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明細書 :リン酸モノエステル製造用触媒及びリン酸モノエステルの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4210764号 (P4210764)
登録日 平成20年11月7日(2008.11.7)
発行日 平成21年1月21日(2009.1.21)
発明の名称または考案の名称 リン酸モノエステル製造用触媒及びリン酸モノエステルの製造方法
国際特許分類 B01J  23/36        (2006.01)
B01J  31/32        (2006.01)
C07F   9/11        (2006.01)
C07F   9/113       (2006.01)
C07F   9/117       (2006.01)
C07F   9/09        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI B01J 23/36 Z
B01J 31/32 Z
C07F 9/11
C07F 9/113
C07F 9/117
C07F 9/09 Z
C07B 61/00 300
請求項の数または発明の数 12
全頁数 17
出願番号 特願2008-501623 (P2008-501623)
出願日 平成18年12月13日(2006.12.13)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成18年2月20日 社団法人日本化学会(http://www.chemistry.or.jp/nenkai/86haru/prog-86.pdf)に発表
特許法第30条第1項適用 平成18年11月13日 中部化学関係学協会支部連合協議会主催の第37回中部化学関係学協会支部連合秋季大会で発表
特許法第30条第1項適用 第37回中部化学関係学協会支部連合秋季大会講演予稿集(平成18年11月12日)中部化学関係学協会支部連合協議会発行第155ページに発表
国際出願番号 PCT/JP2006/324852
国際公開番号 WO2007/097100
国際公開日 平成19年8月30日(2007.8.30)
優先権出願番号 2006046421
優先日 平成18年2月23日(2006.2.23)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年7月22日(2008.7.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】石原 一彰
【氏名】坂倉 彰
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】110000017、【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
審査官 【審査官】西山 義之
調査した分野 B01J 23/36
B01J 31/32
C07F 9/09
C07F 9/11
C07F 9/113
C07F 9/117
C07B 61/00
CA(STN)
JSTPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
アルコールとリン酸とを脱水縮合させてリン酸モノエステルを製造する際に使用するリン酸モノエステル製造用触媒であって、
トリオキソレニウム(VII)化合物を有効成分として含有するリン酸モノエステル製造用触媒。
【請求項2】
前記トリオキソレニウム(VII)化合物は、過レニウム酸及びその塩、アルキルトリオ
キソレニウム、過レニウム酸トリアルキルシリル並びに無水過レニウム酸からなる群より選ばれた1種以上の化合物である、
請求項1に記載のリン酸モノエステル製造用触媒。
【請求項3】
アルコールとリン酸とを脱水縮合させてリン酸モノエステルを製造する際に使用するリン酸モノエステル製造用触媒であって、
リン酸と反応して下記式(1)で表される中間体を形成可能な7価のレニウム化合物を有効成分として含有するリン酸モノエステル製造用触媒。
【化1】
JP0004210764B1_000012t.gif
(式(1)において、[Re(VII)]は-ReO3又は-ReO2(OH)(Alkyl)(但し、Alkylはアルキル基)を表す)
【請求項4】
前記レニウム化合物と3級アミンとを有効成分として含有する、請求項1~3のいずれかに記載のリン酸モノエステル製造用触媒。
【請求項5】
前記レニウム化合物と前記3級アミンとのモル比は1:1~100である、請求項4に記載のリン酸モノエステル製造用触媒。
【請求項6】
前記レニウム化合物と2級アミンとを有効成分として含有する、請求項1~3のいずれかに記載のリン酸モノエステル製造用触媒。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のリン酸モノエステル製造用触媒の存在下でアルコールとリン酸とを脱水縮合させることによりリン酸モノエステルを製造する、リン酸モノエステルの製造方法。
【請求項8】
極性溶媒と共沸脱水用溶媒との混合溶媒中で共沸脱水しながらアルコールとリン酸とを脱水縮合させる、請求項7に記載のリン酸モノエステルの製造方法。
【請求項9】
リン酸モノエステル製造用触媒は、該リン酸モノエステル製造用触媒に含有されるレニウム(VII)化合物がアルコールに対して0.5~10mol%の範囲に入るように使用する、請求項7又は8に記載のリン酸モノエステルの製造方法。
【請求項10】
アルコールとリン酸のモル比を1:1とする、請求項7~9のいずれかに記載のリン酸モノエステルの製造方法。
【請求項11】
100~200℃でアルコールとリン酸とを脱水縮合させる、請求項7~10のいずれかに記載のリン酸モノエステルの製造方法。
【請求項12】
前記アルコールは炭素数が5以上の1級又は2級アルコールである、請求項7~11のいずれかに記載のリン酸モノエステルの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸モノエステル製造用触媒及びリン酸モノエステルの製造方法に関し、特に7価のレニウム化合物を有効成分として含有するリン酸モノエステル製造用触媒及びこの触媒を利用したリン酸モノエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸モノエステルは、従来より、医薬、農薬、有機材料などの分野において、製品、合成中間体あるいは原材料などとして有用な化合物であり、その効率的な製造法の開発が強く望まれている。
【0003】
リン酸モノエステルを製造するには、アルコールとリン酸を直接脱水縮合させるのが最も効率的、経済的である。アルコールとリン酸からリン酸モノエステルを製造する既存の方法は、そのほとんどが脱水縮合剤(例えば、塩化2,4,6-トリイソプロピルフェニルスルホニルやN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミドなど)を用いるものである。脱水縮合剤を用いる製造方法の場合、脱水縮合剤を等モル量以上用いる必要があり、コストの負担が大きい。また、脱水縮合剤に由来する副生成物の除去が困難な場合が多い。脱水縮合剤を用いないでリン酸とアルコールを直接脱水縮合させる方法としては、アルコールに対して5当量のリン酸を用いて、リン酸に対して2当量のトリブチルアミンの存在下でN,N’-ジメチルホルムアミド中で加熱還流させることによりリン酸モノエステルを製造する方法が知られている(非特許文献1)。また、本発明者らは、求核性塩基であるN-ブチルイミダゾールを用いてリン酸とアルコールを直接脱水縮合させてリン酸モノエステルを製造する方法を開発し既に報告している(非特許文献2)。

【非特許文献1】Chem. Pharm. Bull., vol14, p1061, 1966
【非特許文献2】Org. Lett., vol7, p1999, 2005
【発明の開示】
【0004】
しかしながら、非特許文献1の製造方法は反応条件がきわめて過酷であり、実用的な方法であるとは言い難い。また、非特許文献2の製造方法は、等モル量のアルコールとリン酸からリン酸モノエステルが得られるという利点があるが、リン酸に対して等モル量のトリブチルアミンの添加を必要とし、また反応条件下で反応溶媒の分解が一部起こり、リン酸モノエステルの生成が困難となることがあるという問題がある。
【0005】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、従来の方法よりも穏和な条件下でリン酸とアルコールを直接脱水縮合させることによりリン酸モノエステルを製造することを目的とする。
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、アルコールとリン酸を直接脱水縮合させることによるリン酸モノエステルの製造を様々な条件で試みたところ、触媒量の過酸化レニウムの存在下で脱水縮合させたときに高収率でリン酸モノエステルが得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の第1のリン酸モノエステル製造用触媒は、アルコールとリン酸とを脱水縮合させてリン酸モノエステルを製造する際に使用するリン酸モノエステル製造用触媒であって、トリオキソレニウム(VII)化合物を有効成分として含有することを要旨とする。ここで、トリオキソレニウム(VII)化合物とは、化学式中に-ReO3を含む7価のレニウム化合物をいう。
【0008】
本発明の第2のリン酸モノエステル製造用触媒は、アルコールとリン酸とを脱水縮合させてリン酸モノエステルを製造する際に使用するリン酸モノエステル製造用触媒であって、リン酸と反応して下記式(1)で表される中間体を形成可能な7価のレニウム化合物を有効成分として含有するものである。
【0009】
【化1】
JP0004210764B1_000002t.gif
(式(1)において、[Re(VII)]は-ReO3又は-ReO2(OH)(Alkyl)(但し、Alkylはアルキル基)を表す)
【0010】
本発明のリン酸モノエステルの製造方法は、上述した本発明の第1又は第2のリン酸モノエステル製造用触媒の存在下、極性溶媒と非極性溶媒の混合溶媒中でアルコールとリン酸とを脱水縮合させることによりリン酸モノエステルを製造するものである。
【0011】
本発明によれば、従来の方法よりも穏和な条件下でリン酸とアルコールを直接脱水縮合させることによりリン酸モノエステルを製造することができる。また、本発明によれば、リン酸ジエステルやリン酸トリエステルを生成させることなくリン酸モノエステルを選択的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の第1のリン酸モノエステル製造用触媒において、トリオキソレニウム(VII)化合物としては、例えば、過レニウム酸(HOReO3);過レニウム酸アンモニウム(NH4OReO3)や過レニウム酸ナトリウム(NaOReO3)等の過レニウム酸塩;メチルトリオキソレニウム(VII)(CH3ReO3)やエチルトリオキソレニウム(VII)(C25ReO3)等のアルキルトリオキソレニウム;過レニウム酸トリメチルシリル(Me3SiOReO3)や過レニウム酸t-ブチルジメチルシリル(t-BuMe2SiOReO3)等の過レニウム酸トリアルキルシリル;過レニウム酸の無水物(O3ReOReO3)などが挙げられる。このようなトリオキソレニウム(VII)化合物の存在下でのアルコールとリン酸との脱水縮合を考察すると、まずリン酸とトリオキソレニウム(VII)化合物とが反応して上述した式(1)で表される中間体が生成し、この中間体のリンにアルコールのヒドロキシル基の酸素が結合すると共に過レニウム酸イオンが脱離してリン酸モノエステルが生成すると考えられる。具体的には、式(1)のレニウム化合物として化学式に-OReO3を含む過レニウム酸を例示すると、下記式(2)のように反応が進行すると考えられる。また、式(1)のレニウム化合物としてアルキルトリオキソレニウムを例示すると、下記式(3)のように反応が進行すると考えられる。なお、Alkylは、アルキル基を表し、例えば炭素数1-20の炭素を有するアルキル基としてもよい。
【0013】
【化2】
JP0004210764B1_000003t.gif

【0014】
【化3】
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【0015】
本発明の第2のリン酸モノエステル製造用触媒において、該触媒に含有される7価のレニウム化合物としては、上述した反応機構によってリン酸モノエステルが生成することを前提とすると、リン酸と反応して式(1)で表される中間体を形成可能な7価のレニウム化合物であればトリオキソレニウム(VII)化合物はもちろん、それ以外の7価のレニウム化合物であってもよい。
【0016】
本発明の第1又は第2のリン酸モノエステル製造用触媒は、トリオキソレニウム(VII)化合物と3級アミンとを有効成分として含有するものとしてもよいし、リン酸と反応して式(1)で表される中間体を形成可能な7価のレニウム化合物と3級アミンとを有効成分として含有するものとしてもよい。ここで、3級アミンとしては、トリアルキルアミンが好ましく、具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリフェニルアミン、n-オクチルジメチルアミンなどが挙げられる。これらの3級アミンのうち、トリブチルアミン、n-オクチルジメチルアミンが好ましい。
【0017】
本発明の第1又は第2のリン酸モノエステル製造用触媒は、トリオキソレニウム(VII)化合物と2級アミンとを有効成分として含有するものとしてもよいし、リン酸と反応して式(1)で表される中間体を形成可能な7価のレニウム化合物と2級アミンとを有効成分として含有するものとしてもよい。ここで、2級アミンとしては、ジアルキルアミンが好ましく、ジ-n-ブチルアミンがより好ましい。
【0018】
本発明のリン酸モノエステルの製造方法は、上述した本発明の第1又は第2のリン酸モノエステル製造用触媒の存在下でアルコールとリン酸とを脱水縮合させることによりリン酸モノエステルを製造することを要旨とする。
【0019】
本発明のリン酸モノエステルの製造方法は、脱水縮合により生成する水を反応系から除去することが好ましい。生成水を反応系から除去するには、モレキュラーシーブスなどの吸水剤を反応系内に加えることも考えられるが、共沸脱水するのが好ましい。共沸脱水するには、極性溶媒と共沸脱水用溶媒との混合溶媒を使用するのが好ましい。ここで、極性溶媒はリン酸やトリオキソレニウム(VII)化合物を反応系内で溶解させる役割を果たし、共沸脱水用溶媒はアルコールとリン酸の脱水縮合によって生成する水を共沸により反応系外に除去する役割を果たす。具体的には、極性溶媒としては、N-メチルアセタミドやN,N-ジメチルアセタミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンやN-メチル-2-ピペリドン等のアミド系溶媒;N,N-ジメチルエチレンウレアやN,N-ジメチルプロピレンウレア等のウレア系溶媒などが挙げられる。また、共沸脱水用溶媒としては、ベンゾトリフルオリドやトルエン、キシレン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等のベンゼン系溶媒;ニトロエタンやニトロプロパン等のニトロアルカン系溶媒;ブチロニトリルやバレロニトリル等のニトリル系溶媒などが挙げられる。また、後述するように反応温度は好ましくは100~200℃、より好ましくは130~180℃であるから共沸温度がこの範囲となるように混合溶媒を選択するのが好ましい。
【0020】
本発明のリン酸モノエステルの製造方法では、反応温度は特に限定されるものではないが、100~200℃が好ましく、130~180℃がより好ましい。100℃を下回る場合には、十分な収率を得ようとすると反応時間が実用的でないほど長くなるおそれがあり、200℃を上回る場合には、反応条件が厳し過ぎて反応基質(アルコール)が分解等するおそれがあるからである。
【0021】
本発明のリン酸モノエステル製造方法において、反応基質としてのアルコールは、特に限定されるものではないが、反応温度が好ましくは100~200℃,より好ましくは130~180℃であることを考慮すると、沸点が100℃以上のものが好ましく、130℃以上のものがより好ましい。また、反応基質としてのアルコールは、1級アルコールでも2級アルコールでもよく、飽和アルコールでも不飽和アルコールでもよく、鎖状(直鎖又は分岐鎖のいずれを含む)アルコールでも環状アルコールでもよく、1価アルコールでも多価アルコールでもよい。例えば、反応基質としてのアルコールは、沸点が130℃以上であることを考慮して炭素数が5以上の1級又は2級アルコールとしてもよく、具体的には、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の脂肪族アルコール類;シクロヘキサノール、シクロドデカノール等の脂環式アルコール類;ジエチレングリコールモノ-n-ドデシルエーテルやジエチレングリコールモノ-n-デシルエーテル等のグリコール類;コレスタノールやコレステロールなどのステロール類などが挙げられる。
【0022】
本発明のリン酸モノエステルの製造方法では、上述した本発明の第1又は第2のリン酸モノエステル製造用触媒に含有されるレニウム(VII)化合物が反応基質であるアルコールに対して0.1~50mol%の範囲に入るように使用することが好ましく、0.5~30mol%の範囲に入るように使用することがより好ましく、1~10mol%の範囲に入るように使用することが更に好ましい。また、上述した本発明の第1又は第2のリン酸モノエステル製造用触媒としてレニウム(VII)化合物と3級アミンとを有効成分として含有するものを使用する場合には、レニウム(VII)化合物と3級アミンとのモル比は1:1~100の範囲で適宜定めればよい。例えば、反応基質に対してレニウム(VII)化合物を10mol%用いる場合には3級アミンを10~100mol%の範囲で用いるようにしてもよいし、反応基質に対してレニウム(VII)化合物を1mol%用いる場合には3級アミンを50~100mol%の範囲で用いるようにしてもよい。3級アミンは、レニウム(VII)化合物の分解を抑制する作用を持つと考えられる。更に、上述した本発明の第1又は第2のリン酸モノエステル製造用触媒としてレニウム(VII)化合物と2級アミンとを有効成分として含有するものを使用する場合には、レニウム(VII)化合物と2級アミンとのモル比は1:1~100の範囲で適宜定めればよい。例えば、反応基質に対してレニウム(VII)化合物を0.5~1.5mol%用いる場合には2級アミンを10~30mol%の範囲で用いるようにしてもよい。
【0023】
本発明のリン酸モノエステルの製造方法では、グリーンケミストリーの観点からするとアルコールに対してリン酸を1当量使用することが好ましいが、特にこれに限定されるものではなく、アルコールに対してリン酸を過剰に使用してもよいし、アルコールに対してリン酸を過少に使用してもよい。
【0024】
本発明のリン酸モノエステル製造方法において、得られたリン酸モノエステルを精製するには、イオン交換樹脂を利用する精製法や抽出操作による精製法などが挙げられる。イオン交換樹脂を利用する精製法では、反応終了後の混合液を塩基性イオン交換樹脂に通すことによりリン酸モノエステルを塩基性イオン交換樹脂に吸着させ、その後エタノールなどの低級アルコールにより塩基性イオン交換樹脂を洗浄し、最後に塩基性イオン交換樹脂を酸性溶液で洗浄することにより吸着していたリン酸モノエステルを酸性溶液中に溶出させる。また、抽出操作による精製法では、反応終了後の混合液を水と非極性溶媒とを用いて分液することにより非極性溶媒中にリン酸モノエステルを溶出させる。

【実施例】
【0025】
[実施例1]
20mLのフラスコ中でリン酸196mg(2mmol)を極性溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)5mLと共沸脱水用溶媒であるo-キシレン(沸点144℃)5mLとの混合溶媒に溶解し、反応基質であるステアリルアルコール541mg(2mmol)、リン酸モノエステル製造用触媒である過レニウム酸(65-70%水溶液,アルドリッチ社製)35μL(約0.2mmol)をその中に加えた。綿栓を詰めたソックスレー抽出器にペレット状のモレキュラーシーブス4A(約3cm)を入れ、それを先ほどのフラスコの口に取り付け、更にその上に冷却管を取り付けた。モレキュラーシーブス4Aは、使用直前に電子レンジで1分間加熱したあと減圧下(約1mmHg)で冷却するという操作を2,3回繰り返すことにより十分乾燥したものを用いた。このようにしてソックスレー抽出器を取り付けたフラスコを油温180℃のオイルバスに入れ、10時間脱水加熱還流させたあと室温まで冷却した。冷却後の反応混合液の反応溶媒を減圧留去したあとH NMRを測定することにより、生成したリン酸モノエステルの収率を算出した。その結果を表1に示す。なお、得られたリン酸モノステアリルエステルの1H NMR(300MHz,CD3OD)は以下のとおり:δ0.88(t,J=6.9Hz,3H),1.10-1.50(m,28H),3.92(dt,J=6.9,6.9Hz,2H)(単位:ppm)。
【0026】
【表1】
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【0027】
[実施例2-4]
実施例2-4につき、混合溶媒として表1に示すものを用いた以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。なお、実施例2については、以下のようにしてリン酸モノエステルの単離操作を行った。即ち、カラムにアルドリッチ社製のイオン交換樹脂Dowex 1×2-200(約50mL)を詰め、そこへ反応混合物を流して、反応混合物中のリン酸モノエステルをイオン交換樹脂に吸着させた。その後、エタノールで溶離液の色が透明になるまでイオン交換樹脂を洗浄した。次いで、濃塩酸とエタノールの混合溶液(1:3体積比,120mL)でイオン交換樹脂を洗浄したあと更にTHF(約100mL)で洗浄した。この塩酸溶液とTHF溶液とを併せて濃縮することにより、目的とするリン酸モノエステルの精製物を得た(単離収率97%)。
【0028】
[比較例1-4]
比較例1-4につき、混合溶媒として表1に示すものを用い、リン酸モノエステル製造用触媒である過レニウム酸の不存在下とした以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0029】
表1から明らかなように、過レニウム酸の不存在下ではアルコールとリン酸との脱水縮合がほとんど進行しなかった(比較例1-4)。これに対して、過レニウム酸の存在下ではアルコールとリン酸との脱水縮合が進行し、少なくとも50%以上の収率でリン酸モノエステルが得られた(実施例1-4)。特に、共沸脱水用溶媒の温度が130℃を超える実施例1,2では、反応温度は還流温度であるため共沸脱水用溶媒の温度とほぼ同じ温度となるが、100%,97%という極めて高い収率でリン酸モノエステルが得られた。
【0030】
[実施例5]
20mLのフラスコ中でリン酸196mg(2mmol)を極性溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)5mLと共沸脱水用溶媒であるクロロベンゼン(沸点132℃)5mLとの混合溶媒に溶解し、反応基質であるステアリルアルコール541mg(2mmol)、リン酸モノエステル製造用触媒として過レニウム酸(65-70%水溶液,アルドリッチ社製)35μL(約0.2mmol)とトリブチルアミン477μL(2mmol)をその中に加えた。綿栓を詰めたソックスレー抽出器にペレット状のモレキュラーシーブス4A(約3cm3)を入れ、それを先ほどのフラスコの口に取り付け、更にその上に冷却管を取り付けた。モレキュラーシーブス4Aは、使用直前に電子レンジで1分間加熱したあと減圧下(約1mmHg)で冷却するという操作を2,3回繰り返すことにより十分乾燥したものを用いた。このようにしてソックスレー抽出器を取り付けたフラスコを油温180℃のオイルバスに入れ、10時間脱水加熱還流させたあと室温まで冷却した。冷却後の反応混合液の反応溶媒を減圧留去したあと1H NMRを測定することにより、生成したリン酸モノエステルの収率を算出した。その結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
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【0032】
[実施例6-8]
実施例6-8につき、アルコールに対する過レニウム酸の使用量を表2に示すmol%とした以外は、実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表2に示す。表2から明らかなように、アルコールに対する過レニウム酸の使用量を1mol%まで下げても、リン酸モノエステルの収率は96%という極めて高い値を維持した(実施例7)。また、使用量を0.5mol%まで下げても、リン酸モノエステルの収率は89%という高い値であった(実施例8)。
【0033】
[実施例9,10]
実施例9,10につき、アルコールに対する過レニウム酸の使用量を実施例7に倣って1mol%に固定し、アルコールに対するトリブチルアミンの使用量を表2に示すmol%とした以外は、実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表3に示す。表3から明らかなように、アルコールに対する過レニウム酸の使用量を1mol%に固定した場合、トリブチルアミンの使用量を50mol%まで下げても、リン酸モノエステルの収率は94%という極めて高い値を維持した(実施例9)。また、トリブチルアミンの使用量を20mol%まで下げても、リン酸モノエステルの収率は80%という高い値であった(実施例10)。
【0034】
【表3】
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【0035】
[実施例11-15,比較例5]
実施例11-15及び比較例5につき、表4に示すアルコール、混合溶媒、触媒、反応時間を採用した以外は、実施例1又は実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表4に示す。表4から明らかなように、アルコールとしてジエチレングリコールモノ-n-ドデシルエーテルのようなグリコール類を用いた場合、収率89%という高い値が得られた(実施例11)。このとき得られたリン酸モノエステルの1H NMR(300MHz,CD3OD)は以下のとおり:δ0.89(t,J=6.6Hz,3H),1.28(br s,18H),1.56(m,2H),3.46(t,J=6.6Hz,2H),3.52-3.60(m,2H),3.60-3.76(m,4H),4.08(m,2H)(単位:ppm)。
【0036】
また、オレイルアルコールのような不飽和高級脂肪族アルコールを用いた場合、触媒として過レニウム酸とトリブチルアミンとを共存させたときと過レニウム酸を単独で用いたときについて反応を行ったところ、それぞれ収率96%,100%という極めて高い値が得られた(実施例12,13)。このとき得られたリン酸モノエステルの1H NMR(300MHz,CD3OD)は以下のとおり:δ0.89(t,J=6.9Hz,3H),1.20—1.45(m,24H),1.95-2.10(m,4H),3.95(dt,J=6.9,6.9Hz,2H),5.34(t,J=5.6Hz,2H)(単位:ppm)。
【0037】
また、β-コレスタノールのような2級アルコールを用いた場合、触媒として過レニウム酸を単独で使用したところ、β-コレスタノールは酸性条件に対して不安定なため分解してしまったが(比較例5)、触媒として過レニウム酸とトリブチルアミンとを共存させる系で両者のモル比を変えて反応を行ったところ、それぞれ収率86%,97%という高い値が得られた(実施例14,15)。このとき得られたリン酸モノエステルの1H NMR(300MHz,CD3OD)は以下のとおり:δ0.90-2.05(m,40 H),0.86(s,3H),0.88(s,3H),4.15(m,1H)(単位:ppm)。
【0038】
【表4】
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【0039】
[実施例16]
実施例16につき、下記式(4)に示すようにアルコールに対してメチルトリオキソレニウム(VII)を1mol%,トリブチルアミンを100mol%用いた以外は実施例5と同様にして反応を行ったところ、リン酸モノエステルが収率92%で得られた。
【0040】
【化4】
JP0004210764B1_000009t.gif

【0041】
[実施例17-22]
20mLフラスコ中で、表5に示すアルコール2mmol、リン酸216mg(2.2mmol)、過レニウム酸触媒(65-70%水溶液、アルドリッチ社製)3.5μL(約0.02mmol)をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)5mLとo-キシレン5mLの混合溶媒に溶解した。綿栓を詰めたソックスレー抽出器にペレット状のモレキュラーシーブス4A(約3mL)を入れ、それを先程の反応フラスコの口に取り付け、さらにその上に冷却管を取り付けた。本反応容器を油温180℃のオイルバスに入れ、12時間脱水加熱還流させた後、室温まで放冷した。反応溶媒を減圧留去した後、粗生成物をメタノールに溶解し、前出のイオン交換樹脂(DOWEX 1X2-200)約10mLに吸着させた。これをメタノール100mLで洗浄した後、濃塩酸-メタノール(1:3v/v)混合溶液100mLおよびメタノール100mLを順次流すことにより、リン酸モノエステルを溶出させた。溶出液をあわせて減圧濃縮することにより、リン酸モノエステルの精製物を得た。その結果を表5に示す。なお、実施例18,19では、二重結合の立体化学は完全に保持された。実施例21で用いたアルコールは、Igepal CO-210(アルドリッチ社製)で異性体の混合物である。表5にはその代表的な構造を示した。また、ステアリルアルコールのリン酸モノエステル(実施例17)の精製には、メタノールの代わりにエタノール-クロロホルム(1:1v/v)混合溶液を用いた。但し、簡便には、反応溶媒を減圧留去した後、メタノールあるいはエタノール-クロロホルム(1:1v/v)混合溶液に溶解し、アルドリッチ社製のイオン交換樹脂(DOWEX 50WX2-200)約10mLに通すことにより精製できる。得られたリン酸モノエステルのスペクトルデータは以下の通り。
【0042】
【表5】
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【0043】
実施例17で得られたリン酸モノエステル:IR(KBr) 3406,1655,1472,1240,1030cm-1H NMR(500MHz,CDCl) δ 0.88(t,J=7.0Hz,3H),1.27-1.43(m,30H),1.66(quint,J=6.5Hz,2H),3.96(dt,J=6.5,6,5H,2H);13C NMR(125MHz,CDCl)δ 14.1,22.7,25.5,29.3,29.3,29.4,29.6,29.7,29.8,29.8,29.8,30.3,32.0,68.4;31P NMR(121MHz,CDCl)δ 2.69;HRMS(FAB) calcd for C1838P[(M-H)] 349.2508, found 349.2507.
【0044】
実施例18で得られたリン酸モノエステル:IR(neat) 1692,1466,1378,1188,1029cm-1H NMR(500MHz,CDCl)δ 0.89(t,J=6.9Hz,3H),1.20-1.45(m,24H),1.95-2.10(m,4H),4.03(dt,J=6.5,6.5Hz,1H),4.04(dt,J=6.5,6.5Hz,1H),5.34(t,J=5.5Hz,2H);13C NMR(125MHz,CDCl)δ 14.1,22.7,25.3,27.2,29.2,29.2,29.3,29.3,29.4,29.5,29.7,29.7,29.8,30.1,31.9,68.3,129.8,129.9;31P NMR(121MHz,CDCl)δ 2.01;HRMS(FAB) calcd for C1836P[(M-H)] 347.2351, found 347.2352.
【0045】
実施例19で得られたリン酸モノエステル:IR(neat) 1639,1469,1204,1178,1030cm-1H NMR(500MHz,CDOD)δ 0.88(t,J=7.0Hz,3H),1.10-1.47(m,22H),1.67(br s,2H),1.89-2.04(m,4H),4.03(br s,2H),5.38(m,2H);13C NMR(125MHz,CDCl)δ 14.1,22.7,25.4,29.2,29.2,29.3,29.4,29.5,29.7,30.1,31.9,32.6,68.3,130.2,130.4;31P NMR(121MHz,CDCl)δ 1.39;HRMS(FAB) calcd for C1836P[(M-H)] 347.2351,found 347.2352.
【0046】
実施例20で得られたリン酸モノエステル:IR(neat) 1725,1467,1356,1130,1027cm-1H NMR(300MHz,CDOD)δ 0.89(t,J=7.0Hz,3H),1.22-1.38(m,18H),1.56(quint,J=7.0Hz,2H),3.47(t,J=6.6Hz,2H),3.58(dd,J=3.0,5.5Hz,2H),3.64(m,2H),3.69(dt,J=1.0,5.0Hz,2H),4.08(td,J=5.0,7.5Hz,2H);13C NMR(125MHz,CDCl)δ 13.9,22.6,25.9,29.2,29.2,29.4,29.4,29.5,29.6,29.6,31.8,66.1,69.7,70.0,70.1,71.6;31P NMR(121MHz,CDCl)δ 1.10;HRMS(FAB) calcd for C1634P[(M-H)] 353.2093, found 353.2064.
【0047】
実施例21で得られたリン酸モノエステル(表5には代表的な構造式を示した):IR(neat) 1726,1609,1580,1512,1460,1378,1363,1249,1187,1135cm-1H NMR(300MHz,CDOD)δ 0.43-1.35(m,15H),1.35-1.80(m,4H),3.65-3.87(m,4H),4.01-4.18(m,2H),6.76-6.88(m,2H),7.10-7.27(m,2H);13C NMR(125MHz,CDCl)δ 8.6,10.6,11.3,14.1,14.2,14.5,19.2,19.9,21.8,22.6,22.8,23.6,26.8,28.6,29.0,29.2,30.1,30.7,33.2,34.9,36.9,37.3,40.2,41.4,43.3,51.8,66.2,66.6,67.1,69.7,70.1,70.2,113.7,113.8,113.9,114.0,126.7,126.9,127.0,127.4,127.6,140.4,140.5,142.4,142.5,143.0,143.1,155.9,156.0(representative signals are shown);31P NMR(121MHz,CDCl)δ 0.93;HRMS(FAB) calcd for C1932P[(M-H)] 387.1937, found 387.1907.
【0048】
実施例22で得られたリン酸モノエステル:IR(KBr) 3412,1637,1468,1382,1170,1028cm-1H NMR(500MHz,CDOD)δ 0.68(s,3H),0.84(s,3H),0.87(d,J=6.5Hz,6H),0.92(d,J=6.0Hz,3H),0.95-1.42(m,19H),1.44(d,J=11.5Hz,1H),1.47-1.62(m,5H),1.65-1.78(m,3H),1.83(m,1H),1.94(br d,J=12.5Hz,1H),1.99(td,J=3.0,12.5Hz,1H),4.16(m,1H);13C NMR(125MHz,CDCl)δ 12.1,12.3,18.8,21.4,22.6,22.8,24.1,24.3,28.0,28.3,28.7,29.3,32.1,35.4,35.6,35.7,36.0,36.3,37.0,39.6,40.2,42.7,44.8,54.4,56.6,56.6,78.8;31P NMR(121MHz,CDCl)δ -0.48;HRMS(FAB) calcd for C2748P[(M-H)] 467.3290,found 467.3283.
【0049】
[実施例23]
(Z)-オレイルアルコール15.5g(100mmol)、リン酸10.8g(110mmol)、過レニウム酸触媒(65-70%水溶液、アルドリッチ社製)88μL(約0.5mol%)、NMP250mL、o-キシレン250mLを用いて、実施例17と同様に反応を行った。リン酸モノエステルの収率は、反応終了後に反応溶媒を減圧留去し、H NMRを測定することにより算出した。その結果を上記表5に示す。この実施例でも、二重結合の立体化学は完全に保持された。
【0050】
[実施例24-27]
ステアリルアルコールに対してリン酸(1当量)、過レニウム酸触媒(1.0mol%)、アミン(10mol%)、NMP-o-キシレン(1:1v/v)中で5時間脱水加熱還流することにより、表6に示すアミンの反応性を比較した。その結果を表6に併せて示す。この結果から明らかなように、ジ-n-ブチルアミンとn-オクチルジメチルアミンが良好な反応性を示すことがわかった。こうしたことから、窒素原子近傍の嵩の小さい2級アミンや3級アミンがリン酸モノエステル化反応に適していると推察される。
【0051】
【表6】
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【0052】
なお、本発明は上述した実験例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0053】
本出願は、2006年2月23日に出願された日本国特許出願第2006-046421号を優先権主張の基礎としており、その内容の全てが引用により本明細書に含まれる。

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、主に薬品化学産業に利用可能であり、例えば医薬品や農薬、化粧品の中間体として利用される種々のリン酸モノエステルを製造する際に利用することができる。