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明細書 :抗肥満薬及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5278864号 (P5278864)
登録日 平成25年5月31日(2013.5.31)
発行日 平成25年9月4日(2013.9.4)
発明の名称または考案の名称 抗肥満薬及びその利用
国際特許分類 A61K  31/197       (2006.01)
A61K  31/662       (2006.01)
A61P   3/04        (2006.01)
FI A61K 31/197
A61K 31/662
A61P 3/04
請求項の数または発明の数 6
全頁数 20
出願番号 特願2008-528763 (P2008-528763)
出願日 平成19年7月19日(2007.7.19)
国際出願番号 PCT/JP2007/064225
国際公開番号 WO2008/018275
国際公開日 平成20年2月14日(2008.2.14)
優先権出願番号 2006219246
2006273997
2007102799
優先日 平成18年8月11日(2006.8.11)
平成18年10月5日(2006.10.5)
平成19年4月10日(2007.4.10)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成22年6月11日(2010.6.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】有馬 寛
【氏名】佐藤 郁子
【氏名】大磯 ユタカ
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査官 【審査官】中尾 忍
参考文献・文献 特表平06-510760(JP,A)
国際公開第2005/082372(WO,A1)
調査した分野 A61K 45/00
A61K 31/197
A61K 31/662

CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)

特許請求の範囲 【請求項1】
バクロフェン、SKF97541又は3-APPAを有効成分として含み、該有効成分の一日当たりの投与量が0.1mg~100mgである、抗肥満薬。
【請求項2】
前記バクロフェンが(R)体である、請求項に記載の抗肥満薬。
【請求項3】
視床下部の弓状核におけるNPYニューロン及びPOMCニューロンに作用して抗肥満効果を発揮する、請求項1又は2に記載の抗肥満薬。
【請求項4】
レプチン抵抗性に起因する肥満又はレプチン抵抗性を伴う肥満に対して抗肥満効果を発揮する、請求項1又は2に記載の抗肥満薬。
【請求項5】
抗肥満薬を製造するための、バクロフェン、SKF97541又は3-APPAからなる有効成分の使用であって、該有効成分の一日当たりの投与量が0.1mg~100mgである使用
【請求項6】
前記バクロフェンが(R)体である、請求項5に記載の使用。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は抗肥満薬及び肥満の治療法などに関する。
【背景技術】
【0002】
1994年に肥満及び糖尿病のモデル動物であるob/obマウスの病因遺伝子が同定されたことにより、レプチンの欠損が肥満及び糖尿病の病因となることが判明した(非特許文献1)。脂肪細胞より分泌されるレプチンは摂食調節の一次中枢である視床下部弓状核に作用して、弓状核に発現する摂食亢進ペプチドであるneuropeptide Y (NPY)の発現を抑制し、摂食抑制ペプチドであるα-MSHの前駆体であるproopiomelanocortin (POMC)の発現を増強することでエネルギーバランスを負の方向へ調節する(非特許文献2、3)。しかしながら一般に肥満者では血中レプチン濃度が高値であり、肥満者におけるレプチン投与は十分な抗肥満作用を認めない(非特許文献4、5)。こうした結果はレプチン抵抗性、すなわちレプチンシグナルの障害が肥満発症の原因である可能性を示唆している。
【0003】
現在臨床応用されている主な抗肥満薬としては脳内ノルアドレナリンの再取り込み阻害薬であるマジンドール、脳内ノルアドレナリン・セロトニンの再取り込み阻害薬であるシブトラミン、カンナビノイド1受容体の選択的拮抗薬であるリモナバンなどがあるが、いずれの薬剤もNPYを抑制あるいはPOMCを増強する作用を有していない。一方、神経栄養因子であるciliary neurotrophic factor (CNTF)はレプチンと同様のシグナル伝達系により抗肥満作用を示すことが示唆されており、現在臨床応用が進められているが、CNTFを投与された患者にCNTFに対する抗体が生じることが問題となっている(非特許文献6)。

【非特許文献1】Zhang. Y. et al. Nature. 1994. 372: 425 - 432.
【非特許文献2】Stephens, T.W. et al. Nature. 1995. 377: 530 - 532.
【非特許文献3】Schwartz, M.W. et al. Diabetes. 1997. 46: 2119-2123.
【非特許文献4】Considine, R.V. et al. The New England Journal of Medicine. 1996. 334: 292 - 295.
【非特許文献5】Heymsfield, S.B. et al. JAMA. 1999. 282: 1568 - 1575.
【非特許文献6】Korner, J. et al. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 2004.89: 2616-2621.
【非特許文献7】Sato, I. et al. The Journal of Neuroscience. 2005. 25: 8657 - 8664.
【非特許文献8】Niswender, K.D. et al. Frontiers in Neuroendocrinology. 2003. 24: 1 - 10.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レプチンに代わり、弓状核におけるNPYニューロン及びPOMCニューロンに作用することで抗肥満効果を発揮する薬剤の発見が望まれている。本発明はこのような要望に応えること、即ち新規な抗肥満薬及びそれを用いた治療法などを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、視床下部器官培養を用いた検討において、摂食抑制ホルモンであるインスリンが弓状核のNPY発現をGABAニューロンを介して抑制することを明らかにした(非特許文献7)。この知見を得た後、本発明者らは、視床下部においてインスリンとレプチンのシグナル伝達系にはクロストークが認められること(非特許文献8)に注目し、視床下部弓状核におけるGABAシステムの活性化がレプチン受容体以降のシグナルを増強する可能性があるとの考えに至った。レプチンシグナルの増強は抗肥満効果の発揮へと繋がる。このような考えの下で本発明者らは、NPYニューロン及びPOMCニューロンに作用することで抗肥満効果を発揮する薬剤を見出すべく鋭意検討した。まず、GABAB受容体に注目し、GABAB受容体アゴニストがレプチンシグナルの増強を介して抗肥満効果を発揮するとの仮説をたてた。そして、GABAB受容体アゴニストの代表としてのバクロフェンを肥満モデル動物(レプチン受容体欠損モデルのdb/dbマウス)に投与するという実験系を構築し、この仮説の検証を試みた。その結果、バクロフェン投与群では有意な摂食抑制及び体重増加抑制が認められるとともに有意な血中レプチン濃度及び血中アディポネクチン濃度の増加も認められた(詳細は後述の実施例を参照)。また、バクロフェン投与群の視床下部弓状核ではNPY mRNAの発現抑制及びPOMC mRNAの発現増強が認められ、バクロフェンが弓状核のNPYニューロン及びPOMCニューロンへの作用を介して抗肥満効果を発揮することが示唆された。この結果はバクロフェンが抗肥満薬として有効であることを裏付ける一方で、バクロフェンに限らず、バクロフェン同様にGABAB受容体を介したシグナル伝達の増強を行い得る物質、即ち他のGABAB受容体アゴニストも抗肥満薬の候補として有望であることを示す。
また、よりヒトの肥満症に近い肥満モデル動物である、高脂肪食の投与により食事性肥満を誘導したマウス(diet-induced obese mice: DIOマウス)においても、バクロフェンの投与は摂食抑制効果及び体重増加抑制効果を示し、視床下部弓状核におけるNPY mRNAの発現を抑制しPOMC mRNAの発現を増強した。さらに、DIOマウスにおいて他のGABAB受容体アゴニストである3-aminopropyl(methyl)phosphinic acid及び3-aminopropylphosphonic acidを投与したところバクロフェンと同様の抗肥満効果を示した。
ところで、バクロフェンには(R)体(R-エナンチオマー)と(S)体(S-エナンチオマー)が存在するが、更なる検討の結果、前者に特に強い抗肥満効果が認められた。
本発明は主として上記知見に基づくものであり、本発明の第1の局面は以下の抗肥満薬を提供する。
[1]GABAB受容体アゴニスト又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含む、抗肥満薬。
[2]前記GABAB受容体アゴニストがバクロフェンである、[1]に記載の抗肥満薬。
[3]前記バクロフェンが(R)体である、[2]に記載の抗肥満薬。
[4]視床下部の弓状核におけるNPYニューロン及びPOMCニューロンに作用して抗肥満効果を発揮する、[1]~[3]のいずれかに記載の抗肥満薬。
[5]レプチン抵抗性に起因する肥満又はレプチン抵抗性を伴う肥満に対して抗肥満効果を発揮する、[1]~[3]のいずれかに記載の抗肥満薬。
【0006】
本発明はまた、以下に示すGABAB受容体アゴニスト又はその薬理学的に許容される塩の使用に関する。
[6]抗肥満薬を製造するための、GABAB受容体アゴニスト又はその薬理学的に許容される塩の使用。
[7]前記GABAB受容体アゴニストがバクロフェンである、[6]に記載の使用。
[8]前記バクロフェンが(R)体である、[7]に記載の使用。
【0007】
本発明は更に、以下に示す肥満の治療法を提供する。
[9]肥満の治療が必要な対象に対して、GABAB受容体アゴニスト又はその薬理学的に許容される塩を治療上有効量投与することを含む、肥満の治療法。
[10]前記GABAB受容体アゴニストがバクロフェンである、[9]に記載の治療法。
[11]前記バクロフェンが(R)体である、[10]に記載の治療法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】バクロフェン継続投与のdb/dbマウス及びdb/+mマウスに対する作用を示すグラフ図(C: コントロール群、L: バクロフェンラセミ混合物低濃度投与群、H: バクロフェンラセミ混合物高濃度投与群、 S: S-バクロフェン投与群、 R: R-バクロフェン投与群、db/db: db/dbマウス、db/+m: db/+mマウス。#: P<0.05 コントロール対バクロフェンラセミ混合物低濃度投与群、またはコントロール対S-バクロフェン投与群。*: P<0.05 コントロール対バクロフェンラセミ混合物高濃度投与群、またはコントロール対R-バクロフェン投与群)。 a,d: バクロフェンラセミ混合物のdb/dbマウスに対する作用を示すグラフ図(a:累積摂食量、d:体重増加量)。バクロフェンラセミ混合物の5週間の継続投与は投与開始1週間より累積摂食量(a)及び体重増加量(d)を有意に抑制し、有意な抑制は実験の終了時まで継続した。 b,e: R-バクロフェン及びS-バクロフェンのdb/dbマウスに対する作用を示すグラフ図(b:累積摂食量、e:体重増加量)。R-バクロフェンの5週間の継続投与は投与開始2週間より累積摂食量(b) 及び体重増加量(e)を有意に抑制し、有意な抑制は実験の終了時まで継続した。一方、S-バクロフェンの5週間の継続投与は投与開始4週間は累積摂食量(b)及び体重増加量(e)に有意な影響を与えなかったが、投与開始5週においては累積摂食量(b)及び体重増加量(e)を有意に抑制した。 c,f: バクロフェンラセミ混合物のdb/+mマウスに対する作用を示すグラフ図(c:累積摂食量、f:体重増加量)。バクロフェンラセミ混合物の5週間の継続投与は、投与期間中の累積摂食量(c)及び体重増加量(f)に有意な影響を与えなかった。 g: バクロフェン投与による体温の変化のdb/dbマウスとdb/+mマウスにおける比較。バクロフェンの投与はdb/dbマウスにおいては有意に体温を上昇させたが、db/+mマウスにおける体温には有意な影響を与えなかった。 h: db/dbマウスにおける褐色脂肪組織でのUCP1 mRNA発現量の比較。バクロフェンの投与は有意にUCP1 mRNAの発現を増強した。 i: db/dbマウスにおける空腹時血糖値の比較。バクロフェンの投与は有意に空腹時血糖値を低下させた。 j: db/dbマウスにおける空腹時血中インスリン濃度の比較。バクロフェンの投与は空腹時血中インスリン濃度に有意な影響を与えなかった。 k: db/dbマウスにおけるHbA1c値の比較。バクロフェンの投与はHbA1c値を有意に減少させた。 l: db/dbマウスにおける血中アディポネクチン濃度の比較。バクロフェンの投与は有意に血中アディポネクチン濃度を増加させた。 m: db/dbマウスにおける血中レプチン濃度の比較。バクロフェンの投与は有意に血中レプチン濃度を増加させた。B受容体アゴニストであるバクロフェンラセミ混合物又は3-aminopropyl-(methyl) phosphinic acid (SKF97541)又は3-aminopropylphosphonic acid (3-APPA)の継続投与の、高脂肪食投与肥満マウス(DIOマウス)及び普通食投与非肥満マウス(leanマウス)に対する作用を示すグラフ図(Cont: コントロール群、Bac: バクロフェンラセミ混合物投与群、3-APPA: 3-APPA投与群、SKF97541: SKF97541投与群、DIO: DIOマウス、lean: leanマウス、*: P<0.05 コントロール群対バクロフェンラセミ混合物投与群、またはコントロール群対SKF97541投与群。#: P<0.05 コントロール群対3-APPA投与群)。 a,b: バクロフェンラセミ混合物のDIOマウスに対する作用を示すグラフ図(a: 累積摂食量、b: 体重増加量)。バクロフェンラセミ混合物の5週間の継続投与は投与開始1週間より累積摂食量(a)及び体重増加量(b)を有意に抑制し、有意な抑制は実験の終了時まで継続した。 c,d: バクロフェンラセミ混合物のleanマウスに対する作用を示すグラフ図(c: 累積摂食量、d: 体重増加量)。バクロフェンラセミ混合物の5週間の継続投与は投与期間中のleanマウスの累積摂食量(c)及び体重増加量(d)には有意な影響を与えなかった。 e,f: SKF97541及び3-APPAのDIOマウスに対する作用を示すグラフ図(e: 累積摂食量、f: 体重増加量)。SKF97541及び3-APPAの5週間の継続投与は投与開始1週間より累積摂食量(e)及び体重増加量(f)を有意に抑制し、有意な抑制は実験の終了時まで継続した。 g,h: SKF97541及び3-APPAのleanマウスに対する作用を示すグラフ図(g: 累積摂食量、h: 体重増加量)。SKF97541及び3-APPAの5週間の継続投与は投与期間中のleanマウスの累積摂食量(g)及び体重増加量(h)には有意な影響を与えなかった。B受容体アゴニストである、バクロフェンラセミ混合物又はSKF97541又は3-APPAを、5週間継続投与後のDIOマウスにおける累積摂食量及び体重増加量を示すグラフ図(Cont: コントロール群、Bac: バクロフェンラセミ混合物投与群、SKF: SKF97541投与群、3-APPA: 3-APPA投与群。*: P<0.05 コントロール群対、バクロフェンラセミ混合物投与群又はSKF97541投与群又は3-APPA投与群)。 a: DIOマウスにおけるGABA受容体アゴニスト(バクロフェンラセミ混合物又はSKF97541又は3-APPA)を5週間継続投与後の5週間での累積摂食量の比較。バクロフェンラセミ混合物投与群・SKF97541投与群・3-APPA投与群のすべてにおいてコントロール群に比べ有意に累積摂食量の減少を認めた。 b: DIOマウスにおけるGABAB受容体アゴニスト(バクロフェンラセミ混合物又はSKF97541又は3-APPA)を5週間継続投与後の5週間での体重増加量の比較。バクロフェンラセミ混合物投与群・SKF97541投与群・3-APPA投与群のすべてにおいてコントロール群に比べ有意に体重増加量の減少を認めた。
【図6】GABAB受容体アゴニストであるバクロフェンラセミ混合物又はSKF97541又は3-APPAを5週間継続投与後のDIOマウスにおける6時間絶食後の空腹時血糖値を示すグラフ図(Cont: コントロール群、Bac: バクロフェンラセミ混合物投与群、SKF: SKF97541投与群、3-APPA: 3-APPA投与群。*: P<0.05 コントロール群対、バクロフェンラセミ混合物投与群又はSKF97541投与群又は3-APPA投与群)。バクロフェンラセミ混合物投与群・SKF97541投与群・3-APPA投与群のすべてにおいてコントロール群に比べ有意に空腹時血糖値の低下を認めた。B受容体アゴニストであるバクロフェンラセミ混合物又はSKF97541又は3-APPAを5週間継続投与後のDIOマウスにおけるHbA1c値を示すグラフ図(Cont: コントロール群、Bac: バクロフェンラセミ混合物投与群、SKF: SKF97541投与群、3-APPA: 3-APPA投与群。*: P<0.05 コントロール群対、バクロフェンラセミ混合物投与群又はSKF97541投与群又は3-APPA投与群)。バクロフェンラセミ混合物投与群・SKF97541投与群・3-APPA投与群のすべてにおいてコントロール群に比べ有意にHbA1c値の低下を認めた。B受容体アゴニストであるバクロフェンラセミ混合物又はSKF97541又は3-APPAを5週間継続投与後のDIOマウスにおける6時間絶食後の空腹時血中インスリン濃度を示すグラフ図(Cont: コントロール群、Bac: バクロフェンラセミ混合物投与群、SKF: SKF97541投与群、3-APPA: 3-APPA投与群。*: P<0.05 コントロール群対、バクロフェンラセミ混合物投与群又はSKF97541投与群又は3-APPA投与群)。バクロフェンラセミ混合物投与群・SKF97541投与群・3-APPA投与群のすべてにおいてコントロール群に比べ有意に空腹時血中インスリン濃度の低下を認めた。【図14】バクロフェンラセミ混合物投与がdb/dbマウスの5週間の累積摂食量(a)及び体重増加量(b)に及ぼす効果を示すグラフ図(Cont: コントロール群、4x10-6M、10x10-6M、40x10-6M、100x10-6Mは各バクロフェン投与群における飲料水中に溶解したバクロフェンの濃度を示す。*: P<0.05 コントロール群対各バクロフェンラセミ混合物投与群)。db/dbマウスにおけるバクロフェンラセミ混合物の5週間の継続投与は4x10Mから100x10-6Mのすべての濃度において累積摂食量(a)及び体重増加量(b)を有意に抑制した。
【図15】3-aminopropyl-(methyl) phosphinic acid (SKF97541)又は3-aminopropylphosphonic acid (3-APPA)の継続投与の、db/dbマウス及びdb/+mマウスに対する作用を示すグラフ図(Cont: コントロール群、3-APPA: 3-APPA投与群、SKF97541: SKF97541投与群、db/db: db/dbマウス、db/+m: db/+mマウス、*: P<0.05 コントロール群対SKF97541投与群。#: P<0.05 コントロール群対3-APPA投与群)。 a,b: SKF97541及び3-APPAのdb/dbマウスに対する作用を示すグラフ図(a: 累積摂食量、b: 体重増加量)。3-APPAの投与は投与開始1週間より、SKF97541の投与は投与開始2週間より有意に累積摂食量(a)を抑制し、有意な抑制は実験の終了時まで継続した。またSKF97541及び3-APPAの投与は投与開始1週間より体重増加量(b)を有意に抑制し、有意な抑制は実験の終了時まで継続した。 c,d: SKF97541及び3-APPAのdb/+mマウスに対する作用を示すグラフ図(c: 累積摂食量、d: 体重増加量)。SKF97541及び3-APPAの5週間の継続投与は投与期間中のdb/+mマウスの累積摂食量(c)及び体重増加量(d)には有意な影響を与えなかった。【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の第1の局面は抗肥満薬に関する。本発明の抗肥満薬(以下、「本発明の医薬」ともいう)はGABAB受容体アゴニスト又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含む。即ち、本発明ではGABAB受容体に対する作動薬が用いられる。GABAB受容体アゴニストの例として、バクロフェン(baclofen)、3-アミノプロピル(メチル)ホスフィン酸(3-aminopropyl(methyl)phosphinic acid(SKF97541))、4-アミノ-3-(5-クロロ‐2‐チエニル)酪酸(4-amino-3-(5-chloro-2-thienyl)-butanoic acid)、3-アミノプロピルホスフォン酸(3-aminopropylphosphonic acid)等を挙げることができる。GABAB受容体アゴニストの好ましい一例はバクロフェンである。即ち、本発明の好ましい一態様ではバクロフェン又はその薬理学的に許容される塩を有効成分とする抗肥満薬が提供される。バクロフェン(化学名:(RS)-4-Amino-3-(4-chlorophenyl)butanoic acid、分子式:C10H12ClNO2、分子量:213.66)は以下の化学式で表される。
【化1】
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バクロフェンには(R)体(R-エナンチオマー)と(S)体(S-エナンチオマー)が存在する。本発明ではこれらいずれかの鏡像異性体又は両者の混合物(例えばラセミ体)が用いられる。後述の実施例に示すように、本発明者らの検討の結果、(S)体よりも(R)体の方が高い抗肥満効果を発揮することが判明した。この知見に基づき、本発明の好ましい態様では(R)体のバクロフェンが用いられる。尚、バクロフェンは例えば米国特許3,471,548号に記載される方法によって調製することができる。バクロフェンを有効成分とする医薬としてリオレサール(登録商標、ノバルティスファーマ株式会社)及びギャバロン(登録商標、第一製薬株式会社)が販売されている。また、(R)体のバクロフェンとしては例えばR(+)-Baclofen hydrochloride(カタログ番号G013、CAS Number 63701-55-3、シグマ社)、(S)体のバクロフェンとしてS(-)-Baclofen hydrochloride (カタログ番号G014、CAS Number 63701-56-4、シグマ社)が市販されている。
【0010】
本発明の医薬の有効成分として、GABAB受容体アゴニストの薬理学的に許容される塩を用いても良い。「薬理学的に許容される塩」とは例えば、酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、又はアミノ酸付加塩である。酸付加塩の例としては塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩などの無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、リンゴ酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩が挙げられる。金属塩の例としてはナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩が挙げられる。アンモニウム塩の例としてはアンモニウム、テトラメチルアンモニウムなどの塩が挙げられる。有機アミン付加塩の例としてはモルホリン付加塩、ピペリジン付加塩が挙げられる。アミノ酸付加塩の例としてはグリシン付加塩、フェニルアラニン付加塩、リジン付加塩、アスパラギン酸付加塩、グルタミン酸付加塩が挙げられる。
【0011】
本発明の医薬は肥満の治療又は予防に使用される。本発明者らは、後述の実施例に示すように、NPY mRNAの発現を抑制する作用とPOMC mRNAの発現を増強する作用とをGABAB受容体アゴニストが併せ持つことを、動物個体を用いた実験によって明らかにした。この知見から導き出されるように、GABAB受容体アゴニスト(又はその薬理学的に許容される塩)を有効成分とする本発明の医薬は、視床下部の弓状核におけるNPYニューロン及びPOMCニューロンに作用することによって抗肥満効果を発揮する。本発明の医薬によれば、レプチンに代わって、NPYニューロン及びPOMCニューロンを介したシグナル伝達の増強作用が奏される。このことから本発明の医薬はレプチン抵抗性に起因する肥満又はレプチン抵抗性を伴う肥満に対して特に有効であるといえる。
ここで「肥満」とは一般的には体内に脂肪組織が過剰に蓄積した状態をいう。本明細書では用語「肥満」は広義に解釈されるものとし、その概念に肥満症を含む。「肥満症」とは肥満に起因ないし関連する健康障害(合併症)を有するか又は将来的に有することが予測される場合であって、医学的に減量が必要とされる病態をいう。
肥満の判定法には、例えば、国際的に広く使用されているBMI(body mass index)を尺度としたものがある。BMIは、体重(kg)を身長(m)の二乗で除した数値(BMI=体重(kg)/身長(m))である。BMI<18.5は低体重(underweight)、18.5≦BMI<25は普通体重(normal range)、25≦BMI<30は肥満1度(preobese)、30≦BMI<35は肥満2度(obese class I)、35≦BMI<40は肥満3度(obese class II)、40<BMIは肥満4度(obese class III)と判定される(WHO)。また、BMIを利用して、日本人の成人の標準体重(理想体重)を以下の式、標準体重(kg)=身長(m)×22から計算し、実測体重が標準体重(計算値)の120%を超える状態を肥満とする判定法もある。もっとも、標準体重(理想体重)は性別、年齢、又は生活習慣の差異などによって個人ごとに相違することから、肥満の判定をこの方法で一律に行うことは妥当でないと考えられている。
【0012】
本発明の医薬の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、ジエチリン亜硫酸塩、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
【0013】
製剤化する場合の剤型も特に限定されず、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤などとして本発明の医薬を提供できる。
本発明の医薬には、期待される治療効果(予防効果も含む)を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。本発明の医薬中の有効成分量は一般に剤型によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.1重量%~約95重量%の範囲内で設定する。
【0014】
本発明の医薬はその剤型に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、筋肉、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。ここでの「対象」は特に限定されず、ヒト及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウズラ等である)を含む。好ましい一態様では本発明の医薬はヒトに対して適用される。
【0015】
本発明の医薬の投与量は、期待される治療効果が得られるように設定される。治療上有効な投与量の設定においては一般に症状、患者の年齢、性別、及び体重などが考慮される。尚、当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。例えば、成人(体重約60kg)を対象として一日当たりの有効成分量が約0.1mg~約100mg、好ましくは約1mg~約50mgとなるよう投与量を設定することができる。投与スケジュールとしては例えば一日一回~数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、患者の病状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。
【実施例】
【0016】
<GABAB受容体アゴニスト バクロフェンの抗肥満作用>
GABAB受容体アゴニストが抗肥満作用を有するか否かについて、実験動物を用いて検討した。GABAB受容体アゴニストにはバクロフェンのラセミ混合物である(±)-バクロフェン(カタログ番号B5399、CAS Number1134-47-0、シグマ社)を用いた。実験動物にはレプチン受容体欠損モデルであるdb/dbマウスを用いた。db/dbマウスは肥満、過食、糖尿病を呈し、肥満モデル動物として頻用される。
以下に詳述する方法に従い、db/dbマウスに対して(±)-バクロフェンを5週間経口投与し、摂食量及び体重の経時的変化を検討した。また(±)-バクロフェンを5週間投与後、空腹時血糖値、血中インスリン濃度、血中レプチン濃度、血中アディポネクチン濃度、HbA1c値、褐色脂肪組織でのUCP1 mRNA発現量、副睾丸周囲白色脂肪組織の重量及び脂肪細胞のサイズ、皮下白色脂肪組織の重量、並びに視床下部弓状核におけるNPY及びPOMCの発現量を検討した。
【0017】
1.実験方法
(1)動物実験の方法
5週齢の雄性C57BL/KsJ-db/dbマウス(db/dbマウス:体重19-25g、日本SLC)を購入し、チップケージで個別に飼育した。db/dbマウスには普通食のペレット(CE-2)を投与し、自由飲水、自由摂食とした。飼育開始時より、体重と24時間摂食量を毎日測定した。飼育開始3日目に、6時間絶食の後に眼窩より採血して血糖値と血中インスリン濃度を測定した。体重、24時間摂食量、血糖値、血中インスリン濃度が均等となるようにdb/dbマウスを3グループに分けて(各グループ10匹)、コントロール群、バクロフェン低濃度投与群、バクロフェン高濃度投与群とした。グループ分けの後、飼育開始5日目より、バクロフェン投与群には(±)-バクロフェンを飲料水に溶解して5週間の継続的な経口投与を開始した。(±)-バクロフェンは、低濃度投与群では1.1mg/dl、高濃度投与群では2.7mg/dlの濃度で飲料水に溶解した。db/dbマウスは(±)-バクロフェンの5週間の投与期間中は摂食量及び体重を経時的に測定し、5週間の投与終了後に採血をして頸椎脱臼にて屠殺した。脳、副睾丸周囲白色脂肪組織、皮下白色脂肪組織、褐色脂肪組織を摘出した。脳及び褐色脂肪組織は摘出後直ちにドライアイス及び液体窒素で凍結した後に-80℃にて保存した。副睾丸周囲白色脂肪組織及び皮下白色脂肪組織は重量を測定した後に4%ホルムアルデヒドにて固定して4℃にて保存した。
【0018】
(2)血糖値とHbA1cの測定方法
眼窩より採血した後に速やかにグルコースアナライザー アントセンス(堀場製作所)にて血糖値を測定した。HbA1cは血液を-80℃で保存の後にグリコヘモグロビンアナライザーHLC-723 GHbV(東ソー株式会社)にて測定した。
【0019】
(3)血漿ホルモン濃度の測定方法
眼窩よりヘパリンを塗布したヘマトクリット管を用いて採血した後に、血液は3500rpm、4℃、15分間で遠心分離し、血漿を-80℃で保存した。血漿のインスリン濃度、レプチン濃度、アディポネクチン濃度をELISA法(レビスインスリンキット(マウス):株式会社シバヤギ、モリナガレプチン測定キット:株式会社森永生科学研究所、マウス/ラットアディポネクチンELISAキット:大塚製薬株式会社)にて測定した。
【0020】
(4)脂肪組織の組織学的検討
(±)-バクロフェンを5週間投与後に副睾丸周囲白色脂肪組織と、皮下白色脂肪組織を摘出し、投与群とコントロール群における脂肪組織の重量及び脂肪細胞の形態(サイズ)を比較検討した。脂肪細胞の形態の比較は次の手順で行った。即ち、4%ホルムアルデヒドで保存した副睾丸周囲白色脂肪組織をパラフィン固定した後に厚さ8μmの切片を作製してヘマトキシリン-エオジン染色(H-E染色)を施行した。脂肪細胞の形態(サイズ)は画像解析システム Neurolucida (MicroBrightField Japan, Inc.)を用いて検討した。
【0021】
(5)in situハイブリダイゼーション
-80℃に保存されている脳より、クライオスタットを用いて、厚さ12μmの視床下部切片を作製しMASコートスライドに貼り付けた後にin situハイブリダイゼーションを施行した。NPY mRNA、POMC mRNAプローブのラベルには35Sを用いた。視床下部切片はトリエタノールアミン、エタノール等を用いて前処置を行った後に、55℃で12時間のハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションの後にはSSC、RNase等を用いて洗い処置を行った。フィルムに現像した後にNIHイメージを用いてmRNA発現強度を定量した。
【0022】
(6)リアルタイムPCR
-80℃に保存した褐色脂肪組織よりRNAを取り出し、ABI PRISM(登録商標)7700 Sequence Detection Systemを用いてreal-time quantitative RT-PCR法にてUCP-1 mRNAの発現を検討した。
【0023】
2.結果及び考察
(1)摂食抑制、体重増加抑制、血中レプチン濃度変化など
db/dbマウスにおける(±)-バクロフェンの投与は、投与開始1週間より有意に摂食量を抑制し、有意な抑制は実験の終了時まで継続した(図1a、図2a)。また(±)-バクロフェン投与群では投与開始1週間より有意な体重増加の抑制を認め、有意な抑制は実験の終了時まで継続した(図1d、図2b)。
また、(±)-バクロフェンを5週間投与後に、空腹時血糖値(6時間絶食)を比較したところ、(±)-バクロフェン投与群での有意な抑制を認めた(図1i)。空腹時血中インスリン濃度(5週間投与後)には変化を認めなかった(図1j)。血中レプチン濃度(5週間投与後)は(±)-バクロフェン投与群で有意な増加を認めた(図1m)。血中アディポネクチン濃度(5週間投与後)も同様に(±)-バクロフェン投与群で有意な増加を認めた(図1l)。HbA1c値(5週間投与後)は(±)-バクロフェン投与群で有意な低下を認めた(図1k)。また、(±)-バクロフェン投与群において褐色脂肪組織でのUCP1 mRNA発現(5週間投与後)の有意な増加を認めた(図1h)。尚、いずれの検討項目においても、(±)-バクロフェン低濃度投与群と高濃度投与群において、実質的な差異を認めなかった。
以上のように、(±)-バクロフェン投与群では体重、摂食量、空腹時血糖値の有意な低下を認め、血中レプチン濃度及び血中アディポネクチン濃度は有意に増加した。
【0024】
(2)組織学的検討
副睾丸周囲白色脂肪組織の重量は、(±)-バクロフェン投与群において有意な減少を認めた(図3a)。一方、皮下白色脂肪組織の重量は、(±)-バクロフェン投与群においても有意な減少を認めなかった(図3b)。形態学的な変化に関しては、コントロール群(図3c左)に比べて、(±)-バクロフェン投与群(図3c右)において脂肪細胞の小型化を認めた。脂肪細胞のサイズを測定したところ、(±)-バクロフェン投与群において脂肪細胞のサイズの減少を認めた(図3d)。尚、いずれの検討項目においても、(±)-バクロフェン低濃度投与群と高濃度投与群において、実質的な差異を認めなかった。
以上の通り、(±)-バクロフェンの投与によって副睾丸周囲白色脂肪重量が低下するとともに脂肪細胞のサイズが減少することが示された。即ち、(±)-バクロフェンの作用によって内臓脂肪量の低下がもたらされることが明らかとなった。
【0025】
(3)作用機序の検討
(±)-バクロフェンを5週間投与した後に脳を摘出し、in situハイブリダイゼーション法を用いて、視床下部弓状核におけるNPY mRNAとPOMC mRNAの発現を検討した。その結果、(±)-バクロフェンの投与によりNPY mRNAの発現は抑制された(図3e上左、上右)。POMC mRNAの発現は増強した(図3e下左、下右)。NIHイメージを用いて発現量の定量を行ったところ、(±)-バクロフェンの投与によりNPY mRNAの発現は有意に抑制され(図3f)、POMC mRNAの発現は有意に増強すること(図3g)が示された。尚、いずれの検討項目においても、(±)-バクロフェン低濃度投与群と高濃度投与群において、実質的な差異を認めなかった。
以上のように視床下部弓状核におけるNPY発現の有意な抑制とPOMC発現の有意な増強を認めたことは、(±)-バクロフェンが中枢性に作用し(即ちNPYニューロン及びPOMCニューロンへの作用を介して)抗肥満効果を示したことを強く示唆し、バクロフェンの抗肥満薬としての有効性を裏付ける。また、このようにバクロフェンの作用機序の一端が明らかにされたことによって、バクロフェンに限らず、バクロフェン同様にGABAB受容体を介したシグナル伝達の増強を行い得る物質、即ち他のGABAB受容体アゴニストも抗肥満薬の有望な候補となるといえる。
【0026】
<バクロフェンの(R)体と(S)体の効果の比較>
バクロフェンは痙性麻痺の治療薬として臨床において使用されているが、現在販売されている医薬品ではラセミ混合物が用いられている。バクロフェンにはエナンチオマーが存在し、R-エナンチオマー(以下、「R-バクロフェン」)はS-エナンチオマー(以下、「S-バクロフェン」)に比べ、GABAB受容体への結合親和性(binding affinity)が高いこと(Falch, E. et al. Journal of Neurochemistry. 1986. 47: 898-903.)が報告されている。我々はR-バクロフェン及びS-バクロフェンにおける摂食抑制効果及び抗肥満効果の違いについて検討するため以下の実験を行った。
【0027】
1.動物実験の方法
5週齢の雄性C57BL/KsJ-db/dbマウス(db/dbマウス:体重19-25g、日本SLC)を購入し、チップケージで個別に飼育した。db/dbマウスには普通食のペレット(CE-2)を投与し、自由飲水、自由摂食とした。飼育開始時より、体重と24時間摂食量を毎日測定した。飼育開始3日目に、6時間絶食の後に眼窩より採血して血糖値と血中インスリン濃度を測定した。体重、24時間摂食量、血糖値、血中インスリン濃度が均等となるようにdb/dbマウスを3グループに分けて(各グループ10匹)、コントロール群、R-バクロフェン投与群、S-バクロフェン投与群とした。尚、R-バクロフェンとしてR(+)-Baclofen hydrochloride(カタログ番号G013、CAS Number 63701-55-3、シグマ社)を使用し、S-バクロフェンとしてS(-)-Baclofen hydrochloride (カタログ番号G014、CAS Number 63701-56-4、シグマ社)を使用した。グループ分けの後、飼育開始5日目より、R-バクロフェン及びS-バクロフェンを飲料水に溶解して5週間の継続的な経口投与を開始した。R-バクロフェン、S-バクロフェンともに、バクロフェンラセミ混合物投与の実験の低濃度投与群で用いた1.1mg/dlの濃度で飲料水に溶解した。経時的に摂食量及び体重を測定し、投与開始5週では直腸温を測定した。バクロフェンを5週間投与した後に採血をして頸椎脱臼にて屠殺した。
【0028】
2.実験の結果と考察
db/dbマウスにおけるR-バクロフェンの投与は、投与開始2週より有意に摂食量及び体重増加量を抑制し、両者の有意な抑制は実験の終了時まで継続した(図1b、e)。一方S-バクロフェンの投与においては投与開始4週までは摂食量及び体重増加量の有意な抑制を認めなかったが、投与開始5週では両者の有意な抑制を認めた(図1b、e)。GABAB受容体への結合親和性の高いR-バクロフェンの投与が強い効果を示したことは、バクロフェンがGABAB受容体に特異的に作用して摂食抑制効果及び抗肥満効果を発揮することを示唆した。
【0029】
<バクロフェンの肥満モデル動物(db/dbマウス)及び非肥満モデル動物(db/+mマウス)における効果の比較>
C57BL/KsJ-db/dbマウス(db/dbマウス)は肥満、過食、糖尿病を発症する肥満モデル動物であるが、そのヘテロ個体であるC57BL/KsJ-db/+mマウス(db/+mマウス)は肥満、過食、糖尿病を発症しない非肥満モデル動物である。我々はバクロフェン投与によりdb/dbマウスにおいて認められる摂食抑制効果及び体重増加抑制効果が、非肥満モデル動物であるdb/+mマウスにおいても認められるか否かを検討するために以下の実験を行った。
【0030】
1.動物実験の方法
5週齢の雄性C57BL/KsJ-db/+mマウス(db/+mマウス:体重19-23g、日本SLC)を購入し、チップケージで個別に飼育した。db/+mマウスには普通食のペレット(CE-2)を投与し、自由飲水、自由摂食とした。飼育開始時より、体重と24時間摂食量を毎日測定した。飼育開始3日目に、6時間絶食の後に眼窩より採血して血糖値と血中インスリン濃度を測定した。体重、24時間摂食量、血糖値、血中インスリン濃度が均等となるようにdb/+mマウスを2グループに分けて(各グループ10匹)、コントロール群及びバクロフェン投与群とした。グループ分けの後、飼育開始5日目より、バクロフェン投与群には(±)-バクロフェンを飲料水に溶解して5週間の継続的な経口投与を開始した。(±)-バクロフェンは、db/dbマウスの実験の高濃度投与群で用いた2.7mg/dlの濃度で飲料水に溶解した。db/+mマウスは経時的に摂食量及び体重を測定し、投与開始5週では直腸温を測定した。(±)-バクロフェンを5週間投与した後に採血をして頸椎脱臼にて屠殺した。
【0031】
2.実験の結果と考察
db/+mマウスにおける(±)-バクロフェンの5週間の投与は、摂食量及び体重に有意な影響を与えなかった(図1c、f)。このことはバクロフェンによる摂食抑制効果及び体重増加抑制効果が、過食及び肥満状態においてのみ認められる可能性を示唆した。
【0032】
<バクロフェンの熱産生に与える影響、肥満モデル動物(db/dbマウス)及び非肥満モデル動物(db/+mマウス)におけるその効果の比較>
db/dbマウスは熱産生が低下しているため低体温であり(Trayhurn, P. Pflugers Archiv European Journal of Physiology. 1979. 380: 227-232.)、また体温を維持するために十分な摂食量を必要とするため、食事制限下においてはさらに体温が低下すること(Nakagawa, T. et al. Diabetes. 2000. 49: 436-444.)が報告されている。我々はdb/dbマウス及びdb/+mマウスにおけるバクロフェン投与の体温に与える影響について検討した。
【0033】
1.動物実験の方法
db/dbマウスにおいてR-バクロフェン及びS-バクロフェンを、またdb/+mマウスにおいて(±)-バクロフェンを5週間投与した後、マウスにおいて摂餌が開始される暗期の直前である20時に、3日間連続して直腸温を測定した。直腸温の測定方法は次の通りとした。即ち、デジタル式サーミスター温度計(夏目製作所)を用いて直腸温を測定した。
【0034】
2.実験の結果と考察
db/dbマウスにおいてはR-バクロフェン及びS-バクロフェンの投与は直腸温を有意に上昇させたが、db/+mマウスにおける(±)-バクロフェンの投与は直腸温に有意な影響を与えなかった(図1g)。バクロフェンの投与がdb/dbマウスにおける体温を有意に上昇させて低体温を改善したことは、褐色脂肪組織でのUCP1 mRNA発現を増強したことと合わせて、バクロフェンがdb/dbマウスにおいて熱産生を増加させたことを示唆すると考えられ、バクロフェンの抗肥満作用が摂食抑制のみならず熱産生の増加を介している可能性を示唆した。
【0035】
<他の肥満モデル動物でのバクロフェンの抗肥満作用>
db/dbマウスはレプチン受容体欠損に伴い肥満及び糖尿病を発症する肥満モデル動物であるが、よりヒトの肥満症に近い肥満モデル動物の代表として普通マウスに高脂肪食を投与することで食事性肥満を誘導した肥満マウス(diet-induced obese mice;DIOマウス)を作製しバクロフェンによる抗肥満作用を検討した。また同じ種の普通マウスに普通食を投与した非肥満マウス(leanマウス)における作用についても比較検討した。
【0036】
1.実験方法
5週齢の雄性C57BL/6Nマウス(体重17-20g、日本クレア)を購入し、チップケージで個別に飼育した。マウスに普通食のペレット(CE-2)を投与して自由飲水、自由摂食として、飼育開始時より体重と24時間摂食量を毎日測定した。飼育開始3日目に、6時間絶食の後に眼窩より採血して血糖値と血中インスリン濃度を測定した。体重、24時間摂食量、血糖値、血中インスリン濃度が均等となるようにコントロール群及びバクロフェン投与群にグループ分けした後に(各グループ10匹)、高脂肪食(High Fat Diet 32, エネルギー脂肪比60%,日本クレア)の投与による食事性肥満(diet-induced obesity: DIO)の誘導を開始した(DIOマウス)。高脂肪食の投与開始と同時に、(±)-バクロフェンを体重1kg当たり1日5mg(5mg/kg/day)の投与量で飲料水に溶解して5週間の継続的な経口投与を開始した。5週間の投与期間中は摂食量および体重を経時的に測定した。普通食を投与した非肥満マウスであるC57BL/6Nマウス(leanマウス)にも上記と同様に(±)-バクロフェン(5mg/kg/day)の経口投与を行い、摂食量及び体重を経時的に測定した。
【0037】
2.実験の結果と考察
DIOマウスにおける(±)-バクロフェンの投与は投与開始1週より有意に摂食量及び体重増加量を抑制し、両者の有意な抑制は5週後の実験の終了時まで継続した(図4a,b、図5a,b)。一方、leanマウスにおける(±)-バクロフェンの投与は投与期間中の摂食量及び体重に有意な影響を与えなかった(図4c,d)。以上の結果よりバクロフェンの抗肥満作用が、よりヒトの肥満症に近い肥満モデル動物であるDIOマウスにおいても認められ、また体重増加量の抑制効果は肥満状態にのみ認められることが示唆された。
【0038】
<バクロフェン以外のGABAB受容体アゴニストの抗肥満作用>
バクロフェンと構造式の異なる、他のGABAB受容体アゴニストの投与がバクロフェンと同様に肥満モデル動物において抗肥満作用を呈するか否かを検討する目的で、3-aminopropyl-(methyl) phosphinic acid(カタログ番号:EA-133, CAS Number: 127729-35-5, BIOMOL社)(以下、SKF97541)及び3-aminopropylphosphonic acid(カタログ番号:268615, CAS Number:13138-33-5, Sigma-Aldrich社)(以下、3-APPA)をDIOマウスに継続的に経口投与して、これらの抗肥満作用について検討した。また同じ種の普通マウスに普通食を投与した非肥満マウス(leanマウス)における作用についても比較検討した。尚、SKF97541と3-APPAの構造式を図13に示す。
【0039】
1.実験方法
5週齢の雄性C57BL/6Nマウス(体重17-20g、日本クレア)を購入し、チップケージで個別に飼育した。マウスに普通食のペレット(CE-2)を投与して自由飲水、自由摂食として、飼育開始時より体重と24時間摂食量を毎日測定した。飼育開始3日目に、6時間絶食の後に眼窩より採血して血糖値と血中インスリン濃度を測定した。体重、24時間摂食量、血糖値、血中インスリン濃度が均等となるようにコントロール群及びSKF97541投与群及び3-APPA投与群にグループ分けした後に(各グループ10匹)、高脂肪食(High Fat Diet 32, エネルギー脂肪比60%,日本クレア)の投与による食事性肥満(diet-induced obesity: DIO)の誘導を開始した(DIOマウス)。高脂肪食の投与開始と同時に、SKF97541(0.3mg/kg/day)又は3-APPA(5mg/kg/day)を飲料水に溶解して5週間の継続的な経口投与を開始した。5週間の投与期間中は摂食量および体重を経時的に測定した。普通食を投与したC57BL/6Nマウス(leanマウス)にも上記と同様にSKF 97541(0.3mg/kg/day)又は3-APPA(5mg/kg/day)の経口投与を行い、摂食量及び体重を経時的に測定した。
【0040】
2.実験の結果と考察
DIOマウスにおけるSKF97541又は3-APPAの投与は投与開始1週より有意に摂食量及び体重増加量を抑制し、両者の有意な抑制は5週後の実験の終了時まで継続した(図4e,f、図5a、b)。一方、leanマウスにおけるSKF97541又は3-APPAの投与は投与期間中の摂食量及び体重に有意な影響を与えなかった(図4g,h)。以上の結果より異なる3種類のGABAB受容体アゴニストにより、肥満モデル動物であるDIOマウスにおける抗肥満作用が認められ、またこれらのGABAB受容体アゴニストによる体重増加の抑制効果は肥満状態にのみ認められることが示唆された。
【0041】
<GABAB受容体アゴニストのDIOマウスにおける耐糖能及びインスリン感受性に与える影響>
DIOマウスに3種類のGABAB受容体アゴニストを継続投与した際の空腹時血糖値及びHbA1c値及び空腹時血中インスリン濃度の変化を検討した。
【0042】
1.実験方法
前述の方法によりDIOマウスに(±)-バクロフェン(5mg/kg/day)又はSKF97541(0.3mg/kg/day)又は3-APPA(5mg/kg/day)を5週間経口投与した後に、6時間の絶食後に眼窩より採血して血糖値及びHbA1c値及び血中インスリン濃度を測定した。
【0043】
2.実験の結果と考察
(±)-バクロフェン投与群・SKF97541投与群・3-APPA投与群のいずれにおいても、コントロール群に比較して空腹時血糖値(図6)及びHbA1c値(図7)及び空腹時血中インスリン濃度(図8)の有意な低下が認められた。以上の結果より異なる3種類のGABAB受容体アゴニストにより、DIOマウスにおける耐糖能及びインスリン感受性が改善されたことが示唆された。
【0044】
<DIOマウスにおける(±)-バクロフェンのその他の効果>
DIOマウスにおいて(±)-バクロフェンを継続投与した際の血漿ホルモン濃度の変化、白色脂肪組織への影響を検討した。
【0045】
1.実験方法
前述の方法によりDIOマウスに(±)-バクロフェン(5mg/kg/day)を5週間経口投与した後に、6時間絶食後に眼窩より採血して血漿レプチン濃度及び血漿アディポネクチン濃度を測定した。また5週間の投与終了後にDIOマウスを頸椎脱臼にて屠殺した後に副睾丸周囲白色脂肪組織及び皮下白色脂肪組織を摘出し、重量を測定した後に4%ホルムアルデヒドにて固定し、副睾丸周囲白色脂肪組織は厚さ8μmの切片を作製してヘマトキシリン-エオジン染色(H-E染色)を施行し、脂肪細胞の形態(サイズ)を画像解析システム Neurolucida(MicroBrightField Japan, Inc.)を用いて検討した。
【0046】
2.実験の結果と考察
DIOマウスにおける(±)-バクロフェンの5週間の経口投与は血漿レプチン濃度を有意に低下させ(図9a)、血漿アディポネクチン濃度を有意に増加させた(図9b)。また副睾丸周囲白色脂肪組織の重量(図10a)及び皮下白色脂肪組織の重量(図10b)を有意に減少させた。副睾丸周囲白色脂肪組織における脂肪細胞のサイズは(±)-バクロフェン投与群において減少した(図10c)。(±)-バクロフェンの投与によりDIOマウスにおける白色脂肪重量および脂肪細胞のサイズが減少することが示唆された。
【0047】
<DIOマウスにおける(±)-バクロフェンの作用機序>
DIOマウスにおいて(±)-バクロフェンを継続投与した際の視床下部弓状核におけるNPY mRNA及びPOMC mRNA発現量の変化を検討した。
【0048】
1.実験方法
前述の方法によりDIOマウスに(±)-バクロフェンを5週間経口投与した後に屠殺して脳を摘出しin situ ハイブリダイゼーション法を用いて、視床下部弓状核におけるNPY mRNA及びPOMC mRNA発現量の変化を検討した。
【0049】
2.実験の結果と考察
DIOマウスにおける(±)-バクロフェンの投与はNPY mRNAの発現を有意に抑制し(図11a,c)、POMC mRNAの発現を有意に増加させた(図11b,c)。(±)-バクロフェンはdb/dbマウスと同様にDIOマウスにおいても食欲中枢に作用することで肥満症を改善する可能性が示唆された。
【0050】
<バクロフェンの体温及び酸素消費量及び運動量に与える影響>
db/dbマウス及びDIOマウスにおける(±)-バクロフェンの投与が、体温及び酸素消費量及び運動量に与える影響を検討した。
【0051】
1.実験方法
db/dbマウス及びDIOマウスに5週間の(±)-バクロフェンの経口投与を行い、投与開始5週において、直腸温を測定し、また小動物用代謝計測システム(model MK-5000:室町機械(株))を用いて酸素消費量及び運動量を測定した。
【0052】
2.実験の結果と考察
db/dbマウス及びDIOマウスにおける(±)-バクロフェンの投与は体温(図12a,d)を有意に上昇させ、酸素消費量(図12b,e)を有意に増加させた。また運動量(図12c,f)には有意な影響を与えなかった。以上の結果よりバクロフェンによる抗肥満作用の少なくとも一部はエネルギー産生の増強を介している可能性が示唆された。
【0053】
<GABAB受容体アゴニスト バクロフェンの抗肥満作用における用量依存性の検討>
GABAB受容体アゴニストであるバクロフェンの抗肥満作用の用量依存性を明らかにする目的で以下の実験を行った。バクロフェンはラセミ混合物である(±)-バクロフェン(カタログ番号B5399、CAS Number1134-47-0、シグマ社)を用いた。実験動物にはレプチン受容体欠損モデルであるdb/dbマウスを用いた。
1.実験方法
5週齢の雄性C57BL/KsJ-db/dbマウス(db/dbマウス:体重19-25g、日本SLC)を購入し、チップケージで個別に飼育した。db/dbマウスには普通食のペレット(CE-2)を投与し、自由飲水、自由摂食とした。飼育開始時より、体重と24時間摂食量を毎日測定した。飼育開始3日目に、6時間絶食の後に眼窩より採血して血糖値と血中インスリン濃度を測定し、体重、24時間摂食量、血糖値、血中インスリン濃度が均等となるようにdb/dbマウスを5グループに分けて(各グループ10匹)、コントロール群及びバクロフェン投与群とした。バクロフェン投与群には(±)-バクロフェンを、4x10-6M、10x10-6M、40x10-6M、100x10-6Mの各濃度で飲料水に溶解して5週間の継続的な経口投与を行った。(±)-バクロフェンの5週間の投与期間中の摂食量及び体重及び飲水量を経時的に測定した。
2.実験の結果と考察
db/dbマウスにおける(±)-バクロフェンの投与は、100x10-6M及び40x10-6Mの投与群では投与開始1週より有意に摂食量及び体重増加量を抑制し両者の有意な抑制は実験の終了時まで継続した。10x10-6Mの投与群では投与開始2週より、4x10-6Mの投与群では投与開始4週より有意な摂食量及び体重増加量の抑制を認め、両者の有意な抑制は実験の終了時まで継続した(図14)。概算された1日あたりのバクロフェンの投与量は、100x10-6Mが5 mg/kg/day、40x10-6Mが2 mg/kg/day、10x10-6Mが0.5 mg/kg/day、4x10-6Mが0.2 mg/kg/dayであった。
【0054】
<db/dbマウスにおけるバクロフェン以外のGABAB受容体アゴニストの抗肥満作用の検討>
バクロフェン以外のGABAB受容体アゴニストの投与がdb/dbマウスにおいても抗肥満作用を呈するか否かを検討する目的で、3-aminopropyl-(methyl) phosphinic acid(カタログ番号:EA-133, CAS Number: 127729-35-5, BIOMOL社)(以下、SKF97541)及び3-aminopropylphosphonic acid(カタログ番号:268615, CAS Number:13138-33-5, Sigma-Aldrich社)(以下、3-APPA)をdb/dbマウスに継続的に経口投与して、これらの抗肥満作用について検討した。また非肥満モデル動物であるdb/+mマウスにおける作用についても比較検討した。
1.実験方法
5週齢の雄性C57BL/KsJ-db/dbマウス(db/dbマウス:体重19-25g、日本SLC)を購入し、チップケージで個別に飼育した。db/dbマウスには普通食のペレット(CE-2)を投与し、自由飲水、自由摂食とした。飼育開始時より、体重と24時間摂食量を毎日測定した。飼育開始3日目に、6時間絶食の後に眼窩より採血して血糖値と血中インスリン濃度を測定し、体重、24時間摂食量、血糖値、血中インスリン濃度が均等となるようにdb/dbマウスを3グループに分けて(各グループ10匹)、コントロール群及びSKF97541投与群及び3-APPA投与群とした。SKF97541は10x10-6M、3-APPAは100x10-6Mの濃度で飲料水に溶解して5週間の継続的な経口投与を行い投与期間中は摂食量および体重を経時的に測定した。db/+mマウスにも同様にSKF97541(10x10-6M)又は3-APPA(100x10-6M)を飲料水に溶解して経口投与を行い、摂食量及び体重を経時的に測定した。
2.実験の結果と考察
3-APPAの投与は投与開始1週間より、SKF97541の投与は投与開始2週間より有意に累積摂食量(図15a)を抑制し、有意な抑制は実験の終了時まで継続した。またSKF97541及び3-APPAの投与は投与開始1週間より体重増加量(図15b)を有意に抑制し、有意な抑制は実験の終了時まで継続した。一方、db/+mマウスにおけるSKF97541又は3-APPAの投与は投与期間中の摂食量及び体重に有意な影響を与えなかった(図15c,d)。以上の結果より異なる3種類のGABAB受容体アゴニストにより、db/dbマウスにおける抗肥満作用が認められ、また抗肥満作用は肥満状態でのみ認められることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の抗肥満剤は肥満(肥満症を含む)の治療又は予防に有効である。本発明の抗肥満剤によれば、その有効成分による中枢性の作用によって良好な抗肥満効果が得られる。
【0056】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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