TOP > 国内特許検索 > リケッチア・ジャポニカ感染症の診断方法 > 明細書

明細書 :リケッチア・ジャポニカ感染症の診断方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5435612号 (P5435612)
公開番号 特開2010-124773 (P2010-124773A)
登録日 平成25年12月20日(2013.12.20)
発行日 平成26年3月5日(2014.3.5)
公開日 平成22年6月10日(2010.6.10)
発明の名称または考案の名称 リケッチア・ジャポニカ感染症の診断方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/68 A
請求項の数または発明の数 6
全頁数 15
出願番号 特願2008-304031 (P2008-304031)
出願日 平成20年11月28日(2008.11.28)
審査請求日 平成23年11月1日(2011.11.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】松谷 峰之介
【氏名】東 慶直
【氏名】白井 睦訓
【氏名】岸本 壽男
【氏名】花岡 希
審査官 【審査官】櫛引 明佳
参考文献・文献 Noda and Yamamoto,Med. Entomol. Zool.,2006年,Vol.57,No.4,p273-277
Furuya Y et al,Journal of Clinical Microbiology,1995年,Vol.33,No.2,p487-489
調査した分野 C12N 15/09
C12Q 1/68
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
リケッチア・ジャポニカのゲノム中に存在するDNA塩基配列からなるDNAであって、リケッチア・ジャポニカ感染症の診断に使用するプライマー、および/またはプローブとして利用できる領域を含む、以下の(a)または(b)のいずれかの塩基配列からなるDNA、および/またはその相補配列からなるDNA
(a)配列番号1または2で示される塩基配列、
(b)(a)の塩基配列の1個ないし数個が、欠失、付加、置換されてなる塩基配列。
【請求項2】
請求項1に記載したリケッチア・ジャポニカ感染症の診断に使用するプライマーとして利用できる領域の塩基配列からなるDNA、およびその相補配列からなるDNAが、以下の(a)、(b)または(c)のいずれかの塩基配列からなるDNA
(a)配列表の配列番号5および6に示される塩基配列、
(b)(a)の塩基配列の1個ないし数個が、欠失、付加、置換されてなる塩基配列、
(c)配列番号1または2の塩基配列において、選択される10~40個の連続した塩基配列と同一の塩基配列、および、対をなすプライマーが、配列番号1または2の塩基配列において、選択される10~40個の連続した塩基配列と相補的な塩基配列であって、被検体DNAの増幅が可能な塩基配列。
【請求項3】
請求項1に記載したリケッチア・ジャポニカ感染症の診断に使用するプローブとして利用できる領域の塩基配列からなるDNA、および/またはその相補配列からなるDNAが、以下の(a)、(b)または(c)のいずれかの塩基配列からなるDNA
(a)配列表の配列番号7に示される塩基配列、
(b)(a)の塩基配列の1個ないし数個が、欠失、付加、置換されてなる塩基配列、
(c)配列番号1または2の塩基配列において、選択される20~50個の連続した塩基配列と同一の塩基配列。
【請求項4】
請求項2および/または請求項3の塩基配列からなるDNAを用いた、PCR法、リアルタイムPCR法、LAMP法、in situ ハイブリダイゼーション法、サザンハイブリダイゼーション法から選択される少なくとも1つの方法によるリケッチア・ジャポニカ感染症の診断のための、被検体DNAの検査法。
【請求項5】
前記リアルタイムPCR法が、TaqMan(登録商標)MGBを用いたリアルタイムPCR法である請求項4に記載の検査法。
【請求項6】
配列番号5で示される塩基配列からなるプライマーと配列番号6で示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号7で示される塩基配列からなりその5’末端に蛍光タグを有し3’末端に非蛍光消去タグとMGBを有するプローブと、リアルタイムPCR用ポリメラーゼを含む、リケッチア・ジャポニカ感染症の診断に使用するための検査用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、日本紅斑熱の原因菌であるリケッチア・ジャポニカ(Rickettsia japonica)感染症の診断に使用するリケッチア・ジャポニカに特異的な領域の塩基配列に関する。さらに、当該塩基配列から設計したプライマーおよび/またはプローブを利用してリケッチア・ジャポニカ感染症の診断をするための検査法に関する。
【背景技術】
【0002】
リケッチア属は、偏性細胞内細菌で、通常節足動物に伝染し、病原因子となるリケッチア感染症は世界中で広く分布していることが知られている(非特許文献1)。リケッチア感染症熱と、その病原因子は以下のように明らかにされている。ロッキー山紅斑熱:リケッチア・リケッチ(R.rickettsii)の感染で起こり、西半球における最も重症なダニ媒介リケッチア疾患(非特許文献2、3)、リッケチア痘:ヨーロッパにおいてリケッチア・アカリ(R.akarii)の感染で起こるリケッチア疾患(非特許文献4)、ボタン熱:地中海沿岸、アフリカ、インド、南西アジアにおいて、リケッチア・コノリ(R.conorii)の感染で起こるリケッチア疾患(非特許文献4、5)、シベリアマダニチフス:シベリア、モンゴル、中国北方において、リケッチア・シビリカ(R.sibirica)の感染で起こるリケッチア疾患(非特許文献1、6)、クイーンズランドマダニチフス:オーストラリアにおいて、リケッチア・オーストラリス(R.australis)の感染で起こるリケッチア疾患(非特許文献1、7)である。また、リケッチア・プロワゼキ(R.prowazekii)と、リケッチア・ティフィ(R.typhi)は、流行性の発疹チフスや発疹熱の病原因子であることが知られている(非特許文献8、9)。1984年、3人の日本人が紅斑熱類のリケッチア症を確認した(非特許文献10)。このリケッチア症について、内田らは、他の病原性のリッケチア属菌とは違った新しい種として、分類学上の名前を‘リケッチア・ジャポニカ’と提案した(非特許文献11)。リケッチア・ジャポニカの感染により起こる日本紅斑熱について、国家的サーベランス(データの収集,比較,解析,公表のプロセス)は毎年50件以上の例を示しており、リケッチア・ジャポニカの感染による致死の例も示している(非特許文献12)。リケッチア感染症は、風邪様の症状を示すため、正しい診断が行われず誤った治療で重篤になりうる疾患であり、そのため、患者発生時における高感度でかつ迅速な診断法が望まれている。
【0003】
近年、医学・生物学的研究の進歩により、生物の全ゲノムが解明されてきており、それぞれのゲノム配列における特異的領域を利用して、生物、特に有害菌を検出する方法が考えられている。リケッチア属のリケッチア・アフリカ、リケッチア・プロワゼキ、リケッチア・スロバカ、リケッチア・マシリア、リケッチア・ベリ、リケッチア・リケッチ、リケッチア・アカリ、リケッチア・カナデンシス、リケッチア・フェリス、リケッチア・ティフィ、リケッチア・シビリカとリケッチア・コノリにおいても、ゲノム配列は、GenBank databaseに完全に明らかにされている。日本紅斑熱の病原因子であるリケッチア・ジャポニカの分子診断は、他のリケッチア症におけるSNP(Single Nucleotide Polymorphism)を用いた従来のPCRを使用して行われた(非特許文献13)。
【0004】
また、近年発達したリアルタイムPCR法は、リケッチア感染症の迅速で感度良い診断法として使用された(非特許文献2、12、14、15)。さらに、新しい微生物感染症の診断法として、従来のTaqMan(登録商標)プローブ法より優れたTaqMan(登録商標) MGB法が明らかになった。TaqMan(登録商標) MGB法は、高い特異性と正確さでゲノムDNA領域を同定することが知られている(非特許文献16)。TaqMan(登録商標) MGBプローブを用いたリアルタイムPCRによる特異的病原菌の検出法として特許文献1では、塹壕熱病原体(Bartonella quintana)遺伝子のintergenic spacer regionの1領域鋳型にして検出できる方法を明らかにしている。
【非特許文献1】Walker,D.H.,Clin.Infect.Dis.45 Suppl 1:S39-44,2007)
【非特許文献2】Eremeeva,M.E.,et al,J.Clin.Microbiol.41:5466-72,2003
【非特許文献1】Tzianabos,T.,et al,J.Clin.Microbiol.27:2866-8,1989
【非特許文献4】Brouqui,P.,et al,FEMS Immunol.Med. Microbiol.49:2-12,2007
【非特許文献5】Giammanco,G.M.,et al,J.Clin.Microbiol.43:6027-31,2005
【非特許文献6】Tarasevich,I.V.,et al,Ann N Y Acad.Sci.1078:48-59,2006
【非特許文献7】Unsworth,N.B.,et al,Emerg.Infect. Dis.13:1105-7,2007
【非特許文献8】Massung,R.F.,et al,Clin.Infect.Dis.32:979-82,2001
【非特許文献9】Svraka,S.,et al,Emerg.Infect.Dis.12:428-32,2006
【非特許文献10】Mahara,F.,et al,Kansenshogaku Zasshi 59:1165-71,1985
【非特許文献11】Uchida,T.,et al,Int.J.Syst.Bacteriol.42:303-5,1992
【非特許文献12】Hashimoto,S.,et al,J.Epidemiol.17 Suppl:S48-55,2007
【非特許文献13】Furuya,Y.,et al,J.Clin.Microbiol. 33:487-489,1995
【非特許文献14】Fenollar,F.,et al,Int.J.Antimicrob.Agents 30 Suppl 1:S7-15,2007
【非特許文献15】Kidd,L.,et al,Vet.Microbiol.129:294-303,2008
【非特許文献16】Kutyavin,I.V.,et al,Nucleic.Acids.Res.28:655-61,2000
【特許文献1】特開2008-154479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで、リケッチア・ジャポニカの特異的な検出法による高感度で迅速なリケッチア・ジャポニカ感染症の診断法は確立されていなかった。本発明は、リケッチア・ジャポニカ感染症の迅速かつ正確な診断のための検査法を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、リケッチア・ジャポニカのゲノムにおいて、リケッチア・コノリのゲノムとの比較で見いだしたリケッチア・ジャポニカに特異的な領域の塩基配列、および、リケッチア属菌のゲノムとの配列相同性検索により見いだした塩基配列を基に、リケッチア・ジャポニカ由来のDNAを高感度で検出する方法を見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の(1)~(6)を提供する。
【0008】
(1)リケッチア・ジャポニカのゲノム中に存在するDNA塩基配列からなるDNAであって、リケッチア・ジャポニカ感染症の診断に使用するプライマー、および/またはプローブとして利用できる領域を含む、以下の(a)または(b)のいずれかの塩基配列からなるDNA、および/またはその相補配列からなるDNA
(a)配列番号1または2で示される塩基配列、
(b)(a)の塩基配列の1個ないし数個が、欠失、付加、置換されてなる塩基配列。
【0009】
(2)上記(1)に記載したリケッチア・ジャポニカ感染症の診断に使用するプライマーとして利用できる領域の塩基配列からなるDNA、およびその相補配列からなるDNAが、以下の(a)、(b)または(c)のいずれかの塩基配列からなるDNA
(a)配列表の配列番号5および6に示される塩基配列、
(b)(a)の塩基配列の1個ないし数個が、欠失、付加、置換されてなる塩基配列、
(c)配列番号1または2の塩基配列において、選択される10~40個の連続した塩基配列と同一の塩基配列、および、対をなすプライマーが、配列番号1または2の塩基配列において、選択される10~40個の連続した塩基配列と相補的な塩基配列であって、被検体DNAの増幅が可能な塩基配列。
【0010】
(3)上記(1)に記載したリケッチア・ジャポニカ感染症の診断に使用するプローブとして利用できる領域の塩基配列からなるDNA、および/またはその相補配列からなるDNAが、以下の(a)、(b)または(c)のいずれかの塩基配列からなるDNA
(a)配列表の配列番号7に示される塩基配列、
(b)(a)の塩基配列の1個ないし数個が、欠失、付加、置換されてなる塩基配列、
(c)配列番号1または2の塩基配列において、選択される20~50個の連続した塩基配列と同一の塩基配列。
【0011】
(4)上記(2)および/または(3)の塩基配列からなるDNAを用いた、PCR法、リアルタイムPCR法、LAMP法、in situ ハイブリダイゼーション法、サザンハイブリダイゼーション法から選択される少なくとも1つの方法によるリケッチア・ジャポニカ感染症の診断のための、被検体DNAの検査法。
【0012】
(5)前記リアルタイムPCR法が、TaqMan(登録商標)MGBを用いたリアルタイムPCR法である上記(4)に記載の検査法。
【0013】
(6)配列番号5で示される塩基配列からなるプライマーと配列番号6で示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号7で示される塩基配列からなりその5’末端に蛍光タグを有し3’末端に非蛍光消去タグとMGBを有するプローブと、リアルタイムPCR用ポリメラーゼを含む、リケッチア・ジャポニカ感染症の診断に使用するための検査用キット。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、リケッチア・ジャポニカ感染症の診断を行うための、迅速かつ特異的な検査法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のリケッチア・ジャポニカ感染症の診断のためには、被験者の全血、血餅、尿などの有機物を検体として検査する。検体から抽出したDNAを、被検体DNAとするためには、Furuya Y.らの方法(Furuya,Y.,T.Katayama,Y.Yoshida and I.Kaiho,J.Clin.Microbiol.33:487-489,1995)など、公知の方法で調整することができる。
【0016】
本発明のリケッチア・ジャポニカ由来のDNA塩基配列は、他のリケッチア属菌のDNA配列とは相同性のない塩基配列からなるものであり、リケッチア・ジャポニカ感染症の正確な検査法に使用するための基準となる塩基配列である。他のリケッチア属菌のDNA塩基配列との比較は、種々のリケッチア属菌からDNAを抽出して行う。
【0017】
各リケッチア属菌から得られたDNAは、適当なプライマーと、ポリメラーゼによりPCRを行い増幅して配列決定を行う。配列決定は、例えば、ABI 7700(Applied Biosystems社製)などの解析装置を用いることができる。リケッチア・ジャポニカの各株間でのDNA配列比較のためには、ClastalW software等を用い、アライメントを行うことにより、リケッチア・ジャポニカ間で共通の配列を確認することができる。
【0018】
配列決定のために使用するPCR用プライマーの設計は、Primer Express software version 2.0(Applied Biosystems社製)、Primer Explorer version 2.0(富士通社製)等の市販のソフトウエアを用いて設計することができる。リケッチア・ジャポニカの配列決定のためには、具体的な例として、配列番号3および配列番号4に示される塩基配列を有するDNAをPCR用プライマーとして使用することができる。
【0019】
各リケッチア属菌から得られたDNA配列の相同性は、DDBJ(DNA Date Bank of Japan)、EMBL(European Molecular Biology Laboratory)、NCBI(National Center for Biotechnology Information)などの配列データバンクにアクセスし、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)、FASTAなどの公知のアルゴリズムを利用した配列相同性検索システムによって決定することができる。FASTAは、連続して一致する配列の断片を高速に検索し、それらの断片の中で類似度の高いものに着目して局所的なアライメントを行い、最後にギャップを考慮したうえでこれらを結合しアライメントを行う方法であり、一方、Altschulら(Altschul S.F.,et al,J.Mol.Biol.215:403-410,1990)によって開発されたBLASTは、配列を固定長の断片(ワード)に区切り、ワード単位で類似する断片を検索し、これらを類似度が最大になるまで両方向に伸ばして局所的なアライメントを行い、最後にこれらを結合して最終的なアライメントを行う方法である。
【0020】
BLASTによる配列相同性検索は,次のステップからなる。第一に、検索配列(query sequence)からデータベース検索用の文字列リスト(neighborhood word list)を作成すること、第二に、リストにある文字列をデータベース中で探すこと、第三に、見つかった文字列を使い、相同性の高い領域の範囲を決定すること。リケッチア・ジャポニカ以外のリッケチア属菌、例えば、リケッチア・ベリ、リケッチア・カナデンシス、リケッチア・コノリ、リケッチア・シベリカ、リケッチア・アフリカ、リケッチア・マシリア、リケッチア・モナセンシス、リケッチア・アカリ、リケッチア・フェリス、リケッチア・プロワゼキでは、完全なゲノムが報告されており、データベースは種々の検索フィールドで提供されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Genbank/index.html)。これらの塩基配列と、リケッチア・ジャポニカから得られる塩基配列との相同性検索を行い、いずれのリケッチア属菌にも相同性を見いだせなかった領域は、リケッチア・ジャポニカに特異的な塩基配列を有するDNAの領域と認定することができる。
【0021】
本発明のリケッチア・ジャポニカに特異的な塩基配列、およびその相補配列は、リケッチア・ジャポニカ感染症の診断に使用するプライマーおよびプローブとして利用できる領域を含み、プライマーおよびプローブの塩基配列を設計するための重要な情報となり得る。例えば、リケッチア・ジャポニカに特異的な塩基配列としては、配列表の配列番号1をおよび2に示される塩基配列をあげることができるが、配列番号1に示される塩基配列は、リケッチア・コノリRC1338 ORFのホモログ中に存在し、当該DNA塩基配列は、NCBIのBlast(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgi)において、他のDNA配列との同一性は全くない。また、配列番号2に示される塩基配列は、リケッチア・ジャポニカ菌株が有する共通の塩基配列で、コンピュータを用いた配列相同性検索の結果、他のリケッチア属菌で既知となっている塩基配列とは相同性がないことが確認されている。
【0022】
リケッチア・ジャポニカ感染症の診断に使用するプライマーおよびプローブは、前記配列番号1または2で示される塩基配列およびその相補配列を鋳型として設計することができるが、配列番号1または2で示される塩基配列の1個ないし数個が、欠失、付加、置換されてなる塩基配列およびその相補配列を鋳型として設計することもできる。
【0023】
リケッチア・ジャポニカに特異的な領域の塩基配列は、リケッチア・ジャポニカ感染症の診断のための検査法に利用することができる。検査法としては、PCR法、リアルタイムPCR法、LAMP法、in situハイブリダイゼーション法、サザンハイブリダイゼーション法をあげることができる。
【0024】
蛍光in situハイブリダイゼーション法などのin situハイブリダイゼーション法、サザンハイブリダイゼーション法では、菌体識別標識としての利用が期待される。これらの方法では、リケッチア・ジャポニカ菌体の宿主細胞内での存在や局在、感染の有無等の確認が期待できる。
【0025】
LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法は、標的遺伝子の6つの領域に対して4種類のプライマーを設定し、鎖置換反応を利用して一定温度で反応させることを特徴とし、被検体DNA、プライマー、鎖置換型DNA合成酵素、基質等を混合し、一定温度(65℃付近)で保温することによって反応が進み、検出までの工程を1ステップで行うことができ、増幅効率が高いことからDNAを15分~1時間で検出可能な量まで増幅することができる。また、極めて高い特異性を有し、増幅産物の有無から目的とする標的遺伝子配列の有無を判定することができる。LAMP法は、迅速、簡易、精確な遺伝子増幅法である。
【0026】
PCR法、およびリアルタイムPCR法によるリケッチア・ジャポニカ感染症の診断のための検査法は、リケッチア・ジャポニカに特異的な領域の塩基配列を鋳型として設計した2つのプライマーセットを用いる。リアルタイムPCR法では、リアルタイムPCR用プライマーセットと、リアルタイムPCR用プローブを用いて、被検体DNA断片を増幅することにより、リケッチア・ジャポニカ由来のDNAの存在を検出することを特徴とする検査方法である。
【0027】
本発明の2つのリアルタイムPCR用プライマーは、本発明のリケッチア・ジャポニカの特異的な領域の塩基配列において、選択される10~40個、好ましくは15~35個の連続した塩基配列と同一の塩基配列を、被検体DNAの5‘末端側のプライマーとして設計し、また、3’末端側のプライマーとしては、本発明のリケッチア・ジャポニカの特異的な領域の塩基配列において、選択される10~40個、好ましくは15~35個の連続した塩基配列と相補的な塩基配列から設計することができる。具体的には、配列番号5と配列番号6に示した塩基配列を例としてあげることができる。これらのプライマーセットを用いて、リケッチア・ジャポニカ由来のDNAの存在を検出することができる。これらのリアルタイムPCR用プライマーは、塩基配列に従って公知の方法により合成することができる。
【0028】
本発明のリアルタイムPCR用プローブとしては、5’末端に蛍光タグを有し、3’末端に非蛍光消去タグとMGBを有するプローブである。プローブの設計に用いる塩基配列は、本発明のリケッチア・ジャポニカ由来のDNA塩基配列において、いずれの部分かの連続した50個以上の塩基配列と同一の塩基配列を用いることができるが、TaqMan(登録商標)MGBプローブの形で使用する場合は、上記連続した20数個の塩基配列と同一の塩基配列を用いることができる。例として、配列番号7に示した塩基配列をあげることができる。TaqMan(登録商標)MGBプローブは、アプライドバイオシステム社(Applied Biosystems社)から提供されているTaqMan(登録商標)MGBプローブ合成試薬により作製することができる。
【0029】
本発明のキットは、リケッチア・ジャポニカ感染症の診断のための検査に使用できるDNA断片、試薬および酵素等を含むものである。例えば、リアルタイムPCR用のプライマーと、プローブ、リアルタイムPCR用ポリメラーゼを含むもの、あるいは、PCR用のプライマーセットとPCR用ポリメラーゼを含むもの、さらに、LAMP法用の被検体DNAを増幅するための4つのプライマーセットと、鎖置換型DNAポリメラーゼを含むもの、などのキットがあげられる。これらのキットは、他の構成要素として、各種バッファー、滅菌水、固定化単体等を含めることもできる。
【0030】
以下、本発明を更に詳しく説明するため、実施例を挙げるが本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0031】
<リアルタイムPCRによるリケッチア・ジャポニカ由来のゲノムDNAの検出>
【0032】
DNAテンプレートの調整
表1にあげたリケッチア菌株を使用した。リケッチア・プロワゼキ、リケッチア・リケッチのゲノムDNAは、Gentra Puregene(Qiagen社製)を用いて、Antigen Slide(Panbio社製)から、Furuya Y.等の方法(Furuya,Y.,T.Katayama,Y.Yoshida and I.Kaiho,J.Clin.Microbiol.33:487-489,1995)で調整した。リケッチア・ジャポニカ YH株、リケッチア・コノリ、リケッチア・シビリカ、リケッチア・ティフィのゲノムDNAは、L929細胞を用いて繁殖させた。他のリケッチアDNAはダニ類から抽出したものを用いた。
【0033】
【表1】
JP0005435612B2_000002t.gif

【0034】
DNAシークエンス
ターゲット領域を含むDNAの増幅は、Ex Taq PCR DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)とそれぞれ作製したプライマーにより、リアルタイムPCRで行った。リケッチア・ジャポニカ由来のDNAの増幅は、表2に示したプライマーを用いた。増幅したDNA断片は精製後、DNAコピー数換算用および、シークエンス用のDNAテンプレートとして用いた。DNAシークエンスは、BigDye(登録商標)terminator v3.1(Applied Biosystems社製)を用いてABI 7700(Applied Biosystems社製)装置で解析した。各リケッチア・ジャポニカ株間でのDNA配列比較として、ClastalW software(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/top-j.html)を使用してアライメントを行った。アライメントのパラメーター設定は、Gap penaltyが15、Gap extension penaltyが6.66、Gap distanceが8、Maximum devision penaltyが40の条件で行った。リケッチア・ジャポニカの特異的なORFを、リケッチア・コノリのゲノムと比較した結果、この配列はリケッチア・コノリRC1338 ORFの中に挿入されているかたちで存在した(図1A)。この特異的な領域の塩基配列は、5種類のリケッチア・ジャポニカ菌株(DT-1、FLA-1、HH-8、HH-9、YH)間で保存されていることがわかった(図1B)。このORFは、NCBI Blast (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgi)において、他のDNA塩基配列との同一性は全くないことから、リケッチア・ジャポニカに特異的な領域の塩基配列を、アクセッションナンバー:AB437281として登録した。
【0035】
【表2】
JP0005435612B2_000003t.gif

【0036】
リケッチア・ジャポニカ由来のゲノムDNAの検出のためのプライマーとTaqMan(登録商標)MGBプローブ
表3に示したプライマーとTaqMan(登録商標)MGBのプローブは、Primer Express software,version 2.0(Applied Biosystems社製)によって抽出された候補から、NCBI Blast
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgi)を利用して、ヒト、マウスや微生物など他の有機体に対して相同性の無いものを選択した。SpRijaMGBの5‘末端をFluorescein Phosphoramidite(FAM)で蛍光標識し、3’末端を非蛍光消去剤とMGBで標識した。
【0037】
【表3】
JP0005435612B2_000004t.gif

【0038】
リアルタイムPCRアッセイ
リアルタイムPCRアッセイは、ABI 7500 systems(Applied Biosystems社製)を用いて行った。リアルタイムPCRにおけるDNAポリメラーゼ(Perfect Real-time PCR)は、タカラバイオ株式会社から入手した。反応液は説明書に従って作製した。10 μl の Premix Ex taq(タカラバイオ社製)、0.4μlの10μM PCR フォワード プライマー、0.4μlの10μM PCR リバース プライマー、0.4μlの10μM TaqMan(登録商標)MGB プローブ、0.4μlのROX Reference Dye II、1.5μlのDNAテンプレート、6.9μlの蒸留水からなる20μlのサンプルを96穴のマイクロプレート(Thermo Fischer Scientific社製)の各ウエルで調整した。感度評価の実験では、マイクロチューブ中のDNA断片の吸収を消去するためのDNA希釈液として100μg/mlのSalmon spermを含むTris-EDTAを使用した。加熱サイクルは次のような2つの段階をとった。1段階は、95°Cで20秒間、2段階は、95°Cで5秒間と60°Cで34秒間処理し、これを45回繰り返した。リアルタイムPCRの結果の解析において、検出閾値(threshold line)は、非特異的蛍光の影響を避けるため0.2とした。各DNA濃度はNanoDrop ND-1000(Thermo Fischer Scientific社製)で測定した。
【0039】
検量線
リアルタイムPCRの検量線を作成した。コピー数換算用DNA断片を、10から10コピー数(ゲノムDNA数)の範囲で5点設定した。リアルタイムPCRは独立的に3回行い、平均値と標準誤差を求めた。コピー数換算用のDNAは上記のシークエンス時に使用したDNA精製物を希釈して使用した。図2に、作製した検量線を示した。リアルタイムPCRの反応性は、R(相関係数)>0.99の直線性を示すことが明らかになった。
【0040】
従来のPCR検査法との感度の比較
日本では、臨床検査においてリケッチア症の分子診断としてPCR法が使用されている。リアルタイムPCRと感度を比較するために、リケッチア症診断PCR法であるFuruya Y.等の従来検出法(R1-R2法:Furuya,Y.,T.Katayama,Y.Yoshida and I.Kaiho,J.Clin.Microbiol.33:487-9,1995)との比較検討を行った。従来のPCR診断法は、5‘プライマーとして、R1:TCAATTCACAACTTGCCATT(配列番号8)、3‘プライマーとして、R2:TTTACAAAATTCTAAAAACC(配列番号9)を使用し、PCR用の酵素にはEx Taq(タカラバイオ社製)を用いた。PCR組成は、説明書のとおり行った。被検体DNAは、0.5μlのEx Taq(5u/μl、タカラバイオ社製)、5μlのEx Taq buffer、4μlの2.5mM dNTP mixture(2.5mM)、0.5μlの5’プライマー(100μM)、0.5μlの3’プライマー(100μM)および1μlのDNAテンプレートに蒸留水を使用し50μlとした。PCR反応は、94°Cで3分間の反応後、94°Cで30秒間、52°Cで30秒間、72°Cで30秒間を30サイクル繰り返し、72°Cで3分間反応させた。その後、10μlのPCR産物を、TAE緩衝液で調整した1.5%アガロースで電気泳動を行い、臭化エチジウムで蛍光発色させた。リアルタイムPCRでは、サイクル数だけを60と設定して同様の濃度で行った。
【0041】
ゲノムDNAにおけるターゲット配列の推定コピー数は、上記に述べたリアルタイムPCRで得た結果から推定した。感度をコピー数(ゲノムDNA数)で表したとき、R1-R2法は、ターゲットDNAの10コピー数を検出する反応性を示したが(図3)、MGBプローブのリアルタイムPCRは、10コピー数を検出する反応性を示した(図4)。このように、このリアルタイムPCRは、R1-R2法の少なくとも100倍の感度を有した。
【0042】
リアルタイムPCRの特異性
表1の12菌種合計26個のDNAサンプルを、作製したMGBプローブの特異性・感度・正確さを決定するために使用した。結果を表4に示した。リケッチア・ジャポニカMGBプローブは、4株すべてのリケッチア・ジャポニカ株(DT-1、FLA-1、HH-8、HH-9)由来のDNAを検出でき、100%の正確性を示す結果が得られた。また、リケッチア・ジャポニカMGBプローブが、リケッチア・ジャポニカ由来のDNAのみを検出し、他を検出できなかったことから、100%の特異性を有することが示された。
【0043】
【表4】
JP0005435612B2_000005t.gif

【実施例2】
【0044】
<臨床サンプルにおけるリケッチア・ジャポニカ>
日本紅斑熱と血清学上で陽性と確定した2人の患者由来の血餅から実施例1と同じ方法でゲノムDNAを抽出した。ヒトゲノムDNA(Clontech社製)は、この実験のネガティブコントロールとして用いた。臨床サンプルの取り扱いについては、国立感染症研究所の規定に基づいて使用した。表5でC1と示した臨床検体は、83歳の女性由来で発熱の5日目の血液から採取した血餅より抽出したDNAサンプルであるである。表5でC2と示したもう1つの検体は、65歳の女性由来で発熱3日目の血液から、上記と同様に採取したDNAである。これらのDNAは冷凍庫に約10年保存されていた検体から抽出したものである。新規に開発したリアルタイムPCR検出系は、これらの臨床サンプル中にリケッチア・ジャポニカ由来のゲノムDNAの存在を示した。また、R1-R2法では、リケッチア・ジャポニカ由来のゲノムDNAは検出されていなかったことから、MGBプローブを用いたリアルタイムPCRの検出感度の高さが証明された。
【0045】
【表5】
JP0005435612B2_000006t.gif

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明により、リケッチア・ジャポニカ感染症の診断が、高精度で迅速に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】A:リケッチア・ジャポニカとリケッチア・コノリのゲノムマップの比較を示す図である。B:リケッチア・ジャポニカ種のDT-1、FLA-1、HH-8、HH-9とYHにおいて、特異的なORFのDNA塩基配列を、CLUSTALWソフトウエアを使用してアライメントした結果を示す図である。
【図2】リアルタイムPCR法によるリケッチア・ジャポニカ由来のゲノムDNA量の検量線を示す図である。
【図3】従来のPCR法によるリケッチア・ジャポニカ由来のゲノムDNAの検出感度を示す図面に代える電気泳動の写真である(コピー数:10、10、10、10、NTC:no template control)。
【図4】リアルタイムPCR法によるリケッチア・ジャポニカ由来のゲノムDNAの検出感度を示す図面に代える増幅曲線の写真である(コピー数:10、10、10、10、NTC:no template control)。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図3】
3