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明細書 :プロトン伝導体及びプロトン伝導体の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4932774号 (P4932774)
公開番号 特開2009-252582 (P2009-252582A)
登録日 平成24年2月24日(2012.2.24)
発行日 平成24年5月16日(2012.5.16)
公開日 平成21年10月29日(2009.10.29)
発明の名称または考案の名称 プロトン伝導体及びプロトン伝導体の製造方法
国際特許分類 H01B   1/06        (2006.01)
H01M   8/02        (2006.01)
H01B  13/00        (2006.01)
H01M   8/10        (2006.01)
FI H01B 1/06
H01M 8/02 M
H01B 13/00 Z
H01M 8/10
請求項の数または発明の数 6
全頁数 12
出願番号 特願2008-100251 (P2008-100251)
出願日 平成20年4月8日(2008.4.8)
審査請求日 平成22年6月8日(2010.6.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】福岡 宏
【氏名】窪田 雄之
個別代理人の代理人 【識別番号】100128277、【弁理士】、【氏名又は名称】専徳院 博
審査官 【審査官】油科 壮一
参考文献・文献 特開2004-213953(JP,A)
特開2003-095763(JP,A)
調査した分野 H01B 1/06
H01B 13/00
H01M 8/02
特許請求の範囲 【請求項1】
一般式(1)で示される非晶質又は非晶質を主体とする遷移金属リン酸水素塩を主成分とするプロトン伝導体であり、
前記リン酸水素塩が、トリポリリン酸水素塩、ピロリン酸水素塩又は縮合リン酸水素塩であり、前記遷移金属が、ルテニウム又はクロムであることを特徴とするプロトン伝導体。
・・・(1)
(ここで、Mは金属、a,b,c,dは自然数)
【請求項2】
前記遷移金属に代え、前記遷移金属が、ルテニウムとクロム及び/又は鉄であることを特徴とする請求項に記載のプロトン伝導体。
【請求項3】
粒界のないガラス状の材料からなることを特徴とする請求項1又は請求項に記載のプロトン伝導体。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のプロトン伝導体の製造方法であって、
水と遷移金属原料とリン酸とを混合、加熱し、脱水、縮合反応により前記プロトン伝導体を得る製造工程を含み、
前記遷移金属原料は、遷移金属の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩又はハロゲン化塩であり、
前記リン酸は、オルトリン酸、ピロリン酸又は縮合リン酸であり、
前記遷移金属とリンとの割合が、モル比で1:2~1:4であることを特徴とするプロトン伝導体の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載のプロトン伝導体の製造方法であって、
晶質又は非晶質を主体とする遷移金属リン酸水素塩を主成分とする材料を粉砕した後、粉砕物をバインダーを使用することなく成形し所定の形状を有する成形物を得る第一工程と、
前記成形物の形状を維持した状態で水分を加える第二工程と、
第二工程後の水分を含む成形物を乾燥させる第三工程と、
を含むことを特徴とするプロトン伝導体の製造方法。
【請求項6】
さらに前記第三工程の後、当該プロトン伝導体を使用する温度と同一又は略同一の温度で焼成する第四工程を含むことを特徴とする請求項に記載のプロトン伝導体の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の電解質などに利用可能なプロトン伝導体に関し、特に100~350℃の中温度領域で高いプロトン伝導度を示すリン酸塩系のプロトン伝導体に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代エネルギー貯蔵システムとしての燃料電池の開発において、安定で高性能な電解質材料の開発が非常に大きな比重を占めている。既にこれまでに500℃以上の高温や、100℃以下の低温で高いプロトン伝導度を有する電解質材料が開発されている。100℃以下の温度で使用される電解質材料としては、固体高分子形燃料電池に使用されるフッ素樹脂系イオン交換膜がよく知られている。500℃以上の高温で使用される固体電解質としては、BaCe0.80.23-aのようなプロベスカイト型金属酸化物が500℃よりも高い温度で高いイオン伝導度を示す。しかしながら、最もエネルギー効率が高く、想定される使用環境に近い100~350℃の中温度領域で高いプロトン伝導度を示す固体電解質材料は、まだほとんどなく、現在高性能な固体電解質材料の開発が精力的に続けられている。
【0003】
例えば100℃以上の乾燥雰囲気中においても高いプロトン伝導性を示すプロトン伝導性材料として、ホスホシリケートゲル又はシリカゲルにリン酸金属塩を添加したプロトン伝導性組成物(例えば特許文献1参照)、結晶性リン酸金属塩をメカニカルミリングにより処理して結晶性の一部を乱すと共にフリーのリン酸を生成させることによってプロトン伝導度を向上させたリン酸金属塩を主成分とするプロトン伝導性材料(例えば特許文献2参照)などのリン酸塩系の材料が開発されている。

【特許文献1】特開2004-55181号公報
【特許文献2】特許3916139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の固体電解質は、構造中にトンネルや層間といったナノ空間を構築し、そこを伝導パスにするという思想で設計された結晶質化合物が主であるが、このような固体電解質は、大きな空間を創生することの困難さに加え、高温下で合成する必要があることから多くのエネルギーを必要とし、製造コストが高くなる。また従来のリン酸塩系の固体電解質材料においては、リン酸分が溶出しフレームを腐食させる場合もある。このような状況下、簡便な製造方法で安価に製造することが可能な、100~350℃の中温度領域において高いプロトン伝導度を有するプロトン伝導体の開発が待たれている。
【0005】
本発明の目的は、安価に製造可能で100~350℃の中温度領域で高いプロトン伝導度を有するプロトン伝導体を提供することである。また簡便な方法で100~350℃の中温度領域で高いプロトン伝導度を有するプロトン伝導体を製造可能なプロトン伝導体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の本発明は、一般式(1)で示される非晶質又は非晶質を主体とする遷移金属リン酸水素塩を主成分とするプロトン伝導体であり、前記リン酸水素塩が、トリポリリン酸水素塩、ピロリン酸水素塩又は縮合リン酸水素塩であり、前記遷移金属が、ルテニウム又はクロムであることを特徴とするプロトン伝導体。
・・・(1)
(ここで、Mは金属、a,b,c,dは自然数)
【0007】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載のプロトン伝導体において、前記遷移金属に代え、前記遷移金属が、ルテニウムとクロム及び/又は鉄であることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載のプロトン伝導体において、粒界のないガラス状の材料からなることを特徴とする。
【0011】
求項に記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載のプロトン伝導体の製造方法であって、水と遷移金属原料とリン酸とを混合、加熱し、脱水、縮合反応により前記プロトン伝導体を得る製造工程を含み、前記遷移金属原料は、遷移金属の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩又はハロゲン化塩であり、前記リン酸は、オルトリン酸、ピロリン酸又は縮合リン酸であり、前記遷移金属とリンとの割合が、モル比で1:2~1:4であることを特徴とするプロトン伝導体の製造方法である。
【0012】
請求項に記載の本発明は、請求項3に記載のプロトン伝導体の製造方法であって、非晶質又は非晶質を主体とする遷移金属リン酸水素塩を主成分とする材料を粉砕した後、粉砕物をバインダーを使用することなく成形し所定の形状を有する成形物を得る第一工程と、前記成形物の形状を維持した状態で水分を加える第二工程と、第二工程後の水分を含む成形物を乾燥させる第三工程と、を含むことを特徴とするプロトン伝導体の製造方法である。
【0013】
請求項に記載の本発明は、請求項に記載のプロトン伝導体の製造方法において、さらに前記第三工程の後、当該プロトン伝導体を使用する温度と同一又は略同一の温度で焼成する第四工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のプロトン伝導体は、非晶質又は非晶質を主体とする遷移金属リン酸水素塩を主成分とするプロトン伝導体であり、100~350℃の中温度領域で高いプロトン伝導度を有する。また合成温度も低く、製造方法も簡便であり安価に製造することができる。また、本発明のプロトン伝導体は、非晶質ゆえに成形も容易であり、さらに本発明のプロトン伝導体の製造方法を用いることで、簡単に粒界のないガラス状の材料とすることが可能で、これにより更にプロトン伝導性に優れたプロトン伝導体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のプロトン伝導体は、一般式H(ここで、Mは金属、a,b,c,dは自然数)で示される非晶質又は非晶質を主体とする遷移金属リン酸水素塩を主成分とするプロトン伝導体である。
【0016】
本発明のプロトン伝導体は、非晶質又は非晶質を主体とする遷移金属リン酸水素塩であるので、全てが非晶質からなる遷移金属リン酸水素塩のみならず、大部分が非晶質の遷移金属リン酸水素塩であってもよい。一方、一部のみが非晶質の遷移金属リン酸水素塩は含まれない。非晶質のリン酸水素塩は特定のリン酸水素塩に限定されるものではなく、トリポリリン酸水素塩、ピロリン酸水素塩が例示される。トリポリリン酸は、リン酸が3つ縮合した強酸性を示すポリ酸であり、3価の金属と二水素塩を形成しやく、これらトリポリリン酸水素塩は、非晶質構造をとりやすいので、トリポリリン酸水素塩を本発明のプロトン伝導体として好適に使用することができる。また、本発明のプロトン伝導体は、リン酸水素塩とあるように、水素を全く含まないリン酸塩は本発明に含まれない。
【0017】
非晶質のリン酸水素塩が高いプロトン伝導度を示す理由は、次のように推察される。非晶質とは隣接原子との短距離秩序は保ちつつ、長距離秩序の無い状態を言う。非晶質のトリポリリン酸水素塩は、3つのPO4四面体の中距離秩序を持った物質であり、この中距離秩序内ではプロトンは自由に移動することができ、さらに非晶質となることでトリポリリン酸イオン間のパスが形成され、プロトンの拡散が容易に起こると考えられる。プロトンの場合、他のイオンに比べて大きさが極端に小さいため、他のイオン伝導体とは異なり大きなトンネルや層間は必要なく、プロトンが移動するためのパスが繋がっていればよいと考えられる。トンネル構造や層状構造をもつ結晶質の物質では、このパスが特定の方向にのみ繋がっていて、プロトンはそこしか通ることができない。しかしながら非晶質の固体中では、構造中の隙間が多く、プロトンが通るためのパスが無数に存在すると考えられ、これにより高いプロトン伝導度を示すものと推察される。
【0018】
遷移金属リン酸水素塩の遷移金属は、2~4価の酸化状態をとる遷移金属であって、100~350℃の温度において、そのリン酸水素塩が非晶質又は大部分が非晶質状態で安定的に存在し得る金属であることが好ましい。遷移金属が、白金族に属する金属であることがより好ましく、ルテニウムがさらに好ましい。本発明のプロトン伝導体は、100~350℃の温度で使用することを予定しているため、この温度領域において、非晶質又は大部分が非晶質状態で安定的に存在し得る遷移金属を使用することで、安定した性能を得ることができる。また、白金族に属する遷移金属のリン酸水素塩は、プロトン伝導性に優れ、特にルテニウムのリン酸水素塩は、非晶質度が高く、プロトン伝導性に優れる。
【0019】
遷移金属リン酸水素塩の遷移金属は、必ずしも一種類の遷移金属のみからなる必要はなく、2種類以上の遷移金属を含有する遷移金属リン酸水素塩であってもよい。例えば、ルテニムとクロム、ルテニウムと鉄、ルテニムとクロムと鉄とを含む遷移金属リン酸水素塩
が例示される。クロム及び鉄は、ルテニウムに比較して価格も安いので、ルテニウムのほかにクロム、鉄を添加することで安価に製造することができる。
【0020】
また本発明のプロトン伝導体は、遷移金属リン酸水素塩のみからなるものに限定されず、遷移金属リン酸水素塩を主成分とすればよく、これらに悪影響を及ぼさないケイ酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、硝酸塩などが含まれていてもよい。
【0021】
また、本発明のプロトン伝導体は、粒界のないガラス状の形態とすることで、さらにプロトン伝導度が高まる。粒界のないガラス状の形態のプロトン伝導体は、後述の方法で簡単に製造することができる。一般的に本発明のような固体電解質は、合成時、粉体状の形態となることが多い。粉体状のプロトン伝導体を加圧成形しただけでは、粒子間の抵抗が大きく、プロトン伝導度が低下する。また取扱いも不便である。このため一般的にバインダー等を用いて成形するか、高温で焼成して成形する方法が採られるが、バインダーを使用する方法では、別途、使用する温度に適したバインダーが必要となりコスト高となる。さらにバインダーと固体電解質との間に結合不良が発生すると、プロトン伝導度を十分に高くすることができない。また高温で焼成して成形する方法では、割れ等の対策が必要であり、温度が高いため多くの時間、エネルギーを要する。これに対して、本発明のプロトン伝導体は、バインダーを使用することなく、比較的低温で粒界のないガラス状の形態とすることができるので、安価に又短時間に製造することができる。
【0022】
次に本発明のプロトン伝導体の製造方法の第一実施形態を示す。
水と遷移金属原料とリン酸と混合し、所定の温度、所定の時間加熱し反応させる。これにより非晶質又は非晶質を主体とする遷移金属リン酸水素塩を主成分とするプロトン伝導体を得ることができる。遷移金属原料としては、遷移金属の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、ハロゲン化塩を使用することができる。2種以上の遷移金属を含むリン酸水素塩を製造する場合には、該当する2種以上の遷移金属を含む原料を使用すればよい。硫酸塩は、SOが残存しやすいので好ましくない。無水物は反応性が悪いので、水和物が好ましい。粉末状の遷移金属原料を使用する場合は、粒子径が小さいほど好ましい。遷移金属原料は、予め水に溶解させた状態で使用してもよい。リン酸としては、オルトリン酸、ピロリン酸を好適に使用可能であり、縮合リン酸を使用することも可能である。これらリン酸は水に溶解させた水溶液として使用してもよい。水は、イオン交換水、純水を使用することができる。水と遷移金属原料とリン酸とは均一状態にすることが好ましく、粉末状の遷移金属原料にリン酸水溶液を加えることで、簡単に水と遷移金属原料とリン酸とを均一状態とすることができる。
【0023】
遷移金属原料とリン酸との混合割合は、遷移金属とリンとの割合が、モル比1:2~1:4が好ましい。また水の添加量は、リンに対して0.5~10当量が好ましい。
【0024】
水と遷移金属原料とリン酸との混合物の加熱は、電気炉等を用いて所定の温度で所定の時間行う。加熱は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。短時間の空気中での加熱、あるいは酸素濃度の低い雰囲気下での加熱も可能であるが、長時間、空気中で加熱を行うと、金属酸化物が増えるので好ましくない。金属酸化物は夾雑物として作用する。
【0025】
水と遷移金属原料とリン酸との混合、加熱に伴い脱水、縮合反応が起こり、ガス及び水蒸気が発生する。例えば遷移金属原料に金属塩化物を使用すると塩化水素ガスが発生する。この塩化水素ガスは反応初期段階に多く、反応後半では水蒸気が主となる。加熱温度(反応温度)は重要であり、遷移金属がクロムの場合、200~350℃の温度が好ましく、280℃がより好ましい。200℃以下では、脱水、縮合反応が十分に進行せず、遷移金属リン酸水素塩の形成が不十分となる。一方、350℃を越えると結晶化が進むので好ましくない。遷移金属がルテニウムの場合、180~350℃の温度が好ましく、350℃がより好ましい。ルテニウムは、反応速度が遅く、温度を高くしても結晶化しにくいので、高い温度で加熱することが好ましい。
【0026】
加熱時間は、適宜、遷移金属リン酸水素塩が形成されるに必要な時間加熱すればよい。例えば、遷移金属がルテニウムの場合、所定の温度に到達した時点から0~350時間加熱することで、非晶質のルテニウムリン酸水素塩を得ることができる。加熱時間が短いとフリーのリン酸及び水が残存しやすい。遷移金属がクロムの場合、所定の温度に到達した後8~10時間の加熱で非晶質のクロムリン酸水素塩を得ることができる。遷移金属が鉄の場合、例えば1時間で450℃程度まで加熱した後、急冷することで非晶質の鉄リン酸水素塩を得ることができる。なお、ルテニウム、クロムの場合には、加熱操作終了後、必ずしも急冷する必要はなく徐冷してもよい。
【0027】
水と遷移金属原料とリン酸とを金ボートなどの容器に入れ、混合、加熱した場合、粒界を有する多孔質状の非晶質又は非晶質を主体とする遷移金属リン酸水素塩を主成分とする生成物が得られる。これらを燃料電池のプロトン伝導体等として使用する場合には、必要に応じて粉砕し、所定の形状に加圧成形などして使用すればよい。
【0028】
次に本発明のプロトン伝導体の製造方法の第二実施形態として、粒界のない所定の形状を有するガラス状のプロトン伝導体の第一の製造方法を示す。
図1は、粒界のない所定の形状を有するガラス状のプロトン伝導体の製造方法を示すフローチャートである。第一ステップ(S1)として、非晶質又は非晶質を主体とする遷移金属リン酸水素塩を主成分とする材料を粉砕した後、バインダーを使用することなく所定の形状に成形し、成形物を得る。非晶質又は非晶質を主体とする遷移金属リン酸水素塩を主成分とする材料は、例えば第一実施形態に示した製造方法で製造することが可能であり、当該材料は、後に粉砕するため粒界、割れ、気泡を有するものであってもよい。成形物の成形は、例えば、粉砕物を型に入れ、これを加圧成形することで得ることができる。
【0029】
第二ステップ(S2)として、第一ステップ(S1)で加圧成形した成形物に、成形物の形状を維持した状態で水分を与える。成形物の形状を維持した状態で成形物に水分を与えることができれば、特定の方法に限定されない。例えば成形物を、水蒸気雰囲気下に置けばよい。この場合、高温多湿状態とすることが好ましい。これにより成形物は、形状を維持したまま水分を吸着する。この他、成形物を所定の容器に入れた状態で水を噴霧してもよい。さらに、第一ステップ(S1)で得られる粉砕物に水を加え、ペースト状とし、これを加圧成形してよい。成形物に与える水分量は少量でよく、成形物を、水蒸気雰囲気下に置いたとき、成形物の表面が潮解する程度の量でよい。さらに水分量が多くてもよいけれども、第三ステップ(S3)で乾燥処理すること、成形物の形状の維持を考えれば必要以上に多くする必要はない。
【0030】
第三ステップ(S3)では、第二ステップ(S2)で得られた水分を含む成形物を形状を維持した状態で加熱乾燥させる。これにより所定の形状を有し、粒界のないガラス状の非晶質又は非晶質を主体とする遷移金属リン酸水素塩を主成分とするプロトン伝導体を得ることができる。これは第二ステップ(S2)で水を加えることにより、非晶質又は大部分が非晶質の遷移金属リン酸水素塩が部分的に加水分解を起こし、第三ステップ(S3)で脱水、縮合反応が起こり、粒界が消失するものと推察される。乾燥温度、乾燥速度は特に限定されないけれども、必要以上に乾燥速度を高めると、生成物に気泡が残存したり、割れが発生するので好ましくない。また、必要以上に高い温度で乾燥させると、非晶質又は大部分が非晶質の遷移金属リン酸水素塩が結晶化するため好ましくない。第二ステップ(S2)及び第三ステップ(S3)を併せて水蒸気処理工程と言う。
【0031】
さらに第四ステップ(S4)として、第三ステップ(S3)で得られたガラス状の非晶質又は非晶質を主体とする遷移金属リン酸水素塩を主成分とするプロトン伝導体を実際に使用する温度、又は実際に使用する温度に近い温度で焼成してもよい。これにより性能が安定したプロトン伝導体を得ることができる。
【0032】
次に本発明のプロトン伝導体の製造方法の第三実施形態として、粒界のない所定の形状を有するガラス状のプロトン伝導体の第二の製造方法を示す。
第二実施形態に示す製造方法では、第一ステップ(S1)から第三ステップ(S3)、あるいは第四ステップ(S4)を経て、所定の形状を有するガラス状の非晶質又は非晶質を主体とする遷移金属リン酸水素塩を主成分とするプロトン伝導体の製造方法を示したけれども、ここでは、一つの工程で、所定の形状を有するガラス状の非晶質又は非晶質を主体とする遷移金属リン酸水素塩を主成分とするプロトン伝導体を得る。
【0033】
水と遷移金属原料とリン酸とを混合した後、所定の形状を有する容器に投入し、さらにこれら混合物に、加圧焼結法、ホットプレス法と類似の要領で上部から荷重を加えながら加熱、反応させる。このとき、水と遷移金属原料とリン酸とを混合した初期は、ガスの発生量が多いため、容器上部を開放し、後半にのみ上部から荷重を加えながら加熱してもよい。さらに脱泡、脱水を促進するため、減圧状態で行ってもよい。使用する原料、加熱温度等は、第一実施形態に示した通りである。一つの工程で、所定の形状を有するガラス状の非晶質又は非晶質を主体とする遷移金属リン酸水素塩を主成分とするプロトン伝導体を得るため、気泡の残存、割れが発生しないように急激な加熱等は避けることが望ましい。
【0034】
上記の通り、本発明のプロトン伝導体は、水と遷移金属原料とリン酸とを混合、加熱し反応させることで得ることができる。製造方法も簡単であり、合成温度(反応温度)も低くエネルギー消費量が少ない。また、粒界のないガラス状のプロトン伝導体も、別途バインダーを必要とせず、簡単な操作で得ることができる。特定の形状を有さず、板状で粒界のないガラス状のプロトン伝導体を製造する場合には、非晶質又は非晶質を主体とする遷移金属リン酸水素塩を主成分とする材料を粉砕した後に水分を加え、これをガラス板等で挟込み加熱すればよい。なお、本発明のプロトン伝導体の製造方法は、上記の第一実施形態から第三実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
実施例1
金ボート上で粉末状の塩化ルテニウム水和物RuCl・nHO(Ru:39.010重量%、田中貴金属工業)0.354gと85重量%のリン酸水溶液HPO(シグマアルドリッチ、特級試薬)0.476gとを混合した。金ボートを石英管内に設置し、アルゴンガスを供給しながら、電気炉を用いて120℃で一時間加熱し余分な水分を飛ばした。その後1時間かけて温度を350℃まで上げ、さらに温度350℃で336時間保持した。その後石英管を電気炉から取出し、室温下で生成物を急冷した。生成物の同定、非晶質度の測定は、粉末X線回折測定(XRD)、赤外吸収分光分析(FT/IR)により行った。
【0036】
評価方法
Cole-Coleプロットにより試料の抵抗値を得る複素インピーダンス法を用いて、次の要領で生成物のプロトン伝導度を測定した。インピーダンスアナライザーによって50ヘルツ~50メガヘルツまでインピーダンスを測定し、室温から350℃までのCole-Coleプロットを得た。使用機器は、HIOKI社製3532-50LCRハイテスタ、測定条件は、測定プログラム:HIOKILCRサンプルプログラムversion4.03、測定周波数(交流):50ヘルツ~50メガヘルツ、測定温度は、室温(25℃)~350℃である。
【0037】
生成物を粉砕後、加圧成形し厚さ0.109cm、断面積0.792cmの円盤状の試料を作成した。試料を銅線を接続した2枚の白金電極板で上下から挟み込み、その白金電極板をさらにガラス板で挟み込み、これらを一端が密封されたガラス管に入れ、さらにこのガラス管を電気炉内にセットした。まず、室温下からプロトン伝導度を測定しながら150℃まで温度を上げ、150℃の温度を保持したままガラス管内を減圧(圧力約0.1torr)とし、減圧状態のまま温度を室温まで低下させた。減圧状態を保持したまま再度温度を350℃まで上昇させながらプロトン伝導度を測定した。
【0038】
製造条件、結果を表1に示した。表1中、反応時間とは、所定の温度に到達した後、その温度に保持する時間を言う。生成物は、多孔質状の固体であり、主成分は、非晶質のルテニウムトリポリリン水素塩HRuP10であった。減圧状態を保持しつつ、再度温度を室温下から350℃まで上昇させながらプロトン伝導度を測定した結果を図2に示した。温度350℃でプロトン伝導度は1.11×10-4Scm-1であった。
【0039】
【表1】
JP0004932774B2_000002t.gif

【0040】
実施例2
蒸発皿(セラミックス製容器)内で粉末状の塩化ルテニウム水和物RuCl・nHO(Ru:39.010重量%、田中貴金属工業)4.68gと85重量%のリン酸水溶液HPO(シグマアルドリッチ、特急試薬)6.681gとを混合した。その後、大気中で蒸発皿の下からバーナーを用いて、温度180℃で40分間加熱した。生成物は、アスファルト状の粘着性を有する多孔質の固体であり、主成分は、非晶質ルテニウムリン酸水素塩であった。プロトン伝導度の測定は、生成物をスパチュラで丸め、白金電極板で押しつぶして測定した。他の測定要領は、実施例1と同じである。結果を表1、図2に示した。温度350℃でプロトン伝導度は4.24×10-2Scm-1であった。なお、測定中の加熱によって粒界が繋がり、ガラス状となっていた。
【0041】
実施例3
反応温度を250℃、反応時間を240時間とした以外、基本的な製造条件は実施例1と同じである。生成物は、多孔質状の固体であり、主成分は、非晶質のルテニウムトリポリリン酸水素塩HRuP10であった。
【0042】
実施例4
金属原料を塩化クロムとし、280℃の反応温度で8時間反応させ生成物を得た。生成物は、緑色の多孔質状の固体あり、主成分は、非晶質のクロムトリポリリン酸水素塩HCrP10であった。
【0043】
実施例5、6
実施例4と同様の方法で製造した生成物を粉砕し、粉体を加圧成形し円盤形状の成形物(試料)を得た。これを次ぎの要領で水蒸気処理した。試料を約30分間、110℃水蒸気雰囲気下に置き、水分を吸着させた。このとき、試料は形状を保持した状態で、表面が潮解していた。その後、試料をアルゴンガス気流下110℃で2時間乾燥させた。乾燥後の試料の破断面を電子顕微鏡で、表面を光学顕微鏡で観察したところ、粒界は消失しており、粒界のないガラス状の固体であり、主成分は、非晶質のクロムトリポリリン酸水素塩HCrP10のままであった。乾燥後の試料をさらに、200℃、300℃まで加熱した後、プロトン伝導度を測定した。製造条件を表2に、プロトン伝導度の測定結果を図2に示した。プロトン伝導度の測定要領は、実施例1と同じである。水蒸気処理後200℃まで加熱した試料のプロトン伝導度は、測定温度350℃で1.35×10-4Scm-1、水蒸気処理後300℃まで加熱した試料のプロトン伝導度は、測定温度350℃で1.18×10-5Scm-1であった。非晶質度を示すIRスペクトルの800cm-1付近の吸収幅は、水蒸気処理後200℃焼成の試料においては、水蒸気処理前と水蒸気処理後200℃焼成とでほぼ同じであり、水蒸気処理後300℃焼成の試料においては、水蒸気処理前に比べ小さかった。
【0044】
【表2】
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【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のプロトン伝導体の製造方法の第二実施形態であって、粒界のない所定の形状を有するガラス状のプロトン伝導体の第一の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明のプロトン伝導体のプロトン伝導度測定結果を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1