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明細書 :環状二本鎖DNAおよびそれを用いたDNAの増幅方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5652842号 (P5652842)
公開番号 特開2010-051182 (P2010-051182A)
登録日 平成26年11月28日(2014.11.28)
発行日 平成27年1月14日(2015.1.14)
公開日 平成22年3月11日(2010.3.11)
発明の名称または考案の名称 環状二本鎖DNAおよびそれを用いたDNAの増幅方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
C12Q 1/68 A
請求項の数または発明の数 12
全頁数 12
出願番号 特願2008-216601 (P2008-216601)
出願日 平成20年8月26日(2008.8.26)
審査請求日 平成23年6月29日(2011.6.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】高橋 宏和
【氏名】杉山 滋
個別代理人の代理人 【識別番号】100102842、【弁理士】、【氏名又は名称】葛和 清司
審査官 【審査官】小暮 道明
参考文献・文献 特表2002-525049(JP,A)
特表2004-526432(JP,A)
国際公開第2006/080136(WO,A1)
調査した分野 C12N15/
C12Q1/
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
鎖置換型DNA合成によるDNA増幅方法に用いられる鋳型としての環状二本鎖DNAを製造する方法であって、
直鎖状二本鎖DNA断片の両末端を脱リン酸化し、制限酵素でこれを切断することによって、一方の末端が脱リン酸化され、他方の末端が脱リン酸化されていない直鎖状二本鎖DNA断片を得ること、および、
得られた直鎖状二本鎖DNA断片を少なくとも1つ含む、1または2以上の直鎖状二本鎖DNA断片をライゲーションすること
を含む、前記方法。
【請求項2】
2以上の直鎖状二本鎖DNA断片のいずれをも、一方の末端が脱リン酸化されており、他方の末端が脱リン酸化されていない直鎖状二本鎖DNA断片とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、ライゲーションの後に反応液中の直鎖状DNAを分解処理する工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
2つの直鎖状二本鎖DNA断片を用いて鎖置換型DNA合成によるDNA増幅方法に用いられる鋳型としての環状二本鎖DNAを製造する方法であって、
(1)一方の直鎖状二本鎖DNA断片を制限酵素(X)で切断した後、両末端を脱リン酸化し、さらに前記制限酵素(X)と異なる制限酵素(Y)で切断する工程、
(2)他方の直鎖状二本鎖DNA断片を前記制限酵素(Y)で切断した後、両末端を脱リン酸化し、さらに前記制限酵素(X)で切断する工程、
(3)工程(1)および(2)で得られた2つの直鎖状二本鎖DNA断片をライゲーションする工程、および
(4)反応液中の直鎖状DNAを分解処理する工程、
を含む、前記方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の方法により製造された環状二本鎖DNAからなる、鎖置換型DNA合成によるDNA増幅反応用の鋳型DNA溶液。
【請求項6】
請求項3または4に記載の方法により製造された環状二本鎖DNAからなる、鎖置換型DNA合成によるDNA増幅反応用の鋳型DNA溶液を製造するためのキットであって、
少なくとも、生理緩衝液、ATP、RecBCDヌクレアーゼおよびエキソヌクレアーゼIを含む、前記キット。
【請求項7】
請求項5に記載の鋳型DNA溶液に含まれる環状二本鎖DNAを鋳型とし、DNAプライマー、RNAプライマーまたはRNA/DNAキメラプライマーとして用いてなる、鎖置換型DNA合成によりDNAを増幅する方法。
【請求項8】
プライマーの5’末端から少なくとも1塩基がRNAである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
プライマーが、鋳型DNA特異的プライマーである、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
プライマーが、ランダムプライマーである、請求項7または8に記載の方法。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか一項に記載の鎖置換型DNA合成によるDNA増幅方法のためのキットであって、少なくとも、RNAプライマー、鎖置換型DNA合成酵素および鎖置換型DNA合成反応用緩衝液を含む、前記キット。
【請求項12】
請求項8~10のいずれか一項に記載の鎖置換型DNA合成によるDNA増幅方法によって増幅されたDNA増幅産物であって、
鋳型の環状二本鎖DNAの配列が、樹状構造状に10~1013回繰り返した配列を有する、前記DNA増幅産物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅の対象となる鋳型DNA、該鋳型DNAの製造方法、および該鋳型DNAを用いたDNAの増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAの増幅は、一般的には、増幅の対象となるDNA(以下、目的DNAともいう)の断片を含むプラスミド等のベクターを用い、該ベクターを大腸菌内に導入し、大腸菌の増殖させることによって行われる。また、比較的短いDNAを増幅するにあたり最も汎用されている方法は、PCR(polymerase chain reaction)法であり、この方法は特定領域を増幅するのには非常に適している。
【0003】
PCR産物は、PCR法に用いる酵素の特性上、DNA断片に変異が入りやすく、また増幅の対象となるDNAの配列にも影響を受けやすいため、増幅がほとんど起きない場合がある。さらに、PCR産物のままでは使用方法が限定されるため、大腸菌内で目的DNA断片を含むプラスミド等のベクターを用いて増幅することが頻繁に行われている。しかし、例えば、レトロウイルス様配列は、配列内に反復配列が有る為に相同組み換えが起きやすく、大腸菌内では非常に不安定であり頻繁に欠失が起きてしまう。さらに、大腸菌に対し致死性の配列を有するDNA断片を増幅することは不可能である。また、一般的には大腸菌に形質転換できるDNAの大きさは、おおよそ20kbp程度が限界点になるため、それ以上の大きさのDNA断片を持つプラスミドを大腸菌に形質転換する事は非常に困難であるという問題があった。
【0004】
最近では、鎖置換型DNA合成酵素とランダムプライマーとを用いた増幅方法(MPRCA(Multiply-primed rolling circle amplification)法)を応用した、in vitro DNAクローニング法が普及しつつある。MPRCA法を利用した場合、上記で示した様な大腸菌では増幅が困難なDNA断片も増幅が可能になり、増幅産物はプラスミドと同じ使用目的に用いることができる。
【0005】
一方でMPRCA法を用いたin vitro DNAクローニング法は、DNA結合反応時に、目的のDNA結合産物以外に、目的外のDNA結合産物が多量に生成される。したがって、増幅反応の後、多くの目的外のDNA増幅産物が混入していることになる。この目的外のDNA結合産物または増幅産物は、大腸菌に遺伝子導入する場合には、産物内のベクターが有する複製開始点の有無による選択が起きることから、大きな問題とはならなかった。しかしながら、in vitroクローニングの場合には、大腸菌による選択が無いため、目的とするDNA由来の増幅産物が最終産物に含まれる割合が非常に少ない等の問題があった。
【0006】
さらにMPRCA法は、鋳型DNA分子が少なくなればなるほど、非特異なDNA増幅が目的DNAの増幅より大きくなるため、環状DNAの検出時には、SN比の低下を引き起こし、また環状DNA増幅時には目的DNAの回収ができなくなる。最近、これらの問題を克服する手法として、反応容量を極微量で行うことにより微量の環状DNAの増幅、検出する方法も報告されているが(非特許文献1および2)、反応手順が煩雑で実際の現場における使用には向いていなかった。

【非特許文献1】Hutchison, CA., Smith, HO., Pfannkoch, C. & Venter, JC. Cell-free cloning using phi29 DNA polymerase. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102, 17332-6 (2005).
【非特許文献2】Marcy, Y., Ishoey, T., Lasken, R.S., Stockwell, T.B., Walenz, B.P., Halpern, A.L., Beeson, K.Y., Goldberg, S.M. & Quake, S.R. Nanoliter reactors improve multiple displacement amplification of genomes from single cells. PLoS Genet., 3, 1702-8 (2007).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明は、上記問題点に鑑み、DNAを簡易な手順で特異的に増幅する方法、とくに目的となるDNAが極微量であっても特異的に増幅することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、極微量のDNAであっても特異的に増幅できる方法を確立する上で、目的外のDNA結合産物などに起因する非特異的なDNA増幅産物が認められたことから、この非特異的なDNA増幅を完全に排除するため、鋭意研究を進めたところ、一方の鎖がニックを有しない完全な閉環状であり、他方の鎖が少なくとも1つのニックを有する環状二本鎖DNAを鋳型として用いることにより、鋳型が極微量であっても増幅効率が高く、また目的以外のDNA増幅を伴わないことができることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、DNA増幅方法に用いられる鋳型としての環状二本鎖DNAであって、一方のDNA鎖がニックを有しない完全な閉環状であり、他方のDNA鎖が少なくとも1つのニックを有する、前記環状二本鎖DNAに関する。
さらに本発明は、他方のDNA鎖が2以上のニックを有する、前記の環状二本鎖DNAに関する。
【0010】
また本発明は、鎖置換型DNA合成によるDNA増幅方法に用いられる鋳型としての環状二本鎖DNAを製造する方法であって、
一方の末端が脱リン酸化され、他方の末端が脱リン酸化されていない直鎖状二本鎖DNA断片を少なくとも1つ含む、1または2以上の直鎖状二本鎖DNA断片をライゲーションすることを含む、前記方法に関する。
さらに本発明は、直鎖状二本鎖DNA断片の両末端を脱リン酸化し、制限酵素でこれを切断することによって、一方の末端が脱リン酸化され、他方の末端が脱リン酸化されていない直鎖状二本鎖DNA断片とすることを含む、前記の方法に関する。
また本発明は、2以上の直鎖状二本鎖DNA断片のいずれをも、一方の末端が脱リン酸化されており、他方の末端が脱リン酸化されていない直鎖状二本鎖DNA断片とする、前記の方法に関する。
さらに本発明は、さらに、ライゲーションの後に反応液中の直鎖状DNAを分解処理する工程を含む、前記の方法に関する。
【0011】
また本発明は、2つの直鎖状二本鎖DNA断片を用いて鎖置換型DNA合成によるDNA増幅方法に用いられる鋳型としての環状二本鎖DNAを製造する方法であって、
(1)一方の直鎖状二本鎖DNA断片を制限酵素(X)で切断した後、両末端を脱リン酸化し、さらに前記制限酵素(X)と異なる制限酵素(Y)で切断する工程、
(2)他方の直鎖状二本鎖DNA断片を前記制限酵素(Y)で切断した後、両末端を脱リン酸化し、さらに前記制限酵素(X)で切断する工程、
(3)工程(1)および(2)で得られた2つの直鎖状二本鎖DNA断片をライゲーションする工程、および
(4)反応液中の直鎖状DNAを分解処理する工程、
を含む、前記方法に関する。
さらに本発明は、前記の環状二本鎖DNA、または、前記の方法により製造された環状二本鎖DNAを製造するためのキットであって、
少なくとも、生理緩衝液、ATP、RecBCDヌクレアーゼおよびエキソヌクレアーゼIを含む、前記キットに関する。
【0012】
また本発明は、前記の環状二本鎖DNA、または、前記の方法により製造された環状二本鎖DNAを鋳型とし、DNAプライマー、RNAプライマーまたはRNA/DNAキメラプライマーとして用いてなる、鎖置換型DNA合成によりDNAを増幅する方法に関する。
さらに本発明は、プライマーの5’末端から少なくとも1塩基がRNAである、前記の方法に関する。
また本発明は、プライマーが、鋳型DNA特異的プライマーである、前記の方法に関する。
さらに本発明は、プライマーが、ランダムプライマーである、前記の方法に関する。
【0013】
また本発明は、前記の鎖置換型DNA合成によるDNA増幅方法のためのキットであって、少なくとも、RNAプライマー、鎖置換型DNA合成酵素および鎖置換型DNA合成反応用緩衝液を含む、前記キットに関する。
さらに本発明は、前記の鎖置換型DNA合成によるDNA増幅方法によって増幅されたDNA増幅産物であって、
鋳型の環状二本鎖DNAの配列が、樹状構造状に10~1013回繰り返した配列を有する、前記DNA増幅産物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鋳型が極微量であっても増幅効率が高く、また目的以外のDNA増幅のない極めて特異性の高いDNA増幅が、簡便な手順で短期間に行うことが可能である。さらに、鋳型のサイズが限定されず、通常の大きさのもののほか、極めて大きなサイズ(例えば、20kbpを超えるもの、数10~数1000kbpのもの、さらにそれを超えるサイズのもの)を増幅可能である。さらにまた、生物細胞を経由せずに試験管内において、任意のDNA断片を増幅することができることから、従来の方法では不可能であった大腸菌等の生体内で致死的に働く遺伝子の増幅が可能となる。また、大腸菌等の生体内で頻繁に組み換えを引き起こす配列、例えばレトロウイルス様配列の増幅も可能である。さらにまた、とくに医療用として期待の高いウイルスベクターの増幅において、生物細胞内を経由していないため、エンドトキシン等の毒性物の混入を防ぐことが可能であり、この点においても本発明は極めて有効である。また、生物細胞を経由していないため、DNA組み替え生物体による環境汚染を考慮する必要がない。さらに生物細胞内でのDNA増幅時には必須であった複製起点配列(Ori)が、本方法での増幅には必須ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明にかかる環状二本鎖DNAは、一方の鎖がニックを有しない完全な閉環状であり、他方の鎖が少なくとも1つのニックを有するものであって、DNA増幅方法、とくに鎖置換型DNA合成によるDNA増幅方法の鋳型として用いることができる。
【0016】
本発明にかかる環状二本鎖DNAのニックを有する鎖は、ライゲーションにより結合する直鎖状二本鎖DNAの数などに応じて、ニックの数を調整することができ、典型的には、ニックは2以上有している。また本発明の環状二本鎖DNAを鋳型として用いた場合、ニックを有する鎖におけるニック間のDNA鎖が、DNAの増幅反応(鎖置換型DNA合成)において、初期プライマーとして働く。
【0017】
本発明にかかる環状二本鎖DNAは、例えば、一方の末端が脱リン酸化されており、他方の末端が脱リン酸化されていない少なくとも1種の直鎖状二本鎖DNA断片を含む、1種または2種以上の直鎖状二本鎖DNA断片をライゲーションすることによって製造することができる。
【0018】
ライゲーションする直鎖状二本鎖DNA断片が1種の場合、例えば、出発材料となる直鎖状二本鎖DNA断片の両末端を平滑化し、さらに脱リン酸化し、その後に、一方の末端近傍(必要に応じて、近傍でなくてもよい)を、平滑末端に消化する制限酵素で処理することによって、一方の末端が脱リン酸化されており、他方の末端が脱リン酸化されていない状態にし、これをライゲース(ligase)を用いてライゲーション(ligation)する。ライゲーション反応液には、未反応の直鎖状二本鎖DNA断片、結合反応したが直鎖状のままの直鎖状二本鎖DNA、結合反応により環状になった環状二本鎖DNAが存在する可能性があるが、適宜、直鎖状二本鎖DNAを、例えば、直鎖状DNA特異的なエクソヌクレアーゼにより分解処理することによって、環状二本鎖DNAだけを得ることもできる。このように反応液中の直鎖状DNAを分解処理することにより、目的外のDNAが増幅を実質的になくすことができ、コピー数の少ない鋳型に対しても増幅を可能にし、目的のDNAだけを効率よく増幅することができる。
【0019】
得られた環状二本鎖DNAは、1つの直鎖状二本鎖DNA断片がセルフライゲーションした場合、ニックを有する鎖に1つのニックが存在し、複数の直鎖状二本鎖DNA断片がライゲーションした場合、ニックを有する鎖にライゲーションしたDNA断片の数だけニックが存在する。そしていずれの場合も、環状二本鎖DNAにおいては、一方の鎖はニックがない状態になる。
【0020】
ライゲーションする直鎖状二本鎖DNA断片が2種以上の場合、該DNA断片の数だけ異なる制限酵素を用意することで目的の環状二本鎖DNAを製造することができる。以下、DNA断片が2種の場合について、図1を用いて説明する。
【0021】
まず、2種の出発材料となる直鎖状二本鎖DNA断片を用意し、一方の直鎖状二本鎖DNA断片(A)について、制限酵素(X)で切断した後、両末端を脱リン酸化し、さらに前記制限酵素(X)とは異なる制限酵素(Y)で切断する。他方の直鎖状二本鎖DNA断片(B)についても、前記制限酵素(Y)で切断した後、両末端を脱リン酸化し、さらに前記制限酵素(X)で切断する。そうすると、2種の直鎖状二本鎖DNA断片(A、B)は両方とも、一方の末端が脱リン酸化されており、他方の末端が脱リン酸化されていない状態になる(図1a)。なお、図1において、制限酵素(X、Y)は、5’突出末端に消化するものとして示されているが、3’突出末端に消化するものであってもよい。また、例えば、一方のみが平滑末端に消化するものであってもよく、必要に応じて適宜選択して組合わせることが可能である。
【0022】
得られた一方の末端が脱リン酸化されており、他方の末端が脱リン酸化されていない状態の2種の直鎖状二本鎖DNA断片(A、B)をライゲーションすると、図1bに示すとおり、基本的に、3種類のDNA結合産物が得られる。すなわち、DNA断片(A)同士がリン酸基を介して結合した直鎖状二本鎖DNA、DNA断片(B)同士がリン酸基を介して結合した直鎖状二本鎖DNA、および、DNA断片(A)とDNA断片(B)とがリン酸基を介して環状に結合した環状二本鎖DNAである。したがって、ライゲーション反応液を、例えば、直鎖状DNA特異的なエクソヌクレアーゼにより分解処理することによって、環状二本鎖DNAだけを得ることができる(図1c)。得られた環状二本鎖DNAは、一方の鎖にはニックがない状態、他方の鎖にはニックが2つ存在する状態になる(図1c)。
【0023】
ライゲーションする直鎖状二本鎖DNA断片が3種の場合は、DNA断片(A)、DNA断片(B)、DNA断片(C)に対し、順次、制限酵素(X、Y)、制限酵素(Y、Z)、制限酵素(Z、X)の組合せとして、2種の場合と同様の手順で製造することによって、一方の末端が脱リン酸化されており、他方の末端が脱リン酸化されていない状態にし、ライゲーションすることによって所望の環状二本鎖DNAを得ることができる。ライゲーションする直鎖状二本鎖DNA断片が4種以上の場合も同様である。なお、制限酵素処理、脱リン酸化処理などのうち、複数の直鎖状二本鎖DNA断片に共通する処理については、同じ反応溶液内で一度に処理をすることも可能であるが、各DNA断片ごとに処理・回収することが好ましい。
【0024】
さらに、例えば、上記3種の場合の例において、DNA断片(B)についてのみ、脱リン酸化処理を行わないことによって、ライゲーションした後のDNA断片(B)の両端にはニックが存在せず、ニックの数を3つから2つに減らすことが可能である。このようにライゲーションする直鎖状二本鎖DNA断片が複数の場合、環状二本鎖DNAにおけるニックを有する鎖のニックの数を適宜調整することができる。
【0025】
したがって上記のとおり、本発明にかかる環状二本鎖DNAを製造するための、一方の末端が脱リン酸化されており、他方の末端が脱リン酸化されていない直鎖状二本鎖DNA断片は、典型的には、
(1)出発材料となる直鎖状二本鎖DNA断片の両末端を脱リン酸化する工程、
(2)工程(1)の後、制限酵素によって切断する工程
を含む方法によって製造することができる。また、本発明にかかる環状二本鎖DNAを製造するための直鎖状二本鎖DNA断片は、少なくとも1種が一方の末端が脱リン酸化されており、他方の末端が脱リン酸化されていない状態であることが必要であるが、全種の直鎖状二本鎖DNA断片が前記の状態であることが好ましい。
【0026】
なお、上記のとおり、本発明にかかる環状二本鎖DNAは、一方の鎖にはニックがない状態、他方の鎖にはニックが存在する状態となるが、従来の脱リン酸化処理およびライゲーション処理では、このような特殊な状態を生じることはなかった。つまり、従来の環状二本鎖DNAは、例えば、2種の直鎖状二本鎖DNA断片をライゲーションする場合、一方のDNA断片のみの両端を脱リン酸化処理していた。このように両端を脱リン酸化したDNA断片と、両端を脱リン酸化していないDNA断片とをライゲーションする場合は、ニックが両鎖に存在することとなってしまう。
【0027】
本発明にかかる鋳型となるDNA(増幅の目的DNA)は、当該DNAを含むあらゆる試料から調製または単離したものでもよい。このようなDNAを含む試料にはとくに制限はなく、ウイルス、原核生物、真核生物の個体そのものあるいはその一部が使用できる。例えば脊椎動物(人を含む)では、糞便、尿、もしくは汗のような排泄物、血液、精液、唾液、胃液、もしくは胆汁のような体液等が挙げられる。あるいは、外科的に生体から取り出した組織、または体毛のように生体から脱落した組織であっても良い。またこれら以外にも、細菌、カビ、酵母、植物、昆虫のような生物がDNA含有試料として挙げられる。また、前記試料を更に分画してその一部を取り出したものから調製したDNA含有調製物であってもよい。
【0028】
本発明にかかる環状二本鎖DNAの製造において、用いる試薬、酵素等は、適宜、従来から知られているものを用いることができる。
本発明で用いる各種の制限酵素はとくに限定されないが、平滑末端に消化する制限酵素としては、例えば、SmaIやEcoRVなどが挙げられ、5’突出末端に消化する制限酵素としては、例えば、EcoRIやBamHIなどが挙げられ、3’突出末端に消化する制限酵素としては、例えば、PstIやKpnIなどが挙げられる。目的外結合産物の環状化を防止する点からは、複数の突出末端を用いるのが好ましく、特に平滑末端に消化する制限酵素を使用する場合、他の5’や3’突出末端に消化する制限酵素を組み合わせてが用いることが好ましい。
【0029】
脱リン酸化処理には、脱リン酸化酵素が用いられ、とくに限定されないが、例えば、アンタークティックホォスファターゼ(ニューイングランドバイオラボ社)、牛腸由来アルカリフォスファターゼ(各社)、大腸菌由来アルカリフォスファターゼ(各社)、エビ由来アルカリフォスファターゼ(各社)などを用いることができる。
【0030】
ライゲーション処理には、一般に用いられているDNAライゲース、例えば、T4 DNA ライゲース(各社)、E.Coli DNA ライゲース(各社)などを用いることができる。
直鎖状DNAの分解処理には、環状DNAは分解せずに直鎖状DNAを特異的に分解する酵素、例えば、RecBCDヌクレアーゼ(エクソヌクレアーゼV,各社)、エキソヌクレアーゼI(各社)、Lambdaエキソヌクレアーゼ(各社)などを用いることができる。とくに、直鎖状DNAの末端形状を考慮する必要性がないことから、ATPを添加した生理緩衝液(組成:33mMトリス塩酸、66mM塩化カリウム、10mM塩化マグネシウム)において、RecBCDヌクレアーゼおよびエキソヌクレアーゼIを用いるのが好ましい。
また、各処理の後のDNAの回収には、通常行われる各種のDNA精製・回収方法を用いることができる。
【0031】
本発明は一態様において、前記の各工程で用いられる試薬および/または酵素を組合わせた、前記環状二本鎖DNAまたは前記環状二本鎖DNAの製造方法により製造された環状二本鎖DNAを製造するためのキットとすることができる。好ましくは、該キットは、少なくとも、生理緩衝液、ATP、RecBCDヌクレアーゼおよびエキソヌクレアーゼIを含む。また、必要に応じて、前記キットの内容を増やすことが可能である。
【0032】
本発明にかかる環状二本鎖DNAは、増幅の目的となるものであり、鎖置換型DNA合成によるDNA増幅方法の鋳型として用いることができる。大きさは、とくに限定されないが、例えば、30bp~500kbp程度であってもよく、とくに生物細胞を経由せず試験管内で増幅できることから、数10~数1000kbpのもの、さらにそれを超えるサイズのものであってもよい。
【0033】
ここで鎖置換型DNA合成によるDNA増幅方法とは、鎖置換型DNA合成酵素を用いるDNA増幅方法をいい、本発明に使用される鎖置換型DNA合成酵素は、とくに限定されないが、例えば、Phi29 DNAポリメラーゼ、クレノーフラグメント(Klenow fragment)、Bst DNAポリメラーゼ(ニューイングランドバイオラブス社)、BcaBEST DNAポリメラーゼ(宝酒造)、Sequenase ver2.0 DNAポリメラーゼ(USB社)等が挙げられる。さらに、本発明においては、3’-5’エクソヌクレアーゼ(exonuclease)活性を有する鎖置換型DNA合成酵素が好ましく、そのような酵素としては、例えば、Phi29 DNAポリメラーゼが挙げられる。
【0034】
DNAの伸長反応において使用される鎖置換型DNA合成酵素の量(濃度)は、使用する酵素の種類によって至適化することが好ましく、例えば、Phi29 DNAポリメラーゼの場合、好ましくは終濃度約1~50ng/μl、より好ましくは終濃度約5ng/μl程度で使用する。伸張反応は、通常用いられる鎖置換型DNA合成反応用緩衝液において行うことができる。
【0035】
本発明にかかる環状二本鎖DNAは、全領域が鎖置換型DNA合成によって増幅されるが、必要に応じて、最終的な増幅の目的でない領域(目的外領域)を含んでいてもよい。このように最終的な増幅の目的でない領域を含む場合は、増幅反応後、適宜、当該目的外領域を制限酵素などにより切り出して除くことにより、目的のDNA増幅産物を得ることができる。
【0036】
本発明にかかる環状二本鎖DNAを用いたDNA増幅方法においては、ニックを有する鎖におけるニック間のDNA鎖が、鎖置換型DNA合成において、プライマーとして働くが、さらに合成を促進するために、DNAプライマー、RNAプライマー、RNA/DNAキメラプライマー、DNA/RNAキメラプライマーの各種プライマーを用いることができるが、RNAを含有するプライマーが好ましい。とくに5’末端から少なくとも1塩基がRNAであるプライマーが、プライマー同士のセルフアニールによる目的外DNAの増幅を低減させるため、陰性対照(ネガティブコントロール)の設定の簡便さなどの観点から好ましい。また、リン酸結合をチオホスフェート結合に置換したRNAプライマーもまた、長時間の反応時におけるプライマー劣化の防止などの観点から好ましく用いられる。
【0037】
また、プライマーはDNA増幅の目的・用途などから、鋳型のDNA配列の一部に特異的に結合する鋳型DNA特異的プライマーやランダムプライマーを用いることできる。とくに、プライマー由来の非特異的DNA増幅の防止およびプライマー配列の汎用性の観点から、ランダムRNAプライマーが好ましい。
プライマーの長さは、とくに限定されないが、長すぎるとプライマーの二次構造によるアニーリング効率の低下があり、短すぎるとプライマーの融解温度(Tm)の低下によるアニーリング効率の低下があるため、例えば、6~50塩基、好ましくは6~30塩基、とくに好ましくは6~7塩基の長さである。
【0038】
本発明は一態様において、前記試薬および/または酵素を組み合わせた、本発明にかかる環状二本鎖DNAを鋳型とする鎖置換型DNA合成によるDNA増幅方法のためのキットとすることができる。好ましくは、該キットは、少なくとも、RNAプライマー、鎖置換型DNA合成酵素および鎖置換型DNA合成反応用緩衝液を含む。また、必要に応じて、前記キットの内容を増やすことが可能である。
【0039】
本発明にかかる環状二本鎖DNAを鋳型として用いた鎖置換型DNA合成によるDNA増幅方法では、ニックを有する鎖におけるニック間のDNA鎖が、DNAの増幅反応(鎖置換型DNA合成)において、初期プライマーとして働く。したがって、DNAの伸張反応によってニックの位置からDNAが合成されていき(図1d)、鋳型の環状二本鎖DNAの配列が、樹状構造状に10~1013回程度繰り返した配列(図1において、断片Aを複製した領域と断片Bを複製した領域との組合せ、すなわち環状二本鎖DNAの全複製を1単位として樹状構造状に10~1013回程度繰り返した配列)を有するDNA増幅産物が産生する。さらにこのDNA増幅産物に、プライマーがアニールし、DNAの伸張反応が起こり、DNAをさらに増幅することができる。
【0040】
産生したDNA増幅産物は、適宜、所望の断片に切断することにより、種々の用途に用いることができる。また切断後ライゲーションして環状化することにより、鋳型となった環状二本鎖DNAの複製を大量に得ることも可能である。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
[実施例1] pUC19(2.7kbp)およびラムダDNAの断片(15.6kbp)の結合産物の製造およびその増幅
プラスミドDNAであるpUC19は制限酵素BamHIで、ラムダDNAは制限酵素EcoRIで切断処理をそれぞれの至適反応液中で37℃3時間行った。各制限酵素処理液を熱処理により、酵素を失活させた後、牛腸由来アルカリフォスファターゼ(タカラバイオ社)を用いて、至適反応液中において脱リン酸化反応を37℃1時間行った。
【0042】
脱リン酸化反応産物は熱処理により酵素を失活させた後、フェノール/クロロフォルム処理後、エタノール沈殿により精製後、pUC19はEcoRIでラムダDNAはBamHIを用い、それぞれ至適反応液中で、37℃2時間切断処理を行った。切断反応後、それぞれのDNA断片をアガロース電気泳動により、目的DNA断片を分離し、目的DNA断片をゲルから回収した。回収したDNA断片を濃度決定の後、それぞれ1×10コピー/マイクロリットルになるように調整し、DNA結合反応をT4 DNA ライゲース(ニューイングランドバイオラブス社)を用いて、25℃60分間行った。
【0043】
熱処理によりT4 DNA ライゲースを失活後、滅菌蒸留水で10倍に希釈し、希釈液2マイクロリットルをRecBCDヌクレアーゼ(エピセンチャー社)およびエクソヌクレアーゼI(ニューイングランドバイオラブス社)を用いて、直鎖状DNA断片の除去処理を至適反応液中で37℃4時間行った。熱処理により酵素を失活後、滅菌蒸留水で10倍に希釈し、希釈液2マイクロリットルを増幅反応の鋳型DNA溶液として、チオホスフェート結合ランダムRNAプライマー(6R5S:6merのRNAプライマーでRNA間が全て(5箇所)チオホスフェート結合であるもの)を用いたMPRCA法により増幅反応を30℃16時間行った。
【0044】
熱処理により酵素を失活させた後、増幅産物を制限酵素EcoRVで37℃1時間処理し、目的のDNA断片が増幅されているかどうかをアガロースゲル電気泳動により確認した。なお、確認のための制限酵素地図および制限酵素EcoRVで消化した場合の予想断片の大きさを図2に示す。目的のDNA断片が適切に増幅されている場合、EcoRV消化による6.7kbpの断片が現れる。増幅産物を各種の制限酵素で消化し、電気泳動により確認を行った。結果を図3に示す。
【0045】
図3に示すとおり、目的のDNAが合成されたことを示す6.7kbpのEcoRV処理断片が得られた。また各種の制限酵素処理による断片長も予想のものと一致した。さらに目的外増幅産物は見られず、良好なDNA増幅が行われたことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の環状二本鎖DNAの製造方法および製造された環状二本鎖DNAを用いたDNA増幅方法を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施態様である環状二本鎖DNAの制限酵素地図および制限酵素EcoRVで消化した場合の予想断片の大きさを示す説明図である。
【図3】本発明の一実施態様におけるチオホスフェート結合RNAプライマー(6R5S)を用いたMPRCA法によるDNA増幅を確認した電気泳動写真である。種々の制限酵素処理の後に電気泳動を行った。UD:制限酵素処理をしていない増幅産物。E:EcoRIで切断。BE:BamHIおよびEcoRIで切断。EV:EcoRVで切断。NL:ライゲーション処理を行っていないもの。NT:DNA無添加。LP:直鎖状のpUC19(100ng)。LF:ラムダDNA(15.7kbp)(100ng)。M:1kb DNAラダーマーカー。矢印は、目的のDNAから切り出される6.7kbpのEcoRV処理断片の位置を示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2