留水で洗浄を行った。蒸留水を5 mLを加えて冷凍庫で凍結した後に凍結乾燥を行った。
【0079】
氷冷した0.5%PVA水溶液25 mL(W2)をウルトラソニックホモジナイザーで超音波撹拌しているW1/Oエマルジョン中に加えた。さらに氷冷下で超音波撹拌を3分間続けてW1/O/W2エマルジョンを作製した。その後ジクロロメタンを揮発させるために、マグネテックスターラーによる撹拌と窒素ガスの吹きつけを6時間行った。
【0080】
(比較例2)内水相に蒸留水を用いて作製された高分子微粒子
人工抗原ペプチドは蒸留水に溶解しないため(10 mg/100 mL)微粒子の作製は行うことができない。また、内水相に蒸留水のみを用いて行った場合は、直径が大きく、粒径分布
の広い(5~30μm)マイクロメートルサイズの高分子微粒子が形成された。以下に操作方法を示す。
【0081】
200mLナスフラスコにゼラチン4 mg(米国PolyScience社)、蒸留水100 mLを加えて、ウルトラソニックホモジナイザー(SNTカンパニー、UH-50型、4 mmプローブを使用)で超音波撹拌を30分間行った(W1)。Poly(lactic acid-co-glycolic acid) 375 mgをジクロロメタン2 mLに溶解させた有機相(O)をW1に加えた。ウルトラソニックホモジナイザーにより超音波撹拌を3分間行いW1/Oエマルジョンを作製した。
【0082】
W1/O/W2エマルジョンを粗いガラスフィルター(G1)に通して大きな浮遊物を取り除いた後、さらにデカンテーションにて大きな沈殿を取り除き、50 mL遠心管に移し遠心分離 (3000 rpm、10~20分)行い沈殿させた。すべてのW1/O/W2エマルジョンを沈殿させた後50 mL蒸留水で洗浄を行った。蒸留水を5 mLを加えて冷凍庫で凍結した後に凍結乾燥を行った。
【0083】
氷冷した0.5%PVA水溶液25 mL(W2)をウルトラソニックホモジナイザーで超音波撹拌しているW1/Oエマルジョン中に加えた。さらに氷冷下で超音波撹拌を3分間続けてW1/O/W2エマルジョンを作製した。その後ジクロロメタンを揮発させるために、マグネテックスターラーによる撹拌と窒素ガスの吹きつけを6時間行った。
【0084】
(実施例4)蛍光標識を用いた微粒子からの人工抗原ペプチドの放出挙動
実施例1と同様な方法で作製された微粒子からの人工抗原ペプチドの放出を観察した。このとき抗原ペプチドはカルボキシフルオレッセインを用いて標識したものを用いた。37℃の0.2%SDS-リン酸緩衝生理食塩水40 mLの入った容器底(医薬品用プラスチック容器、株式会社大協精工製CZバイアルおよびフッ素樹脂ラミネートゴム栓)に静置した微粒子1.0 mgからの蛍光標識人工抗原ペプチドの放出挙動(○)を蛍光強度によって追跡した(図8)。比較として同様に静置した蛍光標識人工抗原ペプチド4.0μgが分散溶解する過程(×)も追跡した。
【0085】
蛍光分光測定には、装置(日本分光製FP-6200)とマイクロセルを用いてバイアル容器内から50μLの溶液を採取して、フルオレッセインの蛍光を観察した。採取した溶液は再びバイアル容器内に戻すことができる。この方法によれば、微粒子は懸濁させないために容器中に分散することなく、数週間から数ヶ月の長期間にわたって微粒子からの人工抗原ペプチドの放出の様子を観察することが可能である。微粒子が溶液中に懸濁させた場合でも遠心分離法によって溶液と微粒子成分を分離したのちに蛍光測定を行い、同様な抗原ペプチドの微粒子からの放出を観測することができる。
【0086】
(実施例5)マウス皮下に於ける微粒子からの人工抗原ペプチドの放出挙動
実施例1と同様な方法で作製された微粒子からの人工抗原ペプチドの放出をマウス皮下に於いて観察した。このとき抗原ペプチドはカルボキシフルオレッセインを用いて標識したものをシングルエマルジョン法によって微粒子化した後に皮下からの消失を蛍光イメージング法によって観察した。
【0087】
0.20 mLの生理食塩水に2.0 mgの微粒子を分散させて2匹のヌードマウス皮下(1匹は背中側2ヶ所0.5 mLづつ、もう1匹は背中側1ヶ所0.08 mL)に接種した。蛍光イメージャー(米国CRi製マエストロFL500)によってフルオレッセインの蛍光を数日おきに観察することで皮下に於ける人工抗原ペプチドの消失過程を実際に追跡することができた(図10)。
【0088】
0,2,5日目の蛍光画像を励起波長445-490 nm、検出波長500-720 nmの波長域で5 nm
毎に観測した。得られた蛍光画像をスペクトル分解による画像処理を行った。その結果、0日目に皮下へ投与された蛍光微粒子は2日後に強度が24~48%に、5日後に17~49%になった。これは投与された微粒子の一部は皮下で拡散して蛍光強度が2日目にかけて急激に減衰し(0~2日目)、残った微粒子はあまり拡散することなくゆっくり分解されていった(2~10日目)。また、10日目以降の観察ではカルボキシフルオレッセインが皮下の脂肪組織へ蓄積するために、微粒子の分解挙動を蛍光強度から解析することはあまり適していない。
【0089】
上記の蛍光イメージング法ではおよその体内分布で人工抗原ペプチドの消失量をみつもることが限界である。より厳密な定量データを得るには放射性同位元素を人工抗原ペプチドに標識して(例えば放射性ヨウ素によるチロシン残基への標識)体内分布や代謝過程を厳密に定量して追跡することがよい。これは実際に一般的に用いられている方法であり、本実施例に於いても容易に実施が可能である。
【0090】
(実施例6)微粒子によるマウスへの免疫実験1
実施例1と同様な方法で作製された微粒子によるマウス皮下への免疫実験と抗体価の推移を検討した。図11に示すように、人工抗原ペプチドに対する抗体価を0~15週までプロットした。抗体価は血清の希釈倍率によって表されるものであり、「ELISA法で測定した検体血清の405nmの吸光度」が「免疫前血清での吸光度+標準偏差の2倍」を超える時点での希釈率を抗体価として定義される。各実験区はBalb/cマウス(7週齢♀)5匹ずつを用いた。実験区1は抗原量1.6μg/匹(0.4mg微粒子/匹)、実験区2は抗原量16μg/匹(4.0mg微粒子/匹)、実験区3は抗原量16μg/匹(抗原のみで微粒子なし)、実験区4は抗原量0.0μg/匹(抗原なしで4.0mg微粒子のみ/匹)の投与となっている。実験区2における抗体価の推移から、本実験での投与量に於いて、本発明の微粒子はマウスへの免疫により抗体を産生できることがわかった。また抗体価は持続的に上昇することも明らかとなった。
【0091】
(実施例7)微粒子によるマウスへの免疫実験2
ここでは実施例6と図11に記載の実験区2のマウス4匹について、21週目に2匹(マウス3,5)は微粒子を再投与(抗原量16μg/匹、4.0mg微粒子/匹)し、残り2匹(マウス1,4)は何も再投与せずに抗体価を27週まで観察した。図12に示すように再投与した2匹(マウス3,5)の抗体価が投与前に比較して有意に上昇したことから、本発明の微粒子はマウスへの免疫においてブースター効果を示すことが明らかになった。
【0092】
上記の実施例6,7で得られるマウスの抗血清は、例えば熱帯熱マラリア原虫の培養系に10倍、20倍、200倍希釈で添加してゆくことで増殖抑制効果を調べることができる。このとき血清の希釈率を上げることで増殖率が抑えられると予想される。これは実際に一般的に用いられている方法であり、本実施例に於いても容易に実施が可能である。
【0093】
このとき、例えば特許出願2001-176044(特許公開2002-371098)の実施例に記載のように、培養系中の原虫の形態をギムザ染色で顕微鏡観察すると、抗血清を添加したものではシゾントに成熟できず、赤血球中で死んで行く様子が予想される。シゾントは分裂体と呼ばれ、血流中の増殖サイクルの1形態である。赤血球中のトロフォゾイト(栄養体、輪状体)がシゾント(分裂体)へ成熟し、感染者の発熱と新たな赤血球への感染を引き起こすメロゾイトとなる。すなわち本発明の微粒子をヒトに投与した場合には、シゾントへの成熟を止めることにより、熱帯熱マラリア感染時の発熱と重症化(新たな赤血球への感染)を直接抑えることができると考えられる。
図面
【図3】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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