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明細書 :高温酢酸発酵酢酸菌

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5470807号 (P5470807)
公開番号 特開2010-110298 (P2010-110298A)
登録日 平成26年2月14日(2014.2.14)
発行日 平成26年4月16日(2014.4.16)
公開日 平成22年5月20日(2010.5.20)
発明の名称または考案の名称 高温酢酸発酵酢酸菌
国際特許分類 C12N   1/20        (2006.01)
C12P   7/54        (2006.01)
FI C12N 1/20 A
C12P 7/54
請求項の数または発明の数 3
微生物の受託番号 NPMD NITE P-662
NPMD NITE P-663
NPMD NITE P-664
NPMD NBRC 101655
全頁数 10
出願番号 特願2008-287703 (P2008-287703)
出願日 平成20年11月10日(2008.11.10)
審査請求日 平成23年11月1日(2011.11.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】松下 一信
【氏名】秦野 智行
【氏名】薬師 寿治
【氏名】足立 収生
【氏名】ガンジャナ テーラグール
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
【識別番号】100102255、【弁理士】、【氏名又は名称】小澤 誠次
【識別番号】100096482、【弁理士】、【氏名又は名称】東海 裕作
【識別番号】100131093、【弁理士】、【氏名又は名称】堀内 真
審査官 【審査官】三原 健治
参考文献・文献 化学と生物,Vol.46,No.7(Jul.2008)p.472-477
バイオサイエンスとインダストリー,Vol.66,No.3(Mar.2008)p.130-134
BBB,Vol.61,No.1(1997)p.138-145
調査した分野 C12N 1/00-1/38
C12P 7/54
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
酢酸菌Acetobacter pasteurianus SKU1108を生育限界温度(38℃)の培地で繰り返し培養し、得られた生育限界温度適応株の一部を前培養液として、38.5℃の新しい培地で繰り返し培養を行い、得られた38.5℃の培地での適応株の一部を前培養液として、39.5℃の新しい培地で繰り返し培養を行うことにより、39~41℃の範囲で酢酸発酵能力を有する酢酸菌を得る、酢酸菌Acetobacter pasteurianus SKU1108の変異株の作製方法であって、前記繰り返し培養は、培養した培地の濁度がKlett Unitにして60~120、酸性度が1.0~1.8%に達したところで、培養液の一部を次の新しい培地に種菌として接種し、同じ温度で再び培養するという操作を繰り返し行う培養である、酢酸菌Acetobacter pasteurianus SKU1108の変異株の作製方法
【請求項2】
請求項1記載の酢酸菌Acetobacter pasteurianus SKU1108の変異株の作製方法によって作製された酢酸菌Acetobacter pasteurianus TH-3(託番号 NITE P-664)。
【請求項3】
請求項1記載の酢酸菌Acetobacter pasteurianus SKU1108の変異株の作製方法によって作製された酢酸菌Acetobacter pasteurianus SKU1108の変異株を用いて39℃~41℃で酢酸発酵を行うことを特徴とする酢酸の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、段階的に培養温度を上昇させて繰り返し培養することにより39~41℃の範囲で酢酸発酵能力を有する酢酸菌Acetobacter.pasteurianusの自然変異株及びその変異株により酢酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸菌は様々なアルコールや糖アルコールを酸に酸化する能力を有する。この酢酸菌を用いて、工業的にエタノールからの酸化によって酢酸が製造されている。
【0003】
工業的な酢酸の製造にはAcetobacter属酢酸菌が広く一般的に使用されている。Acetobacter属酢酸菌は我が国の伝統的な静置発酵法による食酢醸造現場において、米酢もろみ上の発酵菌膜から分離された酢酸菌である。高い酢酸生産能力と酢酸耐性能を有し、我が国を中心に多くの研究実績があり、酢酸菌研究の標準株の一つと位置づけられる。
【0004】
このAcetobacter属酢酸菌を利用した酢酸発酵は工業的に広く行われているが、効率的な酢酸発酵を行うためには正確な温度制御が必要である。Acetobacter属酢酸菌の培養においては30℃より高くなると、急激に生育及び酢酸発酵能力が低下するため、通常25℃~30℃で行われる。しかしながら、夏期には気温が30℃以上になり、さらに微生物の発酵によって熱が発生するために、酢酸発酵が進むにつれて発酵層が40~45℃以上となってしまうことがある。したがって発酵槽を25℃~30℃に保つための冷却設備及び冷却のためのエネルギーや水が必要となるが、その費用負担は大きい。生産量にも左右されるが、1トンの発酵槽で1℃下げるための冷却水・エネルギー等で年間数百万円もかかる場合がある。そこで、1℃でも高温で生育及び酢酸発酵が可能な高温耐性酢酸菌の研究が進められている。
【0005】
高温耐性の酢酸菌として、非特許文献1には、本発明者らによってAcetobacter pasteurianus
SKU1108が単離され、この菌は38℃で生育及び酢酸発酵能を有することが示されている。しかしながら、39℃では生育、発酵能力が低下し、40℃では生育、発酵能力が非常に弱くなる。
【0006】
また、非特許文献2には、Acetobacter acetiにおいて、35℃で30℃とほぼ同じ最高の酢酸生成能を保持し、37℃でも30℃で培養した場合に対して68%の活性があることが示されている。通常のAcetobacter acetiは35℃で酢酸生成能を完全に失うことから,本菌株による高温度発酵で冷却費を多少減少させることができるが、38℃以上になると急激に酢酸発酵が減少し、40℃では全く酢酸発酵が見られておらず、多大な冷却コストがかかることには変わりない。
【0007】
特許文献1にはAcetobacter属に属する実用酢酸菌から、温度耐性に関与する新規な遺伝子をクローニングし、該遺伝子を酢酸菌に導入してなる形質転換株において、顕著に温度耐性が向上したことが示されている。この文献においては、Acetobacter acetiの形質転換株では38℃でも増殖、酢酸発酵が可能であることが示されている。しかしながら、40℃においては、増殖が認められるだけで酢酸発酵は認められていない。また、遺伝子工学的手法によって得られた株であり、食品として摂取される酢酸を遺伝子組み換え手法によって得られた株を用いて製造するには、高い安全性の確認が求められる。さらに、社会的感情としても受け入れがたいものがある。
【0008】
さらに、非特許文献3には、Acetobacter属の酢酸菌の細胞融合法、つまり温度耐性は有するが酢酸発酵能のあまり強くない酢酸菌株(Acetobacter aceti)と酢酸発酵は強いが温度耐性のあまり強くない酢酸菌(Acetobacter
xylinus)とを融合させる方法により、高温で発酵能を有する菌株が示されているが、37℃が生育及び酢酸発酵の上限であり、39℃以上での生育及び発酵能力は示されていない。
【0009】
このように、これまで知られている酢酸菌では効率的な酢酸発酵の上限が38℃とされていたが、38℃以下にするには、冷却のための設備、費用負担が大きいため、さらに高温で酢酸発酵能力を有する酢酸菌が求められていた。

【特許文献1】再公表WO2004-053122
【非特許文献1】A.Saeki.,etal.,Biosci.Biotech.Biochem.,61,138-145(1997)
【非特許文献2】S.OHMORI.,et al.,Vol.44 No.12 Page.2901-2906(1980.12)
【非特許文献3】M.Fukaya.,etal.,Agric.Biol.Chem.,53(9),2435-2440(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は安全性の高い自然株を用い、より高温耐性及び酢酸発酵能を有する株を得ることを目的とし、鋭意研究した結果、Acetobacter pasteurianus SKU1108に対して、段階的に培養温度を上昇させて繰り返し培養することにより、39℃~41℃でも生育及び酢酸発酵能力を有する自然変異株を作出することに成功し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、酢酸菌Acetobacter pasteurianus SKU1108を生育限界温度(38℃)の培地で繰り返し培養し、得られた生育限界温度適応株の一部を前培養液として、38.5℃の新しい培地で繰り返し培養を行い、得られた38.5℃の培地での適応株の一部を前培養液として、39.5℃の新しい培地で繰り返し培養を行うことにより、39~41℃の範囲で酢酸発酵能力を有する酢酸菌を得る、酢酸菌Acetobacter pasteurianus SKU1108の変異株の作製方法であって、前記繰り返し培養は、培養した培地の濁度がKlett Unitにして60~120、酸性度が1.0~1.8%に達したところで、培養液の一部を次の新しい培地に種菌として接種し、同じ温度で再び培養するという操作を繰り返し行う培養である、酢酸菌Acetobacter pasteurianus SKU1108の変異株の作製方法である。

【0013】
本発明の第の態様は、請求項1記載の酢酸菌Acetobacter pasteurianus SKU1108の変異株の作製方法によって作製された酢酸菌Acetobacter pasteurianus TH-3(託番号 NITE P-664)である。
【0014】
本発明の第の態様は、請求項1記載の酢酸菌Acetobacter pasteurianus SKU1108の変異株の作製方法によって作製された酢酸菌Acetobacter pasteurianus SKU1108の変異株を用いて39℃~41℃で酢酸発酵を行うことを特徴とする酢酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明を利用することで、39~41℃の範囲でも酢酸発酵を効率よく行うことができるため、工業的な酢酸生産における冷却設備及び冷却水などに掛かる費用を大幅に削減することができる。さらに、自然変異株であることから、安全性の高い食酢を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において高温適応能力とは、次のように定義される。すなわち、通常の25℃~30℃で生育及び酢酸発酵を行うことができるが、30℃~41℃、特に38℃~41℃の高温培地においても生育及び酢酸発酵ができる能力をいう。ここで、生育とは、単に菌が生存していることではなく、その温度下で生存し、かつ効率的な酢酸発酵(誘導期が短く達成酸度が高い)を示す状態を指す。
【0017】
本発明の酢酸菌Acetobacter pasteurianus SKU1108は本発明者らによってAcetobacter lovaniensisとしてパイナップルから単離されたもので、2006年1月18日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されており、その寄託番号はNBRC101655である。後に本発明者らによってAcetobacter pasteurianusに属することが16S rRNA遺伝子の解析から明らかとされた。
【0018】
本発明に用いるAcetobacter pasteurianus SKU1108の変異株はAcetobacter pasteurianus SKU1108に対して、段階的に温度を上げながら繰り返し培養を行って得られた高温適応能力を有する自然変異株である。
【0019】
ここで、「繰り返し培養」とは、生育や発酵の低下を招くような高い温度、たとえばAcetobacter
pasteurianus SKU1108の場合は38℃付近で培養し、生育した菌が目的の培養のフェーズに達したところで、培養液の一部を次の新しい培地に種菌として接種し、同じ温度で再び培養するという操作を繰り返し行うことである。目的のフェーズとは、対数増殖期の中ごろから定常期のはじめであって、かつ、到達酸性度の上昇が見られた段階をいい、培地の濁度がKlett Unitにして40~280程度、好ましくは、対数増殖期の中ごろ60~120程度であり、達成酸性度は0.8~3.5程度、好ましくは1.0~1.8程度である。
【0020】
この繰り返し培養を行うことによって、生育、発酵限界温度では、生育が非常に遅く、発酵能力も低かった株が、その温度で生育及び酢酸発酵能力を有する高温適応株へと変異するのである。繰り返し培養における「繰り返し」の回数は特に限定されないが、高温適応性を有する株が得られるまで、つまり、立ち上がりまでに必要な時間が24時間、より好ましくは15時間になるまで行うことが好ましい。
【0021】
次に、上記繰り返し培養によって得られた株の一部を前培養液として、培地の温度を更に高温にした新しい培地で繰り返し培養を行う。温度の上昇幅は特に限定されないが、前述のように、菌の生育や発酵の低下を招く限界の温度以下でなければならず、例えば0.5℃温度上昇させた培地で培養を行うことが肝要である。このように徐々に培地の温度を上げた培地で繰り返し培養を行ってより高温での高温適応株を得るのである。
【0022】
図1を用いて、38℃が生育限界温度(菌の生育や発酵の低下を招く温度)であるAcetobacter
pasteurianus SKU1108によって38℃、38.5℃、39.5℃で順次繰り返し培養を行う場合について説明する。
【0023】
38℃の培地で菌を培養し、生育に伴いKlett Unit及び酸性度を測定する。Klett Unit及び酸性度の測定値によって目的のフェーズになったら、培養液の一部をとって、同じ温度の新しい培地に接種して再び培養を行う。この培養において目的のフェーズになったら、培養液の一部をとって、同じ温度の新しい培地に接種してさらに培養を行う。これを繰り返し、高温適応株が得られたら、その培養液の一部をとって、38.5℃の培地に接種し、38℃の場合と同様に繰り返し培養を行う。繰り返し培養によって、38.5℃で高温適応株が得られたら、その培養液の一部をとって、39.5℃の培地に接種し、繰り返し培養を行うのである。
【0024】
こうして得られた株のうち、目的のフェーズを対数増殖期の中ごろ(Klett Unitにして60~120程度、酸性度が1~1.8%)として繰り返し培養を行った場合であって、38℃及び38.5℃で培養することで得られた高温適応化株がTH-1である。そして、引き続き39.5℃での繰り返し培養を行い、最終的に得られた菌群をプレートにスプレッドし、確認できた3種類のサイズのコロニーを生育比較し、もっとも酢酸発酵能の高かったものを高温適応株TH-3とした。また、目的のフェーズを対数増殖期の終わりから定常期のはじめ(Klett
Unitにして220程度、酸性度が2.7~3.5%)として繰り返し培養を行った場合であって、38℃及び38.5℃で培養することで得られた高温適応化株がTH-2である。なお、本発明に用いるAcetobacter pasteurianus TH-1、TH-2及びTH-3は、2008年10月22日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されており、その寄託番号はそれぞれNITE AP-662,NITE AP-663及びNITE AP-664である。
【0025】
こうして(1)生育限界温度で繰り返し培養を行う→(2)その培地温度での適応株を得る→(3)さらに高温の新しい培地へ接種する→(4)繰り返し培養を行う→(5)その培地温度での適応株を得る、という一連のサイクルを段階的に温度を上昇させて行うのである。
【0026】
培養温度はAcetobacter pasteurianus SKU1108の効率的な酢酸発酵及び生育の限界温度である38℃から始めてもよく、あるいは生育限界温度以下から徐々に培養温度を増加させてもよい。最終到達温度は高ければ高いほど良いが、菌が生育できるのは自から限界があり、41℃あたりが上限と考えられる。
【0027】
本発明の菌を用いる酢酸発酵及び菌の培養におけるpHの条件は、公知の任意の方法によって調整をすることができるが、培地のpHは7.5以下が好ましい。本発明の酢酸菌変異株の発酵作用によって発生する酢酸が原因で培地のpHが低下するのを防ぐために、例えば、培地に適当な緩衝剤又はアルカリを添加したり、培地を連続的又は定期的に交換することによって行うことができる。
【0028】
本菌株を培養して酢酸の製造をする場合は、公知の培地組成(例えば0.5%酵母エキス、0.5%ポリペプトン、1%グリセリンなどを含むYPG液体培地)、振盪培養などの好気的条件下で液体培養することにより行うことができる。酵母エキスを用いる、あるいはフラクトースや蔗糖などの糖類を添加することも可能である。培地中には、アルコール、好ましくはエタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、より好ましくはエタノールを3~5%添加する。さらに、高温での酢酸発酵を効率的に行うためには、エアレーション(通気)を上げることができる。このエアレーションは、培養培地中に空気を吹き込むなどして向上させることが出来る。酢酸は菌体をろ過することで回収することができる。
【0029】
また、菌の増殖が確認されて発酵が開始された後、アルコールが消費されアルコール濃度が0.5~3容量%になった段階で、酸度0.1~10%、エタノール10~90容量%、酵母エキス0.005~0.5重量/容量%、ブドウ糖0.005~1重量/容量%の組成の添加液を、アルコール濃度が0.4~3容量%を維持するように制御しつつ発酵液に添加することで、発酵が継続される。
【0030】
通気方法についても、従来公知の方法が採用でき、何ら制限がなく、例えば、空気、酸素ガス等の酸素を含む気体を通気管を通じて供給する方法などが挙げられる。通気量は、発酵状況などを考慮して適宜設定すれば良く、例えば0.02~1vvm(通気容量/発酵液量/分)の通気量で、発酵液の下部に供給し、これを攪拌機で分散させ、発酵液中の溶存酸素が0.2~8ppm程度を維持するように制御すれば良い。
【実施例】
【0031】
(前培養)
Acetobacter pasteurianus SKU1108の濁度が150Klett
Unitになるまで5mlのポテト培地(表1)を入れた試験管で37℃、200rpmで前培養した。この前培養液5mlを100mlのYPGD(表2)培地が入った500mlのフラスコに無菌的に接種し、4%エタノールを加えて38℃、200rpmで培養した。
【0032】
(生育及び酢酸発酵の測定)
培養が進んだ段階で菌の生育についてはklett unitの測定により行った。この測定には、klett unitはklett-summerson光電比色計を用いた。
【0033】
酢酸発酵については酸性度の測定により確認した。培地の酸性度は発酵液に対してフェノールフタレインを指示薬として用いて0.8N NaOHでアルカリ滴定を行い、得られた滴定量を0.12倍にして酢酸濃度換算した値を酸度とし、%で表わした。
【0034】
(繰り返し培養)
菌の生育及び酢酸発酵が認められ、目的のフェーズに達したら、その培養液の一部を種菌として5ml取り、新しい培地に接種して同じ条件で培養、つまり、先に説明した「繰り返し培養」を行った。
【0035】
ここで、目的のフェーズを対数増殖期の中ごろ(Klett Unitにして60~120程度、酸性度が1~1.8%)として繰り返し培養を行った場合と、目的のフェーズを対数増殖期の終わりから定常期のはじめ(Klett Unitにして220程度、酸性度が2.7~3.2%)として繰り返し培養を行った場合とに分けた。
【0036】
目的のフェーズを対数増殖期の中ごろとする方法では、38℃での繰り返し培養を7回実施し、7回目の培養液5mlを種菌として、100mlのYPGD培地が入った500mlのフラスコに無菌的に接種し、4%エタノールを加えて38.5℃、200rpmで培養した。38.5℃で10回ほど繰り返し培養を行い、10回目の培養によって得られた株をTH-1とした(図2上段)。更に続けて、38.5℃に適応したTH-1株は39.5℃で21回の繰り返し培養を行った。そして21回目の培養液から最終的に得られた菌群をプレートにスプレッドし、確認できた3種類のサイズのコロニーを生育比較し、もっとも酢酸発酵能の高かったものを高温適応株TH-3とした。
【0037】
なお、TH-1株は39℃を経ずに39.5℃での繰り返し培養を行ったが、これは、TH-1株は39℃下でも速やかに酢酸発酵を行うことが出来たためである。
【0038】
一方、目的のフェーズを対数増殖期の終わりから定常期のはじめとしてする方法では、38℃での繰り返し培養を4回実施し、4回目の培養液5mlを種菌として、100mlのYPGD培地が入った500mlのフラスコに無菌的に接種し、4%エタノールを加えて38.5℃、200rpmで培養した。38.5℃で5回ほど繰り返し培養を行い、5回目の培養によって得られた株をTH-2とした(図2下段)。
【0039】
(高温適応能力の獲得)
図3は、39.5℃での繰り返し培養を行った際の生育(A)及び酢酸発酵能力(B)を調べたものである。(A)は横軸が培養時間で、縦軸が濁度Klett Unit、(B)は横軸が培養時間、縦軸が酸性度(%)を示す。(A)の左から順に繰り返し培養の1回目、2回目と順に21回培養した場合の生育を示し、それぞれに対応する酸性度を示すデータが(B)となる。培養初期は生育が非常に遅く、酸性度の上昇は非常に遅いが、繰り返し培養を行うことで、立ち上がりまでの時間が短縮され、酸性度も上昇した。具体的には、培養開始時には酢酸発酵開始までに160時間程度要した菌が、最終的には24時間程度にまで改善され、酸性度も2%程度から3.5%程度まで上昇している。こうして、39.5℃の条件下での培養でも生育及び酢酸発酵を行うことができる株を得ることができた。
【0040】
なお、(A)において、定常期以降再び菌が生育し、それとともに(B)に示すように酸性度が低下しているが、これは、酢酸菌が産生した酢酸を資化してエネルギーを得るという、酢酸菌に一般的に見られる性質によるものである。
【0041】
(ジャーファーメンターによる高温培養)
上記により得られた酢酸菌Acetobacter pasteurianus
SKU1108の変異株TH-1、TH-2及びTH-3と、変異前の株であるAcetobacter pasteurianus
SKU1108を37℃、200rpmで100mlを500mlフラスコで濁度が150klett unitになるまでポテト培地で前培養した。5L容量のジャーファーメンター(丸菱産業社製)に2Lの培地を入れ、その前培養液全て(100ml)を無菌的に接種し、37℃、39℃、40℃、41℃のそれぞれの温度にて、500rpm、通気量0.5vvmで培養した。この際に4%エタノールを加えた。結果を図4に示す。横軸は培養時間、縦軸右が酸性度(%)、縦軸左が濁度(klett unit)を示す。
【0042】
37℃においては、いずれも同じ程度の生育及び発酵能力を有している。培養後15時間で濁度においては200Klett Unitを超え、酸性度も3%を超えている。
しかしながら、39℃において、Acetobacter pasteurianus SKU1108は生育も酢酸発酵も急激に低下し、培養後15時間で37℃の場合と比べて濁度においては約3分の1Klett Unit、酸性度は約5分の1%となっている。一方、TH-1,TH-2及びTH-3株においては生育及び発酵能力共に37℃における培養と同様であり、これまでの効率的な酢酸発酵及び生育限界温度とされてきた38℃を超える温度での酢酸菌の生育及び酢酸発酵に成功した。
【0043】
さらに、40℃においても、TH-3においては37℃の場合と同様の生育及び発酵能力を有していることが明らかになった。TH-1においても、37℃の場合と比較すると濁度においては約3分の2Klett Unit、酸性度も約3分の2%を有していた。TH-2においては、37℃の場合と比較すると濁度においては約6分の1Klett Unit、酸性度は約4分の1%であった。
【0044】
41℃においても、TH-3においては37℃の場合と比較すると、菌の生育も酢酸発酵も衰えるが、培養時間を30~40時間とすることで、37℃とほぼ同程度の酢酸発酵が認められた。
【0045】
【表1】
JP0005470807B2_000002t.gif

【0046】
【表2】
JP0005470807B2_000003t.gif

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の酢酸菌Acetobacter pasteurianus自然変異株を利用することによって、発酵槽の冷却装置及び冷却水に必要なコストを抑えて工業的な酢酸製造を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】38℃、38.5℃及び39.5℃での繰り返し培養を示した図である。
【図2】繰り返し培養における培養温度、繰り返しの回数及び得られたTH-1、TH-2及びTH-3を示す図である。
【図3】39.5℃での繰り返し培養を行った際の(A)生育、(B)酢酸発酵能力を示したものである。
【図4】酢酸菌Acetobacter pasteurianus SKU1108の変異株TH-1、TH-2及びTH-3と、変異前の株であるAcetobacter pasteurianus SKU1108による37℃、39℃、40℃及び41℃での培養を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3