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明細書 :パルス幅制御装置およびレーザー照射装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5120847号 (P5120847)
公開番号 特開2010-107777 (P2010-107777A)
登録日 平成24年11月2日(2012.11.2)
発行日 平成25年1月16日(2013.1.16)
公開日 平成22年5月13日(2010.5.13)
発明の名称または考案の名称 パルス幅制御装置およびレーザー照射装置
国際特許分類 G02B  26/02        (2006.01)
H01S   3/10        (2006.01)
FI G02B 26/02 D
H01S 3/10 Z
請求項の数または発明の数 3
全頁数 14
出願番号 特願2008-280360 (P2008-280360)
出願日 平成20年10月30日(2008.10.30)
審査請求日 平成23年10月24日(2011.10.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
発明者または考案者 【氏名】横谷 篤至
個別代理人の代理人 【識別番号】100137752、【弁理士】、【氏名又は名称】亀井 岳行
審査官 【審査官】河原 正
参考文献・文献 特開2003-311457(JP,A)
特開2002-107635(JP,A)
調査した分野 G02B 26/00-26/06
H01S 3/10
特許請求の範囲 【請求項1】
レーザー光の光路に対して傾斜して配置され且つ前記レーザー光が入射される入射辺と、前記光路に対して傾斜し且つ前記入射辺に対して傾斜する出射辺とを有し、前記レーザー光の光路上に配置されて内部を前記レーザー光が透過するレーザー光透過素子と、
前記レーザー光透過素子内を通過する光路に対して傾斜する素子移動方向に前記レーザー光透過素子を移動可能に支持する素子移動装置と、
前記素子移動装置の移動量を制御して、前記レーザー光透過素子内を通過するレーザー光の光路長を制御し、出力されるレーザー光のパルス幅を変化させるパルス幅制御手段と、
を備え
前記レーザー光透過素子は、直角二等辺三角柱状の第1プリズム、第2プリズム、第3プリズムおよび第4プリズムからなり、
前記第1プリズムは、直角二等辺三角形の斜辺により構成された第1の前記入射辺に前記レーザー光が入射されると共に、前記レーザー光の入射光路に対して直交して配置された第1の前記出射辺から前記レーザー光が出射され、
前記第2プリズムは、前記レーザー光の入射光路に対して直交し且つ前記第1の出射辺に沿って配置された第2の前記入射辺から前記レーザー光が入射され、直角二等辺三角形の斜辺により構成された第2の前記出射辺から前記レーザー光が出射され、
前記第3プリズムは、前記入射光路に対して直交する線分を基準として前記第2プリズムに対して線対称に配置されると共に、直角二等辺三角形の斜辺により構成された第3の前記入射辺に前記レーザー光が入射されると共に、前記レーザー光の入射光路に対して直交して配置された第3の前記出射辺から前記レーザー光が出射され、
前記第4プリズムは、前記入射光路に対して直交する線分を基準として前記第1プリズムに対して線対称に配置されると共に、前記入射光路に対して直交し且つ前記第3の出射辺に沿って配置された第4の前記入射辺から前記レーザー光が入射され、直角二等辺三角形の斜辺により構成された第4の前記出射辺から前記レーザー光が出射され、
前記素子移動装置は、前記第1プリズムおよび第4プリズムを前記入射光路に対して直交する方向に移動させる第1のプリズム移動装置と、前記第2プリズムおよび第3プリズムを前記入射光路に対して直交する方向に移動させる第2のプリズム移動装置と、を有する
ことを特徴とするパルス幅制御装置。
【請求項2】
パルス幅がフェムト秒のフェムト秒レーザー光により構成された前記レーザー光を使用することを特徴とする請求項1に記載のパルス幅制御装置。
【請求項3】
レーザー光を出射するレーザー光源と、
前記レーザー光源装置から出射されたレーザー光の光路上に配置され、レーザー光源装置からのレーザー光のパルス幅を制御する請求項1または2に記載のパルス幅制御装置と、
を備えたことを特徴とするレーザー照射装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光のパルス幅を制御するパルス幅制御装置およびレーザー照射装置に関し、特に、パルス幅をピコ秒(10-12秒)やそれより小さいフェムト秒、特に、100フェムト秒オーダー(10-13秒)前後の範囲で制御するのに好適なパルス幅制御装置およびレーザー照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化、高性能化に伴い、直径100μmの微細化されたマイクロモータや各種センサ、アクチュエータ、電気回路等が集積されたデバイス、いわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を作製する技術の進展が望まれている。前記MEMSを作成する技術として、レーザー光を使用したレーザー加工技術が使用されており、さらなる微細な加工が要求されてきている。
前記レーザー加工技術であるレーザーアブレーション加工では、固体材料のターゲットにレーザー光が照射された時に、ターゲット表面の材料が放出されて、表面が削り取られることで、非接触で加工している。
【0003】
レーザーアブレーション加工等において使用されるレーザー光において、レーザー光が発光する時間であるパルス幅は、ターゲットに照射される時間に関連し、パルス幅がナノ秒(ns)のナノ秒レーザー光や、パルス幅がピコ秒(ps)のピコ秒レーザー光を使用する場合に比べて、さらにパルス幅が短いレーザー光を使用した場合は、より短時間で大きなエネルギーが伝達できるため、高品質、高精度で、熱の影響が小さくなる利点がある。
前記レーザーアブレーション加工をはじめ、レーザー光を使用した加工や実験、測定等では、光学素子の劣化や要求されている加工精度等の観点から、パルス幅を変化させたい場合がある。
パルス幅を変化させる技術として、下記の特許文献1、2記載の技術が知られている。
【0004】
特許文献1(特開2005-148550号公報)には、一般のレーザー光について、ビームスプリッタ(11)で分離された一部のレーザー光を、複数の反射鏡(12a~12d)や複数のプリズム(22a~22d)、複数の凸面レンズ(32a~32d)等を使用して、8の字状の遅延光路を通過させ、再びビームスプリッタ(11)で合成することで、出力されるレーザー光のパルス幅を伸張する技術が記載されている。すなわち、通過する光路長を変化させることで、パルス幅を伸張する技術が記載されている。
【0005】
特許文献2(特開2004-55626号公報)には、超短パルスレーザー(1)から出たパルス光を、ビームスプリッタ2で分離して、分離されたパルス光を一対の回折格子対(8、9)を有するパルス幅制御装置内(7)に導入し、回折格子(8、9)で回折された際に、パルス光に含まれる波長成分が分解され、短波長側と長波長側で異なる距離の光路を通過した後で合成されることで、パルス幅を広げる技術が記載されている。このとき、回折格子対(8、9)の距離を可変として、回折格子対(8、9)の距離を制御することで、パルス幅を任意の幅に制御している。
【0006】
また、特許文献2には、回折格子対(11、12)の間隔を固定して、回折格子で回折されたパルス光が通過するスリット(14)を設け、スリット(14)の幅を可変にすることで、パルス幅を変化させる技術が記載されている。
さらに、特許文献2には、三角プリズム対(15、16)で分光されて光路の距離が変化したパルス光を、幅が可変のスリット(14)を使用することでパルス幅を制御する技術が記載されている。
また、特許文献2には、光ファイバの波長分散特性を利用してパルス幅を広げる技術も記載されている。
【0007】

【特許文献1】特開2005-148550号公報(「0011」~「0016」、図3~図7)
【特許文献2】特開2004-55626号公報(「0019」~「0025」、図2~図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
(従来技術の問題点)
前記特許文献1記載の技術では、8の字の光路に応じて設定された特定のパルス幅に変化させることは可能であるが、パルス幅を連続的に変化させることはできない問題がある。
特許文献2記載の技術では、回折格子やプリズムを使用した場合、現実には光路差が小さいため、パルス幅の微調整は可能であるが、パルス幅を大きく変化させようとすると、装置が大型化する問題がある。例えば、プリズムを使用する場合において、最初のプリズム(15)への入射角を48.85°、プリズム(15、16)の間の間隔を10cmとした場合、計算すると、変化可能なパルス幅は最大でも1.12fs(フェムト秒)程度であり、スリットを制御すると、これよりもさらに小さくなるため、パルス幅の微調整しかできなかった。したがって、例えば、パルス幅を10fs変化させようとすると、プリズム間の間隔が数m程度必要となり、100fs変化させようとすると、数十m必要となる。
【0009】
したがって、特許文献1、2記載の技術のように、レーザー光が通過する空気中の光路長を制御し、光路差によりパルス幅を制御する技術では、時間差が非常に小さくなってしまうため、パルス幅を10fs~100fs~1000fs範囲で任意のパルス幅に制御するには、装置が大型化する問題がある。
【0010】
本発明は、前述の事情に鑑み、小型の装置で、10~1000フェムト秒オーダーの範囲でパルス幅を連続的に変化させることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明のパルス幅制御装置は、
レーザー光の光路に対して傾斜して配置され且つ前記レーザー光が入射される入射辺と、前記光路に対して傾斜し且つ前記入射辺に対して傾斜する出射辺とを有し、前記レーザー光の光路上に配置されて内部を前記レーザー光が透過するレーザー光透過素子と、
前記レーザー光透過素子内を通過する光路に対して傾斜する素子移動方向に前記レーザー光透過素子を移動可能に支持する素子移動装置と、
前記素子移動装置の移動量を制御して、前記レーザー光透過素子内を通過するレーザー光の光路長を制御し、出力されるレーザー光のパルス幅を変化させるパルス幅制御手段と、
を備え
前記レーザー光透過素子は、直角二等辺三角柱状の第1プリズム、第2プリズム、第3プリズムおよび第4プリズムからなり、
前記第1プリズムは、直角二等辺三角形の斜辺により構成された第1の前記入射辺に前記レーザー光が入射されると共に、前記レーザー光の入射光路に対して直交して配置された第1の前記出射辺から前記レーザー光が出射され、
前記第2プリズムは、前記レーザー光の入射光路に対して直交し且つ前記第1の出射辺に沿って配置された第2の前記入射辺から前記レーザー光が入射され、直角二等辺三角形の斜辺により構成された第2の前記出射辺から前記レーザー光が出射され、
前記第3プリズムは、前記入射光路に対して直交する線分を基準として前記第2プリズムに対して線対称に配置されると共に、直角二等辺三角形の斜辺により構成された第3の前記入射辺に前記レーザー光が入射されると共に、前記レーザー光の入射光路に対して直交して配置された第3の前記出射辺から前記レーザー光が出射され、
前記第4プリズムは、前記入射光路に対して直交する線分を基準として前記第1プリズムに対して線対称に配置されると共に、前記入射光路に対して直交し且つ前記第3の出射辺に沿って配置された第4の前記入射辺から前記レーザー光が入射され、直角二等辺三角形の斜辺により構成された第4の前記出射辺から前記レーザー光が出射され、
前記素子移動装置は、前記第1プリズムおよび第4プリズムを前記入射光路に対して直交する方向に移動させる第1のプリズム移動装置と、前記第2プリズムおよび第3プリズムを前記入射光路に対して直交する方向に移動させる第2のプリズム移動装置と、を有する
ことを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のパルス幅制御装置において、
パルス幅がフェムト秒のフェムト秒レーザー光により構成された前記レーザー光を使用することを特徴とする。
【0014】
前記技術的課題を解決するために、請求項3に記載の発明のレーザー照射装置は、
レーザー光を出射するレーザー光源と、
前記レーザー光源装置から出射されたレーザー光の光路上に配置され、レーザー光源装置からのレーザー光のパルス幅を制御する請求項1または2に記載のパルス幅制御装置と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1、に記載の発明によれば、レーザー光透過素子内を透過する際のレーザー光に含まれる波長成分の速度差と、パルス幅制御手段により制御された光路長とに応じて、レーザー光の波長成分の間に発生する時間差を制御することができ、従来の構成に比べて、小型の構成で、レーザー光のパルス幅を広い範囲で制御することができる。
また、請求項1、3に記載の発明によれば、4つのプリズムを使用することで、光路長を制御することができると共に、レーザー光の4つのプリズムに対する入射光路と出射光路とを同軸上にすることができ、既設の装置の光路上に容易に組み込むことができる。
請求項2に記載の発明によれば、フェムト秒レーザー光のパルス幅を広い範囲で制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例としての実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以後の説明の理解を容易にするために、図面において、前後方向をX軸方向、左右方向をY軸方向、上下方向をZ軸方向とし、矢印X,-X,Y,-Y,Z,-Zで示す方向または示す側をそれぞれ、前方、後方、右方、左方、上方、下方、または、前側、後側、右側、左側、上側、下側とする。
また、図中、「○」の中に「・」が記載されたものは紙面の裏から表に向かう矢印を意味し、「○」の中に「×」が記載されたものは紙面の表から裏に向かう矢印を意味するものとする。
【実施例1】
【0017】
図1は本発明の実施例1のパルス幅制御装置を含むレーザー照射装置の全体説明図である。
図1において、本発明の実施例1のレーザー照射装置1は、レーザー光の一例であってパルス幅がフェムト秒のフェムト秒レーザー光を出射するフェムト秒レーザー光源2を有する。フェムト秒レーザー光源2から出射されたフェムト秒レーザー光3は、パルス幅制御装置4に入射される。パルス幅制御装置4に入射されたフェムト秒レーザー光3は、パルス幅制御装置4でパルス幅が制御されて、被照射物の一例としての試料Sに照射される。
【0018】
図2は実施例1のパルス幅制御装置の斜視説明図である。
図2において、パルス幅制御装置4は、上方に配置された第1のプリズム移動装置11と、下方に配置された第2のプリズム移動装置12とからなる素子移動装置13を有する。
第1のプリズム移動装置11は、上下方向に延びる第1のエアシリンダ16と、第1のエアシリンダ16により上下方向に移動可能に支持された第1のプリズム支持ステージ17とを有する。前記第1のプリズム支持ステージ17は、略U字形状に形成されており、U字状の第1のプリズム支持ステージ17の2つの上端部には、第1の素子支持部の一例として、前方に折り曲げられた形状の第1のプリズム支持部17a,17bが形成されている。左側の第1のプリズム支持部17aには、レーザー光透過素子の一例としての第1プリズム18が固定支持されている。
【0019】
前記第1プリズム18は、直角二等辺三角柱状に形成されており、フェムト秒レーザー光3の入射光路3aに対して入射辺としての第1斜辺18aが45°傾斜した状態で配置されている。すなわち、実施例1ではフェムト秒レーザー光3の第1プリズム18への入射角は45°となっている。
したがって、第1プリズム18の残りの二辺は、出射辺としての第1垂直辺18bが上下方向(入射光路3aに対して垂直に傾斜した方向)に沿って配置されると共に、残りの第1水平辺18cが水平方向(入射光路3aに沿った)方向に配置されている。したがって、実施例1では、フェムト秒レーザー光3は、第1斜辺18aから入射し、第1プリズム18内を透過して、第1垂直辺18bから出射される。
【0020】
右側の第1のプリズム支持部17bには、レーザー光透過素子の一例としての第4プリズム19が固定支持されている。第4プリズム19は、前記第1プリズム18と同様に直角二等辺三角柱状に形成されており、第1プリズム18に対して左右対称、すなわち、入射光路3aに垂直な線分を基準にして線対称に配置されており、第4斜辺19a、第4垂直辺19b、第4水平辺19cを有する。したがって、実施例1の第4プリズム19は、入射辺としての第4垂直辺19bからフェムト秒レーザー光3が入射され、出射辺としての第4斜辺19aから出射されるように配置されている。
【0021】
第2のプリズム移動装置12は、第1のエアシリンダ16の側方に配置された上下方向に延びる第2のエアシリンダ21と、前記第2のエアシリンダ21により上下方向に移動可能に支持された側面から見た場合に略L字形に折り曲げられた板状の第2のプリズム支持ステージ22と、を有する。前記第2のプリズム支持ステージ22は、第2の素子支持部の一例としての第2のプリズム支持部22aを有し、第2のプリズム支持部22aの下面には、レーザー光透過素子の一例としての第2プリズム23および第3プリズム24とが固定支持されている。
【0022】
前記第2プリズム23は、前記第1プリズム18、第4プリズム19と同様に直角二等辺三角柱状に形成されており、第1プリズム18に対して左右対称且つ上下対称に配置されている。第2プリズム23は、第2斜辺23a、第2垂直辺23b、第2水平辺23cを有し、第2垂直辺23bが第1プリズム18の第1垂直辺18bに対して近接し且つ平行な状態となるように、第2プリズム23は配置されている。したがって、実施例1の第2プリズム23では、入射辺としての第2垂直辺23bからフェムト秒レーザー光3が入射され、出射辺としての第2斜辺23aから出射される。
【0023】
前記第3プリズム24は、各プリズム18、19、23と同様に直角二等辺三角柱状に形成されており、第2プリズム23に対して左右対称、すなわち、入射光路3aに垂直な線分を基準にして線対称に配置されている。第3プリズム24は、第3斜辺24a、第3垂直辺24b、第3水平辺24cを有し、第3垂直辺23bが第4プリズム19の第4垂直辺19bに対して近接し且つ平行な状態となるように、第3プリズム24は配置されている。したがって、実施例1の第2プリズム23では、入射辺としての第3斜辺24aからフェムト秒レーザー光3が入射され、出射辺としての第3垂直辺24bから出射される。
【0024】
図1、図2において、前記パルス幅制御装置4には、情報処理装置であって、パルス幅制御手段の一例としてのパーソナルコンピュータPCが接続されている。したがって、パルス幅制御装置4のエアシリンダ16,21は、パーソナルコンピュータPCから入力される制御信号に基づいて移動量が制御され、各プリズム18,19,23,24の光路3aに対する上下方向の位置が制御される。
なお、実施例1では、プリズム18,19,23,24を移動させる装置として、エアシリンダ16,21を例示したが、この構成に限定されず、油圧シリンダや、モータとギアとの組み合わせ等、任意の移動機構を採用することが可能である。
【0025】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1のレーザー照射装置1では、エアシリンダ16、21を作動させて、プリズム18,19,23,24を光路3aに対して移動させることで、レーザー光3が透過する光路長を連続的に制御される。
前記パルス幅制御装置4に入力されたフェムト秒レーザー光3は、パルス幅制御装置4のプリズム18,19,23,24を透過する際に、波長毎にプリズム中を進む速度が異なる(スネルの法則、屈折の法則)。したがって、プリズム18,19,23,24を通過する各波長の光に速度差が発生し、通過する時間に差が発生し、通過時間の差に応じて、パルス幅が広がる。
【0026】
図3は実施例1のプリズムをレーザー光が透過する状態の説明図であり、図3Aはフェムト秒レーザー光がプリズムで屈折する状態の説明図、図3Bはフェムト秒レーザー光の一例としてのピークが780nmのレーザー光が第1プリズムで屈折する説明図である。
図3において、例えば、ピークが780nmの赤色のフェムト秒レーザー(チタン・サファイアレーザ)を使用し、等辺18b,18cの長さLが5cmのプリズムを使用した場合を例として考える。
ピークが780nmの赤色のレーザー光は、近傍の760nm~800nmの波長成分も含まれており、波長760nmの屈折率をn760とし、波長800nmの屈折率をn800とし、空気中の光速をvとし、プリズム中の波長760nmの光速をv760とし、プリズム中の波長800nmの光速をv800とすると、スネルの法則から、以下の式(1)、(2)が成立する。
760=v/n760=1.9833×10[m/s] …式(1)
800=v/n800=1.9844×10[m/s] …式(2)
なお、式(1)、(2)における数値は、屈折率n760,n800として硼袿酸ガラスの屈折率を使用して計算をした。
【0027】
実施例1の構成では、第1プリズム18への入射角は共にθ=45°であり、波長760nmの屈折角をθr760とし、波長800nmの屈折角をθr800とし、第1プリズム18の入射光路3aから上端までの距離をxとした場合、波長760nmの光の通過する光路L760および波長800nmの光の通過する光路L800は、正弦定理から、式(3)、(4)で導出される。
760=x/sin(θr760+45°) …式(3)
800=x/sin(θr800+45°) …式(4)
なお、屈折角θは、スネルの法則から、以下の式(5)、(5′)で導出される。
sinθ/sinθr760=v/v760 …式(5)
sinθ/sinθr800=v/v800 …式(5′)
なお、他のプリズム19,23,24についても、式(3)、(4)と同様にして光路を導出することが可能であるため、詳細な説明は省略する。
前記式(3)、(4)において、x1が1[cm]の場合、L760=1.0463cm、L800=1.0462cmであり、光路差はほとんどない。また、θr760とθr800の角度差もほとんど無視できる。
【0028】
図4はプリズムの移動範囲の説明図であり、図4Aは光路長が最小になる最小光路長位置にプリズムが移動した状態の説明図、図4Bは光路長が最大になる最大光路長位置にプリズムが移動した状態の説明図である。
図5は実施例1の構成における時間差の計算結果の一覧表である。
式(1)、(2)で導出されたプリズム内の各波長の速度と、式(3)~(5)等を使用して導出されたプリズム内の光路の合計(光路長)と、に基づいて、時間差を計算すると、図4Aに示すように光路長が最小(x1が1cm程度に設定)の場合、図5に示すように波長760nmの通過時間が306.57ps(ピコ秒)であり、波長800nmの通過時間が306.44psであった。したがって、時間差は130fsとなる。また、図4Bに示すように、光路長が最大(x1が4cm程度に設定)の場合、波長760nmの通過時間が806.75ps、波長800nmの通過時間が806.43psで、時間差は320fsとなる。したがって、例示した構成の場合、130fs~320fsの範囲で、パルス幅を変化させることが可能であることがわかる。
【0029】
したがって、実施例1のパルス幅制御装置4では、プリズム18,19,23,24を光路3aに対して移動させることで、レーザー光3が透過する光路長が連続的に制御され、100fsオーダで、パルス幅を任意の値だけ変化させることができる。
したがって、従来のように、分光した各波長成分の光路長の差では、空気中を通過する速度に差がほとんど無いため、時間差がほとんどなく、パルス幅を数fsしか変化させられず、微調整しかできなかったが、実施例1のように、速度差が発生するプリズム中を通過する光路長を利用することで、プリズムが5cm程度の小型のものでも、100fsオーダでパルス幅を制御することができる。
この結果、実施例1のパルス幅制御装置4は、従来の構成に比べて小型の構成で、100fsオーダでのパルス幅の制御を実現できる。
【0030】
なお、実施例の構成では、第1プリズム18と第4プリズム19が線対称に配置され、第2プリズム23と第3プリズム24が線対称に配置され、且つ、第1プリズム18、第2プリズム23に対して、第3プリズム19、第4プリズム19が線対称に配置されているため、パルス幅制御装置4全体として、レーザー光3の入射光路3aと、出射光路3bとを同軸上にすることができる。すなわち、既設の装置に組み込む場合に、レーザー光3の光路が変化せず、既設の装置の設定や位置の変更を行う必要がなく、光路上に追加して設置するだけで、容易にパルス幅を100fsのオーダで制御することができる。
【0031】
また、小型で容易に設置が可能であるため、例えば、パルス幅制御装置4を2つ並べて配置することで、倍の範囲(260fs~640fs)で制御でき、3つ並べることで1000fs近くの範囲までパルス幅が制御できる。
なお、複数個並べなくても、パルス幅制御装置4から出射されたレーザー光3を、ミラー等で反射して、もう一度パルス幅制御装置4に入射することを何度か繰り返すことで、同様の効果を得ることが可能である。したがって、この場合は、パルス幅を100fs程度変化させる場合は、ミラーで反射させず、1000fs程度変化させる場合には、ミラーを使用することで、100fs~1000fs程度の範囲でパルス幅を制御することができる。
【0032】
(実験例)
図6は実験例1の装置の全体説明図である。
次に、本発明の効果を確認するための実験を行った。
実験は、実施例1の構成のパルス幅制御装置4を使用し、図6に示す実験装置を使用して行った。フェムト秒レーザ光として、パルス幅160fsで、波長882nmの基本波と波長441nmの第2高調波とを含むダブルパルス光を使用した。パルス幅制御装置4から出力されたレーザー光は、第1反射鏡41で反射され、第1ビームスプリッタ42で、分岐される。
【0033】
第1ビームスプリッタ42で分岐された一方のレーザー光は、第2反射鏡43で反射されて遅延光学素子44に入射される。前記遅延光学素子44は、レーザー光の光路長を制御する従来公知の素子であり、遅延用第1反射鏡46および遅延用第2反射鏡47を有し、第2反射鏡43に接近、離間する方向に移動可能に構成されている。したがって、遅延光学素子44と第2反射鏡43との距離を制御することで、レーザー光の光路が変化し、レーザー光を遅延させることができる。遅延光学素子44から出力されたレーザー光は、第3反射鏡48で反射され、第2ビームスプリッタ49に入射される。
第1ビームスプリッタ42で分岐された他方のレーザー光は、第4反射鏡51および第5反射鏡52で反射されて、第2ビームスプリッタ49に入射される。したがって、第2ビームスプリッタ49で、レーザー光が合成され、遅延光学素子44での遅延に応じて、一方のレーザー光と他方のレーザー光とが干渉する。
【0034】
第2ビームスプリッタ49から出力されたレーザー光は、非線形光学結晶の一例としてのLBO結晶53に入力されて第2高調波の位相整合が行われ、プリズム54で基本波と第2高調波とが分離される。分離された波長882nmの基本波を遮光部材56で遮光し、波長441nmの第2高調波の強度を強度測定装置57で測定した。
なお、実験は、パルス幅制御装置4において、光路長が最小の場合と、光路長が最大の場合で、遅延光学素子44で遅延時間を変化させて、レーザー光の強度を測定した。測定結果を図7に示す。
【0035】
図7は実験例の実験結果のグラフであり、図7Aは光路長が最小の場合のグラフ、図7Bは光路長が最大の場合のグラフである。
図7において、横軸に遅延時間(Delay time)を取り、縦軸に強度を取ると、図7に示すような測定値が測定された。測定された測定値から、従来公知の自己相関法で自己相関波形を演算し、自己相関波形からパルス幅(半値全幅)を演算した。
この結果、光路長が最小の場合は、第2高調波発生の遅延時間の半値幅から求めたパルス幅は、197fsとなり、元々のパルス幅160fsからの変化は小さかった。光路長が最大の場合は、パルス幅は349fsであった。
したがって、100fsオーダでパルス幅が制御できることが確認された。
【実施例2】
【0036】
図8は本発明の実施例2のパルス幅制御装置の要部説明図である。
次に、本発明の実施例2の説明をするが、この実施例2の説明において、前記実施例1の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
この実施例2は、下記の点で前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成されている。
図8において、実施例2のパルス幅制御装置4′では、実施例1のパルス幅制御装置4とは異なり、レーザー光透過素子として、2つのプリズム18′,19′を有する。実施例2の第1プリズム18′および第2プリズム19′は、共に同一形状の直角三角柱上に構成されており、3つの角が、90°、30°、60°となっている。
【0037】
そして、第1プリズム18′は、フェムト秒レーザー光3の入射光路3aに対して、入射辺としての第1垂直辺18b′が直交する状態で配置されている。したがって、実施例2では、レーザー光透過素子への入射角は90°に設定されている。第2プリズム19′は、第1プリズム18′の出射辺としての第1斜辺18a′に平行して、入射辺としての第2斜辺19a′が配置されている。そして、出射辺としての第2垂直辺19b′からフェムト秒レーザー光が出力される。
なお、実施例2では、第1プリズム18′を支持して移動させる第1プリズム移動装置11′は、入射光路3aに対して、第1斜辺18a′に沿った方向に第1プリズム18′を移動可能に支持する。同様に、第2プリズム19′を支持して移動させる第2プリズム移動装置12′は、入射光路3aに対して、第2斜辺19a′に沿った方向に第1プリズム19′を移動可能に支持する。
【0038】
(実施例2の作用)
前記構成を備えた実施例2のパルス幅制御装置4′では、
フェムト秒レーザー光3がプリズム18′,19′を通過する際に、波長に応じて発生する速度差により、パルス幅が広がる。そして、素子移動装置13′(11′+12′)を制御して、フェムト秒レーザー光3がプリズム18′,19′を透過する光路長を制御することで、パルス幅を制御することができる。
なお、第1水平辺18c′および第2水平辺19c′の長さLを3cmとすると、フェムト秒レーザー光3がプリズム18′,19′を透過する光路長は、0cm(プリズム18′,19′が光路3aから外れた状態)~6cm(水平辺18c′,19c′の近傍を透過する状態)の範囲で制御することができる。例えば、通過する光路長が3cmとして、その他の条件は実施例1と同様にして計算をすると、84fsの時間差を発生させることができ、パルス幅を84fs広げることができる。したがって、数10fs~数100fs程度の範囲でパルス幅を制御することができる。
その他、実施例2は実施例1と同様の作用、効果を有する。
【0039】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、前記実施例において、プリズムの数や大きさ、材質は、変化させたいパルス幅の設定や、設計、仕様等に応じて、任意に変更可能である。
また、前記実施例において、フェムト秒レーザー光の入射光路3aと出射光路とが同一軸上であることが望ましいが、プリズムの数や配置角度、ミラー(反射鏡)等を使用して同一でないように設定することも可能である。
【0040】
前記実施例において、パルス幅制御手段としてパーソナルコンピュータを例示したが、この構成に限定されず、制御回路(電子回路)と操作部とを有する入力制御装置を使用することも可能である。
本発明は、レーザー光としてパルス幅がフェムト秒のフェムト秒レーザー光に特に好適に使用可能であるが、フェムト秒レーザー光に限定されず、例えば、パルス幅がピコ秒(=1000フェムト秒)オーダのピコ秒レーザー光に対して使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は本発明の実施例1のパルス幅制御装置を含むレーザー照射装置の全体説明図である。
【図2】図2は実施例1のパルス幅制御装置の斜視説明図である。
【図3】図3は実施例1のプリズムをレーザー光が透過する状態の説明図であり、図3Aはフェムト秒レーザー光がプリズムで屈折する状態の説明図、図3Bはフェムト秒レーザー光の一例としてのピークが780nmのレーザー光が第1プリズムで屈折する説明図である。
【図4】図4はプリズムの移動範囲の説明図であり、図4Aは光路長が最小になる最小光路長位置にプリズムが移動した状態の説明図、図4Bは光路長が最大になる最大光路長位置にプリズムが移動した状態の説明図である。
【図5】図5は実施例1の構成における時間差の計算結果の一覧表である。
【図6】図6は実験例1の装置の全体説明図である。
【図7】図7は実験例の実験結果のグラフであり、図7Aは光路長が最小の場合のグラフ、図7Bは光路長が最大の場合のグラフである。
【図8】図8は本発明の実施例2のパルス幅制御装置の要部説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1…レーザー照射装置、
2…フェムト秒レーザー光源、
3…フェムト秒レーザー光、
3a,3b…光路、
4,4′…パルス幅制御装置、
11…第1のプリズム移動装置、
12…第2のプリズム移動装置、
13,13′…素子移動装置、
18…第1プリズム、
18,19,23,24…レーザー光透過素子、
18a,19b,23b,24a…入射辺、
18b,19a,23a,24b…出射辺、
19…第4プリズム、
23…第2プリズム、
24…第3プリズム、
PC…パルス幅制御手段。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図8】
6
【図7】
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