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明細書 :時刻基準点情報伝送システムおよび受信器

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4621924号 (P4621924)
登録日 平成22年11月12日(2010.11.12)
発行日 平成23年2月2日(2011.2.2)
発明の名称または考案の名称 時刻基準点情報伝送システムおよび受信器
国際特許分類 H04B   1/16        (2006.01)
G01S  11/00        (2006.01)
FI H04B 1/16 Z
G01S 11/00
請求項の数または発明の数 9
全頁数 26
出願番号 特願2007-528168 (P2007-528168)
出願日 平成18年4月19日(2006.4.19)
国際出願番号 PCT/JP2006/308212
国際公開番号 WO2006/112475
国際公開日 平成18年10月26日(2006.10.26)
優先権出願番号 2005121576
優先日 平成17年4月19日(2005.4.19)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年3月6日(2009.3.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504202472
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人情報・システム研究機構
発明者または考案者 【氏名】橋爪 宏達
【氏名】杉本 雅則
個別代理人の代理人 【識別番号】100089118、【弁理士】、【氏名又は名称】酒井 宏明
審査官 【審査官】石田 昌敏
参考文献・文献 特開2003-222675(JP,A)
特開平03-233395(JP,A)
特開平06-186328(JP,A)
特開昭60-218086(JP,A)
特開2004-191145(JP,A)
調査した分野 H04B 1/16
H04B 1/06
G01S 11/00
G01S 15/08-15/87
特許請求の範囲 【請求項1】
所定の周波数帯域で通信可能な通信路において送信器から受信器へ時刻基準点に関する情報を伝送する時刻基準点情報伝送システムであって、
前記送信器は、
前記通信路で通信可能な周波数信号を複数生成する周波数信号生成手段と、
前記周波数信号生成手段で生成した複数の前記周波数信号のうちの2つの前記周波数信号の周波数の差の絶対値の逆数以下の値を、前記受信器へ通信信号を送信する時間の長さとして設定し、設定した前記時間の長さの範囲で各々の前記周波数信号の位相が一致する時点を定め、定めた当該時点を前記時刻基準点と定義し、定義した前記時刻基準点に基づいて各々の前記周波数信号の前記位相を揃える位相調整手段と、
前記位相調整手段で前記位相を揃えた後の複数の前記周波数信号を合成し、合成した複数の前記周波数信号を前記通信信号として前記時間の長さ分前記受信器へ送信する送信手段と、
を備え、
前記受信器は、
前記送信器から送信された前記通信信号を受信する受信手段と、
前記受信手段で受信した前記通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の前記位相を抽出する位相抽出手段と、
前記位相抽出手段で抽出した複数の前記位相に基づいて各々の前記位相が一致する時点を求め、求めた当該時点を前記時刻基準点として決定する時刻基準点決定手段と、
を備えたことを特徴とする時刻基準点情報伝送システム。
【請求項2】
前記位相抽出手段は、前記受信手段で受信した前記通信信号および数式1に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の前記位相を抽出すること
【数1】
JP0004621924B2_000010t.gif
(数式1において、sinc(x)は標本化関数であり、「sinc(x)=(sinx)÷x」で定義される。ωおよびωは角周波数であり、それぞれ「ω=2πf」および「ω=2πf」で定義される。なお、fおよびfはそれぞれ、前記周波数信号生成手段で生成した前記周波数信号の周波数である。Tは前記通信信号を取り出す時間の長さである。eは自然対数における底である。jは虚数単位である。pおよびpはそれぞれ、周波数fの前記周波数信号に対応する位相および周波数fの前記周波数信号に対応する位相である。s(t)は前記通信信号の波形を表す関数であり、「s(t)=asin(ωt+p)+asin(ωt+p)」で定義される。aおよびaはそれぞれ、周波数fの前記周波数信号に対応する振幅および周波数fの前記周波数信号に対応する振幅である。tは時刻を表す変数である。<s(t),eω1t>および<s(t),eω2t>はそれぞれ、s(t)とeω1tとの内積およびs(t)とeω2tとの内積である。)
を特徴とする請求項1に記載の時刻基準点情報伝送システム。
【請求項3】
前記位相抽出手段は、前記受信手段で受信した前記通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の前記位相および当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の角周波数を抽出し、
前記時刻基準点決定手段は、前記位相抽出手段で抽出した複数の前記位相および複数の前記角周波数に基づいて各々の前記位相が所定の関係になる時点を求め、求めた当該時点を前記時刻基準点として決定すること
を特徴とする請求項1または2に記載の時刻基準点情報伝送システム。
【請求項4】
前記送信手段は、前記合成した複数の前記周波数信号を前記通信信号として超音波、電磁波、光のいずれか1つで前記受信器へ送信し、
前記受信手段は、前記送信器から送信された前記通信信号を、前記超音波、前記電磁波、前記光のいずれか1つで受信すること
を特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の時刻基準点情報伝送システム。
【請求項5】
所定の周波数帯域で通信可能な通信路において時刻基準点に関する情報を受信する受信器であって、
各々の位相が所定の関係になる時点と定義された前記時刻基準点に基づいて各々の前記位相が調整された複数の周波数信号であって前記調整の後に合成されたものを、通信信号として受信する受信手段と、
前記受信手段で受信した前記通信信号および数式1に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の前記位相を抽出する位相抽出手段と、
【数2】
JP0004621924B2_000011t.gif
(数式1において、sinc(x)は標本化関数であり、「sinc(x)=(sinx)÷x」で定義される。ωおよびωは角周波数であり、それぞれ「ω=2πf」および「ω=2πf」で定義される。なお、fおよびfはそれぞれ、前記周波数信号生成手段で生成した前記周波数信号の周波数である。Tは前記通信信号を取り出す時間の長さである。eは自然対数における底である。jは虚数単位である。pおよびpはそれぞれ、周波数fの前記周波数信号に対応する位相および周波数fの前記周波数信号に対応する位相である。s(t)は前記通信信号の波形を表す関数であり、「s(t)=asin(ωt+p)+asin(ωt+p)」で定義される。aおよびaはそれぞれ、周波数fの前記周波数信号に対応する振幅および周波数fの前記周波数信号に対応する振幅である。tは時刻を表す変数である。<s(t),eω1t>および<s(t),eω2t>はそれぞれ、s(t)とeω1tとの内積およびs(t)とeω2tとの内積である。)
前記位相抽出手段で抽出した複数の前記位相に基づいて各々の前記位相が所定の関係になる時点を求め、求めた当該時点を前記時刻基準点として決定する時刻基準点決定手段と、
を備えたことを特徴とする受信器。
【請求項6】
前記位相抽出手段は、前記受信手段で受信した前記通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の前記位相および当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の角周波数を抽出し、
前記時刻基準点決定手段は、前記位相抽出手段で抽出した複数の前記位相および複数の前記角周波数に基づいて各々の前記位相が所定の関係になる時点を求め、求めた当該時点を前記時刻基準点として決定すること
を特徴とする請求項5に記載の受信器。
【請求項7】
前記受信手段は、前記通信信号を、超音波、電磁波、光のいずれか1つで受信することを特徴とする請求項5または6に記載の受信器。
【請求項8】
所定の周波数帯域で通信可能な通信路において送信器から受信器へ時刻基準点に関する情報を伝送する時刻基準点情報伝送システムであって、
前記送信器は、
前記通信路で通信可能な複数の周波数信号に対応する各波形の位相が一致する時点と定義した前記時刻基準点に基づいて前記各波形の前記位相を予め揃えて合成した合成波形を記憶する波形記憶部と、
前記波形記憶部で記憶した前記合成波形の前記周波数信号を通信信号として前記受信器へ送信する送信手段と
を備え、
前記受信器は、
前記送信器から送信された前記通信信号を受信する受信手段と、
前記受信手段で受信した前記通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の前記位相を抽出する位相抽出手段と、
前記位相抽出手段で抽出した複数の前記位相に基づいて各々の前記位相が一致する時点を求め、求めた当該時点を前記時刻基準点として決定する時刻基準点決定手段と、
を備えたことを特徴とする時刻基準点情報伝送システム。
【請求項9】
所定の周波数帯域で通信可能な通信路において送信器から受信器へ時刻基準点に関する情報を伝送する時刻基準点情報伝送システムであって、
前記送信器は、
前記通信路で通信可能な周波数信号を複数生成する周波数信号生成手段と、
前記周波数信号生成手段で生成した複数の前記周波数信号のうちの2つの前記周波数信号の周波数の差の絶対値の逆数以下の値を、前記受信器へ通信信号を送信する時間の長さとして設定し、設定した前記時間の長さの範囲で各々の前記周波数信号の位相が一致する時点を定め、定めた当該時点を前記時刻基準点と定義し、定義した前記時刻基準点が前記通信信号に含まれるように前記時間の長さの開始時刻を設定し、前記時刻基準点に基づいて各々の前記周波数信号の前記位相を揃える位相調整手段と、
前記位相調整手段で前記位相を揃えた後の複数の前記周波数信号を合成し、合成した複数の前記周波数信号を前記通信信号として、前記開始時刻から前記時間の長さ分前記受信器へ送信する送信手段と、
を備え、
前記受信器は、
前記送信器から送信された前記通信信号を受信する受信手段と、
前記受信手段で受信した前記通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の前記位相を抽出する位相抽出手段と、
前記位相抽出手段で抽出した複数の前記位相に基づいて各々の前記位相が一致する時点を求め、求めた当該時点を前記時刻基準点として決定する時刻基準点決定手段と、
を備えたことを特徴とする時刻基準点情報伝送システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の周波数帯域で通信可能な通信路(例えば、周波数に因り位相伝搬特性や振幅伝搬特性が変化する等の理由から、通信に利用できる周波数帯域が制約されている通信路)において、送信器から受信器へ時刻基準点に関する情報を伝送する時刻基準点情報伝送システム、および当該時刻基準点情報伝送システムで用いる受信器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信や計測を行うシステムにおいて、タイミング情報(本発明における時刻基準点に対応)を高速且つ厳密に伝達したり計測したりすることが要求される局面は多く存在する。例えば、画像通信においては水平・垂直走査の同期をとる局面、同期型デジタルデータ通信においては各ビット情報を切り替えるタイミングを検出する局面、計測においては信号の遅延時間に基づいて距離や角度を計測する局面などが存在する。
またデジタル変調された情報パケットを伝送するシステムにおいて、復調の基準になる時刻や振幅を複数の搬送波周波数において効率よく正確に伝達できれば、高速高信頼な通信が可能となる。
【0003】
そして、上述したシステムでは、空間や光ファイバー、導波管、通信ケーブル中を伝搬する電磁波の波動現象や、気体や液体、固体を伝搬する音波の波動現象を利用してタイミング情報を伝達している。
【0004】
ここで、上述したシステムで使用する波形発生器、波動伝搬媒質および波形受信器が、広い周波数領域おいて十分均等な振幅伝達特性および位相伝達特性を有すると仮定すると、例えば、伝えたいタイミング情報を矩形の電気信号パルスの前縁や矩形の超音波バーストの前縁などで表現することで、波形発生器から波形受信器へタイミング情報を正確且つ容易に伝達することができる。また単に包絡線振幅を検出することで、振幅を得ることができる。
【0005】
上述した電気信号パルスや超音波バーストは周波数スペクトラムにおいて無限の広がりを持っている。しかし実在の波形発生器、波動伝搬媒質および波形受信器は、不均等な振幅周波数特性および位相周波数特性を多少なり有し、限られた帯域の周波数による通信しか許されない場合がほとんどである。そのため、矩形の電気信号パルスや矩形の超音波バーストは受信端において変形を受ける。特に、狭帯域の周波数特性を有する波形変換装置や波動伝搬媒質を利用する通信システムや遠距離の通信システムでは、タイミング情報を厳密に伝達することが困難であり、また振幅の検出が困難になり、結果的に情報通信速度が制限される。
【0006】
ところで、計測の分野においては、信号の遅延時間により距離や角度を計測するレーダーやレーザー計測器や超音波計測器が存在する。そして、距離や角度の計測精度はタイミング情報の伝達精度(検出精度)と直接関係する。換言すると、距離や角度の計測精度はタイミング情報の伝達精度(検出精度)に左右される。そのため、計測の分野ではタイミング情報を正確に(厳密に)伝達することが重要である。ここで、例えば、40kHzの搬送波バーストの包絡線前縁を検出することで送信器と受信器との間の距離を計測する超音波式距離計が存在する。そして、当該超音波式距離計の距離計測精度は数cm~数十cm程度である。なお、当該超音波式距離計では超音波の送受信素子に圧電セラミック素子を使用している。ちなみに、空気中を伝搬する音波の速度に照らして換算すると、当該超音波式距離計におけるタイミング情報の伝達精度は0.1ms~1msであり、この値は狭帯域通信路を通過した波形の包絡線を利用して達成できる精度の代表値である。
【0007】
上述した超音波式距離計で使用している圧電セラミック素子は狭帯域の周波数特性を有するため、受信波形は強い歪みを受ける。また、上述した超音波式距離計では、超音波バーストの前縁のような、信号的に過渡応答特性の強く影響する領域を使用するため、送受信素子の特性のばらつきが計測精度やタイミング情報の伝達精度に影響を与えやすくなる。さらに、波形の包絡線は伝送路の振幅周波数特性および位相周波数特性の双方の影響を受けるため、これら特性を有する伝送路を利用する場合には、包絡線の形状が変化し易くなり、その結果、タイミング情報の伝達精度が低下してしまう可能性が考えられる。
【0008】
一方、位相情報のみを使用してタイミング情報を伝達することができれば、包絡線を利用してタイミング情報を伝達する方法に比べてその伝達精度を高めることが可能であり、その結果、より精度の高い計測や通信が行える可能性がある。ここで、例えば、比較的近接した2点間で距離計測を行い、位相の差を得て信号源との角度を求める角度計は実用されている。また、例えば、狭い距離の中で変位を求める微小変位計が実用化されており、当該微小変位計は1mm前後の計測精度を有している。
【0009】
ここで、位相情報のみを使用してタイミング情報を伝達する場合、位相は正弦波のような周期現象から抽出しなければならず、さらに波形は2πラジアンの位相値(時間の場合は周期、距離の場合は波長)で繰り返されるため、受信端で得られる位相は、その絶対値を2πで除した剰余(その絶対値を2πで割ったときの余り)となる。これにより、例えば、位相を抽出することで距離を計測しようとしても、距離の絶対値を計測することはできない。具体的には、40kHzの超音波の波長は空気中で約8.5mm(位相値の2πラジアンに相当する)であるが、当該超音波を利用して位相を抽出し、距離を決めようとしても、距離を8.5mmの波長で割ったときの余りが求められるのみで、距離の絶対値を計測することはできない。
【0010】
そこで、位相を利用した超音波変位計に、40kHzの超音波の空気中での波長に相当する8.5mmを超える計測範囲をもたせる発明として、特許文献1が開示されている。特許文献1には、異なる2つの周波数f1およびf2(f1>f2)による位相遅延計測を周波数を切り替えながら2度行うことで位相φ1およびφ2を得て、その位相に基づいて各種処理を行うことで実質的に「f1-f2」の周波数を使用して位相を計測したことに換算する装置および方法について記されている。具体的には、「f1=40kHz、f2=39kHz」の各周波数を切り替えながら位相遅延を計測することで、実質的に1kHz(40kHz-39kHz)の搬送波で位相を計測したような効果を得ている。これにより、1mm前後の計測精度は維持しつつ、40kHzの超音波を利用した変位計の距離の不定さである8.5mmを1kHzの音波の波長である340mmまで延長することができた。
【0011】
【特許文献1】
特開2004-191145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
[0012]
しかしながら、従来技術では、計測範囲を340mmまで延長することができたものの、依然、位相を利用した情報伝達技術における課題である位相周期によるタイミング情報の不定さが残るので、変位を計測することはできるものの、絶対的な距離を計測することは困難である、という問題点があった。
[0013]
また、従来技術では、周波数を切り替えながら計測を複数回行っていたので、計測時間が長くなってしまい、タイミング情報の伝達時間が長くなってしまう、という問題点があった。当該問題点は、特に、対象物が移動したり風向きや気温の変動で伝搬媒質が変化したりする場合に顕著となり、当該場合では計測自体が困難となってしまう。
[0014]
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、時刻基準点を精度よく且つ短時間で伝送することができる時刻基準点情報伝送システム、および当該時刻基準点情報伝送システムで用いる受信器を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0015]
上記目的を達成するために、本発明にかかる時刻基準点情報伝送システムは、所定の周波数帯域で通信可能な通信路において送信器から受信器へ時刻基準点に関する情報を伝送する時刻基準点情報伝送システムであって、前記送信器は、前記通信路で通信可能な周波数信号を複数生成する周波数信号生成手段と、前記周波数信号生成手段で生成した複数の前記周波数信号のうちの2つの前記周波数信号の周波数の差の絶対値の逆数以下の値を、前記受信器へ通信信号を送信する時間の長さとして設定し、設定した前記時間の長さの範囲で各々の前記周波数信号の位相が一致する時点を定め、定めた当該時点を前記時刻基準点と定義し、定義した前記時刻基準点に基づいて各々の前記周波数信号の前記位相を揃える位相調整手段と、前記位相調整手段で前記位相を揃えた後の複数の前記周波数信号を合成し、合成した複数の前記周波数信号を前記通信信号として前記時間の長さ分前記受信器へ送信する送信手段と、を備え、前記受信器は、前記送信器から送信された前記通信信号を受信する受信手段と、前記受信手段で受信した前記通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の前記位相を抽出する位相抽出手段と、前記位相抽出手段で抽出した複数の前記位相に基づいて各々の前記位相が一致する時点を求め、求めた当該時点を前記時刻基準点として決定する時刻基準点決定手段と、を備えたことを特徴とする。本発明にかかる時刻基準点情報伝送システムは、所定の周波数帯域で通信可能な通信路において送信器から受信器へ時刻基準点に関する情報を伝送する時刻基準点情報伝送システムであって、前記送信器は、前記通信路で通信可能な複数の周波数信号に対応する各波形の位相が一致する時点と定義した前記時刻基準点に基づいて前記各波形の前記位相を予め揃えて合成した合成波形を記憶する波形記憶部と、前記波形記憶部で記憶した前記合成波形の前記周波数信号を通信信号として前記受信器へ送信する送信手段とを備え、前記受信器は、前記送信器から送信された前記通信信号を受信する受信手段と、前記受信手段で受信した前記通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の前記位相を抽出する位相抽出手段と、前記位相抽出手段で抽出した複数の前記位相に基づいて各々の前記位相が一致する時点を求め、求めた当該時点を前記時刻基準点として決定する時刻基準点決定手段と、を備えたことを特徴とする。本発明にかかる時刻基準点情報伝送システムは、所定の周波数帯域で通信可能な通信路において送信器から受信器へ時刻基準点に関する情報を伝送する時刻基準点情報伝送システムであって、前記送信器は、前記通信路で通信可能な周波数信号を複数生成する周波数信号生成手段と、前記周波数信号生成手段で生成した複数の前記周波数信号のうちの2つの前記周波数信号の周波数の差の絶対値の逆数以下の値を、前記受信器へ通信信号を送信する時間の長さとして設定し、設定した前記時間の長さの範囲で各々の前記周波数信号の位相が一致する時点を定め、定めた当該時点を前記時刻基準点と定義し、定義した前記時刻基準点が前記通信信号に含まれるように前記時間の長さの開始時刻を設定し、前記時刻基準点に基づいて各々の前記周波数信号の前記位相を揃える位相調整手段と、前記位相調整手段で前記位相を揃えた後の複数の前記周波数信号を合成し、合成した複数の前記周波数信号を前記通信信号として、前記開始時刻から前記時間の長さ分前記受信器へ送信する送信手段と、を備え、前記受信器は、前記送信器から送信された前記通信信号を受信する受信手段と、前記受信手段で受信した前記通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の前記位相を抽出する位相抽出手段と、前記位相抽出手段で抽出した複数の前記位相に基づいて各々の前記位相が一致する時点を求め、求めた当該時点を前記時刻基準点として決定する時刻基準点決定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる時刻基準点情報伝送システムは、前記に記載の時刻基準点情報伝送システムにおいて、前記位相抽出手段は、前記受信手段で受信した前記通信信号および数式1に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の前記位相を抽出することを特徴とする。
【数1】
JP0004621924B2_000002t.gif(数式1において、sinc(x)は標本化関数であり、「sinc(x)=(sinx)÷x」で定義される。ω1およびω2は角周波数であり、それぞれ「ω1=2πf1」および「ω2=2πf2」で定義される。なお、f1およびf2はそれぞれ、前記周波数信号生成手段で生成した前記周波数信号の周波数である。Tは前記通信信号を取り出す時間の長さである。eは自然対数における底である。jは虚数単位である。p1およびp2はそれぞれ、周波数f1の前記周波数信号に対応する位相および周波数f2の前記周波数信号に対応する位相である。s(t)は前記通信信号の波形を表す関数であり、「s(t)=a1sin(ω1t+p1)+a2sin(ω2t+p2)」で定義される。a1およびa2はそれぞれ、周波数f1の前記周波数信号に対応する振幅および周波数f2の前記周波数信号に対応する振幅である。tは時刻を表す変数である。<s(t),ejω1t>および<s(t),ejω2t>はそれぞれ、s(t)とejω1tとの内積およびs(t)とejω2tとの内積である。)
【0017】
また、本発明にかかる時刻基準点情報伝送システムは、前記に記載の時刻基準点情報伝送システムにおいて、前記位相抽出手段は、前記受信手段で受信した前記通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の前記位相および当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の角周波数を抽出し、前記時刻基準点決定手段は、前記位相抽出手段で抽出した複数の前記位相および複数の前記角周波数に基づいて各々の前記位相が所定の関係になる時点を求め、求めた当該時点を前記時刻基準点として決定することを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかる時刻基準点情報伝送システムは、前記に記載の時刻基準点情報伝送システムにおいて、前記送信手段は、前記合成した複数の前記周波数信号を前記通信信号として超音波、電磁波、光のいずれか1つで前記受信器へ送信し、前記受信手段は、前記送信器から送信された前記通信信号を、前記超音波、前記電磁波、前記光のいずれか1つで受信することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は時刻基準点情報伝送方法に関するものであり、本発明にかかる時刻基準点情報伝送方法は、所定の周波数帯域で通信可能な通信路において送信器から受信器へ時刻基準点に関する情報を伝送する時刻基準点情報伝送方法であって、前記送信器において、前記通信路で通信可能な周波数信号を複数生成する周波数信号生成ステップと、前記周波数信号生成ステップで生成した複数の前記周波数信号に基づいて各々の前記周波数信号の位相が所定の関係になる時点を定め、定めた当該時点を前記時刻基準点と定義し、定義した前記時刻基準点に基づいて各々の前記周波数信号の前記位相を調整する位相調整ステップと、前記位相調整ステップで前記位相を調整した後の複数の前記周波数信号を合成し、合成した複数の前記周波数信号を通信信号として前記受信器へ送信する送信ステップと、を実行し、前記受信器において、前記送信器から送信された前記通信信号を受信する受信ステップと、前記受信ステップで受信した前記通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の前記位相を抽出する位相抽出ステップと、前記位相抽出ステップで抽出した複数の前記位相に基づいて各々の前記位相が所定の関係になる時点を求め、求めた当該時点を前記時刻基準点として決定する時刻基準点決定ステップと、を実行することを特徴とする。
【0020】
また、本発明にかかる時刻基準点情報伝送方法は、前記に記載の時刻基準点情報伝送方法において、前記位相抽出ステップは、前記受信ステップで受信した前記通信信号および数式1に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の前記位相を抽出することを特徴とする。
【数2】
JP0004621924B2_000003t.gif(数式1において、sinc(x)は標本化関数であり、「sinc(x)=(sinx)÷x」で定義される。ω1およびω2は角周波数であり、それぞれ「ω1=2πf1」および「ω2=2πf2」で定義される。なお、f1およびf2はそれぞれ、前記周波数信号生成ステップで生成した前記周波数信号の周波数である。Tは前記通信信号を取り出す時間の長さである。eは自然対数における底である。jは虚数単位である。p1およびp2はそれぞれ、周波数f1の前記周波数信号に対応する位相および周波数f2の前記周波数信号に対応する位相である。s(t)は前記通信信号の波形を表す関数であり、「s(t)=a1sin(ω1t+p1)+a2sin(ω2t+p2)」で定義される。a1およびa2はそれぞれ、周波数f1の前記周波数信号に対応する振幅および周波数f2の前記周波数信号に対応する振幅である。tは時刻を表す変数である。<s(t),ejω1t>および<s(t),ejω2t>はそれぞれ、s(t)とejω1tとの内積およびs(t)とejω2tとの内積である。)
【0021】
また、本発明にかかる時刻基準点情報伝送方法は、前記に記載の時刻基準点情報伝送方法において、前記位相抽出ステップは、前記受信ステップで受信した前記通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の前記位相および当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の角周波数を抽出し、前記時刻基準点決定ステップは、前記位相抽出ステップで抽出した複数の前記位相および複数の前記角周波数に基づいて各々の前記位相が所定の関係になる時点を求め、求めた当該時点を前記時刻基準点として決定することを特徴とする。
【0022】
また、本発明にかかる時刻基準点情報伝送方法は、前記に記載の時刻基準点情報伝送方法において、前記送信ステップは、前記合成した複数の前記周波数信号を前記通信信号として超音波、電磁波、光のいずれか1つで前記受信器へ送信し、前記受信ステップは、前記送信器から送信された前記通信信号を、前記超音波、前記電磁波、前記光のいずれか1つで受信することを特徴とする。
【0023】
また、本発明は送信器に関するものであり、本発明にかかる送信器は、所定の周波数帯域で通信可能な通信路において時刻基準点に関する情報を送信する送信器であって、前記通信路で通信可能な周波数信号を複数生成する周波数信号生成手段と、前記周波数信号生成手段で生成した複数の前記周波数信号に基づいて各々の前記周波数信号の位相が所定の関係になる時点を定め、定めた当該時点を前記時刻基準点と定義し、定義した前記時刻基準点に基づいて各々の前記周波数信号の前記位相を調整する位相調整手段と、前記位相調整手段で前記位相を調整した後の複数の前記周波数信号を合成し、合成した複数の前記周波数信号を通信信号として前記受信器へ送信する送信手段と、を備えたことを特徴とする。
【0024】
また、本発明にかかる送信器は、前記送信手段は、前記合成した複数の前記周波数信号を前記通信信号として超音波、電磁波、光のいずれか1つで前記受信器へ送信することを特徴とする。
【0025】
また、本発明は受信器に関するものであり、本発明にかかる受信器は、所定の周波数帯域で通信可能な通信路において時刻基準点に関する情報を受信する受信器であって、各々の位相が所定の関係になる時点と定義された前記時刻基準点に基づいて各々の前記位相が調整された複数の周波数信号であって前記調整の後に合成されたものを、通信信号として受信する受信手段と、前記受信手段で受信した前記通信信号および数式1に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の前記位相を抽出する位相抽出手段と、前記位相抽出手段で抽出した複数の前記位相に基づいて各々の前記位相が所定の関係になる時点を求め、求めた当該時点を前記時刻基準点として決定する時刻基準点決定手段と、を備えたことを特徴とする。
【数3】
JP0004621924B2_000004t.gif(数式1において、sinc(x)は標本化関数であり、「sinc(x)=(sinx)÷x」で定義される。ω1およびω2は角周波数であり、それぞれ「ω1=2πf1」および「ω2=2πf2」で定義される。なお、f1およびf2はそれぞれ、前記周波数信号生成手段で生成した前記周波数信号の周波数である。Tは前記通信信号を取り出す時間の長さである。eは自然対数における底である。jは虚数単位である。p1およびp2はそれぞれ、周波数f1の前記周波数信号に対応する位相および周波数f2の前記周波数信号に対応する位相である。s(t)は前記通信信号の波形を表す関数であり、「s(t)=a1sin(ω1t+p1)+a2sin(ω2t+p2)」で定義される。a1およびa2はそれぞれ、周波数f1の前記周波数信号に対応する振幅および周波数f2の前記周波数信号に対応する振幅である。tは時刻を表す変数である。<s(t),ejω1t>および<s(t),ejω2t>はそれぞれ、s(t)とejω1tとの内積およびs(t)とejω2tとの内積である。)
【0026】
また、本発明にかかる受信器は、前記に記載の受信器において、前記位相抽出手段は、前記受信手段で受信した前記通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の前記位相および当該通信信号に含まれる各々の前記周波数信号の角周波数を抽出し、前記時刻基準点決定手段は、前記位相抽出手段で抽出した複数の前記位相および複数の前記角周波数に基づいて各々の前記位相が所定の関係になる時点を求め、求めた当該時点を前記時刻基準点として決定することを特徴とする。
【0027】
また、本発明にかかる受信器は、前記に記載の受信器において、前記受信手段は、前記通信信号を、超音波、電磁波、光のいずれか1つで受信することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、所定の周波数帯域で通信可能な通信路(通信に使用できる周波数帯域が制限された通信路)において送信器から受信器へ時刻基準点に関する情報を伝送する。送信器は、通信路で通信可能な周波数信号を複数生成し、生成した複数の周波数信号に基づいて各々の周波数信号の位相が所定の関係になる時点を定め、定めた当該時点を時刻基準点と定義し、定義した時刻基準点に基づいて各々の周波数信号の位相を調整し、位相を調整した後の複数の周波数信号を合成し、合成した複数の周波数信号を通信信号として受信器へ送信する。受信器は、送信器から送信された通信信号を受信し、受信した通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の周波数信号の位相を抽出し、抽出した複数の位相に基づいて各々の位相が所定の関係になる時点を求め、求めた当該時点を時刻基準点として決定する。これにより、例えば安価な狭帯域送受信素子を使用しても、受信波形歪による影響を抑えて時刻基準点を精度よく且つ短時間で伝送することができる、という効果を奏する。
【0029】
また、本発明によれば、受信器は、受信した通信信号および数式1に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の周波数信号の位相を抽出する。これにより、一般FFTによることなく情報伝送に関わる周波数のみを扱うことで、ノイズの影響を軽減し、また高速な検出操作が可能になる、という効果を奏する。なお、数式1から個々の搬送波の振幅基準を得ることにより、複数搬送波による直交振幅変調を効率よく復調することができる。また、従来のFFTなどによる周波数分解方法に比較して、高速に、高精度に、要素周波数の位相情報や振幅情報を抽出することができる。
【0030】
また、本発明によれば、受信器は、受信した通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の周波数信号の位相および当該通信信号に含まれる各々の周波数信号の角周波数を抽出し、抽出した複数の位相および複数の角周波数に基づいて各々の位相が所定の関係になる時点を求め、求めた当該時点を時刻基準点として決定する。具体的には、例えば通信信号が2つの周波数信号を合成したものである場合、受信器は、2つの周波数信号の位相が一致する時点を、観測された任意の時点での位相差に基づいて、数式「t=-(p1-p2)÷(ω1-ω2)」(p1およびp2は位相、ω1およびω2は角周波数)で求め、求めた当該時点を時刻基準点として決定する。これにより、短時間且つ高精度に時刻基準点を決定することができる、という効果を奏する。
【0031】
また、本発明によれば、送信器は、合成した複数の周波数信号を通信信号として超音波、電磁波、光のいずれか1つで受信器へ送信し、受信器は、送信器から送信された通信信号を、超音波、電磁波、光のいずれか1つで受信する。これにより、一般の線形波動で表現できるものに本発明を適用することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、本発明にかかる時刻基準点情報伝送システムの基本原理を示すフローチャートである。
【図2】図2は、時刻基準点の定義の一例を示す図である。
【図3】図3は、時刻基準点情報伝送システムを適用した超音波距離計測システムの構成の一例を示す概念図である。
【図4】図4は、送信ノード102の具体的な構成の一例を示すブロック図である。
【図5】図5は、受信ノード104の具体的な構成の一例を示すブロック図である。
【図6】図6は、送信ノード102で行われる処理の一例を示すフローチャートである。
【図7】図7は、受信ノード104で行われる処理の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0033】
100 超音波距離計測システム(時刻基準点情報伝送システムを含む)
102 送信ノード
102a 測定指示スイッチ
102b タイミング発生部
102c アドレス生成部
102d 波形記憶部
102e D/A変換部
102f 増幅部
102g 超音波送信素子
104 受信ノード
104a 超音波送信素子
104b 増幅部
104c A/D変換部
104d 波形記憶部
104e アドレス生成部
104f タイミング発生部
104g 信号処理部
104h 距離表示部
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、本発明にかかる時刻基準点情報伝送システム、および当該時刻基準点情報伝送システムで用いる受信器の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0035】
[本発明の基本原理]
まず、本発明にかかる時刻基準点情報伝送システムの基本原理について、図1を参照して説明する。図1は本発明にかかる時刻基準点情報伝送システムの基本原理を示すフローチャートである。
本発明は、所定の周波数帯域で通信可能な通信路(例えば、周波数に因り位相伝搬特性や振幅伝搬特性が変化する等の理由から、通信に利用できる周波数帯域が制約されている通信路)において、送信器から受信器へ時刻基準点に関する情報を、以下のステップS-1からステップS-6までの工程で伝送する。
【0036】
まず、送信器で、通信路で通信可能な周波数信号を複数生成する(ステップS-1:周波数信号生成ステップ)。つぎに、送信器で、ステップS-1で生成した複数の周波数信号に基づいて各々の周波数信号の位相が所定の関係になる時点を定め、定めた当該時点を時刻基準点と定義し、定義した時刻基準点に基づいて各々の周波数信号の位相を調整する(ステップS-2:位相調整ステップ)。具体的には、ステップS-1で生成した複数個の周波数信号の各位相が所定の条件の関係になった時点を時刻基準点と定義し、周波数信号の関係が時刻基準点の所定の条件に合うように複数個の周波数信号の位相を揃える。
【0037】
ここで、本発明の特徴部分である時刻基準点の定義の一例について、図2を参照して説明する。図2は時刻基準点の定義の一例を示す図である。なお、当該説明は、ステップSA-1で2つの周波数信号(周波数f1=39.75kHz、周波数f2=40.25kHz)を生成した場合の一例である。
2つの周波数搬送波(図2のaおよびb)を重ね合わせて送信するとビート(うなり)が生じる(図2のc)。なお、この場合、当該ビートの周期は、「f2-f1=0.5kHz」の周波数信号の周期、つまり2msとなる。
そこで、周波数f1の搬送波の位相φ1と周波数f2の搬送波の位相φ2(の2πでの剰余)に注目した場合、当該ビートの節から節までの時間である2msを取り出せば、位相φ1および位相φ2は-πラジアンからπラジアンの間を何度も往復する(図2のdおよびe)。
そして、位相差「φ2-φ1」は、-πラジアンからπラジアンの範囲を一度だけ通過し、「φ2-φ1=0」となるタイミング(時刻)は、取り出した2msの間に一度だけ発生する(図2のf)。
そこで、「φ2-φ1=0」となるタイミングを時刻基準点として定義する。
【0038】
再び図1に戻り、送信器で、ステップS-2で位相を調整した複数の周波数信号を合成し、合成した複数の周波数信号を通信信号として受信器へ送信する(ステップS-3:送信ステップ)。なお、ステップS-3において、ステップS-2で合成した(具体的には位相を揃えた)複数の周波数信号を直接搬送波の通信信号として受信器へ送信してもよく、また合成した複数の周波数信号を、他周波数の搬送波で変調した通信信号として受信器へ送信してもよい。
【0039】
つぎに、受信器で、送信器から送信された通信信号を受信する(ステップS-4:受信ステップ)。なお、ステップS-3において、合成した複数の周波数信号が直接搬送波の通信信号として送信された場合には、ステップS-4において当該直接搬送波の通信信号を受信してもよい。また、ステップS-3において、合成した複数の周波数信号が、他周波数の搬送波で変調した通信信号として送信された場合には、ステップS-4において当該他周波数の搬送波で変調した通信信号を受信して復調してもよい。
【0040】
つぎに、受信器で、ステップS-4で受信した通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の周波数信号の位相を抽出する(ステップS-5:位相抽出ステップ)。換言すると、ステップS-4で受信した通信信号の周波数成分を分解して個々の位相情報を抽出する。
ここで、ステップS-5において、受信した通信信号および下記の数式1に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の周波数信号の位相を抽出してもよい。換言すると、ステップS-5において、受信した通信信号の周波数成分を下記の数式1に基づいて分解して個々の位相情報を抽出してもよい。
【数4】
JP0004621924B2_000005t.gif なお、数式1において、sinc(x)は標本化関数であり、「sinc(x)=(sinx)÷x」で定義される。ω1およびω2は角周波数であり、それぞれ「ω1=2πf1」および「ω2=2πf2」で定義される。なお、f1およびf2はそれぞれ、生成した周波数信号の周波数である。Tは通信信号を取り出す時間の長さである。eは自然対数における底である。jは虚数単位である。p1およびp2はそれぞれ、周波数f1の周波数信号に対応する位相および周波数f2の周波数信号に対応する位相である。s(t)は受信した通信信号の波形を表す関数であり、「s(t)=a1sin(ω1t+p1)+a2sin(ω2t+p2)」で定義される。a1およびa2はそれぞれ、周波数f1の周波数信号に対応する振幅および周波数f2の周波数信号に対応する振幅である。tは時刻を表す変数である。<s(t),ejω1t>および<s(t),ejω2t>はそれぞれ、s(t)とejω1tとの内積およびs(t)とejω2tとの内積である。
【0041】
つぎに、受信器で、ステップS-5で抽出した複数の位相に基づいて各々の位相が所定の関係になる時点を求め、求めた当該時点を時刻基準点として決定する(ステップS-6:時刻基準点決定ステップ)。換言すると、ステップS-5で抽出した複数の位相情報を比較して、それらが所定の条件の関係になった時点を時刻基準点として決定する。
【0042】
以上、本発明の基本原理について説明したが、受信器で、ステップS-6で決定した時刻基準点および所定の時間長に基づいて、通信信号を読み出し始める時点である読出開始時点を設定し、設定した読出開始時点から所定の時間長分の通信信号をステップS-4で受信した通信信号から読み出してもよい。なお、この場合、受信器は、読み出した当該通信信号に基づいて改めてステップS-5を実行して複数の位相を抽出し、抽出した複数の位相に基づいて改めてステップS-6を実行して時刻基準点を決定する。これにより、位相抽出処理にかかる波形の抽出場所や長さは任意であることから、受信した通信信号の波形における冒頭部の過渡応答妨害を除外し、また振幅の大きな部分を優先して使用することで、雑音の影響を効果的に回避することができる。換言すると、受信波形のうち過渡応答やノイズによる影響のある部分を避け、高精度な決定処理ができる。また、検出に使用する波形は比較的短いものでよいので、高速な検出ができ、またマルチパス妨害による検出誤差を軽減できる。
【0043】
また、ステップS-5において、受信した通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の周波数信号の位相および当該通信信号に含まれる各々の周波数信号の角周波数を抽出し、ステップS-6において、抽出した複数の位相および複数の角周波数に基づいて各々の位相が所定の関係になる時点を求め、求めた当該時点を時刻基準点として決定してもよい。具体的には、例えば通信信号が2つの周波数信号を合成したものである場合、受信器は、2つの周波数信号の位相が一致する時点を、観測された任意の時点での位相差に基づいて、後述の数式6で求め、求めた当該時点を時刻基準点として決定してもよい。これにより、短時間且つ高精度に時刻基準点を決定することができる。
【0044】
また、ステップS-3において、ステップS-2で合成した複数の周波数信号を通信信号として超音波、電磁波、光などで受信器へ送信してもよい。具体的には、ステップS-2で位相を揃えた複数個の周波数信号を直接搬送波の通信信号として超音波や電磁波や光などで送信してもよく、またステップS-2で位相を揃えた複数個の周波数信号を他周波数の搬送波で変調した通信信号として超音波や電磁波や光などで送信してもよい。また、ステップS-4において、送信器から送信された通信信号を超音波や電磁波や光などで受信してもよい。具体的には、送信器から送信された直接搬送波の通信信号を超音波や電磁波や光などで受信してもよく、また送信器から送信された変調された通信信号を超音波や電磁波や光などで受信して復調してもよい。
つまり、本発明は、超音波や電磁波や光など、線形波動で表現することができる全てのものに適用することができる。
【0045】
また、ステップS-5において、位相情報だけでなく振幅情報(振幅基準情報)も抽出してもよい。これにより、例えば、複数搬送波による直交振幅変調を効率よく復調することができる。
【0046】
[システム構成]
つぎに、本発明の時刻基準点情報伝送システムを適用した超音波距離計測システム100の構成について、図3を参照して説明する。図3は超音波距離計測システム100の構成の一例を示す概念図である。
【0047】
図3に示すように、超音波距離計測システム100は、送信ノード(送信器)102と受信ノード(受信器)104とで構成され、所定の周波数帯域で通信可能な通信路(例えば、周波数に因り位相伝搬特性や振幅伝搬特性が変化する等の理由から、通信に利用できる周波数帯域が制約されている通信路)を利用して送信ノード102から受信ノード104へ時刻基準点に関する情報を超音波で伝送する。
【0048】
送信ノード102は、主に、通信路で通信可能な周波数信号を複数生成し、生成した複数の周波数信号に基づいて各々の周波数信号の位相が所定の関係になる時点を定め、定めた当該時点を時刻基準点と定義し、定義した時刻基準点に基づいて各々の周波数信号の位相を調整し、位相を調整した後の複数の周波数信号を合成し、合成した複数の周波数信号を通信信号として受信器へ超音波で送信する。ここで、送信ノード102の具体的な構成の一例について、図4を参照して説明する。図4は、送信ノード102の具体的な構成の一例を示すブロック図である。図4に示すように、送信ノード102は、測定指示スイッチ102aと、タイミング発生部102bと、アドレス生成部102cと、波形記憶部(波形ROM)102dと、D/A変換部102eと、増幅部102fと、超音波送信素子102gと、で構成され、これらは任意の通信路を介して接続されている。
【0049】
測定指示スイッチ102aは、利用者が距離の測定開始を指示するためのスイッチである。タイミング発生部102bは、複数個の周波数信号に対応する各波形の位相を予め調整して(揃えて)合成した合成波形を後述する波形記憶部102dから読み出して当該合成波形の送信を開始すると共に、距離の測定開始を指示する測定指示信号および超音波の伝搬遅延時間を計算するために用いるストローブ信号を受信ノード104へ電気的に伝送する。アドレス生成部102cはサンプル周波数に合わせてメモリー読み出しアドレスを生成する。波形記憶部102dは、複数個の周波数信号に対応する各波形の位相を予め調整して(揃えて)合成した合成波形を記憶する。D/A変換部102eはデジタル信号をアナログ信号に変換する。増幅部102fはアナログ信号を増幅する。超音波送信素子102gは具体的には市販の圧電型セラミック振動体である。ここで、素子は共振器であるため、当該素子において、通信感度や信号雑音比は良好であるが、通信帯域は狭く概ね39.0~41.0kHzである。なお、当該通信帯域内でも振幅・位相伝搬特性は強い周波数依存性をもつ。
【0050】
再び図3に戻り、受信ノード104は、主に、送信ノード102から送信された通信信号を超音波で受信し、受信した通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の周波数信号の位相を抽出し、抽出した複数の位相に基づいて各々の位相が所定の関係になる時点を求め、求めた当該時点を時刻基準点として決定する。ここで、受信ノード104の具体的な構成の一例について、図5を参照して説明する。図5は、受信ノード104の具体的な構成の一例を示すブロック図である。図5に示すように、受信ノード104は、超音波受信素子104aと、増幅部104bと、A/D変換部104cと、波形記憶部(波形メモリー)104dと、アドレス生成部104eと、タイミング発生部104fと、信号処理部(信号処理プロセッサ)104gと、距離表示部104hと、で構成され、これらは任意の通信路を介して接続されている。
【0051】
超音波受信素子104aは具体的には市販の圧電型セラミック振動体である。増幅部104bは超音波受信素子104aで受信した通信信号(アナログ信号)を増幅する。A/D変換部104cはアナログ信号をデジタル信号に変換する。波形記憶部104dは、受信した通信信号の波形および電気的に伝送されたストローブ信号の波形を記憶する。アドレス生成部104eは、サンプリング周波数に合わせてメモリー格納アドレスを生成する。タイミング発生部104fは、送信ノード102から伝送された測定指示信号を取得する。信号処理部104gは、波形記憶部104dに記憶された通信信号を取得して当該通信信号の周波数成分を分解して個々の位相情報を抽出し、抽出した複数の位相情報を比較して、それらが所定の条件の関係になった時点を時刻基準点として決定し、決定した時刻基準点と電気的に伝送されたストローブ信号との伝播遅延時間を計算し、送信ノード102と受信ノード104との間の距離を計算する。距離表示部104hは、信号処理部104gで計算された送信ノード102と受信ノード104との間の距離の値を表示する。
【0052】
以上の構成において、超音波距離計測システム100を構成する送信ノード102および受信ノード104で行われる処理を、図6および図7を参照して順に説明する。
【0053】
初めに、送信ノード102で行われる処理を、図6を参照して説明する。図6は、送信ノード102で行われる処理の一例を示すフローチャートである。
【0054】
まず、タイミング発生部102bで、測定指示スイッチ102aが押されたか否か(つまり、測定指示があるか否か)を監視し、測定指示があった場合(ステップSA-1:Yes)には測定指示信号を駆動する(ステップSA-2)。
つぎに、タイミング発生部102bで、タイミング発生回路を起動する(ステップSA-3)。
つぎに、タイミング発生部102bで波形記憶部102dから合成波形(「S(t)=sinω1t+sinω2t」(ただし、ω1=2πf1、ω2=2πf2、f1およびf2は周波数))を読み出し、D/A変換部102eで当該合成波形の周波数信号をアナログ信号に変換し、増幅部102fで当該アナログ信号を増幅し、超音波送信素子102gで当該増幅した信号を超音波で送信する(ステップSA-4)。
一方、タイミング発生部102bで、合成波形を読み出したタイミングを監視し、時刻基準点(例えば、位相差「φ2-φ1」が0となる時刻)を送信した場合(ステップSA-5:Yes)には瞬時にストローブ信号を発生し、測定指示信号と共に電気的に受信ノード104へ伝送する(ステップSA-6)。なお、「-1ms<t<1ms」の範囲の波形を送信すれば、その波形の中央で時刻基準点(「φ2-φ1=0」となる時刻)を送信したことになる。
【0055】
これにて、送信ノード102で行われる処理の説明を終了する。
【0056】
つぎに、受信ノード104で行われる処理を、図7を参照して説明する。図7は、受信ノード104で行われる処理の一例を示すフローチャートである。
【0057】
まず、タイミング発生部104fで、送信ノード102から伝送された測定指示信号を取得したかを監視し、測定指示信号を取得した場合(ステップSB-1:Yes)にはタイミング発生回路を起動する。そして、増幅器104bで、超音波受信素子104aで受信した通信信号を増幅し、A/D変換部104cで、増幅した通信信号をデジタル信号に変換して波形記憶部104dに記憶する(ステップSB-2)。ここで、A/D変換のビット分解能および時間分解能は再生される時刻基準点の精度に影響するが、具体的には8bit直線量子化および1Mサンプル毎秒のA/D変換を行うことで良好なビット分解能および時間分解能を得ることができる。
【0058】
つぎに、タイミング発生部104fで信号処理部104gを起動し、信号処理部104gで波形記憶部104dに記憶された通信信号を所定の時間長(T)(例えばT=1ms)だけ読み出す(ステップSB-3)。
【0059】
つぎに、信号処理部104gで、ステップSB-3で時間長Tだけ読み出した通信信号の周波数成分を分解して、個々の位相情報を抽出し、抽出した位相情報を比較して、それらが所定の条件の関係になった時点を時刻基準点として仮決定する(ステップSB-4)。
【0060】
ここで、当該通信信号は複数周波数の搬送波を重畳したものであるので、それらから各要素の信号の位相は以下の工程(1)~(4)で分離され、時刻基準点は工程(5)で推定される。なお、ステップSB-3で読み出したデータ(数値列)はベクトル(s)として扱う。
(1)下記の数式2で定義される周波数f1の複素正弦波信号e1(t)および下記の数式3で定義される周波数f2の複素正弦波信号e2(t)を算術的に発生させる。なお、送信ノード102で使用した当該f1およびf2は受信ノード104において既知である。なお、数式2および数式3において、jは虚数単位である。
1(t)=exp(jω1(t-T/2))
=cosω1(t-T/2)+jsinω1(t-T/2) ・・・(数式2)
2(t)=exp(jω2(t-T/2))
=cosω2(t-T/2)+jsinω2(t-T/2) ・・・(数式3)
(2)e1(t)およびe2(t)を時間長Tにあわせてサンプリングし、複素ベクトルe1およびe2を計算する。なお、e1およびe2は一度計算しておけばよい。
(3)下記の数式4で定義されるベクトルsとe1との内積<s,e1>および下記の数式5で定義されるベクトルsとe2との内積<s,e2>を計算する。
【数5】
JP0004621924B2_000006t.gif ここで、式中のe1i(上線付き)およびe2i(上線付き)はそれぞれ、e1iの複素共役およびe2iの複素共役である。また、Nは、各ベクトルの次元数であり、時間長Tおよびサンプル速度Sから「N=TS」で定められる。
(4)受信した通信信号が「s(t)=a1sin(ω1t+p1)+a2sin(ω2t+p2)」であると仮定した場合、下記の数式1で各位相(位相p1およびp2)を抽出する。なお、位相p1およびp2が時間長Tの中央における角周波数の位相であり、合成波形から分離して求めたい量である。なお、各位相(位相p1およびp2)だけでなく各振幅(振幅a1およびa2)も抽出してもよい。
【数6】
JP0004621924B2_000007t.gif なお、数式1において、sinc(x)は標本化関数であり、「sinc(x)=(sinx)÷x」で定義される。ω1およびω2は角周波数であり、それぞれ「ω1=2πf1」および「ω2=2πf2」で定義される。なお、f1およびf2はそれぞれ、周波数信号の周波数である。Tは通信信号を取り出す時間の長さである。eは自然対数における底である。jは虚数単位である。p1およびp2はそれぞれ、周波数f1の周波数信号に対応する位相および周波数f2の周波数信号に対応する位相である。s(t)は受信した通信信号の波形を表す関数であり、「s(t)=a1sin(ω1t+p1)+a2sin(ω2t+p2)」で定義される。a1およびa2はそれぞれ、周波数f1の周波数信号に対応する振幅および周波数f2の周波数信号に対応する振幅である。tは時刻を表す変数である。<s(t),ejω1t>および<s(t),ejω2t>はそれぞれ、s(t)とejω1tとの内積およびs(t)とejω2tとの内積である。
(5)抽出した位相を比較して、それらが所定の条件の関係になった時点を時刻基準点として仮決定する。具体的には、位相p1およびp2に基づいて時刻基準点tは、下記の数式6で推定される。ただし、時間長Tの中央の時刻を「t=0」とし、「p2-p1=0」となる時刻を時刻基準点とする。
t=-(p1-p2)÷(ω1-ω2
=-(p1-p2)÷(2π(f1-f2)) ・・・(数式6)
【0061】
再び図7のフローチャートの説明に戻り、信号処理部104gで、ステップSB-4で仮に決定した時刻基準点が中央付近となるように時間長Tの開始時刻を再設定し、ステップSB-3と同様に、当該再設定した開始時刻から時間長Tだけ通信信号を読み出す(ステップSB-5)。
【0062】
つぎに、信号処理部104gで、ステップSB-4と同様に、時刻基準点を再度決定する(ステップSB-6)。ここで、理論的には、受信したビート波形s(t)のどこを読み出しても同一の時刻基準点が得られる。しかし、波形の開始時点付近には、素子の過渡応答による誤差があり、またビート波形の両端は振幅が小さく、背景雑音の影響を受けやすい。そのため、ステップSB-4で時刻基準点を一度推定し、次にその時刻が中央付近となるように時間長Tの開始時刻を再設定して、時刻基準点を計算している。この2回目の計算で得た時刻基準点を使うことで再現性のあるよい結果を得ることができる。
【0063】
つぎに、信号処理部104gで、ステップSB-6で決定した時刻基準点とストローブ信号との伝播遅延時間を計算し、計算した伝搬遅延時間および超音波の速度に基づいて送信ノード102と受信ノード104との間の距離を決定する(ステップSB-7)。
【0064】
これにて、受信ノード104で行われる処理の説明を終了する。
【0065】
ここで、本実施の形態の超音波計測システム100において、送信ノード102は、受信ノード104へ測定指示信号およびストローブ信号を常に送信し、受信ノード104は、通信範囲に入ったとき、これら信号を受信してもよい。つまり、超音波計測システム100において、送信ノード102は常に稼動しており、受信ノード104は、送信ノード102から送られた信号を通信エリアに入ったときに受け、測定を開始してもよい。
【0066】
以上、詳細に説明したように、本発明にかかる時刻基準点情報伝送システムによれば、送信器は、通信路で通信可能な周波数信号を複数生成し、生成した複数の周波数信号に基づいて各々の周波数信号の位相が所定の関係になる時点を定め、定めた当該時点を時刻基準点と定義し、定義した時刻基準点に基づいて各々の周波数信号の位相を調整し、位相を調整した後の複数の周波数信号を合成し、合成した複数の周波数信号を通信信号として受信器へ送信する。受信器は、送信器から送信された通信信号を受信し、受信した通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の周波数信号の位相を抽出し、抽出した複数の位相に基づいて各々の位相が所定の関係になる時点を求め、求めた当該時点を時刻基準点として決定する。これにより、例えば安価な狭帯域送受信素子を使用しても、受信波形歪による影響を抑えて時刻基準点を精度よく且つ短時間で伝送することができる。
【0067】
ここで、改めて本発明を開発するに至るまでの経緯について説明する。
通信システムにおいて、タイミング情報を高速に厳密に伝達したり計測したりする局面は多く存在する。たとえば画像通信で水平・垂直走査の同期をとる局面、同期型デジタルデータ通信で各ビット情報の切り替えタイミング検出などである。計測の分野では信号の遅延時間により距離や角度を計測するレーダー、レーザー、超音波計測器があり、その測定精度は基本的にタイミング情報をどれだけ厳密な精度で検出できるかに負っていると考えることができる。
【0068】
これらの通信システムないし計測システムでは、空間・光ファイバー・導波管・通信ケーブル中を伝搬する電磁波、気体・液体・固体を伝搬する音波の波動現象によりタイミング情報を伝達している。もし使用する波形発生器、波動伝搬媒質、波形受信器が広い周波数領域において十分均等な振幅伝達特性、位相伝達特性をもてば、タイミング情報の正確な伝達は容易である。たとえば単なる矩形の電気信号パルスの前縁、矩形の超音波バーストの前縁などをもって伝えたいタイミングを表現すればよい。
【0069】
しかし前記のような信号は周波数スペクトラムにおいて無限の広がりを持つものである。一方で実在の送受信機構や媒質は多少なりとも不均等な振幅周波数特性、位相周波数特性をもつ。このため矩形パルスや矩形バーストは受信端において変形を受け、特に遠距離の通信システムや、劣悪な周波数特性をもつ波形変換装置、媒質を使用せざるを得ない通信システムでは、厳密なタイミング伝達は困難になる。それはたとえば情報通信速度の制限となって顕在化する。
【0070】
信号の遅延時間を計測することで距離や角度を求める計測器の分野では、タイミング計測の精度は直接に距離計測誤差として現れる。たとえば、40kHzの搬送波バーストの包絡線前縁を検出することで送受信機間の距離計測を行う超音波式距離計がある。超音波の送受信素子には多く圧電セラミック素子を使用するが、それが特に劣悪な(狭帯域の)周波数特性を持つため、受信波形は強く歪みを受ける。この種の計測器の代表的精度は数cm~数10cm程度で、これは空気中を伝搬する音波の速度に照らして換算すると、40kHz超音波バースト波形のタイミング検出では0.1ms~1msが、狭帯域通信路を通過した波形の包絡線を利用して達成できる精度の代表値ということができる。
【0071】
包絡線方式のほかの問題は、バーストの前縁のような信号的に過渡応答特性の強く影響する領域を使うため、素子の特性ばらつきも精度に影響しやすく、器差を補償するための調整になりやすい点にもある。
【0072】
波形の包絡線は伝送路の振幅周波数特性、位相周波数特性の双方の影響を受けるため、それら特性の包絡線形状に与える影響は大きい。もし位相情報のみを使用してタイミングを伝達できれば、より精度の高い通信を行える可能性がある。しかし位相による情報伝達の困難は、それを正弦波のような周期現象から抽出しなければならず、波形は位相値2πラジアンで繰り返すため、受信端で得られる位相は絶対値を2πで除した剰余でしかない点にある。
【0073】
40kHz超音波の波長は空気中で約8.5mmであり、これが位相の2πラジアンに相当する。上のように位相を抽出することで距離を決めようとしても、距離を波長8.5mmで割った余りがわかるのみで、絶対的距離はわからず、実用的距離計にはならない。しかし比較的近接した2点でこの計測を行い、位相の差を得て信号源の角度を求める用途は、2πラジアンの不定さがあっても実行可能なため、そのような角度計は実用されている。
【0074】
また狭い距離の中で変位だけを求めればよい変位計では空気中で8.5mm周期の不定さがあってもかまわない場合があり、この方法で1mm前後の計測精度をもつ微少変位計が実用されている。
【0075】
位相を利用した超音波変位計に8.5mmを越える計測範囲をもたせる発明として、特開2004-191145がある。これは異なる2つの周波数f1,f2(ただしf1>f2)による位相遅延計測を、周波数を切り替えながら2度行うことで、位相φ1,φ2を得、それをさらに吟味することで、実質的にf1-f2の周波数を使用して位相計測をしたことに換算する方法である。たとえばf1,f2として40kHzと39kHzの周波数を切り替えながら計測し、実質的に40-39=1kHzの搬送波で位相計測したような効果を得られる。これにより1mmの計測精度はそのままで、変位計の距離の不定さを1kHzの音波の波長である340mmに延長することができる。
【0076】
しかしこれでも、拡張されたとはいえ位相周期によるタイミング不定は残る。また周波数切り替えによる複数回の計測を行わなければならず、測定時間が長くかかり、またその間に対象物の移動、風向きや気温による伝達媒質の変化があると精度が悪化する。このため、調整された環境で比較的静的な対象物に使用する変位計としては利用可能であるが、絶対距離の必要な距離計、屋外や高速移動する対象物に使用する変位計には向かない。
【0077】
特に空間を伝搬する電磁波、音波の位相を利用したタイミング伝達の困難として、マルチパスがある。伝搬空間に電磁波、音波を反射、回折、散乱させる物体があると、受信端には送信端からの直接波のほか、これら物体で反射回折された間接波の両方が到達し、タイミング精度を悪化させる。タイミング伝達にはマルチパスへの配慮も欠かせない。
【0078】
帯域の制限された通進路(送信機、信号媒体、受信機の総体)でタイミングを正確に送りたいことは通信応用の各所に見られる。特に40kHzの圧電形セラミック振動体を使用した超音波距離計などであるが、このような場合伝送可能な波形を使用して正確なタイミングを伝えることが通信の目的であるのに、波形包絡線を使用した方式を使用するなど、必ずしも束縛条件を十分吟味しているとはいえず、検出精度が悪かった。また器差を補償するための調整に手間取った。
【0079】
搬送波の位相を使用する方法は包絡線の方法を越えるタイミング検出精度をもつが、位相2πラジアン(時間では周期、距離では波長)の決定不定さをもち、短距離変位の検出機には使えても一般タイミング伝達や絶対距離を求める距離計には使用できなかった。またマルチパスの影響を強く受けた。
【0080】
以上のような経緯を踏まえて、鋭意検討した結果、発明者は、通信波形の中に特定の時間基準点を設定することを見いだした。また、本発明では、狭帯域通信路で伝達可能な搬送波を複数同時に、重合させた形で通信する。そして、各素搬送波の位相は送信手段で厳密に制御され、特定のタイミングでのみ位相が合致するようにしておき、それを時間基準点とする。受信手段では各周波数の複合した信号を受信し、演算により各搬送波を分離し、位相を検出する。その位相の合致するタイミングを算出することで、時間基準点とする。これにより、当該時間基準点は、狭帯域の、劣悪な振幅周波数特性、位相周波数特性しかもたない通信路でも伝達可能である。また、短時間の通信で伝達できる。また、包絡線方式の精度を越え、位相方式に匹敵するタイミング精度を得ることができる。しかも位相方式に見られる位相周期のタイミング不定さは回避し、またマルチパスの影響も受けにくい。
【0081】
また、時刻基準点情報伝送システムによれば、受信器において、数式1に基づいて、受信した通信信号の周波数成分を分解して個々の位相情報を抽出する。これにより、一般FFTによることなく情報伝送に関わる周波数のみを扱うことで、ノイズの影響を軽減し、また高速な検出操作が可能になる。なお、数式1から個々の搬送波の振幅基準を得ることにより、複数搬送波による直交振幅変調を効率よく復調することができる。また、従来のFFTなどによる周波数分解方法に比較して、高速に、高精度に、要素周波数の位相情報や振幅情報を抽出することができる。
【0082】
ここで、本発明をデータ通信システムとして応用する場合、本発明で厳密な時刻基準点を得られるので、後続のビット情報は当該時刻基準点に合わせて切り出すことで、性能のよい調歩同期通信方式を実現することができる。また、時刻基準点にあわせて位相の基準と振幅の基準を得られる(数式1参照)ので、これら基準は、データが位相振幅変調で表現されていた場合においてデジタル的復調の基準信号として利用することができる。
より詳細に述べると、複数周波数の搬送波重畳による同期パターンから、位相一致により時刻基準点を得ることができるのみならず、基準信号の振幅(数式1のa1およびa2)と位相(数式1のp1およびp2)を得ることができる。そして、それらは、一般のデジタル通信を復調する場合の基準として使用できるものである。すなわち、直交振幅変調(QAM変調)されたデータパケットの先頭に同期パターンを配置すれば、復調するための基準振幅には同期パターンから得た振幅(a1およびa2)を使用すればよく、基準位相には同期パターンから得た位相(p1およびp2)を使用すればよい。また、データパケットをシンボル単位に分割することも、シンボルレート(ビットレート)が固定であれば、時刻基準点を使用して非常に精密に行うことができ、高信頼のデータ復調が可能である。
【0083】
また、時刻基準点情報伝送システムによれば、受信器において、決定した時刻基準点および所定の時間長に基づいて、通信信号を読み出し始める時点である読出開始時点を設定し、設定した読出開始時点から所定の時間長分の通信信号を、受信した通信信号から読み出し、読み出した当該通信信号に基づいて改めて複数の位相を抽出し、抽出した複数の位相に基づいて改めて時刻基準点を決定する。これにより、位相抽出処理に係る波形の抽出場所や長さは任意であることから、受信した通信信号の波形における冒頭部の過渡応答妨害を除外し、また振幅の大きな部分を優先して使用することで、雑音(ノイズ)の影響を効果的に回避することができる。また、検出に使用する波形は比較的短いものでよいので、高速な検出ができ、またマルチパス妨害による検出誤差を軽減できる。
【0084】
また、時刻基準点情報伝送システムによれば、受信器において、受信した通信信号に基づいて、当該通信信号に含まれる各々の周波数信号の位相および当該通信信号に含まれる各々の周波数信号の角周波数を抽出し、抽出した複数の位相および複数の角周波数に基づいて各々の位相が所定の関係になる時点を求め、求めた当該時点を時刻基準点として決定する。具体的には、例えば通信信号が2つの周波数信号を合成したものである場合、受信器は、2つの周波数信号の位相が一致する時点を、観測された任意の時点での位相差に基づいて、数式6で求め、求めた当該時点を時刻基準点として決定する。これにより、短時間且つ高精度に時刻基準点を決定することができる。この具体例は、物理学的には、例えば超音波の通信路(伝送路)を含む送信器と受信器のペアをフィルタ回路網と見なし、式「D=Δp/Δω」(Δp:位相差、Δω:角周波数差)でその群遅延時間Dを計測していることに相当する。本発明者らは、タイミング信号の伝達が、フィルタにおける群遅延時間の計測と等価な方法でできることを見出した。本発明は、群遅延時間の決定に必要な位相差Δpの計測に複素周波数の複合波形を使っていることが特徴であり、当該特徴により時刻基準点の決定を短時間且つ高精度で実現している。
【0085】
また、時刻基準点情報伝送システムによれば、送信器において、位相を揃えた複数個の周波数信号を、超音波、電磁波、光のいずれか1つで、直接搬送波の通信信号として送信または他周波数の搬送波で変調した通信信号として送信し、受信器において、超音波、電磁波、光のいずれか1つで、直接搬送波の通信信号を受信または変調された通信信号を受信して復調する。これにより、一般の線形波動で表現できるものに本発明を適用することができる。
【0086】
[数式1の解法]
ここで、数式1の解法について説明する。
【数7】
JP0004621924B2_000008t.gif 数式1に示す方程式は、a1-jp1=a1(cosp1+jsinp1)およびa2-jp2=a2(cosp2+jsinp2)について、次の方法により解くことができる。
まず、行列Aおよび行列Bをそれぞれ、下記の数式7および数式8のように定義すると、数式1は、実部および虚部に関して2組の方程式(下記の数式9および数式10)となる。
【数8】
JP0004621924B2_000009t.gif つぎに、数式9および数式10をそれぞれ解けば、a1jp1およびa2jp2の実部、虚部を得たことになる。
最後に、a1jp1およびa2jp2の複素数値の偏角を求め、位相p1およびp2を得る。また、絶対値を求めることで振幅a1およびa2を得る。
なお、位相p1およびp2は位相伝達特性に相当するものであり、その一致時刻から時刻基準点を再現することができる。
数式1は2つの周波数信号を複合(合成)した複合波(通信信号)を解析する式であるため、当該数式1では2×2行列を使用している。数式1を用いることで本発明は多くの用途において位相の抽出に関し高い性能(抽出速度や抽出精度など)を発揮するが、n個の周波数信号を複合した複合波を解析する場合には数式1をn×n行列を使用した式に拡張すればよい。なお、当該拡張は当業者にとって容易である。
【実施例】
【0087】
本実施例では、上述した実施の形態における超音波距離計測システム100を用いて送信ノード102と受信ノード104との間の距離を計測した。実験の結果、3mの距離で誤差1mm以内の計測値を得ることができた。この計測値は、空気中における超音波の波長が8.5mmであることを踏まえると、かなり高精度である(波長の数分の一の誤差である)。また、この結果は、概ね±3μs以内の精度で時刻基準点を伝達できたことを示しており、従来用いられていた包絡線検出では達成することは困難である。また、本発明において、位相を用いた方法の課題である位相周期によるタイミング情報の伝達の不定さは存在しない。また、距離計として作動させる場合、本発明によれば、ゼロから10m程度(音波が減衰することによる測定限界)まで、連続的に距離の計測を行うことができる。しかも、本発明によれば、距離の計測では2ms程度のビート波形を受信するだけなので、極めて短時間に時刻基準点の伝達および距離の計測を行うことができる。
【0088】
さらに、本発明で送信する単発のビート波形は、空間に70cm程度(40kHzの超音波の場合)の波束として存在するだけなので、本発明によれば、障害物が存在する場合でも、経路差が70cmある場合には直接波しか感知せず、マルチパスの影響を受けずに計測精度を維持することができる。なお、超音波の周波数を上げれば、経路差の影響をより受けずに時刻基準点の伝達および距離の計測を実施することができる。また、本発明によれば、器差を補償する場合も、特定周波数における位相特性のみを補償すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上のように、本発明にかかる時刻基準点情報伝送システム、および当該時刻基準点情報伝送システムで用いる受信器は、時刻基準点を精度よく且つ短時間で伝送することができ、ノード間の距離や角度などを計測する際に好適である。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
4
【図6】
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【図7】
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