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明細書 :RSISを用いた簡便な遺伝子発現抑制方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5206419号 (P5206419)
登録日 平成25年3月1日(2013.3.1)
発行日 平成25年6月12日(2013.6.12)
発明の名称または考案の名称 RSISを用いた簡便な遺伝子発現抑制方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C07K  14/415       (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01H 1/00 A
A01H 5/00 A
C12N 5/00 103
C07K 14/415
請求項の数または発明の数 18
全頁数 33
出願番号 特願2008-554067 (P2008-554067)
出願日 平成20年1月17日(2008.1.17)
国際出願番号 PCT/JP2008/050481
国際公開番号 WO2008/087998
国際公開日 平成20年7月24日(2008.7.24)
優先権出願番号 2007008994
優先日 平成19年1月18日(2007.1.18)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年12月22日(2010.12.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】高岩 文雄
【氏名】保田 浩
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100102118、【弁理士】、【氏名又は名称】春名 雅夫
【識別番号】100160923、【弁理士】、【氏名又は名称】山口 裕孝
【識別番号】100119507、【弁理士】、【氏名又は名称】刑部 俊
【識別番号】100142929、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 隆一
【識別番号】100148699、【弁理士】、【氏名又は名称】佐藤 利光
【識別番号】100128048、【弁理士】、【氏名又は名称】新見 浩一
【識別番号】100129506、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 智彦
【識別番号】100130845、【弁理士】、【氏名又は名称】渡邉 伸一
【識別番号】100114340、【弁理士】、【氏名又は名称】大関 雅人
【識別番号】100121072、【弁理士】、【氏名又は名称】川本 和弥
審査官 【審査官】太田 雄三
参考文献・文献 国際公開第2006/030492(WO,A1)
国際公開第2004/087910(WO,A1)
YASUDA H, et al.,Expression of the small peptide GLP-1 in transgenic plants.,Transgenic Res.,2005年,Vol.14, No.5,p.677-684.
YASUDA H, et al.,The correlation between expression and localization of a foreign gene product in rice endosperm.,Plant Cell Physiol.,2006年,Vol.47, No.6,p.756-763.
調査した分野 C12N 15/09
A01H 1/00
A01H 5/00
C12N 5/10
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)~(c)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAと95%以上の同一性を示すDNAであって、ここで、該DNAはXho IおよびEco RIの制限酵素認識部位を含まず、さらに、該DNAは標的遺伝子のサイレンシングを誘導する機能を有するDNA
(c)配列番号:3に記載の塩基配列において5個以内の塩基が置換、欠失、付加および/または挿入した塩基配列からなるDNAであって、ここで、該DNAはXho IおよびEco RIの制限酵素認識部位を含まず、さらに、該DNAは標的遺伝子のサイレンシングを誘導する機能を有するDNA
【請求項2】
標的遺伝子の発現を抑制するDNAであって、請求項1に記載のDNAに、さらに以下の(a)~(c)に記載のDNAが機能的に連結した構造を有するDNA。
(a)請求項1に記載のDNAの上流に、プロモーター配列をコードするDNA
(b)請求項1に記載のDNAの下流に、ターミネーター配列をコードするDNA
(c)前記(a)のDNAの下流であり、さらに前記(b)のDNAの上流に、標的遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA
【請求項3】
複数個の標的遺伝子の発現を同時に抑制するDNAであって、請求項1に記載のDNAに、さらに以下の(a)~(c)に記載のDNAが機能的に連結した構造を有するDNA。
(a)請求項1に記載のDNAの上流に、プロモーター配列をコードするDNA
(b)請求項1に記載のDNAの下流に、ターミネーター配列をコードするDNA
(c)前記(a)のDNAの下流であり、さらに前記(b)のDNAの上流に、複数個の標的遺伝子それぞれのmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のDNAによってコードされるタンパク質。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載のDNA、あるいは請求項5に記載のベクターを含む組成物。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載のDNA、あるいは請求項5に記載のベクターが導入された形質転換植物細胞。
【請求項8】
請求項7に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物体。
【請求項9】
請求項8に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
【請求項10】
請求項8または9に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
【請求項11】
請求項1~3のいずれかに記載のDNA、あるいは請求項5に記載のベクターを用いることを特徴とする、標的遺伝子の発現を抑制する方法。
【請求項12】
請求項1~3のいずれかに記載のDNA、あるいは請求項5に記載のベクターを用いることを特徴とする、標的遺伝子のサイレンシングを誘導する方法。
【請求項13】
請求項1~3のいずれかに記載のDNA、あるいは請求項5に記載のベクターを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む、形質転換植物体の製造方法。
【請求項14】
請求項1~3にいずれかに記載のDNA、あるいは請求項5に記載のベクターを植物体の細胞内で発現させる工程を含む、標的遺伝子の発現が抑制された植物体もしくはその種子の製造方法。
【請求項15】
請求項1~3のいずれかに記載のDNA、あるいは請求項5に記載のベクターを有効成分として含む、標的遺伝子の発現抑制剤。
【請求項16】
請求項1~3のいずれかに記載のDNA、あるいは請求項5に記載のベクターを有効成分として含む、標的遺伝子のサイレンシング誘導剤。
【請求項17】
以下の(1)および(2)の工程を含むことを特徴とする、siRNA発現ベクターの製造方法。
(1)請求項1に記載のDNAに、さらに以下の(a)~(c)に記載のDNAを機能的に連結させる工程
(a)請求項1に記載のDNAの上流に、プロモーター配列をコードするDNA
(b)請求項1に記載のDNAの下流に、ターミネーター配列をコードするDNA
(c)前記(a)のDNAの下流であり、さらに前記(b)のDNAの上流に、標的遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA
(2)前記DNAをベクターに組み込む工程
【請求項18】
以下の(1)および(2)の工程を含むことを特徴とする、siRNA発現ベクターの製造方法。
(1)請求項1に記載のDNAに、さらに以下の(a)~(c)に記載のDNAを機能的に連結させる工程
(a)請求項1に記載のDNAの上流に、プロモーター配列をコードするDNA
(b)請求項1に記載のDNAの下流に、ターミネーター配列をコードするDNA
(c)前記(a)のDNAの下流であり、さらに前記(b)のDNAの上流に、複数個の標的遺伝子それぞれのmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA
(2)前記DNAをベクターに組み込む工程
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、RNAサイレンシングを誘導するDNA、該DNAを有する標的遺伝子の発現を抑制するDNA、これらDNAを利用して簡便に標的遺伝子の発現を抑制あるいは標的遺伝子のサイレンシングを誘導する方法、標的遺伝子の発現抑制剤あるいは標的遺伝子のサイレンシング誘導剤、さらにsiRNA発現ベクターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モデル植物といわれるイネやアラビドプシスのゲノム配列がほぼ決定され、今後はそれぞれの遺伝子産物(タンパク質)の機能の解明が重要な課題として挙げられている。タンパク質の機能の解明には様々な方法が用いられるが、生体内での機能については遺伝学的な2つの方法が用いられている。
第一の方法は変異体(表現型の異常)を探してその原因遺伝子を突き止めていく順遺伝学的手法である。変異体の作成には変異原処理やγ線の照射等が行われている。
【0003】
第二の方法は既知の遺伝子の構造を破壊する、もしくは発現を抑制することによってその個体の表現型がどう変わるのかを観察する逆遺伝学的手法である。逆遺伝学的手法では遺伝子組換えによる強制発現や相同組換え、トランスポゾンタギング、RNAサイレンシングによるノックダウン等により、既知遺伝子の発現が調整されている。植物の場合、既知遺伝子の発現抑制法として相同組換えが困難であることから、RNAサイレンシングが頻繁に行われている。
【0004】
植物の研究において分子生物学的手法の発達や形質転換法の確立によって未知遺伝子の機能の解明といった基礎科学の分野以外に、作物の高付加価値化といった応用の分野にもRNAサイレンシングが利用されるようになってきている(非特許文献1~3参照)。また植物の本質的なウイルス抵抗性にRNAサイレンシングが関わっていることが明らかとなってから、人工的なRNAサイレンシングを利用したウイルス抵抗性作物の開発も行われており(非特許文献4および5参照)、今後RNAサイレンシング法は高付加価値を付与した作物の開発技術の一つとしてさらに利用されるものと思われる。
【0005】
遺伝子組換え技術を利用して目的の遺伝子発現を抑制する方法として、これまではアンチセンス法が用いられていた。しかし近年になってアンチセンス法よりも高頻度でより抑制効果の高いRNAサイレンシングを利用した方法が主流になってきており、その機構も明らかとなりつつある。RNAサイレンシングの過程は大きく分けて次の3段階に分けられる。第1段階は2本鎖RNA(dsRNA)の形成、第2段階はDicer(非特許文献6参照)による21から26塩基対からなる2本鎖RNA(siRNA, 非特許文献7参照)への断片化、第3段階はRNAサイレンシング誘導複合体(RISC, 非特許文献8参照)によるsiRNAと相同配列を持つmRNAの分解、である。
【0006】
人工的なRNAサイレンシングを誘導するためには2本鎖RNAを形成させることが最も重要であり、そのための方法としてinverted repeatやhairpin-roop構造をその転写物に形成させると効率よくRNAサイレンシングを誘導できることが知られている。また、イントロンの配列をスペーサーとして用いるとサイレンシングの効率がさらに高まることが知られている(非特許文献9および10参照)。またこのような構造を取らせるためのベクター(pHANNIBAL, pHELLSGATE, pANDA)も開発されている(非特許文献11および12参照)。
【0007】
なお、ヒトのペプチドホルモンであるGLP-1(glucagon-like peptide 1;グルカゴン様ペプチド1)の塩基配列を、イネ胚乳中で高頻度に用いられているコドンに置き換えたmGLP-1配列を用いた、イネ植物体におけるRNAサイレンシングについては知見がある(非特許文献13参照)。しかしながらこのmGLP-1配列には制限酵素認識部位が複数存在していたために実際の使用には不向きであった。またmGLP-1の発現がグルテリン遺伝子を抑えるだけの特殊な現象でしかないと考えられていた。
【0008】

【非特許文献1】Fukusaki E.外6名著、「Flower color modulations of Torenia hybrida by downregulation of chalcone synthase genes with RNA interference.」、J. Biotechnol.、2004年、Vol.111、p.229-240.
【非特許文献2】Liu Q.外2名著、「High-stearic and high-oleic cottonseed oils produced by hairpin RNA-mediated post-transcriptional gene silencing.」、Plant Physiol.、2002年、Vol.129、p.1732-1743.
【非特許文献3】Ogita S.外4名著、「Producing decaffeinated coffee plants.」、Nature、2003年、Vol.423、p.823.
【非特許文献4】Lindbo J. A.外3名著、「Induction of a highly specific antiviral state in transgenic plants: implications for regulation of gene expression and virus resistance.」、Plant Cell、1993年、Vol.5、p.1749-1759.
【非特許文献5】Waterhouse P. M.外2名著、「Virus resistance and gene silencing in plants can be induced by simultaneous expression of sense and antisense RNA.」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1998年、Vol.95、p.13959-13964.
【非特許文献6】Bernstein E.外3名著、「Role for a bidentate ribonuclease in the initiation step of RNA interference.」、Nature、2001年、Vol.409、p.363-366.
【非特許文献7】Hamilton A. J. および Baulcombe D. C.著、「A species of small antisense RNA in posttranscriptional gene silencing in plants.」、Science、1999年、Vol.286; 950-952.
【非特許文献8】Rand T.A.外3名著、「Biochemical identification of Agronaute 2 as the sole protein required for RNA-induced silencing complex activity.」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、2004年、Vol.101、p.14385-14389.
【非特許文献9】Wesley S. V.外13名著、「Construct design for efficient, effective and high-throughput gene silencing in plants.」、Plant J.、2001年、Vol.27、p.581-590.
【非特許文献10】Smith N. A.外5名著、「Total silencing by intron-spliced hairpin RNAs.」、Nature、2000年、Vol.407、p.319-320.
【非特許文献11】Helliwell C. および Waterhouse P.著、「Constructs and methods for high-throughput gene silencing in plants.」、Methods、2003年、Vol.30、p. 289-295.
【非特許文献12】Miki D. および Shimamoto K.著、「Simple RNAi vectors for stable and transient suppression of gene function in rice.」、Plant Cell Physiol.、2004年、Vol.45、p.490-495.
【非特許文献13】Yasuda H.外4名著、「Expression of the small peptide GLP-1 in transgenic plants」、Transgenic Research、2005年、Vol.14、p.677-684
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、RNAサイレンシングを誘導するDNA、該DNAを有する標的遺伝子の発現を抑制するDNA、これらDNAを利用して簡便に標的遺伝子の発現を抑制あるいは標的遺伝子のサイレンシングを誘導する方法、標的遺伝子の発現抑制剤あるいは標的遺伝子のサイレンシング誘導剤、さらにsiRNA発現ベクターの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った。
本発明者らは、イネ胚乳中でRNAサイレンシングを誘導することができる配列(RSIS; RNA silencing inducible sequence)を見いだすことに成功した。この配列を標的遺伝子のプロモーターからmRNAの5'末端配列(約100 bp)および終止コドン以降のターミネーター配列の間に連結することによって標的遺伝子の発現を抑制することができた。
【0011】
また、異なる遺伝子由来のプロモーターとターミネーターを用いることによって、プロモーターの働く細胞内で両遺伝子の発現を同時に抑制することができることも示した。イネ種子中においては胚乳中で誘導されたRNAサイレンシングのシグナルが胚には伝達されないことを示した。さらにイネ葉中でもRSISを用いたRNAサイレンシングを引き起こすことが可能であることも示した。
【0012】
本発明者らは2005年にmGLP-1配列を用いたイネ植物体におけるRNAサイレンシングを行っている(非特許文献13参照)。しかしながら当該mGLP配列には制限酵素認識部位が複数存在していた。この制限酵素認識部位の存在のために、コンストラクト(ベクター)の作成が非常に不便であり、実際の使用には不向きな面があった。今回本発明者らは、mGLP配列における、それら制限酵素認識部位を全て削除するという工夫を行い、より実用的な配列であるRSISを見出すことに成功した。このRSISによって、コンストラクト(ベクター)の作成が格段に容易となり、実用性が大幅に向上した。また本発明者らは、制限酵素認識部位を無くしてもサイレンシングの効率に変化が無いことを確認した。また翻訳のフレームをずらしてもサイレンシングを同等な割合で誘導できることが明らかとなった。なお非特許文献13を発表した2005年当時は、mGLP-1の発現がグルテリン遺伝子を抑えるだけの特殊な現象でしかないと考えられていた。しかしながら、本願発明においてRSISを用いることによって、グルテリンだけでなく、他の遺伝子の発現も抑えることができるという一般性があることを示すことができた。
【0013】
さらにこのRSISを用いた遺伝子発現抑制法では複雑な立体構造を取らせるようなコンストラクトを作成する必要はなく、特に複数遺伝子の発現を抑制したい場合に威力を発揮することが期待される。
【0014】
上述の如く本発明者らは、RSISを用いた標的遺伝子の発現抑制に成功し本発明を完成させた。RSISを利用することにより、標的遺伝子の発現を制御することが可能である。
【0015】
即ち本発明はRNAサイレンシングを誘導するDNA、該DNAを有する標的遺伝子の発現を抑制するDNA、これらDNAを利用して簡便に標的遺伝子の発現を抑制あるいは標的遺伝子のサイレンシングを誘導する方法、標的遺伝子の発現抑制剤あるいは標的遺伝子のサイレンシング誘導剤、さらにsiRNA発現ベクターの製造方法に関し、より具体的には、
〔1〕 以下の(a)~(c)のいずれかに記載のDNA、
(a)配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAと機能的に同等なDNA
(c)配列番号:3に記載の塩基配列において1もしくは複数個の塩基が置換、欠失、付加および/または挿入した塩基配列からなるDNA
〔2〕 標的遺伝子の発現を抑制するDNAであって、〔1〕に記載のDNAに、さらに以下の(a)~(c)に記載のDNAが機能的に連結した構造を有するDNA、
(a)〔1〕に記載のDNAの上流に、プロモーター配列をコードするDNA
(b)〔1〕に記載のDNAの下流に、ターミネーター配列をコードするDNA
(c)前記(a)のDNAの下流であり、さらに前記(b)のDNAの上流に、標的遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA
〔3〕 複数個の標的遺伝子の発現を同時に抑制するDNAであって、〔1〕に記載のDNAに、さらに以下の(a)~(c)に記載のDNAが機能的に連結した構造を有するDNA、
(a)〔1〕に記載のDNAの上流に、プロモーター配列をコードするDNA
(b)〔1〕に記載のDNAの下流に、ターミネーター配列をコードするDNA
(c)前記(a)のDNAの下流であり、さらに前記(b)のDNAの上流に、複数個の標的遺伝子それぞれのmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA
〔4〕 〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のDNAによってコードされるタンパク質、
〔5〕 〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のDNAを含むベクター、
〔6〕 〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のDNA、あるいは〔5〕に記載のベクターを含む組成物、
〔7〕 〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のDNA、あるいは〔5〕に記載のベクターが導入された形質転換植物細胞、
〔8〕 〔7〕に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物体、
〔9〕 〔8〕に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体、
〔10〕 〔8〕または〔9〕に記載の形質転換植物体の繁殖材料、
〔11〕 〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のDNA、あるいは〔5〕に記載のベクターを用いることを特徴とする、標的遺伝子の発現を抑制する方法、
〔12〕 〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のDNA、あるいは〔5〕に記載のベクターを用いることを特徴とする、標的遺伝子のサイレンシングを誘導する方法、
〔13〕 〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のDNA、あるいは〔5〕に記載のベクターを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む、形質転換植物体の製造方法、
〔14〕 〔1〕~〔3〕にいずれかに記載のDNA、あるいは〔5〕に記載のベクターを植物体の細胞内で発現させる工程を含む、標的遺伝子の発現が抑制された植物体もしくはその種子の製造方法、
〔15〕 〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のDNA、あるいは〔5〕に記載のベクターを有効成分として含む、標的遺伝子の発現抑制剤、
〔16〕 〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のDNA、あるいは〔5〕に記載のベクターを有効成分として含む、標的遺伝子のサイレンシング誘導剤、
〔17〕 以下の(1)および(2)の工程を含むことを特徴とする、siRNA発現ベクターの製造方法、
(1)〔1〕に記載のDNAに、さらに以下の(a)~(c)に記載のDNAを機能的に連結させる工程
(a)〔1〕に記載のDNAの上流に、プロモーター配列をコードするDNA
(b)〔1〕に記載のDNAの下流に、ターミネーター配列をコードするDNA
(c)前記(a)のDNAの下流であり、さらに前記(b)のDNAの上流に、標的遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA
(2)前記DNAをベクターに組み込む工程
〔18〕 以下の(1)および(2)の工程を含むことを特徴とする、siRNA発現ベクターの製造方法、
(1)〔1〕に記載のDNAに、さらに以下の(a)~(c)に記載のDNAを機能的に連結させる工程
(a)〔1〕に記載のDNAの上流に、プロモーター配列をコードするDNA
(b)〔1〕に記載のDNAの下流に、ターミネーター配列をコードするDNA
(c)前記(a)のDNAの下流であり、さらに前記(b)のDNAの上流に、複数個の標的遺伝子それぞれのmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA
(2)前記DNAをベクターに組み込む工程
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】mGLPおよびRSISの塩基配列を示した図である。mGLP配列(配列番号:2)はヒトのGLP-1の塩基配列(配列番号:1)をイネ胚乳中で高頻度に用いられているコドンに置き換えた配列である。RSIS(配列番号:3)はmGLP配列中のXho IおよびEco RI認識部位を置換した配列である。太字斜体は置換した塩基配列を示す。Human GLP-1と比べてRSIS配列では23塩基(25.6%)が置換されている。
【図2】mGLP配列によるRNAサイレンシングの誘導を示す図および写真である。(A)GluB遺伝子をサイレンシングさせるコンストラクト1の模式図である。コンストラクト1; 2.3k pGluB1-5'UTR-SP-mGLP(KDEL)-GluB1 3'UTR-ターミネーター。(B)得られた形質転換イネの種子におけるGluB1遺伝子の発現を示す写真。ノーザン解析の結果、形質転換イネ(コンストラクト1)ではGluB1遺伝子の発現が抑制されていることが確認された。レーン1; 開花後5日目の種子、レーン2;7日目、レーン3;10日目、レーン4;15日目、レーン5;20日目、レーン6;25日目。(C)形質転換イネ種子のSDS-PAGEと抗GluB抗体によるペプチドの検出を示す写真。SDS-PAGEおよびGluB抗体による検出の結果、GluBファミリーの発現が抑制されていることが確認された。またグロブリン(globulin)や13kDプロラミン(prolamins)の蓄積量が増加していることが確認された。レーンM;分子量マーカー、レーンC;非形質転換イネ、レーン1;形質転換イネ(コンストラクト1)。
【図3】mGLP配列によるRNAサイレンシングの影響について示す写真である。(A)コンストラクト1を導入したイネ胚乳での種子貯蔵タンパク質のノーザン解析について示す写真。ノーザン解析の結果、形質転換イネではGluB1遺伝子のほかに相同性の非常に高いGluA2遺伝子の発現も抑制されていることが確認された。一方、相同性の低い13kDプロラミンやGluC遺伝子の発現は抑制されていなかった。レーン1;開花後5日目の種子、レーン2;7日目、レーン3;10日目、レーン4;15日目、レーン5;20日目、レーン6;25日目。(B)コンストラクト1を導入したイネ胚乳でのsiRNAの検出について示す写真である。導入遺伝子特異的プローブ(mGLP)およびGluB1遺伝子特異的プローブを用いてsiRNAの検出を行った結果、形質転換イネ(コンストラクト1)でsiRNAが検出された。このことはこの形質転換イネの胚乳でRNAサイレンシングが起こっていることを示している。
【図4】mGLP配列によるサイレンシングの誘導について示す図である。(A)10kDaプロラミン遺伝子または16kDaプロラミン遺伝子をサイレンシングさせるコンストラクト2および3の模式図である。コンストラクト2; 10kDaプロラミンプロモーター-5'UTR-SP-mGLP (KDEL)-10kDaプロラミン3'UTR-ターミネーター。コンストラクト3; 16kDaプロラミンプロモーター-5'UTR-SP-mGLP(KDEL)-16kDaプロラミン3'UTR-ターミネーター。(B)形質転換イネ種子のSDS-PAGEと抗10kDaプロラミン抗体または16kDaプロラミン抗体によるペプチドの検出について示す写真である。それぞれの抗体による検出の結果、10kDaプロラミン(レーン2、コンストラクト2)または16kDaプロラミン(レーン3、コンストラクト3)の発現が抑制されていることが確認された。レーンM;分子量マーカー、レーンC;非形質転換イネ、レーン2;形質転換イネ(コンストラクト2)、レーン3;形質転換イネ(コンストラクト3)。
【図5】mGLP配列のサイレンシング誘導活性を確認するためのコンストラクトについて示す図である。
【図6】mGLP配列による複数遺伝子のサイレンシングについて示す図である。(A)GluB遺伝子とグロブリン遺伝子を同時にサイレンシングさせるコンストラクト4の模式図である。コンストラクト4; 2.3k pGluB1-5'UTR-SP-mGLP(KDEL)-グロブリン3'UTR-ターミネーター。(B)形質転換イネ種子のSDS-PAGEと抗GluB抗体およびグロブリン抗体によるペプチドの検出について示す写真である。SDS-PAGEおよびそれぞれの抗体による検出の結果、GluBファミリーおよびグロブリンの発現が抑制されていることが確認された。またその他のグルテリン(GluAおよびGluC)、13kDプロラミンの蓄積量が増加していることが確認された。レーンM;分子量マーカー、レーンC;非形質転換イネ、レーン4;形質転換イネ(コンストラクト4)。
【図7】RSIS配列による複数遺伝子のサイレンシングについて示す図である。(A)13kDプロラミンファミリーをサイレンシングさせるコンストラクト5の模式図である。コンストラクト5; RM1プロモーター-5'UTR-SP-RSIS-RM2 3'UTR-ターミネーター。(B)形質転換イネ種子のSDS-PAGEの結果を示す写真である。13kDプロラミン遺伝子は数百以上のコピー数がイネゲノム上に存在することが知られている。RM1およびRM2遺伝子は13kDプロラミンファミリーの一種である。コンストラクト5に含まれているRM1およびRM2遺伝子をサイレンシングさせた形質転換イネ(コンストラクト5)では13kDプロラミンの蓄積量が顕著に減少することが確認された。このことはmGLP配列によるサイレンシングが塩基配列の似た遺伝子の発現を抑制できることを示している。レーンM;分子量マーカー、レーンC;非形質転換イネ、レーン5;形質転換イネ5(コンストラクト5)。
【図8】mGLP配列による複数遺伝子のサイレンシングについて示す図である。(A)オレオシン遺伝子とGluB遺伝子を同時にサイレンシングさせるコンストラクト6および7の模式図である。コンストラクト6; 18kDaオレオシンプロモーター-5'UTR-mGLP(KDEL)-18kDaオレオシン3'UTR-ターミネーター。コンストラクト7; 2.3k GluB1プロモーター-5'UTR-SP-mGLP(KDEL) -18kDaオレオシン3'UTR-ターミネーター。(B)形質転換イネの胚および胚乳から調製した総タンパク質のSDS-PAGEと抗オレオシン抗体によるペプチドの検出の結果を示す写真である。オレオシン遺伝子は胚および胚乳で発現している。抗体による検出の結果、形質転換イネ6(コンストラクト6)では胚および胚乳の両方でオレオシン遺伝子の発現が抑制されたが、形質転換イネ7(コンストラクト7)では胚乳でのみその発現が抑制された。このことはサイレンシングの効果が導入遺伝子の発現場所に限定されることを示している。形質転換イネ7ではGluB遺伝子の発現も同時に抑制されていた。レーンM;分子量マーカー、レーンC;非形質転換イネ、レーン6;形質転換イネ6(コンストラクト6)、レーン7;形質転換イネ7(コンストラクト7)。
【図9】RSIS配列によるイネ葉身でのサイレンシングについて示す図である。(A)CYP90D2遺伝子をサイレンシングさせるコンストラクト8の模式図である。コンストラクト8; 35Sプロモーター-RSIS-CYP90D2 3'UTR-ターミネーター。(B)RT-PCRによるCYP90D2遺伝子の発現解析の結果を示す写真である。形質転換イネの葉身からRNAを調製し、逆転写反応後 CYP90D2遺伝子特異的プライマーを用いてPCR反応を行った。RAc1(アクチン)遺伝子はコントロールとして用いた。再分化した40個体のうち、26個体でCYP90D2遺伝子の発現が抑制されていることを確認した。図では16個体の結果を示している。レーン3および10から16でCYP90D2遺伝子の発現が抑制されている。このことからmGLP配列によるサイレンシングはイネ種子だけでなく葉身でも誘導することができることが確認された。レーンM;分子量マーカー、レーン1-16;形質転換イネ8(コンストラクト8)。
【図10】RSIS配列によるサイレンシングを利用したイネ種子における外来遺伝子産物の高蓄積法について示す図である。内在性のイネ種子貯蔵タンパク質の発現をコンストラクト(1)で抑制し、外来遺伝子産物をコンストラクト(2)で発現させる。コンストラクト(1)と(2)をお互いに干渉しないような組み合わせで用いることにより、コンストラクト(2)単独で遺伝子導入した場合と比べて、外来遺伝子産物をより高蓄積した系統を得ることが期待できる。Gateway system等を用いることにより両コンストラクトを同時に遺伝子導入することにより、交配等よりも時間および労力の低減ができる。「Prol14」とは、13kDプロラミンの一種である。なお、図中の丸1、丸2の記号は、本願明細書においてはそれぞれ(1)、(2)と記載する場合がある。
【図11】RSIS配列によるイネの葉、茎、および種子におけるサイレンシングについて示す図である。(A)イネ33kDaアレルゲン遺伝子をサイレンシングさせるコンストラクト9の模式図である。コンストラクト9;33kDaアレルゲンプロモーター-5'UTR-RSIS-33kDa 3'UTR-ターミネーター。(B)形質転換イネの葉、茎、および種子から調製した総タンパク質のSDS-PAGEと抗33kDaアレルゲン抗体によるペプチドの検出の結果を示す写真である。33kDaアレルゲン遺伝子は、通常、葉、茎、および種子で発現するが、上記抗体による検出の結果、形質転換イネ7および形質転換イネ23(どちらもコンストラクト9)では、葉、茎、種子の全てでその発現が抑制された。なお、7および23の番号は、それぞれ形質植物体の系統番号である。それぞれ発現量の異なるものを利用した。レーンC;非形質転換イネ、レーン7;形質転換イネ(コンストラクト9)、レーン23;形質転換イネ(コンストラクト9)。

【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らによって、RNAサイレンシングを誘導することができる配列(RSIS; RNA silencing inducible sequence)が初めて見出された。RNAサイレンシングとは、RNAを介して標的遺伝子の発現を抑制/阻害する方法であり、例えばRNAi(RNA interference;RNA干渉)もRNAサイレンシングの一つである。RNAiとは、標的遺伝子mRNAの破壊を誘導し、標的遺伝子の発現を抑制し得る現象であり、従来、標的遺伝子のmRNAと相同な配列からなるセンスRNAとこれと相補的な配列からなるアンチセンスRNAとからなる二本鎖RNAを細胞等に導入することにより行われてきた。RNAiは、標的遺伝子の発現を抑制し得ることから、煩雑で効率の低い相同組換えによる遺伝子破壊方法に代わる遺伝子ノックアウト方法として現在主流の方法となっている。RNAi効果による阻害作用を有する核酸は、一般的にsiRNA(short interfering RNA)と言われている。
【0018】
本発明は、RSISをコードする新規なDNAを提供する。本発明者らにより同定されたRSISの塩基配列を配列番号:3に記載する。
【0019】
また本発明は、上記配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAと機能的に同等なDNAを提供する。ここで「機能的に同等」とは、対象となるDNAが本発明者らにより同定されたDNAと同等の生物学的特性を有していることを意味する。配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAが持つ生物学的特性としては、標的遺伝子のRNAサイレンシングを誘導する特性等が挙げられる。
【0020】
従って、対象となるDNAが本発明者らにより同定された配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAと同等の生物学的特性を有しているか否かの判定は、当業者においては標的遺伝子のRNAサイレンシングを誘導するかどうかを測定することにより行うことができる。
このようなDNAを単離するための生物としては、例えば植物や動物を挙げることができる。植物としては、例えば単子葉植物や双子葉植物が挙げられる。具体的には例えばイネ、アラビドプシス、タバコ等を挙げることができるが、これらに制限されない。
【0021】
また本発明のDNAには、配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAも含まれる。
本発明の配列番号:3に記載の塩基配列と有意な相同性を有する塩基配列からなるDNAは、例えば、ハイブリダイゼーション技術 (Current Protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons Section 6.3-6.4)や遺伝子増幅技術(PCR)(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons Section 6.1-6.4)を利用して調製することができる。即ち、ハイブリダイゼーション技術を利用して、配列番号:3に記載の塩基配列またはその一部をもとに同種または異種生物由来のDNA試料から、これと相同性の高いDNAを単離することができる。また、遺伝子増幅技術を用いて、配列番号:3に記載の塩基配列の一部を基にプライマーを設計し、該DNAの塩基配列と相同性の高いDNAを単離することができる。従って、本発明には、配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが含まれる。
【0022】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、当業者であれば、適宜選択することができる。一例を示せば、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/ml変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液および温度条件は、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1xSSC、0.1% SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5xSSC、0.1% SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2xSSC、0.1% SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するDNAの単離を期待しうる。但し、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0023】
また、高い相同性とは、塩基配列全体で好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは90%以上(例えば、95,96,97,98,99%)の配列の同一性を指す。
【0024】
塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1990, 87, 2264-2268.、Karlin, S. & Altschul, SF., Proc Natl Acad Sci USA, 90, 5873.)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul, SF. et al., J Mol Biol, 1990, 215, 403.)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。
【0025】
さらに本発明は、配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAだけでなく、配列番号:3に記載の塩基配列において1もしくは複数個の塩基が置換、欠失、付加および/または挿入された塩基配列からなるDNAも含まれる。このようなDNAを調製するために、当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, EM., J Mol Biol, 1975, 98, 503.)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, RK. et al., Science, 1985, 230, 1350.、Saiki, RK. et al., Science, 1988, 239, 487.)の他に、例えば、該DNAに対し、site-directed mutagenesis法(Kramer, W. & Fritz, HJ., Methods Enzymol, 1987, 154, 350.)により変異を導入する方法が挙げられる。
【0026】
本発明において欠失、置換等の変異が導入される塩基の数は、変異を導入されたDNAが配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAと同等の機能を有する限り、特に制限されないが、通常では20塩基対以内、好ましくは10塩基対以内、より好ましくは5塩基対以内、最も好ましくは3塩基対以内である。このように変異を導入されたDNAの中から、本願発明と同等の機能を有するDNAを選択することは、当業者においては通常の試行の範囲内である。
【0027】
本発明の配列番号:3に記載の塩基配列において1もしくは複数の塩基が置換、欠失、付加および/または挿入された塩基配列として、例えば配列番号:1または配列番号:2に記載の塩基配列が挙げられる。
【0028】
配列番号:1に記載の塩基配列は、ヒトGLP-1タンパク質をコードする塩基配列である。また、配列番号:2に記載の塩基配列(mGLP)は、上記GLP-12番目のAlaをSerに改変し、さらにイネの胚乳中で高頻度に用いられるコドンに置き換えたものである(さらに20番目および28番目のKをQおよびDに改変した改変mGLPをコードしたmGLP-1でもサイレンシング機能を有する。Yasuda et al. (2005) Transgenic Res. の論文でのサイレンシングの報告ではGLP-1のアミノ酸配列を3個改変したものでこの発見が見出された。)。また、配列番号:3に記載の塩基配列は、上記配列番号:2に記載の塩基配列における制限酵素認識部位(Xho I部位およびEco RI部位)を削除することによって作成されたものである。具体的には、配列番号:2に記載の塩基配列における44位のAをCに置換し、63位のAをTに置換することによって、配列番号:3に記載の塩基配列は作成される。これらの配列番号:1~3に記載の塩基配列を、図1に示す。
【0029】
即ち本発明は、以下の(a)~(c)のいずれかに記載のDNAを提供する。
(a)配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAと機能的に同等なDNA
(c)配列番号:3に記載の塩基配列において1もしくは複数個の塩基が置換、欠失、付加および/または挿入した塩基配列からなるDNA
【0030】
また本発明は、標的遺伝子(目的遺伝子と記載する場合がある)の発現を抑制するDNAを提供する。即ち、上記(a)~(c)のいずれかに記載のDNA(以下、単に「RSISをコードするDNA」と記載する場合がある)に、さらに以下の(a)~(c)に記載のDNAが機能的に連結した構造を有するDNAを提供する。
(a)RSISをコードするDNAの上流に、プロモーター配列をコードするDNA
(b)RSISをコードするDNAの下流に、ターミネーター配列をコードするDNA
(c)前記(a)のDNAの下流であり、さらに前記(b)のDNAの上流に、標的遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA
【0031】
プロモーター配列は、標的遺伝子の発現の時期、強度、場所(器官や組織)を決定している配列である。本発明においてプロモーター配列とは、mRNAの転写開始点より上流領域の配列であって、mRNAの一部は含まれない。mRNAの転写開始点から翻訳開始点までの配列は5'非翻訳領域(5'UTR)である。なお本発明においてはプロモーター配列に用いられる遺伝子と、5'UTRに用いられる遺伝子は異なっていて構わない。本発明で利用されるプロモーター配列には、任意の遺伝子のプロモーター配列が含まれる。例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター配列、イネのアクチンプロモーター配列、トウモロコシのユビキチンプロモーター配列等が挙げられる。
【0032】
他に、例えば細菌・ウイルスの感染や侵入、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布などの外因によって発現することが知られているプロモーターなども挙げられる。このようなプロモーターとしては、例えば、細菌・ウイルスの感染や侵入によって発現するイネキチナーゼ遺伝子のプロモーターやタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーター、低温によって誘導されるイネの「lip19」遺伝子のプロモーター、高温によって誘導されるイネの「hsp80」遺伝子と「hsp72」遺伝子のプロモーター、乾燥によって誘導されるシロイヌナズナの「rab16」遺伝子のプロモーター、紫外線の照射によって誘導されるパセリのカルコン合成酵素遺伝子のプロモーター、嫌気的条件で誘導されるトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。また、イネキチナーゼ遺伝子のプロモーターとタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーターはサリチル酸などの特定の化合物によって、「rab16」は植物ホルモンのアブシジン酸の散布によっても誘導される。
【0033】
他にも、動物細胞で発現可能なプロモーターとして、例えば、哺乳動物細胞由来のプロモーターや、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、シミアンウイルス40(SV40)等のウイルスプロモーターを挙げることができる。
【0034】
例えばイネの胚乳組織で特異的に標的遺伝子の発現を抑制する場合には、イネの胚乳組織に特異的な活性を有するプロモーターを用いれば良い。
【0035】
本発明においては勿論、標的遺伝子の有するプロモーター配列を用いても構わない。
【0036】
ターミネーター配列(転写終結配列)とは、その上流のプロモーター配列からの転写を終結し得る機能を有する配列である。本発明においてターミネーター配列とは、ポリ(A)結合部位より下流領域の配列であって、mRNAの一部は含まれない。mRNAのストップコドンからポリ(A)結合部位までの配列は3'非翻訳領域(3'UTR)である。
しかし通常「ターミネーター配列」といえば、ストップコドンからポリ(A)結合部位までの3'非翻訳領域(3'UTR)およびその下流域を指し、即ちmRNAの一部を含むものであるが、本発明は上述のように区別する。なお本発明においてはターミネーター配列に用いられる遺伝子と、3'UTRに用いられる遺伝子は異なっていて構わない。
本発明で利用されるターミネーター配列には、任意の遺伝子のターミネーター配列が含まれる。本発明においては例えば、3'UTRを含むターミネーター配列(即ち、通常ターミネーター配列と呼ばれている配列)を挙げることができる。例えばA(アデニン)塩基が4つ以上連続した配列、パリンドローム構造を形成し得る配列等の公知の3'UTRを含むターミネーター配列が含まれる。公知の3'UTRを含むターミネーター配列としては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス由来の3'UTRを含むターミネーター配列、オクトピン合成酵素の3'UTRを含むターミネーター配列、ノパリン合成酵素遺伝子由来の3'UTRを含むターミネーター配列、アグロバクテリウム由来の3'UTRを含むターミネーター配列等を挙げることができるが、これらに特に制限されない。
また本発明のターミネーター配列は、勿論標的遺伝子のターミネーター配列を用いても構わない。
【0037】
本発明における標的遺伝子に特に制限はなく、任意の遺伝子を用いることが可能である。例えば、イネ種子貯蔵タンパク質をコードする遺伝子(グルテリン遺伝子、グロブリン遺伝子、プロラミン遺伝子、アルブミン遺伝子等)、ブラシノステロイド合成酵素遺伝子(CYP90D2遺伝子等)、シャペロンをコードする遺伝子(BiP遺伝子、PDI遺伝子)、オレオシン遺伝子、イネで比較的恒常的に発現している33kDaアレルゲン遺伝子等を挙げることができるが、勿論これら遺伝子に制限されない。
【0038】
また本発明では、標的遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列が用いられる。部分配列は標的遺伝子のmRNA中であればどこを用いても構わないが、便宜上例えば5'UTR(非翻訳領域)あるいは3'UTRを用いてもよい。用いられるmRNAの長さは、少なくとも20塩基以上、好ましくは100塩基以上、最も好ましくは130塩基以上である。このようなmRNAとして、例えば標的遺伝子がGluB1遺伝子である場合にGluB1遺伝子の5'-UTR(44 bp)(tcacatcaat tagcttaagt ttccataagc aagtacaaat agct/配列番号:4)からシグナルペプチド(75 bp)(atggcgagtt ccgttttctc tcggttttct atatactttt gtgttcttct attatgccat ggttctatgg cccag/配列番号:5)を挙げることができるが、勿論この配列に制限されない。
【0039】
本発明において「機能的に連結した」とは、標的遺伝子の発現が抑制されるように、RSISをコードするDNAと以下の(a)~(c)に記載のDNAとが連結(結合)していることをいう。「機能的に連結」させることは、当業者においては一般的な遺伝子工学技術を用いて、簡便に行い得ることである。
(a)RSISをコードするDNAの上流に、プロモーター配列をコードするDNA
(b)RSISをコードするDNAの下流に、ターミネーター配列をコードするDNA
(c)前記(a)のDNAの下流であり、さらに前記(b)のDNAの上流に、標的遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA
【0040】
本発明における、プロモーター配列をコードするDNA、ターミネーター配列をコードするDNA、標的遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA、およびRSISをコードするDNAは、例えば以下のような連結が考えられる。(以下半角ハイフンは連結を示す。)
・[プロモーター配列をコードするDNA]-[標的遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA]-[RSISをコードするDNA]-[ターミネーター配列をコードするDNA]
【0041】
また、RSISをコードするDNAは、上記連結以外に、例えば以下のように連結しても構わない。
・[プロモーター配列をコードするDNA]-[RSISをコードするDNA]-[標的遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA]-[ターミネーター配列をコードするDNA]
【0042】
本発明においては具体例として、実施例に記載される以下のような連結(コンストラクト1~3、6、および9)を例示することができる。これらのコンストラクトにおいては、プロモーターとRSISをコードするDNAあるいはmGLP配列との間に、5'UTRやシグナルペプチド(SP)が配置されていても構わない。また、RSISをコードするDNAあるいはmGLP配列とターミネーターとの間にKDEL配列が配置されていても構わない。またターミネーター配列は、3'UTRを含むターミネーター配列であっても構わない。
<コンストラクト1>(図2A)
[2.3k GluB1プロモーター]-[5'UTR]-[SP]-[mGLP配列]-[GluB1 3'UTR-ターミネーター]
<コンストラクト2>(図4A)
[10kDaプロラミンプロモーター]-[5'UTR]-[SP]-[mGLP配列]-[10kDaプロラミン3'UTR-ターミネーター]
<コンストラクト3>(図4A)
[16kDaプロラミンプロモーター]-[5'UTR]-[SP]-[mGLP配列]-[16kDaプロラミン3'UTR-ターミネーター]
<コンストラクト6>(図8A)
[18kDaオレオシンプロモーター]-[5'UTR]-[mGLP配列]-[18kDaオレオシン3'UTR-ターミネーター]
<コンストラクト9>(図9A)
[33kDaアレルゲンプロモーター]-[5'UTR]-[RSIS配列]-[33kDaアレルゲン3'UTR-ターミネーター]
【0043】
さらに本願発明は、複数個の標的遺伝子の発現を同時に抑制するDNAを提供する。即ち、RSISをコードするDNAに、さらに以下の(a)~(c)に記載のDNAが機能的に連結した構造を有するDNAを提供する。
(a)RSISをコードするDNAの上流に、プロモーター配列をコードするDNA
(b)RSISをコードするDNAの下流に、ターミネーター配列をコードするDNA
(c)前記(a)のDNAの下流であり、さらに前記(b)のDNAの上流に、複数個の標的遺伝子のそれぞれにmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA
【0044】
上記(a)に記載されるプロモーター配列、(b)に記載されるターミネーター配列については上述のとおりである。
【0045】
本発明における「複数個の標的遺伝子」とは、標的遺伝子が2個以上であることを示し、好ましくは標的遺伝子が2個である。
【0046】
本発明における複数個の標的遺伝子それぞれのmRNAは、それぞれが全長もしくは部分配列であってよい。
【0047】
本発明におけるプロモーター配列をコードするDNA、ターミネーター配列をコードするDNA、および複数個の標的遺伝子それぞれのmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA、RSISをコードするDNAは、例えば以下のような連結が考えられる。
・[プロモーター配列をコードするDNA]-[標的遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA]-[RSISをコードするDNA]-[ターミネーター配列をコードするDNA]
【0048】
標的遺伝子が例えばA遺伝子およびB遺伝子の2つの場合には、例えば以下のような連結が考えられる。
・[プロモーター配列をコードするDNA]-[A遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA]-[RSISをコードするDNA]-[B遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA]-[ターミネーター配列をコードするDNA]
・[プロモーター配列をコードするDNA]-[A遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA]-[B遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA]-[RSISをコードするDNA]-[ターミネーター配列をコードするDNA]
・[プロモーター配列をコードするDNA]-[RSISをコードするDNA]-[A遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA]-[B遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA]-[ターミネーター配列をコードするDNA]
【0049】
なお本発明において[標的遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA]とは別に、5'UTRあるいは3'UTRを用いる場合、5'UTRあるいは3'UTRに利用される標的遺伝子と、[標的遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA]における標的遺伝子とが同じ場合もあれば、異なる場合もある。異なる場合には、用いられたそれぞれの標的遺伝子の発現を抑えることが可能である。
【0050】
本発明においては具体例として、実施例に記載される以下のような連結(コンストラクト4、5、7、および8)を例示することができる。これらのコンストラクトにおいては、プロモーターとRSISをコードするDNA あるいはmGLP配列との間に、5'UTRやシグナルペプチド(SP)が配置されていても構わない。また、RSISをコードするDNAあるいはmGLP配列とターミネーターとの間にKDEL配列が配置されていても構わない。またターミネーター配列は、3'UTRを含むターミネーター配列であっても構わない。
<コンストラクト4>(図6A)
[2.3k GluB1プロモーター]-[5'UTR]-[SP]-[mGLP配列]-[グロブリン3'UTR-ターミネーター]
<コンストラクト5>(図7A)
[RM1プロモーター]-[5'UTR]-[SP]-[RSISをコードするDNA]-[RM2 3'UTR-ターミネーター]
<コンストラクト7>(図8A)
[2.3k GluB1プロモーター]-[5'UTR]-[SP]-[mGLP配列]-[18kDaオレオシン3'UTR-ターミネーター]
<コンストラクト8>(図9A)
[35Sプロモーター]-[RSISをコードするDNA]-[CYP90D2 3'UTR-ターミネーター]
【0051】
標的遺伝子が3つ以上の場合であっても、3つ以上の標的遺伝子それぞれのmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNAを、プロモーター配列をコードするDNAとターミネーター配列をコードするDNAの間に、RSISをコードするDNAとともに配置すればよい。
【0052】
上記のような、標的遺伝子の発現を抑制するDNA、および複数個の標的遺伝子の発現を同時に抑制するDNAを、以下「本発明のDNA」と記載する場合がある。
【0053】
さらに上記本発明のDNAによってコードされるタンパク質(以下、本発明のタンパク質)もまた、本発明に含まれる。
【0054】
また本発明は、本発明のDNAが挿入されたベクターを提供する。本発明のベクターとしては、形質転換植物細胞または形質転換植物体作製のために、植物細胞内で本発明のDNAを発現させるためのベクターも含まれる。本発明のベクターとしては、挿入したDNAを安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましい。
【0055】
当業者においては、本発明のDNAを有するベクターを、一般的な遺伝子工学技術によって、適宜、作製することが可能である。例えば、ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。通常は、市販の種々のベクターを利用することができる。
【0056】
上記DNAが挿入されたベクターは、例えば、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法等の当業者に公知の方法によって、植物細胞に導入することができる。アグロバクテリウムを介する方法においては、例えばNagelらの方法(Microbiol.Lett.,67:325(1990))にしたがって、上記DNAが挿入された発現ベクターをアグロバクテリウムに導入し、このアグロバクテリウムを直接感染法やリーフディスク法で植物細胞に感染させることにより、本発明のDNAを植物細胞に導入することができる。
【0057】
また本発明は、本発明のDNAやベクターが導入された形質転換植物細胞を提供する。本発明における形質転換植物細胞は、本発明のDNAやベクターが導入された植物の細胞または細胞の集合であって植物体を再生しうるものであれば、その形態を問わない。例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどは本発明における植物細胞に含まれる。
【0058】
植物細胞へのベクターの導入は、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など当業者に公知の種々の方法を用いることができる。
【0059】
本発明のベクターは、宿主細胞内において本発明のDNAを保持したり、本発明のタンパク質を発現させるためにも有用である。
【0060】
また本発明は、本発明のDNAまたは本発明のベクターを含む組成物(混合物)を提供する。本発明の上記組成物においては、本発明のDNAまたはベクター以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
【0061】
また、本発明は、本発明のDNAあるいは本発明のベクターが導入された形質転換細胞を提供する。本発明のDNAあるいは本発明のベクターが導入される細胞には、組み換えタンパク質の生産に用いる上記した細胞の他に、形質転換植物体作製のための植物細胞が含まれる。植物細胞としては特に制限はなく、例えば、イネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギなどの細胞が挙げられる。本発明の植物細胞には、培養細胞の他、植物体中の細胞も含まれる。また、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根も含まれる。植物細胞へのベクターの導入は、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など当業者に公知の種々の方法を用いることができる。形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。例えば、イネにおいては、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し植物体を再生させる方法、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し植物体を再生させる方法、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法、およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。
【0062】
本発明のDNAあるいは本発明のベクターの導入により形質転換した植物細胞を効率的に選択するために、上記組み換えベクターは、適当な選抜マーカー遺伝子を含む、もしくは選抜マーカー遺伝子を含むプラスミドベクターと共に植物細胞へ導入することが好ましい。この目的に使用される選抜マーカー遺伝子は、例えば抗生物質ハイグロマイシンに耐性であるハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、カナマイシンまたはゲンタマイシンに耐性であるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、および除草剤ホスフィノスリシンに耐性であるアセチルトランスフェラーゼ遺伝子等が挙げられる。
【0063】
組み換えベクターを導入した植物細胞は、導入された選抜マーカー遺伝子の種類に従って適当な選抜用薬剤を含む公知の選抜用培地に置床し培養する。これにより形質転換された植物培養細胞を得ることができる。
【0064】
形質転換された植物細胞は、再分化させることにより植物体を再生させることが可能である。再分化の方法は植物細胞の種類により異なるが、例えば、イネであればFujimuraら(Plant Tissue Culture Lett. 2:74 (1995))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Bio/Technology 7:581 (1989))の方法やGorden-Kammら(Plant Cell 2:603(1990))が挙げられる。
【0065】
一旦、ゲノム内に本発明のDNAが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明のDNAが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、並びに該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。
このようにして作出された植物体もしくはその種子は、標的遺伝子の発現が抑制されていることが期待される。
【0066】
上述のように、本発明のDNAもしくはベクターを植物細胞へ導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む、形質転換植物体の製造方法もまた本発明に含まれる。
【0067】
また本発明のDNAもしくはベクターを植物体の細胞内で発現させる工程を含む、標的遺伝子の発現が抑制された植物体もしくはその種子の製造方法もまた本発明に含まれる。
該植物体は、標的遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とする、遺伝子改変植物である。該遺伝子改変植物は、例えば、「ノックアウト植物」、「ノックダウン植物」あるいは「トランスジェニック植物」と呼ばれる場合もある。
【0068】
本発明において「遺伝子の発現が人為的に抑制されている」には、例えば、標的遺伝子の発現を抑制する機能を有する核酸(例えば、siRNA等)の作用により、標的遺伝子の発現が抑制されている状態、等を挙げることができる。
【0069】
本発明における「抑制」には、標的遺伝子の発現が完全に抑制されている場合、および、植物における標的遺伝子の発現量が他の植物における遺伝子の発現量と比較して有意に低下している場合等が含まれる。
【0070】
本発明における「核酸」とはRNAまたはDNAを意味する。また、所謂PNA (peptide nucleic acid)等の化学合成核酸アナログも、本発明の核酸に含まれる。PNAは、核酸の基本骨格構造である五単糖・リン酸骨格を、グリシンを単位とするポリアミド骨格に置換したもので、核酸によく似た3次元構造を有する。
【0071】
標的遺伝子の発現の抑制(あるいは阻害)は、通常、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二本鎖RNAを用いたRNAiによって行うことができる。RNAiに用いられるRNAは、標的遺伝子もしくは該遺伝子の部分領域と必ずしも完全に同一である必要はないが、完全な相同性を有することが好ましい。
標的遺伝子の発現を抑制する機能を有する核酸の一態様として、標的遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNA(siRNA)を挙げることができる。なお、上記RNA分子において一方の端が閉じた構造の分子、例えば、ヘアピン構造を有するsiRNA(shRNA)も本発明に含まれる。即ち、分子内において二本鎖RNA構造を形成し得る一本鎖RNA分子もまた本発明に含まれる。
本発明では、上述の本発明のDNAを用いることにより、siRNAによる標的遺伝子のRNAサイレンシングを誘導することができる。
【0072】
また本発明は、本発明のDNAあるいは本発明のベクターを用いることを特徴とする、標的遺伝子の発現を抑制する方法、および標的遺伝子のサイレンシングを誘導する方法を提供する。
また本発明は、本発明のDNAあるいは本発明のベクターを有効成分として含む、標的遺伝子の発現抑制剤あるいは標的遺伝子のサイレンシング誘導剤を提供する。
【0073】
本発明における「標的遺伝子の発現抑制剤」とは、標的遺伝子の発現を抑制する作用を有する薬剤を言い、通常、植物体もしくはその種子における標的遺伝子の発現を抑制させることを用途とする、本発明のDNAもしくはベクターを有効成分とする物質、または組成物(混合物)を指す。
【0074】
また本発明における「標的遺伝子のサイレンシング誘導剤」とは、標的遺伝子のサイレンシングを誘導する作用を有する薬剤を言い、通常、植物体もしくはその種子における標的遺伝子のサイレンシングを誘導することを用途とする、本発明のDNAもしくはベクターを有効成分とする物質、または組成物(混合物)を指す。
【0075】
また本発明はsiRNA発現ベクターの製造方法を提供する。即ち以下の(1)および(2)の工程を含むことを特徴とするsiRNA発現ベクターの製造方法を提供する。
(1)RSISをコードするDNAに、さらに以下の(a)~(c)に記載のDNAを機能的に連結させる工程
(a)RSISをコードするDNAの上流に、プロモーター配列をコードするDNA
(b)RSISをコードするDNAの下流に、ターミネーター配列をコードするDNA
(c)前記(a)のDNAの下流であり、さらに前記(b)のDNAの上流に、標的遺伝子のmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA
(2)前記DNAをベクターに組み込む工程
【0076】
さらに本発明は、以下の(1)および(2)の工程を含むことを特徴とするsiRNA発現ベクターの製造方法を提供する。
(1)RSISをコードするDNAに、さらに以下の(a)~(c)に記載のDNAを機能的に連結させる工程
(a)RSISをコードするDNAの上流に、プロモーター配列をコードするDNA
(b)RSISをコードするDNAの下流に、ターミネーター配列をコードするDNA
(c)前記(a)のDNAの下流であり、さらに前記(b)のDNAの上流に、複数個の標的遺伝子それぞれのmRNAの全長もしくは部分配列をコードするDNA
(2)前記DNAをベクターに組み込む工程
【0077】
上述の製造方法における(a)~(c)に記載のDNAについては、上述のDNAを用いることができる。また上述の製造方法における(2)の工程についても、上述のベクターについて記載された事項を適宜適用することにより、組み込むことができる。
【0078】
また本発明は、本発明のDNAまたはベクターの、標的遺伝子の発現抑制剤または標的遺伝子のサイレンシング誘導剤の製造における使用に関する。
【0079】
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0080】
以下本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
実験に使用した材料および方法は、下記(1)~(4)のとおりである。
【0081】
(1)コンストラクトの作成
遺伝子断片の切断および結合は、制限酵素とDNA結合酵素を用いた従来の方法により行った。イネ(品種キタアケおよび日本晴)由来のゲノム配列(断片)は、すでにクローニングされていたもの以外は、それぞれの両端にプライマーを設計し、PCRを利用して増幅した遺伝子断片を新たにクローニングした。
【0082】
RNAサイレンシングを誘導する際の骨格となるmGLP配列(配列番号:2)およびRSIS (RNA silencing inducible sequence)配列(配列番号:3)を図1に示した。mGLP配列はヒトのペプチドホルモンであるGLP-1の塩基配列を、2番目のAlaをSerに改変し、イネ胚乳中で高頻度に用いられているコドンに置き換えた配列である(図1)。RSIS配列はmGLP配列中の制限酵素認識部位(Eco RIおよびXho I)を置換した配列である。
【0083】
これらの配列の上流に標的遺伝子のプロモーターおよびmRNAの5'末端部分の配列(約100 bp程度)を連結し、下流には終止コドン以後のターミネーター配列を連結したコンストラクトを構築した。作成したコンストラクトはアグロバクテリウム法を用いてイネ(キタアケ)に形質転換した。形質転換したコンストラクトの詳細は図の説明に記載した。
【0084】
(2)SDS-PAGEおよびウエスタンブロット
イネ種子の総タンパク質はそれぞれの形質転換体の完熟種子1粒ずつをマルチビーズショッカーで粉砕後、500μlのタンパク質抽出緩衝液 [8 M urea, 4%(w/v) SDS, 5%(v/v) 2-mercaptoethanol, 20%(w/v) glycerol, 20 mM Tris-HCl (pH 6.8)] 中で、1時間激しく攪拌することにより行った。
SDS-PAGEは12%ゲルでLaemmuliの方法(Laemmuli UK. (1970) Cleavage of structural proteins during the assembly of the heads of bacteriophase T4. Nature 227; 680-685.)に従って行い、タンパク質抽出液を2μlずつ供した。
【0085】
ウエスタンブロットはSDS-PAGE後のゲルを電気泳動的にPVDF膜に転写することにより行った。それぞれのペプチドと特異的抗体の反応はYasudaらの方法(Yasuda H., Tada Y., Hayashi Y., Jomori T. and Takaiwa F. (2005) Expression of the small peptide GLP-1 in transgenic plants. Transgenic Res. 14; 677-684.)に従って行い、検出はECL検出キット(Amersham)を用いてマニュアル通りに行った。
【0086】
オレオシン(oleosin)タンパク質の検出では、完熟種子を胚と胚乳に分けてから総タンパク質の抽出を行った。その際、胚の総タンパク質は一つの胚あたり100μlのタンパク質抽出緩衝液で抽出し、SDS-PAGEおよびウエスタンブロットに10μlずつ供した。残りの胚乳の総タンパク質は前述と同じ方法で調整した。
【0087】
(3)RNAの調製およびノーザンブロットまたはRT-PCRによる発現解析
総RNAの抽出は、開花後5, 7, 10, 15, 20, 25日目の種子からYasudaらの方法(Yasuda H., Tada Y., Hayashi Y., Jomori T. and Takaiwa F. (2005) Expression of the small peptide GLP-1 in transgenic plants. Transgenic Res. 14; 677-684.)に従って行った。
【0088】
ノーザンブロットは2μgの総RNAを1.2%アガロースゲルに供した後、Hybond-N+(Amersham)に転写し、RIラベルしたGluB1プローブをハイブリダイズさせた後、オートラジオグラフィーによって検出した。
【0089】
small RNAの調製および電気泳動、Hybond-N+への転写はMetteらの方法(Mette M. F., Aufsatz W., van der Winden J., Matzke M. A. and Matzke A. J. M. (2000) Transcriptional silencing and promoter methylation triggered by double-stranded RNA. EMBO J. 19; 5194-5201.)に従って行った。導入遺伝子特異的プローブとしてはmGLP配列を用い、GluB1特異的プローブとしてはGluB1ターミネーター配列を用いた。RIラベルしたそれぞれのプローブをハイブリダイズさせた後、オートラジオグラフィーによって検出した。
【0090】
CYP90D2遺伝子の検出はRT-PCR法で行った。総RNAの調製は、形質転換した再分化個体の葉からRNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を用いてマニュアル通りに行った。得られた総RNAからSuperScriptTMIII RNaseH- Reverse Transcriptase (Invitrogen)および配列特異的アンチセンスプライマー(アクチンおよびCYP90D2遺伝子)を用いてマニュアル通りに逆転写反応を行い、cDNAを合成した。作成したcDNAを鋳型に配列特異的プライマーを用いたPCRを行うことにより、目的遺伝子の増幅および検出を行った。
【0091】
(4)RNAサイレンシングの評価
胚乳でRNAサイレンシングが誘導されているかどうかを評価する場合、その種子は世代が進んでいるためにヘテロな集団となっている。RSISを用いたRNAサイレンシングでは、その表現型が優勢となって現れることが分かっているので、形質転換体あたり最低4粒の種子を調べて1粒以上の個体でサイレンシングが確認された時、その個体でRNAサイレンシングが起こっていると判定した。RNAサイレンシングの効率は、調査したすべての再分化個体の数あたりのサイレンシングが誘導されていると判定された個体の数として評価した。
【0092】
CYP90D2遺伝子のサイレンシングでは、再分化個体の葉の総RNAを用いたRT-PCRの結果、CYP90D2遺伝子の増幅が見られなかった個体をRNAサイレンシングが誘導された個体として判定した。
【0093】
〔実施例1〕 mGLP配列によるRNAサイレンシング
(1-1) コンストラクト1(2.3k pGluB1-5'UTR-SP-mGLP(KDEL)-GluB1 3'UTR-ターミネーター)によるRNAサイレンシング
胚乳特異的高発現プロモーターである2.3k GluB1プロモーターの下流にGluB1の5'UTR、シグナルペプチドおよびmGLP配列を連結し、さらにその下流にGluB1の3'UTRを含むターミネーター配列を連結したコンストラクト(図2A、コンストラクト1)をイネに遺伝子導入した。
【0094】
その結果、mGLP配列由来の転写産物および翻訳産物は検出されなかった(データなし)。得られた種子から総タンパク質を抽出し、SDS-PAGEに供した結果、イネ貯蔵タンパク質であるグルテリンのバンドがいくつか消失していること、13kDプロラミンが増加していることが確認された(図2C)。
【0095】
そこで抗GluB抗体を用いたウエスタン解析を行った結果、グルテリンのバンドの消失はGluBファミリー(GluB1, GluB2およびGluB4)の消失が原因であることが分かった(図2C)。
【0096】
さらにGluB1遺伝子のプローブを用いたノーザン解析を行った結果、GluB1遺伝子の転写産物が全く検出されなかった(図2B)。
【0097】
SDS-PAGEとウエスタン解析の結果から、GluBファミリーの遺伝子発現が転写レベルで抑制されていることが示唆され、コンストラクト1導入イネでは、mGLP配列の上流および下流に連結したGluB1遺伝子のサイレンシングが起こっていることが予想された。
【0098】
(1-2) コンストラクト1導入イネにおける、GluB1遺伝子と相同性の異なる各遺伝子の発現量
コンストラクト1導入イネでGluB1遺伝子と相同性の高いGluBファミリーの発現が抑制されていることが示されたことから、GluB1遺伝子と相同性の高いGluA2遺伝子、および同じグルテリンファミリーであるがGluB1遺伝子と相同性はほとんど無いGluC遺伝子、種子貯蔵タンパク質の一つである13kDプロラミン遺伝子の発現をノーザン解析により調べた。
【0099】
その結果、GluB1遺伝子と相同性の高いGluA2遺伝子の転写産物が減少していることが示された(図3A)。一方、相同性の低いGluCおよび13kDプロラミン遺伝子の発現量は非遺伝子組換え体とほぼ同程度であった(図3A)。
【0100】
(1-3) コンストラクト1導入イネにおけるsiRNAの検出
遺伝子の相同性により発現抑制が起こることから、この現象がRNAサイレンシングによる可能性がさらに高まった。よって更に、RNAサイレンシングの証拠となるsiRNA(small interfering RNA)の検出を行った。
【0101】
その結果、導入遺伝子特異的プローブ(mGLP)およびGluB1特異的プローブ(GluB1ターミネーター)によりバンドが検出され(図3B)、コンストラクト1導入イネでRNAサイレンシングが起こっていることが確認された。
【0102】
(1-4) mGLP配列によるプロラミン遺伝子の発現抑制
次にmGLP配列によるRNAサイレンシングの誘導が、GluB1以外の遺伝子(10kDaプロラミンおよび16kDaプロラミン)でも起こるのかどうか確認するためのコンストラクト(図4A、コンストラクト2およびコンストラクト3)を作成し、イネに遺伝子導入した。得られたそれぞれの形質転換体の種子から総タンパク質を調製し、ウエスタン解析を行った。
【0103】
その結果、10kDaおよび16kDaプロラミンの発現が抑制されていることが確認された(図4B)。このことから、mGLP配列によるRNAサイレンシングの誘導はGluB1遺伝子だけでなく、それ以外の遺伝子でも誘導できることが示唆された。
【0104】
〔実施例2〕RNAサイレンシングを誘導するmGLP配列の解析
mGLP配列がRNAサイレンシングを誘導しているのかどうかを確認するために、様々なコンストラクトを作成し(図5)、mGLP配列とRNAサイレンシングの関係について検討した。
【0105】
はじめにコンストラクト1内のmGLP配列部分を欠失させたコンストラクト(図5、コンストラクト0)を作成し、イネに遺伝子導入した。その結果、GluB1の発現が抑制された系統は得られなかった(表1;図5記載のコンストラクトを遺伝子導入したイネ胚乳中でのサイレンシングの効率)。
【0106】
【表1】
JP0005206419B2_000002t.gif

【0107】
次にmGLP配列の翻訳産物がサイレンシングを誘導することが考えられたため、mGLP配列の前にグアニン残基を挿入し、mGLP配列由来の翻訳産物が発現しないようにフレームシフトさせたコンストラクト(図5、フレームシフト)を遺伝子導入した。その結果、GluBファミリーの発現が抑制された系統が約30%の割合で得られた(表1)。このことはmGLP配列由来の翻訳産物は RNAサイレンシングの誘導に関与していないことを示している。
【0108】
さらにmGLP配列由来の転写産物の長さがサイレンシングの誘導に関与している可能性が考えられたため、同じ長さ(90 bp)で異なる配列を持つコンストラクト{図5、GFP(630-720)}を作成し、遺伝子導入した。異なる配列としてはレポーター遺伝子として頻繁に用いられているGFPのC末端90 bpを用いた。その結果、GluB1の発現が抑制された系統は見いだされなかった(表1)。このことはmGLP配列由来の転写産物の長さはRNAサイレンシングの誘導に関与していないことを示している。
【0109】
mGLP配列のどの部分がサイレンシングの誘導に関わっているのかを調べるためにmGLP配列の後半部分および前半部分を削除したコンストラクト{図5、mGLP(1-45)およびmGLP(46-90)}をそれぞれ作成し、イネに遺伝子導入した。その結果、mGLP(46-90)を導入した2個体(約7%)でのみGluBファミリーのサイレンシングが見られ、残りの個体ではサイレンシングは見られなかった(表1)。このことから効率の良いサイレンシングの誘導にはmGLP配列の全長が必要であることが示された。
【0110】
またmGLP配列を2連結、3連結したコンストラクト(図5、mGLP×2およびmGLP×3)を作成し、イネに遺伝子導入した。その結果、mGLP配列を2連結した系統(mGLP×2)では約30%の個体でGluBファミリーのサイレンシングが見られたが、3連結した系統では(mGLP×3)サイレンシングを起こした個体は見られず(表1)、mGLP×3導入イネではその翻訳産物(mGLP×3ペプチド)が蓄積されていた(データなし)。
【0111】
これらのことからmGLP配列はRNAサイレンシングを誘導する立体構造を取っていることが推定され、2連結してもある程度はその構造が残っているが、3連結すると完全にその構造が壊れてしまうと考えられた。
【0112】
〔実施例3〕mGLP配列による複数遺伝子のRNAサイレンシング
(3-1) mGLP配列による、グルテリンおよびグロブリン遺伝子のRNAサイレンシング
次にmGLP配列を用いて複数遺伝子のRNAサイレンシングを試みた。GluB1プロモーターおよび5'UTR、シグナルペプチドの下流にmGLP配列を連結し、そのC末端にグロブリンの3'UTRを含むターミネーター配列を連結したコンストラクト(図6A、コンストラクト4)を作成した。そのコンストラクトを遺伝子導入したイネ種子から総タンパク質を抽出し、SDS-PAGEに供した。
【0113】
その結果、グルテリンおよびグロブリンのバンドが消失し、13kDプロラミンの蓄積量が増加していることが示された(図6B)。
【0114】
さらにそれぞれの特異的抗体を用いてウエスタン解析を行ったところ、両タンパク質が完全に消失していることが確認された(図6B)。このことからmGLP配列による複数遺伝子のRNAサイレンシングが可能であることが示された。
【0115】
(3-2) RSIS配列によるプロラミン遺伝子のRNAサイレンシング
13kDプロラミンはイネゲノム中に数十コピー以上あることが報告されている(Kim W. T. and Okita T. W. (1988) Structure, expression and heterogeneity of the rice seed prolamins. Plant Physiol. 88; 649-655.)。そこでコピー数の多い13kDプロラミン遺伝子の発現を抑制することを試みた。
【0116】
13kDプロラミンファミリーをサイレンシングさせるためにRM1(Cys-rich typeプロラミン)プロモーターおよび5'UTR、シグナルペプチドの下流にRSIS配列(図1)を連結し、そのC末端にRM2(Cys-poor typeプロラミン)の3'UTRを含むターミネーター配列をつなげたコンストラクト(図7A、コンストラクト5)を作成し、イネに遺伝子導入した。得られた形質転換体の種子から総タンパク質を抽出しSDS-PAGEに供した。
【0117】
その結果、13kDプロラミンの蓄積量が顕著に減少していることが示された(図7B)。このことからRSISによるRNAサイレンシングの誘導が可能であることを確認し、またコピー数の多い遺伝子に対してもRNAサイレンシングが誘導できることを示した。
【0118】
〔実施例4〕mGLP配列によるRNAサイレンシングの細胞間の伝達
次にmGLP配列によるRNAサイレンシングのシグナルが細胞間を移動し、効果が広がっていくのかどうか検討した。オレオシン遺伝子はイネ種子の胚およびアリューロン細胞で発現していることが報告されている(Wu L. S. H., Wang L.-D., Chen P.-W., Chen L.-J. and Tzen J. T. C. (1998) Genomic cloning of 18 kDa oleosin and detection of triacylglycerols and oleosin isoforms in maturing rice and postgerminative seedling. J. Biochem. 123; 386-391.)。そこでオレオシンプロモーターおよび5'UTRの下流にmGLP配列を連結し、そのC末端にオレオシンの3'UTRを含むターミネーター配列をつなげたコンストラクト(図8A、コンストラクト6)、およびGluB1プロモーターおよび5'UTR、シグナルペプチドの下流にmGLP配列およびオレオシンの3'UTRを含むターミネーター配列を連結したコンストラクト(図8A、コンストラクト7)を作成し、イネに遺伝子導入した。得られたそれぞれの形質転換体の胚および胚乳から総タンパク質を抽出し、抗オレオシン抗体を用いてウエスタン解析を行った。
【0119】
その結果、オレオシンプロモーターの制御下でサイレンシングを誘導した形質転換体(コンストラクト6)では、胚および胚乳の両方でオレオシンの発現が抑制されていることが示された(図8B)。しかし、胚乳特異的発現を示すGluB1プロモーターの制御下でサイレンシングを誘導した形質転換体(コンストラクト7)では、胚乳ではオレオシンは検出されなかったが、胚ではオレオシンが検出された(図8B)。
【0120】
これらのことはmGLP配列によるRNAサイレンシングでは、胚乳でのサイレンシングのシグナルが胚には広がらないことを示しており、そのシグナルが細胞間で移動しないことが示唆された。この結果は、標的遺伝子の発現を目的の組織でのみ抑制させることができる可能性があることを示唆している。
【0121】
〔実施例5〕 RSISによる種子以外でのRNAサイレンシングの誘導
これまではイネ種子でのサイレンシングの誘導について検討してきた。そこでRSISが他の組織でもRNAサイレンシングを誘導できるのかどうか検討した。
【0122】
CYP90D2遺伝子は、新規のチトクロームP450ファミリーに属し、ブラシノステロイド合成酵素であることが報告されている(Hong Z., Ueguchi-Tanaka M., Umemura K., Uozu S., Fujioka S., Takatsuto S., Yoshida S., Ashikari M., Kitano H. and Matsuoka M. (2003) A rice brassinosteroid-deficient mutant, ebisu dwarf (d2), is caused by a loss of function of a new member of cytochrome P450. Plant Cell 15; 2900-2910.)。
【0123】
この遺伝子の発現を抑制するために、35Sプロモーターの下流にRSISおよびCYP90D2の3'UTRを含むターミネーター配列を連結させたコンストラクトを作成(図9A、コンストラクト8)し、イネに遺伝子導入した。得られた再分化個体の葉から総RNAを抽出し、RT-PCR法によってCYP90D2遺伝子の発現を調べた。
【0124】
その結果、再分化した40個体のうち26個体でCYP90D2遺伝子の発現が見られず、約65%の割合でサイレンシングが誘導されていることが示された(図9B)(表2:mGLP配列によるサイレンシングの効率)。
【0125】
〔実施例6〕 RSISによる恒常的に発現している遺伝子の発現抑制
イネでは比較的恒常的に発現している33kDaアレルゲン遺伝子について、この遺伝子の発現を抑制するために、33kDaアレルゲン遺伝子のプロモーターの下流に、5'UTR、RSISおよび33kDaアレルゲンの3'UTRを含むターミネーター配列を連結させたコンストラクトを作成(図11A、コンストラクト9)し、イネに遺伝子導入した。得られた再分化個体の葉、茎、および種子から総RNAを抽出し、RT-PCR法によって33kDaアレルゲン遺伝子の発現を調べた。
【0126】
その結果、再分化した16個体のうち8個体で33kDaアレルゲン遺伝子の発現が抑制され、50%の割合でサイレンシングが誘導されていることが示された(図11B)(表2:mGLP配列によるサイレンシングの効率)。
【0127】
【表2】
JP0005206419B2_000003t.gif

【0128】
このことはRSISによるサイレンシングが、イネ種子特異的ではなくイネ全身で誘導できる可能性があることを示唆している。
【0129】
〔実施例7〕 mGLP配列によるサイレンシングの効率
上記mGLP配列およびRSISによるRNAサイレンシングの効率について、上記表2にまとめた。
その結果、mGLP配列によるRNAサイレンシングの誘導効率は40%以上であり、実際にRNAサイレンシングを用いた研究等で充分に使用できる効率であると考えられた。この効率はアンチセンス法やヘアピン構造によるサイレンシングの効率と遜色のない値といえる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
従来の遺伝子発現抑制法ではinverted repeat配列やhairpin-roop構造を形成させるために、センス方向の配列とアンチセンス方向の配列を同一コンストラクト上に連結する必要があり、その過程は煩雑であった。また複数の遺伝子の発現を同時に抑制する場合には、その過程はさらに煩雑なものとなっていた。
【0131】
今回発明者らによって見出されたRSISを利用した遺伝子発現抑制方法あるいは遺伝子サイレンシング誘導方法では、目的(標的)遺伝子の一部をRSISの片側もしくは両側に連結するだけで目的遺伝子の発現を抑制する、あるいは目的遺伝子のサイレンシングを誘導することが可能であり、非常に簡便である。さらには目的遺伝子が複数ある場合には、複数の遺伝子の各一部をRSISの片側もしくは両側に連結するだけで、同時に複数の目的遺伝子の発現を抑制する、あるいは目的遺伝子のサイレンシングを誘導することが可能であり、従来の煩雑な過程と比較すると、非常に簡便である。
【0132】
これまでRNAサイレンシングは、主に遺伝子の機能の解明のために用いられてきた。しかし最近になって、花色の改変といった実用的な品種を作出するためにも用いられるようになってきている。
【0133】
本発明者らは、RNAサイレンシングを用いた図10のような戦略を考えている。イネの胚乳組織は種子貯蔵タンパク質を高度に蓄積することができ、種子(米)の生重量あたり約6-8%のタンパク質を蓄積することができる。このことは、イネ胚乳がそれだけのタンパク質を発現させる機構を持っていること、その前駆物質であるアミノ酸を供給することが可能であること、さらに合成されたペプチドを蓄積する場所(プロテインボディ)を確保する能力があることを示している。これらのことはイネ胚乳が外来遺伝子産物を高発現・高蓄積させることができるいわゆる「植物工場」として優れた特徴を備えていることを示している。
【0134】
イネ種子貯蔵タンパク質の約80%はグルテリンである。そこで外来遺伝子産物をより高蓄積させるために、グルテリンの蓄積量をできるだけ減少させることができれば、外来遺伝子産物の蓄積に必要なメカニズムをより多く確保できると考えられる。
【0135】
そこでRNAサイレンシングを利用した内在性のグルテリン等の蓄積量を減らすためのコンストラクト(図10(1))を作成し、同時に胚乳特異的高蓄積プロモーターの制御下で目的遺伝子を発現させるコンストラクト(図10(2))をイネに遺伝子導入すれば、単独で目的遺伝子を発現させたときよりも、より高蓄積することが期待できる。
【0136】
さらにグルテリンの蓄積量が減少するとプロラミンの蓄積量が増加することが分かっているので、グルテリンをサイレンシングさせるコンストラクト(図10(1))とプロラミン遺伝子と融合させた目的遺伝子を発現させるコンストラクト(図10(2))を同時に遺伝子導入すれば、より目的遺伝子産物が高蓄積した遺伝子組換えイネを作出することが期待できる。
【0137】
このようにサイレンシングさせるコンストラクトと目的遺伝子を発現させるコンストラクトをうまく組み合わせることによって目的遺伝子産物をより高蓄積させることができると考えている。また複数のコンストラクトを導入する際にはMultiSite Gateway System(Wakasa Y., Yasuda H. and Takaiwa F. (2006) High accumulation of bioactive peptide in transgenic rice seeds by expression of introduced multiple genes. Plant Biotechnol. J. 4;499-510)を利用すれば交配法よりも時間および労力の低減ができると考えられる。
【0138】
またコメアレルギーは複数の種子蛋白質が抗原となっていることから、本願発明のRSISによるサイレンシング誘導手法を用いれば、効率良く複数の抗原蛋白質の発現を抑制することができるようになり、低アレルゲンやアレルゲンレス米の作出への利用が期待できる。
【0139】
また本願発明のRSIS配列を利用したRNAサイレンシングによる遺伝子発現のノックダウン系統の作出においては特異的に代謝経路を制御することで、目的代謝産物の蓄積を高めることを可能にする。またRSIS配列の利用として、多重遺伝子においては共通する遺伝子配列を用いることで、一方特異的な遺伝子の発現の抑制には、5'や3'の非翻訳領域を用いることで、効率的に遺伝子発現の抑制が可能になる。方法として、これら非翻訳領域のどちらかまたは両者を結合することにより抑制できる。特異的な遺伝子抑制としては、Gatewayの手法を利用することで、最大8個程度の遺伝子を遺伝子特異的に抑制することが可能になる。
また恒常的に発現している遺伝子の抑制または制御したい遺伝子のコード領域に、本願発明のRSIS配列を置換して導入または挿入することで、抑制または制御したい遺伝子特異的に発現を抑制させることが可能になる。実際、葉、茎、あるいは種子で発現するゲノム1コピーの33kDaアレルゲン遺伝子のコード領域にRSIS配列を挿入・置換してイネに遺伝子導入したところ、33kDaアレルゲン遺伝子が発現している組織で、33kDaアレルゲン遺伝子特異的に発現を抑制することができた。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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