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明細書 :スフェロイド複合体およびその製造方法、ならびに多層型スフェロイド複合体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5388093号 (P5388093)
公開番号 特開2010-063375 (P2010-063375A)
登録日 平成25年10月18日(2013.10.18)
発行日 平成26年1月15日(2014.1.15)
公開日 平成22年3月25日(2010.3.25)
発明の名称または考案の名称 スフェロイド複合体およびその製造方法、ならびに多層型スフェロイド複合体
国際特許分類 C12M   3/00        (2006.01)
C12N   1/04        (2006.01)
C08L 101/14        (2006.01)
C12N  11/08        (2006.01)
FI C12M 3/00 A
C12N 1/04
C08L 101/14
C12N 11/08 E
請求項の数または発明の数 12
全頁数 25
出願番号 特願2008-230224 (P2008-230224)
出願日 平成20年9月8日(2008.9.8)
審査請求日 平成23年8月4日(2011.8.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】803000115
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
発明者または考案者 【氏名】大塚 英典
【氏名】里見 智美
【氏名】上野 耕治
【氏名】山本 雅
【氏名】中曽根 佑一
【氏名】明石 京子
個別代理人の代理人 【識別番号】100079049、【弁理士】、【氏名又は名称】中島 淳
【識別番号】100084995、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 和詳
【識別番号】100085279、【弁理士】、【氏名又は名称】西元 勝一
【識別番号】100099025、【弁理士】、【氏名又は名称】福田 浩志
審査官 【審査官】▲高▼ 美葉子
参考文献・文献 特開2007-325910(JP,A)
国際公開第2002/010349(WO,A1)
里見智美,et al.,微細加工高分子表面上での初代軟骨細胞およびES細胞のスフェロイド培養,第29回日本バイオマテリアル学会大会予稿集(2007),p.106 SYP-06
Yoshiyuki SATO,et al.,Synthesis and evaluaton of PEG hydrogel incoorporating two dimensionally dispersed cell spheroid.,Transactions of the Materials Reserach Society of Japan(2007),Vol.32,No.3,p.773-776
平野覚浩,et al.,親水性高分子修飾による非特異吸着抑制界面の創製とセルアレイへの展開,第49回日本学術会議材料研究連合講演会論文集(2005),p.397-398
Biomed Microdevices(2007),Vol.9,p.911-922
調査した分野 C12M 3/00
C12N 1/00-5/00
CA/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
細胞接着性の織成体又は不織布から選ばれる多孔質基材、ならびに、前記多孔質基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含有する感光性組成物を硬化させて形成された複数の親水性領域および疎水性領域を含む基板と、
前記基板上の疎水性領域に形成されたスフェロイドと、
を含むスフェロイド複合体。
【請求項2】
前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、重合度が5~1000のポリアルキレングリコール基を4以上有する、請求項1に記載のスフェロイド複合体。
【請求項3】
前記多孔質基材は、生分解性化合物および細胞外マトリクスの少なくとも一方を含む請求項1または請求項2に記載のスフェロイド複合体。
【請求項4】
前記多孔質基材は、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリεカプロラクトン、ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸、フィブリン、レクチン由来の接着タンパク質、ポリリジン、および接着性オリゴペプチドから選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のスフェロイド複合体。
【請求項5】
前記疎水性領域は前記多孔質基材上にアレイ状に形成されている請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のスフェロイド複合体。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のスフェロイド複合体の2以上が積層された多層型スフェロイド複合体。
【請求項7】
細胞接着性の織成体又は不織布から選ばれる多孔質基材、ならびに、前記多孔質基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含有する感光性組成物を硬化させて形成された複数の親水性領域および疎水性領域を含む基板上に、細胞を播種することと、
播種された細胞を培養して、培養された細胞に由来するスフェロイドを前記基板上の疎水性領域に形成させることと、
を含むスフェロイド複合体の製造方法。
【請求項8】
前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、重合度が5~1000のポリアルキレングリコール基を4以上有する、請求項7に記載のスフェロイド複合体の製造方法。
【請求項9】
前記多孔質基材は、生分解性化合物および細胞外マトリクスの少なくとも一方を含む請求項7または請求項8に記載のスフェロイド複合体の製造方法。
【請求項10】
前記多孔質基材は、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリεカプロラクトン、ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸、フィブリン、レクチン由来の接着タンパク質、ポリリジン、および接着性オリゴペプチドから選ばれる少なくとも1種を含む請求項7~請求項9のいずれか1項に記載のスフェロイド複合体の製造方法。
【請求項11】
前記多孔質基材は、温度応答的に性状が変化する温度応答性層上に配置されている請求項7~請求項10のいずれか1項に記載のスフェロイド複合体の製造方法。
【請求項12】
前記疎水性領域は前記多孔質基材上にアレイ状に形成されている請求項7~請求項11のいずれか1項に記載のスフェロイド複合体の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、スフェロイド複合体およびその製造方法、ならびに多層型スフェロイド複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の細胞培養では、二次元的な平面培養であるため、多くの細胞が立体的に凝集している生体器官とは、組織形態だけでなく機能の発現においても大きな差異が存在する。このような理由から、近年、ヒトを含めた動物の組織細胞を三次元的に培養し、培養細胞によって生体の器官様構造体を再構築しようとする試みが検討されはじめている。そのための三次元細胞培養方法として、細胞をコラーゲンゲル内に包埋して三次元的に培養する方法やスフェロイド形成法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、通液性を有する糸を用いた通液性細胞培養担体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。

【特許文献1】特開平7-79772号公報
【特許文献2】特開平7-298876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の三次元細胞培養法であるコラーゲンゲル培養法や、特許文献1に記載のスフェロイド形成法の場合には、培養細胞の三次元構造体が大きくなるにつれて、内側の細胞に栄養分を供給することが困難になるという問題があった。また、同時にそれらの細胞の分泌する細胞代謝物(有益な生理活性物質と有害となる老廃物)を外側へ放出することができなくなることがあり、このため、従来方法で構築した細胞の三次元構造体の場合には、培養時間が長くなるに従って、内側の細胞が壊死してしまう場合があった。
また、上記特許文献2に記載の培養担体では、担体全体に細胞が接着して細胞の足場となるため、細胞の三次元凝集体を空間的に凝集してしまい、長期間にわたって細胞機能を高い状態のまま維持培養することが難しいという問題があった。
本発明は、織成体又は不織布から選ばれる多孔質基材上に均一な大きさを有する複数のスフェロイドを含むスフェロイド複合体およびその効率的な製造方法、ならびに該スフェロイド複合体が積層された多層型スフェロイド複合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様は、細胞接着性の織成体又は不織布から選ばれる多孔質基材、ならびに、前記多孔質基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含有する感光性組成物を硬化させて形成された複数の親水性領域および疎水性領域を含む基板と、前記基板上の疎水性領域に形成されたスフェロイドと、を含むスフェロイド複合体である。
【0005】
前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、重合度が5~1000のポリアルキレングリコール基を4以上有することが好ましい。
また前記多孔質基材は、細生分解性化合物および細胞外マトリクスの少なくとも一方を含むことが好ましく、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリεカプロラクトン、ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸、フィブリン、レクチン由来の接着タンパク質、ポリリジン、および接着性オリゴペプチドから選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
さらに前記疎水性領域は前記多孔質基材上にアレイ状に形成されていることもまた好ましい。
【0006】
また本発明の第2の態様は前記スフェロイド複合体の2以上が積層された多層型スフェロイド複合体である。
【0007】
本発明の第3の態様は、細胞接着性の織成体又は不織布から選ばれる多孔質基材と、前記多孔質基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含有する感光性組成物を硬化させて形成された複数の親水性領域および疎水性領域と、を含む基板上に、細胞を播種することと、播種された細胞を培養して、培養された細胞に由来するスフェロイドを前記基板上の疎水性領域に形成させることと、を含むスフェロイド複合体の製造方法である。
【0008】
前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、重合度が5~1000のポリアルキレングリコール基を4以上有することが好ましい。
また前記多孔質基材は、細生分解性化合物および細胞外マトリクスの少なくとも一方を含むことが好ましく、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリεカプロラクトン、ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸、フィブリン、レクチン由来の接着タンパク質、ポリリジン、および接着性オリゴペプチドから選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
また前記多孔質基材は、温度応答的に性状が変化する温度応答性層上に配置されていることが好ましい。
さらに前記疎水性領域は前記多孔質基材上にアレイ状に形成されていることもまた好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、織成体又は不織布から選ばれる多孔質基材上に均一な大きさを有する複数のスフェロイドを含むスフェロイド複合体およびその効率的な製造方法、ならびに該スフェロイド複合体が積層された多層型スフェロイド複合体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のスフェロイド複合体は、細胞接着性の織成体又は不織布から選ばれる多孔質基材(以下、単に「多孔質基材」とも称する。)、ならびに、前記多孔質基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含有する感光性組成物を硬化させて形成された複数の親水性領域および疎水性領域を含む基板と、前記基板上の疎水性領域に形成されたスフェロイドとを含むものである。
かかるスフェロイド複合体においては、多孔質基材上に均一な大きさのスフェロイドが形成されるため、スフェロイドの維持性がより良好になる。
【0011】
本発明のスフェロイド複合体は、後述するスフェロイド複合体の製造方法で製造されることが好ましい。これにより、スフェロイドの大きさをより効率的に均一化することができ、より良好な維持性を有するスフェロイド複合体となる。
本発明のスフェロイド複合体の詳細については、スフェロイド複合体の製造方法と併せて後述する。
【0012】
本発明の多層型スフェロイド複合体は、前記スフェロイド複合体の2以上が、積層されて形成されたものである。これにより均一な大きさを有する複数のスフェロイドが3次元的に配置された多層型スフェロイド複合体を得ることができる。
【0013】
積層の方法としては、特に制限はなく通常の方法を適宜用いることができる。また、積層するスフェロイド複合体の数についても特に制限はなく、目的に応じて積層数を適宜選択することができる。
【0014】
このようにして得られた多層型スフェロイド複合体は、均一な大きさのスフェロイドが3次元的に配置されているので、例えば、移植片として用いた場合に組織様の挙動をとりやすい。
【0015】
本発明のスフェロイド複合体の製造方法は、細胞接着性の多孔質基材、ならびに、前記多孔質基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含有する感光性組成物を硬化させて形成された複数の親水性領域および疎水性領域を含む基板上に、細胞を播種することと、播種された細胞を培養して、培養された細胞に由来するスフェロイドを形成させることと、を含む。
かかる基板を用いることで、均一な大きさを有する複数のスフェロイドを多孔質基材上の疎水性領域に効率的に形成することができ、基板と基板上のスフェロイドとを含むスフェロイド複合体を効率よく製造することができる。
【0016】
また本発明の製造方法で製造されるスフェロイド複合体は、多孔質基材上にスフェロイドが形成されているため、多孔質基材を通じてスフェロイドの維持に必要な物質を供給し、また不要な物質を除去することができ、スフェロイドの維持性がより良好になる。
更に前記スフェロイド複合体を複数積層して多層型スフェロイド複合体を形成した場合でも、個々のスフェロイドをより良好な状態で維持することが可能となる。
【0017】
また、上記のような特徴を有する多層型細スフェロイド複合体を用いて細胞を培養することで、細胞は効率よく三次元構築体を形成して培養され、その内部構成細胞への新鮮な培養液の供給と細胞代謝物(有益な生理活性物質や、老廃物)の除去をも可能とすることができる。さらに説明すると、上記のとおり、本発明における基材は通液性を有するため、特に基材(細胞接着ドメイン層)を介して基材上およびその周囲の培養細胞に培養液を供給することができる。このため、長期間の培養により細胞数が増加した場合にも、内側の細胞が壊死するのを防ぐことができるとともに、内側の細胞のみならず、全構成細胞から、経時的に細胞代謝物(有益な生理活性物質あるいは有害な老廃物)を循環培養液中に回収することができる。つまり、本発明における基材は、生体組織における毛細血管と同様の機能を有していることになる。
このような基板と基板上に形成された培養細胞に由来する多細胞性擬集塊(スフェロイド)とからなるスフェロイド複合体は、形態的にも、機能発現の点からも生体器官のすぐれたモデルとなり、人工臓器の開発や新薬の薬効または毒性の評価系の開発、個人レベルでの抗癌剤の選択と癌の転移能評価等において経時的代謝物を回収測定できることも加え極めて有用な材料となる。
さらに、このようなスフェロイド複合体は、熱傷や褥瘡などの創傷治療用の移植体として応用も可能と考えられる。
【0018】
本発明のスフェロイド複合体は、上記の細胞の三次元培養を効率よく行うため、培養装置として構成することもできる。その構成は、本発明のスフェロイド複合体を使用するのであれば、特に限定はない。例えば、スフェロイド複合体への培養液の通液供給を制御する手段を備えた培養装置として、構成してもよい。このような培養装置の構成としては、例えば、支持体に立設支持された、もしくは、支持体を用いずに培養容器に取付けたピペット状体もしくはスポイト状体を使用して培養液の通液供給を制御することや、この培養液の供給手段にポンプを備えてもよい。
【0019】
さらにまた、本発明におけるスフェロイド複合体は、たとえば、栄養血管を周囲に誘導する場とすることもできる。生体の組織もしくは器官は、血管による栄養送達等が重要である。したがって、たとえば、生理活性因子や塩基性繊維芽細胞増殖因子(b-FGF)等の血管新生因子(増殖因子)を兼備し、血管誘導をサポートするように、ナノストラクチャおよびマイクロストラクチャを制御した足場材料を組み合わせて、空間配置された細胞凝集塊内部への血管侵入を促すように作用させることで、血管形成を誘導することもできる。
そうすることで、さらに生体に近い環境とすることができて、より効率よく細胞を自己組織形成させることができる。
【0020】
前記基板において、前記親水性領域は、後述する感光性組成物が硬化した架橋体が形成された領域であり、また前記疎水性領域は、前記親水性領域以外の領域であって多孔質基材が露出した領域である。
本発明における基板は、複数の前記親水性領域と複数の疎水性領域とが区画化されて形成された基板であることが好ましい。また前記親水性領域および疎水性領域の数、大きさおよびその形状には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。尚、本発明における基板およびその作製方法の詳細については後述する。
【0021】
本発明においては、均一な大きさのスフェロイドを形成する観点から、前記複数の疎水性領域が均一な大きさおよび形状を有していることが好ましく、前記複数の疎水性領域がアレイ状に形成されていることがより好ましい。
また、大量の均質なスフェロイドを効率的に形成する観点から、前記疎水性領域を例えば円状に形成した場合の大きさとして、直径が50~500μmであることが好ましく、100~300μmであることがより好ましい。
【0022】
本発明のスフェロイド複合体の作製方法は、前記基板上に、細胞を播種することと、播種された細胞を培養して、培養された細胞由来のスフェロイドを基板上の疎水性領域に形成させることを含む。
前記基板上に細胞を播種し、培養することで、前記基板上の疎水性領域に培養された細胞由来のスフェロイドを形成することができる。すなわち、前記基板上の疎水性領域にのみ細胞が配置され、親水性領域には細胞が接着しないことにより、疎水性領域の数、大きさ、およびその形状に応じたスフェロイドを形成することができる。
【0023】
本発明において前記基板上に播種する細胞としては、接着性細胞であれば、種および由来組織は特に限定されない。例えば、生体より採取した直後の細胞および癌化した樹立細胞系等を挙げることができ、好ましくは特定の臓器の機能発現および病態に関連する細胞である。より具体的には、薬物代謝に関連する肝実質細胞、血糖値制御に関連する膵臓β細胞、骨再生に関連する骨芽細胞、軟骨細胞、神経伝達にかかわる神経幹細胞、発毛に関連する毛母細胞、がん細胞、繊維芽細胞、および様々な細胞へ分化誘導できる胚性幹細胞、及び間葉系幹細胞等を挙げることができる。またこれら細胞と相互作用する非実質細胞も用いることができる。
【0024】
各種細胞の培養には、通常使用される培地を使用することができる。培養に用いられる培地としては、一般に動物細胞の培養に用いられる培地であればよく、例えば、イスコフ培地、RPMI培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、MEM培地、F12培地等の血清を含まない各種の基礎培養液(標準培養液)を挙げることができる。
この培地には、細胞の増殖を促進するための血清を添加するか、あるいは血清に代替するものとして、例えばFGF、EGF、PDGF等の細胞増殖因子やトランスフェリン等の既知血清成分を添加してもよい。なお、血清を添加する場合の濃度は、そのときの培養状態によって適宜変更することができるが、通常5容量%~10容量%とすることができる。また、適宜、各種ビタミンやストレプトマイシン等の抗生物質(AB)を添加したものであってもよい。
【0025】
各種細胞の培養条件は、細胞に応じて適宜選択することができる。例えば37℃の温度で5%CO濃度のインキュベーター内での培養条件を適用することができる。
また各種細胞由来のスフェロイドの形成においては、通常の培養条件で2時間~2日程度培養を行うことでスフェロイドを形成することができる。
【0026】
前記基板上に、各種細胞を播種する方法に特に制限はなく通常の方法を適宜用いることができる。また播種する胚性幹細胞の密度については、スフェロイドが形成可能であれば特に制限はなく、基板の大きさ、疎水性領域の数及び大きさ等に応じて適宜選択することができる。例えば、1×10~1×10cells/mLとすることができ、1×10~1×10cells/mLであることが好ましい。
【0027】
本発明において前記基板上で細胞を培養する期間としては、細胞が基板上の疎水性領域にスフェロイドを形成可能な期間以上であれば特に制限はない。スフェロイドの形成に要する期間としては、通常の培養条件であれば例えば、数十分~48時間である。
【0028】
本発明において各種細胞由来のスフェロイドの形成は、形態観察に基づいて判断することができる。すなわち、播種された細胞は、培養期間の経過に伴って、疎水性領域上に集合し、細胞凝集塊(スフェロイド)を形成する。
【0029】
本発明のスフェロイド複合体の製造方法によれば、均一な大きさで且つ大量のスフェロイドが基板上に形成されたスフェロイド複合体を得ることができる。均一な大きさで形成されたスフェロイドは、その性質もほぼ均質なものであるため、種々の挙動において同様の傾向を示すことができる。
【0030】
本発明における基板上には、必要に応じて前記疎水性領域に予めフィーダー細胞を配置することができる。すなわち本発明においては、本発明の基板上の疎水性領域にフィーダー細胞層を形成し、形成されたフィーダー細胞層上で、各種細胞を培養することができる。
予めフィーダー細胞層を形成することで、各種細胞由来のスフェロイド形成がより効率的に進行し、スフェロイドの安定性が向上する。前記フィーダー細胞としては、例えば、COS-1細胞、血管内皮細胞(例えば、大日本製薬製「ヒト臍帯静脈血管内皮細胞」)、繊維芽細胞等を挙げることができる。
【0031】
本発明のスフェロイド複合体の製造方法においては、基板の作製効率および取り扱い性の観点から、細胞接着性の多孔質基材が仮支持体上に形成されていることが好ましい。
【0032】
すなわち本発明のスフェロイド複合体の製造方法は、仮支持体上に配置された細胞接着性の多孔質基材、ならびに、前記多孔質基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含有する感光性組成物を硬化させて形成された複数の親水性領域および疎水性領域を含む基板上に、細胞を播種することと、播種された細胞を培養して、培養された細胞に由来するスフェロイド前記基板上の疎水性領域に形成させて、仮支持体上にスフェロイド複合体を形成することと、前記スフェロイド複合体と前記仮支持体とを分離することと、を含むことが好ましい。
【0033】
本発明において前記スフェロイド複合体と前記仮支持体とを分離する方法としては特に制限なく通常の方法を用いることができる。例えば、多孔質基材として生分解性の多孔質基材を用いることで、数日間培養することで生分解性の多孔質基材の一部が分解し、スフェロイド複合体と仮支持体とを分離することができる。また、培養条件を弱酸性もしくは弱アルカリ性とすることで生分解性の多孔質基材の一部が分解し、スフェロイド複合体と仮支持体とを分離することができる。
【0034】
前記仮支持体の材質としては、例えば、ガラス、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、シリコーン、ダイヤモンド、金属、及びセラミックス等を挙げることができる。本発明においては、多孔質基材の接着性の観点から、ガラス又は熱可塑性樹脂であることが好ましく、ガラスであることがより好ましい。
【0035】
また本発明において前記多孔質基材は、温度応答的に性状が変化する温度応答性層上に配置されていることが好ましく、さらに前記温度応答性層は仮支持体上に配置されていることがより好ましい。
温度応答性層上に細胞接着性の多孔質基材が配置されることにより、多孔質基材を温度応答性層上から、より容易に分離することができる。
【0036】
前記温度応答性層は、下限臨界溶解温度以上で疎水性を示し、下限臨界溶解温度以下で親水性を示す温度応答性ポリマーを含んで構成することができる。本発明においては、細胞培養温度下(通常、37℃)では疎水性を示し、スフェロイド複合体を仮支持体から分離する温度条件下では親水性を示す温度応答性ポリマーであることが好ましい。
前記下限臨界溶解温度は、特に限定されないが、多孔質基材の仮支持体からの分離の観点から、細胞培養温度よりも低い温度であることが好ましい。
【0037】
本発明に好適に使用できる温度応答性ポリマーは、培養細胞への障害性の観点から、下限臨界溶解温度が0~80℃であることが好ましく、0~50℃であることがより好ましい。
前記温度応答性ポリマーの具体例としては、例えば、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(T=32℃)、ポリ-N-n-プロピルアクリルアミド(T=21℃)、ポリ-N-n-プロピルメタクリルアミド(T=32℃)、ポリ-N-エトキシエチルアクリルアミド(T=約35℃)、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(T=約28℃)、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(T=約35℃)、及びポリ-N,N-ジエチルアクリルアミド(T=32℃)等が挙げられる。
【0038】
また前記温度応答性層は、その他のポリマーを含んでいてもよい。具体的には例えば、ポリ-N-エチルアクリルアミド、ポリ-N-イソプロピルメタクリルアミド、ポリ-N-シクロプロピルアクリルアミド、ポリ-N-シクロプロピルメタクリルアミド、ポリ-N-アクリロイルピロリジン、ポリ-N-アクリロイルピペリジン、ポリメチルビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のアルキル置換セルロース誘導体や、ポリポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドとのブロック共重合体等に代表されるポリアルキレンオキサイドブロック共重合体や、ポリアルキレンオキサイドブロック共重合体が挙げられる。
【0039】
これらの温度応答性ポリマーは、例えばモノマーの単独重合体の下限臨界溶解温度が0~80℃を有するようなモノマーの単独または共重合により調製される。モノマーとしては例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N-(またはN,N-ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N-ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体、及びビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
また、培養する細胞の種類によって下限臨界溶解温度を調節する必要がある場合や、温度応答性層と仮支持体との相互作用を高める必要が生じた場合や、温度応答性層の親水・疎水性のバランスを調整する必要がある場合などには、上記以外の他のモノマー類を更に加えて共重合してもよい。更に本発明に使用する上記ポリマーとその他のポリマーとのグラフトまたはブロック共重合体、あるいは本発明のポリマーと他のポリマーとの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質が損なわれない範囲で架橋することも可能である
【0040】
本発明において仮支持体上に温度応答性層を配置する方法としては特に制限はない。例えば、仮支持体としてガラスを用いる場合、ガラス基材をシランカップリング剤で表面処理した後、ガラス基材上に温度応答性ポリマーを構成するモノマーを含む感光性組成物層を形成し、光照射等によってモノマーを重合することで、ガラス基材上に温度応答性ポリマーを含む温度応答性層を形成することができる。
前記シランカップリング剤で表面処理する方法としては、例えば、DATES((N,N’-diethylamino)dithiocarbamoylpropyl(triethoxy)silane)を用いて、表面処理する方法等を挙げることができる。
また、モノマーの重合方法としては、通常のラジカル重合であっても、RAFT重合(Reversible Addition-Fragmentation Chain Transfer Polymerization)等であってもよい。
【0041】
また本発明においては、前記温度応答性層を設けた基材を、さらに前述した細胞接着性タンパク質で表面処理してもよい。これによって、より効率的にスフェロイドを形成することができる。
【0042】
本発明における基板は、細胞接着性の多孔質基材、ならびに、前記多孔質基材上に配置され、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有する分岐ポリアルキレングリコール誘導体の少なくとも1種を含有する感光性組成物を硬化させて形成された複数の親水性領域および疎水性領域を含む。
【0043】
前記多孔質基材は、細胞接着性を有し、細胞の維持に必要な物質の透過性を有していれば特に制限なく公知の材料を用いることができる。また、多孔質基材はゲル状、ファイバー状、不織布等の如何なる形状、形態からなるものであってもよい。
例えば、ゲル状の物質からなる多孔質基材を作製する方法としては、細胞接着性の高分子化合物を溶液状態として、仮支持体上に、塗布、浸漬、またはスピンコートなど、通常用いられる液膜形成方法を用いて作製することができる。また仮支持体上で、重合性の生分解性モノマーを重合する方法で作製することもできる。
【0044】
またファイバー状の物質からなる多孔質基材を製造する方法としては、例えば、エレクトロスピニング(ELSP)法を挙げることができる。ELSP法とは、容易にサブミクロンスケールの直径を有するファイバーを作製することを可能とする技術である。具体的には、細胞接着性の高分子化合物(例えば、ポリグリコール酸)の溶液に高電圧を印加することによって、アルミホイルなどの導電性材料上に高分子化合物溶液をスプレーして高分子化合物からなるファイバーを形成させるものである。このときファイバーの直径は、印加電圧、高分子化合物溶液の濃度、スプレーの飛散距離等を調整することで、適宜変更することができる。また、導電性材料上に連続的にファイバーを形成することで、立体的な網目をもつ3次元構造の薄膜を形成することもできる。更にこの方法によれば、ファイバーからなる薄膜の膜厚を厚くすることも可能であり、サブミクロンの網目をもつ不織布を作製することもできる。こうして作成した不織布を仮支持体(例えば、ガラス、樹脂など)上に保持または固定することができる。
【0045】
さらに本発明においては前記多孔質基材が、織成体から形成されていてもよい。本発明において前記「ファイバー」は、一本からなる糸状のものや、これらを束ねた糸状のもの等を含んでいるが、本発明における織成体は、これら糸状のものを織り合わせたものである。ここで、前記織成体が、メッシュ体またはナノファイバーからなることを特徴とすることで、さらに効率よく細胞を三次元的に培養することができる。
また、これらの糸状のファイバーは、たとえば、数10~数100μm径程度のもの、あるいはそれ以外のものの適宜な組み合わせにより構成することができる。糸状のファイバーや織成体については、複数種のもの、糸の径、織成体の開口メッシュの大きさ等の物理的形状や性質の異なる複数のものを適宜に用いることができる。いずれのものにおいても、三次元培養のための空間形状が形成できるようにすることが好ましい。したがって、メッシュ体の場合には、この形状があらかじめ保持されていることになる。また、例えば、メッシュ体については、そのメッシュ開口を、10~1000μm程度にしたもの等が良好に使用されることになる。
【0046】
本発明において多孔質基材を構成する細胞接着性の化合物としては、ゲル状またはファイバー状に形成可能で、細胞が接着できて足場とすることができるものであれば特に限定されない。
中でも前記多孔質基材は、スフェロイド複合体の生体適合性の観点から、生分解性化合物および細胞外マトリックスの少なくとも一方を含むことが好ましく、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリεカプロラクトン、ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸、フィブリン、レクチン由来の接着タンパク質、ポリリジン、および接着性オリゴペプチドから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0047】
本発明において前記多孔質基材の厚さとしては特に制限はないが、例えば、0.5μm~5000μmとすることができ、生分解性と生体適合性の観点から、1μm~500μmであることが好ましい。
本発明における前記多孔質基材は、スフェロイドの形成性と基板の取り扱い性の観点から、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリεカプロラクトン、ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸、フィブリン、レクチン由来の接着タンパク質、ポリリジン、および接着性オリゴペプチドから選ばれる少なくとも1種からなり、仮支持体上に膜厚1μm~500μmで、ゲル状に形成されたものであることが好ましい。
【0048】
前記多孔質基材上に配置された複数の親水性領域は、後述する分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含む感光性組成物を硬化させて形成された領域であり、また、疎水性領域は多孔質基材が露出した領域である。
【0049】
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の3以上と、前記ポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基とを有することを特徴とする。
かかる構成の分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、親水性の架橋体を形成することができる。かかる親水性の架橋体は、細胞非接着性の経時安定性が良好であり、例えば、本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体を用いて多孔質基材上に親水性領域と疎水性領域とが高精度に形成された基板は、該基板上で細胞を培養した場合に、疎水性領域にのみ特異的に細胞が接着するため、高精度に区画化された細胞集合体を形成することができる。また、前記親水性領域は細胞非接着性の経時安定性が良好であり、長期に渡って区画化された細胞凝集塊(スフェロイド)を維持することができる。
【0050】
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体において、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基の含有数は3以上である。前記ポリアルキレングリコール基の含有数が2以下では、これによって形成された親水性領域の細胞非接着性の経時安定性が不十分であり、区画化された細胞集合体を長期間維持することができない。
また前記ポリアルキレングリコール基の含有数は、経時安定性と良好なスフェロイド形成性の点から、4以上であることが好ましく、4以上64以下であることがより好ましく、4以上16以下であることが更に好ましい。
【0051】
本発明における前記ポリアルキレングリコール基は、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基であれば特に制限はない。
また前記重合性置換基としては重合性の官能基を有する置換基であってポリアルキレングリコールの末端に結合可能なものであれば特に制限はない。重合性置換基のポリアルキレングリコールの末端への結合態様としては、ポリアルキレングリコールに由来する酸素原子を介した結合態様であっても、ポリアルキレングリコールの末端水酸基が他の元素に置換された結合態様であってもよい。
【0052】
前記重合性置換基は、重合性の官能基そのものであっても、重合性の官能基と連結基とを含んで構成された置換基であってもよい。
本発明における重合性の官能基としては、通常用いられる重合性官能基を特に制限なく用いることができ、例えば、エチレン性不飽和結合を有する基、アジド基等を挙げることができる。本発明においては、親水性領域のパターン形成性の観点から、エチレン性不飽和結合を有する基及びアジド基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アジド基であることがより好ましい。
【0053】
また前記重合性置換基における連結基としては重合性の官能基とポリアルキレングリコール基とを連結可能な基であれば特に制限はなく、例えば、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、カルボニル基、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ジスルフィド及び水素原子から選ばれる少なくとも1種を含んで構成することができる。
具体的には例えば、カルボニル基、アリーレン基、アルキレンカルボニル基、カルボニルアリーレン基、カルバモイルアリーレン基等を挙げることができる。
更に連結基の価数としては少なくとも2価であればよく、3価以上の連結基であってポリアルキレングリコールと2以上の重合性官能基とを連結する連結基であってもよい。
【0054】
末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基を構成するポリアルキレングリコール基は、本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体に親水性を付与可能なポリアルキレングリコール基であれば特に制限はない。例えば、炭素数2~4のアルキレングリコール構造単位(例えば、エチレンオキシ、n-プロピレンオキシ、イソプロピレンオキシ、ブチレンオキシ、イソブチレンオキシ等)を含むポリアルキレングリコール基を好ましく用いることができる。
【0055】
前記ポリアルキレングリコール基におけるアルキレングリコール構造単位は、1種のアルキレングリコール構造単位からなるものであっても、2種以上アルキレングリコール構造単位の組合せからなるものであってもよい。ポリアルキレングリコール基が2種以上のアルキレングリコール構造単位の組合せからなる場合、ブロックポリマーであってもランダムポリマーであってもよい。
また、ポリアルキレングリコール基の重合度としては、親水性の観点から5以上であればよく、5~1000の重合度を有するポリアルキレングリコール基を好ましく用いることができ、より好ましくは10~500である。
【0056】
本発明における、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基と結合する3価以上の連結基は、少なくとも3つの前記ポリアルキレングリコール基における重合性置換基が結合していない方の末端と結合し、前記ポリアルキレングリコール基を互いに連結可能なものであれば特に制限はない。結合様式としては共有結合、配位結合、イオン結合のいずれであってもよい。
具体的には例えば、糖類に由来する連結基、多価アルコールに由来する連結基、多価カルボン酸に由来する連結基、配位結合を介して前記ポリアルキレングリコール基を含む基を結合可能な金属原子等を挙げることができる。
【0057】
前記糖類としては、例えば、グリセルアルデヒド、エリトロース、リボース、グルコース等を挙げることができる。また、多価アルコールとしては、グリセリン、ペンタエリスリトール、キシリトール、ソルビトール等を挙げることができる。更に、多価カルボン酸としては、プロパントリカルボン酸、クエン酸、ベンゼントリカルボン酸等を挙げることができる。また、前記金属原子としては、金、銀、白金、ニッケル、銅等を挙げることができる。
【0058】
本発明においては、親水性と経時安定性の観点から、多価アルコールに由来する連結基であることが好ましく、グリセリンに由来する連結基又はペンタエリスリトールに由来する連結基がより好ましく、グリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、及びポリペンタエリスリトールから選ばれる化合物に由来する連結基であることが特に好ましい。
【0059】
本発明における末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基は、経時安定性と良好なスフェロイド形成性の観点から、下記一般式(1)で表される置換ポリアルキレングリコール基であることが好ましい。
【0060】
【化1】
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【0061】
一般式(1)中、mは2~4の整数を表すが、2又は3であることが好ましく、2であることがより好ましい。またnは5~1000の整数を表すが、10~500であることが好ましく、10~300であることがより好ましい。
【0062】
一般式(1)中、Xは重合性置換基を表す。本発明において前記重合性置換基は、本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体の架橋硬化性の観点から、下記一般式(3)及び一般式(4)の少なくとも1種で表される重合性置換基であることが好ましい。
【0063】
【化2】
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【0064】
一般式(3)中、Lは単結合又は2価の連結基を表す。前記2価の連結基としてはエチレン性不飽和基とポリアルキレングリコール基とを連結可能であれば特に制限はない。例えば、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、カルボニル基、酸素原子、窒素原子、イミノ基、及び水素原子の少なくとも1種を含んで構成される2価の連結基を挙げることができ、カルボニル基、エステル基、アミド基、フェニレン基、炭素数2~4のアルキレン基、から選ばれる2価の連結基又はこれらの組合せからなる2価の連結基であることが好ましい。
本発明においてLは、単結合、又は、カルボニル基、カルボニルフェニレン基、カルバモイルフェニレン基から選ばれる2価の連結基であることがより好ましい。
【0065】
また、Rは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。炭素数1~3のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基を挙げることができる。本発明においては、分岐ポリアルキレングリコール誘導体の架橋反応性の観点から、Rは水素原子又はメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0066】
一般式(4)におけるLは2価の連結基を表すが、その定義及びその好ましい範囲は前記Lにおける2価の連結基と同様である。
【0067】
また本発明においては、前記重合性置換基の少なくとも1つは下記一般式(5)で表される置換基であることが好ましい。これにより、重合性置換基の反応開始がより長波長の光照射によって可能となる。
【0068】
【化3】
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【0069】
一般式(5)中、Lは単結合又は2価の連結基を表す。Lで表される2価の連結基は、前記Lにおける2価の連結基と同様である。
また、iは1又は2を表す。
【0070】
一般式(5)中、Rは置換基を表すが、一般式(5)で表される重合性置換基の極大吸収波長を変化させることができる置換基であれば特に制限はない。中でも一般式(5)で表される重合性置換基の極大吸収波長を長波長側にシフト可能な置換基であることが好ましい。具体的には例えば、ニトロ基、水酸基、アルキルオキシ基、ジアルキルアミノ基、シアノ基、ニトロソ基等を好適に挙げることができる。
iが2の場合、2つのRは同一でも異なっていてもよい。
【0071】
また、本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、親水性と架橋反応性の観点から、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0072】
【化4】
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【0073】
一般式(2)中、Lは単結合又はメチレン基を表し、pは1又は2を表す。pが1のときLは単結合であることが好ましく、pが2のときLはメチレン基であることが好ましい。
qは1~70の整数を表す。本発明においては、親水性と架橋反応性の観点から、pが1のとき、qは1~64であることが好ましく、2~10であることがより好ましい。またpが2のとき、qは1~32であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
【0074】
一般式(2)中、Rは末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基又は末端に水酸基を有するポリアルキレングリコール基を表す。中でも架橋反応性の観点から、Rは末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基であることが好ましく、前記一般式(1)で表される置換ポリアルキレングリコール基であることがより好ましい。
【0075】
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、経時安定性とスフェロイド形成性の観点から、末端に重合性置換基を有するポリアルキレングリコール基を4以上16以下有し、前記ポリアルキレングリコール基が前記一般式(1)で表されるものであって、前記重合性置換基が前記一般式(3)、一般式(4)及び一般式(5)の少なくとも1種で表されるものであることが好ましい。
【0076】
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体の具体例を以下に例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、下記具体例中のポリアルキレングリコールの重合度(n)は分岐ポリアルキレングリコール誘導体の重量平均分子量から算出される平均重合度を意味する。また、分岐ポリアルキレングリコール誘導体の重量平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
【0077】
【化5】
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【0078】
【化6】
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【0079】
【化7】
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【0080】
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、例えば、3以上のポリエチレングリコール基を有する化合物(以下、「マルチアームPEG」ということがある。例えば、日油(株)製、SUNBRIGHT(登録商標)PTEシリーズ、HGEOシリーズ等)の末端水酸基に対して、重合性置換基を、通常用いられる方法を用いてエステル結合、エーテル結合等で結合することによって合成することができる。例えば、エステル結合の形成は酸塩化物法、活性エステル法等で行うことができる。
【0081】
本発明における分岐ポリアルキレングリコール誘導体は、例えば、後述の感光性組成物の成分とすることができる。また、架橋反応により親水性の架橋体を形成することができる。
【0082】
本発明における感光性組成物は、前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体の少なくとも1種を含有することを特徴とする。かかる感光性組成物を用いることで、例えば、基材上に高精度に区画化された親水性領域と疎水性領域とを形成することができる。
前記感光性組成物においては、前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体を1種単独で含有することもできるし、2種以上を含有することもできる。
また前記感光性組成物は、前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体に加えて、光重合開始剤、溶剤、細胞培養液、界面活性剤、緩衝液、消泡剤、防腐剤等の各種の添加剤等を含んで構成することができる。
【0083】
前記光重合開始剤としては、光照射によって重合反応を開始可能なものであれば特に制限はないが、生細胞に対する障害性が低いものであることが好ましい。具体的には、例えば、IRGACURE 2959、IRGACURE 184(いずれもチバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)等を挙げることができ、細胞毒性と水溶性の点からIRGACURE 2959が好ましい。
【0084】
前記溶剤としては、前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体を溶解可能であれば特に制限はない。ここでいう溶解可能とは前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体を質量基準で0.1%以上溶解できることをいう。
前記溶剤として具体的には、ベンゼン、トルエン、THF、DMF、クロロホルム等の有機溶媒、及び水を好ましく用いることができる。また、溶剤は1種単独でも2種以上を混合して用いてもよい。
【0085】
前記感光性組成物における前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体の含有率としては、例えば0.1~50質量%とすることができ、0.1~20質量%であることが好ましい。
【0086】
本発明における架橋体は、前記感光性組成物を架橋硬化させて形成されたものである。前記架橋硬化は光照射による重合反応に起因するものであれば特に制限はなく、感光性組成物に応じて適宜架橋硬化条件を選択することができる。
【0087】
本発明における基板を作製する方法は、例えば、多孔質基材上に前記分岐ポリアルキレングリコール誘導体を含む感光性組成物を付与して感光性組成物層を形成する工程と、前記感光性組成物層を、露光処理する硬化工程とを含むことができる。これにより、多孔質基材上に、前記架橋体が形成された基板を作製することができる。
前記基板を作製する方法は、必要に応じて、前記硬化工程後に加熱工程、洗浄工程、乾燥工程、滅菌工程等を更に含むことができる。
【0088】
本発明において、多孔質基材上に感光性組成物層を形成する工程には、特に制限なく通常の薄膜形成方法を適用することができ、例えば、塗布法、ディップコート法、スピンコート法等を好適に適用することができる。
多孔質基材上に形成された感光性組成物層の層厚としては、特に制限はなく基板の使用目的に応じて適宜選択することができ、例えば、5nm~1000μmとすることができる。なかでも、スフェロイドの形成性の観点から、10nm~1000nmとすることが好ましく、10nm~500nmであることがより好ましい。
【0089】
前記多孔質基材上に感光性組成物層を形成する工程は、必要に応じて、感光性組成物中の溶剤を除去する工程を含むことができる。前記溶剤を除去する工程としては、前記溶剤に応じて適宜その条件を選択することができ、常温乾燥であっても、加熱乾燥であってもよい。例えば、30~150℃で1分~10時間とすることができ、好ましくは35~120℃で3分~1時間である。
【0090】
前記硬化工程における露光処理は、前記感光性組成物層を全面露光する工程であっても、所望のパターン様に部分露光する工程であってもよい。本発明においては、所望のパターン様に部分露光する工程であることが好ましく、前記部分露光する工程後に更に現像工程を含むことがより好ましい。これにより、前記架橋体からなる親水性領域と架橋体が形成されていない疎水性領域とが、パターン様に多孔質基材上に形成された基板を作製することができる。
【0091】
前記所望のパターン様に部分露光する工程は、所望のパターン様に光透過性を有するマスク(フォトマスク)を介して、部分露光する工程であることが好ましい。また、前記マスクを感光性組成物層に密着させて部分露光を行うことにより、より高精度でパターン様に露光することができる。
【0092】
露光に用いる光源としては、前記感光性組成物層を硬化可能な光源であれば特に制限はない。光源として例えば、X線、電子線、エキシマレーザー、キセノンランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ及び高圧水銀ランプ等を挙げることができる。中でも低圧又は高圧水銀ランプを好適に用いることができ、10~2000Wの高圧水銀ランプであることが好ましい。
また露光波長及び露光量についても特に制限はなく、前記感光性組成物に応じて適宜選択することができる。露光波長としては、例えば200~400nmとすることができ、280~400nmであることが好ましい。露光量としては、例えば、0.1~1000mJ/cmとすることができ、1~200mJ/cmであることが好ましく、10~20mJ/cmであることがより好ましい。
【0093】
前記現像工程は、前記感光性組成物層における未露光領域を多孔質基材上から除去できる方法であれば特に制限はなく、例えば、溶剤を用いた洗浄、及び溶剤への浸漬等を挙げることができ、本発明においては、溶剤として水を用いる洗浄及び水への浸漬であることが好ましい。
【0094】
本発明における基板は、例えば、架橋体からなる親水性領域と、多孔質基材が露出した疎水性領域とが区画化(パターニング)されて基材上に形成された基板として作製することにより、スフェロイド培養基板としてより好適に用いることができる。すなわち、前記疎水性領域にのみ細胞が配置され、前記親水性領域には細胞が接着しないことにより、所望のパターン様にスフェロイドを配置可能とすることができる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0096】
まず、本発明に用いられる分岐ポリアルキレングリコール誘導体、および該ポリアルキレングリコールを含む感光性組成物を用いて作製された基板について具体的に説明する。
(参考例1)
~分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PA20K)の合成~
4-アジド-安息香酸12g(93.6mmol)を40mLの塩化チオニルに溶解し、1.5時間、加熱還流した。反応混合物を減圧で濃縮、少量のヘキサンを加えて再度減圧で濃縮した後、真空下で乾燥し、白色固体として目的物の4-アジド-安息香酸クロリド9.3g(51.2mmol、収率70%)を得た。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.11-8.15 (2H, m), 7.11-7.16 (2H, m).
【0097】
次に、3mLのジクロロメタン(脱水)に、トリエチルアミン81mg(0.8mmol)、4-ジメチルアミノピリジン147mg(1.2mol)を加え、氷浴で冷却しながら攪拌した。この溶液に、上記で得られた4-アジド-安息香酸クロリド363mg(2.0mmol、マルチアームPEGの末端OH基に対して5モル当量)のジクロロメタン(脱水)溶液(5mL)を滴下し、そのまま5分攪拌を続けた後、反応容器を遮光し、マルチアームPEG(日油(株)製SUNBRIGHT(登録商標) PTE-20000、4つのポリエチレングリコール基を有するペンタエリスリトール誘導体)2g(0.1mmol)のジクロロメタン(脱水)溶液(20mL)をゆっくり滴下した。反応溶液を氷浴からはずし、そのまま室温で18時間攪拌した。反応混合物を減圧で濃縮し、ベンゼンを加えて懸濁させたものをろ過して塩を除いた後、再び減圧で濃縮した。粗生成物を少量のベンゼンに溶解し、0℃に冷却したイソプロピルエーテルに滴下して得られた沈殿を濾取する工程を3回繰り返して、得られた白色固体を減圧下で乾燥し、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PA20K)1.74g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0098】
マルチアームPEGとしてPTE-20000の代わりに下記表1に示したマルチアームPEGを用いた以外は、参考例1と同様にして分岐ポリアルキレングリコール誘導体を合成した。収率、性状等を表1に示した。
【0099】
【表1】
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【0100】
(参考例2)
5-アミノ-サリチル酸15.3g(0.1mol)を蒸留水80mLと濃塩酸20mLの混合溶液に懸濁させ、室温で30分攪拌した。混合溶液を氷浴中で冷却した後、亜硝酸ナトリウム6.9g(0.1mol)の水溶液10mLを溶液の反応液の液温が5℃を超えないような速度で滴下し、そのまま1時間攪拌した。続いて、アジ化ナトリウム7.15 g(0.11mol)の水溶液30mLを反応液の液温が10℃を超えない速度で滴下した。氷浴を外して室温に戻しつつ、気泡が発生しなくなるまで激しく攪拌した。生成した沈殿を濾取し、さらに沈殿を蒸留水で洗浄した。得られた固体は、暗所で風乾した後、減圧下で完全に乾燥し、5-アジド-サリチル酸を白色固体として12.0g(67.0mmol、収率=67%)得た。
1H-NMR(DMSO-d6) δ: 11.14(1H, bs), 7.41 (1H, d, J = 3.0 Hz), 6.88 (1H, dd, J = 8.5, 3.0 Hz), 6.68 (1H, d, J = 8.4 Hz).
【0101】
得られた5-アジド-サリチル酸5g(27.9mmol)を塩化チオニル50mLに懸濁し、70℃で1時間攪拌した。反応混合物を室温まで放冷し、過剰の塩化チオニルを減圧で除き、5-アジド-サリチル酸クロリドの赤色固体を定量的に得た。
1H-NMR (DMSO-d6) δ: 7.39 (1H, d, J = 2.9 Hz), 7.26 (1H, dd, J = 8.8, 2.9 Hz), 7.00 (1H, d, J = 8.8 Hz).
【0102】
次に、3mLのジクロロメタン(脱水)に、トリエチルアミン81mg(0.8mmol)、ジメチルアミノピリジン147mg(1.2mol)を加え、氷浴で冷却しながら攪拌した。この溶液に、上記で得られた5-アジド-サリチル酸クロリド358mg(2mmol、マルチアームPEGの末端OH基に対して5モル当量)のジクロロメタン(脱水)溶液(5mL)を滴下し、そのまま5分攪拌を続けた後、反応容器を遮光し、マルチアームPEG(日油(株)製SUNBRIGHT(登録商標) PTE-20000、4つのポリエチレングリコール基を有する化合物)2g(0.1mmol)のジクロロメタン(脱水)溶液(20mL)をゆっくり滴下した。反応溶液を氷浴からはずし、そのまま室温で18時間攪拌した。反応混合物を減圧で濃縮し、ベンゼンを加えて懸濁させたものをろ過して塩を除いた後、再び減圧で濃縮した。粗生成物を少量のベンゼンに溶解し、0℃に冷却したイソプロピルエーテルに滴下して得られた沈殿を濾取する工程を3回繰り返して、得られた白色固体を減圧下で乾燥し、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PB20K)1.77g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0103】
(参考例3)
参考例2において、マルチアームPEGとしてPTE-20000の代わりにHGEO-20000(日油(株)製、8つのポリエチレングリコール基を有するヘキサグリセリン誘導体)を用いた以外は実施例4と同様にして、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(8PB20K)1.72g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0104】
(参考例4)
5-アミノ-2-ニトロ安息香酸18.1g(0.1mol)を蒸留水80mLと濃塩酸20mLの混合溶液に懸濁させ、室温で30分攪拌した。混合溶液を氷浴中で冷却した後、亜硝酸ナトリウム6.9g(0.1mol)の水溶液10mLを溶液の反応液の液温が5℃を超えないような速度で滴下し、そのまま1時間攪拌した。続いて、アジ化ナトリウム7.15 g(0.11mol)の水溶液30mLを反応液の液温が10℃を超えない速度で滴下した。氷浴を外して室温に戻しつつ、気泡が発生しなくなるまで激しく攪拌した。生成した沈殿を濾取し、さらに沈殿を蒸留水で洗浄した。得られた固体は、暗所で風乾した後、減圧下で完全に乾燥し、5-アジド-2-ニトロ安息香酸を白色固体として19.2g(92.4mmol、収率=92%)を得た。
1H-NMR (DMSO-d6) δ: 13.99(1H, bs), 8.09-8.06 (1H, m), 7.45-7.42 (2H, m).
【0105】
得られた5-アジド-2-ニトロ安息香酸1.0g(4.8mmol)を塩化チオニル10mLに懸濁し、70℃で1時間攪拌した。反応混合物を室温まで放冷し、過剰の塩化チオニルを減圧で除き、5-アジド-サリチル酸クロリドの赤色固体を定量的に得た。
1H-NMR (DMSO-d6) δ: 8.10-8.07 (1H, m), 7.46-7.42 (2H, m).
【0106】
次に、3mLのジクロロメタン(脱水)に、トリエチルアミン81mg(0.8mmol)、ジメチルアミノピリジン147mg(1.2mol)を加え、氷浴で冷却しながら攪拌した。この溶液に、上記で得られた5-アジド-2-ニトロ安息香酸クロリド417mg(2mmol、マルチアームPEGの末端OH基に対して5モル当量)のジクロロメタン(脱水)溶液(5mL)を滴下し、そのまま5分攪拌を続けた後、反応容器を遮光し、マルチアームPEG(日油(株)製SUNBRIGHT(登録商標) PTE-20000、4つのポリエチレングリコール基を有する化合物)2g(0.1mmol)のジクロロメタン(脱水)溶液(20mL)をゆっくり滴下した。反応溶液を氷浴からはずし、そのまま室温で18時間攪拌した。反応混合物を減圧で濃縮し、ベンゼンを加えて懸濁させたものをろ過して塩を除いた後、再び減圧で濃縮した。粗生成物を少量のベンゼンに溶解し、0℃に冷却したイソプロピルエーテルに滴下して得られた沈殿を濾取する工程を3回繰り返して、得られた白色固体を減圧下で乾燥し、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PC20K)1.81(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0107】
(参考例5)
参考例4において、マルチアームPEGとしてPTE-20000の代わりにHGEO-20000(日油(株)製、8つのポリエチレングリコール基を有するヘキサグリセリン誘導体)を用いた以外は参考例4と同様にして、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(8PC20K)1.71g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0108】
(参考例6)
アクリロイルクロリド181mg(2.0mmol、マルチアームPEGの末端OH基に対して5モル当量)のベンゼン(脱水)溶液(5mL)を滴下し、そのまま5分攪拌を続けた後、反応容器を遮光し、マルチアームPEG(日油(株)製SUNBRIGHT(登録商標) PTE-20000、4つのポリエチレングリコール基を有するペンタエリスリトール誘導体)2g(0.1mmol)のベンゼン(脱水)溶液(20mL)をゆっくり滴下した。反応溶液を氷浴からはずし、そのまま室温で18時間攪拌した。反応混合物を減圧で濃縮し、ベンゼンを加えて懸濁させたものをろ過して塩を除いた後、再び減圧で濃縮した。粗生成物を少量のベンゼンに溶解し、0℃に冷却したイソプロピルエーテルに滴下して得られた沈殿を濾取する工程を3回繰り返して、得られた白色固体を減圧下で乾燥し、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PD20K)1.74g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0109】
(参考例7)
参考例6において、マルチアームPEGとしてPTE-20000の代わりに、HGEO-20000(日油(株)製、8つのポリエチレングリコール基を有するヘキサグリセリン誘導体)を用いた以外は、参考例6と同様にして、目的物とする分岐ポリアルキレングリコール誘導体(8PD20K)1.74g(収率85%)を得た。
H-NMRの積分比より算出した末端水酸基の重合性置換基への置換率は、85%であった。
1H-NMR (CDCl3) δ: 8.05 (8H, d, J = 8.6 Hz), 7.07 (8H, d, J = 8.6 Hz), 4.46 (8H, t, J = 4.9 Hz), 3.89-3.39 (2145H, m).
【0110】
(実施例1)
ポリ-L-リジン(PLL)の0.1%水溶液に、仮支持体である白切スライドガラス(松浪硝子工業(株)製、丸型21mmφ)を2時間浸漬後、乾燥して、スライドガラス上にPLLからなる薄膜を形成した。ついでこれをゼラチンの0.15%水溶液に2時間浸漬後、乾燥して、スライドガラス上にPLLとゼラチンからなる多孔質基材を形成した。
【0111】
参考例1で作製した分岐ポリアルキレングリコール誘導体(4PA20K)をトルエンに溶解し、感光性組成物Aとして4PA20Kのトルエン溶液(1%)を調製した。
多孔質基材として、上記で得られた仮支持体上に設けられたPLLとゼラチンからなる薄膜を用い。薄膜上に、感光性組成物Aを110μL滴下後、スピンコート法(500rpm×5秒+3000rpm×20秒+6000rpm×1秒)により成膜し、常温で放置して乾燥させた。これに、石英ガラス製フォトマスク(直径200μmの円形パターンが多数配置されたもの)を密着させ、高圧水銀灯(200W)を用いて40秒間露光を行った後、脱イオン水で洗浄(現像工程:流水15秒間+浸漬20分間)した。常温で乾燥し、表面に微細加工された親水性の架橋体を有し、仮支持体上に形成された基板を得た。当該基板の表面を、位相差光学顕微鏡(倍率×100)により観察したところ、良好なマイクロパターンが高精度に形成されていることが確認できた。
【0112】
仮支持体上に形成された基板を、滅菌処理し、FALCON社製12ウェルプレート底面にセットし、培地としてDMEM(血清としてFBSを10容量%含む。以下使用した培地は全て同様に血清を含んでいる)を添加し、ウシ関節軟骨細胞(コンドロサイトP-3)を細胞濃度5×10cells/mL(2mL/well)にて播種した。培養条件5%CO、37℃で培養したところ、24時間以内に基材上に形成した疎水性領域に対応するパターン状に並び、均一な大きさを有する軟骨細胞の細胞塊(スフェロイド)が得られた。
スフェロイドが形成された基板を、数日間(1日~21日間)培養することで仮支持体から分離して、スフェロイド複合体を得た。
【0113】
また、4PA20Kの代わりに参考例2~5で調製した分岐ポリアルキレングリコール誘導体を用いて調製した感光性組成物を用いた場合、参考例6~7で調製したポリアルキレングリコール誘導体を用い、さらに光重合開始剤であるIRGACURE2959の濃度が0.05%となるように調製した感光性組成物を用いた場合のいずれにおいても、均一な大きさを有する軟骨細胞の細胞塊(スフェロイド)が形成されたスフェロイド複合体が得られた。
【0114】
(実施例2)
実施例1において、仮支持体上に形成された多孔質基材として、PLLとゼラチンからなる薄膜の代わりに、ポリ乳酸(PLA、Mn:20K)のトルエン溶液(濃度10mg/ml)を、スライドガラス上に200μl滴下後、スピンコート法(2000rpm×30秒)により成膜し、常温で放置して乾燥させて形成したPLAの薄膜を用いた以外は実施例1と同様にして、スフェロイド複合体を得た。
【0115】
(実施例3)
実施例2において。PLAの代わりにポリカプロラクトン(PCL、Mn:42.5K、Mw:65K)を用いた以外は実施例2と同様にして、スフェロイド複合体を得た。
【0116】
(実施例4)
実施例2において、仮支持体上に形成された多孔質基材として、PLAからなる薄膜の代わりに、スライドガラス上にPLAの薄膜を形成した後、PLLの0.1%水溶液に2時間浸漬後、乾燥して形成した、PLA薄膜上にPLLがコートされた薄膜を用いた以外は、実施例2と同様にして、スフェロイド複合体を得た。
【0117】
(実施例5)
実施例4において、PLAの代わりにPCLを用いた以外は、実施例4と同様にして、スフェロイド複合体を得た。
【0118】
(実施例6)
実施例4において、PLLの0.1%水溶液の代わりにゼラチンの0.15%水溶液を用いた以外は、実施例4と同様にして、スフェロイド複合体を得た。
【0119】
(実施例7)
実施例5において、PLLの0.1%水溶液の代わりにゼラチンの0.15%水溶液を用いた以外は、実施例5と同様にして、スフェロイド複合体を得た。
【0120】
(実施例8)
白切スライドガラス(松浪硝子工業(株)製、丸型21mmφ)をオゾン洗浄(15分×2回)した。これをカップリング剤DATES((N,N’-diethylamino)dithiocarbamoylpropyl(triethoxy)silane)1ml、クロロホルム8ml、メタノール1ml、濃塩酸85μlの混合溶液に30分浸した。その後、70℃で30分乾燥させ、クロロホルム、メタノール、ミリQ水で順次で洗浄後、デシケーターで減圧乾燥した。
これを無垢テフロン(登録商標)容器にいれ、1時間アルゴンガスでバブリングした4mol/lのIPAAm(イソプロピルアクリルアミド)のTHF溶液で満たした。空気が入らないように石英ガラスを被せて25mW/cmで10分間、UV照射した。その後、メタノール、ミリQ水で順次洗浄し、乾燥させて、温度応答性層を有する仮支持体を得た。
【0121】
上記で得られた温度応答性層を有する仮支持体を用い、濃度が10mg/mlであるPLA(ポリ乳酸、Mn:20K)のトルエン溶液を、仮支持体の温度応答性層上に200μl滴下し、スピンコート法(2000rpm×30秒)により薄膜を形成し、乾燥させた。
次いで、フィブロネクチンの1.5μl/mlに37℃で2時間浸漬した。
以上により、仮支持体上に配置された温度応答性層上に、PLAとフィブロネクチンからなる多孔質基材を形成した。
【0122】
実施例1において、PLLとゼラチンからなる多孔質基材が形成されたスライドガラスの代わりに、上記で得られた温度応答性層上にPLAとフィブロネクチンからなる多孔質基材が形成されたスライドガラスを用いた以外は、実施例1と同様にして、仮支持体上に複数の親水性領域および疎水性領域が形成された基板を作製した。
このようにして作製した基板を用いた以外は、実施例1と同様にして細胞を培養して仮支持体上にスフェロイド複合体を形成した。
次いで、仮支持体上に形成された複合体を仮支持体ごと25℃の温度条件下におくことで、仮支持体からスフェロイド複合体を分離することができた。
【0123】
(実施例9)
実施例8において、PLAの代わりにPCL(ポリカプロラクトン、Mn:42.5K、Mw:65K)を用いた以外は実施例8と同様にしてスフェロイド複合体を作製した。
【0124】
(実施例10)
実施例1と同様にして作製した基板を滅菌処理し、FALCON社製12ウェルプレート底面にセットし、培地としてDMEM(血清としてFBSを10容量%含む)を用い、ウシ大動脈血管内皮細胞(BAEC)を細胞濃度5×10cells/mL(2mL/well)にて播種した。培養条件5%CO、37℃で培養したところ、24時間以内に基材上に形成した疎水性領域に対応するパターン状に並んだ。このBAECがパターン状に培養された基板に培地としてWILLIAMS’ MEDIUM E(血清としてFBSを10容量%含む)を用い、ラット初代肝細胞を細胞濃度5×10cells/mL(2mL/well)にて播種した。培養条件5%CO、37℃で培養したところ、24時間以内にパターン化されたBAEC上に均一な大きさを有する肝細胞の細胞塊(スフェロイド)が得られた。
スフェロイドが形成された基板を、数日間(1日~21日間)培養することで仮支持体から分離して、スフェロイド複合体を得た。
また、実施例1で作製した基板の代わりに、実施例2~9と同様にして作製した基板を用いて、上記と同様にしてスフェロイド複合体をそれぞれ得た。
【0125】
(実施例11)
実施例1と同様にして作製した基板を滅菌処理し、FALCON社製12ウェルプレート底面にセットし、培地としてDMEM(血清としてFBSを10容量%含む。以下使用した培地は全て同様に血清を含んでいる)を用い、マウス繊維芽細胞(NIH-3T3)を細胞濃度5×10cells/mL(2mL/well)にて播種した。培養条件5%CO、37℃で培養したところ、24時間以内に基材上に形成した疎水性領域に対応するパターン状に並んだ。このNIH-3T3がパターン状に培養された基板に培地としてWILLIAMS’ MEDIUM E(血清としてFBSを10容量%含む)を用い、ラット初代肝細胞を細胞濃度5×10cells/mL(2mL/well)にて播種した。培養条件5%CO、37℃で培養したところ、24時間以内にパターン化されたNIH-3T3上に均一な大きさを有する肝細胞の細胞塊(スフェロイド)が得られた。
スフェロイドが形成された基板を、数日間(1日~21日間)培養することで仮支持体から分離して、スフェロイド複合体を得た。
また、実施例1で作製した基板の代わりに、実施例2~9と同様にして作製した基板を用いて、上記と同様にしてスフェロイド複合体をそれぞれ得た。
【0126】
実施例1~実施例11で得られたスフェロイド複合体は、いずれも多孔質基材上に、均一な大きさを有する複数のスフェロイドが形成されたものであった。
また、得られたスフェロイド複合体について、下記のようにしてMTT染色による生死判定を行ったところ、スフェロイド複合体中のスフェロイドが均一な大きさを維持したまま生存していることが確認された。
【0127】
(MTT染色)
MTT(3-(4,5-Dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyltetrazolium Bromide、和光純薬製)の0.5mg/ml溶液(Memα:GIBCO社製)を調製した。
12ウェルプレートの底面にセットしたスフェロイド含有ハイドロゲルに上記MTT溶液2mlを加えて、3時間インキュベートした。
【0128】
(実施例11)
~多層型スフェロイド複合体の作製~
実施例1で得られたスフェロイド複合体を、12ウェルプレートの底面にセットして培地としてDMEMを添加し、培養条件5%CO、37℃で培養を1日間継続した。その後、仮支持体を剥離した側同士が接触するように2層を積層して多層型スフェロイド複合体を作製した。得られた多層型スフェロイド複合体について、さらに10日培養を継続した。
また、仮支持体を剥離した側とその反対側とが接触するように5層を積層して多層型スフェロイド複合体を作製した。得られた多層型スフェロイド複合体について、さらに10日培養を継続した。
いずれの多層型スフェロイド複合体においても、MTT染色によりスフェロイドが生存していることが確認された。
【0129】
以上から、本発明のスフェロイド複合体の製造方法によれば、多孔質基材上に均一な大きさを有する複数のスフェロイドを含むスフェロイド複合体を効率的に形成することができたことが分かる。