TOP > 国内特許検索 > 放電対策装置 > 明細書

明細書 :放電対策装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4815548号 (P4815548)
登録日 平成23年9月9日(2011.9.9)
発行日 平成23年11月16日(2011.11.16)
発明の名称または考案の名称 放電対策装置
国際特許分類 H05F   3/04        (2006.01)
B64G   1/44        (2006.01)
FI H05F 3/04 B
B64G 1/44 Z
請求項の数または発明の数 11
全頁数 17
出願番号 特願2008-520533 (P2008-520533)
出願日 平成19年6月1日(2007.6.1)
国際出願番号 PCT/JP2007/061173
国際公開番号 WO2007/142133
国際公開日 平成19年12月13日(2007.12.13)
優先権出願番号 2006156782
優先日 平成18年6月6日(2006.6.6)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年5月26日(2009.5.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】独立行政法人 宇宙航空研究開発機構
発明者または考案者 【氏名】趙 孟佑
【氏名】三丸 雄也
【氏名】細田 聡史
【氏名】岩田 稔
【氏名】藤田 辰人
【氏名】久田 安正
個別代理人の代理人 【識別番号】100108660、【弁理士】、【氏名又は名称】大川 譲
審査官 【審査官】高橋 学
参考文献・文献 特開2005-267962(JP,A)
特開平3-500423(JP,A)
特開昭61-190805(JP,A)
米国特許第6713670(US,B2)
米国特許第4489905(US,A)
欧州特許出願公開第0637900(EP,A1)
調査した分野 H05F 3/04
B64G 1/44
特許請求の範囲 【請求項1】
高エネルギーの電子がふりそそぐ環境にある導電構体及びその面上に取り付けられた電子素子が、流入する負電荷により電位が負方向に上昇して放電するのを防止する放電対策装置において、
前記導電構体面に貼った絶縁体テープをくりぬいて、露出した導電構体面に導電性接着剤を塗布し、さらに、該導電性接着剤の上に絶縁体フィルム或いは導電繊維強化プラスチックフィルムを貼ると共に、該導電性接着剤の一部を外部に露出させて構成し、
高エネルギー電子に遭遇した際に前記絶縁体フィルム或いは導電繊維強化プラスチックフィルムが帯電して、前記導電性接着剤に高電界が印加して、電界電子放出により電子を前記導電性接着剤から放出することにより前記導電構体の負方向の電位上昇を防止することから成る放電対策装置。
【請求項2】
前記絶縁体テープ及び前記絶縁体フィルムは、いずれもポリイミド系高分子材料からなり、かつ、前記導電性接着剤は炭素系接着剤である請求項1に記載の放電対策装置。
【請求項3】
前記外部に露出させる導電性接着剤の一部は、前記絶縁体フィルム或いは導電繊維強化プラスチックフィルムの周囲に位置する導電性接着剤の角部である請求項1に記載の放電対策装置。
【請求項4】
前記外部に露出させる導電性接着剤の一部は、前記絶縁体フィルムの周囲に位置する導電性接着剤の角部、該絶縁体フィルムに穴をあけて挿入し導電性接着剤に接着した導体棒、或いは該絶縁体フィルムに空けた穴のいずれか、若しくはそれらの組み合わせである請求項1に記載の放電対策装置。
【請求項5】
高エネルギーの電子がふりそそぐ環境にある導電構体及びその面上に取り付けられた電子素子が、流入する負電荷により電位が負方向に上昇して放電するのを防止する放電対策装置において、
前記導電構体面に貼った絶縁体テープの表面に固定して該導電構体と電気的に接続した導体板を導電性接着剤で覆い、さらに、該導電性接着剤の上に絶縁体フィルム或いは導電繊維強化プラスチックフィルムを貼ると共に、該導電性接着剤の一部を外部に露出させて構成し、
高エネルギー電子に遭遇した際に前記絶縁体フィルム或いは導電繊維強化プラスチックフィルムが帯電して、前記導電性接着剤に高電界が印加して、電界電子放出により電子を前記導電性接着剤から放出することにより前記導電構体の負方向の電位上昇を防止することから成る放電対策装置。
【請求項6】
前記絶縁体テープ及び前記絶縁体フィルムは、いずれもポリイミド系高分子材料からなり、かつ、前記導電性接着剤は炭素系接着剤である請求項5に記載の放電対策装置。
【請求項7】
前記外部に露出させる導電性接着剤の一部は、前記絶縁体フィルム或いは導電繊維強化プラスチックフィルムの周囲に位置する導電性接着剤の角部である請求項5に記載の放電対策装置。
【請求項8】
前記外部に露出させる導電性接着剤の一部は、前記絶縁体フィルムの周囲に位置する導電性接着剤の角部、該絶縁体フィルムに穴をあけて挿入し導電性接着剤に接着した導体棒、或いは該絶縁体フィルムに空けた穴のいずれか、若しくはそれらの組み合わせである請求項5に記載の放電対策装置。
【請求項9】
高エネルギーの電子がふりそそぐ環境にある導電構体及びその面上に取り付けられた電子素子が、流入する負電荷により電位が負方向に上昇して放電するのを防止する放電対策装置において、
前記導電構体面に貼った絶縁体テープをくりぬいて、露出した導電構体面に導電性接着剤を塗布し、この導電性接着剤を介して導電構体と電気的に接続される導電板を、絶縁体テープの表面に固定し、
前記導電板の上面は、一部を外部に露出させた状態で、絶縁体フィルム或いは導電繊維強化プラスチックフィルムを貼り、
高エネルギー電子に遭遇した際に前記絶縁体フィルム或いは導電繊維強化プラスチックフィルムが帯電して、前記導電板に高電界が印加して、電界電子放出により電子を前記導電板から放出することにより前記導電構体の負方向の電位上昇を防止することから成る放電対策装置。
【請求項10】
前記導電板は、導電性接着剤により導電構体に固定される平板状の基部と、該基部中央から垂直方向に立ち上がる柱状部とから構成される請求項9に記載の放電対策装置。
【請求項11】
前記導電板は、少なくともその側面が覆われる状態で、絶縁性接着剤により導電構体上面の絶縁体テープに対して接着される請求項9に記載の放電対策装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、静止軌道衛星や極軌道衛星など、高エネルギー電子に晒される環境にある導電構体及びその面上に取り付けられた電子素子が、流入する負電荷により電位が負方向に上昇して放電するのを防止する放電対策装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の宇宙機の大電力化に伴い、宇宙プラズマによる宇宙機太陽電池アレイ上での帯電放電現象が大きな問題となってきている。宇宙機の機能は太陽電池発電によりまかなわれているため、放電によるダメージが宇宙機の全損を招くことにもなり得る。つまり太陽電池アレイでの放電を回避することが宇宙機の長寿命化に直結するのである。
【0003】
図25は、宇宙機(衛星)を概念的に示す図と、その太陽電池アレイの一部を断面で示す詳細図である。太陽電池を取り付けるパネルは、表側のほぼ全面が絶縁体テープで覆われている。裏面には絶縁体テープは貼付・融着されていない。太陽電池アレイは、両側に電極を取り付けた太陽電池セルを基本単位として、多数の太陽電池セルをインタコネクタにより直並列に組み合わせて構成される。カバーガラス(絶縁体)で表面を覆った太陽電池セルは、宇宙機構体上に絶縁体テープを介して取り付けられている。静止軌道環境にある宇宙機は、太陽活動から発生する突発的なサブストーム(磁気圏嵐)に遭遇することがあり、これが、宇宙機の不具合の主な原因となる。高エネルギーの電子がふりそそぎ、宇宙機の電位は数kV以上の負電位に上昇する。宇宙機表面の絶縁体は宇宙機と異なる電位をもつことになる。宇宙機表面の真空、絶縁体、導体(=宇宙機と同電位)の接する箇所(トリプルジャンクション)に電界が集中し、放電が起こる。特に、太陽電池アレイには構造上トリプルジャンクションが多く存在しており、放電が回路の短絡を招き、電力供給を停止する事態になりうる。
【0004】
非特許文献1は、絶縁体と導体の接する三重接合点を空間に露出することで、電子を放出させる技術を開示する。しかし、具体的手段を開示していない。
【0005】
非特許文献2は、衛星帯電を回避するために、帯電センサーにより帯電状態を検知すると同時に高密度プラズマを噴出することで、衛星電位を上昇させると共に、衛星各部の電位差をなくす技術を開示する。しかし、センサー・プラズマ噴出器を搭載するなど、基本的に能動制御であり、センサー、電源、ガス等を搭載しなければならない。
【0006】
また、特許文献1は、衛星と電気的に接続した光電陰極及びこれを励起する光源を備えて、衛星の電位を制御する技術を開示するが、上記非特許文献2と同様な問題点を有している。

【非特許文献1】“Introducing The Passive Anode Surface Emission Cathode”, D. Cooke et al., AIAA 2002-4049
【非特許文献2】“High Voltage Frame and Differential Charging Observed on a Geosynchronous Spacecraft”, B.K. Dichter et al, 6th Spacecraft Charging Technology Conference, 1998
【特許文献1】特開平7-52900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、係る問題点を解決するために、宇宙機がサブストーム(磁気圏嵐)に遭遇して、高エネルギーの電子がふりそそいでも、宇宙機に流入する負電荷に相当する量の電子を宇宙機から外部空間に対して放出することで、より簡便に低コストで帯電防止を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の放電対策装置は、高エネルギーの電子がふりそそぐ環境にある導電構体及びその面上に取り付けられた電子素子が、流入する負電荷により電位が負方向に上昇して放電するのを防止する。導電構体面に貼った絶縁体テープをくりぬいて、露出した導電構体面に導電性接着剤を塗布し、さらに、該導電性接着剤の上に絶縁体フィルム或いは導電繊維強化プラスチックフィルムを貼ると共に、該導電性接着剤の一部を外部に露出させて構成する。高エネルギー電子に遭遇した際に絶縁体フィルム或いは導電繊維強化プラスチックフィルムが帯電して、導電性接着剤に高電界が印加して、電界電子放出により電子を導電性接着剤から放出することにより導電構体の負方向の電位上昇を防止する。
【0009】
また、本発明の放電対策装置は、導電構体面に貼った絶縁体テープの表面に固定して該導電構体と電気的に接続した導体板を導電性接着剤で覆い、さらに、該導電性接着剤の上に絶縁体フィルム或いは導電繊維強化プラスチックフィルムを貼ると共に、該導電性接着剤の一部を外部に露出させて構成する。
【0010】
絶縁体テープ及び絶縁体フィルムは、いずれもポリイミド系高分子材料からなり、かつ、導電性接着剤は炭素系接着剤である。外部に露出させる導電性接着剤の一部は、絶縁体フィルム或いは導電繊維強化プラスチックフィルムの周囲に位置する導電性接着剤の角部、該絶縁体フィルムに穴をあけて挿入し導電性接着剤に接着した導体棒、或いは該絶縁体フィルムに空けた穴のいずれか、若しくはそれらの組み合わせである。
【0011】
さらに、本発明の放電対策装置は、導電構体面に貼った絶縁体テープをくりぬいて、露出した導電構体面に導電性接着剤を塗布し、この導電性接着剤を介して導電構体と電気的に接続される導電板を、絶縁体テープの表面に固定する。導電板の上面は、一部を外部に露出させた状態で、絶縁体フィルム或いは導電繊維強化プラスチックフィルムを貼る。高エネルギー電子に遭遇した際に絶縁体フィルム或いは導電繊維強化プラスチックフィルムが帯電して、導電板に高電界が印加して、電界電子放出により電子を導電板から放出することにより導電構体の負方向の電位上昇を防止する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電子を放出させるための電源もガスも必要とすることなく、より簡便に低コストで帯電防止を図ることができる。また、宇宙機外側の絶縁体が帯電すると同時に電子放出を始めるので、その絶縁体自身が帯電センサーの役目を果たしており、電子回路を組んだセンサーを必要としない。
【0013】
現在の衛星の軌道上不具合による保険金請求の半分以上を太陽電池アレイやバッテリーなどの電源系機器が占めており、それらのかなりの部分が衛星の帯電に起因するものである。簡便な手法で帯電を防止することにより、衛星の信頼性向上に大きく役立たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】放電メカニズムを説明する図である。
【図2】宇宙機の外部導体面に備えた第1の例の放電対策装置を例示する図である。
【図3】第1の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)及びその断面図(B)である。
【図4】放電防止メカニズムを説明する図である。
【図5】第2の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)及びその断面図(B)である。
【図6】第3の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)及びその断面図(B)である。
【図7】第4の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)及びその断面図(B)である。
【図8】第5の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)及びその断面図(B)である。
【図9】第6の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)及びその断面図(B)である。
【図10】第7の例の放電対策装置の詳細を示す断面図(A)及びその試験用装置を示す断面図(B)である。
【図11】図10に示した導電板とその上の絶縁体フィルムの配置を示す斜視図(A),導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。
【図12】第8の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。
【図13】第9の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。
【図14】第10の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。
【図15】第11の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板中央部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。
【図16】第12の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。
【図17】第13の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。
【図18】第14の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。
【図19】第15の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。
【図20】第16の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。
【図21】第17の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。
【図22】第18の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。
【図23】第19の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。
【図24】実験システムを説明する図である。
【図25】宇宙機(衛星)を概念的に示す図と、その太陽電池アレイの一部を断面で示す詳細図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
宇宙機(人工衛星)が軌道上で高エネルギー電子に遭遇すると、宇宙機電位が大きく負電位をもち、宇宙機表面の絶縁体との間で大きな電位差が発生する。電位差があるしきい値を超えると放電が発生し、表面劣化、電磁ノイズ、部品破壊、果ては宇宙機機能の全損に至る可能性がある。宇宙機電位よりも絶縁体表面電位が正の時が、放電発生のしきい値が数100Vと低いために対処が必要である。
【0016】
図1は、放電メカニズムを説明する図である。図1(A)は、宇宙機が高エネルギー電子に遭遇して、大きく負電位に帯電した状態を示している。宇宙機全体の電位が負になると、材料の違いから帯電に差が出て、絶縁体(カバーガラス)と導体部分(太陽電池電極やインタコネクタ、宇宙機構体)で帯電差が生じる。
【0017】
図1(B)は、帯電の差から電界(ΔV)が発生することを示している。これによって、図1(C)に示すように、電界の急激な加速が起こり放電が発生する。そして、図1(D)に示すように、放電により材質が劣化、炭化し発電不能に陥る。
【0018】
放電発生を未然に防ぐためには、宇宙機の電位が高エネルギー電子によって負電位に帯電することを防止すればよい。宇宙機に流入する負電荷に相当する量の電子を宇宙機から外部空間に対して放出することで、帯電防止が可能になる。
【0019】
図2は、宇宙機の外部導体面に備えた放電対策装置の第1の例を示す図である。図3は、第1の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)及びその断面図(B)である。図示したように、宇宙機構体(導電体)に、数cm角程度のポリイミド系高分子テープ(絶縁体フィルム)を熱融着(或いは接着)している。宇宙機構体は、例えば図2に示すように、アルミハニカムパネルとその上のCFRP(炭素繊維強化プラスチック:導電体)によって構成される。通常、太陽電池パネル(太陽電池を取り付ける宇宙機構体)には宇宙機構体と太陽電池の絶縁をとる目的で、取付位置全面が絶縁体フィルムで覆われる。
【0020】
この絶縁体フィルムの中心をくりぬき、露出した導体面に導電体として導電性(炭素系)接着剤を塗布する。炭素系接着剤の上に更に絶縁体(例えば、ポリイミド系高分子)フィルムを貼るが、接着剤の縁、即ち、ポリイミド系高分子フィルムの周囲に位置する炭素系接着剤の上面角部が外部に対して露出するようにする。この上面角部は、図3(B)に示すように、導電性接着剤がはりだして下の絶縁体テープの上に形成されているが、絶縁体テープの上に形成する必要は必ずしも無く、導電性接着剤が導電体(宇宙機構体)に接続されていれば十分である。但し、テープをくりぬいた部分の一部が露出していると放電が発生し易いので完全に導電性接着剤で覆う。このように、導電性接着剤が絶縁体フィルム(テープ)で上下共に挟まれて、上面角部を外部に対して露出することで、軌道上で高エネルギー電子に遭遇した際に高分子フィルムが帯電し、炭素系接着剤表面に高電界が印加される。電界電子放出により電子が接着剤から放出され、宇宙機のその他の部分に流入する高エネルギー電子とバランスした電流を放出させて、宇宙機電位を正方向に上昇させる。但し、絶縁体フイルムと接着剤端までの間の距離(露出距離)をあまりに大きくすると電子放出は起こらない(試作試験において、1.58mm以上の場合に、電子放出が起こらなかった)。
【0021】
図4は、放電防止メカニズムを説明する図である。図4(A)は、帯電、電界発生を示す図である。図1を参照して、前述したように、宇宙機全体の電位が負になると、材料の違いから帯電に差が出て、絶縁体(カバーガラス)と導体部分(太陽電池電極やコネクタ、宇宙機構体)で帯電差が生じる。
【0022】
図4(B)は、電界緩和を示す図である。帯電による電界をきっかけに、電子を放出することで導体部分の電位を正方向へ導き、電位差が小さくなる。本手法は、電子を放出させるための電源もガスも必要としない。また、放電対策装置外側の絶縁体が帯電すると同時に電子放出を始めるので、その絶縁体自身が帯電センサーの役目を果たしており、電子回路を組んだセンサーを必要としない。試算によれば数cm角の放出部を100個程度衛星各部に貼り付けるだけで、通常の静止軌道商用衛星の帯電を防止できる。
【0023】
図5は、第2の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)及びその断面図(B)である。図示したように、絶縁体フィルムに縦横に等間隔に複数の穴をあけ、この穴の中に導体棒(試作試験では、直径0.5mm,長さ5mm程度のシャープペンシル芯を使用)を挿入して導電性接着剤に接着した部分以外は、第1の例と同じである。図中に導体棒(3×3)とあるのは、9本立てて試作したものであり、図は煩雑を防ぐため4本を省略している。試作試験では、導体棒からも、電子放出が起こった。
【0024】
図6は、第3の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)及びその断面図(B)である。第1の例(図3)として前述した絶縁体フィルムに、縦横に等間隔に複数の貫通穴(例えば、直径0.5mm)を追加した構成で試作したものである。図中に穴(3×3)とあるのは、9個穴を開けて試作したものであり、図は煩雑を防ぐため4個を省略している。この穴からも、電子放出が起こった。
【0025】
図7は、第4の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)及びその断面図(B)である。宇宙機構体の表面に、絶縁体テープをくりぬくこと無く実装する場合の例を示す。絶縁体テープの表面に導体板を接着などにより固定し、この導体板をケーブル等により宇宙機(導電体)と電気的に接続する。この導体板の表面に、銅より低い導電率( 1/108~109程度)の導電性接着剤で覆うことで太陽電池などの他の導体との電気的な短絡を防ぐことができる。導体板の端が露出していると放電が発生し易いので導体板を完全に導電性接着剤で覆う。
【0026】
図8は、第5の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)及びその断面図(B)である。この例は、第1の例(図3)の絶縁体フィルムに代えて、導電繊維強化プラスチックフィルムを用いたものである。導電繊維強化プラスチックとして、CFRP(エポキシ系の樹脂を使用したカーボン繊維強化プラスチック、厚さ0.1~0.2mm)を用い、絶縁体テープ(カプトン=ポリイミド系、厚さ0.063mm)と、導電性接着剤(s692を厚さ0.1mm程度接着)により試作した。導電性接着剤(s692)の導電率は100~1000 [Ohm*cm]程度であり、銅の1/108~109程度の導電率である。CFRPは銅の10~100倍程度の抵抗率を持つ導体の炭素繊維を、銅の1020倍程度の抵抗率の樹脂で固めており,この樹脂の部分が、図3の絶縁体フィルムと同様に帯電に寄与する。
【0027】
機能としては上述した第1の例と同等であるが、 絶縁体フィルムは寸法管理がやり難いのに対して、CFRPは寸法精度を出しやすいメリットがある。特に小型の短冊状に加工した場合,電界放出が起こる面積が増えるメリットがある。第1の例と同様に、導電性接着剤は多少はみ出しても電子放出に影響はないが、導電繊維強化プラスチックフィルムと導電性接着剤端間の距離が1.58mm以上になると電子放出が起こらないので、0.1~1程度で管理することが望ましい。試作試験では導電繊維強化プラスチックフィルム大小2種類の寸法(98mmx40mmおよび40mmx5mm)のサンプルの両方で電界放出を確認した。
【0028】
図9は、第6の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)及びその断面図(B)である。第5の例(図8)の別案であり,宇宙機構体の表面に、絶縁体テープをくりぬくこと無く実装する場合の例を示す。図7と同様に、絶縁体テープの表面に導体板を接着などにより固定し、この導体板をケーブル等により宇宙機構体と電気的に接続する。導体板を銅より低い導電率( 1/108~109程度)の導電性接着剤で覆うことで太陽電池などの他の導体との放電を防ぐことができる。
【0029】
図10は、第7の例の放電対策装置の詳細を示す断面図(A)及びその試験用装置を示す断面図(B)である。図11は、図10に示した導電板とその上の絶縁体フィルムの配置を示す斜視図(A),導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。この第7の例は、アルミハニカムパネルとCFRPからなる導電構体の表面に熱融着(或いは接着)した絶縁体テープ(ポリイミド系高分子テープ)をくりぬいて実装する場合の例を示す。
【0030】
導電構体面に貼った絶縁体テープをくりぬいて、露出した導電構体面に導電性接着剤を塗布して、絶縁体テープの表面に導電板を固定する。これによって、導電板は、導電性接着剤を介して導電構体と電気的に接続される。導電板は、平板状の導電板基部と、該基部中央から垂直方向に立ち上がる導電板柱状部とから構成される。導電板材質としては、金属或いは導電性の合成樹脂を用いることができる。導電板は、小さい(特に厚さ)ので制作がし易いことが望まれるが、例示の導電板は、構成が簡単なために寸法精度が出し易く、歩留まりがよくなる。従って製造コストが下げられる等々のメリットが生まれる。また、表面の安定性がよく、変質、劣化の点で有利である。
【0031】
図示したように、最下層の導電板基部から柱状部が絶縁体フィルムを突き抜けてその先端が露出している。また、絶縁体フィルムに代えて、導電繊維強化プラスチックフィルムを用いることができる。導電板基部は、接着剤により導電構体に固定される部分であり、導電板柱状部は、電子放出に寄与する部分である。導電板基部及び柱状部の上面には、絶縁体フィルム(ポリイミド系高分子フィルム)が熱融着(或いは接着)される。例示の導電板柱状部の上面から見た形状は、図11(B)に示すように、正方形(或いは矩形)である。また、導電板基部の側面は、基部上面の絶縁体フィルム側面も含めて絶縁性接着剤により、導電構体上面の絶縁体テープに対して接着される。これによって、導電構体上面の絶縁体テープ上面と、導電板基部側面と、その上の絶縁体フィルム側面が一体に接着されると共に、導電板基部側面の露出が防止される。外部空間に露出しているのは、導電板柱状部側面のみである。
【0032】
第7の例の放電対策装置の性能は、図10(B)に示すような試験装置により確認した。試験装置において、導電板は、導電構体ではなくプラスチック製固定台の上に載置して、ケーブルを用いて衛星電位を印加した。また、導電板基部の側面は、導電性接着剤に代えてポリイミド系高分子テープで覆った。このような試験装置により試験した結果、実際に電子放出を確認することが出来た。
【0033】
図12は、第8の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。図11に示した第7の例とは、導電板柱状部近辺の絶縁体フィルムがくりぬかれている点でのみ相違しており、その他の構成は、第7の例と同一に構成することができる。これによって、柱状部の全ての側面だけでなく、それに続く導電板基部の上面の一部が、絶縁体フィルムによって覆われること無く、外部空間に露出している。この第8の例についても、試験装置により、実際に電子放出を確認することが出来た。
【0034】
図13は、第9の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。図11に示した第7の例とは、導電板柱状部を、ライン状に構成して、その側面を外部空間に露出している点でのみ相違しており、その他の構成は、第7の例と同一に構成することができる。
【0035】
図14は、第10の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。図13に示した第9の例とは、ライン状に構成した導電板柱状部側面を、上から見た図14(B)に示されるように、ギザギザ形状にした点でのみ相違しており、その他の構成は、第9の例と同一に構成することができる。この第10の例についても、実際に電子放出を確認することが出来た。
【0036】
図15は、第11の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板中央部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。図11に示した第7の例とは、導電板柱状部が存在せず、代わりに、絶縁体フィルムをくりぬいて、導電板表面を露出している点で、相違している。露出形状は、正方形として例示したが、他の形状にすることもできる。このくりぬいた導電板表面が、外部空間に露出して、ここから電子放出をすることになる。
【0037】
図16は、第12の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。図11に示した第7の例とは、導電板柱状部の上面が、絶縁体フィルムによって覆われること無く、導電板柱状部の上面及び側面が外部空間に露出している点でのみ相違しており、その他の構成は、第7の例と同一に構成することができる。
【0038】
図17は、第13の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。図12に示した第8の例とは、導電板柱状部の上面が、絶縁体フィルムによって覆われること無く、外部空間に露出している点でのみ相違しており、その他の構成は、第8の例と同一に構成することができる。
【0039】
図18は、第14の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。最下層の導電板基部からライン形状の柱状部が絶縁体フィルムを突き抜けてその先端が露出している。図13に示した第9の例とは、ライン状に構成した導電板柱状部の上面が、絶縁体フィルムによって覆われること無く、外部空間に露出している点でのみ相違しており、その他の構成は、第9の例と同一に構成することができる。
【0040】
図19は、第15の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。図18に示した第14の例とは、ライン形状の導電板柱状部の側面の全面だけでなく、それに続く導電板基部上面の一部が絶縁体フィルムによって覆われることなく、露出している点でのみ相違しており、その他の構成は、第14の例と同一に構成することができる。
【0041】
図20は、第16の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。図19に示した第15の例とは、ライン形状の導電板の上面を、絶縁体フィルムによって覆い、導電板柱状部側面及び柱状部両側に所定幅で導電板基部上面が露出している点でのみ相違しており、その他の構成は、第15の例と同一に構成することができる。
【0042】
図21は、第17の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。図18に示した第14の例とは、ライン状に構成した導電板柱状部の側面が、上から見た図21(B)に示されるように、ギザギザ形状になって、外部空間に露出している点で相違しており、その他の構成は、第14の例と同一に構成することができる。
【0043】
図22は、第18の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。図21に示した第17の例とは、絶縁体フィルムをくりぬいて、導電板柱状部側面及び柱状部両側に所定幅で導電板基部上面が露出している点でのみ相違しており、その他の構成は、第17の例と同一に構成することができる。
【0044】
図23は、第19の例の放電対策装置の詳細を示す斜視図(A)、導電板柱状部近辺の上面図(B),及び寸法の一例を示す断面図(C)である。図22に示した第18の例とは、導電板柱状部上面に絶縁体フィルムを付着させた点でのみ相違しており、その他の構成は、第18の例と同一に構成することができる。
【実施例1】
【0045】
図3に例示の第1の例の放電対策装置において、絶縁体フイルム及び絶縁体テープはカプトン(ポリイミド系、厚さ0.063mm)で、導電性接着剤は、s692(接着性があるシリコン樹脂に炭素を含ませたものである。)を厚さ1mm程度接着して試作した。s692は、導電性があるとはいえ銅の1/108~1/109程度の導電率である。絶縁体フイルムの試作寸法は30mm× 30mmの正方形とした。
【0046】
導電性接着剤は多少はみ出しても電子放出に影響はないが、絶縁体フイルムと接着剤端までの距離が1.58mm以上になると電子放出が起こらないので、0.1~1.58mm程度、望ましくは0.1~1mm程度で管理することが望ましい。絶縁体テープは、接着・融着する前か後にくりぬく必要がある。テープをくりぬいた部分の一部が露出していると放電が発生し易いので完全に導電性接着剤で覆う。
【実施例2】
【0047】
アルミプレート中央に太陽電池セルを配置し、その周囲に、以下に示すような種々の放電回避装置を設置した試験サンプルを作成した。即ち、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)を導電性接着剤RTV-s692(ワッカー社)で固定したCFRP短冊、導電性接着剤RTV-s692を短冊状に設置したS692短冊、CFRPを接着剤s692で固定し表面をサンディングしたCFRP短冊(粗)、導電性接着剤RTV-s692を王冠状に設置したS692王冠、炭素棒を接着剤s692で固定しポリイミド系高分子フィルム(Permacel社製カプトン)で覆った剣山、剣山から炭素棒を抜きとったもので接着剤s692上に穴あきカプトンで覆った剣山(剣なし)を、放電回避装置として用いた。アルミプレート(クーポンフレーム)の露出部はカプトンで覆った。以後この試験サンプルをクーポン(Coupon)と言う。
【0048】
図24は、実験システムを説明する図である。図示したように、サブストーム発生時の静止軌道環境を模擬するために真空チャンバー内のX-Yステージ上にクーポンを配置し、高電圧電源Vbiasで10MΩの抵抗を介してクーポンフレームをバイアスし、高エネルギー電子を電子銃より照射して、サブストーム遭遇時の環境に置いた。図中のX-Yステージ及びトレックプローブは、表面電位を計測するためのものである。太陽電池セルに逆電位勾配(カバーガラス電位>セルの金属部の電位)を形成させるため、カバーガラスの二次電子係数(反射電子/入射電子)が1以上となる条件として、バイアス電圧-5kVに対して電子ビーム電圧5.2-5.0keVと選定した。
【0049】
この実験は、電界放出を電子ビームによる帯電をきっかけに発生させることを目的としている。導電性接着剤s692から微小突起などの形状と周囲の絶縁物の帯電による電界により電界電子放出が発生することを見込んでいる。この現象の発生時には空間(接地したチャンバー壁)への電子の放出が、グランドを介した電流ループを形成し、クーポンのバイアス電圧を小さくすることが考えられるため、随時クーポンの電位をモニターし、PCに保存した。
【0050】
以上の実験システムにより、電子放出の発生を確認することに成功した。クーポン負バイアス電位の上昇、IRカメラの発光映像により電子放出が発生したことを確認した。また、電子放出が起きている状態では太陽電池セルでは放電が発生しないことを確認した。
【0051】
ここで電界放出が発生した箇所に注目すると、炭素棒剣山、剣山(剣なし)、CFRP短冊である。これらの共通する特徴は導電性接着剤s692を使用していることである。そして導電性接着剤s692の短冊や王冠からは何も発生しなかったことから、シート状の絶縁物を導電性接着剤s692でクーポンに接着することで電界放出が発生すると言える。
【0052】
絶縁シート下に導電性接着剤s692を置き、電子ビームを照射することで主に側面から電界放出が発生する。つまり、静止軌道宇宙機に取り付けることで、サブストームに遭遇し、宇宙機の電位が負に陥っても自動的に電子を放出し、宇宙機の電位を正に導き逆電位勾配を予防する、といった放電回避システムを構築することが可能になる。今回のサンプルで0.15mAの電流を放出したが、静止軌道では10mA程度の電流を放出できればサブストーム遭遇時でも宇宙機の電位が負に陥ることを防止できる。よって数cm角のもの100個を太陽電池パネルの各部、例えば約100回路からなる太陽電池回路の終端毎に宇宙機各部に取り付ければよいと見積もることができる。宇宙機構体と太陽電池を取り付けるパネルとは構造としてつながっていて、宇宙機構体もパネルも導体であることから宇宙機構体とパネルとの電位差は小さい。したがって太陽電池が放電によって破壊されないためには、太陽電池が無い宇宙機構体の電位も下がらないようにしなければならない。その意味で宇宙機構体にも放電対策装置を設置する意味がある。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22
【図24】
23
【図25】
24