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明細書 :多波長超短パルスレーザー光による材料加工法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4147304号 (P4147304)
公開番号 特開2005-205446 (P2005-205446A)
登録日 平成20年7月4日(2008.7.4)
発行日 平成20年9月10日(2008.9.10)
公開日 平成17年8月4日(2005.8.4)
発明の名称または考案の名称 多波長超短パルスレーザー光による材料加工法
国際特許分類 B23K  26/36        (2006.01)
B23K  26/06        (2006.01)
G02F   1/37        (2006.01)
G02F   1/39        (2006.01)
FI B23K 26/36
B23K 26/06 A
B23K 26/06 Z
G02F 1/37
G02F 1/39
請求項の数または発明の数 1
全頁数 7
出願番号 特願2004-014126 (P2004-014126)
出願日 平成16年1月22日(2004.1.22)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2003年8月30日 (社)応用物理学会発行の「2003年(平成15年)秋季 第64回応用物理学会学術講演会講演予稿集第3分冊」に発表
審査請求日 平成16年1月22日(2004.1.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】390014306
【氏名又は名称】防衛省技術研究本部長
発明者または考案者 【氏名】大越 昌幸
【氏名】井上 成美
個別代理人の代理人 【識別番号】100079290、【弁理士】、【氏名又は名称】村井 隆
審査官 【審査官】松本 公一
参考文献・文献 特開2003-094191(JP,A)
特開2003-205383(JP,A)
特開2003-211400(JP,A)
特開2003-260579(JP,A)
特開平05-265058(JP,A)
特開平11-307940(JP,A)
特表2004-515365(JP,A)
調査した分野 B23K 26/00- 26/42
G02F 1/29- 1/39
特許請求の範囲 【請求項1】
近赤外線を含む、パルス幅が130fs以下の超短パルスレーザー光を、高調波発生用波長変換手段により一部波長変換し、前記超短パルスレーザー光の基本波と波長変換後の短波長化された1種類以上の高調波とを混合して同一材料の同一箇所に同時に照射する多波長超短パルスレーザー光による材料加工法であって、
前記超短パルスレーザー光の基本波は単独で前記材料をエッチング可能な照射エネルギー密度であり、
前記高調波は単独では前記材料をエッチングしないアブレーションしきい値未満の微弱な照射エネルギー密度に設定され、
加工後において、加工部周辺に熱溶融層が形成されず、かつ加工された面の化学組成が変化していないことを特徴とする多波長超短パルスレーザー光による材料加工法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光による材料加工法に係り、とくに近赤外線を含む、パルス幅が1ns(nsは10-9秒)未満の超短パルスレーザー光による材料加工法であって、前記超短パルスレーザー光を非線形光学結晶あるいはオプティカルパラメトリック増幅器(OPA)等により一部波長変換し、基本波(波長変換前のレーザー光)とともに高調波(波長変換後の短波長化された1種類以上のレーザー)及び/又はOPA等の光(波長変換後の長波長化された1種類以上のレーザー光)を同一材料の同一箇所に照射することにより、高精度かつ高速でのレーザー加工を可能としたものである。また、従来困難とされてきた熱に弱い材料(高分子材料や生体材料、低融点材料、熱拡散しやすい材料等)等にも適用可能となり、被加工材料の種類も広がる。これらの結果は、電子機器用プリント配線基板の高精度微細加工やマイクロ化学分析システムの製作、マイクロ・ナノマシーニング技術に適用可能になる等、その用途は電気、電子のみならずあらゆる分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
レーザー微細加工に用いられる光源は、パルス幅がns以上の紫外線レーザーが一般的である。しかし被加工材料によっては、加工部周辺に熱変性層が形成され、また加工面の化学組成も変化する場合がある。そこで最近、加工部周辺の熱変性層形成を抑えるために、パルス幅がピコ秒(ps、10-12秒)あるいはフェムト秒(fs、10-15秒)の超短パルスレーザー光が利用されようとしている。超短パルスレーザー光の発振波長を近赤外域とすると、一部の被加工材料において、加工面の化学組成も変化しないことが報告されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の方法では困難とされてきた、熱に弱い材料(高分子材料や生体材料、低融点材料、熱拡散しやすい材料等)等においても、加工部周辺に熱変性層を形成せず、加工面の化学組成も変化させず、高精度かつ高速での材料の微細加工法の確立を課題とする。
【0004】
本発明は、上記の点に鑑み、単波長レーザー光に比べて高速の材料加工が可能で、加工部周辺に熱変性層を形成せず、加工面の化学組成も変化させず、高精度微細加工が可能な多波長超短パルスレーザー光による材料加工法を提供することを目的とする。
【0005】
本発明のその他の目的や新規な特徴は後述の実施の形態において明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本願請求項1の発明は、近赤外線を含む、パルス幅が130fs以下の超短パルスレーザー光を、高調波発生用波長変換手段により一部波長変換し、前記超短パルスレーザー光の基本波と波長変換後の短波長化された1種類以上の高調波とを混合して同一材料の同一箇所に同時に照射する多波長超短パルスレーザー光による材料加工法であって、
前記超短パルスレーザー光の基本波は単独で前記材料をエッチング可能な照射エネルギー密度であり、
前記高調波は単独では前記材料をエッチングしないアブレーションしきい値未満の微弱な照射エネルギー密度に設定され、
加工後において、加工部周辺に熱溶融層が形成されず、かつ加工された面の化学組成が変化していないことを特徴としている。

【発明の効果】
【0009】
本発明に係る多波長超短パルスレーザー光による材料加工法によれば、従来困難とされてきた熱に弱い材料(高分子材料や生体材料、低融点材料、熱拡散しやすい材料等)等においても、加工部周辺に熱変性層を形成させず、加工面の化学組成も変化させず、高精度かつ高速での材料の微細加工法を確立でき、プリント配線基板の高精度微細加工に利用可能である等、電子機器製作のための必要不可欠な技術となる。また本発明は、これらエレクトロニクス分野にとどまらず、マイクロ化学分析システムの製作やマイクロ・ナノマシーニング技術等、今後微細加工を利用して発展するデバイス製作の分野に多大に利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、多波長超短パルスレーザー光による材料加工法の実施の形態を図面に従って説明する。
【0011】
図1乃至図8を用いて本発明に係る多波長超短パルスレーザー光による材料加工法の実施の形態1を説明する。
【0012】
図1は、近赤外線を含む、パルス幅が1ns未満の超短パルスレーザー光として、波長790nm、パルス幅130fsのTi:sapphireレーザー光を基本波として単独使用した場合、その第2高調波(波長395nm)単独使用の場合、及び基本波と第2高調波とを混合した実施の形態1の場合の、ポリエチレンの微細加工における比較実験の装置概略である。図1において、1は試料固定台で、この上に被加工材料としてポリエチレン(PE)板2が載置されている。3はレーザー光集束用の石英製レンズ、4は高調波発生用波長変換手段としての非線形光学結晶、5はレーザー光を減衰させる減衰板である。
【0013】
基本波の実験では、図1の装置において非線形光学結晶4は使用せず、前記基本波のレーザー光を厚さ2mmの減衰板5を通した後、焦点距離150mmの石英製レンズ3により、厚さ2mmのポリエチレン板表面でスポット径1.8mmになるように集光した。パルスエネルギーは最大10mJとした。アブレーションによるエッチング深さとレーザー光照射エネルギー密度との関係を調べるために、パルスエネルギーを変化させて実験を行った。
【0014】
第2高調波の実験は、厚さ0.5mmの非線形光学結晶4を、上記基本波の光路中に挿入して波長変換による短波長化された高調波を発生させ、さらに第2高調波のみを通過させる厚さ2mmのバンドパスフィルター(図示せず)を通して第2高調波のみを得た。出力されたパルスエネルギーは最大1.5mJであった。この第2高調波を、上記と同様焦点距離150mmの石英製レンズ3により、ポリエチレン板上でスポット径1.8mmになるように集光した。この場合、光路中には上記減衰板5は挿入しなかった。アブレーションによるエッチング深さとレーザー光照射エネルギー密度との関係を調べるために、パルスエネルギーを変化させて実験を行った。
【0015】
基本波と第2高調波とを混合させる本発明の実施の形態1の場合、基本波の光路中には、上記減衰板5と非線形光学結晶4を挿入して2波長の超短パルスレーザー光を発生させた。上記と同様焦点距離150mmの石英製レンズ3により、ポリエチレン板上でスポット径1.8mmになるように集光した。この結果、ポリエチレン板の同一箇所に基本波と高調波とが照射される。アブレーションによるエッチング深さとレーザー光照射エネルギー密度との関係を調べるために、パルスエネルギーを変化させて実験を行った。
【0016】
上記いずれの実験も、レーザー光のパルス繰り返し周波数は10Hzとし、加工は大気中で行った。
【0017】
図2は、レーザー光照射によりエッチングされた穴の深さとレーザー光照射エネルギー密度との関係を示している。この場合、基本波(790nm)と第2高調波(395nm)との比較を行っている。レーザー光の照射時間は10s一定とした。例えば、照射エネルギー密度80mJ/cmのときを比べてみると、基本波の場合のエッチング深さは約1μm、第2高調波では約12μmであった。エッチングが始まる照射エネルギー密度(アブレーションしきい値)も、基本波の場合50mJ/cm、第2高調波では20mJ/cmであった。さらに、エッチング形状を走査型電子顕微鏡により観察した結果、いずれの場合も加工部周辺に熱溶融層は全く形成されていなかった。したがって、エッチングの観点からは、基本波よりも第2高調波の方が優れていると考えられる。しかし後述するように、第2高調波を用いた場合、加工面は変色し化学組成の変化が起こる。したがって,第2高調波の利用は必ずしも得策ではない。
【0018】
図3は、レーザー光未照射及び第2高調波で加工されたポリエチレンのラマンスペクトルを示している。未照射ポリエチレン表面に見られるいくつかのシャープなピークの形状が、第2高調波照射後変化し、かつ1200から1700cm-1のブロードなピークもスペクトルに重なってくる。さらに、1605cm-1に新たなピークが見られた。上記ブロードなピークは遊離炭素によるものと同定でき、これがポリエチレン表面の変色の原因である。1605cm-1のピークはC=O結合と同定され、第2高調波で加工を行うとエッチング速度は速くできるが、化学組成が変化することが判明した。
【0019】
図4は、レーザー光未照射及び第2高調波で加工されたポリエチレン表面の赤外透過スペクトルである。第2高調波で加工されたポリエチレン表面からは、1715cm-1及び832cm-1に新たなピークが測定された。前者はC=O結合、後者はC=C-H結合と同定できる。赤外透過スペクトルからも、第2高調波で加工した表面の化学組成は変化することがわかった。
【0020】
図5は、レーザー光照射によりエッチングされた穴の深さとレーザー光照射エネルギー密度との関係を示している。この場合、基本波(790nm)、基本波と第2高調波(395nm)とを混合した実施の形態1の場合を比較している。レーザー光の照射時間は10s一定とした。例えば、照射エネルギー密度80mJ/cmのときを比べてみると、基本波の場合のエッチング深さは約1μm、基本波と第2高調波とを混合した実施の形態1の場合では約18μmであった。後者の場合、照射エネルギー密度80mJ/cmのとき、第2高調波と基本波との割合は17:63mJ/cmであった。第2高調波が17mJ/cmの場合、ポリエチレンはエッチングされない(図2参照)。したがって、微弱の第2高調波と基本波とを混合すると、第2高調波を単独で用いた場合よりもさらにエッチング深さは深くなることがわかった。走査型電子顕微鏡によりエッチング形状を観察した結果、加工部周辺に熱溶融層は全く形成されていなかった。
【0021】
図6は、レーザー光未照射ポリエチレン及び基本波と第2高調波との混合波で加工されたポリエチレンのラマンスペクトルを示している。混合波で加工されたポリエチレンと未照射ポリエチレンとのスペクトルの差異は全く認められなかった。したがって、ラマンスペクトルから、基本波と第2高調波との混合波で加工された面の化学組成は全く変化していないことが判明した。
【0022】
図7は、レーザー光未照射ポリエチレン表面及び基本波と第2高調波との混合波で加工されたポリエチレン表面の赤外透過スペクトルを示している。ラマンスペクトルと同様、混合波照射後もスペクトルは変化しないことがわかった。したがって、基本波と第2高調波との混合波を用いた場合、エッチング速度は著しく速くなり、加工部周辺に熱溶融層も形成せず、かつ加工面の化学組成も変化させない高精度微細加工が行えることを見出した。
【0023】
図8は、基本波と第2高調波との混合波を用いた実施の形態1の場合、ポリエチレン表面での照射エネルギー密度を80mJ/cm一定として、第2高調波の混合割合を変化させたときのエッチング深さとの関係を示している。レーザー光照射時間は5s一定とした。第2高調波(F395)と基本波(F790)との混合割合を約2:78mJ/cmとすると、エッチング深さは最も深くなることがわかった。このように、基本波への微弱の第2高調波の混合は、エッチング速度を著しく速くできることがわかった。
【0027】
なお、実施の形態1は基本波と第2高調波との混合波を用いた例であるが、基本波と複数の高調波との混合波を用いてもよいことは明らかである。
【0029】
実施の形態1では波長790nm、パルス幅130fsのTi:sapphireレーザー光を基本波として用いたが、近赤外線を含む、パルス幅が1ns未満の超短パルスレーザー光を発生可能であれば、Ti:sapphireレーザー光以外のレーザー光源を使用することもできる。
【0030】
以上本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されることなく請求項の記載の範囲内において各種の変形、変更が可能なことは当業者には自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る多波長超短パルスレーザー光による材料加工法の実施の形態1を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1と対比するための材料加工法について、基本波(790nm)、第2高調波(395nm)をそれぞれ単独で用いた場合の、エッチング深さとレーザー光照射エネルギー密度との関係を示すグラフである。
【図3】レーザー光未照射のポリエチレンと第2高調波が照射されたポリエチレンのラマンシフトと強度との関係を示すラマンスペクトル図である。
【図4】レーザー光未照射のポリエチレンと第2高調波が照射されたポリエチレンの波数と強度との関係を示すフーリエ変換赤外透過スペクトル図である。
【図5】本発明に係る材料加工法について、基本波(790nm)単独、基本波と第2高調波(395nm)とを混合した実施の形態1の場合の、エッチング深さとレーザー光照射エネルギー密度との関係をそれぞれ示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態1に係る材料加工法について、レーザー光未照射のポリエチレン、基本波と第2高調波とを混合して照射されたポリエチレンのラマンシフトと強度との関係を示すラマンスペクトル図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係る材料加工法について、レーザー光未照射のポリエチレン、基本波と第2高調波とを混合して照射されたポリエチレンの波数と強度との関係を示すフーリエ変換赤外透過スペクトル図である。
【図8】本発明の実施の形態1に係る材料加工法について、基本波(F790)と第2高調波(F395)との混合波を用い、ポリエチレン表面での照射エネルギー密度を80mJ/cm一定とした場合の、エッチング深さと第2高調波の混合割合との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0032】
1 試料固定台
2 ポリエチレン板
3 レンズ
4 非線形光学結晶
5 減衰板
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7