TOP > 国内特許検索 > 並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌の製造方法 > 明細書

明細書 :並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5388096号 (P5388096)
公開番号 特開2010-088359 (P2010-088359A)
登録日 平成25年10月18日(2013.10.18)
発行日 平成26年1月15日(2014.1.15)
公開日 平成22年4月22日(2010.4.22)
発明の名称または考案の名称 並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌の製造方法
国際特許分類 C12N   1/00        (2006.01)
C05F  17/00        (2006.01)
C05G   5/00        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
FI C12N 1/00 B
C05F 17/00
C05G 5/00 A
A01H 5/00 Z
請求項の数または発明の数 20
全頁数 28
出願番号 特願2008-262390 (P2008-262390)
出願日 平成20年10月9日(2008.10.9)
審査請求日 平成23年6月22日(2011.6.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】篠原 信
個別代理人の代理人 【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】幸田 俊希
参考文献・文献 特開2007-119260(JP,A)
特開2010-088358(JP,A)
国際公開第2010/041502(WO,A1)
国際公開第2010/041503(WO,A1)
篠原信,有機肥料で養液栽培・・・可視化する「根」,化学と生物,2008年 4月 1日,Vol.46, No.4,pp.230-2
調査した分野 C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
水を溜めることができる容器に水を張り、並行複式無機化反応を行う微生物群を含む以下(B)に記載の微生物源を添加し、;以下(C1)~(C4)に記載の全ての条件を満たすように前記水中の環境を維持することで、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養し、;前記水と接する以下(E)に記載の固体表面にバイオフィルムを形成させ、次いで、当該バイオフィルムを回収し、;回収された前記バイオフィルムを、並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌とすることを特徴とする、種菌の製造方法。
(B): 土壌, 堆肥, 活性汚泥, 又は自然より採取した水, から選ばれた1以上の微生物源。
(C1): 水温が15~37℃の条件。
(C2): 曝気、振盪、又は曝気及び振盪により好気的条件を維持する条件。
(C3): 1~14日あたり前記水1Lに対して乾燥重量換算で0.01~2gずつの以下(D)に記載の有機物が添加される条件。
(C4): 前記水中に生成される硝酸イオン濃度が10~50mg/Lに達した場合には、前記有機物の添加が停止される条件。
(D): 魚煮汁, トウモロコシ浸漬液, 油粕, 魚粉, 牛乳, 大豆粕, 酵母粕, 酒粕, 焼酎粕, 又は生ゴミ, から選ばれた1以上の有機物。
(E): 前記容器の壁面及び前記容器の底面から選ばれた1以上の固体表面。
【請求項2】
前記容器は、以下(A1)~(A3)に記載のいずれか1以上のものを浸漬されたものであり、
前記バイオフィルムは、以下(E-1)に記載の固体表面に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の種菌の製造方法。
(A1): 竹炭, 木炭, パーライト, 海砂, バーミキュライト, セラミック, ゼオライト, ガラス, ロックウール, ウレタン, ナイロン, 又はメラミン樹脂, からなる固体担体。
(A2): ガラス, アクリル, プラスチック, 陶器片, 又は焼き物, からなる板状物。
(A3): ガラス, アクリル, プラスチック, 陶器片, 又は焼き物, からなる柱状物。
(E-1): 前記容器の壁面, 前記容器の底面, 前記固体担体の表面, 前記板状物の表面, 又は前記柱状物の表面, から選ばれた1以上の固体表面。
【請求項3】
水を溜めることができる容器に水を張り、請求項1又は2に記載の種菌の製造方法により得られた種菌を微生物源として添加し、;以下(C1)、(C2)、(C3-2)、及び(C4)に記載の全ての条件を満たすように前記水中の環境を維持することで、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養し、;前記水と接する以下(E)に記載の固体表面にバイオフィルムを形成させ、次いで、当該バイオフィルムを回収し、;回収された前記バイオフィルムを、並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌とすることを特徴とする、種菌の製造方法。
(C1): 水温が15~37℃の条件。
(C2): 曝気、振盪、又は曝気及び振盪により好気的条件を維持する条件。
(C3-2): 1~14日あたり前記水1Lに対して乾燥重量換算で0.01~10gずつの以下(D)に記載の有機物が添加される条件。
(C4): 前記水中に生成される硝酸イオン濃度が10~50mg/Lに達した場合には、前記有機物の添加が停止される条件。
(D): 魚煮汁, トウモロコシ浸漬液, 油粕, 魚粉, 牛乳, 大豆粕, 酵母粕, 酒粕, 焼酎粕, 又は生ゴミ, から選ばれた1以上の有機物。
(E): 前記容器の壁面及び前記容器の底面から選ばれた1以上の固体表面。
【請求項4】
前記容器は、以下(A1)~(A3)に記載のいずれか1以上のものを浸漬されたものであり、
前記バイオフィルムは、以下(E-1)に記載の固体表面に形成されることを特徴とする、請求項3に記載の種菌の製造方法。
(A1): 竹炭, 木炭, パーライト, 海砂, バーミキュライト, セラミック, ゼオライト, ガラス, ロックウール, ウレタン, ナイロン, 又はメラミン樹脂, からなる固体担体。
(A2): ガラス, アクリル, プラスチック, 陶器片, 又は焼き物, からなる板状物。
(A3): ガラス, アクリル, プラスチック, 陶器片, 又は焼き物, からなる柱状物。
(E-1): 前記容器の壁面, 前記容器の底面, 前記固体担体の表面, 前記板状物の表面, 又は前記柱状物の表面, から選ばれた1以上の固体表面。
【請求項5】
前記バイオフィルムの回収が、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養した後に得られる培養液の上清を廃棄し、その後、前記固体表面に形成されたバイオフィルムを回収するものである、請求項1~4のいずれかに記載の種菌の製造方法。
【請求項6】
前記バイオフィルムの回収が、前記固体表面に形成されたバイオフィルムと、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養した後に得られる培養液の上清と、を混合した混合液として回収するものである、請求項1~5のいずれかに記載の種菌の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6のいずれかに記載の種菌の製造方法において、前記形成されたバイオフィルムを回収した後、遠心分離又はろ過することによって余分な水分を除去することを特徴とする、種菌の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の種菌の製造方法において、前記培養液の上清を廃棄した後に乾燥処理を行うことを特徴とする、種菌の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の種菌の製造方法において、前記余分な水分を除去した後に乾燥処理を行うことを特徴とする、種菌の製造方法。
【請求項10】
前記種菌が、50~80℃の加熱をした際に、並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌としての機能を失わないものである、請求項1~9のいずれかに記載の種菌の製造方法。
【請求項11】
前記種菌が、アンモニア化成を行う微生物群を含み、且つ、前記種菌1gに対して硝酸化成を行う微生物群を1万~1億細胞含むものである、請求項1~10のいずれかに記載の種菌の製造方法。
【請求項12】
水を溜めることができる容器に水を張り、これに以下(i)又は(ii)に記載の種菌の製造方法により得られた種菌を添加し、;前記水中において並行複式無機化反応が進行する環境である、有機物が添加され且つ温度が15~37℃に維持され且つ好気的条件になるように維持された環境、を維持することで、前記水中で並行複式無機化反応を進行させ、;100mg/L以上の硝酸イオンを含む反応液を得、;得られた前記反応液を、無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料とすることを特徴とする、無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料の製造方法。
(i):水を溜めることができる容器に水を張り、並行複式無機化反応を行う微生物群を接種し、前記水中において並行複式無機化反応が進行する環境を維持することで、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養し、;前記水と接する固体表面にバイオフィルムを形成させ、次いで、当該バイオフィルムを回収し、;回収された前記バイオフィルムを、並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌とすることを特徴とする、種菌の製造方法。
(ii):水を溜めることができる容器に水を張り、前記(i)に記載の種菌の製造方法により得られた種菌を接種し、前記水中において並行複式無機化反応が進行する環境下で、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養し、;前記水と接する固体表面にバイオフィルムを形成させ、次いで、当該バイオフィルムを回収し、;回収された前記バイオフィルムを、並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌とすることを特徴とする、種菌の製造方法。
【請求項13】
水を溜めることができる容器に水を張り、これに請求項1~11のいずれかに記載の種菌の製造方法で得られた種菌を添加し、;前記水中において並行複式無機化反応が進行する環境である、有機物が添加され且つ温度が15~37℃に維持され且つ好気的条件になるように維持された環境、を維持することで、前記水中で並行複式無機化反応を進行させ、;100mg/L以上の硝酸イオンを含む反応液を得、;得られた前記反応液を、無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料とすることを特徴とする、無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料の製造方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の肥料の製造方法において、前記有機物の添加が、前記水1Lに対して乾燥重量換算で10gを超えない量までを一度に添加できるものである、肥料の製造方法。
【請求項15】
請求項12~14のいずれかに記載の肥料の製造方法において、100mg/L以上の硝酸イオンが生成された反応液が、8日を越えない日数で得ることができるものである、肥料の製造方法。
【請求項16】
請求項12~15のいずれかに記載の肥料の製造方法において、前記種菌の添加が、前記水1Lに対して0.01gを下回らない量を添加するものである、肥料の製造方法。
【請求項17】
請求項12~16のいずれかに記載の肥料の製造方法において、並行複式無機化反応を進行させる際に、脱窒反応を伴わないものである、肥料の製造方法。
【請求項18】
請求項12~17のいずれかに記載の肥料の製造方法により肥料を製造し、得られた無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料を用いて植物を栽培することを特徴とする植物の栽培方法。
【請求項19】
請求項12~17のいずれかに記載の前記反応液中で、有機物を含む肥料を直接添加して養液栽培を行う、植物の栽培方法。
【請求項20】
請求項18又は19に記載の植物の栽培方法において、前記植物が、葉菜類の野菜、果実を収穫対象とする果菜、果樹、樹木、又は花卉である、植物の栽培方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌の製造方法に関する。
また、本発明は、前記種菌を用いた無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、循環型社会を構築すべきとの観点から、化学肥料の使用を控え有機質肥料の使用を推進する動きが世界的に活発になっている。
トマトなどの野菜や花き等の生産で広がりを見せている、土壌を用いない‘養液栽培’でも、有機質肥料を活用するよう、期待が高まっていた。
しかし、養液栽培では従来、有機質肥料を利用することができなかった。養液に有機物を直接添加すると有害な中間分解産物が発生し、植物の根が傷んでしまうためである。それゆえ、従来、養液栽培には化学肥料のみが使用されてきた。
【0003】
養液栽培で有機質肥料を活用するには、あらかじめ有機物を無機化し、植物に吸収しやすいものにする技術が必要である、と、多くの研究者が考えた。
有機物を無機化する技術としては、微生物群を利用した排水処理技術(例えば、特許文献1参照)などがある。
しかし、これらは脱窒反応(硝酸態窒素を還元し窒素ガスとして放出する反応)を伴うため、硝酸態窒素を回収するには不向きであり、無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料に利用する目的には合致するものではなかった。
【0004】
そこで、有機物から硝酸態窒素(硝酸イオンとして)を回収して、無機肥料成分として利用できる技術として、特許文献2および非特許文献2に記載の「並行複式無機化法」が発明されている。
この技術は、脱窒反応を抑えながら有機態窒素を分解し、硝酸態窒素である硝酸イオンを、無機肥料成分として回収できる再現性の高い方法である。当該技術は、有機物の分解(アンモニア化成)および硝酸イオンの生成(硝酸化成)を進める微生物群を同じ反応系中で順次増殖していくことを利用することにより、アンモニア化成および硝酸化成を同じ反応液の中で並行して行わせるものである。この反応は上記排水処理技術などと異なり、脱窒反応を抑えることが可能である。
【0005】
この並行複式無機化法の技術を用いることで、養液栽培で有機質肥料を直接添加して利用することが可能になり、さらにこの技術を転用することで、有機物を硝酸態窒素に無機化して無機肥料成分を製造することが可能になった(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。
この特許文献2に記載の発明は、有機質肥料を活用した養液栽培を実現するとともに、有機質資源を原料にして、硝酸態窒素などの無機肥料成分の製造を実現する技術として注目を集めている。このため、新たな養液栽培技術として関心を持つ農家や植物工場、有機質資源の再資源化を計画する企業などから、多大な期待を集めている。
【0006】
しかし、上記特許文献2に記載の方法では、微生物源として土壌や湖沼の水など「自然に由来する微生物源」を利用するほかなかった。
これらの微生物源は、並行複式無機化反応に最適化されたものとは言えないため、従来の並行複式無機化法には、実用面で改善すべき以下の課題が残されていた。
すなわち、まず第1の課題は、反応終了までに長い時間がかかることである。これは、「自然に由来する微生物源(土壌や湖沼の水など)」が並行複式無機化反応に最適化されているわけではないために、アンモニア化成反応、そして硝酸化成反応へと反応が進んでいくごとに、それぞれの反応を行う微生物群が順次、増殖してくるのを待たなければならないためである。
具体的には、反応が終了するまでにかかる時間は、約2週間以上が必要であり、このため、養液栽培の苗の定植適期に間に合わないなどのトラブルが起きかねなかった。
【0007】
次に第2の課題は、有機物を一度に大量に添加することができないということである。上述のように、「自然界由来の微生物源」は、並行複式無機化反応に最適化されているわけではないため、これに含まれる硝化菌(硝酸化成を行う微生物)は有機成分の曝露に弱い状態となっており、大量の有機成分の曝露を受けると死滅してしまう。このため、‘培養過程’において有機物を一度に大量に添加した場合、硝酸化成反応が進まなくなり、硝酸態窒素を回収できなくなる。
具体的には、反応系の水(溶液)1Lに対して1回あたり約2gの有機物の添加が上限である。従って、高濃度の硝酸態窒素を回収したい場合は有機物の添加作業を数回に分けて(好ましくは毎日)添加しなければならないため、操作が煩雑になる問題があった。
【0008】
そして第3の課題は、微生物源の添加量が大きくなってしまうということである。
これは、上記自然界由来の微生物源が、並行複式無機化反応に最適化されたもの(微生物生態系)となっていないために、硝化菌が有機成分の曝露に極めて弱い状態となっており、このため、硝化菌が有機成分の曝露によって大きなダメージを受けることは避けられず、そのダメージによる損失を考慮した添加量の大きさにしなければならないためである。
具体的には、反応系の水(溶液)1Lに対して5g程度以上の土壌の添加が必要である。それ以下の添加量だと、硝化菌は有機成分の曝露によって死滅してしまい、硝酸態窒素を回収することができなくなる恐れがある。
また、大量に微生物源を添加しなければならないことは、養液栽培の現場では問題となる。養液栽培の現場ではトン単位の養液が用いられるので、数キロ相当の土壌を養液に投入しなければならない計算になる。しかし、それだけの量の土壌を添加すると、土壌粒子が流路を目詰まりさせるなどの問題が生じやすくなる。
さらに、これだけの投入量になると土塊が大きくなり、その内部が嫌気性になりやすくなり、嫌気条件の環境を好む脱窒菌(脱窒反応を行う微生物群)が繁殖し、硝酸態窒素が窒素ガスとなって失われてしまうなどの恐れがある。また、嫌気性微生物は植物にとって好ましくない成分(phytotoxic)を分泌し、植物の生育を悪化させてしまう。
このため、微生物源の添加量を大幅に縮減する技術の開発が求められていた。
【0009】
そこで、並行複式無機化反応を行って有機物から無機肥料成分である硝酸態窒素を生成するにあたり、上記3つの課題を解決して、実用化に適した水準で効率よく行うことができる方法の開発が求められていた。
【0010】

【特許文献1】特開2001-300583号公報
【特許文献2】特開2007-119260号公報
【非特許文献1】研究ジャーナル2008年、31(1)44-46ページ
【非特許文献2】「有機肥料の養液栽培」農業及び園芸、第81巻 p. 753-764(2006年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するため、有機物から無機肥料成分である硝酸態窒素を生成する並行複式無機化反応において、;有機物を硝酸態窒素に無機化する反応が終了するまでの時間を大幅に短縮することができ、有機物を一度に大量添加することが可能であり、その結果、高濃度の硝酸態窒素を効率よく生成することができ、且つ、微生物源の添加量を大幅に縮減することができる方法を、提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、有機物から無機肥料成分である硝酸態窒素を生成する並行複式無機化反応において、;‘並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌’を微生物源として用いることにより、;
有機物を硝酸態窒素に無機化する反応が終了するまでにかかる時間を大幅に短縮することができ、有機物を一度に大量添加することが可能であり、その結果、高濃度の硝酸態窒素を効率よく生成することができ、且つ、微生物源の添加量を大幅に縮減することができるようになることを見出した。
【0013】
なお、アンモニア化成を行う微生物群および硝酸化成を行う微生物群を含む微生物源として、既知のものに、熱帯魚飼育用(飼育水のろ過用)の種菌や下水処理場の活性汚泥が知られている。
しかし熱帯魚飼育用のものはそもそも魚の生育環境を整えることが目的のため、窒素を除去することに力点が置かれ、脱窒反応を行う微生物群(脱窒菌)を含むとするものが多い。これでは硝酸態窒素が失われてしまうため、高濃度の硝酸態窒素を生成できるものはこれまで提供されていない。
また、下水処理場の活性汚泥は、やはり脱窒反応を促進することが重要な目的であるため、脱窒反応を行う微生物群(脱窒菌)が多く含まれている。
従って、これらは‘並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群’とはいえないものである。
【0014】
本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
即ち、請求項1に係る発明は、水を溜めることができる容器に水を張り、並行複式無機化反応を行う微生物群を含む以下(B)に記載の微生物源を添加し、;以下(C1)~(C4)に記載の全ての条件を満たすように前記水中の環境を維持することで、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養し、;前記水と接する以下(E)に記載の固体表面にバイオフィルムを形成させ、次いで、当該バイオフィルムを回収し、;回収された前記バイオフィルムを、並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌とすることを特徴とする、種菌の製造方法である。
(B): 土壌, 堆肥, 活性汚泥, 又は自然より採取した水, から選ばれた1以上の微生物源。
(C1): 水温が15~37℃の条件。
(C2): 曝気、振盪、又は曝気及び振盪により好気的条件を維持する条件。
(C3): 1~14日あたり前記水1Lに対して乾燥重量換算で0.01~2gずつの以下(D)に記載の有機物が添加される条件。
(C4): 前記水中に生成される硝酸イオン濃度が10~50mg/Lに達した場合には、前記有機物の添加が停止される条件。
(D): 魚煮汁, トウモロコシ浸漬液, 油粕, 魚粉, 牛乳, 大豆粕, 酵母粕, 酒粕, 焼酎粕, 又は生ゴミ, から選ばれた1以上の有機物。
(E): 前記容器の壁面及び前記容器の底面から選ばれた1以上の固体表面。
請求項2に係る発明は、前記容器は、以下(A1)~(A3)に記載のいずれか1以上のものを浸漬されたものであり、
前記バイオフィルムは、以下(E-1)に記載の固体表面に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の種菌の製造方法である。
(A1): 竹炭, 木炭, パーライト, 海砂, バーミキュライト, セラミック, ゼオライト, ガラス, ロックウール, ウレタン, ナイロン, 又はメラミン樹脂, からなる固体担体。
(A2): ガラス, アクリル, プラスチック, 陶器片, 又は焼き物, からなる板状物。
(A3): ガラス, アクリル, プラスチック, 陶器片, 又は焼き物, からなる柱状物。
(E-1): 前記容器の壁面, 前記容器の底面, 前記固体担体の表面, 前記板状物の表面, 又は前記柱状物の表面, から選ばれた1以上の固体表面。
請求項3に係る発明は、水を溜めることができる容器に水を張り、請求項1又は2に記載の種菌の製造方法により得られた種菌を微生物源として添加し、;以下(C1)、(C2)、(C3-2)、及び(C4)に記載の全ての条件を満たすように前記水中の環境を維持することで、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養し、;前記水と接する以下(E)に記載の固体表面にバイオフィルムを形成させ、次いで、当該バイオフィルムを回収し、;回収された前記バイオフィルムを、並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌とすることを特徴とする、種菌の製造方法である。
(C1): 水温が15~37℃の条件。
(C2): 曝気、振盪、又は曝気及び振盪により好気的条件を維持する条件。
(C3-2): 1~14日あたり前記水1Lに対して乾燥重量換算で0.01~10gずつの以下(D)に記載の有機物が添加される条件。
(C4): 前記水中に生成される硝酸イオン濃度が10~50mg/Lに達した場合には、前記有機物の添加が停止される条件。
(D): 魚煮汁, トウモロコシ浸漬液, 油粕, 魚粉, 牛乳, 大豆粕, 酵母粕, 酒粕, 焼酎粕, 又は生ゴミ, から選ばれた1以上の有機物。
(E): 前記容器の壁面及び前記容器の底面から選ばれた1以上の固体表面。
請求項4に係る発明は、前記容器は、以下(A1)~(A3)に記載のいずれか1以上のものを浸漬されたものであり、
前記バイオフィルムは、以下(E-1)に記載の固体表面に形成されることを特徴とする、請求項3に記載の種菌の製造方法である。
(A1): 竹炭, 木炭, パーライト, 海砂, バーミキュライト, セラミック, ゼオライト, ガラス, ロックウール, ウレタン, ナイロン, 又はメラミン樹脂, からなる固体担体。
(A2): ガラス, アクリル, プラスチック, 陶器片, 又は焼き物, からなる板状物。
(A3): ガラス, アクリル, プラスチック, 陶器片, 又は焼き物, からなる柱状物。
(E-1): 前記容器の壁面, 前記容器の底面, 前記固体担体の表面, 前記板状物の表面, 又は前記柱状物の表面, から選ばれた1以上の固体表面。
請求項5に係る発明は、前記バイオフィルムの回収が、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養した後に得られる培養液の上清を廃棄し、その後、前記固体表面に形成されたバイオフィルムを回収するものである、請求項1~4のいずれかに記載の種菌の製造方法である。
請求項6に係る発明は、前記バイオフィルムの回収が、前記固体表面に形成されたバイオフィルムと、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養した後に得られる培養液の上清と、を混合した混合液として回収するものである、請求項1~5のいずれかに記載の種菌の製造方法である。
請求項7に係る発明は、請求項5又は6のいずれかに記載の種菌の製造方法において、前記形成されたバイオフィルムを回収した後、遠心分離又はろ過することによって余分な水分を除去することを特徴とする、種菌の製造方法である。
請求項8に係る発明は、請求項5に記載の種菌の製造方法において、前記培養液の上清を廃棄した後に乾燥処理を行うことを特徴とする、種菌の製造方法である。
請求項9に係る発明は、請求項7に記載の種菌の製造方法において、前記余分な水分を除去した後に乾燥処理を行うことを特徴とする、種菌の製造方法である。
請求項10に係る発明は、前記種菌が、50~80℃の加熱をした際に、並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌としての機能を失わないものである、請求項1~9のいずれかに記載の種菌の製造方法である。
請求項11に係る発明は、前記種菌が、アンモニア化成を行う微生物群を含み、且つ、前記種菌1gに対して硝酸化成を行う微生物群を1万~1億細胞含むものである、請求項1~10のいずれかに記載の種菌の製造方法である。
請求項12に係る発明は、水を溜めることができる容器に水を張り、これに以下(i)又は(ii)に記載の種菌の製造方法により得られた種菌を添加し、;前記水中において並行複式無機化反応が進行する環境である、有機物が添加され且つ温度が15~37℃に維持され且つ好気的条件になるように維持された環境、を維持することで、前記水中で並行複式無機化反応を進行させ、;100mg/L以上の硝酸イオンを含む反応液を得、;得られた前記反応液を、無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料とすることを特徴とする、無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料の製造方法である。
(i):水を溜めることができる容器に水を張り、並行複式無機化反応を行う微生物群を接種し、前記水中において並行複式無機化反応が進行する環境を維持することで、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養し、;前記水と接する固体表面にバイオフィルムを形成させ、次いで、当該バイオフィルムを回収し、;回収された前記バイオフィルムを、並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌とすることを特徴とする、種菌の製造方法。
(ii):水を溜めることができる容器に水を張り、前記(i)に記載の種菌の製造方法により得られた種菌を接種し、前記水中において並行複式無機化反応が進行する環境下で、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養し、;前記水と接する固体表面にバイオフィルムを形成させ、次いで、当該バイオフィルムを回収し、;回収された前記バイオフィルムを、並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌とすることを特徴とする、種菌の製造方法。
請求項13に係る発明は、水を溜めることができる容器に水を張り、これに請求項1~11のいずれかに記載の種菌の製造方法で得られた種菌を添加し、;前記水中において並行複式無機化反応が進行する環境である、有機物が添加され且つ温度が15~37℃に維持され且つ好気的条件になるように維持された環境、を維持することで、前記水中で並行複式無機化反応を進行させ、;100mg/L以上の硝酸イオンを含む反応液を得、;得られた前記反応液を、無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料とすることを特徴とする、無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料の製造方法である。
請求項14に係る発明は、請求項12又は13に記載の肥料の製造方法において、前記有機物の添加が、前記水1Lに対して乾燥重量換算で10gを超えない量までを一度に添加できるものである、肥料の製造方法である。
請求項15に係る発明は、請求項12~14のいずれかに記載の肥料の製造方法において、100mg/L以上の硝酸イオンが生成された反応液が、8日を越えない日数で得ることができるものである、肥料の製造方法である。
請求項16に係る発明は、請求項12~15のいずれかに記載の肥料の製造方法において、前記種菌の添加が、前記水1Lに対して0.01gを下回らない量を添加するものである、肥料の製造方法である。
請求項17に係る発明は、請求項12~16のいずれかに記載の肥料の製造方法において、並行複式無機化反応を進行させる際に、脱窒反応を伴わないものである、肥料の製造方法である。
請求項18に係る発明は、請求項12~17のいずれかに記載の肥料の製造方法により肥料を製造し、得られた無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料を用いて植物を栽培することを特徴とする植物の栽培方法である。
請求項19に係る発明は、請求項12~17のいずれかに記載の前記反応液中で、有機物を含む肥料を直接添加して養液栽培を行う、植物の栽培方法である。
請求項20に係る発明は、請求項18又は19に記載の植物の栽培方法において、前記植物が、葉菜類の野菜、果実を収穫対象とする果菜、果樹、樹木、又は花卉である、植物の栽培方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、‘並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌’を提供することを可能にする。
これにより本発明は、有機物から無機肥料成分である硝酸態窒素を生成する並行複式無機化反応において、;有機物を硝酸態窒素に無機化する反応が終了するまでにかかる時間を大幅に短縮することができ、有機物を一度に大量添加することが可能であり、その結果、高濃度の硝酸態窒素を効率よく生成することができ、且つ、微生物源の添加量を大幅に縮減することができるようなることを可能にする。
また、本発明は、窒素を多く含む有機質資源、食品廃棄物を速やかに分解して、硝酸態窒素を含む無機肥料に変換することを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、有機物から無機肥料成分である硝酸態窒素を生成する並行複式無機化反応において、並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌の製造方法に関する。
また、本発明は、前記種菌を用いた無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料の製造方法に関する。
なお、図1の(a)~(c)は、本発明の並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌の製造方法の態様を示す説明図である。
詳しくは、図1(a)は、微生物群の接種源として‘自然由来のもの(土など)’を用いる態様の説明図である。また、図1(b)は、微生物群の接種源として‘本発明の種菌’を用いる態様の説明図である。また、図1(c)は、微生物群の接種源として‘容器(固体表面)に残存したバイオフィルム’を用いる態様の説明図である。
【0017】
本発明において、並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌の製造は、水を溜めることができる容器に水を張り、並行複式無機化反応を行う微生物群を接種し、前記水中において並行複式無機化反応が進行する環境を維持することで、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養し、;前記水と接する固体表面にバイオフィルム(微生物群集構造)を形成させ、次いで、当該バイオフィルムを回収する、;ことによって行うものである。
【0018】
本発明の並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌の製造における最初の工程は、まず、‘水を溜めることができる容器に水を張り、これに有機物を無機化して硝酸態窒素を生成する並行複式無機化反応を行う微生物群を接種し、前記水中において並行複式無機化反応が進行する環境を維持することで、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養する’工程(培養工程)である。
なお、本培養工程は、‘前記微生物群を接種した後に’、並行複式無機化反応が進行する環境を維持するものでもよいが、‘並行複式無機化反応が進行する環境が維持された状態の水に前記微生物群を接種した後に’、当該環境を維持するものであってもよい。
【0019】
本工程に用いる「水を溜めることができる容器」としては、水を溜めることができる容器であれば、如何なるものであっても用いることができる。
例えば、水槽、ポット、バケツ、タンク、貯水槽、浴槽、プール、などの比較的大きい量の水を留めることができる容器、;三角フラスコ、ビーカー、試験管などの比較的少ない量の水を留めることができる容器、;などを挙げることができる。
具体的に、ポット、タンク、三角フラスコ、を用いることができる。また、大規模な生産や工業的に実用する場合には、貯水槽、プール、を用いることができる。
なお、さらに好ましくは、体積に対して、水と接する容器の固体表面の面積が大きく、かつ、嫌気的な状態が生じにくいよう、水流が停滞する部分の少ない構造の両立するものであることが望ましい。
【0020】
また、前記容器の中には、前記微生物群が定着しやすい固体担体を入れておくことで(水を張った際に浸漬させることで)、前記微生物群のバイオフィルムが形成される面積を増やすことができる。
具体的には、竹炭、木炭、パーライト、海砂、バーミキュライト、セラミック、ゼオライト、ガラス、ロックウール、ウレタン、ナイロン、メラミン樹脂などの固体担体を、用いることができる。
また、前記容器の中には、プレート(板状物)や柱状の構造物などの浸漬物を浸漬しておくことで(水を張った際に浸漬させることで)、前記微生物群のバイオフィルムが形成される面積を増やすことができる。当該浸漬物としては、脱着しやすく、水中から抜去しやすい構造のものが望ましい。当該浸漬物としては、具体的には、水中で腐敗や腐食しない材質のものである、ガラス、アクリル、プラスチック、陶器片、焼き物、などの材質のものを用いることができる。
【0021】
本工程に用いる水としては、水道水、蒸留水、蒸留純水、井戸水、河川水、湖水、海水などを用いることができる。
水の量としては、添加する有機物の乾燥重量に対して50倍量以上であれば特に制限はないが、十分な量の種菌を得るためには、具体的には、0.001~10000L、好ましくは、0.01~1000Lの量の水を張ることが好ましい。
【0022】
本発明において、「並行複式無機化反応」とは、有機物を無機化して硝酸態窒素を生成する反応であり、有機物からアンモニア態窒素への分解(アンモニア化成)とアンモニア態窒素から硝酸態窒素への硝化(硝酸化成)とが、同一の反応系で連続的に行われるものである。
詳しくは、有機物の分解において、有機物に含まれる有機態窒素がアンモニア態窒素に分解され、アンモニア態窒素が硝酸化成による硝化(酸化)を経て、硝酸態窒素が生成される反応を指すものである。
なお、本発明において、有機物を無機化して生成される硝酸態窒素とは、硝酸イオンや硝酸塩であるが、具体的には、硝酸イオンを想定したものである。
【0023】
本培養工程にて「接種」する、「並行複式無機化反応を行う微生物群」とは、アンモニア化成を行う微生物群および硝酸化成を行う微生物群を含み、後記所定の環境下で培養した際に、並行複式無機化反応を行うことができるものであればよい。
なお、上記微生物群を構成する微生物群の種類としては、アンモニア化成を行う微生物群としては、たとえば原生動物や、細菌、糸状菌等のアンモニア化成菌;硝酸化成を行う微生物群(硝化菌)としては、アンモニア酸化菌(もしくは亜硝酸生成菌)のNitrosomonas属、Nitorosococcus属、Nitrosospira属(Nitrosolobus属、Nitrosovibrio属を含む)亜硝酸酸化菌(もしくは硝酸生成菌)のNitrobacter属、Nitrospira属;などを挙げることができる。
【0024】
本工程における並行複式無機化反応を行う微生物群の接種源としては、具体的には、土壌、バーク堆肥などの堆肥、活性汚泥、自然より採取した水(具体的には、湖沼の水、湧き水、井戸水、川の水、海水など)、;などの「自然由来のもの」を添加することで行うことができる。
しかし、これら自然由来の接種源は、並行複式無機化反応の触媒として必ずしも最適化されたものとはなっていない。そのため、これらを接種源とした場合、並行複式無機化反応を行う微生物群の培養には、具体的には、本発明の種菌の製造工程の全工程を終了するまでには、有機物の添加量が水1Lに対して1g以下で反応温度が25℃の場合、最短でも10日、通常15~20日が必要となる。
【0025】
そこで、本工程の前記微生物群の接種源としては、好ましくは、本発明で得られる「並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌」を接種することが好適である。
当該「種菌」としては、以下に詳述するように、当該培養工程の後に前記固体表面に形成されたバイオフィルム(微生物群集構造)を回収したもの、もしくは、当該バイオフィルムを含有するように回収したものである。
当該種菌を、本工程の前記微生物群の接種源として添加することで、当該培養工程を迅速に終了させることができる。具体的には、本発明の種菌製造の全工程を終了するまでに、有機物の添加量が水1Lに対して1g以下で反応温度が25℃の場合、最長でも8日を越えない日数、通常4~8日間で終了させることができるものである。
即ち、本発明の種菌製造の全工程にかかる時間を約半分に短縮でき、運転回数を増やすことで製造効率を大幅に高めることができる。
なお、当該バイオフィルムを回収した後に容器(固体表面)に残存したバイオフィルムについても、当該「種菌」と同様の機能を有するものとして、本培養工程の接種源として用いることができる。
【0026】
実際の製造においては、本発明の「種菌」がまだ得られていない段階では、上記「自然由来のもの」(土壌、バーク堆肥、自然より採取した水など)を、本工程の前記微生物群の接種源として用い、その後の本発明の種菌が得られた後においては、上記のような効率性の観点から、当該「種菌」を用いることが望ましい。
【0027】
本培養工程の当該微生物群の接種において、前記接種源を添加する量としては、特に限定されないが、「自然由来のもの」(土壌、バーク堆肥、自然水など)を添加する場合、前記容器に張った水に対して大量に添加する必要ある。
具体的には、土壌やバーク堆肥の場合、前記容器に張った水1Lに対して1~10gを添加し、自然より採取した水の場合、前記容器に張った水1Lに対して100~1000mlを置換する形で(全量に対して自然より採取した水が10~100%になるように)添加することができる。
それに対して、本発明の「種菌」を前記接種源として添加する場合は、添加量を大幅に縮減することができ、前記容器に張った水1Lに対して、乾燥重量換算で0.005~1gを添加すればよい。
具体的には、前記容器に張った水1Lに対して、乾燥菌体物の場合0.005~1g、湿潤菌体物の場合0.05~10gを添加することができる。また、バイオフィルムと培養液の上清の混合液を添加する場合は、前記容器に張った水1Lに対して1~500mlを置換する形(全量に対して混合液が1~50%になるように)で添加することができる。
なお、当該バイオフィルムを回収した後に容器(固体表面)に残存したバイオフィルムを前記接種源として用いる場合には、当該容器に当該バイオフィルム乾燥重量換算で0.005~1gに対して、水1Lを加えることで、当該微生物群が接種された水を調製することができる。
【0028】
本培養工程において、「前記水中において並行複式無機化反応が進行する環境」とは、具体的には、前記水中が好気的条件になるように維持されたものであり、前記水中に有機物が添加されたものであり、さらには、前記水中が15~37℃の水温に維持されたものである。
このような環境を維持することによって、並行複式無機化反応を行う微生物群を培養することができる。
【0029】
本培養工程では、前記水中が「好気的条件になるように維持される」ことによって、前記水中の溶存酸素濃度を高め並行複式無機化反応を行う微生物群の活動に適した条件にすることができる。
また、脱窒反応を行う微生物群(脱窒菌)は、嫌気条件下で活動しやすくなるため、脱窒反応を行う微生物群の増殖を抑制するためにも好適である。
前記水中を好気的条件になるように維持する方法としては、曝気、振盪、高濃度酸素溶解、高濃度酸素水の利用などで行うことができる。好ましくは、曝気、振盪することで行うことができる。
【0030】
本培養工程においては、並行複式無機化反応が進行するのに適した「水温」とは、即ち、並行複式無機化反応を行う微生物群の生育に適した水温である。具体的には、15~42℃、好ましくは15~37℃、さらに好ましくは20~37℃、最も好ましくは25℃程度に維持されたものであることが望ましい。
なお、温度が15℃よりも低い場合、微生物の増殖が遅延し、培養に時間を要するため好ましくない。また、温度が42℃よりも高い場合、並行複式無機化反応を進めるのに必要な微生物の一部が死滅することがあり、好ましくない。
【0031】
本培養工程において、前記水中に添加する「有機物」としては、有機質肥料や、食品残渣、植物残渣、畜産廃棄物、排泄物といった有機質資源など、如何なるものでも用いることができるが、炭素と窒素の含有比であるC/N比が11以下、好ましくは10以下の高窒素含有有機物を用いることが、硝酸態窒素の回収効率を高める点で望ましい。
前記有機物としては、タンパク質、タンパク質分解物、アミノ酸、などを多く含むものが望ましく、具体的には、魚煮汁、トウモロコシ浸漬液、油粕、魚粉、牛乳、大豆粕、酵母粕、酒粕、焼酎粕、生ゴミなどの食品残渣などを挙げることができる。なお、これらは、食品製造過程で得られる廃棄物であり、毒性のあるような成分が含まれていない点で望ましい。
また上記のうち、魚煮汁、トウモロコシ浸漬液、油粕、を用いることがさらに望ましい。具体的に、魚煮汁としては、鰹煮汁を挙げることができる。また、トウモロコシ浸漬液としては、コーンスティープリカー(CSL:トウモロコシでんぷん製造時の副産物であるトウモロコシ浸漬液)を挙げることができる。また、油粕としては、菜種油粕を挙げることができる。
なお、当該有機物としては、液体の状態であっても粉末の状態であっても用いることができるが、特には、鰹煮汁、コーンスティープリカーが液体であるため前記水に均一に拡散しやすい点で望ましい。
【0032】
本培養工程において、前記水中に「有機物を添加する」方法は、前記微生物群の接種源の種類によって異なるものとなる。
即ち、前記接種源として「自然由来の微生物源」(土壌、バーク堆肥、自然水など)を添加する場合、これに含まれる硝化菌が、有機物に曝露されて死滅することを防ぐため、水1Lに対して1日に2g以下で、有機物を‘少しずつ’添加(徐添加)することを要する。
具体的には、1~14日あたり、好ましくは1~7日あたり、さらに好ましくは連日、前記水1Lに対して0.01~2g(乾燥重量換算)ずつ、好ましくは0.05~1g(乾燥重量換算)ずつ、添加することが望ましい。例えば、菜種油粕を用いた場合0.01~2gを添加することができる。
当該有機物が液体の状態の場合、乾燥重量換算の値が当該範囲にあればよい。例えば、鰹煮汁を用いた場合、液体重量で0.01~2g(乾燥重量換算で0.007~1.4g)、;コーンスティープリカーを用いた場合、液体重量で0.01~2g(乾燥重量換算で0.005~1g)、;を添加することができる。
【0033】
また、前記接種源として本発明の「種菌」を添加する場合、これに含まれる硝化菌は有機成分の曝露に対して耐性が高まっているため、水1Lに対して、10gを超えない量の有機物を‘一度に’添加することが可能である。
具体的には、‘培養初日’に前記水1Lに対して0.01~10g(乾燥重量換算)、好ましくは0.05~5g(乾燥重量換算)、添加することが望ましい。例えば、菜種油粕を用いた場合0.01~10gを添加することができる。
また、当該有機物が液体の状態の場合、乾燥重量換算の値が当該範囲にあればよい。例えば、鰹煮汁を用いた場合、液体重量で0.01~10g(乾燥重量換算で0.007~7g)、;コーンスティープリカーを用いた場合、液体重量で0.01~10g(乾燥重量換算で0.005~5g)、;を添加することができる。
【0034】
本培養工程において、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を「培養する時間」としては、添加した有機物に含まれる窒素のうちの半分が硝酸イオンとして生成するまで、好ましくは、培養液の硝酸イオンの濃度上昇が頭打ちになるまで行うのが望ましい。
なお、上記環境下で培養する場合(培養液の硝酸イオンの濃度上昇が頭打ちになるまで培養する場合)にかかる具体的な日数としては、有機物の添加量が水1Lに対して1g以下で反応温度が25℃であり、前記接種源として「自然由来の微生物源」(土壌、バーク堆肥、自然水など)を添加する場合、最短でも10日、通常15~20日である。
一方、有機物の添加量が水1Lに対して1g以下で反応温度が25℃であり、本発明の「種菌」を添加する場合、最長でも8日を越えない日数、通常4~8日間である。
【0035】
本培養工程において、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養する際には、形成されたバイオフィルム中に脱窒反応を行う微生物群が増殖することを抑制しながら前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養する。
‘脱窒反応’とは、脱窒反応を行う微生物群(脱窒菌)により硝酸態窒素が窒素ガスあるいは亜酸化窒素ガスなどに還元され、硝酸態窒素が失われてしまう現象で、この反応は脱窒菌のエネルギー源になる有機成分が存在する条件と、脱窒菌の酸素供給体である硝酸態窒素が生成する条件の二つの条件が同時に成立するときに誘発されやすい反応である。
そこで、本発明においては、前記水中に硝酸態窒素が生成し始める前あるいは直後に、前記有機物の添加を停止することにより、脱窒反応を行う微生物群(脱窒菌)の増殖を抑制しながら、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養することが望ましい。
具体的には、前記水中に生成された硝酸態窒素が、硝酸イオン換算で10~50mg/L、好ましくは10~30mg/Lに達した場合(達する前あるいは直後)に、前記有機物の添加を停止することが望ましい。
なお、脱窒反応を行う微生物群(脱窒菌)は、嫌気条件下で活動しやすくなるため、前記水中を好気的条件に維持しておくことが望ましい。
【0036】
上記培養工程を行うことによって、前記水と接する固体表面に、前記並行複式無機化反応を行う微生物群のバイオフィルムを形成させた後、次いで、前記バイオフィルムを回収する工程(回収工程)を行う。
【0037】
ここで、前記水と接する「固体表面」とは、具体的には、前記容器の壁面、底面、;容器とは別に水中に浸漬した固体担体の表面、;容器とは別に水中に浸漬したプレートの表面をさす。
なお、バイオフィルム回収の操作性の観点から、前記微生物群のバイオフィルムを形成させる固体表面は、前記容器の壁面及び/又は底面の場合、水流の滞留しにくい構造であることが望ましく、水中に浸漬した固体担体やプレートの場合は、脱着しやすく、水中から抜去しやすい構造のものが望ましい。
【0038】
本工程において、前記「バイオフィルムの回収」とは、前記固体表面に形成されたバイオフィルムを回収する、もしくは、当該バイオフィルムを含有するように回収することを差す。
具体的には、(1)前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養した後に得られる培養液の上清を廃棄し、その後、前記固体表面に形成されたバイオフィルムを回収する場合と、(2)前記固体表面に形成されたバイオフィルムと、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養した後に得られる培養液の上清と、を混合した混合液として回収する、場合がある。なお、図2(c)に、本発明におけるバイオフィルムの回収方法の態様を示す模式図を示す。
【0039】
(1)の方法は、培養液の上清を廃棄した後に、固体表面に形成されたバイオフィルムを回収する方法である。
この場合、培養液の上清の廃棄は、排水口からの排水、デカンテーション(容器を傾けて上清を廃棄する方法)、吸引廃棄、蒸発乾燥などによって行うことができるが、排水口からの排水、デカンテーション、吸引廃棄によって行うことが構造を単純にでき、処理も容易になる点で望ましい。
培養液の上清を廃棄した後は、具体的には、容器表面、浸漬した固体担体、浸漬した浸漬物などの表面をこそぐことによって、バイオフィルムを採取して、回収することができる。このようにして回収したバイオフィルムは、‘湿潤菌体物’として回収される。また、バイオフィルムの付着した担体のまま、本発明の湿潤菌体物として回収することも可能である。
【0040】
(2)の方法は、前記固体表面に形成されたバイオフィルムと、前記並行複式無機化反応を行う微生物群を培養した後に得られる培養液の上清と、を混合した後に、‘混合液’として回収する方法である。
この場合の前記形成されたバイオフィルムと前記培養液の上清の混合とは、具体的には、形成されたバイオフィルムをブラシやワイパーなどでこすることにより物理的にはがして培養液の上清とよく混合したり、水流を当ててバイオフィルムをはがして混合したり、容器全体を振動させてバイオフィルムをはがして混合したりすることで、行うことができる。
また、当該混合液において、前記バイオフィルムに対する培養液の上清の量は、好ましくは、バイオフィルム1gに対して0.5~100ml程度であることが望ましい。
【0041】
上記培養工程で形成された「バイオフィルム」は、並行複式無機化反応を行う微生物群を多く含むものであり、アンモニア化成を行う微生物群と硝酸化成を行う微生物群(硝化菌)と多く含むものである。特に、固体表面定着性である硝酸化成を行う微生物群(硝化菌)を回収するのに適したものである。
なお、並行複式無機化反応を行う微生物群を培養した後に得られた「培養液の上清」は、並行複式無機化反応を行う微生物群のうち、アンモニア化成を行う微生物群を含むもののであるが、硝酸化成を行う微生物群(硝化菌)をほとんど含んでいないものである。
従って、‘培養液の上清のみ’では、硝化反応に対してほとんど活性がないため、並行複式無機化反応を行う微生物群の種菌に適さない。
【0042】
即ち、本発明では、上記の(1)あるいは(2)の方法のように、固体表面に形成されるバイオフィルムを回収したもの、もしくは、当該バイオフィルムを含有するように回収したものを、‘並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌’とすることができる。
なお、種菌の保管、輸送の問題を考慮すれば、容積、重量を縮減しやすい(1)の方法にて採取されたバイオフィルムを利用する方法が望ましい。
また、特に保管、輸送を目的としない場合は、バイオフィルムを培養液の上清と混合する(2)方法が、最も操作性が容易である点から、望ましい。
【0043】
上記の(1)あるいは(2)の方法で回収したバイオフィルムは、本発明の‘並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌’とすることができるが、さらには、これら回収したバイオフィルムは、遠心分離又はろ過することによって余分な水分を除去した‘湿潤菌体物’として回収することができる。なお、本処理においては、遠心分離とろ過の両方を組み合わせて行ってもよい。
本処理において、遠心分離は、微生物にストレスを与えない遠心速度(2000~20000×g)で遠心することによって行うことができる。また、ろ過は、湿潤バイオフィルム、あるいはバイオフィルムと培養液培養液の上清の混合液を、ろ紙、布などを用いて、ろ過することによって行うことができる。
なお、本処理において好ましくは、水分含量90%以下の湿潤菌体物として回収することが望ましい。
【0044】
本回収工程においては、乾燥処理を行うことで、並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌を、‘乾燥菌体物’の形状で回収することができる。
本回収工程を上記(1)の方法で行った場合においては、前記培養液の上清を廃棄した後に、乾燥処理を行うことができる。具体的には、前記培養液の上清を廃棄した後、形成されたバイオフィルムが前記固体表面に付着している状態で、乾燥処理を行うことができる。または、形成された湿潤状態のバイオフィルムを集めた後に、乾燥処理を行ってもよい。
また、本回収工程を、上記(1)あるいは(2)の方法で行った後、さらに、遠心分離又はろ過することによって余分な水分を除去した場合においては、湿潤菌体物を回収した後に乾燥処理を行い、乾燥菌体物とすることができる。
当該乾燥処理としては、風乾、乾熱処理、減圧乾燥などで行うことができる。具体的には、室温(15~37℃)の温度条件で、1時間~一晩程度(6~14時間程度)、好ましくは一晩程度(6~14時間程度)風乾させることで行うことができる。
なお、本乾燥処理においては、好ましくは、水分含量20%以下の乾燥菌体物とすることが望ましい。
【0045】
本発明の「並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌」は、上記工程を経ることで製造することができる。
当該種菌の形状としては、湿潤菌体物、乾燥菌体物(乾燥処理後の菌体物)、液体状(バイオフィルムと培養液の上清の混合液)、バイオフィルムが付着したままの固体担体、などの形状として製造することができる。
好ましくは、保存、流通の観点(別の場所に輸送・保管する目的)や、乾燥種菌が耐熱性を備える点、あるいは接種量を減らし操作性を向上させる点などから、‘乾燥菌体物’の形状で製造することが好ましい。
また、同じ場所で再度並行複式無機化反応を進めたい場合においては、当該種菌を製造する工程の単純さから、‘湿潤菌体物’あるいは‘液体状’の形状で製造することが好ましい。
【0046】
本発明の当該種菌としては、アンモニア化成を行う微生物群を含み、且つ、得られた当該種菌1gに対して、硝酸化成を行う微生物群(硝化菌)を1万~1億細胞含む、微生物組成を示すものである。
本発明の当該種菌としては、並行複式無機化反応の経過を経ず、アンモニア化成を行う微生物群と硝酸化成を行う微生物群の連携が形成されたものでない場合、有機成分の大量曝露によって硝酸化成を行う微生物群が死滅しやすくなり、硝化能を失って並行複式無機化反応を進行することができなくなるため、好ましくない。
即ち、本発明の当該種菌においては、アンモニア化成を行う微生物群と硝酸化成を行う微生物群が連携し、相互作用することで、有機成分存在下でも硝酸化成を行う微生物群の硝化能が維持されるものである。
【0047】
本発明の当該種菌としては、50~80℃、好ましくは50~60℃、より好ましくは50℃、の加熱を行っても、並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌としての機能を失わないものである。また、当該加熱に耐える時間は、0.1~12時間程度、好ましくは30分程度である。
この耐熱性は、当該種菌の輸送・保管時に想定されるトラック内、あるいは倉庫内の高温によって失活することを回避しうる点での、有効性を示すものである。
【0048】
本発明の当該種菌は、並行複式無機化反応を行う微生物群を用いて有機物から無機肥料成分である硝酸態窒素を生成する際、「並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群」の‘微生物源’として用いることができるものである。
【0049】
本発明において、‘並行複式無機化反応を行う微生物群を用いて有機物から無機肥料成分である硝酸態窒素を生成する’ことにより、具体的には、「無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料を製造する」ことができる。
【0050】
本発明において、無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料の製造(肥料製造工程)は、水を溜めることができる容器に水を張り、これに本発明の‘前記種菌’を添加し、;前記水中において並行複式無機化反応が進行する環境である、「有機物が添加され且つ温度が15~37℃に維持され且つ好気的条件になるように維持された環境」を維持することで、前記水中で並行複式無機化反応を進行させ、;100mg/L以上の硝酸イオンを含む反応液を得、;得られた前記反応液を回収することによって行うものである。
なお、本肥料製造工程は、‘前記種菌を添加した後に’、並行複式無機化反応が進行する環境を維持するものでもよいが、‘並行複式無機化反応が進行する環境が維持された状態の水に前記種菌を添加した後に’、当該環境を維持するものであってもよい。
【0051】
本工程に用いる「水を溜めることができる容器」としては、水を溜めることができ、溶存する酸素が行き渡りやすい構造の容器であれば、如何なるものであっても用いることができる。
例えば、水槽、ポット、バケツ、タンク、貯水槽、浴槽、プール、などの比較的大きい量の水を留めることができる容器、;三角フラスコ、ビーカー、試験管などの比較的少ない量の水を留めることができる容器、;などを挙げることができる。
具体的には、ポット、タンク、三角フラスコ、を用いることができる。また、大規模な生産や工業的に実用する場合には、貯水槽、プール、を用いることができる。
【0052】
本工程に用いる水としては、水道水、蒸留水、蒸留純水、井戸水、河川水、湖水、海水などを用いることができる。
水の量としては、添加する有機物の乾燥重量に対して50倍量以上であれば特に制限はないが、十分な量の肥料を得るためには、具体的には、0.001~10000L、好ましくは、0.01~1000Lの量の水を張ることが好ましい。
【0053】
本肥料製造工程において‘微生物源’である、本発明の当該種菌を添加する量としては、前記容器に張った水1Lに対して0.01gを下回らない量、好ましくは、0.2gを下回らない量である。当該種菌を、0.2gを下回る量しか添加しなかった場合、並行複式無機化反応の終了する時間が遅延することがあり、好ましくない。
なお、従来の方法である、バーク堆肥などを微生物源として添加した場合、水1Lに対して約5g以上の添加が必要である。
即ち、本発明の当該種菌を微生物源として用いることによって、従来法に比べて、約1/50倍、好ましくは、約1/25倍に、微生物源の添加量を大幅に縮減させることができる。
【0054】
本肥料製造工程において、並行複式無機化反応が進行する環境を維持するためには、‘有機物が添加され且つ温度が15~37℃に維持され且つ好気的条件になるように維持された環境、を維持すること’が必要である。
このような環境を維持することによって、当該水中に、並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群を増殖させて、並行複式無機化反応を迅速に進行させることができ、さらには、‘脱窒反応を伴わずに’、無機肥料成分である硝酸態窒素を生成することができる。
【0055】
本肥料製造工程では、前記水中が「好気的条件になるように維持される」ことによって、前記水中の溶存酸素濃度を高め並行複式無機化反応を行う微生物群の活動に適した条件にすることができる。
また、脱窒反応を行う微生物群(脱窒菌)は、嫌気条件下で活動しやすくなるため、脱窒反応を行う微生物群の増殖を抑制するためにも好適である。
前記水中を好気的条件になるように維持する方法としては、曝気、振盪、高濃度酸素溶解、高濃度酸素水の利用などで行うことができる。好ましくは、曝気、振盪することで行うことができる。
【0056】
本肥料製造工程においては、並行複式無機化反応が進行するのに適した「水温」とは、即ち、並行複式無機化反応を行う微生物群の生育に適した水温である。具体的には、15~42℃、好ましくは15~37℃、さらに好ましくは20~37℃、最も好ましくは25℃程度に維持されたものであることが望ましい。
なお、温度が15℃よりも低い場合、微生物の増殖が遅延し、反応に時間を要するため好ましくない。また、温度が42℃よりも高い場合、並行複式無機化反応を進めるのに必要な微生物の一部が死滅することがあり、好ましくない。
【0057】
本肥料製造工程における前記水中への「有機物の添加」は、当該種菌が並行複式無機化反応の触媒として最適化済みであるため、1回に大量に添加することが可能である。
具体的には、前記水1Lに対して20g(乾燥重量換算)を超えない量、好ましくは10gを超えない量、までを一度に添加できるものである。
なお、本工程において有機物の添加は、当該反応を開始する前に添加することができるが、反応開始後に再び添加してもよい。
なお、当該有機物は、液体の状態であっても粉末の状態であっても添加することができる。
具体的には、当該有機物が液体の状態の場合、鰹煮汁を用いた場合0.1~10g(液体重量:(乾燥重量換算で0.07~7g))、コーンスティープリカーを用いた場合0.1~10g(液体重量:(乾燥重量換算で0.05~5g))、菜種油粕を用いた場合0.1~10g、を添加することができる。
なお、従来の方法である、バーク堆肥などを微生物源として添加した場合、水1Lに対して約2gを超えない量までしか、一度に添加できない。
当該種菌以外のものを‘微生物源’として添加した場合、水1Lあたり2gを超える有機物を添加すると、内在する硝化菌が有機成分の大量曝露によって死滅し、硝化能を失って並行複式無機化反応を進行することができなくなるため、並行複式無機化反応に適した微生物群とは言えなかった。
即ち、本発明の当該種菌を微生物源として用いることによって、従来法に比べて、一度に添加できる量を約10倍、好ましくは、約5倍に、有機物の添加量を増やすことができるものとなる。
【0058】
本肥料製造工程においては、培養を開始してから、100mg/L以上、好ましくは200mg/L以上の、硝酸イオン換算での硝酸態窒素を含む培養液が、8日を越えない日数、好ましくは4~8日間で得ることができるものである。
また、さらには、反応を開始してから‘有機物から硝酸態窒素への無機化が終了するまで’にかかる時間は、目標とする硝酸イオン濃度が400mg/Lとする場合、10日を越えない日数、好ましくは8日を越えない日数、さらに好ましくは4~8日間で終了させることができるものである。
なお、ここで‘有機物から硝酸態窒素への無機化が終了するまで’とは、「生成された硝酸態窒素の濃度がピークに達するまで」の時間を指すものである。
なお、従来の方法である、バーク堆肥などを‘微生物源’として添加した場合、反応を開始してから‘有機物から硝酸態窒素への無機化が終了するまで’の時間は、最短でも10日、通常15日以上が必要である。
即ち、本発明の当該種菌を‘微生物源’として用いることによって、従来法に比べて、約2倍以上の速度で分解できるため、有機物から硝酸態窒素への無機化が終了するまで’の‘反応時間を大幅に短縮’することができる。
【0059】
本肥料製造工程によって、当該反応液中に100mg/L以上、好ましくは200mg/L以上、さらに好ましくは400mg/L以上の‘高濃度’の硝酸イオン換算での硝酸態窒素を含む反応液を、‘効率よく’得ることができる。この反応液を回収することにより、無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料とすることができる。
なお、当該製造される肥料としては、上記工程で得られた反応液をそのまま原液として用いることができるが、2~10倍に希釈した液体肥料、化学肥料と混合した液体肥料、としてもよい。また、乾燥化させて、濃縮液、固形粉末、固形タブレット状、に加工したものにしてもよい。
【0060】
本肥料製造工程で得られる、無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料は、野菜、果実、花木、観葉植物など、あらゆる植物の栽培の肥料として用いることができる。
特には、葉菜類であるチンゲンサイ、コマツナ、レタス、ホウレンソウなど、;果実を収穫する野菜であるトマトなど、;果樹、;樹木、;花卉、;の栽培に好適に用いることができる。さらに特には、チンゲンサイ、コマツナの栽培に好適に用いることができる。
なお、当該無機肥料成分である硝酸態窒素を含む肥料は、養液栽培、通常の土壌を用いた栽培など、一般的に行われている植物の栽培においても用いることができる。
【0061】
また、本発明においては、前記肥料製造工程で得られる‘前記反応液’を、養液栽培の養液中に供給する、ことにより、従来は難しかった‘有機物を含む肥料を直接添加しての養液栽培を行うこと’が可能になる。
具体的には、養液栽培の養液中で、上記工程である肥料製造を直接行うことにより、養液への有機物を含む肥料の直接添加が可能になる。
また、前記肥料製造工程を行う容器(反応槽)を、養液栽培を行う装置とみなすことで、有機物を含む肥料の直接添加して養液栽培を行うことが可能になる。
なお、養液栽培方法において、養液内の微生物生態系の構築に、従来のバーク堆肥などを‘微生物源’とした場合、添加量が1Lあたり約5g以上の添加が必要であり、有機物の添加は1Lあたり一度に2g程度までしか添加できず、また、反応終了までに(養液内の微生物生態系の完成に時間を要するため)通常15~20日以上の時間がかかっていた。
それに対して、本発明の種菌を‘微生物源’として添加することにより、‘微生物源’の添加量を従来法の約1/50倍、好ましくは約1/25倍に、有機物の添加は一度に10gまで添加することが可能になり、反応終了までに約半分以下の日数(8日を越えない日数、好ましくは4~8日間)で済むようになる。
【0062】
当該養液栽培方法は、野菜、果実、花木、観葉植物など、あらゆる植物の栽培を行うことができる。
特には、葉菜類であるチンゲンサイ、コマツナ、レタス、ホウレンソウなど、;果実を収穫する野菜であるトマトなど、;果樹、;樹木、;花卉、;の栽培に好適に用いることができる。さらに特には、チンゲンサイ、コマツナの栽培を好適に行うことができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
【0064】
実施例1(種菌の製造:バイオフィルム形成と回収)
並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌を製造するための工程として、並行複式無機化反応を行う微生物群を‘培養’し、バイオフィルムを形成させ‘回収’した(培養工程および回収工程)。
ワグネルポット(藤原製作所製)に10Lの水を入れ、バーク堆肥(商品名ゴールデンバーク、清水港木材産業協同組合製)を水1Lに対して5g添加した。
ここに、鰹煮汁(鰹節工場の副産物)を水1Lに対して1g程度添加(少量ずつ添加)することを連日行い、エアーポンプで曝気することで好気的条件になるように維持しながら、水温25℃で並行複式無機化反応を行う微生物群を2週間培養した。培養後、容器の壁面にバイオフィルムが形成されているのが観察された。そして、培養した後に得られる培養液の上清をデカンテーションにより取り除き、廃棄した。
【0065】
次に、当該容器の壁面に形成されたバイオフィルムを一晩風乾させた後、金属のへらで擦ることで回収し、乾燥菌体物(本発明実施品1-1)を得た。
図1の(a)に、本実施例におけるバイオフィルムの形成および回収方法を示す模式図を示す。また、図2に、本実施例におけるバイオフィルムの形成および回収過程を示す写真像図を示す。
【0066】
また、上記工程でデカンテーションにより培養液の上清を取り除いて廃棄した後に、風乾させずに当該容器の壁面に形成されたバイオフィルムをブラシで擦って培養液の上清と混合し、混合液の形で回収し、遠心分離して余分な水分を除去し、沈殿である湿潤菌体物(本発明実施品1-2)を得た。
【0067】
実施例2(種菌の添加量および反応時間)
並行複式無機化反応を進める過程で形成されたバイオフィルムを、新たな並行複式無機化反応を進める微生物源として利用可能か、検討を行った。
三角フラスコ(200ml容)に50mLの蒸留純水を入れ、微生物源として実施例1で得られた乾燥菌体物(本発明実施品1-1)を、水1Lあたり0.2g、0.4g、または1.0g添加した。
ここに鰹煮汁(鰹節工場の副産物)を水1Lあたり1g添加し、120rpmで浸透することで好気的条件になるように維持しながら、水温25℃で16日間反応を行った。
なお、対照実験として、微生物源としてバーク堆肥(商品名ゴールデンバーク、清水港木材産業協同組合製)を水1Lあたり5g添加し反応を行う実験も、同時に行った。結果を図3に示す。
【0068】
その結果、実施例1で得られた乾燥菌体物(本発明実施品1-1)を微生物源として添加した場合、有機物から硝酸態窒素への無機化が終了するまでの反応時間(硝酸イオン濃度のピークに達するまでの時間)は、6~8日間で終了することが示された。
それに対して、対照実験であるバーク堆肥を微生物源として添加した場合は、13日間が必要であることが示された。
従って、実施例1で得られた乾燥菌体物を、微生物源として添加することによって、バーク堆肥を微生物源とした時に比べて、有機物から硝酸態窒素への無機化が終了するまでの反応時間を、ほぼ半分の日数に短縮できることが分かった。
【0069】
なお、従来、土壌やバーク堆肥など、並行複式無機化反応に最適化されていない微生物源を用いる場合には、比較的多い量の有機物を添加する条件だと、微生物源に含まれる硝化菌が有機成分の曝露に弱く、死滅しやすいために、微生物源を大量に添加する必要があった(微生物源の添加量が少ないと硝化菌が死滅し、硝酸化成が進まなくなる)。具体的には、水1Lに対して1g程度の有機物を添加する場合、水1Lに対して5g程度の微生物源の添加が必要であった。ただし、微生物源を過剰添加しすぎた場合(具体的には、水1Lに対して10gを超える量の土壌などを添加した場合)、それ自体が塊状となって内部が嫌気性となり、脱窒菌が繁殖しやすくなる。
しかし、本実施例が示すように、並行複式無機化反応を進める過程で形成されたバイオフィルムを微生物源として添加する場合には、水1Lに対して0.2gの添加量でも、問題なく並行複式無機化反応を行うことができ、なおかつ、従来の微生物源を添加した場合よりも、反応が終了するまでの反応時間を短縮(本発明実施品1-1を用いた場合には、14日間から8日間に短縮)させることができることが示された。
すなわち、微生物源の添加量を、従来のおよそ4%にまで減らすことができる上、反応時間を約半分に短縮できることが分かった。
この結果から、本発明実施品1-1である乾燥菌体物は、‘並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌’として用いることができることが示された。
【0070】
実施例3(有機物の大量添加)
並行複式無機化反応を進める過程で形成されたバイオフィルムを微生物源として用いる場合、‘有機物を一度に大量添加’できるかどうかの検討を行った。
三角フラスコ(200ml)に50mLの蒸留純水を入れ、微生物源として実施例1で得られた湿潤菌体物(本発明実施品1-2)を、水1Lあたり5g添加した。
ここに鰹煮汁(鰹節工場の副産物)を‘水1Lあたり10g’添加し、120rpmで浸透することで好気的条件になるように維持しながら、水温25℃で14日間反応を行った。
なお、対照実験として、微生物源としてバーク堆肥(商品名ゴールデンバーク、清水港木材産業協同組合製)を水1Lに対して5g添加し反応を行う実験も、同時に行った。結果を図4に示す。
【0071】
その結果、実施例1で得られた湿潤菌体物(本発明実施品1-2)を微生物源として添加した場合、鰹煮汁(鰹節工場の副産物)を‘水1Lに対して10g’添加(有機物を大量添加)した場合においても、問題なく並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群が増殖し、有機物から無機肥料成分である硝酸態窒素が生成されることが示された。
それに対して、対照実験であるバーク堆肥を微生物源として添加した場合は、アンモニアの発生は確認されたが、硝酸イオン(硝酸態窒素)の生成は検出されなかった。このことから、当該対照実験では、アンモニア化成終了段階で反応が停止し、硝酸化成反応が行われていない(並行複式無機化反応が最終産物まで行われていない)ことが示された。
【0072】
なお、従来、並行複式無機化反応に最適化されているとは言えない、土壌やバーク堆肥などを微生物源として用いる場合、微生物源の添加量を増やすなどの対策をとっても、有機物の添加許容量は、‘水1Lに対して2g程度’までが限界であった。
しかし、本実施例が示すように、並行複式無機化反応を進める過程で形成されたバイオフィルムを微生物源として添加する場合には、大量の有機物(従来のおよそ5倍量)を添加しても、問題なく並行複式無機化反応を行って、有機物から無機肥料成分である硝酸態窒素が生成できることが分かった。
【0073】
実施例4(湿潤菌体物による並行複式無機化反応とその反応速度)
並行複式無機化反応を進める過程で形成されたバイオフィルムの‘湿潤菌体物’を微生物源として用いて、どのくらいの速度で並行複式無機化反応を進めるのか、検討を行った。
三角フラスコ(200ml容)に50mLの蒸留純水を入れ、微生物源として実施例1で得られた湿潤菌体物(本発明実施品1-2)を、水1Lに対して5g添加した。
ここに鰹煮汁(鰹節工場の副産物)を水1Lあたり1g添加し、120rpmで浸透することで好気的条件になるように維持しながら、水温25℃で16日間反応を行った。
なお、対照実験として、微生物源としてバーク堆肥(商品名ゴールデンバーク、清水港木材産業協同組合製)を水1Lあたり5g添加し反応を行う実験も、同時に行った。結果を図5に示す。
【0074】
その結果、実施例1で得られた、湿潤菌体物(本発明実施品1-2)を微生物源として添加した場合、有機物から硝酸態窒素への無機化が終了するまでの反応時間(硝酸イオン濃度のピークに達するまでの時間)は、4日間で終了することが示された。
それに対して、対照実験であるバーク堆肥を微生物源として添加した場合は、11日間が必要であることが示された。
【0075】
従って、本実施例の結果から、並行複式無機化反応に最適化された微生物源としてのバイオフィルムを‘湿潤菌体物’の形状で添加した場合、バーク堆肥のような並行複式無機化反応に最適化されているとは言えない微生物源を利用した時に比べて、有機物から硝酸態窒素への無機化が終了するまでの反応時間を、ほぼ1/3の日数に短縮できることが分かった。
【0076】
比較例1(培養液の上清は種菌に適さない)
並行複式無機化反応を行う微生物群を培養した後に得られる‘培養液の上清’を、微生物源として用いて、並行複式無機化反応を行えるのか、検討を行った。
まず、有機物として、CSL(商品名「有機の液肥」、サカタのタネ製)を水1Lあたり1g添加したことを除いて、実施例1と同様にして並行複式無機化反応を行う微生物群を培養した。そして、培養した後に得られる培養液の上清をピペットで静かに回収した(比較製造品1)。
【0077】
次いで、6本の三角フラスコに、竹炭、パーライト、海砂、バーク堆肥、園芸培土(苗一番)のいずれかの固体担体を0.5g添加したもの及び固体担体を添加しないもの、を準備し、50mlの蒸留水を加えてオートクレーブ滅菌した。
そして、それぞれの三角フラスコに、微生物源として上記培養後の上清(比較製造品1)0.5ml(水1Lに対して10ml)を添加した。
ここに、CSL(商品名「有機の液肥」、サカタのタネ製)を0.5g(水1Lあたり10g)添加し、120rpmで振蕩することで好気的条件になるように維持しながら、水温25℃で17日間反応を行った。結果を図6に示す。
【0078】
その結果、硝酸化成を行う微生物群(硝化菌)が定着しやすいと思われる固体担体を加えたにもかかわらず、いずれのフラスコにおいてもアンモニア化成だけが進み、硝酸イオン(硝酸態窒素)の生成は認められなかった。
このことから、並行複式無機化反応を行う微生物を培養した後に得られる培養液の上清には、硝酸化成を行う微生物群(硝化菌)がほとんど浮遊しておらず、存在したとしてもごくわずかなため、添加された有機成分の曝露により死滅したものと考えられる。
従って、並行複式無機化反応を行う微生物を培養した後に得られる培養液の上清は、並行複式無機化反応を触媒する微生物群の種菌として利用するのは不適当であることが分かった。
【0079】
実施例5(培養後の培養液の上清とバイオフィルムの混合液を種菌とする方法、および、種菌製造時の有機物の種類)
並行複式無機化反応を行う微生物群を培養した後に得られた培養液の上清と、形成されたバイオフィルムとを、混合した‘混合液’を、微生物源として用いて、並行複式無機化反応を行った。また、同時に、‘鰹煮汁以外の有機物’を添加して並行複式無機化反応を進めた場合に、鰹煮汁を用いた場合と同様、並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌を製造できるかを検討した。
まず、有機物として、菜種油粕(リノール油脂株式会社製)を水1Lに対して1g程度添加したことを除いて、実施例1と同様にして並行複式無機化反応を行う微生物群を培養した。そして、壁面に形成されたバイオフィルムをブラシでこすることにより物理的にはがして培養液の上清とよく混合し、混合液(本発明実施品5)を回収した。
【0080】
次いで、ワグネルポット(藤原製作所製)に9Lの水を入れ、微生物源として上記工程(培養工程および回収工程)で得られた混合液(本発明実施品5)1Lを添加した。
ここに菜種油粕(リノール油脂株式会社製)の粉末10g(水1Lに対して1g)を添加し、エアーポンプで曝気することで好気的条件になるように維持しながら、水温25℃で10日間反応を行った。結果を図7に示す。
【0081】
その結果、上記混合液(本発明実施品5)を微生物源として添加した場合、有機物から硝酸態窒素への無機化が終了するまでの反応時間(硝酸イオン濃度のピークに達するまでの時間)は、6日間で終了することが示された。また、この反応終了後の反応液中には、350mg/Lを超える硝酸イオンが生成された。
このことから、培養後に得られた培養液の上清と形成されたバイオフィルムとの混合液は、‘並行複式無機化反応を触媒する微生物源として最適化された種菌’として用いることが可能であることが示された。
また、鰹煮汁以外のバイオフィルムでも、同様に種菌として利用可能であることが示された。
【0082】
実施例6(培養後の培養液の上清とバイオフィルムの混合液のろ過)
並行複式無機化反応を行う微生物群を培養した後に形成されたバイオフィルムと得られた培養液の上清の混合液を、ろ過することで得られる湿潤菌体物を、微生物源として用いて、並行複式無機化反応を行った。
まず、実施例1と同様にして並行複式無機化反応を行う微生物群を培養した。そして、壁面に形成されたバイオフィルムをブラシでこすることにより物理的にはがして培養液の上清とよく混合し、その混合液400mlをろ紙(東洋濾紙製)でろ過し、ろ過後、そのまま風乾して、乾燥菌体物(本発明実施品7)0.15gを得た。
次いで、この乾燥菌体物(本発明実施品7)を200mlの蒸留純水で懸濁し、このうちの50mL(水1Lに対して37.5mgの湿潤菌体物を含む)を三角フラスコに入れた。
ここに鰹煮汁(枕崎漁協製)を0.05g(水1Lに対して1g)を添加し、120rpmで振蕩することで好気的条件になるように維持しながら、水温25℃で6日間反応を行った。結果を図8に示す。
【0083】
その結果、上記工程で得られた、培養液の上清とバイオフィルムの混合液をろ過して得られた乾燥菌体物(本発明実施品7)を、微生物源として添加した場合、反応開始6日後に硝酸イオン(硝酸態窒素)の生成が認められた。
このことから、培養液の上清とバイオフィルムの混合液をろ過して得られた乾燥菌体物は、‘並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌’として用いることが可能であることが示された。
【0084】
実施例7(種菌の耐熱性)
並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌に‘加熱処理’を施すことで、種菌としての活性にどの程度影響があるのか、検討を行った。
実施例1で得られた乾燥菌体物(本発明実施品1-1)100mgずつを、常温(約25℃)、50℃、80℃のそれぞれの温度で30分間静置した。
次いで、三角フラスコ(200ml容)に30mLの蒸留純水を入れ、微生物源として上記加熱処理後の乾燥菌体物を30mgずつ(水1Lあたり1g)添加した。
ここに、鰹煮汁(枕崎漁協製)を0.03g(水1Lあたり1g)添加し、120rpmで浸透することで好気的条件になるように維持しながら、水温25℃で15日間反応を行った。
なお、対照実験として、微生物源としてバーク堆肥(商品名ゴールデンバーク、清水港木材産業協同組合製)を30mg(水1Lあたり1g)添加し反応を行う実験も、同時に行った。結果を図9に示す。
【0085】
その結果、50℃で30分間加熱処理を行った乾燥菌体物を、微生物源として添加した場合、有機物から硝酸態窒素への無機化が終了するまでの反応時間(硝酸イオン濃度のピークに達するまでの時間)は、5日間で終了することが示された。
従って、50℃で30分間加熱処理を行った乾燥菌体物は、常温(約25℃)で静置したものに比べて、‘並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌’としての機能を、減じることなく保持していることが示された。
それに対して、80℃で30分間加熱処理を行った乾燥菌体物を、微生物源として添加した場合、有機物から硝酸態窒素への無機化が終了するまでの反応時間(硝酸イオン濃度のピークに達するまでの時間)は、9日間が必要であることが示され、バーク堆肥を微生物源とした時とほぼ同じ反応時間が必要であることが示された。
【0086】
以上の結果から、50℃30分の加熱処理では、並行複式無機化反応の触媒に最適化された微生物群の種菌としての機能が低下せず、耐熱性を有することが示された。
また、80℃30分の加熱処理したものでも、反応終了後に生成された硝酸イオン(硝酸態窒素)の生成量は、常温(約25℃)で静置したものと同じ程度に高いことが示され、80℃の高温に一時的にさらされるだけなら、種菌としての商品価値を失わずに済むことが分かった。
なお、バーク堆肥を微生物源とした場合に、反応終了時に生成される硝酸態窒素の量が少ないのは、実施例1で得られた乾燥菌体物(本発明実施品1-1)と比べ有機成分が多く含まれ、これを利用する微生物に硝酸イオンが消費されてしまうため、回収できる硝酸イオンの濃度が低下したものと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の種菌は、近年注目を集めている、有機肥料を活用した養液栽培を実践する上で、操作性が悪い問題(約2週間の反応時間が必要、微生物源の接種量が1Lあたり約5gと多い、有機物を一度に2g程度入れるのが限界)を解決する技術として価値が高い。本発明によって提供される種菌を用いれば、反応時間を半分以下に短縮し、微生物源の接種量は4%にまで縮減し、有機物の添加量を5倍に引き上げることができ、操作性が大幅に向上する。
現在、有機肥料を活用した養液栽培が注目を集め、取り組む生産者が急速に増加しており、国内で150ha,オランダでは4000haと拡大を続けている養液栽培のうちのかなりが有機肥料を利用するものに置き換わるものと予想される。本発明の提供する種菌は、これらの生産者の生産活動を助ける技術として、大きく貢献するため、広く利用されることが予想され、その市場規模は非常に大きなものとなる。本発明の種菌は、養液栽培だけでなく、室内緑化、屋上緑化などのディスプレー用水耕栽培にも適用可能であり、市場性は農業分野に留まらない。
【0088】
また、本発明は、有機性廃棄物を原料とする無機肥料製造技術への応用も可能とする。廃棄物の再資源化産業は今後2兆5千億円の市場規模に拡大すると予想されており、本発明は、大量の有機質資源を無機肥料成分に、迅速に効率よく再資源化する技術として、産業上の利用可能性は非常に大きなものである。
さらに、本発明は、本発明の種菌を用いることで、新たに種菌を製造することが可能である。従来の並行複式無機化反応で行うより半分の日数で製造できるので、種菌の迅速かつ大量の生産が可能となる。上記のように、種菌自体の広い市場性から、種菌の需要は大きくなることが予想され、これを迅速かつ大量に生産する技術を提供すること自体が、大きな市場性を持つものと予想される。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】(a)~(c)は、本発明の並行複式無機化反応の触媒として最適化された微生物群の種菌の製造方法の各種態様を示す説明図である。また、(a)は、実施例1におけるバイオフィルムの形成および回収方法を示す模式図でもある。
【図2】(a)は、本発明における固体表面にバイオフィルムが形成される一態様を示した模式図である。また、(b)は、実施例1におけるバイオフィルムの形成および回収過程を示す写真像図である。また、(c)は、本発明におけるバイオフィルムの回収方法の態様を示す模式図である。
【図3】実施例2における硝酸イオン濃度の測定結果を示すグラフである。
【図4】実施例3における硝酸イオン濃度、亜硝酸イオン濃度、アンモニア濃度の測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例4における硝酸イオン濃度の測定結果を示すグラフである。
【図6】比較例1における硝酸イオン濃度、アンモニア濃度の測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例5における硝酸イオン濃度の測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例6における硝酸イオン濃度の測定結果を示すグラフである。
【図9】実施例7における硝酸イオン濃度の測定結果を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図9】
7
【図2】
8