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明細書 :テラヘルツ光源

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5527570号 (P5527570)
公開番号 特開2009-080448 (P2009-080448A)
登録日 平成26年4月25日(2014.4.25)
発行日 平成26年6月18日(2014.6.18)
公開日 平成21年4月16日(2009.4.16)
発明の名称または考案の名称 テラヘルツ光源
国際特許分類 H01S   1/02        (2006.01)
G02F   1/35        (2006.01)
FI H01S 1/02
G02F 1/35
請求項の数または発明の数 4
全頁数 14
出願番号 特願2008-081487 (P2008-081487)
出願日 平成20年3月26日(2008.3.26)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2007年2月28日 社団法人 日本物理学会発行の「日本物理学会講演概要集 第62巻第1号(2007年春季大会)第4分冊」に発表
特許法第30条第1項適用 平成19年3月8日 インターネットアドレス「http://www.soc.nii.ac.jp/jps/」に発表
特許法第30条第1項適用 2007年8月4日 日本物理学会、応用物理学会、日本物理教育学会発行の「日本物理学会中国・四国支部、応用物理学会中国四国支部、日本物理教育学会中国四国支部 2007年度支部学術講演会講演予稿集」に発表
特許法第30条第1項適用 2007年8月26日 IEEE発行の「The 7th Pacific Rim Conference on Laser and Electro-Optics」の講演予稿が記録されたCD-ROMに発表
優先権出願番号 2007232239
優先日 平成19年9月7日(2007.9.7)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年1月11日(2011.1.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
発明者または考案者 【氏名】鶴町 徳昭
【氏名】宮川 勇人
【氏名】小柴 俊
【氏名】中西 俊介
【氏名】伊藤 寛
個別代理人の代理人 【識別番号】100089222、【弁理士】、【氏名又は名称】山内 康伸
【識別番号】100134979、【弁理士】、【氏名又は名称】中井 博
審査官 【審査官】林 祥恵
参考文献・文献 特開2004-102159(JP,A)
特開2004-279933(JP,A)
特表2002-510809(JP,A)
特開2007-017494(JP,A)
特開2004-172177(JP,A)
岸本英嗣、他,”テラヘルツ帯1次元フォトニック結晶によるテラヘルツ波発生”,日本物理学会講演概要集(2007年春季大会),2007年 2月28日,第62巻第1号第4分冊,p.762
M.Iida, et al.,"Terahertz-photomixing efficiency of a photoconductive antenna embedded in a three-dimensional photnic crystal",Japan Journal of Applied Physics,2003年11月18日,Vol.42,p. L1442-L1445
調査した分野 G02F 1/35-1/39
G02F 1/00-1/125
G02B 6/12-6/14
H01S 1/02
IEEE Xplore
特許請求の範囲 【請求項1】
屈折率の異なる層を交互に配設することによって形成された1次元フォトニック結晶から形成されており、
該1次元フォトニック結晶は、
その内部にテラヘルツ光を発生し得る部材によって形成された欠陥部と、
該欠陥部を挟むように配設された、該欠陥部において発生したテラヘルツ光の強度を増幅する一対のミラー部とを備えており、
該一対のミラー部は、
前記欠陥部が発生するテラヘルツ光を、該欠陥部内で共振させ得る構造に形成されている
ことを特徴とするテラヘルツ光源。
【請求項2】
前記欠陥部は、励起光が照射されるとテラヘルツ光を発生する非線形光学結晶であり、
前記一対のミラー部を形成する層において、その軸方向と直交する面には、前記励起光の反射を防止する反射防止処理が施されている
ことを特徴とする請求項1記載のテラヘルツ光源。
【請求項3】
前記欠陥部が、ZnTeによって形成されている
ことを特徴とする請求項2記載のテラヘルツ光源。
【請求項4】
前記一対のミラー部は、
その軸方向に沿って空気層と固体層とが交互に配設されたものである
ことを特徴とする請求項1、2または3記載のテラヘルツ光源。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ光源に関する。光と電波の中間に位置するテラヘルツ光は、紙やプラスチック、ビニール、繊維、半導体、脂肪、粉体など様々な物質を透過する特性を持っていることから、分光やイメージング用途の新たな光源として注目されている。
本発明は、かかるテラヘルツ光を発生させるテラヘルツ光源に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、テラヘルツ光を発生させる装置としてフェムト秒レーザがあるが、フェムト秒レーザは非常に高価であり、また、装置自体が大型であるしその取り扱いに非常に注意を要する。このため、企業や大学等の研究室における実験等には使用されているが、生産現場や医療機器やセキュリティ設備等におけるテラヘルツ光の光源として使用することは事実上困難である。
【0003】
生産現場等においても使用できるテラヘルツ光源の開発が進められており、非線形光学結晶等に対して励起光を照射したときに生じる光整流効果を利用した技術が開発されている(特許文献1~3)。
【0004】
特許文献1の技術は、ウェッジ構造を有するZnTe(ジンクテルル)などの非線形光学結晶に対して、励起光として極短レーザーパルス光(波長:~15fs)を照射することによってテラヘルツ電磁波を発生させるものである。この技術では非線形結晶がウェッジ構造となっており厚さが位置によって異なるので、レーザ光を照射する位置を変えることによって発生するテラヘルツ光の波長を変えることができる。
【0005】
また、特許文献2には、複数のスラブを組み合わせて形成された第1、第2フォトニック結晶を備え、この第1、第2フォトニック結晶間に非線形結晶等の不純物構造を設けた光デバイスが開示されている。この光デバイスでは、不純物構造としてZnTeを用い、このZnTeにスラブ間の空間を通してポンプレーザ光を照射することによって、ZnTeからテラヘルツ光を出力させることができる。そして、光デバイスにおけるZnTeの厚みやフォトニック結晶を構成するスラブの層数を変えれば、出力光のスペクトルや強度を調整できる旨の記載もある。
【0006】
さらに、特許文献3には、第1のフォトニック結晶と、この第1のフォトニック結晶の周囲に第2のフォトニック結晶を設けた波長変換装置が開示されており、第2のフォトニック結晶を通して第1のフォトニック結晶に異なる周波数を有する2つの光を入射してテラヘルツ光を発生させる方法が記載されている。この波長変換装置では、第1のフォトニック結晶の周囲に第2のフォトニック結晶を設けることによって、2つの光の差周波を有効に取り出すことができる旨の記載がある。
【0007】
しかるに、特許文献1~3の技術では、ZnTeや第1のフォトニック結晶からテラヘルツ光を発生させることはできるものの、発生するテラヘルツ光が弱く、発生したテラヘルツ光を増幅するものではないから、生産現場等におけるテラヘルツ光の光源として使用することは事実上困難である。
【0008】

【特許文献1】特開2005-99453号
【特許文献2】特許第3944569号
【特許文献3】特開2004-279604号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、高強度のテラヘルツ光を出力でき、かつ、構造をコンパクトにできるテラヘルツ光源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明のテラヘルツ光源は、屈折率の異なる層を交互に配設することによって形成された1次元フォトニック結晶から形成されており、該1次元フォトニック結晶は、その内部にテラヘルツ光を発生し得る部材によって形成された欠陥部と、該欠陥部を挟むように配設された、該欠陥部において発生したテラヘルツ光の強度を増幅する一対のミラー部とを備えており、該一対のミラー部は、前記欠陥部が発生するテラヘルツ光を、該欠陥部内で共振させ得る構造に形成されていることを特徴とする。
なお、本明細書において、「テラヘルツ光」とは、電波と光波の間の周波数を有する電磁波であって、0.1~10THzの周波数を有するものを意味している。
第2発明のテラヘルツ光源は、第1発明において、前記欠陥部は、励起光が照射されるとテラヘルツ光を発生する非線形光学結晶であり、前記一対のミラー部を形成する層において、その軸方向と直交する面には、前記励起光の反射を防止する反射防止処理が施されていることを特徴とする。
第3発明のテラヘルツ光源は、第2発明において、前記欠陥部が、ZnTeによって形成されていることを特徴とする。
第4発明のテラヘルツ光源は、第1、第2または第3発明において、前記一対のミラー部は、その軸方向に沿って空気層と固体層とが交互に配設されたものであることを特徴とする。

【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、欠陥部が発生したテラヘルツ光を欠陥部内で共振させることができるから、テラヘルツ光源から外部に出力されるテラヘルツ光の強度を増幅することができる。また、欠陥部内で共振できる周波数のテラヘルツ光のみを増幅して出力することができるから、所定の波長のテラヘルツ光のみを出力させることができる。さらに、一次元フォトニック結晶に欠陥部を設けただけであるから、光源をコンパクトな構成とすることができる。
第2発明によれば、ミラー部を透過して欠陥部に供給される励起光が、ミラー部を通過するときに減衰することを防ぐことができ、欠陥部に供給される励起光の強度が低下することを防ぐことができる。すると、欠陥部から発生するテラヘルツ光の強度を強くすることができるので、出力されるテラヘルツ光の強度も強くすることができる。
第3発明によれば、ZnTeは結晶の損傷閾値も高く、テラヘルツ光の発生効率が高いので、光源から出力されるテラヘルツ光を強くすることができる。とくに、励起光として可視光を使用した場合、位相整合が優れているので好ましい。
第4発明によれば、両層の屈折率比が大きくなるので、少ない層数でも高い反射率を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のテラヘルツ光源は、欠陥部を備えた一次元フォトニック結晶からなる部材であって、テラヘルツ光を発生し得る部材によって欠陥部を形成したこと、および、欠陥部を挟むように一対のミラー部を配設したことに特徴を有している。
【0013】
まず、本発明のテラヘルツ光源を説明する前に、一次元フォトニック結晶について説明する。
【0014】
フォトニック結晶とは、内部に周期的な屈折率分布を有する材料であり、屈折率が一次元的に分布しているものが一次元フォトニック結晶である。一次元フォトニック結晶としでは、例えば、図3に示すように、屈折率の異なる2つ物質からなる2層(A層、B層)が一次元的に交互に配設された結晶を挙げることができる。
【0015】
一次元フォトニック結晶は、屈折率分布に沿った方向(以下、軸方向という)では、特定の周波数の電磁波の透過率が極端に低くなる性質を有しており、この透過率が極端に低い周波数領域はフォトニックバンドギャップと呼ばれる。
図3に示すように、A層、B層が、以下(1)式の関係にあるときには、フォトニックバンドギャップは、c/λを中心周波数として形成される。
なお、n、n各層を形成する物質の屈折率、d、dは各層の厚み、λは電磁波の波長、cは光速を示している。
【数1】
JP0005527570B2_000002t.gif

【0016】
そして、一次元フォトニック結晶の一部に周期配列を乱す部分(以下、欠陥部という)を設け、この欠陥部が以下(2)式を満たすときには、c/λの周波数を有する電磁波が欠陥部内に生じた場合、c/λの周波数を有する電磁波の定在波が欠陥部に形成される。これは、c/λの周波数の電磁波に対して、一次元フォトニック結晶における欠陥部を挟む部分が共振器として機能するからであり、かかる定在波が欠陥部に形成されると、c/λの周波数の電磁波は欠陥部内において増幅されるのである。
なお、nは欠陥部を形成する物質の屈折率、dは欠陥部の厚み、λは電磁波の波長を示している。
【数2】
JP0005527570B2_000003t.gif

【0017】
以上のごとく、欠陥部を備えた一次元フォトニック結晶では、その屈折率分布に応じた周波数の電磁波を欠陥部内で増強することができるのである。
【0018】
つぎに、本実施形態のテラヘルツ光源を図面に基づき説明する。
図1は本実施形態のテラヘルツ光源1の概略説明図である。図2は本実施形態のテラヘルツ光源1におけるミラー部3の構図を説明した図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態のテラヘルツ光源1は、一次元フォトニック結晶からなる部材であって、テラヘルツ光を発生し得る部材によって形成された欠陥部2と、欠陥部2を挟むように配設された一対のミラー部3,3とから構成されている。つまり、欠陥部2と一対のミラー部3,3は、テラヘルツ光源1の軸方向(図1では左右方向)に沿って、ミラー部3、欠陥部2、ミラー部3の順で積層されているのである。
【0020】
まず、欠陥部2は、テラヘルツ光を発生し得る部材によって形成されており、例えば、ジンクテルル(ZnTe)やLiTaO、LiNbOなどの無機非線形光学結晶、有機非線形光学結晶、GaAs、ZnTe、CdTe、GaSeなどの半導体、ポリマー等によって形成されている。これらの材料は、可視光線や紫外光線、近赤外光線等の励起光が照射されると、非線形光学効果の一種である光整流効果によりテラヘルツ光を発生する部材である。
とくに、無機非線形光学結晶であるジンクテルル(ZnTe)を欠陥部2に使用すれば、結晶の損傷閾値も高く、テラヘルツ光の発生効率が高いので、光源から出力されるテラヘルツ光を強くすることができる。とくに、励起光として可視光を使用した場合、位相整合が優れているので好ましい。
【0021】
ここで、光整流効果とは、2次非線形感受率の大きな物質に光が入射したときに、物質中に電界が発生する効果である。発生電界の大きさは入射光の強度と2次非線形感受率に比例し、発生電界の大きさが大きくなると、発生するテラヘルツ光も大きくなる。
【0022】
なお、以下では、欠陥部2が発生するテラヘルツ光を、発生テラヘルツ光という。
さらになお、欠陥部2においてテラヘルツ光を発生させる方法は上記のごとき方法に限られず、光伝導効果等の方法でテラヘルツ光を発生させることができる。そして、かかる方法でテラヘルツ光を発生させる場合には、欠陥部として、例えば、光伝導アンテナ、半導体基板を設ければよい。
【0023】
図1に示すように、一対のミラー部3,3は、欠陥部2を、テラヘルツ光源1の軸方向から挟むように配設されている。
各ミラー部3は、テラヘルツ光源1の軸方向に沿って屈折率の異なる層が交互に配設されている。具体的には、図2に示すように、各ミラー部3は、ポリプロピレンまたは酸化マグネシウム(MgO)等を素材とする前記励起光および前記発生テラヘルツ光を透過しうる光透過性部材3aと、中空な部材3bとを複数枚重ねて形成されている。中空な部材3bとは、板状の部材であってその表裏を貫通する貫通孔3hが形成された部材である。つまり、各ミラー部3では、テラヘルツ光源1の軸方向に沿って、光透過性部材3aの層(固体層)と、中空な部材3bの貫通孔3hの部分(空気層)とが交互に配設されているのである。
【0024】
そして、前記欠陥部2は、テラヘルツ光源1の軸方向長さdと、欠陥部2を構成する材料の屈折率nの積が、欠陥部2が発生するテラヘルツ光のうちテラヘルツ光源1から出力させるテラヘルツ光の波長λ(以下、単に出力テラヘルツ光の波長λという)の1/2の長さとなるように形成されている。
また、前記一対のミラー部3,3を構成する光透過性部材3aは、その軸方向長さdと、光透過性部材3aを構成する材料の屈折率nの積が、出力テラヘルツ光の波長λの1/4の長さとなるように形成されている
そして、中空な部材3bは、テラヘルツ光源1の軸方向長さdと、空気の屈折率nの積が、出力テラヘルツ光の波長λの1/4の長さとなるように形成されている。
【0025】
上記のごとき構成であるから、テラヘルツ光源1に対して、テラヘルツ光源1の軸方向から励起光を照射すれば、励起光は、ミラー部3の光透過性部材3aを透過し、中空な部材3bの貫通孔3hを通過して、欠陥部2に到達する。すると、光整流効果により欠陥部2がテラヘルツ光を発生する。
すると、発生したテラヘルツ光のうち、波長λのテラヘルツ光に対して一対のミラー部3,3が共振器として機能することによって欠陥部2内で増強されるから、励起光が照射されたときに発生したテラヘルツ光よりも高強度である、波長λのテラヘルツ光をテラヘルツ光源1から出力させることができる。
【0026】
しかも、各ミラー部3は、光透過性部材3aの層(固体層)と空気層とが交互に配設されている。つまり、屈折率の異なる層のうち、一方を空気層としているので、両層の屈折率比が大きくなり、少ない層数でも高い反射率を得ることができる。
【0027】
なお、ミラー部3は、少なくとも光透過性部材3aが2層と、中空な部材3bが1層必要であるが、光透過性部材3aおよび中空な部材3bを設ける数はとくに限定されない。つまり、欠陥部2に光透過性部材3aが接し、この光透過性部材3aから交互に中空な部材3bと光透過性部材3aとが配設されていればよい。原則として、中空な部材3bおよび光透過性部材3aを設ける数が多くなるほど、欠陥部2内にテラヘルツ光を閉じ込めて増強する効果が高くなり、出力されるテラヘルツ光源1の強度を強くすることができる。
【0028】
具体的には、欠陥部2で発生した発生したテラヘルツ光のうち、波長λのテラヘルツ光の増強度Gは、以下の(3)式で表される。
【数3】
JP0005527570B2_000004t.gif
なお、Tはテラヘルツ光源1の共振ピークの透過率であり、nは空気の屈折率であり、nはミラー部3の光透過性部材3aを形成する物質の屈折率であり、Nはミラー部3の周期である。なお、ミラー部3の周期とは、光透過性部材3a一層と中空な部材3b一層とからなる層を結合層とすると、この結合層の繰り返しを意味しており、周期がNであるとは、この結合層がN回繰り返されていることを意味する。
例えば、ミラー部3の周期がN=1の場合とは、光透過性部材3aが2層、中空な部材3bが1層の場合であり、ミラー部3の周期がN=2の場合とは、光透過性部材3aが3層、中空な部材3bが2層の場合である。なお、図1のテラヘルツ光源1は、周期がN=2のミラー部3を有するテラヘルツ光源1である。
【0029】
また、式(3)からも分かるように、光透過性部材3aの屈折率と空気の屈折率との差が大きいほど、テラヘルツ光を増幅させる効果が大きくなるので、光透過性部材3aは大きい屈折率を有するものが好ましい。
さらになお、ミラー部3において、中空な部材3bに代えて、貫通孔を有しない板状部材を設けてもよい。この場合、板状部材には、励起光の透過性は高いが吸収性は低いものが好ましいのはいうまでもない
【0030】
また、欠陥部2に励起光を照射したときに発生するテラヘルツ光は、励起光の強度が強いほど発生するテラヘルツ光の強度も強くなる。
励起光は一方のミラー部3を通過して欠陥部2に供給されるので、ミラー部3を構成する光透過性部材3aの表面において励起光が一部反射されたり、光透過性部材3aにより励起光が吸収されたりする。すると、欠陥部2に供給される励起光の強度が減衰し、励起光を照射したときに欠陥部から発生するテラヘルツ光が弱くなる可能性がある。
【0031】
そこで、本実施形態のテラヘルツ光源1において、励起光が入射される側に位置するミラー部3を形成する光透過性部材3aの表裏両面に励起光の反射を低減防止する反射防止処理を施すことが好ましい。つまり、励起光が入射される側に位置するミラー部3の光透過性部材3aにおいて、その軸方向と直交する面3sに励起光の反射を低減防止する反射防止処理を施すことが好ましい。
【0032】
反射防止処理は、光透過性部材3a表面において、その表面で反射する反射光を打ち消しあうような干渉を生じさせる光学膜(反射防止膜)を形成する処理である。
そして、本実施形態のテラヘルツ光源1における光透過性部材3aの面3sに上記のごとき反射防止処理を行って反射防止膜を形成すれば、光透過性部材3aの面3sにおける励起光の表面反射および裏面反射を防ぐことができる。すると、ミラー部3を透過するときにおける励起光が減衰を防ぐことができるから、欠陥部2に供給される励起光の強度が低下することを防ぐことができる。よって、欠陥部2から発生するテラヘルツ光の強度自体を強くすることができるので、外部に出力されるテラヘルツ光の強度も強くすることができる。
【0033】
以下に、反射防止処理によって光透過性部材3a表面に形成される反射防止膜について、説明する。
【0034】
単層薄膜の反射防止膜を基板(本実施例のテラヘルツ光源1であれば光透過性部材3a)形成する場合において、基板の屈折率をnS、薄膜の屈折率をnf(nS>nf)とする。すると、薄膜表面での振幅反射と、薄膜と基板との界面での振幅反射が等しく、両振幅反射の位相がπだけずれていれば、両振幅反射が打ち消うような干渉が生じ、基板表面での反射が低減される。
【0035】
具体的には、光が基板に対して垂直入射するとした場合、薄膜の光学膜厚d、および、薄膜の屈折率nfを以下の式(4)、(5)を満たすようにする。なお、λは反射を防止する光の波長(特定波長)であり、n0は入射媒質(本実施例のテラヘルツ光源1であれば空気)の屈折率である。
【数4】
JP0005527570B2_000005t.gif
【数5】
JP0005527570B2_000006t.gif

【0036】
例えば、ガラス基板(ns=1.52)と空気(n0)の間に反射防止膜を形成する場合であれば、nf=1.23の材料を光学膜厚がλ/4となるように積層する必要がある。
しかし、実際には、膜を形成する基板に対して上記のごとき条件を満たす適当な屈折率材料がない場合が多い。
そこで、高屈折率層と低屈折率層を有する多層膜を形成し、特定波長λの1/4あるいはその奇数倍の光学膜厚で、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層させることによって、上記のごとき条件を満たす反射防止膜を形成することが可能である。
【0037】
図4に示すように、ポリプロピレンシート(Polypropylene(PP)(n=1.48)、d=99μm)の表面に、高屈折率層の物質がポリビニルカルバゾール(Polyvinyl carbazole(PVK))(n=1.68、d=119nm)、低屈折率層の物質がセルロースアセテート(Cellulose acetate (CA))(n=1.46~1.50、d=133~136nm)である多層膜を形成する。すると、この多層膜は、ポリプロピレンシートと空気との界面における、励起可視光の反射を防止する反射防止膜として機能する。
【0038】
なお、上記のごとき多層膜を形成する処理は、例えば、面3sに無機ガラス系の物質からなる誘電体多層膜を形成する処理や、面3sにスピンコートにより有機ポリマー系の物質からなる層を形成する処理等を挙げることができるが、これらの処理に限定されない。
また、光透過性部材3aにおける反射防止処理は、励起光が入射される側の光透過性部材3aにのみ行ってもよいが、励起光が入射される側の光透過性部材3aに加えて、欠陥部2から発生するテラヘルツ光が出射される側の光透過性部材3aにも反射防止処理を行ってもよい。
そして、反射防止膜を設けても、反射防止膜の膜厚はテラヘルツ光の波長とくらべ非常に薄いので、反射防止膜によるテラヘルツ光の減衰はほとんど生じず、また、テラヘルツ光源1の光整流効果においても反射防止膜の膜厚はほとんど無視することができる。
【実施例1】
【0039】
本発明のテラヘルツ光源において、ミラー部の周期が出力されるテラヘルツ光の強度に与える影響を確認するために、ミラー部の周期Nが、N=1の場合とN=2の場合において、テラヘルツ光源から出力されるテラヘルツ光の強度を比較した。
【0040】
テラヘルツ光源には、ミラー部が固体層と空気層とからなる一次元フォトニック結晶において、一対のミラー部間に欠陥部を設けたものを使用した(図1参照)。
実験に使用したテラヘルツ光源の欠陥部、ミラー部が固体層および空気層は、以下のように設計した。
欠陥部: ZnTe結晶(屈折率n=2.92)、厚さ1000μm
固体層:ポリプロピレンシート(屈折率n=1.48)、厚さ99μm
空気層:空気(屈折率n=1)、厚さ146μm
なお、ミラー部の周期がN=1の場合とは、固体層が2層、空気層が1層の場合であり、ミラー部の周期がN=2の場合とは、固体層が3層、空気層が2層の場合である。なお、図1のテラヘルツ光源が、周期がN=2のミラー部を有するテラヘルツ光源である。
【0041】
また、テラヘルツ光は、欠陥部に励起光を照射することにより発生させた。使用した励起光は、モード同期Ti:Sapphireレーザーから発振されたフェムト秒パルス光である。
【0042】
図5はテラヘルツ光源が発生するテラヘルツ光強度を測定する実験装置(THz-TDS系)の概略説明図である。本実施例では、テラヘルツ光源が発生するテラヘルツ光強度は電気光学(ElectroOptic:EO)サンプリング法を利用して検出している。EOサンプリング法は、外部電界によって屈折率が変化するEO結晶の性質(電気光学効果)を利用して、フェムト秒レーザーパルスの偏光制御により超高速過渡応答信号を検出する方法である。
以下、この実験装置におけるEOサンプリング法を利用したテラヘルツ光強度の検出を説明する。
【0043】
まず、モード同期Ti:Sapphireレーザーからフェムト秒パルスを発振する。発振されたフェムト秒パルスは、ペリクルビームスプリッターによりポンプ光とプローブ光の二つに分けられ、ポンプ光は光チョッパーを用い約3kHzの周波数で振幅変調を掛けた状態で、本発明のテラヘルツ光源の欠陥部に照射される。すると、本発明のテラヘルツ光源の欠陥部ではテラヘルツ光が発生し、発生したテラヘルツ光は、ポンプ光と同軸かつ入射側と反対側に出力される。
【0044】
なお、レーザーのスポットには広がりがあるので、ポンプ光をレンズにより集光させた状態でテラヘルツ光源に照射している。
さらになお、テラヘルツ光源の出力側には黒い紙を置いている。テラヘルツ光源に照射されたポンプ光は、欠陥部においてテラヘルツ光の発生に寄与するとともにテラヘルツ光源を通過するが、このテラヘルツ光源を通過したポンプ光がテラヘルツ光を検出するテラヘルツ光検出素子に入射すると、テラヘルツ光強度の検出精度に影響を与える。上述したように、テラヘルツ光源の直後に黒い紙を置いておけば、黒い紙は可視光に対しては不透明だが、テラヘルツ光に対しては透明であるので、ポンプ光を黒い紙で遮断することができ、検出精度に影響を与えることを防ぐことができる。
【0045】
テラヘルツ光源から発生したテラヘルツ光は、軸はずし放物面鏡(焦点距離約15cm)で平行光線にした後、もう一つの軸はずし放物面鏡(焦点距離約15cm)でテラヘルツ光検出素子(ZnTe)に入射される。
なお、軸はずし放物面鏡とテラヘルツ光検出素子との間には、ペリクルビームスプリッターが設けられている。しかし、ペリクルビームスプリッターはその厚みが2μmとテラヘルツ光の波長に対して非常に薄いため、テラヘルツ光はペリクルビームスプリッターを透過して、テラヘルツ光検出素子であるZnTeに入射される。
【0046】
一方、ペリクルビームスプリッターによりポンプ光と分離されたプローブ光は、回転NDフィルターでその強度を調整される。強度が調整されたプローブ光は、偏光板で完全な直線偏光にした後、光学ステージでポンプ光に対して時間遅延を与えてから、テラヘルツ光検出素子に入射される。なお、プローブ光は、軸はずし放物面鏡とテラヘルツ光検出素子との間に位置するペリクルビームスプリッターで反射されてからテラヘルツ光検出素子に入射する。
【0047】
テラヘルツ光検出素子に入射されたプローブ光はテラヘルツ光検出素子を通過し、λ/4板を通された後、ウォラストンプリズムで互いに直交する二つの偏光成分に分けられる。
そして、二つの偏光成分に分けられた光を、バランス検出器によってロックイン検出すれば、テラヘルツ光の強度を検出することができる。
【0048】
ロックイン検出したときにテラヘルツ光の強度が検出できる原理は以下のとおりである。
テラヘルツ光検出素子にプローブ光のみが入射されている場合、λ/4板を通されたプローブ光は円偏光となるため、直交する二つの偏光成分の強度は同じになる。
これに対し、テラヘルツ光とプローブ光が同時にテラヘルツ光検出素子に入射している場合、テラヘルツ光検出素子(ZnTe)はテラヘルツ光の電場によって複屈折を誘起されているため、プローブ光は楕円偏光に変化する。すると、λ/4板を通されたプローブ光は楕円偏光に変化されるので、直交する二つの偏光成分の強度に差が生じる。この差をバランス検出器で測定すれば、テラヘルツ光検出素子におけるテラヘルツ光の電場を検出でき、この電場に基づいてテラヘルツ光検出素子に入射しているテラヘルツ光の強度を検出することができるのである。
【0049】
そして、プローブ光を時間遅延させることによって、プローブ光が検出素子に到達するタイミングをずらせば、異なるタイミングにおけるテラヘルツ光の強度を検出できるから、テラヘルツ光の時間波形を計測することができる。すると、テラヘルツ光の時間波形をフーリエ変換することにより周波数領域における振幅と位相情報の両方を一度に得ることができるのである。
【0050】
なお、バランス検出器において検出されるテラヘルツ光の検出精度を高くするために、プローブ光は、バランス検出器に入射する二つの光のパワーが0.1~1mWとなるように、回転NDフィルターで調整されており、また、テラヘルツ光(信号光)とプローブ光の強度比が約1:2となるように、λ/4板で調整した。バランス検出器の特性上、このような条件にするとS/Nが良くTHz波を検出できる。
【0051】
以下に実験結果を示す。
図6はN=1の場合とN=2の場合におけるテラヘルツ光源から発生したテラヘルツ光の時間波形のフーリエ変換スペクトルを示した図である。
図6に示すように、N=2の場合、N=1の場合に比べて、発生したテラヘルツ光の振幅が大きい部分が見られる。最大では、0.67THz付近において振幅が3.8倍となっており、周期が増えることによって、テラヘルツ光源から外部に出力できるテラヘルツ光の強度を強くすることができることが確認できる。
【実施例2】
【0052】
本発明のテラヘルツ光源において、反射防止処理を行った場合において、この反射防止処理が出力されるテラヘルツ光の強度に与える影響を確認した。
実験は、ZnTe結晶(ミラー部なし)から出力されるテラヘルツ光の強度と、実施例1のテラヘルツ光源の固体層(ポリプロピレンシート)の表面に反射防止膜を設けたテラヘルツ光源(実施例2)場合における出力されるテラヘルツ光の強度を比較した。
【0053】
実施例2のテラヘルツ光源におけるミラー部の周期はN=3である。
反射防止膜は、励起光を入射する側に位置するミラー部の固体層、テラヘルツ光が出力される側に位置するミラー部の固体層の両方に設けている。また、反射防止膜は、固体層側から高屈折率物質の層、低屈折率物質の層、の順で両者が交互に並ぶように形成しており(図4参照)、反射防止膜の各層を形成する物質は、以下のとおりである。
【0054】
高屈折率物質:ポリビニルカルバゾール(Polyvinyl carbazole(PVK))(n=1.68、d=119nm)
低屈折率物質:セルロースアセテート(Cellulose acetate (CA))(n=1.46~1.50、d=133~136nm)
積層数:PVK1層、CA1層
成膜方法:スピンコート法(スピナー(共和理研製、型番 K-359SD-1))
【0055】
スピンコート法により各層を形成するときには、PVK溶液およびCA溶液を使用するが、各溶液の濃度は、40g/l(PVK溶液)、35g/l(CA溶液)である。なお、CAの溶媒にはPVKを溶解しないジアセトンアルコール、PVKの溶媒にはCAを溶解しないクロロベンゼンを用いている。
また、PVK層を形成するときにおける スピナーの回転数は5000r/min.であり、CA層を形成するときにおける スピナーの回転数は6000r/min.である。
【0056】
なお、テラヘルツ光強度は、実施例1の場合と同様に、図5に示す実験装置(THz-TDS系)により測定した。
【0057】
結果を図7に示す。図7に示すように、ZnTe結晶のみからなる光源から出力されるテラヘルツ光(比較光)では、1.0THz、1.3THz、1.5THz、および2.0THz付近に大きな振幅が確認できる。一方、実施例2のテラヘルツ光源(THz-1DPC)から出力されるテラヘルツ光(実施光)では、1.0THz、1.3THz、および2.0THz付近において、大きな振幅が確認できる。
そして、1.0THz付近の振幅は、比較光と実施光ははほぼ同程度となっているが、1.3THzおよび2.0THz付近の振幅は、実施光の振幅が比較光の振幅よりも大きくなっている。とくに、2.0THz付近の振幅は、実施光の振幅が比較光の振幅の約2倍となった。
【0058】
以上のことから、ミラー部の固体層に反射防止膜を形成することにより、ZnTeを欠陥層に含むテラヘルツ光源では、発生するテラヘルツ光における特定の周波数の振幅を、ZnTe結晶のみからなる光源から発生するテラヘルツ光の振幅よりも大きくすることができ、出力されるテラヘルツ光を増強できることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のテラヘルツ光源は、生産現場や医療機器やセキュリティ設備等におけるテラヘルツ光の光源に適している。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施形態のテラヘルツ光源1の概略説明図である。
【図2】本実施形態のテラヘルツ光源1におけるミラー部3の構図を説明した図である。
【図3】一次元フォトニック結晶の説明図である。
【図4】反射防止膜が形成された光透過性部材3aの概略説明図である。
【図5】テラヘルツ光源が発生するテラヘルツ光強度を測定する実験装置(THz-TDS系)の概略説明図である。
【図6】N=1の場合とN=2の場合におけるテラヘルツ光源から発生したテラヘルツ光の時間波形のフーリエ変換スペクトルを示した図である。
【図7】ZnTe結晶のみからなる光源から出力されるテラヘルツ光、およびミラー部の固体層に反射防止膜を形成した本発明のテラヘルツ光源から出力されるテラヘルツ光におけるフーリエ変換スペクトルを示した図である。
【符号の説明】
【0061】
1 テラヘルツ光源
2 欠陥部
3 ミラー部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6