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明細書 :植物の篩管を通して遺伝子の転写物を輸送する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5360702号 (P5360702)
公開番号 特開2010-075116 (P2010-075116A)
登録日 平成25年9月13日(2013.9.13)
発行日 平成25年12月4日(2013.12.4)
公開日 平成22年4月8日(2010.4.8)
発明の名称または考案の名称 植物の篩管を通して遺伝子の転写物を輸送する方法
国際特許分類 A01H   1/00        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
FI A01H 1/00 ZNAA
A01H 5/00 A
C12N 15/00 A
C12N 1/21
請求項の数または発明の数 3
全頁数 7
出願番号 特願2008-248887 (P2008-248887)
出願日 平成20年9月26日(2008.9.26)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 育種学研究第10巻別冊1号第294頁(日本育種学会第113回講演会要旨集)平成20年3月28日発行(発行者:日本育種学会)に発表
特許法第30条第1項適用 平成20年3月28・29日明治大学において開催された日本育種学会第113回講演会(主催者:日本育種学会)で文書をもって発表
審査請求日 平成23年8月31日(2011.8.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
発明者または考案者 【氏名】原田 竹雄
【氏名】工藤 久之
個別代理人の代理人 【識別番号】100106611、【弁理士】、【氏名又は名称】辻田 幸史
【識別番号】100087745、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 善廣
【識別番号】100098545、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 伸一
審査官 【審査官】▲高▼ 美葉子
参考文献・文献 FEBS Lett.(1997),Vol.410,No.2-3,p.213-218
J. Exp. Bot. (2008),Vol.59,No.1,p.85-92(Epub 2007 Sep 27)
調査した分野 A01H 1/00
A01H 5/00
C12N 1/00
C12N 15/00
CA/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
植物の篩管を通して遺伝子の転写物であるRNAを輸送する方法であって、プロモーター、輸送対象遺伝子、配列表の配列番号1に記載の塩基配列を少なくとも含むヌクレオチド、ターミネーターを、5’側からこの順序で有してなる篩管輸送RNA発現ベクターを保持するアグロバクテリウムを、植物に感染させることを特徴とする方法。
【請求項2】
プロモーター、輸送対象遺伝子、配列表の配列番号1に記載の塩基配列を少なくとも含むヌクレオチド、ターミネーターを、5’側からこの順序で有してなることを特徴とする篩管輸送RNA発現ベクター。
【請求項3】
プロモーター、輸送対象遺伝子、配列表の配列番号1に記載の塩基配列を少なくとも含むヌクレオチド、ターミネーターを、5’側からこの順序で有してなる篩管輸送RNA発現ベクターを保持することを特徴とするアグロバクテリウム。


発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の篩管を通して遺伝子の転写物であるRNAを輸送する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の原形質連絡(plasmodesmata)を経由した輸送系には、隣接する細胞間の短距離輸送と、伴細胞(companion cell)から篩管(phloem)への原形質連絡輸送を介した長距離輸送とがある。最近の研究から、植物は長距離輸送系を使用してRNAサイレンシングのシグナルを植物体全体にわたって伝搬させることにより、ウイルスに対する抵抗性を獲得していることが明らかになってきた(非特許文献1)。また、特定の内在mRNAが篩管を通して植物体内の離れた場所に輸送され、機能していることも明らかにされてきており、このような植物の篩管を通した遺伝子の転写物の輸送機構に関し、篩管輸送RNA(PTR:Phloem Transportable RNA)としてジベレリンシグナル伝達系のGAI(GA-INSENSITIVE)遺伝子が同定されている(非特許文献2)。すなわち、植物においては、維管束系組織の篩管を通してmicroRNAや特殊なmRNAが輸送され、それらが成長の調節に関わっている(非特許文献3~6)。しかしながら、植物の篩管を通した遺伝子の転写物の輸送機構については未だ不明な部分が多い。

【非特許文献1】Eckardt, N. A. (2004) Small RNA on the move. Plant Cell 16: 1951-1954.
【非特許文献2】Ruiz-Medrano, R., B. Xoconostle-Cazares, and W. J. Lucas (1999) Phloem long-distance transport of CmNACP mRNA: implications for supracellular regulation in plants. Development 126: 4405-4419.
【非特許文献3】Yoo, B-C., Kragler, F., Varkonyi-Gasic, E., Haywood, V., Archer-Evans, S., Lee, Y. M., Lought, T. J., Lucas, W. J. (2004) A sustemic small RNA signaling sustemin plants. Plant Cell 16: 1979-2000.
【非特許文献4】Kehr, J., Buhtz, A. (2007) Long distance transport and movement of RNA through the phloem. J. Exp. Bot. 59: 85-92.
【非特許文献5】Pant, D. P., Buhtz, A., Kehr, J., Scheible W-R. (2007) MicroRNA399 is a long-distance signal for the regulation of plant phosphate homeostasis. Plant J. 53: 731-738.
【非特許文献6】Kim, M., Canio, W., Kessle, S., Shinha, N. (2001) Developmental changes due to long-distance movement of a homeobox movement of a homeobox fusion transcript in tomato. Science 293: 287-289.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、植物における篩管を通した遺伝子の転写物であるRNAの輸送機構を司る遺伝子を特定し、RNAを輸送する方法を確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、Silverstone, A. L., Ciampaglio, C. N., and Sun, T. (1998) The Arabidopsis RGA gene encodes a transcriptional regulator repressing the gibberellin signal transduction pathway. Plant Cell 10: 155-169.においてGAI遺伝子と同一であることが報告されたシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のRGA2(for repressor of the ga1-3 mutant 2)遺伝子(cDNA:Accession No. Y11337)の配列中に、植物の篩管を通した遺伝子の転写物の輸送機構を司る領域が存在することを見出した。
【0005】
上記の知見に基づいてなされた本発明の植物の篩管を通して遺伝子の転写物であるRNAを輸送する方法は、請求項1記載の通り、プロモーター、輸送対象遺伝子、配列表の配列番号1に記載の塩基配列を少なくとも含むヌクレオチド、ターミネーターを、5’側からこの順序で有してなる篩管輸送RNA発現ベクターを保持するアグロバクテリウムを、植物に感染させることを特徴とする。
また、本発明の篩管輸送RNA発現ベクターは、請求項2記載の通り、プロモーター、輸送対象遺伝子、配列表の配列番号1に記載の塩基配列を少なくとも含むヌクレオチド、ターミネーターを、5’側からこの順序で有してなることを特徴とする。
また、本発明のアグロバクテリウムは、請求項3記載の通り、プロモーター、輸送対象遺伝子、配列表の配列番号1に記載の塩基配列を少なくとも含むヌクレオチド、ターミネーターを、5’側からこの順序で有してなる篩管輸送RNA発現ベクターを保持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、植物の篩管を通して遺伝子の転写物であるRNAを輸送する方法が提供され、例えば開花誘導遺伝子などの農業分野において有用な外来遺伝子のmRNAを台木から穂木へ篩管を通して輸送し、穂木で発現させることが可能となる。この場合、穂木は組み換え遺伝子を含まないため遺伝子導入個体に相当しないことから、花粉の飛散などによる組み換え遺伝子の漏出問題の根本的な解決を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の植物の篩管を通して遺伝子の転写物であるRNAを輸送する方法において使用する篩管輸送RNA発現ベクターは、プロモーター、輸送対象遺伝子、配列表の配列番号1に記載の塩基配列を少なくとも含むヌクレオチド、ターミネーターを、5’側からこの順序で有してなることを特徴とするものである。プロモーターとしては例えば公知のCaMV35SプロモーターやGASプロモーターなどが採用でき、ターミネーターとしては例えば公知のNOSターミネーターなどが採用できるが、プロモーターとターミネーターの組み合わせはこれらに限定されるものではない。輸送対象遺伝子は、例えば開花誘導遺伝子などの農業分野において有用な外来遺伝子などが挙げられる。配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドは、1951個の塩基から構成されるRGA2遺伝子(cDNA:Accession No. Y11337)の952~1194bpに相当する領域の243個の塩基から構成されるヌクレオチドである(以下「Atgai243」と称する)。この篩管輸送RNA発現ベクターは、例えば選択マーカー遺伝子である大腸菌由来のカナマイシン耐性遺伝子とレポーター遺伝子であるβ-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を持つバイナリーベクターpBI121(Accession No. AF485783)を用い、pBI121が有するGUS遺伝子を輸送対象遺伝子とAtgai243との融合遺伝子に置換することによって作製することができる。必要に応じて外来遺伝子とAtgai243との間に終止コドンを付加してもよい(輸送先で外来遺伝子のみを発現させるため)。
【0008】
篩管輸送RNA発現ベクターのアグロバクテリウムへの導入は、自体公知の方法に従って行うことができる(必要であれば例えばBurow, M. D., Chlan, A. A., Sen, P., Lisca, A., Murai, N. (1990) High-frequency generation of transgenic tobacco plants after modified leaf disk cocultivation with Agrobacterium tumefaciens. Plant Mol. Biol.Rep. 8: 124-139.を参照のこと)。アグロバクテリウムとしては例えば公知のAgrobacterium tumefacience EHA105株などが挙げられるがこれに限定されるものではない。篩管輸送RNA発現ベクターを保持するアグロバクテリウムの植物への感染は、例えばアグロインフィルトレーション法によって行うことができる(必要であれば例えばRatchlif, F. G., MacFarlan, S. A., Baulcomb, D. C. (1999) Gene silencing without DNA: RNA-mediated cross-protection between viruses. Plant Cell 11: 1207-1216.を参照のこと)。
【実施例】
【0009】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0010】
実施例1:外来遺伝子としてレポーター遺伝子である緑色蛍光タンパク質(GFP:Green Fluorescent Protein)遺伝子のRNAの篩管を通した輸送
(ア)実験方法
(1)篩管輸送RNA発現ベクターの作製
自体周知の組み換えDNA技術により、図1に示す方法に基づいてGFP遺伝子のRNAを篩管を通して輸送が可能な篩管輸送RNA発現ベクター(35S:GFP-Atgai243)を作製した。図1において、RBは右境界配列、nos proはNOSプロモーター、nptIIはカナマイシン耐性遺伝子、nos terおよびNTはNOSターミネーター、promoterはCaMV35Sプロモーター、GUSはβ-グルクロニダーゼ遺伝子、GFPは緑色蛍光タンパク質遺伝子、243は配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるAtgai243、LBは左境界配列を意味する。
【0011】
(2)篩管輸送RNA発現ベクターのアグロバクテリウムへの導入
Agrobacterium tumefacience EHA105株の単一コロニーを、LB培地(組成は表1参照)に抗生物質(50 mg/l Rifampicin)を添加した培地に植え付け、28℃で24時間振盪培養し、継代してさらに12時間振盪培養した。その後、4℃にて6,000 rpmで10分間遠心し、回収した菌を滅菌水および10 %グリセロールで洗浄した。この菌のペレットを10 %グリセロール1 mlで懸濁し、そのうちの40μlを(1)で作製したプラスミド0.5~1.0μgと混合し、混合液をキュベットに移し、20 kV/cm,6 msの条件でエレクトロポレーションすることで、篩管輸送RNA発現ベクターをアグロバクテリウムに導入した。電圧をかけたキュベット内の反応液にLB培地1 mlを加え、1.5 mlチューブに回収し、28℃で24時間培養した。抗生物質(50 mg/l Rifampicinおよび50 mg/l Kanamycin)を含むLB寒天培地上に培養液を塗布し、28℃で3日間培養した。得られたコロニーを新しいLB培地で培養し、アグロインフィルトレーションに用いた。
【0012】
【表1】
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【0013】
(3)篩管輸送RNA発現ベクターを保持するアグロバクテリウムの植物への感染
LB培地5 mlに抗生物質(50 mg/l Rifampicinおよび50 mg/l Kanamycin)を添加し、篩管輸送RNA発現ベクターを保持するアグロバクテリウムを28℃で一晩培養し、継代してさらに12時間振盪培養した。その後、室温にて3,000 rpmで20分間遠心し、回収した菌をOD600 = 1.0になるように懸濁液培地(組成は表2参照)に懸濁した。明所条件下の温室にて4週間栽培したNicotiana benthamianaの葉に8Gの注射針で穴をあけ、0.5 ml程度の菌液を注入することでアグロインフィルトレーションした。その後、注入葉および最上位葉の腋芽を残し、葉や腋芽・頂芽を剃刀刃にて切除してから、明所条件下の温室にて4日間栽培した後、葉(Leaf)、腋芽の頂端(LM)、根端(Root)からRNA抽出を行い、RT-PCR解析でGFP遺伝子のRNAの存在を確認した。
【0014】
【表2】
JP0005360702B2_000003t.gif

【0015】
(イ)実験結果
図2に示す。なお、図2には、比較対象として、35S:GFP-Atgai243におけるGFP遺伝子-Atgai243の代わりにGFP遺伝子のみを連結させたベクター(35S:GFP)を用いること以外は上記と同様の方法で実験を行った結果をあわせて示す。図2から明らかなように、被輸送能を有さないGFP遺伝子の下流にAtgai243を連結することで、GFP遺伝子のRNAが篩管を通して腋芽の頂端および根端まで輸送されることがわかった。
【0016】
参考例1:Atgai243の探索方法とその結果
実施例1と同様にしてCaMV35Sプロモーターの下流にRGA2遺伝子(cDNA)の様々な領域を欠失させた遺伝子を融合したベクターシリーズを構築し、GFP遺伝子のRNAが輸送されるか否かを解析することで、植物の篩管を通した遺伝子の転写物の輸送機構を司る領域としてAtgai243を見出した。
【0017】
実施例2:外来遺伝子として花芽形成転写因子遺伝子であるLFY遺伝子のRNAの篩管を通した輸送
シロイヌナズナのLFY遺伝子を用い、実施例1と同様にして実験を行うことで、LFY遺伝子のRNAが篩管を通して腋芽の頂端および根端まで輸送されることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、植物の篩管を通して遺伝子の転写物であるRNAを輸送する方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例における篩管輸送RNA発現ベクター(35S:GFP-Atgai243)の作製方法である。
【図2】同、35S:GFP-Atgai243のGFP遺伝子のRNAの輸送能の検出結果(アガロースゲル電気泳動)である。
図面
【図1】
0
【図2】
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